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事件 平成 21年 (ワ) 9793号 特許を受ける権利確認請求事件
埼玉県志木市<以下略>
原告クラウン精密工業株式会社
同訴訟代理人弁護士卜部忠史
同訴訟復代理人弁護士小嶋順平
同訴訟代理人弁護士中島雪枝
同 山内宏光 埼玉県富士見市<以下略>
被告A
同訴訟代理人弁護士高崎仁
同 洞敬
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/11/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求原告が,別紙特許出願目録1記載の特許出願及び同目録2記載の特許協力条約に基づく国際特許出願に記載された発明について特許を受ける権利を有することを確認する。
第2事案の概要1本件は,原告が,被告に対し,被告が行った別紙特許出願目録1及び2記載の各特許出願に係る発明について,同発明は,被告が原告の従業員であった時期に行われた職務発明であって,使用者である原告が特許を受ける権利の譲渡を受けた,仮にそうでないとしても,原告と被告の間では特許を受ける権利について黙示の譲渡があったと主張して,原告が同権利を有することの確認を求める事案である。
2前提となる事実(争いのない事実以外は,証拠を末尾に記載する。)(1)当事者等ア原告は,精密ねじの製造販売等を目的とする株式会社である。
イ被告は,原告の元従業員であり,ねじの開発及びそのライセンス等を目的とする株式会社B(以下「B」という。)の代表者である。
(2)原告の発明考案取扱規定(甲4)原告の発明考案取扱規定(昭和55年4月1日から実施)には,社員が原告の業務範囲に属する発明等をした場合は,外部に発表する前に原告に届け出なければならないこと,原告は,届出を受けたときは,特許等の出願の要否を決定すること,特許出願等をする場合には,発明者等は,その工業所有権を取得する権利を原告に譲渡しなければならないことが定められている(2条,4条,5条)。
(3)被告による特許出願(甲1,2)ア被告は,平成19年6月27日,別紙特許出願目録1記載の特許出願をした。同特許出願については,平成21年1月15日,公開された。
イ被告は,アの出願に基づく優先権を主張して,平成20年5月21日,同目録2記載の特許協力条約に基づく国際出願をした。
(以下,アとイの出願を併せて「本件出願」といい,本件出願に係る発明を「本件発明」といい,本件発明に係る特許を受ける権利を「本件発明の特許を受ける権利」という。)(4)本件発明(甲1,2)ア本件出願に係る特許請求の範囲は,次のとおりである。なお,請求項1〜8は,ねじに関する発明,請求項9〜16は,当該ねじを回動するためのドライバビットに関する発明であり,請求項1と請求項9,請求項2と請求項10,請求項3と請求項11,請求項4と請求項12,請求項5と請求項13,請求項6と請求項14,請求項7と請求項15,請求項8と請求項16が,それぞれ対応している(請求項1に係る発明を「本件発明1」といい,以下,同様に,各請求項にかかる発明について,当該請求項の番号を付して表記する。)。また,前記(3)アとイの各出願における請求項の記載を比較すると,?アの出願の請求項1の第6段落1行目においては「それぞれ」の文言の記載があるのに,イの出願の請求項1の第6段落にはその文言の記載がない点,?アの出願の請求項1の第7段落1行目においては「それぞれ」の文言の記載がないのに,イの出願の請求項1の第7段落1行目にはその文言の記載がある点,?アの出願の請求項9の第7段落1行目,2行目には「それぞれ外方に対して凹となるとともに,」の文言の記載がないのに,イの出願の請求項9の第7段落1行目,2行目にはその文言の記載がある点,?アの出願の請求項16の第7段落1行目には「それぞれ」の文言の記載がないのに,イの出願の請求項16の第7段落1行目にはその文言の記載がある点において異なるが,本件の判断に当たっては,これらの差異は結論に影響を及ぼさないので,以下においては,アの出願における請求項を,本件出願の請求項として記載することとする。
【請求項1】全体に陥没穴状をなし,ドライバビットを嵌合される回動部を有するねじにおいて,前記回動部は,中心部と,この中心部から外方へ延びる4つの翼係合部とを有し,各前記翼係合部は,当該ねじの径方向外方へ延びる基端側部分と,この基端側部分からさらに外方へ延びる先端側部分とを有し,前記翼係合部の基端側部分は等角度間隔で配置されており,各前記翼係合部は,当該ねじ締め付け時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である締付側側壁面と,この締付側側壁面と反対側に位置し,当該ねじ緩め時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である緩め側側壁面とを有し,各前記翼係合部において,前記先端側部分における前記締付側側壁面は,それぞれ前記基端側部分における前記締付側側壁面から,前記緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲されており,前記中心部は,前記4つの翼係合部の前記基端側部分間において,当該ねじの軸心に向かって突出するとともに,深くなるほど該中心部が狭くなることとなるように内方に傾斜する内壁面を有する食い付き部を有しているねじ。
【請求項2】各前記翼係合部において,前記基端側部分における前記締付側側壁面と前記先端側部分における前記締付側側壁面とは,155〜177度の角度をなす請求項1記載のねじ。
【請求項3】各前記翼係合部において,前記基端側部分における前記締付側側壁面は,深くなるほど前記基端側部分が狭くなることとなるように内方に傾斜している請求項1または2記載のねじ。
【請求項4】各前記翼係合部において,前記先端側部分における前記締付側側壁面は,深くなるほど前記先端側部分が狭くなることとなるように内方に傾斜している請求項1乃至3のいずれかに記載のねじ。
【請求項5】各前記翼係合部において,前記基端側部分における前記締付側側壁面は平面状とされている請求項1乃至4のいずれかに記載のねじ。
【請求項6】各前記翼係合部において,前記先端側部分における前記締付側側壁面は平面状とされている請求項1乃至5のいずれかに記載のねじ。
【請求項7】各前記翼係合部において,前記先端側部分における前記緩め側側壁面は,前記基端側部分における前記緩め側側壁面から,前記締付側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲されている請求項1乃至6のいずれかに記載のねじ。
【請求項8】全体に陥没穴状をなし,ドライバビットを嵌合される回動部を有するねじにおいて,前記回動部は,中心部と,この中心部から外方へ延びる4つの翼係合部とを有し,各前記翼係合部は,当該ねじの径方向外方へ延びる基端側部分と,この基端側部分からさらに外方へ延びる先端側部分とを有し,前記翼係合部の基端側部分は等角度間隔で配置されており,各前記翼係合部は,当該ねじ締め付け時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である締付側側壁面と,この締付側側壁面と反対側に位置し,当該ねじ緩め時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である緩め側側壁面とを有し,各前記翼係合部において,前記先端側部分における前記緩め側側壁面は,前記基端側部分における前記緩め側側壁面から,前記締付側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲されており,前記中心部は,前記4つの翼係合部の前記基端側部分間において,それぞれ当該ねじの軸心に向かって突出するとともに,深くなるほど該中心部が狭くなることとなるように内方に傾斜する内壁面を有する食い付き部を有しているねじ。
【請求項9】中心部と,この中心部から外方へ延びる4つの翼係合部とを有し,全体に陥没穴状をなすねじの回動部に嵌合されるドライバビットにおいて,ビット中心部と,このビット中心部から外方へ延び,前記ねじの前記翼係合部に係合される4つの翼部とを有し,各前記翼部は,当該ドライバビットの径方向外方へ延びる基端側部分と,この基端側部分からさらに外方へ延びる先端側部分とを有し,前記翼部の基端側部分は等角度間隔で配置されており,各前記翼部は,ねじ締め付け時に回転方向前方となる側の側面である締付側側面と,この締付側側面と反対側に位置し,ねじ緩め時に回転方向前方となる側の側面である緩め側側面とを有し,各前記翼部において,前記先端側部分における前記締付側側面は,前記基端側部分における前記締付側側面から,前記緩め側側面から遠ざかる方向に斜めに屈曲されており,前記ビット中心部は,前記4つの翼部の前記基端側部分間において,ビット軸方向先端側ほど該ビット中心部が細くなることとなるように内方に傾斜する外壁面を有するビット側食い付き部を有しているドライバビット。
【請求項10】各前記翼部において,前記基端側部分における前記締付側側面と前記先端側部分における前記締付側側面とは,155〜177度の角度をなす請求項9記載のドライバビット。
【請求項11】各前記翼部において,前記基端側部分における前記締付側側面は,ビット軸方向先端側ほど前記基端側部分が薄くなることとなるように内方に傾斜している請求項9または10記載のドライバビット。
【請求項12】各前記翼部において,前記先端側部分における前記締付側側面は,ビット軸方向先端側ほど前記先端側部分が薄くなることとなるように内方に傾斜している請求項9乃至11のいずれかに記載のドライバビット。
【請求項13】各前記翼部において,前記基端側部分における前記締付側側面は平面状とされている請求項9乃至12のいずれかに記載のドライバビット。
