関連審決 |
審判1998-35494
審判1999-35574 審判1998-35412 |
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関連ワード | 方法の発明 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 寄せ集め / 周知技術 / 慣用技術 / 公知技術 / 上位概念 / 下位概念 / 技術常識 / 先行技術 / 着想 / 参酌 / 置き換え / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 交換 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
31号
審決取消請求事件
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原告 株式会社ササクラ 訴訟代理人弁護士 辰野久夫 同 尾崎雅俊 同 藤井司 同 木下慎也 同 畑知成 訴訟代理人弁理士 倉内義朗 被告 ペルメレック電極株式会社 訴訟代理人弁護士 熊倉禎男 同 富岡英次 同 田中伸一郎 同 宮垣聡 同 竹内麻子 訴訟代理人弁理士 西島孝喜 同 平山孝二 同 須田洋之 同 森浩之 同 鈴木敏弘 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/10/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が平成10年審判第35412号,第35494号及び平成11年審判第35574号事件について平成12年12月5日にした審決中「特許第2134417号の請求項2,4,5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「電解オゾンを使用する水処理方法及び装置」とする特許第2134417号の特許(昭和63年9月29日出願(以下「本件出願」という。),平成10年1月16日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は5である。)の特許権者である。 原告は,平成10年9月1日,本件特許をすべての請求項に関して無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,これを平成10年審判第35412号事件として,平成10年審判第35494号及び平成11年審判第35574号事件と併合して審理した。被告は,審理の過程で,平成11年4月12日,請求項の文言の訂正を含む明細書(以下「本件明細書」という。)の訂正を請求した(以下「本件訂正請求」という。)。特許庁は,審理の結果,平成12年12月5日,本件訂正請求を認めなかった上で,「特許第2134417号の請求項1,3に係る発明についての特許を無効とする。特許第2134417号の請求項2,4,5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,同月25日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲 (1) 請求項1 純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ,該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し,分離したオゾン含有ガスを被処理水と接触させ,該被処理水を処理することを特徴とする電解オゾンを使用する水処理方法。 (2) 請求項2 純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ,該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し,分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とした後,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理することを特徴とする水処理方法。 (3) 請求項3 被処理水が流通する被処理水流通部に,純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを生成させる電解オゾナイザーを連結し,該電解オゾナイザーから取り出した前記オゾン含有ガスにより前記被処理水を処理することを特徴とする水処理装置。 (4) 請求項4 分岐された被処理水の一部が流通する被処理水流通部に,純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させる電解オゾナイザーを連結し,該電解オゾナイザーから取り出した前記オゾン含有ガスを前記分岐被処理水に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とし,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理することを特徴とする水処理装置。 (5) 請求項5 被処理水流通部が溶解塔であり,該溶解塔の下部に装着した散気フィルターを通してオゾン含有ガスを前記溶解塔に供給し,該溶解塔中の被処理水と接触させ,所定のオゾン濃度の分岐被処理水を製造するようにした請求項4に記載の装置。 (以下,請求項2の発明を「本件発明2」,請求項4の発明を「本件発明4」,請求項5の発明を「本件発明5」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。このうち,本件に係る部分の理由は,要するに,本件発明2,4及び5は,原告の提出した証拠によっては,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,とするものである。 |
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原告の主張の要旨
審決は,特公昭62-10713号公報(以下「引用例11」という。)に記載された発明(以下「引用発明11」という。)の認定を誤って本件発明2との対比判断を誤り(取消事由1),その結果,本件発明2,4及び5の進歩性を肯定するという誤りを犯したものであり(取消事由2ないし4),これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。 1 取消事由1(引用発明11の認定の誤り・本件発明2との対比判断の誤り) (1) 審決は, 「甲第11号証(判決注・引用例11)には,上位概念的には,被処理水の一部を分岐する「水処理方法」が記載されていると云えるが,その基本的な構成が本件発明2のものと大きく相違するものである。 すなわち,甲第11号証に記載された具体的な「水処理方法」では,被処理水1から分岐被処理水3が分岐され,この分岐被処理水3からさらに2つの分岐被処理水6と7が分岐されるものであり,被処理水の分岐は2回行われているから,本件発明2とその「被処理水の分岐」の点で相違している。 また,オゾンガスの注入の点についても,甲第11号証の「水処理方法」では,分岐被処理水3から分岐した一部の分岐被処理水7にオゾン発生装置からのオゾンガスが注入されるものであり,残りの分岐被処理水6には,充填体処理塔4における気液向流接触によってオゾンガスが注入されるものであるから,本件発明2とこの点でも相違していることは明らかである。」(審決書26頁) と認定判断した。 しかし,引用例11には,本件発明2の構成のうち,「純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ,該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し,」(以下「構成a」という。)を除いた「分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とした後,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理する」との構成(以下「構成b」という。)の水処理方法が,明確に開示されているから,審決の前記引用発明11の認定及び本件発明2との対比判断は誤っている。 (2)ア 構成bのうち,「所定のオゾン濃度の分岐被処理水」とすること(以下「構成b2」という。)