関連審決 | 無効2008-800237 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21行ケ10161審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10370審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10068審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10246審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10266審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 冒認出願(冒認) / 特許を受ける権利 / 承継 / 発明者 / 協議 / 共同発明 / 同一の発明 / 発明の概要 / 着想 / 抵触 / 技術的意義 / 実施 / 加工 / 共同発明者 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 合理的な理由 / 相当期間 / |
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事件 |
平成
21年
(行ケ)
10379号
審決取消請求事件
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原告X 訴訟代理人弁理士 小林正治 同 小林正英 同 甲斐哲平 被告株式会社 エム .シー .アイ .エンジニアリン グ 訴訟代理人弁理士 柿澤 紀世雄 同 柿澤惠子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2010/11/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が無効2008-800237号事件について平成21年10月16日にした審決を取り消す。 第2争いのない事実1特許庁における手続の経緯(1)原告は,特許第3924302号(発明の名称「貝係止具と,集合貝係止具と,連続貝係止具と,ロール状連続貝係止具」。以下「本件特許」という。)の特許権者として登録された者である。 2本件特許は,平成17年4月1日,原告を出願人とし,原告,A及びBを発明者として出願され(特願2005-106938号。以下「本件特許出願」という。),平成19年3月2日,設定登録された(甲1)。本件特許は,設定登録時の請求項の数が12であった。 (2)被告は,平成20年11月7日,本件特許は,発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願(以下,同要件に係る出願を「冒認出願」という場合がある。)に対してされたものに該当し,特許法(以下,条文は特許法の条文を示す。)123条1項6号の規定により無効とされるべきことを理由として,無効審判(無効2008-800237号)を請求した(甲19)。 特許庁は,平成21年10月16日,「特許第3924302号の請求項1ないし12に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月28日,原告に送達された。 2特許請求の範囲本件特許の特許請求の範囲は,次のとおりである(以下,請求項1ないし12記載の発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明12」といい,本件発明1ないし12を包括して「本件発明」という。)。 【請求項1】ロープと貝にあけた孔に差し込み可能な細長の基材(1)と,貝止め突起(2)と,第一ロープ止め突起(3)が樹脂で一体成形され,貝止め突起(2)は基材(1)の軸方向端部(4)側から第一ロープ止め突起(3)側に突設され,貝止め突起(2)はその幅方向に分離された二以上の分離片(5)を備えたことを特徴とする貝係止具。 【請求項2】請求項1記載の貝係止具において,貝止め突起(2)の二以上の分離片(5)は,貝止め突起(2)の根元部分から,又はその長手方向途中から,又はその3先端部寄りから二以上に分離されたことを特徴とする貝係止具。 【請求項3】請求項1又は請求項2記載の貝係止具において,二以上の分離片(5)の全て又は一部がその根元部分から,又はその長手方向途中から,又はその先端部寄りから,基材(1)側に,又は基材(1)の反対側に,又は基材(1)側と基材(1)と反対側との双方に曲げられていることを特徴とする貝係止具。 【請求項4】請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の貝係止具において,二以上の分離片(5)の全て又は一部の分離片(5)の先端側に,先端部を基材(1)側又は基材(1)と反対側,又は基材(1)側と基材(1)と反対側との双方に曲げた第二抜け止め部(21)を備えたことを特徴とする貝係止具。 【請求項5】請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の貝係止具において,二以上の分離片(5)のうち,両外側の分離片(5)の先端部外側が,基材(1)の外周面(6)よりも外側に突出していることを特徴とする貝係止具。 【請求項6】請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の貝係止具において,基材(1)から第二ロープ止め突起(7)が突設され,第二ロープ止め突起(7)は第一ロープ止め突起(3)の根元位置又は根元よりも内側位置から第一ロープ止め突起(3)と反対方向に突設されたことを特徴とする貝係止具。 【請求項7】請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の貝係止具において,基材(1)の第一ロープ止め突起(3)の内側に第一ロープ止め突起(3)側に凹陥する凹陥部(8)が形成され,第二ロープ止め突起(7)が凹陥部(8)の内側から第一ロープ止め突起(3)と反対側に突設され,第二ロープ止め突起(7)は凹陥部(8)の内側であって第一ロープ止め突起(3)の先端とほぼ同じ位置又4は根元よりも内側位置から突設され,第二ロープ止め突起(7)は第一ロープ止め突起(3)よりも短くして凹陥部(8)の外側に突出しないか,凹陥部(8)よりも僅かに外側まで突出する長さであることを特徴とする貝係止具。 【請求項8】請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の貝係止具が多数本平行に間隔をあけて配置され,且つ多数本の貝係止具の軸方向両端部が剛性連結材(9)で連結されて成形されたことを特徴とする集合貝係止具。 【請求項9】請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の貝係止具が多数本平行に間隔をあけて配置され,且つ多数本の貝係止具の基材(1)間がロール状に巻回可能な可撓性連結材(10)で連結されて成形されたことを特徴とする連続貝係止具。 【請求項10】請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の貝係止具が多数本平行に間隔をあけて配置され,且つ隣接する貝係止具の第一ロープ止め突起(3)と第二ロープ止め突起(7)がロール状に巻回可能な可撓性連結材(10)で連結されて成形されたことを特徴とする連続貝係止具。 【請求項11】請求項9又は請求項10記載の連続貝係止具がボビン(11)に,又はボビンを使用せずにロール状に巻かれたことを特徴とするロール状連続貝係止具。 【請求項12】請求項11記載の連続貝係止具がシート(12)を宛がってロール状に巻いて,巻層間にシート(12)を介在させたことを特徴とするロール状連続貝係止具。 