関連審決 | 無効2009-800093 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成22行ケ10191審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10072審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10353審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10133審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10104審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 周知技術 / 技術常識 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 設定登録 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 訂正の目的 / 請求の範囲 / 減縮 / 訂正明細書 / 合理的な理由 / |
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事件 |
平成
22年
(行ケ)
10024号
審決取消請求事件
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原告日本電動式遊技機特許株式会 社 訴訟代理人弁護士 山崎優 同 三好邦幸 同 川下清 同 河村利行 同 加藤清和 同 沢田篤志 同 伴城宏 同 今田晋一 同 坂本勝也 同 梁沙織 同 小林悠紀 同 安達 友基子 同 高橋幸平 同 古賀健介 同 中村昭喜 同 笹山将弘 同 池垣彰彦 訴訟代理人弁理士 梁瀬右司 同 振角正一 2 被告 株式会社三共 訴訟代理人弁理士 岩壁冬樹 同 塩川誠人 同 川村武 同 眞野修二 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2010/10/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1特許庁が無効2009−800093号事件について平成21年12月15日にした審決を取り消す。 2訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求主文同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯被告は,平成10年6月18日,発明の名称を「遊技機」とする発明について,特許出願をし(特願平10-188142号),平成11年3月5日,特許権の設定登録を受け(特許第2896369号。以下「本件特許」という。),その後,平成12年7月7日,特許異議手続において,訂正請求を行った(以下,平成12年7月7日付けの訂正明細書を「本件基準明細書」という。)。原告は,平成21年5月14日,本件特許について特許無効審判請求をし(無効2009-800093号),被告は,同年8月27日付けで訂正請求をした(以下「本件訂正」という。)。特許庁は,平成21年12月15日,「訂正を認める。 本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,その審決の謄本は,同月28日に原告に送達された。 32特許請求の範囲の記載(1)本件基準明細書の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。 【請求項1】 表示状態が変化可能な可変表示部を含み,変動開始の条件の成立に応じて前記可変表示部に表示される識別情報の変動を開始し,識別情報の表示結果があらかじめ定められた特定の表示態様となった場合に所定の遊技価値が付与可能となる遊技機であって, 遊技進行を制御する遊技制御手段が搭載された遊技制御基板と, 前記遊技制御基板からの信号にもとづいて前記可変表示部の表示制御を行う表示制御手段が搭載された表示制御基板とを有し, 前記表示制御基板内に,遊技制御基板と表示制御基板との間の信号について前記遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とする信号伝達方向規制手段を実装し, 前記遊技制御基板内に,遊技制御基板と表示制御基板との間の信号について前記表示制御基板への信号の出力のみを可能とする信号伝達方向規制手段を実装した ことを特徴とする遊技機。 【請求項2】信号伝達方向規制手段は,汎用のバッファIC回路で構成されている請求項1記載の遊技機。 【請求項3】 バッファIC回路のイネーブル端子は,常に入出力導通状態に設定されている請求項2記載の遊技機。 (2)本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(本件訂正による訂正箇所に下線を付した。以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応して,「本件訂正発明1」などといい,これらをまとめて「本件訂正発明」と4いう。なお,請求項1の各分説冒頭の符号は,審決において付したものである。)。 【請求項1】 (α)表示状態が変化可能な可変表示部を含み,変動開始の条件の成立に応じて前記可変表示部に表示される識別情報の変動を開始し,(β)識別情報の表示結果があらかじめ定められた特定の表示態様となった場合に所定の遊技価値が付与可能となる遊技機であって, (γ)遊技進行を制御する遊技制御手段が搭載された遊技制御基板と,(δ)前記遊技制御基板からの信号にもとづいて前記可変表示部の表示制御を行う表示制御手段が搭載された表示制御基板とを有し, (ε)前記表示制御基板内に,遊技制御基板と表示制御基板との間の全ての信号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表示制御基板への一方向に規制するために, 前記遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とし,前記遊技制御基板への信号の出力を不能 とする信号伝達方向規制手段を実装し, (ζ)前記遊技制御基板内に,遊技制御基板と表示制御基板との間の全ての信号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表示制御基板への一方向に規制するために, 前記表示制御基板への信号の出力のみを可能とし,前記表示制御基板からの信号の入力を不能 とする信号伝達方向規制手段を実装した (η)ことを特徴とする遊技機。 【請求項2】信号伝達方向規制手段は,汎用のバッファIC回路で構成されている請求項1記載の遊技機。 【請求項3】 バッファIC回路のイネーブル端子は,常に入出力導通状態に設定されている請求項2記載の遊技機。 53審決の理由 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は本件訂正を認めた上で,本件訂正発明1は,特開平8-224339号公報(甲3),特開平7-24108号公報(甲4),特開平10-118273号公報(甲5),特開平7-299209号公報(甲6),特開平10-113438号公報(甲7),特開平5-23425号公報(甲8),特開平9-173564号公報(甲9)に記載された発明に基づいて,当業者が容易になし得るとはいえず,また,本件訂正発明2,3は,本件訂正発明1に従属し,本件訂正発明1の構成を更に限定したものであるから,上記甲3ないし9及び株式会社日立製作所発行のデータブック「日立Bi-CMOS/CMOSロジックHD74BC/AC/HC/UHシリーズ」(甲10)に記載された発明に基づいて,当業者が容易になし得るとはいえないから,本件特許を無効とすることはできないとするものである。 審決は,上記結論を導くに当たり,本件訂正発明と特開平8-224339号公報(甲3)記載の発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。 (1)一致点 表示状態が変化可能な可変表示部を含み,変動開始の条件の成立に応じて前記可変表示部に表示される識別情報の変動を開始し,識別情報の表示結果があらかじめ定められた特定の表示態様となった場合に所定の遊技価値が付与可能となる遊技機であって,遊技進行を制御する遊技制御手段が搭載された遊技制御基板と,前記遊技制御基板からの信号にもとづいて前記可変表示部の表示制御を行う表示制御手段が搭載された表示制御基板とを有し, 遊技制御基板と表示制御基板との間の信号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表示制御基板への一方向に規制するための信号伝達方向規制手段を設けた遊技機。 6(2)相違点本件訂正発明1では,表示制御基板内及び遊技制御基板内各々に信号伝達方向規制手段が実装され,表示制御基板内の信号伝達方向規制手段が前記遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とし,前記遊技制御基板への信号の出力を不能とし,遊技制御基板内の信号伝達方向規制手段が前記表示制御基板への信号の出力のみを可能とし,前記表示制御基板からの信号の入力を不能とするのに対し,甲3記載の発明は,そもそも信号伝達方向規制手段がメイン制御部1及びサブ制御部6各々の内部に設けられておらず,両制御部の間の信号のすべてを伝達方向の規制の対象とするのか明らかでない点。