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関連審決 不服2007-1438
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10247審決取消請求事件 判例 特許
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平成21行ケ10353審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 使用方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  相違点の認定 /  出願公開 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  外国語書面 /  パリ条約 /  優先権 /  援用権(援用) /  優先日 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10064号 審決取消請求事件
原告 アルバニーインターナショナルコーポレイション
訴訟代理人弁護士 井垣弘
同 工藤満生
同 松本創
同 得丸大輔
補佐人弁理士永井道雄
被告特許庁長官
指定代理人細井龍史
同 柳和子
同 唐木 以知良
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/10/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
2第1請求特許庁が不服2007-1438号事件について平成21年10月14日にした審決を取り消す。
第2争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成12年8月21日(パリ条約による優先権主張平成11年8月25日,米国(US)),発明の名称を「被覆ベルト用基材」とする発明について,特許出願(甲1。特願2000-249815。以下「本願」という。)をしたが,平成18年1月12日付けで拒絶理由が通知され,同年4月14日付けで手続補正書を提出したが(甲5。以下「本件補正1」という。),同年5月11日付けで拒絶理由(最後)が通知された。
原告は,同年10月17日付けで拒絶査定を受け,平成19年1月16日,拒絶査定不服審判(不服2007-1438号事件)を請求するとともに,同月24日付けで手続補正書を提出した(甲11。以下「本件補正2」という。)。特許庁は,平成21年10月14日,本件補正2を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月26日,原告に送達された。
本願の願書に最初に添付された明細書を「当初明細書」,当初明細書又は図面を「当初明細書等」ということがある。
2補正の内容(1)平成18年4月14日付けの本件補正1のうち,請求項1に関する部分は,以下のとおりである。下線部は補正された部分である。
ア本件補正1前の請求項1シュー形式の長尺ニッププレスもしくはカレンダー用または他の抄紙アプリケーションおよび紙加工アプリケーション用樹脂含浸エンドレスベルトであって,前記樹脂含浸エンドレスベルトがベースサポート構造体並び3に前記ベースサポート構造体の内面および外面の少なくとも一方の上の第二高分子樹脂材料被膜からなり,前記ベースサポート構造体には第一高分子樹脂材料被膜を有する被覆部品が含まれ,前記ベースサポート構造体は前記内面,外面,縦方向及び横方向を有するエンドレスループ形をとり,前記被膜は前記ベースサポート構造体に含浸してこれを液体に対して不浸透性となし,前記被膜は滑らかであって,かつ,前記ベルトの厚みを均一にし,前記第二高分子樹脂材料は前記複数の被覆部品を被覆する前記第一高分子樹脂材料に対して親和性を有し,その結果として,前記第二項分子樹脂材料の前記被膜は前記ベースサポート構造体の前記複数の被覆部品と機械的に結合するだけでなく化学的に結合することを特徴とする前記ベルト。
イ本件補正1後の請求項1シュー形式の長尺ニッププレスもしくはカレンダー用または他の抄紙アプリケーションおよび紙加工アプリケーション用の樹脂含浸エンドレスベルトであって,前記樹脂含浸エンドレスベルトは,ベースサポート構造体と,前記ベースサポート構造体の内面および外面の少なくとも一方の上のポリウレタン樹脂である 第二高分子樹脂材料被膜と,を有し,前記ベースサポート構造体には,フェノール樹脂又はポリウレタン樹脂の第一高分子樹脂材料被膜を有する被覆部品が含まれ,前記ベースサポート構造体は前記内面,外面,縦方向及び横方向を有するエンドレスループ形をとり,前記被膜は前記ベースサポート構造体に含浸してこれを液体に対して不4浸透性となし,前記被膜は滑らかであって,かつ,前記ベルトの厚みを均一にし,前記第二高分子樹脂材料は前記複数の被覆部品を被覆する前記第一高分子樹脂材料に対して親和性を有し,その結果として,前記第二項分子樹脂材料の前記被膜は前記ベースサポート構造体の前記複数の被覆部品と機械的に結合するだけでなく化学的に結合することを特徴とする前記ベルト。」(なお,「前記第二項分子樹脂材料」とあるのは,本件補正2において「前記第二高分子樹脂材料」と補正された。)。
(2)平成19年1月24日付けの本件補正2のうち,請求項39に関する部分は,以下のとおりである。
ア本件補正2前の請求項39(以下「本願発明」という。)シュー形式の長尺ニッププレスもしくはカレンダー用または他の抄紙アプリケーションおよび紙加工アプリケーション用樹脂含浸エンドレスベルトであって,前記樹脂含浸エンドレスベルトがベースサポート構造体,前記ベースサポート構造体に付着したステープルファイバーバット並びに前記ベースサポート構造体の内面および外面の少なくとも一方の上の第二高分子樹脂材料被膜からなり,前記ベースサポート構造体は内面,外面,縦方向および横方向を有するエンドレスループ形をとり,前記ステープルファイバーバットの繊維の少なくとも一部には第一高分子樹脂材料が含まれ,前記被膜は前記ベースサポート構造体に含浸してこれを液体に対して不浸透性となし,さらに前記ステープルファイバーバットを被包し,前記被膜は滑らかであって,かつ,前記ベルトの厚みを均一にし,前記第二高分子樹脂材料は前記ステープルファイバーバットに含まれる前記第一高分子樹脂材料に対して親和性を有し,その結果として,前記第二高分子樹脂材5料の前記被膜は前記ベースサポート構造体に付着した前記ステープルファイバーバットと機械的に結合するだけでなく化学的に結合することを特徴とする前記ベルト。」イ本件補正2後の請求項39(以下「本願補正発明」という。)。下線部は補正された部分である。
