審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21行ウ597却下処分取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ウ183特許庁による手続却下の処分に対する処分取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ウ65行政不服審査法による異議申立に対する決定取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行コ10002却下処分取消請求控訴事件 | 判例 | 意匠 |
昭和52行ケ46 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 承継 / 新規性 / インターネット / 進歩性(29条2項) / 先願主義 / 先願の地位 / 実質的同一 / パリ条約 / 優先権 / 意匠登録出願 / 優先日 / 実質的同一性 / 交換 / 優先期間 / 請求の範囲 / 異議申立 / 同盟国 / 特許協力条約 / 権利能力 / |
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事件 |
平成
21年
(行ウ)
540号
手続却下処分等取消請求事件
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ノルウェー王国オスロ<以下略> 原告インヴィトロジェンダイナルエーエス 同訴訟代理人弁護士井坂光明 同 補佐人弁理 士奥山尚一有原幸一 松島鉄男 河村英文 深川英里 東京都千代田区<以下略> 被告国 同訴訟代理人弁護士大西達夫 同 指定代理 人下田一博市川勉 天道正和 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2010/10/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 3この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1特許庁長官が,意願2008-006212について,平成20年8月29日にした,同年6月9日付け提出の優先権証明書提出書に係る手続に対する却下処分を取り消す。 2特許庁長官が,上記却下処分に対する平成20年10月31日付け異議申立てについて,平成21年4月27日にした,異議申立てを棄却する旨の決定を取り消す。 第2事案の概要Office 1本件は,「域内市場における調和のための官庁(商標及び意匠)」(,以下「OHIM」という。)出願を基礎for Harmonization in the Internal Marketとするパリ条約による優先権主張をして我が国の特許庁に意匠登録出願をした原告が,その優先権証明書提出書に係る手続において,意匠法15条1項,特許法43条2項所定の優先権証明書(原本)の提出をしなかったとして,意匠法68条2項,特許法18条の2第1項の規定により同手続を却下する旨の処分を受けたが,同処分は意匠法68条2項,特許法18条の2の規定に反する違法なものであると主張して,その取消しを求めるとともに,同処分に対する異議申立てを棄却した決定についても,手続の補正(優先権証明書の提出)により瑕疵が治癒されたことを考慮しない違法なものであると主張して,その取消しを求める事案である。 2争いのない事実(1)原告は,平成20年3月12日,意匠に係る物品を「マグネティックセパレーションラック」とする意匠登録出願(意願2008-006212。以下「本件出願」という。)をし,それと同時に,パリ条約による優先権主張(優先権主張の基礎とされる出願をした国「OHIM」,出願日「2007年9月12日」,出願番号「000788799-0003」)をした。 (2)原告は,平成20年6月9日,本件出願における優先権主張の基礎となる最初の出願であると主張する登録共同体意匠(000788Design number799-0003)の出願について,OHIMの発行した認証謄本のうち表紙を含む2枚分を複写(コピー)したもの及びその訳文を添付して,優先権証明書提出書(以下「本件提出書」という。)を提出した(なお,意匠法15条1項,特許法43条2項の規定によれば,本件における優先権証明書の提出期限は,平成20年6月12日である。)。 上記の複写(コピー)された書面には,本件出願の優先権の基礎となる出願の登録日(出願日)が「2007年9月12日」であること,この基礎出願の登録番号(出願番号)が「000788799-0003」であること,この優先権証明書がOHIMによって発行されたものであることが記載されていたが,登録共同体意匠を記載した図面はなかった。 (3)特許庁長官は,平成20年7月7日(発送日は同月11日),本件提出書に係る手続について,原告に対し,意匠法15条1項,特許法43条2項に規定するパリ条約の同盟国の認証がある優先権証明書の添付がなく(本件提出書に添付のものは,優先権証明書の表紙である出願の年月日等を記載した書面等を複写したものであり,また,最初の出願に係る意匠出願の謄本も添付されていない。),法令で定める要件を満たしていないため,却下すべきものと認められる旨通知するとともに,原告に弁明の機会を与えた(意匠法68条2項,特許法18条の2第2項)。 