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関連審決 無効2008-800246
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成21行ケ10247審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10353審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  製造方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  薬事法 /  参酌 /  技術的意義 /  発明の要旨認定 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  交換 /  業として /  請求の範囲 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10240号 審決取消請求事件
原告株式会社 ホンダトレーディン グ
同訴訟代理人弁護士 田中康久林太郎園部洋士眞鍋涼介伊藤周作片岡直輝
同 弁理士 飯塚雄二田 治米惠子
被告 株式会社日本生物科学研究所
同訴訟代理人弁護士 竹田稔木村耕 太郎服部謙 太朗
同 弁理士 進藤卓也
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/09/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2008-800246号事件について平成21年7月7日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求につき,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件特許(甲28)発明の名称:「納豆菌培養エキス」特許番号:第3881494号出願日:平成12年4月21日登録日:平成18年11月17日請求項の数:全5項(2)審判手続及び本件審決原告は,平成20年11月6日,本件特許に係る明細書(甲28。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。なお,本件特許の請求項1ないし5に係る各発明を併せて「本件発明」という。)についての特許に対して特許無効審判を請求し,無効2008-800246号として係属した。
特許庁は,平成21年7月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,同月17日,原告に送達された。
2発明の要旨本件発明1の要旨は,次のとおりである。
ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態の食品3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明1は,下記のア又はイの引用例に記載された各発明(以下,その順に従って「引用発明1」などという。)のいずれかであるということはできず,また,引用発明1,2又は3のいずれかと引用発明4とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないとし,本件発明1に係る特許を無効にすることができない,というものである。
ア引用例1:特開昭61-162184号公報(甲1)イ引用例2:特開平8-208512号公報(甲3)ウ引用例3:特開平11-92414号公報(甲5)エ引用例4:特開平3-297358号公報(甲4)(2)なお,本件審決が認定した引用発明1並びに本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点,引用発明2並びに本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点,引用発明3並びに本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりである。
(引用発明1の関係)ア引用発明1:ナットウキナーゼを含む粉末イ一致点:ナットウキナーゼを含有する粉末の形態の物品である点ウ相違点相違点1:物品が,本件発明1においては「1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2」を含有するのに対して,引用発明1においてはビタミンK2の含有量が明らかでない点相違点2:物品が,本件発明1においては納豆菌培養液又はその濃縮物を含むのに対して,引用発明1においては納豆菌培養液又はその濃縮物を含むのか否か明らかでない点相違点3:物品が,本件発明1においては「食品」であるのに対して,引用発明1においては用途が特定されていない(あるいは「医薬品」である)点(引用発明2の関係)ア引用発明2:ナットウキナーゼを含有する粉末,顆粒又はカプセルの形態の血栓形成阻害剤イ一致点:ナットウキナーゼを含有する粉末,顆粒又はカプセルの形態の血栓形成阻害剤である点ウ相違点相違点1’:物品が,本件発明1においては「1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2」を含有するのに対して,引用発明2においてはビタミンK2の含有量が明らかでない点相違点2’:物品が,本件発明1においては納豆菌培養液又はその濃縮物を含むのに対して,引用発明2においては納豆菌培養液又はその濃縮物を含むのか否か明らかでない点相違点3’:物品が,本件発明1においては「食品」であるのに対して,引用発明2においては「血栓形成阻害剤」である点(引用発明3の関係)ア引用発明3:納豆菌の培養液中に存在するビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化した後,該水不溶物を分離・回収することにより得られるビタミンK2を低減させた液体イ一致点:納豆菌培養液を含む液体の形態の物品である点ウ相違点相違点1”:物品が,本件発明1においては「ナットウキナーゼ」を含有するのに対して,引用発明3においてはナットウキナーゼを含有しているか否かが明らかでない点相違点2”:物品が,本件発明1においては「1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2」を含有するのに対して,引用発明3においてはビタミンK2の含有量が明らかでない点相違点3”:物品が,本件発明1においては「ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態」であるのに対して,引用発明3においては「液体の形態」である点相違点4”:物品が,本件発明1においては「食品」であるのに対して,引用発明3においては用途が特定されていない点4取消事由(1)本件発明1の新規性に係る判断の誤り(取消事由1)(2)本件発明1の進歩性に係る判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(本件発明1の新規性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件発明1の認定の誤りの有無ア発明の要旨認定について本件審決は,本件発明1に係る特許請求の範囲の「納豆菌培養液またはその濃縮物」の記載について,本件明細書の記載を参酌することが許されるとした。
しかしながら,本件発明1に係る特許請求の範囲には,「ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む」と記載されていることからすると,本件発明1の特許請求の範囲の「納豆菌培養液またはその濃縮物」との記載は,納豆菌を培養した液体のうちナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2を含有する状態のものであるということが一義的に明確になっている。
したがって,本件発明1の特許請求の範囲の「納豆菌培養液またはその濃縮物」について,明細書を参酌しなければならないような特別事情はなく,本件審決には,特許出願に係る発明の要旨認定は,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるとの最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁違反がある。
イ「栄養分に優れ」との認定について仮に,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載について,明細書の参酌が認められるとしても,本件審決が,本件発明1における「納豆菌培養液またはその濃縮物を含む」との記載を,少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているものと解釈したことには誤りがある。
本件発明1は,納豆菌培養液のキトサン処理により,ビタミンK2は,培養液から99%以上除去されることに着目し,ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液又はその濃縮物を含む物であって,本件明細書においては,ビタミンK2のみに着目されている。それにもかかわらず,本件発明1においてビタミンK2以外の納豆菌培養液に含まれているすべての栄養分について「栄養分に優れ」ているものであると解することは,明細書に記載されていない事実に基づくものである。本件発明1における「納豆菌培養液またはその濃縮物」は,ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有するものであって,それ以外の成分については,含有していてもしていなくてもよいというものである。
本件発明1が解決しようとする課題は,「有機溶媒を用いることなく,簡便にビタミンK2を除去できる方法」及び「その方法で生産される,ビタミンK2含量が低減された納豆菌培養エキス」を提供することである(本件明細書【0009】)。
他方,仮に,栄養分に優れていることが本件発明1の課題であるとすれば,従来技術における納豆菌培養液及び納豆菌培養液を精製した物と比較した上で,どのような栄養分がどれだけ含まれているのかについて発明の詳細な説明において示されているべきであるにもかかわらず,本件明細書には栄養分の内容及び質量等について何の説明も示唆もされていないことからも裏付けられる。
(2)引用発明1に基づく新規性の欠如の有無ア上記(1)アのとおり,本件発明1の「納豆菌培養液またはその濃縮物」との記載は,納豆菌を培養した液体のうち,ナットウキナーゼを含みビタミンK2の含量が1μg/g乾燥重量以下となっているものと解すべきものである。
そして,引用例1には,極性有機溶媒,塩析,吸着剤,イオン交換クロマトグラフィ,ゲル濾過,アフィニティクロマトグラフィ又は等電点電気泳動の組合せで処理することが記載されており,これらの処理によりビタミンK2の含量を1μg/g乾燥重量以下とすることが可能であるから,引用例1において,「納豆菌培養液またはその濃縮物」を含むとの構成が開示されているということができる。
イまた,「納豆菌培養液またはその濃縮物」が「少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているもの」であると解釈されるとしても,引用例1は,ナットウキナーゼの完全な精製物ではなく,少なくとも複数のタンパク質と複数のポリアミンは含まれているものが開示されている。
(3)引用発明2に基づく新規性の欠如の有無ア本件発明1の「納豆菌培養液またはその濃縮物」とは,納豆菌を培養した液体のうちナットウキナーゼを含みビタミンK2の含量が1μg/g 乾燥重量以下の状態となったものと解される。
しかるところ,引用例2には,納豆菌培養液を処理したものであることが開示されている(【0018】)。また,引用例2の【0010】及び【0018】によると,納豆菌培養液に対して精製処理を適宜組み合わせることにより,ビタミンK2を含有しない精製物としてナットウキナーゼを得られることが開示されており,ビタミンK2の含量が1μg/g乾燥重量以下となっている。
したがって,引用例2には,「納豆菌培養液またはその濃縮物を含む」という構成が開示されている。
イまた,「納豆菌培養液またはその濃縮物」が「少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているもの」であると解釈されるとしても,引用例2において開示された物は,ナットウキナーゼの完全な精製物ではなく,少なくとも複数のタンパク質と複数のポリアミンは含まれている。
したがって,引用例2においては,「少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているもの」が開示されている。
