関連審決 | 不服2007-30633 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21行ケ10281審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10068審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10033審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10253審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10038審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 反復(反復可能性) / 新規性 / 進歩性(29条2項) / 技術的範囲 / 技術常識 / 明確性 / 発明の詳細な説明 / 化学構造 / 発明が明確 / 優先権 / 優先日 / 参酌 / 数値限定 / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 発明の範囲 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 独立特許要件 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
21年
(行ケ)
10434号
審決取消請求事件
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原告 ザプ ロクタ ーアンドギャンブ ルカンパニー 訴訟代理人弁護士 吉武賢次 同 宮嶋学 同 田泰彦 同 柏延之 訴訟代理人弁理士 勝沼宏仁 同 永井浩之 同 岡田淳平 被告 特許庁長官 指定代理人 村上聡 同 鳥居稔 同 鈴木由紀夫 同 紀本孝 同 小林和男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2010/08/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1特許庁が不服2007−30633号事件について平成21年8月19- 2 -日にした審決を取り消す。 2訴訟費用は,被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求 主文同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成14年7月25日,発明の名称を「伸縮性トップシートを有する吸収性物品」とする発明について,特許出願(特願2003-515189号。 優先日 平成13年7月26日,優先権主張国 欧州特許庁)をし(甲1),平成18年7月20日に手続補正をしたが(甲2),平成19年8月9日に拒絶査定がされ(甲4),これに対し,平成19年11月12日,不服の審判(不服2007-30633号事件)を請求し,同年12月12日,特許請求の範囲を対象とする手続補正(以下「本件補正」という。甲3)をした。 特許庁は,平成21年8月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。附加期間90日)をし,その謄本は,平成21年9月1日,原告に送達された。 2特許請求の範囲本件補正後の本願に係る明細書(以下,図面と併せて,「本願補正明細書」という。甲2,3)の特許請求の範囲(請求項の数4)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,本件補正後の請求項1に係る発明を「本願補正発明1」のようにいう。なお,下線部分が本件補正部分である。甲3。別紙「本願補正明細書図面」の「Fig:1」及び「Fig:2」参照)。 「【請求項1】バックシートとトップシートとを有する吸収性物品であって,第1腰部区域,第2腰部区域,それらの間に挟まれた股部区域,長手方向軸線,及び前記トップシートと前記バックシートとの間に配置され,中に排泄物を受けるための主要空間まで通路を提供する開口部を具備し,前記開口部が前記長手方向軸線に沿って少なくとも前記股部区域に配置され,前記トップシートが伸縮性であり,当該物品が,当該物品の弛緩した状態での長手方向寸法の60%の長さである短縮物品長Lと,伸張時短縮物品長Lsとを有する短縮物品部分を有し,当該物品が次の弾性特性:0.25Lsで0.6N未満の第1負荷力,0.55Lsで3.5N未満の第1負荷力,及び0.8Lsで7.0N未満の第1負荷力,並びに0.55Lsで0.4N超の第2負荷軽減力,及び0.80Lsで1.4N超の第2負荷軽減力,を有する吸収性物品。 【請求項2】0.5Ls未満の収縮時短縮物品長Lcを有する,請求項1に記載の吸収性物品。 【請求項3】スリット開口部が,長手方向の対向する側縁部を具備し,各側縁部が自らに沿って配置された1以上の伸縮性区域を有する,請求項1又は2に記載の物品。 【請求項4】前記伸縮性区域それぞれの一方の末端部が接続されている,前記トップシートの前記第1腰部区域に隣接する第1ウエストバンドと,各伸縮性区域の他方の末端部分が接続されている,前記トップシートの前記第2腰部区域に隣接する第2ウエストバンドとを有する,請求項1〜3のいずれか一項に記載の物品。」3審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。審決の判断の概要は,以下のとおりである。 (1)本願補正発明1の課題は,トップシートの糞便が通過できる開口が設けられた吸収性物品において,当該吸収性物品の適用中に開口の位置合わせを適切に行うことである。しかし,「伸長時短縮物品長Ls」と,「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」との関係により物品の弾性力を特定することが,吸収性物品の機能,特性,課題解決と,どのように関連するのかは,明確ではない。 また,「0.25Lsで0.6N未満の第1負荷力,0.55Lsで3.5N未満の第1負荷力,及び0.8Lsで7.0N未満の第1負荷力,並びに0.55Lsで0.4N超の第2負荷軽減力,及び0.80Lsで1.4N超の第2負荷軽減力」との特定による作用効果も明確ではない。よって,本願補正発明1において,「伸長時短縮物品長Ls」を用いて,「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」との関係で物品の弾性特性を特定することの技術的意味は明確ではない。そうすると,本願補正発明1及びこれを引用する本願補正発明2ないし4(以下,本願補正発明1ないし4を「本願各補正発明」という場合がある。)に係る特許請求の範囲の記載は,不明確であり,特許法(判決注平成14年法律第24号による改正前の特許法。以下,単に「法」という。)36条6項2号に違反する。 (2)また,本願補正発明2は,「収縮時短縮物品長Lc」と「伸長時短縮物品長Ls」(0.5Ls未満)との関係で,吸収性物品の構成を特定するものであるが,「収縮時短縮物品長Lc」と「伸長時短縮物品長Ls」との関係を特定することが,吸収性物品の機能,特性等とどのような関連性を有するのかが,明確ではない。また,「0.5Ls未満の収縮時短縮物品長Lc」との構成を採用することによる作用効果も明確ではない。よって,本願補正発明2において,「収縮時短縮物品長Lc」と「伸長時短縮物品長Ls」との関係で吸収性物品の構成を特定することの技術的意味は明確ではなく,本願補正発明2並びにこれを引用する本願補正発明3及び4に係る特許請求の範囲の記載は不明確であり,いずれも法36条6項2号に違反する。 (3)したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下する。 (4)そうすると,本願に係る発明は,平成18年7月20日に補正された後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明(以下「本願発明1ないし4」という。)になる。そして,その本願発明1ないし4は,本願補正発明1ないし4に対応し,本願補正発明1の「短縮物品長L」から「当該物品の弛緩した状態での長手方向寸法の60%の長さである」との限定を除く構成については,本願補正発明1ないし4と同一である。そうすると,本願発明1ないし4は,本願補正発明1ないし4に係る法36条6項2号の記載要件違反を包含するといえるから,本願補正発明1ないし4と同様の理由により,その特許請求の範囲の記載が不明確なものとして,法36条6項2号に適合しないものとして特許を受けることができない。 第3当事者の主張1取消事由に係る原告の主張審決には,以下のとおり,(1)法36条6項2号の解釈,適用の誤り,(2)本願各補正発明の技術的意味が明確でないとした判断の誤りがあり,本願各補正発明が法36条6項2号に違反し,独立特許要件を欠くとして本件補正を却下した審決の判断は,違法であるから,取り消されるべきである。 (1)法36条6項2号の解釈,適用の誤りア法36条6項2号該当性の判断は,明細書の発明の詳細な説明及び図面も考慮した上で,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかどうかという観点から判断されるべきである(知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10107号平成20年10月30日判決参照)。 イこれを本件についてみると,本願補正明細書(甲2)の段落【0001】ないし【0010】の記載によれば,本願各補正発明の解決課題及びその解決手段を明確に理解することができる。また,「伸張時短縮物品長Ls」,「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」等のパラメータの測定条件・方法等については,当業者であれば本願補正明細書の段落【0032】ないし【0037】,【0049】ないし【0052】,【0058】ないし【0060】,【0066】等を考慮すれば,明確に理解することができる。 また,本願補正発明2記載の「収縮時短縮物品長Lc」についても,当業者であれば本願補正明細書の段落【0038】ないし【0042】を参酌することにより,その測定条件・方法等を明確に理解することができる。 ウそうすると,第三者は,本願各補正発明に記載された各種のパラメータを基に本願各補正発明に係る弾性特性を明確に理解することができ,各吸収性物品の弾性特性に係る各種パラメータの数値を測定することによって,当該吸収性物品が本願各補正発明の特許請求の範囲に含まれるか否かを確定することができる。したがって,本願各補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないから,法36条6項2号に違反しない。 そうであるのに,審決は,発明の構成自体の明確性ではなく,本願各補正発明の奏する作用効果(課題解決)との関連において,構成の技術的意味の明確性を問題にし,法36条6項2号違反を理由に本件補正を却下しているから,審決の同号の解釈,適用には誤りがある。 (2)本願各補正発明の技術的意味が明確でないと判断した誤り当業者であれば,本願補正明細書等の記載及び技術常識を参酌することにより第1負荷力及び第2負荷軽減力のパラメータにより吸収性物品の弾性特性を特定することの技術的意味を明確に理解できるにもかかわらず,審決は,本願各補正発明に係る前記技術的意味の解釈を誤り,その技術的意味が明確でないと判断したから,誤りである。以下,その理由を述べる。 ア本願各補正発明の目的及び解決すべき課題の認定の誤り従来のおむつ等の吸収性物品では,肛門と,糞便が吸収される開口部とが整合する位置に保持することが難しく,糞便がおむつの中で容易に移動し,おむつの脚部部分等から漏れが生ずる,おむつの着用が難しく所望の位置に配置できないなどの問題点があった(甲2,段落【0003】〜【0005】)。そのため,本願各補正発明は,おむつ等の吸収性物品において,特定の弾性特性(及びその長さ特性)を有する伸縮性領域を設けることにより,着用者の所望の位置に着用させること(着用容易性)を可能とするのみならず,着用後におむつに何らかの圧力がかかってもその位置関係で密着されたままの状態が保たれること(着用位置保持性)により,糞便等の漏れを防止することを目的とするものである(甲2,段落【0006】,【0007】)。すなわち,本願各補正発明における「第1負荷力」,「第2負荷軽減力」,「収縮時短縮物品長Lc」及び「伸張時短縮物品長Ls」等のパラメータ,特に「第2負荷軽減力」と「収縮時短縮物品長Lc」はいずれも,吸収性物品の着用者の所望の位置への着用,着用後における吸収性物品の伸び縮みの際の密着性(糞便の漏れ防止機能)に関して重要な意義を有する。そうであるのに,審決は,「・・・本願補正発明1は,トップシートの糞便が通過できる開口が設けられた吸収性物品において,当該吸収性物品の適用中に開口の位置合わせを適切に行うことを課題とするものである・・・」(審決書6頁3行〜5行)と認定し,着用後の位置関係を保持するとの課題を看過している点で誤りがある。 イ技術常識に基づく理解(ア)負荷力と負荷軽減力の一般的な関係(技術常識)弾性体を徐々に引っ張っていくとその張力の大きさに対応して伸びが生ずるが,このときに加えていく張力が負荷力であり,その負荷力とそれに対応する弾性体の伸びの関係を示すのが負荷曲線である。反対に,一定の値まで伸ばした後に力を徐々に緩めていったときの張力が負荷軽減力であり,その負荷軽減力と弾性体の伸びの関係を示すのが負荷軽減曲線である。一般に,弾性体は完全には元に戻らず,ある程度の伸びはひずみとして残る。このひずみが生じる分だけ弾性体が元に戻ろうとする力が弱くなるので,同じ長さにおける負荷力と負荷軽減力では負荷力のほうが大きくなる。このひずみには,一時的なものと永久的なものとがあり,前者は弾性余効と呼ばれる一時的なひずみで,後者を永久ひずみといい,そのような性質をそれぞれ弾性及び塑性という(甲6,122頁〜124頁)。これらの技術常識を基に本願補正明細書等の記載を読めば,本願各補正発明で用いられている「伸張時短縮物品長Ls」,「収縮時短縮物品長Lc」,「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」のパラメータの意義は,次のとおりに理解することができる。 (イ)第1負荷力本願各補正発明における第1負荷力は,本願補正明細書記載の試験方法・条件下において(段落【0049】〜【0051】,【0066】),吸収性物品のトップシートを含む伸縮性領域部分を伸張させる方向に徐々に力を加え,当該部分がある特定の長さ(本願各補正発明においては0.25Ls,0.55Ls,0.80Ls)まで伸ばされたときにかかっている負荷力を意味する。すなわち,第1負荷力は,当該物品をある一定の長さまで伸長するのに要する張力であり,本願各補正発明では吸収性物品のトップシートを含む伸縮性領域部分(短縮物品部分)の引き伸ばし難さを表すパラメータである。 (ウ)第2負荷軽減力第1負荷軽減力とは,本願補正明細書に記載の試験方法,条件下において(甲2,段落【0049】〜【0051】,【0066】),吸収性物品のトップシート部分の長さが0.80Lsになるまで徐々に伸張させた後,一定時間をおいて力を緩めていき,特定の長さまで収縮した時の負荷力を意味する。