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事件 |
平成
22年
(行ケ)
10048号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2010/11/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
1 平成22年11月10日判決言渡同日原本受領裁判所書記官 平成22年(行ケ)第10048号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成22年10月27日 判 決 原 告 住 友 不 動 産 株 式 会 社 同訴訟代理人弁理士 石 井 良 和 被 告 特許庁長官 同 指 定 代 理 人 山 本 忠 博 神 悦 彦 紀 本 孝 豊 田 純 一 主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1請求 特許庁が不服2008?927号事件について平成21年12月14日にした審 決を取り消す。 第2事案の概要 本件は, 原告が下記1のとおりの手続において,発明の要旨を下記2とする原 告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立 たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり) には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯 (1)本件出願及び拒絶査定 発明の名称:多開口パネル 2 出願番号:特願2003?76032 出願日:平成15年3月19日(甲3) 拒絶査定日:平成19年12月4日 (2)審判請求及び本件審決 審判請求日:平成20年1月11日 拒絶理由通知:平成21年8月17日付け(甲7。以下,同日付け拒絶理由通知 を「本件拒絶理由通知」という。) 審決日:平成21年12月14日 審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。 原告に対する審決謄本送達日:平成22年1月13日 2本願発明の要旨 本件審決が対象とした,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである (以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」,平成20年3月25日(甲 4)及び平成21年10月26日(甲5)にされた手続補正に基づく補正後の明細 書(甲3?5)を「本願明細書」という。)。 枠材に構造用合板を固定した枠組壁工法用の壁パネルであって,壁パネルの上部 にはマグサが設けてあり,このマグサは縦枠及び縦桟に沿って設けたマグサ受けの 上端に支持させて固定してあり,マグサ受けの間に複数の横桟が設けてあり,マグ サ受けと横桟及びマグサで囲まれた部分とマグサ受けと横桟で囲まれた部分の構造 用合板がくりぬかれて複数の開口が間隔をおいて形成してあり,合板の開口周囲が マグサ受け及び横桟又はマグサに固定してある枠組壁工法用の多開口パネル 3本件審決の理由の要旨 (1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,特開2002?21181号 公報(甲1。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」とい う。)及び特開平8?334260号(甲2。以下「本件周知例」という。)に記 載された周知技術(以下「本件周知技術」という。)に基づき当業者が容易に発明 3 をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けること ができない,というものである。 (2)なお,本件審決は,その判断の前提として,引用発明並びに本願発明と引 用発明との一致点及び相違点を,以下のとおり認定した。 