関連審決 | 不服2007-20749 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成22行ケ10028審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10377審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10019審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10303審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10257審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 慣用技術 / 上位概念 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 国内優先権 / 技術的意義 / 均等 / 容易に想到(容易想到性) / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
21年
(行ケ)
10397号
審決取消請求事件
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原告株式会社山田製作所 同訴訟代理人弁理士 岩堀邦男大沼加 寿子 被告特 許庁長官 同 指定代理人冨江耕 太郎仁木浩紀本孝豊田純一 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2010/07/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2007-20749号事件について平成21年10月26日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,本願発明の要旨を下記2のとおり認定した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯(1)本件出願(甲3)及び拒絶査定発明の名称:「トロコイドポンプ」出願番号:特願2003-174279号出願日:平成15年6月19日国内優先権主張日:平成14年7月11日拒絶査定:平成19年6月18日付け(甲12)(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成19年7月26日(不服2007-20749号。甲13の1)手続補正日:平成19年8月22日(甲4。以下,同日付け手続補正書による補正を「本件補正」といい,本件補正後の明細書(甲3,4)を,その添付図面を含めて「本願明細書」という。)審決日:平成21年10月26日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成21年11月10日2本願発明の要旨本件審決が対象とした本願発明(本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明)の要旨は,次のとおりである。 トロコイド歯形を有するインナーロータとアウターロータとが相互に噛み合う状態で,インナーロータの各歯先とアウターロータとの間にチップクリアランスが生じるように設定され,且つインナーロータ又はアウターロータの複数の歯先の適宜の一つ又は複数の先端を低く形成した大クリアランスチップが形成されることにより,チップクリアランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大クリアランスを設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となることを特徴とするトロコイドポンプ3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,特開平9-296716号公報(甲1。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び実願昭62-151641号(実開昭64-56589号)のマイクロフィルム(甲2。以下「甲2刊行物」という。)に記載された周知技術(以下「甲2技術」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 (2)なお,本件審決が認定した引用発明並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア引用発明:トロコイド曲線によって形成されたインナロータ12のインナ側歯部10-1,10-2,10-3,10-4,10-5,10-6とアウタロータ6のアウタ側歯部とが噛合う状態で,インナロータ12又はアウタロータ6の複数の歯先部位に部分的に設けた面取り部による連通手段20が形成されることにより,前記歯先部位の少なくとも1箇所は連通手段20を設けて,噛み合うロータの連通手段20は1歯飛びに形成されてなるトロコイド式のオイルポンプ2イ一致点:トロコイド歯形を有するインナーロータとアウターロータとが相互に噛み合う状態で,インナーロータの各歯先とアウターロータとの間にチップクリアランスが生じるように設定され,かつ,インナーロータ又はアウターロータの複数の歯先の適宜の1つ又は複数の先端の少なくとも一部分を低く形成したオイルを連通させるための手段が形成されることにより,チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための手段を設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となるトロコイドポンプウ相違点(ア)相違点1:ロータの歯先の先端の少なくとも一部分を低く形成した態様に関し,本願発明では歯先の先端を低く形成したものであるのに対し,引用発明では面取り部である点(イ)相違点2:チップクリアランス群の少なくとも1箇所のオイルを連通させるための手段の態様に関し,本願発明では大間隔となる大クリアランスを設けてなるのに対し,引用発明では連通手段を設けてなる点4取消事由本件発明の進歩性についての判断の誤り(1)一致点及び相違点の認定の誤り(2)相違点についての判断の誤り第3当事者の主張〔原告の主張〕(1)一致点及び相違点の認定の誤りについてア「先端の少なくとも一部分を低く形成した」について(ア)本件審決は,本願発明と引用発明との対比において,引用発明の「面取り部」も部分的であるが,歯先の先端を低く形成したものといえるとして,引用発明の「複数の歯先部位に部分的に設けた面取り部」と本願発明の「複数の歯先の適宜の一つ又は複数の先端を低く形成した」態様とは,「複数の歯先の適宜の一つ又は複数の先端の少なくとも一部分を低く形成した」との概念で共通するといえると説示した。 (イ)しかしながら,引用発明における「面取り部」の「面取り」とは,「工作物の角(かど)又は隅(すみ)を斜めに削ること」(甲6の1,2)であり,「面取り部」とは,角(かど)又は隅(すみ)以外には存在しない部位であるから,引用発明について,部分的に設けたという限定がなくとも,「面取り部」自体で角又は隅との部分ということになるから,「複数の歯先部位に部分的に設けた面取り部」という概念はあり得ないことになる。 他方,本願発明において,歯先の「先端を低く形成した」のは「大クリアランスチップ」であり,歯厚(歯幅)の全体に対して均一の間隔であり,一部分という概念は一切なく,歯厚(歯幅)の全体である。 (ウ)以上のとおり,本願発明の「大クリアランスチップ」では,歯厚(歯幅)の一部という概念は生じないのに対し,引用発明の「面取り部」からは,歯先の歯厚(歯幅)の全体の概念は生じないものであるから,本願発明と引用発明とが「複数の歯先の適宜の一つ又は複数の先端の少なくとも一部分を低く形成した」との概念で共通するということはできず,本件審決の一致点の認定には誤りがある。 イ「オイルを連通させるための手段」について(ア)本件審決は,引用発明の「連通手段」と本願発明の「大クリアランスチップ」とは「オイルを連通させるための手段」との概念で共通すると説示した。 (イ)引用発明においては,「連通手段」は各歯の隅に形成されていると判断すべきであって(引用例の【0027】【0030】),「面取り部なる連通手段」とは,サイドクリアランス(インナーロータの幅又はアウタロータの幅とハウジングのロータ室深さとの差)においてサイドクリアランス側の歯先部位を大きくしたものであると解することができる。そうすると,引用発明の連通手段箇所への加圧力は,アウタロータ側の上下方向にはプラスマイナスでバランスが取れるが,サイドクリアランス側へは側圧として加わり,インナーロータをハウジングのロータ室の奥深部面に押し付けるような作用となり,これによって,ロータの軸方向への「倒れ」が生じやすくなる。さらに,引用例の【0030】において面取り部以外の連通手段として記載されている段差部,切欠き部,孔部についても,面取り部以外の形状として一般的にインナーロータのサイドクリアランス側箇所を切除等して開口する態様と解することができる。そうすると,引用発明の「連通手段」には,サイドクリアランス側への側圧が加わることになる。 これに対し,本願発明の「大クリアランスチップ」では,チップクリアランス箇所に圧力が加わるが,側圧が加わることがない。 (ウ)以上のとおり,本願発明の「大クリアランスチップ」は,サイドクリアランス側への側圧が加わることがなく,オイルを連通させるための手段であるのに対し,引用発明の「連通手段」は,サイドクリアランス側への側圧が加わりつつ,オイルを連通させるための手段であって,両者は相違しており,本願発明の「大クリアランスチップ」と引用発明の「連通手段」とは,「オイルを連通させるための手段」との単なる上位概念の共通点で判断されるべきものでなく,本件審決の一致点の認定には誤りがある。 ウ「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための手段を設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となる」について(ア)「チップクリアランス」についてトロコイド形オイルポンプロータにおいて,「チップクリアランス」とは,アウターロータの山部とインナーロータの山頂部との間の隙間であって,隙間としての「チップクリアランス」は0.15mm 以下とされるから,円滑に回転するためにロータの歯先にこのチップクリアランスを設けるにおいて,アウターロータとインナーロータの各ロータの歯先を0.15mm 以下の2分の1である約0.08mm 以下ずつ削ることになると解することができる(甲7)。本願発明の「チップクリアランス」とは,インナーロータとアウターロータとを組み合わせた時に円滑に回転するための隙間であって,その隙間で円滑に回転させつつ,オイルの流通がないようにしたというオイルポンプの構成部である。 これに対し,引用発明における「連通手段」は,ポンプ室が吸込側あるいは吐出側のいずれか一方の隣接するポンプ室に連通させるものであり(引用例の【0021】),「連通手段」の存在によって,オイルを流通させるというオイルポンプの構成部である。 以上のとおり,本願発明における「チップクリアランス」と引用発明における「連通手段」とは,オイルを流通させるか否かという点において共通概念は生じず,両者は対比されるべきものではない。 (イ)「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させる」について本件審決は,引用発明の「歯先部位の少なくとも1箇所は連通手段20を設けて,噛み合うロータの連通手段20は1歯飛びに形成されてなる」態様と,本願発明の「チップクリアランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大クリアランスを設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となる」態様とは,「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための手段を設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となる」との概念で共通すると説示した。 