3審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであり,要するに,原告は,本件発明1の発明者ではなく,特許を受ける権利を承継したものでもないから,本件発明1に係る特許は,発明者でないものであって,発明者から特許を受ける権5利を承継しないものの特許出願に対してされたものであり,本件発明2ないし12は,いずれも本件発明1を引用し,さらに限定を付加した発明であり,本件発明1に係る特許が,発明者でないものであって,発明者から特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものである以上,本件発明2ないし12に係る特許も,発明者でないものであって,発明者から特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものであるとし,本件発明1ないし12に係る特許(本件特許)は,123条1項6号の規定に該当し無効であるとするものである。 4貝係止具の構造及び本件発明の概要について本件発明は帆立貝,真珠貝,牡蠣,その他の貝の養殖に使用されるピン状の貝係止具と,数十本の貝係止を一定間隔で成型した集合貝係止具と,数千〜数万本のロール状に巻回可能に連続成型した連続貝係止具と,連続貝係止具をロール状に巻いたロール状連続貝係止具に関するものである。従前,帆立貝の養殖において,耳部に穴を開けた帆立貝をロープへ係止するためにテグスが用いられていたが,昭和60年代から,合成樹脂のピン状の貝係止具が用いられるようになった。貝係止具は,細長の棒状で,その中央部をロープに固定し,ロープの左右に突き出た両端部を帆立貝の耳部の穴に挿入し,帆立貝を係止するものであり,その両端部に,貝係止具が帆立貝の耳部の穴から抜けて帆立貝が抜け落ちるのを防止するための,引っかかり部の機能を有する舌片状の抜け防止部(「かえし」,「アグ」,「アゲ」などと呼ばれる。以下「アゲ」という場合がある。)が設けられる。本件発明の分離片(5)がアゲに相当する。 帆立貝の養殖方法の一つとして,帆立貝を海中に吊して養殖する耳吊養殖がある。これは海面近くに横向きに張った横ロープに,帆立貝を取付けた縦ロープを縦向きに取り付けて海中に吊るす方法である。縦ロープへの帆立貝の取付けにはピン状の貝係止具が使用される。貝係止具は樹脂成型されており,細長な基材の両端に貝止め突起があり,その内側にロープ止め突起がある。貝係止6具は縦ロープに差し込み,貝にあけた孔に差し込んで貝を貝止め突起に係止する。海中に吊られた貝が波を受けて貝係止具を軸として回転したり,揺れたりすると,貝係止具の貝止め突起が捩れて基材の窪み(寝床)の上に倒伏し,貝が貝係止具の貝止め突起を乗り越えて抜け落ちることがあり,養殖の歩留りが低下するという課題があった。 本件発明は,貝止め突起が切断したり,倒伏したりしにくく,貝が抜け落ちないようにした貝係止具を提供するものである。 本件発明の請求項1記載の貝係止具では,ロープと貝にあけた孔に差し込み可能な細長の基材1と,貝止め突起2と,第一ロープ止め突起3が樹脂で一体成型され,貝止め突起2は基材1の軸方向端部4側から第一ロープ止め突起3側に突設され,貝止め突起2はその幅方向に分離された二以上の分離片5を備えたことを特徴とするものである。 第3取消事由に関する原告の主張C(以下「C」という。)は,帆立貝養殖関連機器等の製造販売を行っている株式会社むつ家電特機(以下「むつ家電」という。)の従業員であった。 Cは,平成14年11月30日以前に,本件発明1のうち二つの分離片を備えた発明(C第1発明,C第2発明)を発明し,原告は,その後,Cから,これらの特許を受ける権利を譲り受けた。また,原告は,その後,C第1発明,C第2発明をもとに,本件発明1のうち分離片が2より多数のもの及び本件発明2ないし12を発明した。 したがって,本件特許出願は,その特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたものであるから,本件特許は123条1項6号の規定により無効であるとした審決の判断は誤りである。 1事実の経過及び証拠原告が主張する事実の経過及びその裏付けとする証拠は,以下のとおりである。 7(1)むつ家電による貝係止具の販売原告は,むつ家電の代表取締役である。 原告は,昭和62年ないし昭和63年に独自の貝係止具を開発し,その製造を進和化学工業株式会社(以下「進和化学」という。)に依頼し,むつ家電は,進和化学が製造した貝係止具の販売を開始した。 (2)貝の脱落の防止平成10年ころ,進和化学の貝係止具について,貝が海中で貝係止具から脱落するという不都合が発生した。そこで,原告は,むつ家電の従業員に対し,脱落を防止するための対策を講じるよう指示した。それ以後,むつ家電では,毎月1日をピンの日としてミーティングを開催し,貝係止具の開発・改良を行ってきた。(甲71審判の尋問記録15,16頁証人C,59頁原告本人)(3)C第1発明アCは,貝脱落防止のため,アゲを二つ割にしてアールと長さを変える点に特徴のある発明(以下「C第1発明」という。)をした。(甲46〔審判乙16〕C作成の平成21年6月18日付け譲渡証書及び添付図面,甲49の8,9〔審判乙19の8,9〕,むつ家電に保管されていたとされる赤ファイル中の図面等,甲50〔審判乙20〕C作成の平成21年6月18日付け陳述書,甲71審判の尋問記録18,19頁証人C)イCがC第1発明を完成した時期は,むつ家電の現社屋が完成した平成14年11月30日以前であった。(甲47〔審判乙17〕A作成の平成21年6月3日付け宣誓供述書,甲48〔審判乙18〕原告ら作成の平成21年5月30日付け確認書,甲49の2,3,6,7,8,9〔審判乙19の2,3,6,7,8,9〕赤ファイル中の書面,甲51〔審判乙21〕むつ家電の社屋建物の全部事項証明書)ウCは,C第1発明を手書きの図面にしてむつ家電に提出し,その図面は,8むつ家電では赤ファイルにとじて保管された。(甲47A作成の平成21年6月3日付け宣誓供述書,甲48原告ら作成の平成21年5月30日付け確認書,甲49の1ないし9赤ファイル中の書面,甲50C作成の平成21年6月18日付け陳述書)エC以外のむつ家電の従業員も,貝係止具の改良を提案し,その手書きの図面を提出した。むつ家電の従業員であったD(以下「D」という。)は,C第1発明の手書きの図面及び他の従業員の提案に係る手書きの図面をパソコンにより浄書して整理し(甲49の3),赤ファイルにとじて保管した。 (甲47A作成の平成21年6月3日付け宣誓供述書,甲48原告ら作成の平成21年5月30日付け確認書,甲49の3〔審判乙19の9〕赤ファイル中の図面,甲50C作成の平成21年6月18日付け陳述書,甲71審判の尋問記録27,30頁証人C甲82C第1発明のパソコンによる浄書図面)オ原告は,C第1発明の資料を受け取り,その当時,その発明の内容を知っていたものの,後にその記憶は薄れた。(甲71審判の尋問記録55,58,59頁原告本人)(4)C第1発明の特許を受ける権利の譲渡原告は,遅くとも本件特許出願前に,C第1発明の特許を受ける権利をCから譲り受けた。(甲46C作成の平成21年6月18日付け譲渡証書,甲71審判の尋問記録20頁証人C,55,56頁原告本人)(5)被告製造に係る貝係止具についての貝の脱落の発生平成13年ないし平成14年ころ,むつ家電は,被告に対し,貝係止具の製造を依頼し,被告が製造した貝係止具をむつ家電が購入して,むつ家電がそれを更に漁家に販売する取引を開始した。 ところで,平成15年ないし平成16年ころ,被告の製造した貝係止具について,貝が脱落するという不都合が発生した。 9むつ家電は,被告の貝係止具について貝が脱落する不都合が発生する都度,被告と対策を協議した。(甲56の1〔審判乙26の1〕 E(以下「E」という。)作成の平成19年3月2日付けメモ,甲41の1〔審判乙11の1〕むつ家電と被告の平成15年1月17日付けの打合せに関するメモ,甲41の2〔審判乙11の2〕むつ家電従業員F作成の平成16年3月17日付け書面,甲42の1〔審判乙12の1〕むつ家電従業員F作成の平成16年5月12日付け車両管理票,甲42の2〔審判乙12の2〕, むつ家電従業員F作成の平成16年5月13日付け車両管理票,甲77原告作成のメモ)(6)C第2発明ア平成16年ころ,むつ家電で,被告とむつ家電の合同の脱落対策会議を行い,被告代表者,被告のG課長(被告代表者の息子)が出席した。