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関連審決 不服2008-29743
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10024審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10281審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10253審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10312審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10323審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 加工方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  公知技術 /  上位概念 /  技術常識 /  分割出願 /  原出願日 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10191号 審決取消請求事件
原告X
被告特 許庁長官
同 指定代理人野村亨遠藤秀明紀本孝豊田純一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/11/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2008−29743号事件について平成22年5月10日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文1項と同旨第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)出願手続(甲9)及び拒絶査定発明の名称:「アルミニウム溶接用二波長レーザ加工光学装置およびアルミニウム溶接用レーザ加工方法」(ただし,下記手続補正後のもの)出願日:平成17年6月10日(平成12年1月13日原出願(特願2000-4702号)の分割出願。甲11)出願番号:特願2005-171326手続補正日:平成19年7月27日付け(甲10)(本件補正)拒絶査定日:平成20年10月9日(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成20年11月5日(不服2008-29743号事件)拒絶理由通知日:平成21年9月8日(甲8)意見書提出日:平成21年10月6日(甲6)審決日:平成22年5月10日本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成22年5月28日2特許請求の範囲の記載本件審決が対象とした本件補正後の請求項1の記載は,以下のとおりである。
以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」,本件出願に係る本件補正後の明細書(特許請求の範囲につき甲10,その余につき甲9,10)を「本願明細書」という。なお,「/」は,原文の改行部分を示す。
長波長と短波長の2つのレーザと,/前記2つのレーザの出力ビームを同軸の光路に導いて重畳させる光学系と,/同軸の光路に重畳した前記2つのレーザの出力ビームを被加工物上に集光する集光レンズとを備え,/前記光学系が,一方のレーザの出力ビームを全反射し他方のレーザの出力ビームを透過させるダイクロイックミラーを備え,/前記被加工物がアルミニウムであり,/前記長波長のレーザが,アルミニウム溶接加工用として用いられているYAGレーザであり,/前記短波長のレーザが,アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザである/アルミニウム溶接用レーザ加工光学装置3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び下記イの引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。
ア引用例1:特開昭62-289390号公報(甲3)イ引用例2:Friedhelm Dorsch 他,2 kW cw Fiber-coupled Diode LaserSystem,PROCEEDINGS OF SPIE,Volume 3889(45〜53頁)(甲4)なお,本件審決は,引用例2は平成11年11月1日に頒布されたと認定したが,実際には,本件原出願日である平成12年1月13日の後に頒布されたものであることは,当事者間に争いがない。
(2)本件審決は,その判断の前提として,引用発明1並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。