そして,本願各補正発明にいう第2負荷軽減力とは,上記の試験方法,条件下において元の状態に戻して一定時間を置いた後に,更にもう一度同じサイクルを繰り返して負荷を軽減させたときの特定の長さ(本願各補正発明においては0.55Ls,0.80Ls)に対応する負荷力を意味する。この値が大きいほど(第1負荷力と近い値であるほど)負荷により引き伸ばされる前の状態に戻ろうとする力が強く,伸縮性領域部分においてひずみが生じにくくなる(密着性が保たれる)という技術的意味を有する(甲2,段落【0167】)。なお,おむつのような吸収性物品においては,継続して使用することにより頻繁に弾性部分の伸び縮みが生ずると考えられるため,吸収性物品の伸縮性領域部分としての弾性特性を表すパラメータとしては第1負荷力よりも第2負荷軽減力の方がより実態に則している(甲2,段落【0052】)。 (エ)伸張時短縮物品長Ls本願各補正発明にいう伸張時短縮物品長Lsとは,本願補正明細書によれば物品の各横断方向各末端部から,弛緩した状態における物品の全長の20%ないし30%の幅(本願各補正発明においては20%)を有する横断方向のストリップを取り除くことによって決定された短縮物品部分を,本願補正明細書記載の条件下で(甲2,段落【0037】),20Nの力が加えられる瞬間まで引っ張られたときの長さである(甲2,段落【0032】〜【0037】)。20Nという力は,吸収性物品の着用者の動きや糞便等によりトップシートにかかる負荷力の大きさと比較すると相当に大きい値である。すなわち,このパラメータは,実際の吸収性物品としての用途の中で,短縮物品部分にかかる負荷としては非常に大きい力を加えて伸ばした時の長さを意味する。 (オ)収縮時短縮物品長Lc本願各補正発明にいう「収縮時短縮物品長Lc」とは,上記の方法によって「伸張時短縮物品長Ls」を測定した後に,その負荷力が掛かった状態で1時間休止させ,その後,本願補正明細書記載の条件,方法によりクランプによる負荷を除去し,5分間おもりを垂れ下げた後の短縮物品部分の長さである(甲2,段落【0038】〜【0042】)。20Nの負荷の状態で1時間保持されれば,当該物品が伸び切ってしまう方向に相当なエネルギーが加わることは容易に理解することができる。 それに対して,10グラムのおもりを吊るしたとしてもわずか0.098Nの力しか加わらないため,20Nという大きな負荷と比べれば負荷はないに等しく,おもりを垂れ下げた5分間という時間は,大きな負荷により伸ばされた弾性体を再び収縮させるための回復時間に等しい。すなわち,このパラメータは,非常に大きな負荷力を長時間にわたって加えられても(塑性がほとんど生じずに)弾性を維持する強さ,すなわち弾性体としての耐久力を表す。 ウ本願補正発明1の技術的意味(ア)第1負荷力を特定することの技術的意味本願補正発明1では,第1負荷力につき,0.25Lsで0.6N未満,0.55Lsで3.5N未満,0.8Lsで7.0N未満と上限を特定している。このパラメータは吸収性物品のトップシート部分の引き伸ばし易さを示すものであるから,本願補正発明1における第1負荷力の数値限定は,主に当該吸収性物品を曲げ伸ばしして着用する際の装着容易性に関するものであると理解することができる。吸収性物品を伸ばすのに必要な負荷力があまりにも大きいと,必ずしも力の強くない保護者に対して,赤ん坊におむつを装着させる際に大きな負担を強いるばかりか,赤ん坊の臀部を強く締め付けすぎて痛みを伴うことになり,吸収性物品としては不向きとなる。そして,本願補正明細書等の記載を参酌するに,本願各補正発明の解決すべき課題は,特定の弾性特性(及びその長さ特性)を有する伸縮性領域を設けることにより,着用者の所望の位置に着用させることを可能とすることにもあり(甲2,段落【0007】),かつ,大きな負荷力を必要とすることなく密着性を確保することにもあるから(本願補正明細書,段落【0167】),これらの記載からも上記のような技術的意味を十分に理解できるはずである。 もちろん,この値が小さすぎれば吸収性物品の保持(密着性)の面で問題が生ずることはいうまでもないが,その点については,第1負荷力よりも値の小さい第2負荷軽減力の下限を特定することにより達成されるのであるから,ここで第1負荷力の下限を特定する必要がないことも理解することができる。 (イ)第2負荷軽減力を特定することの技術的意味第2負荷軽減力については0.55Lsで0.4N超,0.80Lsで1.4N超と下限を特定している。すなわち,このパラメータは負荷が加わって伸張し,その負荷を減らしていく過程において,どれだけ(ひずみが生ずることなく)張力に基づいて元の状態に戻り易いかを示すものである。このパラメータが小さい場合(同じ長さでの第1負荷力との差が大きい場合)には,吸収性物品において外力を加えてそれを除去した後の伸縮性領域部分のひずみが大きくなり,糞便の漏れが生じることが十分に想定できる。そこで,第2負荷軽減力を第1負荷力に極力接近させてひずみを生じにくくし,漏れ防止機能を向上させたのが本願各補正発明における課題の解決手段である。実際,本願補正明細書等を参酌すれば,おむつに何らかの圧力がかかっても装着された時の位置関係で密着された状態を保持し,糞便等の漏れを防止することを本願各補正発明の主目的としていること(甲2,段落【0006】,【0007】),及びその解決手段として第2負荷軽減力の数値が第1負荷力に近い弾性特性の弾性体を用いて密着性を向上させていることを明確に読み取ることができる(甲2,段落【0162】〜【0167】,出願当初の明細書〔甲1〕のFig:3)。 (ウ)伸張時短縮物品長Lsを用いて第1負荷力及び第2負荷軽減力を特定することの技術的意味 弾性特性は弾性体自体の長さと密接に関わっているから,例えば,ある力を加えると何センチメートル伸びるといった絶対的な長さを基準としても技術的にはほとんど意味がなく,当該物品部分の長さを基準として負荷力と伸びとの関係を規定するのは当然である。当該物品部分の弛緩した状態の長さを基準にすることも想定されるが,吸収性物品としての用途としては,20Nの力を加えたときの長さ(伸張時短縮物品長Ls)を基準にする方法によっても本願における課題の解決に必要な弾性特性を表すことが可能であったため(甲2,段落【0058】〜【0066】),本願補正発明1ではこのパラメータを基準に用いている。 そして,本願補正発明1の数値限定は,上記の物品長を基準にして,その25%までは0.6N未満の力で引き伸ばすことができること,その55%までは3.5N未満の力で引き伸ばすことができること(55%の長さまで戻した時に0.4N以上の収縮力があること),並びに7.0N未満の力でその80%まで引き伸ばすことができること(80%の長さで1.4N以上の収縮力があること)を意味するものであり,当該物品の相対的な長さに応じた弾性特性を的確に理解することができる。 したがって,当業者であれば,本願補正発明1のように伸張時短縮物品長Lsを用いて第1負荷力及び第2負荷軽減力を特定することにつき,合理的な技術的意味のあることを明確に見いだすことができる(甲7,別表1〜3の実験データ参照)。 (エ)以上のとおり,当業者であれば,本願補正明細書の記載を参酌することにより,本願補正発明1における伸張時短縮物品長Lsを用いた第1負荷力及び第2負荷軽減力の数値限定から,吸収性物品の所定の位置に伸縮性領域を設けて,装着容易性を保ちつつも漏れ防止機能を向上させることができるとの技術的意味を明確に理解することができる。 審決は,この点の判断を誤り,これらのパラメータの相互の関係による数値限定の技術的意味が明確でないと判断したから,誤りである。 