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関連審決 不服2008-17162
関連ワード 容易に発明 /  一致点の認定 /  発明の詳細な説明 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10115号 審決取消請求事件
原告 X
被告 特許庁長官
指定代理人 草野顕子
同 山口由木
同 紀本孝
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/08/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求 特許庁が不服2008-17162号事件について平成22年3月1日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成16年4月1日,発明の名称を「回転ドアに手足や身体が挟まったとき,ドア枠が折れ曲がる回転ドア」とする発明について,特許出願(特願2004-134885号。)をし(甲7。特開2005-290954号),平成20年2月18日提出の手続補正書(同年2月17日付け。甲9の2)により特許請求の範囲を補正したが,同年5月2日に拒絶査定がされ(甲3),これに対し,平成20年6月12日,不服の審判(不服2008-17162号事件)を請求した(甲10)。
特許庁は,平成22年3月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月13日,原告に送達された。
2特許請求の範囲平成20年2月18日提出の手続補正書(甲9の2)による補正後の特許請求の範囲(請求項の数1)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。別紙「本願明細書図面」参照)。
「【請求項1】ドアが回転中,回転ドア縦外枠に必要以上の力が加わった時回転ドア縦中枠から回転ドアの進行方向の反対方向にドアが折れ曲がり,回転ドア縦外枠とそと枠との隙間に大きな空間を設ける事を特徴とする回転ドア」3審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。審決の判断の概要は,以下のとおりである。
(1) 審決は,特開2002-194959号公報(以下「刊行物」という。
甲6。別紙「刊行物参考図」参照)に記載された発明の内容,及び本願発明と刊行物記載の発明(以下「引用発明」という場合がある。)との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。
ア刊行物記載の発明の内容「通常運転において,袖パネルとドアパネルが所定の方向に回転している状態で,袖パネルの外方端部側フレームに通行者が衝突した時,袖パネルが,袖パネルの内方端部側フレームの軸の周りに上記所定方向と反対方向に回転する回転ドア」(審決書4頁3行〜6行)イ一致点「ドアが回転中,回転ドア縦外枠に必要以上の力が加わった時回転ドア縦中枠から回転ドアの進行方向の反対方向にドアが折れ曲がる回転ドア」(審決書4頁21行,22行)である点。
ウ相違点「ドアが折れ曲がった際に,本願発明が,回転ドア縦外枠とそと枠との隙間に大きな空間を設けるのに対し,刊行物記載の発明はこの(注 審決原文のまま)どのような空間ができるか不明な点。」(審決書4頁25行〜27行)(2) 相違点に係る容易想到性について以下のとおり判断した。
「刊行物記載の発明においてドアが折れ曲がるのは,本願発明と同様に,通行者が衝突したときにドアに挟まれないようにするため・・・である。そして,両者ともに,ドアの折れ曲がりによって,回転ドア縦外枠とそと枠との間に空間を形成して,手足や身体が挟まれても,大きな事故につながらない様にするものであり,そのための空間を,どの程度の大きさにするかは,ドアの大きさや想定する通行者等に応じて適宜決定し得る的事項(注 審決原文のまま)である。また,本願発明の効果も,刊行物記載の発明から,当業者が予測しうる範囲のものであり,格別のものではない。したがって,本願発明は,刊行物記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。なお,審判請求人の,本願発明と刊行物記載の発明との相違,及び刊行物記載の発明の実現不可能性についての主張は,ともに,本願発明の上記構成に基づかないものであるから,採用することができない。」(審決書4頁29行〜5頁7行)第3当事者の主張1取消事由に係る原告の主張審決には,以下のとおり,(1)引用発明の「袖パネルの内方端部側フレーム」が本願発明の「回転ドア縦中枠」に相当するとした一致点の認定の誤り(取消事由1),(2)引用発明において,回転ドアが折れ曲がるとした一致点の認定の誤り(取消事由2),(3)相違点に係る容易想到性判断の誤り(取消事由3),がある。
