関連審決 | 不服2002-12708 |
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関連ワード | 発明者 / 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 周知技術 / 公知技術 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 特許出願日 / 参酌 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 交換 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
373号
審決取消請求事件
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原告 株式会社フジキン 訴訟代理人弁理士 清原義博 同 坂戸敦 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 島愼二 同 藤井俊明 同 大野覚美 同 岡田孝博 同 伊藤三男 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/10/18 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2002-12708号事件について平成15年7月11日にした審決を取り消す。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成5年3月18日,発明の名称を「流体制御器」とする特許出願(特願平5-85777号)をしたが,平成14年6月11日に拒絶の査定を受けたので,同年7月9日,これに対する不服の審判の請求をした。 特許庁は,同請求を不服2002-12708号事件として審理した結果,平成15年7月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月23日,原告に送達された。 2 本件特許出願の願書に添付した明細書(平成14年4月18日付け及び同年8月8日付け各手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨 流路を有する弁箱と,この弁箱の流路と当接して設けられたダイアフラムと,このダイアフラムを上下動させる操作機構とからなるダイアフラム弁において,前記ダイアフラムには突起状の金属製弁体が係脱自在に設けられ,且つ前記弁箱の流路には前記金属製弁体の先端部が挿入されることにより該先端部と係合される開口部が設けられてなることを特徴とする流体制御器。 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,実公平3-5727号公報(甲4,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は,引用発明の認定及び本願発明と引用発明との一致点の認定を誤った(取消事由1)上,本願発明と引用発明との相違点に関する判断を誤り(取消事由2,3),本願発明の顕著な作用効果を看過し(取消事由4),さらに,特許法159条2項において準用する同法50条に違反する手続違背を犯した(取消事由5)ものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(引用発明の認定及び一致点の認定の誤り) (1) 審決は,引用発明について,引用例(甲4)の「第3図は,上記の金属製ダイヤフラムを使用した超高真空バルブの一例を示す側断面図であって,弁座1に着座するメタルディスク2aを具えた弁体2は,金属製ダイヤフラム3によって弁室7と隔離するようにして弁本体4に昇降自在に取付けられており,該弁体2は,ハンドル操作によって昇降される。図中,5は弁体2の頂部をボールを介して押圧している操作ハンドル,6は弁体2を常時弁開方向に持ち上げているばね,8及び9は,弁室7に連通されたガス導入管及び同導出管を示す」(1頁2欄1行目〜11行目)との記載及び第3図を根拠として,「引用例には,『流路を有する弁本体4と,この弁本体4の流路と当接して設けられたダイアフラム3と,このダイアフラム3を上下動させる操作ハンドル5とからなるダイアフラム弁において,前記ダイアフラムには突起状のメタルディスク2aが設けられ,且つ前記弁本体4の流路には前記メタルディスク2aの先端部と係合される弁座1が設けられてなる流体制御器。』の発明・・・が記載されているものと認める」(審決謄本2頁第3段落)と認定した。 しかしながら,審決が上記認定の根拠とする引用例の記載からは,確かに,「メタルディスク2aを具えた弁体2が弁本体4に取り付けられていること」は読み取れるものの,「メタルディスク2aが突起状であること」については記載も示唆もされておらず,引用例の他の個所にもそのような記載や示唆は全く存在しない。 他方,引用例の第3図を見ても,引用例の「上記した超高真空バルブに使用される従来のメタルディスク2aは,第3a図の要部拡大図に示すように,弁座1の対向環状面が平面状に形成されており,閉弁時,平面状に形成された該メタルディスク2aによって弁座1を密閉していた」(1頁2欄12行目〜16行目)との記載からも明らかなように,第3図に記載されたメタルディスク2aは「平面状に形成された」ものであって,決して「突起状」のものではない。 この点について,被告は,引用例記載のメタルディスク2aにおいて平面状なのは先端部分のみであり,メタルディスクそのものが平面状であるわけではない旨主張するが,本願発明の「突起状の金属製弁体」との用語は,「先端部が突起状の金属製弁体」と解すべきであるから,引用例のメタルディスク2aが「突起状の金属製弁体」に該当しないことは明らかである。 以上のとおり,審決は,引用例には,「ダイアフラム3には突起状のメタルディスク2aが設けられている」との構成が何ら開示されていないにもかかわらず,これが開示されていると誤認した結果,引用発明についての認定を誤ったものである。 (2) そして,審決は,本願発明と引用発明は,「『流路を有する弁箱と,この弁箱の流路と当接して設けられたダイアフラムと,このダイアフラムを上下動させる操作機構とからなるダイアフラム弁において,前記ダイアフラムには突起状の金属製弁体が設けられ,且つ前記弁箱の流路には前記金属製弁体の先端部と係合される開口部が設けられてなる流体制御器。』