関連審決 | 不服2007-25540 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21行ケ10140審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10370審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10068審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10384審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10090審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 新規性 / 29条1項3号 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 周知技術 / 技術常識 / パリ条約 / 優先権 / 優先日 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 前置審査 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 国際出願 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
21年
(行ケ)
10289号
審決取消請求事件
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原告 エックス−レイオプティカル シス テムズ インコーポレーテッド 訴訟代理人弁理士谷義一 同 阿部和夫 同 梅田幸秀 同 新開正史 同 復代理人弁理士窪田郁大 被告 特許庁長官 指定代理人 居島一仁 同 岡田孝博 同 廣瀬文雄 同 小林和男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2010/08/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1特許庁が不服2007−25540号事件について平成21年5月12日にした審決を取り消す。 2訴訟費用は,被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
2第1請求 主文と同旨。 第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯(1) 原告は,発明の名称を「蛍光X線分光システム及び蛍光X線分光方法」とする発明について,平成14年6月18日を国際出願日として特許出願(特願2003-505939。以下「本願」という。)をしたが(パリ条約による優先権主張の優先日:平成13年6月19日,優先権主張国:米国),平成19年6月13日付けで拒絶査定を受けたことから,同年9月18日,拒絶査定不服審判(不服2007-25540号事件)を請求した。原告は,同年10月18日に手続補正(以下「本件補正1」という。)をし,また,平成20年6月23日に誤訳訂正(甲20)をするとともに,同日付けで手続補正(甲21,以下「本件補正2」という。)をした。 (2) 特許庁は,上記請求を審理した上,平成21年5月12日,本件補正1を却下し,本件補正2を認めた上,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月22日,原告に送達された。 2特許請求の範囲本願の特許請求の範囲の請求項1(本件補正2における手続補正後のもの)の記載は,次のとおりである。(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」といい,平成20年6月23日の誤訳訂正後の明細書(甲20)を,「本願明細書」という。別紙図C(本願発明の実施例構成図)は本願発明の一実施形態である。)「【請求項1】 少なくとも1つのX線放射源(110/210)と, 少なくとも1つのX線検出器(150/250)と,3 サンプルの上の焦点から蛍光X線を集光して,所定の分析物の特徴のあるエネルギーの前記蛍光X線を前記X線検出器に向けるための,前記サンプル(130/230)と前記X線検出器との間に配置された,点SをX線源の位置,点Iを焦点,Rを点Iと点Sを含む集束円の半径として,集束円の面において2Rの曲率半径を有し,セグメントSIに垂直な中間面において2Rと異なる曲率半径を有する,少なくとも1つの二重湾曲回折光学部品を有する少なくとも1つの単色集光光学部品(140/240)と, 前記サンプルの分析物を刺激して蛍光X線を発生させるために,前記X線放射源からX線放射を集光して,該X線放射を前記サンプルの上の前記焦点に集束させるための,前記X線放射源と前記サンプルとの間に配置された少なくとも1つの励起光学部品(120/220)とを備え, 前記二重湾曲回折光学部品は,一重湾曲の光学部品よりも大きな集光立体角で前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり,ブラッグ角度条件を用いて前記蛍光X線を単色化する二重湾曲単色光学部品を有することを特徴とする波長分散蛍光X線分光システム。」3審決の理由(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,本願発明は,特開2001-124711号公報(以下「引用例1」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法(以下「法」という。