ア引用発明1:長波長と短波長の2つのレーザと,/前記2つのレーザのレーザビームを同一の光軸に重ね合わせるミラー等と,/同一の光軸に重ね合わされた前記2つのレーザのレーザビームを被加工物である金属表面上に集光するレンズとを備え,/前記ミラー等が,一方のレーザのレーザビームを全反射し,他方のレーザのレーザビームを透過させるダイクロイックミラーを備え,/前記被加工物がアルミニウムであり,/前記長波長のレーザが,YAGレーザであり,/前記短波長のレーザが,エキシマレーザである/レーザ加工機イ一致点:長波長と短波長の2つのレーザと,/前記2つのレーザの出力ビームを同軸の光路に導いて重畳させる光学系と,/同軸の光路に重畳した前記2つのレーザの出力ビームを被加工物上に集光する集光レンズとを備え,/前記光学系が,一方のレーザの出力ビームを全反射し,他方のレーザの出力ビームを透過させるダイクロイックミラーを備え,/前記被加工物がアルミニウムであり,/前記長波長のレーザが,YAGレーザであり,/レーザ加工光学装置(なお,本件審決は,「前記短波長のレーザが,エキシマレーザである」ことをも一致点と認定したが,誤記と認める。)ウ相違点1:本願発明では,YAGレーザを「アルミニウム溶接加工用として用いられている」ものと特定し,また,レーザ加工光学装置を「アルミニウム溶接用」としてその用途を特定しているのに対して,引用発明1では,YAGレーザを特にアルミニウム溶接用とは特定していないし,また,レーザ加工機の用途も,特にアルミニウム溶接用に特定していない点エ相違点2:本願発明では,短波長のレーザが,「アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザ」であるのに対して,引用発明1の短波長のレーザは,エキシマレーザであって,波長0.8μm程度の半導体レーザではない点4取消事由相違点2についての判断の誤り第3当事者の主張〔原告の主張〕(1)原出願日の後に頒布された引用例2を引用した点についてア引用例2は原出願より後に頒布されたものであるから,本件審決のうち,引用例2に関係している部分は削除すべきである。
イ被告は,理由を差し替えて本件審決の結論に誤りはないと主張するが,本件訴訟においては,本願発明の特許性の是非ではなく,本件審決に至る論点及び内容が妥当か違法かを論ずるべきであり,本件審決で用いた論点以外の論点による反論は,許されない。
なお,仮に本件審決における論点及び内容とは異なる新しい論点及び内容の導入が認められるとしても,引用発明1の短波長レーザとして半導体レーザを採用しても,引用例1で述べる短波長レーザの作用効果は得られないから,被告の主張は成り立たない。
(2)本願発明及び引用発明1における各レーザのアルミニウムの溶融についてア本件審決が,引用発明1は「短波長レーザを金属表面に照射することにより,長波長レーザの吸収率を高くするものである」とした点は,上位概念で認定しており,誤りである。引用発明1の短波長レーザは「アルミニウムを溶融」するものでなければならない。
本願発明の短波長レーザである半導体レーザは,ビーム・パラメータ積がYAGレーザに比べて当時は約一桁大きいから,本願発明及び引用例1の4図の構成ではアルミニウムを溶融できないことは当時の当業者が常識として広く認識していたことであり(甲6,7),引用発明1の短波長レーザは単独でアルミニウムの表面を溶かして長波長レーザのアルミニウムに対する吸収率を高め,本願発明の短波長レーザである半導体レーザはアルミニウム表面の温度を溶融温度以下にまで高めてアルミニウムの吸収率を高めるから,引用発明1と本願発明とでは短波長レーザの作用と効果が異なる。
引用発明1の短波長レーザに,本願発明の短波長レーザである半導体レーザを採用しても,引用例1で述べる短波長レーザの作用であるアルミニウムの溶融,蒸発・プラズマ化作用を生じさせ得ない。
イ長波長レーザであるYAGレーザはアルミニウムを溶融しにくくこれを解決するのが本願発明の技術課題であることは,本願明細書の【背景技術】と【発明が解決しようとする課題】の項で述べられている。
引用例1の第4図及び本願発明の構成で,長波長レーザであるYAGレーザがアルミニウムを溶融しにくい対物レンズのNAでは,当時の半導体レーザはビームパラメータ積がYAGレーザに比べて約一桁大きいことから,本願発明で特定していなくても,自動的に物理的な事実としてアルミニウムを溶融できないパワー密度となる(甲6,7)。また,このことは当時の当業者に広く常識的に認められていた共通認識である。
ウ本件審決が,引用例1の短波長レーザを,アルミニウムを溶融するものであると認定しておきながら,引用発明1が短波長レーザ単独でアルミニウムを溶融するものではないとするのは,引用発明1に対する認定に一貫性がない。仮に,本件審決の上記部分を「引用発明1も本願発明も短波長レーザと長波長レーザを重畳して最終的にアルミニウムを溶融するもので,短波長レーザ単独,長波長レーザ単独でアルミニウムを溶融するものではない」との意味であると解釈した場合は,これによって上申書(甲7)の原告の主張を採用しないのは,引用例1の内容認定の誤りである。
〔被告の主張〕(1)原出願日の後に頒布された引用例2を引用した点について引用例2が本件出願後に頒布されたことは認めるが,相違点2に係る事項を当業者が容易に想到し得たとする本件審決の判断に誤りはない。
本願明細書【0018】の記載によれば,本願発明が,相違点2に係る構成を採用した技術的意義は,被加工物をアルミニウムとしたことに伴い,アルミニウムの反射率が低い波長域の発光スペクトルを持つレーザを選択したというものであって,引用発明1において,吸収率の高い短波長レーザを用いることと技術的意義を共通にするものである。
そして,アルミニウムに対する反射率が低い波長域が0.8μm付近にあることは周知である(乙1,2)という本件審決の認定事項に加え,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザは周知であること(乙3)を併せ考慮すれば,引用発明1において,アルミニウムに対する反射率が低い波長域の短波長レーザとして,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザを採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