その場において,Cは,「アゲの裏側に断面V型の突起を付け,貝係止具の幹にその突起が嵌るV字溝をつける」こと(甲31の資料2の形状)を提案したが,V字型の突起を設けると金型が抜けないとの指摘を受けた。そこで,Cは,「貝止めアゲをW(二又)にし,二又の突起に上下に段差を付ける」発明(以下「C第2発明」という。)を口頭で提案した。この発明は,C第1発明と実質的に同じ内容の発明であった。C第2発明の提案を聞いて,被告のG課長がうなづいた。(甲71審判の尋問記録16ないし18,23,24,30頁証人C,甲31〔審判乙1〕C作成の平成21年1月30日付け陳述書,甲72「ピンに対する提案」と題する一覧表と図面,甲80むつ家電で保管されていたグレーファイル)イCが,C第2発明を完成させた時期は,平成16年6月18日以前であった。(甲31C作成の平成21年1月30日付け陳述書,甲52〔審判乙22〕平成16年6月18日付けの「今後のピンへの提案」と題する一覧表及び図面)ウCは,上記脱落対策会議の席上,C第2発明の手書き図面を提出し,C10以外のむつ家電の従業員も貝係止具の改良を提案し,その手書きの図面を提出した。Dは,C第2発明の手書きの図面及び他の従業員の提案に係る手書きの図面をパソコンにより浄書,整理して一覧表及び図面とし,それらは,グレーファイル(甲80)につづられ,むつ家電において保管された。(甲52平成16年6月18日付けの「今後のピンへの提案」と題する一覧表及び図面,甲71審判の尋問記録30,31頁証人C,甲80グレーファイル,甲83の1D作成の平成16年6月17日付け車両管理票,甲83の2D作成の平成16年6月18日付け車両管理票)エ原告は,グレーファイル(甲80)を手元に常備し,必要に応じて目を通していた。(甲71審判の尋問記録63,68頁原告本人,甲80グレーファイル)オ原告は,平成16年6月ころ,C第2発明を浄書した一覧表及び図面をチェックし,Dに図面の手直しを指示し,手直し後の図面は,グレーファイルに綴じられた。手直し後の図面は,グレーファイル発見時には,上下逆に綴じられていた。(甲71審判の尋問記録63,68頁原告本人,甲52平成16年6月18日付けの「今後のピンへの提案」と題する一覧表及び図面,甲72「ピンに対する提案」と題する一覧表と図面,甲80グレーファイル)(7)C第2発明の特許を受ける権利の譲渡ア平成16年11月ころまでに,Cは,原告に対し,C第2発明の特許を受ける権利を譲渡した。(甲32〔審判乙2〕C作成の平成21年1月30日付け譲渡証書)イむつ家電の従業員の発明については,譲渡証書を作成しなくても,従業員から原告又はむつ家電に対して特許を受ける権利を譲渡し,原告又はむつ家電が特許出願する,との暗黙の了解があった。(甲71審判の尋問記録19,20頁証人C,55,56,60頁原告本人)11ウC第1発明,C第2発明は,アゲを二又にするものであり,本件発明1のうち,二つの分離片を備えたものに該当する。 (8)平成17年3月19日の協議ア平成17年3月19日,原告とむつ家電の従業員であるB(原告の息子),Eが被告を訪問し,被告の貝係止具の不良対策及びその後の生産計画について協議を行った。(甲61〔審判乙31〕原告作成の平成21年8月7日付け陳述書,甲62〔審判乙32〕E作成の平成21年8月7日付け陳述書,甲63〔審判乙33〕B作成の平成21年8月7日付け陳述書,甲74原告作成の平成22年1月18日付け陳述書,甲75E作成の平成22年1月13日付け陳述書,甲77原告作成のメモ)イ被告代表者は,打合せ終了間際に「アゲを二つにする」との提案をしたが,形状,構造等に関する具体的な説明はなく,見本や図面等を示すこともなかった。(甲61原告作成の平成21年8月7日付け陳述書,甲62E作成の平成21年8月7日付け陳述書,甲63B作成の平成21年8月7日付け陳述書,甲71審判の尋問記録55,61,62,68頁原告本人,甲74原告作成の平成22年1月18日付け陳述書,甲75E作成の平成22年1月13日付け陳述書)ウ被告又は被告代表者からアゲを二つにするとの話が出たのは,その時が初めてであった。(甲71審判の尋問記録58,60頁原告本人)エ原告らは,被告代表者の話から,アゲを二つにするとの提案の内容を理解することができなかった。Eは,その話を聞いたとき,幹にアゲが二つ付いているもの(甲76の3に記載されものと同様のもの)を想像した。 (甲74原告作成の平成22年1月18日付け陳述書,甲75E作成の平成22年1月13日付け陳述書)オ被告代表者は,さらに,原告に対して出願準備を依頼し,「共同で出そう,息子達の名前で」との提案も行った。しかし,原告は,被告代表者から出12願準備の依頼は受けたものの,発明の内容について具体的な説明を受けたわけではなく,図面,見本などが示されることもなかったため,被告代表者の述べた発明の内容を具体的に理解することはできなかった。(甲71審判の尋問記録60,61,68頁原告本人,甲74原告作成の平成22年1月18日付け陳述書,甲75E作成の平成22年1月13日付け陳述書)カ原告は,貝係止具の開発に携わった経験・実績があり,C第1発明,C第2発明がされたことについて,潜在的な記憶があった。被告代表者の提案を聞いたとき,自ら「ニッパを貸してくれ,真ん中で切ったら二つに分かれるべ」と発言した。しかし,その場にニッパはなく,実際にアゲを切ることはできなかった。原告は,帰りの電車の中か,会社へ帰ってからかは明確でないが,自分で考えて,アゲを二又にすること(二又アゲ)をメモに残した。(甲71審判の尋問記録61頁原告本人,甲74原告作成の平成22年1月18日付け陳述書,甲77原告作成のメモ)キ平成17年3月19日に行われた協議において,原告は,アゲを二つにする発明の発明者が,むつ家電中の誰であったかは,すぐには思い浮かぶ状態ではなかった。(甲71審判の尋問記録68頁原告本人)(9)本件特許の出願に至る経緯ア原告は,その直後に,原告代理人特許事務所(以下「小林特許事務所」という。)に電話し,「貝止めアゲを幅方向に二つにする,そしてそれぞれに角度をつける」という具体的な内容を伝えて,特許出願の願書の原稿の作成を依頼したところ,原告代理人から,見本がないか問われた。 原告は,むつ家電内で,ニッパで既存の貝係止具のアゲを切って二又にしようとしたが,うまく切ることができなかった。原告は,自分で考えて,アゲを二つにした貝係止具の図を描き,精密ニッパを購入し,既存の貝係止具のアゲを切って幅方向に二つにし,上下に角度を付けてY字状にした13見本を作成した。そして,平成17年3月22日ころ,これらの図と見本を小林特許事務所に送付し,アゲを幅方向に二つにして,それぞれに角度を付けるとの発明について出願準備を依頼した。(甲43の1,2〔審判乙13の1,2〕二又アゲの資料,甲74原告作成の平成22年1月18日付け陳述書)イ以上のとおり,アゲを二又にするという発明は,C第1発明,C第2発明を手がかりに原告が試作品を作り具体化させたものであるが,原告は,平成17年3月19日から本件特許出願(平成17年4月1日出願)までの間に,アゲを二つにすることについて被告又は被告代表者と一切話をしていない。また,原告は,被告が特許を出願したこと及びその出願の内容は知らなかった。(甲74原告作成の平成22年1月18日付け陳述書)ウ原告は,小林特許事務所へ出願を依頼した後も検討を重ね,種々の形状,構造(三分割など甲1の図3,4)や,原告の先願発明(甲34)との組合せを考え(甲1の図5ないし20),また,改良を続け,本件発明1のうち,分離片を2より多い数とするものを発明し,また,本件発明2ないし12を発明し,それらの内容を明細書に盛り込むように小林特許事務所に依頼した。(甲1本件特許の特許公報)エ原告は,被告代表者の息子を本件特許の出願人又は発明者とする旨小林特許事務所に伝えていたため,原告は,同特許事務所から,被告代表者の息子の住所,氏名を確認するよう指示された。そこで,原告は,平成17年3月31日ころ,被告代表者の息子の住所,氏名を確認するため被告代表者に電話したところ,被告代表者から「もう出した」(アゲを二又にする発明について既に特許出願したとの趣旨)と言われた。(甲71審判の尋問記録60頁原告本人,甲74原告作成の平成22年1月18日付け陳述書)オ原告は,?平成17年3月19日以降,本件発明について被告代表者と14一切話をしていないこと,?