また,以下,法17条の2,50条,53条,159条1項・2項,163条2項については,平成14年法律第24号改正附則2条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の法をいうものである。)29条2項により,特許を受けることができないと判断した。 (2) 上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容並びに本願発明と引用発4明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア引用発明の内容「X線源11,X線源11からの一次X線12を集光するX線ミラー13,測定対象の試料15,試料15からの蛍光X線16を単結晶の表面を球面状にした波長固定型分光器22に導き,波長固定型分光器22から入射した蛍光X線16の内の特定の波長の蛍光X線のみを検出器20を配置した位置へ回折・集光する波長分散型蛍光X線分析装置。」(審決書7頁5〜9行目)イ一致点 「少なくとも1つのX線放射源と, 少なくとも1つのX線検出器と,サンプルの上の焦点から蛍光X線を集光して,所定の分析物の特徴のあるエネルギーの前記蛍光X線を前記X線検出器に向けるための,前記サンプルと前記X線検出器との間に配置された,少なくとも1つの湾曲回折光学部品を有する少なくとも1つの単色集光光学部品と,前記サンプルの分析物を刺激して蛍光X線を発生させるために,前記X線放射源からX線放射を集光して,該X線放射を前記サンプルの上の前記焦点に集束させるための,前記X線放射源と前記サンプルとの間に配置された少なくとも1つの励起光学部品とを備え,前記湾曲回折光学部品は,前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり,ブラッグ角度条件を用いて前記蛍光X線を単色化する湾曲単色光学部品を有する波長分散蛍光X線分光システム。」である点。(審決書8頁9〜22行目)ウ相違点(ア) 相違点1湾曲光学部品について,本願発明では,「点SをX線源の位置,点I5を焦点,Rを点Iと点Sを含む集束円の半径として,集束円の面において2Rの曲率半径を有し,セグメントSIに垂直な中間面において2Rと異なる曲率半径を有する二重湾曲であるのに対し,引用発明では,単結晶の表面を球面状にしたものである点。」(審決書8頁25〜29行目) (イ) 相違点2 湾曲回折光学部品について,本願発明では「一重湾曲の光学部品よりも大きな集光立体角で前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たるのに対して,引用発明では,その点が明確でない点。」(審決書8頁31〜34行目)第3当事者の主張1審決の取消事由に係る原告の主張審決には,以下のとおり,(1) 引用発明の認定の誤り(取消事由1),(2)相違点1についての容易想到性判断の誤り(取消事由2),(3) 相違点2についての容易想到性判断の誤り(取消事由3),(4) 顕著な作用効果の看過(取消事由4),(5) 手続上の瑕疵(取消事由5)があり,これらは結論に影響を及ぼすものである。 (1) 取消事由1(引用発明の認定の誤り)ア審決は,引用例1の記載から引用発明について,「X線ミラー13が,X線照射をサンプルの上の焦点に集束させている」,「表面を球面状にした波長固定型分光器22に,蛍光X線がほとんど全て当たる」と解釈し,「X線放射をサンプル上の焦点に集束させる」,「サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学部品にほとんど全て当たる」という技術的事項を,本願発明と引用発明の一致点と認定した。 しかし,引用例1には,上記技術的事項が開示されておらず,引用発明がこれらの技術的事項を備えているとはいえないから,審決は,引用発明6の認定を誤り,ひいては,一致点の認定を誤ったものであり,その誤りは結論に影響を及ぼす。すなわち,(ア)引用発明が「X線放射をサンプル上の焦点に集束させる」という技術的事項を備えているとはいえないことについて 審決は,引用発明の「X線ミラー13」は,「X線源11からの一次X線12を集光する」ものであり,「試料15から」「蛍光X線16」が発生するという理由のみから,引用発明は「X線放射をサンプル上の焦点に集束させる」と認定している。 しかし,引用発明(引用例1の第2実施形態で図3(別紙図A(引用例1の図3))に記載された形態)において,試料15上のX線照射領域の形態は,引用例1の第2実施形態に関する説明(図3及び段落【0029】〜【0032】),第1実施形態に関する説明(図2及び段落【0022】〜【0028】)からは明らかでなく,引用例1の段落【0023】に「試料15の照射位置における縦方向の幅,即ち,高さを0.1mmにして0.1mm×10mm程度のビームサイズ」,段落【0026】に「集光した一次X線12を入射角αを,例えば,0.05°〜0.3°程度にした全反射臨界各近傍の角度にして入射し」と記載されることから推測すれば,別紙図B(X線照射領域説明図)に示す領域ABCD(0.1mm×10mm)になると考えられるが,領域ABCDは,一辺が10mmもある領域であって,「焦点」とはいえない。 したがって,引用発明が,「X線放射をサンプル上の焦点に集束させる」という技術的事項を備えているとはいえない。 (イ) 引用発明が「サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学部品にほとんど全て当たる」という技術的事項を備えているとはいえないことについて審決は,引用発明について,「サンプル上の焦点から光学部品へ向う7蛍光X線が当該光学部品にほとんど全て当たる」と認定する。 しかし,以下のとおり,引用発明における蛍光X線は,実際にはスリット21によりブロックされるものがあり,試料15から波長固定型分光器22へ向かう蛍光X線が波長固定型分光器22にほとんど全てが当たると認定することはできない(引用例1の図3(別紙図A)では,試料15から波長固定型分光器22へ向かうが,スリット21によってブロックされる蛍光X線については,描写が省略されていると考えられる。)。 すなわち,?引用発明においてスリット21を用いる目的は,試料15上のX線照射領域全体から蛍光X線が波長固定型分光器22に向かうと,検出器20において誤検出を起こす可能性があり,そのような誤検出を避けるため,試料15上のX線照射領域内に「仮想」の点を生成し,この点のみから蛍光X線が波長固定型分光器22に向かうようにしたためと考えられること,?引用発明では,サンプル上の長く伸びた領域からの異なる入射角が検出器の分解能を破壊するため,意味のある測定を行うためには,スリットを用いて狭い入射角範囲を保つ必要があること,?引用例1の第2実施形態におけるX線照射領域は,引用例1の第1実施形態におけるX線照射領域と同一と考えられるところ,第1実施形態におけるX線照射領域は,スリット17の横幅と同じか,それより広い領域のはずであるから,第2実施形態におけるX線照射領域も,横方向にある程度幅を持った領域であって,X線照射領域から発せられた蛍光X線の中には,スリット21によって遮断されるものが存在すると解するのが合理的であること等によれば,引用発明が「サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学部品にほとんど全て当たる」という技術的事項を備えているとはいえない。 イ以上のとおり,引用発明は,「X線放射をサンプル上の焦点に集束させ8る」,「サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学部品にほとんど全てあたる」との技術的事項を備えていないから,これらの点は,一致点ではなく,相違点として認定されるべきである。上記相違点は,当業者が容易に想到できるものではないから,審決の引用発明の認定,及び一致点の認定誤りは,結論に影響を及ぼす。 なお,被告は,審決が,「サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学部品にほとんど全て当たる」という技術的事項を一致点としたのは誤記(削除ミス)であり,相違点2として認定した旨主張するが,審決は,相違点2の判断において,上記の技術的事項に関する容易想到性について判断していないことに照らすと,誤記であるとはいえず,被告の主張は失当である。 (2) 取消事由2(相違点1についての容易想到性判断の誤り) 審決は,相違点1について,「湾曲光学部品として,点SをX線源の位置,点Iを焦点,Rを点Iと点Sを含む集束円の半径として,集束円の面において2Rの曲率半径を有し,セグメントSIに垂直な中間面において2Rと異なる曲率半径を有する二重湾曲光学部品」は,「従来周知の事項であるので,引用発明に,上記周知の事項を適用することにより,相違点1における本願発明の構成とすることは,何ら困難性が存在せず,当業者が容易に想到し得る事項である」と判断する。また,審決は,従来周知の事項の例として,Z.W. Chen 他,”Microanalysis by monochromatic microprobe x-ray fluorescence □ physical basis, properties, and future prospects”, Journal of Applied Physics, Vol.84(引用例5。甲5)を掲げている。 しかし,相違点1の「湾曲回折光学部品」は,本願発明でいえば「二重湾曲回折光学部品」,引用発明でいえば「波長固定型分光器22」に関することであり,検出経路で用いられるものであるのに対し,引用例5で開示されている回折器は,励起経路で用いられている。励起経路で用いられている回9折器の技術を,検出経路で用いられている「湾曲回折光学部品」に適用することは,当業者にとって容易でなく,容易であるといえるためには,相当の動機付けが必要と考えられるが,そのような動機付けは審決では指摘されず,引用例1からも明らかでない。 したがって,審決の相違点1についての容易想到性の判断は誤りである。 (3) 取消事由3(相違点2についての容易想到性判断の誤り)審決は,相違点2について,「一重湾曲の光学部品よりも大きな集光立体角で前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たることは,比較されている一重湾曲の光学部品が特定されていないので,集光効率の良さを表現しているにすぎないものと認められるが,集光効率の良い光学部品を用いようとすることは,周知の事項であるので,当業者が必要に応じて適宜成し得る設計事項にすぎない」と判断する。 しかし,審決が,「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たる」を,一致点ではなく,相違点2として認定しているとしても,この構成要件は,当業者が容易に想到できるものではない。