ア引用発明:枠に構造用合板を取りつけた2×4工法用の壁パネル体であって, 間柱の間に横桟が設けられ,枠,間柱又は横桟に囲まれた部分に複数の開口部が間 隔をおいて形成してある壁パネル体 イ一致点:枠材に構造用合板を固定した枠組壁工法用の壁パネルであって,構 造用合板がくりぬかれて複数の開口が間隔をおいて形成してあり,合板の開口縁が 該開口縁に配置する部材に固定してある枠組壁工法用の多開口パネル ウ相違点:本願発明では,壁パネルの上部にはマグサが設けてあり,このマグ サは縦枠及び縦桟に沿って設けたマグサ受けの上端に支持させて固定してあり,マ グサ受けの間に複数の横桟が設けてあるとともに,マグサ受けと横桟及びマグサで 囲まれた部分とマグサ受けと横桟で囲まれた部分に開口が形成してあり,合板の開 口周囲がマグサ受け及び横桟又はマグサに固定してあるのに対して,引用発明では, そのようなマグサ及びマグサ受けを設けておらず,開口が形成されその周囲が固定 してあるのがマグサ受け又はマグサではない点 4取消事由 (1)容易想到性についての判断の誤り(取消事由1) ア引用発明の認定の誤り イ本件周知技術の認定の誤り (2)審判における手続違背(取消事由2) 第3当事者の主張 1取消事由1(容易想到性についての判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1)引用発明の認定の誤りについて 4 ア本件審決は,引用例に記載された「パネル」を「2×4工法用の壁パネル 体」と認定している。 しかしながら,引用例には「軸部材」との用語が繰り返し記載されているように, 引用例に記載の「パネル」は,専ら柱,梁及び土台で構成される軸組工法による木 造家屋に適用するものである(【0012】等)。例えば,引用例の図10及び図 12は,開口が設けられた耐力壁のようにも見えるが,これは,連結金具によって 現場で柱等に係合されて組み立てられるものであって(【0015】【001 6】),軸組工法を適用した上で,単に複数の壁を一体化して現場施工の省力化を 図ったにものであるにすぎない。 むしろ,2×4工法の耐力壁は,垂直と水平の両方向からの力に耐えるものでな ければならないところ,本件の出願時点(平成15年3月19日)においてさえ, 開口を設けたパネルは水平方向の力に対して構造的に弱いという問題点があったの に,引用例(平成12年7月11日出願)には,耐力壁として機能するためには力 学的にどのような構造としてパネルの強度を担保するかについては何も記載されて いない。したがって,引用例に記載の「パネル」は,連結金具により柱に一体化さ れる前は部材としては構造物となる前の中途半端な状態であるから,水平方向の力 が作用すれば簡単に破壊することが明らかであり,耐力壁としての力学的特徴を有 していないことは,当業者に明らかである。 このように,引用例には,2×4工法(枠組工法)への言及はあるものの,耐力 壁を組み合わせて構成される同工法に関する技術思想は,一切記載されていない。 現に,引用例に記載の「パネル」が2×4工法のパネルではないとする専門家の鑑 定書もある(甲11)。 イ本件審決は,引用発明を「2×4工法用の壁パネル体であって,間柱の間に 横桟が設けられ」と認定しているが,「間柱」とは,軸組工法の柱と柱の間に設置 され,壁材などの固定のために用いられる部材であって,力学的な構造が異なる2 ×4工法用のパネル体について「間柱」の存在を認定するのは意味不明であり,か 5 つ,引用例の図12には,横桟といえるものは存在しない。 また,本件審決は,引用発明において開口部に対応する部分の構造用合板がくり ぬかれることは明らかであると判断しているが,引用例の図12に記載された開口 部分は,柱と柱との間又は間柱と間柱との間であって,窓又は出入り口として使用 する部分である。すなわち,軸組構造においては,開口部となるべき箇所をくりぬ く必要はないのであるから,これをくりぬいていると認定するのは,誤りである。 さらに,引用発明にはマグサが存在しないのに,本件審決は,合板の開口縁に配 置する部材であるというだけで,部材の力学的機能を無視し,配置する位置だけで 判断するという誤りを犯している。 ウ以上のとおり,本件審決による引用発明の認定には誤りがあり,本願発明と 引用発明との間には一致点がない。 (2)本件周知技術の認定の誤りについて ア本件審決は,「耐力壁に開口を設ける際に,強度を確保する目的で横桟とと もにマグサやマグサ受けを設けることは従来から普通に行われている周知技術であ る」として本件周知例を挙げる。 