エ本願補正発明2の技術的意味本願補正発明2にいう収縮時短縮物品長Lcは,非常に大きな負荷力を長時間にわたって加えられても(塑性がほとんど生じずに)弾性を維持する強さ,言い換えれば弾性体としての耐久力を示すパラメータである。すなわち,本願補正発明2における数値限定は,非常に大きな負荷力を長時間にわたって加えられても永久ひずみ(塑性)がほとんど生ずることなく,その長さ(伸張時短縮物品長Ls)の50%未満の長さにまで戻るほどに弾性体として強い耐久力を有していることを意味する。本願各補正発明に係る吸収性物品は,その用途にかんがみれば,ある程度反復して利用されることを予定されているものであり,その過程の中で相当の回数にわたって伸び縮みすることが予想できる。そのため,弾性体としての耐久力が弱いと,永久ひずみ(塑性)が簡単に発生し,糞便の漏れ防止機能が低下してしまうことが予想される。したがって,本願補正発明2のようなパラメータ限定は,当該吸収性物品がより耐久性が高く糞便の漏れ防止機能を維持し続けられることを意味するのであり,本願各補正発明において解決すべき課題との関係において技術的意味を有している。そして,当業者であれば,本願補正明細書における本願各補正発明の解決すべき課題の記載内容と当該パラメータの持つ技術的性質から,本願補正発明2がこのような技術的意味を有することを明確に理解することができる。 審決は,この点の判断を誤り,これらのパラメータの相互の関係による数値限定の技術的意味が明確でないと判断したから,誤りである。 以上によれば,本件補正却下は,法36条6項2号の法解釈・適用,並びに本願各補正発明に係る技術的意味の判断における重大な誤りを基にされた違法な決定である。したがって,審決は取消しを免れない。 オ被告の主張に対する反論(ア)被告は,本願各補正発明の特許請求の範囲の記載は,具体的に,どのような構成要素で吸収性物品を構成し,また,どのような大きさ,形状,材質とすれば,本願各補正発明で特定されている弾性体に係るパラメータを満たすものとなるのかを当業者において理解することができないから,不明確であると主張する。 しかし,その点は,審決で述べられていない新たな理由である。また,吸収性物品の構成要素の大きさ,形状,材質等が不明であっても,本願各補正発明の技術的範囲は明確であるから,被告主張の点は,法36条6項2号違反にはなり得ない。 (イ)被告が引用する2つの後記裁判例は,いずれも本件と事案を異にするから,本件とは無関係である。 (ウ)被告主張のように,一般的な吸収性物品のパラメータがどのようなものであるのかについて明らかにすることが法36条6項2号との関係で要求されているとはいえない。本願補正発明の吸収性物品と同一又は類似の弾性特性を有する吸収性物品が本願の優先日前に存在していたとのことであれば,特許法29条の問題として扱うべきであり,法36条6項2号の問題とすべきではない。 2被告の反論(1)法36条6項2号の解釈,適用の誤りに対しア吸収性物品の具体的構成の欠如による不明確性本願各補正発明の特許請求の範囲の記載は,具体的に,どのような構成要素で吸収性物品を構成し,また,どのような大きさ,形状,材質とすれば,本願各補正発明で特定されている弾性体に係るパラメータを満たすものとなるのかを当業者において理解することができないから,不明確である。 イ第三者に不測の不利益を与え,発明の技術的範囲が不明確であることまた,本願各補正発明において,仮に吸収性物品を構成する構成要素や,大きさ,形状,材質などが特定されていれば,第三者は,その特定された構成から自身の製品が本願各補正発明の技術的範囲に属するおそれがあることを理解し,実験等により当該製品が本願各補正発明の技術的範囲に属するか否かを判断することができる。これに対し,本願各補正発明のように,吸収性物品の具体的な構成が予想できないような場合には,第三者が自身の製品が本願各補正発明の技術的範囲に属するおそれがあることを構成から理解することが困難であって,結局,自身の吸収性物品の弾性について常に実験等を行わざるを得なくなり,そのような実験の負担を怠ると第三者は不測の不利益を受けることになる。したがって,本願各補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,その技術的範囲が不明確であるというべきである。 ウ法36条6項2号の趣旨は,権利範囲の明確化に限定されないこと(ア)法36条6項2号は,特許権の権利範囲の明確化のみを目的としたものでない。すなわち,知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10208号平成19年6月28日判決は,「原告は,同号の趣旨は,当業者が権利範囲内か否かを判断することができないような特許請求の範囲の記載を排除することにあるから,化学構造の明確性が問題となる場合においても,権利範囲が明確になる限度で化学構造が示されていれば,同号の要請を満たしていると考えるべきであり,これを超えて,権利範囲が明確であるにもかかわらず,更に化学構造自体の明確性が満たされなければ同号に適合しないとするのは,特許法36条6項2号の解釈を誤ったものであると主張する。特許請求の範囲の記載は,これに基づいて特許出願に係る発明の新規性・進歩性等の特許要件が判断され,これに基づいて特許発明の技術的範囲が定められ,これに基づいて特許権の権利範囲が対世的に確定されるなどの特許法の定める種々の機能を持つものである。特許法36条6項2号は,特許請求の範囲がその記載において,特許を受けようとする発明が明確であること,すなわち一の請求項の記載から一の発明を明確に把握することができることを要求しているが,その趣旨は,上記の機能のいずれとも関係するものであり,特許権の権利範囲の明確化のみに限定することはできないと解される。したがって,特許権の権利範囲が明確である記載であれば,直ちに同号の要件を満たすとする原告の上記主張を採用することはできない。」と判示している。 (イ)また,法36条6項2号は,特許発明を,パラメータを用いて特定する場合,当該パラメータにより特定される事項の技術的意味の明確性を要求するものである。すなわち,知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10148号平成17年11月1日判決は,パラメータ(判決中の【数1】)により特定された特許請求の範囲の記載について,「本願発明の構成要件Aの中で【数1】が有する技術的意味は,本件明細書の特許請求の範囲の記載から明確であるとはいえないし,発明の詳細な説明の記載及び技術常識を参酌しても,これが明確になるとはいえない。 したがって,【数1】の技術的意味が不明であることを理由に,本件明細書における請求項1の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号所定の要件に合致しないとした審決の判断には,誤りはない。」と判示した。 そうすると,本願各補正発明のパラメータにより特定される事項の技術的意味が明確でなく,法36条6項2号の要件を満たさないとした審決に誤りはない。 (2)本願各補正発明の技術的意味が明確でないとした判断の誤りに対しア本願各補正発明の目的及び解決すべき課題の認定の誤りに対し原告は,本願各補正発明について,着用後の位置関係をも保持するとの解決課題を認定していないから,審決は誤りであると主張する。 しかし,原告の主張は理由がない。すなわち,審決は,本願補正発明1の課題について,「トップシートの糞便が通過できる開口が設けられた吸収性物品において,当該吸収性物品の適用中に開口の位置合わせを適切に行うこと」(審決書6頁3行〜5行)と認定しており,着用の際のみの課題であるとは認定していないから,原告の主張は,前提に誤りがあり,失当である。 