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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10019審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10028審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10397審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10303審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10257審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  考案者 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10377号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/07/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文

1
平成22年7月21日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10377号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年7月7日
判 決
原 告 X
同訴訟代理人弁理士 重 信 和 男
清 水 英 雄
中 野 佳 直
溝 渕 良 一
秋 庭 英 樹
被 告 株式会社水道技術開発機構
同訴訟代理人弁理士 北 村 修一郎
東 邦 彦
中 条 均
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2008?800280号事件について平成21年10月15日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は, 原告が,下記1のとおりの手続において,被告の本件特許に対する原
告の特許無効審判の請求について,特許庁が,本件訂正を認め,本件特許に係る発
明の要旨を下記2のとおり認定した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書
(写し)の本件審決(その理由の要旨は,下記3のとおり)には,下記4のとおり


2
の取消事由があると主張して,その取消を求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件特許(甲14)
発明の名称:「流体配管系統の流路遮断方法及び管内流路遮断装置」
出願日:平成16年11月16日(特願2004?331801)
登録日:平成20年7月18日
特許番号:第4155966号
(2)審判手続及び本件審決
審判請求日:平成20年12月8日(甲15。無効2008?800280
号)
訂正請求日:平成21年3月11日(甲21。甲24により同年9月4日に手
続補正があり,この手続補正を含めて,以下,「本件訂正」という。)
審決日:平成21年10月15日
審決の結論:「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」
原告に対する審決謄本送達日:平成21年10月26日
2本件発明の要旨
本件審決が判断の対象とした発明は,本件訂正後のものであって,その要旨は,
次のとおりである。以下,【請求項1】ないし【請求項5】に係る発明を順に「本
件発明1」ないし「本件発明5」といい,併せて「本件発明」という。
【請求項1】流体配管系統において,両連結フランジ部の接合面間にシール材を介
装した状態で上記両連結フランジ部に貫通状態で設けられた締結具にて締付け連結
されている両管部の両連結フランジ部に,上記締結具の緩み操作を許容する状態で
両連結フランジ部の外周を密封状態で囲繞可能で,かつ,両管部の流路を遮断可能
な薄板状の仕切板弁が抜き差し操作自在に設けられている遮断作業カバーを装着し,
上記締結具の緩み操作に伴う流体圧による両連結フランジ部間の押し広げと,上記
遮断作業カバーの周方向複数箇所に設けられた隙間形成手段による両連結フランジ


3
部の接合面間の外周面側に開口形成された環状凹部に付与される強制押し広げ力と
によって,上記締結具の緩み操作代の範囲内で両連結フランジ部間を押し広げ,上
記遮断作業カバーの仕切板弁を,上記締結具の緩み操作によって発生した両連結フ
ランジ部間の隙間を通して流路遮断位置にまで差し入れることにより,両連結フラ
ンジ部間において流路を遮断することを特徴とする流体配管系統の流路遮断方法
【請求項2】両連結部フランジ部の接合面間にシール材を介装した状態で上記両連
結フランジ部に貫通状態で設けられた締結具にて締付け連結されている両管部の両
連結フランジ部に対して,それらの両連結フランジ部の外周を密封する状態で装着
自在な遮断作業カバーに,上記締結具の緩み操作に伴う流体圧による押し広げによ
って両連結フランジ部間に発生した隙間を通して管内流路を遮断する位置にまで差
込み移動自在な薄板状の仕切板弁と,この仕切板弁を密封状態で流路遮断位置と流
路開放位置とに摺動案内する摺動ガイド手段が設けられているとともに,上記遮断
作業カバーの周方向複数箇所には,両連結フランジ部の接合面間の外周面側に開口
形成された環状凹部において上記締結具の緩み操作代の範囲内で両連結フランジ部
間を強制的に押し広げるための強制押し広げ力を付与する隙間形成手段が設けられ
ている管内流路遮断装置
【請求項3】前記隙間形成手段が,遮断作業カバーの周方向複数箇所において,両
連結フランジ部間の隙間に対して径方向外方から入り込み移動するテーパー面を備
えた複数の分離ボルトから構成されている請求項2記載の管内流路遮断装置
【請求項4】前記隙間形成手段の分離ボルトは,そのボルト軸芯が仕切板弁の移動
平面を通る平面上又はその近傍に位置する状態で締付け輪に取付けられている請求
項3記載の管内流路遮断装置
【請求項5】前記締結具が,一方の連結フランジ部の外面との間を密封するための
Oリングを頭部の当接面に設けてあるボルトと,他方の連結フランジ部の外面との
間を密封するためのOリングを当接面に設けてある袋ナットから構成されている請
求項2ないし4のいずれか1項に記載の管内流路遮断装置


