審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21行ケ10161審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10370審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10068審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10246審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10266審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 技術的範囲 / 遡及効 / 遡及 / 翻訳文 / 優先権 / 優先日 / 特許発明 / 請求の範囲 / 異議申立 / 特許協力条約 / 国際出願 / 翻訳文提出 / 追認 / |
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事件 |
平成
21年
(行ウ)
590号
手続却下処分取消請求事件
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ドイツ連邦共和国〈以下略〉 原告ポリアイシーゲーエムベーハー ウントコーカーゲー 同 訴訟代理人弁護 士松田純一 同 大橋君平 同 森田岳人 同 伊藤卓 同 西村公芳 同 補佐人弁理 士清水善廣東京都千代田区〈以下略〉 被告国 同 訴訟代理人弁護 士大西達夫 同指定代理人千葉智子 同 市川勉 同 天道正和 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2010/07/16 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁長官が特願2008-531579について平成20年12月12日付けで原告に対してした平成20年3月24日付け提出の国内書面に係る手続2の却下の処分を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約(以下「特許協力条約」という。)に基づいて行った国際特許出願について,日本国特許庁長官に対し,国内書面及び明細書等の翻訳文を提出したところ,特許庁長官から,特許法(以下「法」という。)184条の4第1項に規定する国内書面提出期間経過後の提出であること(国内書面提出期間内に明細書等の翻訳文が提出されなかったことにより国際特許出願が取り下げられたものとみなされること)を理由に,国内書面に係る手続の却下処分をされたことから,当該却下処分の取消しを求める事案である。 1争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)(1)当事者原告は,ドイツ法に基づく有限会社(Gesellschaft mit beschr□nkter Haftung)である。 (2)本件却下処分がなされた経緯ア原告は,平成18年9月13日,特許協力条約に基づき,ヨーロッパ特許庁を受理官庁として国際特許出願(国際出願PCT/EP2006/008930,特願2008-531579。以下「本件国際特許出願」という。)をした。 本件国際特許出願は,外国語でされ,優先日を平成17年9月16日としている。 イ原告は,本件国際特許出願につき,法184条の4第1項に規定する国内書面提出期間の末日(平成20年3月16日)から8日後である平成20年3月24日に,特許協力条約4条(1)(?)に規定する指定国に含まれる日本の特許庁長官に対し,法184条の5第1項に規定する書面(以下「本件国内書面」という。)並びに法184条の4第1項に規定す3る明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文(以下「本件翻訳文」という。)を提出した。 ウ特許庁長官は,平成20年7月29日,原告に対し,「期間経過後の提出です。(注)本願は優先日から2年6月以内の国内書面提出期間内に明細書等の翻訳文が提出されなかったことにより取り下げられたものとみなされています。」との理由で,本件国内書面に係る手続は却下すべきものと認められる旨の平成20年7月18日付け却下理由通知書を発送した。 