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関連審決 不服2007-3217
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  名義変更 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  国際公開 /  国内公表 / 
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事件 平成 21年 (行ケ ) 10365号 審決取消請求事件
原告 アルコン・インコーポレーテッド
訴訟代理人弁理士 志賀正武 渡辺 隆村山靖彦 実広信哉 阿部達彦 荒則彦
被告 特許庁長官
指定代理人 安井寿儀高木 彰紀本 孝田村正明
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/09/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた判決特許庁が不服2007-3217号事件について平成21年7月6日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,Aが名称を「外面が収束しかつ内部チャネルが狭くなっている曲がり水晶体超音波吸引針」とする発明につき特許出願をしたが,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をし,その後,当該出願に係る権利を譲り受けた原告(旧商号アルコン・ユニバーサル・リミテッド)が特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
争点は,明細書の特許請求の範囲の請求項9に記載された発明(以下「本願発明」という。
)が審決が引用する発明との関係で進歩性を有するか (特許法29条2項 ),である。
1特許庁における手続の経緯Aは,平成11年3月25日,名称を「外面が収束しかつ内部チャネルが狭くなっている曲がり水晶体超音波吸引針」とする発明について,特許出願(パリ条約による優先権主張1998年5月11日,アメリカ合衆国,特願2000-548028号,1999年11月18日国際公開,WO99/58179,平成15年5月27日国内公表,特表2003-517331号)をしたが,平成18年10月24日付けで拒絶査定を受けたので,平成19年1月29日,これに対する不服の審判を請求するとともに,同年2月28日付けで手続補正書を提出した。
その後,原告(旧商号「アルコン・ユニバーサル・リミテッド」,平成21年11月5日特許庁に名称変更届。
)は,上記Aから上記出願に係る権利の譲渡を受けて平成20年10月10日付けで特許庁に出願人名義変更届を提出した。
特許庁は,上記不服審判請求を不服2007-3217号事件として審理した上,平成21年7月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年7月21日原告に送達された (出訴のための附加期間90日)。
2本願発明の要旨【請求項9】水晶体超音波吸引装置であって,細長い中空の針本体を備え,該本体は,排出ポートと,直線部と,前記排出ポートと前記直線部との間に曲がり部と,細長チャネルと,細長外面とを有し,前記曲がり部が前記直線部に対して前記本体の角度方向を変え,前記細長チャネルが前記本体の前記中空を規定し,前記細長チャネルと前記細長外面とはいずれも,前記排出ポートから離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記排出ポートとの間に有する水晶体超音波吸引装置。
(上記平成19年2月28日付けの手続補正は,明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項8について補正をするものであるが,当該手続補正による補正前の明細書の特許請求の範囲における独立請求項である請求項9については,補正をするものではない。)3審決の内容審決の理由の要点は,本願発明が引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許法29条2項に該当する,というものである。
なお,審決の認定する引用発明(米国特許第5725495号明細書(甲1,発明の名称「水晶体超音波乳化吸引装置,スリーブ,及びチップ」,平成10年(1998年 )3月10日に頒布。 )の内容は,下記のとおりである。