(4)小括したがって,本件発明1と引用発明1とは,相違点2において実質的に一致し,また,本件発明1と引用発明2とは,相違点2’において実質的に一致しているから,各相違点が実質的に相違するとして,本件発明1の新規性を認めた本件審決の判断には誤りがある。
〔被告の主張〕(1)本件発明1の認定の誤りの有無ア発明の要旨認定について(ア)発明の要旨認定においては,前掲最高裁判決のとおり「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない」ところ,この「特段の事情がある場合」を除き禁止される「明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すること」とは,明細書の発明の詳細な説明や図面だけに記載されている要素を付加することを指す。
本件審決は,「納豆菌培養液またはその濃縮物」の意義について,「納豆菌培養液またはその濃縮物」の技術用語としての意味に本来含まれない要素を付加して限定解釈をしているものではなく,前掲最高裁判決違反の問題は生じない。
(イ)本件発明1の特許請求の範囲の「納豆菌培養液またはその濃縮物」が,「ナットウキナーゼ」と「1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2」を含有する状態のものであるということが一義的に明確であることと,「納豆菌培養液またはその濃縮物」自体の意義について明細書の発明の詳細な説明参酌する必要があるか否かとは別問題である。
仮に,本件発明1の特許請求の範囲の「納豆菌培養液またはその濃縮物」を「少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているもの」と理解することが,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を「参酌」したことになるとしても,「納豆菌培養液またはその濃縮物」自体の意義は特許請求の範囲の記載からは一義的に明確でない以上,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して理解すべき特段の事情がある。
そもそも,特許請求の範囲の文言は技術用語で記載されており,その正確な意味内容は,明細書の発明の詳細な説明や図面を見て初めて理解できる場合が通常である。したがって,前掲判決にいう「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない」とは,特許請求の範囲の記載のみを読んで「一義的に明確に理解することができない」という意味ではなく,明細書の発明の詳細な説明や図面を見て技術内容を理解した上で,なお特許請求の範囲の記載からは「一義的に明確に理解することができない」ことをいうものである。
(ウ)以上のとおり,本件審決は,前掲判決のいう意味での明細書の発明の詳細な説明の記載の「参酌」(限定解釈)はしておらず,仮に明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌したものだとしても,特段の事情に基づいて参酌したものであって何の問題もない。
イ「栄養分に優れ」との認定について本件発明1は,?納豆菌培養液に含まれるナットウキナーゼの活性を維持すること,?納豆菌培養液に含まれるビタミンK2をほとんどあるいは全く含まれない状態とすること,?納豆菌培養液に含まれる「栄養分」をなるべく維持すること,?納豆菌培養液を食品として提供することのすべてを同時に満たすことを目的とした発明である。
本件発明1が「ナットウキナーゼを摂取するための納豆菌培養エキスにおいて,ナットウキナーゼの血栓溶解作用を強力にするため,ナットウキナーゼの血栓溶解作用の阻害要因となるビタミンK2を除去することに着目した発明である」ことと,「納豆菌培養液中に含まれる有効成分をほとんど損なうことなく,栄養価に優れた食品」を提供することとは,両立する課題であり,何ら矛盾しない。
本件明細書【0020】において,「この説明において,ビタミンK2などの数値は,用いる納豆菌の種類,培養条件などで変化するものであり,本発明を限定するものではない。」と記載されるように,本件発明1において,ビタミンK2の除去後も残存する栄養分の具体的成分や含有量は,用いる納豆菌の種類,培養条件などで若干は変化する可能性があるが,当業者が通常入手し得る「納豆菌」は,宮城野株,成瀬株及び高橋株の3種類にほぼ限られ,無数の種類が存在するわけではなく,納豆菌の培養条件についても,当業者の技術常識の範囲内で培養するものであるから,技術常識の範囲内で用意された培地に由来する栄養分又は技術常識の範囲内の培養条件で納豆菌が産生する栄養分の成分や量は,当業者であれば予測し得る範囲内のものにすぎない。本件審決は,「納豆菌培養液またはその濃縮物」は,「少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているもの」としているものであって,この判断に問題とすべきところはない。
(2)引用発明1に基づく新規性の欠如の有無ア上記(1)のとおり,本件発明1の「納豆菌培養液またはその濃縮物」とは,少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているものであるから,引用例1において,上記「納豆菌培養液またはその濃縮物」を含むとの構成が開示されているということはできず,本件発明1と引用発明1とは,相違点2において実質的に相違する。
イ原告は,「納豆菌培養液またはその濃縮物」が「少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているもの」であると解釈されるとしても,引用例1は,ナットウキナーゼの完全な精製物ではなく,少なくとも複数のタンパク質と複数のポリアミンは含まれているものが開示されていると主張する。
しかしながら,引用例1の精製物に,複数のタンパク質と複数のポリアミンが含まれていることの根拠は示されていない。
(3)引用発明2に基づく新規性の欠如の有無ア上記(1)のとおり,本件発明1の「納豆菌培養液またはその濃縮物」とは,少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているものであるから,引用例2において,上記「納豆菌培養液またはその濃縮物」を含むとの構成が開示されているということはできず,本件発明1と引用発明2とは,相違点2’において実質的に相違する。