エ原告は,平成20年8月29日,特許庁長官に対し,本件国内書面について法184条の5第2項1号の規定により補正の機会が与えられるよう弁明書を提出したが,特許庁長官は,同年12月12日付けで,本件国内書面に係る手続は前記却下理由通知書に記載した理由によって却下する旨の処分(以下「本件却下処分」という。)を行い,その通知を同月24日に発送した。 オ原告は,平成21年2月21日,特許庁長官に対し,本件却下処分について行政不服審査法に基づく異議申立てを行った。 これに対して,特許庁長官は,同年6月3日,「本件異議申立てを棄却する。」との決定(以下「本件決定」という。)を行い,本件決定は,同月4日,原告に送達された。 カ原告は,平成21年12月3日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 (3)日本国特許庁は,特許協力条約に基づく規則(以下「条約規則」という。)49.6(f)の規定により,世界知的所有権機関(WIPO)国際事務局に対し,同規則49.6(a)ないし(e)の規定が国内法令に適合しないことを理由として,これらの規定を適用しないことを通告している。 2争点及び争点に対する当事者の主張原告に対して補正を命ずることなく行われた本件却下処分が違法か否か。 (原告の主張)4(1)特許庁長官は,本件国内書面について,法184条の5第2項1号の規定により,原告に補正の機会を与えなければならなかった。 しかしながら,特許庁長官は,法184条の5第2項,法184条の4第3項の解釈・適用を誤り,原告に補正を命じなかったものであるから,その結果なされた本件却下処分(及びそれを追認した本件決定)は違法であり,取消しを免れない。 (2)法184条の5第2項及び法184条の4第3項の解釈ア両規定の対立・矛盾(ア)法184条の5第2項は,補正を命ずるか否かを特許庁長官の自由な裁量に委ねたものではなく,第三者の利益を害する等の特段の事情がない限り,補正を命ずべき義務を特許庁長官に課したものである。 これに対して,本件却下処分は,本件国際特許出願が法184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされるから,補正を命ずる余地はないとする。 しかしながら,法184条の5第2項は,特許庁長官に補正を命ずる義務を課したものであるから,明細書及び請求の範囲の翻訳文(以下「明細書等の翻訳文」という。)未提出の外国語特許出願については,同項と法184条の4第3項とが対立・矛盾する関係にあり,そのいずれが優先するかは,特許協力条約の要請や,国内書面及び明細書等の翻訳文の意義を検討することによって判断すべきである。 (イ)なお,被告は,両規定に対立・矛盾はないとするが,これは,特許庁の事務処理上の便宜を優先させるとの価値判断に基づき,法184条の4第3項の「取り下げられたものとみなす」との文言を優先させ,法の趣旨や特許協力条約の要請等を顧みないものである。そして,このような被告の思考は,発明の保護及び出願人の保護に実害を及ぼし,かつ,特許庁や第三者のためには何ら寄与しない本件の状況下では,不合理か5つ不適切である。 イ特許協力条約の要請について(ア)法184条の4第3項は,特許協力条約22条,24条(1)(?)等に由来するものであるが,同条約は,締約国に対し,明細書等の翻訳文の不提出による国際出願の取下擬制等を強く求めているのではなく,むしろ,同条約22条(3),24条(2),条約規則49.6に象徴されるように,翻訳文の提出期間を緩和して,国際出願をなるべく維持することを要請している。 したがって,法184条の4第3項は,優先日から2年6月以内に明細書等の翻訳文の提出がなかった外国語特許出願について取下げを擬制することを至上命令とするものではなく,これと対立・矛盾する他の規定よりも,その適用において劣後することもあり得る。 (イ)被告の主張についてa被告は,翻訳文不提出による国際出願の効果の消滅から救済すべき範囲につき,立法政策の問題であって,法による救済の範囲については,厳格に解釈すべきであると主張する。 しかしながら,本件却下処分は,出願人の救済の要請と相反し,特許庁における審査効率の低下・審査処理の遅延の防止に何ら供するものではなく,第三者の監視負担の増大の防止にも供しないものであって,被告の解釈は,厳格な解釈ではなく,恣意的な解釈であり,失当である。 