記「水晶体超音波乳化吸引装置であって,細長い中空の針16を備え,該針16は,吸引孔18と,直線部と,前記吸引孔18と前記直線部との間に曲がり部と,細長チャネルと,細長外面とを有し,前記曲がり部が前記直線部に対して前記針16の角度方向を変え,前記細長チャネルが前記針16の前記中空を規定し,前記細長外面は,前記吸引孔18から離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記吸引孔18との間に有する水晶体超音波乳化吸引装置。」第3原告主張の審決取消事由1取消事由1(引用発明についての認定の誤り)審決が,引用発明について,「同図12Bには,・・・及び,針16の細長外面が,吸引孔18から離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記吸引孔18との間に有する点が図示されている」(3頁下から2行〜4頁3行)と認定したことは,誤りである。
すなわち,以下に示した引用例(甲1 )の図12B (符号?〜?,引き出し線及び部分の名称は原告が加筆した。
)には,下から,直管状の小径部?と,この小径部?の上端に接続して漏斗状に拡径するテーパー部分?と,このテーパー部分?の上端に接続する直管状の大径部?と,この大径部?の上端から大径部?の軸線に対して傾斜して接続されて吸引口を有する端部?とからなる針16本体が開示されている。小径部?とテーパー部分?と大径部?とは同軸上に一直線状に設けられ,大径部?と端部?との間には曲がり部?が形成されている。
端部?は,図12Dに示されているように,曲がり部?から先端部(図面で上部 )に向かうに従って円形から扁平になっている。
上記のように,引用発明において本願発明の「直線部」に相当するのは,上記?〜?の直線部であるから,審決が上記図12Bの?の部分のみを直線部と認定することは誤りである。
また,確かに,引用発明のテーパー部分?は,直径方向に狭くなるように構成されてはいるが,本願発明の「直径方向に狭くなるように構成された部分」は,このテーパー部分?ではなく,しかも,引用発明には存在しないから,引用発明のテーパー部分?を本願発明の「直径方向に狭くなるように構成された部分」に相当するとした審決の認定は誤りである。
2取消事由2(本願発明と引用発明との一致点の認定の誤り)(1)審決は,本願発明と引用発明との一致点を,「水晶体超音波吸引装置であって,細長い中空の針本体を備え,該本体は,排出ポートと,直線部と,前記排出ポートと前記直線部との間に曲がり部と,細長チャネルと,細長外面とを有し,前記曲がり部が前記直線部に対して前記本体の角度方向を変え,前記細長チャネルが前記本体の前記中空を規定し,前記細長外面は,前記排出ポートから離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記排出ポートとの間に有する水晶体超音波吸引装置」(4頁29行〜5頁2行)と認定しているが,「前記細長外面は,前記排出ポートから離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記排出ポートとの間に有する」と認定したが,誤りである。
(2)すなわち,本願発明においては,「直径方向に狭くなるように構成された部分」と「曲がり部」との位置関係は,文言上明確には特定されていないので,「直径方向に狭くなるように構成された部分」は,?「直線部」と「曲がり部」との間に位置するか,?「曲がり部」内に位置するか,又は,?「曲がり部」と「排出ポート」との間に位置する,ことが考えられる。
そこで検討するに,まず,?の配置についてであるが,「直径方向に狭くなるように構成された部分」が「直線部」と「曲がり部」との間に位置することはない。なぜなら,「前記曲がり部が前記直線部に対して前記本体の角度方向を変え」との記載から,「直線部」から本体の角度方向を変える部分は直ちに「曲がり部」であり(すなわち,「曲がり部」は「直線部」に直結して配置する部位であり),「直線部」と「曲がり部」との間に「直径方向に狭くなるように構成された部分」が存在する余地はないからである。
他方,「直径方向に狭くなるように構成された部分」が,?「曲がり部」内に位置し,又は,?「曲がり部」と「排出ポート」との間に位置する,ことについては,位置関係において矛盾はない。
また,「直径方向に狭くなるように構成された部分」の配置は,「前記細長チャネルと前記細長外面とはいずれも,…直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記排出ポートとの間に有する」との記載により,「細長チャネル」と「細長外面」のいずれにも当てはまる。