を除いた「分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に注入して,分岐被処理水とした後,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理する」との構成(以下「構成b1」という。)は,引用例11にある従来技術についての記載,すなわち,先行技術として挙げられた西独国公開公報2556328(以下「甲6文献」という。)の内容である, 「処理される水の部分流が充填体処理塔内でオゾン-酸素-混合物と接触される。充填体処理塔内では殆ど全部のオゾン並びに酸素の1部が水中に溶解される。溶解されない酸素は塔の頂部から引出されてオゾン発生装置に導入される。 大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流は処理塔の脚部にて引出され,処理される水量と混合される。廃水の処理の為には又全水量が同時に吸収室及び反応室となされている塔を経て推進される。塔を経て導かれる水量は全体の処理される水量のオゾン及び酸素要求量に応じて調整される。」(引用例11・2頁3欄)(以下「記載A」という。) との記載中の「処理される水の部分流が充填体処理塔内でオゾン-酸素-混合物と接触される。充填体処理塔内では殆ど全部のオゾン並びに酸素の1部が水中に溶解される」,「大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流は処理塔の脚部にて引出され,処理される水量と混合される。」において,明確に示されている。 イ 引用発明11は,被処理水を1回分岐させる従来の水処理技術を前提として,部分流(分岐被処理水)3からさらに分岐した部分流(再分岐被処理水)7にオゾン-酸素-混合物(オゾン含有ガス)を吸引させて充填体処理塔(溶解塔)4に導き,再分岐被処理水7に溶解しなかったオゾン含有ガスを再分岐させなかった部分流(分岐被処理水)6と接触させて溶解させ,溶解塔4の脚部に所定量のオゾンが溶解した分岐被処理水(導管15を通るオゾンを含んだ水)として調製する発明であって,オゾン含有ガスを再分岐被処理水7を介して溶解塔4に注入する方法に改良することによって,再分岐させずに直接的に溶解塔に注入する上記従来技術に比して溶解塔の理論的床部(容量)を小さくでき,しかも殆ど全部のオゾンを溶解させることができる(引用例11の3頁6欄参照)という効果を達成するものである。 すなわち,引用発明11は,従来あった1回分岐の水処理技術におけるオゾン利用率の向上,装置の小型化をなしたものであって,その従来技術と同様,被処理水を分岐してこれをオゾン含有ガスと接触させてオゾン含有水とし,これを分岐していない被処理水と混合して被処理水の全量をオゾン処理する,という従来の水処理方法を当然の前提としたものである。この従来の水処理方法は,構成b1にほかならない。 ウ 上記のとおり,当業者であれば,引用例11における従来技術の内容についての記載からだけでも,分岐被処理水に相当する部分流の具体的な分岐及び経路の構成を十分理解することができることは明らかであるが,さらに,甲6文献やこれに対応する日本出願に関するものと思われる特開昭52-73542号公報(以下「甲4文献」という。)を参照すれば,引用例11が,本件発明2の構成b1の構成を示すものであることは容易に判明するといえる。 エ したがって,引用発明11は,本件発明2の構成b1を備えているものである。 (3) 構成b2について ア 記載Aの「塔を経て導かれる水量は全体の処理される水量のオゾン及び酸素要求量に応じて調整される。」との記載から明らかなように,全被処理水を所定のオゾン濃度にすることは,引用例11に開示されている。 記載Aの「大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流」は,本件発明2の「所定のオゾン濃度の分岐被処理水」と同じである。 イ そもそも本件発明2は,被処理水中の不純物の酸化処理を目的とするものであり,オゾンを含有させられた被処理水が反応タンクに供給され,そこで水中の不純物とオゾンとが反応することによって完了する水処理である。そして,全被処理水中の不純物の酸化に必要なオゾン量と,おそらく自然分解してしまうオゾン量との合計が所要オゾン量となり,それを分岐被処理水あたりに換算すれば,分岐被処理水における所要濃度となるという前提のもとに,「所定のオゾン濃度の分岐被処理水」とすることが構成要件になっているとみるべきである。 換言すれば,この「所定濃度」とは,必ずしも一定濃度というわけではなく,むしろ所定量のオゾンを溶解させた所定量の分岐被処理水であるときの濃度,という程度の意味と解釈すべきである。 したがって,所定のオゾン濃度とする,との表現が引用例11に現れていないからといって,引用例11に記載された発明と本件発明2とは別異の技術であるとする理由はない。 ウ 以上のとおり,引用例11には,本件発明2の構成b2も開示されている。 (4) 以上のとおりであるから,引用例11には,本件発明2の構成bである「分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とした後,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理する」水処理方法の発明が,明確に開示されている。 2 取消事由2(本件発明2の進歩性の判断の誤り) (1) 審決は,本件発明2の進歩性について, 「甲第1〜3,6及び16号証には,電解オゾンやその用途等に関する記載はあるものの,「被処理水の一部をいったん分岐する」ことや「所定のオゾン濃度の分岐被処理水を調製する」こと,さらにはこの「所定のオゾン濃度の分岐被処理水を混合して分岐させていない被処理水を処理する」ことについて何ら示唆するところがない。 また,甲第4,5号証,甲第7〜11号証及び甲第12,17号証も「電解オゾン」に関するものではなく,本件発明2の上記構成要件を示唆するものではない。 さらに,資料1〜6も,本件発明2の上記「所定のオゾン濃度の分岐被処理水」等の構成要件を何ら示唆するものではない。 してみると,本件発明2は,上記証拠方法の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。」(審決書25頁〜26頁) と判断している。 (2) しかし,本件発明2は,本件出願前に周知であった,電解法によるオゾン発生の技術及び分岐処理に係る技術において,一方の技術の一部を他の周知技術で置換したものか,両者を単に組合せたものにすぎない。 すなわち,(3)以降において述べるとおり,本件発明2は,引用例11などに開示された分岐処理の水処理技術と,「第114回 三e技研セミナー講演集 オゾナイザー技術の進歩とその応用」(昭和62年・三e書房刊)(以下「引用例2」という。)などに開示された電解法オゾン発生の構成とを,単に組み合わせたものに過ぎない。 また,本件発明2によって得られる効果も,上記引用例等に開示された各構成によって得られる個々の公知の効果を単に寄せ集めたものであって,当業者が予測できないようなものではないから,本件発明2は進歩性のないものである。 (3) 本件発明2の構成a「純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ,該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離」することは,審決が認定するように引用例2に開示されている。 (4) 本件発明2の構成b「分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とした後,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理する」は,前記のとおり,引用例11に開示されている。 (5) 引用例2に記載された発明と引用例11に記載された発明は,いずれも「オゾンを使用した水処理」といった同じ技術分野に属しており,両者を組み合わせる動機付けが存在し,それらを組み合わせることを阻むような特段の技術的困難はない。しかも,両者を組み合わせることによる顕著な作用効果もない。 ア 動機付けの点 (ア) オゾン含有ガスのオゾン濃度の観点 引用例11では,空気を原料とするオゾン発生装置により発生させたオゾン濃度が低い(1〜2重量%)という問題が指摘され,さらに酸素原料の効用(高濃度のオゾン含有ガスが得られること)を説明した後,「併しこの場合,オゾンが費用を要しないで入手出来る空気から得られるのでなく,酸素から得られる点が不利である。」(1頁2欄),ということが指摘されている。 