シュー形式の長尺ニッププレスもしくはカレンダー用または他の抄紙アプリケーションおよび紙加工アプリケーション用樹脂含浸エンドレスベルトであって,前記樹脂含浸エンドレスベルトがベースサポート構造体,前記ベースサポート構造体に付着したステープルファイバーバット並びに前記ベースサポート構造体の内面および外面の少なくとも一方の上の第二高分子樹脂材料被膜からなり,前記ベースサポート構造体は内面,外面,縦方向および横方向を有するエンドレスループ形をとり,前記ステープルファイバーバットの繊維の少なくとも一部には第一高分子樹脂材料が含まれ,前記被膜は前記ベースサポート構造体に含浸してこれを液体に対して不浸透性となし,さらに前記ステープルファイバーバットを被包し,前記被膜は滑らかであって,かつ,前記ベルトの厚みを均一にし,前記第二高分子樹脂材料は前記ステープルファイバーバットに含まれる前記第一高分子樹脂材料に対して親和性を有し,その結果として,前記第二高分子樹脂材料の前記被膜は前記ベースサポート構造体に付着した前記ステープルファイバーバットと機械的に結合するだけでなく化学的に結合し,前記第一高分子樹脂材料及び前記第二高分子樹脂材料は,互いに異なるポリウレタン樹脂である ことを特徴とする前記ベルト。
3審決の理由審決は,以下のとおり判断した(別紙審決書写し参照)。
6(1)判断の内容ア本件補正2の適否について(主位的理由--新たな技術事項の導入)本件補正2は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術事項を導入したものと認められ,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものとはいえないから,特許法17条の2第3項に規定される要件を満たさず,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきである。
イ本件補正2の適否について(予備的理由--独立特許要件の有無)仮に,本件補正2が特許法17条の2第3項に規定される要件を満たすとしても,本願補正発明は,本願優先日前に頒布された欧州特許出願公開第922806号明細書(甲2。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び特開平10-317296号公報(甲3。以下「刊行物2」という。)に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができず,本件補正2は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合しないので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきである。
ウ本願発明の進歩性について本願発明は,本願補正発明における「前記第一高分子樹脂材料及び前記第二高分子樹脂材料は,互いに異なるポリウレタン樹脂である」という発明特定事項を欠いたものに相当し,本願優先日前に頒布された引用発明及び刊行物2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることはで7きず,本願は拒絶されるべきである。
エ本件補正1の適否について本件補正1は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術事項を導入したものと認められ,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものとはいえないから,特許法17条の2第3項に規定される要件を満たさない。
(2) 上記イ(独立特許要件違反)についての判断の詳細上記イの本件補正2の適否の判断に際して,審決が認定した引用発明の内容並びに本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア引用発明の内容「シュー形式の長尺ニップレスもしくはカレンダー用または他の抄紙アプリケーションおよび紙加工アプリケーション用樹脂含浸エンドレスベルトにおいて,基礎布及び前記基礎布の内面上への第一重合体樹脂の被膜より成っており,前記基礎布は,内面,外面,機械方向及び機械に直交する方向を持つエンドレスループの形であって,且つ前記機械方向(MD)構成要素と機械に直交する方向(CD)構成要素を持っており,前記被膜は前記基礎布に含浸して液体に対する不透性を与え,又それの内面に層を形成していて,前記被膜は滑らかであり且つ前記ベルトに一様な厚さを与えており,前記基礎布の前記MD構成要素と前記CD構成要素が第三重合体樹脂でコートされ,前記第三重合体樹脂は前記第一重合体樹脂に化学的な親和力を持っていて前記第一重合体樹脂と前記基礎布の間にタイコートを与えて,前記第一重合体樹脂が前記第三重合体樹脂に化学的に結合し,前記第一重合体樹脂がポリウレタン樹脂であり,前記第三重合体樹脂もポリウレタン樹脂である前記樹脂含浸エンドレスベルト。」(審決書9頁15〜28行)(なお,「ニップレス」とあるのは,「ニッププレス」の誤記8と認める。)イ一致点「シュー形式の長尺ニッププレスもしくはカレンダー用または他の抄紙アプリケーションおよび紙加工アプリケーション用樹脂含浸エンドレスベルトであって,前記樹脂含浸エンドレスベルトがベースサポート構造体,前記ベースサポート構造体の内面および外面の少なくとも一方の上の第二高分子樹脂材料被膜からなり,前記ベースサポート構造体は内面,外面,縦方向および横方向を有するエンドレスループ形をとり,前記被膜は前記ベースサポート構造体に含浸してこれを液体に対して不浸透性となし,さらに前記被膜は滑らかであって,かつ,前記ベルトの厚みを均一にし,前記第二高分子樹脂材料は,ポリウレタン樹脂であることを特徴とする前記ベルト。」