被告の出願内容を確認できる状態になかったこと,?アゲを二又にすることについて,被告代表者から具体的な発明内容を説明されたり,見本や図面を見せられたりしていないこと,?アゲを二又にすることは,むつ家電の従業員の誰かが提案した発明であったと認識していたこと,?本件発明は自分が考えたものであること,などの理由から,小林特許事務所に依頼し,出願人を原告単独として本件特許を出願した。 他方,本件特許出願時,原告は,「アゲを二つにする発明」をむつ家電社内の誰かが発明したという認識はしていた。(甲71審判の尋問記録58,59,60,68頁原告本人)しかし,本件発明の出願に当たり,Cの名前を発明者として掲載しなければならないという意識はなく,Cの名前を発明者からあえて外すという意図もなかった。(甲71審判の尋問記録60,68頁原告本人,甲74原告作成の平成22年1月18日付け陳述書)2冒認の成否前記1のとおり,Cは,平成14年11月30日以前に,本件発明1のうち二つの分離片を備えた発明(C第1発明,C第2発明)をしたこと,その後,原告は,Cから,同発明に係る特許を受ける権利を譲り受けた。そして,その後,原告は,C第1発明,C第2発明をもとに,本件発明1のうち分離片が2より多数のもの及び本件発明2ないし12を発明した。そうすると,本件特許出願は,その特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたものであり,冒認出願ではない。したがって,本件特許は123条1項6号の規定により無効であるとした審決の判断は誤りである。 第4被告の反論本件特許は,発明者でないものであって,発明者から特許を受ける権利を承継しない者の特許出願に対してされたものであり,123条1項6号の規定に15該当し無効である,とした審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。 1事実の経過及び証拠被告が主張する事実の経過及びその裏付けとする証拠は,以下のとおりである。 (1)アゲが二又のピンの開発に至る経緯ア被告の貝係止具への参入被告は,プラスティックの成形,金型製作等を業とする株式会社であるが,平成13年11月14日ころ,むつ家電から,連続した貝係止具(フープピン)の成形の可否を打診された。被告は,むつ家電に対し,平成13年11月14日付け見積仕様書(乙1)を送付した。(乙1平成13年11月14日付け見積仕様書)イ貝係止具の開発被告は,平成13年11月28日,むつ家電に対し,フープピンを生産するための図面の提出を依頼したが,むつ家電が,手元に図面がないと回答したため,被告の金型技術部でバラピンを工具顕微鏡により測定して提案設計図(乙2)を作成し,むつ家電にファックス送信した。被告は,平成13年11月29日,むつ家電から返信のファックスを受けた。 平成13年12月1日,むつ家電(担当者H)より,カールを2Rから5Rに変更するよう指示されたため,被告は,この指示に基づいて,カールを5Rに変更したバラピンの図面を作成し,むつ家電にファックス送信した。むつ家電は,これを確認した上で,同日,被告に対して確認設計図(乙3)をファックスにより返信した。 平成13年12月3日,むつ家電(担当者H)は,被告に対し,ロールピンについて,カールは5Rに,送りピッチは5mmになった旨記載した「FAX送信案内」と題する文書(乙4)をファックスにより送信した。 16被告は,その後,むつ家電(担当者H)の「FAX送信案内」(乙4)による指示に従って,送りピッチを5mm,カールを5Rに変更した50本取のフィルムゲートのキャビの設計図面(乙5)をむつ家電へ提出した。 (乙2提案設計図,乙3確認設計図,乙4「FAX送信案内」と題する文書,乙5設計図面)ウフープピンの生産開始その後更に,むつ家電は,被告に対し,フープピンに用いる継ぎの箇所を,ロープ抑えの先端とするように指示し,これを契機に被告はフープの成形方法を開発して送りピッチ5mmのフープピンを量産し,それをむつ家電に販売した。 そして,むつ家電は,被告のフープピンをロープにセットするためのフープピンセッターを第三者に製造させ,これを販売し,そのパンフレット(乙6)も配布している。上記フープピンセッターは,送りピッチを5mm以外に変更できないカム機構を採用している。(乙6パンフレット) エバラピンの生産開始平成13年から平成15年にかけて被告が製造していた,一本ずつ分かれた貝係止具(バラピン)の形状は,アゲピン見本図(乙7)のとおりである。バラピンの金型にはI型と?型があり,平成15年1月9日ころ,フープピンは,?型の金型と同じ型で生産していた。(乙7アゲピン見本図)オ被告の開発能力上記アないしエのとおり,被告は,プラスチック成形加工に関する技術を用いて,貝係止具を製造していたものであり,本件発明に係るアゲが二又のピンを開発するために必要な能力及び経験を有していた。 (2)二又ピンの発明の経緯ア貝の脱落17平成15年6月ころ,海中で養殖している帆立貝が貝係止具から抜け落ちることが,帆立貝の養殖漁家や養殖のための機器を供給する業者の間で問題となっていた。当時,むつ家電が被告から仕入れて養殖漁家に販売した貝係止具について,アゲがピンの根幹に密着していたために貝が抜け落ちたものや,アゲの破損によって貝が抜け落ちたものがあった。むつ家電は,貝が抜け落ちた貝係止具の現物を被告に提示し,問題点を説明した。 (甲41の1むつ家電と被告の平成15年1月17日付けの打合せに関するメモ,甲28平成21年9月17日付け上申書添付の参考資料16)イ被告による貝が脱落しない貝係止具の開発の経緯被告は,自らが貝係止具に使用している材料は,東レ株式会社(以下「東レ」という。)のものであったことから,材料取引業者(株式会社相田商会)を通じて,材料メーカーである東レに原因の分析を依頼した。その結果は,東レ作成の平成15年6月10付け技術資料「ホタテ貝止めファスナーの割れ観察結果について(ご報告)」(乙8)として報告され,同報告書には,割れや亀裂の原因は,成形の肉厚強度を超える応力負荷によるものと記載されていた。 被告は,構造の面から,アゲが根幹に密着する原因は,アゲのカールを5Rに変更したことに起因しているのではないかと推測し,その原因を究明するための実験として,被告の貝係止具と株式会社東北総合研究所(以下「東北総合研究所」という。)の貝係止具を,それぞれ帆立貝に通し,水槽を利用して上下の波動テストを行ったが,両者とも上記の密着現象は観察されなかった。そこで,両者の貝係止具をそれぞれ帆立貝に通して水道水の水圧を利用して帆立貝を回転させたところ,東北総合研究所の貝係止具よりも被告の貝係止具の方が,アゲが根幹に密着し易いことを確認した。 被告は,その原因が,貝係止具のアゲの先端が帆立貝の耳の殻の突起部分18に接触してアゲが疲労することにあることが解明できた。(乙8東レ作成の平成15年6月10付け技術資料「ホタテ貝止めファスナーの割れ観察結果について(ご報告)」)(3)アゲが二又のピンの発明アアゲが二又のピンの試作被告代表者は,平成15年6月10日から平成16年12月16日までの間に,従前は単独であったアゲを二又にした貝係止具を開発した。アゲを二又にすることにより,海中で発生する潮の流れのために帆立貝が回転してアゲの一片が潰されても,帆立貝が容易に貝係止具から抜け落ちることがなくなった。(甲71審判の尋問記録36,37頁被告代表者)また,平成16年12月16日,被告代表者は,アゲを二又にした貝係止具(以下「第一次二又ピン」という。)を開発した。その形状は,乙18の図1のとおりである。(乙18図面)イ金型の製作被告は,平成17年1月ころ,第一次二又ピンの金型をセイチョウ工業株式会社(以下「セイチョウ工業」という。)へ発注した。 セイチョウ工業は,平成17年1月20日,第一次二又ピンの仕様を確認するため,被告に対し,CAD図面(甲4)をファックスにより送信した。(甲4図面,甲71審判の尋問記録2ないし4頁証人I)セイチョウ工業は,平成17年2月7日,被告に対し,金型を作成するために必要な工程の内容を記載した工程指示書(甲5)をファックスにより送信した。(甲5工程指示書,甲71審判の尋問記録4,5頁証人I)被告は,平成17年2月7日,セイチョウ工業から,第一次二又ピンの金型の納品を受け,納品書(甲6)を受け取った。