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関連審決 審判1998-35494 審判1999-35574
審判1998-35412
関連ワード 方法の発明 /  製造方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  寄せ集め /  周知技術 /  上位概念 /  着想 /  援用権(援用) /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  同意 /  設定登録 /  請求の範囲 /  合理的な理由 /  新たな無効理由 /  異議申立 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 27号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理士 三枝英二
同 掛樋悠路
同 藤井淳
被告 ペルメレック電極株式会社
訴訟代理人弁護士 熊倉禎男
同 富岡英次
同 田中伸一郎
同 宮垣聡
同 竹内麻子
訴訟代理人弁理士 西島孝喜
同 平山孝二
同 須田洋之
同 森浩之
同 鈴木敏弘
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/10/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が平成10年審判第35412号,第35494号及び平成11年審判第35574号事件について平成12年12月5日にした審決中「特許第2134417号の請求項2,4,5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「電解オゾンを使用する水処理方法及び装置」とする特許第2134417号の特許(昭和63年9月29日出願(以下「本件出願」という。),平成10年1月16日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は5である。)の特許権者である。
原告は,平成10年10月14日,本件特許をすべての請求項に関して無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,これを平成10年審判第35494号事件として,平成10年審判第35412号事件及び平成11年審判第35574号事件と併合して審理した。被告は,審理の過程で,平成11年4月12日,請求項の文言の訂正を含む明細書(以下「本件明細書」という。)の訂正を請求した(以下「本件訂正請求」という。)。特許庁は,審理の結果,平成12年12月5日,本件訂正請求を認めなかった上で,「特許第2134417号の請求項1,3に係る発明についての特許を無効とする。特許第2134417号の請求項2,4,5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,同月25日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(本件訂正請求による訂正前) (1) 請求項1 純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ,該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し,分離したオゾン含有ガスを被処理水と接触させ,該被処理水を処理することを特徴とする電解オゾンを使用する水処理方法。
(2) 請求項2 純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ,該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し,分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とした後,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理することを特徴とする水処理方法。
(3) 請求項3 被処理水が流通する被処理水流通部に,純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを生成させる電解オゾナイザーを連結し,該電解オゾナイザーから取り出した前記オゾン含有ガスにより前記被処理水を処理することを特徴とする水処理装置。
(4) 請求項4 分岐された被処理水の一部が流通する被処理水流通部に,純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させる電解オゾナイザーを連結し,該電解オゾナイザーから取り出した前記オゾン含有ガスを前記分岐被処理水に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とし,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理することを特徴とする水処理装置。
(5) 請求項5 被処理水流通部が溶解塔であり,該溶解塔の下部に装着した散気フィルターを通してオゾン含有ガスを前記溶解塔に供給し,該溶解塔中の被処理水と接触させ,所定のオゾン濃度の分岐被処理水を製造するようにした請求項4に記載の装置。
(以下,請求項2の発明を「本件発明2」,請求項4の発明を「本件発明4」,請求項5の発明を「本件発明5」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。このうち,本件に係る部分の理由は,要するに,本件発明2,4及び5は,原告の提出した証拠によっては,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,とするものである。
原告の主張の要旨
審決は,特開昭62-221490号公報(本訴甲第4号証,審決参考資料5,以下「引用例4」という。)に記載された発明(以下「引用発明4」という。)を誤認して本件発明2との対比判断を誤り(取消事由1),本件発明2,さらには本件発明4,5の進歩性の判断を誤った(取消事由2ないし4)ものであるから,違法として取り消されるべきものである。
