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関連審決 不服2008-4983
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10412審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10134審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14行ケ426特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10490審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  上位概念 /  発明の詳細な説明 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  混同 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10376号 審決取消請求事件
原告株式会社島津製作所
同訴訟代理人弁理士 喜多俊文江口裕之
被告 特許庁長官
同 指定代理人石川太郎岡田孝博廣瀬文雄豊田純一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/08/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2008−4983号事件について平成21年10月14日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文1項と同旨第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,本願発明の要旨を下記2とする原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)原告は,平成13年12月11日,発明の名称を「X線撮影装置」とする2発明について,特許出願(特願2001-377692号)をした(甲3)。
(2)特許庁は,平成20年1月25日付けで拒絶査定をした。
(3)原告は,平成20年2月28日,拒絶査定に対する不服の審判を請求(不服2008-4983号)するとともに,手続補正書(甲4)を提出し,特許請求の範囲の請求項3,4項をいずれも削除した。
(4)特許庁は,平成21年10月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は同月27日,原告に送達された。
2本願発明の要旨本件審決が判断の対象とした本件出願に係る前記補正後の明細書(甲3,4。以下「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
被検者の撮影部位に,X線照射野をX線可動絞りの照射野ランプで照準し確認して,X線照射スイッチの第一スイッチの操作によって撮影準備手段を動作させ,準備完了後に,第二スイッチの操作で高電圧をX線管に印加して撮影を行うX線撮影装置において,前記照射野ランプの照射を制御する手段を設け,前記第一スイッチを操作し撮影準備完了状態になると同時に,前記照射野ランプの点灯状態を変化させるようにしたことを特徴とするX線撮影装置3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)並びに下記イ及びウの周知例1及び2に記載された周知技術(以下,その順に従って「周知技術1」などという。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ア引用例:特開2001-57972号公報(公開日:平成13年3月6日。
甲1)イ周知例1:実願昭59-118112号(実開昭61-33000号)のマ3イクロフィルム(甲2)ウ周知例2:特開2001-333894号公報(公開日:平成13年12月4日。甲5)(2)なお,本件審決が認定した引用発明並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明:ハンドスイッチの1段目のスイッチを押してX線発生器のX線管のローターを回転させるとともにフィラメントの加熱を行わせ,ローターの回転数が定格回転数に達し,フィラメントが所定温度に上昇すると,撮影準備完了表示灯は点灯し,撮影準備完了表示灯への点灯指令は第1のレーザー光照射部にも並列的に入力し,第1のレーザー光照射部よりレーザー光がX線装置から離れている操作者からもよく見える場所,例えば天井の平面に照射され,2段目のスイッチを押すことによりX線高電圧発生装置へX線発生器からX線を照射させるための信号を出力し,X線照射する移動形X線装置イ一致点:X線照射スイッチの第一スイッチの操作によって撮影準備手段を動作させ,準備完了後に,第二スイッチの操作で高電圧をX線管に印加して撮影を行うX線撮影装置において,光源の照射を制御する手段を設け,前記第一スイッチを操作し撮影準備完了状態になると同時に,光源の点灯状態を変化させるようにしたことを特徴とするX線撮影装置ウ相違点:「光源の照射を制御する手段を設け,前記第一スイッチを操作し撮影準備完了状態になると同時に,光源の点灯状態を変化させる」「光源」について,本願発明では「被検者の撮影部位に,X線照射野を照準し確認」する「X線可動絞りの照射野ランプ」であるのに対して,引用発明では「第1のレーザー光照射部より」「X線装置から離れている操作者からもよく見える場所,例えば天井の平面に照射され」る「レーザー光」である点4取消事由本願発明の進歩性に係る判断の誤り4(1) 本願発明の課題及び特徴を把握しない判断の誤り(2) 事後分析的かつ非論理的思考に基づく判断の誤り(3) 阻害要因を看過した誤り(4) 周知技術を適用した判断の誤り第3当事者の主張〔原告の主張〕本件審決が,本願発明は,当業者が容易に想到できるものであるとして,進歩性を否定した判断は,以下のとおり,誤りである。
1本願発明の課題及び特徴を把握しない判断の誤りについて(1)本願発明,引用発明及び周知技術1の課題ア本願発明は,X線撮影装置を操作する術者が,被検者の近傍にて作業を行う場合に,視線を移動させることなく撮影準備状態を認識することを課題とする。
そして,本願発明は,かかる課題を解決するために,X線撮影装置において,照射野ランプの点灯状態を変化させるようにしたことを特徴とするものである。
