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関連審決 不服2008-13239
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10357審決取消請求事件 判例 特許
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平成21行ケ10310審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10415審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10271審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 医療行為 /  技術的思想 /  守秘義務 /  頒布された刊行物 /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  課題の共通性 /  上位概念 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  援用権(援用) /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10077号 審決取消請求事件
原告 東日本メディコム株式会社
訴訟 代理 人弁 理士 橋本克彦
被告 特許庁長官
指定代理人 信田昌男 岡田孝博 岩崎伸二 田村正明
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/10/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた判決特許庁が不服2008-13239号事件について平成22年1月25日にした審決を取り消す。
第2事案の概要原告は名称を「健康管理システム」とする発明につき特許出願をしたが,特許庁から拒絶査定を受けたので,不服審判請求をしたところ,出願前に頒布された刊行物に記載された発明及び周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものにすぎないとして,請求不成立の審決を受けたので,本訴で審決の取消しを求めた。
争点は,補正後の本願発明が出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたか否かである。
1特許庁における手続の経緯原告は,平成14年4月30日,名称を「健康管理システム」とする発明につき,特許出願をし(特願2002-128216号,公開公報は特開2003-319912号。請求項の数4),平成19年11月30日付けで特許請求の範囲につき補正を行い(第1次補正),平成20年1月31日付けで請求項1の特許請求の範囲につき補正を行ったが(第2次補正),特許庁は平成20年3月19日付けで第2次補正を却下するとともに,拒絶査定をした。
そこで,原告は,平成20年4月30日,上記拒絶査定につき不服審判請求をするとともに,同日付けで請求項1の特許請求の範囲につき補正を行った(第3次補正)。
特許庁は,上記不服審判請求につき不服2008-13239号事件として審理した上で,平成22年1月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決をし,また,同審決において第3次補正を却下し,同審決の謄本は平成22年2月8日,原告に送達された。
2本願発明の要旨本願発明は患者がどこに所在してもかかりつけの医療機関によるチェックを可能にする健康管理システムに関する発明であり,第3次補正後の請求項1の特許請求の範囲は下記のとおりである(以下,第3次補正後の請求項1の発明を「補正発明」という。)。
記【請求項1】「患者が保有する移動体通信機器と,医療機関や薬局に設置された端末機と,患者情報を統括管理する医療サービス機関に設置された患者情報を管理するサーバとからなり,前記移動体通信機器および前記端末機は通信ネットワークを介してそれぞれが有する認証手段を介して前記サーバに接続可能とされていて,前記患者が前記移動体通信機器にインターフェイス接続した測定機器により自分で測定した体温や脈拍数,血圧等のバイタルデータをそのまま前記前記移動体通信機器からサーバ宛送信すると,前記サーバから前記端末機に前記患者のバイタルデータを受信したことが通知され,担当医師が前記端末機を用いて前記認証手段を介して前記サーバに接続し,前記患者のバイタルデータをチェックした後,前記バイタルデータの診断結果を前記サーバ宛送信すると,前記サーバから前記患者の移動体通信機器に通知されるとともに前記患者が保有する移動体通信機器および医療機関や薬局に設置された端末機を用いて前記認証手段を介して前記サーバに蓄積されている患者情報の内で予め定めた各自のアクセス可能な範囲において閲覧可能としたことを特徴とする健康管理システム。」3審決の理由審決の理由の要点は,補正発明は下記刊行物1及び2に記載された発明及び周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠き,特許出願の際独立して特許を受けることができるものに当たらないというものである。
記(1) 刊行物1(特開2002-83066号公報,甲1)発明の名称「健康診断ネットワークシステム」出願人松下電器産業株式会社公開日平成14年3月22日(2) 刊行物2(特開2000-316819号公報,甲2)発明の名称「予診情報管理システム」出願人日本電気システム建設株式会社,株式会社パラマ・テック,株式会社寺田電機製作所公開日平成12年11月21日なお,それぞれ,審決が上記結論を導くに当たって認定した,刊行物1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)の要旨は後記アのとおり,引用発明1と補正発明の一致点は後記イのとおり,引用発明1と補正発明の相違点は後記ウのとおりである。なお,引用発明1の要旨,引用発明1と補正発明の相違点のうち後記相違点4を除く部分,当業者において後記相違点2に係る引用発明の構成を補正発明の構成とすることに周知の事項を援用して容易に想到し得ることについては,原告も争っていない。