1 取消事由1(引用発明4の認定の誤り・本件発明2との対比判断の誤り) 審決は,本件発明2の進歩性について, 「資料1〜4,6〜8(判決注・参考資料8は「第114回 三e技研セミナー講演集 オゾナイザー技術の進歩とその応用」(昭和62年・三e書房刊)であり,本訴甲第3号証である。以下「引用例3」という。)にも,被処理水の分岐について何ら示唆するところがなく,資料5(判決注・引用例4)にも,被処理水を一部分岐することが記載されているが,分岐被処理水にオゾン含有ガスを注入して「所定のオゾン濃度の分岐被処理水」を調製することまで示唆されてはいない。」と認定した上で,「してみると,本件発明2は,上記証拠方法の証拠に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。」(審決書30頁28〜33行) と判断した。すなわち,審決は,引用例4と本件発明2との対比を行い,その相違点を「分岐被処理水にオゾン含有ガスを注入して「所定のオゾン濃度の分岐被処理水」を調製する」点にあるとした上,その相違点は引用例4に示唆されていないと認定判断した。
しかし,引用例4には,「分岐被処理水にオゾン含有ガスを注入して「所定のオゾン濃度の分岐被処理水」を調製すること」が,少なくとも示唆されているから,かかる認定は誤りである。
(1) 「分岐被処理水」の存在 ア 引用例4には,審決も認めているように,被処理水を一部分岐することによって「主流」と「支流」とに分けることが記載されている(特許請求の範囲第1,2,3項,2頁左下欄4〜16行など)。この支流が分岐被処理水であることは明らかである。
イ 被告は,引用例4の「支流」は,電解槽において電解する原料水であって,オゾンが注入されて「オゾン処理」がなされるべき本件発明2の「被処理水」とは異なるものである,と主張する。
しかし,引用例4では,被処理水(支流)の一部が電解の原料水を兼ねているだけであり,結局のところ,この原料水から生成したオゾン含有ガスが支流自体に注入されてオゾン溶解水となっている。したがって,分岐被処理水が引用例4に開示されていることに何ら変わりはない。
(2) 「オゾン含有ガス」を被処理水に「注入」することの存在 ア 引用例4には, 「電解槽を電流が流れると,陽極に酸素とオゾンからなる混合物が発生する。O2対O 3の割合は,平均してたとえば85重量%対15重量%である。」(3頁左上欄) と,酸素とオゾンからなる混合物が発生することが明記されている。そして,支流に設置した電解槽において水を電解することにより,電解槽の陽極で混合ガスとして「酸素とオゾンからなる混合物」のガスが発生し,直ちに支流と接触して溶解することによって,支流がオゾン水になるのである。
引用発明4は,オゾンと酸素のガス混合物を発生させ,これを支流に注入し,支流をオゾン水に変えているのであり,これはまさしく「分岐被処理水にオゾン含有ガスを注入してオゾン水を生成させる」ことの一態様にほかならない。
イ 被告は,電解槽の陽極室で支流水のH2O分子からオゾン分子が生成する電解反応が液相で進行するため,生成したオゾンの大部分は,陽極液中に溶解しており,この陽極液が,液相のまま電解槽から取り出されているだけであるから,「オゾンガスの溶解」ましてや「オゾン含有ガスの注入」ということはない,と主張する。
しかし,酸素及びオゾンがそれぞれ「ガス」として生成しているからこそ「混合物」(甲第4号証3頁左上欄)という表現が用いられるのである。もし酸素もオゾンもガスとして生成せずにそれぞれ最初から水に溶解していれば,そもそも「酸素とオゾンの混合物」という表現は技術的に成り立たないのである。そして,いったんオゾンガスが生成し,最終的にオゾン水(陽極液)が生成するということは,そこに,生成したオゾンガスが水に溶解するというプロセスが存在しているからであり,これはまさに「オゾン含有ガスの溶解」,「オゾン含有ガスの注入」という現象にほかならない。
(3) 「所定のオゾン濃度」の存在 引用例4には,支流を電解槽に供給することによってオゾン負荷を行い,オゾン濃度が30〜120ppmのオゾン溶解水を調製することが記載されている(特許請求の範囲第1,2項,2頁右下欄,3頁右上欄,3頁左上欄参照)。
引用例4では,オゾン濃度をゾンデでモニターしながら(3頁左上欄参照),電解槽(5)にかける動作電流を調整することによりオゾン生成量,ひいては支流のオゾン濃度を調節しつつ,所定のオゾン濃度の支流(分岐被処理水)を調製しようとしていることは明らかである。よって,引用例4には,所定のオゾン濃度の分岐被処理水を調製することが開示されている。
(4) 以上のとおり,引用例4には「分岐被処理水にオゾン含有ガスを注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水を調製する」という技術事項が実質的に記載ないしは示唆されていることは明らかである。
したがって,これを示唆していないとの誤った前提に立って本件発明2,4及び5の進歩性を肯定した審決は,その前提において誤りがあり,この誤りは進歩性の判断に大きくかかわるものであるから,審決の結論に影響を及ぼす重大なものであることは明らかである。
2 取消事由2(本件発明2の進歩性の判断の誤り) (1) 引用発明4及び本件発明2との対比 引用例4には,分岐被処理水を所定のオゾン濃度のオゾン水とした後,これを分岐させていない被処理水に混合することにより被処理水全体を処理する方法が明記され,しかも,そのオゾン源が「酸素とオゾンからなる混合物」であることが明記されている。
ただ,本件発明2のオゾン源が「いったん陽極水から分離された酸素とオゾンからなる混合物」であるのに対し,引用発明4は,上記混合物がいったん陽極水から分離されたものであるか否か明らかでない点で相違する。
(2) 引用例3などに記載された技術の内容 ア いったん陽極水から分離された酸素とオゾンからなる混合物を水処理に利用することは,引用例3のほか,昭和61年12月8日付け日刊工業新聞記事(審判甲第1号証・本訴甲第10号証),昭和62年5月29日付け日刊工業新聞広告(審判甲第2号証・本訴甲第11号証)などに記載されているとおり,本件出願当時の技術水準であった。
すなわち,審決が認定するとおり,引用例3には,「いったん陽極水から分離された酸素とオゾンからなる混合物」を水に注入することが記載されているのであり,引用例3の記載全体を読めば,純水を電解してオゾン含有ガスを取り出すこと,そのオゾン含有ガスをさらに水に溶解させることが開示されていると容易に理解することができるのである。
イ また,引用例3には,純水電解式オゾナイザーでは非常にクリーンなオゾンが得られ,電極構成材料の微粒子(Pbなど)の混入も回避できること等が明記されていることが理解できるし,さらに甲第10号証や甲第11号証にも,窒素酸化物や金属ダストなどの不純物を含まないクリーンなオゾンガスを水処理に利用できることが記載されている。オゾン発生装置で生成したオゾンガスを水処理に用いるということは,当然ながら「いったん陽極水から分離された酸素とオゾンからなる混合物」を水に注入することを意味しているものである。
ウ 被告は,引用例3の水処理は閉鎖的なループを試みたものにすぎない旨主張するが,引用例3に,電解オゾン発生装置からオゾンガスを取り出し,これを再び水に溶解させることが開示されているかどうかということと,引用例3の実施形式が閉鎖的であるか否かということとは,全く関係のないことである。