イこれに対し,引用発明は,X線被曝を防ぐため,操作者ができるだけX線装置から離れた場所からX線準備完了状態を認識できるようにすることを課題とするものであり,両発明の課題は大きく異なる。
また,周知技術1は,照射中のX線の照射域の視認を可能とすることにより,被検者の世話をする者等が知らないままX線照射域に入ってしまい,被曝する危険性を回避することを課題とするものであって,本願発明及び引用発明のいずれとも,その課題が異なる。
ウ以上からすると,引用発明における「天井に向けて光を照射するレーザー」に代えて,X線が照射している状態のX線照射域の視認を可能とすることを課題とする周知技術1における「X線照射野と合致するよう光を患者に向けて照射するX線コリメータのランプ」を採用する必要性は,全くうかがえない。
したがって,本件審決は,本願発明,引用発明及び周知技術1の課題の相違を十5分認識することなく,3者の課題を,被爆回避という上位概念として無理に共通化し,さらに,「被検者の撮影部位に,X線照射野をX線可動絞りの照射野ランプで照準し確認する」という周知例1の記載から,照射野ランプのみの構成を周知技術として取り出して引用発明に置き換え得るとしたものであって,失当である。
(2)被告の主張についてこの点について,被告は,本件審決の相当性を根拠付けるために,本件訴訟に至り,本件審決において認定されていない課題について主張するが,そのこと自体,本件審決が特許法157条2項4号に違反することを示唆するものである。
2事後分析的かつ非論理的思考に基づく判断の誤りについて(1)引用発明の内容ア引用発明は,障害物のない天井にレーザー光を照射することによって,可能な限り装置から離れた位置から視認できることを可能としたものである。
したがって,引用発明は,通常平面で,視覚上の障害物もなく,映写幕等と同様の白系の色を有することが多い病室の天井にレーザー光を照射するものであるから,視認性は高いものといえる。
イ他方,周知技術1が前提とする移動形X線装置は,X線発生器保持部や装置本体などを有し,また,病室内にはベッドや医療機器など,様々な物が置かれていることから,装置から可能な限り離れた位置では,これらが視覚上の障害となること,被検体である人間の体には凸凹があり,照射部位も様々である上,白系の色と比較して,皮膚の色は照射された光を視認し難いこと,X線照射野は,被検体の被曝を最小限にするために,撮影に必要な部分にのみ絞られるため,照射光の範囲も狭いものになることから,被検者の撮影部位のX線照射野に照射された光が,引用発明に示された天井に照写された写映像のように,被曝を避けるために,装置から可能な限り離れた位置で視認できるとする根拠はない。
したがって,被曝回避のために,装置から可能な限り離れた位置からも,引用発明における天井への照射と同列的に,「被検者の撮影部位」も操作者からもよく見6える場所であるとする本件審決の判断は,事実認定自体に誤りがある。
ウ以上からすると,本件審決は,周知例1に記載された技術的内容を何ら認定せず,天井に照射された照射像と同様に,「被検者の撮影部位」も,操作者からよく見える場所であろうという,単なる憶測を述べているにすぎず,事後分析的かつ非論理的思考であるといわざるを得ない。
(2)被告の主張についてア引用発明において,被曝回避の観点より,装置から可能な限り離れた位置に立った場合,遠いところに位置する被検体は尚更見難くなる事情が存在するから,「被検者の撮影部位」は操作者からよく見える場所であるなどという被告の主張は,引用発明におけるかかる課題を何ら認定することなく周知技術を適用し得るとするものであって,誤りである。
また,引用発明に周知技術を組み合わせると,「照射野ランプ」による被検体への照射光が見難くなるという阻害要因が存在するから,かかる阻害要因を考慮せずに周知技術を適用することが容易であるとする被告の主張もまた,誤りである。
イ本件審決は,「照射野ランプ」が,照射中のX線の照射域の視認を可能とするためだけでなく,操作者等にX線撮影装置の作動状態を視覚的に伝えるためにも使用することが周知技術であるとまでは判断していないから,被告の主張は,本件審決が判断していない事項を前提とするものである。
ウ被告は,X線撮影の際,操作者が被検体を視認する必要性を強調するが,照射野ランプを用いてX線撮影のための位置合わせを行う際には,被検体近傍での作業が必要となるが,位置合わせ後は,被検体を視認できさえすれば必ずしも被検体の近傍での操作が必要となるわけではない。被告の主張は,照射野が良好に視認できる程度に被検体の近傍に位置することと,被検体を視認し得ることとを混同するものでもある。
3阻害要因を看過した誤りについて(1)阻害要因の存在7先に指摘したとおり,周知技術1の移動形X線装置においては,光の視認上の障害が多いこと,天井と被検体との照射面及び色において視認性に相違があること,被検体に照射された照射光の範囲が狭いことからすると,装置から可能な限り離れた位置では,ベッドなどに載置された被検体に照射された照射光が見難くなるものである。周知例1には,「別室などで,操作するシステムでは,患者に照射される部分が見えにくいような場合もあり,コリメータ部を注目することで,X線の照射状況を知ることができる。」との記載もあるが,かかる記載は,装置から離れた場合に,X線照射野に照射する光が見難くなることを示唆するものである。
操作者がX線装置からできるだけ離れても,X線準備完了状態を認識し得るためにレーザー光を天井に照射する引用発明の構成に代えて,操作者がX線装置から離れた場合に格段に見難くなる周知技術1の照射光を照射するランプを用いることは,「照射野ランプ」による被検体への照射光が操作者から見難くならざるを得ないから,明らかに阻害要因が存在するというべきである。
したがって,かかる阻害要因の存在を何ら考慮することなく,事後分析的かつ非論理的思考により,「被検者の撮影部位」も操作者からもよく見える場所であるとの誤った判断を唯一の根拠として,「X線装置から離れている操作者からもよく見える場所」として,「被検者の撮影部位」を選択し,照射することは,当業者が容易に想到するものと認められるとした本件審決の判断は誤りである。
(2)被告の主張についてア被告は,仮に阻害要因が存在するとしても,これに対し得る対策が存在することをもって,阻害事由が存在しないかのような主張をするが,「被検者の撮影部位」(照射野)を視認する上での障害が存在すること自体が阻害要因となるのであって,対策の有無はかかる判断を左右するものではない。
