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関連審決 無効2003-35291
関連ワード 新規性 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 92号 審決取消請求事件
原告 栄豊物産株式会社
訴訟代理人弁護士 小林政明
被告 株式会社スノウチ
訴訟代理人弁護士 武田正彦
同 弁理士 川崎仁
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/10/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2003-35291号事件について平成16年2月3日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「溶接用セラミックエンドタブ」とする特許第2764501号発明(平成4年5月28日特許出願,平成10年4月3日設定登録,以下この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成15年7月15日,本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許につき,無効審判の請求をした。特許庁は,同請求を無効2003-35291号事件として審理し,平成16年2月3日,「特許第2764501号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月14日,原告に送達された。
2 本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る各発明(以下,それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」といい,併せて「本件発明」という。)の要旨 【請求項1】表面に平坦面と堰を有する形状のセラミックエンドタブにおいて,平坦面の少なくとも下部にガス抜き用切欠きを設けたことを特徴とする溶接用セラミックエンドタブ。
【請求項2】表面に平坦面と該平坦面の両側若しくは片側のみに堰を有する形状のエンドタブである請求項1に記載の溶接用セラミックエンドタブ。
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明1及び2は,本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である「鉄構技術(STRUTEC)」1989年(平成元年)2月号(審判甲4・本訴甲3,以下「引用刊行物」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び実願平1-132153号(実開平3-70889号)のマイクロフィルム(審判甲3・本訴甲4,以下「甲4文献」という。)に記載された発明(以下「甲4発明」という。)ないし技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1及び2についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,無効とされるべきものであるとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本件発明1と引用発明との相違点の認定を誤り(取消事由1),相違点の判断を誤った(取消事由2)結果,本件発明1の進歩性を誤って否定し,また,本件発明2の容易想到性に関する判断も誤った(取消事由3)ものであ るから,違法として,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1と引用発明との相違点の認定の誤り) (1) 審決は,本件発明1と引用発明とを対比し,両発明は次の2点で相違すると認定した(審決謄本5頁下から第2段落)。
相違点1:エンドタブが,前者(注,本件発明1)では,セラミック製であるのに対して,後者(注,引用発明)では,スチール製である点。
相違点2:ガス抜き部が,前者では,平坦面の少なくとも下部に設けたガス抜き用切欠きであるのに対して,後者では,ガス抜き穴であって,かつ,どこに設けられているのかが不明である点。
(2) しかし,審決の上記相違点1の認定は正しいが,上記相違点2の認定は誤りである。審決が認定した相違点2は,引用刊行物(甲3)の図面に,平坦面の下部にガス抜き穴が設けられていることが示されているから,相違点ではなく,この点に関する正しい相違点は,以下のとおりである。