上記の認定について,本願発明の図1(符号A及び符号Aで示した点線囲み,並びに,符号B及び符号Bで示した波括弧は原告が加筆した。)を参照して補足する。
この図1から明らかなように,曲がり部 (14 )は,直線部 (20 )に対して本体(10 )の角度方向を変える部分であるから,符号Aで示した点線囲みの部分を示すと認定されるべきである。
また,「直径方向に狭くなるように構成された部分」は,曲がり部(14 )内 (符号Aで示した点線囲み内)に位置するか,又は,曲がり部 (14 )と排出ポート(12 )との間に位置するのであるから,符号Bで示した波括弧の範囲内に存在するのであり,図1で示した態様では曲がり部(14 )内と,曲がり部 (14 )と排出ポート (12 )との間に形成されている。
一般に,「直線部」といえば,当業者は直線状の部分と理解し,外径が変わらない直線状の部分については当然に「直線部」と理解すべきものである。しかし,本願発明の「直線部」は,明細書には明示的な記載はないが,外径が変わらない部分だけを示しているものではなく,外径が異なっていてもその外径の中心が直線状につながっていて軸方向が同じ方向を向いている部分をも含む。なぜなら,外径の中心が直線状につながっていて軸方向が同じ方向を向いている部分は「直線部に対して前記本体の角度方向を変え」る部分ではないから,「曲がり部」にはなり得ず,そうすると,外径の中心が直線状につながっていて軸方向が同じ方向を向いている間は「直線部」が続いていると解釈すべきだからである。なお,「直線部」と「曲がり部」とは直結しているから,外径が異なっていてもその外径の中心が直線状につながっていて軸方向が同じ方向を向いている部分について,「直線部」でも「曲がり部」でもないとする解釈はできない。
(3) これに対して,引用例 (甲1 )に示されている図12Bの針16本体において,?〜?で示されている小径部,テーパー部分及び大径部は同軸状に一直線に配置され,?で示されている部分においてその本体の角度方向を変えられ,?の先に延びる端部?が配置されている。
そして,引用発明において,本願発明の「直線部」に相当する部分を検討するに,まず,小径部?,テーパー部分?及び大径部?は一直線上に同軸配置されており,小径部?,テーパー部分?及び大径部?の中に本体の角度方向を変える部分はないのであるから,小径部?,テーパー部分?及び大径部?を本願発明の「直線部」に相当する部分と認定するのが合理的である。さらに,本願発明において,「直線部」とは「曲がり部」と直結する部分であるから,本願発明の「曲がり部」に相当する?の曲がり部に直結する大径部?が「直線部」(又は,「直線部」の一部 )であると認定することも合理的である。
したがって,引用発明の針本体16では,本願発明の「直線部」に相当する部分は小径部?,テーパー部分?及び大径部?であって,「直線部」はこれら3つの部分からなっている。
(4) 上記したように,本願発明の「直径方向に狭くなるように構成された部分」は,曲がり部内か又は曲がり部と排出ポートとの間のいずれかに位置するものであって,直線部内や排出ポート内に位置することはない。これに対して,引用発明における,テーパー部分?は,「直線部」の一部であるから,引用発明では「その細長外面が吸引孔18から離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分」は,直線部内に位置してしまうことになり,本願発明のように直線部と吸引孔18(本願発明の「排出ポート」に相当 )との間に位置するものではないことは明らかである。
したがって,引用発明に関し,「針16の細長外面が,吸引孔18から離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記吸引孔18との間に有する点が図示されている」との認定は誤りである。
なお,引用例の図12Bにおける端部?は,曲がり部?から先端部(図面で上部)に向かうに従って円形から扁平になっており,吸入口18から曲がり部?方向に向かうに従って直径方向に太くなる構造であるから,本願発明の「直径方向に狭くなるように構成された部分」は,引用発明には存在しないことも明らかである。
3取消事由3(本願発明と引用発明との相違点の看過)審決は,本願発明と引用発明との相違点を看過している。
