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関連審決 無効2009-800019
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  相違点の認定 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  国内優先権 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  審理範囲 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10386号 審決取消請求事件
原告 X
訴訟代理人弁理士 工藤理恵
被告 タカタ株式会社
訴訟代理人弁理士 青木健二
同 阿部龍吉
同 米澤明
同 片寄武彦
同 田中貞嗣
同 小山卓志
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/06/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2009-800019号事件について平成21年10月21日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「シートベルト用ガイドアンカー」とする特許第4033379号(平成13年7月11日にされた特許出願〔特願2001-21614号〕を国内優先権主張の基礎として,平成14年1月11日に特許出願〔特願2002-4815号〕がされ,平成19年11月2日に設定登録がされたもの)の特許権者である。
原告は,平成21年2月2日,本件特許(請求項の数8)のうち,請求項1,2,3及び7を無効にすることを求めて審判(無効2009-800019号事件)を請求した。
特許庁は,平成21年10月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年11月2日,原告に送達された。
2特許請求の範囲本件出願の明細書(以下,図面と併せ,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲における請求項1,2,3及び7の記載は,次のとおりである(以下,各請求項に係る発明を併せて「本件特許発明」という。甲6。別紙「本件明細書参考図面」参照)。
「【請求項1】車体ピラー等の車体に揺動自在に支持され,ベルトガイド孔にシートベルトをその長手方向に摺動自在に挿通して,このシートベルトを案内するシートベルト用ガイドアンカーにおいて,前記シートベルトの摺動部に凸部または凹部が形成されており, 前記シートベルト用ガイドアンカーの車体取付状態で,前記凸部の車両後方側縁または前記凹部を形成する前記摺動部の車両後方側縁が,前記シートベルトの摺動部に位置する前記ベルトガイド孔に直交する直交方向に対して傾斜しているとともに,その傾斜角が前記シートベルトの前記ベルトガイド孔挿通方向の,前記直交方向に対する傾斜角より大きく設定されていることを特徴とするシートベルト用ガイドアンカー。」(以下「本件特許発明1」という。別紙「本件明細書参考図面」甲6【図1】参照)「【請求項2】車体ピラー等の車体に揺動自在に支持され,ベルトガイド孔にシートベルトをその長手方向に摺動自在に挿通して,このシートベルトを案内するシートベルト用ガイドアンカーにおいて, 前記シートベルトの摺動部に凸部または凹部が形成されており, 前記シートベルト用ガイドアンカーの車体取付状態で,前記凸部の車両後方側縁または前記凹部を形成する前記摺動部の車両後方側縁が,前記シートベルトの摺動部に位置する前記ベルトガイド孔に直交する直交方向に対して傾斜しているとともに,その傾斜角が前記シートベルトの前記ベルトガイド孔挿通方向の,前記直交方向に対する傾斜角より小さく設定されているか,または前記直交方向に対して反対側に傾斜していることを特徴とするシートベルト用ガイドアンカー。」(以下「本件特許発明2」という。別紙「本件明細書参考図面」甲6【図3】参照)「【請求項3】 前記凸部は突条に形成され,または前記凹部は凹溝に形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のシートベルト用ガイドアンカー。」(以下「本件特許発明3」という。別紙「本件明細書参考図面」甲6【図1】,【図4】参照)「【請求項7】 前記凸部の車両前方側縁または前記凹部を形成する前記摺動部の車両前方側縁が前記シートベルトの前記ベルトガイド孔挿通方向とされていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1記載のシートベルト用ガイドアンカー。」(以下「本件特許発明7」という。別紙「本件明細書参考図面」甲6【図7】,【図8】参照)3審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。審決の判断の概要は,以下のとおりである。