相違点2’:ガス抜き用切欠き又はガス抜き穴の抜くガスが,本件発明1では初層溶接の溶融メタル内に在留しているガスであるのに対し,引用発明ではシールドガスである点。
相違点3’:ガス抜き用切欠き又はガス抜き穴が,本件発明1では,溶融メタルがエンドタブの外に漏れない大きさであるのに対し,引用発明では開先底部の幅以上に広いものである点。 (3) 相違点2’について ア 本件発明1の溶接用エンドタブは,多孔質であるため,溶接用エンドタブと溶融メタルとの間にガスが残ったとしても,そのガスはある程度溶接用エンドタブに吸収されるので,シールドガスを抜くためのガス抜き穴は必要がない。そのため,本件明細書では,ガス抜き穴は,初層溶接の溶融メタル内に残留しているガスを抜くためのものと記載しており,シールドガスを抜くことは全く記載していない。この点は特許請求の範囲に記載されていないとしても,初層溶接の溶融メタル内に残留しているガスを抜くためのものに特定されるのである。
これに対して,引用発明の溶接用エンドタブのガス抜き穴は,開先底部の幅以上に広いものであるから,シールドガスを抜くためのものである。初層溶接の溶融メタル内に残留しているガスを抜くためのものであれば,開先底部の幅よりかなり狭くてもよいからである。
イ 被告は,本件発明1のガス抜き用切欠きは,主としてシールドガスを抜くためのものであり,溶融メタル内に残留するガスが切欠きから抜ける量は,あるとしても微量で,前者に比べて無視できる程度の量であると主張する。しかしながら,本件発明1のガス抜き用切欠きは,本件明細書に記載のとおり,溶融メタル内に残留しているガスを抜くためのものであり,シールドガスを抜くためのものではない。シールドガスを使用して溶接すれば,シールドガスも漏洩されることにはなるが,本件発明1の切欠きは,あくまで,溶融メタル内に残留しているガスを抜くためのものである。溶融メタル内に残留するガスは微量であっても,溶接欠陥となって溶接金属の強度と靭性を低下させるので,残留ガスを抜くことは,本件明細書に記載されるように従来から要望されていたことである。
(4) 相違点3’について ア 本件発明1の溶接用セラミックエンドタブのガス抜き用切欠きは,溶融メタルがエンドタブの外に漏れない大きさである。本件発明1のガス抜き用切欠きは,幅が広い方が好ましいが,あまり広くするとガス抜き穴から溶融メタルが漏れることになるので,幅は4mm前後にする必要がある。
これに対して,引用発明の溶接用エンドタブ(ゲージタブ)のガス抜き穴は,開先底部の幅以上に広いものである。開先底部の幅は,日本建築学会発行「鉄骨工事技術指針・工場製作編」(1977年制定,1987年改定)(甲5,以下「甲5文献」という。)に記載された実例によれば,6mm〜9mmであるので,引用発明のガス抜き穴の幅は6mm〜9mm以上である。
したがって,両者はこの点において明らかに相違する。
イ 被告は,本件発明1のガス抜き用切欠きの大きさについては,何の限定もなく,4mm前後にしなければならない根拠もないから,本件発明1と引用発明との間に特段の相違はないと主張する。しかし,本件発明1のガス抜き用切欠きは,あまり大きすぎると,溶融メタルがエンドタブの外に流出して,溶融メタルを保持するという本来の機能を果たさなくなる上,溶接後にセラミックタブを除去した際の溶融金属の端部の美観が良いというセラミックタブの特長を損なうこととなる。また,溶融メタルがエンドタブの外に流出し,それが凝固するとエンドタブの取り外しが困難になる場合があり,無理に取り外すとエンドタブの一部が破損してその破片が凝固した溶融メタルに噛み込まれて残り,その除去が困難であるので,実用上使用できないものになるから,ガス抜き用切欠きの大きさは非常に重要な事項である。したがって,セラミックタブのガス抜き用切欠きは,幅を4mm前後,高さを4mm前後にすることが必要である。