イ原告は,仮に「納豆菌培養液またはその濃縮物」が「少なくとも納豆菌からの分泌物及び培地成分の残渣からなる種々の栄養分が有意な量含まれているもの」であると解釈されるとしても,引用例2において開示された物は,ナットウキナーゼの完全な精製物ではなく,少なくとも複数のタンパク質と複数のポリアミンは含まれていると主張する。
しかしながら,引用例2の精製物に複数のタンパク質と複数のポリアミンが含まれていることの根拠は示されていない。
(4)小括したがって,本件発明1と引用発明1とは相違点2において,また,本件発明1と引用発明2とは相違点2’において,いずれも実質的に相違しているから,本件発明1の新規性を認めた本件審決の判断に誤りはない。
2取消事由2(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)引用発明1との関係前記1の〔原告の主張〕(2)のとおり,相違点2につき本件発明1と引用発明1とは実質的に一致しているから,引用発明1において,当業者が相違点2に係る本件発明1の構成に想到することが困難であるとした本件審決には誤りがある。
(2)引用発明2との関係また,前記1の〔原告の主張〕(3)のとおり,相違点2’につき本件発明1と引用発明2とは実質的に一致しているから,引用発明2において,当業者が相違点2に係る本件発明1の構成に想到することが困難であるとした本件審決には誤りがある。
(3)引用発明3との関係ア本件審決は,引用例3で得られたビタミンK2を低減した液体には,高濃度の塩類あるいは有機溶媒を含むとし,高濃度の塩類あるいは有機溶媒を含む引用発明3を「食品」とすることは,塩類による食味又は食品機能の変性のおそれ,あるいは人体に影響を及ぼすおそれがあって,食品に有機溶媒が残留する可能性や消費者の抵抗感などが問題となるから,引用発明3を「食品」とすることは,当業者にとって考え難いと説示する。
イしかしながら,塩類による食味の変性については,食品として使用することの障害となる事情ではなく,塩類の食味に適合した食品とすればよく,また,食品機能の変性についても,ナットウキナーゼという機能物質が含まれることになることからすれば,このような機能物質を食品に取り込んで使用することは当業者であれば容易に想到するものである。
賞味の良い食品とするために問題があれば,必要な限度で,有機溶媒や塩類を除去すれば足りることであって,そのことは当業者であればだれでも気付く技術的な問題にすぎない。
また,本件審決は,引用発明3の残液について,人体への影響があるかのように主張するが,そのような影響があるとの証拠はない。引用例3における「塩類」である硫酸アンモニウムによる塩析は,タンパク質の溶解度の差を利用した分離方法であって,タンパク質を変性させ難いことが知られている(甲41)。また,硫酸アンモニウムの濃度を徐々に変えて濃度ごとに沈殿するタンパク質を分画する硫安分画も,一般的な分画方法である(甲42)。塩析後においては,上清を透析法,限外濾過法,ゲル濾過法等の公知の脱塩方法に供することによって,硫酸アンモニウムを除去することができるのであって,その際の条件設定(例えば,透析膜の分画分子量の選択)によって,硫酸アンモニウムを除去しながら,他の成分は残存するようにすることも可能である。そして,その脱塩後の納豆菌培養液は,食品としての使用も可能なもの,すなわち,本件発明1における「納豆菌培養液またはその濃縮物」に相当するものである。
さらに,消費者が抵抗感を有していても食品として販売されているものは多数存在するし,消費者の抵抗感の問題は,製品として大量生産大量販売を行うか否かの営業上の障害事由とはなっても,技術的に食品として利用することについては何ら障害となるものではない。
例えば,引用例1の実施例3でも,塩化カリウムを59%飽和で使用し,また,濾液に等量のエタノールを添加する処理を行ったものを,経口投与可能とし,引用例2【0010】の操作では,抽出液中のナットウキナーゼにアルコールを60ないし80容量%となるように添加するが,約100%のアルコールを使用した場合,それは抽出液100容量部に対してアルコールを150〜400容量部添加することになり,引用例3における場合と異ならない。
さらにまた,塩化カリウムは,塩化ナトリウム(食塩)と同様に食用の「塩」としても販売されているものであり,そもそもが食品となり得るものである。
さらにまた,溶解度差の利用,疎水性クロマトグラフィの利用などにより,塩類とナットウキナーゼとの混合液から塩類を除去することは容易であり,また,有機溶媒についても,減圧留去によりナットウキナーゼを熱で失活させることなく除去することは容易である。
引用例3における塩や有機溶媒の使用量は,再利用を想定しない大量の添加量でもない。
ウしたがって,引用発明3を食品として使用できないということはなく,当業者が引用発明3の残液を食品に使用することは容易に想到することができるから,引用発明3において,当業者が相違点4”に係る本件発明1の構成に想到することが困難であるとした本件審決の判断には誤りがある。
〔被告の主張〕(1)引用発明1との関係前記1の〔被告の主張〕(2)のとおり,相違点2につき本件発明1と引用発明1とは実質的に相違しており,原告の主張は理由がない。
(2)引用発明2との関係また,前記1の〔被告の主張〕(3)のとおり,相違点2’につき本件発明1と引用発明2とは実質的に相違しており,原告の主張は理由がない。
(3)引用発明3との関係ア原告は,塩類による食味の変性については,食品として使用することの障害となる事情ではなく,塩類の食味に適合した食品とすればよく,また,食品機能の変性についてもナットウキナーゼという機能物質が含まれることからすれば,このような機能物質を食品に取り込んで使用することは当業者であれば容易に想到すると主張する。
しかしながら,引用例3における「塩類」とは,硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを初めとする薬品類であって(【0009】【0012】及び実施例2),このような食品としての利用がおよそ予定されていない薬品類を大量に添加するもの(【0012】)である。これは,まさに「食品として使用することの障害となる事情」であり,塩類の食味に適合した食品とすればよいなどという問題ではない。
