関連審決 | 無効2008-800071 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21行ケ10247審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10147審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10033審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10344審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10353審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 周知技術 / 上位概念 / 同一の発明 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 分割出願 / 実質的に同一 / 原出願日 / 優先日 / 均等 / 置き換え / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
21年
(行ケ)
10294号
審決取消請求事件
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原告 スターサイトテレキャストインコーポレイテッド 同訴訟代理人弁護士 宮原正志 同 弁理士 山本秀策大塩竹志 被告Y 同訴訟代理人弁理士 田辺恵基佐 尾山和彦 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2010/07/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が無効2008-800071号事件について平成21年5月19日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の下記2の本件発明に係る特許に対する被告の特許無効審判の請求について,特許庁が,同請求を認め,本件特許を無効とした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案で2ある。 1特許庁における手続の経緯(1)本件特許(甲7)発明の名称:「テレビジョン番組リストのユーザーインタフェース」請求項の数:4原出願日:平成3年9月10日分割出願日:平成15年9月24日(以下,当該分割出願(甲7)に係る明細書を,「本件明細書」という。)優先権主張日:平成2年(1990年)9月10日(米国)登録日:平成19年6月8日特許番号:第3968067号(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成20年4月23日(無効2008-800071号)審決日:平成21年5月19日審決の結論:「特許第3968067号の請求項1乃至請求項4に係る発明についての特許を無効とする。」審決謄本送達日:平成21年5月29日(原告に対する送達日)2本件発明の要旨本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された発明(以下,請求項の番号に従って,「本件発明1」ないし「本件発明4」といい,これらをまとめて「本件発明」という。)は,次のとおりであって,その要旨は,本件審決が分説の便宜上付した符号によると,次のとおりである。以下,その符号を付した構成要件をそれぞれ「構成要件A1」などという。 (1)本件発明1A1:テレビジョン番組表に関する情報を提供する方法であって,B1:該方法は,受信機の外部にある放送装置から受信機が受信した放送信号か3ら,テレビジョン番組表に含まれる複数の項目のそれぞれに対応するタイトル情報と,該複数の項目のそれぞれに対応する番組説明情報とを取得するステップと,C1:時間およびチャンネルの番組ガイドの形式で該テレビジョン番組表に含まれる複数の項目のうちの少なくともいくつかの項目をモニタースクリーンに表示するステップであって,該番組ガイドは,複数のセルを含み,該複数のセルのそれぞれは,該少なくともいくつかの項目のうちの1つに関連付けられている,ステップと,D1:該モニタースクリーン上でカーソルを移動することにより,該複数のセルのうちの1つを選択するステップと,E1:該選択されたセルに関連付けられている該項目に対応する該タイトル情報が,該選択されたセル内に表示されている一方で,該選択されたセルに関連付けられている該項目に対応する該番組説明情報を,該選択されたセルが配置されている該モニタースクリーン上の領域とは異なる該モニタースクリーン上の領域に表示するステップとを包含する,方法(2)本件発明2F1:前記時間およびチャンネルの番組ガイドの形式で前記少なくともいくつかの項目を表示するステップは,グリッドガイド形式で該少なくともいくつかの項目を表示するステップを包含する,請求項1に記載の方法(3)本件発明3B2:受信機の外部にある放送装置から受信機が受信した放送信号から,テレビジョン番組表に含まれる複数の項目のそれぞれに対応するタイトル情報と,該複数の項目のそれぞれに対応する番組説明情報とを取得する手段と,C2:時間およびチャンネルの番組ガイドの形式で該テレビジョン番組表に含まれる複数の項目のうちの少なくともいくつかの項目をモニタースクリーンに表示する手段であって,該番組ガイドは,複数のセルを含み,該複数のセルのそれぞれは,4該少なくともいくつかの項目のうちの1つに関連付けられている,手段と,D2:該モニタースクリーン上でカーソルを移動することにより,該複数のセルのうちの1つを選択する手段と,E2:該選択されたセルに関連付けられている該項目に対応する該タイトル情報が,該選択されたセル内に表示されている一方で,該選択されたセルに関連付けられている該項目に対応する該番組説明情報を,該選択されたセルが配置されている該モニタースクリーン上の領域とは異なる該モニタースクリーン上の領域に表示する手段とを含む,電子番組ガイドシステム(4)本件発明4F2:前記時間およびチャンネルの番組ガイドの形式で前記少なくともいくつかの項目を表示する手段は,グリッドガイド形式で該少なくともいくつかの項目を表示する手段を含む,請求項3に記載の電子番組ガイドシステム3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記アないしウの引用例1ないし3に記載された発明(以下,その順に従って「引用発明1」などという。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号の規定により無効にすべきものである,というものである。 ア引用例1:特開平2-189753号公報(公開日:平成2年7月25日。 