【請求項14】各前記翼部において,前記先端側部分における前記締付側側面は平面状とされている請求項9乃至13のいずれかに記載のドライバビット。
【請求項15】各前記翼部において,前記先端側部分における前記緩め側側面は,前記基端側部分における前記緩め側側面から,前記締付側側面から遠ざかる方向に斜めに屈曲されている請求項9乃至14のいずれかに記載のドライバビット。
【請求項16】中心部と,この中心部から外方へ延びる4つの翼係合部とを有し,全体に陥没穴状をなすねじの回動部に嵌合されるドライバビットにおいて,ビット中心部と,このビット中心部から外方へ延び,前記ねじの前記翼係合部に係合される4つの翼部とを有し,各前記翼部は,当該ドライバビットの径方向外方へ延びる基端側部分と,この基端側部分からさらに外方へ延びる先端側部分とを有し,前記翼部の基端側部分は等角度間隔で配置されており,各前記翼部は,ねじ締め付け時に回転方向前方となる側の側面である締付側側面と,この締付側側面と反対側に位置し,ねじ緩め時に回転方向前方となる側の側面である緩め側側面とを有し,各前記翼部において,前記先端側部分における前記緩め側側面は,前記基端側部分における前記緩め側側面から,前記締付側側面から遠ざかる方向に斜めに屈曲されており,前記ビット中心部は,前記4つの翼部の前記基端側部分間において,外方へ対して凹となるとともに,ビット軸方向先端側ほど該ビット中心部が細くなることとなるように内方に傾斜する外壁面を有するビット側食い付き部を有しているドライバビット。
イ本件発明のうち,本件発明1〜8を分説すると,次のとおりとなる。
(ア)本件発明11A全体に陥没穴状をなし,ドライバビットを嵌合される回動部を有するねじにおいて,1B前記回動部は,中心部と,この中心部から外方へ延びる4つの翼係合部とを有し,1C各前記翼係合部は,当該ねじの径方向外方へ延びる基端側部分と,この基端側部分からさらに外方へ延びる先端側部分とを有し,1D前記翼係合部の基端側部分は等角度間隔で配置されており,1E各前記翼係合部は,当該ねじ締め付け時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である締付側側壁面と,この締付側側壁面と反対側に位置し,当該ねじ緩め時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である緩め側側壁面とを有し,1F各前記翼係合部において,前記先端側部分における前記締付側側壁面は,それぞれ前記基端側部分における前記締付側側壁面から,前記緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲されており,1G前記中心部は,前記4つの翼係合部の前記基端側部分間において,当該ねじの軸心に向かって突出するとともに,深くなるほど該中心部が狭くなることとなるように内方に傾斜する内壁面を有する食い付き部を有しているねじ。
(イ)本件発明22各前記翼係合部において,前記基端側部分における前記締付側側壁面と前記先端側部分における前記締付側側壁面とは,155〜177度の角度をなす請求項1記載のねじ。
(ウ)本件発明33各前記翼係合部において,前記基端側部分における前記締付側側壁面は,深くなるほど前記基端側部分が狭くなることとなるように内方に傾斜している請求項1または2記載のねじ。
(エ)本件発明44各前記翼係合部において,前記先端側部分における前記締付側側壁面は,深くなるほど前記先端側部分が狭くなることとなるように内方に傾斜している請求項1乃至3のいずれかに記載のねじ。
(オ)本件発明55各前記翼係合部において,前記基端側部分における前記締付側側壁面は平面状とされている請求項1乃至4のいずれかに記載のねじ。
(カ)本件発明66各前記翼係合部において,前記先端側部分における前記締付側側壁面は平面状とされている請求項1乃至5のいずれかに記載のねじ。
(キ)本件発明77各前記翼係合部において,前記先端側部分における前記緩め側側壁面は,前記基端側部分における前記緩め側側壁面から,前記締付側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲されている請求項1乃至6のいずれかに記載のねじ。
(ク)本件発明88A全体に陥没穴状をなし,ドライバビットを嵌合される回動部を有するねじにおいて,8B前記回動部は,中心部と,この中心部から外方へ延びる4つの翼係合部とを有し,8C各前記翼係合部は,当該ねじの径方向外方へ延びる基端側部分と,この基端側部分からさらに外方へ延びる先端側部分とを有し,8D前記翼係合部の基端側部分は等角度間隔で配置されており,8E各前記翼係合部は,当該ねじ締め付け時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である締付側側壁面と,この締付側側壁面と反対側に位置し,当該ねじ緩め時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である緩め側側壁面とを有し,8F各前記翼係合部において,前記先端側部分における前記緩め側側壁面は,前記基端側部分における前記緩め側側壁面から,前記締付側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲されており,8G前記中心部は,前記4つの翼係合部の前記基端側部分間において,それぞれ当該ねじの軸心に向かって突出するとともに,深くなるほど該中心部が狭くなることとなるように内方に傾斜する内壁面を有する食い付き部を有しているねじ。
(5)被告の原告再入社の経緯等(甲3,12の1,甲13,14,乙4及び弁論の全趣旨)ア被告は,昭和45年に原告に入社したが,昭和55年に退社した(以下,原告と被告の雇用契約の締結を「入社」と,雇用契約の終了を「退社」という。)。
イ被告は,昭和55年,Bとして,ねじの開発及びそのライセンス業等の営業を開始し(昭和59年,その営業は「株式会社B」として法人組織となった。以下,個人営業の時期を含めて「B」という。),Bは現在もその営業を継続している。また,被告は,平成5年以降,複数の発明について特許出願等を行い,このうち,平成11年2月15日に特許出願した発明(特願平11-35130)については,平成20年11月21日,特許権の設定登録(第4220610号)を受けた(発明の通称は「ノジドライブ」である。以下「被告先行特許」という。)。
ウ被告と原告は,平成16年10月ころ以降,被告が原告に再入社することを前提に協議を行い,原告,被告及びBは,平成17年3月7日付けで「覚書」を締結し,?原告が,従来のBの業務のうち,工業所有権実施料管理に関する業務以外のねじ等製品の製造・販売業務を承継すること(1条),?原告は,Bに対して貸付けを行い,同社が銀行からの借入れの一部を返済すること(5条)等を合意した。原告は,平成17年4月26日,Bに対し,456万円を貸し付けた。
エ被告は,平成17年3月16日,原告に再入社した。
(6)原告におけるねじ用十字穴及びドライバビットの開発等(甲6〜8,11,乙2,3)ア原告は,平成17年12月26日に実施された同年12月度原告技術研究会において,被告及び他の従業員に対し,新製品のねじ用十字穴及びドライバビットを開発するよう指示した。
イ被告は,平成18年1月12日ころ,作業を開始し,同月末ころには,パンチ仕様図を完成させ,2種類の食い付き角度による金型を発注した。
ウその後,上記パンチを使用したねじの試作,試験が行われ,同年8月ころには,新製品のねじの食い付き角度が決定された。
(上記新製品のねじ用十字穴及びドライバビットが,本件発明の技術的範囲に属することについては,当事者間に特段の争いはない。)(7)被告の退社の経緯等(甲14及び弁論の全趣旨)ア被告は,その後,原告を退社することとなったため,原告とBは,平成19年10月31日付けで「確認書」を締結し,上記(5)ウのBに対する貸付金456万円の返済については,被告の開発したねじの発明である通称「ノジロック」の実施許諾に基づき原告がBに対して支払うべき使用料の未払分をもって充当することを合意した。
イ被告は,平成19年11月15日,原告を退社した。
(8)関連事実(乙7)ア原告は,平成20年1月8日までに,その製品である「ファーム」と称するねじの情報を,原告ホームページに掲載した。
イ原告は,平成20年10月10日,本件発明に関連するねじについての特許出願をした。
3争点(1)本件発明の職務発明該当性(2)本件発明の特許を受ける権利の黙示の譲渡契約の成否(3)本件発明の特許を受ける権利の消滅等4争点に対する当事者の主張(1)争点(1)本件発明の職務発明該当性について(原告)本件発明は,職務発明に該当する。すなわち,前提となる事実(6)のとおり,原告は,平成17年12月ころ,原告の従業員である被告及び他の従業員に対し,職務として,新たな構造のねじ用十字穴及びドライバビットの設計及び試作品の作成を行うよう命じた。被告らは,平成18年1月ころ,新たな構造のねじ用十字穴及びドライバビットの設計を終え,その試作品の試験を行いながら,遅くとも同年8月ころには,本件発明を完成させた。
したがって,本件発明についての特許を受ける権利は,原告の発明考案取扱規定により,原告に当然に承継されている。
(被告)ア原告の主張する事実は否認する。
イ被告は,次のとおり,原告に再入社する前の平成15年には,本件発明を完成させており,本件発明は被告が原告に在職中にされたものではないから,職務発明とはいえない。
(ア)被告は,「溝(α部)喰付き型」と称する形状のねじを考案し,平成15年2月22日,金型製造業者である日発精密工業株式会社(以下「日発精密工業」という。)に,試作図面(乙1の4の1の「溝(α部)喰付き型」)を作らせ,これに基づき,金型の仕様を作成させた(乙1の4の2)。
(イ)本件発明の実施例1(甲1の図2)と,上記「溝(α部)喰付き型」ねじの図(乙1の4の1)は,一見して同一である。