イしかしながら,本件周知例は,「建物の鉛直方向の力を支持可能である壁パ ネル」と記載しているものの(【0005】),耐力壁に必要とされる水平方向の 力に対して抵抗できることについては一切言及がないから,そこに記載の発明は, 耐力壁とはいえない。また,開口を有するパネルは,耐力壁とはなり得ない。 ウ以上のとおり,本件周知例に基づく本件審決の対比判断は,誤りである。 (3)したがって,本件審決は,引用発明及び本件周知技術の認定を誤り,容易 想到性の判断を誤っているから,取り消されるべきである。 〔被告の主張〕 (1)引用発明の認定の誤りについて ア引用例には,引用発明が2×4工法に適用されることが明記されており (【0001】),同工法による木造家屋の建築についても記載がある(【請求項 6 2】【0007】)。また,引用例は,その記載に係る大型一体パネルの実施例と して軸組工法に適用されるものを記載しているが,当該大型一体パネルのように軸 組の間に配される枠組壁が軸組の剛性を高める耐力壁として機能し,この枠組壁が 2×4工法における耐力壁と共通の特徴を有していることは,引用例にも記載があ る(【0015】)。そして,引用例には,軸組工法に用いられる大型一体パネル が2×4工法に利用可能である旨の示唆があるから(【0025】),両工法を知 る当業者にすれば,当該大型一体パネルを2×4工法用の壁パネル体とすることが できることは,自明であって,引用例には,同工法に関する技術思想が記載されて いるといえる。 イ仮に,引用例が軸組工法用の大型一体パネルしか記載していないとしても, これが2×4工法に利用可能であることについては記載がある(【0025】)ば かりか,当該パネルのように縦材と横材とからなる枠体に構造用合板を貼り付けた ものが2×4工法における耐力壁(水平方向の耐力を有する壁)として機能し得る ことは,当業者の技術常識である(甲6,乙1)から,当業者は,引用例に記載の 大型一体パネルを容易に2×4工法用の壁パネル体とすることができる。 そして,2×4工法は,本件の出願当時,ごく一般的な工法であって,その壁パ ネル体に開口を設けることも,周知技術であった(乙2?4)ところ,2×4工法 用のパネルに開口を設けた場合,開口の周囲に配する構造用合板及び枠体を建物に 必要な耐力を得られるように設計することは,当然である。 ウ2×4工法においても間柱の用語が使用されることはあるし(甲6),本件 審決が認定した間柱は,枠の内側に配された縦材を指しており,縦材を有する2× 4工法用の壁パネル体を認定する際に「間柱」との用語を使用しても,技術的に不 明ではない。 次に,構造用合板をくりぬいて開口を形成することは,常套手段であるし,2× 4工法用の壁パネル体に開口を設けた場合,開口の周囲に配する構造用合板及び枠 体を建物に必要な耐力を得られるように設計することは,当然である。 7 さらに,本件審決は,引用発明にマグサがあると認定したものではなく,本願発 明の「マグサ受け及び横桟」と引用発明の「枠,間柱又は横桟」とは,ともに「合 板の開口縁に配置する部材」である点で共通していると認定したものである。 エしたがって,引用例には「2×4工法用の壁パネル体」が実質的に記載され ており,その他にも本件審決による引用発明の認定に誤りはない。 (2)本件周知技術の認定の誤りについて 本件周知例は,そこに記載の発明について「耐力壁」と明記している。また,本 件周知例は,「耐力壁に開口を設ける際に,強度を確保する目的で,横桟とともに マグサやマグサ受けを設けること」が周知であること(本件周知技術)を示すため の文献であり,他にも本件周知技術を示す文献がある(乙1?4)ばかりか,本願 明細書には,縦横の複数の桟で補強されている本願発明が水平方向の力に耐力を有 する旨が記載されている(【0008】)から,同様の構成を有する本件周知例に 記載の発明が水平方向の力に対する耐力を有することは,明らかである。 