よって,引用例2の頒布日の認定に誤りがあるものの,相違点2に係る事項を当業者が容易に想到し得たとする本件審決の判断は,結論において誤りはない。
(2)本願発明及び引用発明1における各レーザのアルミニウムの溶融についてア本願発明において,短波長である半導体レーザが単独ではアルミニウム表面の温度を溶融温度以下にまでしか高めないものであることは,特許請求の範囲にも本願明細書にも,全く記載がなく,また,それを示唆する記載さえも存在しない。
一方,原告の意見書(甲6)において記載しているように,YAGレーザ,半導体レーザともにアルミニウムを溶融させることが可能な組合せであれば,半導体レーザにおいて,アルミニウム表面を溶融させることは十分可能なものである。
したがって,本願発明において,短波長レーザである半導体レーザが単独ではアルミニウム表面の温度を溶融温度以下にまでしか高めないものであるという原告の主張は,失当である。
イ本願明細書の【背景技術】,【発明が解決しようとする課題】の記載から,本願発明において,YAGレーザのパワー密度がアルミニウムを溶融できないものであると記載されているものとすることはできない。そのほかに,本願明細書及び特許請求の範囲に,本願発明においてYAGレーザのパワー密度がアルミニウムを溶融できないものであるとする記載はなく,また,それを示唆する記載も見当たらない。
したがって,本願発明において,YAGレーザのパワー密度がアルミニウムを溶融できないものであるという原告の主張は失当である。
長波長であるYAGレーザが,アルミニウムに対するレーザの反射率が高く,アルミニウムを溶融しにくいものであることは認めるが,上記のとおり,YAGレーザ,半導体レーザともにアルミニウムを溶融させることが可能な組合せであれば,半導体レーザにおいて,アルミニウム表面を溶融させることは十分可能なものである。
ウ本件審決は,引用発明1について「短波長レーザ単独でアルミニウムを溶融するものではない」としており,これは,原告の仮の解釈のとおり,「短波長レーザ単独,長波長レーザ単独でアルミニウムを溶融するものではない」の意味である。
一方,本願発明において,短波長である半導体レーザが単独ではアルミニウム表面の温度を溶融温度以下にまでしか高めないものであると認定することができないことは,上記のとおりである。
第4当裁判所の判断1取消事由(相違点2の判断の誤り)について(1)本件審決の判断ア本件審決は,以下のとおり,相違点2に係る本願発明の事項は,引用発明1及び引用例2に記載された発明に基づき当業者が容易に想到し得たことであると判断した。
すなわち,本件審決は,?引用発明1は,短波長のレーザとして,吸収率の高い波長のレーザ,すなわち,反射率の低いレーザを使用するものであるところ,?アルミニウムにおいて反射率が低い波長域が0.8μm付近にあることは,乙1に記載されているように従来周知の事項であり,また,?引用例2には,「波長808nmの半導体レーザのビームと波長940nmの半導体レーザのビームとを同一の光軸上に重畳して,当該重畳されたレーザビームによりアルミニウムをレーザ溶接する」点が記載されており,これによれば,相違点2に係る本願発明の事項である「アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザ」が開示されていると認定した上,?引用発明1と引用例2に記載された発明とは,長波長と短波長の2つのレーザビームを被加工物上に集光するアルミニウム溶接用レーザ加工光学装置である点で共通するとともに,引用例2に接した当業者であれば,波長808nmの半導体レーザを短波長レーザの選択肢の一つとして考慮することに何らの困難性も見いだせないから,?引用発明1のエキシマレーザに代えて引用例2に記載された「波長808nmの半導体レーザ」を採用することについては,上記周知技術も踏まえれば,十分な動機がある,と判断したものである。
イしかしながら,特許法29条2項は,「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が同条1項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたとき」は,特許を受けることができない旨を規定しているのであって,同条1項3号に掲げる刊行物記載の発明すなわち引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたか否かは,特許出願時において判断すべきはいうまでもないことであるから,本件原出願後に頒布されたものであることについて当事者間に争いがない引用例2に記載された事項を,引用発明1に採用することによって,容易に発明をすることができたと判断した本件審決には,特許法29条2項の適用を誤った違法があることが,明らかである。
(2)被告の主張についてア被告は,引用例2が本件原出願後に頒布されたものであることを認めた上,相違点2に係る本願発明の事項(アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルを持つ半導体レーザ)は,引用発明1及び乙1ないし3に記載された周知の事項に基づき当業者が容易に想到し得たことであるから,本件審決の結論に誤りはないと主張する。