イ被告は,操作者が被検者を視認することなくX線撮影を行うことは,通常では考えられないと主張するが,被検者を視認するか否かではなく,照射野ランプから被検体に照射された照射野が見やすいか否かが問題とされるべきであって,被告8の主張は失当である。
ウ同様に,被告は,「被検者の撮影部位」を視認する上で障害がある場合には,当然,操作者は,障害にならない立ち位置に移動するなどと主張するが,先に指摘したとおり,X線撮影時において,操作者は常に被検体の近傍に位置するとは限らないから,必ずしも障害にならない立ち位置に移動する必要があるものではない。
また,引用発明は,可能な限り装置から遠く離れた位置で操作することを前提とすることを考慮すると,「障害にならない立ち位置に移動する」ことを期待する被告主張は失当である。
さらに,被告は,被検体に照射される光の視認性が悪いのであれば,当業者は,光の色や強度等を適宜設計変更して視認性を向上させるとも主張するが,引用発明において,可能な限り装置から遠く離れた位置で操作する場合,光の色や強度等を適宜設計変更しただけでは,照射野ランプから被検体に照射された照射野の視認性を支障がない程度まで向上させることができるとする根拠は何ら示されていないから,被告の主張は失当である。
4周知技術を適用した判断の誤り(1)周知技術適用の阻害事由の有無を検討する必要性被告は,周知例1により,「被検者の撮影部位に,X線照射野をX線可動絞りの照射野ランプで照準し確認する」構成が周知技術であると認められることを前提として,本願発明の進歩性を否定する。
しかしながら,周知技術でありさえすれば,引用発明に容易に組み合わせることができるものではない。本願発明,引用発明及び周知技術において,共通の課題や動機付けが存在し,さらに,周知技術を適用するための阻害要因がなかったか否かを検討することが必要である。
(2)周知例1が開示する周知技術1周知例1は,「被検者の撮影部位に,X線照射野をX線可動絞りの照射野ランプで照準し確認する」こと,すなわち,「X線の照射領域と同一領域を可視光として9照らす照射野ランプ」が周知技術であることを示すにすぎない。
(3)周知技術適用の動機付けについてア本件審決は,引用発明が「X線撮影において,必要のない被爆を回避する」ことが要求される点を指摘していることから,「被検者の撮影部位」も操作者からよく見える場所であるので,X線装置から離れている操作者からよく見える場所として,天井に代えて,「被検者の撮影部位」を選択し,同じ場所を照射するために用いる光源として,レーザーに代えて,既に存在するX線照射野を照準する照射野ランプを用いることは,当業者が容易に想到するものと認められるとする。
イしかしながら,「被曝回避が強く求められる」という引用発明の課題と,引用発明の「天井に照射するレーザー光」に代えて,周知技術である照射野ランプを用いる動機付けそれ自体が不明である。
先に指摘したとおり,本件審決は,単なる憶測に基づいて進歩性を否定したものというほかない。
(4)被告の主張について被告は,被検者の撮影部位とX線撮影装置の照射口とが接していないX線撮影装置にあっては,あらかじめX線照射野を確認・調整できるようにする点は自明の課題であるなどと主張する。
しかしながら,「あらかじめX線照射野を確認・調整できるようにする点」は,X線撮影の際,撮影部位の位置合わせを照射野ランプを用いて行うという当然の機能を指摘したものであって,X線照射前の準備作業を示すにすぎない。
引用発明は,X線被曝回避のため装置から可能な限り離れた位置でX線撮影準備完了状態を認識できるようにするものであるから,X線照射野の確認・調整などは,引用発明の課題とは無関係であって,引用発明のレーザー光に代えて,照射野ランプを適用する上での動機付けとも無関係である。
技術分野の同一性に関する被告の主張も同様であり,引用発明において周知技術1の照射野ランプを適用する上で存在する阻害要因を何ら考慮しないものであって,10被告の主張はいずれも失当である。
〔被告の主張〕本件審決が,本願発明は,当業者が容易に想到できるものであるとして,進歩性を否定した判断は,以下のとおり,相当である。
1本願発明の課題及び特徴を把握しない判断の誤りについて(1)本件審決に関する補足説明「天井の平面」も「被検者の撮影部位」も,操作者からよく見える場所である点において違いはないから,X線装置から離れている操作者からよく見える場所として「被検者の撮影部位」を選択し,その場所に照射を行うことは当業者が容易に想到し得るものである。
また,X線装置から離れている操作者からよく見える照射場所として,「被検者の撮影部位」を選択した場合,新たに光源を設けるよりは既に存在する光源を利用した方が効率的であることは明らかであるから,「被検者の撮影部位」を照射するランプとして多くのX線撮影装置で採用されている周知慣用の照射野ランプを,そのために用いる光源として利用することは,当業者が当然に考えることにすぎない。
本件審決は,このように,本願発明の課題及び特徴について十分配慮した上で,進歩性を否定したのであるから,原告の批判は当たらない。
(2)原告の主張について本願発明の課題と引用発明の課題とは,いずれも「操作パネル上に視線を移すことなく,撮影準備完了状態がわかるX線撮影装置を提供する」という点で一致している。本件審決がそれぞれの課題を「被爆回避」という上位概念として無理に共通化したものではない。
そして,周知慣用の「照射野ランプ」を同じ技術分野に属する引用発明に適用することは,当業者にとって容易想到であるということができる。
したがって,本件審決の判断に誤りはない。
2事後分析的かつ非論理的思考に基づく判断の誤りについて11(1)「被検者の撮影部位」を選択する容易性についてX線撮影において,操作者が撮影部位を確認しながら行うものであることは一般に知られており,操作者が被検者を視認することなくX線撮影を行うことは,安全性の観点からも撮影の正確性の観点からも,通常では考えられない。
そうすると,X線撮影において,一般的に,操作者は,撮影部位がよく見える場所に立つから,「被検者の撮影部位」は操作者からよく見える場所であるといえる。
(2)引用例等についてア引用例について引用発明は,操作者からよく見える場所として「例えば天井の平面」を照射対象としているが,それ以外の場所であっても,操作者からよく見える場所であれば照射対象として選択可能である。
