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事件 平成 21年 (ワ) 5988号 求償金等請求事件
神奈川県平塚市<以下略>
原告X 北海道千歳市<以下略>
原告ヤ ングブレイン株式会社
原告ら訴訟代理人弁護士西島幸延 東京都千代田区<以下略>
被告ヤング株式会社 静岡県熱海市<以下略>
被告Y1 静岡県熱海市<以下略>
被告Y2 東京都新宿区<以下略>
被告Y3
被告ら訴訟代理人弁護士西田研志
同訴訟復代理人弁護士太田真也 川瀬裕之 大隅愛友 奥條晴雄 浅田大
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/07/02
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告ヤング株式会社及び被告Y1は,原告Xに対し,各自3805万8029円及びこれに対する平成21年3月30日から支払済みまで年5分の割- 2 -合による金員を支払え。
2被告ヤング株式会社は,原告Xに対し,別紙商標目録記載1,2の商標権について,平成19年12月28日の譲渡契約を原因とする移転登録手続をせよ。
3被告ヤング株式会社は,原告らに対し,原告X又は原告ヤングブレイン株式会社が別紙物件目録記載の建物を不法に占有し,別紙製品目録記載の製品を違法に製造,販売しているとの事実を告知し,又は流布してはならない。
4被告ヤング株式会社及び被告Y1は,原告Xに対し,各自110万円及びこれに対する平成21年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5被告ヤング株式会社及び被告Y1は,原告ヤングブレイン株式会社に対し,各自275万円及びこれに対する平成21年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6原告らの被告ヤング株式会社及び被告Y1に対するその余の請求並びに原告らの被告Y2及び被告Y3に対する請求をいずれも棄却する。
7訴訟費用は,原告らと被告ヤング株式会社及び被告Y1との間においては,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告ヤング株式会社及び被告Y1の負担とし,原告らと被告Y2及び被告Y3との間においては,これを全部原告らの負担とする。
8この判決の第1,第3ないし第5項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求1被告らは,原告Xに対し,各自7617万9729円及びこれに対する平成21年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2主文第2項と同趣旨3被告ヤング株式会社は,原告らに対し,別紙製品目録記載の製品を製造,販売,頒布してはならない。
4主文第3項と同趣旨5被告ヤング株式会社は,原告らに対し,朝日新聞,読売新聞,毎日新聞,日本経済新聞,産経新聞及び北海道新聞の各朝刊全国版の社会面広告欄に,別紙謝罪広告目録記載1の広告文を,同目録記載2の条件で,各1回ずつ掲載せよ。
6被告らは,原告Xに対し,各自220万円及びこれに対する平成21年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7被告らは,原告ヤングブレイン株式会社に対し,各自550万円及びこれに対する平成21年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要1本件は,(1)被告ヤング株式会社(以下「被告会社」という。)の事業全部の譲渡を受けたと主張する原告X(以下「原告X」という。)が,事業譲渡契約の約定(被告会社の負債の整理に関しては被告会社が責任をもって処理し,原告Xには何ら関係させないとする約定)にもかかわらず,被告会社の債務の弁済(第三者弁済)を余儀なくされたとして,被告会社に対しては,?民法650条1項若しくは702条1項の規定に基づく償還請求(一部請求)として,又は?債務不履行若しくは不法行為による損害賠償請求(一部請求)として,7617万9729円及びこれに対する平成21年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息の支払を求め,被告Y1(被告会社の代表取締役。以下「被告Y1」という。),被告Y2(被告会社の取締役。以下「被告Y2」という。)及び被告Y3(被告会社の取締役。以下「被告Y3」という。)に対しては,会社法429条1項,430条の規定に基づき,被告会社と連帯(不真正連帯)して同額の損害の賠償を求め(上記第1,1),(2)原告Xが,被告会社に対し,上記事業譲渡契約(平成19年12月28日付け)に基づき,別紙商標目録記載1,2の商標権について,移転登録手続をすることを求め(上記第1,2),(3)上記事業譲渡契約には競業禁止特約(会社法21条2項)が含まれているにもかかわらず,被告会社が同契約後も別紙製品目録記載の製品(以下「製品ヤング」という。)を製造,販売,頒布するなどして原告らと競業したほか,「原告らに会社を乗っ取られた」などの虚偽の事実を告知又は流布して原告らの営業上の信用を害したとして,原告らが,被告会社に対し,?上記競業禁止特約に基づき,製品ヤングの製造,販売,頒布の差止め(上記第1,3),?不正競争防止法2条1項14号,3条に基づき,原告らに対する営業誹謗行為の差止め(上記第1,4),?不正競争防止法2条1項14号,14条に基づく信用回復措置として,別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告の掲載(上記第1,5)をそれぞれ求め,(4)原告らが,被告会社に対しては,債務不履行,不法行為又は不正競争防止法4条に基づき,被告Y1,被告Y2及び被告Y3に対しては,会社法429条1項,430条に基づき,連帯(不真正連帯)して,被告会社の上記(3)の競業及び営業誹謗行為によって原告らが受けた損害の賠償として,原告Xについては220万円(慰謝料200万円,弁護士費用20万円),原告ヤングブレイン株式会社(以下「原告会社」という。)については550万円(信用毀損による損害500万円,弁護士費用50万円)及びこれらに対する平成21年3月30日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め(上記第1,6及び7)る事案である。
2前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告会社は,平成19年11月12日,栄養食料及び栄養飲料の製造販売等を目的として設立された株式会社である。(甲1)原告Xは,原告会社の代表取締役であり,原告会社の唯一の株主である。
イ被告会社は,昭和26年5月24日,栄養食料及び栄養飲料の製造販売等を目的として設立された株式会社であり,製品ヤングの製造,販売を唯一の事業として行っていた。(甲3,弁論の全趣旨)被告Y1は,被告会社の代表取締役であり,被告Y2及び被告Y3は,被告会社の取締役である。
(2)被告会社は,別紙商標目録記載1の商標権について昭和27年10月18日に,同目録記載2の商標権(以下,同目録記載1,2の商標権を併せて「本件商標権」という。)について平成17年9月9日に,それぞれ商標権者として設定登録を受けた。(甲7の1,2,甲74,75)(3)ア被告Y1(甲)と原告X(乙)は,平成19年12月28日付けで,次の内容の覚書(以下「本件覚書」という。)を作成した。(甲4の1,2)「第1条譲渡内容甲は乙へ以下の内容を3億円で譲渡する事を確認了承した。