イ技術常識に基づく理解に対し(ア)技術常識によれば本願各補正発明の吸収性物品の特性を直ちに理解できるとの原告の主張は,理由がない。 すなわち,本願各補正発明は,その全体を構成する各構成要素,各構成要素の大きさ,形状,素材などが特定されていないから,その結果として,無数の様々な構成のものを包含することになり,そのような無数の構成からなり得る吸収性物品の弾塑性変形の特性やその変形メカニズムは,それら個別具体的な構成に特有なものになるはずである。そうすると,複数の構成要素から構成される本願各補正発明の吸収性物品の物理的な特性は,一般的な物理学上の技術常識のみによって理解することはできない。 そして,本願補正明細書に基づいて,吸収性物品の技術常識(技術水準)を構成する一般的な吸収性物品(従来技術)の「第1負荷力」や「第2負荷軽減力」がどのような特性であるのかを理解することができず,本願各補正発明を特定するパラメータと技術水準との関係を理解することもできない以上,本願各補正発明を「第1負荷力」や「第2負荷軽減力」により特定しても,その技術的意味を把握することはできない。 したがって,技術常識をもとに本願補正明細書を読めば,本願各補正発明のパラメータの技術的意味を理解することができるとの原告の主張は,理由がない。 (イ)第1負荷力に対し原告は,本件訴訟の当初,第1負荷力が,本願各補正発明の吸収性物品のトップシート部分の引き伸ばし難さを表すパラメータであると主張していた。 しかし,【請求項1】の記載によれば,第1負荷力は,吸収性物品に関するパラメータであって,トップシート部分のみの引き伸ばし難さを表すパラメータではない。また,原告の主張する本願補正明細書(甲2)の段落【0066】についても,「本明細書の物品の2周期ヒステリシスは,トップシートの2周期ヒステリシス測定について上述のように行われた2周期ヒステリシス測定(ASTM76-96に従う)によって決定され」と記載されているように,吸収性物品の引き伸ばしに関するものであって,トップシート部分のみの引き伸ばしに関するものではない。つまり,その第1負荷力は,本願補正明細書の段落【0049】ないし【0051】に記載されている,トップシートの引き伸ばし試験で採用した実験方法・条件下によって,これとは別に,吸収性物品の引き伸ばし試験を行った結果として得られたものであるから,吸収性物品の引き伸ばしに関するものであり,トップシート部分のみの引き伸ばしに関するものではない。したがって,第1負荷力がトップシート部分の引き伸ばし難さを表すパラメータであるとする当初の原告主張は,誤りである。 (ウ)第2負荷軽減力に対しa本願補正明細書には,一般的な吸収性物品において,その第2負荷軽減力が通常どのような値を示すものであるのか,どういった不都合があったのかといった技術水準に関する記載が何らされておらず,また,本願各補正発明の作用・効果としても,【表2】などにおいて「好ましい」などと抽象的に記載されているに止まり,その作用・効果を技術的,具体的に理解することができないから,本願各補正発明の吸収性物品を第2負荷軽減力により特定することの技術的意味を理解することができず,不明確である。 bまた,当該第2負荷軽減力は,あくまでも吸収性物品のひずみの生じ易さを示すものにすぎず,トップシートのひずみの生じ易さを示すものではない。一方で,本願各補正発明の課題は,着用時,着用後のトップシートの位置を保持するものであり,吸収性物品のひずみ易さを示す第2負荷軽減力を特定したとしても,トップシートの着用時,着用後の位置保持や,原告主張の密着性にどのように関係するのかが不明であるから,この意味においても,第2負荷軽減力の技術的意味は不明確である。 cまた,本願補正明細書の段落【0052】には「本発明のこの実施形態では,第1負荷力及び第2負荷軽減力の値は,トップシートの性能の本質的要素であり,その弾性特性を表していると考えられる。」と記載されているが,当該記載からは,なぜ第1負荷軽減力ではなく,第2負荷軽減力を採用しているのかを理解することができない。よって,その点においても,第2負荷軽減力を用いて本願各補正発明を特定することの技術的意味は不明確である。 ウ本願補正発明1の技術的意味に対し(ア)第1負荷力を特定することの技術的意味に対し原告は,本願各補正発明において,第1負荷力を用いて発明を特定するのは,装着容易性との関係で採用したものと理解できる旨主張する。 しかし,原告の主張は理由がない。すなわち,本願補正発明1は,20Nの力で吸収性物品を引張するという,吸収性物品が通常に使用される条件とは異なる条件のもと測定された伸張時短縮物品長Lsという特殊なパラメータとの関係で,第1負荷力を特定するものであるから,そのような第1負荷力の技術的意味は,その数値のみからは理解することができない。また,原告が主張する段落【0167】の記載は,そもそも,段落【0162】に記載されているように,TK12.5の弾性バンドを有する場合の特殊な例に関する記載であり,このような特殊な例は,本願各補正発明に常に妥当するものではない。さらに,原告主張のように,吸収性物品を曲げ伸ばしして着用する際の装着容易性を課題としたものであることは,発明の詳細な説明に記載されていないから,第1負荷力の数値限定が装着容易性に関するものと理解することはできない。 (イ)第2負荷軽減力を特定することの技術的意味に対しa第2負荷軽減力は,伸張時短縮物品長Lsという特殊なパラメータとの関係で特定されているものであるから,その技術的意味は,パラメータの数値のみからは理解することができない。 b原告は,本願補正明細書の記載によれば,課題解決手段として第2負荷軽減力の数値が第1負荷力に近い弾性特性の弾性体を用いて密着性を向上させていることを明確に理解できると主張する。しかし,第1負荷力が,0.25Lsで0.6N未満,0.55Lsで3.5N未満,0.8Lsで7.0N未満であり,第2負荷軽減力が0.55Lsで0.4N超,0.80Lsで1.4N超である場合に,第1負荷力と第2負荷軽減力が近接しているといえるのか否か(実際には,0.55Ls,0.8Lsのそれぞれにおいて,第2負荷軽減力は,第1負荷力に比べて,それぞれ約1/10,1/5と大幅に小さくなっており,第1負荷力と第2負荷軽減力は近接していないと考えられる点)などを含め,技術的にどのような状況にあるのかは,技術水準を構成する一般的な吸収性物品の第1負荷力と第2負荷軽減力の数値(近接度合い)が本願補正明細書に何ら記載されていない以上,明確に理解することができない。よって,第2負荷軽減力を特定することの技術的意味は,不明確である。 cまた,第2負荷軽減力とは,負荷が加わって伸張し,その負荷を減らしていく過程において,どれだけ元の状態に戻り易いかを示すパラメータであるところ,糞便等の漏れを防止するとの観点において,「負荷を減らしていく過程」との関連は想定し難い。 dさらに,本願各補正発明は,トップシートの開口を通して,トップシートとバックシートの間に配置された空間に糞便等を収集するものである。例えば,本願補正明細書(甲2)の段落【0160】には,コア及びバックシートが下向きに引っ張られて動いても,トップシート及びスリット開口部は着用者の皮膚に接して動かないことが記載されている。そうすると,トップシートとバックシートの特性を個別に考慮することなく,単に吸収性物品にひずみを生じにくくすることによって漏れ防止機能を向上させることができると理解することは困難である。 (ウ)伸張時短縮物品長Lsを用いて第1負荷力及び第2負荷軽減力を特定することの技術的意味に対しa原告は,第1負荷力及び第2負荷軽減力を,伸縮時短縮物品長Lsを用いて特定した理由は,当該長さを基準にする方法によっても本願各補正発明における課題の解決に必要な弾性特性を表すことが可能であったためであると主張する。 しかし,伸張時短縮物品長Lsは,20Nの力で物品部分を引っ張るという,吸収性物品が通常に使用される条件とは異なる条件のもとに特定されるものであり,このような特殊な条件のもとで測定される伸縮時短縮物品長Lsを採用する技術的理由や,このようなパラメータを用いても本願各補正発明の課題解決に必要な弾性特性を表すことが可能である理由を理解することができない以上,伸張時短縮物品長Lsなる値を用いて第1負荷力や第2負荷軽減力を特定することの技術的意味は不明確である。 b原告は,実験データにより,本願各補正発明の第1負荷力及び第2負荷軽減力を特定することの技術的意味が裏付けられていると主張する。 しかし,原告の主張は理由がない。すなわち,?実験データとして示されているのは,本願補正発明1に包含される「本発明製品1及び2」の本願各補正発明の2つの例と,本願各補正発明に属さない,0.8Lsにおける第2負荷軽減力が本願各補正発明で規定される範囲よりも小さい値となっている「対照用製品1」と,0.8Lsにおける第1負荷力が本願各補正発明の範囲よりも大きい値となっている「対照用製品2」の2つの例のみが示されているにすぎない。また,0.25Ls,0.55Lsにおける第1負荷力や第2負荷軽減力が本願各補正発明の範囲から外れるときにどのようになるのかさえ示されていない。よって,この実験データからは,本願各補正発明の第1負荷力と第2負荷軽減力により規定される範囲の内外で,吸収性物品がどのような特性を示すものであるのかを理解することができない。よって,当該実験データ(甲7)を参酌したとしても,本願各補正発明の技術的意味は不明確である。 また,?実験データにおいて示されている特性評価で採用されている糞便隔離性,尿吸収性,装着容易性といった評価の基準は,相対的でかつ主観的なものであり,技術的に明確でないから,実験データ自体がそもそも技術的に明確なものではない。 さらに,?実験データの「本発明製品1,2」及び「対照用製品1,2」は,フルフレックスL-89弾性バンド又はフルフレックスL-86弾性バンドを2本用いた特殊な吸収性物品に関するものであり,このような特殊な例についての実験結果が,本願各補正発明の吸収性物品に常に妥当するものではないから,これらの実験データが,本願各補正発明の技術的意味を裏付ける根拠とはなり得ない。 なお,?本願各補正発明の場合には,そもそも,第1負荷力や第2負荷軽減力の技術的意味が本願補正明細書を参酌しても全く理解できないものであり,このような根本から明確でない技術的意味を,事後的に実験データを提出することにより,新たに明確にしようとすることは許されるべきではない。 エ本願補正発明2の技術的意味に対し原告は,収縮時短縮物品長Lcが伸張時短縮物品Lsの50%未満の長さにまで戻ることは,強い耐久性を有することを意味すると主張する。 しかし,原告の主張は,理由がない。すなわち,このような収縮時短縮物品長Lcは,本願補正明細書の段落【0038】ないし【0041】に記載されているような特殊な実験に基づき測定された値であって,その長さLcはその数値のみに基づいては,その技術的意味を理解することができない。そして,本願補正明細書には,どのような理由により,収縮時短縮物品長Lcなる特殊なパラメータを用いて本願補正発明2を特定したのか,また,技術水準を構成する一般的な吸収性物品のLcがどのような値であるのか,さらに,長さLcと耐久性との具体的な関係や,長さLcと糞便の漏れ防止機能との具体的な関係がどのようなものであるのかについて,何ら記載されていないから,本願補正明細書を参酌しても,収縮時短縮物品長Lcの数値の技術的意味を理解することができない。 以上のとおり,審決には,法36条6項2号の法解釈・適用,並びに本願各補正発明に係る技術的意味の判断について誤りがないから,原告主張の取消理由はいずれも理由がない。 第4当裁判所の判断1法36条6項2号の解釈,適用の誤りについて当裁判所は,本願各補正発明が法36条6項2号に違反し,独立特許要件を欠くとして本件補正を却下した審決には,法36条6項2号の解釈,適用について誤りがあるから,取り消されるべきであると判断する。その理由は,以下のとおりである。 (1)審決の理由について法36条6項2号に関する審決の判断の内容は,前記第2の3のとおりである。 すなわち,審決は,「本願補正発明1は,トップシートの糞便が通過できる開口が設けられた吸収性物品において,当該吸収性物品の適用中に開口の位置合わせを適切に行うことを課題とするものであるといえる。また,本願補正発明1で規定されている,『伸張時短縮物品長Ls』は,上記(b)において定義されており,当該記載からすると,『伸張時短縮物品長Ls』は,物品の各横断方向各末端部から,物品の全長(弛緩した状態で)の20%又は30%の幅(例えば,物品の長手方向軸線に平行な寸法)を有する横断方向のストリップを取り除くことによって決定された,残りの60%又は40%の短縮物品部分を,温度を23℃で一定に保ち,湿度を50%に保ち,20Nの力が加えられる瞬間まで,物品が水平な長手方向に引張..られた時の長さであると解される。そして,『伸張時短縮物品長Ls』と『第1負荷力』及び『第2負荷軽減力』との関係により物品の弾性力を特定することに関して,上記(c)に記載がなされている。しかしながら,上記(c)の記載,さらには,全文補正明細書全体の記載を参酌しても,上記(b)のように定義される『伸張時短縮物品長Ls』と『第1負荷力』及び『第2負荷軽減力』との関係により物品の弾性力を特定することが,吸収性物品の機能,特性,さらには,上記(a)に記載された課題と,どのように関連するのか明確でなく,また,『0.25Lsで0.6N未満の第1負荷力,0.55Lsで3.5N未満の第1負荷力,及び0.8Lsで7.0N未満の第1負荷力,並びに0.55Lsで0.4N超の第2負荷軽減力,及び0.80Lsで1.4N超の第2負荷軽減力』とすることによりもたらされる作用効果も明確でない。してみれば,本願補正発明1において,『伸張時短縮物品長Ls』を用いて,『第1負荷力』及び『第2負荷軽減力』との関係で物品の弾性特性を特定することの技術的意味が明確でなく,本願補正発明1を不明確にしている。また,本願補正発明1を引用する本願補正発明2乃至4についても同様に不明確である。」(審決書6頁3行〜31行)とするものである。 (2)法36条6項2号の趣旨について法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。 そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。 上記のとおり,法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関して,「特許を受けようとする発明が明確であること。」を要件としているが,同号の趣旨は,それに尽きるのであって,その他,発明に係る機能,特性,解決課題又は作用効果等の記載等を要件としているわけではない。 この点,発明の詳細な説明の記載については,法36条4項において,「経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」と規定されていたものであり,同4項の趣旨を受けて定められた経済産業省令(平成14年8月1日経済産業省令第94号による改正前の特許法施行規則24条の2)においては,「特許法第三十6条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されていたことに照らせば,発明の解決課題やその解決手段,その他当業者において発明の技術上の意義を理解するために必要な事項は,法36条4項への適合性判断において考慮されるものとするのが特許法の趣旨であるものと解される。