関連審決 |
訂正2009-390060 無効2008-800120 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10213審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15行ケ337審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ10907特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20ネ10068特許権侵害差止控訴事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 創作性(創作) / 製造方法 / 加工方法 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明特定事項 / 相違点の認定 / 寄せ集め / 周知技術 / 技術常識 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 援用権(援用) / 参酌 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 発明の範囲 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
21年
(行ケ)
10371号
審決取消請求事件
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原告 京セラ株式会社 訴訟 代理 人弁 理士 石島茂男 阿部英樹 藤巻文雄 白阪充 被告 日立金属株式会社 訴訟 代理 人弁 護士 増井和夫 橋口尚幸 齋藤誠二郎 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/10/13 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告が求めた判決特許庁が無効2008-800120号事件について平成21年10月14日にした審決を取り消す。 第2事案の概要原告が名称を「磁気ヘッド用基板」とする発明について登録を受けた特許第3121980号の請求項1ないし3について被告が無効審判請求をしたところ(なお,原告はその後,訂正請求をして,請求項3を削除するとともに,明細書中の記載を一部改めた。),特許庁はこれを無効2008-800120号事件として審理した上で,平成21年1月27日に上記請求項1ないし3の発明についての特許を無効とする旨の審決(第1次審決)をしたが,第1次審決が審決取消訴訟で取り消されたので,特許庁は再度の審理をして平成21年10月14日に上記請求項1及び2の発明についての特許を無効とする旨の審決(第2次審決)をした。本件訴訟は第2次審決の取消訴訟である。 争点は,訂正後の請求項1及び2に係る各発明(以下,それぞれ「訂正発明1」,「訂正発明2」といい,これらをまとめて「各訂正発明」という。)が,当業者において本件出願前に頒布された刊行物及び周知技術に基づいて容易に発明することができたか否かである。 1特許庁における手続の経緯原告は,平成6年3月3日,名称を「磁気ヘッド用基板」とする発明につき特許出願をし(特願平6-33512号。なお,公開日は平成7年9月19日,公開番号は特開平7-242463号。),平成12年10月20日に特許登録を受けた(特許第3121980号,請求項の数は3)。 被告は,平成20年6月27日,請求項1ないし3につき無効審判請求をし,特許庁は,これを無効2008-800120号事件として審理した上,平成21年1月27日,「特許第3121980号の請求項に係る発明を無効とする。」との第1次審決をした。 原告は,平成21年3月3日,第1次審決の取消訴訟を提起し(平成21年(行ケ )第10050号),かつ同年4月28日,請求項1を削除し,請求項2の内容を一部改めてこれを請求項1とする旨等の訂正審判請求をした(訂正2009-390060号事件)。 知的財産高等裁判所は,平成21年6月19日,特許法181条2項に基づき,第1次審決を取り消す決定をした。 原告は,平成21年7月6日,請求項1を削除し,請求項2の特許請求の範囲の記載を後記のとおりに改めるとともにこれを請求項1とし,請求項3の特許請求の範囲の記載を後記のとおりに改めるとともにこれを請求項2とする等の訂正請求をし,上記訂正審判請求は取り下げたものとみなされた(特許法134条の3第4項)。 特許庁は,さらに審理を加えた上で,平成21年10月14日,上記無効審判請求事件において,「訂正を認める。特許第3121980号の請求項1〜2に係る発明についての特許を無効とする。」との第2次審決をし,同審決の謄本は同月26日に原告に送達された。 本件訴訟は,第2次審決の取消訴訟であり,以下単に「審決」というときは,第2次審決を指す。 2本件発明の要旨本件の発明は記録機器に用いられる磁気ヘッド用基板に関する発明で,上記訂正請求による特許請求の範囲は以下のとおりである。 【請求項1】(訂正発明1)「Al2O3を主成分とし,TiCを20〜40重量%の割合で含有するAl2O3-TiC系焼結体から成る磁気ヘッド用基板であって,該焼結体中のAl2O3結晶粒の平均結晶粒径が,TiC結晶粒の平均結晶粒径より5〜50%大きく,該基板の磁気記録面と対向する鏡面加工された面の一部にイオンの照射によりエッチング処理加工された加工部を有し,前記結晶粒全体の平均結晶粒径が1μm以下,前記TiC結晶粒の平均結晶粒径が0.9μm以下である磁気ヘッド用基板。」【請求項2】(訂正発明2)「前記結晶粒の粒界相の含有量が1.0重量%以下である請求項1記載の磁気ヘッド用基板。」3審決の理由の要点(1) 各訂正発明は,下記刊行物2(甲2)に記載された引用発明及び甲第1,3,5ないし9号証に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたもので進歩性を欠く(特許法29条2項)。 【刊行物2】特開平4-321556号公報(発明の名称「セラミツクス材料及び製造方法」,出願人電気化学工業株式会社,公開日 平成4年11月11日,実願平3-116557号,甲2)【甲第1号証】社団法人日本電子材料工業会編「電子回路用高機能セラミック基板」(日本工業出版株式会社,発行日1994年(平成6年)2月28日)223〜252頁【甲第3号証の1】化学大辞典編集委員会編「化学大辞典3」(共立出版株式会社,発行日昭和44年8月5日)893頁【甲第3号証の2】化学大辞典編集委員会編「化学大辞典5」(共立出版株式会社,発行日昭和44年8月15日)699頁【甲第5号証】中西卓二ほか著「浮動式薄膜磁気ヘッド」(研究実用化報告第31巻第2号,発行年1982年(昭和57年))457〜468頁【甲第6号証】特開平4-364217号公報(公開日平成4年12月16日)【甲第7号証】特開平4-34783号公報(公開日平成4年2月5日,出願人京セラ株式会社(原告))【甲第8号証】Webster’sThirdNewInternationalDictionaryOFTHEENGLISHLANGUAGEUNABRIDGED(発行年1986年(昭和61年))1271頁【甲第9号証】マグローヒル科学技術用語大辞典第2版(株式会社日刊工業新聞社,発行年1985年(昭和60年))371,1710頁(2) 審決が認定した引用発明の要旨,訂正発明1と引用発明の一致点及び相違点はそれぞれ下記のとおりである。 【引用発明の要旨】「Al2O3を65.4重量%,TiCを34.6重量%の割合で含有するAl2O3-TiC系セラミックス焼結体から成る薄膜磁気ヘッド用基板であって,該焼結体中のAl2O3の平均結晶粒径が,TiCの平均結晶粒径よりも43%大きく,前記結晶粒全体の平均結晶粒径が0.91μmであり,前記TiC結晶粒の平均結晶粒径が0.7μmである薄膜磁気ヘッド用基板,Al2O3を76.4重量%,TiCを23.6重量%の割合で含有するAl2O3-TiC系セラミックス焼結体から成る薄膜磁気ヘッド用基板であって,該焼結体中のAl2O3の平均結晶粒径が,TiCの平均結晶粒径よりも43%大きく,前記結晶粒全体の平均結晶粒径が0.94μmであり,前記TiC結晶粒の平均結晶粒径が0.7μ mである薄膜磁気ヘッド用基板,Al2O3を65.4重量%,TiCを34.6重量%の割合で含有するAl2O3-TiC系セラミックス焼結体から成る薄膜磁気ヘッド用基板であって,該焼結体中のAl2O3の平均結晶粒径が,TiCの平均結晶粒径よりも33%大きく,前記結晶粒全体の平均結晶粒径が0.74μmであり,前記TiC結晶粒の平均結晶粒径が0.6μ mである薄膜磁気ヘッド用基板,及び,Al2O3を76.4重量%,TiCを23.6重量%の割合で含有するAl2O3-TiC系セラミックス焼結体から成る薄膜磁気ヘッド用基板であって,該焼結体中のAl2O3の平均結晶粒径が,TiCの平均結晶粒径よりも33%大きく,前記結晶粒全体の平均結晶粒径が0.76μ mであり,前記TiC結晶粒の平均結晶粒径が0.6 μ mである薄膜磁気ヘッド用基板」【訂正発明1と引用発明の一致点】「Al2O3を主成分とし,TiCを23.6または34.6重量%の割合で含有するAl2O3-TiC系焼結体から成る磁気ヘッド用基板であって,該焼結体中のAl2O3結晶粒の平均結晶粒径が,TiC結晶粒の平均結晶粒径より33または43%大きく,前記結晶粒全体の平均結晶粒径が0.74,0.76,0.91,または0.94μmであり,前記TiC結晶粒の平均結晶粒径が0.6,または0.7μmである磁気ヘッド用基板」である点【訂正発明1と引用発明の相違点】・相違点a「訂正発明1が磁気ヘッド用基板であるのに対し,引用発明は薄膜磁気ヘッド用基板である点」・相違点b「訂正発明1が基板の磁気記録面と対向する鏡面加工された面の一部にイオンの照射によりエッチング処理加工された加工部を有するのに対して,引用発明はかかる事項を有していない点」第3原告主張の審決取消事由1引用発明と訂正発明1との一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由1)刊行物2中には,「また,鏡面加工を施した場合,ダイヤモンド砥粒との摩擦によって脱粒が生じやすくなるので,精密加工を施す薄膜磁気ヘッド用セラミックス基板の製造においては,歩留まりが低下するという問題があった。」