ア引用発明1の要旨「患者が保有する通信端末装置6と,医師がその生体情報を閲覧して診断に供するための医師端末2とを,認証手段を介して双方の端末から転送された情報を蓄積するセンターサーバー3を介して通信ネットワークで接続する健康診断ネットワークシステムにおいて,患者宛の医療アドバイス情報を入力設定する医師端末2と,その医療アドバイス情報の提供を受けて機能する上記通信端末装置6とを,双方の端末から転送された情報を蓄積するセンターサーバー3を介して通信ネットワークで接続し,患者は,バイタルセンサ5で生体情報を測定すると通信端末装置6によってセンターサーバー3に伝送し通信端末装置6は,新しい医療アドバイス情報が来たことを知らせるための報知手段を有し,健康診断ネットワークシステムセンターサーバーに蓄積された情報は,予めセンターサーバーに登録された患者,通信端末装置6,医師または医師端末2からのみ閲覧することができるアクセス権利を有する健康診断ネットワークシステム。」イ引用発明1と補正発明との一致点「患者が保有する通信機器と,医療機関や薬局に設置された端末機と,患者情報を統括管理する患者情報を管理するサーバとからなり,前記患者が保有する通信機器および前記端末機は通信ネットワークを介してそれぞれが有する認証手段を介して前記サーバに接続可能とされていて,前記患者が患者が保有する通信機器にインターフェイス接続した測定機器により自分で測定した体温や脈拍数,血圧等のバイタルデータをそのまま前記前記患者が保有する通信機器からサーバ宛送信すると,担当医師が前記端末機を用いて前記認証手段を介して前記サーバに接続し,前記患者のバイタルデータをチェックした後,前記バイタルデータの診断結果を前記サーバ宛送信すると,前記サーバから前記患者が保有する通信機器に通知されるとともに前記患者が保有する通信機器および医療機関や薬局に設置された端末機を用いて前記認証手段を介して前記サーバに蓄積されている患者情報をアクセス可能な範囲において閲覧可能とした健康管理システム。」ウ引用発明1と補正発明の相違点(ア ) 相違点1「患者が保有する通信機器」について,補正発明では「移動体通信機器」であるのに対して,引用発明1では「通信端末装置」であるものの,移動体式のものではない点(イ ) 相違点2「患者情報を管理するサーバ」が設置された場所について,補正発明では,医療機関と別の「医療サービス機関」であるのに対して,引用発明1では不明である点(ウ ) 相違点3「患者が保有する通信機器からサーバ宛送信」した場合に,補正発明では「前記サーバから前記端末機に前記患者のバイタルデータを受信したことが通知され」るのに対して,引用発明1ではそのような構成ではない点(エ ) 相違点4「患者が保有する通信機器および医療機関や薬局に設置された端末機を用いて前記認証手段を介して前記サーバに蓄積されている患者情報を閲覧可能とした」「各自のアクセス可能な範囲」について,補正発明では「予め定めた」「各自のアクセス可能な範囲」であるのに対して,引用発明1では「予めセンターサーバーに登録された」「患者,患者が保有する通信端末装置,医師または医師端末からのみ閲覧することができるアクセス権利を有する」点第3原告主張の取消事由1補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由1)(1) 補正発明の「前記患者が保有する移動体通信機器および医療機関や薬局に設置された端末機を用いて前記認証手段を介して前記サーバに蓄積されている患者情報の内で予め定めた各自のアクセス可能な範囲において閲覧可能とした」とは,「サーバに蓄積されている患者情報の内で予め定めた各自のアクセス可能な範囲において閲覧可能とした」ものである。一方,引用発明1においては,上記のようなアクセスの制限はなく,「予めセンターサーバーに登録された」患者,患者が保有する通信端末装置,医師または医師端末からのみ閲覧することができるアクセス権を付与するものにすぎず,引用発明1では「患者情報」のうちで医師や患者等の各自がアクセス可能な範囲を予め限定して,この範囲内で各自の「患者情報」のアクセスを許容する構成は開示されていない。
したがって,補正発明は,各自がアクセス可能な範囲が予め限定されない,引用発明1の「健康診断ネットワークシステムセンターサーバーに蓄積された情報は,予めセンターサーバーに登録された患者,通信端末装置6,医師または医師端末2からのみ閲覧することができるアクセス権利を有する」との構成とは異なる。
しかるに,審決は,引用発明1の「健康診断ネットワークシステムセンターサーバーに蓄積された情報は,予めセンターサーバーに登録された患者,通信端末装置6,医師または医師端末2からのみ閲覧することができるアクセス権利を有する」との構成につき,「患者は,バイタルセンサ5で生体情報を測定すると通信端末装置6によってセンターサーバー3に伝送」するので,上記センターサーバーに蓄積された情報は補正発明にいう「患者情報」を含み,したがって,補正発明の「前記患者が保有する移動体通信機器および医療機関や薬局に設置された端末機を用いて前記認証手段を介して前記サーバに蓄積されている患者情報の内で予め定めた各自のアクセス可能な範囲において閲覧可能とした」は,引用発明1と「前記患者が保有する通信機器および医療機関や薬局に設置された端末機を用いて前記認証手段を介して前記サーバに蓄積されている患者情報をアクセス可能な範囲において閲覧可能とした」点で共通すると認定した。
審決の一致点の認定のうち,各自がアクセス可能な範囲を予め限定して,この範囲内で各自の「患者情報」の閲覧を許容する構成が異なるという補正発明と引用発明1の相違点を看過した点は誤りである。また,審決の相違点4の認定も,この誤った認識の下にされたものであるから,誤りである。
(2) 補正発明の患者端末においては測定機器(バイタルセンサ)と通信機器とは分離されており,患者が「患者情報」を閲覧するときに測定機器を外した通信機器によって閲覧することができるようになっているが,引用発明1においては,測定機器と通信端末装置とが一体化された患者端末が用いられており(測定機器がマザーボードに接続したインターフェイス回路に接続されて組み込まれている。),測定機器と通信端末装置とは直接接続されている。
したがって,引用発明1においては,「患者が保有する通信機器からサーバ宛送信する」のではなく「患者が保有する患者端末の通信端末装置からサーバ宛送信する」のであり,また,「サーバから前記患者が保有する通信機器に通知される」のではなく「サーバから前記患者が保有する患者端末の通信端末装置に通知される」のであり,また,「患者が保有する通信機器を用いて前記認証手段を介して前記サーバに蓄積されている患者情報をアクセス可能な範囲において閲覧可能とした」のではなく「患者が保有する患者端末の通信端末装置を用いて前記認証手段を介して前記サーバに蓄積されている患者情報をアクセス可能な範囲において閲覧可能とした」ものである。