平成21年6月22日付け口頭審理陳述要領書(甲23)の参考資料8,同年7月31日付け通19知書(甲29)添付の写真に撮影されたものが,そのとき納品された金型である。上記金型を使用して,第一次二又ピン(甲3の1)を製作した。 (甲6納品書,甲71審判の尋問記録6,7頁証人I,甲23〔平成21年6月22日付け口頭審理陳述要領書〕の参考資料8,甲29〔平成21年7月31日付け通知書添付の写真,甲3の1写真)ウアゲが二又のピンの修正試作被告代表者は,平成17年2月12日,第一次二又ピンを修正した貝係止具(以下「第二次二又ピン」という。)を開発した。その形状は,乙18の図2のとおりである。 第二次二又ピンの金型は,甲23(平成21年6月22日付け口頭審理陳述要領書)の参考資料10に撮影されたものであり,製作された第二次二又ピンは,甲3の2(写真)の左側のものである。(乙18図面,甲23〔平成21年6月22日付け口頭審理陳述要領書〕の参考資料10,甲3の2写真)エ修正試作したピンについてのテスト依頼と協議被告は,平成17年2月12日ころ,第二次二又ピンについて,帆立貝が第二次二又ピンから落下するかどうか確かめるテストをむつ家電に依頼し,そのテストのために,むつ家電に対して第二次二又ピンを出荷した。 (甲71審判の尋問記録40,41頁被告代表者)平成17年3月19日,原告及びむつ家電従業員のEが被告へ来社し,被告代表者らとアゲを二又にしたピンについて協議した。その際,被告代表者は,アゲを二又にしたピンについて話し,また,「若い者の時代だから息子同士の名前で出願しよう」との提案をした。(甲71審判の尋問記録58,60,61,68頁原告本人)その際,むつ家電のEは,被告のG課長と,水道水の水圧を利用して帆立貝を回転させ,アゲを二又にしたピンのアゲが根幹に密着して帆立貝が20抜け落ちないかを確認する性能テストを実施した。(甲23〔平成21年6月22日付け口頭審理陳述要領書〕の参考資料11)(4)特許出願被告は,平成17年3月25日,アゲが二又の貝係止具の発明の特許出願を,被告代理人特許事務所(以下「柿澤特許事務所」という。)に依頼し,同特許事務所に連絡書(乙9)をファックスにより送信した。 被告による特許出願は,平成17年4月4日,特願2005-108083号として受理された。(乙9被告作成の平成17年3月25日付け連絡書,甲2特開2006-280329号公報)(5)量産体制の整備と販売供給アアゲが二又のフープピン(連続係止具)の金型の完成被告は,平成17年12月20日ころ,第二次二又ピンの二又のアゲに樹脂が均一に注入されるようにするためサイドゲート方式を採用したフープピン(連続係止具)の金型(以下「二又フープピン金型」という。)を完成させた。この金型の継ぎの形状は,平成17年3月20日よりシングルピンのフープピンに用いたもので,ロープ抑えの中央を2本の紐で継いだものであった。この金型により製作されたフープピン(以下「二又フープピン」という。)は,甲3の3の写真に撮影されたものであった。(甲3の3写真)イ二又フープピンの供給依頼むつ家電と被告は,平成18年2月18日,八戸において,「アゲピンの今後についての打ち合わせと決定事項」(乙10)と題する文書を取り交わした。乙10には,「●MCIでの新デザインピン(ロール止め・・・,サンプルは2又アゲだがそれ以外でもよい)提供で,むつ家電特機はこれをテストする。・・・」と記載されており,被告が,アゲが二又のものを含めた新たなデザインの貝係止具を製造してむつ家電へ供給し,むつ家電がこ21れをテストするとされており,むつ家電も,被告がアゲが二又の貝係止具を製造し供給することを認めている。(乙10平成18年2月18日付けの「アゲピンの今後についての打ち合わせと決定事項」と題する書面)ウ二又フープピンの販売被告は,平成18年3月6日,二又フープピンを,北海道の親戚(J)に販売した。(甲14宅配便伝票)エ二又フープピンの修正依頼とその撤回被告は,平成18年7月13日,二又フープピン金型について,二又のアゲを倒れ易くするために,二又の一方に窪みを付けるようにセイチョウ工業に依頼した。これを受け,セイチョウ工業は,被告に対し,その形状確認のため,平成18年7月13日,改良設計図面(乙11)をファックスにより送信した。 被告が,平成18年7月13日以降,改良設計図面(乙11)に基づいた形状でフープピンの試供品を製作して漁家に配布したところ,むつ家電を退社したシンワ株式会社のHより,アゲに窪みを付けるとシンワ株式会社の特許に抵触するので止めるようにとの指摘を受け,被告は,セイチョウ工業に対し,金型を元の状態に復元修正するよう依頼した。(乙11改良設計図面)オむつ家電への二又フープピンの販売平成18年11月14日,むつ家電より被告に対し,二又フープピンの注文書(乙12)が送付された。 これに対し,被告は,二又フープピンの金型を,アゲに窪みの付いたもの(改良設計図面(乙11)に基づいたもの)から再び窪みのないものへ修正するのに時間を要するため,注文の意向に沿うことはできず,修正後サンプルを提出してその評価後に納品を決定する旨のコメントを注文書に記載して,原告に返送した。 22被告は,平成19年1月17日,窪みのないものに再び修正した金型で製造した二又フープピンをむつ家電に販売をし,むつ家電に対し,その納品について請求書(乙13)を送付した。(乙12むつ家電作成の平成18年11月14日付け注文書,乙13被告作成の平成19年1月17日付け請求書)2まとめ前記1(3)のとおり,被告代表者は,本件発明1のうち,二つの分離片を備えた(アゲを二又にした)貝係止具に係る発明をした。これに対して,C又は原告は,アゲを二又にした貝係止具に係る発明をしていない。また,被告代表者からその特許を受ける権利を承継した者ではない。上記発明は,本件発明のうち中核的な技術を含むものであり,上記発明を基礎にしない限り,本件発明のうち上記発明以外の部分(本件発明1のうち分離片を2より多数としたもの及び本件発明2ないし12)を発明することはできない。 そうすると,本件特許出願は,その特許に係る発明の発明者自身ではなく,発明者から特許を受ける権利を承継した者でもない原告によりされたものであるから,冒認出願であり,本件特許は123条1項6号の規定により無効であるとした審決の判断に誤りはない。 第5当裁判所の判断当裁判所は,123条6号所定の「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」について,原告において,立証を尽くしたとはいえないから,本件特許は,無効とすべきものであると判断する。その理由は,以下のとおりである。 1冒認出願に係る事実の主張立証責任ないし主張立証の程度について特許法は,29条1項に「発明をした者は,‥‥‥特許を受けることができる。」旨,33条1項に「特許を受ける権利は,移転することができる。」旨,及び34条1項に「特許出願前における特許を受ける権利の承継は,その承継23人が特許出願をしなければ,第三者に対抗することができない。」旨を,それぞれ規定し,特許権を取得し得る者を発明者及びその承継人に限定する。同規定に照らすならば,特許出願に当たり,同要件に該当する事実が存在する旨の主張,立証は,出願人において負担すると解するのが合理的である。このことは,36条1項2号において,願書の記載事項として「発明者の氏名及び住所又は居所」が掲げられ,特許法施行規則5条2項において,出願人は,特許庁からの求めに応じて譲渡証書等の承継を証明するための書面を提出しなければならないとされていることとも整合する。 ところで,123条1項6号は,「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき。」(冒認出願)を,特許無効事由の一つとして挙げている。同規定によれば,「その特許が発明者でない者・・・に対してされたとき」との事実が存在することの主張,立証は,無効審判請求人が負担すると解する余地もないわけではない。しかし,このような規定振りは,同条の立法技術的な理由に由来するものであることに照らすならば,無効事由の一つを規定した123条1項6号が,29条1項における主張立証責任の原則を変更したものと解することは妥当でない。