(段落【0004】)との記載があるから,引用発明における鏡面加工は「薄膜磁気ヘッド用セラミックス基板」を製造する際に行われていることは明らかである。 そして,引用発明の「薄膜磁気ヘッド用セラミックス基板」は,刊行物2の記載にかんがみると,共振周波数に関係する電気回路が形成された部品を得るためのセラミックスの板であるところ,刊行物2中には「(4)研磨面の表面粗さ(鏡面加工性):焼結体からφ76.2× 4mmtの円板を切り出し,#400のカップ砥石を用いて平面研削し,次いで0.2〜3.0μmのダイヤモンド砥粒によって,砥粒別に一定時間,3段階の鏡面加工を施し,研磨面の表面粗さを非接触式の表面粗さ測定器を用いて測定した。」(段落【0021】 )との記載があるから,「薄膜磁気ヘッド用セラミックス基板」は焼結体(Al2O3-TiC系焼結体)から切り出された円板であり,鏡面加工はこの円板の表面に対して施すものである。 ここで,刊行物2の段落【0003】が引用する特開昭55-163665号公報(甲32)には,Al2O3-TiC系焼結体の製造工程が記載されており,また上記公報中には上記工程で製造された物を機械にかけて,ヘッド・スライダー部品の材料となるウエハを作成する旨の記載があるから,上記「薄膜磁気ヘッド用セラミックス基板」はウエハであって,ウエハを切断した後の部品ではない。 そうすると,引用発明で鏡面加工を施す対象も,薄膜磁気ヘッド・スライダーの回路を形成したウエハであって,このウエハを切断した後の薄膜磁気ヘッド・スライダーの基になる部品ではない。 したがって,引用発明では,ウエハ切断面であるスライダー浮上面に鏡面加工を施した後にイオンミリング加工を施す構成は開示されていない。 そうすると,訂正発明1と引用発明との相違点aは,訂正発明1が切断物である磁気ヘッド用基板であるのに対し,引用発明がウエハである薄膜磁気ヘッド用基板である点となるべきであるところ,審決はウエハであるかその切断物であるかを示さずに前記のとおり相違点aを認定しているから,訂正発明1と引用発明との相違点の認定を誤ったものである。 2周知技術の内容の認定の誤り(取消事由2)(1) 甲第1号証について甲第1号証中には,ウエハの切断前に,ウエハ表面に形成された薄膜をパターニングすることしか記載されておらず,ウエハの切断後にフォトリソグラフィ工程を実施することは記載されていない。なお,甲第1号証に記載された技術に関しては,フォトリソグラフィ工程とイオンミリング工程とは,工程の順序や加工の対象となる面が異なる異質なものである。 また,甲第1号証中に,磁気ヘッドのスライダー浮上面に対してイオンミリング加工を施すこと,フォトリソグラフィ工程に先立ってメカノケミカルポリッシングが施されることが記載されているとしても,加工すべき面が一致することまで記載されていないから,必ずしもメカノケミカルポリッシングが施された面にイオンミリング加工が施されることになるわけではない。しかも,フォトリソグラフィ工程にはエッチング工程のほかにレジスト塗布工程等の複数の工程が含まれるのであって,フォトリソグラフィ工程をイオンミリング工程に読み替える必然性は存しない。 むしろ,甲第1号証中には,フォトリソグラフィによりウエハ表面に数百個の薄膜磁気ヘッドを作製してから,上記ウエハの条切断を行い,上記のメカノケミカルポリッシングが施された面とは別の面であるウエハ切断面に対してスライダ浮上面の精密形状加工,すなわちイオンミリング加工を施すことが記載されているものである。 また,甲第1号証中には,1979年に発表された製品以降の薄膜磁気ヘッドの製造にIC製造技術が用いられている旨が記載されているが,ICの製造においてメカノケミカルポリッシングを行うのはウエハ表面である。 しかるに,審決は上記各点を看過して,甲第1号証において,スライダー浮上面に「イオンミリング加工に先立ってメカノケミカルポリッシングがなされることが記載されている。」と認定しているが,この認定は誤りである。 なお,甲第1号証中の「磁気ディスク上の浮上距離が50nmということから考えても形状変化は10nm以下が要求される。」との記載(243,244頁)は,内部応力によるひずみがヘッドクラッシュの原因となるから内部応力を抑えるべきであることを説明したものにすぎず,平滑度について言及したものではない。 (2) 甲第5号証について甲第5号証中に,薄膜磁気ヘッドのスライダー相当面(スライダー浮上面に相当する。)をラッピングし,その後にイオンエッチング加工(イオンミリング加工)することが記載されているとしても,本件出願当時の技術常識に照らした場合,ラッピングでは鏡面を形成することはできない。ラッピングは鏡面加工の一工程にすぎず,鏡面加工そのものではない。 したがって,甲第5号証には,スライダー浮上面を鏡面加工した後に,この面にイオンミリング加工をする構成は開示されていない。 また,甲第5号証では,基板の材料として単一材料であるNi-Znフェライト材料が採用されており,訂正発明のAl2O3-TiC系材料のような複合材料が採用されているわけではない。Al2O3-TiC系材料のような複合材料では,Al2O3粒子とTiC粒子とでイオンミリング加工によるエッチングの速度が異なるから,エッチング後の表面の粗さが異なる不都合が生じ得る。 甲第5号証には,上記のとおりの複合材料を採用した場合の不都合を回避するため,スライダー浮上面を鏡面加工した後にイオンミリング加工を施す契機が記載されていない。 そのため,甲第5号証は,訂正発明1の構成に容易に想到し得る根拠となるものではない。 (3) 甲第6号証について甲第6号証中に薄膜磁気ヘッドのレールパターンをエッチングプロセスで作成することが記載されているとしても,甲第6号証に記載された発明においてはラップ仕上げがされているだけで,これは鏡面加工ではない(甲第6号証中で引用されている米国特許公報においても同様である。)。 したがって,甲第6号証は,訂正発明1の構成に容易に想到し得る根拠となるものではない。 (4) 甲第7号証について甲第7号証中には鏡面加工を施した後にイオンエッチング加工(イオンミリング加工)を施すことが記載されているが,甲第7号証に記載された発明で加工を施す対象は,単一種類の化合物粒子から成る焼結体であって,訂正発明1の焼結体のような加工速度の異なる2種類の粒子から成る焼結体ではない。 また,甲第7号証には,鏡面加工した後にイオンミリング加工をする利点が記載されておらず,むしろイオンミリング加工をする難点が記載されている。 そうすると,複合材料の焼結体に甲第7号証に記載された鏡面加工,イオンミリング加工を施すようにする契機や理由は存在しない。 (5) まとめア前記(1) ないし (4) のとおり,甲第1号証にはスライダー浮上面にイオンミリング加工をするのに先立って上記浮上面にメカノケミカルポリッシング加工を施すことが記載されていないし,甲第5号証にはスライダー浮上面を鏡面加工した後にイオンミリング加工すること等が記載されていないし,甲6号証にはスライダー浮上面に鏡面加工を施すことが記載されていないし,甲7号証には複合材料の焼結体に鏡面加工等を施すことが記載されていない。 このとおり,甲第1,5ないし7号証のいずれにも,スライダー浮上面となるウエハ切断面を鏡面加工した後,イオンミリング加工により負圧発生部を形成することは単独で記載されておらず,審決のいう周知技術は各書証に記載された事項を寄せ集めて恣意的に創作されたものにすぎないのであって,進歩性の判断対象になり得るものではない。 そうすると,審決のいう引用発明に適用すべき周知技術は甲第1,3,5ないし9号証に記載されておらず,これに反する審決の認定は誤りである。 イ磁気ヘッドのスライダー浮上面には,その表面を粗くしたり複数個の突起を付けたりして,ディスクとの吸着を防止する技術が開発されてきており,スライダー浮上面の加工方法は一つではない。したがって,本件出願当時,スライダー浮上面を鏡面加工し,イオンミリング加工をすることが技術常識だとはいえない。 なお,被告が技術常識の裏付けとして援用する乙第1号証(矢野宏ほか監修「光と磁気の記録技術」(株式会社オーム社,発行日平成4年11月30日)68〜75頁)においても,未だ実用化されていないスライダーとして負圧利用型スライダーが記載されており,スライダーの作成は機械加工によって行うことが一般的であった旨示されているのであって,乙第1号証はスライダー浮上面の加工が鏡面加工,イオンミリング加工の方法によってされることが技術常識であったことを裏付けるものではない。 3訂正発明1の顕著な作用効果の看過等(容易想到性の判断の誤り,取消事由3)(1) 訂正発明1では,エッチング速度が異なるAl2O3結晶粒とTiC結晶粒との間の加工速度が整合され,平滑性に優れた加工面が形成されており,その結果磁気ヘッドの浮上が安定し,浮上量も小さくすることができるのであって,耐チッピング性や生産性の点を別にしても,高い表面品位を実現できる点で訂正発明1が格別の作用効果を奏することは明らかである。 