すなわち,原告が「取消事由2(本願発明と引用発明との一致点の認定の誤り)」で主張したとおり,本願発明の細長外面は「前記排出ポートから離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記排出ポートとの間に有する」のに対し,引用発明の細長外面は排出ポートから離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を直線部と排出ポートとの間には有さない点で相違しているにもかかわらず,審決ではこの点が看過されている。
さらに,引用発明の図12Bにおける端部?は,吸入口18から曲がり部?方向に向かうに従って直径方向に太くなる構造であるから,引用発明には本願発明に対応する「直径方向に狭くなるように構成された部分」は存在しないのであり,審決はこの点も看過している。
4取消事由4(容易想到性判断の誤り)審決が,「本願発明の効果も,当業者が予測できた範囲内のものであり,格別のものではない。したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」(5頁28行〜31行 )と判断したことは,誤りである。
すなわち,本願発明では,「曲がり部」を有し,かつ,「細長外面」が「直線部」と「排出ポート」との間に「直径方向に狭くなるように構成された部分」を有する構成により,従来の超音波吸引装置よりも大きな空洞力又は空洞パワーが形成され,より効率的に患部組織を破壊できるという顕著な効果を奏するのである(甲10の段落【0033】参照 )。
ここで,空洞力又は空洞パワーとは,液体内での物体の迅速な移動に起因して液体において部分的な真空が形成される(空洞効果 )が,かかる空洞効果を引き起こす力又はパワーをいう。
また,本願発明では,「細長チャネル」が「直線部」と「排出ポート」との間に「直径方向に狭くなるように構成された部分」を有する構成により,針の超音波振動によって破壊した患部組織が針内部に急激に吸入されること,すなわち,本願発明に係る明細書(甲4,以下,甲4,5,8〜10を総称して「本願明細書」といい,証拠番号により特定する。
)の段落【0017】に記載された「瞬時の流れサージ」が防止されるという顕著な効果を奏する(本願明細書 (甲4 )の段落【0034】参照)。
第4 被告の反論1取消事由1に対し引用例(甲1 )の図12Bは,審決で,「針の遠位の軸端部が,・・・図7A及び7Bに示されているように,・・・形成可能なことである。様々な他の端部形状が図8A-27Bに示されている。」(3頁22行〜25行 )の記載を引用しているように,引用例の図7A及び7Bに示された針の他の端部形状の例を示したものである。そこで,図7A及び7Bを考慮しつつ,図12Bをみると,同図には,針16の近位側(図の下側 )から遠位側 (図の上側 )へ延び,一定の大きさの外径をもつ「直線部」(原告の付与した名称でいうと,“小径部?”の部分 )と,「吸引孔18」と,「細長外面」とを有する針16が示されている。また,同図には,該吸引孔18と該直線部との間に「曲がり部」を有し,当該曲がり部が前記直線部に対して針16の角度方向を変えている点が示されている。さらに,同図に示された針16は,その細長外面が,吸引孔18から針16の近位側に向かって離れる方向に縮径している部分,つまり「吸引孔18から離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分」(原告の付与した名称でいうと,“テーパー部分?”の部分)を有しており,当該部分は,「前記直線部と前記吸引孔18との間」に位置している。
したがって,引用例において,「図12Bには,・・・針16の細長外面が,吸引孔18から離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記吸引孔18との間に有する点が図示されている。」とした審決の認定に誤りはない。
なお,原告は,引用発明において本願発明の「直線部」に相当するのは,上記「?〜?の直線部」であると主張するが,取消事由2に対して述べるとおり,本願発明との関係からみても,引用例における針について,「直線部」をそのように解すべき理由はない。
2取消事由2に対し(1) 本願明細書 (甲10 )の特許請求の範囲の請求項9の記載によれば,「曲がり部」が排出ポートと直線部との間に位置すること,及び,「直径方向に狭くなるように構成された部分」が直線部と排出ポートとの間に位置することが特定されているものの,それ以上に位置が限定されているものではない。
したがって,本願発明の認定において,「曲がり部」は「直線部」に直結して配置されているなどと限定的に解釈することはできないのであり,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものとはいえず,失当である。