b被告は,条約規則49.6が,同規則49.6(f)の「指定官庁によって適用される国内法令に適合しない場合」に該当すると主張する。 しかしながら,条約規則49.6(a)ないし(e)を適用し,審査請求後,最長で6か月間,明細書等の翻訳文が提出されないという6事態が生じたとしても,その不利益は,出願人自らに生じるだけであって,審査請求がされてから審査に着手するまで6か月をはるかに超える我が国の実情においては,それによって審査の効率が損なわれ,特許庁における審査に支障が生じることも,第三者に審査の遅延による不利益が及ぶこともない。 また,被告は,優先権の主張を伴わない国際特許出願である外国語特許出願につき,優先日であるその出願の国際出願日から3年以内に出願審査の請求がなかった場合には,条約規則49.6による権利回復の余地がないと主張する。 しかしながら,仮にそのような場合があるとしても,条約規則49.6が適用されれば,我が国においても,多くのケースで出願人の救済が見込まれるから,我が国において同規則49.6を適用することが無意味となるわけではない。 したがって,被告の主張は,条約規則49.6の趣旨を軽視し,本件却下処分を正当化するものであり,不合理である。 ウ国内書面及び明細書等の翻訳文の意義(ア)国内書面とは,国内出願の束である国際出願について,日本への移行を正式に表明するものであって,願書としての役割を担うものであり,国内書面こそが,日本での特許権取得の意思表示をするものとして,重要である。そして,法は,このような国内書面の提出時期を柔軟に考えており,だからこそ法184条の5第2項1号が規定されている。 これに対し,明細書等の翻訳文は,国内書面と同時提出の際には,国内書面の添付書類となることからも明らかなように,国内書面に対して従たるもので,出願人の特許権取得の意思表示の内容を補足するものである。 (イ)被告の主張について7被告は,国際出願の場合は,国内書面の手続がされていなくても,我が国の特許庁に出願が係属しているとして,国内書面は願書としての性格を有さず,国内書面と明細書等の翻訳文との間に主従の関係はないと主張する。 しかしながら,国際出願時の出願人の意図は,国際出願日の確保に尽き,特許権取得の意思を国内出願と同額の手数料の支払とともに国内書面で明示して初めて,国際出願が実質的に日本国特許庁に係属したといえるのであって,国内書面には願書としての性格はないとの被告の主張は失当である。 また,明細書等の翻訳文も,特許発明の内容を説明するとともにその技術的範囲を画するものであって,国内出願における明細書や特許請求の範囲と同様の実質を有し,これらと同様に,我が国における特許権取得の意思表示である国内書面を具体的に補足するものであるから,国内書面と明細書等の翻訳文との間に主従の関係がないということはできない。 エ以上のことからすれば,明細書等の翻訳文未提出の外国語特許出願に係る国内書面提出手続については,法184条の5第2項を優先して適用すべきであり,その限りにおいては,法184条の4第3項は劣後すると解釈すべきである。 そして,本件において,法184条の5第2項により補正が命じられ,これに応じて国内書面が提出されていれば,国内書面は国内書面提出期間の末日に提出されたことになり,明細書等の翻訳文は国内書面提出期間の末日から2か月以内の翻訳文提出特例期間内に提出すればよい(法184条の4第1項ただし書)ことになるから,国内書面提出期間の末日から8日後に提出された本件翻訳文は,時期的に適法に提出されていたことになる。このように解しても,国内書面提出期間の末日に国内書面を提出した8者は,その日から2か月以内の翻訳文提出特例期間内に明細書等の翻訳文を提出することができることとの均衡を害することにはならない。 これとは逆に,本件却下処分のように法184条の4第3項を法184条の5第2項に優先して適用するのであれば,法が提出時期の厳格性を減殺して尊重していたはずの国内書面の提出の機会が,これに従たるものである明細書等の翻訳文の未提出により妨げられることになり,特許協力条約の要請にも,法の要請にも適わない本末転倒の結果を招来する。 (3)その他の被告の主張についてア被告は,法184条の5第2項は,特許庁長官に,手続の補正を命ずることについて裁量を認めたものであると主張する。 