すなわち,訂正発明1の素材はエッチング速度が異なる複数の素材から成る複合焼結体であるところ,エッチング速度の違いのためにイオンミリング加工後の表面品位が悪くなるという事実は,本件出願当時に知られておらず,上記事実を考慮して複合焼結体の各粒子のイオンエッチング速度を整合させ,加工後の表面品位を良好にすることは,本件出願当時,当業者にとって論理付けることが困難であった。 なお,訂正発明1にいう数値の範囲は上記の格別の作用効果を実現することと密接な関係を有するものであって,上記範囲を特定することは当業者にとって困難である。 また,平均結晶粒径の算定に使用されるコード法の数式も,明細書に記載された式と同一のものが国際標準化機構によって制定されており,コード法によって算定された粒径が一義的なものでないとはいえない。そして,明細書に記載された試料No.9の測定値が試料No.17の測定値と同一になってしまったのは,上記各試料の測定分布の裾の部分になったために,一致したにすぎず,訂正発明1の技術思想を抽出する上で差し支えとなるものではない。したがって,訂正発明1にいう数値にどのような技術的意義があるかが明細書に記載されていないとか,コード法によって算定された粒径が一義的なものでないということはできず,訂正発明1が顕著な作用効果を奏しないとはいえない。 それゆえ,訂正発明1が顕著な作用効果を奏せず,進歩性がないとの審決の判断は誤りである。 (2) また,前記2のとおり,甲第1,3,5ないし9号証には審決のいう周知技術は記載されていないから,引用発明に周知技術を適用することにより,当業者において訂正発明1の構成に容易に想到できるものではない。 そして,引用発明のセラミックス材料を薄膜磁気ヘッド用基板に限定する理由はないし,刊行物2に記載された磁気ヘッドには接触型磁気ヘッド等も含まれ,イオンエッチング以外の加工方法があり得るから,被告が後記のとおり主張するような,引用発明に甲第1号証等の周知技術を適用する動機付けは存しない。 また,甲第1号証等には,訂正発明1の作用効果であるスライダー浮上面の高精度の平滑さは記載されていない。 したがって,これらに反し,引用発明及び甲第1,3,5ないし9号証に記載された周知技術から,当業者において訂正発明1の構成に容易に想到できるとした審決の判断は誤りである。 4訂正発明2の容易想到性の判断の誤り(取消事由4)粒界相の含有量を1.0重量%以下にした場合に表面品位が良くなることは訂正明細書の表3に照らして明らかである。仮に粒界相の含有量が0重量%であったとしても,引用発明及び甲第1,3,5ないし9号証に記載された周知技術から,当業者において訂正発明2の構成を容易に想到できるものではない。 したがって,これに反する審決の判断は誤りである。 第4取消事由に関する被告の主張1取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)に対し(1) 刊行物2中に薄膜磁気ヘッド用セラミックス基板の構造や製法が具体的に記載されていないのは,その出願当時において技術常識となっていた上記基板の構造等を前提としていたからであるところ,刊行物2の出願当時,薄膜磁気ヘッド用基板は,素材のウエハ上に電磁変換部を作成した上で,上記ウエハを条切断(スライシング)し,切断面を鏡面加工し,鏡面加工した面(スライダー相当面,スライダー浮上面)にイオンエッチングによる精密加工を施し,負圧部等を形成する工程を経て作成されるのが技術常識であった。 なお,ラッピングとイオンミリングの加工の順序を反対にすると,チッピングに対する考慮が必要になるために,イオンミリング加工する深さが大きくなり,長時間の加工時間が必要になって極めて非効率であるから,当業者がこのような手順を採用するはずはない。 そうすると,引用発明においても,平滑化処理が施されるのは条切断後のスライダー相当面(スライダー浮上面)であって,条切断前のウエハではないことが明らかである。 訂正明細書においても,鏡面加工される面が条切断後のスライダー相当面(スライダー浮上面)であることは,必ずしも明示されておらず,技術常識を参酌して初めて明らかになることである。 したがって,審決による訂正発明1と引用発明の一致点及び相違点の認定に誤りはない。 (2) 刊行物2の段落【0021】で,円板の表面を鏡面加工しているのは,鏡面加工性を評価するために,研磨が容易な円板(ウエハ)を単に材料として採用して実験したにすぎないのであって,引用発明において円板を鏡面加工し,スライダー浮上面を鏡面加工しなかったことを意味するものではない。材料の性質を評価する際に,実験しやすい部位を使用するのは普通のことである。 2取消事由2(周知技術の内容の認定の誤り)に対し(1) 磁気ヘッドのスライダー浮上面は,空気流により磁気記録媒体の表面から浮上するが,浮上面に凹部を形成することにより,上記表面の方向へ押し付けられる圧力(負圧)が発生するので,上記表面から浮き過ぎず,上記表面と極く僅かな距離を保ったまま浮上状態を維持する。しかし,スライダー浮上面は,静止時及び低速時には上記表面に接触することもあり,また走行時にも,上記表面と極く僅かな距離しか離れないので,円滑な走行のために,平滑性を要求されることは自明である。例えば,甲第1号証中にも,「薄膜磁気ヘッド完成品は小型でしかも超精密加工が施され,磁気ディスク上の浮上距離が50nmということから考えても形状変化は10nm以下が要求される。何故なら,2インチや3インチの基板にはホトリソグラフィにより数百個の薄膜ヘッドが作製され,素子が完成して条切断,浮上面精密加工が行われた後に個別切断がなされるため,内部応力が残留しているとそれが解放されて変形が生じる。その変形量が大きいと,空気浮上面の平面度が悪くなり,磁気ヘッドの浮上,停止時にかかる局部的な応力が増大し,ヘッドクラッシュの原因となる」(243頁下から1行〜244頁上から7行)と説明されている。スライダーの内部応力による変形も含めて,僅か50nmの浮上距離での走行に際し,問題が起きないような高精度の平滑度が,スライダー浮上面のエッチングされない部分には求められるのであり,スライダー浮上面についてナノメートル(nm)レベルでの鏡面化処理が必要であることは明らかである。 (2) 甲第5,6号証には,?素材である焼結体の薄い板の表面上に,多数の磁気ヘッドに対応する多数の電磁変換部を形成し,次いで磁気ヘッド1列分を条として,条ごとに上記の薄い板を切断(条切断)し,この切断面に磁気記録面と対向して走行することになるスライダー浮上面を形成すること,すなわち上記切断面にラッピング等の研磨による平滑化を行い,次いでイオンエッチング加工(イオンミリング加工)により所定の形状を得ること,?その後上記浮上面の加工が完成した条を切断して,完成品である個々の磁気ヘッドを得ることが記載されている。 また,甲第7号証には,磁気記録媒体の表面と対向して浮上,走行する部材である負圧スライダーの製造方法につき,スライダーの表面を鏡面に研磨し,研磨した面にイオンエッチング加工(イオンミリング加工)を施すことが記載されている。 確かに,甲第1号証中には,スライダー浮上面に鏡面化処理を施したのちにイオンミリング加工をすることは具体的,明示的に記載されていないが,スライダー浮上面の加工に関し,鏡面化処理を施した上でイオンミリング加工をすることを当然の前提としているし,甲第1号証の記載からは,素材となる焼結体の材料が異なっても,薄膜磁気ヘッド用基板に加工する工程は特段異ならないことが認められる。 (3) 甲第1号証の説明の大部分は,スライダーの素材となる各種の焼結体の特性と,スライダーへの加工に当てられており,226頁1ないし14行の部分は,各素材の個別の説明に入る前の,薄膜磁気ヘッドに関する全体的な記載のまとめであって,完成した薄膜磁気ヘッドに関するものである。したがって,上記部分は電磁変換部及びスライダー浮上面に共通するフォトリソグラフィ工程に関するものであって,甲第1号証においては,スライダー浮上面に鏡面加工とイオンミリング加工(イオンエッチング加工,フォトリソグラフィ加工)を施すことについて記載されているものというべきである。 なお,薄膜磁気ヘッドの電磁変換部がICの製造技術を用いて作成されるようになったのは1979年ころ以降のことであるが,スライダー浮上面の加工にイオンミリング加工が用いられるようになったのは1980年代後半からのことであった。 したがって,薄膜磁気ヘッドの電磁変換部の作成にIC製造技術が用いられる旨の記載があるからといって,この記載からスライダー浮上面が鏡面加工されないということはできない。 乙第1号証からも,薄膜磁気ヘッド用基板の電磁変換部とスライダー浮上面とがともにフォトリソグラフィによって作成されることが技術常識になっていたことが明らかである。 (4) 「鏡面」という用語は抽象的であって,その定義は明確でなく,訂正明細書においてもその平滑さが定義されているわけではない。 薄膜磁気ヘッド用基板の作成に係る従来技術(甲第5,6号証等)においては,ラッピング等の表面平滑化加工を施した上でイオンエッチング加工(イオンミリング加工)をしているのであり,上記ラッピング等を訂正発明1にいう鏡面加工と区別する理由はない。文献中には,ラッピングにより鏡面加工が得られることを明記しているものもあり,両者は必ずしも峻別されていない。 (5) 上記のとおり,本件出願当時,素材である焼結体の切断面にラッピング等による平滑化処理を行い,平滑化後にイオンミリング加工をして所定のスライダー浮上面を形成することは,磁気ヘッドの構成部材であるスライダーの作成方法として確立された工程であった。 スライダー浮上面となる面に平滑化処理,すなわち鏡面化処理をすることは,素材である焼結体の種類に関係なく必要な工程であり,平滑化処理後にイオンミリングを行って負圧部(浮上面)の加工を行うことも,本件出願当時の技術常識であった。 