甲1)イ引用例2:実願昭62-173467号(実開平1?78328号)のマイクロフィルム(甲2)ウ引用例3:特開平1-209399号公報(甲3)(2)なお,本件審決が認定した引用発明1並びに本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである5ア引用発明1:「番組のタイトル」,「録画予約日付」,「チャンネル」,「録画開始及び終了時刻」を含む「放送予定番組の番組表及びこの番組表の各項目に対応する番組予約データ」を「放送のテレビジョン映像信号の垂直ブランキング期間に重畳されたテレテキスト信号」から「取り込み」,番組表(第2図(A))に番組に対応する番組の「開始時刻」と「タイトル」の行を表示し,カーソルの移動によって番組を選択し,選択された番組に対応する番組予約データの内容(第2図(B))に番組予約データ(「録画予約日付」,「チャンネル」,「録画開始及び終了時刻」)を表示する,番組表を表示する方法イ一致点:テレビジョン番組表に関する情報を提供する方法であって,該方法は,受信機の外部にある放送装置から受信機が受信した放送信号から,テレビジョン番組表に含まれる複数の項目のそれぞれに対応するタイトル情報と,該複数の項目のそれぞれに対応する情報とを取得するステップと,時間の番組ガイドの形式で該テレビジョン番組表に含まれる複数の項目のうちの少なくともいくつかの項目をモニタースクリーンに表示するステップであって,該番組ガイドは,複数のセルを含み,該複数のセルのそれぞれは,該少なくともいくつかの項目のうちの1つに関連付けられている,ステップと,該モニタースクリーン上でカーソルを移動することにより,該複数のセルのうちの1つを選択するステップと,該選択されたセルに関連付けられている該項目に対応する該タイトル情報が,該選択されたセル内に表示されている一方で,該選択されたセルに関連付けられている該項目に対応する該情報を,該選択されたセルが配置されている該モニタースクリーン上の領域とは異なる該モニタースクリーン上の領域に表示するステップとを包含する,方法ウ相違点(ア)相違点1:該テレビジョン番組表に含まれる複数の項目のうちの少なくともいくつかの項目をモニタースクリーンに表示する」表示形態が,本件発明1では「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」であって,該番組ガイドに複数含まれ,該複数のそれぞれは,該少なくともいくつかの項目のうちの1つに関連付けら6れ,カーソルで選択される「セル」が,その形式での「セル」であるところ,引用発明1では「時間の番組ガイドの形式」であって「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」ではなく,「セル」がその形式での「セル」でない点(イ)相違点2:受信機の外部にある放送装置から受信機が受信した放送信号から,テレビジョン番組表に含まれる複数の項目のそれぞれに対応するタイトル情報と(共に)取得する該複数の項目のそれぞれに対応する情報,であり,該選択されたセルに関連付けられている該項目に対応する該タイトル情報が,該選択されたセル内に表示されている一方で,該選択されたセルが配置されている該モニタースクリーン上の領域とは異なる該モニタースクリーン上の領域に表示する該選択されたセルに関連付けられている該項目に対応する該情報である情報が,本件発明1では「番組説明情報」であることに対し,引用発明1では「番組予約データ」であって「番組説明情報」ではない点4取消事由(1)本件発明1の進歩性に係る判断の誤り(取消事由1)ア相違点2及び一致点の認定の誤りイ相違点1についての判断の誤りウ相違点2についての判断の誤り(2)本件発明2ないし4の進歩性に係る判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)相違点2及び一致点の認定の誤りア「番組予約データ」が「番組説明情報」には該当しないことについて本件発明1は,「番組説明情報」をどのように取得し,表示するかに関する発明であり,「番組説明情報」以外の任意のデータが取得され,表示された場合,本件発明1の構成を有するものではない。 7引用発明1において,「番組説明情報」以外のデータが取得され,表示されても,そのデータの性質が「番組説明情報」の性質と異なる場合には,本件発明1と引用発明1との対比においては,その点が一致点,相違点として正確に認定されるべきである。引用発明1の「番組予約データ」は,VTR(ビデオテープレコーダー)に設定すべきデータであり,本件発明1の「番組説明情報」のように,VTRに設定しないデータを含む概念とはその性質が異なるものである。 したがって,かかる性質の相違を無視し,「番組予約データ」及び「番組説明情報」が「情報」であると抽象化し,一致点を認定した本件審決の判断は誤りである。 また,本件審決は,引用発明1の「番組予約データ」の具体的内容が,本件発明1の「番組説明情報」の一部と同様な情報を有するかもしれないが,引用発明1の「番組予約データ」がVTRに設定すべき「番組予約データ」である以上,VTRに設定しない「番組紹介」,「批評」等を含むことはあり得ず,これらを含む番組の説明としての「番組説明情報」と一致するものではないと認定しているから,本件審決が,「番組予約データ」が「番組説明情報」に該当することを前提とし,本件発明1と引用発明1との一致点として,「該複数の項目のそれぞれに対応する情報」を取得するステップを有するとしたのは,矛盾した判断である。 イ「番組予約情報」を「情報」として把握することの問題性について引用発明 1 は,放送信号から,タイトル情報とともに「番組表の各項目に対応する番組予約データ」を取得する技術が開示されているのにすぎず,「番組予約データ」を一般的な「情報」に一般化ないし上位概念化するような開示又は示唆は全く存在しない。 また,引用発明1は,VTRに設定しないデータをどのように表示するかまでは開示していない。一般的な「情報」とは,VTR装置に設定しないデータをも包含する抽象的な概念であることは明らかであるから,引用発明1の「番組予約データ」を,かかる「情報」にまで抽象化することは,引用例1が全く開示していないデータにまで拡大することになり,許されない。 8この点について,被告は,本件審決は,相違点2において,「番組予約データ」と「番組説明情報」は異なるものであると認定しているのであるから,本件審決が,一致点において,両者を「情報」と認定したことに何ら誤りはないと主張するが,これは,相違点2の認定に誤りがないから,一致点の認定にも誤りがないという主張であって,循環論法にすぎないものである。 ウ以上からすると,本件審決の認定した相違点2は,次の原告主張の相違点2のとおり認定されるべきものである。 原告主張の相違点2:本件発明1では,受信機の外部にある放送装置から受信機が受信した放送信号から,「該複数の項目のそれぞれに対応する番組説明情報」が取得され,該選択されたセルに関連付けられている該項目に対応する「番組説明情報」が,該選択されたセルが配置されている該モニタースクリーン上の領域とは異なる該モニタースクリーン上の領域に表示されるのに対し,引用発明1では,本件発明1の「番組説明情報」に相当する情報が取得されず,表示もされない点エまた,相違点1及び原告主張の相違点2を前提とすると,本件審決の認定した一致点は,次の原告主張の一致点のとおり認定されるべきものである。 