しかしながら,本願明細書には,背景技術として,「金属が低い反射率を有する短波長のレーザビームを吸収することによって金属の表面の温度が上昇し,さらに加工されるとこの2つの現象の結果,この部分の反射率が低下するため重畳された長波長のYAGレーザビームも容易に吸収されてレーザビームが効率よく加工物に結合されることを利用したものである」こと(【0002】),「この分野の最近の公知例…の場合,YAGレーザとKrFエキシマレーザを加工物の同一所に集光して照射するもので,これら2つのレーザビームは別々のレンズで集光され,水平面におかれた被加工物に対してYAGレーザビームは垂直にKrFエキシマレーザビームは垂直から45度傾けて照射される。このような従来技術では,装置が大きくなり,さらに2つのレーザビームが集光された加工物の下面では別々の光路を進み,別の箇所を照射するために2つのレーザの出力ビームの利用効率が低く,加工特性が良くないという問題があった」ことが記載され(【0003】),本願発明が解決しようとする課題として,「以上で述べたような従来技術の欠点を除くために行われたものであり,2つのレーザの出力ビームを同軸に重畳して被加工物に照射し,レーザビームの利用効率を高めて加工特性を改善することを目的とする」ことが記載され(【0004】),本願発明の効果として,「被加工物がアルミニウムであり,前記長波長のレーザが,アルミニウム溶接加工用として用いられているYAGレーザであり,前記短波長のレーザが,アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザであるので,2つのレーザの出力ビームを被加工物の同一の部位に照射することができ,レーザビームの利用効率が高く,加工性がよい」(【0010】【0014】),「短波長レーザとしては半導レーザを使用することができ,レーザのかわりにLEDを使用することもできる。被加工物がアルミニウムである場合,0.8μm付近に反射率の低い波長域があるため,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザやLEDを選択することが有利である。」(【0018】)等の記載がある。これらの記載によれば,本願発明においては,相違点2に係る短波長レーザの構成が,課題解決のための本質的な部分であると解される。
しかるところ,前記のとおり,本件審決は,引用例2に,相違点2に係る本願発明の構成(アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルを持つもつ半導体レーザ)が開示されていると認定した上(前記(1)ア?),引用発明1のエキシマレーザに代えて引用例2に開示された上記半導体レーザを採用することが容易である(前記(1)ア??)という論理を展開したものである。
しかし,引用発明1における短波長レーザであるエキシマレーザは,アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,波長0.8μm付近の発光スペクトルを持たない上に,半導体レーザとは異なる種類のレーザである(乙2,3)。このようなエキシマレーザを,「アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザ」という,種類の異なる短波長レーザに置き換える点の容易想到性を判断するに際し,引用例2に代えて周知技術置き換えるという理由の差替えを,審判段階ではなく,訴訟段階に至ってから特許庁の側が行うことは,審決に理由を付することを義務づけた特許法157条の趣旨にも反するものであり,許されないといわざるを得ない。
なお,審決取消訴訟において,審判の手続で審理判断された刊行物記載の発明との対比における進歩性の有無を認定して審決の適法,違法を判断するにあたり,審判の手続には現れていなかった資料に基づき当業者の特許出願当時における技術常識を認定し,これによって同発明の持つ意義を明らかにすることは許されるとしても(最高裁昭和54年(行ツ)第2号同55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80頁参照),刊行物記載の発明と公知技術との組合せにより容易に発明できたという理由を,技術常識の名の下に刊行物記載の発明から容易に発明できたという理由に差し替えることが許されるとまで解することはできない。
イまた,被告は,乙1及び2にアルミニウムに対する反射率が低い波長域が0.8μm付近にあることが記載され,乙3に0.8μm付近の発光スペクトルを持つ半導体レーザが記載されていると主張する。
しかしながら,本件審決が認定するとおり,引用例2には,重畳された半導体レーザビームによりアルミニウムをレーザ溶接する点が記載されているのに対し,乙1ないし3には半導体レーザビームによりアルミニウムをレーザ溶接する点が記載されていない上に,引用発明1と本願発明との相違点2に係る構成そのもの(アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルを持つ半導体レーザ)が,引用例2に開示されていることと,乙1及び2にアルミニウムに対する反射率が低い波長域が0.8μm付近にあることが記載され,乙3に0.8μm付近の発光スペクトルを持つ半導体レーザとがそれぞれ別々に記載されていたこととは,等価とはいえないから,被告が主張するような理由の差替えは,失当である。
(3)小括以上のとおりであるから,相違点2に係る容易想到性については,特許庁において再度審理を行い審決をするべきであり,その余の点について判断するまでもなく,取消事由は理由があるといわなければならない。
2結論以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 高部眞規子
裁判官 井上泰人