しかるに,審決は,引用発明1においては,補正発明とは異なって,測定機器と通信端末装置とが一体化されている点を看過して補正発明との一致点を認定しており,上記認定は誤りである。
2容易想到性の判断の誤り(取消事由2)(1) 相違点1について審決は,相違点1について,「引用発明1において,『通信端末装置』に換えて,刊行物2に記載された『移動体通信機器』を採用して相違点1における補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項であるといえる。」と判断した。
しかし,刊行物2記載の発明(以下「引用発明2」という。)においては,医療用情報端末からのデータをホストコンピュータに格納するとともに,データが格納されたことを担当医師に通知する構成(機能)や医療用情報端末に接続された携帯電話がバイタルデータを送信するだけの構成が開示されているにすぎず,補正発明のように「患者が保有する移動体通信機器」が「患者のバイタルデータを送信する」機能を有するだけでなく,「サーバに蓄積された患者情報を閲覧したり,患者情報がサーバに蓄積されたことを」通知等したりする機能を有しているのとは異なる。特に,刊行物2中には,医師端末からサーバを介して測定項目を指示することができたり,この指示がサーバを介して通知されたり,サーバに「患者情報」が格納(蓄積)されたことを患者端末に通知されたりする,移動体通信機器を採用したときに発揮され得る便利な機能が記載されていない。
したがって,当業者において,引用発明1の「通信端末装置」に換え,補正発明にいう「移動体通信機器」として,引用発明2の「携帯電話53」を採用することは困難である。
なお,仮にサーバにアクセスができる携帯電話機があったとしても,引用発明2の「携帯電話53」が上記のアクセスが可能な携帯電話機に置き換わらなければならない理由はない。引用発明1における患者端末はTV電話装置を有する一体型の機器であって,これが携帯端末に置き換わらなければならない理由はない。
しかるに,審決は,携帯電話が移動体通信機器であり,刊行物2には患者が保有する移動体通信機器が記載されていることから,引用発明1の「通信端末装置」に換えて引用発明2の「携帯電話53」(移動体通信機器)を採用して,補正発明と引用発明1との間の前記相違点1を解消することは,当業者において容易に想到し得る事項である旨判断しているが,この判断は誤りである。
(2) 相違点3について審決は,相違点3について,「引用発明1において,刊行物2に記載された上記構成を適用して相違点3における補正発明の構成とすることは,当業者ならば何ら困難性なく,容易に想到し得る事項であるといえる。」と判断した。
しかし,補正発明ではバイタルデータがサーバに格納されたことが端末機に通知されるのに対し,引用発明2では主として緊急時に担当医の携帯端末機に通知がされるものであって,両発明はその構成,作用,効果において著しく異なるものである。補正発明においては,医師が,必要に応じて,患者に対し,バイタルデータを送信するよう指示することができ,また送信すべきバイタルデータの内容や送信時間を指定できるよう,端末機に通知手段が設けられているが,引用発明2においては,担当医師の携帯端末機に通知するのであって,携帯端末機がないと通知することができないし,携帯端末機用と端末機用の2つのモデムが必要になる。したがって,両発明は技術的思想が全然異なるのであって,当業者において,引用発明2の構成を引用発明1の構成に適用して,補正発明と引用発明1との間の相違点3を解消することは容易に想到し得る事項ではない。
(3) 相違点4について審決は,相違点4は実質的な相違点とはいえないと判断した。
しかし,補正発明は移動体通信機器にID番号を付して各患者の「患者情報」を管理する機能と「患者情報」ファイルへのアクセスが可能な範囲をユーザごとに制限する機能を同時に有するものであるが,引用発明1では前者の機能と実質的に同一な「予めセンターサーバーに登録された」「患者,患者が保有する通信端末装置,医師または医師端末からのみ閲覧することができるアクセス権利を有する」という機能のみを有し,後者の機能を有しない。補正発明にいう「患者が自分で診療録を書き替えたり,誤って他人の患者情報に書き込んでしまうことがないようにする」ことは例示にすぎず,補正発明については,ユーザーごとに,「患者情報」ファイルの閲覧だけができるようにしたり,予め定めた範囲に限って「患者情報」ファイルの書込みができるようにしたり,閲覧できる「患者情報」ファイルの範囲・事項や書込みができる「患者情報」ファイルの範囲・事項をユーザごとに異ならせたりすることができるものである。補正発明においては,ID登録をしたユーザのみがID番号やパスワード等の入力による認証手段を経て「患者情報」ファイルに初めてアクセスできるという機能のみを有するものではない点が引用発明1とは異なるものである。
しかるに,審決は,引用発明1では「患者情報」ファイルのアクセス可能な範囲をユーザごとに制限する構成が一切開示されていないにもかかわらず,引用発明1の「予めセンターサーバーに登録された」「患者,患者が保有する通信端末装置,医師または医師端末からのみ閲覧することができるアクセス権利を有する」ことは,補正発明の「予め定めた」「各自のアクセス可能な範囲」と実質的に同一であり,前記相違点4は実質的な相違点とはいえないと判断しているが,これは引用発明1で開示されている事項の認定を誤った結果された,誤った判断である。
第4取消事由に関する被告の主張1取消事由1(補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定の誤り)に対し(1) 一般に,コンピュータを利用したネットワークにおいて「アクセス権利」(アクセス権)とは,「ファイルやシステム等を利用する権限」を意味する広い概念であり,原告が主張するような「前記移動体通信機器および前記端末機は通信ネットワークを介してそれぞれが有する認証手段を介して前記サーバに接続可能」にする権限だけでなく,サーバー内のファイル毎の閲覧あるいはそのファイル内容の一部への閲覧に対する権限をも包含する。
審決は,引用発明1の「アクセス権利」と補正発明の「サーバに蓄積されている患者情報の内で予め定めた各自のアクセス可能な範囲において閲覧可能とした」の両者を含む上位概念としての「アクセス権利」(アクセス権)において,補正発明と引用発明1とが共通すると認定したものであって,審決の上記認定に誤りはない。