仮に,法が補正を命ずることにつき裁量を認めるものであるとしても,海外への補正命令の発送等の事務処理上の負担が過大でもないのに,出願人に補正の機会を付与せず,特許協力条約の趣旨を埋没させるという本件の具体的事情の下では,本件却下処分は,裁量の範囲を逸脱する違法なものである。 イ被告は,取下擬制の効果が生じた国際特許出願について,国内書面の提出についての補正命令に基づき国内書面を提出したとしても,手続補正の遡及効により翻訳文提出特例期間が生ずるものではないと主張する。 しかしながら,このような被告の主張自体,事務処理便宜主義に基づき,取下擬制を最優先にするものであって,不当である。 (4)したがって,本件却下処分は,本件国内書面に係る手続について,法184条の4第3項を適用することにより,法184条の5第2項の適用を排除するという誤りを犯した結果なされた違法なものであるから,本件却下処分には取消理由がある。 (被告の主張)(1)本件においては,国内書面提出期間内に国際出願日における明細書等の翻9訳文が提出されなかった。また,本件国内書面が提出されたのは,国内書面提出期間経過後である平成20年3月24日であるから,本件国内書面の提出によって法184条の4第1項ただし書の翻訳文提出特例期間が生ずることはない。 その結果,本件国際特許出願は,法184条の4第3項の規定により,取り下げられたものとみなされ,事件が特許庁に係属していないことになるため,手続の補正をすることができないから(法17条1項本文),法184条の5第2項第1号の規定により国内書面の提出を求める手続の補正を命ずることはできないし,明細書等の翻訳文の提出による手続の補正を認める余地もない。 したがって,本件国内書面の提出は,取り下げられたものとみなされる本件国際特許出願についてされた不適法な手続であって,その補正をすることができないものであるから,その手続を却下すべきものであり(法18条の2第1項),本件却下処分には何らの違法性もない。 □原告の主張についてア法184条の4第3項及び法184条の5第2項の関係について原告は,法184条の4第3項と法184条の5第2項との間に対立・矛盾があるから,法184条の4第3項より法184条の5第2項を優先して適用すべきであると主張する。 しかしながら,まず,法184条の5第2項は,特許庁長官に補正を命ずることの裁量を認める趣旨であって,その義務を課したものではないことは明らかである。 また,法184条の5第2項1号及び184条の4第3項の各規定をその文言に従って解釈すれば,外国語特許出願の場合には,明細書等の翻訳文が国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に提出されなければ,その国際特許出願が取り下げられたものとみなされ,事件が特許庁に係属し10ていないことになるのであるから,法184条の5第2項1号の規定により国内書面提出期間経過後における国内書面の提出に係る手続の補正が認められるためには,明細書等の翻訳文が法184条の4第1項に定められた期間内に提出されていることが必要であると解するのが相当である。 したがって,前記各規定が対立・矛盾する関係にあるということはできない。 イ特許協力条約等との関係について(ア)原告は,特許協力条約は,翻訳文の提出期間を緩和して,国際出願をなるべく維持することを要請しているから,法184条の4第3項は,優先日から2年6月以内に明細書等の翻訳文の提出がなかった外国語特許出願について取下げを擬制することを至上命令とするものではなく,これと対立・矛盾する他の規定よりも,その適用において劣後することもあり得ると主張する。しかしながら,原告の主張は,次のとおり,理由がない。 (イ)特許協力条約の規定特許協力条約上,優先日から30か月を経過する時までに,各指定官庁に対して所定の翻訳文を提出しないときは,国際出願の効果は,当該指定国における国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅することとされている(同条約22条(1),24条(1)(?))ところ,法184条の4第1項及び第3項は,これに準拠したものである。 そして,特許協力条約22条(3)は,翻訳文の提出等の期間について,優先日から30か月よりも遅い時に満了する期間を国内法令で定めることができるとしており,これに基づき,法184条の4第1項ただし書の翻訳文提出特例期間が設けられている。 