(1) 引用発明の内容 審決は,実願平3-96565号(実開平5-44719号)のCD-ROM(以下,単に「甲1」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。)の内容を次のとおり認定した(別紙「引用例参考図面」参照)。
「サッシュピラー5からなる車体の内壁に回転可能に支持され,挿通孔11にシートベルトSをその長手方向に摺動自在に挿通して,このシートベルトSを案内するシートベルト用ショルダアンカにおいて,シートベルトSとの当接部に,溝13同士の間のガイドピース12によって形成される凸部,または溝13からなる凹部が形成されており,シートベルト用ショルダアンカの車体取付状態で,凸部の車両後方側縁または凹部を形成する当接部の車両後方側縁が,シートベルトSの当接部に位置する挿通孔11に直交する直交方向に対して傾斜しているとともに,その傾斜角がシートベルトSの挿通方向とほぼ平行となるよう設定されたシートベルト用ショルダアンカ。」(審決書7頁5行〜14行)(2)本件特許発明1の特許法(以下「法」という。)29条1項,2項への該当性について審決は,以下のとおり,本件特許発明1と引用発明との一致点及び相違点を認定し,本件特許発明1は,甲1ないし5記載の発明と同一であるとはいえないし,甲1ないし5に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない旨判断した。
ア一致点「車体ピラー等の車体に揺動自在に支持され,ベルトガイド孔にシートベルトをその長手方向に摺動自在に挿通して,このシートベルトを案内するシートベルト用ガイドアンカーにおいて, シートベルトの摺動部に凸部または凹部が形成されており, シートベルト用ガイドアンカーの車体取付状態で,凸部の車両後方側縁または凹部を形成する摺動部の車両後方側縁が,シートベルトの摺動部に位置するベルトガイド孔に直交する直交方向に対して傾斜しているシートベルト用ガイドアンカー。」(審決書10頁27行〜11頁 1 行)である点 イ相違点1 「本件特許発明1においては,シートベルト用ガイドアンカーの摺動部における凸部の車両後方側縁または凹部を形成する摺動部の車両後方側縁が,シートベルトの摺動部に位置するベルトガイド孔に直交する直交方向に対して傾斜しているとともに,その傾斜角がシートベルトのベルトガイド孔挿通方向の,直交方向に対する傾斜角より大きく設定されているのに対して,引用発明のものは,前記傾斜角がシートベルトSの挿通方向とほぼ平行となるよう設定されており,上記本件特許発明1に対応する構成を有していない点。」(審決書11頁3行〜10行)。
ウ相違点1に係る判断甲1ないし5には,相違点1に相当する構成が記載されていない。また,車両衝突時等の緊急時においてプリテンショナー又はEA機構の作動によりガイドアンカーに対してシートベルトの偏りが発生することを防止するとの本件特許発明1の解決課題は,甲2において記載も示唆もされていないから,引用発明に甲2記載の技術的事項を適用する動機付けもない。
よって,本件特許発明1は,甲1ないし5記載の発明と同一であるとはいえないし,甲1ないし5記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3) 本件特許発明2の法29条1項,2項への該当性について審決は,以下のとおり,本件特許発明2と引用発明との一致点及び相違点を認定した上で,本件特許発明2は,甲1ないし5記載の発明と同一であるとはいえないし,甲1ないし5に基づき当業者が容易に発明をすることができたとものであるともいえないと判断した。
