運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2007-32728
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 22年 (行ケ) 10074号 審決取消請求事件
原告 X
被告 特許庁長官
指定代理人 亀丸広司 蓮井雅之 黒瀬雅一 田村正明
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/10/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告が求めた判決特許庁が不服2007-32728号事件について平成21年12月22日にした審決を取り消す。
第2事案の概要原告は,平成18年9月29日,名称を「背骨曲がりズレ補整補助器具」とする発明について特許出願をしたが,特許庁から拒絶査定を受けたので,不服審判請求をしたところ,特許庁がこれを不服2007-32728号事件として審理した上で,平成21年12月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をしたので,本件訴訟で審決の取消しを求めた。
争点は,請求項1に係る本願発明が,当業者において出願前に頒布された刊行物に基づいて容易に発明することができたか否かである。
1特許庁における手続の経緯原告は,平成18年9月29日,名称を「背骨曲がりズレ補整補助器具」とする発明について特許出願をしたが(特願2006-266257号,請求項の数2),平成19年9月26日,特許庁から拒絶査定を受けた。
そこで,原告は,平成19年11月9日,上記拒絶査定につき不服審判請求をしたところ,特許庁はこれを不服2007-32728号事件として審理した上で,平成21年12月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,審決の謄本は平成22年2月4日に原告に送達された。
2本願発明の要旨高さ150mm長さ450mm横150mmの大きさに作った(四角で面取有り又は,円でも可能)背骨の曲がりを補整する補助器具である。
3審決の理由の要点本願発明は,下記引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明できたもので進歩性を欠く(特許法29条2項)。
(引用例)・実願昭59-168754号(実開昭61-82626号)のマイクロフィルム審決が認定した引用発明の要旨,本願発明と引用発明の一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。
(1) 引用発明の要旨「クッション材4の量を調節可能に出し入れできる,背骨をまっすぐに伸ばすための袋状本体1であって,横幅及び高さが長手方向の長さよりかなり短く,鉛直面での断面が略楕円形状であるもの。」(2) 本件発明と引用発明の一致点「背骨の曲がりを補整する補助器具である点」(3) 本件発明と引用発明の相違点「本願発明は,『高さ150mm長さ450mm横150mmの大きさに作った(四角で面取有り又は,円でも可能)』補助器具であるのに対し,引用発明では,補助器具は横幅及び高さが長手方向の長さよりかなり短いものの,その高さ,長手方向の長さ,横幅の寸法が明らかでない点。」第3原告主張の審決取消事由1取消事由1(引用発明と本願発明との一致点及び相違点の認定の誤り)(1) 本願発明は背骨の曲がり,ずれを補整するための補助器具に関する発明である一方,引用発明は単に背骨を単にまっすぐ伸ばすための発明にすぎず,両者の機能が異なる。引用発明のような弾力性のある器具では,背骨の曲がり,ずれを補整することはできず,本願発明のように固い木製の器具でないと背骨の曲がり,ずれを補整することはできない。
(2) 引用発明の背伸ばし具は,袋の中にクッション材等を封入し,袋に薄板と永久磁石を取り付けたものであり,またビニール,布等で作成されているものである。
他方,本願発明の補整補助器具は木製であり,上記背伸ばし具と本願発明の補整補助器具とは,構造も,材質も,形状も,固さも,高さも全く異なるものである。
また,引用発明の背伸ばし具は弾力性があり長時間使用するものである一方,本願発明の補整補助器具は背骨の曲がり,ずれを補整し,背骨をまっすぐにし,姿勢を良くするためのもので,固く高いから,あまり長時間使用しないものである。
そして,本願発明は,大きさの異なる補整補助器具を4種類用意し,仰向けになった背中の下に置いて,背骨の曲がる角度を10,17,21,28度と順次変え,背骨を圧迫して背骨のずれを少しずつ補整していくものである一方,引用発明は上記のように複数種類の器具を用意するものではない。
さらに,本願発明の補整補助器具は,背骨の曲がり,ずれの補整及び腰痛の軽減という効果を有する一方,引用発明の背伸ばし具は肩こり,腰痛の軽減及び健康の増進という効果を有するものであって,両者の効果は異なる。
(3) 審決は,上記各相違点を看過して本願発明と引用発明の一致点及び相違点を認定したもので,その認定に誤りがある。
2取消事由2(容易想到性の判断の誤り)本願発明と引用発明との間には前記のとおりの相違点があり,本願発明は当業者が予測できない格別の効果を奏するものであるから,当業者において,本件の出願当時,引用発明に基づいて本願発明との相違点に係る構成を容易に想到することはできない。