原告主張の一致点:テレビジョン番組表に関する情報を提供する方法であって,該方法は,受信機の外部にある送信装置から受信機が受信した送信信号から,テレビジョン番組表に含まれる複数の項目のそれぞれに対応するタイトル情報を取得するステップと,時間の番組ガイドの形式で該テレビジョン番組表に含まれる複数の項目のうちの少なくともいくつかの項目をモニタースクリーン上に表示するステップであって,該番組ガイドは,複数のセルを含み,該複数のセルのそれぞれは,該少なくともいくつかの項目のうちの1つに関連付けられている,ステップと,該モニタースクリーン上でカーソルを移動することにより,該複数のセルのうちの1つを選択するステップと,該選択されたセルに関連付けられている該項目に対応する該タイトル情報を,該選択されたセル内に表示するステップと,を包含する,方法(2)相違点1についての判断の誤り9ア引用発明1に動機付けが存在するかについて引用発明1は,従来技術のように,テレビ番組表に,各番組の開始時刻と番組名称だけを表示したのでは,ユーザが詳細な予約データ(録画予約日付,チャンネル,録画開始時刻,録画終了時刻)を知ることができないため,極めて不便であったという課題を,画面上に表示される番組表の項目を選択した際,対応する番組予約データを番組表の表示画面と同一画面に文字で表示することによって解決する発明である。 引用発明1の「番組予約データ」とは,その文言のとおり,VTRに設定すべき「番組予約データ」であって,本件発明1の「番組説明情報」に相当しないことは,相違点2に関して主張したとおり,本件審決自体が認めているものである。 引用発明1は,「時間の番組ガイドの形式」を前提としており,課題の解決において,その形式を代えることは何ら予定されていない。 したがって,引用発明1には,「時間の番組ガイドの形式」を「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」に代える動機付けが存在しないものである。 イ引用発明1と引用発明3とを組み合わせる阻害要因について引用発明1の「時間の番組ガイドの形式」を「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」に代えると,番組を予約するのに必要な情報が全て番組表内に表示されることになるため,「番組を予約するのに不便である」という引用発明1の課題自体が失われることになる。 したがって,当業者が,引用発明1に対し,同発明の課題自体を失わせる結果をもたらす改変を加えることはあり得ないから,引用発明1には,「時間の番組ガイドの形式」を「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」に代えることに対する阻害要因が存在する。 引用発明3は,あくまでも主引例である引用発明1の課題解決のための動機付けがあってはじめて組み合わせることが可能であるところ,主引例における課題自体が消滅してしまえば,それに誘引される組み合わせ動機も自動的に消滅するもので10ある。 したがって,課題を消滅させる事由は,それにより,当該課題に誘因されるべき動機付けを消滅させるものであって,組み合わせの阻害事由となるものである。 ウテレビ番組表の一般的な形態について(ア)被告は,引用発明1及び引用発明3が,同一の技術分野に属し,かつ,共通した作用効果を奏することを理由として,引用発明1の「時間の番組ガイドの形式」を,引用発明3の「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」に置換することは容易であると主張するが,被告が指摘する程度の共通性を理由として置換を認めるのであれば,テレビ放送の録画予約を簡単に行うことを目的とした任意の発明間においては,各構成要素を無限定に置換することが可能となる。被告の主張は不当である。 (イ)被告は,「時間の番組ガイドの形式」を,均等物である「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」に置換することは,当業者にとって極めて基礎的な技術事項であると主張する。 しかしながら,「時間」及び「チャンネル」の双方によって番組を案内(ガイド)する「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」の番組表が,「時間」によって番組を案内(ガイド)されるもので,「チャンネル」によって番組を案内(ガイド)するものを意味しない「時間の番組ガイドの形式」の均等物でないことは明らかである。 (ウ)そもそも,引用発明1と引用発明3とは課題が異なる。 引用発明1が解決する技術課題は,番組表の項目に対応する開始時刻及び番組名称の表示のみでは,予約した番組を確認するための情報が不足し,番組予約が不便であることにある。 これに対し,引用発明3は,「入力作業の煩雑解消ないし誤入力防止」を解決課題とするものであるから,各発明の課題は全く異なり,引用発明1の課題解決のために引用発明3を組み合わせるという動機付けや示唆は全くない。 11(エ)引用発明3の一般化は不当である。 本件審決は,引用発明3の表示形態が,「番組表をモニタースクリーンに表示する場合」の「一般的な表示形態」として採用できることの理由を全く提示していない。仮に,引用発明3に係る表示形態が「周知技術」であるとの趣旨であるならば,引用発明3の一例を挙げるのみでは,「周知技術」として立証不十分である。 エ以上からすると,引用発明1に引用発明3を組み合わせることにより,相違点1の構成が容易想到であるとした本件審決の判断は,誤りである。 (3)相違点2についての判断の誤りア引用発明1において「情報」を一般化することの誤りについて相違点2に関して先に指摘したとおり,本件審決は,引用発明1の「番組予約データ」を誤って「情報」という上位概念に一般化した上で,進歩性を判断した。原告主張の相違点2という正しい認定に基づけば,引用発明1に引用発明2を組み合わせても,当業者にとって,本件発明1が容易想到であるとはいえない。 引用発明1は,画面上に表示される番組表の項目を選択した際,対応する番組予約データを番組表の表示画面と同一画面に文字によって表示するものであって,引用発明1には,「番組予約データ」を「番組表上では知り得る事ができない情報」に一般化ないし上位概念化することを示唆する記載は存在しない。 したがって,本件審決が,具体的な理由を示さず,かかる上位概念化を認めたのは,単なる推測に基づくものにすぎない。 イ「一般の番組表」における選択可能な「セル」に相当する領域について本件審決は,一般の番組表が一覧とは別に番組の説明を表示していることから,番組の説明を更に詳細な情報として表示しようとすることは,当業者が容易に想到できることであるとする。 しかしながら,本件審決が前提とする「一般の番組表」は,新聞のテレビ・ラジオ欄などの紙媒体上に印刷されている番組表であるが,かかる紙媒体上に印刷されている番組表は,項目を「選択」ないし「設定」することなどがないことは当然で12あり,選択可能な「セル」に相当する領域など,存在し得ないものである。 ウ引用発明1と引用発明2との組合せについて(ア)引用発明1の「番組予約データ」を「番組を予約すべきかの判断材料として表示される情報」に抽象化することも,不当である。 引用発明1の解決手段は,番組表の項目が選択された際,対応する番組予約データ(VTRに設定すべき番組予約データ)を文字として確認できるようにしたことによって,「番組表の項目に対応する開始時刻及び番組名称だけを表示したのでは番組を予約するのに不便」であるという課題を解決するものである。 したがって,引用発明1には,番組を予約する際,「番組予約データ」が正しいか否かを確認するために,番組内容に関する情報はタイトルを含め一切記載されていないデータ(番組予約データ)を確認する技術が開示されているにすぎないから,さらに抽象化した「番組を予約すべきかの判断材料」を提供するデータまで表示することは開示されていない。