訂正明細書中には「鏡面加工」の定義は存しないから,技術常識に従って,スライダーとしての使用に問題を生じない程度以上の平滑度を達成できる平滑化処理を意味するものと解され,これは甲第5ないし7号証におけるラッピング等と同一である。 また,スライダー浮上面のイオンミリング(イオンエッチング)ないしフォトリソグラフィは,磁気ヘッドの構成部材である電磁変換部の形成に用いられるイオンエッチング等と,同種の装置を用いて行われる同種の加工方法である。 したがって,甲第1,5ないし7号証から認定される周知技術を参照すれば,素材となる焼結体が複合材料である場合も含めて,条切断された薄膜磁気ヘッド用基板に鏡面加工を施した後にイオンエッチングをすることは,薄膜磁気ヘッドの製造において通常ないし必然的な工程にすぎず,訂正発明1の進歩性に何ら寄与するものではない。 3取消事由3(訂正発明1の顕著な作用効果の看過等)に対し(1) 訂正明細書には,イオンエッチング面の表面品位のデータが記載されているものの,これがどのような技術的意義を有するものか説明されていない。訂正発明1 の実施例の多くは,原告自身が提出する書証(特開平8-34662号公報,甲29)に照らしても好ましい表面品位のレベルに達していない。 訂正発明1は,公知の薄膜磁気ヘッド用基板材料を,その適用が想定されている周知の加工手段を適用して,製造される薄膜磁気ヘッド用基板を開示するものにすぎず,引用発明においても同一の材料が開示されているものであるから,従前の技術と比して顕著な作用効果を奏するものではない。 なお,訂正発明1の作用効果は,表面品位の向上のみにあるものではなく,耐チッピング性,加工速度にも優れている点にあるはずのものである。 (2) 刊行物2中には,耐チッピング性,鏡面加工性,緻密性に優れた薄膜磁気ヘッド用セラミックス基板の材料として最適である旨記載されているから,甲第1号証等の周知技術を適用した場合の作用効果である,イオンミリング等を行った場合の加工速度を大きくし,加工後の表面品位を大幅に改善することは,当業者において容易に想定可能な範囲内のものであり,当業者であれば当然に上記周知技術を適用する動機付けがあるといえる。 4取消事由4(訂正発明2の容易想到性の判断の誤り)に対し訂正明細書中では,粒界相の含有率が1.0重量%を超える試料No.20,21に比して,上記含有率が1.0重量%以下の試料No.22,23の表面品位が向上していることは記載されているが,粒界相の含有率が0重量%である試料No.14,15,16,17と上記試料No.22,23の表面品位は同等であって,訂正発明2に特有の顕著な作用効果は存しない。 したがって,訂正発明2は訂正発明1に粒界相の要件が加えられたものであるが,やはり進歩性がないというべきである。 第5当裁判所の判断1取消事由1(引用発明と訂正発明1との一致点及び相違点の認定の誤り)について(1) 訂正発明1ア訂正発明1は,磁気ヘッド用基板に関する発明であり,その特許請求の範囲は前記のとおりであるところ,証拠(甲11,18)によれば,訂正明細書の発明の詳細な説明欄に次のとおりの記載があることが認められる。 (ア ) 産業上の利用分野「本発明は,イオンミリング法または反応性イオンエッチング法(ReactiveIonEtching法=RIE法)などのイオンの照射によって磁気記録面と対向する面の一部にイオンの照射により加工された加工部を有する磁気ヘッド用基板に関するもので,特に,Al2O3-TiC系焼結体からなる磁気ヘッド用基板に関する。」(段落【0001】)(イ ) 発明が解決しようとする問題点「しかしながら,従来のAl2O3-TiC系焼結体は,結晶粒径が比較的大きく,全体の平均粒径で1.5〜3μ m程度であるために,加工速度(エッチング速度,またはミリング速度)が遅く,また,Al2O3とTiCとでは加工速度が異なるために加工後の表面品位も満足できるものは得られていないのが現状である。」(段落【0006】)「従って,本発明の目的は,イオンミリングまたはRIE加工等により超精密加工が施されたTPCまたはMRスライダーなどに好適な表面品位に優れる磁気ヘッド用基板を提供することを目的とするものである。」(段落【0008】)(ウ ) 発明を解決するための手段「本発明者らは上記問題点に対して検討を重ねた結果,Al2O3とTiCの焼結体中における結晶粒径をTiCよりAl2O3の粒径が相対的に大きくなるように組織を制御し,さらに全体としての結晶粒径を小さく制御することにより,イオンミリングまたはRIE加工した場合の加工速度が大きく,また加工後の表面品位を従来の焼結体に比較して大幅に改善できることを知見し,本発明に至った。」 (段落【0009】)(エ ) 発明の効果「本発明によれば,磁気ヘッド用基板を構成するAl2O3-TiC系焼結体におけるAl2O3結晶粒をTiC結晶粒より大きく設定するとともに,該基板の磁気記録面と対向する鏡面加工された面の一部にイオンの照射によりエッチング処理加工された加工部を有し,さらに,結晶粒全体の平均結晶粒径が1μm以下,前記TiC結晶粒の平均結晶粒径が0.9μm以下であることから,イオンミリング加工やRIE加工などのイオンの照射によるエッチング処理加工において表面品位が優れ,また,加工速度を高めることができる。これにより,薄膜磁気ヘッドなどのスライダーにおける浮上面の超精密加工を優れた精度で行うことができ,磁気ヘッドの信頼性を高めることができる。」(段落【0039】)イ前記アの記載及びその他の訂正明細書の記載によれば,磁気記録装置の構成部品であって,磁気記録媒体からの磁気記録の読み書きを行う磁気ヘッド(この中には,磁気ヘッドを磁気記録媒体の上方で摺動させる構成部品であるスライダー・サスペンションの先端に取り付けられて読み書き動作を行うものがある。)のうち,所定の基板の表面にスパッタリングなどの薄膜を形成する手法で電磁変換回路(磁気ヘッド回路)を形成する薄膜磁気ヘッドでは,従来,磁気ヘッド基板表面の加工が機械加工で行われていたが,磁気記録の高密度化を達成するために磁気記録面からの磁気ヘッドの浮上量を小さくするべく,スライダー浮上面により高い寸法精度の加工を施すため,アルゴン(Ar)イオン等を照射して加工を行うイオンミリング法等が検討されるに至っていること,従来から耐摩耗性等に優れるとの理由で磁気ヘッド用基板の素材として多用されてきた,Al2O3(アルミナ,酸化アルミニウム)に対してTiC(炭化チタン)を含有するAl2O3-TiC系(アルミナ-炭化チタン系)焼結体は,結晶粒径が比較的大きいため加工速度が遅く,また,Al2O3とTiCとで加工速度が異なるために加工後の表面品位が不十分であるという問題点があったこと,訂正発明1の意義は,上記各問題点を解決するため,Al2O3の結晶粒径がTiCの結晶粒径よりも相対的に大きくなるよう(前者の結晶粒径が後者の結晶粒径よりも5〜50%大きい。),また全体としての結晶粒径が小さくなるよう(より具体的には平均1μm以下。なお,TiCの平均結晶粒径は0.9μm以下。),結晶組織を制御することにより,イオンミリング等した場合の加工速度が大きく,加工後の表面品位が良好である磁気ヘッド用基板を実現した点にあることがそれぞれ認められる。 もっとも,訂正発明1においては,薄膜磁気ヘッドのスライダー浮上面の精密加工である,イオン照射によるエッチング(食刻)であるイオンミリングの加工をする前に,スライダー浮上面を鏡面加工するが(訂正発明1の特許請求の範囲,発明の詳細な説明の段落【0023】等),どの程度まで加工するか,どの程度の表面品位等を充たせば鏡面になるかについて,訂正明細書からは明らかでない。 (2) 引用発明ア刊行物2(甲2)によれば,引用発明は,薄膜磁気ヘッドに用いられる「セラミックス材料及びその製造方法」に関する発明であるところ,従来薄膜磁気ヘッド用基板材料として用いられてきたAl2O3-TiC系セラミックス焼結体ではスライシング(条切断)の際にチッピング(欠け)が発生しやすくなり,鏡面加工を施した場合に脱粒が生じたり,さらに磁気ヘッド作成のための精密加工を施した場合に歩留まりが低下したりするという問題点があったので,引用発明では,スライシングの際にチッピングを生じにくくする耐チッピング性,鏡面加工に十分耐えられるようにする鏡面加工性,スライダー浮上面の緻密性を十分保持できる緻密性のいずれにも優れ,薄膜磁気ヘッド用セラミックス基板として好適なセラミックス材料を提供するべく,Al2O3及びTiCの双方の平均結晶粒径を1.0μm以下とし,Al2O3とTiCとの構成割合を一定範囲のものに限定する等したことが認められる。 ここで,引用発明の請求項1は「焼結体の切断面における面積割合で,1.0μm以下の平均結晶粒径を有するAl2O3粒子が70〜90%,平均結晶粒径1.0μm以下のTiC粒子が10〜30%の割合で分散していることを特徴とするセラミックス材料。」というもので,「焼結体の切断面における」との構成により,上記切断面に関する要素の限定がされていることが明らかである。また,引用発明に先行する薄膜磁気ヘッド基板に関する技術に関しては,段落【0003】において,基板材料に要求される特性として,平面平滑性,緻密性や精密加工性,耐チッピング性等が挙げられており,また,段落【0006】及び【0009】ないし【0015】において,Al2O3粒子とTiC粒子の粒界強度が低下しスライシングの際にチッピングが発生しやすくなるという問題や,鏡面加工時にダイヤモンド砥粒との摩擦で脱粒が生じやすくなる等の問題があったので,耐チッピング性,鏡面加工性,緻密性のいずれにも優れた焼結体(セラミックス)を提供する目的で発明されたのが引用発明であることが示されている。上記の先行技術においても引用発明においても,緻密性,精密加工性,耐チッピング性等は焼結体の同一の面に着目して問題とされる複数の課題ないし性格であって,引用発明はこれらを解決(改善)する趣旨のものであると解するのが刊行物2の素直な読み方であるということができる。 