しかるに,審決は上記に反する判断をしたものであるから,審決の容易想到性の判断には誤りがある。
なお,審決は,背骨の曲がりを補整する補助器具において,高さと横幅を等しく,あるいは略等しくしたものが周知であることの裏付けとして,特開2006-102018号公報(乙2),特開平9-117358号公報(乙3)及び実願昭58-193590号公報(実開昭60-102024号公報)のマイクロフィルム(乙4)を挙げる。しかし,乙第2号証は,枕に係るものであって本願発明のように補整補助器具に係るものではなく,高くしたり固くしたりする目的や,器具の形状(高さ等),材質が全く異なる。乙第3号証も,本願発明の補整補助器具とは高さ等の形状,材質,固さが異なる枕に係るものにすぎない。乙第4号証も,本願発明の補整補助器具とは高さ等の形状,材質,固さが異なる枕に係るものである上,指圧ピンが設けられている点が本願発明の補整補助器具とは異なる。
したがって,乙第2ないし4号証の公報等をもって本願発明の容易想到性を基礎付けることはできない。
3取消事由3特許庁の担当者は,原告が手続補正書を作成する際,本願発明の特許明細書(以下「本願明細書」という。)の「技術分野」の項目に本願発明に係る補整補助器具を4種類作成すること,上記補整補助器具を木製のものとすることを追加すればよいと指示した。
しかるに,審決では,特許請求の範囲に該当する事項が記載されていないから,上記事項が発明特定事項であることはなく,上記事項が発明特定事項であるとする原告の主張は採用できないと判断したのは違法であり,審決は取り消されるべきである。
第4取消事由に関する被告の反論1取消事由1に対し(1) 引用例には,曲がった背骨をまっすぐに伸ばして正しい姿勢に補整することが記載されており(2頁7行〜3頁5行),「背骨の状態をまっすぐに伸ばして正しい姿勢に補整する」ことが開示されている。一般に「背骨をまっすぐに伸ばす」ことは「背骨の曲がりを補整する」ことと同義であるし,脊椎等の矯正器具の分野において,ずれ補整等の矯正のために当該部位を伸ばすことは通常用いられる手法にすぎない。したがって,引用発明にいう「背骨をまっすぐに伸ばす」ことは本願発明にいう「背骨の曲がりを補整する」ことに相当するから,審決の一致点の認定に誤りはない。
(2) 審決は,本願発明の補整補助器具と引用発明の背伸ばし具の高さ及び形状を相違点として正しく認定している。
他方,本願発明では,補整補助器具の材質が木であることや,これを長時間使用することがないこと,大きさの異なる補整補助器具を4種類用意して順次使用することは,いずれも本願発明の特許請求の範囲に記載されておらず,本願発明と引用発明の相違点となるものではない。原告の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものであって失当である。
したがって,本願発明と引用発明の一致点及び相違点に係る審決の認定に誤りはない。
2取消事由2に対し前記のとおり,審決は本願発明と引用発明の一致点及び相違点につき正しく認定しているし,本件出願当時,当業者において引用発明の構成から本願発明との相違点に係る構成を容易に想到することができたものであって,審決の容易想到性の判断に誤りはない。
なお,審決は,乙第2ないし4号証を,「背骨の曲がりを補整する補助器具,いわゆる『腰枕』において,高さと横幅を等しく,あるいは略等しく」することが当業者の周知事項であることを示す例として引用したものにすぎず,上記書証に記載された器具の具体的な形状,大きさ,材質等が周知事項であることを示す例として引用したわけではないから,上記書証に記載された器具と本願発明の補整補助器具との間の具体的な形状,大きさ,材質等の相違は問題となるものではない。
3取消事由3に対し特許庁の担当者が原告に対し,本願明細書の「技術分野」の項目に本願発明に係る補整補助器具を4種類作成することなどを追加すればよい等と示唆した事実はない。
補整補助器具を4種類作成することや,その材質を木にすることは,原告が願書に最初に添付した明細書及び図面に記載していない事項であって,特許庁の担当者である審査官又は審判官が原告が主張するような示唆をすることは考え難い。
仮に,原告が主張するとおりの事実があったとしても,発明の詳細な説明中の記載に関するものにすぎず,特許請求の範囲の補正とは何ら関係がない。
のみならず,特許請求の範囲や明細書に何を記載するかは,出願人が自らの責任において決定すべき事項であり,特許庁の担当者の示唆に従う義務はないから,原告の主張は失当である。
第5当裁判所の判断1取消事由1(引用発明と本願発明との一致点及び相違点の認定の誤り)について(1) 本願明細書及び図面(乙11)中には,本願発明に係る補整補助器具の上に利用者が乗って使用し,背骨のずれや曲がりを元に戻す旨の記載(発明の詳細な説明,段落【0001】,【0004】ないし【0007】)や,利用者が背中ないし腰の下に補整補助器具を置き,その上に仰向けに寝て背骨を伸ばす図(図2)があるから,本願発明は,利用者が器具の上に仰向けに寝て背中を伸ばすことにより,背骨の曲がりやズレを補整する器具の発明であることが明らかである。