つまり,本件訂正発明1の構成(ε)及び構成(ζ)を具備していない点。 第3取消事由に関する原告の主張審決には,新規事項追加による訂正(取消事由1),本件訂正発明1についての進歩性の判断の誤り(取消事由2),本件訂正発明2,3についての進歩性の判断の誤り(取消事由3)があるから,違法として取り消されるべきである。 1取消事由1(新規事項追加による訂正) 本件基準明細書には,「表示制御コマンドデータ」と「ストローブ信号」の2種類の信号が,それぞれの出力ポートから出力されること,その信号が表示制御基板80においてバッファ回路105を介して表示制御用CPU101に入力されることが記載されているのみであり,「全ての信号」とは記載されていない。他方,甲3には,割込み信号,CE信号及びWR信号のオフ信号と出力バッファOUTの値について,メインCPU2から出力されること,それらの制御信号や転送データが一方向データ転送手段40を介してサブCPU8の入力ポートに入力されることが記載されており,これらの記載は,本件基準明細書の記載と何ら変わりない。また,本件基準明細書の図7(別紙図面1。以下同じ),16(別紙図面2。以下同じ)には,遊技制御基板31から表示制御基板80への複数の矢印がすべて一方向となることが記載されているのに対し,甲73の図1(別紙図面3。以下同じ)にも,メイン制御部1からサブ制御部6への複数の矢印がすべて一方向となっていることが記載されており,この点でも本件基準明細書と甲3に変わりはない。 この点について,審決は,本件基準明細書の記載及び図から「全ての信号」という構成を読み取る一方で,甲3の記載及び図からはこれが明らかでないとしており,その判断には矛盾がある。仮に,審決が,甲3の記載及び図からは,両制御部の信号のすべてを規制の対象としていないとの理解を前提とするのであれば,本件基準明細書の記載及び図からも同様に,「全ての信号」との構成を読み取ることはできないはずである。そうだとすると,本件訂正は,本件基準明細書の記載に基づかない新規事項の追加に当たり,違法である。 2取消事由2(本件訂正発明1についての容易想到性判断の誤り)(1)前記1のとおり,本件基準明細書の記載及び図からすべての信号を規制の対象としていると解釈できるのであれば,甲3記載の発明についても同様にすべての信号が規制の対象になっていると解釈することができる。そうすると,本件訂正発明1と甲3記載の発明との相違点は,本件訂正発明1では表示制御基板内及び遊技制御基板内の各々に信号伝達方向規制手段が実装されているのに対し,甲3記載の発明にはその構成がないことのみとなる。 そして,特開平9-173564号公報(甲9)記載の発明は,遊技制御手段から払出動作制御手段への一方向通信としたことを特徴とする発明である上,異なる基板に各々実装された信号回路209,217は,一方向への信号の流れを可能にするという点で,本件訂正発明(ε),(ζ)の信号伝達方向規制手段と同一の構成となっている。また,本件特許出願当時,パチンコ等の遊技機の分野では,不正改造を防止するために,画像表示等を制御するサブ基板は,遊技全体を制御するメイン基板からのコマンドを一方的に受信するのみで,メイン基板へコマンドやその他の制御信号を送ることができない構成にしなければならないとする法的な規制があった。このため,当業8者にとって,パチンコ等の遊技機の製造に関して,一方向通信は周知技術であり,このことは,特開平7-24108号公報(甲4),特開平10-118273号公報(甲5),特開平7-299209号公報(甲6),特開平10-113438号公報(甲7),特開平5-23425号公報(甲8)の記載からも明らかである。審決は,甲4ないし8の記載を前提として,「弾球遊技機において,遊技制御手段199と払出制御回路基板152との間での情報通信は,遊技制御手段199から,払出制御回路基板152への一方向通信とした」こと(以下「技術事項A」という。)を周知技術と認定している。 さらに,甲9の段落【0062】,特開平9-294854号公報(甲26)の段落【0062】,特開平10-118288号公報(甲27)の段落【0063】,【0065】,【0070】の記載によれば,本件出願当時,遊技制御基板又は遊技制御用マイクロコンピュータと払出制御基板の双方に,信号伝達方向規制手段であるフォトカプラを実装することも周知技術であった。 以上のとおり,本件訂正発明1の相違点に係る構成は,当業者において,甲3記載の発明に甲9の構成を組み合わせることが容易な発明である。また,技術事項Aは周知技術であり,メイン基板とサブ基板の双方に一方向規制手段を実装することも周知技術であるから,本件出願当時,当業者にとって甲3記載の発明に甲9の構成を組み合わせることは,設計事項というべきである。 (2)審決は,甲9には,「払出制御回路基板152には払出制御用マイクロコンピュータ220が設けられ,払出制御回路基板152には賞球センサ187が接続され,賞球モータ189の回転に伴って賞球センサ187が切欠部192を検出すれば,その検出信号が払出制御回路基板152に入力され,払出制御回路基板152は,前記賞球センサ187からの検出信号に基づいて,コネクタ153b,199bを介して遊技制御基板199に入賞信号を出力し,遊技制御基板199は,その入賞信号に基づいて前述した賞球個数9信号をコネクタ199b,153bを介して払出制御回路基板152に返信する」との技術事項(以下「技術事項C」という。)が記載されているとして,これを根拠に,甲9において,払出制御回路基板からコネクタを通して遊技制御基板に入賞信号を出力するとの構成が示されており,遊技制御基板から払出制御基板への伝達される信号は,D0〜D3がすべてであると認定することができないと判断している。しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,甲9には,段落【0071】以外に,払出制御回路基板から遊技制御基板への信号回路(技術事項C)についての記載はなく,また,技術事項Cは,制御回路を示す図12(別紙図面4。以下同じ)と整合しない。そうすると,甲9に開示された技術内容は,図12の記載とその説明に基づいて認定すべきであり,信号回路209と217の間の一方向性の通信回路とは別個の技術を記載した技術事項Cを前提とすべきではない。 (3) 審決は,発光素子と受光素子を一次側と二次側で互い違いに配置する等して信号の伝達方向を双方向にしたフォトカプラであれば,双方向の信号伝達の回路になると判断している。しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,フォトカプラは,発光素子と受光素子を1つのケース内に収納し,一次側に発光素子,二次側に受光素子をそれぞれ配置して入・出力を電気的に絶縁し,入力側から出力側に一方向に信号を伝達するというのが,その基本構成であり,一方向への信号伝達の流れのみを許容するものである。また,甲9と出願人が同一である特開平6-304318号公報(甲25),特開平9-294854号公報(甲26),特開平10-43390号公報(甲28)には,賞球個数信号が遊技制御回路基板からフォトカプラを介して払出制御回路基板へ伝送されることが記載されるとともに,このフォトカプラの回路構成が図示されており,D0〜D3の信号いずれについても遊技制御回路基板から払出制御回路基板へ伝送される向きで4つのフォトカプラが配置されている。そうすると,甲9の回路構成は,上記甲25,2106,28と同様に,すべてのフォトカプラを同一方向に向けて配置していると認定するのが合理的である。 したがって,甲9における信号回路209,信号回路217は,フォトカプラを利用して信号の伝達方向を一方向に規制する回路構成である。 (4) 審決は,「賞球センサからの検出信号を遊技制御回路基板に直接出力し,払出された景品玉の個数を遊技制御回路基板側でカウントする構成(以下「構成A」という。)を示す証拠は何も挙げられていないと判断する。しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,甲25の段落【0050】には,遊技制御回路基板と払出制御回路基板との双方向通信を回避して,一方向通信とするため,入賞玉検出器を払出制御回路基板ではなく遊技制御回路基板だけに接続する構成が示されている。また,特開平10-118288号公報(甲27)の段落【0074】には,入賞玉検出器を遊技制御回路基板だけに接続する場合や遊技制御回路基板を通じて払出制御回路基板に接続する構成が示されている。そうすると,検出信号を遊技制御回路基板と払出制御回路基板のどちらと接続するかは設計事項にすぎず,構成Aは周知事項でないとした審決の判断は誤りである。 (5) 以上のとおり,本件訂正発明1は,甲3記載の発明に,甲9及び甲4ないし9に記載された周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易になし得るものといえる。 3取消事由3(本件訂正発明2,3についての容易想到性判断の誤り) 本件訂正発明2は,本件訂正発明1に従属し,信号伝達方向規制手段を汎用のバッファIC回路で構成すると具体的に記載したものである。また,本件訂正発明3は,本件訂正発明2に従属し,バッファIC回路のイネーブル端子について具体的に記載したものである。そうすると,本件訂正発明2,3において示された構成は設計事項にすぎず,本件訂正発明2,3は,本件訂正発明1と同様,甲3記載の発明に甲4ないし10に記載された発明を組み合わせるこ11とで当業者が容易になし得るものであり,進歩性を欠いている。 