(3) 引用発明4への引用例3等に記載された技術の適用の容易性 ア (2)で述べた技術を前提とすれば,引用例4を見た当業者にとって,電極構成材料の微粒子の混入防止等をねらって,被処理水の支流をオゾン水に変える手段として,引用例3等のクリーンな電解オゾンガスの水への溶解を適用してみる程度のことは容易である。
すなわち,引用発明4と引用例3に記載された発明とは電解オゾナイザーを用いて発生させたオゾンからオゾン水を調製し,このオゾン水を用いて水処理を行うという点で技術分野が一致しており,引用例3及び引用例4のいずれにも,引用例3等の「酸素とオゾンからなる混合物」を,引用発明4のオゾン源である「酸素とオゾンからなる混合物」として採用することが困難であるとする,特段の事情は見当たらない。
したがって,引用例3等に記載された事項を引用発明4に適用することは容易であるといえる。
イ 被告は,本件発明2と引用発明4とは,被処理水を分岐する目的が異なる,と主張する。
しかし,両者とも,まず被処理水の一部をオゾン水とした後,これを用いて被処理水全体を効率的に処理しようという同一の目的を有している。
(4) 顕著な作用効果の不存在 本件発明2の効果は,電解法によるオゾン発生装置の陽極液から分離されたオゾン含有ガスが高い純度であるということと,分岐被処理水の調製による効率的処理ができるということの組み合わせである。前者は引用例3に,後者は引用例4に開示されているから,本件発明2の効果は,公知の効果を単に寄せ集めたものに過ぎない。少なくとも,両引用例から量的・質的に予測できないような効果(相乗的な効果)などは一切認められない。
(5) 以上のとおり,本件発明2は,引用例4の水処理方法及び装置の発明において,オゾン源として引用例3などにより公知の「酸素とオゾンからなる混合物」をそのまま適用したものにすぎず,その効果も予測されるものにすぎないから,引用発明4及び引用例3に基づいて当業者が容易になし得た発明であり,進歩性がないことは明らかである。
3 取消事由3(本件発明4の進歩性の判断の誤り) 本件発明4は,その実体は本件発明2と同じであり,単に本件発明2の「方法の発明」をそのまま「装置の発明」と形式的に表現し直したものにすぎない。また,引用例3及び引用例4のいずれにも,それぞれの水処理方法を実施するための水処理装置が開示されており,その中にオゾン発生装置として電解オゾナイザーを用いることも明記されている。
したがって,本件発明4は,引用発明4及び引用例3に基づき,当業者が容易に推考し得た発明である。
4 取消事由4(本件発明5の進歩性の判断の誤り) (1) 本件発明5は,本件発明4の構成に加え,さらに「被処理水流通部が溶解塔であり,該溶解塔の下部に装着した散気フィルターを通してオゾン含有ガスを前記溶解塔に供給し,該溶解塔中の被処理水と接触させ,所定のオゾン濃度の分岐被処理水を製造するようにした」という構成を要件とするものである。
しかし,この構成は,オゾンによる水処理技術における常套手段にすぎない("SEVENTH ANNUAL SEMICONDUCTOR PURE WATER CONFERENCE(1987)・甲第6号証288頁,「改訂二版 用水廃水便覧」(用水廃水便覧編集委員会編(昭和51年6月15日発行)・甲第7号証387頁,図3・204参照)。したがって,本件発明5は,引用発明4並びに引用例3,甲第6号証及び甲第7号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは明らかである。
(2) 被告は,甲第6号証も第7号証もオゾンガスが放電法により生成されているということを根拠に,電解法によるオゾン含有ガスを被処理水に供給するために散気フィルターを用いることは常套手段でないことを主張する。
しかしながら,本件発明5は,放電法で採用されていた溶解塔及び散気フィルターによるオゾン溶解を,電解法により生成したオゾン含有ガスの溶解にそのまま導入したものにすぎない。しかも,電解法により生成したオゾンによる水処理も,甲第6号証及び甲第7号証と同じオゾンによる水処理装置の分野である以上,後者における常套手段である散気フィルターが,後者において常套手段でないとすることはできない。
(3) 被告は,本件発明5は,放電法にしか採用されていなかった方法を組み合わせて,実用的かつ顕著な作用効果を奏するようにしたものである,と主張する。
しかし,放電法によるオゾンを用いた水処理と電解法によるオゾンを用いたそれとの間で,技術が相互に適用できないとする根拠は一切ないし,本件発明5に,顕著な作用効果は一切認められない。
5 新たな無効事由の主張制限に対する反論 (1) 被告は,原告の引用発明4及び引用例3に基づく無効事由の主張は,審判手続において主張していなかったものであるなどとして,審決取消事由を構成しない,と主張している。
(2) しかし,原告は,審判手続において,本件発明1に対する証拠として引用例3等を提出し,本件発明2に対する証拠として引用例4等を提出している。そして,これらの証拠を含めた複数の証拠の組合せに基づき進歩性欠如についての主張(乙第2号証及び第3号証)を受けて,審決でも「また,資料1〜4,6〜8にも・・・示唆されてはいない。してみると,本件発明2は,上記証拠方法の証拠に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。」と認定判断している(審決30頁)。
このように,原告は,引用発明4及び引用例3に基づく主張を行っていたのであり,かかる主張を行っていたからこそ審決でその判断が示されたわけである。
被告の主張は,上記のような事実を看過したことに基づくものである。
(3) 仮に,原告が審判手続において,引用発明4及び引用例3に基づく主張をしていなかったとしても,審決で示されているように,引用例4及び引用例3も証拠方法として取り上げられ,それに対する判断が実際になされていれば,それは職権審理によって判断されたことになる。
職権審理による判断も審決取消事由の対象となることは明らかである。
被告の主張の要旨
1 取消事由1(引用発明4の認定の誤り・本件発明2との対比判断の誤り)に対して (1) 「分岐被処理水」の存在に対して 引用例4において「支流3」と呼ばれている水流は,電解槽5において電解する原料水であって,オゾンが注入され「オゾン処理」がなされるべき「被処理水」とは異なるものである。
引用例4は,「水道水をオゾンで負荷する方法」であり,オゾン処理する対象は被処理水である「主流」であり,支流はそのためのオゾン源である。引用例4に開示されているのは,正確には,支流をオゾン水に変えることではなく,支流を使用してオゾン水を生成することであり,電解によって製造されたオゾン含有水(陽極液)は,「被処理水」を処理するオゾンとして主流に注入されている。