なお,いずれも刊行物2の公開日(平成4年11月11日)より以前に発行された日本工業技術センター発行「磁気記録技術」241〜261頁(昭和58年6月,甲44)及び甲第5号証によれば,遅くとも引用発明の公開当時,磁気記録媒体に記録された磁気情報を読み取る磁気ヘッドアセンブリの先端に取り付けられる薄膜磁気ヘッドは,薄い板状の素材(セラミックスの焼結体,ウエハ)の平面(表面)に多数の電磁変換回路(トランスデューサー,磁気ヘッド回路)を形成し,上記素材を薄膜磁気ヘッド素子が1列分になるように鉛直(厚さ)方向に切断(条切断,スライシング)し,上記電磁変換回路が形成された面と隣り合う面である切断面にレール等を形成してスライダー浮上面(完成された磁気ヘッドにおいて,磁気記録媒体と対向することになる面)となるよう所要の加工を施した上で,上記1列分の素材を素子1個ずつとなるよう切断するという手順で作製されるのが通常であったことが認められ,上記手順は薄膜磁気ヘッドの作製に携わる当業者の技術常識であったということができる。 また,刊行物2の公開日前に刊行され,刊行物2が従来技術として引用する(段落【0005】)特開昭63-8257号公報(公開日昭和63年1月14日,乙6),特開昭63-8258号公報(公開日昭和63年1月14日,乙7)中にも,開示された各発明に係るセラミック材料の鏡面加工性,切断加工性やCS/S特性(スライダー摺動面の耐摩耗性等)が優れていて,スライダー摺動面の鏡面加工が容易になる旨が記載されており(乙6の6頁左下欄9〜15行,乙7の7頁左下欄1〜7行),上記従来技術に係る薄膜磁気ヘッド基板においては,磁気記録媒体の上方を浮上して動作し,磁気記録媒体と対向する面であるスライダー摺動面ないしスライダー浮上面に鏡面加工やスライダー浮上面の形状加工を施すことが明らかである。 そうすると,遅くとも刊行物2の公開当時,引用発明の磁気ヘッドのスライダーについては,完成後にはスライダー浮上面となる焼結体の切断面につき精密加工性,耐チッピング性,鏡面加工性,緻密性等が志向され,上記切断面に鏡面加工が施されていたということができる。 イ審決は,引用発明の要旨に関して,次のとおり説示する。 「(あ)刊行物2の表1,2に記載のAl2O3-TiC系セラミックス焼結体である実施例1,2,4及び5のAl2O3とTiCの『断面積の占有率』をもとにして,Al2O3とTiCの重量%を求めると以下のようになる。 断面積の占有率の比はAl2O3とTiCの体積の比に等しいから,断面積の占有率に比重を乗じた値の比がAl2O3とTiCの重量の比になるといえる。 Al2O3とTiCの比重は,技術常識に照らし,それぞれ,4.0,4.93であるから(刊行物2の段落【0019】,【0020】には,バイヤー法Al2O3を用いたことや,段落【0019】,【0020】,【0024】には,焼成温度が1500〜1700 ℃である旨の記載があることから,甲第2号証のAl2O3は α アルミナといえる。これをもとに,甲第3号証1の『酸化アルミニウムの変態』と題する表及び甲第3号証2の炭化チタンの項目の記載(699頁右欄24行)を参照しても,上記2成分の比重の値は導出される。),以下の計算により,上記実施例1と4では,Al2O3の重量%=70 × 4.0/(70 ×4.0+30 × 4.93)=65.4重量%TiCの重量%=30× 4.93/(70 ×4.0+30 × 4.93)=34.6重量%上記実施例2と5では,Al2O3の重量%=80 × 4.0/(80 ×4.0+20 × 4.93)=76.4重量%TiCの重量%=20× 4.93/(80 ×4.0+20 × 4.93)=23.6重量%となる。 (い)刊行物2の表1,2に記載の実施例1,2,4及び5におけるAl2O3とTiCの結晶粒径は,共に平均結晶粒径であることは,甲第2号証の段落【0021】の記載から明らかであって,Al2O3の結晶粒径値をTiCの結晶粒径値で除した値を求めてみると,上記実施例1と2では,Al2O3の結晶粒径値/TiCの結晶粒径値=1.0/0.7=1.43上記実施例4と5では,Al2O3の結晶粒径値/TiCの結晶粒径値=0.8/0.6=1.33となるから,Al2O3の平均結晶粒径はTiCの平均結晶粒径より,43%(実施例1及び2)または33%(実施例4及び5)大きいといえる。 (う)刊行物2の表1,2の記載をもとに,実施例1,2,4及び5のAl2O3-TiC系焼結体の結晶粒全体の平均結晶粒径を計算すると,実施例1:1× (70/100)+0.7 × (30/100)=0.91 μ m実施例2:1× (80/100)+0.7 × (20/100)=0.94 μ m実施例4:0.8× (70/100)+0.6 × (30/100)=0.74 μm実施例5:0.8× (80/100)+0.6 × (20/100)=0.76 μmである。 また,TiC結晶粒の平均結晶粒径は,実施例1及び2では0.7μm,実施例4及び5では0.6μ mである。」ウ審決が説示するとおり,刊行物2の実施例に記載されたAl2O3とTiCの断面積占有率をもとに,刊行物2の他の記載等やAl2O3及びTiCの各比重に係る技術常識を参酌してAl2O3及びTiCの各重量%を算出し,また刊行物2の実施例に係る記載をもとにAl2O3の平均結晶粒径,TiCの平均結晶粒径及び結晶粒全体の平均結晶粒径を算出すること等ができるのであって,前記アの結論にかんがみると,引用発明の要旨は審決が認定したように,前記第2の3のとおりであるということができる。 したがって,上記と同旨の引用発明の要旨に係る審決の認定に誤りがあるとはいえない。 (3) 訂正発明1と引用発明の一致点及び相違点引用発明の要旨は前記(2) のとおりであるところ,訂正発明1の特許請求の範囲と引用発明の内容を対比すると,訂正発明1と引用発明の一致点及び相違点は,審決が認定したように,前記第2の3のとおりであると認められる。したがって,訂正発明1と引用発明の一致点及び相違点に係る審決の認定に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由1は理由がない。 (4) 原告の主張に対する補足的判断ア原告は,引用発明における鏡面加工は,焼結体(Al2O3-TiC系焼結体)から切り出された円板である「薄膜磁気ヘッド用セラミックス基板」の表面に対して施すもので,したがって薄膜磁気ヘッド・スライダーの回路を形成したウエハに施すものであるから,審決の相違点の認定は誤りである等と主張する。 しかしながら,前記のとおり,引用発明においても,完成後にはスライダー浮上面となる焼結体の切断面について精密加工性,耐チッピング性,鏡面加工性,緻密性等が志向され,上記切断面に鏡面加工を施すものであるということができるから,原告の上記主張を採用することはできない。 イなお,刊行物2中には試料の研磨面の表面粗さに関し,「(4)研磨面の表面粗さ(鏡面加工性):焼結体からφ76.2×4mmtの円板を切り出し,#400のカップ砥石を用いて平面研削し,次いで0.2〜3.0μmのダイヤモンド砥粒によって,砥粒別に一定時間,3段階の鏡面加工を施し,研磨面の表面粗さを非接触式の表面粗さ測定器を用いて測定した。」(段落【0021】 )との記載があるが,磁気ヘッド基板の研磨面(表面)の平滑性を評価するのに,同一の材料を使用した円板の表面を同様の方法で研磨してその平滑性を評価しても,研磨面の平滑性の評価として欠けるところはない。そして,前記のとおり,引用発明の請求項1には「焼結体の切断面における」との記載があること,刊行物2の「課題を解決するための手段」の項目中でも焼結体の切断面におけるAl2O3の占有率が問題とされていること(段落【0010】,【0013】)に加え,遅くとも刊行物2の公開日当時,薄膜磁気ヘッドは,薄い板状の素材の平面(表面)に多数の磁気回路を形成し,上記素材を薄膜磁気ヘッド素子が1列分になるように鉛直方向に切断し,切断面にレール等を形成してスライダー浮上面となるよう所要の加工を施した上で,上記1列分の素材を素子1個ずつとなるよう切断するという手順で作製されることが当業者の技術常識であったことにかんがみれば,引用発明においてもこのような手順に従って薄膜磁気ヘッドを作成することは予定されていたということができる。そうすると,上記引用部分の試験が焼結体の円板(ウエハ)の平面(表面)を用いてされたことをもって,引用発明において,鏡面加工は焼結体の平面すなわち磁気回路が設けられた面のみに対してされ,加工後にスライダー浮上面となる焼結体の切断面に対してされるものではないということはできない。 原告主張のように,刊行物2中に「薄膜磁気ヘッド用基板材料としてはAl2O3-TiC系セラミックス焼結体が主に用いられており(特開昭55-163665号公報)」との記載があり(段落【0003】),特開昭55-163665号公報(甲32)中に,薄膜磁気ヘッド用基板の材料となるAl2O3-TiC系セラミックス焼結体の製造方法が開示され,また焼結体の完成をもって「ヘッド送り要素の製造に使用されるウエハとなる準備ができたことになる。」(3頁左上欄1〜3行)と評する記載がある。しかし,前者の記載は薄膜磁気ヘッド用基板の材料に主としてAl2O3-TiC系セラミックス焼結体が用いられることを示すにすぎず,焼結体のどの面,すなわちウエハ表面又は切断面のいずれかを鏡面加工するかまで限定する趣旨のものではないし,特開昭55-163665号公報もAl2O3-TiC系セラミックス焼結体の製造方法を開示するにすぎない上,その3頁左上欄1ないし3行の記載も,焼結体の完成後に電磁変換回路の形成等の工程が予定されている旨の当然の事項を示すものにすぎないのであって,焼結体のどの面を鏡面加工するかまで限定する趣旨のものではない。 