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関連審決 異議1998-70682
関連ワード 優先権 /  国内優先権 /  抵触 /  優先日 /  不法行為(民法709条) /  設定登録 /  変更 /  要旨変更 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 22年 (ワ) 15487号 損害賠償請求事件
神奈川県相模原市<以下略>
原告株式会社イー・ピー・ルーム 東京都中央区<以下略>
被告B
訴訟代理人弁護 士池田竜一
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/08/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告(1)被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成22年5月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(2)被告が前項の支払をしない場合には,被告は,不正競争防止法6条,7条1項に基づき,特許第2640694号「放電焼結装置」に対して被告が職権でした取消決定は,取消決定より前に確定した判決と抵触する瑕疵がある旨謝罪する書面を作成し署名・押印して所持する書面を原告に渡せ。
(3) 訴訟費用は被告の負担とする。
(4) 第1項につき仮執行宣言2 被告(1) 本案前の答弁ア 本件訴えを却下する。
イ 訴訟費用は原告の負担とする。
(2) 本案の答弁主文同旨
事案の概要
本件は,原告が,原告を特許権者とする特許に対する特許異議の申立てについて原告の特許を取り消す旨の決定をした合議体の当時の審判長で,特許庁審判官であった被告に対し,上記決定は前に確定した判決に抵触する違法なものであり,被告が上記決定をしたことは原告との関係で不法行為を構成するなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償としての慰謝料の支払及びその支払がされないことを条件とする謝罪書面の交付を求める事案である。
1前提事実(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)(1)原告は,平成2年9月18日,発明の名称を「放電焼結装置」とする発明につき特許出願(国内優先権主張・優先日平成2年2月2日)をし,平成9年5月2日,特許第2640694号として特許権(請求項の数3。
以下,この特許権を「本件特許権」,この特許を「本件特許」という。)の設定登録を受けた(甲1,2)。
(2)ア本件特許に対して住友石炭鉱業株式会社(現在の商号「住石マテリアルズ株式会社」。以下「住石」という。)から特許異議の申立てがされ,特許庁は,これを平成10年異議第70682号事件として審理した上,平成13年7月4日,「特許第2640694号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をした(甲3,13,25の3)。
本件決定は,3名の審判官の合議体により判断されたものであり,被告は,その合議体の審判長であった。
イ原告は,本件決定の取消しを求める訴訟(東京高等裁判所平成13年(行ケ)第369号事件)を提起したが,東京高等裁判所は,原告の請求を棄却する判決の言渡しをした。
原告は,上記判決を不服として,上告及び上告受理の申立て(最高裁判所平成15年(行ツ)第197号,同年(行ヒ)第203号事件)をしたが,最高裁判所は,平成15年10月9日,上告棄却及び上告不受理とする旨の決定をした。これにより本件決定が確定した。
ウ被告は,平成15年4月1日,特許庁を退職し,その後,弁理士登録を受けた。
(3)原告は,平成22年2月16日付け訴状を東京地方裁判所に提出して,被告に対し,損害賠償等を求める訴訟(東京地方裁判所平成22年(ワ)第5728号事件。以下「別件訴訟」という。)を提起した(乙1,2)。
平成22年4月9日までに,東京地方裁判所(民事第47部)によって別件訴訟の第1回口頭弁論期日(同年5月18日午後1時30分)が指定され,その指定後,上記訴状は,被告に送達された(乙2,弁論の全趣旨)。
(4)原告は,平成22年4月26日,本件訴訟を提起した。本件訴訟の訴状は,同年5月26日,被告に送達された。
2 当事者の主張(1) 請求原因原告は,請求原因として,別紙1(本件訴訟の訴状の写し)の「請求の原因」,別紙2(原告第2準備書面の写し)の「第1」ないし「第3」及び別紙3(原告第3準備書面の写し)の「第1」記載のとおり主張する。
原告が上記請求原因において主張する,本件決定が抵触する「前に確定した判決」とは,?東京高裁昭和37年6月28日判決,?東京高裁昭和39年6月2日判決,?東京地裁平成4年12月21日判決である。
(2) 被告の主張ア 本案前の主張原告は,平成22年2月16日付けで,被告が本件決定をしたことを理由に,被告に対し,慰謝料として50万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から年5パーセントの割合による金員の支払と,これを履行しない場合には本件決定の取消理由に食い違いの瑕疵があった旨を謝罪する書面を渡すことを求める別件訴訟を提起し,別件訴訟は,東京地方裁判所(民事第47部)に係属中である。
原告は,別件訴訟の係属中に本件訴訟を提起したものであるところ,両訴訟は,当事者及び訴訟物が同一であり,いずれも一部請求ではないから,本件訴訟の提起は,係属中の別件訴訟と同一の事件について訴えを提起する二重起訴(民事訴訟法142条)に当たり,後訴である本件訴訟は不適法であって,却下すべきである。
イ 請求原因に対する主張本件決定には原告主張の違法はなく,原告主張の被告の不法行為が成立していないことは明らかであるから,原告の請求は理由がない。
また,公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについて故意又は過失により違法に他人に損害を与えた場合,公務員個人が,当該職務行為について,その責任を負うことはないのであるから,この点からも,原告の請求は理由がない。
(3) 被告の主張に対する原告の反論ア 本案前の主張に対し別件訴訟は,本件決定に判断の遺脱があったこと(民事訴訟法338条1項10号)が違法である旨を請求原因として主張しているのに対し,本件訴訟は,本件決定が「前に確定した判決」(前記(1))に抵触していることが違法である旨を請求原因として主張しているものであるから,別件訴訟の提起後に本件訴訟を提起したことは,二重起訴に当たらない。