引用例4における分岐は,被処理水(清水)を,電解槽の電解の原料水として使用することを目的,作用とするものであり,所定のオゾン濃度の分岐被処理水を得るための被処理水の分岐とは,その目的と作用を異にするものである。
引用例4における分岐においては,分岐した支流が電解槽に入り,電解オゾンの原料として使用されるのに対して,本件発明2における分岐においては,分岐した支流がオゾン溶解槽に供給され,所定のオゾン濃度の分岐被処理水の生成に利用されるのである。
したがって,引用例4の「支流3」は本件発明2の「分岐被処理水」に相当するものではない。
(2) 「オゾン含有ガス」を被処理水に「注入」することの存在に対して 引用例4には,オゾン含有ガスを水に溶解させると理解できる記載はない。
電解槽5を出てくる陽極液は「オゾン含有支流3」となる(2頁,3頁)。このオゾン含有支流3は陽極液そのものであり,この陽極液がそのまま,被処理水である「主流2」にミキサー6で混合されるものである。つまり,電解槽の陽極室で支流水のH2O分子からオゾン(O 3)分子が生成する電解反応が液相で進行する。したがって,生成したオゾンの大部分は,陽極液中に溶解しており,この陽極液が,液相のまま電解槽から取り出されているだけであるから,オゾンガスの溶解も,ましてやオゾン含有ガスを注入することもない。
(3) 「所定のオゾン濃度」の存在に対して 引用例4でオゾン量を測定しているのは,少ない費用で小型の電解装置により,高濃度のオゾンを含む陽極液を生成することができることを示すために過ぎず,オゾン濃度を調整しているものではない。
2 取消事由2(本件発明2の進歩性の判断の誤り)に対して (1) 引用例3などに記載された技術の内容に対して ア 引用例3には,オゾン含有ガスを分離して再度水に溶解することは記載されていない。
引用例3には,生成したオゾンガスを取り出して気体として利用することができることが記載されているものの,他方,「いきなりオゾン水自体として取り出すことも可能,などの優れた特性を持っている。」(50頁)との記載もある。ここでは,気体としてのオゾンガスをどのような用途に利用するかについては記載されておらず,まして,オゾン含有ガスを再度分岐水等に溶解させて利用することは何ら記載されていない。
イ 引用例3には,電解法により得られるオゾン含有ガスについて,その濃度及び純度を明らかにする記載があるものの,そのオゾン含有ガスの用法,例えば,取り出されたオゾン含有ガスを更に水に溶解させること及び再度水に溶解させた場合のオゾンの濃度,純度等について,何ら記載も示唆もない。
ウ 引用例3の図-5は,無菌水のテストループの図解であり,図-6はオゾンの殺菌効果を説明するものである。
これらの記載から窺えることは,純水のタンク中の保存水を無菌に保つために循環させ,オゾンマスターからのオゾンを気液接触装置において接触させ無菌度を維持することができる,というものであり,オゾンマスターに供給され電解される水が純水か否か,どこから供給されるかの開示がないし,無菌水の使用に際してどこから無菌水を取り出すかの記載さえない。
これは,図-5及び図-6が,まさにタンクから無菌水を循環させ無菌度の時間経過を試験した閉鎖的なループを説明したものに過ぎないからである。引用例3には,無菌水の製造を目的として,オゾナイザーで得られるオゾンをRO水と気液接触させる技術が開示されているに過ぎず,「オゾン水にする」ための手段が開示されているものではない。
エ 引用例3には,本件発明2における解決課題,すなわち,電解法において,陽極液中にごく僅かな電解物質が残存していることが多く,該物質が被処理水中に混入して汚染の原因となるとの陽極液中の電極由来の不純物混入の問題は認識されておらず,その解決の必要性も提起されていない。
したがって,被処理水の汚染を回避するために陽極液からオゾン含有ガスを分離して再度分岐被処理水に溶解するという解決手段も開示していない。
(2) 引用発明4への引用例3等に記載された技術の適用の容易性に対して ア 引用例3は,無菌水の閉鎖的なテストループであり,タンク中の無菌水をそのまま使用することは考えられても,これをオゾン処理されていない他の被処理水(引用例4の主流等)と混合使用することは,目的に反するものである。したがって,引用例3と引用例4の組み合わせを着想する動機付けはない。
イ 引用例4は,被処理水そのものを電解してオゾン含有ガスを含む陽極液をそのまま被処理水に投入するものであるから,陽極液に代えて,そこから一旦分離したオゾン含有ガスを分岐被処理水に注入するという本件発明2の解決手段は開示も示唆もないばかりでなく,オゾン含有ガスを一旦分離する動機もない。
ウ 引用例4は,被処理水にオゾンを配量するために,電解法を使用するにあたって,被処理水をそのまま原料水とすることには問題がある(「電解槽は比較的短時間に,水道水中に存在する2価のカチオンによつて閉塞されるので,電解法の直接適用は不経済である。」・2頁右上欄)ことから,これを避けつつ,安価にオゾン水を得るため,被処理水から分岐させた相対的にかなり少量の支流を軟水化して電解法の原料水とする,というものである。
このように,特定の方法を採用する場合の固有の問題点を克服するために,被処理水を分岐させて,後に合流する構成を採用している場合において,この分岐,合流の点だけを抜き出して,この固有の問題点を生じない別の方法にもこれを適用することが示唆されているとすることはできない。
引用例4の,支流を作るという構成を,電解法によるオゾン生成に使用する目的以外の目的に使用することは,そもそもその分岐の目的に反するものであり,また,引用例4における分岐は,本件発明2における分岐と,目的も構成も作用も全く相違するものである。
エ 以上のとおり,引用発明4及び引用例3をどのように組合わせても「陽極液から分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水に注入する」という技術思想は生じ得ない。
(3) 顕著な作用効果について 引用発明4は,一旦分離したオゾン含有ガスを分岐被処理水に溶解して所定のオゾン濃度の分岐被処理水を調製するものではないから,所望の濃度に調整することは極めて困難であり,また,電解槽自体に被処理水を通すことにより,該被処理水中の不純物により陽極液が汚染されて生成するオゾンの純度が低下したり,電解槽の電極や隔離に不純物が付着して電解効率が低下したり(本件明細書3欄)するという,被処理水を電解の原料水とする場合の技術的問題を全く解決することができない。
(4) 以上のとおり,引用発明4と引用例3とを組み合わせて本件発明2に想到することはないというベきである。