第4被告の反論1取消事由1(新規事項追加による訂正)に対し(1)本件訂正のうち「遊技制御基板と表示制御基板との間の信号」を「遊技制御基板と表示制御基板との間の全ての信号」とする訂正は,本件基準明細書の段落【0030】の記載,図7及び図16の記載に基づいて,遊技制御基板と表示制御基板との間の「信号」を「全ての信号」と限定するものであり,新たな技術事項の導入に該当しない。 (2) 本件基準明細書の段落【0035】【0060】には,信号伝達方向規制手段に相当するバッファ回路は,汎用のCMOS-ICである74HC244で構成されることが記載されている。また,74HC244は,1つのICが8端子で構成されているのが通常である。そうすると,本件基準明細書に記載されているように8つの表示制御信号CD0〜CD7と1つのストローブ信号をメイン基板(遊技制御基板に相当)と表示制御基板との間でやりとりする場合には,2個の74HC244が必要となり,メイン基板と表示制御基板との間では,7本の未使用の信号線が存在することになる。この点に関し,本件基準明細書には,段落【0057】【0060】において,バッファ回路の各バッファは,イネーブル端子を常にローレベルにすることが記載されており,未使用の7つの信号線も含むすべての信号線を一方向にのみ通信可能にする構成が開示されている。 したがって,本件基準明細書の段落【0035】【0057】【0060】,図7及び図16には,遊技制御基板と表示制御基板との間のすべての信号について信号伝達方向を一方向のみに規制することが開示されており,本件訂正のうち「遊技制御基板と表示制御基板との間の信号」を「遊技制御基板と表示制御基板との間の全ての信号」とする訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とした適法な訂正であり,新規事項の追加に当たらない。 12(3)甲3では,メイン制御部1のメインCPU2から出力されたデータやCE信号,WR信号,割込み信号が通信インターフェース5及び一方向データ転送手段40を介してサブ制御部6のサブCPUへと転送されることが開示されており,甲3の段落【0014】によれば,一方向データ転送手段はトランジスタアレイにより構成されている。また,技術常識によれば,甲3では,本件訂正発明1と同様に,端子数が8端子等の汎用ICを用いて構成されるものと推測される。そうすると,メイン制御部1とサブ制御部6との間では,8本のデータ伝送ライン,CE信号,WR信号及び割込み信号のほかに未使用の信号線が生じることになる。しかし,甲3には,上記未使用の信号線について通信方向を規制する開示はなく,「全ての信号」について通信方向を規制することが開示されているとはいえない。また,甲3には,メイン制御部1の内部に設けられている信号伝達方向規制手段と,サブ制御部6の内部に設けられている信号伝達方向規制手段とが,各々個別に,両制御部の間の信号のすべてを伝達方向規制の対象としていることは開示されていない。 したがって,審決の本件基準明細書と甲3の解釈に不整合な部分はなく,甲3記載の発明について,両制御部の間の信号のすべてを伝達方向規制の対象とするのか明らかでないとした審決の判断に誤りはない。 2取消事由2(本件訂正発明1についての容易想到性判断の誤り)に対し(1) 前記1のとおり,本件訂正発明1と甲3記載の発明は,本件訂正発明1では表示制御基板内及び遊技制御基板内の各々に信号伝達方向規制手段が実装されているのに対し,甲3記載の発明にはその構成がないことのほか,本件訂正発明1ではすべての信号を規制の対象としているのに対し,甲3記載の発明にはその構成がない点でも相違している。また,フォトカプラが電気信号の一方向への流れのみを許容するのは,電気信号から変換した光信号を,一次側の発光素子から二次側の受光素子へ伝達する際の,発光素子から受光素子に至る光信号の経路においてのことであり,単にフォトカプラ構成の信13号回路ということのみでは,甲9に記載されている信号回路209,217が信号の伝達方向を一方向に規制する回路構成であると解することはできず,上記回路が本件訂正発明1の構成(ε),(ζ)の各信号伝達方向規制手段に相当するとはいえない。 したがって,本件訂正発明1は,甲3記載の発明に甲9の構成及び甲4ないし9に記載された周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易になし得るものであるとはいえず,審決の判断に誤りはない。 (2)甲9には,段落【0071】において,「払出制御回路基板(賞球玉貸制御基板)152は,前記玉払出検出器(賞球センサ)187からの検出信号に基づいて,コネクタ153b,199bを介して遊技制御基板199に入賞信号を出力し」と記載され,信号回路209,217とは別の通信経路が明確に示されていること,図14(別紙図面5。以下同じ)においても,賞球玉貸制御基板152上のコネクタ153bと遊技制御基板199上のコネクタ199bを結ぶ信号線が図示され,「玉払出検出器(賞球センサ)187」からの検出信号を賞球玉貸制御基板152から遊技制御基板199に出力する信号経路が明確に図示されていることからして,遊技制御基板と払出制御回路基板との間の信号を完全に一方向に規制したものとはなっていない。 (3)甲9の段落【0062】では,「信号回路209,217(ともにフォトカプラで構成されている)」と記載されているところ,信号回路209,217を構成する部品としてフォトカプラが使用されていることが分かるものの,上記回路の具体的な内部構成については何ら開示がなく,フォトカプラが用いられているとの記載をもって直ちに本件訂正発明1の構成(ε),(ζ)の信号伝達方向規制手段を導き出すことはできない。また,甲9には,フォトカプラを用いている信号回路214,216が双方向通信を行っていることが示されており,フォトカプラを用いることのみを理由として,信号回路209,217が信号伝達方向規制手段となっていると解することはできな14い。さらに,甲25,26,28を参酌しても,フォトカプラの回路構成はともかく,信号回路209,217の具体的な回路構成は判然とせず,むしろそこには双方向通信が示されている。さらに,甲25,27には,賞球センサではなく,入賞玉検出器を遊技制御基板に接続することが記載されているにすぎず,構成Aを示しているとはいえない。 3取消事由3(本件訂正発明2,3についての容易想到性判断の誤り)に対し 前記2のとおり,本件訂正発明1について進歩性が認められるところ,同発明に従属する本件訂正発明2,3についても進歩性が認められる。 第5当裁判所の判断1取消事由1(新規事項追加による違法な訂正)について(1)当裁判所は,本件訂正について,本件基準明細書(特許請求の範囲を含む。以下同じ。)又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものと認めることができ,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内において」するものと判断する。以下,その理由を述べる。 (2)特許法134条の2第5項により準用する同法126条3項は,訂正が許されるためには,いわゆる訂正の目的要件を充足するだけでは足りず,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であることを要するものと定めている。法が,いわゆる目的要件以外に,そのような要件を定めた理由は,訂正により特許権者の利益を確保することは,発明を保護する上で重要ではあるが,他方,新たな技術的事項が付加されることによって,第三者に不測の不利益が生じることを避けるべきであるという要請を考慮したものであって,特許権者と第三者との衡平を確保するためのものといえる。 このように,訂正が許されるためには,いわゆる目的要件を充足することの外に,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した15事項の範囲内」であることを要するとした趣旨が,第三者に対する不測の損害の発生を防止し,特許権者と第三者との衡平を確保する点にあることに照らすならば,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であるか否かは,訂正に係る事項が,願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面の特定の箇所に直接的又は明示的な記載があるか否かを基準に判断するのではなく,当業者において,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべてを総合することによって導かれる技術的事項(すなわち,当業者において,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべてを総合することによって,認識できる技術的事項)との関係で,新たな技術的事項を導入するものであるか否かを基準に判断するのが相当である(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号平成20年5月30日判決,同平成22年(行ケ)第10019号平成22年7月15日判決参照。)。 (3) これを本件訂正についてみるに,本件訂正の内容は,前記第2の2(2)のとおりであり,「遊技制御基板と表示制御基板との間の信号」を「遊技制御基板と表示制御基板との間の全ての信号」(判決注・訂正部分は下線部分)と訂正することを含むものである。