引用発明が前提とする移動形X線装置は,原告が指摘するとおり,病室内における使用が想定されているが,同発明の装置は,装置本体と有線により連結されたハンドスイッチによって操作されるものであり,被曝を防ぐために「装置からできるだけ離れている」にしても,被検者を視認できないほど遠くに離れていることはあり得ず,操作者は病室内において被検者の撮影部位を視認できる位置に立って,ハンドスイッチを操作するものと考えるのが自然である。
したがって,引用発明において,「被検者の撮影部位」を照射対象として選択することは,当業者にとって容易である。
イ周知例1についてまた,照射野ランプを,照射域を知らせるという通常の使用目的に加えて,操作者等にX線撮影装置の作動状態を視覚的に伝えるために使用することは,周知技術である(周知例1等)。
(3)引用発明と周知技術との組合せについて引用発明も周知技術1も,操作者等にX線装置の作動状態を視覚的に伝えるものである点において共通するから,引用発明に周知技術1を適用すること,すなわち,12操作者にX線撮影準備完了状態を視覚的に伝えるために「レーザー光」を用いるのに代えて,「照射野ランプ」を用いるようにすることに,何ら困難な点はない。
3阻害要因を看過した誤りについて先に指摘したとおり,操作者が被検者を視認することなくX線撮影を行うことは,通常では考えられない。引用発明におけるX線発生保持部等が「被検者の撮影部位」を視認する上での障害になるのであれば,当然,操作者は,障害にならない立ち位置に移動するものと予測されるし,被検体に照射される光の視認性が悪いのであれば,当業者は,光の色や強度等を適宜設計変更して視認性を向上させるものと予想される。
したがって,引用発明に周知技術1を適用することに阻害事由は存在しない。
4周知技術を適用した判断の誤りについて引用発明と照射野ランプに関する周知技術1とは,「X線撮影装置」という同一の技術分野に属し,また,引用発明の移動形X線装置のように,被検者の撮影部位とX線撮影装置の照射口とが接していないX線撮影装置にあっては,あらかじめX線照射野を確認・調整できるようにする点は自明の課題である。
また,例えば天井の平面を照射するレーザー光に代えて周知慣用技術である「照射野ランプ」を用いるのが容易であることは,先に指摘したとおりである。
したがって,引用発明に周知技術を適用し得るとした本件審決の判断に誤りがあるという原告の主張は失当である。
第4当裁判所の判断1本願発明について(1)本願明細書の記載本願明細書(甲3,4)には,以下の記載がある。
ア本発明は,X線可動絞りによるX線の照射野を,照射ランプで被検者の検査部位に照準する機能を備えたX線撮影装置に関する(【0001】)。
イ従来の回診用X線撮影装置は,移動型装置として小型・軽量で移動操作性の13よいことが特徴であり,病室内でベッドルーム,手術室等に容易に移動して,手軽に現場で使用される。
始めに,装置を撮影台近傍に移動させ,被検者の背面にカセッテをセットし,撮影部位の上部にX線可動絞りを位置させ,X線可動絞りの側面に設けられた手元照射ランプスイッチをONし,照射野ランプを点灯し,ミラーを介して照準光によって照射野を決める。照射野を決定すれば手元照射ランプスイッチをOFFして消灯する。撮影スタート時に,X線照射スイッチの一段目SW(撮影準備スイッチ)を押すと,撮影準備回路がX線管のフィラメントを加熱し,回転陽極を高速に回転する。所定の時間が経過すると,確認回路が撮影準備完了信号を操作パネルの撮影準備完了表示灯に送り点灯させる。そして,二段目SW(撮影スイッチ)を押すと,X線管に高電圧が印加され,X線が放射されると同時に,撮影中表示灯が点灯するとともに,X線放射を知らせるブザー音を鳴らす(【0002】,【0005】)。
ウ従来のX線撮影装置は以上のように構成されており,撮影準備完了状態になったとき,装置の本体の操作パネルに設けられた撮影準備完了表示灯が点灯する。 術者は,通常,被検者の状態を見ており,撮影準備完了状態になったことを確認するために,装置の本体の操作パネル上に視線を移す必要があるが,被検者から視線を外さなければならず,被検者の状態をよく見て撮影に集中できない場合がある。
本発明は,このような事情に鑑みてされたものであって,術者がX線撮影スイッチを保持し,撮影準備スイッチ及び撮影スイッチを順に押して撮影を行うとき,被検者から視線を外すことなく,撮影準備完了状態がわかるX線撮影装置を提供することを目的とする(【0006】,【0007】)。
エ本発明のX線撮影装置は,X線管に照射野ランプを有するX線可動絞りを備え,照射野ランプの照射を制御する手段をX線制御器に設け,X線照射スイッチの第一スイッチを操作し撮影準備完了状態になると同時に,照射野ランプの点灯状態を変化させるようにし,第二スイッチを操作し撮影終了状態になると同時に,照射野ランプの点灯状態を変化させるようにする。これによって,術者は,X線可動絞14りから離れた場所で,被検者の体表面に照準された光照射野の点灯状態の変化を確認しているだけで,周囲が騒がしくてブザー音が聞きとれなくても,また,操作パネルに視線を移す必要もなく,常に,被検者から視線を外すことなく,確実に安全に撮影することができる(【0012】)。
オ本発明のX線撮影装置は,X線管と,そのX線管に取り付けられ照射野ランプを内蔵するX線可動絞りと,X線管に高電圧を印加する高電圧発生回路と,撮影操作のための一段目SWと二段目SWを有するX線照射スイッチと,一段目SWのスイッチ動作確認をする認識回路と,撮影前にフィラメント加熱及び陽極回転を行う撮影準備回路と,所定の時間後に撮影準備完了信号を出す確認回路と,撮影準備完了時に点灯する撮影準備完了表示灯と,撮影中に点灯する撮影中表示灯と,撮影中にブザー音を発する撮影ブザーと,X線可動絞り内の照射野ランプを点灯・消灯制御する照射野ランプ制御回路とから構成される。
照射野ランプ制御回路は,X線可動絞り内の照射野ランプに接続され,照射野ランプに点灯・消灯信号を送るものである。一段目SWを押して所定の時間後,確認回路からの撮影準備完了信号によって,X線可動絞りに内蔵する照射野ランプを点灯し,二段目SWを押して,X線管からX線が放射されている撮影中,高電圧発生回路から出力される撮影中信号によって,照射野ランプを点灯し続け,撮影終了によって撮影中信号が停止し,照射野ランプ制御回路から照射野ランプを消灯させるもので,X線制御器内に設けられている。