3 取消事由3(本件発明4の進歩性の判断の誤り)に対して 本件発明4は,方法の発明である本件発明2の水処理方法を実施するための装置の発明であり,主要な構成要件において本件発明2と共通である。したがって,本件発明2が引用発明4及び引用例3から容易に推考できるものではない以上,本件発明4の進歩性は肯定される。
4 取消事由4(本件発明5の進歩性の判断の誤り)に対して (1) 本件発明5は,本件発明4の被処理水流通部に所定の構成を付加して限定したものである。したがって,本件発明5の進歩性も肯定される。
(2) 原告は,甲第6号証及び第7号証を挙げて,本件発明5の「被処理水流通部が溶解塔であり,該溶解塔の下部に装着した散気フィルターを通してオゾン含有ガスを前記溶解塔に供給し,該溶解塔中の被処理水と接触させ,所定のオゾン濃度の分岐被処理水を製造するようにした」構成は,オゾンによる水処理手段における常套手段にすぎない,と主張している。
しかし,甲第6号証及び第7号証は,従来の放電法によるオゾンの生成に関するものであって,本件発明5とは異なる技術分野に属するものであり,本件発明5の上記構成がこれらにより周知ないし常套手段であるということはできない。
(3) 本件発明5は,従来放電法により生成されたオゾンでの水処理にしか採用されていなかった方法を,電解法によるオゾンでのそれに組み合わせて,実用的かつ顕著な作用効果を奏するようにしたものである。
仮に,オゾン溶解に溶解塔及び散気フィルターを使用すること自体に新規性がないとしても,本件発明5の構成には,進歩性が認められる。
5 新たな無効理由の主張制限について 原告の主張する取消事由は,もっぱら,審決における参考資料8及び5(本訴甲第3及び4号証)に基づくものである。
審決は,原告が主張した無効理由3及び4として,「被請求人が認める公知事項と甲第1号証または甲第2号証の記載」とのみ記載し,参考資料5(引用例4)及び8(引用例3)が引用例として主張されているとは認定していない。また,そもそも,原告はそのような主張を審判段階において行っていない。原告は,審判手続において,引用発明4及び引用例3の組み合わせによる容易推考性を無効事由として主張していなかったものである。
原告は,本件訴訟において,無効審判手続で主張しなかった無効事由,換言すれば,審判の対象となっていない無効事由に基づいて本件特許の無効を主張しているもので,かかる主張は審決取消事由を構成しない。
当裁判所の判断
1 新たな無効理由の主張制限について (1) 原告は,審判請求書(乙第1号証)において,本件発明2の無効理由として,「被請求人が認める公知事項と甲第1号証および/または甲第2号証の記載とに基づいて,当業者が容易に完成し得た発明であるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない・・・」と主張した(3頁)。なお,本件発明4及び5の無効理由も,同旨である(同頁参照)。そして,審決も,「請求人の主張」として,原告主張の無効事由をそのようにまとめている(審決書27頁〜28頁)。
上記の原告が主張する被告が認める「公知事項」とは,審判請求書の「本件請求項2発明については,先述の通り,A氏による特許異議申立書に応答する特許異議答弁書・・・において,被請求人(判決注・被告)は,「被処理水の分岐自体に新規性のない点は同意する」と明言している・・・本件請求項1発明の構成に「被処理水の分岐」という公知の構成を付加したとしても,・・・」(乙第1号証10頁)との記載からすれば,「被処理水の分岐」のことである,と認めることができる(本件発明4についても同様である(同号証11頁)。)。
(2) 原告は,平成11年8月4日付上申書(乙第2号証)において,引用例4を参考資料5として提出し,その記載内容を引用しつつ(同号証10頁),「参考資料5発明においても,電解法によりオゾン含有ガスを発生させること,およびオゾンガスを溶解させるための被処理水を分岐させることは,すでに実施されている。」(同11頁)として,「本件請求項1発明の被処理水を上位概念で表現するとともに,これに参考資料5に記載された公知の構成要件を付加したに過ぎない本件請求項2発明も,進歩性を欠如していることが明らかである。」(同頁)と主張している(本件発明4についても同旨の主張をしており,また,本件発明5についても「本件請求項4発明について述べたと同様な理由により,進歩性を欠如する。」と主張している(同13頁,14頁)。)。
また,原告の口頭審理陳述要領書(第2回)(乙第3号証)では,さらに引用例3を参考資料8として引用しつつ,本件訂正請求に係る訂正後の請求項2についてではあるものの,「訂正請求項2の発明は,甲第1号証と参考資料5などの複数の文献に記載された周知手段とを組み合わせることにより容易に完成し得た程度の発明であるから,特許法第29条第2項に規定する進歩性なき発明として,やはり無効とされるべきである。」,と主張している。(同号証12頁)。この主張は,訂正前の請求項2の発明,すなわち本件発明2についても当てはまるものである。そして,原告は,訂正請求項4の発明(ひいては本件発明4)についても同旨の主張をし,本件発明5についても,「本件請求項5の発明は,本件訂正請求項4の発明と同様の理由により,・・・進歩性なき発明として,やはり無効とされるべきである。」(同13頁),としている。
(3) 以上から,審判手続において,原告は,公知事項,ひいてはそれを開示する引用例4を主引例とし,これと周知技術(陽極液からのオゾン含有ガスの取り出し及び被処理水への溶解)を開示する引用例3を含む複数の資料との組み合わせによる,本件発明2,4及び5の容易想到性の主張をしていたものと認めることができる。
そして,審決は,引用例4の記載も引用しつつ(審決書29頁),「本件発明について,請求人が提出した甲第1〜5号証には,「被処理水の一部をいったん分岐する」ことや「所定のオゾン濃度の分岐被処理水を調製する」こと,さらにはこの「所定のオゾン濃度の分岐被処理水を混合して分岐させていない被処理水を処理する」ことについて何ら示唆するところがない。」(審決書30頁)との説示に引き続き,「また,資料1〜4,6〜8にも,被処理水の分岐について何ら示唆するところがなく,資料5にも,被処理水を一部分岐することが記載されているが,分岐被処理水にオゾン含有ガスを注入して「所定のオゾン濃度の分岐被処理水」を調製することまで示唆されてはいない。」(審決書30頁)と説示し,本件発明4及び5についても,これを援用している。これらの説示からすれば,審決は,引用例4を主引例とする,本件発明2,4及び5の進歩性の有無についても判断していると認めることができる。
したがって,原告の本訴における本件特許無効の主張は,審判手続において主張されておらず,審決の取消事由も構成しないとの被告の主張は,採用することができない。