しかしながら,引用発明の「歯先部位の少なくとも1箇所は連通手段20を設けて,噛み合うロータの連通手段20は1歯飛びに形成されてなる」と認定された態様では,連通手段は1歯飛びという態様であるので,少なくとも2箇所は連通手段が存在することになるから,「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための手段を設けて」との概念で,本願発明と引用発明とが共通するとすることはできない。 (ウ)チップクリアンスの不均等について本願発明では,「チップクリアランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大クリアランスを設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となる」ようにした。そして,このような構造を採ることによって,大クリアランスの部分では,インナーロータとアウターロータとの歯先同士が非接触となる部分が存在し,インナーロータとアウターロータ同士の相互に保持されない不安定さを生じる状態となり,ロータの大クリアランスにおいてアウターロータが揺動しやすくなり,アウターロータが径方向に移動し,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となって,ポンプの油圧脈動の規則性を乱し,脈動を低減することができることになるものである。そして,本願明細書の【0027】及び図7の記載に技術常識を加味することや,【0021】ないし【0023】【0025】【0026】及び図8ないし10の脈動についてのグラフによると,本願明細書には,アウターロータが径方向に移動することが間接的に記載されているということができる。 これに対し,引用発明では,「連通手段」又は「面取り部」の有無に関係なく,トロコイド式のオイルポンプの技術常識としての「チップクリアランス」が存在し(甲7),この「チップクリアランス」は,あくまでも均等である。そして,このように均等に設けられているのは,円滑に回転する時のためにあり,その隙間に潤滑油としての油膜が入る余地はあるが,オイルの流通がないようにしたのが「チップクリアランス」である。そうすると,引用発明のインナーロータに「面取り部」や「連通手段」が存在しても,チップクリアランスは,すべての歯において均等であり,微小隙間であるため,インナーロータが回転しても,アウターロータには本願発明のような径方向の移動量は生じない。 以上のとおり,本願発明において「チップクリアランスは不均等」であるのに対し,引用発明において「チップクリアランスは均等」である。本願発明は,噛み合うロータのチップクリアランスの大きさを不均等にすることで,オイルポンプの効率を低下させることなく,脈動を低減することができるものであって,この重要な構成である「不均等である」ことを看過した本件審決の一致点の認定には誤りがある。 エ相違点の認定の誤りについて本件審決は,前記第2の3(2)ウ(ア)のとおりの相違点1を認定したが,前記アのとおり,「ロータの歯先の『先端の少なくとも一部分』を低く形成した態様」は,そもそも一致点とはならないので,これを一致点とすることを前提としている本件審決の相違点1そのものの認定に誤りがあることになる。 また,本件審決は,前記第2の3(2)ウ(イ)のとおりの相違点2を認定したが,チップクリアランス群の少なくとも1箇所の「オイルを連通させるための手段」の態様は,前記イ及びウのとおり,そもそも一致点ではあり得ないので,これを一致点とすることを前提としている本件審決の相違点2そのものの認定に誤りがある。 オ小括以上のとおり,本件審決の一致点及び相違点の認定には誤りがあることになる。 (2)相違点についての判断の誤りについてア周知技術の認定の誤りについて本件審決は,甲2刊行物の第4図のスキマS2及び明細書記載の「スキマS2は,上記歯面3aが従来のトロコイド曲線である場合より大きくなり,吐出側から空間側5に流体が容易に流入される」を根拠にして,歯先を部分的ではなく歯先の軸方向全体を成形してオイルを連通するための手段を設ける点が周知慣用技術であると認定した。 しかしながら,甲2刊行物の明細書には,「各歯3の歯形は第1図に示すようになっていて,回転方向後側の歯面3aは半径R1の1点を中心とする単純な円弧面となっており,かつその高さは鎖線で示したトロコイド歯面よりわずかに,例えば最大0.3mm 程度低くなっている。」と記載されており,甲2技術は,各歯の先端の高さ位置の歯先に関するものでなく,かつ,全歯に均等に設けられた構成とされているものである。 また,甲2刊行物に「歯先を部分的ではなく歯先の軸方向全体を成形してオイルを連通するための手段を設けた技術は開示されている」としても,依然として,全歯にチップクリアランスが存在しているものであって,本願発明が,チップクリアランスをなくすこととし,歯先の先端に「大クリアランスチップ」を形成して「大クリアランス」を形成したものとは相違する。 さらに,被告が周知慣用技術であると主張する特開平7-253083号公報(甲5。以下「甲5公報」という。)に記載された技術は,個々の歯の歯丈を低歯にするものであって,歯先の先端を減少させるものではなく,歯先の先端部分の形状を形成する技術ではない。また,甲5公報には,「チップクリアランス」に換えての「大クリアランスチップ」を形成すること,「大クリアランス」と「チップクリアランス」とが不均等となって構成されていることは開示されていない。 さらに,被告が周知慣用技術であると主張する特開昭64-32083号公報(乙2。以下「乙2公報」という。)に記載された技術(以下「乙2技術」という。)は,インナーロータの内歯に,低い歯先と通常の歯先が存在するものであるが,「低い歯先」及び「通常歯先(チップクリアランス)」の両方が全歯に均等に併存形成されており,各歯箇所で「低い歯先」と「通常歯先(チップクリアランス)」が併存せず,かつ,「通常歯先(チップクリアランス)」に換えて「低い歯先」が存在するような技術ではない。 したがって,各歯において少なくとも1箇所の歯の歯先を他の歯の歯先より低く形成して大クリアランスを設けることは,周知慣用技術ではない。 