2取消事由2(審判における手続違背)について 〔原告の主張〕 被告は,引用例には2×4工法の壁パネル体が「実質的に」記載されている旨を 主張するが,本件拒絶理由通知(甲7)においては,引用例には「枠組壁工法用の 多開口パネル」が「記載されている」としか記載されておらず,実質的に2×4工 法の壁パネル体が引用例に記載されていることについては一切言及していないから, 本件拒絶理由通知は,拒絶の理由を通知したことにならず,本件審決は,特許法1 59条が準用する同法50条に則った手続を執っておらず,違法である。 〔被告の主張〕 被告は,取消事由1についての被告の主張(1)ア及びイに記載のとおり,引用例 に2×4工法の壁パネルが文言上記載されているのみならず,実質的にも記載され ていることを主張したものであって,本件審決の認定と異なる主張をするものでは ない。 8 第4当裁判所の判断 1取消事由1(容易想到性についての判断の誤り)について (1)本願発明について まず,本願発明についてみると,その請求項1の記載は前記第2の2記載のとお りであるほか,本願明細書(甲3?5)には,要旨次の記載がある。 ア従来,枠組壁工法(2×4工法)によって建築される建物においては,荷重 を壁体が負担するものとして設計されており,壁体を構成する壁パネルは,耐力壁 として強度が要求されているため,ここに開口を設けた場合,特殊な金物で補強し ない限り,その部分は,耐力の低下により構造材としての耐力壁とはみなされず (【0002】【0004】),建物全体で壁量が不足するため,これを補うため に他の位置に耐力壁を配設することになり,建物のプランの自由度が小さくなり, 間取りや採光計画に制約があった(【0005】)。 イそこで,本願発明は,例えば2本の縦桟の間の上部に垂直加重を負担するマ グサを設け,縦桟に沿ってマグサ受けを固定してマグサを支持させ,マグサ受けの 間に複数の横桟を固定して(【0009】?【0013】)形成された枠組の片面 又は両面に構造用合板を釘又は接着剤で固定し,開口とする部分(マグサ受けと横 桟とで囲まれた部分)の構造用合板をくりぬいて開口を形成する(【0007】 【0014】【0015】)ことで,壁パネルに開口を設けても,金物を使うこと なく特に水平力に対して耐力壁として十分な強度を確保するようにしたもので,こ れにより,建築プランの自由度を高めるとともに,意匠的にも斬新な建物の建築を 可能にしたものである(【0006】【0019】)。 (2)引用例について 引用例(甲1)には,要旨次の記載がある。 ア【請求項1】柱や梁を用いた軸組工法による木造家屋の各軸部材,及びこの 軸部材間に設けられる壁パネル体及び床パネル体並びに屋根パネル体を設け,これ らを各々所定の数のグループごとに規格化し,上記家屋を構成する空間を形状及び 9 大きさごとに所定の数の空間ユニットに規格化し,上記各軸部材,各壁パネル体, 床パネル体及び屋根パネル体と,上記家屋を構成する上記空間ユニットとの組合せ のパターンをあらかじめ複数設定し,上記空間ユニットの外壁となる部分の構造材 や軸部材と外壁材及び開口部を一体に構成し,上記軸部材に連結する係合部を端面 に設けたことを特徴とする木造家屋の大型一体パネル イ【請求項2】壁工法による木造家屋の各パネル体を,各々所定の数のグルー プごとに規格化し,上記家屋を構成する空間を形状及び大きさごとに所定の数の空 間ユニットに規格化し,上記各パネル体と,上記家屋を構成する上記空間ユニット との組合せのパターンをあらかじめ複数設定し,上記空間ユニットの外壁となる部 分の構造材と外壁材及び開口部を一体に構成し,互いに係合部で連結することを特 徴とする木造家屋の大型一体パネル ウこの発明は,柱や梁を用いた軸組工法(【0006】)や,2×4工法等の 壁工法による木造家屋について(【0007】),その側壁等をパネル化して工場 生産した大型一体パネル等に関するもので(【0001】【0002】【000 9】),例えば軸組工法による家屋(【0012】)の外壁を構成する壁パネル体 は,「外壁となる部分の構造材である枠14や間柱16,及び外壁材を設ける下地 材であり耐力壁でもある構造用合板22,及び窓用の開口部24を一体に構成した 大型一体パネル」であって,さらにその端縁及び上端縁にそれぞれ柱及び梁が一体 に設けられているが(【0015】【図10】),上記の開口部から間隔をおいて 出入り口の開口部を別途設けたものもある(【0016】【図12】)。