1甲及び甲の家族が所有するヤング株式会社(判決注:被告会社)の株式20万株を1円で譲渡する。
2ヤング株式会社の所有する土地を1円で譲渡する。
(千歳市<住所省略>21,627?他)3ヤング株式会社の所有する工場建物を1円で譲渡する。
(千歳市<住所省略>内の建物)4生物活性物質の特許権を譲渡する。
5製品製造工程に係わる一切の指導を譲渡する。
6営業権を譲渡する。
7什器備品,機械装置一式を譲渡する。
8平成19年12月28日現在保存の商品を譲渡する。
ただし,ヤング株式会社の土地,工場建物,債権,税金関係等の負債の整理に関しては甲が責任をもって処理し,乙には何ら関係せしめないものとする。
第2条その他甲と乙は以下の内容を確認了承した。
1乙は第1条の内容を履行する期日を平成19年12月28日からとする。
2ヤング株式会社の全従業員を乙が所有するヤングブレイン株式会社(判決注:原告会社)へ転籍させる。その転籍日は平成19年12月28日とする。
3乙は甲から平成19年12月28日までに支払うと確認した内容に限り全条項が履行確認でき次第支払う。
本覚書に定めない事項については,相互信頼の原則に基づき,甲,乙協議の上決定するものとする。」イ本件覚書の末尾の当事者「乙」欄には原告Xの署名,押印があり,被告Y1も,その「甲」欄に「東京都千代田区<住所省略>ヤング株式会社代表取締役Y1」と自署して,その名下に被告会社の登録印を押捺した。
(甲4の1,2)なお,本件覚書には,その後,公証人役場において公証人の確定日付「平成20年1月24日」のある印章が押捺された。(甲4の1)(4)被告会社は,平成19年12月28日,「事業,営業方針変更」を理由として,その当時の従業員全員(5名)を解雇し,原告会社は,同月29日,上記従業員全員を従業員として採用した。(甲48の1〜5,甲49の1〜5)(5)原告Xは,本件覚書作成後,製品ヤングの製造,販売に係る事業(以下「本件事業」という。)を原告会社に譲渡し,原告会社は,現在,別紙物件目録記載の工場・事務所において製品ヤングを製造し,これを販売している。
(弁論の全趣旨)3争点(1)本件覚書の趣旨,効力(2)原告らによる譲渡代金及び被告会社の債務の弁済(3)原告Xによる本件商標権移転登録手続請求の当否(4)被告会社による製品ヤングの製造,販売等の差止め(5)被告会社による営業誹謗行為の差止め及び謝罪広告(不正競争防止法14条)の必要性(6)被告Y1,被告Y2及び被告Y3の責任(7)被告会社の競業,営業誹謗による原告らの損害4争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(本件覚書の趣旨,効力)についてア原告ら本件覚書は,被告会社が原告Xに対し,被告会社の事業全部のほか,被告会社の不動産,什器備品,機械装置,在庫製品,生物活性物質(製品ヤングを製造するのに必要な菌),特許権,製品製法など,有体・無体財産のすべてを譲渡するという契約(以下「本件事業譲渡契約」という。)であり,本件事業譲渡契約において,原告Xは,事業譲渡の対価として被告会社に3億円を支払い,他方,被告会社の公租公課その他一切の負債は被告らにおいて処理し,原告Xには一切負担させない旨約定されている。
すなわち,本件覚書は,多額の負債を抱えて破綻の危機に瀕していた被告会社の事業(本件事業)を第三者(終局的には原告会社)に譲渡し,被告会社がその事業譲渡代金等により責任をもって被告会社の債務を処理することによって,本件事業の再生,継続を図ることを目的とするものである。
被告らは,本件覚書について,事業譲渡契約ではなく,株式譲渡契約であり,原告X又は原告会社が被告会社の債務を承継する旨の主張をするが,本件事業の承継に係る上記スキームにおいて株式の譲渡は必要ないし,原告Xにおいて,債務超過となっている被告会社の株式(その価値はマイナスである。)を3億円で購入することはあり得ない。また,原告X又は原告会社が被告会社の債務を承継するなどということは,上記スキームや本件覚書の文言に明らかに反するもので,失当である。
イ被告ら(ア)原告Xと被告Y1との間で本件覚書が作成されたことは認めるが,それが被告会社の事業譲渡契約の趣旨であることは争う。
被告Y1は,平成19年5月14日,原告Xとの間において,被告Y1,被告Y2及び被告Y3が有する被告会社の全株式(20万株)を代金3億円(弁済期は,内金1億円について平成19年6月8日,残金2億円について同年9月末日)で原告Xに譲渡する旨の合意(株式譲渡契約)をしているところ,本件覚書は,被告会社の全株式を原告Xに譲渡した後,原告Xが被告会社の経営や支配を独占し,被告会社の資産を自由に利用,処分することができるという当然のことを確認したにすぎないもので,上記株式譲渡契約とは別に被告会社の事業の譲渡を合意したものではない。
(イ)本件事業の承継後,被告会社の債務の弁済が滞れば,本件事業に必要な不動産に設定された担保権が実行され,原告らが本件事業を継続することができなくなるところ,被告Y1は,被告会社の株式譲渡により本件事業からの収入を失い,弁済能力がなくなるのであるから,原告Xと被告会社又は被告Y1との間においては,被告会社の債務は原告らにおいて負担していくという合意があったものと推認するのが相当である。
この点,本件覚書1条末尾の規定(「ヤング株式会社の土地,工場建物,債権,税金関係等の負債の整理に関しては甲が責任をもって処理し,乙には何ら関係せしめないものとする。」)を文面どおりに解釈すれば,被告会社の負債は被告Y1がすべて処理し,原告らは一切関与しないということになるが,被告会社の債務総額は約25億円であり,被告Y1が本件事業承継対価として原告Xから3億円を受領し,その全額を弁済に充てたとしても,返済のあてのない被告会社の多額(約22億円)の債務負担だけが残るということになる。また,本件覚書1条1項から3項では,被告Y1,被告Y2及び被告Y3の有する被告会社の株式,被告会社の所有する土地及び工場建物をそれぞれ1円で譲渡すること(実質的には無償譲渡である。)が定められているが,通常の経済取引において不動産を無償で譲渡するのは,買主が当該不動産に設定された担保権の負担も承継するからであり,何の負担もなく不動産を無償で譲り受けるなどということはあり得ない。本件覚書のように,原告Xが上記各資産をそれぞれ1円で譲り受けながら,被告会社の債務は一切負担しないなどということは,通常の取引では考えられない条件である。このような結果は不合理であり(原告Xに一方的に有利な結果となるのに対し,被告Y1には経済的利益が全くない。),原告Xと被告会社又は被告Y1との間において,本件覚書の内容どおりの合意があったとは考え難い。
(2)争点(2)(原告らによる譲渡代金及び被告会社の債務の弁済)についてア原告X(ア)別紙弁済表1について本件事業譲渡の代金(以下「本件譲渡代金」という。)3億円のうち2億7991万3029円は,次のとおり支払済みである(別紙弁済表1)。
a原告Xは,被告会社に対し,本件譲渡代金として,平成19年6月14日に5000万円,同年7月13日に1000万円,同月24日に500万円,同年8月24日に1500万円,同月29日に300万円,同年9月27日に2000万円,同年10月29日に300万円,同年11月5日に5000万円,同月7日に600万円,同月12日に1000万円,同年12月27日に207万円,平成20年1月9日に150万円(以上合計1億7557万円)を支払った。