また,特許協力条約24条(2)は,国際出願の効果が特定の指定国において消滅したとされる場合でも,その指定国がその効果を維持する11旨を定めることを締約国の国内法令に委ねているところ,我が国は,法184条の4第3項の規定により,国際出願の効果を維持するとの選択をしないこととしている。 このように,法は,特許協力条約による授権の範囲内で,明細書等の翻訳文未提出の場合における国際出願の効果の消滅から救済すべき範囲について,出願人の救済の要請と審査効率の低下・審査処理の遅延,第三者の監視負担の増大といった不利益とを総合的に勘案して,立法政策として定めているのであって,そのような救済が認められる範囲については,法が定める方式又は手続に従って,厳格に解釈されるべきである。 原告の主張は,特許協力条約22条(3),24条(2)の各規定自体が,救済の範囲について指定国の国内法令が任意に定めるところに委ね,締約国の主権的選択を尊重していることを無視するものである。 (ウ)条約規則49.6について日本国特許庁は,条約規則49.6(a)ないし(e)が国内法令に適合しないものとして,条約規則49.6(f)に規定する通告を平成14年12月4日付けで国際事務局に行い,当該通告がされたことが2003年1月30日付けでPCT公報に掲載されているから,条約規則49.6(a)ないし(e)は,我が国には適用されない。 原告は,条約規則49.6(a)ないし(e)を適用し,出願審査の請求後,最長で6か月間,明細書等の翻訳文が提出されないという事態が生じたとしても,その不利益は,出願人自らに生じるだけである等主張する。 しかしながら,例えば,外国語特許出願につき出願審査の請求期間(国際出願日から3年)の満了間際に出願審査の請求がされ,そこから最長で6か月間,明細書等の翻訳文が提出されるまで審査を行うことができない滞留事件が増加すれば,審査の効率が損なわれ,他の特許出願12に係る出願人等の第三者にも審査の遅延による不利益が及ぶことは明らかである。 また,条約規則49.6は,国内移行期限を遵守することができなかった国際出願についての権利の回復に関する規定であるところ,法は,出願審査の請求期間内に出願審査の請求がなかったときは,当該特許出願は取り下げたものとみなす旨を規定しており(同法48条の3第4項),かつ,出願審査の請求期間を徒過した特許出願について権利の回復を認める規定は存在しない。そうすると,優先権の主張を伴わない国際特許出願である外国語特許出願につき,優先日であるその出願の国際出願日(特許協力条約2条(□)(c))から3年以内に出願審査の請求がなかった場合には,たとえ条約規則49.6(a)ないし(e)の規定により,優先日から3年6月(指定官庁に対する翻訳文の提出期間(30か月)に条約規則49.6(b)(?)で定める期間(12か月)を加算した期間)以内に明細書等の翻訳文を提出したとしても,既に当該外国語特許出願は取り下げたものとみなされ,国際特許出願としての権利の回復が認められる余地はないことになる。 したがって,条約規則49.6(a)ないし(e)の規定が日本の国内法令に適合しない状態となっていることは明らかである。 ウ国内書面と明細書等の翻訳文の意義について国内書面の提出は,国際出願についての日本への国内移行を正式に表明し,発明者に関する事項の届出や国内手数料の納付等を行うための手続として,重要な意義を有する。しかしながら,国内書面は,願書ではなく,その提出手続がされていなくても,我が国の特許庁に出願が係属していると考えられることから,国内書面提出期間経過後の国内書面の提出による手続の補正について,柔軟な取扱いが許容されている。 また,明細書等の翻訳文は,その提出より,国内移行後の審査の対象と13なる発明の内容,権利範囲等を確定する書面となるものであるのに対して,国内書面は,それ自体は法36条1項に規定する願書ではないから,両者の関係は,願書とそれに添付して提出すべき書類である明細書,特許請求の範囲等の関係とは異なり,国際出願に基づく国内移行後に必要なものとして,それぞれ独立した性質,目的を有するものであり,両者の間に主従の関係があるものではない。なお,国内書面と同時に提出するときに,明細書等の翻訳文が国内書面の添付書類となるのは,特許協力条約27条(1),条約規則49.5(j)の規定により,翻訳文の提出に関する書面の様式を国内法令により規定することができないため,特許法施行規則38条の4様式53により,国内書面と同時に明細書等の翻訳文を提出するときは,国内書面の添付書面として提出することができるようにしたものである。 