これに対し,原告は,同年8月8日,特許庁長官に対し,「優先権証明書の代わりに当該証明書の複写を提出してしまったことは,……補正の機会すら与えられないような法的瑕疵には該当しない」,「(本件提出書に係る手続は)補正をすることが可能であり,……複写ではない優先権証明書を提出する機会が与えられるべきである」などと記載した弁明書を提出するとともに,優先権証明書の原本を直ちに提出することが可能であることを示すためであるとして,同証明書(OHIMの発行した認証謄本)全部(4枚)の写し(カラーコピー)を提出した。 (4)特許庁長官は,平成20年8月29日,本件提出書に係る手続について,不適法なものであり(その理由は上記(3)前段のとおり),その補正をすることができないとして,意匠法68条2項,特許法18条の2第1項の規定により,これを却下する処分(以下「本件処分」という。)をし,同処分書は,同年9月2日,原告に送達された。 (5)原告は,平成20年10月31日,特許庁長官に対し,本件処分の取消しを求めて,行政不服審査法に基づく異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をした。 また,原告は,同年11月4日,特許庁長官に対し,本件提出書に係る手続の補正として,本件出願における優先権主張の基礎となる最初の出願についてOHIMが発行した認証謄本(優先権証明書の原本)とその訳文を提出した。 (6)特許庁長官は,平成21年4月27日,本件異議申立てを棄却する旨の決定(以下「本件異議決定」という。)をし,その決定書は,同月28日,原告に送達された。 3争点(1)本件処分の適法性(2)本件異議決定の適法性4争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(本件処分の適法性)についてア原告意匠法68条2項が準用する特許法18条の2第1項は,「特許庁長官は,不適法な手続であって,その補正をすることができないものについては,その手続を却下するものとする。」と規定しているが,「その補正をすることができないもの」とは,手続の本質的部分が欠落しており,補正を認めると手続の同一性が損なわれるようなものをいうと解すべきである。 どのような場合が手続の本質的部分の欠落に該当するかは,各手続の要件を定めた条文の解釈によって定められることになるが,後記のとおり,特許法18条の2,43条2項の規定の趣旨,方式審査便覧,裁判例,パリ条約の規定,比較法的観点に照らしても,優先権証明書の原本の代わりに写しを提出したことは「手続の本質的部分の欠落」に当たらず,補正を認めても手続の同一性を損なうことになるとはいえない。 したがって,本件提出書に係る手続は補正可能であり,補正すべき旨を命じることなく同手続を却下した本件処分は違法である。 なお,原告は,平成20年11月4日付けで本件提出書に係る手続補正書(優先権証明書原本添付)を提出しており(前記2(5)),これによって,本件提出書に係る手続の瑕疵は治癒され,当初に遡って適法なものとなっている。原告は,本件処分の違法事由として,予備的に上記の点も主張する。 (ア)特許法18条の2についてa方式審査便覧の記載特許庁の方式審査便覧15.20(却下-1)「不適法な出願書類等に係る手続の却下の取扱い」は,特許法18条の2第1項の規定により却下すべき場合として,「物件の提出を目的とする手続(優先権証明書提出等)に物件が添付されていないとき」((16)ニ)を挙げているが,本件提出書に係る手続は,優先権証明書の写しであることが明らかな書面が添付されているのであるから,これには該当しない。 仮に,本件提出書に係る手続が形式的に上記の場合((16)ニ)に該当するとしても,同便覧15.20(却下-1)は,?「基準の運用に当たっては,当該出願書類等を総合的に検討し客観的に手続者の合理的意思を判断するよう努めるものとする。」,?「形式的には以下に掲げる却下事項に該当する場合であっても,個別的具体的な事例においては,必要に応じた取扱いを行うことにより,関係法令の適正かつ妥当な運用を図るものとする。」と定めているのであるから,一律に手続を却下すべきではない。特に,本件のように期限が定められている手続について,その期限経過後に当該手続を却下することは,出願人に対して重大な不利益を与えるものであるから,この点を十分に考慮する必要があるというべきである。そして,本件における具体的事実関係を考慮すれば,原告が優先権証明書の原本を提出すべきところ,誤って写しを提出してしまったこと(手続者の合理的意思)は客観的に明らかであるから,補正が認められるべきである。 b裁判例特許法第18条の2は,平成8年の特許法改正(平成8年法律第68号)により新設されたものであり,同改正前に行われていた不受理処分を却下処分として規定上明確化したものであるから,不受理処分に関する裁判例が判示するところは,却下処分についても同様に妥当するものである。しかるところ,「請求人相違」という理由に基づいて意見書及び手続補正書を不受理とした特許庁長官(被控訴人)の処分について,東京高等裁判所昭和59年11月28日判決(判例時報1148号141頁,判例タイムズ550号285頁)は,補正を命ずることなく,請求人相違を理由に,意見書等提出期限経過後に右各書面につき不受理処分をした各処分はいずれも違法として取消しを免れないと判断している。 