である点」(審決謄本2頁最終段落,以下「一致点」という。)で一致すると認定した。 しかしながら,上記(1)のとおり,引用例(甲4)には,「ダイアフラムには突起状のメタルディスクが設けられている」との構成は何ら開示されておらず,引用発明は当該構成を備えるものではないから,この点を一致点とした審決の上記認定は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきものであることは明らかである。 2 取消事由2(相違点1に関する判断の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点1として認定した,「本願発明のダイアフラムは,突起状の金属製弁体が係脱自在に設けられているのに対し,引用例記載の発明(注,引用発明)のダイアフラム3は,突起状のメタルディスク2aが設けられてはいるものの,それが係脱自在であるか否かは明らかでない点」(審決謄本3頁<相違点>1の項,以下「相違点1」という。)について,「ダイアフラムに突起状の弁体を設けたダイアフラム弁において,該突起状の弁体を係脱自在としておくことは周知技術・・・であり,このようにすれば該突起状の弁体を容易に交換できることは当業者において自明である。してみれば,引用例記載の発明において,突起状のメタルディスク2aをダイアフラム3に係脱自在に設けることは,上記周知技術から当業者が容易に行うことができたものである」(同頁下から第4〜第3段落)と判断した。 ダイアフラムに突起状の弁体を設けたダイアフラム弁において,該突起状の弁体を係脱自在としておくことが周知技術であることは認めるが,そうであるとしても,当該周知技術を引用発明に適用することは,当業者にとって容易ではないから,審決の相違点1に関する上記判断は誤りである。 (2) 引用発明は,超高真空バルブ用メタルディスクに関するものである。そのような超高真空バルブは,使用に際し超高真空(10-8Torr以下)にまで真空度が高められ,また,真空度を高めるために高温でのべーキングが行われるから,通常のバルブでは全く問題とならないような,ダイアフラムを介したガスの透過が大きな問題となる。引用発明において,金属製のダイアフラム及びメタルディスクが使用されているのは,このためである。そして,超高真空バルブでは,当然ながら,ダイアフラムとメタルディスクとの間にも非常に高い気密性が要求されるため,両者は溶接等によって固着一体化されるのが通例である。そうしてみると,バルブの技術分野に属する当業者が,このような極めて高い気密性が要求される引用発明に係るバルブについて,審決が引用する実公昭8-17935号公報(甲7,以下「甲7公報」という。),実公昭3-7911号公報(甲8,以下「甲8公報」という。)及び特開昭64-6588号公報(甲9,以下「甲9公報」という。)に記載されたような,弁体をダイアフラムに対して係脱自在に取り付ける構成を採用することは,到底考えられないことである。たとえ,ダイアフラムに突起状の弁体を設けたダイアフラム弁において該突起状の弁体を係脱自在としておくことが周知技術であるにしても,当該周知技術を引用発明に適用することは,当業者にとって決して容易ではない。 これに対し,被告は,本件訴訟における新たな証拠として,特開平3-272372号公報(乙2,以下「乙2公報」という。),特開平2-293628号公報(乙3,以下「乙3公報」という。)及び実願昭57-170472号(実開昭59-75982号)のマイクロフィルム(乙4,以下「乙4マイクロフィルム」という。)を提出した上,超高真空下で使用されるバルブであっても,「ダイヤフラムに突起状の弁体を設けたダイヤフラム弁において,該突起状の弁体を係脱自在としておく」との周知技術を採用することは普通に行われることにすぎない旨主張する。しかしながら,審査手続及び審判手続において提示されなかった新たな証拠を審決取消訴訟の段階で提出することは許されるべきではない。また,仮に,許されるとしても,乙2公報及び乙3公報の記載からは,ダイヤフラムと弁体とが係脱自在であるかは不明であるし,乙4マイクロフィルムは,本願発明のようなダイヤフラム弁ではなく,ベローズ弁に関するものにすぎない。 以上によれば,「引用例記載の発明において,突起状のメタルディスク2aをダイアフラム3に係脱自在に設けることは,上記周知技術から当業者が容易に行うことができたものである」との審決の上記判断が,引用発明の外形的構成のみに着目し,その技術内容を詳細に検討することなく導かれたものであって,誤りであることは明らかである。 3 取消事由3(相違点2に関する判断の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点2として認定した,「本願発明の弁箱の流路に設けられた開口部は,金属製弁体の先端部が挿入されることによって該先端部と係合されるのに対し,引用例記載の発明(注,引用発明)の弁本体4の流路に設けられた弁座1は,メタルディスク2aの先端部が当接することにより該先端部と係合されるようになっており,メタルディスク2aの先端部が挿入されるものでない点」(審決謄本3頁<相違点>2の項,以下「相違点2」という。)について,「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させ,これにより流体の精密な制御を行うことは周知技術(例えば,原査定において,「先行技術文献調査結果の追加」として挙げられた特開平4-236861号公報〔注,甲10,以下「甲10公報」という。〕と特開平5-10455号公報〔注,甲11,以下「甲11公報」という。〕,または原査定の拒絶理由通知書の「先行技術文献調査の記録」に先行技術文献として挙げられた実願昭62-180946号(実開平1-85589号)のマイクロフィルム〔注,甲12,以下「甲12マイクロフィルム」という。〕を参照されたい。)である。してみれば,引用例記載の発明において,弁本体4の流路に設けられた弁座1を,メタルディスク2aの先端部が挿入されることによって該先端部と係合されるようにすることは,上記周知技術から当業者が容易に行うことができたものである」(同頁下から第2段落〜最終段落)と判断したが,以下のとおり,誤りである。 (2) まず,審決は,上記のとおり,甲10公報,甲11公報及び甲12マイクロフィルムを挙げて,「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させ,これにより流体の精密な制御を行うこと」(以下「対象技術」という。)