引用発明1のかかる課題解決手段からしても,引用発明1の「番組予約データ」を「番組を予約すべきかの判断材料として表示される情報」に抽象化することは,引用発明1の開示範囲を超えた不当な抽象化である。 (イ)被告は,引用発明1においては,ユーザは番組予約データの内容を確認してから,予約実行するか否かを決定するから,番組予約データは,「番組表では知り得る事ができない,番組予約すべきか否かの判断材料として提供される情報」であると主張する。 しかしながら,引用発明1において,ユーザは番組予約データの内容を確認してから,予約を実行するか否かを決定することは当然であり,ユーザが録画すべき番組の選定を完了してからVTR機器に入力するデータであって,ユーザの意思決定後に機械的に入力するにすぎない情報である「VTRに設定すべきデータ」を,当該予約番組選定という意思決定に使用することは,論理的にあり得ない。被告の主張は誤りである。 エ引用発明2の「番組の詳細説明」を「番組表では知り得る事ができない更に13詳細な情報」に抽象化することについて(ア)引用発明2の「番組の詳細説明」を「番組表では知り得る事ができない更に詳細な情報」に抽象化することも,引用発明2にはそのような示唆が存在しないことから,不当な抽象化である。 また,引用発明1の「番組予約データ」と引用発明2の「番組の詳細説明」とは,引用発明1の「番組予約データ」がVTRに設定すべきデータであるのに対し,引用発明2の「番組の詳細説明」はVTRに設定しないデータを含むから,両者の性質の相違を無視した上で,引用発明1の「番組予約データ」及び引用発明2の「番組の詳細説明」の双方を,「番組表では知り得る事ができない更に詳細な情報」に抽象化し,かかる不当な抽象化を前提として,引用発明1の「番組予約データ」と引用発明2の「番組の詳細説明」とを,置換可能であるとすることはできない。 この点について,確かに,引用発明2には,「番組の詳細説明」を表示することが開示されているが,引用発明2は,その具体的表示態様を全く開示していないから,引用発明1及び引用発明2を組み合わせても,VTRに設定しない引用発明2の「番組の詳細説明」に関する具体的表示態様については,何らの示唆がないものというほかない。 (イ)被告は,引用発明2のフローチャートなどを引用して,引用発明2には,番組表には表示されていない,番組予約すべきか否かの判断材料として使用者に提供される情報が開示されているなどと主張するが,引用発明2においては,むしろ,番組表には全ての情報が記載されていることが前提となっているものである。 (4)小括以上によれば,本件発明1について,その進歩性を否定した本件審決の判断は誤りというべきである。 〔被告の主張〕(1)相違点2及び一致点の認定の誤り本件審決は,「番組説明情報」と「番組予約データ」について相違点2が存在す14るものの,引用発明1においても,「番組説明情報」以外の何らかのデータを取得しているため,抽象的表現として「情報」という用語を用いたものにすぎない。 すなわち,本件審決は,「番組予約データ」も,「情報」である限りでは本件発明1の「番組説明情報」と同様であるが,当該「情報」の意味を,相違点2として,「番組予約データ」であって「番組説明情報」ではないと認定しているのであるから,本件審決の一致点及び相違点2の判断に誤りはない。 以上からすると,本件審決の相違点2の認定及び一致点の認定は,いずれも相当である。 (2)相違点1についての判断の誤りア引用発明1に動機付けが存在するかについて引用発明1には,番組予約データの内容として,「チャンネル」の概念が第2図(B)に開示されており,かつ,引用発明1及び引用発明3が同一の技術分野に属し,共通の作用効果を奏する以上,引用発明1の「時間の番組ガイドの形式」を,引用発明3の「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」に置き換えることには動機付けがあるということができる。 このような均等物による置換は,当業者にとっては極めて基礎的な技術事項であり,引用発明1及び引用発明3の各明細書の〔発明が解決しようとする課題〕に直接記載された両者の具体的な技術的課題が同一でないからといって,引用発明1に対する引用発明3の技術的事項の適用が当業者にとって容易であったことを否定することはできない。 イ引用発明1と引用発明3とを組み合わせる阻害要因について引用発明1は,「ビデオテープレコーダの番組予約方法」に関する発明であり,引用発明3は「テレビ放送の録画予約の処理システム」に関する発明であるから,両者はテレビ放送の録画予約という同一の技術分野に属するものである。 また,両発明は,「カーソルで番組を選択して予約実行キー又は設定スイッチにより簡単に番組予約を行うことができる」という共通の作用効果を奏する。 15本件発明1の「セル」と,引用発明1の「時間の番組ガイドの形式」における「セル」は,その形式が異なるものの,「セル」である点で一致する。 そして,一般的な表示形態である「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」に相当する引用発明3に「セル」が存在する以上,引用発明1の番組表の表示形態である「時間の番組ガイドの形式」に代えて,番組表の一般的な表示形態である「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」とすることは,当業者が容易に想到できたものである。 原告は,引用発明1に引用発明3を組み合わせるには,阻害要因があると主張するが,引用発明1における「時間の番組ガイドの形式」を,引用発明3における「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」に置き換えたとしても,引用発明1の「更に詳細な予約データ(録画予約日付,チャンネル,録画開始及び終了時刻)等の情報を表示画面から知り得るようにする」という目的に反することにはならないから,阻害要因が存在するとはいえない。 ウテレビ番組表の一般的な形態について新聞のテレビ・ラジオ欄や放送スケジュール雑誌などに印刷されている「一般的なテレビジョン番組表」が,「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」の番組表形式を採用していることは,当業者でなくてもだれもが当たり前のように認識している著名な事項であり,そのことは,原告自身が本件明細書において,紙媒体のテレビジョン番組表において,当該形式が一般的であることを認めている。 本件審決は,その裏付けとして,引用発明3の番組表を証拠として指摘しているのであるから,引用例3の1例のみで,周知技術の立証としては十分である。 仮に,引用例3のみでは周知技術の立証として不十分であるならば,特開平1-307944号公報(乙4),特開昭63-54884号公報(乙5)及び実願昭61-10511号(実開昭62-125077号)のマイクロフィルム(乙6)から,本件特許の優先日以前に,「新聞のテレビ・ラジオ欄や放送スケジュール雑誌などに印刷されている一般的なテレビジョン番組表」と同等の電子番組表が存在16し,周知であったことは明らかである。 エ以上からすると,相違点1についての本件審決の判断は,相当である。 (3)相違点2についての判断の誤りア引用発明1において「情報」を一般化することの誤りについて原告は,引用発明1における「情報」を一般化することの誤りを主張する。 しかしながら,相違点2の認定に関して先に指摘したとおり,本件審決は,「番組予約データ」と「番組説明情報」が異なる概念であることを前提として相違点2を認定しており,本件審決における相違点2の認定は誤りではない。 また,本件審決は,引用発明1の「番組予約データ」を,「番組表上では知り得る事ができない情報」にまで一般化ないし上位概念化しているものではない。 したがって,原告の主張は,その前提自体が誤りである。 イ「一般の番組表」における選択可能な「セル」について原告が指摘するとおり,新聞・雑誌等の紙媒体の番組表には,選択可能な項目が存在することはあり得ない。 しかしながら,一般の番組表を構成している項目も,どの番組を見るかを選ぶための判断材料として用いられる要素であって,その意味において,思想としては「セル」と同様であり,当該項目を物理的に直接選択することができないだけにすぎない。 本件審決は,項目として選択可能な「セル」に相当する領域が新聞等の一般の番組表に存在するか否かを問題とすることなく,一般の番組表において,番組の説明を,更に詳細な情報として,使用者に表示しようとすることは,当業者が容易に想到できることといえると判断したものであって,原告の主張は誤りである。 ウ引用発明1と引用発明2との組合せについて引用発明1には,番組予約をすべきか否かの判断材料として,番組表では知り得る事ができない更に詳細な情報である「番組予約データ」を表示し,使用者に提供する技術が開示されており,他方,引用発明2には,表示された番組一覧のうち,17番組予約をすべきか否かの判断材料として,番組一覧では知ることができない「番組の詳細説明」を表示し,使用者に提供する技術が開示されているものである。 したがって,「番組予約データ」か「番組の詳細説明」かの違いがあるものの,いずれも番組予約の便宜のために,番組予約をすべきか否かの判断材料として提示すべき情報が表示される点においては共通するものであり,本件発明1及び本件発明2は,いずれも「番組を予約すべきか否かの判断を正確に行うことができる」という共通の作用効果を奏するものである。 本件発明1では,「番組予約データ」を第2図(B)に表示すること,すなわち,「選択された番組の項目が配置されている領域とは異なる領域に番組予約データを表示している」ことが開示されており,具体的な表示態様が示唆されているものである。 そうすると,引用発明1と,引用発明2とを組み合わせれば,引用発明1において「番組予約データ」を表示している第2図(B)の領域に,引用発明1の番組表では知り得る事ができない更に詳細な情報として,「番組予約データ」に代えて,引用発明2の「番組の詳細説明」を採用して表示することは,当業者にとって極めて基礎的な技術事項であり,そのようにする動機付けが十分に存在したものということができる。 本件審決も,引用発明1は,番組表の上でカーソルによって選択されている番組について,番組表上では知り得る事ができない情報であって,その選択されている番組に関する更に詳細な情報を表示することによって,番組予約をすべきか否かの判断材料として使用者に提供するものであるとして,番組表では知り得ることができず,番組予約すべきか否かの判断材料として提供される情報が,「番組予約データ」であると判断するものである。 本件審決は,同様に,引用発明2においても,番組表では知り得ることができず,番組予約すべきか否かの判断材料として提供される情報が,「番組の詳細説明」であると判断するものである。本件審決の判断に,何らの誤りはない。 18(4)小括以上によれば,本件審決が,相違点2についても当業者が容易に想到できるものであるとした上で,本件発明1の進歩性を否定した判断は,相当である。 2取消事由2(本件発明2ないし4の進歩性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件発明2について本件発明2は,本件発明1に従属する。 したがって,本件発明1についてした指摘は,本件発明2についても当てはまるものであり,本件発明2の無効理由もまた,存在しない。 (2)本件発明3について本件発明3は,本件発明1と実質的に同一の構成を含むものである。 したがって,本件発明1についてした指摘は,本件発明3についても当てはまるものであり,本件発明3の無効理由もまた,存在しない。 (3)本件発明4について本件発明4は,本件発明3に従属する。 したがって,本件発明3についてした指摘は,本件発明4についても当てはまるものであり,本件発明の無効理由もまた,存在しない。 〔被告の主張〕(1)本件発明2について先に指摘したとおり,本件発明1に関する原告の主張は誤りである。 本件発明2は,請求項1を引用しており,構成要件F1以外は,本件発明1と引用発明1との対比と同様である。 したがって,本件発明1に関する本件審決の認定に誤りがない以上,本件発明2についての本件審決の判断に誤りがないことは明らかである。 (2)本件発明3について本件発明1に無効理由が存在する以上,本件発明1と実質的に同一の発明である19本件発明3にも無効理由が存することは明らかである。 (3)本件発明4について本件発明4は,請求項3を引用しており,本件発明3に無効理由が存在する以上,本件発明4についての本件審決の判断に誤りがないことは明らかである。 第4当裁判所の判断1取消事由1(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)について(1)相違点2の認定の誤りア本件明細書の記載本件明細書には,以下の記載がある。 (ア)本発明の目的は,テレビジョン番組リストをより見易い形で表示する方法を提供することにある。 本発明の他の目的は,より分かりやすい仕方で視聴又は記録するための番組を選択する方法を提供することにある(【0008】)。 (イ)番組ノートオーバレイは,次の情報のいずれかまたは全てを含む。 ○番組ジャンル○番組紹介○スター及び著名人○封切りの年○エピソード風のサブタイトル○番組の所要時間○番組の経過時間○批評(スターの評価)○範疇(PG,Gその他)○コールサイン,チャンネルマーカー○字幕,ステレオ(【0022】【0023】)。 イ「番組詳細情報」の意義について以上の記載によると,番組のタイトル情報とともに取得される「番組詳細情報」とは,当該テレビ番組の内容に関する詳細な情報を意味するものということができる。 ウ引用例1の記載引用例1の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。 (ア)近年放送局によっては,テレテキスト放送の一部として放送予定番組の放送開始時刻,番組タイトル等の情報(番組表)を送っており…放送局から送られて20くる放送予定番組の放送開始時刻やタイトルが書かれた番組表がディスプレイの画面上に表示され,ユーザはこの表示を見ながら,所望する予約番組をカーソルで指定することにより,録画予約に必要なデータをとりだして番組予約する。 (イ)放送局から送られてくる番組表の受信機側における表示態様は…簡略化された形または放送局独自のフォーマットで表示されるものであり,例えば…「12:00 NEWS」を指定して録画予約キーを押圧しても,12時から始まるニュースを予約されることはユーザに分かるが,更に詳細な予約データ(録画予約日付,チャンネル,録画開始及び終了時刻)等の情報を表示画面から知り得る事ができず,極めて不便であった。