(1) 取消事由1(「袖パネルの内方端部側フレーム」が「回転ドア縦中枠」に相当するとした一致点の認定の誤り)「袖パネルの内方端部側フレーム」が「回転ドア縦中枠」に相当するとして,「回転ドア縦中枠」を有する点について一致するとした点には,誤りがある。すなわち,本願発明の「回転ドア縦中枠」は,回転軸中心に近い方のドア縦中枠に,外側のドアが折れ曲がるように上端と下端にヒンジを組み込み,ヒンジの中心部に軸を設けて,外側のドアが軸を支点にして折れ曲がり回転できるようにした上,ドア縦中枠の進行方向側の縦枠は手前の縦枠より長く延ばした不均等な構造の縦枠とすることにより,回転ドア縦中枠軸を回転中心軸として,進行方向には折れ曲がるドアが動かない構造としている。
「回転ドア縦中枠」は,平常時のドアの回転では,折れ曲がる側のドアが動かないよう,弾性体により数ヶ所のストッパーで直線状態を維持できるように取り付け,必要以上の力が加わればストッパーの弾性体と回転ドア縦中枠の摩擦係数値を超えることにより折れ曲がり,また,折れ曲がる側のドア縦中枠の進行方向側から,反対方向に向かって縦中枠を1/4半円の形状に切り込むことにより,スムーズに弾性体のストッパーによる静止状態からドア縦中枠が回転ドア縦中枠軸を中心として折れ曲がる構造で構成された回転ドア縦中枠である。
他方,刊行物(甲6)の段落【0006】には「・・・本発明の回転ドアは,回転中心から放射線状に配置される複数の扉体を備えている。これら扉体は,回転中心から離れた位置に軸部を有している。・・・この軸部を中心として戸先側において,揺動自在となる袖パネルが,各扉体に設けられている。」と記載されているように,本願発明と刊行物記載の発明とは,明らかに違う構造,又は構成である。
よって,刊行物記載の発明の「袖パネルの内方端部側フレーム」が本願発明の「回転ドア縦中枠」に相当するとした審決の認定には誤りがある。
(2)取消事由2(回転ドアが折れ曲がるとした一致点の認定の誤り)回転ドアが折れ曲がるとした審決の一致点の認定には,誤りがある。すなわち,本願発明の回転ドアは,ドアの途中から折れ曲がる回転ドアである。
これに対し,刊行物記載の回転ドアは,回転中心から離れたところに天井部より回転する構造材として,天井壁を貫通して伸延した角柱状の柱に回転中心方向側にドアパネル,側壁方向側に袖パネルがフランジにより取り付けられた構造で構成される回転ドアであるため,角柱状の柱に取り付けられた袖パネルは,ドアが回転中,回転ドア縦外枠に必要以上の力が加わった時,回転ドア縦中枠からドアが折れ曲がる回転ドアでなく,角柱状の柱を軸にして,フランジに取り付けられた袖パネルが開く構造で構成された回転ドアである点で異なる(甲6,【請求項1】,段落【0016】)。
(3)取消事由3(相違点に係る容易想到性判断の誤り)前記のとおり,?引用発明は,角柱状の柱に取り付けられた側壁側の袖パネルが揺動する(開く)構造であり,本願発明の,ドアの途中から折れ曲がる回転ドアとは明らかに異なること,?引用発明は,揺動した袖パネルを自動的に復帰させる自動復帰機構が設けられているので,引用発明において段落【0022】において「この回転ドアでは,正常運転している状態,即ち,袖パネル10とドアパネル6とが同一直線上に位置して回転中心の回りに所定方向に回転している状態において,いずれかの袖パネル10に誤って通行者が接触すると,図2に示すように,その袖パネル10が軸26の回りにストッパー38側に向かって揺動する。従って,通行者に大きな衝撃を与えたり,側壁2と袖パネル10との間に通行者の身体の一部や携帯品が挾まれることを防止できる。」と記載されているように,回転ドアと固定外枠との間に空間を形成して,手足や身体が挟まれても大きな事故につながらないようにする想定ではなく,その空間を適宜決定し得るものではないことに照らせば,相違点に係る本願発明の構成は,引用発明に基づき容易に想到することができたとはいえない。