が周知技術であるとしている。 しかしながら,甲10公報及び甲11公報は,本件特許出願日(平成5年3月18日)のわずか1年以内前に発行されたものであり,対象技術が本件特許出願日前の周知技術であることを立証する証拠としては不適当である。そうすると,結局のところ,対象技術が周知技術であることを立証する証拠としては,甲12マイクロフィルムのみということになるが,ある技術が出願日前の周知技術であるというためには,出願日前にその技術を開示した相当多数の公知文献が存在していた事実が必要であるから,審決において提示された文献によっては,対象技術が,本件特許出願日前における公知技術であったということはできても,周知技術であったとまで認めることはできない。 また,甲11公報は,本願発明のようなダイヤフラム弁に関するものではなく,ベローズ弁に関するものにすぎないし,甲10公報のうち,本願発明のようなダイヤフラム弁を開示しているのは図5のみであるが,図5に開示された技術は,弁体の先端につば部を設けることで流体の粘性による抵抗を受けにくくし,これにより精密な流量制限を行うものであるから,対象技術を立証する証拠としては不適当である。 これに対し,被告は,対象技術が周知技術であることにつき,本件訴訟における新たな証拠として,乙3公報のほか,実願昭61-38570号(実開昭62-151485号)のマイクロフィルム(乙6,以下「乙6マイクロフィルム」という。),特開昭60-245885号公報(乙7,以下「乙7公報」という。)及び実願昭46-61836号(実開昭48-19226号)のマイクロフィルム(乙8,以下「乙8マイクロフィルム」という。)を提出している。しかしながら,審査手続及び審判手続において提示されなかった新たな証拠を審決取消訴訟の段階で提出することは許されるべきではない。また,乙7公報記載の流量制御弁は微小流量の制御を目的とするものであるから,比較的大流量下での高精度制御を目的とする本願発明とは技術的思想が大きく異なるものであり,乙8マイクロフィルムはダイヤフラム弁ではなくベローズ弁に関するものにすぎない。 以上によれば,審決の上記判断は,その前提において誤りである。 (3) また,仮に,対象技術が周知技術であったとしても,当該周知技術を引用発明に適用することは,当業者にとって容易ではない。 引用発明は,上記のとおり,超高真空バルブ用メタルディスクに関するものである。そして,この超高真空バルブ用のメタルディスクは,引用例(甲4)の「上記した超高真空バルブに使用される従来のメタルディスク2aは,第3a図の要部拡大図に示すように,弁座1の対向環状面が平面状に形成されており,閉弁時,平面状に形成された該メタルディスク2aによって弁座1を密閉していた」(1頁2欄12行目〜16行目)との記載からも明らかなように,弁座との対向面を平面状に形成して弁座と面接触させている。 このように,引用発明に係る超高真空バルブにおいて,メタルディスクの弁座との対向面を平面状に形成して弁座と面接触させる構成が採用されているのは,超高真空下における使用でのガスのリークを確実に防止するためであり,当該構成はその機能上ほぼ必然的なものである(同様の構成は,乙2公報のほか,実願平3-108621号〔実開平6-59669号〕のCD-ROM〔乙9,以下「乙9CD-ROM」という。〕にも見られる。)。そうしてみると,バルブの技術分野に属する当業者にとって,弁座との対向面を平面状に形成して弁座と面接触させることが,ほぼ必然的に求められる引用発明に係るバルブについて,「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させる」構成を適用することが容易であるとは,到底考えられない。しかも,引用発明に係る超高真空バルブは,真空度を高めるためのべーキングによりメタルディスクに熱変形が生じることが前提となっているものである(引用例の2頁3欄1行目〜2行目,4欄17行目から18行目の各記載参照)。そうすると,このような変形が前提とされる部分に,「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させる」構成を採用したとしても,挿入される弁体の先端部が熱変形を受けて「流体の精密な制御を行うこと」を達成することが困難となることは明白であるから,この点からも,引用発明において,当業者が当該構成を採用することを容易に想到し得るものでないことは明らかである。 以上のとおり,仮に,「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させ,これにより流体の精密な制御を行うこと」が周知技術であったとしても,当該周知技術の引用発明への適用を妨げる要因が存在しているのであるから,引用発明において,「弁本体4の流路に設けられた弁座1を,メタルディスク2aの先端部が挿入されることによって該先端部と係合されるようにすることは,上記周知技術から当業者が容易に行うことができたものである」との審決の上記判断が誤りであることは明らかである。 4 取消事由4(顕著な作用効果の看過) (1) 審決は,「本願発明が奏する作用効果は,上記引用例記載の発明(注,引用発明)と上記各周知技術に示唆された事項から予測される程度以上のものではない」(審決謄本4頁第1段落)と判断したが,誤りである。 (2) 本願発明は,本件明細書(甲18,14,17)に記載のとおり,「流体の流量を長期間に渡って微妙に,且つ確実に調整して制御することができるため,化学プラント等において,流体の連続的な反応を常に制御する必要がある場合に好適に使用することができる」(段落【0015】)という優れた作用効果を奏するものであるが,当該効果は,「弁体が金属製である」との構成(第1の構成)と,「ダイアフラムに設けられる弁体が突起状である」との構成(第2の構成)と,「弁体の先端部が挿入されることにより弁箱の流路の開口部と該先端部とが係合される」との構成(第3の構成)を同時に併せ持つことによって初めて達成される。 すなわち,本願発明においては,上記各構成が機能的・作用的に相互に関連することによって初めて,上記格別の作用効果を奏するものである。 そうすると,仮に,本願発明の上記各構成自体は,公知あるいは周知の技術的事項であったとしても,本願発明の作用効果は,各構成の有機的な結合により初めてもたらされたものであり,かつ,顕著なものであるから,公知技術又は周知技術から予測される程度のものといえないことは明らかである。 