(審決書10頁4〜12行)ウ相違点 (ア)相違点1本願補正発明は,ベースサポート構造体が,ステープルファイバーバットが付着した構成をとっているのに対し,引用発明は,そのような構成をとっていない点 (イ)相違点2本願補正発明は,ステープルファイバーバットの繊維の少なくとも一部には第一高分子樹脂材料が含まれている構成をとっているのに対し,引用発明は,そのような構成をとっていない点 (ウ)相違点3本願補正発明は,第二高分子樹脂材料被膜がステープルファイバーバットを被包している構成をとっているのに対し,引用発明は,そのような構成をとっていない点 (エ)相違点49本願補正発明は,第二高分子樹脂材料はステープルファイバーバットに含まれる第一高分子樹脂材料に対して親和性を有する構成をとっているのに対し,引用発明は,そのような構成をとっていない点 (オ)相違点5本願補正発明は,第二高分子樹脂材料被膜はベースサポート構造体に付着したステープルファイバーバットと機械的に結合するだけでなく化学的に結合している構成をとっているのに対し,引用発明は,そのような構成をとっていない点 (カ)相違点6 本願補正発明は,第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料は,互いに異なるポリウレタン樹脂であるのに対し,引用発明は,そのような特定がされていない点第3当事者の主張1審決の取消事由に係る原告の主張 審決は,(1) 本件補正2の適否について,新たな技術的事項を導入したとした判断の誤り,(2) 本件補正2の適否について,本願補正発明が独立特許要件を欠くとした判断の誤り,(3) 本件補正1の適否について,新たな技術的事項を導入したとした判断の誤りがあり,これらは審決の結論に影響を及ぼすから,審決は取り消されるべきである。その理由は,以下のとおりである。
(1)取消事由1(本件補正2について,新たな技術的事項を導入したとした判断の誤り) 審決は,本件補正2の適否について,「「第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料は,互いに異なるポリウレタン樹脂である」との明示的な記載を当初明細書等に見つけることはできない。一方,段落【0033】の記載より,第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料が親和性を示すために,材料の選択が決定されることについて読み取ることができるところ,それら10の材料の選択としては,大別すると両者が「同一」であるか「異なる」かのいずれかかもしれない」が,「第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料の選択として,両者が「同一」であるか「互いに異なる」かに大別されるものであったとしても,そのうちの一方である「互いに異なるポリウレタン樹脂」を選択することは,新たな技術的事項を導入した」(審決書3頁36行〜4頁20行)と判断する。
しかし,審決の判断は誤りである。
すなわち,次のア〜エのとおり,第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料は異なるものであり,両者に用いられるポリウレタン樹脂がそれぞれ異なるものであることは,当業者によって,当初明細書の記載により導かれる技術的事項であるから,請求項39に係る本件補正2は,当初明細書に記載した事項の範囲内のものであるから,これと異なる審決の判断には誤りがある。
ア当初明細書(甲1)の段落【0026】には「その被覆部品は第一高分子樹脂材料で被覆され,例えば,その材料はポリウレタン樹脂材料であってもよい」と記載され,段落【0032】には「少なくともその基布50の内面には第二高分子樹脂材料58の被膜があ」ると記載されており,部品を被覆するための材料は,基布を被覆するために使われる第二高分子樹脂材料とは異なる第一高分子樹脂材料であることがわかる。
また,それぞれの高分子樹脂材料について「第一」及び「第二」と異なる序数詞を用いていることからも,両者は異なる材料である。
イ請求項39(甲5,11)に,「前記第二高分子樹脂材料は(中略)前記第一高分子樹脂材料に対して親和性を有し」と記載されるが,「に対して」,「親和性」という文言は,本来,異なった物の対比において用いられる表現であり,段落【0018】,【0033】にも同様の記載がある。
ウ審決が述べるように,「材料の選択としては,大別すると両者が「同11一」であるか「異なる」かのいずれかかもしれない」のであれば,高分子樹脂材料について,「第一」,「第二」と区分することなく,他の請求項と同様,「ポリアミド,(中略)ポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれた高分子樹脂材料」という表現がなされるはずである。
段落【0018】には,「結果として,そのベースサポート構造体上の第二高分子樹脂材料の被膜は,全体として,第一高分子樹脂材料の被膜を有する」とあるが,第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料が同一であれば,このような表現をすることはあり得ない。
段落【0031】には,「その繊維はその糸を被覆する第一高分子樹脂材料と同一のもの」とあり,同一の場合はこのような表現を採用しており,「異なる」ものと「同一」のものとは,明確に区別されている。
エ段落【0033】には,「必要な親和性を有する他の高分子樹脂材料が全体としてその糸を被覆したりその基布50を被覆したりするのに使用できるにもかかわらず,前記二つの材料はポリウレタン樹脂材料あってもよい」とあるのは,二つの材料が異なるものであることを大前提として,名称が同一であるポリウレタン樹脂材料であっても二つの材料に使用できることを注記したものである。