そこで,以下,上記訂正部分が,本件基準明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で,何らかの新たな技術的事項を導入するものであったか否かを検討する。 (4)本件基準明細書には,以下の記載がある。 「【0006】 【発明が解決しようとする課題】 以上に述べたように,不正行為を受けると遊技店や一般遊技客が大きな損失を受けるために,不正行為を受けにくい遊技機の出現が強く望まれている。特に,遊技機裏面に設置されている各種回路基板に対する不正改造は発見されにくいので,遊技機において,回路基板改造による不正行為の防16止は重要な課題になっている。 【0007】 本発明は,そのような課題を解決するためになされたものであって,回路基板改造による不正行為を効果的に防止して不正行為を受けにくくする遊技機を提供することを目的とする。」 「【0060】 図16は,本発明の他の実施の形態を示すブロック図である。この実施の形態では,メイン基板31において,出力ポート571,572の外側に信号伝達方向規制手段としてのバッファ回路63が設けられている。バッファ回路63として,例えば,汎用のCMOS-ICである74HC244が2チップ用いられる。イネーブル端子には常にローレベル(GNDレベル)が与えられている。このような構成によれば,外部からメイン基板31の内部に入力される信号が阻止されるので,表示制御基板80からメイン基板31に信号が与えられる可能性を,さらに確実になくすことができる。なお,信号伝達方向規制手段として,個別のトランジスタ等の他の回路素子を用いてもよい。」 「【0094】 【発明の効果】 以上のように,本発明によれば,遊技機を,遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とする信号伝達方向規制手段が表示制御基板に設けられている構成にしたので,表示制御基板改造による不正行為を効果的に防止して,遊技機に対する不正行為を受けにくくすることができる効果がある。 【0095】 信号伝達方向規制手段が汎用のバッファIC回路で構成されている場合には,特殊な回路構成を採用しなくても,容易に表示制御基板改造による不正行為を防止することができる。また,バッファIC回路のイネーブ17ル端子が常に入出力導通状態に設定されている場合には,バッファIC回路の出力レベルが遊技制御基板からの信号レベルに確定しているので,表示制御基板側から遊技制御基板側に信号が伝わる余地はなく,確実に信号の不可逆性を達成することができる。 【0096】 遊技制御基板にも,表示制御基板への信号の出力のみを可能とする信号伝達方向規制手段が搭載されているので,表示制御基板側から遊技制御基板側に信号が入力されてしまうことがさらに確実に防止される。」 (5)本件基準明細書添付の図16によれば,メイン基板および表示制御基板における表示制御コマンドデータ送受信に関わる部分を示す回路図には,表示制御コマンドデータ及びストローブ信号がバッファ回路105及び63を介して表示制御用CPU101に入力することが開示されている。 (6)前記(4),(5)によれば,本件基準明細書又は図面に記載された発明は,回路基板改造による不正行為の防止を課題とし,上記不正行為を効果的に防止して不正行為を受けにくくする遊技機を提供することを目的としており(前記段落【0006】【0007】),遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とする信号伝達方向規制手段を表示制御基板に設けるとともに,表示制御基板への信号の出力のみを可能とする信号伝達方向規制手段を遊技制御基板に搭載する構成とし(図16),更に信号伝達方向規制手段をバッファIC回路で構成していることが認められる(前記段落【0060】)。これにより,本件基準明細書又は図面に記載された発明は,表示制御基板側から遊技制御基板側に信号が伝わることなく,確実に信号の不可逆性を達成することができるようにしており,表示制御基板改造による不正行為を効果的に防止するものである(前記段落【0094】【0095】【0096】)。そうすると,本件基準明細書又は図18面のすべての記載を総合すると,本件基準明細書又は図面に記載された遊技機は,当業者において,不正行為を防止するため,遊技制御基板から表示制御基板への信号の伝達のみを可能とし,表示制御基板側から遊技制御基板側に信号が伝わる余地がないよう,確実に信号の不可逆性を達成することができるように構成していること,すなわち,信号の不可逆性に例外を設けないとの技術的事項が記載されていると認定するのが合理的である。そうすると同技術的事項との関係において,「遊技制御基板と表示制御基板との間のすべての信号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表示制御基板への一方向に規制する」ことは,新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。 これに対し,原告は,甲3記載の発明について,メイン制御部からサブ制御部へのすべての信号を規制の対象としていないと解釈するならば,本件基準明細書についても同様に解釈するべきであり,本件訂正は,新たな技術的事項を導入するものに当たると主張する。しかし,前記のとおり,訂正の適否の判断において,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であるか否かは,当業者において,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべてを総合することによって,認識できる技術的事項との関係で,新たな技術的事項を導入するものであるか否かを基準に判断すべきものであり,他の公知文献等の解釈により判断が左右されるものではないから,上記原告の主張は採用することができない。 したがって,遊技制御基板と表示制御基板との間の「信号」を「全ての信号」と限定する本件訂正は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」においてするものということができるので,審決が本件訂正を認めた点に違法はない。 2取消事由2(本件訂正発明1についての進歩性の判断の誤り)について当裁判所は,原告が主張する取消事由2(本件訂正発明1についての進歩性19の判断の誤り)には理由があるものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 (1)審決は,?甲3記載の発明には,信号伝達方向規制手段がメイン制御部1及びサブ制御部6各々の内部に設けられておらず,両制御部の間の信号のすべてを伝達方向の規制の対象とするのか明らかでないこと,?技術事項Aが周知の技術であるとしても,甲9には技術事項Cが開示されており,遊技制御基板199から払出制御回路基板152へ伝達される信号は,賞球個数信号D0〜D3がすべてであると認定できないこと,?信号の伝達方向を双方向としたフォトカプラも信号回路として慣用されており,単にフォトカプラ構成の信号回路というだけでは電気信号の一方向への流れのみを許容する回路構成になるとは一概にいえず,甲9に記載された信号回路209,217が,信号の伝達方向を一方向に規制する回路構成であると解することができないことを理由に,本件訂正発明1は,甲3に記載された発明に甲9の構成及び周知技術を組み合わせることで当業者が容易になし得るとはいえないと判断している。そこで,以下,これらの点について,順次検討する。 (2)甲3記載の発明についてア甲3には,以下の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】パチンコ機のパチンコ遊技全体に関わる制御を行うためのメイン制御部と,前記パチンコ機が備えた図柄表示装置に配備されると共に,前記メイン制御部からの制御信号に応じて前記図柄表示装置を表示駆動制御するためのサブ制御部と,前記メイン制御部とサブ制御部との間に介在されると共に前記メイン制御部からサブ制御部へのみコマンドデータの転送を可能とし,前記サブ制御部からメイン制御部へのデータ信号入力を禁止する一方向データ転送手段とを設けたことを特徴とするパチンコ機におけるデータ伝送装置。」20 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,パチンコ機において配備されたメイン制御部及びサブ制御部において,メイン制御部からサブ制御部に対して送信される制御コマンドデータの伝送を行うパチンコ機におけるデータ伝送装置に関するものである。」 「【0002】 【従来の技術】パチンコ遊技機においては,例えば,図柄表示装置を設け,その表示画面において,複雑な表示動作を行わせたり,遊技態様に応じて数種類の表示画面を切り換え動作を行わせたりすることにより,遊技者の多様な趣向を満たすようにしている。このようなパチンコ遊技機にあっては,パチンコ機のパチンコ遊技全体に関わる制御を行うためのメイン制御部のみでは,パチンコ機に配備された各駆動制御要素を全て制御することがメイン制御部の処理タイミングやメモリの記憶容量に制限があって困難であるため,駆動制御要素毎に専用のサブ制御部が配備されており,メイン制御部から制御信号並びに出力データからなる制御用のコマンドデータをサブ制御部に転送し,前記制御用のコマンドデータに応じてサブ制御部により駆動制御要素を制御駆動するようにしている。 