2被告の反論(1) 取消事由1(「袖パネルの内方端部側フレーム」が「回転ドア縦中枠」に相当するとした一致点の認定の誤り)に対しアまず,本件出願の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,本願発明における回転ドアの折れ曲がる構造は,「回転ドア縦中枠から回転ドアの進行方向の反対方向にドアが折れ曲がり」と特定されるのみであって,縦中枠の形状,構造については何らの限定もされていない。よって,縦中枠の形状,構造が特定のものに限定されることを前提とする原告の主張は,本件出願に係る明細書(以下,願書に添付した図面も併せて,「本願明細書」という。)の記載に基づかないものとして,失当である。
イまた,本願明細書の発明の詳細な説明においても,「回転ドア縦中枠」については,「ドアが回転中の緊急時,回転ドア縦外枠?に必要以上の力が加わった時,回転ドア縦中枠?から回転ドアの進行方向の反対方向にドアが折れ曲がり,回転ドア縦外枠?とそと枠?との隙間に臨時的な大きな空間を設ける」(甲7,段落【0004】)と記載されているのみであるから,本願発明における「回転ドア縦中枠」とは,図面において符号?が付されている部分,すなわち,回転ドアのうち,回転中心から離れた外側のドア(実施例における,面積が小さい方のドア)における,回転中心に近い方のドア(実施例における,面積が大きい方のドア)側に設けられた枠を指していることが明らかである。よって,「回転ドア縦中枠から・・・ドアが折れ曲がり」とは,回転ドア縦中枠から外側(外枠側)のドアが折れ曲がることを特定しているにすぎず,回転ドア縦中枠よりドアの折れ曲がらない部分側の詳細な構造については,何ら特定されていないから,原告が本願発明について,折れ曲がる部分にヒンジを組み込み,ヒンジの中心部に軸を設けて,外側のドアが軸を支点にして折れ曲がり回転できるようにした構造であると主張する点は,本願明細書の記載に基づかないものとして,失当である。
ウ他方,刊行物(甲6)には,「通常運転において,袖パネルとドアパネルが所定の方向に回転している状態で,袖パネルの外方端部側フレームに通行者が衝突した時,袖パネルが,袖パネルの内方端部側フレームの軸の周りに上記所定方向と反対方向に回転する回転ドア」(審決書4頁3行〜6行)との発明が記載されている。上記の袖パネルは,ドアパネル側に内方端部側フレームを有しており,該袖パネルは,該内方端部側フレームから回転ドアの進行方向の反対方向に回動する構造となっていることから,引用発明は,「袖パネルの内方端部側フレームからドアが折れ曲がる」構造を有するものであるといえる。
エそうすると,「袖パネルの内方端部側フレーム」と本願発明の「回転ドア縦中枠」は,同等のものであり,引用発明の「袖パネルの内方端部側フレーム」が本願発明の「回転ドア縦中枠」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
オなお,仮に,本願発明の「回転ドア縦中枠から・・・ドアが折れ曲が」る構造が,原告主張のとおり,「回転軸中心に近い方のドア縦中枠に,外側のドアが折れ曲がるように上端と下端にヒンジを組み込み,ヒンジの中心部に軸を設けて,外側のドアが軸を支点にして折れ曲がり回転できるよう」な構造であるとしても,引用発明は,このような構造を備えるものである。すなわち,刊行物(甲6)の段落【0025】ないし【0028】,【図5】ないし【図8】の記載によれば,第2の実施の形態として示された扉体111は,ドアパネル106と袖パネル110とからなり,袖パネル110が回動する構造は,回転軸中心に近い方の各ドアパネル106の外側縦枠から上端部の水平部材112,及び下端部の水平部材114が,各袖パネル110の内方端部側フレーム内に設けた別の水平部材116と平行に配置され,水平部材112,114に鉛直に取り付けた軸118,120により回転自在に結合され,当該軸118,120を中心軸として袖パネル110が回転する。したがって,第2の実施の形態として示された扉体111は,原告が主張する本願発明の「回転軸中心に近い方のドアの外側縦枠の上端と下端にヒンジを組み込み,ヒンジの中心部に軸を設けて,外側のドアが軸を支点にして折れ曲がり回転できるようにした構造」と同様のものである。