審決は,「本件発明1・・・では,その(注,ガス抜き穴の)大きさが何ら特定されてなく,また,どのようなガスを抜くためのものであるのかも特定されていないので,この主張(注,原告の上記主張)は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,採用することはできない」(審決謄本6頁最終段落〜7頁第1段落)と判断するが,誤りである。「ガス抜き穴」の大きさは,特に特定しなくても,セラミック製エンドタブの求められている本来の機能,すなわち,溶融メタルの流出を遮断する機能から4mm前後であることが特定される。また,セラミック製エンドタブにおいては,相違点3’で記載したようにシールドガスが溶接に悪影響を与えることはないので,ここでガスを抜くことは,初層溶接の溶融メタル内に残留しているガスを抜くことに特定される。したがって,特許請求の範囲の記載において,これらの技術的事項が特定されていなくても,特定されていることと同じである。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り) (1) 相違点1の容易想到性に関する判断の誤り 審決は,相違点1について,引用発明の「エンドタブの材質としてセラミックを採用することは,当業者であれば容易になし得たものである」(審決謄本6頁第1段落)と判断したが,誤りである。
ゲージタブの材質をセラミックにしただけでは,ガス抜き穴が大きいため溶融メタルが漏れることになる。溶融メタルが漏れると,セラミック製エンドタブ(溶接が終了すると取り外す。)の特長の1つである,溶接端部の外観が綺麗である点を損ない,また,セラミック製エンドタブを取り外すときに溶接金属がセラミック製エンドタブの破片を噛み込む場合があり,それを除去するのに手間とコストがかかる。
一方,溶融メタルが漏れないようにガス抜き穴の幅を4mm前後にすれば,引用発明のゲージタブの目的であるシールドガスを十分抜き取ることができなくなるので,ガス抜き穴の幅を4mm前後にすることはできない。仮に,ガス抜き穴の幅を4mm前後にした結果,その状態でもシールドガスの影響が少なく,無視してもよいことになれば,それはゲージタブの材質をセラミックにしたことによる予期しない効果であり,当業者が容易にし得たものではないことになる。
本件発明1は,引用発明のゲージタブの材質を単にセラミックにしただけではなく,ガス抜き穴を設ける目的,ガス抜き穴の大きさを考慮して初めて発明をすることができたものであるから,引用発明のゲージタブの材質をセラミックにすることが容易か否かのみを根拠に,本件発明1の引用発明に基づく容易想到性を肯定した審決の判断は誤りである。
(2) 本件発明1の奏する効果に関する判断の誤り 審決は,本件発明1の奏する効果は,引用発明及び甲4発明ないし技術的事項のそれぞれが奏する効果から予測される程度のものであって,格別のものではない(審決謄本6頁第4段落)と判断したが,本件発明1は,溶融メタルが漏れることがない大きさのガス抜き用切欠きを設けることによって溶融メタル内に残留しているガスを抜くことができるという格別の効果を奏するものであり,溶融メタル内に残留しているガスを抜くことは,引用刊行物や甲4文献には記載も示唆もされていないのであるから,その効果が予測できるはずがない。したがって,審決の上記判断は,誤りである。
3 取消事由3(本件発明2の容易想到性に関する判断の誤り) 審決は,本件発明2は引用発明及び甲4発明ないし技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(審決謄本6頁下から第3段落)と判断したが,誤りである。確かに,本件発明2において限定された事項は,引用刊行物に記載されており,この点に新規性及び進歩性はないが,本件発明2は,本件発明1の従属発明であり,上記2のとおり,本件発明1が引用発明及び甲4発明ないし技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものではないから,本件発明2も当業者が容易に発明をすることができるものではない。そして,本件発明2の顕著な効果は,本件発明1と同様,引用発明及び甲4文献から予測のできるものではない。
被告の反論
1 取消事由1(本件発明1と引用発明との相違点の認定の誤り)について (1) 原告主張の相違点2’について 本件発明1はガス抜き用切欠きにより抜かれるガスの種類を限定していないので,原告主張の相違点2’は,失当である。
仮に,本件発明1の切欠きが何らかのガスの抜き穴に限定されるとしても,切欠きを通るガスは,ほとんどがシールドガスであって,引用発明と異ならない。すなわち,溶融メタル内に何らかの原因で閉じ込められたガスが残留しても,その量は微量であり,しかもそのガスは上方に移動することはあっても,溶融メタルは粘性が高くかつ凝固が早い(約2〜3秒)ので,ガスがメタル内を横もしくは下方に移動して,タブ下部の切欠きを通過することはほとんどない。もしあるとしても,タブ付近のガスに限られるが,それとても多孔質であるセラミックタブの特性から,そのほとんどはタブに吸収されて,切欠きを通過する量は無視して差し支えない程度になる。