審決は,上記アクセス権利(アクセス権)が及ぶ対象となる範囲が,補正発明では「予め定めた」「各自のアクセス可能な範囲」であること,すなわち医師や患者等の各自がアクセス可能な範囲を予め限定して,この範囲内で各自の「患者情報」のアクセスを許容することとされている一方,引用発明1では上記アクセス権利が及ぶ対象の範囲につき,「予めセンターサーバーに登録された」「患者,患者が保有する通信端末装置,医師または医師端末からのみ閲覧することができるアクセス権利を有する」こととされている点が相違するとして誤りなく認定している。
(2) 刊行物1で例示された各種バイタルセンサは,それらすべてが最初から一体に接続されているのではなく,少なくとも必要に応じて適宜取り付けて使用するものを含んでいることは容易に首肯し得る技術事項であるから,少なくともインターフェイス接続しているものを含んでいるといえる。そうすると,審決が,「患者が保有する通信機器にインターフェイス接続した測定機器」を補正発明と引用発明1の一致点と認定したことに誤りはない。
原告が主張する,補正発明においては引用発明1とは異なって,測定機器を外した通信機器で閲覧等が可能な点は,実質的に,引用発明1では「通信端末装置」であるが移動体式のものではないのに対して,補正発明では「移動体通信機器」であることに相当する。審決は,補正発明と引用発明1とは「『患者が保有する通信機器』について,補正発明では『移動体通信機器』であるのに対して,引用発明1では『通信端末装置』であるものの,移動体式のものではない点」を相違点として誤りなく認定しており,原告の主張は失当である。
2容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対し(1) 引用発明2の「携帯電話53」がサーバ等にアクセス可能な機能を備えていることは,本件出願時において一般的に知られている周知の技術事項である。仮に刊行物2では「携帯電話53」の機能として送信のみが記載されているとしても,「携帯電話53」が,送信及び受信の機能を有する一般的な携帯電話とは異なって,送信のみに特化した機器として刊行物2に記載されたと解しなければならない理由はなく,「携帯電話53」の受信機能が排除される理由はないから,一般的な携帯電話と同様に,「携帯電話53」もサーバからメールあるいはファイルデータを取得する受信機能も備えているとみるのが相当である。
そして,審決がいう,「引用発明1において,『通信端末装置』に換えて,刊行物2に記載された『移動体通信機器』を採用し」とは,ハードウエアとして,サーバからメールあるいはファイルデータを取得する機能も備えている一般的な携帯電話としての「移動体通信機器」を採用すること,すなわち引用発明1の「通信端末装置」が有する機能を実現するハードウエアとして「移動体通信機器」で置換することを意味する。
したがって,審決の相違点1に係る判断に誤りはない。
(2) 審決は,相違点3に関し,引用発明1の「医師端末」に対して,刊行物2に記載されている技術事項である「患者が保有する通信機器からサーバ宛送信すると,サーバから前記端末機に前記患者のバイタルデータを受信したことが通知され」る構成(機能)を適用することにより相違点3における補正発明の構成とすることは,当業者ならば何ら困難性なく,容易に想到し得ると判断しているのであって,引用発明1の「医師端末」を刊行物2の「携帯端末機52」に置き換えることが容易に想到し得ると判断しているのではない。したがって,後者の置換えを前提とする原告の主張は失当である。
刊行物2の「携帯端末機」も「端末機」の一種であることに変わりはなく,それが携帯されるか設置されるかにかかわらず,サーバに対してデータを送受信する点において本質的な差異はない。なお,補正発明においても緊急時に「患者情報」の更新の通知がされることは明らかであって,引用発明2における医師の携帯端末機への送信とさほど異なるものではない。
また,補正発明において特定される「端末機」には,「医師が必要なときにバイタルデータを送信するように患者に指示するなど医師の要望に従ってバイタル情報の内容や送信時間を指定できる」ことにつき開示も示唆もされていないから,上記の機能についての原告の主張は特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり失当である。
よって,審決の相違点3に係る判断に誤りはない。
(3) 前記のとおり,審決の補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りはない。
また,「登録された患者は自分の情報のみ閲覧でき,登録された医師等は自分の患者の情報のみ閲覧できる」こと,すなわち,「患者情報」という個人の情報に対して閲覧というアクセス行為をユーザごとに制限することは技術常識であるし,患者等が自分の診療録等を書き替えたり,誤って他人の「患者情報」に自己の情報を書き込んでしまわないようにするのも,データ(情報)更新(書込)に当たってのセキュリティの観点から当然に配慮されるべき技術常識である。
したがって,補正発明の「患者情報ファイルヘのアクセス可能な範囲をユーザ毎に制限する」という事項は,「患者情報」を含めた医療情報を取り扱うシステムにおいて当然に行われるべき技術常識にほかならず,何ら格別な技術事項とはいえない。
そうすると,補正発明の「患者情報ファイルヘのアクセス可能な範囲をユーザ毎に制限する」ことと引用発明1の「予めセンターサーバーに登録された」「患者,患者が保有する通信端末装置,医師または医師端末からのみ閲覧することができるアクセス権利を有する」こととは実質的に同一であるとして差し支えない。
よって,審決の相違点4に係る判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定の誤り)について(1) 補正発明ア補正発明の特許請求の範囲の記載は前記第2の2のとおりであるが,証拠(甲3)によれば,補正発明に係る明細書中の発明の詳細な説明の欄には,次のとおりの記載があることがそれぞれ認められる。