しかも,本願明細書(甲4 )段落【0026】には,「中空針は内部チャネルを規定し,前記曲がり部の方へ,前記曲がり部において,又は前記曲がり部の後に排出ポートから狭くなっている」と記載されている。すなわち,本願明細書には,本願発明における「直径方向に狭くなるように構成された部分」が,「曲がり部」内,又は,「曲がり部」と「排出ポート」との間に位置する以外に,(排出ポートからみて)「曲がり部」の後に位置すること,つまり,「直線部」と「曲がり部」との間にも存在することが示唆されている。したがって,原告の「直線部」と「曲がり部」との間に「直径方向に狭くなるように構成された部分」が存在する余地はないとの主張は,本願明細書の記載を参酌しても理由がないものである。
(2) 前記取消事由1で主張したとおり,引用例の図12Bに示された針16は,吸引孔18と直線部との間に曲がり部を有し,吸引孔18から離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を直線部と吸引孔18との間に有するものである。
そして,本願発明と引用発明とを対比すると,その機能・構造からみて,後者の「直線部」(原告がいう“小径部?”の部分 )は,本願発明の「直線部」に相当するものである。すなわち,本願明細書(甲 4)の段落【0028】の「針の保持部20は直線状であり,一定の大きさのままの内径と外径を有する。」との記載,及び段落【0029】の「フレキシブル注入スリーブ22は直線部20を囲繞している。」との記載を考慮すると,本願発明でいう「直線部」は,一定の大きさの内径と外径とを有し,フレキシブル注入スリーブに囲繞される部分を指しているといえるので,引用例の図7A及び7Bの図示内容からみると,引用発明においては,“小径部?”が本願発明における「直線部」に相当するといえる。
一方,原告は,当該針16について,小径部?,テーパー部分?及び大径部?を本願発明の「直線部」に相当する部分であると主張するが,前述したとおり,原告による本願発明の理解が請求項の記載に基づくものでない以上,それを前提として当該「直線部」に係る相当関係を認定することに理由はなく,失当である。
また,前述したとおり,本願発明において「直線部」とは「曲がり部」と直結する部分であると限定的に解釈することもできないから,本願発明の「曲がり部」に相当する?の曲がり部に直結する大径部?が「直線部」(又は,「直線部」の一部)であるとする原告の主張に,理由はない。
したがって,引用発明の針16本体では,本願発明の「直線部」に相当する部分は小径部?,テーパー部分?及び大径部?であって,「直線部」はこれら3つの部分からなるという原告の主張は失当である。
なお,原告は,引用例の図12Bに示された針16において,端部?は,図12Dに示されているように,曲がり部?が先端部(図面で上部 )に向かうに従って円形から扁平になっていると主張するが,引用例において,図12B及び12Dを含む図8A〜27Bは,針端部の様々な形状を示しているにすぎず(6欄49行〜50行参照 ),図12Bで示される針端部が,図12Dに示されている形状であることについては何ら記載がないから,原告の当該主張に理由はない。
3取消事由3に対し取消事由2について述べたとおり,本願発明と引用発明とは,「針本体の細長外面が,排出ポートから離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記排出ポートとの間に有する」点で一致しているから,この相違点が看過されているとの原告の主張は失当である。
また,原告の引用発明の図12Bにおける端部?は,吸入口18から曲がり部?方向に向かうに従って直径方向に太くなる構造であるとの主張も,前述のとおり理由がないので,この主張に基づく,引用発明には本願発明に対応する「直径方向に狭くなるように構成された部分」は存在しないとの主張も理由がなく,失当である。
4取消事由4に対し前述したとおり,審決において,引用発明の認定及び本願発明との一致点・相違点の認定に誤りはないので,本願発明の構成自体は当業者が容易に想到し得たものである。このように容易想到性が認められる本願発明について,原告が主張する「大きな空洞力又は空洞パワーが形成され,より効率的に患部組織を破壊できる」という作用効果,及び,「瞬時の流れサージが防止される」という作用効果は,引用発明及び周知技術から得られる構成においても当然に生じる効果であるので,当業者が容易に予測できる範囲内のものであって,顕著なものであるとはいえない。
第5当裁判所の判断1本願発明の構成について (1) 本願発明に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりであり,また,本願明細書(甲4 )の【発明の詳細な説明】及び図面には,以下の記載がある。