5 取消事由5(手続違背) (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点として認定した,相違点1及び2について,甲7公報〜11公報及び甲12マイクロフィルムを周知技術を示す文献として引用した上,本願発明は,引用発明に当該周知技術を適用することにより容易に想到できたものであると判断している。 しかしながら,拒絶理由通知書(甲2)及び拒絶査定(甲3)においては,拒絶理由を構成する引用文献として,実公平3-5727号公報(甲4,以下「甲4公報」という。),特開昭52-39828号公報(甲5,以下「甲5公報」という。),特開昭62-288786号公報(甲6,以下「甲6公報」という。)が提示されたのみであって,審決において引用された甲7〜11公報及び甲12マイクロフィルムは,拒絶理由通知書及び拒絶査定のいずれにおいても,本願発明の拒絶理由を構成する引用文献としては挙げられていない。 特に,相違点2に係る「弁箱の流路に設けられた開口部が,金属製弁体の先端部が挿入されることによって該先端部と係合される」構成を開示した文献は,拒絶理由通知書及び拒絶査定のいずれにおいても,拒絶理由を構成する引用文献として示されていない。すなわち,本件特許出願の審査手続において,審査官は,「突起状の弁体の先端部が挿入される開口部」が記載されている文献を示さずに,甲4〜6公報のみを拒絶理由を構成する文献として示していたのである。そのため,原告(出願人)は,手続補正等においては,一貫して甲4〜6公報記載の発明との相違点,すなわち,弁体の先端部と開口部の構成の相違点に基づく進歩性の主張と補正のみを行ってきたものである。 ところが,審決においては,唐突に,甲10公報,甲11公報及び甲12マイクロフィルムを提示した上,本願発明と甲4〜6公報記載の発明との相違点である「突起状の弁体の先端部が挿入される開口部」は周知技術であると認定し,原告(出願人)に意見書提出の機会を与えることなく,審判請求を不成立とした。 このように,審査段階において全く拒絶理由の根拠として引用されていなかった文献を審決において初めて提示して本願発明の進歩性を否定することは,審判手続において新たな拒絶理由によって本願発明の進歩性を否定することに等しいから,そのような場合には,特許法159条2項において準用する同法50条の規定により,審判手続において原告(出願人)に対して意見書提出の機会を与えなければならない。にもかかわらず,審決は,審判手続において原告(出願人)に当然与えられるべき意見書提出及び補正の機会を与えることなく,審判請求を不成立としたものであるから,重大な手続違背があり,違法として取り消されるべきである。 (2) これに対し,被告は,「弁箱の流路に設けられた開口部が,弁体の先端部が挿入されることによって該先端部と係合される」構成は周知技術であり,周知技術については,当業者が熟知しているべき事項であるから,特許法159条2項において準用する同法50条の適用はない旨主張する。 しかしながら,上記技術が周知技術と認められないことは,上記3(2)のとおりである。また,仮に,上記技術自体は周知技術であるとしても,甲10公報,甲11公報及び甲12マイクロフィルムは,周知技術に関するものとして提示されてはいるものの,実質的には,本願発明の進歩性の判断根拠の基幹となる先行技術に関する証拠として提示されているものというべきであるから,これに対する意見書提出及び補正の機会を与えなかった審決には,重大な手続違背があるというほかはない。 |
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被告の反論
審決に原告主張の違法はなく,原告の取消事由の主張はいずれも理由がない。 1 取消事由1(引用発明の認定及び一致点の認定の誤り)について (1) 広辞苑第二版補訂版(乙1)に,「突起」について,「高くつきでること。また,そのもの」(1607頁)と記載されているように,「突起状」とは,一般に,「高くつきでる形状」のものを意味することは明らかである。 そして,引用例(甲4)のダイヤフラム3には,第3図から明らかなとおり,当該ダイヤフラムから高くつきでる形状のメタルディスク2aが設けられているのであるから,審決が,引用発明について,「ダイヤフラム3には突起状のメタルディスク2aが設けられている」と認定したことに何ら誤りはない。 原告は,引用例に記載されたメタルディスク2aは「平面状に形成された」ものであって「突起状」のものではない旨主張するが,当該メタルディスクにおいて平面状なのは,弁座1が係合するメタルディスク2aの先端部分のみであって,メタルディスク2aそのものが平面状であるわけではない。 (2) 上記(1)のとおり,引用発明の認定に誤りはないから,審決の一致点の認定にも,原告主張の誤りはない。 2 取消事由2(相違点1に関する判断の誤り)について (1) 乙2公報,乙3公報及び乙4マイクロフィルムに示されているとおり,超高真空下で使用されるダイヤフラム弁(あるいはダイヤフラムと同等の機能を有するベローズ式の弁)において,弁体をダイヤフラム(又はベローズ)に対して係脱自在に取り付ける構造を採用することは普通に行われていることにすぎない。 (2) また,引用例(甲4)の第1図において,メタルディスク12の最上部において弁体と接続する部分に細い実線で示された平行線は,機械製図の表記法(乙5参照)に従えば,ねじ部を表しているものと考えられる上,当該メタルディスクの頭部は,明らかに6角ボルト頭の形状を表しているから,考案の詳細な説明に具体的な記載こそないものの,引用発明におけるメタルディスクは,ねじによって弁体に係脱自在に接続されているものと考えられる。 (3) したがって,引用発明に係るバルブのように,極めて高い気密性が要求されるバルブであっても,「ダイヤフラムに突起状の弁体を設けたダイヤフラム弁において,該突起状の弁体を係脱自在としておく」との周知技術を採用することは,普通に行われていることにすぎず,審決の相違点1に関する判断に誤りはない。 3 取消事由3(相違点2に関する判断の誤り)について (1) 周知技術とは,「当業者ならば当然知っているはずの事項」であるから,周知技術であることを立証するための証拠として,本件特許出願日の1年以内前に発行された刊行物を示すことが直ちに不適切であるわけではない。 