(ア ) 発明の属する技術分野「本発明は,患者の生体情報に関して,通院時だけでなく普段の状態を含めて,患者がどこにいても,かかりつけの医療機関にチェックしてもらえるような健康管理システムに関するものである。」(段落【0001】)(イ ) 発明が解決しようとする課題・「・・・定期的に健康状態をチェックする必要がある患者にとって,たびたび医療機関に行くことは,面倒であったり,時間的或いは肉体的に困難であり,医療機関側では,定期的に通院できない患者に対して健康管理を行うことは困難であった。」(段落【0006】)・「本発明は,このような問題を解決するためになされたものであり,患者が,日常の健康状態を,どこにいても,いつでも,担当医師にチェックしてもらえるようなシステムを提供するものである。」(段落【0007】)(ウ ) 課題を解決するための手段・「そこで,本発明は,患者が保有する移動体通信機器と,医療機関側の端末機と,患者情報を管理するサーバとからなり,移動体通信機器および端末機は,通信ネットワークを介してサーバに接続可能とされていて,患者が自分で測定した体温や脈拍数,血圧等のバイタルデータをサーバ宛送信すると,サーバから端末機に患者のバイタルデータを受信したことが通知され,担当医師が端末機を用いてサーバに接続し,患者のバイタルデータをチェックするシステムとした。」(段落【0008】 )イ補正発明は患者がどこに所在してもかかりつけの医療機関によるチェックを可能にする健康管理システムに関する発明であるところ,上記アの各記載によれば,従来,患者が定期的に医療機関に通院することに困難が伴い,医療機関でも定期的に通院しない患者の健康管理を行うことが困難であったのを,患者がどこに所在しても,いつでも,担当医師が健康状態をチェックすることができるようなシステムを提供することに,補正発明の技術的意義があることが認められる。
そして,補正発明においては,患者が保有する移動体通信機器,医療機関や薬局に設置された端末機,医療サービス機関に設置されたサーバとが通信ネットワークを介して接続されており,?患者が移動体通信機器に接続された測定機器を使用して体温等を自分で測定し,上記移動体通信機器を使用して体温等のバイタルデータを医療サービス機関のサーバに宛てて送信する,?上記サーバは患者のバイタルデータを受信すると,医師の端末機に対してバイタルデータを受診したことを通知する,?通知を受けた医師は,患者のバイタルデータをチェックして,診断結果を上記サーバに宛てて送信する,?上記サーバは医師から診断結果を受診すると,患者の移動体通信機器に通知する,?患者は移動体通信機器により,医師等は医療機関等に設置された端末機により,上記サーバに蓄積されている患者の情報を,「予め定めた各自のアクセス可能な範囲において閲覧」することができる,という各機能を果たすことができるようになっているものである。
なお,上記発明の詳細な説明においては,補正発明の実施の態様につき,ID登録をし,かつID記号やパスワード等の入力による認証を経た医師等がサーバに蓄積された患者情報を閲覧や書込みを行うことができ,また,患者は移動体通信機器5を用いて自分の患者情報のみに接して,これを閲覧したりバイタルデータ等を書き込んだりすることができるとの構成(段落【0014】)が開示されている。
(2) 引用発明1イ刊行物1(甲1)によれば,刊行物1に記載された発明すなわち引用発明1は,医師等の医療関係者と在宅等の患者との間で「医療情報や生体情報の交信を行う健康診断ネットワークシステム」に関する発明であって,従来の医療情報通信システムに存在したセキュリティ管理上の問題点を,「主として患者の生体情報を測定するための患者端末と,主として前記患者端末で測定された生体情報を遠隔地にて閲覧し,迅速かつ効率的な医療行為を行うための医師端末と,前記患者端末で測定された生体情報を蓄積あるいはそれを加工して前記医師端末にその医療情報を提供するためのセンターサーバーおよびそれを運用管理するための管理端末とを通信ネットワークで接続した健康診断ネットワークシステムを構築すると共に」,「センターサーバーに蓄積された生体情報などの機密情報へのアクセスを,予めセンターサーバーに登録された患者端末および医師端末に限定するというセキュリティ管理手段を備え」る(段落【0001】,【0010】)という手段によって解決しようとするものであることが認められる。
そして,引用発明1の要旨が,審決認定のように,前記第2の3のとおりのものであることは,原告も争わない。
(3) 補正発明と引用発明1の一致点等ア審決が認定するように,各発明の構成中における位置付けないし機能にかんがみれば,補正発明の特許請求の範囲にいう「体温や脈拍,血圧等のバイタルデータ」が引用発明1にいう「血圧,体温等の生体情報」に相当し,補正発明にいう「医療機関や薬局に設置された端末機」が引用発明1にいう「医師端末」に相当し,補正発明にいう「サーバ」が引用発明1にいう「センターサーバー」に相当し,補正発明にいう「健康管理システム」が引用発明1にいう「健康診断ネットワークシステム」に相当し,補正発明にいう「バイタルデータの診断結果」が引用発明1にいう「医療アドバイス情報」に相当することはそれぞれ明らかである。
また,前記(1) ,(2) によれば,補正発明と引用発明1とでは,?患者が保有する機器,医師等が使用する端末機,サーバとが通信ネットワークを介して接続されており,?患者が測定機器を使用して体温等を自分で測定し,体温等のバイタルデータを医療サービス機関のサーバに宛てて送信すると,?医師はサーバを介して患者のバイタルデータを受信し,これをチェックすることができ,?医師が上記バイタルデータに基づいて診断結果を上記サーバに宛てて送信すると,?上記サーバは患者が保有する機器に宛てて医師による診断がされたことを報知するとともに上記診断結果を送信し,その結果,患者は上記診断結果等を受信し,これを知ることができるという各点が共通することが認められる。
イ補正発明においては,患者は移動体通信機器により,医師等は医療機関等に設置された端末機により,上記サーバに蓄積されている患者の情報を,「予め定めた各自のアクセス可能な範囲において閲覧」することができる一方,引用発明1においては,患者が使用する患者端末は通信ネットワークを介してセンターサーバーと回線接続され,パスワード入力処理63を経て生体情報の測定処理やセンターサーバーに蓄積された生体情報のグラフ表示等を行い,また医師が使用する医師端末はパスワード等の入力を含むログイン処理91を経て,センターサーバーに蓄積された生体情報をリスト表示等したり,医療アドバイスの入力処理等をしたりするものである。したがって,補正発明においても引用発明1においても,医師等が自己の端末(機)を使用してサーバにアクセスする場合でも,患者が自己が保有する機器を使用してサーバにアクセスする場合でも,パスワードの入力を含む認証処理(手段ないし手続),すなわちアクセス権の処理を経なければならない点で共通する。