2取消事由2(周知技術の内容の認定の誤り)について(1) 甲第1号証に関する主張についてア甲第1号証の文献は,電子回路に用いられるセラミック基板に関する書籍のうち薄膜磁気ヘッド基板に関する部分であるところ,?薄膜磁気ヘッドは,極めて小さな空隙を介して磁気記録媒体と高速非接触の状態を維持するものなので,一般の機械部品に比して,極端に微視的な観点からの性能が要求され(高密度の磁気記録を行う場合にはさらに要求される性能が高くなる。),また薄膜磁気ヘッド基板にも組織の緻密性,精密加工性,高精度イオンミリング特性,高強度,高破壊靱性,高ヤング率,耐摩耗性等が要求されること,?上記各要求を満たす基板材料としてAl2O3系(アルミナ系)の材料等が選択され得るが,これらの基板材料はダイヤモンドポリッシングの後,さらにメカノケミカルポリッシングを施して5nm程度の表面粗さに仕上げられ,フォトリソグラフィ工程を経て磁気ヘッドが作成されること,?薄膜磁気ヘッドのスライダー浮上面を形成するために,アルゴンイオン(Ar+)を用いたドライエッチングによって,僅かな凹面に加工することがあることが認められる。 上記のとおり,磁気記録媒体と対向する薄膜磁気ヘッドのスライダー浮上面に高い平滑性が要求されることは明らかである上,一般に写真感光技術,食刻技術等を用いてするフォトリソグラフィ工程にはドライエッチングであるイオンミリングが含まれるし,甲第1号証のイオンミリング特性においては,電磁変換回路作成のためのイオンミリング(金属膜,酸化物膜の除去加工等)とスライダー浮上面形成のためのイオンミリングが区別されていない。 したがって,甲第1号証においては,薄膜磁気ヘッドのスライダー浮上面についても,イオンミリングによる負圧部等の形成に先立ち,ダイヤモンドポリッシング,メカノケミカルポリッシングを施して,表面粗さを5nmとする構成が開示されているということができる。 イ原告は,甲第1号証には,ウエハ表面に形成された薄膜をパターニングすることしか記載されておらず,ウエハの切断後にフォトリソグラフィ工程を実施することは記載されていない等と主張するが,甲第1号証中の段落7.2(226頁1〜14行)等の記載の体裁にかんがみれば,当業者の技術常識である薄膜磁気ヘッド作成の手順を踏んで,薄膜磁気ヘッドを作成することが予定されているものと容易に推認できるのであって,焼結体を条切断した後に切断面にイオンエッチングを施すことは明らかであるし,甲第1号証のイオンミリング特性においては,電磁変換回路作成のためのイオンミリング(金属膜,酸化物膜の除去加工等)とスライダー浮上面形成のためのイオンミリングが区別されていない。そうすると,原告の上記主張を採用することはできない。 なお,甲第1号証中に,米国IBM社が開発した磁気ディスク装置に関して,1979年(昭和53年)に発表された3370型以降の磁気ディスク装置では,すべてIC製造技術を用いた薄膜磁気ヘッドが採用されている旨の記載(223頁下から2行〜224頁上から2行)があるとしても,薄膜磁気ヘッドの作成にIC製造技術の1つである薄膜形成技術,すなわちフォトエッチング技術等が応用されている旨を指摘するものにとどまり,薄膜磁気ヘッドのどの面を研磨するかまで限定する趣旨のものではないから,上記記載をもって,鏡面加工が焼結体の平面すなわち電磁変換回路が設けられた面のみに対してされるということはできない。 ウ審決は,上記と同旨の認定をするものであるから,甲第1号証が開示する技術の内容に係る審決の認定に誤りがあるとはいえない。 (2) 甲第5号証に関する主張についてア(ア ) 甲第5号証では,薄膜磁気ヘッドの作成方法として,基板上に複数の電磁変換部(電磁変換回路)を形成した後に,基板切断,ラッピングを行い,さらにイオンエッチング(イオンミリング)加工を行う工程等が示されている。 ここで,第5号証中では上記「ラッピング」につき定義がされていないものの,そこには,薄膜磁気ヘッドのうち,スライダー浮上面の両脇部にレールを設け,中央部に段差面を有する凹部を設けた形状の負圧利用形スライダー(負圧スライダー)においては,イオンエッチングによって形成するスライダーの中央の凹み部分の深さが4μm(4000nm)程度,薄膜磁気ヘッドの磁気記録媒体からの浮上量が0.2μm強(200nm強)となるときに,薄膜磁気ヘッドに加わる負圧力(磁気記録媒体表面に向かって引き付けられる圧力)が最大になる旨の記載があるから(465頁左欄7〜12行,図13),上記ラッピングがスライダー浮上面の相当程度の平滑度を実現し得る程度の精度をもってされることは明らかである。 (イ ) ところで,甲第8,9,24ないし26号証によれば,辞書等には,鏡面加工ないしラップ仕上げにつき,材料の脆性を利用し,硬質工具を用いる研磨加工をラッピングに,軟質砥粒,軟質ポリシャ等を用いる研磨加工をポリッシングにそれぞれ分類する例や(甲25),上記の観点の分類に加え,最終仕上げである鏡面仕上げはポリシングで行われるとする例(甲26)もあるが,「ラッピング」,「ラップ仕上(げ)」を鏡面加工と呼ぶこともあることが認められる。 そうすると,甲第5号証のラッピングで研磨された対象物が鏡面であるか否かは,加工の精度によって決されるべきもので,ラッピングであるからといって必ずしも鏡面加工ではない等ということはできない。 そして,前記(ア )のとおり,甲第5号証における基板切断後のラッピングは,スライダー浮上面の相当程度の平滑度を実現し得る程度の精度をもってされるものであるところ,特に負圧利用形スライダーにおいては,イオンエッチングによって形成するスライダーの中央の凹み部分の深さが4μm(4000nm)程度,スライダーの磁気記録媒体からの浮上量が0.2μm(200nm)強にすぎないこと等にかんがみれば,少なくとも負圧利用型スライダーの作成に関しては,甲第5号証中の「ラッピング」を「鏡面加工」と解することも可能である。 イ審決は,上記と同旨の認定をするものであるから,甲第5号証が開示する技術の内容に係る審決の認定に誤りがあるとはいえない。 ウ原告は,本件出願当時の技術常識に照らした場合,ラッピングでは鏡面を形成することはできないから,甲第5号証には,スライダー浮上面を鏡面加工した後に,この面にイオンエッチングをする構成は開示されていない等と主張するが,前記のとおり,ラッピングを鏡面加工と呼ぶ場合も存するから,原告の上記主張を採用することはできない。 また,原告は,甲第5号証には,薄膜磁気ヘッド用基板の材料として単一材料であるNi-Znフェライト材料が採用されており,これは訂正発明1のAl2O3-TiC系材料のような複合材料とは異質なもので,イオンミリング加工によるエッチング速度が異なる等の不都合は生じないから,甲第5号証には複合材料を採用した場合の不都合を回避するため,スライダー浮上面を鏡面加工した後にイオンミリング加工を施す契機が記載されていない等と主張する。 確かに,甲第5号証において薄膜磁気ヘッド用基板の素材(材料)に採用されているのは,原告のいう単一材料であるNi-Znフェライト材料(ニッケル-亜鉛フェライト材料)であるが,本件出願当時,訂正発明1の薄膜磁気ヘッド用基板の素材であるAl2O3-TiC系焼結体は薄膜磁気ヘッド用基板の素材として広く使用されていたものであって(訂正明細書の段落【0004】),当業者においてAl2O3-TiC系焼結体のイオンミリング加工が一般的でなかった等の事情を認めるに足りる証拠もないから,上記当時にAl2O3-TiC系焼結体にイオンミリング加工を施すことが著しく困難であったということはできない。また,甲第5号証において採用されている素材が単一材料であるNi-Znフェライト材料であり,訂正発明1で採用されている素材が複合材料であるAl2O3-TiC系材料であったとしても,前者に係る周知技術ないし技術常識を後者の材料に関して適用(応用)する場合には,当業者において,対象物の性質の相違に基づき,砥粒径や圧力等を適宜調整すること等が当然予定されているものであって,複合材料のエッチング速度の齟齬が組合せの阻害要因となるかどうかは別として,上記素材の相違をもって甲第5号証が周知技術認定の基礎とならないとまではいうことができない。 (3) 甲第6号証に関する主張についてア甲第6号証では,薄膜磁気ヘッドの作成方法として,基板上に複数のトランスジューサ(電磁変換回路)を形成した後に,基板切断,ラッピングを行い,さらにエッチングプロセス(イオンミリング加工が含まれる。)を行う工程等が示されている。 甲第6号証中でも,甲第5号証と同様に上記「ラッピング」につき定義がされていないが,その特許請求の範囲では,空気支持面(ABS,スライダー浮上面)を覆う保護被膜(2層)の一部をなすシリコン製の接着層の厚さが約10ないし50オングストローム(1.0〜5.0nm,請求項4),上記保護被膜の一部をなすアモルファス水素添加炭素製の保護被膜の厚さが約250オングストローム(25.0nm)以下とされていること(請求項5)にかんがみると,上記「ラッピング」がスライダー浮上面の相当程度の平滑度を実現し得る程度の精度をもってされることは明らかである。 そして,前記のとおりの「ラッピング」等の用語の一般的な意義にも照らせば,甲第6号証にいう「ラッピング」を鏡面加工と呼んでも誤りではないというべきである。 イ審決は,上記と同旨の認定をするものであるから,甲第6号証が開示する技術の内容に係る審決の認定に誤りがあるとはいえない。 (4) 甲第7号証に関する主張についてア甲第7号証に記載された発明は,磁気記録装置に使用される磁気ヘッドに用いられる,磁気記録媒体との間の負圧を利用したスライダー(負圧スライダー)に関するものであるところ,甲第7号証は,薄膜磁気ヘッドの作成方法として,スライダー浮上面に鏡面加工を施した後にイオンエッチング(イオンミリング)加工を行う工程等を示しているものである。 