他方,引用例2に,「少量の純水を原料としてオゾンを発生させる点が最大の特徴である」(50頁),「従来の常識をはるかに越える超高濃度のオゾンガスが発生」(同頁),及び「オゾン濃度約13wt%」(53頁表-1)と記載されているとおり,電解法においても高濃度オゾン含有ガスが得られることが知られている。 特に分岐処理においては,全被処理水を処理するのに必要な量のオゾンを分岐被処理水,すなわち,全被処理水より少ない量の被処理水に,まず溶解させる必要があるため,分岐被処理水は,比較的高濃度のオゾン水としなくてはならない。したがって,高濃度である電解法によるオゾン含有ガスは,分岐処理に適しているということができる。 以上からは,酸素を使用した放電法オゾン発生装置を用い,分岐処理によりオゾン処理を行う引用例11や甲4文献に記載された水処理技術において,放電法によるオゾン発生装置に代えて,高濃度のオゾン含有ガスが得られることが知られた電解法によるオゾン発生装置を用いる動機があることは明白である。 (イ) オゾンに含有される不純物の観点 固体高分子電解質法を利用した電解プラントの技術を示す甲第3号証の4には,「電解槽を出たオゾンと水の混合物は冷却されそして液は分離され,そして液は分離され循環水ループの構成部品から取り込まれる可能性のある金属イオンを除去する脱イオン装置を通って電解槽入り口に再循環される」(396頁)と,電解槽を出たオゾンと水の混合物に関する問題点の記載がある。また,電解式オゾン発生装置を紹介する甲第3号証の5には,「二酸化鉛は酸液の中では高い陽極電流において腐食することが知られている」(369頁左欄)との記載がある。 このように電解法による電解槽を出たオゾンと水の混合物は,不純物を含むという問題があることが指摘されているのであるから,このような知見をもって,引用例2の「従来の放電法によるオゾナイザーにおいては,電極が高電圧の電子によってたたかれるためにフィルターでは取り除くことのできないヒューム状の電極構成材料の微粒子が混入する」(50頁〜51頁)のに対し,電解法のオゾナイザーでは「半導体グレードのガス純度が得られている」(51頁)との記載及びオゾンの純度を示す表-2(55頁)を当業者がみれば,特に高い純度のオゾン水を得ようとする場合,電解槽からの水(オゾン水)をそのまま利用するのではなく,そこからオゾン含有ガスを取り出し,それを水に溶解させてオゾン水を生成するという構成を採用する十分な動機となることは明白である。 イ 顕著な作用効果がない点 本件発明2の効果は,単に構成aの効果と構成bの効果を寄せ集めたもの,すなわち,引用発明11及び引用例2の技術の各構成によって得られる個々の公知の効果を単に寄せ集めたものであって,当業者が予測できないようなものではない。 すなわち,電解法オゾン含有ガスを用いた効果は引用例2に記載されており,被処理水を分岐することによる効果,すなわち,オゾン含有ガスを被処理水と接触させる装置を小型化できることも本件出願当時の技術常識であって,放電法,電解法のいずれを問わず普遍的に当てはまるものである。 3 取消事由3(本件発明4に進歩性があるとした判断の誤り) 本件発明4は,本件発明2の水処理方法を実施するための「水処理装置」であって,その構成要件に変わりはないから,上記と同じ理由で,本件発明4の進歩性を肯定した審決の認定判断も誤りである。 4 取消事由4(本件発明5に進歩性があるとした判断の誤り) 本件発明5は,本件発明4に従属するものであるから,本件発明5に関する審決の認定判断も本件発明4と同じ理由で誤りである。 |
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被告の主張の要旨
1 取消事由1(引用発明11の認定の誤り・本件発明2との対比判断の誤り)に対して (1) 構成b1について ア 引用例11の記載Aによっては,「部分流」の具体的な分岐,経路の構成が明らかでなく,これが1回分岐の公知例の構成を開示しているか否かは全く不明である(甲6文献及び甲4文献を参酌しても,部分流の経路の構成が,引用発明11のそれと異なるものであることが窺われるに過ぎない。)。引用例11の実施例の説明として,「この部分流3は又原料水1から分岐されることも出来る」(3頁5欄)と記載されているが,その場合の具体的構成が全く記載されておらず,当業者としては,そのような構成を採用しながら引用発明11の目的を達成する具体的な構成を着想することができないから,そのような構成の発明が開示されているということはできない。 イ 引用発明11も甲4文献記載の技術も,オゾンによる処理済みの水を再度部分流として分岐して,溶解しきれなかった酸素を放電法によるオゾン発生装置に供給して再利用しながら,高い圧力に調整して,オゾンの水への溶解を容易にさせ,また,放電法によるオゾンの製造に障害となる窒素の上昇を抑制するものである。そして,引用発明11は,放電法に特に必要とされる,水に溶解し切れなかった酸素の再利用,窒素ガス量の抑制,加圧下でのオゾンの酸素への溶解という甲4文献においても解決が試みられていた課題について,より有効な解決手段を提供するために,分岐及び被処理水の循環経路をより複雑な構成としたものである。 引用発明11が上記のような構成を有するのは,放電法によるオゾン生成方法を採用しているためである。すなわち,放電法では,濃度の高いオゾンを得ることが困難であるという課題があり,この課題を解決する必要のため,更にオゾンを溶解させる方法について,被処理水の分岐回数を複数とすること及びオゾンガスを水に溶解させるための特別な方法・構成(分岐被処理水の加圧,充填処理塔における気液向流接触,酸素の回収と再利用)を採用したものである。 したがって,引用発明11が,分岐という上位概念において本件発明2と同じであるとしても,引用発明11においては,放電法における上記のような課題等を解決する必要に基づいて,その分岐及びその他の構成が一体となった,それらの具体的な構成を必須とする発明が開示されているものである。 ウ 引用例11及び甲4文献に記載された発明は,オゾンによる水処理前の被処理水を分岐するものではなく,オゾンによる水処理後の浄化水を分岐するものであり,この点で本件発明2と異なる。 引用例11や甲4文献が,酸素の循環と再利用の必要性を繰り返し述べていること,「部分流水の窒素含量に代えて塔からガス状放出されて来るガス混合物の酸素含量も取上げることができる」(甲第4号証3頁右下欄)と記載していること,ほかに後処理装置の下流から分岐する理由が見当たらないことなどからみても,上記のような分岐の構成が,酸素の再利用のためであり,放電法により製造されたオゾン-酸素-混合気体を使用する場合に特有な必要性から生じたものであることは疑いがない。 オゾンによる水処理前の被処理水を分岐したのでは,部分流に随伴する酸素の再利用という目的を達成することができない以上,引用発明11において,本件発明2のような構成(処理前の被処理水の分岐)が開示されているということはできない。 エ 以上のとおり,引用発明11や甲4文献の技術が,分岐という上位概念を示すとしても,それらは,放電法により製造されたオゾンガスを使用した水処理に固有の必要性を満たすために部分流を分岐しているものであり,分岐の具体的構成も,部分流(分岐被処理水)3から分岐した一部の分岐被処理水7にオゾン発生装置からのオゾンガスが注入され,残りの分岐被処理水6には,充填体処理塔4における気液向流接触によってオゾンガスが注入されるものであること,オゾンによる水処理後の浄化水を分岐するものであることなどを必要とするものであるから,引用発明11が本件発明2の構成b1を備えているとはいえない。 (2) 構成b2について ア 引用例11には,部分流自体を「所定のオゾン濃度」とすることは全く開示されていない。 記載A中の「塔を経て導かれる水量は全体の処理される水量のオゾン及び酸素要求量に応じて調整される」との記載において,調整される対象は,あくまで「塔を経て導かれる水量」であり,「分岐被処理水のオゾン濃度」ではない。 引用例11は,全被処理水に対するオゾン,酸素要求量に応じて,充填体処理塔から導かれる水量を調整するというものであり,充填体処理塔から全体の被処理水へ導入される水量を多く又は少なくすることによって,全体の被処理水に供給されるオゾンの量を増加又は減少させることができるから,せいぜい,全体の被処理水の量が多い場合,あるいは,汚染の程度が大きい場合に,充填体処理塔から全体の被処理水へ導入される水量を相対的に増加させるという程度の調整をすることを開示しているに過ぎない。 イ もともと,引用発明11及び甲4文献の技術は,いずれも放電法によるオゾン-酸素-混合物をオゾンの材料として使用しているものであり,オゾン濃度が希薄であるという放電法の問題点を具備しているため,何度も繰り返してオゾンの溶解と原料水への混合を行うことが必要となるから,被処理水を所定のオゾン濃度とすること自体には,さして意味がない。 