イ本願発明の「大クリアランスチップ」と引用発明の「連通手段」との関係について(ア)前記(1)のとおり,本願発明の「大クリアランスチップ」は,サイドクリアランス側への側圧が加わることがなく,オイルを連通させるための手段であるのに対し,引用発明の「連通手段」は,サイドクリアランス側への側圧が加わりつつ,オイルを連通させるための手段であって,両者は相違している。 そして,「オイルを連通させるための手段」との単なる上位概念の共通点をもって判断はされるべきでない。 (イ)引用発明では,側面部においても連通手段を形成するものであるため,ロータの軸方向に対しての「倒れ」が連通手段を有する歯部で発生することになり,サイドクリアランスが大きくなって,オイルポンプの効率を低下させることになる可能性が大きい。また,そのような連通手段であるため,各歯部の連通手段の大きさを各々異ならせ,いわゆる不均等にした場合,ロータの軸方向の「倒れ」が大小波打つように不安定となり,オイルポンプの効率を低下させるだけでなく,騒音を発生させるおそれがある。 ウ小括本願発明は,噛み合うロータのチップクリアランスの大きさを各々不均等にしても,ロータの軸方向の「倒れ」が発生することなく,オイルポンプの効率を低下させることなく,脈動を低減することができるものであり,引用発明では期待できない特有な効果を奏するものであって,引用発明に周知技術を適用したとしても,当業者が容易に発明をすることができないものである。 〔被告の主張〕(1)一致点及び相違点の認定の誤りについてア「先端の少なくとも一部分を低く形成した」について引用例の【0001】【0021】【0030】によると,引用発明の「面取り部」は,トロコイド曲線によって形成されたインナーロータ又はアウターロータの歯先部位に,1歯飛びに形成されており,この「面取り部」によって構成される「連通手段」は,ポンプ室内の圧力変動を緩和させるとともに,オイルポンプの効率の低下を抑制することを目的とし,隣接する2つのポンプ室を連通させるという作用効果を奏するものである。 そして,この「面取り部」は,歯厚方向の一部分に形成したものであるが,その形成部位は歯の先端部位であり,この形成部位においてロータの噛み合い間に形成される空隙同士を連通させてオイルの流通を可能にするのであるから,たとい歯厚全体ではなく歯厚の一部分ではあっても,オイルを連通させるために歯先の先端を低く形成したものであるということができる。 そうすると,引用例の「面取り部」と本願発明の「大クリアランスチップ」とを対比した場合,歯先の先端の歯厚の一部分を低くしたのか,歯先の先端の歯厚全体を低くしたのかの違いはあるものの,両者は,歯先の先端を低く形成した点においては一致しており,引用発明の面取り部と,本願発明の大クリアランスチップとは,「歯先の先端の少なくとも一部分を低く形成した」との概念で共通するといえる。 なお,ここでいう「少なくとも一部分」とは,「一部分」だけでなく「全部」の場合も含んでおり,歯先において,先端を低く形成したオイルを連通させるための手段が形成される部分を,上位概念で表したものである。 イ「オイルを連通させるための手段」について本願明細書の【0001】【0007】【0012】ないし【0015】によると,本願発明の「大クリアランスチップ」によって構成される「大クリアランス」は,隣接する空隙同士を連通させるものであり,また,上記アのとおり,引用発明の「面取り部」によって構成される「連通手段」は,隣接する2つのポンプ室を連通させるものであって,いずれも歯先を低く形成した部分でオイルを連通させることにおいては一致している。したがって,引用発明の「面取り部」による「連通手段」と,本願発明の「大クリアランスチップ」とは,「オイルを連通させるための手段」との概念で共通する。 ウ「チップクリアランス群の少なくとも 1 箇所はオイルを連通させるための手段を設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となる」について(ア)「チップクリアランス」について本願発明は,1つ又は複数の歯先に「大クリアランスチップ」が形成されることによって「大クリアランス」が構成され,「チップクリアランス」が不均等となる。 ここでいう「不均等」とは,通常のチップクリアランスの中に大クリアランスが設定されて,大クリアランスのところと,そうでないところが存在することを意味していると解される。そして,「大クリアランス」は,圧力流体の脈動を低減させるとともにポンプ効率を一定の水準に維持することを目的とし,隣接する空隙同士を連通させるという作用効果を奏するものであるから,「オイルを連通させるための手段」ということができる。 他方,引用発明においては,歯先部位に,1歯飛びに歯厚方向の一部分を低くした「面取り部」が形成されることによって,「連通手段」も1歯飛びに構成されることになる。面取り部が形成されない歯先には,通常のチップクリアランスが設定されるから,チップクリアランスの中に,連通手段が構成されるところとそうでないところが存在することとなり,その意味で,チップクリアランスは「不均等」となっている。そして,「連通手段」は,ポンプ室内の圧力変動を緩和させるとともにオイルポンプの効率の低下を抑制することを目的とし,隣接する2つのポンプ室を連通させるという作用効果を奏するものであるから,「オイルを連通させるための手段」ということができる。 本件審決は,引用発明の複数の歯先部位の中の「連通手段」と,本願発明のチップクリアランス群中の「大間隔となる大クリアランス」とを対比し,「チップクリアランス」を有する複数の歯先の中に,オイルを連通させるための手段を設けたものが存在することを一致点として認定したものであって,本件審決の認定に誤りはない。 (イ)「チップクリアランス群の少なくとも 1 箇所はオイルを連通させる」について原告は,引用発明の「連通手段」は少なくとも2箇所は存在することになるから,本願発明の「チップクリアランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大クリアランスを設けて」との概念とは相違すると主張する。