なぜなら,「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たる」との技術的事項は,引用発明で用いられる光学部品を改善すれば実現できるというものではなく,いかなる光学部品を用いたとしても,「サンプル上の焦点」と「光学部品」との間に障害物があれば,「サンプル上の焦点」から「光学部品」へ向かう蛍光X線が「光学部品」にほとんど全て当たることにはならないからである。すなわち,審決は,相違点2についての容易想到性を判断しているとはいえない。 したがって,相違点2についての審決の判断は誤りであり,その誤りは結論に影響を及ぼす。 10(4)取消事由4(顕著な作用効果の看過)審決は,本願発明の作用効果について,「当業者であれば,引用例の記載及び上記周知の事項から予測し得る範囲のものに過ぎず,格別顕著なものとはいえない」と判断する。 しかし,本願発明では,ブラッグ角度条件を用いて蛍光X線を単色化する際に,サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学部品にほとんど全て当たるようにして,効率のよいシステムを提供しており,このような本願発明の作用効果は,焦点を開示せず,スリットを用いる引用例1をはじめとする引用例の記載及び周知事項から予測し得るものではなく,顕著な作用効果というべきである。 したがって,審決は,本願発明の顕著な作用効果を看過した誤りがあり,その誤りは結論に影響を及ぼす。 (5) 取消事由5(手続上の瑕疵)法159条2項,50条は,拒絶査定に対する審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合,拒絶査定の理由とは異なる拒絶の理由を通知すべき旨を規定するところ,審決は,査定の理由とは異なる拒絶の理由を通知することなく,本願発明が特許を受けることができないと判断したものであり,審決の結論に影響を及ぼす重大な手続上の瑕疵がある。 すなわち,原告は,平成14年6月18日に特許出願をし,平成18年10月16日付けで拒絶理由通知を受け,平成19年4月20日に手続補正(以下「本件補正0」という。)をしたが,同年6月13日付けで拒絶査定を受け,同年9月18日に拒絶査定不服審判請求をした。原告は,同年10月18日に本件補正1をしたが,同年12月11日付けで拒絶理由通知(前置審査時の最後の拒絶理由通知)を受け,平成20年6月23日の本件補正2をし,平成21年5月12日に審決を受けた。 ところで,平成19年12月11日付けでされた拒絶理由通知は,「審判11請求時の補正によって通知することが必要になった」と解して通知されたものである(本件補正1は,審決において却下されているから,審判請求時の補正がなかったものとされ,拒絶理由も通知する必要がなかったと解される。)。ところで,審判体は,必要がなかったと解される同拒絶理由に基づいて,本願発明は進歩性がないと判断した。そうだとすると,審判体は,本件補正2に係る発明(本願発明)又は本件補正0後の請求項1に係る発明に対する拒絶理由を通知することなく,審決したことになる。 したがって,審決は,法159条2項,50条の規定に違反する。 以上によれば,「本件審判の請求は成り立たない。」とした審決は取り消されるべきである。 2被告の反論(1) 取消事由1(引用発明の認定の誤り)に対し ア引用発明が「X線放射をサンプル上の焦点に集束させる」という技術的事項を備えているとはいえないことについて原告は,「引用発明において,試料15上のX線照射領域の形態は,引用例1の第2実施形態に関する説明及び第1実施形態に関する説明からは明らかでなく,引用例1の段落【0023】,段落【0026】の記載から推測すれば,別紙図Bに示す領域ABCD(0.1mm×10mm)になると考えられるが,領域ABCDは,一辺が10mmもある領域であって,「焦点」とはいえず,引用発明が「X線放射をサンプル上の焦点に集束させる」という技術的事項を備えているとはいえない。」旨主張する。 しかし,X線分析の分野において,光が収束される部分であれば,その形状が「線状」であっても「焦点」と呼ぶことは技術常識である(特開2000-206059号公報(乙1)の段落【0022】,特開平11-64595号公報(乙2)の段落【0006】)。また,引用例1の段落【0023】に「この場合,X線ミラー13は波長分散型蛍光X線分析法12における検出効率の低さを入射X線のエネルギー密度を高めることによって補うものであり,表面形状が楕円,放物面,或いは,トロイダル型のX線全反射ミラー或いは多層膜ミラーからなり,一次X線12を集光して試料15の照射位置における縦方向の幅,即ち,高さを0.1mmにして0.1mm×10mm程度のビームサイズに整形するものであり,これ以上のサイズは必要がない。」と記載されていることから,引用例1の「入射X線のエネルギー密度を高めること」,「試料15の照射位置」が,それぞれ,本願発明の「X線放射を集束させる」,「サンプル上の焦点」に相当し,引用発明が「X線放射をサンプル上の焦点に集束させる」という技術的事項を備えていることは明らかである。 なお,原告は,「焦点」の形状のみでなく,大きさについても相違を主張するようにも解されるが,本願発明は,「X線放射をサンプル上の焦点に集束させる」と特定されるのみで,「焦点」の大きさについては特定されていない。また,本願発明の「前記サンプルの分析物を刺激して蛍光X線を発生させるために,前記X線放射源からX線放射を集光して,該X線放射を前記サンプルの上の前記焦点に集束させるための,前記X線放射源と前記サンプルとの間に配置された少なくとも1つの励起光学部品(120/220)とを備え」との特定からも,「励起光学部品」は「前記X線放射源からX線放射を集光して,該X線放射を前記サンプルの上の前記焦点に集束させる」との機能を有するにとどまり,「焦点」の大きさまで特定されているとはいえず,原告の主張は,本願発明に記載されていない事項に基づくものである。 