そこで,本発明はかかる欠点を解決しようとするものである。 (ウ)選択されたページ一画面分の予約データがワークメモリに書き込まれると,制御部はワークメモリに書込まれた一番初めの番組予約データを文字データとして画面メモリに書込むことにより番組表(第2図(A))とともに該番組表が表示された画面と同一の画面に番組予約データの内容(第2図(B))を表示する。 (エ)本発明によれば,テレテキスト放送で送られてくる番組表の項目を指定する毎に,その項目に対応した番組予約データを画面上において文字で確認できるという効果がある。 エ引用発明1の内容上記ウの記載(引用されている第2図(A)及び(B)を含む。)の各記載からすると,引用発明1における番組予約データとは,録画予約日付,チャンネル,録画開始及び終了時刻等の,VTRに録画設定をする際に必要となる情報ではあるものの,テレビ番組の内容に関する詳細な情報ではないものと認められる。 オ本件審決の相違点2の認定について(ア)「情報」について以上からすると,本件発明1における「番組説明情報」と,引用発明1における「番組予約データ」は,「番組の内容に関する情報」が含まれるか否かに関して,その内容が異なるものである。 21本件審決も,この点について,相違点2として認定しているものである。 もっとも,「番組説明情報」も,「番組予約データ」も,テレビ番組の内容に関する情報に該当するか否かについては相違があるものの,テレビ番組に関する「情報」であることは同様である。 引用例1における,「更に詳細な予約データ(録画予約日付,チャンネル,録画開始及び終了時刻)」等の「情報」という記載も,番組予約データの上位概念として,「情報」という用語を用いているものと解される。 したがって,本件審決が,本件発明1及び引用発明1において,「選択されたセルが配置されている該モニタースクリーン上の領域とは異なる該モニタースクリーン上の領域」に,「情報」が表示されることを前提として,相違点2を認定したことは,相当である。 (イ)「選択されたセルが配置されている該モニタースクリーン上の領域とは異なる該モニタースクリーン上の領域」に,「情報」が表示されることについて原告主張の相違点2は,本件発明1では,「番組説明情報」が,該選択されたセルが配置されている該モニタースクリーン上の領域とは異なる該モニタースクリーン上の領域に表示されるのに対し,引用発明1では,本件発明1の「番組説明情報」に相当する情報が取得されず,表示もされない点を相違点とするものであるから,「表示もされない」との文言からすると,原告は,引用発明1においては,「選択されたセルが配置されている該モニタースクリーン上の領域とは異なる該モニタースクリーン上の領域」に,「情報」が表示されること自体を否定するようである。 しかしながら,上記アの記載及び第2図(A)及び(B)の各記載からすると,引用発明1においても,当該構成を有しているものと認めることができる。 カ以上からすると,本件審決の相違点2の認定及び一致点の認定は,いずれも相当である。原告の主張は採用できない。 (2)相違点1についての判断の誤り22ア引用発明1における番組表の形式について上記(1)ウ及びエにおいて指摘した引用例1の記載及び引用発明1の内容によると,引用発明1の番組表は,複数のチャンネルが掲載されておらず,特定のチャンネルにおける時間ごとの番組が表示されるものであり,本件審決の用語に従うと,「時間の番組ガイドの形式」であると認められる。 イ引用例1における課題について上記引用例1の記載,特に,「例えば…「12:00 NEWS」を指定して録画予約キーを押圧しても,12時から始まるニュースを予約されることはユーザに分かるが,更に詳細な予約データ(録画予約日付,チャンネル,録画開始及び終了時刻)等の情報を表示画面から知り得る事ができず,極めて不便であった。そこで,本発明はかかる欠点を解決しようとするものである。」との記載からすると,引用発明1においては,VTRに録画予約をする場合に,使用者が特定の番組(セル)を選択した際,録画予約に関する詳細な情報(詳細な予約データ)を表示して提供することによって,使用者が,番組表の表示場面からこれらの情報を取得することができる結果,「詳細な予約データ等の情報が表示画面からは知り得る事」ができないという不便を解消する発明であるといえる。 そして,引用発明1は,特定のチャンネルの番組について,録画予約に関するデータを提供することを前提としているが,VTRを用いてテレビ番組を録画する使用者にとって,番組表に表示される番組の範囲が,特定のチャンネルのみならず,複数のチャンネルに拡大され,さらに,表示される情報が,予約に関する詳細なデータのみならず,当該番組の内容に関する詳細な情報に拡大されることは,録画予約における選択の便宜の観点からも好ましいことは明らかである。 したがって,引用発明1には,番組表に表示されるチャンネル及び情報内容について,これを番組表に表示される情報の多様化,詳細化する技術に関する周知技術と組み合わせる動機付けが認められる。 ウ引用例3の記載23引用例3には,以下の記載がある。 (ア)定められたスケジュールに従って提供される情報を処理する情報処理の形態は,例えば,…VTRによるテレビ放送の録画予約の処理等があるが,本発明の実施例は,本発明をテレビ放送の録画予約の処理に適用したものとして説明する。 (イ)本発明が適用されたVTRにおけるテレビ放送の録画予約の処理システムは,…VTR制御部,予約制御部,操作パネル及びフロッピーディスク(FD)装置を有するVTR装置と,ディスプレイ装置とにより構成され,操作パネルは,カーソル移動キー,モード切換スイッチ,設定スイッチ及びテンキー等を備えて構成されている。 (ウ)予約制御部は,1週間分のテレビ放送のスケジュールが記録されたFDの内容をFD装置から読出して,その内容をRGB信号ケーブルを介してディスプレイ装置に表示する。 (エ)FD装置にセットされるFDは,予め提供される1週間分の放送スケジュールを記録しており,…FD内には,番組を提供している全てのチャンネルについて,その1週間分の番組が順次…記録されている。 (オ)時間フィールドには,対応する番組フィールドで示される番組の開始及び終了時刻が記録されており,番組フィールドには,一般的には番組名称と,必要に応じてその番組の概要が記録されている。…FD内の日付フィールド,曜日フィールドの情報は,日付エリアに,チャンネルフィールドの情報は,チャンネルエリアに夫々表示され,番組フィールドの情報は,時間フィールドを表示する時間エリアに対応した番組エリアに夫々表示される。…録画予約を行おうとする操作者は,この表示画面の中に所望する番組を見付け出すと,カーソル移動キーを操作して,カーソルを所望の番組に移動させる。 (カ)番組の情報が通信手段を介して直接VTR装置に提供されるようにしてもいい。 エ引用例3が開示する技術24以上の記載からすると,引用例3は,VTR装置に,フロッピーディスクや通信手段を介して提供されたテレビ番組の情報を受信して表示する技術を開示しているものである。 そして,上記ウの各記載及び引用例3第3図の内容からすると,引用発明3のテレビ番組表は,複数のチャンネルについて,時刻ごとの番組が表示される形式の番組表であり,本件審決の用語に従うと,「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」であると認められる。 