しかしながら,引用発明の「連通手段」の形成箇所が2箇所以上であるとしても,「2箇所以上」とは「少なくとも1箇所」の概念に該当するということができ,一致点として「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための手段を設け」ていることとした本件審決の認定に誤りはない。 また,仮に,上記の一致点の認定に正確さを欠く部分があるとしても,本願発明において「大クリアランスチップ」を1つ又は複数形成することと,引用発明において「面取り部」からなる「連通手段」を1歯飛びに形成することの目的及び作用効果は同様であって,本願発明の「大クリアランスチップ」の形成箇所が1つであることを含むことに格別の技術的意義は見いだせないから,両者は実質的に一致するものということができる。 (ウ)チップクリアランスの不均等について上記のとおり,引用発明は歯先部位に1歯飛びに設定された面取り部が形成されることによって,チップクリアランスの中に,連通手段が構成されるところとそうでないところが存在することとなり,その意味で,チップクリアランスが「不均等」となるとしているものであって,このように認定判断した本件審決に誤りはない。 エ相違点の認定の誤りについて前記アないしウのとおり,本願発明と引用発明との一致点の認定に誤りがないから,一致点の認定の誤りを前提として,相違点1及び2の認定の誤りをいう原告の主張は理由がない。 オ小括以上のとおり,本件審決の一致点及び相違点の認定に誤りはない。 (2)相違点についての判断の誤りについてア周知技術の認定の誤りについて相違点1及び2は,本願発明の「大クリアランスチップ」が,歯先における歯厚全体にわたって等間隔の隙間として形成されてオイルを連通させる「大クリアランス」を構成しているのに対し,引用発明の「面取り部」は,歯先における歯厚方向の隅に部分的に形成されてオイルを連通させる「連通手段」を構成していることによるものである。 しかるところ,甲2刊行物,甲5公報及び乙2公報には,トロコイドポンプにおいて,インナーロータの歯とアウターロータの歯との間に形成されるオイルを連通させる隙間が,歯厚全体にわたって形成されていることがみられ,オイルを連通させるための隙間を歯厚全体にわたって等間隔に形成することは周知慣用技術ということができ,本件審決の周知慣用技術の認定に誤りはない。 原告は,甲2刊行物,甲5公報及び乙2公報には,「チップクリアランス」に換えて「大クリアランスチップ」を形成し,「大クリアランス」と「チップクリアランス」とが不均等となる構成が記載されていないと主張するが,本件審決は,周知慣用技術として,原告主張に係る技術を甲2刊行物,甲5公報及び乙2公報から抽出しているものではない。 イ本願発明の「大クリアランスチップ」と引用発明の「連通手段」との関係について原告は,引用発明の「連通手段」には倒れが発生するという課題について主張するが,倒れが発生するという課題を解決することは,本願明細書には記載されておらず,しかも,引用発明に上記周知慣用技術を採用したものにおいても倒れが発生するという課題を解決できることは,当業者にとって自明であって,この課題を解決することは格別のものではない。 ウ小括したがって,相違点1及び2についての本件審決の判断に誤りはない。 第4当裁判所の判断1一致点及び相違点の認定の誤りについて(1)引用発明の内容ア引用例の発明の詳細な説明には,オイルポンプケースに複数の歯数を有するアウターロータとこのアウターロータよりも1枚少ない歯数を有するインナーロータとを収容し,アウターロータとインナーロータとによって形成されるポンプ室に連通する吸込ポートと吐出ポートとをそれぞれ設けたトロコイドオイルポンプにおいて,アウターロータとインナーロータとの偶数の歯数を有するいずれか一方のロータの歯先部位に,ポンプ室が吸込側あるいは吐出側のいずれか一方の隣接するポンプ室に連通するように1歯飛びに連通手段を設けたことを特徴とし(【0013】),偶数の歯数を有するインナーロータの歯先部位に,1歯飛びに,隣接するポンプ室との連通手段となる面取り部を設けることとすること(【0021】),このようにして2つのポンプ室を連通させることにより,オイルポンプの駆動時に,ポンプ室内の急激な圧力変動を緩和し,キャビテーション(空洞現象)や液体ハンマを防止することができるようになること(【0026】【0031】),また,アウターロータが偶数の歯数を有する場合には,アウターロータの歯先部位に1歯飛びに面取り部を設けることができ,さらに,面取り部を設ける方法以外にも,段差部や切欠き部,孔部等を連通手段として使用することも可能であること(【0030】)との記載がある。 イ以上の記載によると,引用発明は,トロコイドポンプにおいて,偶数の歯数を有するインナーロータ又はアウターロータの歯の先端部分に,1歯飛びに,歯先のうちの角部分に面取り部を設けることによって,隣接するポンプ室とのオイルの連通手段を設けた構成のものであって(なお,引用例の発明の詳細な説明の【0021】では,インナーロータの歯先部分に面取り部を設けると記載されているが,図1に基づく説明であって,面取り部を設けるのがインナーロータに限定されるわけではない。),このようにして2つのポンプ室を連通させることにより,オイルポンプの駆動時に,ポンプ室内の急激な圧力変動を緩和し,キャビテーションや液体ハンマを防止するとの課題を解決しようとするものであると認められる。 (2)「先端の少なくとも一部分を低く形成した」についてア上記(1)によると,引用発明は,インナーロータ又はアウターロータの1歯飛びの歯先部分の角部分に面取り部を設けたものであって,「面取り部」を設けることは,歯先の先端の角部分を低くすることであり,歯厚の一部分を低くすることになり,歯の先端を部分的に低く形成した形状ということができるから,「先端の少なくとも一部分を低く形成した」構成を有するものということができる。 なお,引用例の発明の詳細な説明の【0030】には,「前記面取り部以外にも,ポンプ室を吸込側あるいは吐出側のいずれか一方の隣接するポンプ室に連通させる構成のものであれば良く,段差部や切欠き部,孔部等を連通手段として使用することも可能である。」との記載があり,面取り部以外にも,段差部,切欠き部,孔部を連通手段とすることが記載されているから,このような場合には,引用発明が「先端の少なくとも一部分を低く形成した」構成を有することがより明らかである。 