なお,図 10及び図12においては,これらの開口部の上縁又は下縁に,間柱と同等の太さ の棒状の部材が横方向に描かれている。 この壁パネル体は,あらかじめ組まれた枠及び間柱に,構造用合板等を取り付け, 更に開口部に窓用のサッシ枠を取り付けるなどして製造される(【0019】)。 なお,この発明の大型一体パネルは,軸組工法に限定されるものではなく,2×4 工法等の壁工法にも利用可能である(【0025】)。 10 (3)引用発明について 引用例の前記記載によれば,引用発明は,次のようなものであったと認めること ができる。 ア軸組工法に用いるパネルの場合,軸部材に連結する係合部を端面に設ける構 成となっている(【請求項1】)のに対し,2×4工法に用いるパネルの場合,柱 や梁といった軸部材が存在せず,したがって構造材と外壁材及び開口部を一体に構 成し,互いに係合部で連結する構成となっている(【請求項2】)ことに加えて, その【発明の詳細な説明】欄においても,2×4工法に対する適用について明確な 記載がある(【0001】【0002】【0007】【0009】【0025】) ことに照らすと,引用例には,軸組工法に限らず,2×4工法により建てられる家 屋の側壁等をパネル化するという発明が記載されている。 イ引用例の図12に着目した場合,これは,軸組工法による実施例を示したも のである(【0012】【0016】)から,これを柱及び梁を使用しない2×4 工法に適用する場合,ここに示された柱及び梁が不要となることは,当業者に容易 に理解可能である。 ウ他方,本件の出願当時,枠組に構造用合板を張ったものが耐力壁として用い られることは,一般的な文献(昭和53年10月20日刊行「図解ツーバイフォー の詳細第2版」(乙1))にも記載があり,2×4工法における耐力壁に開口を 設けることを記載し(乙2【0003】【0004】【0007】【図1】【図 3】【図5】【図6】,乙3【0004】【図17】,乙4【0005】【図8】 【図13】),その際には強度(水平方向の力に対するものを含む。)に留意すべ きことを指摘する特許出願(乙2【0012】【0021】,乙4【0005】) も公開されていたほか,経験則に照らしても,上記の構造を有する耐力壁の強度は, 枠組の部材及び構造用合板の材質,厚さ及び使用形態により自由に設定できること は,明らかである。 したがって,引用例の図12を2×4工法に適用する場合,枠組の部材及び構造 11 用合板の材質,厚さ及び使用形態を適宜調節することで強度を確保すればよいこと は,当業者に明らかであったというべきである。 エ以上によれば,引用例には,なるほど2×4工法用の壁パネル体に関する実 施例の記載がないものの,軸組工法に関する実施例である図12をもとに2×4工 法用の壁パネル体を容易に構成可能であることは,当業者にとって明らかであって, 引用例には,2×4工法に関する技術思想の記載があるものといえる。 オしたがって,引用例には,「枠に構造用合板を取りつけた2×4工法用の壁 パネル体であって,間柱の間に横桟が設けられ,枠,間柱又は横桟に囲まれた部分 に複数の開口部が間隔をおいて形成してある壁パネル体」が記載されているものと 認めることができ,引用発明についてその旨を認定した本件審決に誤りはない。 (4)原告の主張について ア以上に対して,原告は,引用例には「軸部材」との用語が繰り返し記載され ており,図10及び図12に記載の壁パネル体も,柱に対する係合が想定されてい るほか,引用例に記載の「パネル」が2×4工法のパネルではない旨の鑑定書(甲 11)を援用して,引用例には専ら軸組工法による木造家屋に関するものの記載し かない旨を主張する。 しかしながら,引用例に「軸部材」との用語が多数回現れるのは,その実施例と して軸組工法によるもののみを記載しているためであるにほかならず,また,図1 0及び図12が柱に対して連結金具により係合されることが想定されているのも, 単に実施例が軸組工法を前提とした説明であるからにすぎない。 また,上記鑑定書は,引用例のうち,軸組工法による実施例について記載した部 分(【0014】)のみを取り上げて,そこで扱われている壁パネル体が軸組工法 によるものである旨を述べているにすぎず,この鑑定書があるからといって,引用 例には2×4工法に関する技術思想が記載されていないとまで認定することはでき ない。 