本件審決が説示する「食品機能の変性のおそれ」とは,主に,塩類の大量添加によってナットウキナーゼが活性を失うおそれを指すものと解され,原告の上記主張は理由がない。
イまた,原告は,引用発明3の残液について人体に影響があるとの証拠はないと主張する。しかしながら,硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムなどの塩類を大量に添加してビタミンK2を沈殿させた後の残液は,人体に影響を及ぼすおそれがあると考えるのが常識的であり,当業者としては,そのようながい然性のある物質を「食品」として利用することは不可能である。
さらに,原告は,消費者の抵抗感の問題は,製品として大量生産大量販売を行うか否かの営業上の障害事由とはなっても,技術的に食品として利用することについては何ら障害となるものではないと主張する。しかしながら,特許法は「産業の発達に寄与」(同法1条)することを目的としており,特許発明は産業上の利用可能性を要件とし(同法29条1項),特許権とは「業として特許発明実施を専有する権利(同法68条)であって,特許制度は,科学技術の理論的な進歩を産業上の利用可能性を離れて学術的に評価するような制度ではない。また,本件明細書【0008】において,「消費者の抵抗感などの問題」は従来技術の課題の1つとして明記されており,本件明細書に記載された従来技術の課題を克服していない先行技術によって,特許発明進歩性が否定されるなどということは不当である。
なお,原告は,引用例1や2でも塩類や有機溶媒を引用例3と同程度に大量に添加していると主張するが,引用発明1や2は医薬品の発明であって食品の発明ではないところ,医薬品は,目的物を高度に精製するため最終製品に塩類や有機溶媒が残留することはほとんど許されないが,本件発明1は,食品の発明であって,目的物を医薬品のように高度に精製するものではないから,大量に添加した塩類や有機溶媒が消費者の抵抗感を払拭できる程度まで除去されるということはおよそ考えにくい。
また,原告は,添加した塩類や有機溶媒を除去することは容易であると主張する。しかしながら,これらについて,たといある程度は除去することが可能であるとしても,消費者の抵抗感が払拭される程度まで除去できるか,しかも薬事法に違反しない態様において(医薬品の程度の高度の精製を行わないで)除去できるか,あるいは塩類や有機溶媒を除去した後の残液においてナットウキナーゼがなお活性を有した状態において残存しているか,残液において種々の栄養分が残存しているかといった問題を克服しなければ本件発明1の構成に想到することはできないものであって,溶液に添加した塩類や有機溶媒は一般的に除去可能であるという程度の知見によって本件発明1が容易に発明できたものとはならない。
ウしたがって,当業者が,引用発明3において,相違点4”に係る本件発明1の構成に相当することが容易であったとすることはできない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(本件発明1の新規性に係る判断の誤り)について(1)本件発明1本件発明1は,前記第2の2のとおりのものであり,ナットウキナーゼと1μg/g乾燥重量以下のビタミンK2とを含有する納豆菌培養液またはその濃縮物を含む,ペースト,粉末,顆粒,カプセル,ドリンクまたは錠剤の形態の食品であって,ナットウキナーゼを含有するが,ビタミンK2をほとんどあるいは全く含有しない納豆菌培養液又はその濃縮物を含む食品に関するものである。
(2)引用発明1ア引用例1の記載について(ア)引用例1の特許請求の範囲には,(1)納豆,納豆菌及びその培養液から抽出され,次の特性を有することを特徴とする新規な線溶酵素「分子量:約20,000(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法及びセファデックスG-100によるゲル濾過で測定した。)等電点:約8.6性状:白色無定形粉末…」等の記載がある。
(イ)また,引用例1の発明の詳細な説明には,以下の記載等がある。
引用発明1は,納豆,納豆菌及びその培養液から抽出された新規な線溶酵素に関するものである。本発明者は,経口投与で人体に全く無害であり,しかも線溶活性の高い酵素検索の結果,納豆の中に強力な線溶活性のあることを発見し,そして納豆,納豆菌及びその培養液より同活性を持つ新規な酵素の分離に成功するに至った。
この新規線溶酵素は,納豆あるいは納豆菌に水性溶媒を加えてホモゲナィズし,適当な時間,適当な温度に保持して抽出した抽出液若しくは納豆菌の培養液をそのまま,又は適当な時間,適当な温度に保持した後,濃縮,透析又は乾燥した後,極性有機溶媒,塩析,限界濾過,吸着剤,イオン交換クロマトグラフィ,ゲル濾過,アフィニティクロマトグラフィ又は等電点電気泳動の組合せで処理することにより得ることができる納豆,納豆菌由来であり,強い線溶活性を有する。
実施例2として,300ml容フラスコ5個に各々200mlの培養基(ヘンネベルク(Henneberg)液:グルコース6g,ペプトン2g,酒精8ml,肉エキス2gを含む)を入れ,殺菌した後,あらかじめ普通寒天培地に予備培養しておいた菌株である納豆菌(Bacillus natto)10ないし20mlを接種し,43ないし45℃で40時間振盪培養した。次に,培養液を集め,1,850×g10分間遠心し,この上清を使用するまで-20℃に保存した。培養液を合して攪拌しながら等量のアセトンを加え,ガーゼで濾過し得られた上清をエバポレーターで濃縮し,実施例1と同条件のゲル濾過にかけた。活性の主ピークに得られた蛋白量は約28mg,線溶活性は約8.0CU/mg蛋白であった。
実施例4として,実施例2により得た培養上清1.5lを限外濃縮して液量を約50mlとし,0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で24時間透析した後,同緩衝液にて平衡化した。Nアルファ・イプシロンアミノカプロイル-DL-ホモアルギニンヘキシルエステル-ヤファロースに吸着させた。この樹脂の調整及びカラム操作は,須見らの方法〔アクタ・ヘマトロジカ・ジャポニカ(Acta Hcfm Jap.)41巻766頁(昭和53年)〕に従って行った。吸着後2MNaClを含む同緩衝液でよく洗浄し,次いで6M尿素及び2MNaClを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)にて吸着分画を溶出し,溶出分画を0.15M重炭酸アンモニウムで透析後,限外濃縮し,更にセファデックスG-100によるゲル濾過した。線溶酵素の溶出位置は分子量約20,000であつた。この分画を透析し,凍結乾燥することにより精製品約7.4mgを得た。この精製品の比活性は約47.5CU/mg蛋白であつた。