他方,引用例(乙1)中にも,利用者が背中の下に器具を置き,その上に仰向けに寝ることで背骨をまっすぐに伸ばす旨の記載(3頁3〜10行,5頁14〜17行,6頁18〜7頁1行)やこの利用状況を表す図(第4図)が記載されていて,本願発明に係る補整補助器具と利用法が概ね同一である点に照らすと,引用発明にも背骨をまっすぐに伸ばすことで背骨の曲がりやズレを補整し,凝り等を緩和する機能が含まれ得ることは明らかである。
したがって,引用発明の背伸ばし具が弾力性を有するものであることにより,背骨をまっすぐに伸ばす効果に強弱が生じる余地があるとしても,原告主張のように,本願発明の補整補助器具と引用発明の背伸ばし具の機能が全く異なり,この機能の相違を本願発明と引用発明の一致点及び相違点を認定する上で無視することができないとすることはできない。
(2) 原告は,本願発明の補整補助器具と引用発明の背伸ばし具とは,構造も,材質も,形状も,固さも,高さも全く異なるものであるし,長時間使用する性格の有無や異なる大きさの器具を用意して順次使用する点等が異なると主張する。
しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,器具の材質や固さは記載されておらず,形状も高さ,長さ及び横幅並びに面取りした四角形ないし円を有するものであることが特定されているにすぎない。また,そこには,本願発明に係る補整補助器具が長時間使用する性格のものであることを窺わせる記載や,大きさの異なる器具を複数用意して順次使用する旨の記載はない。
したがって,原告の上記主張は,特許請求の範囲に記載のない事項に基づいて,本願発明と引用発明の一致点及び相違点に係る審決の認定の誤りを主張するものであって,失当である。
なお,前記のとおり,引用発明にも背骨をまっすぐに伸ばすことで背骨の曲がりやズレを補整し,凝り等を緩和する機能が含まれ得るから,本願発明の補整補助器具と引用発明の背伸ばし具との間で,格別の作用効果の相違があるとはいえない。
(3) 以上のとおり,原告が主張する取消事由1は理由がない。
2取消事由2(容易想到性の判断の誤り)について前記のとおり,審決の本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定に誤りがあるとはいえないし,本願発明が当業者において予測し得ない格別の効果を奏するとはいい難い。
そして,本願発明の補整補助器具の大きさ及び形状は,人体の大きさ及び形状に適合するように,当業者において適宜選択し得る設計事項であることは明らかである。審決が周知例として引用する特開2006-102018号公報(公開日平成18年4月20日,発明の名称多目的機能性枕,乙2)にも,枕の断面形状や太さを任意に選択し得ること(段落【0012】,【0013】等)が記載されていることに照らすと,当業者において補整補助器具の高さ,長さ及び横幅を選択することや形状「四角で面取有り又は,円でも可能」を選択することは,容易に想到し得る事項にすぎないものということができる。他方,本願発明の補整補助器具において本願発明にいう高さ等を選択したことにより,当業者において予測し得ない格別の作用効果が生じることを認めるに足りる証拠はない。
結局,本件出願当時,当業者において本願発明と引用発明の相違点に係る構成を容易に想到することができたというべきであって,審決の容易想到性の判断に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由2は理由がない。
3取消事由3について原告は,特許庁の担当者が,原告に対し,本願明細書の「技術分野」の項目に本願発明に係る補整補助器具を4種類作成すること,上記補整補助器具を木製のものとすることを追加すればよいと指示した等主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠は存しない。
本件出願に係る特許請求の範囲には,「【請求項2】」として高さと横幅が各150,200,250,300mmの4種類の補整補助器具を作成する旨の記載があるから(乙5),本願発明とは別の請求項(請求項2)で大きさが異なる補整補助器具を4種類作成することが本件出願で既に盛り込まれており,また,原告の手続補正書(乙8)が提出された日(平成19年7月2日)より2週間程度前に発送された(同年6月12日)拒絶理由通知書(乙6)の備考欄に「高さと横・・・の物・・・を4種類作成することは,当業者であれば必要に応じて適宜採用し得る設計事項にすぎず」との記載があることに照らすと,原告が主張するような補正を行っても,特許庁の審査官等が本願発明を特許査定する蓋然性が存しなかったことは明らかである。したがって,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)に大きさが異なる補整補助器具を4種類作成すること等を追加するよう,特許庁の審査官等が示唆したのはもちろん指示をしたとはにわかに考え難い。よって,原告主張の事実は,審査官等による発言があったとしたら,これを誤解したものと考えられるのであって,原告の前記主張はその前提を欠き,取消事由3には理由がない。
第6結論以上によれば,原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官 真辺朋子
裁判官 田邉実