なお,後記のとおり,利用者が医師か患者か等の別に従って,アクセス権処理を経た後にアクセスできる情報の範囲が限定されるのは,当業者の技術常識にかんがみて明らかである。
そうすると,補正発明と引用発明1とは,「患者が保有する通信機器」及び医療機関等に設置された「端末機は通信ネットワークを介してそれぞれが有する認証手段」すなわちアクセス権の処理を「介して前記サーバに接続可能とされてい」る点,「患者が保有する通信機器および医療機関や薬局に設置された端末機を用いて」,「認証手段」すなわちアクセス権の処理を「介して前記サーバに蓄積されている患者情報を」アクセス権が与えられた範囲すなわち「アクセス可能な範囲において閲覧可能とした」点でそれぞれ共通するということができる。
ウまた,補正発明においては,携帯電話等の移動体通信機器5を使用して体温等のバイタルデータを送信することが予定されており(補正発明の特許請求の範囲,明細書の段落【0008】,【0009】,【0013】等。明細書の図1では,移動体通信機器5として携帯電話様の機器が図示されている。),バイタルデータの測定機器と上記移動体通信機器とが一体化されている必要はなく,上記測定機器と上記移動体通信機器とが別個の機器であってもよいものである(明細書の段落【0016】)。
他方,引用発明1においては,その明細書の発明の詳細な説明で「患者端末で測定された生体情報」とあり(課題を解決するための手段,段落【0010】),その実施例に係る説明において,患者端末1が体温等を測定するバイタルセンサ5とブラウザ機能を有する通信端末装置6で構成されていること(段落【0041】)が記載されていることにかんがみれば,患者端末側で計測機器を使用して体温等の生体情報を取得することが予定されているものということができる。もっとも,引用発明1の実施例に係る説明においては,通信端末装置6がバイタルセンサ5からの生体情報信号を入力するための入出力ポート等を備えた入出力手段6cを備えていること(段落【0050】,図2),上記入出力手段6cには,バイタルセンサ5からの生体情報信号を受信,処理するためのセンサインターフェース回路35が設けられており(段落【0070】,図5),赤外線出力方式やシリアル信号出力方式等の入力信号を受けて(段落【0074】)これを処理することがそれぞれ記載されているから,患者端末1の通信端末装置6がバイタルセンサ5と直接に結線接続され,一体の機器になっている必要はなく,それぞれ別個の機器として準備し,バイタルセンサ5を必要に応じて通信端末装置6の入出力ポートに着脱する構成が排除されていないことは明らかである。
そうすると,補正発明と引用発明1とは,サーバとのバイタルデータのやりとりのために患者が保有し使用する機器が,他の機器と情報(信号)の受送信を行う通信機器である点で共通する。
もっとも,上記のとおり,補正発明においては,携帯電話等の移動体通信機器を使用することが要求されているが,引用発明1においては,携帯電話等の移動体通信機器を使用し得るかどうか明らかでなく,サーバと通信ネットワークで結ばれていることのみが要求されているのにとどまる。
エよって,補正発明と引用発明1との一致点は,前記第2の3のとおりのものであって,上記一致点に係る審決の認定に誤りがあるとはいえない。
オまた,補正発明と引用発明1との相違点のうち,前記第2の3の相違点1ないし3については原告も争わないところ,前記(1) ,(2) 及び (3) アないしエに照らせば,補正発明では「予め定めた」「各自のアクセス可能な」範囲で患者や医師等が患者情報にアクセス可能であるのに対して,引用発明1では「予めセンターサーバーに登録された」患者や医師等が,パスワードの入力を含む認証処理すなわちアクセス権の処理を経た後に,患者情報にアクセス可能である点が相違する。
したがって,上記と同旨をいう審決の相違点4の認定(前記第2の3)に誤りがあるとはいえない。
カ結局,補正発明と引用発明1との間の一致点及び相違点に係る審決の認定に誤りがあるとはいえず,原告が主張する取消事由1は理由がない。
(4) 原告の主張に対する補足的判断ア(ア ) 原告は,補正発明の移動体通信機器や端末機を用いてサーバの患者情報のうちで「予め定めた各自のアクセス可能な範囲において閲覧可能とした」とは,各自のアクセス可能な範囲が予め定められており,上記範囲を超えて患者情報にアクセスできないことをいうのであって,引用発明1においては,上記のようなアクセスの制限はなく,単にアクセス権を付与するものにすぎないから,補正発明の構成と引用発明1の構成は異なる旨等を主張する。
(イ ) この点,補正発明の出願日(平成14年4月30日)はもちろん刊行物1の刊行日(平成14年3月22日)よりも前に公開された特開平6-314288号公報(公開日平成6年11月8日,乙1)は,個人情報を記録した情報記録媒体等からなる情報管理システムのセキュリティシステムに関する発明に係るものであるが,上記公報中の従来の技術に関する部分,すなわち,段落【0003】,【0006】,【0009】及び【0010】の記載によれば,そこに,個人情報やシステムの操作権であるアクセス権に関し,例えば個人の医療情報について,医療従事者の身分に応じて医療情報ごとに異なるアクセス権を設定し,対応する権限(アクセス権)を有する医療従事者のみが当該医療情報の閲覧や記録ができるように制限することが記載されていることが認められる(さらに,前記以外の部分では,患者ごとに,当該患者がアクセスできる医療情報の範囲を異ならせる構成が開示されている)。
(ウ ) また,補正発明の出願日及び刊行物1の刊行日よりも前に公開された特開平10-49604号公報(公開日平成10年2月20日,乙2)は,患者の医療情報の管理等を行う医療支援システムに関する発明に係るものであるが,上記公報中の発明の実施形態に関する部分,すなわち,段落【0036】ないし【0038】の記載によれば,そこにおいても,医療情報について,医療従事者の身分に応じて医療情報ごとに異なるアクセス権を設定し,対応する権限(アクセス権)を有する医療従事者のみが当該医療情報の読出し(閲覧)や記憶(記録)ができるように制限することが記載されていることが認められる。