b原告Xは,被告Y1に対し,平成19年1月26日に500万円,同年5月9日に100万円を貸し付けた。また,原告Xは,被告会社に対し,同年4月23日に1000万円を貸し付けた。
原告X,被告Y1及び被告会社は,同年5月14日,上記貸付金合計1600万円について,本件譲渡代金の支払に充当することを合意した。
c原告Xは,平成19年11月29日,被告会社に500万円を貸し付けた。また,A(原告会社の現在の取締役。以下「A」という。)は,被告Y1に対し,同年1月26日に4500万円,同年3月15日に1000万円,同月26日に1000万円を貸し付けた。
原告X及び被告会社は,同年12月19日,原告Xの被告会社に対する上記貸付金500万円を本件譲渡代金の支払に充当することを合意した。また,原告X,A,被告Y1及び被告会社は,同月25日,Aの被告Y1に対する上記貸付金6500万円に利息を加算した7000万円について,本件譲渡代金の支払に充当することを合意した。
d(a) 原告会社は,次のとおり,被告会社が支払うべき費用(合計1334万3029円)を立替払いした。
?平成19年12月26日,被告会社の従業員の給与,特別会員への返済等合計734万2431円?平成20年1月19日,被告会社(東京本社)の元従業員の未払給与合計58万5444円?平成20年1月22日,被告会社が負担すべき抵当権設定登記費用等合計29万4100円?平成20年4月30日までに,被告会社千歳工場の水道光熱費等合計512万1054円(b)上記(a)の立替払いについては,原告X,原告会社及び被告会社の間において,その立替金を本件譲渡代金の支払に充当する旨の合意が存在していたというべきであるから,原告会社による上記(a)の立替払いによって直ちに本件譲渡代金債務の弁済に充当される。
また,上記合意が存在しないとしても,原告会社は,上記(a)の立替払いにより被告会社に対して取得した求償権(合計1334万3029円)を原告Xに譲渡し,原告Xは,第3回弁論準備手続期日(平成21年10月19日)において,被告会社に対し,この求償金債権を自働債権として,本件譲渡代金債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
(イ)別紙弁済表2についてa被告会社は,本件事業譲渡契約において,被告会社の債務はすべて被告会社が責任をもって処理する旨を合意していたにもかかわらず,これに違反した(債務不履行又は不法行為)ため,原告会社は,別紙弁済表2のとおり,平成20年1月7日から同年12月11日にかけて,被告会社の債務の弁済(第三者弁済)として,合計1億0016万6300円の出捐を余儀なくされた。
すなわち,被告会社は,本件事業譲渡契約前,「特別会員」,「協力会員」を募り,一定の金員を被告会社に預託すれば所定の本数の製品ヤングを無料贈呈するという制度を作っており,本件事業譲渡契約までにその預託金の返還をしておくべきであったにもかかわらず,実際にはその返還をほとんどしていなかった。そのため,被告会社は,本件事業譲渡契約後においても,上記会員らに対し,製品ヤングの贈呈義務を負うことになったが(なお,原告Xがかかる義務を承継しないことは,本件事業譲渡契約において定められたとおりである。),これを怠ったため,原告会社は,被告会社に代わって,この義務の履行を余儀なくされた(別紙弁済表2の「資金移動」欄のうち「現品交付」とある分)。また,原告会社は,一部の顧客に対しては,預託金を金銭で返還する代わりに,製品ヤングでの代物弁済を余儀なくされた(別紙弁済表2の「資金移動」欄のうち「現品交付(相殺)」とある分。なお,同欄のうち「現物交付(プリ)」とあるのは,預託金全額を代物弁済するのではなく,製品ヤングを送付するごとに,その金額分だけ預託金を返還したものとして処理した分である。)。
原告会社が贈呈及び代物弁済した製品ヤングの代金相当額は,別紙弁済表2のとおり,合計1億0016万6300円である。
b(a) 原告会社は,別紙弁済表2の弁済をするについて,以下のとおり,法律上の利害関係を有していた。
すなわち,被告会社の特別会員,協力会員らは,本件事業が原告会社に承継された後も顧客として重要な取引相手となるが,これらの会員からの厳しい督促や問い合わせに対し,原告会社が被告会社の債務を承継していないことを説明して納得させることは困難であった。また,法律的にも,事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を続用する場合,被告会社の債務について,原告会社が被告会社と連帯して弁済する責任を負う(会社法22条1項)ものと解する余地があり,現に,原告会社を被告として,そのような請求をする訴訟が多数提起され,原告会社は多額の支払を伴う和解を余儀なくされるに至った。
このように,被告会社が本件事業譲渡契約に違反して預託金返還債務の履行を全く行っていなかったことが原告会社の運営上大きな支障となり,また,裁判により実質的に被告会社と連帯責任を負わされるような事態にもなっていたのであって,原告会社が会員たちに対する製品ヤングの無料贈呈や預託金返還債務に対応することは,原告会社の存立上不可欠であった。
(b)仮に,原告会社が利害関係を有しない第三者であったとしても,別紙弁済表2の弁済が被告会社の意思に反するものであったとはいえない。すなわち,債務者の反対の意思(民法474条2項)は,明示的,確定的なものであることを要するが,被告会社はそのような意思を原告らには一切明示していなかった。
(c)したがって,別紙弁済表2の弁済は有効な第三者弁済であり,これにより,原告会社は,被告会社に対する求償権を取得する。
c原告会社は,上記aの立替払いにより被告会社に対して取得した求償権又は損害賠償請求権(合計1億0016万6300円)を原告Xに譲渡し,原告Xは,第3回弁論準備手続期日(平成21年10月19日)において,被告会社に対し,この求償金債権又は損害賠償請求権を自働債権として,本件事業譲渡代金債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
(ウ)小括上記(ア),(イ)によれば,原告Xは,本件事業譲渡契約の代金(3億円)全額の支払を完了した上,なお,被告会社に対し,8007万9329円の求償金債権又は損害賠償請求権を有している。
よって,原告Xは,被告会社に対し,?民法650条1項若しくは702条1項の規定に基づく求償請求として,又は?債務不履行若しくは不法行為による損害賠償請求として,上記金員のうち7617万9729円及びこれに対する平成21年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ被告ら(ア)別紙弁済表1についてa原告Xが被告会社に対し,平成19年6月14日に5000万円,同年10月29日に300万円,同年11月5日に5000万円,同月7日に600万円,同月12日に1000万円,同年12月27日に207万円,平成20年1月9日に150万円(以上合計1億2257万円)を支払ったことは認めるが,これは,平成19年5月14日に成立した株式譲渡契約の代金3億円の支払としてされたものである。
原告Xが平成19年7月13日に1000万円,同月24日に500万円,同年8月24日に1500万円,同月29日に300万円,同年9月27日に2000万円(以上合計5300万円)を支払ったことは認めるが,これらは製品ヤング(合計6000本)の売買代金として支払われたものである。
b原告Xが,被告Y1に対し,平成19年1月26日に500万円,同年5月9日に100万円を交付したこと,被告会社に対し,同年4月23日に1000万円を交付したことは認めるが,これが被告Y1や被告会社に対する貸付金であるとする点は争う。