始めに,操作ハンドルを操作して装置を撮影台近傍に移動させる。そして撮影台上の被検者の背面にカセッテをセットし,撮影部位の上部にX線可動絞りを位置させ,X線可動絞りの側面に設けられた手元照射ランプスイッチをONし,照射野ランプを点灯し,ミラーを介して照準光によって照射野を決める。照射野を決定すれば手元照射ランプスイッチをOFFして消灯する。撮影スタート時に,X線照射スイッチの一段目SWを押すと,撮影準備回路がX線管のフィラメントを加熱し,回転陽極を高速に回転する。所定の時間が経過すると,確認回路が撮影準備完了信号15を操作パネルの撮影準備完了表示灯に送り点灯させ,同時に,照射野ランプ制御回路にその信号が送られ,照射野ランプを点灯させる。この時点で被検者の照射野は光で照射される。術者は操作パネルに視線を移す必要もなく,被検者の照射野を注視しているだけで撮影準備が完了したことを知ることができる。そして,二段目SWを押すと,X線管に高電圧が印加されX線が放射される。同時に,撮影中表示灯が点灯するとともに,X線放射を知らせるブザー音を鳴らす。この時点では照射野は光で照射された状態が続く。
本発明は,回診用X線撮影装置に限らず,一般X線撮影装置においても実施することができる。また,撮影準備完了と撮影終了の両方において,照射野ランプの点灯状態を変化させることも,いずれか一方のみを変化させることも可能である。
そして,照射野ランプが,撮影準備完了と同時に消灯状態から点灯状態に変わるという状態の変化及び撮影終了と同時に点灯状態から消灯状態に変わるという状態の変化は,いずれも,「点灯から消灯,又は,消灯から点灯」,「点灯と点滅」,「色が変化」する状態の変化でも適用することができる(【0013】,【0016】,【0019】,【0020】)。
カ本発明のX線撮影装置により,術者は,X線可動絞りから離れた場所で,被検者の体表面に照準された光照射野の点灯状態の変化を確認しているだけで,周囲が騒がしくてブザー音が聞きとれなくても,また,操作パネルの撮影準備完了表示灯,撮影中表示灯の点灯・消灯に視線を移す必要もなく,常に,被検者から視線を外すことなく,確実に安全に撮影することができる(【0022】)。
(2)本願発明の技術内容以上の記載からすると,本願発明は,以下の技術的意義を有しているものと認めることができる。
ア本願発明の技術分野本願発明は,X線可動絞りによるX線の照射野について,照射野ランプで被検者の検査部位に照準する機能を備えたX線撮影装置に関するものである。
16イ本願発明が解決しようとする課題従来,X線撮影装置において,術者は,撮影準備完了状態になったことを装置本体の操作パネルに設けられた撮影準備完了表示灯で確認していたが,通常,撮影するときの術者は,被検者の状態を見ており,撮影準備完了状態になったことを確認するためには装置本体の操作パネル上にいったん視線を移して被検者から視線を外さなければならず,被検者の状態をよく見ながら撮影に集中することができないという問題があった。
ウ課題を解決するための手段本願発明は,撮影準備完了状態になると同時に照射野ランプの点灯状態を変化させるようにすること,すなわち,X線照射野を確認することを一義的な目的として設けられていた照射野ランプに,撮影準備完了状態を視覚的に知らせる機能を併せて持たせることで,術者がX線可動絞りから離れた場所で被検者の体表面に照準されたX線照射野の点灯状態の変化を確認するだけで,撮影準備完了状態を知ることを可能とすることによって,撮影準備完了状態を知るために操作パネルの撮影準備完了表示灯の点灯・消灯に視線を移すなどして被検者から視線を外さなければならないといった従来のX線撮影装置が有していた問題点を解決するものである。
2引用発明について(1)引用例(甲1)には,以下の記載がある。
ア特許請求の範囲電動走行にて,病院内を回診するための移動装置を備えた移動形X線装置において,X線撮影ハンドスイッチから入力されたX線撮影準備指令またはX線照射指令に応じてレーザー光をX線装置の上方へ向けて照射するレーザー照射器を設けたことを特徴とする移動形X線装置(【請求項1】)イ発明の詳細な説明(ア)本発明は,病院内を回診する移動形X線装置に関する(【0001】)。
(イ)従来の移動形X線装置は,X線撮影準備完了時の確認を操作パネル上にあ17るX線撮影準備完了表示灯を点灯させて,操作者に視認させるか,またはブザー音を発することによって知らせていた(【0002】)。
(ウ)X線撮影時は,X線被曝を防ぐため,操作者はできるだけX線装置から離れた位置で撮影しようとする。このため操作パネル上のX線照射表示灯が点灯しても操作者からは見にくくなり,ブザー音も聞き取りにくくなる。操作者にわかるようにこれらの照射表示灯を明るくしすぎたり,ブザー音を大きくすると,被検者に不安を与えてしまう問題があった。
本発明の目的は,X線撮影準備完了時,その状態を装置から遠く離れた位置にいる操作者が認知しやすくした移動形X線装置を提供することにある(【0003】,【0004】)。
(エ)本発明のX線発生器は,上下移動自在にX線発生器保持部に保持され,X線制御部の制御によりX線を照射するもので,車輪を備えた移動台車に搭載されている。移動形X線装置は,操作を行うキーと各種表示器を備えた操作パネル,1段目のスイッチと2段目のスイッチを備える。このスイッチは,X線制御部と電気的に接続された遠隔操作が可能なX線照射用ハンドスイッチで,1段目のスイッチは,押すことによりローターの回転指令とフィラメントの加熱指令とを出力させる構成を有する。2段目のスイッチは,押すことによりX線高電圧発生装置へX線発生器からX線を照射させるための信号を出力するX線照射スイッチである。
さらに,移動形X線装置は,ハンドスイッチの1段目のスイッチを押すと連動してレーザー光を天井に向かい照射する第1のレーザー光照射部,ハンドスイッチの2段目のスイッチを押すと連動してレーザー光を天井に向かい照射する第2のレーザー光照射部の構成を有する。
撮影条件を設定し終えたところでハンドスイッチの1段目のスイッチを押してX線発生器のX線管のローターを回転させるとともにフィラメントの加熱を行わせる。