ウ 放電法によるオゾン発生装置を用いる場合,被処理水を分岐処理し処理後の酸素ガスを再利用しようとすると,処理工程で発生した窒素ガスが適正範囲を越えて,オゾンの発生効率が低下するという,放電方式の発生器に特有の問題があり,引用発明11も,窒素ガスの濃度を一定に保つことを発明の課題として記載している。このことから,引用発明11において,水質(窒素の含有量等)が変動すると,部分流の窒素の含有量等が変動するから,放電オゾン発生器では所定の濃度のオゾン水を調製することが本質的に困難となるのである。敷衍すると,オゾンを所定の濃度にするために,圧力を変動させると(圧力を高めると,溶解濃度が高くなる関係にある。),共存する酸素,窒素の溶解量も増加するため,窒素の溶解量も圧力変化により変動し,オゾン発生器の効率を不安定にする要因となってしまうのである。 したがって,引用発明11においては,オゾンの溶解量を調整して所定のオゾン濃度にすることは困難であり,これを犠牲とせざるを得ないのである。 エ 以上のとおり,引用発明11は本件発明2の構成b2を備えているということはできない。 2 取消事由2(本件発明2の進歩性の判断の誤り)に対して (1) 引用発明11は,放電法によるオゾン-酸素-混合物を使用するための特殊なものであり,本質的に電解オゾン発生に関する技術と異なるものである。 1において述べたとおり,引用発明11は,放電法によるオゾンガスの特性(濃度が低い,溶解しにくい等)を前提とし,繰り返し被処理水に接触させる特異な装置を開示するものであり,かかる特異な構成を持つ放電オゾンガス発生装置を,電解法のオゾン発生装置に置き換える動機は存在しない。 (2)ア 引用例11は放電以外の方法を採用するオゾン発生装置を使用し得るとの開示も示唆も一切ないから,電解法に特有の,陽極液の汚染防止等の技術的問題の示唆を見出すことは不可能である。 本件発明2は,電解法における上記の技術的問題を克服するために,電解法を採用する一方であえて陽極液を直接使用することをせず,オゾンの陽極液からの分離・水への再溶解という構成を採用したものであるから,そのような従来技術に対する問題意識がなければ,電解法を採用しても,陽極液をそのまま使用せず,そこからオゾン含有ガスを分離して取り出すという,本件発明2の構成には想到し得ない。 イ 引用発明11における部分流への分岐という構成は,放電法により製造されたオゾン含有ガスを充填体処理塔中において気液向流接触により被処理水に溶解させること,オゾンを溶解させる水を加圧する必要性があること,残余の酸素を再利用することと密接な関係があるものということができる。つまり,処理の対象となっている水全量を加圧し,充填塔において噴出してオゾン含有ガスと接触させようとすると,そのための装置が大きくなり,回収できる酸素量も少なくなり,費用も高くなることは明らかであるから,それを解決するために,被処理水全体を処理するのではなく,部分流を分岐させる構成に想到し,引用発明11を考案したと推測するのが合理的である。すなわち,引用発明11は,放電法により生成されたオゾン含有ガスを使用する水処理に固有の必要性を満たすために,部分流を分岐しているものである。 したがって,放電法によるオゾンガス発生装置を使用するために特有な加圧機構,気液向流接触方式による充填塔,酸素回収機構と密接不可分の部分流への分岐の構成に,電解法によるオゾン製造装置を適用しようとすることは,凡そ当業者の技術的常識に反するものであり,両者を組み合わせることには明確な障害があるというべきである。 ウ 仮に放電法に代え電解法を採用するとしても,電解法ではオゾンはまずオゾンが溶解した陽極液として得られるのであるから,オゾンが溶解した水を利用するのであれば,陽極液をそのまま使用するのが自然である。 そうすると,引用例2を参酌しても,オゾン含有ガスを陽極液からわざわざ分離して取り出すという構成に容易に想到できるものではない。 (3) 本件発明2の顕著な作用効果について ア 本件発明2は,本件明細書の「発明の効果」の項に列挙した作用効果のほか,分岐により「処理装置が複雑になる反面,例えば溶解塔等を使用して分枝被処理水に十分オゾンを溶解させた後,被処理水全体を処理することができるためオゾンを有効に使用することができる。」(本件明細書2頁4欄〜3頁5欄),「液流量を減少させガス流量を多くすると高濃度水を得ることができるが溶解効率は低下し排オゾン量が増加する。溶解効率を上昇させるためには接触時間を長くすることが必要であり,・・・又温度が低いほど・・・比較的高濃度の所望濃度のオゾンが溶解した分枝被処理水を調製することができる。」(同3頁5欄)という効果を有する。 すなわち,本件発明2の構成により,@被処理水に十分オゾンを溶解させ,A高濃度にいたる所望のオゾン濃度の分岐被処理水を調製でき,Bオゾンを有効に使用できるという顕著な効果がある。 イ また,本件明細書中に明確には記載されていないものの,本件発明2は,陽極液からオゾンガスを気液分離し,これを被処理水に注入するから,被処理水の圧力が変動すると,発生するオゾンガスを介して間接的に陽極室の圧力に影響を与えるものである。しかし,被処理水を分岐することにより,この陽極室の圧力変動を容易に避けることができ,電解槽の陽極室の内圧を供給純水の圧変動にかかわらず長期間にわたって安定させるという作用効果をより十分に奏することができる。 さらに,本件発明2においては,純水を電解し気液分離した湿潤オゾンガスを使用するので部分流に大きな加圧をする必要もなく,また,被処理水の窒素含有量に影響されることもなく,所望の濃度のオゾン水を容易に得ることができる。この点について出願前に開示又は示唆した公知技術は存在しない。 (4) 以上のとおり,引用発明11に引用例2記載の技術を組み合わせることは,当業者であれば容易になし得るとの原告の主張には合理的な根拠が存在しない。 また,仮にそのような組み合わせをしたとしても,引用発明11において採用されている技術は本件発明2の構成と本質的に異なるため,本件発明2に到達するものではない 3 取消事由3(本件発明4に進歩性があるとした判断の誤り)に対して 本件発明4は,本件発明2の水処理方法を実施することのできる「水処理装置」であって,その主要な構成要件に変わりはない。したがって,本件発明2について上記に述べてきたと同じ理由により,本件発明4についての審決の判断に誤りはない。 4 取消事由4(本件発明5に進歩性があるとした判断の誤り)に対して 本件発明5は,本件発明4をさらに限定した発明である。したがって,3と同じ理由により,本件発明5についての審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明11の認定の誤り・本件発明との対比判断の誤り)について (1) 引用例11における構成b1の開示の有無について ア 引用例11には,「望ましくない水中含有物質を酸化する為及びこのような物質の凝集沈降を良好にする為に,水の少なくとも1つの部分流がオゾンによつて処理される如き水処理,特に飲料水製造及び廃水浄化方法」(甲第3号証の11の1頁1欄〜2欄)の技術が記載され,従来技術として,「・・・本発明は上述の如き方法から出発したものである。上述の如き方法は西独国公開公報2556328によつて公知である」(同2頁3欄)とした上で,その内容について,記載A,すなわち, 「処理される水の部分流が充填体処理塔内でオゾン-酸素-混合物と接触される。充填体処理塔内では殆ど全部のオゾン並びに酸素の1部が水中に溶解される。溶解されない酸素は塔の頂部から引出されてオゾン発生装置に導入される。 大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流は処理塔の脚部にて引出され,処理される水量と混合される。廃水の処理の為には又全水量が同時に吸収室及び反応室となされている塔を経て推進される。塔を経て導かれる水量は全体の処理される水量のオゾン及び酸素要求量に応じて調整される。」(同2頁3欄) と記載されており,この水処理方法は,引用発明11において前提とされている従来技術である。 イ この記載A中の「処理される水の部分流が充填体処理塔内でオゾン-酸素-混合物と接触される。充填体処理塔内では殆ど全部のオゾン並びに酸素の1部が水中に溶解される。溶解されない酸素は塔の頂部から引出されてオゾン発生装置に導入される。大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流は処理塔の脚部にて引出され,処理される水量と混合される。」