もともと被告会社は,その株式全部をAに譲渡することになっており,上記金員(合計1600万円)は,いずれも上記株式譲渡代金の一部として支払われたものである。
c原告Xが,平成19年11月29日,被告会社に500万円を貸し付け,同年12月19日に協議した結果,この貸付金を代金3億円の支払に充当することが合意されたことは認める。
Aが被告Y1に対し,同年1月26日に4500万円,同年3月15日に1000万円,同月26日に1000万円を交付したことは認めるが,これらの金員(合計6500万円)は,いずれもAが譲り受ける被告会社の株式譲渡代金の一部として支払われたものである。
d原告会社が,?平成19年12月26日,被告会社の従業員の給与,特別会員への返済等合計734万2431円,?平成20年1月19日,被告会社(東京本社)の元従業員の未払給与合計58万5444円の立替払いをしたことは認める。
また,原告会社が,?平成20年1月22日に抵当権設定登記費用等合計29万4100円,?平成20年4月30日までに被告会社千歳工場の水道光熱費等合計512万1054円を支払ったことは認めるが,これは前記株式譲渡契約の代金3億円の支払に代えて行われたものである。
(イ)別紙弁済表2についてa原告Xは,現品交付等を開始した平成20年1月7日時点で上記代金3億円を完済していなかった。また,原告Xと被告らとの間で締結されたのは株式譲渡契約であり,原告Xは被告会社(株券発行会社)の株券の交付を受けていないから,いまだ被告会社の株主とはなっていない。
したがって,原告らは,製品ヤングの処分権限を何ら有していないのであり,別紙弁済表2の弁済は,被告会社の所有物を処分した(被告会社の負担する預託金返還債務の代物弁済等について,被告会社の履行補助者ないし履行代行者として履行した)にすぎないものであって,原告らは一切の経済的出捐(第三者弁済)をしていないのであるから,被告会社に対する求償権を取得することはない。
b原告会社が製品ヤングの処分権限を取得していたとしても,本件事業の承継においては,被告会社の顧客に対する製品ヤングの供給義務は,当然に原告会社に引き継がれたものと解すべきである。したがって,原告会社が被告会社の顧客らに対して製品ヤングを供給した行為は,自己の債務を履行したものにほかならず,別紙弁済表2の弁済が第三者弁済であるとはいえない。
c別紙弁済表2にある製品ヤングの供給が第三者弁済に当たるとしても,被告会社は,原告らに対し,当該第三者弁済に反対の意思を表示していたのであるから,法律上の利害関係を有しない原告会社による弁済は,民法474条2項により,弁済としての効力を生じない。
d別紙弁済表2の弁済が有効であるとしても,その弁済額は,原告らの主張するような金額ではない。すなわち,原告らは,別紙弁済表2において,製品ヤングの単価を販売価格(1本当たり5万2500円)で計算しているが,上記第三者弁済によって消滅する債務の額が不明確である(本件第三者弁済によって預託金返還義務のうち弁済されたことになる金額が全く明らかでない)から,その額は,実際に原告会社が負担した額と解すべきである。そうすると,第三者弁済額は,製品ヤングの販売価格ではなく,仕入価格になると考えられるところ,原告Xは,被告会社から製品ヤングを1本当たり2万6250円(販売価格の半額)で仕入れていたのであるから,本件第三者弁済の総額は,原告Xの主張する額(1億0016万6300円)の半分(5008万3150円)にすぎないというべきである。
(3)争点(3)(原告Xによる本件商標権移転登録手続請求の当否)についてア原告X原告Xは,本件事業譲渡契約により,被告会社から本件商標権の譲渡を受けた。
本件事業譲渡契約においては,被告会社の事業その他のすべての財産の原告Xへの譲渡が先履行とされているが(本件覚書2条3項),仮にそうでないとしても,原告Xは,その代金(合計3億円)の支払を完了している。
よって,原告Xは,被告会社に対し,本件事業譲渡契約(平成19年12月28日付け)に基づき,本件商標権移転登録手続をすることを求める。
イ被告会社否認ないし争う。
本件事業の承継自体,原告らの残代金未払いによって未了なのであるから,被告会社は,原告Xに対し,本件商標権移転登録手続請求に応じる必要はない。
(4)争点(4)(被告会社による製品ヤングの製造,販売等の差止め)についてア原告ら被告会社は,本件事業譲渡契約により,その事業のすべてを原告Xに譲渡し,製品ヤングの製造,販売に必要な財産のすべてを移転し,保有する在庫製品のすべてを移転する旨を約したのであるから,そこには,当然,被告会社において,今後,製品ヤングの製造,販売,頒布を一切行わない旨の合意(会社法21条2項。以下「本件競業禁止特約」という。)が含まれている。そして,本件事業譲渡契約においては,原告会社が製品ヤングの製造,販売,頒布事業を行うことが想定されているのであるから(本件覚書2条2項参照),本件競業禁止特約は,被告会社と原告会社との間でも成立している。
しかるに,被告会社は,本件競業禁止特約に違反して,現在も製品ヤングの在庫を保持し,製品ヤングの愛飲者らに対して,その販売,頒布をしており,将来においても,これを継続する可能性が高い。
会社法21条の競業禁止規定に違反した場合,事後的に損害賠償請求をすることができるのが原則であるが,事業の譲受人が事後的損害賠償では回復し難い損害を受ける場合には,競業行為の差止めを求めることができると解すべきであり,特に,会社法21条2項の特約により競業禁止の範囲が拡大されている場合には,当該特約違反の競業行為によって,事業譲受人が回復し難い損害を受けることが推定されるというべきである。
製品ヤングは,原告会社の唯一の製品であり,これまでは限られた顧客に対して自社販売のみを行っていたことから,競業行為による損害は通常よりはるかに大きいこと,被告会社の競業行為は,後記のとおり,原告らに対する誹謗中傷を伴うものであること,被告会社は,本件事業の譲渡を認めた上で同一ないし類似の商品を販売しているというのではなく,本件事業の譲渡そのものを根本的に否定して,完全に同一の製品を販売していることなどの事情を考慮すると,被告会社による競業行為を放置すれば,原告らが回復し難い損害を受けることは明らかである。
よって,原告らは,被告会社に対し,会社法21条2項に基づき,製品ヤングの製造,販売,頒布の差止めを求める。
イ被告会社被告らと原告らとの間に存在するのは株式譲渡契約であり,事業譲渡契約ではないから,本件事業譲渡契約の存在を前提とする原告らの請求は失当である。
仮に,本件事業譲渡契約が存在したとしても,本件覚書に競業禁止特約は何ら記載されていないから,会社法21条2項を根拠とする差止請求は理由がない。そもそも原告らには製品ヤングの製造に必要な有用菌の保存,育成の技術がなく,その製造には被告会社の技術を必要とするのであるから,本件覚書において,被告会社による製品ヤングの製造等を一切禁じるなどという競業禁止特約が合意されることはあり得ない。
また,本件事業譲渡契約に競業禁止特約が付されていたとしても,原告らは本件事業譲渡に係る代金全額を支払っていないから,同特約はいまだ発効していない。さらに,本件事業譲渡契約に基づき被告会社が競業避止義務を負うことがあるのは,飽くまでも原告Xに対してであり(原告Xと原告会社の法人格は別であり,原告らも本件覚書において両者を区別していたのであるから,本件訴訟において両者を同視することは,自己の態度に矛盾する行為として許されない。),原告会社に対してかかる義務を負うものではない。そして,原告X自身は,現在,製品ヤングの製造,販売をしていないのであるから,原告Xに対する関係でも,競業避止義務違反は問題とならない。