2 取消事由1(引用発明4の認定の誤り・本件発明2との対比判断の誤り)について (1) 原告は,引用例4に,分岐被処理水にオゾン含有ガスを注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水を調製することまで示唆されてはいない,とした審決の認定及び本件発明2との対比判断が誤りであると主張する。
(2) まず,「オゾン含有ガスの注入」の有無について検討する。
ア 電解法によるオゾン含有ガスの発生について 本件発明2の「水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ」る方法も,引用例4(甲第4号証)の「固体電解質を用いる水電解法」(請求項1)も,引用例3に記載される「固体高分子電解質を用いる電解法」(甲第3号証49頁8行)も,そのオゾン生成の原理を同じくする電解によるオゾンの製造法(以下「電解法」という。)である。
引用例3には,電解法及びそのオゾン生成の原理について, 「最近になつてBBC-Brown-Boveri-&-Cie.LtdがSoLid Polymer Electrolyte(固体高分子電解質)膜を使い,純水を電気分解することによつてオゾンが発生することを示してから,電気分解法によるオゾンの生成も実用化の目途がたつてきた。
・・・陽極と陰極はイオン交換膜で仕切られており,陽極に供給された水は膜面で分解されて水素イオンと酸素/オゾンとなり,水素イオンはイオン交換膜を陰極側に移動し,膜表面に達して電子をもらつて水素となる。」(甲第3号証49頁) と記載され,図-1として「SOLID POLYMER ELECTROLYTE 電解法の原理図」(同53頁)が記載されている。
これらの記載によれば,陽極と陰極とはイオン交換膜で仕切られており,陽極に供給された水は膜面で分解されて水素イオンと酸素/オゾンとなること,陽極室の水(陽極液)3分子を原料としてオゾン1分子が生成するものであることが認められる。したがって,陽極液がオゾン分子に変化するものであるから,生成時の個々のオゾンは陽極液中に存在するといえる。
陽極液中に存在するオゾンの少なくとも一部は,陽極液から離脱し,あるいは,陽極液中で,オゾン分子同士,さらに同時に生成する酸素分子と集合してガス状の気泡,すなわち「オゾン含有ガス」の気泡となると認められるから引用発明4においても,オゾン含有ガスが発生する,ということはできる。
イ オゾン含有ガスの被処理水への「注入」について 本件発明2は,オゾン含有ガスを被処理水に「注入」するものである。
この「注入」が,具体的にどのような操作であるか,特許請求の範囲の文言からは必ずしも明らかではないが,少なくとも何らかの人為的な操作を伴って,気体状のオゾンを含むガスを,水に接触させることをいうものと解される。このことは,本件発明2の具体例において,オゾン含有ガスを気泡として水中に供給するという操作をしている(甲第2号証5欄,図面)こととも整合する。
引用例4には,オゾン含有ガスを人為的に被処理水に接触させて溶解させる構成は開示されておらず,引用発明4はそのような構成を備えていない。もっとも,引用発明4においても,一旦被処理水(陽極液)中に気泡等として発生したオゾン含有ガスが被処理水に再溶解することはあり得る。しかし,この再溶解において,オゾンガスは,被処理水(陽極液)中に発生したオゾンから生じたもの,すなわちもともと被処理水中に存在する気体状のオゾンであるから,そこには,オゾン含有ガスを人為的な操作により被処理水中に注入するという操作はない。また,被処理水から離脱して気体となったオゾンガスが,被処理水に再溶解することもあり得るが,これも,オゾンガスが自然に被処理水に接触することによるものであって,人為的な操作によって「注入」されるというものではない。結局,引用発明4には,「オゾン含有ガス」を水に「注入」する構成があるということはできない。
ウ 原告は,引用例4の「電解槽を電流が流れると,陽極に酸素とオゾンからなる混合物が発生する。O2対O 3の割合は,平均してたとえば85重量%対15重量%である。」(3頁左上欄)との記載をもって,引用例4には,電解槽の陽極で発生したオゾン含有ガスが直ちに支流と接触して溶解することによりオゾン水が生成するから,オゾン含有ガスが水に「注入」されることが記載されていると主張する。
しかし,引用例4において,電気分解により,陽極に酸素とオゾンからなる気体の混合物が発生するとしても,これが自然に陽極液に再溶解する現象をもって「オゾン含有ガス」を水に「注入」するということができないことは,前記のとおりである。
したがって,引用例4の上記記載を持って,「オゾン含有ガス」が被処理水に「注入」されるということはできない。
エ そればかりでなく,引用発明4は,オゾン含有ガスを被処理水に注入・溶解させる構成を積極的に排除している,と認めることができる。
引用発明4は, 「1.固体電解質を用いる水電解法により水道水をオゾンで負荷する方法において,清水流(1)を主流(2)と支流(3)とに分け,支流(3)の水を軟水装置(4)中で軟化して電解槽(5)に供給し,オゾンで負荷し,こうして配量した支流をミキサー(6)中で主流(2)と合流させることを特徴とする水道水をオゾンで負荷する方法。
2.支流(3)が清水流(1)の量の0.5〜3容量%に達し,電解槽(5)の後方でのそのオゾン濃度がH2Om3あたり30〜120gである,特許請求の範囲第1項記載の方法。
3.固体電解質を備える,オゾン発生電解槽を使用して水道水をオゾンで負荷する装置において,清水流(1)用の流入導管,主流(2)用の導管,さらに支流(3)用の導管を有し該支流用導管中には軟水装置(4)およびこれに後接されて電解槽(5)が存在し,さらに主流(2)と支流(3)との合流個所にはミキサー(6)が設けられていることを特徴とする水道水をオゾンで負荷する装置。」(甲第4号証・特許請求の範囲) との発明である。
引用例4によれば,従来,水道水の滅菌は,静放電により製造されたオゾン含有空気流と接触させることにより水道水にオゾンを負荷し,残留オゾンを除去することにより行われることが慣用法であった(甲第4号証1頁右下欄〜2頁左上欄参照)が,放電法により製造されたオゾンを用いる場合,「一般に費用のかかる高価な装置を必要とし,これは水道水とオゾン含有空気との混合に関する」(同2頁左上欄)という問題が認識され,この高価な装置,すなわち,水道水とオゾンガスを接触させる気液接触装置を不要とすることを課題の一つとしていたことが認められる。そのため,引用発明4においては,被処理水の一部を分岐し,軟水化して電解法によりその一部を分解してオゾンを含有した状態にした上で,その状態(液体)のまま,分岐する前の水と合流させているのである。
このように,引用発明4は,気体と液体との混合に関する高価な装置(気液接触装置)の使用を避けるものであるから,放電法に代わり電解法を採用したとしても,その陽極液から一旦オゾン含有ガスを取り出し,これを被処理水に注入・接触することは,むしろ意図的に排除しているものというべきである。現に,引用例4には,オゾン含有ガスを被処理水(支流3等)に再溶解させることを開示ないし示唆する記載はない。