エ原告のその他の主張について原告は,本件において,法184条の5第2項により補正が命じられ,これに応じて国内書面が提出されていれば,明細書等の翻訳文は国内書面提出期間の末日から2か月以内の翻訳文提出特例期間内に提出すればよいから(法184条の4第1項ただし書),その末日から8日後に提出された本件翻訳文は,時期的に適法に提出されていたことになると主張する。 しかしながら,前記のとおり,明細書等の翻訳文が国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に提出されていることが法184条の5第2項1号の規定による補正命令の対象となるための前提となると解されるから,その期間内に明細書等の翻訳文の提出がされていなければ,国内書面の提出につき補正を命じ,その手続の補正に遡及効が生じたとしても,それによっては,明細書等の翻訳文不提出に基づく国際特許出願の取下擬制と事件係属の消滅の効果を失わせることはできないというべきである。 第3当裁判所の判断141本件却下処分の適法性について(1)本件却下処分は,本件翻訳文が国内書面提出期間経過後に提出されたことから,本件国際特許出願が取り下げられたものとみなされることを理由とするものであるところ,本件国内書面及び本件翻訳文が国内書面提出期間経過後に提出されたものであることは,当事者間に争いがない(前記争いのない事実等(2)イ参照。なお,本件国内書面が提出されたのは,国内書面提出期間経過後であるから,本件において,本件国内書面の提出により,法184条の4第1項ただし書の翻訳文提出特例期間が問題となることはない。)。 (2)法184条の4第1項は,外国語特許出願の出願人は,国内書面提出期間内に,明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文を,特許庁長官に提出しなければならないと規定し,同項ただし書において,国内書面提出期間の満了前2月から満了の日までの間に,法184条の5第1項に規定する国内書面を提出した外国語特許出願については,翻訳文提出特例期間以内に,当該翻訳文を提出することができると規定している。そして,法184条の4第3項は,国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に,明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文(明細書等の翻訳文)の提出がないときは,その国際特許出願は取り下げられたものとみなすと規定している。 法184条の5第2項は,同条1項の規定する国内書面(1号)のほかにも,法184条の4第1項の規定により提出すべき翻訳文のうち,要約の翻訳文(4号)については,国内書面提出期間の徒過を補正命令の対象としているが,明細書等の翻訳文を含むその他の翻訳文については,補正命令の対象としていない。 このような法184条の5と法184条の4の規定を併せて読めば,外国語特許出願につき明細書等の翻訳文が国内書面提出期間内に提出されない場合には,その国際特許出願は,法184条の4第3項により,取り下げられたものとみなされることになり,事件が特許庁に係属しないこととなるから,15当該国際特許出願について,法184条の5第2項の規定による補正命令が問題となる余地がないことは,明らかである。 (3)これを本件についてみると,前記のとおり,国内書面提出期間内に,本件国内書面だけでなく,明細書等の翻訳文を含む本件翻訳文が提出されていないから,法184条の4第3項の規定により,本件国際特許出願は,取り下げられたものとみなされることになる。そのため,本件国際特許出願は,事件が特許庁に係属しないこととなり,法184条の5第2項の規定による補正命令だけでなく,手続の補正が問題となる余地はないから,特許庁長官が本件国内書面や本件翻訳文の提出を求めるなどの手続の補正を認める余地はないというべきである。 したがって,本件国内書面の提出は,取り下げられたものとみなされる本件国際特許出願についてされた不適法な手続であって,その補正をすることができないものであるから,法18条の2第1項の規定により,その手続を却下すべきものである。 