(以下「記載A1」という。)の「処理される水の部分流」について,引用例11には,その具体例として「浄化水2からは部分流3が分岐され」(甲第3号証の11の3頁5欄)と記載され,また,その図面(同4頁)には,原料水1にオゾン水を混合した後の浄水2から部分流3が分岐されることが図示されており,この「処理される水の部分流」が,オゾン水を混合した後の水(既処理水)として説明されている部分がある。 しかし,これらの記載等は引用発明11の一つの具体例として示されたものに過ぎず,引用例11には,「図面上にて水の流れの方向は個々に詳細には示されていない矢印によつて示されている。装置内に流入する原料水は符号1により示され,装置を出て行く浄化水は符号2によつて示されている。浄化水2からは部分流3が分岐され,この部分流内には充填体処理塔4内でオゾン及び酸素が溶解される。この部分流3は又原料水1から分岐されることも出来る。」(甲第3号証の11の3頁5欄) として,分岐は,原料水と浄化水(既処理水)のいずれからでも実施できることが記載されているのである。 そして,原料水から部分流を分岐しても,記載A1の水処理は技術的に可能であると認められる。なぜなら,記載A1において「充填体処理塔内では殆ど全部のオゾン並びに酸素の1部が水中に溶解される。溶解されない酸素は塔の頂部から引出されてオゾン発生装置に導入される。」とされているとおり,引用発明11は,充填体処理塔内で部分流に溶解されない酸素を充填体処理塔の頭部から取り出して回収し,オゾン製造装置において利用しているのであるが,部分流を既処理水から分岐しようと原料水から分岐しようと,いずれの方法をとったとしても,溶かしきれなかった酸素を充填体処理塔の頂部から回収できることは明らかだからである。 ウ したがって,記載A1における「処理される水の部分流」は,本件発明2における「分岐した被処理水の一部」と同じ(正確には,本件発明2と同じものを含む。)ものであると認められる。 そして,記載A1における「オゾン-酸素-混合物」は本件発明2の「オゾン含有ガス」に,「大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流」は本件発明2の「オゾン含有ガスを注入」した「分岐被処理水」(本件発明2の「注入」とは,特許請求の範囲の文言からすれば,何らかの操作を伴って,「オゾン含有ガス」を水に接触させる操作をいうものと解すべきであり,記載A1においてもそのような操作があることは明らかである。)に,それぞれ相当する,ということができ,また,その部分流は「処理される水量と混合される」のであるから,これは本件発明2の「分岐させていない被処理水と混合する」ことに相当するということができる。 そうすると,記載A1は,「分岐した被処理水の一部が充填体処理塔内でオゾン含有ガスと接触される。充填体処理塔内では殆ど全部のオゾン並びに酸素の一部が水中に溶解される。溶解されない酸素は塔の頂部から引出されてオゾン発生装置に導入される。オゾン含有ガスを注入した分岐被処理水は処理塔の脚部にて引出され,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合する」と言い換えることができ,これは,構成b1を含むものである。 エ 被告は,引用例11の「この部分流3は又原料水1から分岐されることも出来る」との記載からは,部分流の具体的な分岐,経路の構成が不明である,と主張する。しかし,この記載の前段,すなわち,「図面上にて水の流れの方向は個々に詳細には示されていない矢印によつて示されている。装置内に流入する原料水は符号1により示され,装置を出て行く浄化水は符号2によって示されている。浄化水2からは部分流3が分岐され,この部分流内には充填体処理塔4内でオゾン及び酸素が溶解される。」から続けて読めば,既処理水からでも原料水からでも分岐して充填塔に導入すれば足りることは理解でき,その構成も明らかである。すなわち,例えば,反応段16の上流から分岐するものと理解できる。 オ 被告は,引用発明11や甲4文献記載の技術における分岐の構成は,酸素の再利用のためであり,オゾンによる水処理前の被処理水を分岐したのでは,部分流に随伴する酸素の再利用という目的が達成できなくなるから,処理前の被処理水分岐を採用することはできず,記載A1における「処理される水の部分流」は,本件発明2の「分岐した被処理水の一部」に相当するものではない,と主張する。 被告のこの主張は,引用例11や甲4文献に記載された水処理技術における酸素の再利用が,処理済の被処理水に同伴される溶解し切れなかった酸素を,処理済の被処理水の一部を分岐して充填物溶解塔に導き,その頂部で分離して取り出し,オゾン発生装置に送るという構成によるものであるとの解釈に基づくものである。しかし,甲4文献や引用例11には,被告が主張するような構成は全く記載されていないし,そのような解釈をする根拠となり得る記載も認められない。 例えば,甲4文献(甲第4号証)には, 「・・・当該処理ずみ水の部分流を充填物塔の中でオゾン発生器からの酸素-オゾン混合物に接触させながら圧力下にオゾンを吸収せしめその後でこの部分流を処理されるべき水と混合させその場合充填物中で水に溶かされなかつた酸素は循環酸素としてオゾン発生器に送還されるといつた水処理の方法」(3頁左上欄), 「充填物塔(7)中で消費されなかつた酸素は循環酸素(11)として該塔を頂上部で立去り乾燥機(8)を貫流してから圧低下装置(9)によつてオゾン発生器(10)向けに差支えない圧へ下げられる。この循環酸素(11)は,オゾン消費による損失並びに部分流(3)中の酸素溶解を埋め合わすために追加酸素(12)によつて補充される」(同頁左下欄) との記載がある。すなわち,甲4文献に記載された水処理技術では,循環利用される酸素は,処理済の被処理水から分岐された部分流中に存在する酸素ではなく,あくまで,充填物塔に下部からオゾン-酸素混合物として供給されたが部分流に吸収されず,その上部に至った酸素である。 また,引用例11(甲第3号証の11)についてみると, 「水噴流-ガス圧縮機内で吸引されたオゾンの1部は部分流7の水中に溶解される。残余の量はガスとして充填体処理塔4内を上昇し,部分流6の水中に溶解される。 溶解されない酸素は導管11を通つて充填体処理塔4の頭部を出て行く。」(3頁5欄〜6欄) との記載がある。この記載からすれば,引用例11に記載された水処理技術においても,再利用される酸素は,部分流7に溶解されなかった残余のオゾン含有ガスとともに充填体処理塔4の下部に供給され,該処理塔4内を上昇し,上部から導入された部分流6と気液向流接触し,部分流6に溶解されなかった酸素で,該処理塔4の頭部から取り出されたものであって,充填体処理塔4の頭部へ供給される部分流6に含まれる未溶解の酸素が,該処理塔4の頭部で分離され取り出されるものでないことは明らかである。 したがって,甲4文献及び引用例11に開示された酸素の再利用に関する被告の解釈は,採用できない。引用発明11において,処理済みの浄水から部分流を分岐する構成が必須のものであるという前提が成り立たない以上,被告の主張は採用できない。 カ 被告は,引用例11には,放電法における高濃度のオゾンを得ることの困難性という課題を解決する必要のために,分岐の具体的な構成において,@被処理水の分岐回数(特に2回目の分岐を行うこと)及びAオゾンガスを水に溶解させるための特別な方法,構成(分岐被処理水の加圧,充填処理塔における気液向流接触,酸素の回収と再利用)を必須とする発明が開示されている旨主張する。 しかし,引用発明11において,上記@,Aの構成と分岐の構成は,不可分一体のものということはできない。 (ア) 分岐回数について 記載A1において,仮に酸素回収についての構成を省略すると,「分岐した被処理水の一部が充填体処理塔内でオゾン含有ガスと接触される。充填体処理塔内では殆ど全部のオゾン並びに酸素の1部が水中に溶解される。・・・オゾンを溶解した分岐被処理水は処理塔の脚部にて引出され,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合する」となり,1回の分岐による水処理技術が開示されているといえる。 引用発明11において,分岐回数を従来技術より増やして,従来技術を改良した目的は,「本発明による方法の利点は先ず投資費用の低減にある。何故ならば,水噴流-ガス圧縮機が封止及び作動水の高価な制御装置を有する水封止圧縮機よりも本質的に安価であるからである。・・・併し驚くべきことにはオゾン吸収の為の充填体処理塔の投資費用も低減されるのである。・・・ガス圧縮の圧力も1つの装置即ち磨耗の小さい水ポンプのみによって発生されるのである。