オ 以上のとおり,引用例4には,「オゾン含有ガス」を被処理水に「注入」することが記載されているとは認められず,その示唆もないということができる。そうすると,その余の点について判断するまでもなく,審決の「分岐被処理水にオゾン含有ガスを注入して「所定のオゾン濃度の分岐被処理水」を調製することまで示唆されてはいない。」(審決書30頁)との認定に誤りはない。
3 取消事由2(本件発明2の進歩性の判断の誤り)について (1) 前提として,引用発明4の認定・本件発明2との一致点・相違点について検討する。
ア 引用発明4の認定に関し,引用例4に,「オゾン含有ガス」を被処理水に「注入」することが記載されているとは認められないことは,前示のとおりである。
イ 「分岐被処理水」の有無について検討する。
(ア) 引用発明4の,水道水をオゾンで負荷する方法において,清水流の「オゾンで負荷し,こうして配量した支流」は「ミキサー(6)中で主流(2)と合流させる」のであるから,主流(2)と支流(3)とに分ける前の清水流(水道水)全体がオゾンによる滅菌処理対象,すなわちオゾンにより処理される水であり,本件発明2の「被処理水」であるということができる。そして,引用発明4において,電解槽に供給される,清水流(水道水)から分岐された支流(3)は,その態様はともかく,オゾンを含有させられ,分岐元である主流と合流するのであるから,本件発明2のオゾンが負荷される「分岐した被処理水の一部」に対応するといえる。
そうすると,引用例4には,「分岐した被処理水の一部」をオゾンで負荷して「分岐被処理水とした後,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合」することが記載されている,ということができる。
(イ) 被告は,支流がオゾンの原料水であることをもって,支流は本件発明2の「被処理水」ということはできない,と主張する。
しかし,支流の一部がオゾンの原料となるとしても,電気分解されなかった残りの支流は,オゾンを含有させられ,主流と合流するものであって,これを,本件発明2の「分岐した被処理水」ないしは「分岐被処理水」に相当するということは差し支えない。
ウ 「所定のオゾン濃度」について検討する。
(ア) 本件発明2の「所定のオゾン濃度」は,その意味が必ずしも明りょうではなく,本件明細書にも特段の定義はないが,本件発明2が「オゾンを使用して水処理を行うための方法」(甲第2号証3欄)であることからすれば,オゾン含有ガスが注入された分岐被処理水中のオゾンの量は,分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合した後の被処理水全体が所望のオゾン処理をされるのに要するオゾン量(自然分解してしまうオゾン量を含む。以下,「所定のオゾン量」という。)であるということができる。そうすると,分岐被処理水のオゾンの濃度は,この「所定のオゾン量」を分岐被処理水の量で除したものである。
しかし,本件発明2においては,分岐被処理水の水量や分岐割合,さらには,オゾン処理の内容について何らの限定がされていない以上,この所定のオゾン量を決めることは不可能である。
よって,本件発明2における「所定のオゾン濃度」の規定は,技術的に特段の意味を持たない規定というべきである。
(イ) 「所定のオゾン濃度」が,単に「所定のオゾン量」とするための分岐被処理水の水量に応じた「所定のオゾン濃度」であるとすると,以下のとおり,この点は引用例4に示されているといえる。
すなわち,引用例4に記載された「オゾンで負荷し,こうして配量した支流」は,水道水全体の滅菌処理を行うものであるから,処理すべき水量等に応じて,その処理に必要な所定のオゾン量を含有するようにすることは当業者が当然行うことであり,それは,支流(分岐被処理水)を「所定のオゾン濃度」にすることにほかならない。
そして,引用例4には,清水流の水量,支流の水量,電解槽の動作電流・電圧,電解槽後方のオゾン濃度,ミキサー後方のオゾン濃度それぞれの計測結果についての記載がある(2頁右下欄)。この記載によれば,実際に引用発明4においても,被処理水全体の水量,支流の水量,オゾンの生成量,その溶解量を計測して,意図するオゾン濃度の分岐被処理水を得られるものと優に認めることができる。
エ 以上のとおりであるから,引用例4には,「水を電解して電解槽の陽極室にオゾンを発生させ,該オゾンを分岐した被処理水の一部に負荷して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とした後,該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理することを特徴とする水処理方法」の発明が記載されており,引用発明4と本件発明2とは,この点で一致しているということができる。
そして,引用発明4と本件発明2とは,@本件発明2が「純水」を電解するものであるのに対し,引用発明4は「水道水を軟水装置中で軟化した水」を電解するものである点(相違点1),A本件発明2が「電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ,該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し,分離したオゾン含有ガス」を水に「注入」するものであるのに対し,引用発明4ではそのような「オゾン含有ガス」を水に「注入」する構成を有しない点(相違点2),で相違するということができる。
(2) 上記相違点2に関し,原告は,陽極水(陽極液)から分離されたオゾン含有ガスを水に「注入」することは,引用例3等に記載されている公知ないし周知の技術事項である旨主張する。
そこで,引用例3記載の技術の内容について検討する。
ア 引用例3には,既に摘示した事項を含めて,以下の記載がある(甲第3号証)。
(ア) 「最近になつてBBC-Brown-Boveri-&-Cie.LtdがSoLid Polymer Electrolyte(固体高分子電解質)膜を使い,純水を電気分解することによつてオゾンが発生することを示してから,電気分解法によるオゾンの生成も実用化の目途がたつてきた。
・・・陽極と陰極はイオン交換膜で仕切られており,陽極に供給された水は膜面で分解されて水素イオンと酸素/オゾンとなり,水素イオンはイオン交換膜を陰極側に移動し,膜表面に達して電子をもらつて水素となる。」(49頁) また,図-1(53頁)に「SOLID POLYMER ELECTROLYTE 電解法の原理図」が示されている。