イ引用発明1の技術内容引用例1における上記アの記載等によると,引用発明1は,納豆,納豆記及びその培養液から抽出された分子量約20,000,等電点約8.6の「新規な線溶酵素」である白色無定形粉末であるところ,納豆菌由来の分子量が約20,000,等電点約8.6の線溶酵素は「ナットウキナーゼ」であることから(甲36),引用発明1は,前記第2の3(2)アのとおり,ナットウキナーゼを含む粉末であるが,納豆菌培養液から抽出されたものではあるとはいえ,その培養液を精製して得られたものであって,「納豆菌培養液またはその濃縮物」自体は含まないものと認めることができる。
(3)相違点2以上によると,本件発明1は,「納豆菌培養液またはその濃縮物を含む」ものであるのに対し,引用発明1は,ナットウキナーゼを含む粉末であり,納豆菌培養液から抽出されたものではあるが,その培養液を精製して得られたものであって,「納豆菌培養液またはその濃縮物」を含まないものであるから,本件発明1と引用発明1とは,相違点2において実質的に相違するということができる。
(4)引用発明2ア引用例2の記載について(ア)引用例2の特許請求の範囲には,納豆菌の生産する線溶酵素を有効成分としてなる血栓形成阻害剤(【請求項1】)との記載がある。
(イ)また,引用例2の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
引用発明2は,納豆菌(Bacillus Subtilis Natto)の生産する線溶酵素を有効成分とする血栓形成若しくは血栓再閉塞阻害剤及びフィブリノーゲン限定分解剤に関する(【0001】)。納豆菌の生産する線溶酵素についてはその抽出,精製法,性状,物性及び用途が前記数種の文献に発表され,多くの場合ナットウキナーゼと呼ばれている(【0009】)。本発明に用いるナットウキナーゼは粗製物でも精製物でもよい。ナットウキナーゼは納豆又は納豆菌の培養物に含まれ,中性若しくは弱塩基性の水又は塩化ナトリウムや塩化カリウムなどを含む,リン酸緩衝液(pH6ないし8),トリス緩衝液(pH7ないし9)を用いて抽出することができ,この抽出液中のナットウキナーゼは,メタノール,エタノールのような低級脂肪族アルコールを60ないし80v/v%となるように,又は硫酸アンモニウムを40ないし60w/v%となるように,加えれば沈澱させることができる。この沈澱中のナットウキナーゼはブチルセファローズR,アルキルセファローズR(ファルマシア社)のような疏水性担体やモノーQR,Qセファローズ・ファスト・フロウのような強塩性陽イオン交換体に吸着及び溶出させるクロマトグラフィで精製することができ,あるいは陰イオン交換体に不純物を吸着,除去して精製できる。さらにセファクリルS-200RやセファデックスQR(ファルマシア社)のような担体を用いるゲル濾過クロマトグラフィにより精製することができる。これらのクロマトグラフィは,前記の発表された方法若しくはそれに準じた方法の1又は2以上を用いることができる(【0010】)。
引用発明2の酵素剤は,経口投与に適しているが,胃酸によりナットウキナーゼが分解することを防ぐため,腸溶製剤の形で投与することが好ましく,腸溶製剤は,酵素含有粉末,顆粒又は溶液を腸溶カプセルに充てんし,あるいは顆粒や錠剤をエンテリックコーティングすることで調製し得る。引用発明2の酵素剤は,血中フィブリノーゲンを分解し,血栓の形成若しくはいったん溶解した血栓の再閉塞を防ぐために精製物として成人1日当たり,1ないし3gを1回若しくは数回経口投与することができる(【0014】)。
培養ナットウキナーゼ精製物の製造の参考例2として,2%フラクトース,1.5%イソペプトン(Difco Lab.),0.2%酵母エキス,0.1%リン酸二水素カリウム,0.3%リン酸水素二カリウム,0.05%硫酸マグネシウム・5水和物,0.02%塩化カルシウム・2水和物,pH7.0の組成に終濃度2%のマルトースを加えた培地100mlを500ml容三角フラスコに入れ,納豆菌であるバチルス・ズブチリスB-407株(微工研条寄4043号)を接種して,0℃で18時間種母培養した上,種母培養液50ml(2%)を0.1%カラリンを含む同じ組成の培地2.5リットルの入った5リットル容発酵槽に加え,回転数800rpm,30℃で毎分2.5リットルの空気を送りながら,70時間通気攪拌培養し,その培養上清に終濃度1.5Mとなるように硫安を加え,あらかじめ1.5M硫安,10mMリン酸ナトリウムpH7.2で平衡化しておいたブチル・セファロース4ファーストフロー(ファルマシア)に吸着させた。同緩衝液で洗浄した後,0.5M硫安,10mMリン酸ナトリウム,pH7.2でナットウキナーゼを段階溶出させ,合成基質Suc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAに対する水解活性の画分を採取した。セファデックスG-25(ファルマシア)により,10mMリン酸ナトリウム,pH7.2に緩衝液を交換したのち,S-セファロース ファーストフロー(ファルマシア)に吸着させ,同緩衝液で洗浄後,0.1M塩化ナトリウム,10mMリン酸ナトリウム,pH7.2で段階溶出させ,同様に活性画分を採取した。最後に,0.12M塩化ナトリウム,10mMリン酸ナトリウム,pH7.5で平衡化したセファクリルS-200HR(ファルマシアにてゲル濾過を行い単一のピークを示す活性画分として精製ナットウキナーゼを得た(【0018】)。
イ引用発明2の技術内容引用発明2は,前記第2の3(2)のとおり,ナットウキナーゼを含有する粉末,顆粒又はカプセルの形態の血栓形成阻害剤であるが,引用例2における上記アの記載等によると,納豆菌培養液を精製することで得られたものであるから,「納豆菌培養液またはその濃縮物」を含まないと認めることができる。
(5)相違点2’以上によると,本件発明1は,「納豆菌培養液またはその濃縮物を含む」ものであるのに対し,引用発明2は,納豆菌培養液を精製することで得られたものであって,「納豆菌培養液またはその濃縮物」を含まないものであるから,本件発明1と引用発明2とは,相違点2’において実質的に相違するということができる。