4
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明が,いずれも下記アないしケの引
用例1ないし9に記載された各発明(以下,引用例1に記載された発明を,その請
求項ごとに「引用発明1」及び「引用発明2」という。)及び下記コないしスの各
周知例に記載された各技術事項に加えて,本件発明1及び2については下記イない
しエ及びケの各引用例に記載された各技術事項に基づき,本件発明3及び4につい
ては下記イないしエ及びケの各引用例に記載された各技術事項のほか,下記オ及び
カの各引用例に記載された各技術事項に基づき,本件発明5については下記イない
しエの各引用例に記載された各技術事項のほか,下記キ及びクの各引用例に記載さ
れた各技術事項に基づき,いずれも当業者が容易に発明をすることができたものと
いうことはできないから,本件発明に係る本件特許を無効にすることができない,
というものである。
ア引用例1:実願昭60?104452号(実開昭62?12090号)の
マイクロフィルム(甲1)
イ引用例2:特公昭49?20325号公報(甲2)
ウ引用例3:特開2003?322289号公報(甲3)
エ引用例4:米国特許第5,797,423号明細書(甲4)
オ引用例5:実願昭60?92429号(実開昭62?802号)のマイク
ロフィルム(甲5)
カ引用例6:実願平5?63554号(実開平7?33553号)のCD?
ROM(甲6)
キ引用例7:実願平2?96041号(実開平4?54318号)のマイク
ロフィルム(甲7)
ク引用例8:特開2002?250446号公報(甲8)
ケ引用例9:特開平10?68105号公報(甲9)
コ周知例1:特開平11?108228号公報(甲10)


5
サ周知例2:特開平9?66082号公報(甲11)
シ周知例3:特開平10?135698号公報(甲12)
ス周知例4:特開平10?123271号公報(甲13)
(2)なお,本件審決が認定した引用発明1及び2は,次のとおりである。
ア引用発明1:水道管等の配管系統において,両フランジの接合面間にシー
ル材を介装し,両フランジに貫通状態で設けられるフランジ連結ボルトの挿通用孔
を閉塞具にて水密状態に閉塞した両フランジに,両フランジの外周を密封状態で囲
繞可能で,かつ,両フランジの流路を遮断可能な弁板が抜き差し操作自在に設けら
れている環状のマウントを介して水密状態で軸芯方向にスライド自在に外嵌可能な
筒状本体を装着し,この筒状本体の周方向複数箇所に設けられ,水道管側(下側)
のマウントに水道管側から当接させた操作ボルトを介して上記筒状本体を水道管側
のフランジに対してスライドさせて,消火栓側(上側)のフランジを水道管側のフ
ランジから離間させ,上記弁板を両フランジ間の隙間に差し入れることにより,両
フランジ間において流路を遮断する水道管等の配管系統の流路遮断方法
イ引用発明2:両フランジの接合面間にシール材を介装し,両フランジに貫
通状態で設けられるフランジ連結ボルトの挿通用孔を閉塞具にて水密状態に閉塞し
た両フランジに対して,それらの両フランジの外周を環状のマウントを介して水密
状態で軸芯方向にスライド自在に外嵌可能な筒状本体に,両フランジ間の隙間を通
して管内流路を遮断する位置にまで差込み移動自在な弁板と,この弁板を密封状態
で流路遮断位置と流路開放位置とに摺動案内する部材が設けられているとともに,
上記筒状本体の周方向複数箇所には,水道管側(下側)のマウントに水道管側から
当接させた操作ボルトが設けられている水道管等の流路遮断装置
(3)また,本件審決が認定した本件発明1と引用発明1との一致点1及び相違
点1は,次のとおりである。
ア一致点1:流体配管系統において,両連結フランジ部の接合面間にシール
材を介装した状態で上記両連結フランジ部に貫通状態で設けられた締結具で連結さ