したがって,123条1項6号を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,少なくとも形式的には,特許権者が負担すると解すべきである。 もっとも,123条1項6号を理由とする特許無効審判における主張立証責任の分配について,上記のように解したとしても,そのことは,「出願人が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者である」との事実を,特許権者において,すべての過程を個別的,具体的に主張立証しない限り立証が成功しないことを意味するものではなく,むしろ,特段の事情のない限り,「出願人が発明者であること又は発明者から特許を受ける権利を承継した者24である」ことは,先に出願されたことによって,事実上の推定が働くことが少なくないというべきである。 無効審判請求において,特許権者が,正当な者によって当該特許出願がされたとの事実をどの程度,具体的に主張立証すべきかは,無効審判請求人のした冒認出願を疑わせる事実に関する主張や立証の内容及び程度に左右されるといえる。 以上のとおり,正当な者によって特許出願がされたか否かは,発明の属する技術分野が先端的な技術分野か否か,発明が専門的な技術,知識,経験を有することを前提とするか否か,実施例の検証等に大規模な設備や長い時間を要する性質のものであるか否か,発明者とされている者が発明の属する技術分野についてどの程度の知見を有しているか,発明者と主張する者が複数存在する場合に,その間の具体的実情や相互関係がどのようなものであったか等,事案ごとの個別的な事情を総合考慮して,認定すべきである。 以下,上記の観点から検討する。 2原告,被告間に争いのない事実等以下の事実は,当事者間に争いがないか,又は客観的に明らかな事実である。 すなわち,?平成15年ころ,帆立貝が貝係止具から抜け落ちることが問題となったこと,?平成17年3月19日,原告とEが被告を訪問し,被告代表者らと協議をし,その際,被告代表者が,アゲ(分離片)を二又にする旨の発言をしたこと,そして,被告代表者は,原告の息子と被告代表者の息子の名義で出願しようと提案したこと,?原告は,その直後に,小林特許事務所に電話して,「貝止めアゲを幅方向に二つにする,そしてそれぞれに角度をつける」という具体的な内容を伝えて,特許出願の願書の原稿の作成を依頼し,同年3月22日ころ,必要な図と見本とを特許事務所に送付して,特許出願を依頼した。 また,原告の主張によれば,原告は,アゲを二つにするとの被告代表者の発言を聞いて,自ら,ニッパでアゲを二つに切る旨の発言をしているのであるか25ら,原告は,被告代表者がアゲを二つにするとの発言を聞いた際に,アゲを二又にしたことの技術的意義を理解していたものと解するのが相当である。すなわち,原告は,本件発明1のうちのアゲ(分離片)を二つにした発明について,被告代表者から聞いて,その技術的な意味を理解していたといえる。 3原告の主張に対してこれに対して,原告は,?前記協議をした平成17年3月19日より前であり,かつ,平成14年11月30日より前の時期に,Cが,本件発明1のうち二つの分離片を備えた,C第1発明,C第2発明を発明したこと,?原告は,Cから,これらの特許を受ける権利を譲り受けたこと,?原告は,C第1発明,C第2発明を基礎にして,本件発明1のうち分離片が2より多数のもの及び本件発明2ないし12を発明したことがあり,いわゆる冒認発明ではない旨を主張する。 しかし,原告の主張は,その主張自体においても,不自然であって,採用の限りでない。 すなわち,貝が貝係止具から脱落する不都合は,平成10年ころから発生し,むつ家電では,長期にわたって,その対応策を検討してきたという経緯に照らすならば,仮に,むつ家電の従業員であるCにおいて,平成14年11月30日より以前に,C第1発明,C第2発明を完成させていたとするならば,同発明に関して,特許出願されてしかるべきであり,また,解決課題の全部又は一部が,すでに解決されていたものと解するのが合理的である。しかるに,原告は,平成17年3月19日,未だ解決できていない問題を検討するために,被告と協議を行い,被告代表者から,貝が脱落する不都合に対する技術的な解決策を提示されると,その直後に,特許出願手続を行っていることに照らすならば,本件発明が,C第1発明,C第2発明に基づくものであると解することはできない。 以下,この点について詳細に検討する。 26(1) 平成17年3月19日の協議の状況原告は,?平成17年3月19日,被告で行われた協議において,被告代表者が,「アゲを二つにする」技術に関して提案を受けたが,形状,構造等に関する具体的な説明はなく,見本や図面等を見せられることもなかった(前記第3,1(8)イ),?原告は,被告代表者の「アゲを二つにする」との提案内容を理解することができなかった(前記第3,1(8)エ),?被告代表者は,原告に出願準備を依頼し,「共同で出そう,息子の名前で」との提案を受けたが,原告は発明の内容を具体的に理解することはできなかった(前記第3,1(8)オ),?原告は,それまで貝係止具の開発を多く手がけてきた経験・実績があること,C第1発明,C第2発明が提案されたことを潜在的に記憶していたことから,被告代表者の着想を聞いたとき,自分から「ニッパを貸してくれ,真ん中で切ったら二つに分かれるべ」と提案し,帰りの電車の中か,会社へ帰ってからかははっきりしないが,原告は自分で考えて,アゲを二又にすること(二又アゲ)をメモに残した(前記第3,1(8)カ),?しかし,平成17年3月19日の被告における協議をした際には,原告は,アゲを二つにする発明の発明者が誰であったかすぐに思い浮かばなかった(前記第3,1(8)キ),と主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり不自然な点があり,到底,採用の限りでない。すなわち,ア原告は,被告代表者の技術的な提案を受けたとき,自分から「ニッパを貸してくれ,真ん中で切ったら二つに分かれるべ」と発言したというのであるから,アゲをニッパで切ることにより,「アゲを二つにする」という被告代表者の提案を理解し,具体化できると認識していたと認められ,「アゲを二つにする」との提案内容を理解することができなかったとの原告の主張は,原告のその後の行動態様と相容れないものであり,採用することができない。 27イまた,被告代表者が原告に出願準備を依頼し,「共同で出そう,息子の名前で」と述べたとの点については,当事者間に争いはない。同日行われた協議の重要性に照らすならば,仮に,原告が,被告代表者の発言に係る技術内容や提案内容を理解できなかったのであれば,原告は,被告代表者に対し,詳細な質問をするなどして,発言を理解して行動をするのが自然であるところ,そのような確認をした形跡は窺われない。むしろ,原告は,被告代表者の発言から,発明の技術内容を十分に認識,理解していたと推認するのが合理的である。 ウ平成17年3月19日に行われた協議は,貝係止具において,貝が脱落する不都合に対する対策等を目的とするものであった。 ところで,原告は,?貝が貝係止具から脱落する不都合は,進和化学の貝係止具を販売していた平成10年ころから発生し,むつ家電では,長期にわたって,その対応策を検討してきたこと(前記第3,1(2)),?原告の主張によれば,原告は,C第1発明の資料を受け取り,その当時,その発明の内容を知っていたこと(前記第3,1(3) ),平成16年6月ころ,原告は,C第2発明を浄書した一覧表及び図面をチェックし,Dに図面の手直しを指示し,手直し後の図面は,グレーファイルに綴じて,手元に常備し,必要に応じて目を通していたこと(前記第3,1(6)エ,オ)があったと主張する。 仮に,原告の主張の事実があったとすれば,原告は,平成17年3月19日の協議において,被告代表者から,貝が脱落する不都合に対する技術的な解決策を提示され,特許の出願を提案されたのであるから,仮に,C第1発明,C第2発明が存在したのであれば,原告において,既に,同一の発明がされていることを述べるのが自然であるが,原告がそのようなことを説明した形跡は窺われない。 