ア一致点「車体ピラー等の車体に揺動自在に支持され,ベルトガイド孔にシートベルトをその長手方向に摺動自在に挿通して,このシートベルトを案内するシートベルト用ガイドアンカーにおいて, シートベルトの摺動部に凸部または凹部が形成されており,シートベルト用ガイドアンカーの車体取付状態で,凸部の車両後方側縁または凹部を形成する摺動部の車両後方側縁が,シートベルトの摺動部に位置するベルトガイド孔に直交する直交方向に対して傾斜しているシートベルト用ガイドアンカー。」(審決書13頁15行〜23行)である点 イ 相違点2「本件特許発明2においては,シートベルト用ガイドアンカーの摺動部における凸部の車両後方側縁または凹部を形成する摺動部の車両後方側縁が,シートベルトの摺動部に位置するベルトガイド孔に直交する直交方向に対して傾斜しているとともに,その傾斜角がシートベルトのベルトガイド孔挿通方向の,直交方向に対する傾斜角より小さく設定されているか,または直交方向に対して反対側に傾斜しているのに対して,引用発明のものは,前記傾斜角がシートベルトSの挿通方向とほぼ平行となるよう設定されており,上記本件特許発明2に対応する構成を有していない点。」(審決書13頁25行〜32行)。
ウ相違点2に係る容易想到性判断甲1ないし5には,相違点2に相当する構成が記載されていない。また,車両衝突時等の緊急時においてプリテンショナー又はEA機構の作動によりガイドアンカーに対してシートベルトの偏りが発生することを防止するとの本件特許発明2の解決課題は,甲1ないし5において記載も示唆もされていない。よって,本件特許発明2は,甲1ないし5記載の発明と同一であるとはいえないし,甲1ないし5記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明3の法29条2項への該当性について本件特許発明3は,本件特許発明1又は2について更に「凸部は突条に形成され,または凹部は凹溝に形成されている」との限定を加えるものであるから,本件特許発明1及び2と同様に,甲1ないし5記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明7の法29条2項への該当性について本件特許発明7は,本件特許発明1ないし3について更に「凸部の車両前方側縁または凹部を形成する摺動部の車両前方側縁がシートベルトのベルトガイド孔挿通方向とされている」との限定を加えるものであるから,本件特許発明1ないし3と同様に,甲1ないし5記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6) 本件特許発明1の法36条6項1号の要件適合性について原告は,次の2点を主張する。すなわち,?プリテンショナーを備えたシートベルトの場合,シートベルト3をベルトガイド孔の車両前方に移動させない大きさの反力F2を確実に生じさせて本件特許発明1の目的を達成するためには,突条との間の摩擦力と反力の大きさを要件とする突条形成要件A(各突条5の車両後方側縁である各5aは,微小径R1のR部〔丸状部〕又はエッジ部〔尖端〕に形成されていること),及び突条形成要件B(各突条5は,摺動部4b1側に設けられた部分が上方から下方に向かって車両前方に延びるように傾斜し,その傾斜角θ1は,シートベルト3の乗員側部分3aのベルトガイド孔4aへの挿通方向の上下方向に対する傾斜角θb〔シートベルト3の乗員側部分3a長手方向の上下方向に対する傾斜角〕よりも,所定角大きく設定されていること)が必要であるのに,本件特許発明1は,突条形成要件Aを欠如しており,発明の詳細な説明には,突条形成要件Aを欠如した構成でもシートベルト用ガイドアンカーにおけるシートベルトの車両前方への偏りを防止するとの本件特許発明1の目的を達成することができることの説明がされていないから,本件特許発明1に係る特許請求の範囲の記載は,法36条6項1号の記載要件を欠いている,?プリテンショナーとEA機構とを備えたシートベルト装置の場合,さらに突条構成要件C(各突条5の車両前方側縁である各5bは,比較的大きな径R2のR部(丸状部)又は面取り部に形成されていること)が必要であるのに,本件特許発明1は,その突条形成要件Cを欠いており,その構成でも本件特許発明1の前記目的を達成することができることについて十分な説明がされていないから,本件特許発明1に係る特許請求の範囲の記載は,法36条6項1号の記載要件を欠いている,と主張する。