6
れる構造の両連結フランジ部に,連結フランジ部の軸芯方向の移動を許容する状態
で,両連結フランジ部の外周を密封状態で囲繞可能で,かつ,両管部の流路を遮断
可能な薄板状の仕切板弁が抜き差し操作自在に設けられている遮断作業カバーを装
着し,上記遮断作業カバーの周方向複数箇所に設けられた操作手段を操作して,両
連結フランジ部間に隙間を形成し,上記遮断作業カバーの仕切板弁を,両連結フラ
ンジ部間の隙間を通して流路遮断位置にまで差し入れることにより,両連結フラン
ジ部間において流路を遮断する流体配管系統の流路遮断方法
イ相違点1
(ア)相違点1?1:両連結フランジ部に貫通状態で設けられる締結具で連結
される構造の両連結フランジ部に関し,本件発明1では,「両連結フランジ部に貫
通状態で設けられた締結具にて締付け連結されている」のに対し,引用発明1では,
「両フランジに貫通状態で設けられるフランジ連結ボルトの挿通用孔を閉塞具にて
水密状態に閉塞し」ている点
(イ)相違点1?2:「連結フランジの軸芯方向の移動を許容する状態」で遮断
作業カバーを装着する態様に関し,本件発明1では,「締結具の緩み操作を許容す
る状態で」あるのに対し,引用発明1では,「軸芯方向にスライド自在」である点
(ウ)相違点1?3:遮断作業カバーの周方向複数箇所に設けられた操作手段を
操作して,両連結フランジ部間に隙間を形成する態様に関し,本件発明1では,
「締結具の緩み操作に伴う流体圧による両連結フランジ部間の押し広げと,遮断作
業カバーの周方向複数箇所に設けられた隙間形成手段による両連結フランジ部の接
合面間の外周面側に開口形成された環状凹部に付与される強制押し広げ力とによっ
て,上記締結具の緩み操作代の範囲内で両連結フランジ部間を押し広げ」るのに対
し,引用発明1では,流体圧による両連結フランジ部間の押し広げについては明ら
かでなく,「筒状本体(「遮断作業カバー」に相当)の周方向複数箇所に設けられ,
水道管側(下側)のマウントに水道管側から当接させた操作ボルトを介して筒状本
体を水道管側のフランジに対してスライドさせて,消火栓側(上側)のフランジを


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水道管側のフランジから離間させ」る点
(4)また,本件審決が認定した本件発明2と引用発明2との一致点2及び相違
点2は,次のとおりである。
ア一致点2:両連結フランジ部の接合面間にシール材を介装した状態で上記
両連結フランジ部に貫通状態で設けられる締結具で連結される構造の両連結フラン
ジ部に対して,それらの両連結フランジ部の外周を密封状態で装着自在な遮断作業
カバーに,両連結フランジ部間の隙間を通して管内流路を遮断する位置にまで差込
み移動自在な薄板状の仕切板弁と,この仕切板弁を密封状態で流路とともに,上記
遮断作業カバーの周方向複数箇所には,操作手段が設けられている管内流路遮断装

イ相違点2
(ア)相違点2?1:両連結フランジ部に貫通状態で設けられる締結具で連結さ
れる構造の両連結フランジ部に関し,本件発明2では,「両連結フランジ部に貫通
状態で設けられた締結具にて締付け連結されている」のに対し,引用発明2では,
「両フランジに貫通状態で設けられるフランジ連結ボルトの挿通用孔を閉塞具にて
水密状態に閉塞し」ている点
(イ)相違点2?2:仕切板弁が両連結フランジ部間の隙間を通して管内流路を
遮断する位置にまで差込み移動自在な態様に関して,本件発明2では,「締結具の
緩み操作に伴う流体圧による押し広げによって両連結フランジ部間に発生した隙間
を通して管内流路を遮断する位置にまで差込み自在」であるのに対し,引用発明2
では,隙間が「締結具の緩み操作に伴う流体圧による押し広げによって」発生した
ものか否か明らかでない点
(ウ)相違点2?3:遮断作業カバーの周方向複数箇所に設けられている操作手
段に関して,本件発明2では,「両連結フランジ部の接合面間の外周面側に開口形
成された環状凹部において締結具の緩み操作代の範囲内で両連結フランジ部間を強
制的に押し広げるための強制押し広げ力を付与する隙間形成手段」であるのに対し,