カさらに,原告は,ドアの折れ曲がる部分の構造について,上記ヒンジ構造以外にも,例えばストッパーを設けている点や,縦中枠を1/4半円の形状に切り込んだ点など,図面の記載に基づいたと思われる詳細部分について主張する。しかし,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,失当である。
(2) 取消事由2(回転ドアが折れ曲がるとした一致点の認定の誤り)に対し審決は,刊行物には,「袖パネルが,袖パネルの内方端部側フレームの軸の周りに上記所定方向と反対方向に回転する回転ドア」(審決書4頁4行〜6行)が記載されていると認定したものであって,刊行物(甲6)の段落【0016】記載の角柱状の柱を有する回転ドアと本願発明とを対比したものではないから,角柱状の柱を有する回転ドアとの対比を前提とする原告の主張は,理由がない。
そして,引用発明は,ドアの途中から折れ曲がる回転ドア,すなわち,扉体111の途中から袖パネル110が折れ曲がるものであるから,審決の一致点の認定に,誤りはない。
(3)取消事由3(相違点に係る容易想到性判断の誤り)に対しア前記のとおり,引用発明の回転ドアは,ドアの途中から折れ曲がるものといえるから,ドアが途中から折れ曲がらない構成であることを前提として審決の容易想到性判断に誤りがあるとする原告の主張は,理由がない。
イ引用発明は,自動復帰機構を設けた構成に限定されないから,自動復帰機構を設ける構成に限定されることを前提とする原告の主張は,誤りである。
ウ本願発明の目的と,引用発明の目的は,同一であり,想定する事故も同一である。
引用発明は,袖パネルが揺動(回転)することによって,側壁と袖パネルとの間に通行者の体の一部が挾まれたりしないように,一時的な空間を設けることにより通行者の安全性を確保するものであるから(甲6,段落【0005】,【0007】),回転ドアのドアの途中が折れ曲がって,外枠との間に緊急的な空間ができることにより,怪我や圧死事故などを防ぐとの本願発明の目的と同じであり(甲7,【請求項1】,段落【0001】,【0004】,【0006】),想定する事故にも相違がない。
エまた,刊行物記載の自動復帰機構は,ドアに衝突した通行者が袖パネルから離れた場合に働く機構であるから(甲6,段落【0019】),回転ドアと外枠との間に空間を形成して手足や身体が挟まれても大きな事故につながらないようにしており,発明の目的達成の妨げにはならない。
そして,引用発明において,ドア(袖パネル)が折れ曲がるのは,本願発明と同様に,通行者が衝突したとき,すなわち,必要以上の力が加わった時であることが明らかである。また,引用発明においてドア(袖パネル)が揺動(回転)することによって生じる「臨時的な空間」の具体的な大きさについては規定されていないが,前記のとおり本願発明と同じ目的を有している以上,空間の大きさを本願発明と同程度とすることは,当業者であれば適宜決定し得る事項である。よって,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(「袖パネルの内方端部側フレーム」が「回転ドア縦中枠」に相当するとした一致点の認定の誤り)について原告は,本願発明の「回転ドア縦中枠」には,?ヒンジの組込み,?不均等な構造の縦枠,?弾性体による数ヶ所のストッパー及び?縦中枠の1/4半円の形状の切込みがあることを理由として,引用発明の「袖パネルの内方端部側フレーム」が本願発明の「回転ドア縦中枠」に相当するとした審決の一致点の認定には,誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,採用の限りでない。すなわち,本願の特許請求の範囲においても,上記の?ヒンジの組込み,?不均等な構造の縦枠,?弾性体による数ヶ所のストッパー及び?縦中枠の1/4半円の形状の切込みに係る記載はないから,原告の上記主張は,本願の特許請求の範囲の記載にも基づかない本願発明の構成を前提とするものであって,採用の限りでない。
2取消事由2(回転ドアが折れ曲がるとした一致点の認定の誤り)について原告は,刊行物記載の回転ドアは,ドアが回転中,回転ドア縦外枠に必要以上の力が加わった時,回転ドア縦中枠からドアが折れ曲がるのではなく,角柱状の柱を軸にして,フランジに取り付けられた袖パネルが開く構造であるため,回転ドアが折れ曲がる点を本願発明との一致点として認定した審決には,誤りがある,と主張する。