そのような経緯に照らすならば,C第1発明,C第2発明がされたと認28めることはできない。 (2) 発明者欄の記載原告は,Cが,本件発明1のうち二つの分離片を備えたC第1発明,C第2発明を発明し,原告は,Cから,これらの特許を受ける権利を譲り受けたものであり,また,原告は,C第1発明,C第2発明をもとに,本件発明1のうち分離片が2より多数のもの及び本件発明2ないし12を発明したと主張する。仮にそのような事実があるとすれば,Cが本件発明の重要な部分を発明したのであるから,本件特許の特許出願の願書に発明者としてCを表示するはずである。平成16年から平成18年において,原告を出願人とし,特許出願及び原告を特許権者とする特許出願においても,Cを発明者として記載したものは,?特願2004-377514号,発明者A・C・原告,?特願2005-26785号,発明者A・C・原告,?特許第3694522号,発明者A・C・原告,?特許第3786283号,発明者A・原告・C,?特許第3786284号,発明者A・C・原告,?特許第3786285号,発明者A・C・原告など数多く存在する。しかし,本件特許の特許出願の願書においては,Cは発明者として表示されていないのみならず,その合理的な理由は,何ら示されていない(甲1)。 このような事実に照らすと,CがC第1発明,C第2発明を発明し,原告がこれらの特許を受ける権利を譲り受けたとの原告の主張は,不自然であるといえる。 (3) 原告提出に係る各証拠の検討各証拠を検討しても,CがC第1発明,C第2発明をしたこと,CがC第1発明,C第2発明に係る特許を受ける権利を原告に譲渡したことを認めることはできない。 アC第1発明について(ア)甲4629甲46は,C作成の平成21年6月18日付け譲渡証書及び添付図面であり,譲渡証書には,添付図面に記載された発明(アゲを二又にする発明)の特許を受ける権利等を原告に譲渡した旨が記載されている。 しかし,甲46は,原告の主張によれば,C第1発明が発明されたとする時期(平成14年11月30日以前)から相当期間経過後に,しかも無効審判請求後に作成されたものであり,その時期に作成した意図も不明であり,その信用力は低い。 (イ) 甲49の1ないし9,甲50甲49の1ないし9は,むつ家電に保管されていたとされる赤ファイル中の書面である。そして,C作成の平成21年6月18日付け陳述書(甲50)には,平成21年5月30日,むつ家電代表者である原告,むつ家電の従業員であるE・A・Bら,小林正治弁理士がむつ家電において無効審判の証拠を探した際,Aがむつ家電の工場の2階から赤ファイルを見つけた旨記載されており,赤ファイルの写真が添付されている。 しかし,?赤ファイルの第1発見者は,本件特許出願の願書に発明者として表記され,かつ,原告の息子であるAであること,?赤ファイルは,加除式のファイルであり,綴じられた書面を容易に差し替えることができ,差し替えても痕跡が残らないことからすると,何らの作為も加えられない状態で赤ファイルが保管され,発見されたものと認めることは到底できない。 また,赤ファイル中の書面である甲49の1ないし9をみると,日付が記載されているのは,甲49の2に「H12 4 」,甲49の6に「 H.12.4 」,甲49の7に「平成12年4月4日」と記載されているのみであり,C第1発明が記載されたとされる甲49の8,9には日付の記載はなく,「アゲを2つ割りにしたピン」との文言及びその形状が描かれた「新しいピンの提案」と題する甲49の3にも日付の記載はなく,甲49の130ないし9の書面が同時に作成されたことを裏付ける証拠もないことからすると,甲49の1ないし9に基づいて,C第1発明が記載されたとされる甲49の8,9の作成時期を認定することは,困難である。 C作成の前記陳述書(甲50)には,Cが,赤ファイル中の書類(甲49の8,9)をむつ家電の旧事務所で書いたことを思い出したと記載され,同書類が書かれた時期が,むつ家電の現社屋が完成する前である平成14年11月(甲51参照)であったかのような部分がある。しかし,?Cの上記記述の内容は,甲50作成時より6年以上前のことについてのものであること,?赤ファイル中の書類(甲49の8,9)を旧事務所で記載したことを思い出した理由,又は思い出す契機となった事情などは,何ら触れていないことからすると,Cが赤ファイル中の書類(甲49の8,9)をむつ家電の旧事務所で書いたことは,裏付けに乏しい。 (ウ) 甲71甲71は無効審判における証人I,証人C,請求人代表者本人(被告代表者本人),被請求人本人(原告本人)の尋問記録である。証人Iは,被告から貝係止具の金型の製造の委託を受けていたセイチョウ工業の従業員であり,被告と密接なつながりがあり,他方,証人Cは,むつ家電の従業員であり,原告が,Cが発明したC第1発明,C第2発明の特許を受ける権利を承継したと主張している者であり,原告と密接なつながりがある。このような事情に照らすと,各証人の尋問結果は,必ずしも中立公平な立場に基づくものとはいえず,採用の限りでない。 (エ) 甲47甲47は,A作成の平成21年6月3日付けの宣誓供述書であり,平成21年5月30日,むつ家電代表者である原告,むつ家電の従業員であるE・A・Bら,小林正治弁理士がむつ家電において証拠を探した際,31Aがむつ家電の工場の2階で赤ファイルを発見した旨記載されており,赤ファイルを発見したとされる棚や赤ファイルの写真が添付されており,また,Aが法所定の手続に従って公証人の前で宣誓供述書の記載が真実であることを宣誓した上で署名押印したことなどが記載された公証人作成の宣誓認証が添付されている。 しかし,前記のとおり,さらに,赤ファイルが発見されたとされる場所は,棚に書類をひもで縛った束が積み重ねられている状態であり,保管中の書類の標目や保管期限などが記録されていたわけでなく,改変が加えられない管理状況とはいえない。公証人の宣誓認証によれば,Aが法所定の手続に従って公証人の前で宣誓供述書の記載が真実であることを宣誓した上で署名押印しているが,宣誓供述書の記載内容が真実であると,認めることはできない。 (オ) 甲48甲48は,むつ家電代表者である原告,むつ家電の従業員であるE・C・A・Bら,小林正治弁理士の署名押印のある平成21年5月30日付け確認書であり,平成21年5月30日,むつ家電において証拠を探した際,Aがむつ家電の工場の2階で赤ファイルを発見した旨,赤ファイルには,甲49の1,9に相当する書面が綴じられていた旨などが記載されている。 しかし,前記のとおり,何らの作為も加えられない状態で赤ファイルが保管され,発見されたものと認めることはできない。 (カ) 甲82甲82は,DがC第1発明をパソコンで浄書した書面であるとして提出されたものであるが,作成年月日及び作成意図が明らかでなく,甲82に基づいて,C第1発明が平成14年11月30日以前に発明されたことを認めることはできない。 32イC第2発明について(ア)甲31甲31は,C作成の平成21年1月30日付け陳述書であり,Cが,アゲを二又にすることを提案したこと,アゲを二又にする発明の特許を受ける権利を原告に譲渡したことなどが記述されている。 しかし,甲31は,CがC第2発明を発明したと主張される時期(平成16年6月18日以前)から相当期間経過後に,しかも無効審判請求後に作成されたものであるから,その信用性は高いとはいえない。 また,仮にその点を措くとしても,甲31の記述によっても,CがC第2発明を発明した時期は明らかではなく,むつ家電内において日報や会議録は実際上あまり作成されていなかったとされており,C第2発明を客観的に裏付ける書面等が存在しないことが窺われる。 (イ) 甲72甲72は,Dが作成した「ピンに対する提案」と題する一覧表と図面である。しかし,甲72は,作成時期等の記載はなく,いつ作成されたか明らかでない。 甲72は,グレーファイル(甲80)に綴じられていたとされるが,後記のとおり,グレーファイルは,書類を作成順に綴じてそのまま保管していたものとは認められないから,グレーファイルに綴じられていたことを考慮しても,甲72の作成時期は,明らかでない。 (ウ) 甲80(グレーファイル)グレーファイル(甲80)は,むつ家電において原告の手元に置かれていたとされるファイルであり,表紙には,平成15年7月15日以降に作成した書類を綴じた趣旨と解される「H15.7.15〜」との記載がある。 