しかし,原告の主張は理由がない。すなわち,原告主張の突条形成要件A又はCは,あくまでも実施の形態の構成として本件明細書において説明されているにすぎず,それらを欠いた構成(段落【0030】,【0031】)であっても,シートベルトの車両前方への移動を抑制するとの本件特許発明1の効果を発生させるものであることが発明の詳細な説明において記載されているから,原告主張の突条形成要件A又はCを欠いた本件特許発明1に係る特許請求の範囲の記載は,法36条6項1号に違反するものではない。
(7)本件特許発明2の法36条6項1号の要件適合性について 原告は,本件特許発明2についても,突条形成要件Aを欠いているから,法36条6項1号に違反すると主張する。
しかし,本件特許発明2において,突条形成要件Aを欠いた構成(段落【0040】,【0041】)であっても,シートベルトの車両前方への移動を抑制するとの本件特許発明2の効果を発生させるものであることが,発明の詳細な説明において記載されているから,原告主張の突条形成要件Aを欠いた本件特許発明2に係る特許請求の範囲の記載は,法36条6項1号に違反するものではない。
第3当事者の主張1取消事由に係る原告の主張審決には,以下のとおり,(1)引用発明の認定の誤り,一致点及び相違点の認定の誤り,法29条1項,2項に係る判断の誤り(取消事由1),(2)法36条6項1号に係る判断の誤り(取消事由2)がある。
(1) 取消事由1(引用発明の認定の誤り,一致点及び相違点の認定の誤り,法29条1項,2項に係る判断の誤り)ア本件特許発明1及び2についての新規性判断の誤り 審決は,前記のとおり,引用発明の内容を認定し,本件特許発明1及び2と引用発明との一致点及び相違点を認定し,本件特許発明1及び2は,いずれも引用発明と同一であるとはいえず,新規性を欠くとはいえない旨判断した。
しかし,審決には誤りがある。すなわち,甲1の段落【0015】には,「また,シートベルトSが通常の挿通方向とは異なる方向に急激に引っ張られた際には,シートベルトSの当接部には溝13が形成されているので,この溝13とシートベルトSとの間に摩擦力が生じる。このとき,前記アンカ1はこの摩擦力も手伝って引っ張り方向へ即座に回動されるとともに,シートベルトSの挿通孔111内での長さ方向への移動,すなわち,片寄りは規制される。」と記載されているが,その記載のうち,「シートベルトSが通常の挿通方向とは異なる方向に急激に引っ張られた際には」との記載は,本件明細書の実施例として示されている【図2】(a)及び(b)(別紙「本件明細書参考図面」甲6【図2】(a)及び(b)参照)に実質上相当するものであって,本件特許発明1及び2は,引用発明と実質上同一であるといえる。よって,この点を看過した審決の引用発明の認定,それを前提とする一致点及び相違点の認定並びに新規性の判断は,いずれも誤りである。
イ本件特許発明1及び2についての容易想到性判断の誤り前記のとおり,本件特許発明1及び2は,甲1記載の引用発明と実質上同一であるといえるから,少なくとも引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。よって,本件特許発明1及び2が法29条2項に該当しないとした審決の判断は誤りである。
ウ本件特許発明3及び7についての新規性及び容易想到性判断の誤り本件特許発明3及び7は,甲1ないし5に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえないとした審決の判断は,誤りである。すなわち,本件特許発明3(突部が突条に形成され,又は凹部が凹溝に形成されていることを特徴とするシートベルト用ガイドアンカー)及び本件特許発明7(凸部または凹部の車両前方側縁がベルトガイド孔挿通方向とされていることを特徴とするシートベルト用ガイドアンカー)は,いずれも甲1に開示されているといえるから,引用発明と実質上同一であり,また,甲1記載の引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。
(2)取消事由2(法36条6項1号に係る判断の誤り)ア本件特許発明1及び2の法36条6項1号に係る判断の誤り本件特許発明1及び2の作用・効果は,「シートベルトの車両前方への偏りをより一層効果的にかつより一層確実に防止する」点にあり,そのような作用効果を有するシートベルト用ガイドアンカーを提供することである(甲6,段落【0012】【0035】)。