提出期限が定められているため,不受理(現行法では却下)処分がされると出願人に重大な不利益を課するという点において,上記裁判例の事案は本件と同様であり,その判示するところは,本件にも同様に妥当するものである。 (イ)特許法43条2項についてa特許法43条2項は,優先権主張に係る基礎出願の事実及び内容を証明する証明書の提出を要求しているが,これは,優先権主張(特許法43条1項)だけでは国名と出願年月日しか特定されていないものについて,具体的な出願及びその内容を特定し,かつ,これらを証明することを目的とするものである。 b本件提出書に添付して提出された書類は,優先権証明書の表紙を含む複写2枚と訳文2枚の合計4枚の書類であるが,上記複写2枚が提出されたことによって,まず,優先権証明書が存在することが証明されている。また,この複写には,本願の優先権の基礎となる出願の登録日(出願日)が「2007年9月12日」であることと,この基礎出願の登録番号(出願番号)が「000788799-0003」であることが明示されるとともに,この優先権証明書がOHIMによって発行されたものであることも明示されている。 OHIMが,共同体意匠に関し,図面を掲載した公報をインターネット上( 以上のとおり,法定期間内に提出された書面によって,優先権証明書の存在が裏付けられているとともに,基礎出願の出願日を確認することができ,さらに,上記書面に記載された登録番号(出願番号)を使用してOHIMのデータベースから基礎出願の図面を確認することが可能となっていたのであるから,特許法43条2項の規定によって意図された優先権の確認は実質的に可能となっていた。 cなお,特許法43条5項は,我が国と優先権書類データを交換することができる国にした出願に基づいて優先権を主張する場合に,優先権書類の提出を省略できることを規定している。この規定からも明らかなように,特許法43条2項に規定される優先権証明書の提出は,優先権の存在が確認可能ならば,手続の簡素化のために省略され得る性質のものである。事実,特許出願に関して,大韓民国及び欧州特許庁にした出願に基づいて優先権主張をする場合には,優先権証明書の提出は省略でき,平成19年7月からは,アメリカ合衆国にした出願に基づく優先権主張においても優先権証明書の提出が省略可能になっている。また,平成20年特許法等改正によって,出願人の利便性向上及び行政処理の効率化の観点から,優先権書類の電子的交換を世界的に実現するため,優先権書類を交換できる対象国を拡大する改正が行われ,改正後は,第一国以外の国や国際機関(WIPO等)で電子化されたデータの受け入れも可能となり,優先権証明書の提出については,より一層省略される方向へと向かっている。 意匠法においては,特許法43条5項を準用していないが,優先権の存在が確認可能であれば,手続の簡素化のために優先権証明書の提出が省略され得る性質のものであるということについて,特許出願と意匠出願との間に差異はない。そもそも,優先権主張の申立て自体は第三者に重大な影響があるとしても,優先権証明書の提出に関連する手続的な瑕疵が,第三者に格別の不利益を及ぼすといった弊害は考えられない。すなわち,優先権主張自体が適法に行われていれば,それによって,優先権主張の基礎出願の出願日を前提として出願の登録要件等が判断されることが十分予測されるのであるから,本件のような場合に補正を認めたとしても,第三者に看過し得ない不測の不利益を及ぼすものではない。また,優先権証明書の提出期限を設けているのは,審査が遅延しないようにするためと考えられるが,本件について補正を認めたとしても審査に不当な遅延をもたらすものでもない。 したがって,優先権証明書の提出手続について殊更厳格な解釈をするのは妥当ではない。 (ウ)パリ条約4条D項についてパリ条約4条D(1)に基づく特許法43条1項の優先権主張自体は,その有無が第三者の権利に重大な影響を及ぼすため,基礎となる出願の年月日及び国名を明示した申立てをしなければならないこと,その申立てがされるかどうかが不明で権利関係が不確定な状態が長期間継続すると支障が大きいことから,各同盟国が申立ての期限を国内法において規定すべきことを,各同盟国の条約上の義務として規定したものである。 したがって,優先権主張の申立て自体の要件の充足については厳格に解釈するのが条約の趣旨にもかなうものである。 これに対し,特許法43条2項が規定する優先権証明書の提出は,パリ条約上の義務を規定したものではなく,パリ条約が各同盟国に手続上要求することを許容しているものにすぎない。そして,パリ条約4条D(3)は,そのような手続を要求する場合においても,書類の公証を要求してはならないこと,3か月の期間内は提出のために有償としてはならないことという制限を各同盟国に課し,出願人に過大な負担がかからないようにして,優先権主張を行う出願人を保護する趣旨を規定したものと解される。 パリ条約は,各同盟国の国民の工業所有権の保護を目的として同盟を形成し,その保護のための各種規定を置くものであるが,その最も重要な規定の一つが優先権に関する規定である。こうしたパリ条約の目的及び優先権主張に関する規定の趣旨からすれば,優先権証明書の提出に関する手続については,できる限り出願人に有利となる解釈が採用されるべきであり,重大な瑕疵(優先権証明書の添付が全くない単なる提出書だけが提出された場合等)があった場合に優先権の喪失を国内法で規定することが条約違反にならないとしても,本件のように補正を認めるべき事情があるにかかわらず,それを認めないような解釈,運用を行うことは,上記パリ条約の趣旨に反するものというべきである。 (エ)比較法的観点比較法的観点からしても,優先権証明書の提出手続について,本件のような事情の下においても補正を許さないような厳格な扱いをすることは妥当でない。 すなわち,パリ条約の同盟国等における優先権証明書に関する要件をみると,アメリカ合衆国においては,優先権証明書の提出は必要であるが,期間制限は設けられておらず,特許付与に至るまで提出することが可能である。 また,優先権証明書の提出について期間制限を設けている立法例においても,例えば,特許協力条約に基づく規則(以下「PCT規則」という。)第17規則17.1(c)は,期間内に優先権書類の提出がない場合であっても,出願人に優先権書類の提出の機会を与えた後でなければ,優先権主張を無視することができない旨を規定し,欧州共同体意匠に関するEC委員会規則は,優先権書類提出について不備があった場合は,補正のための期間を指定した上,当該期間内に補正がされない場合に初めて優先権主張が効力を失うこととされている(10条(3)c(7)。理事会規則46条も同旨)。 欧州特許条約も,EPC90条(4)において,優先権に関するものを含め,補充し得る方式要件の欠陥については,これを補充するよう指令すべきこととされ(優先権証明書の提出に関して欠陥があった場合にも補充の指令がされるべきことは,EPC規則59に明記されている。),同条(5)において,指令に応じた補充がされないときに初めて優先権主張が喪失されると規定されている。 このように,優先権証明書の提出については,比較法的にも,出願人に過度に不利益とならないような扱いが規定されており,このことは優先権証明書提出に関して厳格な解釈をしなくても不都合が生じないことを示すものであって,この点は,我が国の特許法の解釈においても十分に考慮されるべきである。 イ被告(ア)パリ条約による優先権主張がその効力を生じるためには,パリ条約を受けて我が国の法令上優先権主張の手続として要求される方式,すなわち,?出願と同時にする優先権を主張する旨及び必要な事項を記載した書面の提出又はそれらの事項の願書への記載のほか,?優先権証明書提出期間内における優先権証明書の提出のいずれもが遵守されることが必要であり,上記?の手続を執ってパリ条約による優先権を主張しても,上記?の手続を怠った場合には,当該優先権の主張はその効力を失い,優先権の主張自体がなかったことになるというべきである。 (イ)意匠法15条1項,特許法43条2項は,パリ条約4条D(3)の規定を受けて,優先権証明書について「最初に出願をし……たパリ条約の同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面,……及び図面に相当するものの謄本又はこれらと同様な内容を有する……証明書であってその同盟国の政府が発行したもの」の提出を要求しており,他の手続に関する規定にみられるように「写し」等の提出で足りるものとはしていないから(特許法184条の7第1項,2項,同法施行令15条3項4号等参照),パリ条約による優先権主張の手続において提出することが要求される優先権証明書は,同盟国の政府が発行した優先権証明書の原本そのものをいい,その写しは含まれないものと解するのが相当である。 しかるところ,原告は,本件において,本件出願と同時に本件共同体意匠出願を基礎とするパリ条約による優先権の主張をしたものの,優先権証明書提出期間内に提出した本件提出書の添付書類はOHIMが発行した優先権証明書の原本ではなく,その一部の写しであり,法令の規定による優先権証明書とは認められないから,本件提出書に係る手続は,手続としての本質的要件を欠くもので,意匠法15条1項,特許法43条2項に反する不適法なものである。 特許法18条の2第1項の「不適法な手続であって,その補正をすることができないもの」とは,補正に適さない重大な要件の瑕疵のある手続をいうものと解すべきところ,本件のように優先権証明書を提出しないまま優先権証明書提出期間が経過してしまった優先権主張について,同期間経過後,優先権証明書の原本の提出による手続補正を認めるとすれば,優先権証明書提出期間を定め,その期間内に優先権証明書の提出がないときは当該優先権の主張がその効力を失う旨規定する特許法43条2項及び4項の規定の趣旨が没却されることは明らかである。そうすると,本件提出書に係る手続の瑕疵は,優先権主張の手続における重大な要件の瑕疵であって,補正には適さないものというべきである。 (ウ)以上のとおり,本件提出書に係る手続は,意匠法15条1項,特許法43条2項に反する不適法な手続であって,その補正をすることができないから(方式審査便覧15.20(却下-1),2(16)ニ),意匠法68条2項,特許法18条の2第1項の規定に基づき,その手続を却下した本件処分は適法である。 なお,原告は,平成20年11月4日付けで本件提出書に係る手続補正書(優先権証明書原本添付)を提出したことによって,本件提出書に係る手続の瑕疵は治癒されたと主張するが,優先権証明書提出期間経過後に優先権証明書の原本を提出したからといって,優先権証明書の提出に関する方式要件を満たさないという本件提出書に係る手続の瑕疵が遡って治癒されることはあり得ないというべきである。 (エ)原告の主張に対する反論a原告は,本件において,優先権証明書の原本を提出すべきところを誤って複写を提出してしまったなどと主張するが,このような初歩的な過誤の可能性まで想定することはできないから,本件提出書及びその添付書類を総合的に検討しても,手続者の合理的意思として,誤って複写を提出したことが客観的に明らかであるとは認められない。 bまた,原告は,本件提出書に添付して法定期間内に提出した複写書類によっても,優先権主張に係る国において意匠登録出願した日を確認することができ,さらに,上記書面に記載された出願番号を使用して,OHIMのデータベースを介して基礎出願の図面を閲覧することによって,基礎出願に係る意匠と我が国に提出された意匠登録出願に係る意匠との同一性を確認することができたから,特許法43条2項の規定で意図された優先権の確認は実質的に可能となっていたなどと主張する。しかしながら,我が国の法令上は,パリ条約4条D(3)の規定を受けて,優先権の主張をした者に,最初に出願をした同盟国の認証があり,その同盟国の政府が発行した優先権証明書を優先権証明書提出期間内に提出させ,同盟国が証明している事項に基づいて,それらの確認を行うという方式が採用されているのであって,同盟国のホームページ等を検索することにより,事実上第一国の出願に係る意匠の確認ができればよいというものではないから,原告の主張は理由がない。 c原告は,優先権証明書の提出は省略され得る性質のものであるなどと主張するが,意匠登録出願については,特許法43条5項の規定の準用がなく,OHIMを含め,我が国と優先権書類データを電磁的に交換することができることの確認が行われた対象国ないし国際機関は存在しないのであるから,手続の簡素化のためにOHIMが発行した優先権証明書の提出が省略され得る性質のものということはできない。 dさらに,原告は,本件提出書について補正を認めたとしても,第三者に不測の不利益を及ぼすものではなく,審査に不当な遅延をもたらすものでもないと主張する。しかし,本件提出書に係る手続について補正を認めれば,補正の効果により,当該優先権の主張が効力を生じるため,当該優先権による基準時よりも後で我が国の出願より前にパリ条約の同盟国に出願をした第三者に重大な不利益をもたらす結果になることは明らかである。また,上記補正を認めた場合,優先権証明書の提出期限を経過したというだけでは当該優先権の主張が効力を失ったか否かが確定せず,当該出願についての審査に着手することができないので,審査に不当な遅延をもたらすことも明らかである。 eなお,原告は,優先権証明書の提出に関する諸外国の立法例についても主張するが,パリ条約による優先権主張の手続については,優先権証明書の提出を含めて,パリ条約及び我が国の法令上定められた方式について,規定の文言に従って厳格に解釈されるべきであることからすれば,諸外国の立法例において上記方式と異なる取扱いを規定しているからといって,我が国の意匠法15条1項及び同項の規定において準用する特許法43条2項,4項の各規定を文理に反して解釈しなければならない理由はない。 (2)争点(2)(本件異議決定の適法性)についてア原告原告は,平成20年11月4日付けで本件提出書に係る手続補正書(優先権証明書原本添付)を提出し,その旨を本件異議申立手続においても主張した。上記(1)アのとおり,本件提出書に係る手続は補正可能と解すべきであり,その手続補正によって本件提出書に係る手続の瑕疵は治癒されたから,それを考慮せず本件異議申立てを棄却した本件異議決定は,違法である。 イ被告(ア)行政事件訴訟法10条2項によれば,裁決の取消しの訴えにおいて主張できる取消事由は,裁決固有の違法に限られており(原処分主義),本件処分の根拠法規である意匠法においても裁決主義は採用されていないから(同法60条の2,特許法184条の2参照),本件異議決定の取消事由として,原処分である本件処分の違法事由を主張することは許されない。 しかるところ,原告は,本件提出書に係る手続が「不適法な手続であって,その補正をすることができないもの」には該当しないという本件処分の違法事由と同一の理由に基づいて,本件異議決定の判断の違法を主張するにすぎず,原処分(本件処分)の違法と異なる裁決(本件決定)固有の違法事由を主張するものとは認められない。 (イ)また,本件提出書に係る手続は意匠法15条1項,特許法43条2項に違反する不適法な手続であって,その補正をすることができないものであるから,本件異議申立手続においてこれを考慮しないことは,何ら裁決固有の違法事由となり得るものではなく,原告の主張は理由がない。 第3当裁判所の判断1争点(1)(本件処分の適法性)について(1)パリ条約による優先権についてパリ条約による優先権は,パリ条約の同盟国のいずれか一国(第一国)に出願(特許出願,実用新案登録出願,意匠登録出願,商標登録出願)した者が他の同盟国(第二国)において出願するについて,一定期間に限り,先後願の関係,新規性,進歩性等の判断の基準日としての出願日を第一国出願の日に遡らせることができる特別な利益を内容とする権利である。この優先権は,第一国における最初の出願によって,観念的,潜在的に発生するが,優先期間内に第二国において出願する際に優先権を主張することによって,初めて現実的な効力を生じるものと解される。 このように,パリ条約による優先権は,先願主義の例外事由となり,新規性,進歩性等の判断の基準日を遡らせるなど,その効果が第三者に与える影響は大きく,第二国における出願の際に主張することによって現実的な効力が生じるものであるから,優先権主張の手続については,後記(2)のとおりの法定の方式が要求されている。