・・・このポンプさえも節約され得る。」(甲第3号証の11の2頁4欄〜5欄)というものである。すなわち,経済面からの理由であって,2回分岐の構成がなければ,技術的に成り立たないというものとは認められない。 (イ) 気液の接触装置,加圧接触について 水に対するオゾンの溶解量は加圧することにより大きくなるため,気液接触を加圧下で行うことは,オゾンを水に効率よく溶解させるために採用される,慣用の技術である(甲第3号証の12「改訂二版 用水廃水便覧」用水廃水便覧編集委員会編の389頁・図3-201,甲第9号証の図1-4参照)。 また,記載A1は「充填体処理塔内でオゾン-酸素混合物と接触される。・・・溶解されない酸素は塔の頂部から引出されてオゾン発生装置に導入される。」,「オゾンを含ませられた廃水の部分流は処理塔の脚部にて引出され」というものであるから,引用例11は,気液接触装置として向流型充填体処理塔を使用することを開示している。 オゾンガスによる水処理における気液接触装置について,並流型(装置下部から処理水が流入する)も向流型(装置上部から処理水が流入する)も共に用いられているものであること,一般に向流型の方が吸収効率がよいこと,吸収率を上げるため接触槽内にラシヒリングなどのパッキングを充填することは,いずれも慣用技術であり(甲第3号証の12の390頁),向流型充填体処理塔は良好なオゾンの吸収のために採用される慣用のものであると認められる。この技術常識によれば,記載A1の水処理技術における向流型充填体処理塔も,良好なオゾンの吸収のために採用されたものであると認められる。 このように,引用発明11における気液の接触装置及び加圧条件は,いずれもオゾンの水への吸収量を向上させるために適宜採用される慣用の手段を採用したものに過ぎないと認められ,これらの気液接触装置及び加圧条件が,引用発明11の他の構成,すなわち分岐の構成と不可分に結びついているとはいえない。 (ウ) オゾン濃度の点について 被告の主張は,放電法では濃度の高いオゾンを得ることが困難であることから,引用発明11は,更にオゾンを溶解させる方法として特別の方法・構成を必須のものとして採用したものであるというものである。 引用例11や,その従来技術に関する甲4文献においては,オゾン発生装置の具体的な構成は明らかでないものの,酸素からオゾンを得る等の記載から,放電法を採用するものである,と一応認めることができる。 しかし,放電法においても,原料酸素を空気より高濃度の酸素含有ガスとすれば「通常4重量%(以上)」(甲第4号証2頁左上欄),最高で「6〜8wt%」(甲第9号証506頁左欄)という,空気原料の場合(通常1〜2重量%・甲第3号証の11の1頁右欄)に比し高濃度オゾン含有ガスが得られるのである(引用発明11は,酸素を回収してオゾン発生装置に送るのであるから,空気より高濃度の酸素含有ガスを使用することは明らかである。)。 したがって,高濃度の酸素含有ガスを原料とする放電法を採用する引用発明11や,その従来技術である甲4文献の技術において,生成されるオゾン含有ガスのオゾン濃度が希薄であるとは必ずしもいえないのであり,被告の主張は,その前提において疑問があるといわなければならず,他に,高濃度の酸素含有ガスを原料とする放電法を使用する場合において,引用発明11の装置ないし条件でなければ所期の水処理が実施できないものであると認めるべき根拠は見当たらない。 (エ) 酸素の回収・再利用について 引用例11の「オゾンが費用を要しないで入手出来る空気から得られるのでなく,酸素から得られる点が不利である。従つてオゾン-酸素-混合物内に含有される酸素が失われないで,何等かの形で再び利用出来るような上述の種類の方法のみしか経済的に作動しないのである。」(甲第3号証の11の1頁2欄〜2頁3欄)との記載からすれば,引用発明11においては,高濃度の酸素含有ガスを原料とする放電法によるオゾン含有ガスを使用する場合に,空気を原料とする放電法に経済的に対抗する目的で,溶解し切れなかった酸素を再利用しているに過ぎず,高濃度の酸素含有ガスを原料とする放電法において,酸素の回収・再利用が技術的に必須のものであるということはできない。 (オ) 以上のとおりであるから,引用発明11において,分岐とその他の構成が不可分に結びついており,分岐の構成だけを残して他の構成を変更することが不可能であるようなものである,とは認められない。 キ 以上からすると,記載A1には,「分岐した被処理水の一部がオゾン含有ガスと気液接触される。オゾン含有ガスを注入した分岐被処理水は引出され,該分岐被処理水を,分岐させていない被処理水と混合する」方法が開示されている,ということができる。 したがって,これを前提とし,その下位概念にあたる引用発明11も,本件発明2の構成b1を備えているということができる。 (2) 引用例11における本件発明2の構成b2の開示について ア 構成b2の「所定のオゾン濃度」について,本件明細書に特段の定義はないが,本件発明2が「オゾンを使用して水処理を行うための方法」(甲第2号証2頁3欄)であることからすれば,オゾン含有ガスが注入された分岐被処理水中のオゾンの量は,少なくとも,分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合した後の被処理水全体に対し,所望のオゾン処理をするのに要するオゾン量(自然分解してしまうオゾン量を含む)(以下,「所定のオゾン量」という)を指すものであると認められるのであって,分岐処理水のオゾン濃度は,上記オゾン量を分岐被処理水の量で除したものといえる。 しかし,分岐被処理水の水量,分岐割合,さらにはオゾン処理の内容について具体的に規定ないし限定がされていない以上,「所定のオゾン量」自体が決まってこないのであるから,結局,構成b2における「所定のオゾン濃度」は,技術的に特段の意味を持たないものといわざるを得ない。 イ そして,「所定のオゾン量」とするための分岐被処理水の水量に応じた「所定のオゾン濃度」は,引用例11に開示されているといえる。 すなわち,記載A中には,「塔を経て導かれる水量は全体の処理される水量のオゾン及び酸素要求量に応じて調整される。」(以下「記載A2」という。)とあり,この記載によれば,記載Aの「大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流」の「水量」が,「全被処理水」に必要なオゾン及び酸素処理がされるのに要する所定のオゾン量を含有するような水量にされるということができる。 したがって,記載A2において,部分流は,全水量のオゾン処理に必要な所定のオゾン量を含有するような所定のオゾン濃度及び水量であることが開示されているということができる。すなわち,引用例11の「大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流」との記載は,「所定のオゾン量」の分岐被処理水,換言すると,所定のオゾン濃度の分岐被処理水であることを意味しているのである。 ウ 被告は,記載A2には,せいぜい,全体の被処理水の量が多い場合,あるいは,汚染の程度が大きい場合に,充填体処理塔から全体の被処理水へ導入される水量を相対的に増加させるという程度の調整をすることを開示しているに過ぎない,と主張する。 しかし,上記のとおり,記載A2においても,「所定のオゾン量」の部分流とされることが記載されているのであり,その部分流は本件発明2における「所定のオゾン濃度」の分岐被処理水といえるのである。 また,本件発明2においても,所定のオゾン濃度にするための調整の方法は限定されておらず,オゾンを溶かし込む量,被処理水の全水量及び分岐の割合等により,オゾン濃度を調整することが排除されているとは認められないのである。 エ 被告は,引用例11は,放電法による酸素-オゾン-混合物をオゾン材料として使用しているものであり,オゾン濃度が希薄であるから何度も繰り返してオゾンの溶解と原料水への混合を行うことが必要であって,被処理水を所定のオゾン濃度とすること自体には,さして意味がなく,かえって,部分流に含まれる窒素の濃度を一定に保つ等の必要性から,所定のオゾン濃度とすることは困難である旨主張する。 しかし,放電法により生成されたオゾン含有ガスのオゾン濃度が希薄であるとの前提は必ずしも正しくないこと,引用発明11でも1回の分岐による水処理によって分岐被処理水に必要なオゾンを溶解し,全被処理水のオゾン処理をすることができることは既に述べたとおりであり,何度もオゾンの溶解と原料水への混合を行うことが必要とは認められないから,この点に関する原告の主張は理由がない。 また,引用発明11が,循環酸素中の窒素の量を適正に保つために塔圧力を調節する機構を有するということから,分岐被処理水に必要な量のオゾンを溶解できないと結論付けることはできない(前記のとおり,そもそもこのオゾン量自体,何ら限定のないものである。)