ローターの回転数が定格回転数に達し,フィラメントが所定温度に上昇すると,撮影準備完了表示灯が点灯する。撮影準備完了表示灯への点灯指令は第1のレーザー18光照射部にも並列的に入力し,第1のレーザー光照射部よりレーザー光が照射される。照射されたレーザー光はX線照射のためにX線装置から離れている操作者からもよく見える場所,例えば天井の平面に照射され,天井に第1の写映像を照写させる。この時,操作者は次の動作で照射するX線による被曝を避けるため,装置からできるだけ離れている。このため従来装置のように操作パネル上に配備された撮影準備完了表示灯は操作者からは見にくい。これに対して第1の写映像は天井に照写されているので距離が離れていても操作者が頭を少し上向きにするだけで容易に視野に入り確認できる。
そして,操作者は,天井に映し出された第1の写映像により撮影準備完了を視認し,X線照射スイッチ(ハンドスイッチの2段目のスイッチ)を押す(【0006】〜【0008】)。
(オ)X線撮影準備完了時に,装置の設置してある部屋の天井にレーザー光を照射して操作者に知らせるので,装置から離れていてもX線撮影準備完了を容易に視認できる(【0009】)。
(2)引用例が開示する技術以上の記載からすると,引用例は,移動形X線撮影装置において,操作者は,X線撮影時,X線被曝を防ぐため,できるだけX線装置から離れた位置で撮影しようとするところ,装置本体に設置された操作パネル上のX線照射準備が完了したことを示す表示灯が点灯しても,操作者からは見にくいという課題を解決するため,X線撮影準備完了時に,装置の設置してある部屋の天井等,操作者からもよく見える場所にレーザー光を照射することにより,装置から離れていても,操作者がX線撮影準備完了を容易に視認することを可能にするという技術が開示されている。
なお,引用例には,被検者の撮影部位にX線照射野を照準し,確認するための,「照射野ランプ」についての記載は存しない。
3周知技術について(1)周知例1について19ア周知例1(甲2)には,以下の記載がある。
(ア)実用新案登録請求の範囲ランプ,X線透過域に介挿されたミラー及びリーフを内有して,X線管に接続されているX線コリメータにおいて,ランプの電気回路がランプ点灯スイッチの他に,透視信号により動作するリレー接点及び撮影信号により動作するリレー接点を具有し,各接点の接続により同一のランプから光が視覚的に相互に異なる照射態様で発生し,ミラー,リーフ及び被検部位を介して可視されることを特徴とする,X線コリメータ(イ)考案の詳細な説明a本考案は,X線コリメータ,つまりX線管に接続されたコリメータに関する。
これは,オーバテーブル型の透視撮影台においてX線照射状態を表示する装置としても有用である(産業上の利用分野)。
b従来,オーバテーブル型透視撮影台において,X線照射による透視又は撮影がいつ行なわれているのかは,X線テレビモニタを見ている者,あるいは操作盤上の表示を見ている者以外はわからなかった。X線は不可視光であるので,その照射中に,被検者がどの部分に,どのような範囲で,X線が照射されているのかは,X線を通して得られる透視像でしかわからなかった。そのため,被検者の世話をする者等は,知らないまま,X線照射域に入ってしまい,被曝する危険性があった(従来技術)。
c本考案の目的は,X線照射中に,X線の照射目的及び照射域を外部から検知及び目に見えるようにして,前記の危険性を除去するようにしたX線コリメータを提供することである(目的)。
d前記の目的は,ランプの電気回路にランプ点灯スイッチの他に,透視信号により動作するリレー接点及び撮影信号により動作するリレー接点を有し,各接点の接続により,同一のランプから光を視覚的に相互に異なる照射態様で発生させることにより,達成される(構成)。
20e従来のX線コリメータにおいても,被検者の位置決めやX線照射野を決めるために,光照射用ランプを点灯させる構成を有していた。
本考案のX線コリメータにおいては,X線透視信号が入ると,接点が接続し,低い電圧8Vがランプにかけられ,通常よりは,低い明るさの光が,ミラー及びリーフを介して被検者に,不可視光のX線と共に照射され,その可視光により,透視状態であることを知る。また,X線撮影信号が入ると,撮影時間中にランプがフラッシュするようにして,これにより撮影状態を知る。別室などで,操作するシステムでは,患者に照射される部分が見えにくいような場合もあり,コリメータ部に着目することで,X線の照射状況を知ることができる(実施例)。
f本考案は,X線検査者等が外部から視覚的にX線照射状態及び照射域を知ることができて,診断機能が向上し,また,透視台付近にいる者が,X線照射状態及び照射域を知ることにより,X線被曝に対して,前もって退避でき,安全性が向上するという効果を奏する(効果)。
イ周知例1が開示する技術以上の記載からすると,周知例1は,X線撮影装置において,X線は不可視光であるので,被検者の世話をする者等が,X線が照射中であることに気付かないまま,X線照射域に入って被爆する危険性を防止するために,X線照射中に,X線の照射目的(透視又は撮影)及び照射域を外部から検知及び目に見えるようにするために,照射野ランプを設け,可視光により,X線照射状態及び照射域を知ることができるという技術を開示しているものである。
なお,周知例1の「X線透視信号が入ると,接点が接続し,低い電圧8Vがランプにかけられ,通常よりは,低い明るさの光が,ミラー及びリーフを介して被検者に,不可視光のX線と共に照射され,その可視光により,透視状態であることを知る。」などの記載からすると,周知例1の照射野ランプは,X線撮影装置の作動状態,すなわち,X線撮影装置からX線が照射されている状態を視覚的に知らせる機能を有しているが,X線撮影準備完了状態,X線撮影装置からX線を照射すること21が可能となった状態を視覚的に知らせるものではない。
(2)周知例2についてア周知例2(甲5)には,以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲被検者の撮影部位に,X線照射野をX線可動絞りの照射ランプで照準し確認して,X線照射スイッチの第一スイッチの操作によって撮影準備手段を動作させ,準備完了後に,第二スイッチの操作で高電圧をX線管に印加して撮影を行うX線撮影装置において,前記X線照射スイッチの第一スイッチ操作のONの時間を認識する認識手段を設け,ONの時間が所定の時間以下であれば,認識手段の出力によりX線可動絞りの照射ランプを点灯,消灯させ,また,ONの時間が所定の時間以上であれば撮影準備手段が動作するようにしたことを特徴とするX線撮影装置(イ)発明の詳細な説明a本発明は,X線可動絞りによるX線の照射野を,照射ランプで被検者の検査部位に照準する機能を備えたX線撮影装置に関する(【0001】)。