しかし,?グレーファイルは原告の手元に置かれていたとされており,33原告が意のままに扱えたこと,?グレーファイルは加除式のファイルであり,綴じられた書類を容易に差し替えることができ,差し替えても痕跡が残らないことに照らせば,C第2発明が提案されたとされる平成16年6月18日以降,グレーファイルが何らの作為も加えられない状態で保管されたと認めることはできない。また,グレーファイル(甲80)に綴じられた書類の作成年月日を表紙側から順にみると,平成17年3月6日(「八戸市コートリーにてミーティング」),平成16年9月3日(「(株 )M・C・I・エンジニアリング」),同年7月28日(「フープピン不良内容」),同年8月18日(図面),同年7月30日(図面),同年6月18日(「脱落テスト(耳呂り)」,同年7月17日(「サンプルピン耳呂りテスト」),同年2月12日(「打ち合わせ議事録」),同年4月14日(「(株 )むつ家電特機」),同年2月17日(「 (株 )エム・シー・アイ.エンジニアリングY社長殿」),同月4日(「MCIピン在庫」),平成15年7月24日(「ピン形状の変更理由」,図面等),同月11日(「自動ピンの今後について」),同月4日(「自動ピン及びバラピンの在庫」),同月10日(「お客様からの苦情(自動ピン)」),同月16日(「脱落テスト」),同月15日(「脱落テストの内容」),同月16日(「現場での話し合い」),同月10日(「ピンの実験結果」)であり,日付順に綴じられてていない箇所があり,また,平成15年7月15日より前の作成日のものがあり,「平成15年7月15日〜」との表紙の記載と整合しない。したがって,これらの点を考慮すると,グレーファイルは,書類を作成順に綴じてそのまま保管していたものとは認められない。 (エ) 甲52甲52は「今後のピンへの提案」と題する一覧表及び図面であり,作成年月日として「2004.6.18」,作成名義として「株式会社むつ家電特機D」との記載がある。甲52を,同様の一覧表及び図面で34ある甲72と比較すると,甲52の一覧表は,内容が甲72の一覧表と同じ部分もあるが,異なっている部分もある。また,甲72には手書きの図面を取り込んで表示した部分があるが,甲52には,手書きの図面は表示されていない。さらに,貝係止具の図面について,甲52には,変更点が点線で示されている。甲80(グレーファイル)中には,甲72と同じ一覧表及び図面が綴じられている。 原告は,Dが,C第2発明の手書きの図面及び他の従業員の提案に係る手書きの図面をパソコンにより浄書,整理して一覧表及び図面とし,それらはグレーファイル(甲80)に綴じられたが,平成16年6月ころ,原告は,C第2発明を浄書した一覧表及び図面とチェックし,Dに図面の手直しを指示し,手直し後の図面は,グレーファイルに綴じられたと主張する(前記第3,1(6)ウ,オ)。 甲52と甲72を比較した場合,貝係止具の図面について,甲52には変更点が点線で示されていることから,図面を手直ししたという原告の上記主張に従うとすると,甲52が手直し後の図面と解するのが合理的である。しかし,グレーファイル(甲80)には,甲72のみが綴じられており,手直し後の図面をグレーファイルに綴じたという原告の主張と矛盾する。そうすると,甲52が手直し後の図面として作成され,グレーファイルに綴じて保管されていたという原告の主張は採用できず,甲52の作成,保管の状況は明らかでないことになる。後記のとおり,甲83の1,2によっても,甲52が平成16年6月18日に作成されたことが裏付けられるとはいえず,その他に,甲52が同日作成されたことを裏付ける客観的証拠はない。 そうすると,甲52は,その作成,保管の状況が明らかでなく,同書面に記載された作成日付である平成16年6月18日に作成されたことを裏付ける客観的証拠はなく,甲52により,同日以前にC第2発明が35されたとの事実が裏付けられるとはいえない。 (オ) 甲83の1,2甲83の1,2は,いずれもD作成の車両管理票であり,甲83の1は平成16年6月17日付けで「ピンの提案書のまとめ」との記載があり,甲83の2は同月18日付けで「ピンの提案書の作成」との記載がある。そして,甲83の2の作成日は,甲52に記載された作成日付と整合している。 しかし,甲83の1,2のような車両管理票が,日々の出来事をそのまま記載するものとして日々作成されていたとは,考えにくい。また,原告は,前記のとおり,甲52は,甲72を基礎に,手直しして作成されたものと主張する。しかし,甲72については,「ピンの提案書のまとめ」をした旨記載した車両管理票が提出されておらず,甲52についてのみ,「ピンの提案書のまとめ」をした旨を車両管理票に記載している点で,不自然である。また,甲52が手直し後のものであるとすれば,甲72よりも甲52の方が重要であるとも考えられ,原告も,手直し後の図面がグレーファイルに綴じられた旨主張する(前記第3,1(6) オ)。 しかし,原告の手元に置かれていたとされるグレーファイル(甲80)には,甲72しか綴じられておらず,この事実は,原告の上記主張と合致しない。 このような事情を考慮すると,甲83の1,2によって,甲52が平成16年6月18日に作成されたことが裏付けられるとはいい難い。 (カ) 甲32甲32は,C作成の平成21年1月30日付け譲渡証書であり,添付図面に記載した,アゲを二又にし,アゲに段差をつける発明の特許を受ける権利等を原告に譲渡する旨を記載した書面である。 しかし,甲32は,C第2発明がされたと主張される時期(平成1636年11月以前)から相当期間経過後に,しかも無効審判請求後に作成されたものであるから,作成された意図も不自然であるといえる。 4まとめ以上によれば,原告の主張,すなわち,「Cが,本件発明1のうち二つの分離片を備えたC第1発明,C第2発明を発明し,原告が,Cから,これらの特許を受ける権利を譲り受けたものであり,また,原告が,C第1発明,C第2発明をもとに,本件発明1のうち分離片が2より多数のもの及び本件発明2ないし12を発明した」との主張は,極めて不自然であり,採用の限りでない。 そうすると,本件において,特許権者である原告は,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」について,合理的な立証を尽くしたとはいえない。したがって,本件特許は,123条1項6号に該当し,無効とすべきものであり,同旨の審決の判断に誤りはない。(なお,仮に被告代表者が原告と共同発明者であるとすれば,原告単独による本件特許の特許出願は,38条の規定に違反するものとして123条1項2号の無効理由を有することになるが,いずれの無効理由に該当するかはさておいて,少なくとも,原告がCの発明の特許を受ける権利を譲り受け,また自ら発明した,との原告の上記主張事実について,立証を尽くしたものとはいえない。)。 5付言本件無効審判において,双方から提出された証拠中には,改変されたことが明らかな証拠や,立証事実との関係が吟味されていない証拠が,少なからず存在する。 例えば,被告から提出されたセイチョウ工業作成の2005年(平成17年)2月7日付け納品書(甲6)には,セイチョウ工業の住所として,「宮城県大崎市・・・」と記載されていた。しかし,セイチョウ工業作成の同年11月30日付け請求書(甲17)には,セイチョウ工業の住所として「宮城県古川市・・・」37と記載されており,甲79の1,2によれば,宮城県において,古川市が周辺の町と正式に合併して大崎市となった日は,平成18年(2006年)3月31日であることが認められることに照らすならば,2005年(平成17年)2月7日付け納品書(甲6)の日付については,改変された疑いを免れない。 当事者及びその代理人は,審判手続及び訴訟手続において,偽造ないし変造した証拠や虚偽の陳述ないし証言がされることのないよう,十分に留意して,正当な証拠に基づいて,適正な判断を求めることが要請される。 6結論以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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