(イ) 「表-1に2gr/hrのオゾナイザーの基本仕様を示す。この本式のオゾナイザーは,少量の純水を原料としてオゾンを発生させる点が最大の特徴であるほか,従来の常識をはるかに越える超高濃度のオゾンガスが発生する,純水を電気分解するため不純物を含まない非常にクリーンなオゾンガスとして利用できる,・・・いきなりオゾン水自体として取り出すことも可能,などの優れた特徴を持つている」(50頁) また,表-1(53頁)に「「オゾンマスター」OM-2の基本仕様」として「オゾン濃度 約13wt%」,「純水使用量 100cc/hr」と記載されている。
(ウ) 「従来の放電によるオゾナイザーにおいては,電極が高電圧の電子によつてたたかれるために・・・電極構成材料の微粒子が混入すると言われている。
電解法によるオゾナイザーではこのようなことが起こらないであろうと予測し,オゾンガス中の微量金属元素の定量分析を行つた。
・・・ガス中の不純物濃度を求めた。その結果を表-2に示す。・・・半導体グレードのガス純度が得られている」(50頁〜51頁) また,「表-2 オゾンガス中の微量金属不純物濃度」(55頁)として,「Fe」,「Pb」など8種の金属の不純物濃度が記載されている。
(エ) 「4.無菌水システムへ応用 ・・・オゾンは殺菌力が非常に強いうえ,自己分解によつて酸素となるので残留性がなく,・・・純水の無菌化にはオゾンが最も適していると思われる。特に純水電解式オゾナイザーは,純水を原料として非常にクリーンなオゾンを発生させられるので好都合である。オゾンを水中に溶解させた場合,オゾンは不安定で自己分解が進み,その濃度の半減期は20〜30分と言われているが,これはその水質によつて大きく左右される。図-3は各種水質におけるオゾンの自然分解曲線を示す。有機物の少ない純水中では,非常に長時間にわたつて安定であることは注目に値する。
・・・そこで無菌水システムのための前試験として図-5に示すようなシステムを作り,簡便な培養法による微生物チェックを行ないながらオゾンの殺菌効果を確認した。この結果を図-6に示す。これは数十ppbという非常にわずかのオゾンが存在するだけで純水を無菌状態に維持することが可能となることを示唆している。
以上のことから,・・・極微量のオゾンを純水に溶解させておき,ユースポイントで水銀灯によつて分解するという連続無菌純水維持システムが可能であると考えられる。」(51頁〜52頁) また,「図-5 無菌水のテストループ」(56頁)には,「RO水」が「タンク」,「リサイクルポンプ」,「気液接触装置」を経てタンクに戻るループとなった経路,その経路における「気液接触装置」と「オゾンマスター」とが連結する経路が図示され,図-6に「オゾンによる殺菌効果」が示されている。
イ 以上によれば,上記(エ)の「図-5 無菌水のテストループ」に記載されたオゾンマスターは,電解法,すなわち固体高分子電解質膜を使い,純水を電気分解することによってオゾンを製造する方法によるオゾン製造装置であり,オゾンは陽極室の水から生成するものであると認められる。
そして,この図-5の「気液接触装置」において,オゾンマスターからのオゾンとタンクからの「RO水」とが気液接触,すなわち,気体と液体とが接触する。ここで,RO水は液体であるから,オゾンマスターからのオゾンは,ガスすなわち「オゾン含有ガス」であることは明らかである。
また,気液接触の結果,RO水は溶存オゾン濃度数十ppbのオゾン水となっていることが記載されている。
すると,図-5には,オゾンマスターからのオゾン含有ガスをRO水に注入することにより,オゾン水とすることが記載されているということができる。
なお,オゾンマスターのオゾンは電解槽の陽極室において水から生成するものであり,オゾンマスターからのオゾン含有ガスは「電解槽から取り出され,陽極液から分離した」ものであること明らかである。
ウ 以上からは,引用例3には,純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ,該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し,分離したオゾン含有ガスを被処理水に注入することにより,オゾン水とすることが記載されているといえる。
すると,引用例3には,引用発明4と本件発明2の相違点2について記載されている(なお,純水を電解することも記載されているから,相違点1に係る構成も記載されている。)ということができる。
(3) 引用発明4に引用例3等に記載された事項を適用して,本件発明2の構成に想到することが容易か否かについて検討する。
ア 原告は,引用例4を見た当業者は,電極構成材料の微粒子の混入防止等をねらって,引用例3等のクリーンな電解オゾンガスの水への溶解を引用発明4に適用することは容易であると主張する。
イ しかし,前記のとおり,引用発明4は,水道水のオゾンによる滅菌処理において,気体と液体との混合に関する高価な装置(気液接触装置)の使用を避けるために,電解法の直接適用,すなわち陽極に水道水を導入し,これを電解して直接オゾン水とする方法を採用したものである。
したがって,引用発明4において,いったんオゾン含有ガスを陽極液から取り出し,これを再び支流ないし主流に注入・溶解させる構成を採用することには,これを積極的に阻害する要因がある,ということができる。
ウ また,引用例4には,水道水のオゾンによる滅菌処理に際し,陽極液からもたらされる金属等の不純物の存在ないしその影響について,何ら記載されていない。他方,引用例3には,引用例3のオゾン製造方法により製造されたオゾン含有ガスが半導体グレードの高純度なものであることは記載されているものの,陽極液も使用可能なことも記載されているのであり,どのような場合に,陽極液ではなくオゾン含有ガスを採用することが適切であるかについて,具体的な開示ないし示唆はないし,甲第10号証及び第11号証にも,そのような開示等はないのである。
エ そうすると,引用発明4において,オゾン含有ガスを水に注入・溶解させる構成を採用することに阻害要因があるにもかかわらず,あえてこれに引用例3等の技術事項を採用しようとする程の合理的な理由があるとは認められない。
したがって,引用発明4に引用例3等の技術事項を適用して,本件発明2の構成に想到することが容易であったということはできない。
(4) 以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,本件発明2について,引用例4を主引例として当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないとした審決の判断に,誤りがあるとは認められない。
4 取消事由3及び4について 本件の主張及び証拠によっては,本件発明2の進歩性が否定されない以上,本件発明4及び5の進歩性も否定されない。
5 結論 以上のとおりであって,原告が主張する取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久