【0003】メイン制御部から転送される制御用のコマンドデータは,例えば,サブ制御部が図柄表示装置である場合には,パチンコ機における遊技状況を示すステータスデータ及び図柄表示装置に複数設定されている各図柄表示部に表示する図柄の種類並びに表示位置を示す各データ等である。」 「【0006】従来のメイン制御部とサブ制御部との間におけるコマンドデータの伝送は,図18のタイミングチャートに示すように,送信側であるメイン制御部側からコマンドデータを送信したことをWR信号を出力して,受信側のサブ制御部側に知らせ,受信側はコマンドデータを受け取ったことをREADY信号を出力してメイン制御部側に知らせるハンドシェイク21方式によりデータ転送を行っている。このため,メイン制御部側のデータ転送処理における処理タイムにおいて,WR信号を出力した後,サブ制御部から送信されるREADY信号の入力が検出されるまでの間の待ち時間が設定されている。 【0007】しかしながら,前述のように図柄表示装置において実行する表示駆動処理が複雑化すればする程,コマンドデータのデータ量が大きくなるため,前記待ち時間を長く設定する必要がある。また,サブ制御部から送信されるREADY信号の入力が検出されないと,次のコマンドデータが転送されないため,一定時間内に転送できるコマンドデータのデータ量が減少するため,図柄表示装置の表示動作が,特定の遊技状態の発生に遅れるといった場合がある。さらに,送受信の切り換え動作が行われるため,切り換え時にノイズが侵入する場合がある。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,メイン制御部側のデータ転送処理における処理タイムにおいて,待ち時間の設定を必要とせず,データ転送を円滑に行うことができ,図柄表示装置の表示動作が特定の遊技状態の発生に遅れることなく起動され,かつデータ転送においてノイズの侵入を排除することが可能なパチンコ機におけるデータ伝送装置を提供することにある。」 「【0010】 【作用】メイン制御部は,パチンコ機のパチンコ遊技全体に関わる制御を行うと共にサブ制御部に対し,遊技態様に応じた図柄の表示内容を指令するコマンドデータを一方向データ転送手段を介して転送する。パチンコ機が備えた図柄表示装置に配備されたサブ制御部は,メイン制御部からの制御信号に応じて,即ち,コマンドデータに応じて図柄表示装置を表示駆動制御する。一方向データ転送手段は,メイン制御部からサブ制御部へのみコ22マンドデータの転送を可能とし,前記サブ制御部からメイン制御部へのデータ信号入力を禁止する。一方向データ転送手段により,メイン制御部からサブ制御部へのみコマンドデータの転送が可能とされるので,メイン制御部側のデータ転送処理における処理タイムにおいて,待ち時間の設定を不要とし,これによりデータ転送を円滑に行うこと可能とし,図柄表示装置の表示動作が特定の遊技状態の発生に遅れることなく起動されることを実現する。また,送受信の切り換え動作が行われないため,データ転送においてノイズの排除を可能とする。 【0011】一方向データ転送手段により,サブ制御部からメイン制御部へのデータ信号入力が禁止されるため,図柄表示装置を介するサブ制御部からメイン制御部への不正信号の入力が防止され,入賞が成立していないにもかかわらず,入賞状態となるといったことが防止される。」 「【0126】 【発明の効果】本発明のパチンコ機におけるデータ伝送装置によれば,メイン制御部からサブ制御部へのみコマンドデータの転送が行われるため,メイン制御部側のデータ転送処理における処理タイムにおいて,待ち時間の設定が不要となり,これによりデータ転送を円滑に行うことができ,この結果,図柄表示装置の表示動作が特定の遊技状態の発生に遅れることなく実現することができる。 【0127】また,メイン制御部が常に送信側であり,サブ制御部が常に受信側であることから,送受信の切り換え動作が行われないため,ノイズを排除できる。 【0128】さらに,サブ制御部からメイン制御部へのデータ信号入力が禁止されるため,何等かの手段により,図柄表示装置を介してサブ制御部からメイン制御部へ不正信号の出力がなされたとしても,サブ制御部からのメイン制御部への不正信号の入力を防止することができ,したがって,入23賞が成立していないにもかかわらず,入賞状態となるといったことが防止することができる。」 イ 前記アによれば,従来のパチンコ機のメイン制御部とサブ制御部との間におけるコマンドデータの伝送は,いわゆるハンドシェイク方式によりデータ転送を行っているため,メイン制御部側のデータ転送処理における処理タイムにおいて,WR信号を出力した後,サブ制御部から送信されるREADY信号の入力が検出されるまでの間の待ち時間が設定されること(前記段落【0001】【0006】),サブ制御部から送信されるREADY信号の入力が検出されないと,次のコマンドデータが転送されないため,図柄表示装置の表示動作が,特定の遊技状態の発生に遅れる場合があること,送受信の切り換え動作が行われるため,切り換え時にノイズが侵入する場合があることとの技術課題が存在すること(前記段落【0007】)が認められる。 上記技術課題に対し,甲3記載の発明は,メイン制御部側のデータ転送処理における処理タイムにおいて,待ち時間の設定を必要とせず,データ転送を円滑に行うことができ,図柄表示装置の表示動作が特定の遊技状態の発生に遅れることなく起動され,かつデータ転送においてノイズの侵入を排除することが可能なパチンコ機におけるデータ伝送装置を提供することを目的とするものである(前記段落【0008】)。 上記目的を達成するため,甲3記載の発明は,メイン制御部からサブ制御部へのみコマンドデータの転送を可能とし,前記サブ制御部からメイン制御部へのデータ信号入力を禁止する一方向データ転送手段とを設けたものである(前記【請求項1】)。甲3記載の発明においては,上記一方向データ転送手段により,メイン制御部からサブ制御部へのみコマンドデータの転送が可能とされるので,メイン制御部側のデータ転送処理における処理タイムにおいて,待ち時間の設定を不要とし,これによりデータ転送を24円滑に行うことが可能となるとともに,図柄表示装置の表示動作が特定の遊技状態の発生に遅れることなく起動されることが実現される(前記段落【0126】)。また,甲3記載の発明においては,送受信の切り換え動作が行われないため,データ転送においてノイズの排除を可能とするものである(前記段落【0010】【0127】)。 上記のとおり,甲3記載の発明の課題及びその解決手段によれば,一方向データ転送の対象となるのは,メイン制御部から図柄表示装置のサブ制御部へ転送される制御用のコマンドデータ(パチンコ機における遊技状況を示すステータスデータ,図柄表示装置に複数設定されている各図柄表示部に表示する図柄の種類及び表示位置を示す各データ等)であり(前記段落【0002】【0003】),甲3には上記コマンドデータ以外のデータ転送について,明示的な記載はされていない。 しかし,甲3には,「サブ制御部からメイン制御部へのデータ信号入力が禁止されるため,何等かの手段により,図柄表示装置を介してサブ制御部からメイン制御部へ不正信号の出力がなされたとしても,サブ制御部からのメイン制御部への不正信号の入力を防止することができ,したがって,入賞が成立していないにもかかわらず,入賞状態となるといったことが防止することができる。」との効果を奏することが記載されている(前記段落【0011】【0128】)。上記の効果は,サブ制御部からメイン制御部へのすべてのデータ信号入力を禁止することによりもたらされる効果であるから,甲3記載の発明においては,メイン制御部とサブ制御部の間のすべての信号経路に,メイン制御部への不正信号入力防止手段として,一方向データ転送手段が介在することを前提にしているものと解される。 したがって,甲3には,一方向データ転送手段により,両制御部間のすべての信号について,サブ制御部からメイン制御部へのデータ信号入力を禁止する構成が開示されているものと認められる。 25 ウこれに対し,被告は,甲3について,未使用の信号線に関して通信方向を規制する構成の開示がないから,すべての信号を規制の対象とする構成が開示されているとはいえないと主張する。 しかし,被告が主張する未使用の信号線が存在するか否かは判然としない上,仮にこれが認められるとしても,前記イのとおり,甲3の記載全体からみれば,両制御部間のすべての信号経路に一方向データ転送手段が介在することを前提としているものと認められ,当業者であれば,サブ制御部からメイン制御部への不正信号の入力を防止するとの作用・効果を達成するため,必要な回路構成を採用することは当然のことといえる。 したがって,上記被告の主張は採用することができない。 エ以上のとおり,甲3記載の発明は,両制御部間の信号のすべてを伝達方向の規制の対象とするものと認められるから,この点が明らかでないとする審決の判断には誤りがある。 (3)甲9記載の発明について ア甲9には,以下の記載がある。 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,たとえば,パチンコ遊技機やコイン遊技機等で代表される弾球遊技機に関し,詳しくは,打玉を遊技領域に打込んで遊技が行なわれる弾球遊技機に関する。」 