(6)小括したがって,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)について(1)引用発明1との関係この点につき,原告は,相違点2が実質的に一致していると主張するが,前記1(3)のとおり,本件発明1と引用発明1との相違点2は実質的に相違するものであるから,原告の主張は採用することができない。
(2)引用発明2との関係この点につき,原告は,相違点2’が実質的に一致していると主張するが,前記1(5)のとおり,本件発明1と引用発明2との相違点2’は実質的に相違するものであるから,原告の主張は採用することができない。
(3)引用発明3との関係ア引用例3の記載について(ア)引用例3の特許請求の範囲には,枯草菌培養液中に存在するビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化した後,該水不溶物を分離,回収することを特徴とするビタミンK2濃縮物の製造法(【請求項1】),ビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化する方法が,培養液のpHを6.0以下に調整することである請求項1記載のビタミンK2濃縮物の製造法(【請求項2】),ビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化する方法が,培養液に塩類を添加することである請求項1記載のビタミンK2濃縮物の製造法(【請求項3】),ビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化する方法が,培養液に有機溶媒を添加することである請求項1記載のビタミンK2濃縮物の製造法(【請求項4】),枯草菌が納豆菌である請求項1記載のビタミンK2濃縮物の製造法(【請求項7】)との記載がある。
(イ)また,引用例3の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
発明の属する技術分野として,引用発明3は,枯草菌培養液から,ビタミンKを効率的に回収することを目的としたビタミンK濃縮物の製造法に関するものである(【0001】)。
発明が解決しようとする課題として,ビタミンKの発酵生産が種々行われているが,例えば,ロドシュードモナス属に属する菌株は食経験がなく安全性に問題があり,食品としての安全性を考えると可食である納豆菌など枯草菌の利用が望まれるところであるが,枯草菌の作るビタミンK2のかなりの量が菌体外の水溶性ミセルに含まれるため,公知の方法により菌体を回収したとしても,効率的にビタミンK2を集めることができないため,枯草菌培養液中に含まれるビタミンK含有水溶性ミセルを効率的に回収する技術の開発が望まれていた(【0005】)。そして,課題を解決するための手段として,枯草菌培養液中に存在するビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化した後,生成された水不溶物を分離,回収することとした(【0006】)。
実施の形態として,枯草菌培養液のpHを6.0以下に調整して該培養液中のビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化させる場合,pH調整に使用する酸については特に制限はなく,例えば,塩酸,硫酸,炭酸,リン酸,硝酸,トリクロロ酢酸などの無機酸や,乳酸,酢酸,クエン酸,リンゴ酸,酪酸,脂肪酸などのカルボン酸,その他,アスパラギン酸やグルタミン酸などの酸性アミノ酸などが使用でき,さらに,リン酸2水素ナトリウムやリン酸2水素カリウム,またクエン酸カリウムやクエン酸ナトリウムなど酸の塩類を添加しても良いし,トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンや重フタル酸など緩衝液に用いられる薬剤を使用してもかまわず,更には硫化水素や炭酸ガスなど気体を溶存させ,酸を発生させることによりpHを低下させることも可能であり,また,酢酸菌,乳酸菌,酵母などの,培養が進行するにつれてpHを低下させる微生物を使用して,納豆菌培養液にこれらの微生物を繁殖させてpHを調整することもでき,さらに,工業的に使用されている潜伏性のpH降下剤を使用してもかまわない(【0009】)。枯草菌培養液のpHを6.0以下に調整した後,該培養液を遠心分離処理すれば,沈殿物中にビタミンK2を効率的に回収することができるが,回収効率の点からは,より好ましくは,pHを1.0ないしpH5.5に,更に好ましくはpH2.0〜4.5に調整するとよい(【0010】)。
ビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化するために枯草菌培養液中に添加する塩類としては,前記塩類の外,硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウム,塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウム等があり,これらは1種単独又は2種以上を組み合わせて使用でき,その際,水溶性ミセルの沈殿を形成させるためには,10%飽和以上で効果が現れるが,好ましくは30%飽和以上,より好ましくは45%飽和以上添加するとよい(【0011】)。ビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化するために枯草菌培養液中に添加する有機溶媒としては,メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール,ブタノールなどのアルコールや,炭素数5ないし10の炭化水素あるいは炭素数2ないし10のエーテル,エステル,ケトンの群から選ばれる有機溶媒があり,これらは1種単独又は2種以上を組み合わせて使用でき,その際,水溶性ミセルの沈殿を形成させるためには,培養液100容量部に対して有機溶媒を10容量部以上,好ましくは50容量部以上,更に好ましくは70容量部以上添加するとよい(【0012】)。
なお,枯草菌培養液中のビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化するための上記の方法については,単独のみならず,2種以上の方法を組み合わせてもよい(【0013】)。