。 オ したがって,引用例11には,本件発明2の構成b2も開示されているということができる。 (3) 以上のとおり,引用例11には,「分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とした後,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理する」水処理方法の発明が開示されていると認めることができ,本件発明2とこの点で一致しているということができる。 しかるに,審決は,引用発明11は「本件発明2とその「被処理水の分岐」の点で相違している」,「オゾンガスの注入の点についても,本件発明2と相違していることは明らかである。」と認定判断したものであり,引用発明11の認定及び引用発明11と本件発明2との対比判断を誤ったものといわなければならない。 2 取消事由2(本件発明2の進歩性の判断の誤り)について (1) 本件発明2の構成bが引用例11に記載されていると認められることは前示のとおりである。 構成aの「純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ,該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し,」は,以下に述べるとおり,引用例2に記載されている ア 引用例2には,以下の記載がある(甲第3号証の2)。 (ア) 「最近になつてBBC-Brown-Boveri-&-Cie.LtdがSoLid Polymer Electrolyte(固体高分子電解質)膜を使い,純水を電気分解することによつてオゾンが発生することを示してから,電気分解法によるオゾンの生成も実用化の目途がたつてきた。 ・・・陽極と陰極はイオン交換膜で仕切られており,陽極に供給された水は膜面で分解されて水素イオンと酸素/オゾンとなり,水素イオンはイオン交換膜を陰極側に移動し,膜表面に達して電子をもらつて水素となる。」(49頁) また,これに関する記載として,「図-1」(53頁)に「SOLID POLYMER ELECTROLYTE 電解法の原理図」が示されている。 (イ)「表-1に2gr/hrのオゾナイザーの基本仕様を示す。この本式のオゾナイザーは,少量の純水を原料としてオゾンを発生させる点が最大の特徴であるほか,従来の常識をはるかに越える超高濃度のオゾンガスが発生する,純水を電気分解するため不純物を含まない非常にクリーンなオゾンガスとして利用できる,・・・いきなりオゾン水自体として取り出すことも可能,などの優れた特徴を持つている」(50頁) また,これに関する記載として,「表-1」(53頁)に「「オゾンマスター」OM-2の基本仕様」として「オゾン濃度 約13wt%」,「純水使用量 100cc/hr」などが記載されている。 (ウ) 「従来の放電によるオゾナイザーにおいては,電極が高電圧の電子によってたたかれるために・・・電極構成材料の微粒子が混入すると言われている。 電解法によるオゾナイザーではこのようなことが起こらないであろうと予測し,オゾンガス中の微量金属元素の定量分析を行った。・・・ガス中の不純物濃度を求めた。その結果を表-2に示す。・・・半導体グレードのガス純度が得られている」(50頁〜51頁) また,これに関する記載として,「表-2 オゾンガス中の微量金属不純物濃度」(55頁)として,「Fe」,「Pb」など8種類の金属の不純物濃度が記載されている。 (エ) 「4.無菌水システムへの応用 ・・・オゾンは殺菌力が非常に強いうえ,自己分解によつて酸素となるので残留性がなく,・・・純水の無菌化にはオゾンが最も適していると思われる。特に純水電解式オゾナイザーは,純水を原料として非常にクリーンなオゾンを発生させられるので好都合である。・・・そこで無菌水システムのための前試験として図-5に示すようなシステムを作り,簡便な培養法による微生物チェックを行ないながらオゾンの殺菌効果を確認した。この結果を図-6に示す。これは数十ppbという非常にわずかのオゾンが存在するだけで純水を無菌状態に維持することが可能となることを示唆している。 以上のことから,・・・極微量のオゾンを純水に溶解させておき,ユースポイントで水銀灯によって分解するという連続無菌純水維持システムが可能であると考えられる。」(51頁〜52頁) また,これに関する記載として,「図-5 無菌水のテストループ」(56頁)には,「RO水」が「タンク」,「リサイクルポンプ」,「気液接触装置」を経てタンクに戻るループとなった経路,その経路における「気液接触装置」と「オゾンマスター」とが連結する経路が図示され,図-6として「オゾンによる殺菌効果」が示されている。 イ 以上によれば,「図-5 無菌水のテストループ」に記載された「オゾンマスター」は,固体高分子電解質膜を使い,純水を電気分解することによってオゾンを製造する方法(電解法)によるオゾン製造装置であると認められる。 そのオゾンマスターにおいては,上記(ア)及びその原理図(図-1)によれば,陽極と陰極がイオン交換膜で仕切られており,陽極に供給された水は膜面で分解されて水素イオンと酸素/オゾンとなること,すなわちオゾンは陽極室の水(陽極液)中に生成されることが示されている。 また,「図-5 無菌水のテストループ」の「気液接触装置」においてオゾンマスターからのオゾンと「RO水」とが気液接触,すなわち,気体と液体とが接触されることが示されている。ここで,RO水は液体であるから,オゾンマスターからのオゾンは,気体,すなわちオゾン含有ガスであることは明らかである。 そして,気液接触の結果,RO水は溶存オゾン濃度数十ppb(図-6)のオゾン水となっていることが記載されている。 オゾンマスターからのオゾン含有ガスは,電解槽の陽極室において陽極液中に生成し,ガスとしてRO水と接触させるものであるから,「電解槽から取り出され,陽極液から分離した」ものであるといえる。したがって,引用例2の「図-5」には,純水を電解して電解槽の陽極室に発生させ,これを前記電解槽から取り出して陽極液から分離したオゾン含有ガスが記載されている。 そうすると,引用例2には,本件発明2の「純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ,該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し」という本件発明2の構成aが開示されていることになる。 ウ 以上のとおりであるから,引用発明11に,引用例2記載の技術(オゾン発生装置)を組み合わせると,本件発明2になると認めることができる。 (2) 次に,引用発明11に引用例2に記載されたオゾン含有ガスを適用することの容易想到性について検討する。 ア 引用例11には,「オゾンの水中への溶解はかなり困難で,大なる作動及び資本投下費用を要する」(甲第3号証の11の1頁2欄),特に空気を原料としたときの1〜2重量%のようなオゾンしか含まないような「混合物からオゾンを洗滌抽出することは甚だ大なる費用を要する」(同1頁2欄)という認識が記載されている。すなわち,水処理にオゾン含有ガスを使用するに際し,オゾンを水へ注入溶解させる場合,放電法によるオゾン製造装置によって得られるオゾン濃度(1〜2重量%)より高い濃度のオゾン含有ガスを使用することが望ましいことが知られていたのである。 引用発明11は,空気を原料とする放電法のオゾン製造装置によって得られる濃度(1〜2重量%)より高濃度のオゾン含有ガスを得るために,原料として,高濃度の酸素含有ガスを使用できるようにしたものであることは前示のとおりである。そして,純酸素を原料とするときには,「オゾンが費用を要しないで入手出来る空気から得られるのではなく,酸素から得られる点が不利である」というコスト上の問題が生じることが記載されていることも前示のとおりである。 そうすると,オゾン含有ガスの製造装置として一般的に放電法のオゾン製造装置が使用されているとしても(甲第3号証の1,甲第3号証の12,甲第9号証),引用例2に記載されたような電解法のオゾン製造装置も知られており,かつ,その装置によるオゾン含有ガスの濃度は,「少量の純水を原料としてオゾンを発生させる点が最大の特徴である」(甲第3号証の2の50頁),「従来の常識を超えた超高濃度のオゾンガスが発生」(同頁),「オゾン濃度 約13wt%」(同53頁右上欄)というのであるから,引用例2の電解法によるオゾン製造装置を,高濃度のオゾン含有ガスを必要とする引用発明11の水処理技術に適用する動機付けがあることは明らかである。 