よって,原告に補正の機会を与えずに特許庁長官がした本件却下処分は,適法である。 2原告の主張について(1)法184条の5第2項及び法184条の4第3項の解釈について原告は,法184条の5第2項が特許庁長官に補正を義務付けるものであるとの解釈を前提に,法184条の5第2項と法184条の4第3項との間に対立・矛盾があり,特許庁長官は,法184条の5第2項を優先して適用し,補正を命ずべきであったと主張する。 しかしながら,法184条の5第2項は,「手続の補正をすべきことを命ずることができる。」と規定しており,その文言に照らして,手続の補正をすべきことを命ずることを特許庁長官に義務付けたものでないことは明らかである。 16そして,前記1で述べたとおり,法184条の5第2項は,国内書面(1号)や要約の翻訳文(4号)の提出期間徒過については補正命令の対象としているのに対して,明細書等の翻訳文の提出期間徒過については補正命令の対象としておらず,法は,明細書等の翻訳文が国内書面提出期間内に提出されない場合には,法184条の4第3項により,当該国際特許出願が取り下げられたものとみなされ,補正の余地がないことを前提に,法184条の5第2項の補正命令の対象となる範囲を定めているものと解される。 したがって,法184条の5第2項1号は,法184条の4第1項に規定する翻訳文のうち,明細書等の翻訳文が同項に規定する提出期間内に提出されていない場合には,適用されないと解するのが相当であって,法184条の5第2項と法184条の4第3項との間に対立・矛盾はないと解され,本件において,法184条の5第2項を適用する余地はないから,原告の前記主張は,採用することができない。 (2)その余の原告の主張についてア原告は,法184条の5第2項を優先して適用すべき根拠として,特許協力条約の要請や国内書面及び明細書等の翻訳文の意義を挙げるところ,国際出願に関する法の規定及びその解釈は,特許協力条約の規定に違反しないことを要すると解されるから,以下,これらの点を指摘する原告の主張について検討する。 イ特許協力条約の要請について(ア)原告は,特許協力条約は,同条約22条(3),24条(2),条約規則49.6に象徴されるように,翻訳文提出期間を緩和し,国際出願を維持することを要請していることから,法184条の4第3項は,同項と矛盾する規定よりも,その適用において劣後すると主張する。 (イ)しかしながら,特許協力条約は,出願人は,優先日から30か月以内に国際出願の写しと所定の翻訳文を提出することとし(22条17(1)),当該期間内にこれらを提出しなかった場合には,国際出願の効果は,当該指定国における国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅する(24条(1)(?))と規定しているから,法184条の4第3項は,何ら特許協力条約の規定に違反するものではない。 そして,特許協力条約22条(3)は,締約国の裁量として,翻訳文等の提出期間の満了日を特許協力条約の定めよりも遅くするように国内法令で定めることができるとするものであって,国内法令においてこのような措置を講ずることを締約国に義務付けていないことは,その文言に照らして,明らかである。 また,同条約24条(2)も,同条(1)の規定(国際出願の効果が,国内出願の取下げと同一の効果をもって消滅すること)にかかわらず,指定官庁が,国際出願の効果を維持することができるとするものであって,指定官庁が当該効果を維持することを義務付けるものではないことも,また,明らかである。 したがって,特許協力条約は,同条約で定める範囲以上に,翻訳文の提出期間を緩和して,国際出願の効果を維持するものとして取り扱うか否かは,各締約国及び指定官庁の判断に委ねていると解されることから,これらの特許協力条約の規定をもって,この判断の結果である法の規定の範囲を超えて,国際出願の効果を維持するように法の規定を解釈すべき理由はない。 (ウ)aそして,日本国特許庁は,条約規則49.6についても,条約規則49.6(f)に基づき,条約規則49.6(a)ないし(e)の規定が国内法令に適合しない旨の通告を行っている(前記争いのない事実(3)参照)から,日本国特許庁については,これらの規定は適用されない。 また,条約規則49.6(f)の存在から明らかなように,条約規18則が,翻訳文の提出期間を徒過した場合の権利の回復を絶対的に要請していないことは,明らかである。 