しかし,原告の主張は採用の限りでない。すなわち,刊行物には,「袖パネルが,袖パネルの内方端部側フレームの軸の周りに上記所定方向と反対方向に回転する回転ドア」が記載され,同記載によれば,袖パネルが,その内方端部側フレーム8の軸の回りに回転することにより,扉体11,111の途中から袖パネル10,110が折れ曲がるものであるから,審決が,引用発明では,回転ドアが折れ曲がると認定した点に誤りはない。刊行物(甲6)の段落【0016】には,角柱状の柱16を有する回転ドアに関する技術的事項(別紙「刊行物参考図」【図3】,【図4】参照。)が記載されているが,審決は,その部分を引用発明としたものではないから,その角柱状の柱16を有する回転ドアとの対比を前提とする原告の主張は,主張自体失当であり,採用の限りでない。
3取消事由3(相違点に係る容易想到性判断の誤り)原告は,?引用発明は,角柱状の柱に取り付けられた側壁側の袖パネルが揺動する(開く)構造であり,本願発明の,ドアの途中から折れ曲がる回転ドアとは明らかに異なること,?引用発明は,揺動した袖パネルを自動的に復帰させる自動復帰機構が設けられているので,引用発明において段落【0022】に記載されているように,回転ドアと外枠との間に空間を形成して手足や身体が挟まれても大きな事故につながらないように想定したものではなく,その空間を適宜決定し得るものではないことに照らせば,相違点に係る本願発明の構成は引用発明に基づき容易に想到することができたものとはいえないと主張する。
しかし,原告の主張は,採用の限りでない。すなわち,(1)前記のとおり,本願発明と引用発明との相違点は,審決が認定したとおり,「ドアが折れ曲がった際に,本願発明が,回転ドア縦外枠とそと枠との隙間に大きな空間を設けるのに対し,刊行物記載の発明はこの(注審決原文のまま)どのような空間ができるか不明な点」に尽き,原告主張に係る相違点は認められない。したがって,相違点があることを前提として,容易想到性判断の誤りがあるとする原告の主張は,主張自体失当であり,採用の限りでない。
(2)念のため,原告の主張について,判断する。
本願発明と引用発明は,以下のとおり,想定する事故について相違があるとはいえない。
すなわち,本願明細書には,「【請求項1】回転ドアが回転中,回転ドア縦外枠に必要以上の力が加わった時回転ドア縦中枠から回転ドアの進行方向の反対方向にドアが折れ曲がり,回転ドア縦外枠とそと枠との隙間に大きな空間を設ける事を特徴とする回転ドア」,「【0001】この発明は,ドアが回転し人が通過しようとする時にドア枠と外枠との隙間に手足や身体が挟まった時,センサーが作動し,回転ドアが止まるまでの間に,ドア枠と外枠との隙間に手足や身体が挟まり,事故になるのをドアの途中が折れ曲がって,外枠との間に緊急的な空間ができる事により,怪我や圧死事故などを防ぐ為の事に関するものである。」「【発明が解決しようとする課題】【0003】これまでは,次のような欠点があった。回転ドアが回転時に,ドア枠と外枠との隙間に手足や身体が挟まった時,センサーが感知して回転ドアが止まるまで,ドア枠と外枠の隙間に手足や身体が挟まったり,引込まれていたので,本発明は,この欠点を取り除く為に考えられたものである。【0004】【課題を解決する為の手段】ドアが回転中の緊急時,回転ドア縦外枠?に必要以上の力が加わった時,回転ドア縦中枠?から回転ドアの進行方向の反対方向にドアが折れ曲がり,回転ドア縦外枠?とそと枠?との隙間に臨時的な大きな空間を設ける事で,手足や身体が挟まれる事故を防ぎ,解決するように構成された構造の回転ドアである。」,「【0006】【発明の効果】回転ドアのドアが,途中から折れ曲がる事で,ドア外枠と外枠の小さな隙間が大きな空間に広がり,手足や身体が挟まれても,大きな事故につながらない様になる。」との記載がある。これらの記載によれば,本願発明の目的は,回転ドア縦外枠と固定された外枠との間の小さな隙間に人の身体の一部や物が挾まれても回転ドア縦中枠からドアが折れ曲がることにより,上記小さな隙間が大きな空間に広がり,大きな事故になることを防止することにあると認められる(別紙「本願明細書図面【図1】〜【図4】参照」)。