そして,「より一層効果的に」かつ「より一層確実に」シートベルトの車両前方への偏りを防止するとの上記課題を達成するためには,シートベルトの車両前方への移動を抑制するに足りる反力F2が確実に発生しなければならない(甲6,段落【0035】)。本件明細書には,反力F2は,次の(a),(b)のメカニズムによって発生する旨が記載されている。
(a)「これらの所定角は,例えば摺動部4b1側で説明すると,図2(a)に示すようにプリテンショナー作動によるシートベルト巻取時にシートベルト3の乗員側部分3aと突条5,5,・・・の車両後方側縁5a,5a,・・・との間の摩擦でシートベルト3の乗員側部分3aが突条5,5,・・・の車両後方側縁5a,5a,・・・に作用する力F1で発生し,かつシートベルト3の乗員側部分3aに作用してこのシートベルト3を車両前方(図において左方)に移動させない大きさの反力F2が発生する角度に設定されている。」(甲6,段落【0031】。以下(a)要件という。)(b)「更に,図1(b)に示すように突条5,5,・・・の車両後方側縁5a,5a,・・・は,微小径R1のR部(丸状部)またはエッジ部(尖端)に形成されている。微小径R1は,前述のシートベルト3を車両前方に移動させない大きさの反力F2が確実にシートベルト3に作用する程度の大きさに設定されている。」(甲6,段落【0032】。以下(b)要件という。)。
しかし,本件特許発明1においては,?シートベルトの摺動部に凸部又は凹部が形成されていること,?その傾斜角がベルトガイド孔挿通方向の,直交方向に対する傾斜角より大きく設定されていることのみが特定され,また,本件特許発明2においても,前記?のほか,?その傾斜角がベルトガイド孔挿通方向の,直交方向に対する傾斜角より小さく設定されているか,又は前記直交方向に対して反対側に傾斜していることのみが特定されており,前記(a)要件及び(b)要件に係る技術的事項は特定されていない。
したがって,本件特許発明1及び2においては,車両衝突時等の緊急時にシートベルトの偏りを「より一層効果的に」,かつ「より一層確実に」防止することができず,発明の詳細な説明において,当該発明の課題を解決できる旨の記載がされていない。
そうすると,本件特許発明1及び2に係る各特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであり,法36条6項1号所定の要件を満たさない。
イ本件特許発明3及び7の法36条6項1号に係る判断の誤り本件特許発明3及び7は,いずれも本件特許発明1及び2を前提とするものであり,本件特許発明1及び2が法36条6項1号に違反するものである以上,本件特許発明3及び7も同様に同号に違反する。
2被告の反論(1) 取消事由1(引用発明の認定の誤り,一致点及び相違点の認定の誤り,法29条1項,2項に係る判断の誤り)に対しア本件特許発明1及び2についての新規性判断の誤りに対し(ア)本件特許発明1のシートベルト用ガイドアンカーは,プリテンショナーやエネルギ吸収機構を備えるシートベルト装置に使用されるシートベルト用ガイドアンカーをも対象とする(甲6,段落【0006】,【0008】)。これに対して,甲1には,プリテンショナーやエネルギ吸収機構についての記載がなく,甲1記載のシートベルト用ショルダーアンカが,プリテンショナーやエネルギ吸収機構を備えるシートベルト装置に使用されるシートベルト用ガイドアンカーをも対象とするとはいえない。すなわち,プリテンショナーやエネルギ吸収機構は一旦作動すると,再使用することができないが,甲1の段落【0003】には,「ところが,前記挿通孔53が摺動する部位は・・・この偏りが繰り返された場合には,シートベルトSの損傷の原因となるおそれがあった。」の記載があることに照らせば,甲1記載のシートベルト用ショルダアンカは,再使用することを意図している。
(イ)また,本件特許発明1及び2は,プリテンショナーやエネルギ吸収機構の作動時には,シートベルトが従来の刊行物(甲1)に開示されているよりはるかに急激に巻き取られ,又は引き出されるため,従来の刊行物に記載されている凸部又は凹部では,シートベルトの偏りを効果的に防止することは難しいとの課題を解決しようとするものである(甲6,段落【0005】〜【0012】)。これに対し,甲1には,プリテンショナーやエネルギ吸収機構について全く記載されておらず,上記解決課題に係る記載もない。