bなお,原告は,日本が,条約規則49.6(f)に基づく通告を行っていることにつき,審査請求がされてから審査に着手するまで6か月をはるかに超えるという日本国特許庁における審査の実情に照らして,条約規則49.6(a)ないし(e)を適用しても問題は生じないと主張する。 しかしながら,条約規則49.6(f)は,条約規則49.6(a)ないし(e)が「国内法令に適合」しないことを要件としているところ,原告の前記主張は,「審査の実情」に反しないというにすぎず,「国内法令に適合」することを主張するものではない。 また,条約規則49.6(a)ないし(e)の規定によれば,最長で,特許協力条約22条に規定する期間が満了する日から12か月間(優先日から42か月間),権利の回復を認めることになる。これに対し,法は,出願日から3年(36か月)以内に出願審査の請求をすることができ,当該期間内に出願審査の請求がなかったときは,その出願は取り下げられたものとみなすこととしている(法48条の3第1項,第4項)。したがって,仮に,条約規則49.6(a)ないし(e)を適用して,外国語特許出願につき,翻訳文の提出を優先日から最大で42か月まで可能とする場合には,出願審査の請求がされてから最大6か月の間,明細書等の翻訳文が提出されない事態が生じ,その間における審査ができないこととなってしまい,法の規定との不整合が生ずることになる。 したがって,条約規則49.6(a)ないし(e)は,我が国の国内法令に適合しないというべきであり,特許庁の行った条約規則49.6(f)に基づく通告には,理由があるものと認められる。 19(エ)以上のことから,特許協力条約22条(3),24条(2),条約規則49.6(a)ないし(e)に象徴される特許協力条約の要請を考慮して,法184条の4第3項の規定の適用を劣後させるべきであるとの原告の主張は,理由がない。 ウ国内書面と明細書等の翻訳文の意義について原告は,国内書面は願書としての役割を担うもので,重要であり,これについては補正が認められているのに対し,明細書等の翻訳文は,国内書面に対して従たるものにすぎないとして,従たる書面である明細書等の翻訳文の未提出により,国内書面の提出の機会が妨げられるのは,本末転倒であると主張する。 しかしながら,国際特許出願において願書としての性質を有するのは,国際特許出願に係る願書であって,国内書面ではない(法184条の3第1項,184条の6第1項)。また,明細書等の翻訳文は,特許協力条約上,その提出を義務付けられている書面である(同条約22条(1))のに対し,国内書面は,同条約上,その提出を義務付けられている書面ではない(同条約22条(1)後段,27条(1)参照)。このような同条約の規定や法の規定に照らして,明細書等の翻訳文が国内書面の従たる書面であると認めることはできない。 したがって,原告の前記主張は,理由がない。 エ以上のとおり,特許協力条約の規定や国内書面及び明細書等の翻訳文の意義に照らしても,法184条の5第2項が特許庁長官に補正を義務付けたものであって,明細書等の翻訳文が未提出の外国語特許出願については,同項と法184条の4第3項とが対立・矛盾する関係にあるとして,法184条の5第2項を優先して適用すると解すべき理由はないから,原告の主張は,採用することができない。 3裁量違反との主張について20また,原告は,仮に,法184条の5第2項が,手続の補正を命ずるにつき,特許庁長官の裁量を認めるものであるとしても,裁量違反であると主張する。 しかしながら,手続の補正は,事件が特許庁に係属している場合に限りすることができる(法17条1項)ところ,本件国際特許出願は,法184条の4第3項により,取り下げられたものとみなされ,事件が特許庁に係属していないことになるから,その後に,手続の補正を行うことはできない。したがって,本件においては,特許庁長官が手続の補正を命ずる余地もないから,特許庁長官が補正を命じなかったことが裁量違反となることはない。 したがって,原告の前記主張は,理由がない。 4結論よって,原告の請求は,理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 大須賀滋 |
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裁判官 | 坂本三郎 |
裁判官 | 岩崎慎 |