他方,刊行物(甲6)には,「【0005】本発明は,通行者の安全性を確保した上に,通行者の円滑な通行を図ることができる回転ドアを提供することを目的とする。」,「【0007】この回転ドア装置によれば,袖パネルのいずれかに通行者が接触すると,その袖パネルが,揺動する。従って,側壁と袖パネルとの間に通行者の体の一部が挟まれたり,通行者が袖パネルに跳ね飛ばされることもない。」「【0033】【発明の効果】以上のように,本発明による回転ドアによれば,袖パネルが回転自在に構成されているので,袖パネルに通行者が接触しても,袖パネルが揺動し,かつ,回転ドアが停止または減速後の停止が行われるので,通行者に大きな衝撃を与えることがなく,通行者の体の一部や携帯品が側壁と袖パネルとの間に挟まれることもない。」との記載がある。これらの記載によれば,引用発明の目的の1つは,袖パネルが揺動(回転)して側壁と袖パネルとの間に空間ができることにより通行者の安全性を確保することにあるといえる(別紙「刊行物参考図【図2】,【図4】参照」)。
そうすると,本願発明と,引用発明は同じ目的を有するものであり,想定する事故についての相違はないといえる。
なお,ドアが折れ曲がる端緒となる事象について,本願明細書においては,小さな隙間に通行者の身体の一部が「挟まった」ときなどと記載されているのに対し,刊行物においては,袖パネルに通行者が「接触」したときなどと記載されている上,身体の一部が「挾まれない」などと明記されているが,それらはいずれも回転ドア縦外枠(袖パネル)が折れ曲がるに足りる外力が通行者の身体又はその携帯品により回転ドアに加えられるという同一の事象を表現しているのであってその表現に差があるにすぎないものと認められ,最終的には身体の一部が固定ドア枠と回転ドア縦外枠との間の隙間に挟まって重大な事故になることを防止しようとする点では,同じ目的を有するものであるといえるから,上記表現上の相違は,想定する事故が同一であるとする認定を左右するに足りない。
また,刊行物の「【0007】・・・袖パネルのいずれかに通行者が接触すると,その袖パネルが,揺動する。」との記載によれば,引用発明において,回転ドア縦外枠(袖パネル)が折れ曲がるのは,袖パネルを「揺動」させるに足る力が加えられたときであることを前提としているから,本願発明と同様に,「回転ドア縦外枠に必要以上の力が加わった時」であるといえ,この点でも両発明の想定する事故に相違はない。
(3)また,引用発明の自動復帰機構は,ドアに衝突した通行者が袖パネルから離れた場合に初めて働く機構であるから,引用発明に基づいて本願発明の相違点に係る構成に想到するための阻害要因になるものではない。すなわち,刊行物(甲6)には,「【0019】袖パネル10のフレーム内には,軸30と結合されて自動復帰機構,例えばオートドアヒンジ32が設けられている。・・・このオートドアヒンジ32を設けているので,袖パネル10は,例えば通行者が衝突することによってドアパネル6と一直線状の位置から揺動しても,その通行者が袖パネル10から離れると,自動的に元の位置,即ちドアパネル6と同一直線上の位置に復帰する。」,「【0033】【発明の効果】・・・さらに,自動復帰機構とセンサとを設けているので,袖パネルに接触していた通行者が袖パネルと離れて,袖パネルが元の位置に復帰すると,自動的に回転ドアの運転が再開され,保安要員がわざわざ運転を再開するために,駆けつける必要もない。」と記載されていることに照らせば,上記自動復帰機構は,ドアに接触した通行者が袖パネルから離れた場合,すなわち,回転ドア縦外枠と固定外枠との間に空間が形成されて手足や身体が挟まれても大きな事故につながらないようにするとの目的が達成された後に,停止していた回転ドアを自動的に再開させるための付加的な機能に係るものであって,事故防止の目的と両立するものであるから,設ける空間の大きさに係る本願発明の構成に想到するための妨げとなるものではない。
(4)そして,引用発明においては,袖パネルが揺動(回転)することによって生じる「空間」の大きさについての記載がされていないが,前記認定のとおり本願発明と同じ事故防止の目的を有している以上,そのための空間の大きさを本願発明と同程度の「大きな空間」とすることは,当業者であれば適宜決定し得る事項であるといえる。
よって,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
4結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子