(5)争点(5)(被告会社による営業誹謗行為の差止め及び謝罪広告〔不正競争防止法14条〕の必要性)についてア原告ら被告会社は,製品ヤングを顧客に販売,頒布する際,原告らについて,「千歳の工場に不法侵入された。」,「会社を乗っ取られた。」,「偽造印鑑,偽造文書で鍵を変えられた。」,「工場倉庫から製品を盗み出して売り,入金を横領されている。」,「(原告らに)事業譲渡などしていない。」,「刑事事件として告訴進行中であり,近く解決できる。」などと,明らかに虚偽の事実を書いた文書を送付し,原告らに対する営業誹謗を行っている。
これは,競争関係にある原告会社の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知,流布する行為(不正競争防止法2条1項14号)に該当し,被告会社は,今後も同様の方法で原告らに対する営業誹謗を行う可能性が高い。
よって,原告らは,被告会社に対し,不正競争防止法2条1項14号,3条に基づいて,原告らが別紙物件目録記載の建物を不法に占有し,製品ヤングを違法に製造,販売しているとの事実を告知し,又は流布する行為の差止めを求めるとともに,同法14条に基づく信用回復措置として,朝日新聞,読売新聞,毎日新聞,日本経済新聞,産経新聞及び北海道新聞の各朝刊全国版の社会面広告欄に,別紙謝罪広告目録記載1の広告文を,同目録記載2の条件で,各1回ずつ掲載することを求める。
イ被告会社否認ないし争う。
(6)争点(6)(被告Y1,被告Y2及び被告Y3の責任)についてア原告ら原告らによる上記(2)ア(イ)の第三者弁済は,被告Y1が突如「菌の賃料を払え」などと言い出した上,本件事業譲渡契約に違反して,被告会社の債務のすべてを処理する義務を履行しなかったことにより余儀なくされたものである。また,被告Y1は,不正の競争の目的をもって被告会社に原告会社と同一の営業(競業)をさせたり,被告会社をして原告らの営業に対する誹謗を行わせるなどしている。
被告Y1は,その職務を行うについて明らかに悪意であるから,会社法429条1項に基づき,被告会社と連帯(不真正連帯)して,原告らが受けた損害を賠償する責任を負う。また,被告Y2及び被告Y3は,被告Y1の不法行為ないし任務懈怠を看過したものであり,悪意又は重過失により任務を怠った者として,会社法429条1項,430条に基づき,被告会社及び被告Y1と連帯(不真正連帯)して,原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。
イ被告ら原告らの主張は否認ないし争う。
被告Y1に不法行為ないし任務懈怠はなく,したがって,被告Y2及び被告Y3について,任務懈怠責任は生じない。
(7)争点(7)(被告会社の競業,営業誹謗による原告らの損害)についてア原告ら(ア)被告会社は,上記のとおり,不正の競争の目的をもって原告会社と同一の事業を行い(会社法21条3項),また,原告らを誹謗して,その営業を妨害したが,これによって原告らに生じた損害は,次のとおりである。
(イ)原告Xについて 220万円原告Xは,被告会社の上記行為により名誉を毀損され,精神的苦痛を受けたが,その苦痛を慰謝するための慰謝料の額は200万円を下らない。
また,原告Xは弁護士を選任して本件訴訟を追行しているところ,その弁護士費用のうち20万円が,被告会社の上記行為と相当因果関係のある損害というべきである。
(ウ)原告会社について 550万円原告会社は,被告会社の上記行為により信用を毀損されたが,その信用毀損による損害額は500万円を下らない。
また,原告会社は弁護士を選任して本件訴訟を追行しているところ,その弁護士費用のうち50万円が,被告会社の上記行為と相当因果関係のある損害というべきである。
(エ)よって,被告会社に対しては,債務不履行,不法行為又は不正競争防止法4条に基づき,被告Y1,被告Y2及び被告Y3に対しては,会社法429条1項,430条に基づき,連帯(不真正連帯)して,被告会社の上記(4)ア,(5)アの競業及び営業誹謗行為によって原告らが受けた損害の賠償として,原告Xについては220万円(慰謝料200万円,弁護士費用20万円),原告会社については550万円(信用毀損による損害500万円,弁護士費用50万円)及びこれらに対する平成21年3月30日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める。
イ被告ら否認ないし争う。
第3当裁判所の判断1争点(1)〜(4)について(1)事実認定証拠(甲4,9〜62,65〜71,乙1〜5,7〔いずれも枝番のあるものは枝番を含む。以下同様。〕,証人B,原告X本人,被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア被告会社は,製品ヤングの製造,販売を唯一の事業としていたが,資金繰りが悪化したことから,平成10年春ころ,「特別会員」の募集を開始し,入会金100万円(後に120万円に増額)を被告会社に1年間ないし3年間(後に5年間に延長)預託すれば製品ヤング(1年預託で4本,2年預託で8本,3年預託で12本,5年預託で22本)を無料で贈呈するという制度(特別会員制度。甲9〜19)を導入して会員から預託金を集め,これを平成18年まで継続した。
また,被告会社は,平成15年3月ころ及び平成17年10月ころには,入会金60万円を被告会社に1年半預託すれば,その間,製品ヤング3本を無料で贈呈するという制度(協力会員制度。甲20)を開始し,協力会員から預託金を集めた。
イ被告会社は,平成18年10月ころ,会員らに対し,「さようなら,ヤング......」と題するレポートを送付し,近い時期に被告会社を解散することを明らかにして,そのころから本件事業の譲渡を計画するようになり,平成19年3月ころには,Aに対し5億円で本件事業を譲渡する内容で協議が進展していた。しかし,Aが同年4月中旬すぎころに本件事業の譲受けを断念したことから,本件事業を譲渡する計画はいったん白紙に戻った。
なお,被告Y1は,その間,特別会員,協力会員に返還すべき預託金の原資が不足し,公租公課も滞納して,被告会社所有の不動産が千歳市により差し押さえられるなどしたことから,同年1月26日,A及び原告Xに対し5000万円の借入れを申し込み,Aから4500万円(年利10%)を,原告Xから500万円(年利10%)を借り入れたほか,同年3月15日及び同月26日にも,Aから,各1000万円を借り入れた。さらに,被告Y1は,Aから追加で1000万円の拠出を受けることになっていたが,上記のとおり,Aが本件事業譲渡の話から撤退したため,Aに代わって原告Xが,同年4月23日,被告会社に1000万円を貸し付けたほか,同年5月9日,被告Y1に100万円を貸し付けた。
ウ被告Y1は,平成19年5月14日,当時の自宅(東京都品川区所在の賃貸マンション)に原告Xを呼び,代金3億円で本件事業を譲渡する(ただし,被告会社の債務は原告Xに承継させない)ことを申し入れ,原告Xは,数日間検討をした後,被告Y1の申入れのとおり,本件事業を代金3億円で譲り受ける旨回答した。なお,その際,正式な契約は同年12月中に締結することや,原告Xの被告会社又は被告Y1に対するそれまでの貸付金(合計1600万円)を上記代金3億円に全額充当することなどが合意された。
エ原告Xは,被告会社に対し,上記代金の内金として,平成19年6月14日に5000万円,同年7月13日に1000万円,同月24日に500万円,同年8月24日に1500万円,同月29日に300万円,同年9月27日に2000万円,同年10月29日に300万円,同年11月5日に5000万円,同月7日に600万円,同月12日に1000万円(以上合計1億7200万円)を支払った。