イ他方,本願発明は,前記第2の2のとおりのものであって,「インナーロータ又はアウターロータの複数の歯先の適宜の一つ又は複数の先端を低く形成した大クリアランスチップが形成される」ものであるところ,本願明細書の発明の詳細な説明には,「トロコイド歯形を有するインナーロータとアウターロータとが相互に噛み合う状態で,インナーロータの各歯先とアウターロータとの間にチップクリアランスが生じるように設定され,且つインナーロータ又はアウターロータの複数の歯先の適宜の一つ又は複数の先端を低く形成した大クリアランスチップが形成されることにより,前記チップクリアランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大クリアランスを設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となることを特徴とするトロコイドポンプ」(【0008】)との記載があり,また,その図面1及び2によると,大クリアランス部は全幅に至って形成されていることが図示されている。 以上によると,本願発明の大クリアランス部については,歯先の全幅において先端を低く形成したものと認めることができる。 ウ本件審決は,本願発明と引用発明との対比の一致点の認定において,歯先の「先端の少なくとも一部分を低く形成した」ことを認定するところ,引用発明は,前記面取り等によって,この構成を有するものである。 他方,本願発明については,常に先端の歯厚全体(全幅)が低く形成されているものであるから,「先端を低く形成した」構成と認定する方が,本件審決のように「先端の少なくとも一部分を低く形成した」構成と認定するよりか,本願発明それ自体の特徴をより正確にとらえるものということができるが,「少なくとも一部分」との用語の意味としては,「一部分」だけでなく「全部」をも含むものであり,また,本願発明においては,歯先の先端の全部が,引用発明においては,その一部が低く形成されていることがオイルを連通させるための手段として共通点を有するものであることに着目して対比しようとする場合の表現として,本件審決が本願発明と引用発明との一致点として,歯先の「先端の少なくとも一部分を低く形成した」との範囲で共通すると認定したことには十分に意味があり,この範囲での一致点の認定を誤りということはできない。 (3)「オイルを連通させるための手段」についてア前記(1)によると,引用発明は,トロコイドポンプにおいて,偶数の歯数を有するインナーロータ又はアウターロータの歯の先端部分に,1歯飛びに,歯先のうちの角部分に面取り部を設け,隣接するポンプ室との連通手段を設けた構成とし,このようにして2つのポンプ室を連通させるものである。 イ他方,本願発明は,前記第2の2のとおりのものであって,「チップクリアランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大クリアランスを設け」たものである。 以上によると,本願発明は,インナーロータの各歯先とアウターロータとの間の各チップクリアランスのうちの少なくとも1箇所に大クリアランス部を設け,ロータの噛み合い間に形成される空間容積を連通させ,流体の流通が可能とするものであって,大クリアランス部がオイルを流通させるための手段として形成されたものであることが認められる。 ウ本件審決は,本願発明と引用発明との対比における一致点の認定において,歯先の先端の少なくとも一部分を低く形成した「オイルを連通させるための手段」が形成されていることを認定するところ,上記ア及びイによると,引用発明及び本願発明のいずれも,この構成を有するものということができる。 エなお,原告は,本願発明の「大クリアランスチップ」は,サイドクリアランス側への側圧が加わることがなく,オイルを連通させるための手段であるのに対し,引用発明の「連通手段」は,サイドクリアランス側への側圧が加わりつつ,オイルを連通させるための手段であって,両者は相違しており,本願発明の「大クリアランスチップ」と引用発明の「連通手段」とは,「オイルを連通させるための手段」との上位概念の共通点で判断されるべきではないと主張する。 しかしながら,原告は,サイドクリアランス側への側圧の有無という点で,引用発明と本願発明とは相違すると主張するが,引用例の明細書及び本願明細書のいずれもサイドクリアランス側への側圧の有無という点について述べるものではなく,サイドクリアランス側への側圧の有無をもって相違点を述べる原告の主張は理由がない。 (4)「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための手段を設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となる」についてアトロコイド形オイルポンプにおける「チップクリアランス」とは,インナーロータとアウターロータとを組み合せた状態でのインナーロータの山頂部とアウターロータの山部との隙間であり,その寸法は0.15mm 以下とされ,また,トロコイド形オイルポンプにおいては,インナーロータとアウターロータとを組み合せた時に円滑に回転することが求められており(甲7),このチップクリアランスについては,インナーロータとアウターロータとを組み合わせた時に円滑に回転するための隙間であって,その隙間で円滑に回転させつつ,オイルの流通がないようにしたものと解することができる。 イ前記(1)によると,引用発明は,トロコイドポンプにおいて,インナーロータ又はアウターロータの歯の先端部分に,1歯飛びに,歯先のうちの角部分に面取り部を設けることによって,隣接するポンプ室とのオイルの連通手段を設けた構成のものであるから,面取り部が形成されない歯先には,通常のチップクリアランスのみが設定されているということになる。そうすると,引用発明においては,1歯飛びに面取り部が設けられた歯先には連通手段が形成され,面取り部が設けられない歯先には連通手段が形成されないことになるから,その意味で,「チップクリアランスは不均等になる」との構成を有することになる。 