・【発明の属する技術分野】「本発明は,目の外科手術サイト内での流体の流れ移動を制御するために用いられる水晶体超音波吸引装置に関するものである。装置は外側面が収束し内側チャネルが細くなっている針に含んでいる。」(段落【0001】 )・【課題を解決するための手段】「本発明の一態様では,中空であってかつ排出ポートで終端し,排出ポートから離間した位置に曲がり又は曲がり部を有する水晶体超音波吸引装置に関するものである。中空針は内部チャネルを規定し,前記曲がり部の方へ,前記曲がり部において,又は前記曲がり部の後に排出ポートから狭くなっている。針の外側面は同様に,曲がり又は曲がり部の方へ,排出ポートから位置方向で収束するように構成されている。」(段落【0026】 )・【発明の実施の形態】・「図1は,中空でかつ排出ポート12で終端され,かつ,排出ポート12から離間した曲がり又は曲がり部14を有する水晶体超音波吸引針10を示している。針10は,曲がり部14における排出ポート12と曲がり部14との間,又は,保持部20において,直径方向で狭くなっているチャネル16を規定している。針の外側面も同様に,内部チャネル16とほぼ同じ位置において直径方向で狭くなるように形成されている。針の保持部20は直線状であり,一定の大きさのままの内径と外径とを有する。針10は金属であることが好ましい。」(段落【0028】 )・「フレキシブル注入スリーブ22は直線部20を囲繞している。任意で,固いスリーブ24は直線部20と注入部22との間に位置して直線部20上で注入スリーブ22の崩壊を防止するようになっていてもよい。その代わりにこのような固いスリーブは注入スリーブ22の内側に取付られており,それによって固い裏地として働くものでもよい。」(段落【0029】 )(2)前記第2の2の特許請求の範囲の記載,同第3の2 (2) の図1 (ただし,原告加筆部分である符号A及び符号Aで示した点線囲み並びに符号B及び符号Bで示した波括弧を除く。
)及び本願明細書 (甲4 )の上記記載によれば,本願発明は,目の外科手術サイト内での流体の流れ移動を制御するために用いられる水晶体超音波吸引装置に関するものであり,外側面が収束し内側チャネルが細くなっている細長い中空の針本体であって,その針本体は,排出ポートと,直線部と,前記排出ポートと前記直線部との間に曲がり部と,細長チャネルと,細長外面とから構成されるものと認められる。ただし,当該直線部について,特許請求の範囲では,直線部と排出ポートの間に曲がり部が位置することが規定され,その曲がり部が直線部に対して本体の角度方向を変えることが開示されているだけであり,それ以上にその位置・形状等は示されていない。また,本願明細書(甲4,10 )の発明の詳細な説明にも,当該直線部を明確に定義した記載は認められない。
そこで,本願明細書の上記記載及び図面を参酌してその技術的意味を解釈するところ,当該直線部は,前記図1及び図2(甲4 )における図番20で示される部分であり,本願明細書では,図番20を「保持部」とも呼び,「針の保持部20は直線状であり,一定の大きさのままの内径と外径とを有する。」,「フレキシブル注入スリーブ22は直線部20を囲繞している。」とされる。なお,ここでいう「内径」が本願発明の「細長チャネル」を,「外径」が「細長外面」を指すのは明らかである。
以上のことからすると,本願発明において,針本体の「直線部」とは,一定の大きさのままの内径と外径とを有する部分であって,注入スリーブで囲繞された部分であると認められ,内径と外径の大きさが変化する部分や注入スリーブで囲繞することが困難な部分は,これに含まれないものと解される。
2取消事由1(引用発明についての認定の誤り)について原告は,審決が,引用発明について,「同図12Bには,・・・及び,針16の細長外面が,吸引孔18から離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記吸引孔18との間に有する点が図示されている」(3頁下から2行〜4頁3行 )と認定したことは誤りであると主張し,その理由として,引用例(甲1 )の図12Bにおいて,直管状の小径部?と,小径部?の上端に接続して漏斗状に拡径するテーパー部分?と,このテーパー部分?の上端に接続する直管状の大径部?とは,同軸上に一直線状に設けられおり,本願発明の「直線部」に相当するのは,この小径部?とテーパー部分?と大径部?であると主張する。