オ番組表に関する周知技術本件審決が指摘するとおり,新聞のテレビ・ラジオ欄や放送スケジュール雑誌などに印刷されている一般的なテレビ番組表においては,複数のチャンネルについて,時刻ごとの番組が表示される形式が採用されていることは,周知の事実である。本件明細書においても,「印刷されたグリッドテレビジョンスケジュールガイドは,よく番組のタイトル及び放送局以外の付属情報を含む。そのようなグリッドはまた一般に,各番組の紹介,その番組が再放送かどうか,映画の人気及びその他の情報を含むより詳細な印刷スケジュールと組み合わせて提供される。」(【0007】)とされているものである。 また,それ以外にも,以下の周知例がある。 (ア)特開平1?307944号公報(乙4)には,特許請求の範囲として,「少なくともテレビ放送の内容と放映時間とを含む情報を予め記憶する記憶手段と,該記憶された情報をテレビ受像機に出力し,該テレビ受像機に表形式で表示させる表示制御手段と,」と記載され,第4図においては,「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」のテレビ番組表が図示されている。 (イ)特開昭63-54884号公報(乙5)には,特許請求の範囲として,「装置本体に接続されたテレビジョン受像機の画面に,少なくともチャンネル番号枠と時刻枠とからなるマトリックス状の着色選択領域を映出させるためのマトリックス状領域発生用のメモリと,」と記載され,第3図においては,「時間およびチ25ャンネルの番組ガイドの形式」のテレビ番組表が図示されている。 (ウ)実願昭61-10511号(実開昭62-125077号)のマイクロフィルム(乙6)には,実用新案登録請求の範囲として,「設定された動作開始時刻,動作終了時刻,動作内容に従い動作するタイマを有し,前記タイマの設定時に設定内容を表示する画面上にスーパー・インポーズする手段を有するテレビジョン装置において,前記タイマの設定内容を事項別に格子状の表現式で図示する手段と,カーソルを前記表の上で動かすことにより,前記設定内容が選択される手段とを設けたことを特徴とするテレビジョン装置」と記載され,第2図においては,「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」のテレビ番組表が図示されている。 カ引用発明3及び上記オの周知例に示された技術の周知性上記エ及びオのとおりの引用発明3及びその他の周知例によると,いずれも,テレビ番組表において,複数のチャンネルについて,時刻ごとの番組が表示される形式,本件審決の用語に従えば,「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」が開示されているものであって,引用発明3及び各周知例の公開時期からすると,かかる発明により開示された技術は,本件発明の優先日の前から,既に周知であったと認めることができる。 キ引用発明1に上記カの周知技術を適用することの可否先に指摘したとおり,引用例1には,番組表に表示されるチャンネル及び情報内容について,多様化,詳細化する技術に関する周知技術と組み合わせる動機付けが認められる。 したがって,引用発明1において,複数のチャンネルが掲載されておらず,特定のチャンネルにおける時間ごとの番組が表示される番組表,すなわち,本件審決の用語に従えば,「時間の番組ガイドの形式」の番組表を,複数のチャンネルについて,時刻ごとの番組が表示される形式である「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」の構成とすることは,当業者にとって容易想到というべきである。 ク原告の主張について26(ア)原告は,引用発明1は,「番組を予約するのに不便な」,「時間の番組ガイド」を前提とした発明であるから,これを「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」の構成とすることは,その技術的課題自体が消滅するとして,引用発明1と引用発明3を組み合わせるには阻害事由があると主張する。 しかしながら,先に指摘したとおり,引用発明1は,使用者が,予約時,「詳細な予約データを知り得る事ができず,極めて不便であった。」との技術的課題を克服するための発明であるところ,番組表に表示されるチャンネル及び情報内容が,多様化,詳細化することは,使用者に「詳細な予約データ」を提供することにほかならず,引用発明1が,「時間の番組ガイド」の形式を採用していることをもって,阻害事由と解することは相当ではない。 (イ)原告は,引用発明1と引用発明3とは課題が異なると主張する。 しかしながら,引用発明1及び引用発明3は,いずれもテレビ番組の録画予約における使用者の便宜を図るために,使用者に情報を提供するテレビ番組表に関する発明であり,同一の技術分野に属するものである。 また,作用効果としても,使用者が,テレビ番組表に表示された録画予約に関する情報を参照し,カーソルで番組を選択して予約実行キー又は設定スイッチにより簡単に番組予約を行うことができるという点で共通である。 したがって,引用発明1及び引用発明3は,同一の技術分野に属し,作用効果も共通しており,当業者が組み合わせることは容易であるというべきであって,課題が異なるなどという原告の主張は採用できない。 (ウ)原告は,「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」の番組表が,「時間の番組ガイドの形式」の均等物であることを前提に,置換を認める被告の主張は不当であると主張するが,先に指摘したとおり,両番組表が均等物であるか否かにかかわらず,引用発明1の「時間の番組ガイドの形式」の番組表を,引用発明3の「時間およびチャンネルの番組ガイドの形式」に置換することは,当業者にとって容易であるということができる。 27また,原告は,本件審決は,引用発明3の表示形態を不当に一般化するものであるとも主張するが,先に指摘したとおり,引用発明3における番組表は,本件発明の優先日当時,既に周知技術であったものというべきであって,不当に一般化がされたものではない。原告の主張は採用できない。 (3)相違点2についての判断の誤りア相違点2の認定の当否原告は,本件審決の相違点2についての認定自体が誤りであり,原告主張の相違点2を前提として進歩性を判断すべきであると主張するが,相違点2の認定に関して先に指摘したとおり,原告の主張は採用できない。 イ引用例2の記載引用例2には,以下の記載がある。 (ア)従来,テレビ番組を録画する録画装置は,テレビと接続されるか又は一体化されるかして使用されている。録画装置による録画方法は,使用者がテレビ番組を見ながら録画したい時点で装置を起動させるか,又は内蔵タイマを利用して録画したい番組を事前に予約しておき,自動的に番組を録画する機能を持たせる場合が多い。 従来の番組予約の方法は,新聞・雑誌に記載されているテレビ番組表から使用者が番組を選択し,時間及びチャンネルを確認して録画装置に入力する。入力については,録画装置に設けられた押釦を押すか或いは時間とチャンネルを示すバーコードを利用するといった方法が採られている。 しかしながら,上述の従来例では録画する番組を選択する際に,通常テレビ番組表がタイムテーブルの形で記載されているため,ジャンル別の番組や解説記事を捜し難いという欠点がある。