(ウ)本件発明の各構成要件と,上記「溝(α部)喰付き型」ねじ(乙1の4の1)を対比すると,次のとおり,「溝(α部)喰付き型」ねじは,本件発明の請求項1〜8の各構成要件をすべて充足する。また,本件発明の請求項9〜16については,請求項1〜8のねじに各々対応するドライバビットに関するものであるところ,ねじとドライバビットは,ねじの回動部が特定されれば,自ずとそれに対応するドライバビットも特定されるという裏表の関係にあるから,請求項1〜8のねじに想到すれば,請求項9〜16のドライバビットにも想到している(別紙「対比図」参照。同図面は,乙1の4の1の「溝(α部)喰付き型」ねじの図面に数字を付したものである。)。
?本件発明1及び8の構成要件との対比a「溝(α部)喰付き型」ねじが構成要件1A及び同8Aを充足することは明らかである。
b「溝(α部)喰付き型」ねじの回動部は,中心部(対比図17)と,当該中心部から外方へ延びる4つの翼係合部(対比図18)を有している。よって,当該ねじは構成要件1B及び同8Bを充足する。
c「溝(α部)喰付き型」ねじの翼係合部(対比図18)は,ねじの径方向外方へ延びる基端側部分(対比図18a)と,当該基端側部分から更に外方へ延びる先端側部分(対比図18b)を有している。よって,当該ねじは構成要件1C及び同8Cを充足する。
d「溝(α部)喰付き型」ねじの中心部(対比図17)には,垂直交差する十字が記載され,各翼係合部の基端側部分(対比図18a)が等分となるように構成されている。よって,当該ねじは構成要件1D及び同8Dを充足する。
e「溝(α部)喰付き型」ねじの各翼係合部(対比図18)は,ねじ締め付け時に,ドライバビットの翼部の回転方向前方に位置することとなる側壁面である締付側側壁面(対比図20)と,これと反対側に位置し,ねじ緩め時にドライバビットの翼部の回転方向前方に位置することとなる側壁面である緩め側側壁面(対比図21)を有している。よって,当該ねじは構成要件1E及び同8Eを充足する。
f-?「溝(α部)喰付き型」ねじの先端側部分(対比図18b)における締付側側壁面(対比図20b)は,基端側部分(対比図18a)における締付側側壁面(対比図20a)から,緩め側側壁面(対比図21)より遠ざかる方向に斜めに屈曲されている。よって,当該ねじは構成要件1Fを充足する。
f-?「溝(α部)喰付き型」ねじの先端側部分(対比図18b)における緩め側側壁面(対比図21b)は,基端側部分(対比図18a)における緩め側側壁面(対比図21a)から,締付側側壁面(対比図20)より遠ざかる方向に斜めに屈曲されている。よって,当該ねじは構成要件8Fを充足する。
g「溝(α部)喰付き型」の下段断面図(乙1の4の1)には,基端側部分間の壁面とねじの軸心のおりなす角度が「5.75°」であることが示されている。このように,「溝(α部)喰付き型」ねじの基端側部分間の内壁面(対比図22)は,深くなるほど中心部(対比図17)に向かって狭くなるように内方に傾斜している。そして,当該ねじの基端側部分間には,上記のように傾斜している内壁面(対比図22)を有する食い付き部(対比図23)がある。よって,当該ねじは,構成要件1G及び同8Gを充足する。
?本件発明2の構成要件との対比「溝(α部)喰付き型」の上段平面図(乙1の4の1)の「60°」は,先端側部分の締付側側壁面(対比図20b)と緩め側側壁面(対比図21b)との角度を示している。また,同図の「91.574°」は,基端側部分の締付側側壁面(対比図20a)と緩め側側壁面(対比図20b)との角度を示している。
よって,両者の差の二分の一(すなわち,15.787°)と180°の差が,基端側部分における締付側側壁面(20a)と先端側部分における締付側側壁面(20b)が形成する角度となるところ,当該角度は「164.213°」である。よって,当該ねじは,構成要件2を充足する。
?本件発明3の構成要件との対比「溝(α部)喰付き型」ねじの基端側部分の締付側側壁面(対比図20a)は,深くなるほど中心部(対比図17)に向かって狭くなるように内方に傾斜している。よって,当該ねじは,構成要件3を充足する。
?本件発明4の構成要件との対比「溝(α部)喰付き型」ねじの先端側部分の締付側側壁面(対比図20b)は,深くなるほど中心部(対比図17)に向かって狭くなるように内方に傾斜している。よって,当該ねじは,構成要件4を充足する。
?本件発明5の構成要件との対比「溝(α部)喰付き型」ねじの基端側部分(対比図18a)における締付側側壁面(対比図20a)は曲面でなく,当該側壁面は平面状である。よって,当該ねじは,構成要件5を充足する。
?本件発明6の構成要件との対比「溝(α部)喰付き型」ねじの先端側部分(対比図18b)における締付側側壁面(対比図20b)は曲面でなく,当該側壁面は平面状である。よって,当該ねじは,構成要件6を充足する。
?本件発明7の構成要件との対比「溝(α部)喰付き型」ねじの先端側部分(対比図18b)における緩め側側壁面(対比図21b)は,基端側部分(対比図18a)における緩め側側壁面(対比図21a)から,締付側側壁面(対比図20)より遠ざかる方向に斜めに屈曲されている。よって,当該ねじは,構成要件7を充足する。
(2)争点(2)本件発明の特許を受ける権利の黙示の譲渡契約の成否について(原告)ア仮に,本件発明が,被告の原告への入社前に完成しており,職務発明に該当しないとしても,次のとおり,遅くとも平成18年8月27日には,本件発明の特許を受ける権利を原告に移転する旨の黙示の契約が成立した。
(ア)被告は,次のとおり,原告社長から新しい十字穴ねじを開発するよう指示され,あたかも入社後に開発した発明であるとして,本件発明を原告に報告していたものである。原告においては,その発明考案取扱規定により職務発明については,あらかじめ工業所有権を取得する権利を会社に譲渡する旨の定めがあり,被告はその内容を認識していたことや,被告の業務に対して高額の給与・賞与の支給がされたこと等からすると,あたかも本件発明が完成したと報告した平成18年8月27日には,原告は本件発明を職務発明であると認識し,被告も本件発明が原告において職務発明として取り扱われることを知っていたのであるから,上記黙示の合意が存在していたというべきである。
?被告は,原告に再入社した後,製品開発室長として原告の製品開発に従事していたところ,平成17年12月26日,新製品の開発を目的とした技術研究会において,原告社長から,ノジドライブのような新しい十字穴ねじを開発するよう指示を受けた(甲6)。
?被告は,上記職務命令に従う形で,本件発明に関するねじの開発を行い,平成18年1月30日,同年2月27日,同年3月30日,同年4月28日,同年5月29日,同年6月26日,同年8月27日の各技術研究会で開発の進行状況を報告した。このうち,同年5月29日には,ねじの試作品ができあがったと報告し(甲7),同年8月27日には,同年7月24日にできあがった専用ドライバビットによるねじの試作品との嵌合試験を行った結果,良好であると報告し(甲8),新たな構造のねじ用十字穴及びドライバビットについての本件発明が完成したとみなし得る内容の報告をした。被告は,本件訴訟において主張するまで,原告に対し,本件発明が,原告への再入社前に完成していた発明であるとの説明をしたことはなかった。
?被告の原告における主たる業務は,本件発明の開発と製品化の作業であり,被告は,その対価として,原告から給与・賞与として総額1739万2812円の支給を受けていた。
?被告は,本件発明とは別の発明(甲5)について,平成17年8月29日の技術研究会において原告に提案し,同年10月17日の技術研究会において,原告社長より特許出願準備の指示がされ(甲10),同年11月9日に特許出願がされた。被告は,上記発明を通じて,原告の発明考案取扱規定(甲4)の内容も認識していた。
(イ)被告は,原告に再入社した時点で,それ以前にBで手がけていた業務については,既に登録が済んでいる工業所有権の管理の業務以外は,原告に譲渡していたから(甲13),Bが当時有していたいまだ登録が済んでいない発明等に関するノウハウについても原告に移転する合意が成立していた。したがって,いまだ登録が済んでいない発明である本件発明についても,被告は,原告の製品として開発するべく報告したのであるから,被告が本件発明を「製品として効果があること」を報告した平成18年8月27日には,上記黙示の合意が存在していたというべきである。
イ被告の主張に対する反論(ア)本件発明と被告先行特許の発明の関係?本件発明は,被告先行特許の発明に,単に「食い付き部分」を付加したものではない。ねじを評価する特徴である(a)ドライバビットが嵌合した場合に自重落下しない,いわゆる「食い付き」と,(b)ねじを締めた場合に滑らない,いわゆる「カムアウトが発生しない」のうち,被告先行特許の発明は,(a)を犠牲にして(b)を最大化した発明であるのに対し,本件発明は,(a)と(b)をバランスよく適度に備えた発明であり,根本的に相違する。
すなわち,被告先行特許の発明は,ねじ軸心に対し平行(真っ直ぐ)に陥没した状態になっているため,ドライバビットに回転トルクを加えた際のドライバビットの浮き上がり分力の発生がゼロになり,また,穴と同型の翼係合部がついた専用ドライバビットを回した時,翼係合部の先端エッジ部分が完全に噛み合い,回転方向にベクトルが働くので,(b)のカムアウトが生じない状態になる。ただ,被告先行特許の発明は,ねじ軸心に対し平行(真っ直ぐ)に陥没した状態になっているため,ドライバビットとねじ穴の内壁面同士の接触によって発生する(a)の食い付きが発生しない(あるいは弱い)ことになる(乙4,段落【0003】〜【0008】参照)。他方,本件発明は,内壁面が内側に傾斜していることから,ドライバビットをねじ穴に突き入れた際にドライバビットとねじ穴の内壁面同士の接触によって発生する(a)の食い付きが(回転トルクを与える前の段階から)生じ,他方,翼係合部がついているのでドライバビットを回した場合,回転方向にベクトルが働き,(b)のカムアウトが生じにくくなる。その意味で,本件発明は,(a)の食い付きを付けるとともに(b)のカムアウトの面にも配慮した(ただし,内壁面が内側に傾斜していることからドライバビットに回転トルクを加えた際のドライバビットの浮き上がり分力の発生は避けられず,(b)のカムアウトは被告先行特許の発明に比較すれば発生しやすい。)発明である(甲1,段落【0007】〜【0009】)。