ウ他方,本願発明は,前記第2の2のとおりのものであり,「インナーロータ又はアウターロータの複数の歯先の適宜の一つ又は複数の先端を低く形成した大クリアランスチップが形成されることにより,チップクリアランス群の少なくとも1箇所は大間隔となる大クリアランスを設けて,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となる」ものであって,上記アのとおりのオイルの流通がない通常のチップクリアランスうちの複数の歯先の適宜の1つ又は複数について,オイルを連通させるための手段である大クリアランスを設定したものである。 エ以上によれば,引用発明及び本願発明のいずれも,歯先のチップクリアランスにおいて,オイルを連通させる手段を有するものとこれを有さないものとを有するものであって,チップクリアランス群において,「オイルを連通させるための手段を設けて,チップクリアランスは不均等となる」との構成を有することは明らかである。 オ原告は,引用発明においては,連通手段は1歯飛びとの態様であるので,少なくとも2箇所は連通手段が存在することになるから,本願発明と引用発明とが「チップクリアランス群の少なくとも1箇所はオイルを連通させるための手段を設けて」との概念で共通するということはできないと主張する。 この点については,前記(1)のとおり,引用発明は,偶数の歯数を有するインナーロータ又はアウターローラの歯の先端部分に,1歯飛びに,歯先のうちの角部分に面取り部を設けることによって,隣接するポンプ室とのオイルの連通手段を設けた構成のものであって,少なくとも2箇所は連通手段が存在することになるから,引用発明について限れば,少なくとも2箇所の連通手段があると認定する方が,本件審決のように「少なくとも1箇所につきオイルを連通させるための手段を設けて」との構成と認定するよりか,引用発明の特徴をより正確にとらえるものということができるが,チップクリアランス群の「少なくとも1箇所」につきオイルを連通させるための手段を設けてとの用語の意味としては,2箇所以上の連通手段が存在することをも含むものであり,また,本願発明においては,大クリアランスチップにより少なくとも1箇所の連通手段が,引用発明においては,面取り部によって2箇所以上の連通手段が設けられていることがオイルを連通させるための手段として共通点を有するものであることに着目して対比しようとする場合の表現として,本件審決が本願発明と引用発明との一致点として,「少なくとも1箇所につきオイルを連通させるための手段を設けて」との範囲で共通すると認定することには十分に意味があり,この範囲での一致点の認定を誤りということはできない。 なお,原告は,本願発明では,ロータの大クリアランスにおいてアウターロータが揺動しやすくなり,アウターロータが径方向に移動し,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となって,ポンプの油圧脈動の規則性を乱し,脈動を低減することができることになるのに対し,引用発明では,アウターロータに本願発明のような径方向の移動量は生じないとし,本願発明において「チップクリアランスは不均等」であるのに対し,引用発明において「チップクリアランスは均等」であると主張する。 しかしながら,本願明細書において,ロータの大クリアランスによってアウターロータが径方向に移動し,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となって,ポンプの油圧脈動の規則性を乱し,脈動を低減することができるとの記載はなく,そのことが間接的に記載されていると原告が主張する本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載についても,大クリアランスを設けたことによって騒音が低減されることなどを記載するものにすぎず,アウターロータが径方向に移動することを記載又は示唆するものではない。本願明細書の発明の詳細な説明にも,本願発明について,ロータの大クリアランスによってアウターロータが径方向に移動し,噛み合うロータのチップクリアランスは不均等となって,ポンプの油圧脈動の規則性を乱し,脈動を低減することができることをもって「チップクリアランスは不均等」であると理解し得るような記載はない。 他方,引用発明についてみるに,前記(1)のとおり,トロコイドポンプにおいて,偶数の歯数を有するインナーロータ又はアウターロータの歯の先端部分に,隣接するポンプ室とのオイルの連通手段を設ける構成とするため,1歯飛びに,歯先のうちの角部分に面取り部を設けることによって,チップクリアランスを不均等としたものであって,本願発明と同じく連通手段とするための「チップクリアランスが不均等」との構成が採られているものということができるから,原告の主張は採用することができない。 (5)相違点の認定の誤りについて原告は,「ロータの歯先の『先端の少なくとも一部分』を低く形成した態様」が一致点とならないから,これを一致点とすることを前提とする本件審決の相違点1の認定は誤っていると主張するが,前記(2)のとおり,本件審決の一致点の認定に誤りはないから,原告の主張は採用することができない。 また,原告は,チップクリアランス群の少なくとも1箇所の「オイルを連通させるための手段」の態様は,そもそも一致点ではあり得ないので,これを一致点とすることを前提とする本件審決の相違点2の認定は誤っていると主張するが,前記(3)及び(4)のとおり,本件審決の一致点の認定に誤りはないから,原告の主張は採用することができない。 (6)小括以上によると,本件審決の一致点及び相違点の認定に誤りがあるということはできない。 2相違点についての判断の誤りについて(1)甲2技術の内容ア甲2刊行物の明細書の記載によると,?内燃期間の潤滑油ポンプ等に用いられるトロコイドポンプの歯形について,従来技術として,アウターロータとインナーロータとの噛合部の両歯間の隙間で閉じ込みが生じ,この部分で騒音が発生するという問題があったこと,?また,従来技術として,両ロータのそれぞれの2歯間で構成される空間部の吐出側と吸入側のそれぞれの歯先間の隙間が略同じであったため,この空間部への流体の流出入が急激に行われ,騒音が発生するとともに,容積効率に悪影響を与えていたこと,?