また,発明の作用効果についても,発明の詳細な説明の記載要件に係る特許法36条4項について,平成6年法律第116号による改正により,発明の詳細な説明の記載の自由度を担保し,国際的調和を図る観点から,「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」とのみ定められ,発明の作用効果の記載が必ずしも必要な記載とはされなくなったが,同改正前の特許法36条4項においては,「発明の目的,構成及び効果」を記載することが必要とされていた。 このような特許法の趣旨等を総合すると,法36条6項2号を解釈するに当たって,特許請求の範囲の記載に,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係での技術的意味が示されていることを求めることは許されないというべきである。 仮に,法36条6項2号を解釈するに当たり,特許請求の範囲の記載に,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係で技術的意味が示されていることを要件とするように解釈するとするならば,法36条4項への適合性の要件を法36条6項2号への適合性の要件として,重複的に要求することになり,同一の事項が複数の特許要件の不適合理由とされることになり,公平を欠いた不当な結果を招来することになる。 上記観点から,本願各補正発明の法36条6項2号適合性について検討する。 (3)本願各補正発明の明確性についてア本願補正明細書(甲2)の記載本願補正明細書には,以下の記載がある(甲2)。 【0032】第3の場合は,上述以外の物品について,短縮物品部分は,物品の各横断方向各末端部から,物品の全長(弛緩した状態で)の20%の幅(例えば,物品の長手方向軸線に平行な寸法)を有する横断方向のストリップを取り除くことによって決定されるので,短縮物品部分は,物品(弛緩した状態で)の中間の60%である。その結果,短縮物品長は,短縮物品の長手方向軸線の長さ,例えば,物品の長さの約60%である。 【0033】この第3の試験で測定される,得られる物品部分が,上述の第1又は第2の方法で測定される時よりも短い長さを有する場合,後者の短縮物品部分を決定する第3の方法が,締着手段又は接続領域を有する,最初の2つの場合における上述の物品の短縮物品部分を決定するのにも使用されてもよい。従って,本明細書の好ましい一実施形態では,本発明の各物品の短縮物品部分は,物品の中間の60%であり,各横断方向末端部上で物品の長さの20%の横断方向のストリップが物品から取り除かれる。従って,短縮物品長は,典型的には,物品の長さの60%である。 【0034】更により好ましいのは,短縮物品部分が物品の中間の40%であり,従って各横断方向末端部上で物品の長さの30%の横断方向のストリップが物品から取り除かれ,その結果,本明細書の物品の短縮物品長は,典型的には物品の長さの40%である。 【0035】伸張時短縮物品長Lsは,以下のように決定される。 【0036】 物品が,ズウィック社(Zwick)(ドイツ,ウルム)から入手可能な水平引張り試験機Z10/LH1Sにおいて,2つのクランプ(to clamps)の間に配置される。クランプは,物品の幅と少なくとも同一の大きさを有して,少なくとも物品の幅全体を覆う。 【0037】クランプは,短縮製品部分が正確にクランプの間にあるように,また短縮製品長だけがクランプによって全く覆われないように配置される。その時,最初のクランプ間の距離は4cmであるべきである。測定は制御された環境で行われ,そのために温度は23℃で一定に保たれ,湿度は50%に保たれる。次に,20Nの力が加えられる瞬間まで,物品は水平な長手方向に引張られる。次に,クランプ間の距離,従って短縮物品部分の横断方向の末端部間の距離が測定される。これが,伸張時短縮物品長Lsである。 【0038】収縮時短縮物品長Lcは,以下のように決定される。 【0039】上記のLsの測定後,物品を上述の制御された状態で1時間休止させる。その後,制御された状態のままで,物品を,垂直引張り試験機(ズウィック社(Zwick)から入手可能)の頂部クランプに配置する。 他の末端部上に10グラムのおもりを有するクランプが配置されるが,引力でおもりが引張りを開始しないように支持されたままである。 【0040】クランプは,短縮製品長が全くクランプによって覆われないように配置され,従って,クランプの末端部が短縮物品部分の末端部に正確に配置される。クランプは締め付け点で,少なくとも物品の幅の大きさを有し,物品の幅全体を覆う。 【0041】次に,おもりの支持が取り除かれて,おもりは5分間垂れ下がる。次に,クランプ間の距離,従って短縮物品部分の末端部間の距離が測定される。これが収縮時短縮物品長Lcである。・・・【0043】本発明の別の実施形態では,本発明の及び本発明への利益を提供するために,物品は,特定の弾性特性を有するトップシートを有し,これは典型的には,ほぼ同様の弾性特性を有する,本明細書で特定される1つ以上の伸縮性区域を含む。その結果,トップシートは,物品について上述した方法で決定される,長さLtと,収縮された又は弛緩した短縮トップシート長(収縮時短縮トップシート長)Ltcと,伸張された短縮トップシート長(伸張時短縮トップシート長)Ltsとを有する短縮トップシート部分を有する。 【0044】物品のトップシートは,500mm/分のクランプ速度を使用する以下の方法によって測定される,2周期ヒステリシスに基づく弾性特性を有し,それは以下のとおりである。・・・【0047】トップシートの好ましい特性は,以下の表における全ての長さで,第1負荷力及び第2負荷軽減力によって定義される(500mm/分のクランプ速度の2周期ヒステリシスについて,4.5Lt又は0.8Lsのどちらか短い方まで,以下に記述するように伸張する)。・・・【0049】短縮トップシートの上述の弾性特性は,前記短縮トップシート部分の2周期ヒステリシスを測定する,以下の方法によって測定される(ASTM76-96に従う)。 【0050】物品のトップシートを,ズウィック社(Zwick)(ドイツ,ウルム)から入手可能な水平張力試験機Z10/LH1Sにおいて,2つのクランプの間(to clamps)に配置する。これらのクランプは,短縮トップシート部分が正確にクランプの間にあるように,また短縮トップシートの長さだけがクランプによって全く覆われないように配置される(すなわち,短縮トップシート部分とは,上述のように,短縮物品(部分)に属するトップシートの部分である)。・・・【0051】次に,様々な伸張の段階/長さで伸張する間,短縮トップシートに加えられる力を測定すると同時に,2周期ヒステリシス試験が行われ,短縮トップシート(部分)を4.5Lt又は0.8Ltsの小さい方の値まで伸張し,4.5Lt又は0.8Ltsに達した時,短縮トップシートをその位置で60秒間維持し,その後,制御された弛緩になりクランプの最初の位置,すなわち4cmの距離に戻り(様々な段階/長さで負荷軽減力が測定されてもよい),クランプの最初の位置,すなわち4cmの距離に達した時,短縮トップシートをその位置で60秒間保持し,その後,第2周期を開始し,短縮トップシートを4.5Lt又は0.8Ltsまで伸張し,様々な段階/長さで加えられた負荷力を任意に測定し,再度4.5Lt又は0.8Ltsに達した時,短縮トップシートをこの位置で60秒間保持し,その後弛緩して最初の位置に戻り,上記の表に記述したように様々な段階/長さについて,この第2負荷軽減周期の負荷軽減力を測定する。 