?本件発明1の構成要件と,被告先行特許の発明の請求項1の構成要件を対比すると,相違点は,次のとおりである。本件出願に係る公開特許公報(甲1)の図2と,被告先行特許の特許公報(乙4)の図6を比較しても,形態として相違していることは明らかである。
a本件発明は,「前記回動部は,中心部と,この中心部から外方へ延びる4つの翼係合部とを有し」(構成要件1B),十字穴形状又はこれに類似するものに限定され,また,「前記翼係合部の基端側部分は等角度間隔で配置されており」(構成要件1D),90度に直交する十字形状であるのに対し,被告先行特許の発明は,そのような限定がない点。
b本件発明の「径方向外方へ延びる基端側部分」(構成要件1C)の形状は,両面ともに直交する中心線に対し平行でない極短面であり(甲1の図2の20a,21a),締付(緩め)側側壁面が基端側部分に対し極長面となっているのに対し,被告先行特許の発明の「中心側から外方に向かって延びる平面上の基端側部分」(構成要件1Cに相当する部分)は,直交する中心線に対し平行な長い面であり(乙4の図6の9b,10b),締付(緩め)側側壁面が基端側部分に対し短い面となっている点。
c本件発明は「前記中心部は,前記4つの翼係合部の前記基端側部分間において,当該ねじの軸心に向かって突出するとともに,深くなるほど該中心部が狭くなることとなるように内方に傾斜する内壁面を有する食い付き部を有しているねじ」であり(構成要件1G),中心部が深くなるほど狭くなっていくのに対し,被告先行特許の発明では,特許公報(乙4)の図6のとおり,食い付き部である内壁面,基端部分及び締付(緩め)側側壁面はネジ軸心に対し平行(真っ直ぐ)に陥没した形状となっている(食い付き部がない)点。
(イ)特許発明を具体的製品に落とし込む最適化の作業を行う場合,事前にライセンス契約を締結するのが経験則であるところ,原告と被告との間でそのような契約を締結した事実はない。仮に,本件発明が,被告のライセンス品であることを原告が認識していたならば,上記「最適化作業」は,被告個人が行うべきであって,原告のプロジェクトとして取り組んでいた事実とは反する。また,原告で開発した新製品は,平成18年1月30日の技術研究会において「CRドライブ」と命名されており,ノジドライブとは区別されていた。原告は,ノジドライブ用の金型を発注したとの認識ではないし,発注された金型は,食い付き角度が相違するもの2種類であり,検証作業は,その後もされていた。
(ウ)被告の主たる業務は「製品の開発と製品化」であるから,被告の給与・賞与には,本件発明の開発と製品化の作業の対価が含まれている。
また,被告の原告への再入社に当たり,Bから原告への業務継承が行われたから,給与・賞与には,原告入社前に完成していた本件発明の権利の対価が含まれている。被告が従事した顧客訪問や原告工場での技術指導の業務は,年約600万円の対価分の価値はなかった。
(エ)本件発明は,被告の在職期間中,技術研究会で改良試作の過程にあり,出願の段階ではないと原告が判断したため,出願指示をしなかったにすぎない。ノジドライブのライセンス交渉も,本件発明が被告に属することを認識していたことの根拠とはならない。
(被告)ア原告の主張する事実は,いずれも否認し,原告の主張は争う。
イ被告は,従前,自らの発明について,多数のメーカーにライセンスを供与し,その対価を得ることをビジネスの一つとしており,これらの権利を第三者に譲渡したことはないから,本件発明の特許を受ける権利を原告に譲渡することもない。
ウ被告が原告から指示されたのは,「被告のライセンス品であるノジドライブを原告でも販売したい。」という内容のものである。すなわち,被告が,平成17年12月ころ,原告から依頼を受けたのは,被告先行特許(通称「ノジドライブ」)の発明の技術的範囲に属するねじの開発である。
本件発明のねじは,被告先行特許の発明の技術的範囲に属するものであるから,本件発明のねじを被告が原告に提示したのは,「被告のライセンス品であるノジドライブを原告でも販売したい」という原告の指示に合致したものである。
したがって,そこで開発されたねじは,必然的に被告先行特許の発明を実施する関係になり,被告が被告先行特許に基づいてライセンスをする必要があるのであって,このことは原告も当然理解していたのである。
(ア)本件発明と被告先行特許の発明の関係上記の経緯で被告によるライセンスを前提として開発されたねじ(本件発明のねじ)と被告先行特許発明を比較すると,次のとおり,本件発明のねじが被告先行特許の発明を実施するものであることが明らかである。
本件発明1の構成要件と,被告先行特許の発明の請求項1の構成要件を対比すると,本件発明には「前記翼係合部の基端側部分は等角度間隔で配置されており」,「前記中心部は,前記4つの翼係合部の前記基端側部分間において,当該ねじの軸心に向かって突出するとともに,深くなるほど核中心部が狭くなることとなるように内方に傾斜する内壁部を有する食い付き部を有しているねじ」との構成要件1D及び1-Gがあり,被告先行特許の発明には当該構成要件がないが,このうち構成要件1Dは,通常のねじであれば,当然に備えているものであるから,本件発明と被告先行特許の発明の唯一の相違点は,本件発明では食い付き部に関する構成要件1Gを満たすことが必須とされているのに対し,被告先行特許の発明では必須とされていない点である。もっとも,構成要件1Gは,本件出願に係る明細書(甲1)に「本発明のねじの回動部は,従来の一般的な十字穴と同様に…前記中心部は,4つの翼係合部の基端側部分間において,当該ねじの軸心に向かって突出するとともに,深くなるほど該中心部が狭くなることとなるように内方に傾斜する内壁面を有する食い付き部を有している。」(段落【0014】)と記載されているとおり,従来の一般的な十字穴に存在している技術形態にすぎない。
すなわち,本件発明は,被告先行特許の発明に,一般的なねじであれば普通に備えている「食い付き部分」(「食い付き部分」とは,十字穴にドライバビットを押し込んだときに,十字穴がドライバビットに密着し,ねじが自重によってドライバビットから脱落しないように,十字穴の中央部に設けられた,内方に傾斜した内壁面のことである。)を付加したものである。したがって,本件発明は,被告先行特許の発明に周知技術を付加したものであり,両者は,本件発明を実施すれば,必然的に被告先行特許の発明をも実施することになるという関係にある。
(イ)被告は,原告からの指示を受けた後,業務日報に「ドライブYJ-4」,「ノジドライブYJ-4」と記載し,製品化しているねじが被告先行特許の発明の技術的範囲に属するねじ「ノジドライブ」であること示して原告に報告し,その承認を得て,作業を行っていた(乙2,3)。
これは,原告からの指示の内容が「ノジドライブを原告でも販売したい」というものであったことに対応している。
被告が行ったのは,原告の指示に基づいて,被告先行特許の技術を具体的商品に落とし込むための最適化の作業であり,原告技術研究会での被告の報告も,被告のライセンス品となるものであることを前提として報告していたにすぎない。被告の具体的な作業は,平成18年1月12日ころに検討を開始し,同月31日ころには,パンチ仕様図を完成させて,金型を専門業者に発注しており,検討期間が非常に短いことからも,新規のねじを開発したものではないことは,原告において理解していた。
(ウ)被告に支給された給与・賞与は,被告が従事した職務に対する対価であり,発明の対価ではない。
(エ)原告は,被告に対し,本件発明について特許出願の指示をしていなかったり,被告とノジドライブのライセンス交渉をした経緯があり,本件発明が被告に属することを認識していた。
(3)争点(3)本件発明の特許を受ける権利の消滅等について(被告)原告は,本件出願の公開前である平成20年1月8日までに,本件発明の実施品である製品「ファーム」の情報を原告ホームページに掲載し,本件発明を自ら公知としているから,同日,本件発明の特許を受ける権利は消滅しているし,原告には,本件発明の特許を受ける権利について,確認の利益はない。
ア原告が本件発明を完成させたとする平成18年8月ころ当時,原告には,?本件発明について特許出願して,特許権を得ること,又は,?本件発明を自ら公知にし,自らを含め誰も特許権を取得しえない状況にすることの2つの選択肢があった。原告は,本件発明を平成20年1月8日までに自社ホームページで公開することで,上記?の選択肢を選択し,?の選択肢,すなわち本件発明について特許出願する選択肢を放棄した。したがって,本件訴訟で回復すべき利益状況は,原告が自ら選択した上記?の状況に回復すれば足り,これを超えて?の利益の回復を認める理由はない。
イ本件請求が認められた場合,原告は,本件発明について,特許を受ける権利を有することになり,原告は,被告出願を前提として,その名義人変更届を行い,特許査定を受けることになる。特許を受ける権利は,当該発明が公知になれば消滅するにもかかわらず,偶然,他人により冒認出願されると,特許権を取得できる機会が生じるのは,特許法の構造と齟齬する。
ウ真実,本件出願が冒認であれば,原告は,登録拒絶理由(特許法49条7号)として,その旨の情報提供を特許庁にすることが可能であり,また,登録後は,無効審判請求(同法123条1項6号)をすることが可能である。上記手続により被告の権利が消滅した場合,本件発明は誰も特許権を取得し得ない状況となるが,この利益状況は,まさに,原告が選択した利益状況そのものであり,原告の保護としては,そのような内容で十分である。