「【0003】また,この種の従来の弾球遊技機においては,弾球遊技機の遊技状態を制御する遊技制御手段と,玉を払出す玉払出装置を制御する払出動作制御手段とを有しており,前記入賞玉検出手段の検出出力が前記払出動作制御手段に入力され,払出動作制御手段から前記遊技制御手段に対し入賞玉が検出されたことを表わす入賞玉検出信号が送信され,その信号を受けた遊技制御手段は,その入賞玉に対して払出すべき景品玉の個数を特定する払出個数情報を前記払出動作制御手段に返信するように構成されて26いた。そしてその払出動作制御手段は,払出個数情報に従った個数だけの景品玉の払出を前記玉払出装置に行なわせる制御を行なう。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】一方,この種の従来の弾球遊技機においては,前記遊技制御手段が弾球遊技機の遊技状態を制御するものであるために,たとえば賭博性の高い遊技動作が行なわれるように改造するべく前記遊技制御手段が不正改造される不都合があった。特に,前記遊技制御手段は,前記払出動作制御手段から入賞玉検出信号が入力されるため,その信号の入力ポートから不正なデータを入力して遊技制御手段を通常の正常な動作とは異なった動作をするように不正改造するおそれがあった。 【0005】また,入賞玉が短期間のうちに大量に発生した場合には,前記入賞玉処理手段による入賞玉の処理動作速度を速めて迅速に入賞玉の処理を行ないたいというニーズもあった。 【0006】本発明は,係る実情に鑑み考え出されたものであり,その目的は,前述した遊技制御手段の不正改造を極力防止するとともに,入賞玉の処理動作速度を速めることのできる弾球遊技機を提供することである。 【0007】 【課題を解決するための手段】請求項1に記載の本発明は,打玉を遊技領域に打込んで遊技が行なわれる弾球遊技機であって,弾球遊技機の遊技状態を制御する遊技制御手段と,前記遊技領域に設けられ,打玉が入賞可能な入賞領域と,該入賞領域に入賞した入賞玉に基づいて景品玉の払出動作を行なうために該入賞玉を処理する入賞玉処理装置と,玉を払出す玉払出装置と,該玉払出装置と前記入賞玉処理装置とを制御する払出動作制御手段とを含み,前記入賞玉処理装置は,前記入賞玉を保持する入賞玉保持手段と,該入賞玉保持手段により保持されている入賞玉を検出してその検出出力を前記遊技制御手段に出力する入賞玉検出手段と,前記入賞玉保持手段27により保持されている入賞玉を排出する入賞玉排出手段とを含み,前記遊技制御手段は,前記入賞玉検出手段からの検出出力が入力されることを条件として,該入賞玉に対応して払出すべき景品玉の個数を特定する払出個数情報を前記払出動作制御手段に出力し,前記払出動作制御手段は,前記払出個数情報が入力されたことを条件として,その入力された払出個数情報に従った個数の景品玉を前記玉払出装置から払出す制御を行なうとともに,該払出制御に伴う景品玉の払出の終了を待たずに前記入賞玉排出手段による入賞玉の排出動作を開始する制御を行ない,前記遊技制御手段と前記払出動作制御手段との間での情報通信は,前記遊技制御手段から,前記払出動作制御手段への一方向通信としたことを特徴とする。」 「【0055】カードユニット制御基板210aには,RAM,ROM,CPU,I/Oポート等を含むカードユニット制御用マイクロコンピュータ210と,スイッチからの検出信号をカードユニット制御用マイクロコンピュータ210に入力するためのスイッチ回路211と,カードユニット制御用マイクロコンピュータ210からの表示制御信号を各種表示器に出力するための表示回路212と,カードユニット制御用マイクロコンピュータ210と払出制御回路基板152の払出制御用マイクロコンピュータ220との間で信号のやり取りを行なうためのフォトカプラで構成される信号回路214と,電源回路215とが設けられている。このように両マイクロコンピュータ210,220間での信号のやり取りをフォトカプラを介して一旦光信号に変換して行なっているために,両マイクロコンピュータ210,220間が電気的に遮断された状態となり,一方の故障等に起因した異常高電圧等が他方のマイクロコンピュータにまで伝送されないために,一方の故障が他方にまで悪影響を及ぼすことを防止できる。さらに,このカードユニット制御基板210aには,前記スイッチ回路211に接続された端数表示スイッチ52と玉貸額設定スイッチ213とが設けられ,28さらに,前記表示回路212に接続された,ユニット使用可表示器51とカード挿入表示器54と連結方向表示器53とが設けられている。また,図2の57は,インターフェイス基板138のコネクタ138aと接続されるコネクタである。」 「【0060】遊技制御基板199には,ワンチップ化された遊技制御用マイクロコンピュータ202が設けられている。この遊技制御用マイクロコンピュータ202には,CPU203,RAM205,I/Oポート206,セキュリティ回路204等が設けられている。そして,ワンチップ化された遊技制御用マイクロコンピュータ202の外部にROM207と,アドレスデコード回路208とが設けられている。アドレスデコード回路208は,遊技制御用マイクロコンピュータ202からのアドレスデータをデコードし,遊技制御用マイクロコンピュータ202内のRAM205,I/Oポート206,あるいは前記ROM207にそれぞれチップセレクト信号を与える。」 「【0062】前記ROM207には,打玉がどの入賞領域に入賞したかに応じて払出すべき景品玉の数である賞球個数データが記憶されている。そして,入賞玉検出器122(図7参照。判決注・添付省略)が入賞玉を検出してその検出信号がスイッチ回路229を介して遊技制御用マイクロコンピュータ202に入力されてくれば,遊技制御用マイクロコンピュータ202は,打玉が入賞した入賞領域に対応する賞球個数データをROM207から読出して,信号回路209,217(ともにフォトカプラで構成されている)を介して払出制御用マイクロコンピュータ220に返信する。 本実施例では,賞球個数信号は,図示するように4本の信号線からなる4ビットデータ(D0〜D3)の形で払出制御用マイクロコンピュータ220に伝送される。」「【0070】払出制御回路基板(賞球玉貸制御基板)152には,コネクタ29153aを介して,入賞玉排出ソレノイド127,玉払出検出器(賞球センサ)187,玉切れスイッチ87a,87bがさらに接続されている。そして,払出モータ(賞球モータ)189の回転に伴って玉払出検出器(賞球センサ)187が切欠部192を検出すれば,その検出信号が払出制御回路基板(賞球玉貸制御基板)152に入力される。また,玉切れスイッチ87a,87bの検出信号がコネクタ153aを介して払出制御回路基板(賞球玉貸制御基板)152に入力される。払出制御回路基板(賞球玉貸制御基板)152は,コネクタ153aを介して入賞玉排出ソレノイド127を励磁制御し,入賞玉を下方に通過させて落下させる制御を行なう。」 「【0132】 【課題を解決するための手段の具体例】前記遊技制御基板199により,前記遊技機の遊技状態を制御する遊技制御手段が構成されている。前記始動入賞口34,可変入賞球装置35,通常の入賞口42a,42bにより,前記遊技領域に設けられ,打玉が入賞可能な入賞領域が構成されている。 入賞玉処理装置115により,前記入賞領域に入賞した入賞玉に基づいて景品玉の払出動作を行なうために該入賞玉を処理する入賞玉処理装置が構成されている。玉払出装置97により,玉を払出す玉払出装置が構成されている。払出制御回路基板152により,前記玉払出装置と前記入賞玉処理装置とを制御する払出動作制御手段が構成されている。 【0133】前記入賞玉処理装置は,入賞玉を保持する入賞玉保持手段(第2玉係止部130)と,該入賞玉保持手段により保持されている入賞玉を検出してその検出出力を前記遊技制御手段に出力する入賞玉検出手段(入賞玉検出器122)と,前記入賞玉保持手段により保持されている入賞玉を排出する入賞玉排出手段(ソレノイド127,第1玉係止部124)とを含んでいる。そして,前記遊技制御手段は,前記入賞玉検出手段からの検出出力が入力されたことを条件として,該入賞玉に対応して払出すべき30景品玉の個数を特定する払出個数情報を前記払出動作制御手段に出力する。 また払出動作制御手段は,前記払出個数情報が入力されたことを条件として,その入力された払出個数情報に従った個数の景品玉を前記玉払出装置から払出す制御を行なうとともに,該払出制御に伴う景品玉の払出の終了を待たずに前記入賞玉排出手段による入賞玉の排出動作を開始する制御を行なう。また,前述したように,入賞玉の排出時期は景品玉払出開始と同時でなくてもよい。そして,前記遊技制御手段と前記払出動作制御手段との間での情報通信は,前記遊技制御手段から,前記払出動作制御手段への一方向通信となっている。」 「【0136】 【課題を解決するための手段の具体例の効果】請求項1に関しては,入賞玉が発生した場合には,その入賞玉に対応して払出すべき景品玉の個数を特定する払出個数情報が遊技制御手段から払出動作制御手段に出力され,その払出動作制御手段がその入力された払出個数情報に従った個数の景品玉を払出す制御を行うために,入賞玉に基づいた払出動作を行なうに際し,前記払出動作制御手段から前記遊技制御手段への情報の送信を何ら行なうことなく払出動作が可能となり,払出動作制御手段から遊技制御手段へ入力される情報の入力部を利用した不正なデータの入力による不正改造等を極力防止し得ることができる。しかも,景品玉の払出動作の終了を待たずに入賞玉の排出動作が開始されるために,入賞玉の処理を迅速に行なうことができる。」 