また,原告Xは,平成19年11月29日,被告会社に対し,上記の支払とは別に,500万円を貸し付けた。
オ被告Y1は,平成19年12月7日,被告会社において,本件事業の譲渡について,原告Xと話合いをしたが,その際,原告Xに対し,本件事業譲渡後の被告Y1やその家族の生活を保障するため,原料菌の貸与料や特許権の使用料等を支払ってほしいとか,北海道千歳市<省略>所在の被告会社名義の社宅は4000万円で別途買い取ってほしいなど,それまでに出されていなかった要求をした。
これを受けて,原告Xは,同月13日,顧問であるB税理士(以下「B税理士」という。)の事務所(神奈川県小田原市)において,同税理士立会いの下,被告Y1と話し合ったが,被告Y1が上記と同様の要求をしたことから,被告Y1に対する不信の念を強くした。
カ被告Y1は,平成19年12月18日,B税理士と協議をした結果,最終的には,被告会社が至急必要とする926万円の資金を原告Xが提供するのであれば,上記要求をすべて撤回し,被告会社の事業を譲渡するが,被告会社の債務は原告Xに承継させないことを承諾し,後日,正式な契約書を作成することを確認した。
また,原告Xと被告会社は,同月19日,原告Xの被告会社に対する上記エの貸金500万円(同年11月29日貸付け)について,これを本件事業の譲渡代金に充当することを合意した。
キその後,本件事業の譲渡についての契約締結に向けた準備が進められるはずであったが,被告Y1が音信不通の状態となったことから,B税理士は,平成19年12月22日,ファクシミリ(甲58)で,本件覚書,残代金の支払計画書,従業員の解雇通知書の文案を被告Y1に送信し,同月25日までに本件覚書等に被告Y1の署名押印がされたら残代金を支払う旨を通知した。
上記通知を受けて,被告Y1からB税理士に連絡があり,同月25日,原告X及び被告Y1がB税理士の事務所に集まって本件覚書の内容を確認した結果,本件覚書に調印することとなった。しかし,被告Y1は,印鑑及び印鑑登録証明書を持参していなかったことから,同日は本件覚書の末尾の当事者「甲」欄に「東京都千代田区<住所省略>ヤング株式会社代表取締役Y1」と自署するにとどめ,後日,被告会社の印鑑を押捺した本件覚書を印鑑登録証明書と共にB税理士に返送することになった。
被告Y1は,上記署名後,原告Xと共に,同事務所近くのティールームに移動し,原告Xとの間で,Aへの返済分(利息を含めて7000万円)を本件事業の譲渡代金に充当すること,これにより同日までに代金3億円のうち合計2億6300万円が支払済みとなることなどを確認した。
ク被告Y1は,平成19年12月26日,被告会社の登録印を押捺した本件覚書(甲4の1。ただし,確定日付押捺前のもの。)及び被告会社の印鑑登録証明書(甲4の2)を被告Y3に託し,被告Y3は,同日午前中に,これらの書類をB税理士事務所の郵便受けに投函した。
ケ原告Xは,その後,原告会社に本件事業を譲渡した。また,原告Xは,被告会社に対し,本件事業の譲渡代金の内金として,平成19年12月27日に207万円,平成20年1月9日に150万円を支払った。
コ原告会社は,平成20年4月30日までの間に,被告会社の従業員給与,水道光熱費等,被告会社が支払うべき費用合計1334万3029円を立替払いした。
原告会社は,上記立替払いによる求償金合計1334万3029円を原告Xに譲渡し,原告Xは,第3回弁論準備手続期日(平成21年10月19日)に陳述した同月16日付け準備書面において,上記求償金債権を自働債権として,本件事業の譲渡代金債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
サその後,原告会社が,製品ヤングの製造販売を開始したところ,特別会員,協力会員から製品ヤングの無料贈呈や預託金の返還等を求められたため,別紙弁済表2のとおり,これらの会員に製品ヤングを無料で贈呈したほか,預託金の返還に代えて,製品ヤングを交付する(代物弁済)などした(なお,別紙弁済表2の「資金移動」欄中,「現品交付」とあるのは無料贈呈分であり,「現品交付(相殺)」とあるのは,預託金の返還に代えて製品ヤングで弁済(代物弁済)した分である。また,「現品交付(プリ)」とあるのは,預託金全額の代物弁済ではなく,送付した製品ヤングの金額分だけ預託金を返還したものとして処理した分である。)。また,原告会社は,平成20年6月25日には,特別会員の1名(C)に対し,被告会社に代わって預託金の一部50万円を返還した。
原告会社は,上記弁済による求償金債権又は損害賠償請求権を原告Xに譲渡し,原告Xは,第3回弁論準備手続期日(平成21年10月19日)に陳述した同月16日付け準備書面において,上記求償金債権又は損害賠償請求権を自働債権として,本件事業譲渡代金債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
(2)争点(1)(本件覚書の趣旨,効力)に対する判断上記(1)の認定事実によれば,被告会社は,会員への預託金の返還や未納の公租公課等,多額の負債を抱え,経済的に窮境にあったことから,その唯一の事業である本件事業を第三者に譲渡し,その譲渡代金によって被告会社の債務を処理する一方,本件事業の譲受人である第三者には被告会社の債務を承継させず,本件事業の維持,再生を図るという計画を立てていたことが認められるところであり,本件覚書は,上記計画を実行する具体的方法について文書化したものであると解するのが相当である。
この点,被告らは,本件覚書について,原告Xと被告Y1との間で平成19年5月14日に成立した被告会社の株式譲渡契約を確認したにすぎないものであり,被告会社の債務については,本件事業を承継する原告X又は原告会社が負担すべきであるなどと主張する。しかしながら,本件全証拠によっても,被告らが主張するような株式譲渡契約(平成19年5月14日付け)の成立を認めることはできない上,本件覚書について上記のような解釈をすることは,上記計画の趣旨や,本件覚書1条末尾ただし書の文理に明らかに反するものであって,採用することができない。
なお,本件覚書本文においては,原告Xと被告Y1が当事者とされているのに対し,末尾の署名欄においては,原告Xと被告会社が当事者とされており,当事者の表示に齟齬があることが認められるが,本件覚書は,上記計画を実行する具体的方法について文書化したもので,同計画は,被告会社の唯一の事業である本件事業を第三者に譲渡し,その譲渡代金によって被告会社の債務を処理するというものであったこと,本件覚書の内容は,被告会社の事業譲渡に関するものであるから,その主体は被告会社と解するのが合理的であること,被告Y1は,本件覚書末尾の署名欄に被告会社代表者の肩書きを付して署名し,被告会社の登録印を押捺しているなどの事情にかんがみれば,本件覚書は,本件事業の譲渡契約(本件事業譲渡契約)として,原告Xと被告会社との間において成立したものと解するのが相当である。
(3)争点(2)(原告らによる譲渡代金及び被告会社の債務の弁済)に対する判断ア上記(1)(ただし,サを除く。)の認定事実によれば,原告Xは,別紙弁済表1のとおり,本件事業の譲渡代金3億円のうち2億7991万3029円を支払済みであり,残代金は2008万6971円であると認められる。