同段落は,「その基布50を被覆する第二高分子樹脂材料58は,複数本の被覆糸を(中略)被覆する第一高分子樹脂材料に対して親和性を示す。
実際,そのような親和性により,第一高分子樹脂材料および第二高分子樹脂材料をして使用される材料の選択が決定される」旨記載されるが,上記「材料」の文言は,原文の外国語特許出願明細書(甲16。以下「原文明細書」という。)中では「materials」 と複数形で記載され,また,当初明細書においても「材料の選択」と記載され,2つ以上の材料が選択されることが示されている。
同段落にいう「親和性」(原文明細書では「affinity」)は,化学的な12結合(組み合わせ)を誘導するものであることから,当業者であれば「化学親和力(chemical affinity)」に相当すると理解し得るが,「化学親和力」は,化学物理学,物理化学において,異なる化学種が化合物を形成することを可能とする電気特性であるとされ,異なる組成の原子又は化合物との化学反応によって,組み合わせる原子または化合物の性質と言うことが可能とされる。
このように,異なる材料間の親和性の存在に基づいて,異なる材料が選択されるのであるから,当業者であれば,段落【0033】の記載から,第一高分子樹脂材料および第二高分子樹脂材料は,化学親和力が生ずる異なる化学種であり,それらは該親和性に鑑みて適宜選択し得るものであると理解し,「その親和性により,第二高分子樹脂材料と,(中略)第一高分子樹脂材料とが化学的に結合」することを達成するために,異なるポリウレタン樹脂を使用すると認識し得るというべきである。
(2)取消事由2(本願補正2について,本願補正発明が独立特許要件を欠くとした判断の誤り)審決は,本件補正2の適否について,仮に,本件補正2が新たな技術事項の導入に当たらないとしても,「本願補正発明は,引用発明及び刊行物2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。」(審決書15頁13〜16行)として,却下すべきものと判断した。
この点,審決の認定した,相違点1ないし5に係る容易想到性の判断について誤りがないことについては,認める(ただし,主張している取消事由に関連する限度では争う。)。
しかし,容易想到性の判断には,以下のとおり,誤りがある。すなわち,ア審決は,相違点6について,「その材料の選択は,大別すると両者が,13「同じもの」か「互いに異なるもの」かのいずれかである。よって,引用発明において,第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料は,互いに異なるポリウレタン樹脂であるものを選択することは当業者にとって容易なことである。」(審決書13頁26〜30行)とする。
しかし,審決の判断は誤りである。
上記(1) のとおり,材料の選択は「互いに異なるもの」の中からなされるのであり,多数存在する「互いに異なるもの」の中から,唯一,性質の異なる(しかし,第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料の両材料とも名称は同一であるところの)ポリウレタン樹脂を選択することは当業者にとって容易なことではない。ポリウレタン樹脂は,必ずしも他のポリウレタンとの間で化学的親和性を有するわけではなく,相互に化学的親和性を有する2つのポリウレタン樹脂は,すべてのポリウレタン樹脂に見出すことができない特別な化学的性質を有する。引用発明(刊行物1に記載の発明)は,ポリウレタン樹脂の被覆(コーティング)であって,化学的親和性を生じさせるために必要な特性を有するものを教示も示唆せず,そのような特性が望ましいことも,可能であることも示唆していない。
したがって,審決の上記判断には誤りがある。
イ審決は,「刊行物2には,「ステープルファイバーバット基礎生地にポリウレタン樹脂を結びつける作用をし,そして,タイコートやインナーレイヤーを不要にする。」ことは記載されているものと認められる。」としながら,特段の根拠もなく,「この記載は,ステープルファイバーバットがあれば,それ以上にはタイコートやインナーレイヤーを必要としなくなるというだけであって,タイコートを設けてはならない,ということまでを述べているのではないと認められる。このため,引用発明と刊行物2に記載の技術を適用する動機付けは十分有するものと認められる。」(審決書15頁2〜10行)とする。
14 しかし,審決の認定は誤りである。
刊行物2の段落【0061】には,ステープル繊維バットにおいて,「ステープルファイバー打綿は基礎生地にポリウレタン樹脂を結びつける作用をする,そして,ステープルファイバー打綿を欠く基礎生地と較べてステープルファイバー打綿により現れたより高いコーティング表面積のせいでつなぎの上塗り又は内部の層に樹脂の剥離を予防する必要はない。」という,阻害要因ともいうべき記述が明確に存在し,「必要としなくなる」ということは動機付けを否定するものである。
また,引用発明は,本願補正発明と異なり,ベースサポート構造体(基礎布)がステープルファイバーバットの付着した構成をとっておらず,刊行物2にステープルファイバー打綿の記述があるにすぎない。
したがって,引用発明と刊行物2に記載の技術を適用する動機付けは存在しない。