イ 前記アによれば,パチンコ遊技機等の弾球遊技機に関し,従来の弾球遊技機においては,遊技制御手段は,払出動作制御手段から入賞玉検出信号が入力されるため,その信号の入力ポートから不正なデータを入力して遊技制御手段を通常の正常な動作とは異なった動作をするように不正改造するおそれがあるとともに,入賞玉が短期間のうちに大量に発生した場合には,31入賞玉の処理動作速度を速めて迅速に入賞玉の処理を行ないたいとの技術課題が存在した(前記段落【0001】【0003】【0004】【0005】)。甲9記載の発明は,上記技術課題に基づいて,遊技制御手段の不正改造を極力防止するとともに,入賞玉の処理動作速度を速めることができる弾球遊技機を提供することを目的としたものである(前記段落【0006】)。このため,甲9記載の発明においては,遊技制御手段は,入賞玉検出手段からの検出出力が入力されることを条件として,該入賞玉に対応して払い出すべき景品玉の個数を特定する払出個数情報を払出動作制御手段に出力し,払出動作制御手段は,上記払出個数情報が入力されたことを条件として,その入力された払出個数情報に従った個数の景品玉を上記玉払出装置から払い出す制御を行うとともに,該払出制御に伴う景品玉の払出動作の終了を待たずに入賞玉排出手段による入賞玉の排出動作を開始する制御を行う。上記遊技制御手段と上記払出動作制御手段との間での情報通信は,上記遊技制御手段から,上記払出動作制御手段への一方向通信とした構成を採用することにより,入賞玉に基づいた払出動作を行うに際し,上記払出動作制御手段から上記遊技制御手段への情報の送信を何ら行うことなく払出動作が可能となり,払出動作制御手段から遊技制御手段へ入力される情報の入力部を利用した不正なデータの入力による不正改造等を極力防止し得ることができる上,景品玉の払出動作の終了を待たずに入賞玉の排出動作が開始されるため,入賞玉の処理を迅速に行うことができるとの効果を奏するものといえる(前記段落【0007】【0133】【0136】)。 また,甲9には,その実施例について,「入賞玉検出器122・・・が入賞玉を検出してその検出信号がスイッチ回路229を介して遊技制御用マイクロコンピュータ202に入力されてくれば,遊技制御用マイクロコンピュータ202は,打玉が入賞した入賞領域に対応する賞球個数データを32ROM207から読出して,信号回路209,217(ともにフォトカプラで構成されている)を介して払出制御用マイクロコンピュータ202に返信する。」との記載があり(前記段落【0062】),「前記遊技制御手段と前記払出動作制御手段への一方向通信とした」(前記段落【0007】)との構成を具体化したものと認められる。そうすると,上記信号回路209,217(ともにフォトカプラで構成されている)は,一方向通信を実現するための一要素であり,甲9添付の図12によれば,信号回路209は遊技制御基板199に,信号回路217は払出制御回路基板152に,それぞれ設けられていることが認められる。 さらに,証拠(甲11ないし13,23)及び弁論の全趣旨によれば,フォトカプラは,一旦電気信号から変換した光信号を,一次側の発光素子から二次側の受光素子へ伝達する構成を有し,発光素子から受光素子に至る光信号の経路において,信号の一方向伝達特性が維持されるとの特徴を有することは周知の技術的事項であると認められる。 なお,甲4(特開平7-24108号公報,平成7年1月27日公開)の段落【0004】には,「遊技機の不正改造を防止するための法的規制から,サブ基板の画像制御基板はメイン基板の遊技機制御基板からのコマンドを一方的に受信するのみで,メイン基板の遊技機制御基板へコマンドやその他の制御信号を送ることができない。」との記載があり,甲5(特開平10-118273号公報,平成10年5月12日公開)の段落【0004】には,「パチンコ機においては,主基板側から映像表示装置への制御信号等の転送のみが許可され,映像表示装置側からの主基板側への応答信号を返すような双方向通信は規制により許可されていない。」との記載がある。上記記載に照らすと,本件特許出願当時,パチンコ等の遊技機の分野では,不正改造を防止するために,画像表示等を制御するサブ基板は,遊技機全体を制御するメイン基板からのコマンドを一方的に受信するのみ33で,メイン基板への信号送信ができないとの一方向通信に関する規制があったものと認めることができる(上記の規制が存在したことについて当事者間において争いがない。)。 上記フォトカプラの特性,本件特許出願当時の遊技機に関する規制が存在したこと等に照らすと,甲9の記載に接した当業者は,甲9のフォトカプラで構成された信号回路209,217について,メイン基板である遊技機制御基板からのコマンドをサブ基板へ一方的に転送することのみを許可し,双方向通信を禁止する回路を技術常識として認識するものと解される。 また,信号回路217は,払出制御回路基板152(サブ基板)に,信号回路209は,遊技制御基板199(メイン基板)に,それぞれ設けられているから,信号回路217は,サブ基板内に実装された「信号の伝達方向を遊技制御基板(メイン基板)からサブ基板への一方向に規制するために,前記遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とし,前記遊技制御基板への信号の出力を不能とする信号伝達方向規制手段」(本件訂正発明1の構成(ε)参照)に相当し,「信号回路209」は,遊技制御基板(メイン基板)内に実装された「信号の伝達方向を遊技制御基板(メイン基板)からサブ基板への一方向に規制するために,前記サブ基板への信号の出力のみを可能とし,前記サブ基板からの信号の入力を不能とする信号伝達方向規制手段」(本件訂正発明1の構成(ζ)参照)に相当することは,当業者が容易に認識し得るものと認められる。 ウ なお,審決は,甲9には技術事項Cが開示されており,「遊技制御基板199」から「払出制御回路基板152」へ伝達される信号は賞球個数信号D0〜D3がすべてであるとは認定できないとする。 しかし,以下の理由から,審決の上記認定には誤りがある。 甲9には,「【0071】払出制御回路基板(賞球玉貸制御基板)152は,前記玉払出検出器(賞球センサ)187からの検出信号に基づいて,34コネクタ153b,199bを介して遊技制御基板199に入賞信号を出力し,遊技制御基板199は,その入賞信号に基づいて前述した賞球個数信号をコネクタ199b,153bを介して払出制御回路基板(賞球玉貸制御基板)152に返信する。」との記載がある。しかし,甲9記載の発明において,玉払出検出器(賞球センサ)187からの検出信号に基づいて遊技制御基板199に入賞信号が出力され,この入賞信号に基づいて賞球個数信号が出力されるとすると,この賞球個数信号を受け取った払出制御用マイクロコンピュータ220が賞球モータ189をONに制御するのであるから(段落【0075】参照),賞球モータ189の回転を検出する玉払出検出器(賞球センサ)187からの検出信号が再び入賞信号を出力することになり,賞球モータ189の回転がどのように制御されるのか不明となり,当該入賞信号の技術的意味が不明瞭になる。 また,甲9には,玉払出検出器(賞球センサ)187は,払出制御回路基板152に接続されており,払出モータ(賞球モータ)189の回転に伴って切欠部192を検出すれば,その検出信号が払出制御回路基板(賞球玉貸制御基板)152に入力されることが記載されている(前記段落【0070】,図14参照)。しかし,賞球センサ(受光素子)187の出力信号(パルス信号)は,賞球モータ189の回転検出及び制御と各種エラー検出等に利用されることが開示されている(段落【0038】,【0075】ないし【0078】)のみであって,その他に玉払出検出器(賞球センサ)187からの検出信号に基づいて入賞信号を出力することは,前記段落【0071】を除いて,記載ないし示唆されていない。 さらに,甲9の前記段落【0003】には,従来技術として,「払出動作制御手段から前記遊技制御手段に対し入賞玉が検出されたことを表わす入賞玉検出信号が送信され,その信号を受けた遊技制御手段は,その入賞玉に対して払出すべき景品玉の個数を特定する払出個数情報を前記払出動35作制御手段に返信するように構成」される弾球遊技機が示され,甲9記載の発明の解決課題について,「遊技制御手段は,前記払出動作制御手段から入賞玉検出信号が入力されるため,その信号の入力ポートから不正なデータを入力して遊技制御手段を通常の正常な動作とは異なった動作をするように不正改造する」旨が記載されている。そうすると,甲9記載の発明は,上記従来技術における課題解決の手段として,前記遊技制御手段と前記払出動作制御手段への一方向通信としたものであるから(前記段落【0007】),技術事項Cとされる払出制御回路基板152が,コネクタ153b,199bを介して遊技制御基板199に入賞信号を出力することは,上記甲9の課題解決手段に反するといえる。 以上によれば,審決が認定する技術事項Cが前記段落【0071】の記載に基づくものであるとしても,同段落の記載は,甲9の他の部分の記載や甲9記載の発明が解決しようとする課題及びその解決手段と整合しないか,又は,技術的に解決不可能な内容を含むものであって,誤った記載と解される。したがって,前記段落【0071】の記載のみから,甲9には技術事項Cが実質的に開示されていると認めることはできない。 審決が,技術事項Cを根拠に,甲9において,「遊技制御基板199」から「払出制御回路基板152」へ伝達される信号は賞球個数信号D0〜D3がすべてであるとは認定できないと判断したことは誤りである。 エ これに対し,被告は,?甲9には,信号回路209,217の具体的な内部構成についての開示がなく,単にフォトカプラ構成の信号回路というのみでは,甲9に記載されている信号回路209,217が信号の伝達方向を一方向に規制する回路構成であると解することはできない,?