なお,被告らは,原告Xが平成19年7月13日に支払った1000万円,同月24日に支払った500万円,同年8月24日に支払った1500万円,同月29日に支払った300万円,同年9月27日に支払った2000万円(以上合計5300万円)は,いずれも製品ヤング(合計6000本)の売買代金である旨主張するが,本件全証拠を検討しても,これらの時期に合計6000本もの製品ヤングを被告会社が原告Xに売却,出荷した事実も,原告Xが被告会社から仕入れ,入荷した事実も認められないから,被告らの上記主張は根拠がない。
イ(ア) 上記(1)サのとおり,本件事業譲渡後,原告会社は,特別会員,協力会員から,募集の際の約定に従った製品ヤングの無料贈呈や預託金の返還等を求められ,原告会社の事業にも支障が出るような状況であったことから,別紙弁済表2のとおり,これらの会員に製品ヤング(合計2196本)を提供したほか,平成20年6月25日には,特別会員の1名(C)に対し,被告会社に代わって預託金の一部(50万円)を現金で返還したことが認められる。
上記(1)アのとおり,特別会員制度及び協力会員制度により会員から預託金を預かったのは被告会社であり,原告Xは,本件事業譲渡契約において,被告会社の債務を承継しないものとされ,会員らに対し,製品ヤングを無料で贈呈したり,預託金を返還したりする債務は負担していなかったのであるから,原告会社が履行したのは,第三者である被告会社の債務であるということができる。そして,本件全証拠を検討しても,原告会社が被告会社の委託を受けて製品ヤングの供給等を行ったとは認められないから,別紙弁済表2に記載の製品ヤングの供給(第三者弁済)は,事務管理として行われたものというべきである。そうすると,原告会社は,被告会社に対し,原告会社が支出した費用の償還を請求することができる(民法702条1項)。
なお,被告らは,?原告会社による製品ヤングの供給について,原告Xが本件事業譲渡に係る代金を完済して製品ヤングの処分権限を取得する前に行われたものであり,原告会社が経済的出捐をしたものとはいえないとか,?被告会社の意思に反する弁済であった(民法474条2項)などと主張する。しかしながら,本件事業譲渡契約において,平成19年12月28日当時の製品ヤング(在庫品)の原告Xに対する譲渡は,原告Xによる代金の支払に先行して履行すべきものであると解される(本件覚書2条3項)から,上記?の主張は理由がない。また,原告会社は,本件事業を承継したものであり,特別会員,協力会員との紛争を円満に解決し,本件事業を円滑に遂行するために,製品ヤングの無料贈呈や預託金の返還の要求に応じることには合理性があること,原告会社は被告会社の商号を引き続き使用する者として一部の特別会員から会社法22条1項の責任を追及されていたこと(甲69の2)などにかんがみると,原告会社は,弁済表2の弁済について法律上の利害関係を有する者であり,被告会社の意思に反しても弁済をすることができるというべきであるから(民法474条2項),上記?の主張も理由がない。
(イ)証拠(甲63の1〜3,5〜10,12〜16)によれば,原告Xは,被告会社から,製品ヤングを1本当たり2万6250円で仕入れていたことが認められるから,原告会社が特別会員らに2196本の製品ヤングを供給するのに要した費用は,合計5764万5000円(=2万6250円/本×2196本)であると認められる。また,前記のとおり,原告会社は,平成20年6月25日,特別会員の1名(C)に預託金の一部50万円を現金で返還している。したがって,原告会社が支出した費用は合計5814万5000円であり,原告Xは,原告会社から,被告会社に対する同額の求償金債権を譲り受けたということになる。
ウ原告Xは,第3回弁論準備手続期日(平成21年10月19日)において,上記イの求償金債権(5814万5000円)を自働債権として,本件事業譲渡に係る残代金債権(2008万6971円)と対当額で相殺する旨の意思表示をしている(当裁判所に顕著な事実)。本件事業譲渡契約において,原告Xの残代金債務は,被告会社による事業譲渡が確認されてから履行すべきものとされており(本件覚書2条3項),弁済期が到来していないが,原告Xは,その期限の利益を放棄することができるから,弁済期の到来している上記イの求償金債権を自働債権として相殺することは許される。仮に,本件事業譲渡契約上,原告Xの残代金債務が被告会社の履行すべき債務と同時履行の関係にあるとしても,原告Xにおいて,その同時履行の抗弁権を放棄することは可能であるから,いずれにしても,両債権は上記相殺の意思表示の時点において相殺適状にあったものということができ,相殺の効力を認めることができる。
したがって,原告Xが被告会社に対して求償することができるのは,上記相殺後の残金3805万8029円となり,原告Xの被告会社に対する同求償金及びこれに対する訴状送達の日の後である平成21年3月30日以降の遅延損害金の請求は,理由がある。
(4)争点(3)(原告Xによる本件商標権移転登録手続請求の当否)に対する判断本件事業譲渡契約において,本件商標権の譲渡については特掲されていないが,被告会社は,本件商標権に係る登録商標を使用して本件事業を営んでいたのであるから,本件商標権についても,本件事業を構成する有形,無形の資産の一つとして,本件事業譲渡契約における譲渡の対象となっていたものと認めるのが相当である。したがって,原告Xの本件商標権移転登録手続請求は,理由がある。
なお,被告会社は,本件事業譲渡に係る代金の支払が未了であるから,上記請求に応じる義務はない旨主張するが,前示のとおり,本件事業譲渡に係る代金債務は,上記相殺によりすべて消滅しているから,被告会社の上記主張は理由がない。
(5)争点(4)(被告会社による製品ヤングの製造,販売等の差止め)に対する判断本件事業譲渡契約は,製品ヤングの製造に必要な工場(別紙物件目録記載の工場・事務所),機械等の設備はもとより,製品ヤングに係る原料菌や特許権,本件商標権等,有体・無体のすべての財産を譲渡することを内容とするものであるから,本件事業譲渡後,被告会社において本件事業を行うことは想定されていなかったと認められる。そうすると,本件事業譲渡契約には,明文の規定こそないものの,被告会社において,同一の事業を行わない旨の特約(会社法21条2項)が含まれているものと解するのが相当である。
原告らは,被告会社に対し,上記特約に基づき,製品ヤングの製造,販売等の差止めを求めているが,仮に,同特約のような不作為債権の効力として上記のような差止請求が認められる余地があるとしても,本件において,被告会社は,上記のとおり,製品ヤングの製造に必要な工場設備や原料菌等を原告Xに譲渡し,現在,同工場において現実に製品ヤングの製造,販売を行っているのは原告会社であること(前記第2の2(5)),及び被告会社は,現在,製品ヤングの製造,販売等を行っていないことからすれば,現時点において,被告会社に製品ヤングを製造,販売する能力があると認めることはできず,今後,これを製造,販売するおそれがあるとは認められない。
したがって,原告らの上記請求は理由がないというべきである。
2争点(5)(被告会社による営業誹謗行為の差止め及び謝罪広告の必要性)について(1)証拠(甲8の1,3〜11,乙7)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社は,本件事業譲渡後,別紙物件目録記載の工場・事務所において原告会社が本件事業を開始したことに異議を唱え,複数の顧客(特別会員等)に対し,本件事業を譲り受けた原告Xや原告会社について,要旨「悪徳人間がピラミッド工場(判決注:別紙物件目録記載の工場・事務所をいうものと認められる。)に不法侵入し,被告Y1が出入りできないように警備会社をだまして鍵を変更して,立てこもっている。」,「原告会社や原告Xが行っていることは,詐欺であり,製品ヤングの窃盗であり,売上金の横領であり,近く刑事処罰,民事処罰される。」などの事実を記載した文書を配布したことが認められる。