甲10公報,甲11公報及び甲12マイクロフィルムは,発明者も出願人もそれぞれ異なっており,そうした文献に「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させ,これにより流体の精密な制御を行うこと」が共通して記載されているのであるから,対象技術は,当業者ならば当然知っているはずの事項,すなわち,周知技術であるということができる。 なお,乙3公報,乙6マイクロフィルム,乙7公報及び乙8マイクロフィルムによっても,本件特許出願日前に,対象技術が周知技術であったことは明らかである。 (2) 乙3公報記載の質量流量制御装置は,10-11Torrという超高真空下で使用されるバルブであるにもかかわらず,弁座流路70の上部の開口部に,弁体であるピントル38のテーパ形状の先端部を挿入することによって,開口部を該先端部と係合させる構成を採用している。そうすると,超高真空下で使用されるバルブにおいて,弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させる構成を採用することは,当業者が適宜行っていたものということができる。 また,乙3公報記載の上記質量流量制御装置は,上記のとおり,10-11Torrという超高真空下で使用されるものであるから,使用時にベーキングが行われるであろうことも当然に考慮されているはずであるが,にもかかわらず,上記構成が採用され,それによって,超真空でガスの流量を精密に制御しているものである。さらに付け加えるならば,乙9CD-ROMに示すとおり,ベーキングの温度は高々300℃程度(段落【0002】)であるから,ベーキングが行われたからといって必ずしも熱変形が生じるわけではないし,また,たとえ熱変形が生じたとしても,弁体の形状等を工夫することによってその影響を避け得ることは,当業者にとって自明な事項である。 4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について 原告主張の作用効果が,引用発明及び周知技術に示唆された事項から予測される程度以上のものでないことは明らかである。 5 取消事由5(手続違背)について 原告主張に係る「弁箱の流路に設けられた開口部が,金属製弁体の先端部が挿入されることによって該先端部と係合される」構成は,審判請求時の補正によって新たに加わったものであるから,拒絶理由通知書及び拒絶査定のいずれにおいても,拒絶理由を構成する引用文献として挙げられていないことは当然である。 そして,「弁箱の流路に設けられた開口部が,弁体の先端部が挿入されることによって該先端部と係合される」構成が周知技術であることは,上記3(1)のとおりであり,周知技術については,当業者が熟知しているべき事項であるから,特許法159条2項において準用する同法50条の適用はないものというべきである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明の認定及び一致点の認定の誤り)について (1) 審決は,引用発明について,「引用例には,『流路を有する弁本体4と,この弁本体4の流路と当接して設けられたダイアフラム3と,このダイアフラム3を上下動させる操作ハンドル5とからなるダイアフラム弁において,前記ダイアフラムには突起状のメタルディスク2aが設けられ,且つ前記弁本体4の流路には前記メタルディスク2aの先端部と係合される弁座1が設けられてなる流体制御器。』の発明・・・が記載されているものと認める」(審決謄本2頁第3段落)と認定した。これに対し,原告は,引用例には,「メタルディスクが2aが突起状であること」については記載も示唆も存在しない旨主張するので,以下,検討する。 (2) 本願発明の要旨は,上記第2の2のとおりであり,金属製弁体については,「前記ダイアフラムには突起状の金属製弁体が係脱自在に設けられ,且つ前記弁箱の流路には前記金属製弁体の先端部と係合する開口部が設けられてなる」ことが規定されている。 ここでいう「突起状」との語については,学術用語(特許法施行規則様式29の備考7)ではなく,いわゆる技術用語として格別成熟した意味を有するものと認めるに足りないから,その有する普通の意味(同,備考8)において理解すべきところ,被告提出に係る広辞苑第二版補訂版(乙1)によれば,「突起」とは,「高くつきでること。また,そのもの」であるとされているから,これを本願発明の金属製弁体に関する上記規定に当てはめると,当該金属製弁体は,「高くつきでた形状でダイアフラムに係脱自在に設けられており,かつ,該弁体の先端部分は弁箱の流路に設けられた開口部と係合する」ものであるということになる。 この点について,本件明細書(甲18)の発明の詳細な説明には,@「この発明の流体制御器(1)においては,ダイアフラム(3)は流路(21)と当接するように,挟持部材(6)により周縁部が固定されて設けられている。また,このダイアフラム(3)の略中央部には,突起状の金属製弁体(4)が係脱自在に設けられている。流路(21)には前記金属製弁体(4)の先端部と係合する開口部(21a)が設けられ,この開口部(21a)への係合によって流路(21)が封鎖される構成となっている」(段落【0009】),A「この金属製弁体(4)を着脱自在に設ける手段としても特に限定はされず,図示する実施例では,ダイアフラム(3)を流路(21)側に押圧又は離間させる弁棒(5)の先端部分に嵌合部(51)を設け,この嵌合部(51)に金属製弁体(4)の一端を嵌合させて,ダイアフラム(3)を貫通させるように設ける構成となっているが,特に限定はされない。すなわち,図示する構成以外に,直接ダイアフラム(3)に接着等の手段によって設ける構成を採用することもできる。さらに,流路(21)に設けられる開口部(21a)も,特に限定されることなく,金属製弁体(4)の形状,大きさ等に応じた適宜任意の形状のものが使用できる」(段落【0014】)と記載されており,これらの記載事項及び図2等に描かれた弁体4の態様から見ても,上記の理解と格別矛盾する点は認められない。 そうすると,本願発明における金属製弁体は,上記のとおり,「高くつきでた形状でダイアフラムに係脱自在に設けられており,かつ,該弁体の先端部分は弁箱の流路に設けられた開口部と係合する」ものであると認めるのが相当である。 (3) 他方,引用例(甲4)においては,@「第3図は,上記の金属製ダイヤフラムを使用した超高真空バルブの一例を示す側断面図であって,弁座1に着座するメタルディスク2aを具えた弁体2は,金属製ダイヤフラム3によって弁室7と隔離するようにして弁本体4に昇降自在に取付けられており,該弁体2は,ハンドル操作によって昇降される。