(エ ) 上記各文献中の記載に照らせば,刊行物1の刊行当時,既に医療情報等の個人情報を取り扱うネットワークシステムにおいては,単にシステムの利用を許すか否かの観点からアクセス権の処理(認証)を行うのみでなく,医師であるか,看護師であるか,医療事務員であるか,あるいは患者であるかといった利用者の身分の別に応じて,異なったレベルのアクセス権を付与し,アクセスできる情報の範囲を異ならせることが技術常識とも評価し得る事項になっていたことが明らかである。
したがって,刊行物1の刊行当時の技術常識を勘案すると,引用発明1においても,利用者のアクセスの内容を制限する技術的思想が適用され得るのであって,引用発明1の意義を原告が主張するとおりに解することはできない。
なお,守秘義務を負わない患者において,アクセス権の処理を経ていったんシステムを利用可能になった後に,他の患者の医療情報等に自由にアクセスできたのでは,個人情報の保護に欠けることになるのは明らかであって,むしろシステムの欠陥と評価すべきものである。そうすると,上記のようなシステムにおいては,アクセス権を付与された患者のアクセス可能な範囲が自己の医療情報等に限られることは自明のことである。
よって,原告の前記主張は採用することができない。
なお,上記のとおり,乙第1,2号証はアクセス権に係る技術常識の認定のために用いられるべき文献にすぎず,仮に原告が主張するとおり乙第1,2号証の各発明と補正発明との間に相違があるとしても,上記結論を到底左右するに足りるものではない。
イ原告は,補正発明の患者端末においては測定機器(バイタルセンサ)と通信機器とは分離されており,患者が「患者情報」を閲覧するときに測定機器を外した通信機器によって閲覧することができるようになっているが,引用発明1においては,測定機器と通信端末装置とが一体化されており,相違する等と主張する。
しかしながら,前記のとおり,引用発明1においても,体温等のバイタルセンサ5と通信端末装置6とが一体の機器でなければならない必要はないから,原告の上記主張はその前提を欠き,採用することができない。
2取消事由2(容易想到性の判断の誤り)について(1) 引用発明2補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の内容は,前記第2の3のとおりであるところ,刊行物2(甲2)によれば,審決が引用する刊行物2記載の発明(引用発明2)が解決しようとする課題として,次のとおりの記載があることが認められる。
・「・・・本発明は,・・・測定器と医療用情報端末装置間の生体データの転送に光学的な通信手段を用いることにより,測定器と医療用情報端末装置とのケーブルの接続作業を行う必要がないためコネクタ間の接触不良がなくなり,通信中のノイズの影響を受け難くしかも測定した生体データをデジタルデータに変換して転送するため医療用情報端末装置側での処理がしやすく信頼性の高い医療用情報端末装置を備えた予診情報管理システムを提供することを目的とする。」(段落【0009】)・「また,本発明は,医療用情報端末装置から医療機関や健康管理センターに入力された生体データの着信を,前もって登録された担当医の携帯電話等の携帯端末機自動通知することにより,適時に担当医の診断,指導を受けることが可能な予診情報管理システムを提供することを目的とする。」(段落【0010】)上記記載のほか,引用発明2の属する分野や発明の実施の形態の記載によれば,引用発明2は,心電・心拍等の生体データの収集等に係る予診情報管理システムに関する発明であって,ケーブル接続によらず,光学的手段や携帯電話等の無線通信手段によって,測定器から得られた生体データを最終的にホストコンピュータまで転送したり,生体データの着信を受けたことを担当医師の携帯電話等の移動体通信機器に通知(告知)したりする構成を有するものであることが認められる。
(2) 容易想到性についてア相違点1について引用発明2の予診情報管理システムも,各医療従事者や患者が使用する各種機器を繋げて医療情報を管理するシステムである点で引用発明1の健康診断ネットワークシステムや補正発明の健康管理システムと異なるものではないところ,引用発明1も引用発明2も,上記のような医療システムにおいて,患者の所在場所等にかかわらず,患者の健康状態の診断,診断結果に基づく指導を適時に行うという課題を解決するためのものである。
そして,引用発明2においては,引用発明1におけるのと同様に,各種測定器によって得られた,引用発明1にいう生体情報(補正発明ではバイタルデータ)に対応する生体データを,医療情報端末装置に接続された通信機器を介して,引用発明1にいうセンターサーバー(補正発明ではサーバ)に相当するホストコンピュータに転送する構成(段落【0019】,【0020】,【0024】等)を有しており,その機能に共通する部分があるものである。
ところで,刊行物1の刊行日(平成14年3月22日)よりも前に公開された特開2001-101330号公報(公開日平成13年4月13日,発明の名称情報端末を用いたアウトソーシングシステム及び方法並びに訪問介護看護システム,乙3)にも照らせば,刊行物1の刊行日当時において,携帯電話で患者情報のデータを送信するだけでなく受信することもできることは,当業者の技術常識であったものというべきである。
そうすると,遅くとも補正発明の出願日当時,引用発明1の患者端末(1)の「通信端末機器」(6)に換えて,引用発明2の「携帯電話」等の無線通信手段を採用し,相違点1に係る構成とすることは,当業者において容易に想到し得たことであるということができる。
したがって,上記と同旨の相違点1に係る審決の判断に誤りがあるとはいえない。
イ相違点3について引用発明1と引用発明2との課題の共通性等は前記アのとおりであるところ,引用発明1の患者端末は,医師から医療アドバイスがされていることを患者に報知する手段を有しており(請求項17),これは患者が適時に医療アドバイスを受けることを可能にするためのものであり,患者の所在場所等にかかわらず,患者の健康状態の診断,診断結果に基づく指導を適時に行うという課題を解決するという目的に適うものである。
他方,引用発明2においては,医療用情報端末からの生体データがホストコンピュータに着信すると,担当医師の携帯電話に上記着信の事実が通知される構成を有しており(段落【0010】,【0079】),上記通知を契機として,担当医師は患者の状態を把握し,病状を診断し,必要な医療上の指導をすることが可能になるものである。したがって,上記構成もやはり,患者が適時に医療アドバイスを受けることを可能にするためのものであり,患者の所在場所等にかかわらず,患者の健康状態の診断,診断結果に基づく指導を適時に行うという課題を解決するという目的に適うものである。