本件発明1で,タブに切欠きを設けた理由は,溶接時にタブでせき止められている溶接線の両端部では,噴射するシールドガスがタブにはね返り,その風圧により溶融金属がタブ付近の隅々まで行き渡ることが困難となり,母材端部付近に溶接不足を起こし,かつ,右風圧により中央方向に流れた溶融金属がそのまま凝固し,折り返し溶接の際に溶かし切れないために底部で融合不良を起こすという問題の発生を回避することにある。すなわち,本件発明1では,タブの底部に切欠きを設けることで,シールドガスが切欠きを吹き抜け,その結果,溶融金属は中央方向への一方向のみでなく中央方向及び端部方向の二方向に流れて,そのために初層溶接において溶融金属を溶接端部の隅々にまで送り込むことができるようにしたものである。
他方,引用刊行物に示された切欠きもまたシールドガスを抜くためのものであることは原告の認めるとおりであるので,本件発明1と何ら異なるところはない。
(2) 原告主張の相違点3’について 本件発明1のガス抜き用切欠きの大きさについては,何の限定もなく,原告主張のように4mm前後にしなければならない根拠はない。原告は,4mmを超えると切欠きから溶融メタルが漏れると主張するが,本件発明1の切欠きの幅が4mmを超えても,直ちに溶融メタルの漏洩が発生し,タブとしての特性を欠くという筋合いのものではない。したがって,切欠きの大きさについて,本件発明1と引用刊行物に記載されたものとの間には特段の相違は見られない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について 審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件発明2の容易想到性に関する判断の誤り)について 審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1と引用発明との相違点の認定の誤り)ついて (1) 原告は,審決が認定した相違点2は,相違点ではないと主張し,この点に関する正しい相違点は,相違点2’,3’であると主張するので,検討すると,まず,原告主張の相違点2’は,「ガス抜き用切欠き又はガス抜き穴の抜くガスが,本件発明1では初層溶接の溶融メタル内に残留しているガスであるのに対し,引用発明ではシールドガスである点」というものである。しかしながら,本件発明1の特許請求の範囲の記載において,ガスに関しては何ら規定するところがないから,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものというほかなく,ガス抜き用切欠き又はガス抜き穴から抜くガスの点を相違点としなかった審決の認定に誤りはない。
なお,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,本件発明の課題として,「溶接時には溶融物からガスが発生するが,これが浮上しきれないで溶融メタル内に残留して凝固すると溶接欠陥となることは良く知られている。この溶接欠陥は特に初層溶接部において生じ易いことから,従来より様々なガス抜き対策が検討され・・・本発明は,かゝる状況に鑑みて,より効果的にガス抜きができる溶接用エンドタブを提供することを目的としている」(段落【0003】〜【0004】)等の記載がある。しかし,これらの記載をもっては,本件発明1においてガス抜き用切欠きから抜くガスが,初層溶接の溶融メタル内に残留しているガスに限られると解することはできず,むしろ,技術的見地からは,タブの底部に設けた切欠きから溶接時に噴射するシールドガスが吹き抜けることで,溶融金属が溶接端部の隅々まで送り込まれ,初層溶接における溶接欠陥を防止することができるとする被告の説明の方がはるかに合理的であり,当業者の理解にも合致すると考えられる。
(2) 原告は,また,相違点3’として,ガス抜き用切欠き又はガス抜き穴が,本件発明1では,溶融メタルがエンドタブの外に漏れない大きさであるのに対し,引用発明では開先底部の幅以上に広いものである点を主張し,更に具体的に,本件発明1の溶接用セラミックエンドタブのガス抜き用切欠きの幅は,4mm前後にする必要があるのに対して,引用発明のエンドタブのガス抜き穴は,開先底部の幅以上に広く,開先底部の幅は,甲5文献によれば6mm〜9mmであるから,引用発明のガス抜き穴の幅は6mm〜9mm以上である点で相違する旨主張する。