したがって,引用発明が「X線放射をサンプル上の焦点に集束させる」という技術的事項を備えているものとして,これを一致点と認定した審決の判断に誤りはなく,原告の主張は失当である。 イ引用発明が「サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学13部品にほとんど全て当たる」という技術的事項を備えているといえないことについて原告は,「引用発明における蛍光X線は,実際にはスリット21によりブロックされるものがあり,試料15から波長固定型分光器22へ向かう蛍光X線が波長固定型分光器22にほとんど全て当たるということはできないと理解すべきであるから,引用発明が「サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学部品にほとんど全て当たる」という技術的事項を備えているとはいえない。」旨主張する。 審決は,「サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学部品にほとんど全て当たる」という技術的事項について,一致点と認定すると同時に,相違点2として認定した。これを一致点としたのは誤記(削除ミス)であり,相違点2として認定した上で検討を行っている。したがって,この点の誤記は,審決の結論には影響を与えない。 (2) 取消事由2(相違点1についての容易想到性判断の誤り)に対し 以下のとおり,「蛍光X線」の「検出効率」を高めることが望ましいとの事項は,引用例1に開示されている。すなわち,引用例1の段落【0030】の「波長固定型分光器22として単結晶の表面を球面状にしたものを用い,入射した蛍光X線16の内の特定の波長の蛍光X線のみをスリット23及び検出器20を配置した位置へ回折・集光するものである。」と記載されているから,「波長固定型分光器22」は,「単結晶の表面を球面状にしたもの」であり,「入射した蛍光X線16の内の特定の波長の蛍光X線のみを回折・集光する」ものであるといえる。また,段落【0031】の「この本発明の第1の実施の形態においては,(中略)かなりの拡がり角の範囲内に放出された蛍光X線を検出するので検出効率は,上記の第1の実施の形態より高くなる。」(なお,「上記の第1」とあるのは「上記の第2」の誤記であることは明らかである。)と記載されているから,「検出効率」を高める14ことが望ましいとの事項は,開示されている。 一方,湾曲回折光学部品の分野において,一重湾曲の回折光学部品と比較して,二重湾曲した回折光学部品の方が,よりX線を集光できることは本願出願前には周知の事項である(甲20,乙3)。 したがって,引用発明において,「蛍光X線」の「検出効率」をより高めるために,「単結晶の表面を球面状にしたもの」である「波長固定型分光器22」を,引用例5に記載されているような従来周知の事項である二重湾曲光学部品とすることは,当業者が容易に想到し得るものであるといえる。 (3) 取消事由3(相違点2についての容易想到性判断の誤り)に対し本願発明の「前記二重湾曲回折光学部品は,一重湾曲の光学部品よりも大きな集光立体角で前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり,ブラッグ角度条件を用いて前記蛍光X線を単色化する二重湾曲単色光学部品」中の,「一重湾曲の光学部品よりも大きな集光立体角で前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり」の記載は,「二重湾曲回折光学部品」が有する一般的機能を特定していると解すべきである。 その理由は,以下のとおりである。すなわち,本願明細書の段落【0026】及び段落【0027】の記載からみて,「サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学部品にほとんど全て当たる」という技術的事項が得られるためには,焦点サイズが50μから500μであることが必要であるが,本願発明からは,「焦点」の大きさまで特定することはできず,「二重湾曲回折光学部品」の「焦点」から前記「光学部品」へ向かって進んでいる「蛍光X線」が前記「光学部品」に当たるのは一般的なことであり,特定の焦点から光学部品をみた範囲に相当する「集光立体角」が「一重湾曲」のものよりも広いことも,形状からみて一般的機能といえるからである。 「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光15学部品にほとんど全て当たり」との事項は,本願明細書に直接の記載がなく,「二重湾曲回折光学部品」の一般的特性として任意に設計できる範囲の事項というべきであり,特段の技術的意義を見出すことができない。 そして,引用発明において,「蛍光X線」の「検出効率」をより高めるために「単結晶の表面を球面状にしたもの」である「波長固定型分光器22」を,引用例5に記載されているような従来周知の事項である二重湾曲光学部品とすることは,当業者が容易に想到し得るというべきであり(上記(2) のとおり),同様に,相違点2に係る本願発明の構成とすることについても,当業者が容易に想到し得るというべきである。 したがって,相違点2についての審決の判断に誤りはなく,原告の主張は失当である。 (4) 取消事由4(顕著な作用効果の看過)に対し上記(3) のとおり,本願発明の「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり」との記載は,「二重湾曲回折光学部品」が有する一般的機能を特定していると解すべきであって,「二重湾曲回折光学部品」とは別の構成を特定しているものではない。そうすると,「サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学部品にほとんど全て当たる」という技術的事項に関する原告の主張は,前提において誤りがあり,本願発明について,サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学部品にほとんど全て当たるようにして,効率のよいシステムを提供するという作用効果は,引用例1をはじめとする引用例の記載,及び,周知事項から予測し得る。 したがって,本願発明の作用効果について,「格別顕著なものとはいえない」とした審決の判断に誤りはなく,原告の主張は失当である。 (5) 取消事由5(手続上の瑕疵)に対し 平成19年12月11日付け拒絶理由通知は,拒絶査定不服審判において16「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」(法159条2項)における拒絶理由通知と同視し得るものである(法163条2項)から,同日付け拒絶理由通知に示した理由に基づいて特許を受けることができないとした審決に違法性はない。 審判請求時の補正に対して,審判の請求に係る査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した審査官が拒絶理由を通知すること,その拒絶理由の通知に係る法50条により指定された期間内にされた補正に対して,前記拒絶理由の通知に示された理由により特許を受けることはできないとした審決をするとともに,審判請求時の不適法な補正に対して補正却下することは,法の規定に則った手続であり,何ら違法性はない(法164条2項,53条1項)。 たしかに,前置審査時の拒絶の理由を通知する前に審判請求時の補正が却下されていれば,当然,前置審査時の拒絶の理由を通知する必要はないが,審査官は審判請求時の補正を却下することはできない(法164条2項)ため,仮に,その補正が事後的に審判で却下されるべきものであったとしても,前置審査の時点においては審判請求時の補正は却下されていないことから,審判の請求に係る査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合,審査官が拒絶の理由を通知することは適法な手続である。そして,補正については,法159条において,事後的に審判で補正を却下する旨規定されるが,審査官が通知した拒絶理由通知が「なかったものであると解される。」との根拠は,法には規定されていないから,「審判請求時の補正が却下され,審判請求時の補正がなかったものとなるのであれば,この拒絶理由通知は必要ないと解される」との原告の主張は失当である。 次に,原告の反論の機会について検討すると,平成19年12月11日付け拒絶理由通知の,法29条1項3号に該当し,特許を受けることはできない,法29条2項の規定により特許を受けることができない,法36条6項2号に規定する要件を満たしていない,との3つの理由に対し,原告は平成1720年6月23日付けで,意見書(甲19),誤訳訂正書(甲20)及び手続補正書(甲21)を提出している。 そして,前記意見書(甲19)及び前置審査中である同年8月18日作成の応対記録(乙4)の記載からみても,原告は平成19年12月11日付け拒絶理由通知の理由について,意見を述べ,補正をする機会もあったというべきである。 したがって,審決に手続上の瑕疵はなく,原告の主張は失当である。 以上によれば,審決の判断に,取り消すべき誤りはない。 第4当裁判所の判断当裁判所は,審決には,?前記湾曲回折光学部品は,「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当た(る)」との構成について,一方で,一致点に当たるとし,他方で,相違点にも当たるとしている点で論理の矛盾があり,?同構成を相違点に当たるとした上での容易想到性の判断について,その理由を示すことなく,容易想到性を肯定した点で誤りがあると解する。その理由は,以下のとおりである。 1「前記湾曲回折光学部品は,前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当た(る)」との構成を一致点と認定した審決の当否について(1) 引用例1(甲1)の記載引用例1(甲1)には,次の記載がある。 「【0022】【発明の実施の形態】ここで,図2を参照して本発明の第1の実施の形態の蛍光X線分析方法を説明する。 図2参照図2は,本発明の第1の実施の形態に用いる波長分散型蛍光X線分析装置の概念的構成図であり,管球,ローター,放射光等のX線源11,X線源1118からの一次X線12を平行化或いは集光するX線ミラー13,集光した一次X線12中の散乱成分を除去するスリット14,測定対象の試料15,試料15からの蛍光X線16の内の所定の放射角を有する蛍光X線16のみを分光結晶18に導く散乱ソーラースリット17,分光結晶18からの回折X線の内,所定の方向に回折されたX線のみを検出器20に導く受光ソーラースリット19によって構成する。 【0023】この場合,X線ミラー13は波長分散型蛍光X線分析法における検出効率の低さを入射X線のエネルギー密度を高めることによって補うものであり,表面形状が楕円,放物面,或いは,トロイダル型のX線全反射ミラー或いは多層膜ミラーからなり,一次X線12を集光して試料15の照射位置における縦方向の幅,即ち,高さを0.1mmにして0.1mm×10mm程度のビームサイズに整形するものであり,これ以上のサイズは必要がない。」