(3)取消事由3(本件補正1について,新たな技術的事項を導入したとした判断の誤り)本件補正1は,請求項1につき,補正前の「第二高分子樹脂材料」を「ポリウレタン樹脂」に限定し,第一高分子樹脂材料を「フェノール樹脂又はポリウレタン樹脂」に限定したものであるが,審決は,「当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものと認められるから,上記補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。」(審決書18頁28〜31行)と判断した。その理由は,当初明細書等において,特許請求の範囲の請求項7及び請求項8の記載からは,「第一高分子樹脂材料」が「フェノール樹脂」であることを導き出すことはできず,請求項8の記載は,「第一高分子樹脂材料被膜を有する被覆部品には,第一高分子樹脂材料であるポリウレタン樹脂材料をその部品に結合するためのフェノール樹脂タイ被15膜がある」ことを示すと解するのが自然であること,発明の詳細な説明の段落【0028】の「ポリウレタン樹脂材料でその糸を被覆する場合,先ずその糸にフェノール樹脂被膜を付与してもよく,その被膜はタイ(tie) 被膜として作用し,そのポリウレタンが硬化した場合,そのポリウレタン被覆をその糸により効果的に固定する。そのような場合,好ましくはそのポリウレタン被膜を適用する前に,フェノール樹脂被膜を部分的に硬化させる」との記載は,被覆部品である糸を「フェノール樹脂タイ被膜及びポリウレタン樹脂材料」という第一高分子樹脂材料被膜で順に被覆していることを説明するものであり,請求項8に係る発明と同様の内容と解すべきであること,である(審決書18頁6〜27行)。
しかし,審決の判断は誤りである。
段落【0028】は,ポリウレタン樹脂材料およびフェノール樹脂材料の関係について,糸がポリウレタン樹脂材料で被覆される場合,糸は,まず,フェノール樹脂被覆に供してもよく,フェノール樹脂は被覆に有用であり,該ポリウレタンを硬化した場合,該ポリウレタン被膜を該糸に効果的に結合できること,つまり,フェノール樹脂およびポリウレタン樹脂が良好な化学親和力を有することを開示するにすぎず,フェノール樹脂材料の使用方法,順序をその記載だけに限定するものではない。そうすると,第二高分子樹脂材料としてポリウレタン樹脂,第一高分子樹脂材料として「異なる」ポリウレタン樹脂を選択し得るから,第二高分子樹脂材料としてポリウレタン樹脂,第一高分子樹脂材料として第二高分子樹脂材料であるポリウレタン樹脂とは「異なる」フェノール樹脂を選択し得るのは当然であり,「フェノール樹脂又はポリウレタン樹脂」によって被覆が行われることは自明な事項である。
したがって,本件補正1は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものというべきであり,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとした審決には誤りがある。
162被告の反論 原告主張の取消事由はいずれも失当であり,審決に取り消されるべき違法はない。その理由は以下のとおりである。
(1)取消事由1(本件補正2について,新たな技術的事項を導入したとした判断の誤り)に対し原告は,本件補正2に関し,「第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料は異なるものであり,第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料に用いられるポリウレタン樹脂がそれぞれ異なるものであることは,当業者によって,当初明細書の記載により導かれる技術的事項であるから,請求項39に係る本件補正2は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものというべきである。」旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,失当である。
ア 当初明細書の段落【0026】,【0032】の記載は,異なった適用対象に使用される樹脂材料があること,それらの材料が第一高分子樹脂材料,第二高分子樹脂材料との名称を付したという意味を有するにとどまり,それらの「材料」が「互いに異なる」とまでいうものではない。
また,原告が出願人である刊行物1においては,特許請求の範囲の請求項8に「A resin-impregnated endless belt as claimed in claim 7 wherein said second polymeric resin is the same as said first polymeric resin.」(「前記第二重合体樹脂が前記第一重合体樹脂と同じである,請求項7に記載の樹脂含浸エンドレスベルト。」)と記載されており,同じ樹脂を使用する場合でも,異なる序数詞を用いている。
さらに,請求項39においては,第一高分子樹脂材料の適用対象がステープルファイバーバットであり,第二高分子樹脂材料の適用対象がベースサポート構造体であって,適用対象が異なるために,「第一」,「第二」と区別されていると解するのが自然であり,異なる序数詞を用いているか17らといって,直ちに,第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料が異なる材料とはいえない。
したがって,「第一」,「第二」の用語の使用を根拠に,「第一高分子樹脂材料」と「第二高分子樹脂材料」とは異なる材料であると結論づける原告の主張は失当である。
イ請求項39には,「前記第二高分子樹脂材料は(中略)前記第一高分子樹脂材料に対して親和性を有し」と記載されるが,「に対して」の文言は,第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料との関係性を述べるのに使用されているだけであり,上記記載は,両者の関係性において「親和性」を有することを示すにすぎないから,「に対して」,「親和性」という文言を根拠に,両者が異なる材料であると結論づける原告の主張は失当である。
ウ上記アのとおり,第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料とは,適用対象が異なるから,「第一」,「第二」と区別して用語を使い分けていると解され,また,異なる序数詞を用いる場合であっても,同一の樹脂を示す例があるから,第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料とが「「同一」であるか「異なる」かのいずれかかもしれないのであれば,「第一」,「第二」と区分することなく,「ポリアミド,(中略)ポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれた高分子樹脂材料」という表現がなされるはずである」との原告の主張は失当である。