そして,この方式については,権利関係の安定,先願主義等の関係から,厳格な様式性が求められ,パリ条約及び我が国の法令上定められた方式を満たしていない場合には,その主張に係る優先権の効力は生じないというべきである。 (2)パリ条約による優先権主張の手続第二国出願について優先権の利益を享受するためには,?パリ条約上の権利能力を有する者が同盟の第二国に出願をすること(パリ条約4条A),?第二国の出願人が,最初の出願をした者又はその承継人であること(パリ条約4条A(1)),?第一国出願と第二国出願が内容の実質的同一性を有していること,?第二国出願が優先期間内の出願であること(パリ条約4条C(1)),?優先権の申立てをすること(パリ条約4条D)が必要である。 このうち優先権の主張の手続については,出願の時点ではパリ条約4条D(1)及び(3)以上の手続を要求することはできず,各同盟国は,同条D(1)の手続及びD(3)所定の謄本の提出を要求したときはその手続を怠った場合の効果について,優先権の喪失を限度として定めるものとされている(同条D(4))。 我が国の法令においては,優先権の主張を伴う出願をする際,当該出願と同時に,優先権を主張する旨並びに最初に出願をした同盟国(第一国)の国名及び最初の出願の出願日を記載した書面を特許庁長官に提出すること(ただし,当該出願の願書に優先権を主張する旨及び必要な事項を記載して,上記書面の提出を省略することができる〔意匠法施行規則19条3項,特許法施行規則27条の4第1項〕。),この第一国の出願日(優先日)を証明する資料として「最初に出願をしたパリ条約の同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面」を,第一国の出願の対象物を証明する資料として「最初に出願をしたパリ条約の同盟国の認証がある出願の際の書類で……図面に相当するものの謄本」又は「これらと同様な内容を有する公報若しくは証明書」(優先権証明書)をその提出期限(意匠登録出願については当該出願の日から3か月)内に特許庁長官に提出することが要求されるとともに,優先権証明書をその提出期間内に提出しないときは,当該優先権の主張はその効力を失う旨定めている(意匠法15条1項,特許法43条1項,2項,4項)。 したがって,パリ条約による優先権主張の効力を生じさせるためには,上記のとおり,?出願と同時にする優先権を主張する旨及び必要な事項を記載した書面を提出(又はそれらの事項を願書に記載)した上,?優先権証明書提出期間内に優先権証明書を提出することが必要であり,仮に,上記?の手続をしてパリ条約による優先権の主張をしても,上記?の手続を怠った場合には,当該優先権の主張はその効力を失い(意匠法15条1項,特許法43条4項),優先権の主張自体がなかったことになると解される。 (3)本件において,原告は,本件出願と同時に本件共同体意匠出願を基礎とするパリ条約による優先権の主張をしたものの,優先権証明書提出期間内に提出した本件提出書の添付書類は,OHIMが発行した優先権証明書の原本ではなく,その一部(表紙を含む2枚)を複写したもの及びその訳文であった。 意匠法15条1項が準用する特許法43条2項は,パリ条約4条D(3)の規定を受けて,優先権証明書について「最初に出願をし……たパリ条約の同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面,……及び図面に相当するものの謄本又はこれらと同様な内容を有する……証明書であってその同盟国の政府が発行したもの」の提出を要求しており,「写し」等の提出で足りるものとはしていないから,パリ条約による優先権主張の手続において提出することが要求される優先権証明書は,同盟国の政府が発行した優先権証明書の原本そのものであり,その写しは含まれないものと解される。したがって,優先権証明書の原本を複写したものは,法令の規定による優先権証明書とは認められないから,本件提出書に係る手続は,意匠法15条1項,特許法43条2項の規定に反する不適法な手続であり,原告は,その後,優先権証明書提出期間(平成20年6月12日まで)内に優先権証明書の原本を提出しなかったのであるから,本件出願についてのパリ条約による優先権の主張は,その効力を失ったものと解さざるを得ない。 そして,このように優先権証明書を提出しないまま優先権証明書提出期間が経過してしまった優先権主張について,同期間経過後,優先権証明書の原本の提出による手続補正を認めるとすれば,優先権証明書提出期間を定め,その期間内に優先権証明書の提出がないときは当該優先権の主張がその効力を失う旨規定する特許法43条2項,4項の規定の趣旨を没却することになるから,本件提出書に係る手続の瑕疵は,優先権主張の手続における重大な要件の瑕疵であり,もはや補正することはできないというべきである。 (4)アこの点,原告は,本件提出書に係る手続については,客観的に判断した手続者の合理的意思(優先権証明書の原本を提出すべきところ,誤って「複写」を提出してしまったこと)が明らかであり,不適法な手続であってその補正をすることができないもの(特許法18条の2第1項)には該当しない旨主張する。 しかし,原告が本件提出書に添付したのは,OHIMが発行した本件共同体意匠の出願日が記載された認証謄本の一部(表紙を含む2枚分)のみを複写したものとその訳文にすぎず,本件共同体意匠を記載した図面等に相当するものの写し等は添付されていなかったのであるから,本件提出書のその他の記載等を総合しても,直ちに「原本を提出すべきところを誤って複写を提出してしまったことが明らか」であると認めることはできない。 