そもそも冒認出願を理由とする無効審判請求は,利害関係人,すなわち,真の権利者に限り提起することができるものとされており(同法123条2項但書),本件で,これに該当する原告に対し,無効審判請求の提起を求めたとしても,何ら不当ではない。
エ特許法上,冒認出願は先願とされず(29条の2括弧書き,39条6項),新規性喪失の例外(30条2号)とされている。冒認出願がされても,特許を受ける権利は依然として真の権利者に帰属し,真の権利者は冒認出願がなかったものとして出願することができるというのが,法の建前である。そして,冒認出願と権利者の出願の間に新規性消滅事由が介在した場合については,昭和34年改正前の特許法(以下「旧法」という。)では,冒認出願が拒絶され,または冒認出願による特許が無効とされた場合に,真の権利者が一定期間内に特許出願をした場合には,当該出願は冒認出願時にされたものとみなす旨の規定が置かれていたが(旧法10条および11条),昭和34年改正特許法(以下「新法」という。)では,この「出願日の遡及」を定めた規定が削除された。
本件において,原告は,本件出願の名義人変更を目的とし,一方で,自らも本件発明の特許出願をしているから,本件訴訟は「被告出願を原告の出願とみなし,被告出願の出願日まで原告の出願上の地位を遡及させる」ことを目的とするものといえるが,この「出願日の遡及」は,新法で削除されたものである。
そして,事実関係によっては,新規性消滅事由が介在している場合であっても,冒認出願を権利者の出願とみなして,権利者を保護する必要がある場合はあり得るが,上記法改正の経緯や,冒認出願があっても真の権利者は特許出願できるとの特許法の建前からすると,それは,出願日の遡及を認めなければ,真の権利者に権利を回復させる適切な方法が他に存在しなかったような場合に認められるべきである。本件において,原告は,被告出願の公開前に,特許出願をすることなく,本件発明を自ら公知としており,このような原告に権利を回復させるべき事情・原告を救済すべき必要性は認められない。原告は,自ら特許を受ける権利を放棄しており,「真の権利者でありながら特許権を取得する方法がなかった」,「真の権利者として権利を回復させる適切な方法が他に存在しなかった」といった事情は存在しない。
(原告)ア被告の主張は,争う。
イ原告は,被告から,平成18年8月27日に黙示的に本件発明の特許を受ける権利を譲り受けたものであり,仮に,上記製品情報を原告ホームページに掲載したことによって,原告が本件発明を平成20年1月8日までに自ら公知にしたと評価されたとしても,本件発明について,原告がその後登録できない状況になるだけであり,本件発明の特許を受ける権利が無効になるという実体法の根拠はない。
そもそも特許を受ける権利について,無権利者が権利者より先に冒認出願をした場合には,その冒認出願に基づいて当該特許を受ける権利による出願が後願となったり,その発明が公知となるため,特許を受ける権利を有する者は,確認訴訟による判決を受け,その確定判決を特許庁に提出することによって,特許庁が,その冒認出願名義変更する手続が実務上認められている。仮に,発明が公開されることにより,その発明に係る特許を受ける権利が無効になるのであれば,冒認出願が先行的になされた場合の特許を受ける権利を有する者は,無権利者となり,このような実務上の取扱いは成り立たない。
ウ本件訴訟は,特許を受ける権利の確認訴訟であり,原告に本件発明の特許を受ける権利が移転し,無権利者である被告が本件発明に係る特許を出願している以上,原告に確認の利益があることは明らかである。製品情報の原告ホームページへの掲載によって,原告が本件発明を平成20年1月8日までに公知にしたと評価されるとしても,上記のとおり,その権利が消滅する根拠はない。実質的にも,本件訴訟は,無権利者となった被告が行った冒認出願について,特許庁で名義変更手続を行うためのものであり,原告には,確認の利益が認められる。
特許を受ける権利の権利者が,その発明につき,特許出願をするか否かは自由であり,仮に特許出願をしない場合にも,その発明について無権利者が特許出願をした場合には,防衛的にその冒認出願者に対して,権利を確認する利益は認められるべきである。原告に権利が譲渡されているのに,本件訴えにつき訴えの利益を欠くとして請求が認められないのであれば,被告は,無権利者であるのに特許を得ることができることになり,逆に不都合な結果となる。結局,本件発明の特許を受ける権利が,原告にあるか,被告にあるかという,実体的判断に関わるものであり,実体的判断を伴わない訴えの利益の問題として処理すべきものではない。
第3当裁判所の判断1争点(1)本件発明の職務発明該当性について原告は,平成17年12月ころ,原告が被告らに対してした指示に基づいて本件発明がされたと主張するのに対し,被告は,被告が原告に再入社する前の平成15年には本件発明は完成していたから,本件発明は被告が原告に在職中にされた職務発明ではないと主張する。
そこで,本件発明の完成の時期について検討する。
(1)本件発明はねじ及びドライバビットに関する発明であるところ,証拠(乙1の4の1・2)によれば,被告によるねじの開発については次の事実が認められる。
金型製作を業とする日発精密工業は,被告の依頼により,平成15年2月22日付けで「溝(α部)喰付き型」のねじ及びそれに対応するパンチ等が記載された図面案を作成し,これを同月23日に被告又は被告が経営するBに対してファックス送信し,さらに,同社は同年3月12日付けでパンチ仕様図が記載されたパンチ仕様確認願書を作成し,同月19日ころ,これを被告又はBに交付していること及び同パンチ仕様確認願書には,パンチ仕様図のほか,品番「JZZM40T-112M180J*」,設計番号「03-59」等の製品を特定する情報が記載されていることが認められる。そして,これらの図面には,以下の発明が開示されている(以下「乙1の4発明」という。)。
「全体に陥没穴状である十字穴状をなし,ドライバビットを嵌合される回動部(対比図13)を有するねじにおいて,回動部(対比図13)は,中心部(対比図17)と,中心部(対比図17)から外方へ延びる4つの翼係合部(対比図18)を有しており,4つの翼係合部(対比図18)は,当該ねじの径方向外方へ延びる基端側部分(対比図18a)と,さらに外方へ延びる先端側部分(対比図18b)とを有し,各翼係合部(対比図18)の中心線は,中心部(対比図17)において垂直に交わり,各翼係合部(対比図18)は,当該ねじ締付時にドライバビットの翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である締付側側壁面(対比図20)と,その反対側に位置し,当該ねじ緩め時にドライバビットの翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である緩め側側壁面(対比図21)とを有し,各翼係合部(対比図18)において,先端側部分(対比図18b)の締付側側壁面(対比図20b)は,基端側部分(対比図18a)の締付側側壁面(対比図20a)から,緩め側側壁面(対比図21)から遠ざかる方向に斜めに屈曲され,中心部(対比図17)は,4つの翼係合部(対比図18)の各基端側部分(対比図18a)間に食い付き部(対比図23)の内壁面(対比図22)を有し,食い付き部(対比図23)の内壁面(対比図22)は,いずれも軸心に向かって突出し,それぞれ深くなるほど中心部(対比図17)が狭くなるように内方に傾斜して設置され,基端側部分(対比図18a)の締付側側壁面(対比図20a)と緩め側側壁面(対比図21a)間の角度は91.574°又は92°に設定され,先端側部分(対比図18b)の締付側側壁面(対比図20b)と緩め側側壁面(対比図21b)間の角度は60°に設定され,基端側部分(対比図18a)及び先端側部分(対比図18b)の締付側側壁面(対比図20a,b)は,それぞれ深くなるほど翼係合部(対比図18)が狭くなるように内方に傾斜して設置され,基端側部分(対比図18a)及び先端側部分(対比図18b)の各締付側側壁面(対比図20a,b)及び各緩め側側壁面(対比図21a,b)は,いずれも平面状とされ,先端側部分(対比図18b)の緩め側側壁面(対比図21b)は,基端側部分(対比図18a)の緩め側側壁面(対比図21a)から,締付側側壁面(対比図20)から遠ざかる方向に斜めに屈曲されているねじ」(2)本件発明の各構成要件との対比ア本件発明1の構成要件との対比(ア)乙1の4発明は,「全体に陥没穴状である十字穴状をなし,ドライバビットを嵌合される回動部(対比図13)を有するねじ」であるから,本件発明1の構成要件1Aを開示している。
(イ)乙1の4発明は,「回動部(対比図13)は,中心部(対比図17)と,中心部(対比図17)から外方へ延びる4つの翼係合部(対比図18)を有して」いるから,本件発明1の構成要件1Bを開示している。
(ウ)乙1の4発明は,「各翼係合部(対比図18)は,当該ねじの径方向外方へ延びる基端側部分(対比図18a)と,さらに外方へ延びる先端側部分(対比図18b)とを有し」ているから,本件発明1の構成要件1Cを開示している。
(エ)乙1の4発明は,「各翼係合部(対比図18)の中心線は,中心部(対比図17)において垂直に交わ」っているから,4つの翼係合部(対比図18)の基端部分が等角度間隔(90°)で配置されているものであり,本件発明1の構成要件1Dを開示している。
(オ)乙1の4発明は,「各翼係合部(対比図18)は,当該ねじ締付時にドライバビットの翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である締付側側壁面(対比図20)と,その反対側に位置し,当該ねじ緩め時にドライバビットの翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である緩め側側壁面(対比図21)とを有し」ているから,本件発明1の構成要件1Eを開示している。