また,段落【0031】の記載は,ステープルファイバーバットを被覆又は形成する樹脂が,糸を被覆する第一高分子樹脂材料と同じものでよいことを述べるだけであり,第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料の関係性については述べていないから,第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料のポリウレタン樹脂が,互いに異なることを導く根拠にはならない。
エ段落【0033】の記載は,第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料はポリウレタンとポリウレタンでもよいし,また必要な親和性を有する他18の高分子樹脂材料を使用してもよいことを意味するにすぎない。
また,本願は,外国語書面出願ではなく,願書に最初に添付した明細書は日本語で記載されたものであるため,原文明細書を援用することはできない。仮に,原文明細書を参酌して,2つ以上の材料が使用されることが示唆されていたとしても,それは,第一高分子樹脂材料,第二高分子樹脂材料の双方が,複数の化学種の材料が使用可能であることを示しているにすぎず,ポリウレタンという同一化学種の中で,「互いに異なる」ポリウレタン樹脂を選択する根拠にはならない。
ポリウレタンとは,広義には,イソシアネート(-N=C=O)基の反応性を利用して得られるポリマーであり,ポリイソシアネートとポリオールとの反応により得られる主鎖中にウレタン結合をもち,ポリイソシアネートとポリオールのモル比によるが,反応によって得られるポリウレタンの両末端には,イソシアネート基かヒドロキシ基が残るから,第二高分子樹脂材料の原料として,第一高分子樹脂材料と「同じ」ポリウレタンとなる原料を使用した場合でも,両者は化学的に結合するといえる(乙2の22〜24頁,29頁,48頁)。したがって,第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料とが親和性を有する,すなわち化学的な結合をするために,両者を「互いに異なるポリウレタン樹脂」とする必然性はない。仮に,乙3(特開平5-195473号公報)のように,第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料とで硬度を異ならせるような記載や示唆が当初明細書にあれば,「互いに異なる」ポリウレタン樹脂を使用することが記載されているともいえるが,そのような記載や示唆は見当たらない。
以上によれば,本件補正2により,第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料に使用する樹脂として,ポリウレタン樹脂を選択した際に,両者が,「互いに異なる」との文言を追加すると,当初明細書に記載されていない新たな技術的事項を導入することとなるから,特許法17条の2第3項に規定19する要件を満たさず,本件補正2を却下すべきものであるとした審決の判断に誤りはない。
(2)取消事由2(本願補正2について,本願補正発明が独立特許要件を欠くとした判断の誤り)に対しア原告は,相違点6について,材料の選択は「互いに異なるもの」の中からなされるのであり,多数存在する「互いに異なるもの」の中から,唯一,性質の異なるポリウレタン樹脂を選択することは当業者にとって容易なことではない」旨主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり,失当である。
引用発明において,「第三重合体樹脂」(本願補正発明の第一高分子樹脂材料に相当する。)及び「第一重合体樹脂」(本願補正発明の第二高分子樹脂材料に相当する。)の「ポリウレタン樹脂」どうしが「化学的に結合」をするとは,両者の樹脂が化学的に反応して化学結合を形成することであるが,「ポリウレタン樹脂」は,一方の樹脂に未反応のイソシアネート基が残存する場合,他方の樹脂のヒドロキシ基が反応して化学結合を形成し,或いは,硬化した一方の樹脂のウレタン結合に,他方の樹脂のイソシアネート基が反応して,化学結合を形成するものであること,「ポリウレタン樹脂」どうしは,両者が「同じもの」であろうと「互いに異なるもの」であろうと「化学的に結合」するものであることは,当業者の技術常識である。そうすると,引用発明の「ポリウレタン樹脂」どうしを,「化学的に結合」するものとして選択するときに,「ポリウレタン樹脂」が「同じもの」か「互いに異なるもの」かのいずれを選択しても「化学的に結合」するから,引用発明の「ポリウレタン樹脂」を「同じもの」,「互いに異なるもの」いずれかとすることは,当業者に容易な事項である。しかも,本願補正発明において,第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料について,特に「互いに異なる」ポリウレタン樹脂どうしを選択したこ20とにより,「同じ」ポリウレタン樹脂どうしを選択した場合に比して格別な効果を奏することは,本件補正2後の明細書に記載されていない。
この点,原告は,多数存在する互いに異なるものの中から,唯一の性質の異なるポリウレタン樹脂を選択することは当業者にとって容易ではないと主張する。しかし,相違点6に係る容易想到性の有無は,引用発明の「第三重合体樹脂」及び「第一重合体樹脂」の「ポリウレタン樹脂」を,相違点6に係る本願補正発明の構成である「第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料は,互いに異なるポリウレタン樹脂」とすることが,当業者に容易想到かによって判断されるべきであって,この点については,前記のとおり,容易であるといえる。原告のこの点の主張は,失当である。