8
引用発明2では,「水道管側(下側)のマウントに水道管側から当接させた操作ボ
ルト」である点
4取消事由
相違点1?3を相違点として認定し,本件発明が容易に想到することができない
とした判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1)連結フランジ間のパッキンが経年変化で劣化し連結フランジ間が糊で接着
したような固着状態になる場合があることは,引用例1の出願当時(昭和60年7
月8日),技術常識であった(甲26,27)ところ,引用例1の記載は,引用発
明1が,操作ボルトの螺合回動による強制力(ボルト操作力)により,消火栓側
(上側)のフランジが水道管側(下側)のフランジに対して遠近移動なるスライド
操作が行われること及び離間固定状態を得ることを明確に表現している。すなわち,
引用例1の記載によれば,消火栓側のフランジを水道管側のフランジに対して遠ざ
ける方向に移動(遠移動)させているのも,スライド操作ボルトを用いた強制押し
広げ力(ボルト操作力)であるととらえるのが自然であり,合理的である。
そして,引用例1は,上記スライド操作及び離間固定状態の作出のために操作ボ
ルトの先端部が水道管側のマウントに水道管側から「当接」させる旨記載している
から,ここにいう「当接」させるとは,「当たり接すること」に加えて,「当接状態
の維持」も含まれる。現に,操作ボルトの先端をマウントに固定しながら操作ボル
トの回動を許容する技術は,周知であるし,これに関連して,「ねじ駆動で物体を
移動させるに際し,ねじ端部において回転は許容するが,その移動を規制させる」
技術も,出願時の技術常識であった(周知例1ないし4)。
また,消火栓側のマウントは,消火栓側のフランジに遠近移動を与えるための
補助具であり,マウントとフランジとの水密状態や,消火栓の重さ及びこれに対す
る水道管側からの流体圧(水圧)をも考慮すると,両者は,強固に固定され,消火


9
栓側のマウントは,消火栓側のフランジの一部として機能していることが明らかで
ある。現に,引用例1は,筒状本体,マウント及びフランジをセットボルトで「固
定」する旨記載しており,この「固定」との文言は,機械的な固定を意味するもの
と解釈すべきである。
以上によれば,引用発明1の操作ボルトは,「強制押し広げ力」を作用させる本
件発明1の「隙間形成手段」そのものである。
したがって,操作ボルトと「隙間形成手段」との同一性を否定し,引用発明1
の「筒状本体(「遮断作業カバー」に相当)の周方向複数箇所に設けられ,水道管
側のマウントに水道管側から当接させた操作ボルトを介して筒状本体を水道管側の
フランジに対してスライドさせて,消火栓側のフランジを水道管側のフランジから
離間させ」る点を相違点1?3とした本件審決の認定には,誤りがある。
(2)このように,引用発明1に関する引用例1の記載からは,遠移動なるスラ
イド操作において,螺合回動を伴う操作ボルトの先端部の当接(及び当接維持状
態)で離間固定状態を得ること(又は得たいとする発明者の意図)が明確に把握さ
れるところ,本件発明1は,このような引用発明1に,引用例2ないし4記載の技
術である「締結具を取り外すことなく締結具を緩めた状態で仕切板弁を流路遮断位
置まで差し入れる」技術及び「両連結フランジ部に貫通状態で設けられた締結具」
並びに引用例9記載の技術である「隙間形成手段の強制押し広げ力を環状凹部に直
接作用させる」技術を適用することで,当業者が容易に発明できたものである。
(3)なお,本件審決は,流体圧による両連結フランジ部間の押し広げについて
は本件発明1と引用発明1との間に実質的な相違はなく,引用例1には「操作ボル
トを(下方向に)操作することにより,筒状本体が上方向に移動することを許容し,
消火栓側のフランジが水圧により上方向に移動し,水道管側のフランジと離間す
る」趣旨が記載されているとする。しかしながら,引用例1では,「流体圧による
両連結フランジ部間の押し広げ」力の存在や,当該力のみを引用発明1に適用しよ
うとする意図も実施例も,一切開示されていないから,本件審決のこの認定判断も,


10
誤りである。
〔被告の主張〕
(1)引用発明1は,不断水状態で消火栓を交換するものであるから,両連結フ
ランジ接合部には,水道からの流体圧(水圧)がかかっており,したがって,両フ
ランジ部間の締結具を緩めると,両フランジを離間させる方向に流体圧がかかるこ
とは,引用例1の記載から当業者に明らかであり,引用発明1の考案者も,流体圧
の存在を前提にしていたことを認めている(乙1)。
したがって,引用例1の記載によれば,操作ボルトの先端が水道管側のマウント
の下面に単に当たり接している状態でも,操作ボルトの操作により,両連結フラン
ジ部を遠移動又は近移動させることが可能であり,引用例1の「当接」との文言が
「当接状態を維持する構成」を積極的に含むと解釈すべき事情は存在しない。
(2)また,引用例1の記載のとおり,引用発明1は,セットボルトで筒状本体
と消火栓側のマウントを係合(固定)し,更に,消火栓側のフランジが流水圧を受
けて上方に移動しようとする際,このフランジと筒状本体とが消火栓側のマウント
の係合片を介して係合(固定)される構成であるにすぎない。すなわち,ここにい
う「固定」とは,水道管側からの流水圧を受けて,消火栓側のフランジ及び筒状本
体とが,消火栓側のマウントを介してともに消火栓側に移動し得る関係を意味する
もので,マウントとフランジを直接固定するものと解する必然性はない。
(3)このように,引用発明1の操作ボルトは,流水圧により消火栓側のフラン
ジが持ち上がることを許容する機能を備え,両フランジを流体圧を用いて離間方向
にスライド操作することが可能に構成されているが,両連結フランジ間を強制的に
押し広げる機能を有せず,したがって,本件発明1及び2にいう「隙間形成手段」
には相当しない。
また,引用例1は,引用発明1の操作ボルトと水道管側のマウントの下面の当接
状態を維持する必要性を全く開示していないから,周知例1ないし4記載の各技術
事項を適用するという発想を示唆しない。