しかしながら,本願発明の直線部は,前記1(2) 認定のとおり,一定の大きさのままの内径と外径とを有し,注入スリーブで囲繞される部分であるから,引用発明においても,原告の主張する小径部?のみが本願発明の直線部に対応するものであって,内径と外径の大きさが変化する原告主張の テーパー部分?はこれに含まれない(大径部?も,テーパー部分?があるため注入スリーブで囲繞することが困難と推測されるから,直線部といえないと解される。
)と認められるから,原告の上記主張は,採用することができない。
したがって,審決における引用発明の認定に誤りはない。
3取消事由2(本願発明と引用発明との一致点の認定の誤り)について(1) 原告は,審決が認定した本願発明と引用発明との一致点のうち,「前記細長外面は,前記排出ポートから離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記排出ポートとの間に有する。」(4頁末行〜5頁3行)との認定は誤りであると主張し,その理由として,引用発明の直線部に相当する部分が小径部?,テーパー部分?及び大径部?からなり,テーパー部分?が直線部の一部であることを前提として,引用発明では「その細長外面が吸引孔18から離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分」は,直線部内に位置してしまうことになり,本願発明のように直線部と吸引孔18(本願発明の「排出ポート」に相当 )との間に位置するものではないと主張する。
しかしながら,引用発明において本願発明の直線部に相当する部分が小径部?,テーパー部分?及び大径部?であるという原告の主張が失当であることは,前記2のとおりである。そして,原告主張のテーパー部分?が「吸引孔18から離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分」であることは明らかであり (この点は当事者間に争いがない。 ),この部分は,引用発明において直線部に相当する小径部?と,吸引孔18(本願発明の「排出ポート」に相当)との間に設けられていると認められるから,審決の認定する本願発明と引用発明との一致点に誤りはなく,原告の主張を採用することはできない。
(2) この点について原告は,本願発明の特許請求の範囲における「前記曲がり部が前記直線部に対して前記本体の角度方向を変え」との記載を根拠に,「直線部」から本体の角度方向を変える部分は直ちに「曲がり部」であり(すなわち,「曲がり部」は「直線部」に直結して配置する部位であり),「直線部」と「曲がり部」との間に「直径方向に狭くなるように構成された部分」が存在する余地はないと主張する。
しかしながら,本願発明に関する前記記載は,直線部に対する曲がり部の角度方向の変更が行われることを示したものにすぎず,文言の内容からみても,「直線部」と「曲がり部」とが直結していなければならないとの限定を付したものと解することできないから,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,本願発明の「直線部」は,明細書には明示的な記載はないが,外径が変わらない直線状の部分だけを示しているのではなく,外径が異なっていてもその外径の中心が直線状につながっていて軸方向が同じ方向を向いている部分をも含むと主張し,その理由として,外径の中心が直線状につながっていて軸方向が同じ方向を向いている部分は「直線部に対して前記本体の角度方向を変え」る部分ではないから,「曲がり部」にはなり得ず,そうすると,外径の中心が直線状につながっていて軸方向が同じ方向を向いている間は「直線部」が続いていると解釈すべきだからであると主張する。
しかしながら,本願発明が,「直線部」と「曲がり部」とが直結している構成に限定されるものでないことは,前述のとおりであるから,原告の上記主張はその根拠を欠く。また,本願発明の直線部は,前記1(2)認定のとおり,一定の大きさのままの内径と外径とを有する部分であり,内径と外径の大きさが変化する部分はこれに該当しないから,原告の上記主張を採用する余地はない。
さらに,原告は,引用例の図12Bに示された針16において,端部?は,図12Dに示されているように,曲がり部?が先端部(図面で上部 )に向かうに従って円形から扁平になっており,吸入口18から曲がり部?方向に向かうに従って直径方向に太くなる構造であるから,本願発明の「直径方向に狭くなるように構成された部分」は,引用発明には存在しないと主張する。