(カ)乙1の4発明は,「翼係合部(対比図18)において,先端側部分(対比図18b)の締付側側壁面(対比図20b)は,基端側部分(対比図18a)の締付側側壁面(対比図20a)から,緩め側側壁面(対比図21)から遠ざかる方向に斜めに屈曲され」ているから,本件発明1の構成要件1Fを開示している。
(キ)乙1の4発明は,「中心部(対比図17)は,4つの翼係合部(対比図18)の各基端側部分(対比図18a)間に食い付き部(対比図23)の内壁面(対比図22)を有し,食い付き部(対比図23)の内壁面(対比図22)は,いずれも軸心に向かって突出し,それぞれ深くなるほど中心部(対比図17)が狭くなるように内方に傾斜して設置され」ているから,本件発明1の構成要件1Gを開示している。
イ本件発明2の構成要件との対比乙1の4発明は,本件発明1の各構成要件を充足し,また,「基端側部分(対比図18a)の締付側側壁面(対比図20a)と緩め側側壁面(対比図21a)間の角度は91.574°又は92°に設定され,先端側部分(対比図18b)の締付側側壁面(対比図20b)と緩め側側壁面(対比図21b)間の角度は60°に設定され」ているから,基端側部分(対比図18a)における締付側側壁面(対比図20a)と先端側部分(対比図18b)における締付側側壁面(対比図20b)間の角度は,180°(A)から,基端側部分(対比図18a)の締付側側壁面(対比図20a)と緩め側側壁面(対比図21a)間の角度91.574°又は92°の2分の1の角度45.787°又は46°(B)を控除した角度134.213°又は134°と(A-B),先端側部分(対比図18b)の締付側側壁面(対比図20b)と緩め側側壁面(対比図21b)間の角度60°の2分の1の角度30°(C)を加算した164.213°又は164°(A-B+C)であり,当該角度は,155〜177度の角度の範囲内となっているから,本件発明2の構成要件2を開示している。
ウ本件発明3の構成要件との対比乙1の4発明は,本件発明1及び2の構成要件を充足し,また,「基端側部分(対比図18a)…の締付側側壁面(対比図20a)は,…深くなるほど翼係合部(対比図18)が狭くなるように内方に傾斜して設置され」ており,基端側部分(対比図18a)は,上記翼係合部(対比図18)の一部であるから,本件発明3の構成要件3を開示している。
エ本件発明4の構成要件との対比乙1の4発明は,本件発明1ないし3の構成要件を充足し,また,「先端側部分(対比図18b)の締付側側壁面(対比図20b)は,…深くなるほど翼係合部(対比図18)が狭くなるように内方に傾斜して設置され」ており,先端側部分(対比図18b)は,上記翼係合部(対比図18)の一部であるから,本件発明4の構成要件4を開示している。
オ本件発明5の構成要件との対比乙1の4発明は,本件発明1ないし4の構成要件を充足し,また,「基端側部分(対比図18a)…の締付側側壁面(対比図20a)…は,…平面状とされ」ており,基端側部分(対比図18a)は,上記翼係合部(対比図18)の一部であるから,本件発明5の構成要件5を開示している。
カ本件発明6の構成要件との対比乙1の4発明は,本件発明1ないし5の構成要件を充足し,また,「先端側部分(対比図18b)の締付側側壁面(対比図20b)…は,…平面状とされ」ており,先端側部分(対比図18b)は,上記翼係合部(対比図18)の一部であるから,本件発明6の構成要件6を開示している。
キ本件発明7の構成要件との対比乙1の4発明は,本件発明1ないし6の構成要件を充足し,また,「先端側部分(対比図18b)の緩め側側壁面(対比図21b)は,基端側部分(対比図18a)の緩め側側壁面(対比図21a)から,締付側側壁面(対比図20)から遠ざかる方向に斜めに屈曲され」ており,基端側部分(対比図18a)は,上記翼係合部(対比図18)の一部であるから,本件発明7の構成要件7を開示している。
ク本件発明8の構成要件との対比(ア)ア(ア)〜(オ),(キ)のとおり,乙1の4発明は,本件発明8の構成要件8A〜E,8Gを開示している。
(イ)キのとおり,乙1の4発明は,本件発明8の構成要件8Fを開示している。
ケ上記のとおり,乙1の4発明は,本件発明1〜8のすべての構成要件を開示している。そして,本件発明9〜16は,それぞれ本件発明1〜8に対応し,それぞれのねじに対応する形状を備えたドライバビットに関する発明であるから,乙1の4発明が本件発明1〜8を開示していることにより,本件発明9〜16の構成要件についても開示していると認めるのが相当である。
(3)そして,乙1の4発明に関しては,上記(1)のとおり,金型製作を業とする日発精密工業が,被告又はBに対し,平成15年2月23日,被告の依頼に基づき同月22日付けで作成した「溝(α部)喰い付き型」ねじ及びそれに対応するパンチの設計図(乙1の4の1)をファクシミリ送信していたこと,日発精密工業は,被告又はBに対し,平成15年3月19日ころ,同月12日付けで作成した上記ねじのパンチ仕様図に関する確認願(乙1の4の2)を交付し,同書面に,パンチ仕様図,品番「JZZM40T-112M180J*」,設計番号「03-59」等の製品を特定する情報をも記載していたことがそれぞれ認められることからすれば,被告が開発した上記ねじは,遅くとも,平成15年3月の時点では,製品を試作することが可能な程度の状態にあったと認められる。そして,本件発明とは異なる別のねじに関する技術である平成19年5月31日発行の公開特許公報(特開2007-132398。甲5。以下「甲5発明」という。)に開示されている発明については,被告が,平成17年8月29日に実施された同年8月度原告技術研究会において提案し,同年10月17日に実施された同年10月度原告技術研究会において,具体的な製品化には至っていないものの,当該ねじの試作品が得られた段階で,特許出願の準備をすることが決定され,同年11月9日には,特許出願がされている(甲5,9,10)ところ,このような甲5発明との対比からすると,本件発明の内容を開示する乙1の4発明は,具体的な設計図や金型のパンチ仕様図が作成されて,製品が特定され,実施が可能な状態となった平成15年3月の時点において,発明として既に完成していたと認めるのが相当である。
なお,原告は,本件発明に関して,平成17年に原告に再入社した後,金型の製作やねじの試作を行っているが,上記のとおり,再入社前に作成された図面(乙1の4の1・2)に開示された発明において,本件発明の内容がすべて開示されていることからすると,技術的思想である発明としては完成しており,再入社後に上記作業が行われたとしても,本件発明の完成の時期を左右すると認めることはできないというべきである。
(4)以上によると,乙1の4発明には,本件発明の内容が開示されており,本件発明は,被告が原告に再入社する以前である平成15年3月の段階で,既に発明として完成していたというべきであるから,本件発明は,被告が原告に再入社した後にその職務としてした発明とはいえず,職務発明に該当しないと言わざるをえない。そして,その他,本件発明が職務発明に該当すると認めるに足りる証拠はない。
2争点(2)本件発明の特許を受ける権利の黙示の譲渡契約の成否について(1)前提となる事実に加え,証拠(甲5〜11,甲12の1,甲13,14,乙2〜4,乙5の3)及び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる。
ア被告の原告再入社の経緯(ア)上記前提となる事実(5)イのとおり,被告は,昭和55年以降,Bを経営し,平成5年以降,通称「ノジロック」(発明の名称「雄ねじおよびその製造方法」平成6年3月16日出願),通称「ノジックス」,通称「ノジタップ」,通称「ノジドライブ」(「発明の名称「ネジ及びドライバビット」平成11年2月15日出願)等の多くの発明について,特許出願等を行ってきた。被告は,このうち,通称「ノジロック」の発明については,平成14年10月14日時点で米国特許(第5868536号)を取得し,通称「ノジドライブ」の発明については,平成20年11月21日に特許登録を受けた(特許第4220610号)。Bは,これらの発明に関し,他社に実施許諾をする等しており,原告とB間においても,平成15年3月3日付けで「ノジロック実施料等に関する契約」を締結していた。
(イ)前提となる事実(5)ウのとおり,原告,被告及びBは,平成17年3月7日付けで「覚書」を締結し,?原告が,従来のBの業務のうち,工業所有権実施料管理に関する業務以外のねじ等製品の製造・販売業務を承継すること(1条),?Bが,原告に対し,上記業務の遂行に必要となる機械設備を無償で譲渡すること(2条),?被告は,原告とBの業務継承にあたり,移行過程が遅滞なく進み,関係顧客との取引に不具合がないようにする義務を負うこと(3条),?原告は,Bの借入金の返済のために,同社に対して貸付けを行うこと(5条)等を合意した。
原告は,同年4月26日,Bに対し,456万円を貸し付けた。
(ウ)前提となる事実(5)エのとおり,被告は,平成17年3月16日,原告に再入社した。
イ原告における「CRドライブ」開発の経緯等(ア)被告は,平成17年8月29日に実施された同年8月度原告技術研究会において,新しいねじを提案した(なお,本件発明とは内容が異なるものである。)。当該ねじは,同年10月17日に実施され,原告社長及び被告が出席した同年10月度原告技術研究会において,試作品が出来上がり,原告により特許出願の準備をすることが決定された。当該ねじに関する発明は,同年11月9日,発明の名称を「ねじ部品,雄ねじ部品の製造方法および転造ダイス」,出願人を原告,発明者を被告として,特許出願がされた(甲5の発明)。
(イ)前提となる事実(6)アのとおり,被告らは,平成17年12月26日に実施された同年12月度原告技術研究会において,原告社長から,新製品のねじ用十字穴及びドライバビットを開発するよう指示を受けた。