図中,5は弁体2の頂部をボールを介して押圧している操作ハンドル,6は弁体2を常時弁開方向に持ち上げているばね,8及び9は,弁室7に連通されたガス導入管及び同導出管を示す」(1頁2欄1行目〜11行目),A「図において,弁座11に対向するメタルディスク12の面には,環状の突部13が一体に設けられており,該環状突部13には,断面円弧状の凹み14が全周に亙って環状に形成されている。また該環状の凹み14には・・・金属15が・・・形成されており,閉弁時には,該金属15の盛り上がり突出部の頂部15aと弁座11とが全周に亙って密に当接する」(2頁4欄1行目〜10行目)と記載されており,これらの記載事項並びに第1図〜第3図によれば,引用発明におけるメタルディスクは,ダイヤフラムを介して弁本体4に取付けられており,ダイヤフラムからは高くつきでた形状をしており,その先端部の環状突部13が弁座11と係合して弁座の開口部を閉止しているものと認められる。 そうすると,審決が,引用発明に係るメタルディスクについて,高くつきでた形状,すなわち,突起状であると認定したことは相当であり,審決の引用発明の認定に誤りはない。そして,引用発明の認定に誤りがない以上,これに基づく審決の一致点の認定にも,原告主張に係る誤りは認められないというべきである。 (4) これに対し,原告は,引用例(甲4)の「上記した超高真空バルブに使用される従来のメタルディスク2aは,第3a図の要部拡大部に示すように,弁座1の対向環状面が平面状に形成されており,閉弁時,平面状に形成された該メタルディスク2aによって弁座1を密閉していた」(1頁2欄12行目〜16行目)との記載等を根拠に,引用発明に係るメタルディスクは「平面状に形成された」ものであって「突起状」のものではない旨主張する。 しかしながら,引用例において,メタルディスクとは,ダイヤフラムを介して弁体2と接続される弁の頭部全体を指称していることは明らかであり,上記のとおり,その形状は,ダイヤフラムから「高くつきだし」ているものと認められるから,本願発明の金属製弁体の形状に対応するものである。これに対し,原告引用に係る引用例の上記記載部分において,「平面状」であるとされるのは,メタルディスクの先端部の弁座との係合部分の形状であって,メタルディスク全体の形状が平面状であるとされているわけではない。 (5) さらに,原告は,本願発明の「突起状の金属製弁体」との語は,「先端部が突起状の金属製弁体」と理解すべきであるとも主張する。 しかしながら,原告の上記主張は,本件明細書(甲18,14,17)の特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるといわざるを得ないばかりでなく,「突起状の金属製弁体」との語が「先端部が突起状の金属製弁体」と理解され,その限りにおいて審決に誤りがあったとしても,当該先端部の係合態様の相違は,審決において,別途,相違点2として抽出された上,その容易想到性に関する判断が加えられているから,当該誤りが審決の結論に影響するものでないことは明らかである。 (6) 以上によれば,原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(相違点1に関する判断の誤り)について (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点1として認定した,「本願発明のダイアフラムは,突起状の金属製弁体が係脱自在に設けられているのに対し,引用例記載の発明(注,引用発明)のダイアフラム3は,突起状のメタルディスク2aが設けられてはいるものの,それが係脱自在であるか否かは明らかでない点」(審決謄本3頁<相違点>1の項)について,「ダイアフラムに突起状の弁体を設けたダイアフラム弁において,該突起状の弁体を係脱自在としておくことは周知技術・・・であり,このようにすれば該突起状の弁体を容易に交換できることは当業者において自明である。してみれば,引用例記載の発明において,突起状のメタルディスク2aをダイアフラム3に係脱自在に設けることは,上記周知技術から当業者が容易に行うことができたものである」(同頁下から第4〜第3段落)と判断した。 これに対し,原告は,ダイアフラムに突起状の弁体を設けたダイアフラム弁において,該突起状の弁体を係脱自在としておくことが周知技術であることは認めるものの,引用発明に係るバルブは,超高真空下において使用するものであるところ,超高真空バルブではダイアフラムとメタルディスクとの間にも非常に高い気密性が要求されるため,両者は溶接等によって固着一体化されるのが通例であり,当業者が,このような極めて高い気密性が要求される引用発明に係るバルブについて,甲7公報〜甲9公報に記載されたような,弁体をダイアフラムに対して係脱自在に取り付ける構成を採用することは到底考えられないなどとして,当該周知技術を引用発明に適用することは,当業者にとって容易ではないから,審決の相違点1に関する上記判断は誤りである旨主張する。 (2) そこで検討すると,確かに,引用例(甲4)において,メタルディスクとダイアフラムとの接続がどのようになされているかは,具体的には記載されていない。 しかしながら,引用例の第1図において,メタルディスク12の根本(図中では最上部)の弁体と接続する部分には,平行線が描かれており,機械製図の常識(乙5参照)に従えば,当該平行線は,ねじ部を表しているものと考えられる上,上記メタルディスクの頭部は,明らかに6角ボルト頭の形状を成しているから,引用発明におけるメタルディスクは,ダイヤフラムを介して,ねじによって,弁体に対し係脱自在に接続されているものと認めるのが自然である。加えて,乙2公報及び乙3公報によれば,超高真空バルブにおいても,弁体をダイアフラムに対して係脱自在に結合させることは普通に行われていると認めることができるから,原告の上記主張は採用することができない。 なお,原告は,審査手続及び審判手続において提示されなかった新たな証拠を審決取消訴訟の段階で提出することは許されるべきではないと主張するが,上記乙2公報及び乙3公報は,審決において指摘された「ダイアフラムに突起状の弁体を設けたダイアフラム弁において,該突起状の弁体を係脱自在としておくこと」という周知技術に関する証拠として提出されたものであるところ,審決で摘示された周知技術につき,審決取消訴訟において証拠を追加することは許されるというべきであるから,原告の主張は採用の限りではない。 