また,録画予約の際にも,チャンネル及び開始・終了時刻をその都度確認して録画装置に入力するという煩わしさがある。 (イ)本考案の目的は,上述の従来例の欠点を除去し,録画予約の方法を容易にしたテレビ番組録画装置を提供することにある。 28(ウ)光カードには1〜数週間分のテレビ番組情報,即ち放送開始・終了日時,チャンネル番号,番組タイトル,ジャンル,解説,出演者等が記録されており,…光カード内の情報の一部は,テレビアダプタを介してテレビ受像機に表示される。 使用者は情報選択手段としてタッチペンを用いて,テレビ受像機を見ながら番組を指定すると…予約を完了する。 ウ引用例2が開示する技術以上の記載からすると,引用例2は,テレビ番組の録画装置において,使用者が,録画予約をする際の便宜のために,テレビ受像機に表示されるテレビ番組表に,各番組の放送開始・終了日時,チャンネル番号,番組タイトル,ジャンル,解説,出演者等の,テレビ番組に関する詳細な情報を表示する技術を開示しているものである。 エ引用発明1に引用発明2を組み合わせることの可否先に指摘したとおり,引用例1には,番組表に表示されるチャンネル及び情報内容について,これを多様化,詳細化する技術に関する周知技術と組み合わせる動機付けが認められる。 そして,引用発明2の放送開始・終了日時,チャンネル番号,番組タイトル,ジャンル,解説,出演者等のテレビ番組情報は,本件発明1における番組説明情報と同義であるものと認められる。 したがって,当業者が,引用発明1に,引用発明2を組み合わせることによって,引用発明1の「番組予約データ」を,「番組説明情報」の構成とすることは,当業者にとって容易想到というべきである。 オ原告の主張について(ア)「番組予約データ」を「番組表上では知り得る事ができない情報」に一般化ないし上位概念化することについて上記引用例1の記載及び引用発明1の内容によると,引用発明1においては,VTRに録画予約をする場合において,使用者が特定の番組(セル)を選択した際,29録画予約に関する詳細な情報(詳細な予約データ)を表示して,提供することにより,番組表の表示場面からこれらの「情報」を取得することが可能となることから,「詳細な予約データ等の情報が表示画面からは知り得る事」ができないという不便を解消する発明である。 したがって,本件審決が,「番組予約データ」を「番組表上では知り得る事ができない情報」に一般化ないし上位概念化したことは相当である。 (イ)引用発明1の「番組予約データ」を「番組を予約すべきかの判断材料として表示される情報」に抽象化することについて引用発明1は,「画面上に表示される前記番組表の項目を選択したとき,その選択された項目に対応する番組予約データを…表示」する(特許請求の範囲)発明であるところ,同発明の明細書にも,「次に入力されたキーが…カーソル移動のキーであると判断されると,該カーソルの移動によって指定される番組の項目…に対応する番組予約データをワークメモリから読み出し,画面メモリに文字データとして書込むことにより,その番組予約データを第2図に示す画面の領域(B)に表示する…とともに…予約実行キーによる入力かどうかの判断がなされ,予約実行キーによるキー入力であると判断されると,カーソルで指定されている番組の項目の番組予約データ,即ち,画面の領域(B)に表示されている番組予約データを予約データメモリに書込み…,終了する。」(実施例)と記載されており,引用発明1において,「番組予約データ」の「表示」は,番組予約データを予約データメモリへの書き込みの操作である予約実行キーによるキー入力の操作を,ユーザが行うか否かの判断の前に行われているから,ユーザは表示された番組予約データの内容を確認した上で,番組予約データを予約データメモリへ書き込む操作を行うものである。 したがって,引用発明1の「番組予約データ」は,「番組を予約すべきかの判断材料として表示される情報」ということができる。原告の主張は採用できない。 (ウ)引用発明2の「番組の詳細説明」を「番組表では知り得る事ができない更に詳細な情報」に抽象化することについて30引用例2には,「第4図はCPUに内蔵されている番組予約のフローチャート図を示し,使用者は先ず…番組選択モードを入力する。…時間モードの場合は…使用者が日付・時間を入力し,…その日付・時間に対応した番組のタイマテーブルがテレピ受像機に表示され,…入力されたモードがジャンル入力である場合には,…ジャンルに対応した番組一覧が表示され,…使用者が番組を選択し,…その番組の詳細説明が表示される。」,「CPUはその番組が未放送であるかを確認し,…未放送であれば…使用者に予約の確認を行う。予約する場合は…自動録画に必要な情報をビデオ録画機に送り,予約しない場合は…フローを終了するかを使用者に確認し,終了する場合にはENDに進み,終了しない場合には…に戻る。」([考案の実施例])との記載があり,使用者が予約するための自動録画に必要な情報を送るために,必要な操作を行う前にその操作を行うべきか否かの判断材料として「番組一覧」中の選択された番組に対応する「番組の詳細説明」を表示するものであることが示されている。 したがって,引用発明2においても,個別の番組を選択した結果として,「番組を予約すべきかの判断材料として表示される情報」として,「番組表では知り得る事ができない更に詳細な情報」である「番組の詳細説明」が表示されるものというべきである。原告の主張は採用できない。 (エ)「一般の番組表」において選択可能な「セル」に相当する領域はないことについて本件審決は,一般の番組表において,番組一覧とは別の領域に番組の説明を表示していることが周知であることを指摘するものであって,紙媒体である「一般の番組表」において,項目を「選択」ないし「設定」すること,すなわち選択可能な「セル」に相当する領域の有無は,かかる審決の認定を左右するものではない。原告の主張は採用できない。 (4)小括したがって,本件審決が,相違点2についても当業者が容易に想到できるもので31あるとした上で,本件発明1の進歩性を否定した判断は,相当である。 2取消事由2(本件発明2ないし4の進歩性に係る判断の誤り)について原告は,取消事由1に理由があることを前提にして,取消事由1に係る誤った判断に基づいて本件発明2ないし4に進歩性がないとした本件審決の判断も誤っていると主張するところ,前記のとおり,取消事由1には理由がない。 また,本件発明1と本件発明3は,発明の形式が異なるにすぎず,さらに本件発明1と本件発明2,本件発明3と本件発明4の各相違点は,番組表が「グリッドガイド形式」であるか否かにすぎず,先に指摘した本件審決の本件発明1の進歩性に係る判断は,いずれも本件発明2ないし4の進歩性に係る判断についても当てはまるものである。 したがって,取消事由1に係る誤った判断に基づいて本件発明2ないし4に進歩性がないとした本件審決の判断が誤りであると主張するのみで,他に本件発明2ないし4の進歩性に係る本件審決の判断の誤りを指摘するところがない原告の主張は理由のないことが明らかである。 3結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 滝澤孝臣 |
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裁判官 | 本多知成 |
裁判官 | 荒井章光 |