原告社長から指示された新製品の内容について,原告は「ノジドライブのような新しい十字穴を開発する」ものの,その技術は「ノジドライブ」とは異なるものである(同原告研究会議事録(甲6)。なお,同議事録には,被告の確認印の押印はない。)との認識であったが,被告は,「ノジドライブ」の技術的範囲に属するねじを開発するとの認識であり,同日の営業日報に「新製品の金型手配ドライブYJ-4(パンチ)#2M3ナベM4ナベ各10ヶと試作品…手配する事」(乙2。なお,「YJ-4」は,「ノジドライブ」の型の一つである。)等と記載し,同営業日報は,原告社長に回覧された。。
(ウ)前提となる事実(6)イのとおり,被告は,平成18年1月12日ころ,新製品の開発作業を開始した。同日の営業日報において「ノジドライブYJ-4パンチ#2M3M4ナベの原図を調査の上,新規に図案を作成する」(乙3)等と記載し,同営業日報は原告社長に回覧された。
被告は,同月末ころには,パンチ仕様図を完成させ,金型業者に対し,2種類の食い付き角度による金型を発注した。被告は,同月30日に実施された同年1月度原告技術研究会において,上記検討状況や,新製品の食い付き角度・十字先端部開き形状等を「ノジドライブ」とは異なるものとした旨を報告し,同研究会において,暫定的に商品名を「CRドライブ」とすることが決定された(なお,同原告研究会議事録(甲11)には,被告の確認印の押印はない。)。
(エ)前提となる事実(6)ウのとおり,その後,上記2種類の食い付き角度を有するねじの試作,試験が行われた。平成18年5月29日に実施された同年5月度原告技術研究会では,食い付き角度を2.88度,5.75度の2種類とする「CRドライブ」の試作品がすべて出来上がったこと,業者とドライバビットの製作について打合せが行われたことが報告された(なお,同原告研究会議事録(甲7)には,被告も,確認印を押印し,内容を確認した。)。
(オ)平成18年8月27日に実施された同年8月度原告技術研究会では,試作した各食い付き角度(2.88度,5.75度)の「CRドライブ」と,ビットとの嵌合具合に関する試験の結果が報告され,「CRドライブ」の食い付き角度をJIS規格と同様の5.75度とすること,「CRドライブ」のねじ穴の量産によるバラツキを考慮し,初回に試作した製品に合わせて製作されたドライバビットとの嵌合具合を確認することを目的として,5.75度による仕上げパンチを,再度,金型業者である日発精密工業に発注すること,日発精密工業とは,特許商品のため,機密保持の契約,仕入先業者などの話合いをすること,「CRドライブ」の名称を正規商品名として,商標登録することなどが決定されたが,「CRドライブ」を,特許出願へ向けての具体的な日程については,何ら検討も言及もされなかった(なお,同原告研究会議事録(甲8)には,被告も,確認印を押印し,内容を確認した。)。
ウ「CRドライブ」と本件発明及び被告先行特許の発明との関係(ア)上記被告が開発した「CRドライブ」については,その開発過程で作成された図面が証拠として提出されていないものの,それが本件発明の技術的範囲に属することについて当事者間に特段の争いはなく,また,前提となる事実(8)アによれば,原告は,遅くとも平成20年1月18日には,商品名を「ファーム」とするねじについて,原告のホームページで宣伝広告しているところ,その宣伝広告で「ファームリセス」として示されている図面と本件発明の実施例の図面(甲1の図2)とを対比すると,同一の技術を開示する図面であると理解され,CRドライブは,本件発明の実施品に該当するものと認められる。
(イ)一方,被告先行特許(特許第4220610号)については,その明細書(乙4)に次の記載がある。
「【特許請求の範囲】【請求項1】全体に陥没穴状をなし,ドライバビットの翼部を嵌合される翼係合部を備えた回動部を有するネジにおいて,各翼係合部は,当該ネジ締め付け時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である締付側側壁面と,この締付側側壁面と反対側に位置し,当該ネジ緩め時に前記ドライバビットの前記翼部の回転方向前方に存在することとなる側壁面である緩め側側壁面とを有し,前記締付側側壁面は,当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分と,この基端側部分から,前記緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分とを有してなるネジ。」「【0002】【従来の技術】従来,陥没穴状をなすネジの回動部としては,図1に示される十字穴1が最も一般的に使用されている。このような十字穴1においては,4つの翼係合部(ドライバビットの翼部(羽根部)が係合される部分)2が,ネジ3の径方向に延びている。このような十字穴1を有するネジ3を締め付けたり緩めたりするドライバビット(図示せず)は,十字穴1に対応する形状を有しており,4つの翼部はそれぞれ軸方向からみると,径方向に延びている。
【0003】【発明が解決しようとする課題】前記十字穴1の場合,翼係合部2の両側の側壁面21,22がそれぞれ1つの平面状とされいるため,十字穴1に対してドライバビットが正しくネジ3と同一軸上に挿入されたとしても,翼係合部2とドライバビットの翼部との引っ掛かりが悪いので,ネジ3を回転させようとするとき,所謂カムアウト現象(ドライバビットが回動部1,2から飛び出してしまう現象)を生じ易い。しかもその上,ネジ3に対してドライバビットが傾き易く,そのようにネジ3に対してドライバビットが傾いた状態では,より一層カムアウト現象を生じ易いという問題があった。」「【0008】本発明においては,ネジ回動部の各翼係合部の締付側側壁面が,当該ネジの中心側から外方に向かって延びる平面状の基端側部分と,この基端側部分から,緩め側側壁面から遠ざかる方向に斜めに屈曲された平面状の先端側部分とを有しているので,対応する形状の翼部を有するビットを用いれば,ネジに対してドライバビットが傾きにくくなり,また,翼部の屈曲した側面に,対応する形状に屈曲した翼係合部の側壁面が食い込むので,前記側面が前記側壁面を確実に把握し,翼部と翼係合部との引っ掛かりがよくなるため,ドライバビットがカムアウトしにくくなる。」「【0011】なお,本実施例では,各翼係合部2の緩め側側壁面9並びに締付側側壁面10の基端側部分10bおよび先端側部分10aは,ネジ3の軸方向と平行な平面状とされているが,これらの側壁面9,10は,ドライバビット6の挿入を容易にするために,適当な勾配の傾斜面としてもよい。」(ウ)本件出願の明細書(甲1,2)には次の記載がある。
「【0005】そこで,本出願人は,前に特許文献1において,このような従来の一般的な十字穴の欠点を解消できる回動部を有するねじとして,「全体に陥没穴状をなし,ドライバビットの翼部を嵌合される翼係合部を備えた回動部を有するねじにおいて,各翼係合部の少なくとも片側の側壁面の先端側の部分を,該側壁面の基端側の部分に対し,反対側の側壁面から遠ざかる方向に屈曲した」ねじと,「各翼部の少なくとも片側の側面の先端側の部分を,該側面の基端側の部分に対し,反対側の側面から遠ざかる方向に屈曲した」ドライバビットとを提案した。」「【特許文献1】特開2000-230526号公報」(判決注・被告先行特許の特開番号であり,その公開公報である。)「【発明が解決しようとする課題】【0007】しかしながら,前記本出願人が提案したねじの実施例においては,従来の一般的な十字穴用の標準的なドライバビットを使用すると,一般的な従来技術のレベルから言っても,ねじの締め付けおよび緩め作業を適正に行うことができないという問題があった。
【0008】本発明は,このような従来の事情に鑑みてなされたもので,本発明の1つの目的は,専用のドライバビットを使用すれば,カムアウトが著しく生じにくくなる一方,一般的な十字穴用の標準的なドライバビットを使用しても,ねじの締め付けおよび緩め作業を行うことができ,しかも,専用のドライバビットを使用する場合よりは劣るものの,従来の一般的な十字穴ねじの場合よりもカムアウトを生じにくくすることができるねじを提供することにある。」「【0014】その一方,本発明のねじの回動部は,従来の一般的な十字穴と同様に,中心部と,この中心部から外方へ延びる4つの翼係合部とを有し,各翼係合部は,当該ねじの径方向外方へ延びる基端側部分を有し,翼係合部の基端側部分は等角度間隔で配置されており,前記中心部は,4つの翼係合部の基端側部分間において,当該ねじの軸心に向かって突出するとともに,深くなるほど該中心部が狭くなることとなるように内方に傾斜する内壁面を有する食い付き部を有しているので,専用のドライバビット(第一の本発明のドライバビット)を用いないで,対応する規格の一般的な十字穴用の標準的なドライバビットを使用しても,ねじの締め付けおよび緩め作業を行うことができる。」(エ)以上の被告先行特許の発明の明細書と本件出願の明細書の記載を比較すると,被告先行特許の発明と本件発明は,ねじ穴において,いずれも,翼係合部の先端側部分を反対側部分から遠ざかるように構成することにより,ドライバビットのカムアウトが生じにくくするという発明である点においては共通であり,本件発明は,被告先行特許の発明を基礎とした上で,一般的な十字穴用の標準的なドライバビットを用いても,ねじの締め付け及び緩め作業を行うことができるように被告先行特許の発明を改良したものである。また,乙1の4の1の図面を見ると,左側に,現行仕様として被告先行特許の発明の実施品とみられるねじが,その右側中央に,「溝(α部)喰付き型」として,本件発明と同一内容の技術を示すねじが記載されており,この図面からも,ねじ穴において,本件発明が被告先行特許の発明の改良発明であることがうかがわれる。
また,ドライバビットは,その形状がねじ穴の形状に対応するものであることからすると,ドライバビットについても,本件発明が被告先行特許の発明の改良発明であることがうかがわれるといえる。
このように,本件発明は被告先行特許の発明の改良発明とみることができる。