甲9では,フォトカプラで構成された信号回路214,216を介して,カードユニット制御用マイクロコンピュータ210と払出制御用マイクロコンピュータ220との間で双方向に送受信が行われる構成が開示されており,信号36回路214,216と同様に,信号回路209,217も信号伝達方向規制手段としての機能を果たしていない,?甲9の段落【0055】に記載されているとおり,信号回路209,217を設けたのは,一方のマイクロコンピュータの故障等に起因した異常高電圧等が他方のマイクロコンピュータに伝達されるなど,一方の故障が他方にまで悪影響を及ぼすことを防止するためであって,信号の伝達方向を規制して不正行為を防止するという目的ではないと主張する。 しかし,被告の上記主張は,次のとおり,いずれも採用することができない。 まず,フォトカプラで構成された信号回路として,発光素子と受光素子を一次側と二次側で互い違いに配置するなどして信号の伝達方向を双方向とすることが可能であり,フォトカプラを用いた信号回路が直ちに一方向通信の信号回路を意味するものではないとしても,前記イのとおり,一般的にみれば,単体のフォトカプラの基本構成は,発光素子と受光素子を1つのケース内に収納し,一次側に発光素子,二次側に受光素子をそれぞれ配置し,入出力を電気的に絶縁し,入力側から出力側に一方向に信号を伝達するものと認められる。そして,甲9には,その実施例(前記段落【0062】,図12)として,遊技制御基板199と払出動作制御基板152との間の情報通信について,共にフォトカプラで構成されている信号回路209,217を経由する信号線のみが記載されており,当該信号線により伝送される賞球個数信号D0〜D3は,遊技制御基板199から払出動作制御基板152への一方向通信を予定した信号であると解するのが合理的であり,信号回路209,217を双方向通信とする合理的な理由はないのみならず,そのような構成に関する記載も示唆もない。そうすると,フォトカプラで信号回路209,217を構成するならば,信号線(賞球個数信号D0〜D3)それぞれについて,遊技制御基板側を入力側(発光37素子側)とし,払出動作制御基板側を出力側(受光素子側)とする一方向通信とすることが,当業者における技術常識であるといって差し支えない。 このことは,同じ技術分野に属する甲25(特開平6-304318号公報),甲26(特開平9-294854号公報)における回路構成からも裏付けることができる。したがって,甲9記載の発明は,課題を解決する手段である「前記遊技制御手段と前記払出動作制御手段との間での情報通信は,前記遊技制御手段から,前記払出動作制御手段への一方向通信」とするため,発光素子から受光素子に至る光信号の経路において一方向通信を行うフォトカプラで構成された信号回路209,217を用いているのであるから,信号回路209,217は,信号の伝達方向を一方向に規制する回路構成であると解するのが相当である。 次に,甲9記載の発明においては,カードユニット制御用マイクロコンピュータ210と払出制御用マイクロコンピュータ220との間は,双方向に受送信が行われる構成となっており,信号回路214,216は,全体としては,信号伝達方向規制手段としての機能を果たしていない(前記段落【0055】参照)。しかし,甲9記載の発明において,信号回路214,216と信号回路209,217は,その目的を異にしている上,上記のとおり,フォトカプラは,発光素子から受光素子に至る光信号の経路において一方向伝達特性を示すものであり,信号回路214,216は,各信号線についてみれば,信号の伝達方向を一方向に規制するものであると認められる。したがって,信号回路214,216の構成をもって,信号回路209,217が信号の伝達方向を一方向に規制する回路構成でないことの証左ということはできない。 さらに,甲9記載の発明において,フォトカプラで構成される信号回路を設けることの作用・効果が,一方のマイクロコンピュータの故障が他方にまで悪影響を及ぼすことを防止できることにあるとしても(前記段落【038055】参照),これはフォトカプラが本来有している機能の1つにすぎず,フォトカプラが信号の一方向伝達特性を有するとの機能と相反するものではない。したがって,甲9の段落【0055】の記載は,フォトカプラで構成された信号回路209,217を介することにより,信号の伝達方向を規制して不正行為を防止するとの作用・効果を否定するものではない。 (4) 小括前記(2)のとおり,甲3には,サブ制御部6からメイン制御部1へのデータ信号入力を禁止し,サブ制御部6からメイン制御部1への不正信号の入力を防止するため,メイン制御部1とサブ制御部6との間のすべての信号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表示制御基板への一方向に規制するための信号伝達方向規制手段を設けることが実質的に記載されているものと認められる。そうすると,本件訂正発明1と甲3記載の発明との相違点は,本件訂正発明1は表示制御基板内及び遊技制御基板内の各々に信号伝達方向規制手段が実装されているのに対し,甲3記載の発明は,メイン制御部1(「遊技制御基板」に相当)及びサブ制御部6(「表示制御基板」に相当)の各々に信号伝達方向規制手段が実装されていないこととなる。また,前記(3)のとおり,甲9には,遊技機に関し,メイン制御部からサブ制御部への一方向通信とした構成を採用することにより,サブ制御部からメイン制御部へ入力される情報の入力部を利用した不正なデータの入力による不正改造等を防止することが記載されており,その具体的手段として,信号の伝達方向を遊技制御基板(メイン基板)からサブ基板への一方向に規制するために,前記遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とし,前記遊技制御基板への信号の出力を不能とする信号伝達方向規制手段である信号回路209を遊技制御基板199(メイン基板)に設けるとともに,信号の伝達方向を前記遊技制御基板(メイン基板)からサブ基板への一方向に規制するために,前記サブ基板への信号の出力のみ39を可能とし,前記サブ基板からの信号の入力を不能とする信号伝達方向規制手段である信号回路217を払出制御回路基板152(サブ基板)に設けることが開示されていると認められる。さらに,甲9に記載された技術事項は,甲3記載の発明と同様に遊技機に関する技術分野において,不正信号の入力を防止するという目的を達成するためのものであり,甲3記載の発明においては1つであった一方向データ転送手段を,甲9のように入力側基板と出力側基板のそれぞれに設けることにより,より高い効果が期待できることは当然のことであるから,甲9記載の技術事項を甲3記載の発明に適用することは,当業者において容易であるといえる。なお,前記(3)のとおり,審決が技術事項Cとして認定した事項は,甲9記載の技術的思想に基づく適切な開示事項とは認められず,甲9記載の技術事項を甲3記載の発明に適用する際の阻害要因とはならない。したがって,甲9記載の技術事項を甲3記載の発明に適用することにより,本件訂正発明1の構成(ε)及び構成(ζ)を得ることは当業者が容易に想到し得ることといえる。 以上によれば,本件訂正発明1は,甲3に記載された発明に甲9記載の技術事項及び周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができるものであるから,本件訂正発明1の進歩性を肯定した審決の判断は誤りであり,取消事由2は理由がある。 3 取消事由3(本件訂正発明2,3についての容易想到性判断の誤り)について本件訂正発明2,3についての審決の容易想到性の判断も,以下のとおり,同様に誤りがある。 すなわち,本件訂正発明2は,本件訂正発明1を引用して記載された発明であり,本件訂正発明3は,本件訂正発明2を引用して記載された発明である。 そして,前記2のとおり,本件訂正発明1は,甲3に記載された発明に甲9記載の技術事項及び周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得る40といえる。 本件訂正発明2は,信号伝達方向規制手段として,汎用のバッファIC回路が用いられているのに対し,甲3記載の発明ではトランジスタアレイが用いられている。しかし,汎用のバッファIC回路として本件基準明細書において例示されている「74HC244」(甲17段落【0035】)は,甲10に記載されている公知のものにすぎず,これが信号伝達方向規制手段として機能し得ることは,当業者にとって自明のことである。したがって,信号伝達方向規制手段として,汎用のバッファIC回路を採用することは,当業者が容易になし得る。 本件訂正発明3は,バッファIC回路のイネーブル端子が常に入出力導通状態に設定されているが,甲10によれば,汎用のバッファIC回路として本件基準明細書において例示されている「74HC244」のイネーブル端子を常に「L」レベルにしておけば,入出力導通状態となるのであり,そのような設定をすることは設計事項といえる。 4結論 以上のとおり,原告の主張する取消事由1は理由がないが,取消事由2,3には誤りがあり,審決には,その結論に影響を及ぼす誤りがある。 よって,原告の請求は理由があるから,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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