しかしながら,引用例(甲1 )において,図12B及び12Dを含む図8A〜27Bは,針端部の様々な形状を示しているにすぎず,図12Bで示される針端部が必ずしも図12Dに示されている形状であると断定することはできない。また,仮に図12Bで示される針端部が図12Dに示されている形状であるとしても,引用発明において「吸引孔18から離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分」,すなわち,原告主張のテーパー部分?が直線部と曲がり部との間に存することは前記認定のとおりであり,そのことは針端部の形状により左右されるものではないから,いずれにしても原告の上記主張を採用することはできない。 (3) 以上のとおり,審決における本願発明と引用発明との一致点の認定に誤りはない。
4取消事由3(本願発明と引用発明との相違点の看過)について原告は,取消事由2で主張したとおり,本願発明の細長外面が「前記排出ポートから離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を前記直線部と前記排出ポートとの間に有する」のに対し,引用発明の細長外面は排出ポートから離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を直線部と排出ポートとの間には有さない点で相違しているにもかかわらず,審決ではこの点が看過されていると主張する。
しかしながら,引用発明の細長外面が排出ポートから離れる方向において直径方向に狭くなるように構成された部分を直線部と排出ポートとの間には有していないとの前提が誤りであることは,前記3で判示したとおりであるから,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,引用発明の図12Bにおける端部?は,吸入口18から曲がり部?方向に向かうに従って直径方向に太くなる構造であるから,引用発明には本願発明に対応する「直径方向に狭くなるように構成された部分」は存在しないと主張するが,この主張が誤りであることも,前記3で判示したとおりである。
以上のとおり,審決における本願発明と引用発明との相違点の認定に誤りはない。
5取消事由4(容易想到性判断の誤り)について原告は,審決が,「本願発明の効果も,当業者が予測できた範囲内のものであり,格別のものではない。したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」(5頁28行〜31行)と判断したことは,誤りであると主張し,本願発明では,「曲がり部」を有し,かつ,「細長外面」が「直線部」と「排出ポート」との間に「直径方向に狭くなるように構成された部分」を有する構成により,従来の超音波吸引装置よりも大きな空洞力又は空洞パワーが形成され,より効率的に患部組織を破壊できるという顕著な効果を奏すると主張する。
しかしながら,審決において,引用発明の認定並びに本願発明との一致点及び相違点の認定に誤りはないことは,前示のとおりであり,引用発明に審決認定の周知技術を適用した構成においても,「曲がり部」を有するのは当然であり,それに加えて,「細長外面」が「直線部」と「排出ポート」との間に「直径方向に狭くなるように構成された部分」を有するものと認められる。このように本願発明と同様の構成が,当業者が容易に想到し得たものである以上,当該構成から生じる効果についても,通常,当業者が容易に予測できる範囲内のものと認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
また,原告は,本願発明では,「細長チャネル」が「直線部」と「排出ポート」との間に「直径方向に狭くなるように構成された部分」を有する構成により,針の超音波振動によって破壊した患部組織が針内部に急激に吸入されること,すなわち,「瞬時の流れサージ」が防止されるという顕著な効果を奏すると主張する。
しかしながら,前示のとおり,引用発明に周知技術を適用した構成自体を,当業者が容易に想到し得たものである以上,当該構成から生じる原告主張の上記効果についても,当業者が容易に予測できる範囲内のものと認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
したがって,原告の主張する作用効果によって,本願発明の進歩性を裏付けることはできない。
第6結論以上によれば,原告の主張する取消事由は,いずれも理由がなく,本願発明が引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許法29条2項に該当するとした審決の判断に,誤りはない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官 清水節
裁判官 古谷健二郎