よって,原告の上記主張は,いずれも採用できない。 12 イまた,原告は,開口を設けたパネルが水平方向の力に対して構造的に弱いと いう問題点があったのに,引用例にはパネルの強度を担保する方法について記載が ないから,引用例の図12に記載されたパネルが連結金具により柱に一体化される 前は,水平方向の力が作用すれば破壊することが明らかである旨を主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件の出願当時,枠組に構造用合板を張ったもの が耐力壁として用いられることは,一般的な文献にも記載があり,2×4工法にお ける耐力壁に開口を設けることを記載し,その際には強度(水平方向の力に対する ものを含む。)に留意すべきことを指摘する特許出願も公開されていたほか,上記 の構造を有する耐力壁の強度について,枠組の部材及び構造用合板の材質,厚さ及 び使用形態により自由に設定できることは,技術常識というべきものであるから, 引用例にパネルの強度を担保する方法について記載がないとしても,そのことから 当該パネルが水平方向の力に対して脆弱であるということはできない。 よって,原告の上記主張は,採用できない。 ウさらに,原告は,「間柱」とは軸組工法の部材であり,引用例の図12には 横桟が存在せず,また,引用例にマグサの存在を認定するのは誤りであるほか,軸 組構造において開口部をくりぬいたとする認定も誤りである旨を主張する。 しかしながら,2×4工法においても,間柱(スタッド)との用語が用いられ (甲6),あるいは「たて枠」との用語で間柱と同等のものが存在する(乙1)こ とについては,いずれも一般的な文献に記載がある。したがって,引用例の図12 を2×4工法に適用する場合に耐力壁の強度を適宜調節するに当たって,殊更に間 柱を除外したり,あるいはこれを別の名称で呼ぶに足りる理由に乏しい。 また,引用例の図12には,前記のとおり,開口部の上縁又は下縁に間柱と同等 の太さの棒状の部材が横方向に描かれているところ,これは,開口との関係で横桟 に相当するものと認められる。そして,引用例の図12を2×4工法に適用する場 合に耐力壁の強度を適宜調節するに当たって,これを除外する理由は見当たらない。 そして,本件審決がこの横桟をマグサとして認定したものでないことは,明らか 13 であるばかりか,本件審決は,軸組工法に用いる壁パネル体と本願発明を対比した のではないことは措くとしても,パネルに開口部を設けるために構造用合板をくり ぬくのは,ごく常套的な手段であるにすぎない。 よって,原告の上記主張は,いずれも採用できない。 (5)本件周知例の記載について 本件周知例(甲2)は,「空気調和機の主要部分を建物の鉛直方向の力を支持可 能な壁部材に内装可能とすること」を解決すべき課題とした(【0005】),耐 力壁となり得るとともにエアコン室内機を内装可能な壁パネルに関する発明を記載 したもので(【請求項1】【0001】),エアコン室内機の内装部が,隣り合う 2本の横芯材とその2本の横芯材の間を渡して2本の縦枠に沿って固定される2本 の縦補強材とによって囲まれた空間として形成されたことを特徴とする壁パネルに ついて(【0007】【0017】【図1】),エアコン室内機を内装しても耐力 壁として使用できるようにするために,更に他の補強材を含んでもよい旨を記載し ている(【0017】)。 (6)本件周知技術について 以上の記載によれば,本件周知例の図1に記載された2本の横芯材と2本の縦補 強材が開口を形成し,2本の横芯材のうち,下部のものが横桟に相当するほか,上 部のものがマグサとして,2本の縦補強材がマグサ受けとして,それぞれ機能する ものと認められる。したがって,本件周知例は,耐力壁となり得る壁パネルにエア コン室内機の内装部という開口を設ける際に,強度を確保する目的で,横桟ととも にマグサやマグサ受けを設ける技術について開示しているものといえる。 また,本件の出願当時,2×4工法における耐力壁に開口を設ける際に,その開 口の下縁に横桟を,上縁にマグサを,そして開口の両縁にマグサを支持するマグサ 受けを設けることについては,一般的な文献にも記載があり(乙1),これを利用 した特許出願も公開されていた(乙2?4)から,耐力壁に開口を設ける際に,強 度を確保する目的で,横桟とともにマグサやマグサ受けを設ける技術は,周知であ 14 ったといえる。 (7)原告の主張について 以上に対して,原告は,本件周知例には水平方向の力に抵抗できることが記載さ れていないから,そこに記載された発明が耐力壁ではないし,開口を有するパネル が耐力壁とはなり得ない旨を主張する。 しかしながら,本件周知例に記載の発明は,主として鉛直方向の力の支持を念頭 に置いているとはいえるものの,本件周知例には耐力壁となり得ることや,そのた めに他の補強材を含んでもよい旨が記載されている。しかも,前記のとおり,本件 の出願当時,枠組に構造用合板を張ったものが耐力壁として用いられることは,一 般的な文献にも記載があり,2×4工法における耐力壁に開口を設けることを記載 し,その際には強度(水平方向の力に対するものを含む。)に留意すべきことを指 摘する特許出願も公開されていたほか,経験則に照らしても,上記の構造を有する 耐力壁の強度は,枠組の部材及び構造用合板の材質,厚さ及び使用形態により自由 に設定できることは,明らかであるから,本件周知例に記載の発明が水平方向の力 に対する強度も確保していることもまた,明らかである。 よって,原告の上記主張は,採用できない。 (8)本願発明の容易想到性について 以上のとおり,本件審決による引用発明及び本件周知技術の認定には,いずれも 誤りがないから,一致点及び相違点の認定にも,誤りは認められない。そして,引 用発明と本件周知技術とは,同じ技術分野に属しており,技術課題にも共通すると ころがあるばかりか,当業者が引用発明に本件周知技術を組み合わせることについ ては,何ら阻害要因が見当たらないから,引用発明に本件周知技術を組み合わせる ことで本願発明の相違点に係る構成は,当業者が容易に採用し得ることである。そ して,本願発明の作用効果に格別なものが見当たらないことも併せ考えると,本願 発明は,引用発明及び本件周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができ たものであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 15 よって,原告主張の取消事由1は,理由がない。 2取消事由2(審判における手続違背)について (1)原告は,本件訴訟において,被告が引用例には2×4工法の壁パネル体が 「実質的に」記載されている旨を主張したことについて,本件拒絶理由通知(甲 7)に記載のない拒絶理由に基づくものであるとして,本件審決の手続が特許法1 59条が準用する同法50条に違反している旨を主張する。 (2)しかしながら,本件審決は,前記第2の3(2)ア記載のとおりに引用発明を 認定しているところ,本件拒絶理由通知(甲7)は,引用例には枠組壁工法用の多 開口パネルが記載されている旨を指摘しており,枠組壁工法は,2×4工法と同義 であるから,原告は,本件拒絶理由通知によって引用発明の認定について意見書を 提出する機会を与えられている。 (3)したがって,本件審決の手続には,平成18年法律第55号による改正前 の特許法159条が準用する同法50条に違背するところはないというべきである。 なお,被告の準備書面(第1回)によれば,被告は,同準備書面において,引用 例の実施例には軸組工法の壁パネル体の記載しかないことを念頭に置きつつ,当業 者の技術常識に基づけば引用例には2×4工法の壁パネル体の技術思想が記載され ているとの趣旨を主張するに当たって,「実質的に」との文言を使用したものと認 められるが,これは,本件訴訟に至って新たな拒絶理由を主張したものではないこ とが明らかであって,被告による上記文言の使用によって審判手続が違法となると いうものではない。 よって,原告の前記主張は,失当である。 (4)したがって,原告主張の取消事由2も,理由がない。 3結論 以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 16 裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣 裁判官 高 部 眞 規子 裁判官 井 上 泰 人 |