この点は,原告において,本件出願と同時に行った他の3件の意匠登録出願については,優先権証明書の原本とその訳文を特許庁長官に提出していた(甲9,10)という事情を考慮しても同様である。 イまた,原告は,本件提出書に添付して法定期間内に提出した複写書類によって,優先権主張に係る手続において意匠登録出願をした日を確認することができ,さらに,上記書面に記載された出願番号を使用し,OHIMのデータベースを介して基礎出願の図面を閲覧することによって,基礎出願に係る意匠と日本国に提出された意匠登録出願に係る意匠との同一性を確認することができたから,特許法43条2項の規定で意図された優先権の確認は実質的に可能となっていたことを指摘して,本件提出書に係る手続については補正が認められるべきであると主張する。 しかしながら,我が国の法令上,パリ条約による優先権の主張をした者は,優先権証明書提出期間内に優先権証明書の原本(最初に出願をした同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面,その出願の際の書類で明細書,特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲及び図面に相当するものの謄本又はこれらと同様な内容を有する公報若しくは証明書であってその同盟国の政府が発行したもの)を提出しなければならず(特許法43条2項),特許庁長官は,その提出された優先権証明書により同盟国が証明している事項に基づいて,第一国における出願の具体的内容を確認することになっているのであって,特許庁長官が職権により同盟国のホームページ等を検索することにより,事実上第一国の出願に係る意匠の確認等を行うなどということは想定されていない。そもそも,優先権証明書の原本とその写しとの間には,その有する証拠力の点において画然とした差異があるのであるから,写しの提出によって優先権証明書に記載された事項を証明するなどということは考え難いのであって,本件提出書に係る手続について,手続の基本的部分が欠落しているものとして補正することができないことに変わりはないというべきである。 ウ原告は,特許出願については,我が国と優先権書類データを交換できる国にした出願に基づく優先権主張の場合に優先権書類の提出を省略することができる旨定められ(特許法43条5項),大韓民国,欧州特許庁及びアメリカ合衆国にした出願に基づいて優先権を主張する場合には優先権証明書の提出が省略可能であること,平成20年特許法等改正によって,優先権書類の電子的交換を世界的に実現するため,優先権書類を交換できる対象国を拡大する改正が行われ,優先権証明書の提出はより一層省略される方向へ向かっていること,意匠法においては特許法43条5項を準用していないが,手続の簡素化のために省略され得る性質のものである点で特許出願と意匠登録出願との間に差違はなく,優先権主張自体が適法に行われている限り,優先権証明書提出の手続については緩やかに補正が認められるべきである旨の主張をする。 しかしながら,優先権書類の電子的交換の制度の趣旨は,当該国との二国間又は国際機関との間で,優先権書類データを電磁的に交換することができる旨の確認ができた場合に,優先権証明書の提出を省略することができるとするものであって,事実上でも第一国の出願の存在が確認できれば優先権証明書の提出を省略することができるというものではない。このことは,優先権書類の電子的交換の対象国等について,「(同法第43条第5項に規定する電磁的方法により,同条第2項に規定する書類に記載されている事項の提供を受けようとする際に,当該事項の提供を受けることができる旨の確認ができた場合に限る。)」等の限定が付されていることからも明らかである(平成21年経済産業省令第5号による改正前の特許法施行規則27条の3の3第2項,同改正後の同条第2項1号以下)。 また,パリ条約4条D(4)第2文及び第3文は「各同盟国は,この条に定める手続がされなかった場合の効果を定める。ただし,その効果は,優先権の喪失を限度とする。」と規定しており,同盟国は,強行規定であるか任意規定であるかにかかわらず,優先権の喪失を限度として,その手続がされなかった場合の効果を定めることができるものとされている。我が国においては,このパリ条約の規定を受けて,パリ条約による授権の範囲内で特許法43条1項,2項,4項(及びこれを準用する意匠法15条1項)を規定し,特許法43条1項に規定する方式を満たしていない場合には,当該優先権の主張が無効とされ,同条2項に規定する手続を執らなかった場合には,同条4項の規定により,当該優先権の主張はその効力を失うとしている。そして,強行的な手続(優先権主張)のみならず任意的な手続(優先権書類の提出)についても,パリ条約による授権の範囲内で国内法令が規定されれば,その規定された国内法令に基づいて,手続の方式及び手続を満たさなかったときの効果が定められるものであり,我が国においては,優先権主張の利益を享受するためには,優先権証明書の提出も含めて,特許法43条1項,2項に規定された方式に基づいて手続を行うことが必要とされているのである。 