そうすると,解決すべき課題や目的が共通するから,遅くとも補正発明の出願日当時,当業者において,引用発明2における構成を引用発明1に適用し,補正発明と引用発明1との相違点3における補正発明の構成とすることを容易に想到できたというべきである。
なお,引用発明2では担当医師の携帯端末機に生体データを着信した事実が通知される一方,補正発明では担当医師の医師端末にバイタルデータを受信して患者情報を更新した事実が通知されるものであり,通知の宛先の機器が異なるものである。
しかしながら,補正発明に係る明細書中には,「尚,患者情報更新の通知は,緊急度等に応じて,担当医師のポケットベル(登録商標)に転送されるようにしてもよい。」(段落【0017】)との記載があり,患者が適時に医療アドバイスを受けることを可能にするため,生体データの着信後(バイタルデータの受信後)直ちに担当医師に必要な情報が伝達される機能を備えたものであれば,通知の宛先となる担当医師側の機器は任意に選択し得る程度のもの(設計事項)にすぎない。したがって,補正発明においては上記のとおり通知の宛先が医師端末であるが,前記のとおり当業者において相違点3を解消することは容易であったものというべきである。
したがって,上記と同旨の相違点3に係る審決の判断に誤りがあるとはいえない。
ウ相違点4について補正発明においては,システムの各利用者には異なった内容のアクセス権が付与されており,患者は自己の患者情報にのみアクセスできるにすぎず,他の患者の患者情報にアクセスできないし,医師等がシステムを利用し,患者情報にアクセスするためにはアクセス権処理が必要となるものである(相違点4,明細書の段落【0014】参照)。
としても,前記1のとおり,遅くとも刊行物1の刊行当時,医療情報等の個人情報を取り扱うネットワークシステムにおいて,単にシステムの利用を許すか否かの観点からアクセス権の処理(認証)を行うのみでなく,医師か患者か等といった利用者の身分の別に応じて,異なったレベルのアクセス権を付与し,アクセスできる情報の範囲を異ならせることが技術常識とも評価し得る事項になっていたことが明らかであるし,このようなシステムにおいては,アクセス権を付与された患者のアクセス可能な範囲が自己の医療情報等に限られることは当然である。
そうすると,上記相違点4にいう事項は引用発明1の健康診断ネットワークシステムにおいて当然に具備すべき事項にすぎず,当業者の技術常識を勘案すると,相違点4は補正発明と引用発明1との間の実質的な相違点たり得ない。
したがって,上記と同旨の相違点4に係る審決の判断に誤りがあるとはいえない。
エ結論上記アないしウのとおり,補正発明の容易想到性に係る審決の判断に原告主張の誤りがあるとはいえず,原告の主張する取消事由2は理由がない。
(3) 原告の主張に対する補足的判断ア相違点1に係る容易想到性について原告は,引用発明2においては,医療用情報端末からのデータをホストコンピュータに格納するとともに,データが格納されたことを担当医師に通知する構成(機能)や医療用情報端末に接続された携帯電話がバイタルデータを送信するだけの構成が開示されているにすぎず,補正発明のように「患者が所有する移動体通信機器」が「患者のバイタルデータを送信する」機能を有するだけでなく,「サーバに蓄積された患者情報を閲覧したり,患者情報がサーバに蓄積されたことを患者端末に」通知等したりする機能を有しているのとは異なる等と主張する。
しかしながら,前記のとおり,引用発明1と引用発明2とでは,解決すべき課題や目的等が共通し,体温等の生体情報(引用発明2では生体データ)を患者側の機器とセンターサーバー(引用発明2ではホストコンピュータ)との間でやり取りする機能等で共通する部分が多いものであって,引用発明2中に患者側の機器において生体データ等を閲覧し得る構成等が開示されていないことを考慮して,引用発明2の構成を引用発明1に適用できないなどということはできない。引用発明1中では原告が指摘する構成(機能)が開示されているから,当業者であれば上記構成を取り入れて補正発明の構成を容易に想到し得るはずのものであって,引用発明2中で構成が開示されていないからといって,わざわざ当該構成を除外して,引用発明2の構成を引用発明1に適用するのは不合理である。
また,原告が補正発明の構成を採用したときに発揮できると主張する,医師端末からサーバを介して測定項目を指示することができる等の機能のうち,上記測定項目の指示機能等は特許請求の範囲中に記載がないものであるし,サーバ(引用発明1ではセンターサーバー)に患者情報(引用発明1では生体情報に概ね相当する)が格納されたことを患者端末に通知する機能は設計事項の範疇を超えないものにすぎないから,これらの機能に係る原告の主張は,前記(2) の結論を左右するに足りるものではない。
したがって,相違点1に係る容易想到性に関する原告の前記主張を採用することはできない。
イ相違点3に係る容易想到性について原告は,補正発明においては,医師が,必要に応じて,患者に対し,バイタルデータを送信するよう指示することができ,また送信すべきバイタルデータの内容や送信時間を指定できるよう,端末機に通知手段が設けられているが,引用発明2においては,担当医師の携帯端末機に通知するのであって,携帯端末機がないと通知することができないし,携帯端末機用と端末機用の2つのモデムが必要になる。したがって,両発明は技術的思想が全然異なるのであって,当業者において,引用発明2の構成を引用発明1の構成に適用して,補正発明と引用発明1との間の相違点3を解消することは容易に想到し得る事項ではない等と主張する。
しかしながら,前記のとおり,バイタルデータ(引用発明1では生体データ)の受信(着信)の事実を通知する宛先を担当医師の端末にするか,携帯電話等の携帯端末機にするかは,当業者において任意に選択し得る設計事項にすぎず,患者が適時に医療アドバイスを受けることを可能にするべく,直ちに担当医師に必要な情報が伝達される機能を備えたものであれば足りる。
また,原告が上記のとおり主張する差異は,バイタルデータの受信(着信)の事実の通知とは直接関係しない事柄にすぎないか,あるいは通知先の機器の選択に伴って必然的に発生し,技術的な解決が困難でない事柄にすぎないから,上記結論を何ら左右するに足りるものではない。
したがって,相違点3に係る容易想到性に関する原告の前記主張を採用することはできない。
第6結論以上のとおり,原告の取消事由の主張はすべて理由がない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官 真辺朋子
裁判官 田邉実