b従来のX線撮影装置において,照射ランプのON-OFF用の手元照射ランプスイッチが,X線可動絞りの側面に取り付けられていると,術者が,X線照射野を知るためには,その都度X線可動絞りの所まで行って,手元照射ランプスイッチを押さなければならなかったり,X線照射野の目盛板を指示している開度を確認しなければならないことになり,術者にとって負担が大きくなるという問題があった。
また,専用のスイッチによって照射ランプのON-OFFを行う時は,光源の操作のため,別途専用のスイッチが必要になるという問題がある(【0005】)。
c本発明のX線撮影装置は,被検者の撮影部位に,X線照射野をX線可動絞りの照射ランプで照準し確認して,X線照射スイッチの第一スイッチの操作によって撮影準備手段を動作させ,準備完了後に,第二スイッチの操作で高電圧をX線管に印加して撮影を行うX線撮影装置において,X線照射スイッチの第一スイッチ操作のONの時間を認識する認識手段を設け,ONの時間が所定の時間以下であれば,22認識手段の出力によりX線可動絞りの照射ランプを点灯,消灯させ,また,ONの時間が所定の時間以上であれば撮影準備手段が動作するようにしたものである。
本発明のX線撮影装置は,第一スイッチの操作を短時間操作することにより,X線可動絞りの照射ランプを点灯させたり,再度クリックすることにより,照射ランプを消灯させることができる。
術者はX線可動絞りから離れた場所で,X線照射スイッチの第一のスイッチをクリック操作して,被検者の体表面に照準された光照射野を確認することができる。
また,別途専用の操作スイッチを設けなくても,離れた場所から光照射野を照準できる(【0007】,【0008】)。
d本X線撮影装置は,第一スイッチと第二スイッチとを有するX線照射スイッチ,X線制御器内に,第一スイッチ操作のONの時間を認識し,撮影準備開始か,X線可動絞りの照射ランプ点灯/消灯かを判別する認識回路,X線管のフィラメント加熱と陽極回転の撮影準備をする撮影準備回路,撮影準備の所定時間を確認する確認回路,X線可動絞りの照射ランプを点灯したり消灯する照射ランプ点灯/消灯回路,X線照射スイッチの第二スイッチによりX線管に高電圧を印加するための高電圧発生回路,X線管,内蔵した照射ランプにより光照射野を被検者に照準しX線照射野をコリメートするX線可動絞りとから構成されている。
最初に,X線照射スイッチに設けられた一段目のSWをクリック操作する。認識回路は,短時間操作と判断して,照射ランプ点灯/消灯回路が動作して,X線可動絞り照射ランプが点灯し,被検者の体表面にX線照射野に相当する光照射野が確認できる。再び一段目のSWをクリック操作すると,照射ランプ点灯/消灯回路が動作して,X線可動絞り照射ランプが消灯する。また,一段目のSWをクリック操作して,照射ランプ点灯/消灯回路を動作させ,X線可動絞り照射ランプを点灯させて,次に一段目のSWを押さえ長時間操作すると,撮影準備状態になり,フィラメント加熱回路及び陽極回転スタータ回路が動作する。所定の時間が経過すると,確認回路は撮影準備が完了したことを確認する。X線照射スイッチの二段目のSWを23押すと,設定X線条件で撮影が完了する(【0009】,【0011】)。
e本発明によると,別途専用のスイッチを設けなくても,離れた場所から光照射野を目視確認でき,術者の労力を軽減することができる(【0013】)。
イ周知例2が開示する技術以上の記載からすると,周知例2は,照射野ランプを有するX線撮影装置において,X線照射スイッチによって照射野ランプの操作を可能とすることにより,別途専用のスイッチを設けなくても,離れた場所から光照射野を目視によって確認ができ,術者の労力を軽減することができるという技術が開示されているものである。
なお,周知例2は,X線撮影装置における照射野ランプの操作を行うスイッチの改良に関する発明であり,同発明の照射野ランプがX線撮影準備完了状態を視覚的に知らせるものではない。
(3)被告主張の周知技術についてア被告は,本件訴訟において,本願発明の構成が周知であることを立証するものとして,実願平2?114961号(実開平4-72499号)のマイクロフィルム(乙1。以下「乙1文献」という。)を書証として提出する。乙1文献には,以下の記載がある。
(ア)実用新案登録請求の範囲可動絞りを持つX線管装置において,X線管のX線焦点と可動リーフとの間にランプと鏡が設けられ,前記ランプの点滅回路にX線照射信号で閉成スイッチが設けられたことを特徴とするX線管装置(イ)考案の詳細な説明a本来,X線は人体に有害であるので,被検者及び装置を操作する操作者(医師,X線技師など)の被爆量を極力減少させる必要がある。
ところが,X線が照射されていることを明確に知らせる手段がなく,操作者が照射野内に手を入れるなどの危険性があった。
本考案は,極めて簡単な構成でX線照射の有無を知らせるX線管装置を提供する24ことを目的とする(考案が解決しようとする課題)。
b本考案の構成は,可動絞りを持つX線管装置において,X線管のX線焦点と可動リーフとの間にランプと鏡が設けられ,ランプの点滅回路にX線照射信号で閉成するスイッチが設けられるというものである(課題を解決するための手段)。
cX線管装置はX線管と可動絞りからなる。可動絞りは可動リーフ,照射野表示ランプ及び鏡を持つ。
X線高電圧装置から透視または撮影中であるという信号を受けると,ランプが点滅する。これにより操作者にX線照射中の注意を喚起することとなる(実施例)。
d本考案の構成により,X線照射中であることが明確となり,かつ,その大きさが明確になるので,不要なX線被爆が減少する(考案の効果)。
イ乙1文献が開示する技術以上の記載によると,乙1文献は,照射野ランプを有するX線撮影装置において,X線照射中に照射野ランプが点滅することにより,操作者にX線照射中であることについての注意を喚起するという技術が開示されている。
なお,乙1文献が開示するX線撮影装置の照射野ランプは,X線撮影準備完了状態を視覚的に認識させるために点滅するものではない。
(4)周知例1及び2並びに乙1文献に示された技術の周知性前記(1)ないし(3)のとおりの周知例1及び2並びに乙1文献によると,X線撮影装置において,X線照射野を視覚的に認識するために,照射野ランプを用いるという技術が開示されている。
また,周知例1及び乙1文献によると,X線撮影装置の作動状態(X線照射中の状態)を視認するために,照射野ランプの点滅などによって操作者が視覚的に認識することができる技術が開示されている。