審決は,上記と同旨の認定をするものであるから,甲第7号証が開示する技術の内容に係る審決の認定に誤りがあるとはいえない。 イ原告は,甲第7号証中に記載された発明で加工を施す対象は,単一の種類の化合物粒子から成る焼結体であって,訂正発明1の焼結体のような加工速度の異なる2種類の粒子から成る焼結体ではない等と主張する。 しかしながら,前記(2) と同様に,甲第7号証において採用されている素材が単一材料であるチタン酸カルシウム等であり,訂正発明1で採用されている素材が複合材料であるAl2O3-TiC系焼結体であったとしても,前者に係る周知技術ないし技術常識を後者の材料に関して適用(応用)する場合には,当業者において,対象物の性質の相違に基づき,砥粒径や圧力等を適宜調整すること等が当然予定されているものであり,複合材料のエッチング速度の齟齬が組合せの阻害要因となるかどうかは別として,上記素材の相違をもって甲第7号証が周知技術認定の基礎とならないとまではいうことができない。 また,原告は,甲第7号証には,鏡面加工した後にイオンエッチング加工をする利点が記載されておらず,むしろイオンエッチング加工をする難点が記載されている等と主張する。しかしながら,甲第7号証では,従前の技術に従うと「負圧発生部108のエッチング加工に時間が非常にかかり,生産性が悪い。」とし,その解決方法として負圧発生部を機械加工する方法を提供しているものであるが,イオンミリング加工に要する時間は加工すべき凹部の深さや形状によって異なり得ることが容易に推認できるし,一定程度の加工時間を当業者において受容することもあり得るものである。そうすると,甲第7号証の先行例の負圧スライダーにおいてイオンミリング加工に難があるとしても,引用発明のスライダー浮上面のイオンミリング加工が困難であるとまでは直ちにいうことができない。 周知技術ないし技術常識を適用(応用)する場合には,当業者において適宜工夫することが当然予定されているものであって,組合せの阻害要因となるかどうかは別として,上記の難点をもって甲第7号証が周知技術認定の基礎とならないとまではいうことができない。 (5) まとめ結局,甲第1,5,6,7号証に記載されている技術の内容に係る審決の認定には誤りがなく,上記各書証によって,遅くとも本件出願当時,薄膜磁気ヘッドの作成方法として,基板上に複数の電磁変換回路を形成した後に,基板を切断し,切断面たるスライダー浮上面に鏡面加工を行い,その後スライダー浮上面にイオンミリング加工を施して負圧発生部等を形成することが,当業者において周知の技術(技術常識)となっていたものと認めることができる。 なお,乙第1号証(発行日平成4年11月30日)中には,「負圧利用形のスライダはまだ実用化されていないものの,次世代の超微小浮上量を実現するために,開発検討がすすめられている代表的なものである。」との記載(70頁17,18行)があり,平成4年11月ころ当時には磁気記録媒体の表面に対する負圧を利用した薄膜磁気ヘッドスライダーが実用化されていなかったかのようにもみうる。しかし,乙第1号証中の他の記載からみても,既に平成4年11月ころ当時に,当業者にとって負圧利用形スライダー(負圧スライダー)が磁気ディスクの高密度化を実現する上で,有力な候補となっており,開発が進んでいたことが明らかである。そして,「平成13年度特許出願技術動向調査分析報告書高記録密度ハードディスク装置」(特許庁編,平成14年3月,甲42)及び小野京右著「日本の磁気記録のトライボロジー50年の歩み」(トライボロジスト50巻12号,2005年)870〜876頁(甲4)によれば,遅くとも本件出願当時(平成6年3月3日)ころには,既に負圧スライダーが実用化されていたとみる余地もあるし,負圧スライダーのスライダー浮上面の形成が広くイオンミリング(エッチング)によってされていたことを推認することができる。また,特開平6-52646号公報(甲58)中では,先行技術の説明に係る「従来の技術」欄で,コの字型(より正確には「エ」の字型)のスライダー浮上面を有するスライダーを「従来の負圧を利用する」「浮動ヘッドスライダ」と紹介しており(段落【0003】),平成4年7月30日(出願日)当時に既に負圧スライダーが当業者の間に広く知れわたっていたことを容易に推認することができるものである。そうすると,乙第1号証中の前記記載は,本件出願当時における周知技術(技術常識)に係る前記結論を何ら左右するものではない。 したがって,甲第1,3,5ないし9号証(甲3,8,9号証は前記のとおり用語を定義するものである。)に基づいてする審決の周知技術の認定に誤りはなく,原告が主張する取消事由2は理由がない。 3取消事由3(訂正発明1の顕著な作用効果の看過等)について(1) 前記1,2のとおり,訂正発明1と引用発明の一致点及び相違点,甲第1号証等に記載された周知技術(技術常識)の内容に係る審決の認定に誤りはない。 (2) ア審決は,相違点aにつき,「訂正明細書段落【0039】には,『本発明によれば,・・・・・・できる。これにより,薄膜磁気ヘッドなどのスライダーにおける浮上面の超精密加工を優れた精度で行うことができ,磁気ヘッドの信頼性を高めることができる。』との記載がなされているから,訂正発明1の『磁気ヘッド用基板』は『薄膜磁気ヘッド用基板』とみることができる。 そうすると,この相違点aは単に表現上のものであって,実質的なものではない。 仮に,単に表現上のものではなく,実質的なものであるとしても,薄膜磁気ヘッド基板は磁気ヘッド基板の一つであるから,引用発明の『薄膜磁気ヘッド用基板』を『磁気ヘッド用基板』とすることは当業者であれば困難なくなし得たことである。」と説示する。 訂正明細書の段落【0039】中には,審決が指摘するとおりの記載があるから,訂正発明1にいう「磁気ヘッド」には薄膜形成技術を利用して電磁変換回路を形成する磁気ヘッドすなわち薄膜磁気ヘッドが含まれるものということができる。したがって,訂正発明1と引用発明との前記相違点aは,両発明の実質的な相違点ではなく,これと同旨の審決の判断に誤りはない。 イまた,審決は,相違点bにつき,「(た)そうすると,甲第2号証発明のAl2O3-TiC系焼結体は,薄膜磁気ヘッド用基板とするに当たり,上記(さ)〜(せ)(判決注:甲第1,5,6,7号証及び刊行物2の記載による分析)から明らかなように,『イオンミリング』加工を鏡面加工したスライダ浮上面に対してなすものといえ,この浮上面への加工は上記(そ)(判決注:訂正明細書の記載による分析)で述べたとおり,上記相違点bに係る訂正発明1の発明特定事項に含まれるから,引用発明において,基板の磁気記録面と対向する鏡面加工された面の一部にイオン照射により加工された加工部を有するようにすることは,当業者であれば困難なくなしえたものである。」と判断する。 そこで,審決の上記判断につき検討するに,前記のとおり,甲第1,3,5ないし9号証から,遅くとも本件出願当時,薄膜磁気ヘッドの作成方法として,基板上に複数の電磁変換回路を形成した後に,基板を切断し,切断面たるスライダー浮上面に鏡面加工を行い,その後スライダー浮上面にイオンミリング加工を施して負圧発生部等を形成することが,当業者において周知の技術(技術常識)となっていたものと認めることができるところ,甲第3,8,9号証は辞典類の一般文献であるし,甲第1,5ないし7号証はいずれも磁気記録装置の磁気ヘッドに関するもので,引用発明や訂正発明1と技術分野が同一である。 また,甲第1,5ないし7号証から認定できる周知技術と引用発明や訂正発明1とでは,磁気記録媒体の高密度化(大容量化)を実現するための磁気ヘッドの安定動作,さらには上記安定動作を実現するために磁気ヘッドを構成するスライダー浮上面の形状の適正化,表面の平滑化を実現するという課題が共通し,スライダー浮上面の形状の適正化,表面の平滑化を実現し,磁気ヘッドの安定動作を実現するという作用効果が共通する。 そして,甲第1,5ないし7号証から認定できる周知技術と引用発明との間の技術分野及び作用効果の共通性の高さにもかんがみれば,上記周知技術を引用発明に適用することを阻害する格別の事情が存しなければ,上記周知技術を引用発明に適用する動機付けに欠けるところはないというべきである。 なお,刊行物2中には「本発明のセラミックス材料は,薄膜磁気ヘッド用セラミックス基板材料として最適であるが,その他,電磁気材料用の非磁性セラミック基板として,さらには切削工具などの構造材としても使用できる。」との記載(段落【0029】)があるが,刊行物2中の各記載の体裁にかんがみれば,刊行物2が薄膜磁気ヘッド基板を念頭に置いていることは明らかであるし,磁気ヘッドスライダーの加工方法にはイオンミリングのほかに機械加工等があるとしても,上記の動機付けの障害となるものではない。 また,前記2のとおり,とりわけ磁気ヘッドがごく小さい負圧スライダーにおいては,磁気記録媒体からの磁気ヘッドの浮上量の安定,磁気ヘッドの浮上動作の安定のために,スライダー浮上面の高精度の平滑性が求められるのは当然であって,甲1,5,6号証にはそれぞれ上記平滑性に関連する記載があるし,刊行物2もスライダー浮上面の高精度の平滑性を当然の前提としているものと推認できる。 ウところで,この点,原告は,訂正発明1の素材はエッチング速度が異なる複数の素材から成る複合材料の焼結体であるところ,エッチング速度の違いのためにエッチング加工後の表面品位が悪くなるという事実は,本件出願当時に知られておらず,上記事実を考慮して複合焼結体の各粒子のイオンエッチング速度を整合させ,加工後の表面品位を良好にすることは,本件出願当時,当業者にとって論理付けることが困難であった等と主張する。 そして,審決は,各訂正発明の作用効果につき,次のとおり説示する。 「被請求人が提出した口頭審理陳述要領書には,『以下,本件明細書の表1〜表3を結合したものを示す。