イ原告は,刊行物2の段落【0061】には,ステープル繊維バットにおいて,「ステープルファイバー打綿は基礎生地にポリウレタン樹脂を結びつける作用をする,そしてステープルファイバー打綿を欠く基礎生地と較べてステープルファイバー打綿により現れたより高いコーティング表面積のせいでつなぎの上塗り又は内部の層に樹脂の剥離を予防する必要はない。」と記載され,「必要としなくなる」ということは,動機付けを否定するものであるから,引用発明と刊行物2に記載の技術を適用する動機付けは存在しないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。
刊行物2には,本願補正発明及び引用発明と同様の「基礎生地と,基礎生地を充満するポリマー樹脂材料より成るエンドレスループの形をとるカレンダーベルト」において,「ステープルファイバーバットが付着した基礎生地を用いる」ことにより「樹脂コーティングの剥離を防止する」ことができることが記載されている。樹脂コーティングを有するどんな被覆布でも樹脂コーティングの剥離が起り得るのであり,この剥離を防止しようとする当業者は,刊行物2の上記記載に接したとき,より剥離を防止でき21ることを期待して,引用発明において「ステープルファイバーバットが付着した基礎生地を用いる」ことを容易に想到するというべきである。
また,刊行物2の段落【0061】における上記の記載は,「ステープルファイバーバットは(中略)タイコートやインナーレイヤーを不要にする。」の意味であって,刊行物2の出願人の発明のベルトについての評価である。刊行物2の「ステープルファイバーバット」についての技術事項を,引用発明に適用するか否かは,本願出願時(優先日)における当業者が刊行物2に接したときに,「ステープルファイバーバット基礎生地にポリウレタン樹脂を結びつける作用をし」という剥離防止の技術を,引用発明においてどのように評価するかによるが,剥離防止の工夫を施した引用発明においても,被覆布であるからには樹脂コーティングの剥離が起るおそれは依然としてあるので,より剥離のおそれが低減されたものとするための別異の機械的及び又は化学的な剥離防止の技術をさらに適用しようとする動機付けがあるといえ,剥離防止の技術として知られた刊行物2の技術を適用することは当業者であれば,容易に想到し得る。
以上のとおり,刊行物2の「ステープルファイバーバット」についての技術事項を引用発明に適用することにより,本願補正発明の構成に至ることが容易であるとした審決の判断に誤りはない。
(3)取消事由3(本件補正1について,新たな技術的事項を導入したとした判断の誤り)に対し原告は,本件補正1につき,当初明細書の段落【0028】に,被覆が「フェノール樹脂又はポリウレタン樹脂」によって行われることが記載されているとして,「第二高分子樹脂材料」が「ポリウレタン樹脂」で「第一高分子樹脂材料」が「フェノール樹脂」であることは当初明細書に記載した事項の範囲内であると主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
22すなわち,段落【0026】には「ベースサポート構造体を形成する複数の部品」について記載され,段落【0028】には「その部品が糸」の被覆に関し,「ポリウレタン樹脂材料」でその糸を被覆する場合について,「先ずその糸にフェノール樹脂被膜を付与してもよく」と記載されているから,糸は,まず「フェノール樹脂タイ被膜」が施され,次に「ポリウレタン樹脂材料」で被覆されることが示されているといえる。そして,「フェノール樹脂」は「第一高分子樹脂材料」である「ポリウレタン樹脂材料」と「糸」(部品)とを「タイ」(結合)するものとして記載されるが,「フェノール樹脂」と「第二高分子樹脂材料」との「タイ」(結合)についての記載はない。「フェノール樹脂」については,段落【0026】の記載に対応すると認められる請求項8のほか,段落【0031】及びその記載に対応すると認められる請求項75に記載があるが,それ以外にはなく,これらによれば,「フェノール樹脂」は,「第一高分子樹脂材料」である「ポリウレタン樹脂」と糸又はバットの繊維とを「タイ」(結合)するものと記載されるが,「フェノール樹脂」のみを部品に被覆すること,すなわち,「第一高分子樹脂材料」を「フェノール樹脂」とすることや,「フェノール樹脂」と「第二高分子樹脂材料」との「タイ」(結合)については記載されていない。そうすると,当初明細書に「フェノール樹脂」で被覆を行うこと,「フェノール樹脂」が「ポリウレタン樹脂材料」と部品とを「タイ」(結合)するものであるとの記載があることを根拠にして,「第一高分子樹脂材料」が「フェノール樹脂」であり,「第二高分子樹脂材料」が「ポリウレタン樹脂材料」であるという特定の組合せが当初明細書に記載されているとまではいえない。
したがって,原告の主張は失当であり,本件補正1は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとした審決に誤りはない。
第4当裁判所の判断当裁判所は,?本件補正2について,新たな技術的事項を導入したとした審決23の判断に誤りがあるとする取消事由1に係る主張は,理由があるが,?本件補正2について,本願補正発明につき独立特許要件を欠くとした審決の判断に誤りがあるとする取消事由2に係る主張は,原告の主張を前提とする限りにおいては理由がないと解する。したがって,本件補正2を却下した上,本願を拒絶すべきものとした審決には,結果として,誤りはないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1取消事由1(本件補正2について,新たな技術的事項を導入したとした判断の誤り)について 審決は,本件補正2に関し,「『第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料は,互いに異なるポリウレタン樹脂である』との明示的な記載を当初明細書等に見つけることはできない。」として,「第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料の選択として,両者が『同一』であるか『互いに異なる』かに大別されるものであったとしても,そのうちの一方である『互いに異なるポリウレタン樹脂』を選択することは,新たな技術的事項を導入したものと認めざるを得ない。」と判断する。