「【0029】次いで,図3を参照して本発明の第2の実施の形態を説明する。 図3参照図3は,本発明の第2の実施の形態に用いる波長分散型蛍光X線分析装置の概念的構成図であり,X線源11,X線源11からの一次X線12を平行化或いは集光するX線ミラー13,集光した一次X線12中の散乱成分を除去するスリット14,測定対象の試料15,試料15からの蛍光X線16の内の所定の放射角を有する蛍光X線16のみを波長固定型分光器22に導くスリット21,波長固定型分光器22からの回折X線の内,所定の方向に回折されたX線のみを検出器20に導くスリット23によって構成する。 【0030】この場合,X線源11,X線ミラー13,検出器20としては,上記の第1の実施の形態と同じものを用い,一方,波長固定型分光器22として単結晶の表面を球面状にしたものを用い,入射した蛍光X線16の内の19特定の波長の蛍光X線のみをスリット23及び検出器20を配置した位置へ回折・集光するものである。 【0031】この本発明の第1の実施の形態(判決注「第2の実施の形態」の誤記と認める。)においては,波長を固定して測定しているのでθ/2θのような走査が不要になり,それによって,測定が容易になるとともに,かなりの拡がり角の範囲内に放出された蛍光X線を検出するので検出効率は,上記の第1の実施の形態より高くなる。」(2)判断上記のとおり,引用例1の段落【0029】において,スリット21について記載があり,図3が示されているが,スリット21によって,試料15から波長固定型分光器22に導かれる蛍光X線は,試料15で発生した蛍光X線の成分のうち,所定の放射角を有しない蛍光X線の成分が取り除かれており,また,原告が主張するとおり,引用例1においてスリット21が設置されている目的は,試料15上のX線照射領域全体から蛍光X線が波長固定型分光器22に向かうと,検出器20において誤検出を起こす可能性があり,そのような誤検出を避けるため,試料15上のX線照射領域内に「仮想」の点を生成し,この点のみから蛍光X線が波長固定型分光器22に向かうようにしたためであるとも考えられることなどに照らすならば,引用発明に「サンプル上の焦点から光学部品へ向う蛍光X線が当該光学部品にほとんど全て当たる」という構成が開示されていると認定することはできない。 審決は,一致点について,「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たる」との構成以外の構成については,個別的な認定過程を記載しているにもかかわらず(審決書7〜8頁),上記構成については全く記載がない。のみならず,審決では,「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たる」との構成を相違点として認定し,被告は,当20審において,審決が上記構成を「一致点」と認定したのは,誤記(削除ミス)であると主張する。 以上の事実(上記構成を相違点としても認定していること,被告が当審において誤記であると主張している経緯を含む。)に照らすならば,本願発明と引用発明との対比において,上記構成を一致点とした審決の認定は誤りであるといえる。 2相違点2中の「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たる」と構成を容易想到であると判断した審決の当否について(1)相違点2中の「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たる」との構成が,引用発明から容易に想到することができるとした審決の判断の当否を検討する。 特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本願発明の「単色集光光学部品(140/240)」は,少なくとも1つの「二重湾曲回折光学部品」を有し,その「二重湾曲回折光学部品」は,「点SをX線源の位置,点Iを焦点,Rを点Iと点Sを含む集束円の半径として,集束円の面において2Rの曲率半径を有し,セグメントSIに垂直な中間面において2Rと異なる曲率半径を有する」ものであるとともに,「二重湾曲単色光学部品」を有し,その「二重湾曲単色光学部品」は「一重湾曲の光学部品よりも大きな集光立体角で前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり,ブラッグ角度条件を用いて前記蛍光X線を単色化する」ことを構成要件としている。そして,上記「二重湾曲単色光学部品」の構成部分に着目するならば,「前記光学部品」は「二重湾曲回折光学部品」を指すものであり,かつ「前記蛍光X線」はX線放射源からのX線放射を集光して当該X線放射をサンプル上の焦点に集束させることで,サンプルの分析物を刺激して発生したものであるということができるから,21「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり」という構成は,単に,二重湾曲単色光学部品が発揮する機能を一般的に記載したにすぎないと解するのは妥当といえない。 同構成は,サンプル上の焦点から発生し,単色集光光学部品を有する二重湾曲回折光学部品へと向かう「蛍光X線」のほとんど全てが二重湾曲回折光学部品に当たること,すなわち,本願発明の波長分散蛍光X線分光(WDS)システム全体からみた,サンプルから発生し二重湾曲回折光学部品へと向かう「蛍光X線」の態様ないし挙動を限定した記載と解するのが合理的である。 