この表(以下,『総合表』という。)から明らかなように,『耐チッピング性』,『加工速度』及び『表面品位』の3つの評価項目のうち,『△』が2つ以上又は『×』が1つ以上ある試料は,総合評価を『×』にしている。このように本件発明の作用効果は一義的に確認できないわけではない。』(11頁3〜7行)と記載され,同11頁に記載された総合表を見ると,実施例に相当する試料(試料No.に『*』印のついていないもの)の総合評価は『○』印となっており,上記記載が裏付けられている(なお,上述の本件訂正により試料No.9に『*』が付与されたことについては後述する。)。 ・・・(ひ)次に,加工速度と表面品位について,総合表の『△』印,『 ○』印と,訂正明細書の表1〜3の数値を比較すると,総合表において,加工速度については,135Å /min以下の試料について『 △ 』印が,その他のものについては『 ○ 』印が付与され,表面品位については,0.3μ m以下の試料に『 ○ 』印が,その他のものについては『△ 』印が付与されているとみることができる。 そこで,この加工速度の135Å /min,表面品位の0.3 μ mという値の持つ技術的意義についてみてみることにする。 加工速度は生産性の点からみて大きい方が,また,表面品位は磁気ヘッド用という用途からみて滑らかな方が,それぞれ,望ましいことは技術常識に照らして明らかであるが,これら数値自体にどのような技術的意義があるのかは訂正明細書には何等記載されていない。 表1〜3及び総合表から,加工速度の『△ 』印の最大値が135 Å /min,『 ○ 』印の最小値が138Å /min,表面品位の『 △ 』印の最小値が0.35 μ m,『 ○』印の最大値が0.30μmであり,加工速度,表面品位とも『 ○ 』印と『 △ 』印のものとの数値差は必ずしも大きいものとはいえない。 ところで,例えば,加工速度は,イオンビームの入射角度や加速電圧によって変化するものであり(要すれば,甲第1号証233頁,図7.13を参照),上記加工速度の差はこれら入射角度や加速電圧の調整によって十分に補えるものといえる。 そうであれば,上記加工速度の135Å /min,表面品位の0.3 μ mという値に技術的意義を見いだすことはできない。 (ふ)そうすると,耐チップ性,加工速度,表面品位をみたときの作用・効果に関し,『× 』印が一つある試料,『 △ 』印が二つある試料,これ以外の試料との間に格別の差があるとみることができず,訂正発明の奏する作用・効果は顕著なものとはいえない。 (へ)そして,上述の本件訂正により『試料No.9』に『*』印がつくことになった。試料No.9の加工速度は130Å /minであって『 △ 』印が付与されるべきものであり,耐チッピング性は『○』印であるところ,この試料No.9が本件訂正により訂正発明1及び2以外のものとなったのであるから,表面品位にも『△ 』印が付与されなければ,総合評価に関し実施例と齟齬が生じる。そうであれば,表面品位が0.3μmは『 △ 』印が付与となるから,試料No.17の表面品位にも『△ 』印が付与されることになる。すると,試料No.17は,訂正発明1の特定事項を満足するにもかかわらず,総合評価は『×』印となり,訂正発明1の中には,所定の作用・効果を奏しないものが存在することになる。 また,訂正後の試料No.9の総合評価を『○』印のままとすれば,実施例でないものと実施例であるものが同様の作用・効果を奏することになるから,このことからも訂正発明の奏する作用・効果は格別なものとはいえない。」審決の上記説示についてみるに,確かに,刊行物2にも,甲第1,3,5ないし9号証にも,粒界部分とその余の部分のエッチング速度の差やAl2O3粒子とTiC粒子とのエッチング速度の差を問題視する記載は存しない。 しかしながら,訂正明細書中には「TiCが・・・40重量%を越えると表面品位は向上する」との記載(段落【0011】)があり,結晶粒径等の試験条件を種々変えて加工速度等の実験を行った結果に係る表1中では,表面品位(表面の凹凸の最大値である表面粗さRmax)が0.20〜0.29μm(200〜290nm)のものが発明の範囲内とされており,同様の実験結果に係る表2では,表面品位が0.23〜0.30μm(230〜300nm)のものが発明の範囲内とされているから(なお,TiCの組成割合が40重量%を超える試料No.13は,表面品位が0.23μmであるが,発明の範囲外とされている。段落【0026】,【0028】,【0033】),訂正発明1の発明者において上記程度の表面品位をもって良好な表面品位とみなしていたということができる。そして,訂正発明1のスライダー浮上面のレール部の外側に設けられるステップ部の深さは0.5〜1μm(500〜1000nm。700〜900nmが望ましい。)であることにかんがみると(段落【0017】),薄膜磁気ヘッド基板の製造を行う当業者にとって,上記程度の表面品位が格別高い表面品位の水準であるとまではいい難い。他方,刊行物2中の実施例においては,5.5〜9.5nmの最大表面粗さRmaxの試料が実施例とされているのであって(表1〜3),訂正発明1のスライダー浮上面の方が引用発明のスライダー浮上面よりも表面品位が格別に高いものであるとは到底いい難い。そうすると,薄膜磁気ヘッド基板の製造を行う当業者にとって,訂正発明1の作用効果が格別顕著なものとはいえないというべきである。 そして,上記のとおり刊行物2にはアルミナと炭化チタンの組成比率や各結晶粒径を変えて種々の試験をした結果が示されており(表1〜3等),引用発明の出願当時に,当業者において鏡面加工性,すなわち加工後の表面品位が良好なAl2O3-TiC系焼結体を得るべく最適なアルミナと炭化チタンの組成比率等が探求されたことは明らかである(甲第1号証の図7.12(233頁)でも,同様に,アルミナと炭化チタンの組成比率を変えてラップ面の表面品位を比較した結果が記載されている。)。 そうすると,仮に本件出願当時,原告以外の当業者が粒界部分とその余の部分のエッチング速度の差やAl2O3粒子とTiC粒子とのエッチング速度の差を明確に意識していなかったとしても,種々条件を変えて実験し,加工後の表面品位が良好なものを選択することを通じて,当業者において引用発明に甲第1号証等に記載された周知技術を適用した構成,すなわち訂正発明1の構成に至ることができる程度のものにすぎない。 したがって,当業者がエッチング速度の違いのためにエッチング加工後の表面品位が悪くなるという事実を知らなかったとしても,引用発明に甲第1号証等に記載された周知技術を適用することを想到(論理付け)できないわけではなく,訂正発明1に顕著な作用効果があるかは疑問である。 結局,審決が訂正発明1の顕著な作用効果を看過して訂正発明1の容易想到性を判断した旨の原告の上記主張を採用することはできない。 エ前記のとおり,本件出願当時,引用発明に甲第1,3,5ないし9号証から認定できる前記周知技術を適用することは当業者において容易であったところ,前記周知技術を適用することによって相違点bは解消するから,結局,本件出願当時,当業者において,上記適用によって,訂正発明1の構成に容易に想到することができたということができる。 したがって,審決の相違点bに係る前記イの判断に誤りがあるとはいえず,訂正発明1の容易想到性に係る「よって,上記(相違点a)及び(相違点b)の検討結果より訂正発明1は引用発明及び甲第1,3の1,3の2,5〜9号証に記載された周知技術から,当業者であれば困難なくなしえたものである。」との審決の判断に誤りがあるとはいえない。そうすると,原告が主張する取消事由3は理由がない。 4取消事由4(訂正発明2の容易想到性の判断の誤り)について(1) 訂正発明2は訂正発明1の構成に粒界相の含有量が1.0重量%以下であるとして限定を加えたものであるところ,審決は訂正発明2の容易想到性に関し,?粒界相が存在しない(0重量%)場合については,刊行物2の実施例1,2,4及び5に上記場合が記載されているから,訂正発明2における上記発明特定事項は,訂正発明2と引用発明を対比する上での新たな相違点とはなり得ないし,?粒界相が存在し,1重量%以下の場合については,訂正明細書の表3(段落【0037】,試料No.22,23)や刊行物2の記載(段落【0015】,【0016】)に照らせば,焼結助剤MgOを0.5重量%とすることがある点で本件訂正発明2と引用発明は一致するから,訂正発明2における上記発明特定事項は,訂正発明2と引用発明を対比する上での新たな相違点とはなり得ないのであって,?仮に訂正発明2における上記発明特定事項が訂正発明2と引用発明の相違点になるにしても,当業者であれば焼結助剤の添加量は適宜決定し得るもので,訂正発明2は引用発明及び甲第1,3,5ないし9号証に記載された周知技術に基づいて当業者であれば困難なくなし得たものである旨説示する。 (2) 審決が指摘するとおり,当業者であれば,焼結体の加工速度,表面品位や耐チッピング性を達成する観点をも考慮しながら,焼結助剤の添加量を適宜決定し得るものにすぎず,他方,その決定に格別の困難があることを認めるに足りる証拠は存しない。 そうすると,本件出願当時,少なくとも,当業者において,引用発明及び甲第1,3,5ないし9号証に記載された周知技術に基づいて,容易に訂正発明2の構成に想到することができたものということができる。 したがって,これと同旨の審決の判断に誤りはなく,原告が主張する取消事由4は理由がない。 第6結論以上によれば,原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 塩月秀平 |
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裁判官 | 真辺朋子 |
裁判官 | 田邉実 |