したがって,優先権主張の手続と優先権証明書提出の手続を区別し,優先権証明書提出の手続は緩やかな扱いとすべきとする原告の主張は,パリ条約が優先権主張の追加的方式としての優先権書類の提出要求及びこれを怠った場合における優先権喪失の効果の定めについて各同盟国の国内法令に授権してその主権的選択を尊重した趣旨に反するものである。また,後記エのとおり,優先権証明書提出の手続について緩やかに補正を認める場合には,第三者に重大な不利益を生じさせるおそれもあるのであるから,かかる観点からも,原告の上記主張を採用することはできない。 エ原告は,優先権主張自体が適法に行われていれば,第三者にとっては,基礎出願の出願日(優先日)を前提として出願の登録要件等が判断されることが十分予測されるから,本件のような場合に優先権証明書提出書について補正を認めたとしても,第三者に不測の不利益を及ぼすものではなく,審査に不当な遅延をもたらすものでもないと主張する。 しかしながら,優先権の主張をした者が優先権証明書提出期間内に優先権証明書を提出しないときは,当該優先権の主張はその効力を失い,優先権の主張自体がなかったことになるから(意匠法15条1項,特許法43条4項),当該意匠登録出願の登録要件の判断の基準時は我が国の出願日となる。そうすると,当該優先権主張に係る優先権証明書を提出しないまま優先権証明書提出期間が経過した場合には,当該優先権の主張は認められず,当該優先権による優先日後,我が国の出願より前にパリ条約の同盟国に同一又は類似の意匠等の登録出願をした第三者に先願の地位が与えられるはずであるにもかかわらず,後から優先権証明書の提出につき補正が認められれば,補正により当該優先権の主張が認められるため,上記第三者の出願が遡って先願の地位を失うこととなり,第三者に重大な不利益を招来することになる。 また,優先権証明書提出期間経過後に優先権証明書の提出による補正を認めた場合,優先権証明書の提出期限を徒過したというだけでは当該優先権の主張が効力を失ったか否かが確定せず,当該出願について先後願,新規性,進歩性等の登録要件の判断の基準時が出願時であることを前提とした審査に着手することができないことになるから,審査に遅延をもたらすことになることも明らかである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 オ原告は,アメリカ合衆国,PCT規則第17規則17.1(c),欧州共同体意匠委員会規則及び欧州特許条約の各立法例を挙げた上,パリ条約による優先権主張の手続における優先権証明書の提出については,各国の立法例においても出願人に過度に不利益とならないような扱いを規定しており,このことは優先権証明書提出に関して厳格な解釈をしなくとも不都合が生じないことを示すものであって,この点は日本法の解釈においても十分に考慮されるべきである旨主張する。 しかしながら,パリ条約による優先権主張の手続については,優先権証明書の提出を含めて,パリ条約及び我が国の法令上定められた方式について,規定の文言に従って厳格に解釈されるべきであり,諸外国の立法例において上記方式と異なる取扱いを規定しているからといって,我が国の意匠法15条1項,特許法43条2項,4項の各規定を文理に反して解釈する理由とはならないから,原告の上記主張は理由がない。 (5)以上のとおり,本件提出書に係る手続は,補正することができない不適法なものであるから,意匠法68条2項,特許法18条の2第1項の規定に基づき,同手続を却下した本件処分が違法であるとは認められない。 なお,原告は,本件処分の違法事由として,平成20年11月4日付け手続補正書(優先権証明書の原本を添付)によって本件提出書の瑕疵が治癒されたことを予備的に主張する。 しかしながら,上記のとおり,本件提出書に係る手続は不適法であり,その補正をすることができないものであるから,優先権証明書提出期間経過後に優先権証明書の原本を提出したからといって,優先権証明書の提出に関する方式要件を満たさないという本件提出書の瑕疵が遡って治癒されることにはならないというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。 2争点(2)(本件異議決定の適法性)について原告は,本件提出書が補正可能な手続であり,優先権証明書の提出に係る手続補正により本件提出書の瑕疵が治癒され,その旨を本件異議申立手続において主張したにもかかわらず,それを考慮せずに本件異議申立てを棄却した本件決定は違法であると主張する。 しかしながら,原告の上記主張は,本件提出書に係る手続が「不適法な手続であって,その補正をすることができないもの」には該当しないという本件処分の違法事由と同一の理由に基づいて,本件異議決定の違法をいうものにすぎず,原処分(本件処分)の違法と異なる裁決(本件決定)固有の違法事由を主張するものとは認められない。 また,前示のとおり,本件提出書に係る手続は,意匠法15条1項,特許法43条2項に違反する不適法な手続であって,その補正をすることができないものであるから,本件異議申立手続においてこれを考慮しないことは何ら裁決固有の違法事由となり得るものではない。 したがって,本件異議決定が違法であるとする原告の主張は,理由がない。 第4結論よって,原告の請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 岡本岳 |
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裁判官 | 鈴木和典 |
裁判官 | 寺田利彦 |