エ被告の退職の経緯等(ア)前提となる事実(7)アのとおり,平成19年10月ころには,原告と被告間において,被告の退社を前提として,Bに対する貸付金456万円の清算等について話合いがなされ,原告とB間の同月31日付け「確認書」により,原告がBに対して支払うべき「ノジロック」の継続実施使用料未払分をもって充当することを合意した。しかしながら,原告と被告間で,本件発明に関する実施許諾については,何らの協議がされたことを認めるに足りる証拠はない。
(イ)前提となる事実(7)イのとおり,被告は,平成19年11月15日,原告を退職した。
オ特許出願前提となる事実(3)ア,イ,(8)のとおり,被告は,平成19年6月27日及び平成20年5月21日,本件出願(国内出願及び特許協力条約に基づく出願)をし,原告も,平成20年10月10日,本件発明に関連する特許出願をした。
(2)検討ア以上の認定事実を前提に検討する。
(ア)原告は,仮に,本件発明が,被告の原告再入社前に完成しており,職務発明に該当しないとしても,被告は,原告社長から新しい十字穴ねじを開発するよう指示され,あたかも入社後に開発した発明であるとして,本件発明を原告に報告していたものであり,被告が原告の発明考案取扱規定の内容を認識していたことや,被告の業務に対して給与・賞与の支給がされたこと等からすると,あたかも本件発明が完成したと報告した平成18年8月27日には,上記黙示の合意が存在していたと主張する。
確かに,上記認定事実によると,?原告において「CRドライブ」の開発作業が行われた際,被告は,当該新製品の開発に向けた作業を進め,原告社長が出席する原告技術研究会において,順次,作業の状況を報告してきたものであり,平成18年1月度原告技術研究会では,新製品の食い付き角度・十字先端部開き形状等を「ノジドライブ」とは異なるものとした旨を報告していたこと,?同年8月度原告技術研究会においては,新製品である「CRドライブ」の食い付き角度を5.75度とすることや,「CRドライブ」の名称を正規の商品名として商標登録することなどが決定され,新製品の製品化に向けた主要な作業が終了したこと,そして,?この間,上記の一連の原告技術研究会においては,被告から,「CRドライブ」が,被告の原告への再入社前に,既に,被告先行特許の発明に関連して考案し作成した図面に基づいて製作し開発したものであることについては,報告はなく,被告において,「CRドライブ」が,再入社前に既に完成していた乙1の4発明の実施品であることを明らかにしていた様子はうかがわれないこと,また,?被告は,原告を退社する際も,「CRドライブ」を製造販売する原告に対し,本件発明について,自己が保有する発明として,その実施許諾等について協議を申し入れた形跡がないことがそれぞれ認められる。
(イ)しかしながら,他方,上記認定事実によると,被告は,自らが保有する工業所有権については,その登録の有無を問わず,従前から,Bにおいて管理を行っていたものであり,原告に再入社する際も,当該事業については,原告への承継の対象とはしない旨合意していたのであるから(後記イ参照),原告への再入社前に完成していた乙1の4発明(本件発明と同一の発明)についても,基本的には,Bにおいて管理する対象となるものとして認識していたものと認められる。
また,被告は,新製品の開発に関して,被告先行特許の発明に関するパンチの金型を業者に発注しており,原告に対しても,営業日報において,「新製品の金型手配ドライブYJ-4(パンチ)#2M3ナベM4ナベ各10ヶと試作品…手配する事」(乙2),「ノジドライブYJ-4パンチ#2M3M4ナベの原図を調査の上,新規に図案を作成する」(乙3)等と記載し,新製品が,被告先行特許の発明に関連する製品である旨の報告を行っていたものである。これは,被告において,被告先行特許の発明(通称「ノジドライブ」)の実施品の図面を参考として,新製品を開発しようとしていたことを示すものであり,原告においても,本件発明と,被告が保有する被告先行特許の発明の関連性について,認識することが可能であったといえる。さらに,原告は,被告が原告に再入社後の平成17年8月ころに提案した他の新しいねじの発明(甲5)については,原告社長及び被告の出席した同年10月度原告技術研究会において,特許出願を行うことを明確に決定し,その後,同年11月9日には特許出願を行うなど,迅速に対応したのに対し,「CRドライブ」については,平成18年8月度技術研究会において,原告社長及び被告が出席する中,主要な開発作業が終了したにもかかわらず,「CRドライブ」の商標出願を行うことは決定したものの,特許出願については何ら言及がなかったものであり,結局,原告と被告は,それぞれ独自に特許出願を行ったことが認められるところである。
(ウ)以上のような経緯にかんがみれば,上記(ア)の被告の言動から,原告においては,「CRドライブ」が新たな発明の実施品であって,その発明は原告に帰属すべきものであるとの認識が生じていたとは認められるものの,他方,上記(イ)のとおり,被告においては,原告への再入社前に完成し,再入社後も自ら保有すると認識していた本件発明の特許を受ける権利について,これを原告に譲渡する意思を有していたと認めることはできず,原告,被告の間においては,本件発明がいずれに帰属すべきかについて,認識の差があったものということができる。
加えて,原告においても,他のねじの発明(甲5)については,早期に特許出願等の対応を行ったのに対し,本件発明については,平成18年8月27日の時点において,特許出願について何ら言及しなかったこと等からすると,(ア)の認定事実から,同日の時点で,本件発明の特許を受ける権利を被告から原告に譲渡する旨の黙示の譲渡契約が成立していたことを推認することはできないと言わざるをえない。
イ(ア)原告は,被告が給与や賞与の支給を受けていたことを黙示の譲渡契約の根拠として主張するが,かかる支給があったとしても,給与及び賞与は,基本的には,対象期間の労働に対する対価として支払われるものであり,被告の業務に新製品の開発と製品化の作業が含まれるとしても,給与及び賞与の支給により,本件発明の特許を受ける権利の譲渡そのものに対する対価が支払われたと評価することはできないから,原告の上記主張を採用することはできない。
(イ)また,原告は,被告が,原告の職務発明規程を認識していたことを黙示の譲渡契約の根拠として主張するが,被告が,かかる規程の存在及び内容を認識していたとしても,前記2のとおり職務発明には該当しない本件発明の特許を受ける権利に関する被告の上記認識の内容が左右されるものとはいえない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(ウ)さらに,原告は,被告が原告に再入社した際,Bは,その従来からの業務のうち,既に登録が済んでいる工業所有権の管理に関する業務以外は,原告に譲渡したから,登録未了の発明等に関するノウハウについては,原告に移転する旨の合意が成立していたものであり,登録未了の発明である本件発明についても,被告は,原告の製品として開発すべく報告したのであるから,平成18年8月27日には,本件発明の特許を受ける権利を原告に移転する旨の黙示の合意が存在していたと主張する。
しかしながら,被告が再入社する際,原告,被告及びBとの間で,Bは,ねじ等製品の製図・販売業務は原告に承継することとしたが,工業所有権の実施料の管理に関する業務は,Bの業務として留保することが合意されており(甲12の1,13),このことからすれば,当該工業所有権は,原告に承継しないこととされていたと認められる。そして,従前,Bは,特許等の登録の有無を問わず,その保有する技術について実施許諾契約を締結して実施料を取得してきたことからすると,上記原告とB間の合意においては,原告が承継したのは,被告の保有する特許等の実施としてのねじの製造業務であり,工業所有権の実施料に関しては,その登録の有無を問わず,Bが管理する趣旨であり,被告が原告に再入社する前の段階で考案した発明等についても,実施料が発生する可能性があることから,これらについては,原告に承継されなかったと解するのが相当である。したがって,原告の上記主張は採用できない。
ウ以上のとおり,平成18年8月27日の時点において,原告と被告との間に,本件発明の特許を受ける権利を被告から原告に譲渡する旨の黙示の契約があったと推認することはできず,その他,当該契約を認めるに足りる証拠はない。
3争点(3)本件発明の特許を受ける権利の消滅等について被告は,本案前の答弁として本件訴えの却下を求めてはいないが,原告には確認の利益がない旨主張していることから,念のため,この点について判断する。
(1)本件訴えは,原告が,本件発明につき自らに特許を受ける権利が帰属しており,本件出願を行っている被告には,本件発明につき特許を受ける権利が帰属していないと主張して,本件発明につき特許を受ける権利が原告に帰属することの確認を求めるものであるところ,特許庁の運用実務として,出願手続中に,真の権利者が出願名義人を相手方として特許を受ける権利を有する旨の確認判決を取得して,その確定した確認判決をもって特許庁に出願名義人の変更申請をすれば,出願名義の回復を認める取扱いをしていること(顕著な事実)からすれば,原告と被告との間におけるように,その帰属につき争いのある当事者間で特許を受ける権利の確認を求める訴えについては,確認の利益に欠けることはないというべきである。
なお,被告は,原告が,本件出願後に本件発明を公開したことや,本件発明につき特許出願をしたこと等の本件出願後における事情をるる主張するが,いずれも,原告が行った本件発明に係る特許出願につき特許を受けることができるかどうかを問題とするものであって,本件出願に係る本件発明の帰属についての確認の利益に影響するものとは認められない。
(2)したがって,本件訴えについては,確認の利益が認められ,被告の前記主張は,理由がない。
第4結論以上により,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
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