11
第4当裁判所の判断
1相違点1?3の認定について
(1)原告は,引用発明1の操作ボルトが消火栓側(上側)のフランジと水道管
側(下側)のフランジを強制的に押し広げるもので,本件発明1の「隙間形成手
段」に当たるから,これを相違点1?3として本件審決の認定は誤りである旨主張
する。
しかしながら,操作ボルトが隙間形成手段であるといえるためには,操作ボル
トを緩めることで増加する流体圧によってフランジが押し広げられるのではなく,
操作ボルトを螺合回動させるだけで,消火栓側のフランジと水道管側のフランジが
強制的に押し広げられる必要があるというべきところ,そのような効果をもたらす
ためには,引用発明1において,?操作ボルトの先端が水道管側のマウントに固定
されていること,?水道管側のマウントと水道管側のフランジとが固定されている
こと,?操作ボルトと螺合した筒状本体と消火栓側のマウントとが固定されている
こと,?消火栓側のマウントと消火栓側のフランジとが固定されていること,以上
の4つの条件を充足し,もって,水道管側のマウント及びフランジが一体となるほ
か,上記螺合回動のみにより,流体圧によらず,消火栓側のマウント及びフランジ
が一体として上方に動く構成である必要がある。
(2)そこで,前記?の条件との関係で引用発明1の操作ボルトの構成をみると,
引用例1の記載によれば,操作ボルトは,水道管側(下側)のマウントに水道管側
から「当接」しているものとされている(引用例1の11頁17行)。
そして,ここにいう「当接」の意義について検討すると,そもそも引用例1に
いう「当接」との文言は,上記部分を除くいずれの用例においても,ある部材と他
の部材とが「当たり接している」状態を表現しているのみであって,上記部分だけ
が原告の主張するような「当接状態の維持」を含むものとは直ちに解されない。か
えって,引用例1では,例えば消火栓側(上側)のフランジを筒状本体にセットボ
ルトで「固定」する(引用例1の11頁14行)など,ある部材と他の部材とが原


12
告の主張するような当接状態を維持する構成である場合には,「当接」とは明確に
異なる文言が使用されていることに照らすと,操作ボルトとマウントとの上記「当
接」が「当接状態の維持」を含むものと解するのは困難である。
次に,原告が主張するように,操作ボルトの先端をマウントに固定しながら操
作ボルトの回動を許容する技術が周知であるとしても,引用発明1の操作ボルトの
先端にそのような技術が採用されているとするならば,引用例1にそれを説明ない
し示唆する記載があってもしかるべきである。しかしながら,引用例1には,図面
を含めてそのような記載は,何ら見当たらず,むしろ,引用例1の各図面は,いず
れも操作ボルトの先端部をごく単純に描写しており,これらの図面から,原告主張
に係るような技術を採用しているものと理解することにはそれ自体無理がある。
さらに,連結フランジ間のパッキンが経年変化で劣化し連結フランジ間が糊で
接着したような固着状態になる場合があることは,引用例1の出願当時(昭和60
年7月8日)の技術常識であったものと認められる(甲26,27)が,そうだと
しても,引用例1には,上記固着状態を前提とした記載がなんら見当たらず,むし
ろ,引用発明1が解決すべき技術課題についても,「水道管への給水を止めること
なく,つまり,不断水の状態で消火栓等の栓を交換する」(引用例1の3頁3?5
行)場合に,「連結が解除されたフランジの挿通用孔の閉塞が不完全であると,水
が噴出するため,確実に止水するには,挿通用孔を水圧に抗して確実に閉塞する」
(引用例1の4頁9?12行)といった記載があるにとどまる。したがって,上記
のとおり,操作ボルトの先端とマウントとの関係が「固定」などではなく,単に
「当接」と表現されていること及び引用例1の記載によっても,操作ボルトの先端
にマウントとの当接状態を維持する技術が採用されているとは理解しがたいことを
併せ考えると,引用例1は,もともと連結フランジ間が固着状態にある場合を想定
しておらず,かえって,専ら連結フランジ間が固着状態になく,上下のフランジが
離れる際に両者の間に流体圧がかかる場合のみを前提として,引用発明1及び2に
ついて記載しているものと認めるのが相当である。