さらに,原告は,乙2公報及び乙3公報の記載からは,ダイヤフラムと弁体とが係脱自在であるかは不明であるとも主張する。しかしながら,乙2公報において,ダイヤフラムと弁体とが,ねじにより係脱自在に接続されていることは,「ダイヤフラム18の中央部はステム20に螺着された弁体22により固定されている」(2頁左上欄最終段落)との記載及び第1図により明らかであるし,乙3公報においても,「ピントル38はねじ山付の上方に延びるシャンクを有し,このシャンクは垂直に向いたシャフト58内に設けられた凹部にねじ込まれて圧ばめされているか,または適当に固定されている」(7頁左上欄第1段落),「ばね74はピントル38によって固定されて支持されて底部ホールピース56の環状部分の下側に当接している」(同頁左下欄第2段落)との記載及びFig.2により,同様に明らかである。したがって,原告の主張は採用の限りではない。 (3) 以上によれば,相違点1に関する審決の上記判断に誤りはないというべきであるから,原告の取消事由2の主張は理由がない。 3 取消事由3(相違点2に関する判断の誤り)について (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点2として認定した,「本願発明の弁箱の流路に設けられた開口部は,金属製弁体の先端部が挿入されることによって該先端部と係合されるのに対し,引用例記載の発明(注,引用発明)の弁本体4の流路に設けられた弁座1は,メタルディスク2aの先端部が当接することにより該先端部と係合されるようになっており,メタルディスク2aの先端部が挿入されるものでない点」(審決謄本3頁<相違点>2の項)について,「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させ,これにより流体の精密な制御を行うことは周知技術(例えば,原査定において,「先行技術文献調査結果の追加」として挙げられた特開平4-236861号公報〔注,甲10公報〕と特開平5-10455号公報〔注,甲11公報〕,または原査定の拒絶理由通知書の「先行技術文献調査の記録」に先行技術文献として挙げられた実願昭62-180946号(実開平1-85589号)のマイクロフィルム〔注,甲12マイクロフィルム〕を参照されたい。)である。してみれば,引用例記載の発明において,弁本体4の流路に設けられた弁座1を,メタルディスク2aの先端部が挿入されることによって該先端部と係合されるようにすることは,上記周知技術から当業者が容易に行うことができたものである」(同頁下から第2段落〜最終段落)と判断した。 これに対し,原告は,対象技術,すなわち,「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させ,これにより流体の精密な制御を行うこと」の周知技術性を争うとともに,仮に,対象技術が周知技術であったとしても,引用発明に係る超高真空バルブにおいて,メタルディスクの弁座との対向面を平面状に形成して弁座と面接触させる構成はその機能上ほぼ必然的なものであるなどとして,当該周知技術を引用発明に適用することは,当業者にとって容易ではない旨主張する。 (2) まず,対象技術が,本件特許出願日当時における周知技術であったと認められるかについて検討する。 上記のとおり,審決は,対象技術が周知技術であるとする根拠として,甲10公報,甲11公報及び甲12マイクロフィルムを挙げているところ,原告は,甲10公報及び甲11公報は本件特許出願日のわずか1年以内前に発行されたものであるから,周知技術であることを立証する証拠としては不適当である旨主張する。しかしながら,本件特許出願日の1年以内前に発行された刊行物であるからといって,周知技術であることを立証する証拠として,直ちに不適切となるわけではない。そして,甲10公報,甲11公報及び甲12マイクロフィルムに加え,乙3公報,乙6マイクロフィルム,乙7公報及び乙8マイクロフィルムにおいても,「弁箱の流路に設けられた開口部は,金属製弁体の先端部が挿入されることによって該先端部と係合される」という構成が開示されていることからすれば,対象技術の周知技術性は明らかであり,原告の主張は失当というほかはない。なお,原告は,ここでも,審査手続及び審判手続において提示されなかった新たな証拠を審決取消訴訟の段階で提出することは許されるべきではない旨主張するが,審決で摘示された周知技術につき,審決取消訴訟において証拠を追加することは許されるというべきであるから,採用の限りではない。 さらに,原告は,@甲11公報及び乙8マイクロフィルムは,本願発明のようなダイヤフラム弁に関するものではなく,ベローズ弁に関するものにすぎない,A甲10公報のうち,本願発明のようなダイヤフラム弁を開示しているのは図5のみであるが,図5に開示された技術は,弁体の先端につば部を設けることで流体の粘性による抵抗を受けにくくし,これにより精密な流量制限を行うものであるから,対象技術を立証する証拠としては不適当である,B乙7公報記載の流量制御弁は微小流量の制御を目的とするものであるから,比較的大流量下での高精度制御を目的とする本願発明とは技術的思想が大きく異なるものであるなどとも主張する。しかしながら,上記の各刊行物は,種々のバルブ形式において「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させる」ことが周知であることを明白に示しており,当業者にとって,当該周知技術をダイアフラム弁を対象とする本願発明に応用することが容易であることも明らかであって,原告の上記主張を採用する余地はない。 (3) また,原告は,引用発明に係る超高真空バルブにおいて,メタルディスクの弁座との対向面を平面状に形成して弁座と面接触させる構成が採用されているのは,超高真空下における使用でのガスのリークを確実に防止するためであり,当該構成はその機能上ほぼ必然的なものであるから,当業者にとって,引用発明に係るバルブについて,「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させる」構成を適用することが容易であるとは到底考えられない旨主張する。 