しかしながら,溶接用セラミックエンドタブのガス抜き用切欠きに関する幅についても,本件発明1の特許請求の範囲の記載には,何ら規定されておらず,4mm前後と限定して理解すべき根拠も見当たらない。原告が指摘する甲5文献は,「鉄骨工事技術指針・工場製作編」と題された開先断面図が多数例示された冊子であり,そこに示された開先幅は,同文献の作成者が標準と考える一例を示したものと解されるから,引用発明における開先幅が,甲5文献に記載された数値に限定されるということは到底できない。
原告は,さらに,「ガス抜き穴」の大きさは,特に特定しなくても,セラミック製エンドタブの求められている本来の機能,すなわち,溶融メタルの流出を遮断する機能から4mm前後であることが特定され,また,セラミック製エンドタブにおいては,相違点3’で記載したようにシールドガスが溶接に悪影響を与えることはないので,ここでガスを抜くことは,初層溶接の溶融メタル内に残留しているガスを抜くことに特定されるとも主張するが,これらの点が自明の技術的事項であるとはいえず,特許請求の範囲に記載がない以上,上記判断を左右するものではない。
(3) 以上のとおりであるから,本件発明1と引用発明との間には相違点2’,3’があるとの原告の主張は採用することができず,これらの点を相違点とすることなく相違点1及び2を認定した審決に誤りがあるということはできない。
原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 相違点1の容易想到性に関する判断の誤りについて 原告は,審決が,相違点1につき,引用発明の「エンドタブの材質としてセラミックを採用することは,当業者であれば容易になし得たものである」と判断したことは誤りであり,材質をセラミックにしただけではガス抜き穴が大きいため溶融メタルが漏れるなどと主張する。
原告の上記主張は,引用発明のガス抜き穴の幅が6mm〜9mm以上であり,本件発明1のガス抜き用切欠きの幅が4mm前後であることを前提とするものであるが,これらの前提は,上記1(2)に説示したとおり,根拠のないものであるから,原告の主張はその前提において既に失当である。相違点1に関する審決の,「セラミック製エンドタブであっても,刊行物3(注,甲4文献)にも記載されているように,初層溶接におけるアークスタート部位とし,ブローホール等の溶接欠陥の発生防止等々の目的に用いられていることは周知であり,しかも,当該周知技術を後者(注,引用発明)のエンドタブに適用することを妨げる特段の事情も認められない以上,後者のエンドタブの材質としてセラミックを採用することは,当業者であれば容易になし得たものである」(審決謄本5頁最終段落〜6頁第1段落)との判断に誤りがあるとは認められない。
(2) 原告は,また,本件発明1においては,ガス抜き用切欠きを設けることによって溶融メタル内に残留しているガスを抜くことができるという,予測できない格別の効果を奏する旨主張する。しかしながら,粘性が高く,溶接点の移動に伴って急速に冷却,凝固することが当然に予測される溶融メタル内を,溶融物から発生したガスが横方向に移動し,有意の量がエンドタブの下部に設けたガス抜き用切欠きから外部に放出されるとは考え難く,むしろ,溶接時に溶融メタル上面近傍に大量に吹き付けられるシールドガスであれば,溶融メタル表面を通過してガス抜き用切欠きから有意の量が,エンドタブ外に放出されるであろうことは容易に予測されるところである。そうすると,エンドタブの平坦面の下部にガス抜き用切欠きを設けた本件発明1と,ガス抜き穴を設けた引用発明のゲージタブとの間に,作用効果上の格別の差異は見いだすことができないから,本件発明1の奏する効果は,引用発明や甲4発明から予測される程度のものであるとした審決の判断に,誤りがあるということはできない。
(3) 以上のとおり,本件発明1と引用発明との相違点1,2についての審決の判断に誤りは認められず,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(本件発明2の容易想到性に関する判断の誤り)について 原告は,本件発明2において限定された事項である「平坦面の両側若しくは片側にのみ堰を有する形状」を引用発明が具備していることについて争っておらず,本件発明2の容易想到性を否定する原告の主張は,詰まるところ,本件発明1が当業者の容易に想到し得るものではないから,本件発明1に従属する本件発明2も当業者の容易に想到し得るものではないというものである。
しかしながら,本件発明1が当業者の容易に想到し得たものであることについては,上記2に説示したところから明らかであり,本件発明2の容易想到性を肯定した審決の判断に誤りはない。
原告の取消事由3の主張は理由がない。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 岡本岳