前示のとおり,原告Xと被告会社との間において本件事業譲渡契約が締結され,原告Xから本件事業の譲渡を受けた原告会社が別紙物件目録記載の工場・事務所において操業することは正当な経済行為であるから,被告会社の上記行為は,「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為」(不正競争防止法2条1項14号)として,不正競争に該当するものと認められる。
そして,本件訴訟において,被告会社が本件事業譲渡契約の存在や効力を強く争っていることにかんがみると,被告会社が今後も上記のような言動に出て,同様の不正競争を行うおそれがあると認められる。
よって,不正競争防止法2条1項14号,3条に基づく原告らの差止請求(原告らが別紙物件目録記載の建物を不法に占有し,製品ヤングを違法に製造,販売しているとの虚偽の事実を告知し,又は流布する行為の差止請求)は,理由がある。
(2)原告らは,更に,被告会社に対し,不正競争防止法2条1項14号,14条の規定に基づく信用回復措置請求として,別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を朝刊全国版社会面広告欄に掲載することを求めているが,前記(1)認定のとおり,被告会社が上記文書を配布したのは特定会員等の顧客に限られており,これを無差別に配布したなどの事実は認められないから,不特定多数の一般消費者や公衆等に対する関係で,原告らの営業上の信用を回復するための措置を講じさせる必要があるとまでは認められない。
したがって,原告らの上記請求については,これを認めることができない。
3争点(6)(被告Y1,被告Y2及び被告Y3の責任)について(1)ア前記1に認定,説示したとおり,被告会社は,本件事業譲渡契約において,被告会社の債務の処理をする義務があったにもかかわらず,これを怠り,原告会社に対し,別紙弁済表2の第三者弁済(製品ヤングの供給)を余儀なくさせたものである。
被告Y1は,被告会社の代表者として,本件事業譲渡契約の締結に直接関与しており,上記の事情を知悉しながら,その任務を怠って,原告会社に上記弁済を余儀なくさせ,同額の損害(5814万5000円)を生じさせたものであるから,会社法429条1項の規定により,原告会社に生じた上記損害を賠償する責任があるというべきである。
イ弁論の全趣旨によれば,原告会社は,被告会社に対する前記1(3)イの求償金債権(5814万5000円)と同様,被告Y1に対する上記損害賠償請求権についても,これを原告Xに譲渡したものと認められる。上記求償金債権と上記損害賠償請求権は,不真正連帯の関係にあると解されるところ,原告Xは,前記1(3)ウのとおり,上記求償金債権のうち2008万6971円を自働債権として,本件事業譲渡代金の弁済に充当しているから,原告Xの被告Y1に対する損害賠償金3805万8029円及びこれに対する訴状送達の日の後である平成21年3月30日以降の遅延損害金の請求は,理由がある。
(2)前記2(1)に認定した被告会社の行為は不正競争(不正競争防止法2条1項14号)に該当するものであるところ,被告Y1は,被告会社の代表者としての任務に反して,自ら上記不正競争を行ったのであるから,会社法429条1項の規定により,原告らに発生した後記4の損害を賠償する責任があるというべきである(なお,被告Y1の原告らに対するこの損害賠償債務と,後記4の被告会社の原告らに対する損害賠償債務とは,不真正連帯の関係にあるものと解される。)。
(3)原告らは,被告Y2及び被告Y3に対しても,会社法429条1項による損害賠償請求をしているが,被告Y2及び被告Y3が被告会社の役員としての職務を行うについて悪意又は重過失があったことについて,何ら具体的な事実を主張,立証しないから,原告らの上記請求は理由がないというべきである。
4争点(7)(被告会社の競業,営業誹謗による原告らの損害)について(1)前記2認定のとおり,被告会社は,「悪徳人間がピラミッド工場に不法侵入し,被告Y1が出入りできないように警備会社をだまして鍵を変更して,立てこもっている。」,「原告会社や原告Xが行っていることは,詐欺であり,製品ヤングの窃盗であり,売上金の横領であり,近く刑事処罰,民事処罰される。」などの虚偽の事実を記載した文書を顧客(特別会員等)に配布したものであるが,これによって原告らの名誉や信用が毀損されたことは明らかである。
上記文書に用いられた文言や,これが配布された部数,期間,場所的範囲等,本件に現れた一切の事情を考慮すれば,被告会社の上記行為によって原告Xが受けた精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は100万円,原告会社の信用が毀損されたことによる損害の額は250万円と認めるのが相当である。
また,原告らは,弁護士を選任して本件訴訟を追行しているところ,本件事案の難易や上記認容額等諸般の事情を考慮すれば,原告らが要した弁護士費用のうち,原告Xについては10万円,原告会社については25万円が被告会社の上記行為(不法行為)と相当因果関係のある損害であると認められる。
(2)原告らは,被告会社が本件事業譲渡後にも不正競争の目的をもって原告会社と同一の事業(本件事業)を行ったこと(競業)による慰謝料等の請求もしているが,仮に,被告会社が本件事業譲渡後に本件事業を行った事実があったとしても,かかる行為のみによって原告らの名誉や信用が毀損されたとは認め難く,原告らの同請求は理由がないというべきである。
(3)したがって,被告会社に対しては不正競争防止法4条に基づき,被告Y1に対しては会社法429条1項に基づき,上記不正競争(営業誹謗)によって原告らが受けた損害の賠償として,原告Xについては110万円,原告会社については275万円,及びこれらに対する上記不正競争の後である平成21年3月30日以降の遅延損害金の請求は,理由がある。
第4結論以上検討したところによれば,原告らの被告会社又は被告Y1に対する請求は,主文第1項ないし第5項の限度で理由があるから,その限度で認容するが,その余は理由がないから,いずれも棄却し,原告らの被告Y2及び被告Y3に対する請求は,いずれも理由がないから,これを全部棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
別紙商標目録1登録番号第417143号出願年月日昭和27年1月21日登録年月日昭和27年10月18日商品及び役務の区分第30類指定商品氷商品及び役務の区分第32類指定商品清涼飲料,果実飲料更新登録年月日昭和48年2月12日昭和58年1月27日平成5年5月28日平成14年6月25日登録商標2登録番号第4892537号出願年月日平成16年8月30日登録年月日平成17年9月9日商品及び役務の区分第32類指定商品清涼飲料,果実飲料登録商標ヤング株式会社(標準文字)別紙物件目録所在北海道千歳市<略>家屋番号<略>種類工場・事務所構造鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺地下1階付3階建床面積1階1932.30?2階753.12?3階475.03?地下1階267.03?別紙製品目録濃縮飲料(製品名:「」(ヤング))young別紙謝罪広告目録<省略>別紙弁済表1,2<省略>
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官 鈴木和典
裁判官 坂本康博