引用発明3に用いる培養液を製造するために使われる菌株は,枯草菌(Bacillus subtilis) に属する菌種であればよく,汎用性という観点からは納豆の製造に使われる納豆菌が好ましく,また,枯草菌や納豆菌を変異処理などにより育種あるいは選抜した株により製造した培養液についても使用でき,発酵条件や培地条件などに制限はない。その中でも枯草菌培養液を得るために使用される培地としては,大豆粉,大豆煮汁,コーンスチープリカー,廃糖蜜,グルコース,シュークロースなど一般的に発酵工業で使用されている培地がよく,また,脱脂大豆,挽き割り大豆あるいは丸大豆など固形の培地を使って枯草菌を培養後,水や塩溶液などと混合して培養液を得ることもできる(【0015】)。
発明の効果として,枯草菌培養液中に存在するビタミンK2含有水溶性ミセルを,?培養液のpHを6.0以下に調整する,?培養液中に塩を添加する,?培養液中に有機溶媒を添加する3種の手段により不溶性化した後,この水不溶物を分離,回収すると,著しく効率的にビタミンK2を取り出すことができる(【0025】)。
イ引用発明3の技術内容以上の記載によると,引用例3に記載されている課題としての発明は,納豆菌である枯草菌の培養液中に存在するビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化した後,該水不溶物を分離,回収することを特徴とするビタミンK2濃縮物の製造法であるところ,上記の発明によってビタミンK2を分離・回収した後に残る液体は,ビタミンK2を低減させた納豆菌培養液ということができないわけではない。
したがって,引用例3には,その発明本来の目的である納豆菌の培養液中に存在するビタミンK2含有水溶性ミセルを不溶性化した後の結果として,該水不溶物を分離・回収することにより得られるビタミンK2を低減させた液体が残る,その技術思想も記載されていると認め得ないわけではなく,この技術思想によるものを引用発明3とするものである。
しかしながら,引用例3には,水不溶物を分離・回収した後の残りの液体を「食品」とすることについては何ら記載されておらず,その示唆もなく,「食品」とするための技術思想が記載されていると認め得る余地はないということができる。
以上に加えて,元来食品である納豆に係る納豆菌を利用するものであったというたけで,種々の処置をした後の残りの液体についての引用発明3につき,当然に「食品」とすることができると考え得るものでもない。
ウしたがって,引用発明3によってビタミンK2含有水溶液を不溶性化した該水不溶物を分離・回収した残りの液体を「食品」とすることは,当業者にとって考え難いものであるから,引用発明3それ自体から本件発明1を想到することは容易ではなく,この点に本件審決の判断に誤りはない。
(4)引用発明4との関係なお,本件審決は,引用発明4について言及し,引用発明1,2又は3と引用発明4とに基づいて本件発明1を発明することができたものということはできないと判断しているので,この点について付言する。
ア引用例4の記載について(ア)引用例4の特許請求の範囲には,納豆を製造するに際して,ビタミンK低産生性である納豆菌変異株A-1(Bacillus sp.A-1)を使用することを特徴とするビタミンK含量の低い納豆の製造方法との記載がある。
(イ)また,引用例4の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
従来の技術として,納豆菌は,枯草菌の一種で,ビタミンKの産生作用は非常に強く,一般にビタミンK産生作用が強いといわれている大腸菌の12ないし13倍にも達し,納豆中には多量のビタミンKが存在し(6000〜8000ng/g納豆),これは,通常ビタミンKを多く含む緑色野菜や海草よりはるかに多量であって,栄養上の観点から納豆を食することは一般に奨励されている。しかし,課題として,ビタミンKは,血液凝固因子でもあることから,例えば,手術後血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人は,納豆を食することを通常控えるのが望ましいとされているところ,ビタミンKの含量が低い納豆を提供することができるならば,一般の消費者はもちろん,上記のような症状に悩んでいる人も安心して食することができ,産業上益することが多大となる。
上記課題の解決手段として,引用発明4の発明者等は,納豆の原料である大豆は,それ自体ビタミンK含量が非常に低いことから,ビタミンKの産生能の低い納豆菌を開発するならば,ビタミンK含量の低い納豆を製造することができるのではないかと,着目し,研究を重ね,従来の市販の納豆菌を変位処理して得られた変異株が所期の目的を達成し得る細菌であることを見いだしたもので,納豆を製造するに際して,ビタミンK低産生性である納豆菌変異株A-1(Bacillus sp.A-1)を使用することを特徴とするビタミンK含量の低い納豆の製造方法を提供するものである。
イ引用発明4の技術思想以上の記載によると,引用発明4は,血栓症の発生を予防する抗凝固療法を行っている患者や血栓症の危険性のある人も安心して食することができるようにするために,納豆におけるビタミンKの含量を低くするものである。
したがって,引用例4には,食品である納豆におけるビタミンKの含量を低くするとの技術思想が開示はされている。
しかしながら,引用例4は,納豆菌培養液を利用するものではなく,種々の処置を行って作出された納豆菌培養液を食品に適用することについては記載も示唆もない。
ウ以上のとおり,引用例4には,食品である納豆におけるビタミンKの含量を低くするとの技術思想が開示はされているが,納豆菌培養液を食品に適用することについては記載も示唆もないから,当業者において,この引用発明4を引用発明1,2又は3に適用しても,同発明が本件発明1の「食品」の構成に到達することが容易であったということはできない。
(5)小括したがって,取消事由2は理由がない。
3その余の相違点に係る原告の主張についてなお,原告は,本件審決が判断をしていない相違点1,3,1’,3’及び1”ないし3”についてもるる主張するが,相違点2及び2’につき実質的に相違するものであり,また,相違点2,2’及び4”につき容易想到ということもできないから,同主張は,本件審決の結論に影響しない。
4結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 荒井章光
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