したがって,X線撮影装置において,照射野ランプを設けること及び照射野ランプの点滅などによって装置の作動状態,すなわち,X線撮影装置からX線が照射されている状態を視認させる技術は,いずれも本願発明の出願前に周知であったとい25わなければならない。
4引用発明に上記3の周知技術を適用することの可否(1)引用発明に照射野ランプを設けることについて引用例は,移動形X線撮影装置に関する発明であり,周知例1及び2並びに乙1文献は,いずれもX線撮影装置に関する発明であるから,技術分野は共通である。
また,X線撮影装置において,照射野ランプは,被検者の照射部位を確認するとともに,装置の操作者や看護師などの被爆を防ぐため,X線の照射範囲を確認するための構成であり,引用発明の移動形X線撮影装置に照射野ランプを設けることそれ自体は,格別の阻害事由を有するものではない。
(2)照射野ランプに「撮影準備完了状態」を視覚的に認識させる機能を付加することについてア周知技術における照射野ランプに付加された機能について先に指摘したとおり,本願発明の出願前において,照射野ランプが点滅することなどにより,X線撮影装置の作動状態を視覚上明らかにする技術は周知であった。
しかしながら,本願発明及び引用発明は,X線撮影装置の作動状態ではなく,「撮影準備完了状態」を視覚的に認識することをその課題とするものであるところ,周知例1及び乙1文献により開示された周知技術は,いずれも照射野ランプの点灯状態の変化により,X線撮影装置の作動状態を視覚上明らかにするにとどまるものであって,照射野ランプによって「撮影準備完了状態」を視覚的に認識させることに関する技術は何ら開示されていない。周知例2についても,同様である。
イ組合せの動機付けの有無について引用発明は,操作者は,X線撮影時において,X線被曝を防ぐため,できるだけX線装置から離れた位置で撮影しようとすることを前提として,被検者に不安を与えることなく,操作者に撮影準備完了状態を視覚的に容易に認識させるために,操作者が頭を少し上向きにするだけで容易に視野に入る,操作者からよく見える場所である,天井などの装置の「上方」にレーザー光を当てるものである。
26そのような引用発明において,X線装置の上方で,かつ,装置から離れている操作者からもよく見える場所として例示されている天井(平面)のほかに,撮影準備完了状態を視認させるレーザー光を当てる場所として,天井とは異なって,装置の上方ではなく,また,平面でもない「被検者の撮影部位」を選択することは,人体にレーザー光線を当てることによって,少なくとも「被検者に不安を与えること」が当然予想されることも併せ考慮すると,当業者にとって想到すること自体が困難であるということができる。
しかも,当業者にとって「被検者の撮影部位」を選択することが容易想到であり,さらに,レーザー光照射部をX線装置の適宜の位置に設けることについても当業者にとって容易想到であるとしても,照射野ランプとレーザー光照射部とがX線撮影装置に併設されるというにとどまり,それ以上に,X線照射野を照準し確認するための照射野ランプに撮影準備完了状態を知らせる機能を併せ持たせることによって,撮影準備完了状態を知らせるレーザー光を照射するためのレーザー光照射部を不要とすることについては,引用例は,そもそも照射野ランプの構成自体を有さない以上,何らの示唆を有するものではない。
さらに,既に指摘したとおり,照射野ランプについても,これに撮影準備完了状態を知らせる機能を併せ持たせる構成は,本願発明の出願前においては,周知ではなかったのであるから,引用発明において,撮影準備完了状態を知らせるレーザー光に代えて,照射野ランプに撮影準備完了状態を知らせる光の光源としての機能を付加する動機付けを見いだすこともできない。
ウ被告の主張について(ア)被告は,「被検者の撮影部位」も,操作者からよく見える場所であるから,当業者が,X線装置から離れている操作者からよく見える照射場所として,「被検者の撮影部位」を選択し,さらに,「被検者の撮影部位」を照射するランプとして多くのX線撮影装置で採用されている周知慣用の照射野ランプを用いることは,当業者が当然に考えることにすぎないなどと主張する。
27しかしながら,本願発明の出願時において,照射野ランプにX線撮影装置が作動状態にあること,すなわち,X線が照射されている状態であることを視認させるための機能を付加することは周知技術であったが,撮影準備完了状態を視認させるための機能を付加させることは周知技術ではなかったのであるから,被告の主張は,「作動状態」と「撮影準備完了状態」との相違を看過するものであって,採用することができない。
(イ)被告は,操作者は,「被検者の撮影部位」が見やすい立ち位置に移動するであろうし,照射野ランプから被検体に照射される光の視認性が悪いのであれば,当業者は,光の色や強度等を適宜設計変更して視認性を向上させるものと予想されることなどを根拠に,置換が容易であると主張する。
しかしながら,照射野ランプに撮影準備完了状態を視認させるための機能を付加させる点についての動機付けが存在しない以上,置換後の工夫や実際の撮影時における操作者の動作の予測は,本願発明の進歩性を否定する根拠となり得るものではないから,この点に関する被告の主張も採用し得ない。
(ウ)被告は,引用発明と照射野ランプに関する周知技術とは,「X線撮影装置」という同一の技術分野に属し,また,引用発明の移動形X線装置のように,被検者の撮影部位とX線撮影装置の照射口とが接していないX線撮影装置にあっては,あらかじめX線照射野を確認・調整できるようにする点は自明の課題であるとも主張する。
しかしながら,照射野ランプの構成を有さない引用発明に,X線照射野を確認・調整する必要から,照射野ランプを組み合わせることが容易想到であるとしても,撮影準備完了状態を視認させるためのレーザー光に代えて,その機能がない照射野ランプを用いる構成を想到することは容易でなく,被告の主張は採用することができない。
(3)本件審決の判断の当否以上によると,引用発明に,周知例1及び2により開示された周知技術を適用し,28相違点に係る構成を採用することが当業者において容易に想到し得るものであるとして,本願発明の進歩性を否定した本件審決の判断は誤りであるといわなければならない。
5結論以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 荒井章光