このような問題を解決するため,インナーロータの各歯の駆動回転方向後側面を,1点を中心とする単純な円弧とするとともに,この部分の高さをトロコイド曲線による歯形より低くした構成とし,両ロータの噛合部での駆動回転方向後側では両ロータの歯の接触部から後側へ徐々に大きくなり,かつ,空間部に連通する隙間ができ,また,両ロータのそれぞれの2歯間での空間部での対向する両歯の対向部では,吐出側の歯先間の隙間が大きく,吸入側の歯先間の隙間が小さくなること,?このような構成を採ることによって,インナーロータとアウターロータとの噛合部での流体の閉じ込みがなくなり,この部分での噛合ごとの圧力急上昇がなくなり,騒音の発生をなくすることができ,また,両ロータのそれぞれの2点間での空間部の閉じ込みにおいては,インナーロータの駆動方向後側面の歯面が低いことにより,吐出側の歯先間の隙間は広く,吸入側の歯先間の隙間は狭くなることによって,閉じ込み部への油の流出入が容易となり,流体の脈動が小さくなって騒音が小さくなることが記載されている。 イ以上によると,甲2技術として,歯先の歯厚全体(全幅)にわたって等間隔に歯形を低くし,オイルを連通するための手段を設けることによって,流体の脈動が小さくなって騒音が小さくなることが認められる。 (2)乙2技術の内容ア乙2公報には,トロコイド式オイルポンプにおいて,インナーロータとアウターロータの歯間に独立形成された空間部に潤滑油が閉じ込められてポンプ脈動が大きくなり,ポンプケーシングの共振音を誘発することを防ぐため,アウターロータの内歯形状を従来の一般的なトロコイド式オイルポンプと同様に単一曲線のみで形成する一方,インナーロータの外歯の回転方向と反対側の歯側面を全幅にわたって一部削除する形で複数の曲線により形成することとし,回転時におけるインナーロータとアウターロータとの内外歯を吸入口側では接触状態に配置する一方,吐出口側では非接触状態とすることによって,吐出口側の潤滑油の閉じ込みが防止され,ポンプの駆動によるポンプケーシングの共振音を十分に低減できることが記載されている。 イ以上によると,乙2公報には,トロコイドポンプにおいて,騒音を低減するために,内外のロータの一方の歯の一部について,歯厚全体(全幅)にわたって等間隔に低くし,連通手段を形成することによって,騒音を低減する技術が記載されていることが認められる。 (3)周知技術の存在上記(1)及び(2)によると,本件出願の時点において,トロコイドポンプについて,騒音の低減のためにロータの歯先を歯厚全体(全幅)にわたって等間隔に低くし,オイルの連通部分を設けることは周知技術であったと認めることができる。 (4)相違点1及び2の容易想到性相違点1及び2については,本願発明の「大クリアランスチップ」が,歯先における歯厚全体にわたって等間隔の隙間として形成されてオイルを連通させる「連通手段」を構成しているのに対し,引用発明の「面取り部」は,歯先における歯厚方向の隅に部分的に形成されてオイルを連通させる「連通手段」を構成しているものであるところ,これらの構成は,いずれも騒音低減という課題を,隣接するポンプ室間を連通させることにより解決するためのものである。 そして,引用発明に,引用発明と同一のトロコイドポンプの技術分野に属し,騒音を軽減するとの課題を共通するものである上記(3)のとおりのロータの歯先を歯厚全体(全幅)にわたって等間隔に低くし,オイルの連通部分を設けるとの周知技術を適用することは当業者において容易想到ということができる。 なお,前記1(4)オのとおり,本願発明では大クリアランスは少なくとも1箇所設けるものであるのに対し,引用発明では連通手段を少なくとも2箇所設けることになるものであるが,これは,引用発明についてはその構成上必然的に連通部分を2箇所設けることにならざるを得ないことになるものにすぎず,トロコイドポンプのロータの少なくとも1箇所の歯先の一部分に連通手段となる部分を設け,これをもって騒音の低減を図るとする作用を奏するために,引用発明において連通手段を2箇所設けることが必要とされているものではなく,また,本願発明の大クリアランスチップの形成箇所が1つであることを含むことに格別の技術的意義を見いだすこともできないから,引用発明において連通手段が少なくとも2箇所であることをもって,相違点1及び2に係る容易想到性が認められないことになるものではない。 (5)原告の主張について原告は,甲2及び乙2技術において,各歯において少なくとも1箇所の歯の歯先を他の歯の歯先より低く形成して大クリアランスを設けることは,周知慣用技術ではないと主張するが,本件審決は,甲2及び乙2技術として,トロコイドポンプにおいて,インナーロータの歯とアウターロータの歯との間に形成されるオイルを連通させる隙間が,歯厚全体にわたって形成されていることをみて,オイルを連通させるための隙間を歯厚全体にわたって等間隔に形成することが周知技術であるとしているものにすぎないから,原告の主張は失当である。 また,原告は,引用発明では,側面部においても連通手段を形成するものであるため,ロータの軸方向に対しての「倒れ」が連通手段を有する歯部で発生することになり,サイドクリアランスが大きくなって,オイルポンプの効率を低下させることになる可能性が大きいとして,本願発明との相違を主張する。しかしながら,ロータの軸方向に対しての倒れの有無ということは,本願明細書及び引用例の明細書のいずれにも記載のないこと,また,引用例の記載によると,「前記面取り部以外にも,ポンプ室を吸込側あるいは吐出側のいずれか一方の隣接するポンプ室に連通させる構成のものであれば良く,段差部や切欠き部,孔部等を連通手段として使用することも可能である。」(【0030】)とされており,引用発明は,側面部でオイルを流通させるものに限定されていないものであること,さらに,引用発明にオイルを連通させるための隙間を歯厚全体にわたって等間隔に形成するとの上記の周知技術を適用すると,原告主張のローターの軸方向に対して倒れが発生するという問題も解決できるものであることからすると,原告の主張は採用することができない。 3結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 滝澤孝臣 |
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裁判官 | 本多知成 |
裁判官 | 荒井章光 |