【0052】本発明のこの実施形態では,第1負荷力及び第2負荷軽減力の値は,トップシートの性能の本質的要素であり,その弾性特性を表していると考えられる。第1負荷軽減力及び第2負荷力の測定が行われてもよいが,この測定は,トップシートの力の特性をあまり表さないと考えられる。・・・【0066】本明細書の物品の2周期ヒステリシスは,トップシートの2周期ヒステリシス測定について上述のように行われた2周期ヒステリシス測定(ASTM76-96に従う)によって決定され,物品を,ズウィック社(Zwick)(ドイツ,ウルム)から入手可能な水平引張り試験機Z10/LH1Sにおいて,2つのクランプ(to clamps)の間に配置し,それによりクランプは,短縮物品(部分)が正確にクランプの間にあるように,また短縮物品長だけがクランプによって全く覆われないように配置される。これらのクランプは,クランプ内の物品の幅と少なくとも同一の大きさを有して,少なくともクランプ内の物品の幅全体を覆う。上述のように,最大ひずみ/伸張(0.8Ls)並びに最小ひずみ/伸張(クランプ距離の最初の位置,すなわち4cm)での待機期間は60秒である。(注意:測定中,装置のソフトウエアは全ての必要なパラメーターを計算して,力,ひずみ/伸張,及び全ヒステリシス曲線を決定する。)好ましくは,物品は,500mm/分のクランプ速度の2周期ヒステリシスで上述のように決定した,負荷軽減力に対する負荷力の割合を有し,それは,20未満,好ましくは7未満又は更に3未満の(第1負荷0.50L/第2負荷軽減0.50Ls)と,9未満又は更に6未満又は更に2未満の(第1負荷0.65Ls/第2負荷軽減0.65Ls)と,7未満又は更に4未満又は更に1.5未満の(第1負荷0.8Ls/第2負荷軽減0.8Ls)である。 イ本願補正明細書記載の意義本願補正明細書によれば,?「伸張時短縮物品長Ls」とは,物品の各横断方向各末端部から,物品の全長(弛緩した状態で)の20%又は30%の幅(例えば,物品の長手方向軸線に平行な寸法)を有する横断方向のストリップを取り除くことによって決定された,残りの60%又は40%の短縮物品部分を,温度を23℃で一定に保ち,湿度を50%に保ち,20Nの力が加えられる瞬間まで,物品が水平な長手方向に引っ張られた時の長さであること,?「収縮時短縮物品長Lc」とは,「伸張時短縮物品長Ls」を測定後,物品を制御された状態で1時間休止させ,その後,物品を,垂直引張り試験機(ズウィック社(Zwick)から入手可能なもの)の頂部クランプに短縮製品長が全くクランプによって覆われないように配置させるとともに,他の末端部上に10グラムのおもりを有するクランプを配置させ,おもりを5分間垂れ下げたときのクランプ間の距離,すなわち短縮物品部分の末端部間の距離であること,?「第1負荷力」とは,前記?のような試験方法,条件下において,吸収性物品を伸張させる方向に徐々に力を加え,当該部分がある特定の長さ(本願補正発明においては0.25Ls,0.55Ls,0.80Ls)まで伸ばされたときにかかっている張力であること,?「第1負荷軽減力」とは,同様の試験方法,条件下において,吸収性物品の長さが0.80Ls(上記「伸張時短縮物品長Ls」の80%)になるまで徐々に伸張させた後,60秒間保持してから力を緩めていき,特定の長さまで収縮した時の張力であり,?「第2負荷軽減力」とは,そのような試験方法・条件下において元の状態に戻して更に60秒を置いた後に,更にもう一度同じサイクルを繰り返して負荷を軽減させたときの特定の長さ(本願各補正発明においては0.55Ls,0.80Ls)に対応する張力を意味するものであると理解することができる(なお,審決も本件訴訟の被告も,このような構成の理解自体について積極的に争っていない。)。 ウ判断そうすると,「伸張時短縮物品長Ls」又は「収縮時短縮物品長Lc」と関連させつつ,吸収性物品の弾性特性を「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」により特定する本願各補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,当業者において,本願補正明細書(図面を含む。)を参照して理解することにより,その技術的範囲は明確であり,第三者に対して不測の不利益を及ぼすほどに不明確な内容は含んでいない。 上記のとおりであるから,「伸張時短縮物品長Ls」と「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」との関係(本願補正発明1),「収縮時短縮物品長Lc」と「伸長時短縮物品長Ls」との関係(本願補正発明2)によって,弾性力を特定したことが,吸収性物品の機能,特性,発明の解決課題とどのように関連するのか,作用効果が不明であることを理由として,本願各補正発明に係る特許請求の範囲の記載が,法36条6項2号に反するとした審決には,同項同号の解釈,適用を誤った違法があるというべきである。 エ被告の主張に対してこの点,被告は,本願各補正発明の特許請求の範囲の記載は,どのような大きさ,形状,材質とすれば,本願各補正発明で特定されている弾性体に係る構成を充足することになるのか,当業者において理解することができないから不明確であると主張する。しかし,前記のとおり,特許請求の範囲に記載された弾性体に係る構成は,発明の詳細な説明において明確に定義されているといえるから,被告の上記主張は採用の限りでない。 また,被告は,本願補正明細書に基づいて,吸収性物品の技術常識(技術水準)を構成する一般的な吸収性物品(従来技術)の「第1負荷力」や「第2負荷軽減力」がどのような特性のものであるのかを理解することができず,本願各補正発明を特定するパラメータと技術水準との関係を理解することができない以上,本願各補正発明を「第1負荷力」や「第2負荷軽減力」により特定しても,その技術的意味を把握することができないと主張する。しかし,「第1負荷力」や「第2負荷軽減力」が明確に定義され,本願各補正発明の構成による技術的範囲が明確である限り,第三者に不測の不利益を与えることはなく,従来の技術水準と比較した本願各補正発明の構成の技術的意味は,法36条6項2号に反するか否かの問題とはなり得ないから,被告の主張は,採用の限りでない。 さらに,被告は,第三者は,自己の製品が本願各補正発明の技術的範囲に属するか否かについて,実験等を実施せざるを得なくなり,不測の不利益を受ける危険性があるから,本願各補正発明に係る特許請求の範囲の記載は不明確であると主張する。しかし,?被告の主張どおり,実験等によって,本願各補正発明の技術的範囲に含まれるか否かを確認することができるのであれば,それは,すなわち,特許請求の範囲が明確であることを意味していること,?およそ,特許請求の範囲に,どのような構成が記載されたとしても,第三者が自己の製品を製造,販売等をするに当たり,当該製品が特許発明の特許請求の範囲に記載された構成を具備するか否かを確認する作業(実験や計測等を含む。)は必須であり,そのような作業が必要であるからという理由によって,当該特許請求の範囲の記載が不明確であり,法36条6項2号に反するとはいえないこと等に照らすならば,被告の主張は,その主張自体失当である。 その他,被告は縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。 2結論以上によれば,原告主張の取消事由は理由があるから,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 齊木教朗 |
裁判官 | 武宮英子 |