イ 被告は,引用例11は,濃度が低いなどの放電法によるオゾンガスの特性を前提とした特異な放電オゾン発生装置を開示するものであり,これを電解法のオゾン発生装置に置き換える動機は存在しないと主張する。 しかし,前記のとおり,高濃度の酸素含有ガスを原料とする放電法を使用する場合において,生成されるオゾン含有ガスのオゾン濃度が希薄であるとは必ずしもいえないし,放電法においては,繰り返し被処理水に接触させることが技術的に必要であるというわけでもないのであって,引用発明11の水処理技術に引用例2を適用する動機付けがあることは,上記のとおりである。 ウ 被告は,引用発明11の水処理の分岐は,放電法によるオゾン発生装置において装置の大型化を防止するためのものであり,放電法の使用に特有な加圧機構,気液向流接触,酸素回収機構と密接不可分の構成であるから,引用発明11において電解法オゾン製造装置を採用することはできない旨主張する。 (ア) 高濃度の酸素含有ガスを原料とする放電法において,酸素回収が必須のものであるといえないことは,前記のとおりであり,また,気液の接触装置,加圧接触が,慣用の技術であって,放電法のオゾン発生装置と不可分の関係でないことも,前記のとおりである。 (イ) オゾン含有ガスによる処理において,全被処理水をオゾンと気液接触させるのではなく,被処理水の一部を気液接触装置でオゾン含有ガスと接触させてオゾン水とし,この分岐した被処理水を,残余の被処理水と混合させることは,例えば,甲第3号証の12の図3・205(391頁)や後記引用部分に開示されている慣用技術である。 これは,上記気液接触装置における処理水量を減少させ,気液接触装置の小型化ないしは気液接触処理量を減少せしめコストの低減を図るためであると認められる。 すなわち,甲第3号証の12には,被処理水の一部をエゼクタでオゾンガスと気液接触させてオゾン水とし,そのオゾン水により処理水全体のオゾン処理をする方式の説明として「この方式には処理水の全量をエゼクタに通す方式・・・と処理水の一部を加圧してエゼクタに通し,そこから吐出された気液混合体を残余の処理水主流に注入接触させる方式(partial injection system)とがあり,前者はおもに小規模な上水処理および廃水処理に用いられ,後者は大規模な上水処理に用いられる。」(391頁)との記載があり,オゾンで気液接触処理するに際しその一部を処理することとするのは,大規模な上水処理の場合であるとされている。つまり,処理水量が多量であるとき,そのオゾンとの気液接触処理水量を減少させるために水の一部を処理するものであることが示されているのである。 (ウ) このような技術常識と,引用例11の前記「オゾンの水中への溶解はかなり困難で,大なる作動及び資本投下費用を要する」,特に空気を原料としたときの1〜2重量%のオゾンしか含まないような「混合物からオゾンを洗滌抽出することは甚だ大なる費用を要する」との記載からは,オゾンと水との気液接触操作を行う装置が,その製造等のコストを決定する要素の一つであり,引用発明11は,全被処理水をオゾン含有ガスで処理するのではなく,被処理水の一部を分岐し,これにオゾン含有ガスを気液接触装置で接触させて分岐被処理水とし,この分岐被処理水を分岐していない被処理水と混合させるという分岐の構成を採用することで,気液接触操作における処理水量を減少せしめ,気液接触装置を小型化ないし気液接触処理量を減らしコスト低減を図ったものであると認めることができる。 そうすると,引用発明11における被処理水の分岐処理は,オゾンの水処理全般における,気液接触装置の小型化ないしは気液接触の効率化,処理コストの減少を図るためのものであると認められ,必ずしも,高濃度酸素含有ガスを原料とする放電法オゾン製造装置と密接不可分の技術であると認めることはできない。 したがって,引用発明11において,酸素を原料とする放電法のオゾン製造装置を,別の方式のオゾン製造装置に変更することができないとする被告の主張は理由がない。 エ 被告は,引用発明11において放電法に代え電解法を採用するとしても,オゾン含有ガスでなく,オゾン水が溶解した陽極液を用いるのが自然でありあえてオゾン含有ガスを使用するには,陽極液を使用しない理由,すなわち本件発明2におけるような陽極液の汚染防止等の問題点を克服するという問題意識が必要であって,そのような問題点が引用例11及び引用例2に開示されていない以上,陽極液からオゾンガスを取り出す構成に想到することはない旨主張する。 しかし,引用例2では,オゾンマスターの応用例の一つを示す「図-5 無菌水のテストループ」において,オゾンマスターからオゾン含有ガスが取り出されていることは,前記のとおりであり,また,引用例2に記載された電解法オゾン製造装置においては,陽極液がオゾン水となるため,オゾン源としてその陽極液を採用することが可能であるとしても,引用例2の前記摘示事項(ア)ないし(ウ)の記載からは,引用例2に記載されたオゾンマスターは,本来,オゾン含有ガスを製造するための装置であることが明らかである。 そして,引用発明11は,もともとオゾン含有ガスを水に溶解してオゾン水を製造するものであるから,これに引用例2の電解法によるオゾン発生装置を適用する場合,陽極液そのものではなく,そこから分離したオゾン含有ガスを,被処理水に注入溶解させる構成に想到することは,当業者にとってごく自然なことである。 したがって,引用例11及び引用例2に,陽極液の汚染防止等の問題点の指摘がなくても,本件発明2の構成に想到するのは容易であるというべきである。 オ 顕著な作用効果の有無について (ア) 本件発明2の効果は,オゾン含有ガスを使用する水処理における,引用発明11の分岐による効果と,引用発明2の電解法製造装置により製造されたオゾン含有ガスを適用した場合の効果を合わせたものを超えるほどの格別なものとは認められない。 被告は,本件発明2の構成により,@被処理水に十分オゾンを溶解させ,A高濃度にいたる所望のオゾン濃度の分岐被処理水を調製でき,Bオゾンを有効に使用できるという顕著な効果があると主張する。しかし,被告が主張する上記効果は,本件発明2の特有の効果とはいえない。 まず,上記@とBの効果は,いずれも溶解塔を使用したことによりオゾンの吸収を良好にしたことによる効果であって,本件発明2の構成に基づく効果ではない。むしろ,分岐処理をする場合には溶媒の量が減少するから,所要の量のオゾンを含ませるためには,分岐被処理水に相対的に多量のオゾン含有ガスを溶解させることになり,そのため,分岐処理をしない場合に比して,オゾンの溶解効率は低下し,排オゾン量が増加するのであって,オゾンを「十分オゾンを溶解させ」,「有効に使用すること」とは逆行するのである。 (イ) また,高濃度のオゾンが溶解した分岐被処理水を調製することができるのは,電解法のオゾン含有ガスを採用した効果であり,所望のオゾン濃度の被処理水を生成させることができるのは,各種の気液接触条件を選択することによってなし得るものであって,そのための具体的な条件の選択が本件発明2に規定されているものではないのであるから,上記Bの効果も,本件発明2の特有の効果であるとはいえない。 (ウ) なお,被告は,本件発明2は,電解層の陽極室の内圧を安定させるとか,所望の濃度のオゾン水を容易に得られるといった作用効果があるとも主張するが,いずれも本件発明2に特有の顕著な作用効果であるとは認められない。 (3) 以上のとおり,本件発明2は,引用発明11及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができる。 したがって,「本件発明2は,上記証拠方法の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない」とした審決の判断は誤りである。 3 取消事由3(本件発明4に進歩性があるとした判断の誤り)について 本件発明4は,本件発明2の水処理方法を実施するための「水処理装置」であって,その構成要件に変わりはないから,上記と同じ理由で,本件発明4の進歩性を肯定した審決の判断は誤りである。 4 取消事由4(本件発明5に進歩性があるとした判断の誤り)について 本件発明5は,本件発明4に従属するものであるところ, 本件発明5の進歩性を肯定した審決の判断は,本件発明4の進歩性が肯定されることを前提にしたものであるから,その前提が誤りである以上,付加された構成要件の進歩性の有無を判断するまでもなく,審決を取り消すべきである。 5 結論 以上のとおりであって,原告が主張する取消事由1ないし4はいずれも理由がある。 よって,原告の本訴請求を認容することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 高瀬順久 |