13
そして,そのような前提の下では,上下のフランジを離合しさえすれば流体圧
の存在により消火栓側のフランジは上方に向かってスライドするのが自然であるか
ら,本件審決が,引用例1には「操作ボルトを(下方向に)操作することにより,
筒状本体が上方向に移動することを許容し,消火栓側のフランジが水圧により上方
向に移動し,水道管側のフランジと離間する」趣旨が記載されていると認定したこ
とに誤りはないといわなければならない。
(3)以上によれば,引用発明1の操作ボルトが水道管側(下側)のマウントに
水道管側から「当接」しているとは,単に「当たり接している」状態を表現するの
みであって,「当接状態の維持」を含まず,引用発明1は,前記?の条件を充足し
ないものと認めるのが相当である。したがって,前記?ないし?の各条件について
検討するまでもなく,操作ボルトが本件発明1にいう「隙間形成手段」に相当する
とはいえず,この点を相違点1?3と認定した本件審決に誤りはない。
よって,以上に反する原告の主張は,いずれも採用できない。
2本件発明の進歩性について
(1)前記認定のとおり,連結フランジ間のパッキンが経年変化で劣化し連結フ
ランジ間が糊で接着したような固着状態になる場合があることは,引用例1の出願
当時の技術常識であったである。しかしながら,引用例1は,そのような固着状態
にある場合を想定しておらず,かえって,専ら連結フランジ間が固着状態になく,
上下のフランジが離れる際に両者の間に流体圧がかかる場合を前提としている以上,
引用例1から,操作ボルトの先端部の当接及び当接維持状態で離間固定状態を得る
こと又は得たいとする発明者の意図を把握することはできない。したがって,引用
例1には,上記固着状態にある連結フランジを離間させる隙間形成手段については,
何らの示唆も動機付けもないというべきである。そして,引用例2ないし9にも,
同様の示唆又は動機付けが見当たらない。
したがって,引用発明1を相違点1?3に係る本件発明1の構成とすることは,
引用例2ないし9を参照したとしても,当業者が容易に想到し得るものではない。


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(2)また,本件発明2及び本件発明2と引用発明2との相違点2?3も,本件
発明1と引用発明1との相違点1?3と同様,隙間形成手段の有無が問題となって
いるから,引用発明2についても,その相違点2?3に係る部分を本件発明2の構
成とすることは,引用例2ないし9を参照したとしても,当業者が容易に想到し得
るものではないというほかない。
(3)さらに,本件発明3ないし5は,いずれも本件発明2を引用する発明であ
り,本件発明2が進歩性を有する以上,本件発明3ないし5も,進歩性を有する。
(4)このように,本件発明はいずれも当業者が容易に発明をすることができた
ものということはできないから,本件審決の判断には,何ら誤りはない。
(5)なお,甲26及び27には,いずれも,前記固着状態にある連結フランジ
間に隙間形成手段を差し込むことで,フランジ間の間隔を広げる手段についての技
術が開示されている。
しかしながら,本件発明1の隙間形成手段がフランジ部の外周を密封状態で囲繞
する遮断カバーに取り付けられているものであるのに対し,甲26記載の技術は,
フランジのボルト孔に取り付けるものであり,また,甲27記載の技術も,フラン
ジに取り付けるものであって,いずれも,本件発明1とはその構成を異にしており,
甲26及び27の記載には,本件発明1の構成に関する示唆や動機付けが見当たら
ない。また,前記のとおり,引用例1にも,固着状態にある連結フランジを離間さ
せる隙間形成手段については,何らの示唆も動機付けも見当たらない。
したがって,引用例1と甲26及び27の記載が開示する技術を組み合わせる
ことが当業者に容易であったと認めることはできない。
3結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣


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裁判官 高 部 眞規子
裁判官 井 上 泰 人