これに対して,審決は,相違点2についての容易想到性の判断として,「集光効率の良い光学部品を用いようとすることは,周知の事項であるので,当業者が必要に応じて適宜成し得る設計事項にすぎない」とのみ理由を示している。同記載部分は,「一重湾曲の光学部品よりも大きな集光立体角」であるとの構成部分が容易想到であることの理由付けということはできたとしても,「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり」との構成部分が容易想到であることの理由付けということはできない。 (2)この点,被告は,「「一重湾曲の光学部品よりも大きな集光立体角で前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり」の記載は,「二重湾曲回折光学部品」が有する一般的機能を特定していると解すべきであり,その記載に不備や新規事項を有するものとはいえない。」,「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり」との事項は,本願明細書に直接の記載がなく,「二重湾曲回折光学部品」の一般的特性として任意に設計できる範囲の事項というべきであり,特段の技術的意義を見出すことができない。」として,「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり」との構成が,実22質的な相違点ではないことを前提とした主張をする。しかし,引用例1の段落【0029】の記載からすると,引用発明は,試料15からの蛍光X線16の内の所定の放射角を有する蛍光X線16のみを波長固定型分光器22に導くスリット21が存在することから,試料(サンプル)から発生した蛍光X線のほとんど全てが波長固定型分光器22(二重湾曲単色光学部品)に当たるとの構成を有しているとは認められないこと等に照らすと,実質的な相違点でないことを前提とした被告の主張は失当である。 また,被告は,「引用発明において,「蛍光X線」の「検出効率」をより高めるために「単結晶の表面を球面状にしたもの」である「波長固定型分光器22」を,引用例5に記載されているような従来周知の事項である二重湾曲光学部品とすることは,当業者が容易に想到し得るというべきであり,同様に,相違点2に係る本願発明の構成とすることについても,当業者が容易に想到し得ると主張する。しかし,相違点1に係る本願発明の「点SをX線源の位置,点Iを焦点,Rを点Iと点Sを含む集束円の半径として,集束円の面において2Rの曲率半径を有し,セグメントSIに垂直な中間面において2Rと異なる曲率半径を有する」との構成と,相違点2に係る本願発明の「前記サンプル上の前記焦点から前記光学部品へ向う前記蛍光X線が前記光学部品にほとんど全て当たり」との構成とは無関係というべきであり,前者について容易想到であるからといって,後者についても容易想到であるとはいえないから,被告の主張は失当である。 (3)相違点2についての審決の判断は,理由不備の違法があり,同違法は,結論に影響を及ぼす。 3手続上の瑕疵について以上のとおり,審決は,その余の点を判断するまでもなく誤りがある。なお,念のため,手続上の瑕疵の有無について,判断する。 原告は,「平成19年12月11日付けでされた拒絶理由通知の拒絶理由は,23「審判請求時の補正によって通知することが必要になった」ためにされたものであり,審判請求時の補正(本件補正1)が却下され,審判請求時の補正がなかったものとなるのであれば,この拒絶の理由は通知する必要がなかったと解されるにもかかわらず,審決は,この拒絶の理由に基づいて,本願発明は引用発明に基づいて進歩性がないと判断した。そうすると,審決は,本件補正2に係る発明(本願発明)又は本件補正0後の請求項1に係る発明については拒絶理由を通知することなく,判断したということができる」として,「審決は,法159条2項,50条の規定に違反して,査定の理由とは異なる拒絶の理由を通知することなく,本願発明が特許を受けることができないと判断したものであり,審決の結論の影響を及ぼす重大な手続上の瑕疵がある。」旨主張する。 しかし,平成19年12月11日付けの拒絶理由通知には,請求項1等に係る発明は新規性がなく,法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないことに加え,進歩性がなく,同条2項の規定により特許を受けることができないことも記載されており,これに対し,原告は,意見書を提出し,誤訳訂正を行い,本件補正2を行ったことが認められる(甲18〜21)。そして,審決は,法17条の2第4項の規定に違反するとして本件補正1を却下し(法159条1項において読み替えて準用する法53条1項),本件補正2の請求項1の記載により本願発明を認定し,上記拒絶理由通知の拒絶理由に基づいて本願発明は進歩性がないと判断した。原告には,適切な防御の機会が与えられているから,法159条2項,50条の趣旨に違反する手続上の瑕疵はない。 したがって,原告の主張は失当である。 第5結論以上のとおり,審決には,法29条2項の規定により,特許を受けることができないとした点に理由不備の違法がある。その余の判断をするまでもなく,原告の請求は理由があるから,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。 24 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 齊木教朗 |
裁判官 | 武宮英子 |