しかしながら,乙3公報に,「本発明によると,広範囲の圧力,特に,高圧力及び超真空でガスの流量を精密に制御するのに適した流体の質量流量制御装置が提供される」(4頁右上欄下から第2段落),「弁座流路70の上部は,通常,第2図に最もよく示すように,ピントル38の半球状,きのこ状,即ち,テーパ形状の下端によって閉じられている」(7頁右上欄第2段落)と記載されているとおり,乙3公報に係るバルブは,超高真空下で使用されるものでありながら,弁体の先端部が流路開口と係合する形式の弁構造を採用しているものと認められる。そうすると,超高真空バルブである引用発明においても,メタルディスクと弁座とを面接触させる構成を,「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させる」構成に置換することは十分に可能であるというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。 さらに,原告は,引用発明に係る超高真空バルブは,真空度を高めるためのべーキングによりメタルディスクに熱変形が生じることが前提となっているものであるから,このような変形が前提とされる部分に,「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させる」構成を採用したとしても,挿入される弁体の先端部が熱変形を受けて「流体の精密な制御を行うこと」を達成することが困難となるとも主張するが,乙3公報に係るバルブは,超高真空下で使用されるものでありながら,弁体の先端部が流路開口と係合する形式の弁構造を採用していることは上記のとおりであり,乙3公報に係るバルブにおいても,超高真空下で使用されるものである以上,使用時にベーキングが行われることは当然に考慮されているはずであって,熱変形のおそれがあることは原告の指摘するとおりであるにしても,その対処は実施に当たって適宜考慮すれば足りる設計的な事項にすぎないというべきであるから,原告の主張は採用の限りではない。 (4) 以上によれば,相違点2に関する審決の上記判断に誤りはないというべきであるから,原告の取消事由3の主張は理由がない。 4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について (1) 審決は,「本願発明が奏する作用効果は,上記引用例記載の発明(注,引用発明)と上記各周知技術に示唆された事項から予測される程度以上のものではない」(審決謄本4頁第1段落)と判断した。 これに対し,原告は,本願発明は,「弁体が金属製である」構成と,「ダイアフラムに設けられる弁体が突起状である」構成と,「弁体の先端部が挿入されることにより弁箱の流路の開口部と該先端部とが係合される」構成とを同時に併せ持つことによって,初めて,「流体の流量を長期間に渡って微妙に,且つ確実に調整して制御することができるため,化学プラント等において,流体の連続的な反応を常に制御する必要がある場合に好適に使用することができる」(本件明細書〔甲18,14,17〕の段落【0015】)という優れた作用効果を奏するものであるなどとして,審決の上記判断は誤りである旨主張する。 (2) しかしながら,原告の主張に係る「弁体が金属製である」との構成(第1の構成)及び「ダイアフラムに設けられる弁体が突起状である」との構成(第2の構成)はいずれも引用例自体が開示するものであり,同じく「弁体の先端部が挿入されることにより弁箱の流路の開口部と該先端部とが係合される」との構成(第3の構成)が周知技術であって,これらを組み合わせることが当業者にとって容易なことであると認められることは,上記判示のとおりである。そして,これらを組み合わせた本願発明の作用効果も,原告が自認するとおり,「流体の流量を長期間に渡って微妙に,且つ確実に調整して制御することができるため,化学プラント等において,流体の連続的な反応を常に制御する必要がある場合に好適に使用することができる」という,引用発明及び周知技術の組み合わせから予想できる範囲のものにすぎないと認められるから,それが,従来の技術に比して格別のものとはいえないことも明らかであって,原告の上記主張は採用の限りではない。 (3) 以上によれば,本願発明の作用効果に関する審決の上記判断に誤りはないというべきであるから,原告の取消事由4の主張は理由がない。 5 取消事由5(手続違背)について (1) 原告は,審決が,拒絶理由通知書及び拒絶査定において拒絶理由を構成する引用文献として提示されていない,甲7公報〜11公報及び甲12マイクロフィルムを周知技術を示す文献として引用し,意見書提出又は補正の機会を与えないまま,審判請求を不成立としたことは,特許法159条2項において準用する同法50条に違反するものであり,重大な手続違背がある旨主張する。 (2) しかしながら,審決においては,甲7公報〜甲9公報は,「ダイアフラムに突起状の弁体を設けたダイアフラム弁において,該突起状の弁体を係脱自在としておくこと」(審決謄本3頁下から第4段落)が周知技術であることを,甲10公報,甲11公報及び甲12マイクロフィルムは,対象技術,すなわち,「弁箱の流路に設けられた開口部に,弁体の先端部を挿入することによって開口部を該先端部と係合させ,これにより流体の精密な制御を行うこと」(同頁下から第2段落)が周知技術であることをそれぞれ示すために引用されたものであることが明らかである。そして,周知技術とは,文献等を例示するまでもなく,「当業者ならば当然知っているはずの事項」であって,審査ないし審判において周知技術を用いる際,そのことについて意見書提出又は補正の機会を与えなくとも,当業者である出願人に対し不意打ちになることはないと考えられるから,周知技術については,特許法159条2項において準用する同法50条の適用はないと解するのが相当である。 したがって,審決には,原告主張に係る手続違背は認められないから,原告の上記主張は採用の限りではない。 なお,原告は,甲10公報,甲11公報及び甲12マイクロフィルムは,周知技術に関するものとして提示されてはいるものの,実質的には,本願発明の進歩性の判断根拠の基幹となる先行技術に関する証拠として提示されている旨主張するが,審決が,引用例(甲4)を基本的な引用刊行物として,本願発明と引用発明とを対比した上,両者の相違点に関する判断に当たり,周知技術を参酌していることは,その記載上明白であるから,原告の主張は失当である。 (3) 以上によれば,原告の取消事由5の主張は理由がない。 6 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 早田尚貴 |