イ 請求原因に対する主張に対し被告は,本件決定が確定した平成15年10月9日に先立つ同年4月1日に特許庁を退職しているから,被告が本件決定をしたことは,国の公務員がその職務の執行として行った行為に当たらない。
当裁判所の判断
1 被告の本案前の主張について被告は,原告は,別件訴訟の係属中に本件訴訟を提起したものであるところ,両訴訟は,当事者及び訴訟物が同一であり,いずれも一部請求ではないから,本件訴訟の提起は,係属中の別件訴訟と同一の事件について訴えを提起する二重起訴(民事訴訟法142条)に当たり,後訴である本件訴訟は不適法であって,却下すべきである旨主張する。
そこで検討するに,まず,前記前提事実によれば,原告は,被告に対する別件訴訟を提起した後,その係属中に本件訴訟を提起したものであり,両訴訟の当事者は同一であることが認められる。
次に,原告主張の請求原因によれば,原告の本件請求は,特許庁審判官であった被告が,合議体の審判長として本件特許に係る特許異議申立事件の審理を担当した際に,特許異議申立人である住石の利益を図って,「前に確定した判決」(?東京高裁昭和37年6月28日判決,?東京高裁昭和39年6月2日判決,?東京地裁平成4年12月21日判決)と抵触する違法な本件決定をしたことが,被告及び住石の共同不法行為に該当するとして,被告に対し,民法709条,719条に基づく損害賠償として慰謝料100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払並びにその支払がされない場合には本件決定が前に確定した判決と抵触する瑕疵があったことを謝罪する旨の謝罪書面の交付を求めるものであると解される。
一方で,乙1(別件訴訟の訴状の写し)によれば,原告の別件訴訟の請求は,特許庁審判官であった被告が,合議体の審判長として本件特許に係る特許異議申立事件の審理を担当した際に,?同特許異議申立事件は,不正競争防止法2条1項4号所定の不正競争行為を行った住石によって申し立てられたものであり,同法3条により差し止められるべき事由があったにもかかわらず,被告がこれを看過して本件決定をしたことには,住石の利益を図った故意又は過失であること,?被告は,特許第96574号公報や実公昭46-5289号公報を看過し又は排斥し,本来は要旨変更に当たらない平成7年3月14日付けの補正を要旨変更に当たるとして,理由に食い違いのある瑕疵のある本件決定をしたことは,住石の利益を図った故意又は過失であること,上記?及び?を理由に被告が本件決定をしたことが原告との関係で不法行為に該当するとして,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として慰謝料50万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払並びにその支払がされない場合には本件決定の理由に食い違いのある瑕疵があったことを謝罪する旨の謝罪書面の交付を求めるものであると解される。
そこで,これらを対比すると,本件訴訟及び別件訴訟は,被告が合議体の審判長として本件決定をしたことが不法行為に該当するとして不法行為に基づく損害賠償の支払等を請求する点においては共通するものの,被告が行ったとする具体的な違法行為の内容は異なるものであり,また,原告が被告に対して交付を求める謝罪書面の内容も異なるものであるから,本件訴訟の訴訟物と別件訴訟の訴訟物が同一であるとまで認めることはできないというべきである。
このように本件訴訟と別件訴訟は,当事者は同一であるが,訴訟物が同一であるものとは認められない以上,事件が同一であるということはできないから,別件訴訟の係属中に原告がした本件訴訟の提起は,二重起訴に当たらないと解するのが相当である。
したがって,本件訴訟の提起が二重起訴に当たり,不適法であるとの被告の上記主張は,採用することができない。
2 請求原因について(1)ア原告は,前記1のとおり,特許庁審判官であった被告が,その合議体の審判長として本件特許に係る特許異議申立事件の審理を担当した際に,特許異議申立人である住石の利益を図って,「前に確定した判決」と抵触する違法な本件決定をしたことが,被告及び住石の共同不法行為に該当し,被告は,共同不法行為に基づく損害賠償としての慰謝料の支払義務を負う旨主張する。
ところで,公権力の行使に当たる国の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国が,国家賠償法1条1項により,その被害者に対して賠償の責に任ずるものであり,公務員個人はその責を負わないものと解するのが相当である(最高裁昭和30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁,最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁等参照)。
これを本件についてみるに,被告は,国家公務員である特許庁審判官としての職務として本件特許に係る特許異議申立事件の審理をし,本件決定をしたものであるから,仮に被告が本件決定をしたことが違法な行為に当たり,これによって原告が損害を被ったとしても,国がその賠償の責に任ずるものであって,被告個人がその賠償責任を負うものではないというべきである。
イこれに対し原告は,被告は,本件決定が確定した平成15年10月9日に先立つ同年4月1日に特許庁を退職しているから,被告が本件決定をしたことは,国の公務員がその職務の執行として行った行為に当たらない旨主張する。
しかし,公務員の行為がその職務の執行として行われたものであるか否かは,その行為時点において判断すべきものと解されるから,本件決定をした時点で特許庁審判官であった被告が本件決定が確定する前に特許庁を退職したという事情は,本件決定が被告の職務の執行として行われたことに影響を及ぼすものではなく,原告の上記主張は採用することができない。
(2)以上によれば,原告は,被告が本件決定をしたことが違法な行為であることを理由に,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を請求することはできないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。
3 結論以上のとおり,原告の請求は理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 上田真史