しかし,審決の判断は誤りである。
当初明細書(甲1)の段落【0033】には,「基布50を被覆する第二高分子樹脂材料58は(中略)ステープルファイバーバット56を被覆する第一高分子樹脂材料に対して親和性を示す。実際,そのような親和性により,第一高分子樹脂材料および第二高分子樹脂材料をして使用される材料の選択が決定される。(中略)前記二つの材料はポリウレタン樹脂材料であってもよい。いずれにしても,その親和性により,第二高分子樹脂材料と(中略)第一高分子樹脂材料とが化学的に結合するようになり,硬化した第二高分子樹脂材料と基布の糸の間における機械的な結合が補強される。」旨の記載があり,第一高分子樹脂材料と第二高分子樹脂材料は,ともにポリウレタン樹脂材料である場合があって,両者は親和性を示し,化学的に結合するものであるから(この点は,24当事者間に争いがない。),当初明細書には,両ポリウレタン樹脂が化学的に結合するものであること(両者が化学的に結合する反応性基をそれぞれの分子内に有すること)を前提として,両者が同一である場合と,互いに異なる場合の双方の技術が開示されている。そうすると,本件補正2は,「互いに異なる」ポリウレタン樹脂材料に限定したものであり,そのことにより,新たな技術を導入したものと解することは到底できない。
以上のとおり,本件補正2について,新たな技術的事項を導入したとした審決の判断は誤りである。
2取消事由2(本願補正2について,本願補正発明が独立特許要件を欠くとした判断の誤り)について原告は,本願補正発明の相違点1ないし5に係る構成が,引用発明及び刊行物2に記載の技術に基づいて容易に発明することができた点に誤りがないことについて,これを認める(ただし,主張している取消事由に関連する限度では争う。)。
その上で,原告は,本願補正発明の相違点6に係る構成は,引用発明及び刊行物2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないと主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり,失当である。
すなわち,引用発明の第三重合体樹脂及び第一重合体樹脂はともにポリウレタン樹脂であること,前記第三重合体樹脂は前記第一重合体樹脂に化学的な親和力を持つこと,前記第一重合体樹脂が前記第三重合体樹脂に化学的に結合するものであることについては,いずれも当事者間に争いはない。そうすると,上記第三重合体樹脂及び第一重合体樹脂は,同一のポリウレタン樹脂であるか互いに異なるポリウレタン樹脂かのいずれかであるが,そのうち,互いに異なるポリウレタン樹脂を選択することに格別の困難はない。
また,刊行物2には,段落【0061】を含め,ステープルファイバーバット(ステープルファイバー打綿)が基礎生地にポリウレタン樹脂を結びつける25作用を呈するものであるとの記載はあるが,ステープルファイバーバットに樹脂を塗布することができない,あるいは,塗布してはならない旨の記述は存在しない。さらに,ステープルファイバーバットに樹脂を塗布することが,刊行物2に記載の発明の解決課題(基礎生地とステープルファイバー打綿を一緒にしたファイバー/生地複合構造体によって重合樹脂材の浸透を一様にしてベルトの弾性的非一様性,コーティング樹脂の剥離性を無くし,樹脂層の厚さの制御を容易にすること。等)を適用することの阻害要因と考えることもできない。
したがって,本願補正発明に係る構成は,引用発明及び刊行物2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものということができる。
以上によれば,本願補正発明は,容易に発明をすることができるものであり,独立して特許を受けることができないとして,本件補正2を却下した審決に誤りはないことになる。
3小括(1)以上のとおりであり,原告の取消事由のうち,?本件補正2について,新たな技術的事項を導入したものとした審決の判断に誤りがあるとする取消事由1に係る主張は,理由があるが,?本件補正2について,本願補正発明につき独立特許要件を欠くとした審決の判断に誤りがあるとする取消事由2に係る主張は,原告の主張を前提とする限り(すなわち,本願補正発明の相違点6に係る構成が容易に想到することができないとする主張を前提とする限り)においては理由がなく,したがって,本件補正2を却下した上,本願を拒絶すべきものとした審決には,誤りはないものと判断する。
原告主張の取消事由3は,請求項1に関する本件補正1の補正について,新たな技術的事項部分を導入したとの審決の判断の誤りをいうものであるが,取消事由3の当否について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。
(2)なお,本願補正発明の進歩性の有無を判断するに当たり,審決は,本願補正発明と引用発明との相違点を認定したが,その認定の方法は,著しく適切26を欠く。すなわち,審決は,発明の解決課題に係る技術的観点を考慮することなく,相違点を,ことさらに細かく分けて(本件では6個),認定した上で,それぞれの相違点が,他の先行技術を組み合わせることによって,容易であると判断した。このような判断手法を用いると,本来であれば,進歩性が肯定されるべき発明に対しても,正当に判断されることなく,進歩性が否定される結果を生じることがあり得る。相違点の認定は,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構成を単位として認定されるべきであり,この点を逸脱した審決における相違点の認定手法は,適切を欠く。
しかし,本件では,原告において,このような問題点を指摘することなく,また,平成22年4月15付けの第1準備書面において,審決のした本願補正発明の相違点1ないし5に係る認定及び容易想到性の判断に誤りがないことを自認している以上,審決の上記の不適切な点を,当裁判所の審理の対象とすることはしない。
第5結論よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明