(ウ)さらに,甲1の段落【0015】の「シートベルトSが通常の挿通方向とは異なる方向に急激に引っ張られた」との記載は,シートベルトを使用しようとする者が,シートベルト装着の際に,種々千差万別の態様で引き出す際に「シートベルトSが通常の挿通方向とは異なる方向に急激に引っ張られた」ことと理解するのが合理的であって,「プリテンショナーやエネルギ吸収機構の作動による急激なシートベルトSの通常の挿通方向とは異なる方向に急激に引っ張られた」と理解するのは,誤りである。
また,上記段落【0015】は,単なる溝13との摩擦力によってもアンカ1が回動することを記載しているのみであり,本件特許発明1及び2のように,シートベルトのベルトガイド孔挿通方向とは異なる溝の配向自体の作用によってアンカ1が回動することを記載しているものではなく,アンカ1の回動時に,溝13がどの程度回動し,かつ溝13の配向がどのように変化してシートベルトの挿通方向に対してどのような関係になるのかをまったく開示しておらず,その示唆もない。
(エ) 本件特許発明1は,本件特許発明1及び2の構成要件により,「車両衝突時等の緊急時に,・・・シートベルトの車両前方への偏りをより一層効果的にかつより一層確実に防止できるようになる。」(甲6,段落【0074】)との格別の効果を得ることができる。これに対し,引用発明の構成は,プリテンショナの作動時に反力F2を生ずることがなく,前記効果を奏することができない。
(オ)以上によれば,審決の引用発明,一致点及び相違点の認定に誤りはなく,本件特許発明1及び2の新規性に係る判断には,誤りがない。
イ本件特許発明1及び2についての容易想到性判断の誤りに対し前記アによれば,本件特許発明1及び2は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,本件特許発明1及び2が法29条2項に該当しないとした審決の判断に誤りはない。
ウ本件特許発明3及び7についての新規性及び容易想到性判断の誤りに対し本件特許発明3及び7は,本件特許発明1又は2の構成のすべてを備えることを要件としている。本件特許発明1及び2が新規性を有し,かつ,容易想到とはいえない以上,本件特許発明3,7は新規性を有し,かつ,容易想到とはいえない。
(2)取消事由2(法36条6項1号に係る判断の誤り)に対しア本件特許発明1及び2の法36条6項1号に係る判断の誤りに対し本件特許発明1及び2は,(a)要件及び(b)要件を必須の構成要件とするものではない。また,本件明細書の段落【0035】に記載されている事項は,本件特許発明1の実施の形態の第1例の効果を記載したものであって,本件特許発明1の効果を記載したものではない。本件特許発明1の効果は,本件明細書の段落【0074】に明確に記載されており,本件特許発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明においてすべて記載されている。したがって,審決には,本件特許発明1及び2の法36条6項1号の規定の要件適合性についても,誤りがない。
イ本件特許発明3及び7の法36条6項1号に係る判断の誤りに対し本件特許発明3及び7は,いずれも本件特許発明1又は2を前提とするものであるが,本件特許発明1及び2が法36条6項1号に違反するものではない以上,その違反を前提に本件特許発明3及び7が同号に違反するとする原告の主張は,理由がない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(引用発明の認定の誤り,一致点及び相違点の認定の誤り,法29条1項,2項に係る判断の誤り)について(1)本件特許発明1及び2の法29条1項新規性に係る判断の誤りについて原告は,甲1の段落【0015】の記載,特に「シートベルトSが通常の挿通方向とは異なる方向に急激に引っ張られた際には」との記載に照らせば,引用発明は,シートベルトSが通常の挿通方向とは異なる方向に急激に引っ張られた際には,本件明細書(甲6)の図2(a)及び(b)(別紙「本件明細書参考図面」甲6【図2】(a)及び(b)参照)の状態に実質上相当することになり,甲1には本件特許発明1及び2が実質上記載されているということができるから,審決の引用発明の認定,一致点及び相違点の認定,本件特許発明1及び2の法29条1項新規性に係る判断には誤りがある旨主張する。
しかし,原告の主張は理由がない。その理由は,以下のとおりである。
ア本件特許発明1及び2について(ア)本件特許発明の内容 本件特許発明1及び2の特許請求の範囲(請求項1及び2)は,第2の2記載のとおりである。
(イ)本件特許発明の課題本件明細書及び図面(甲6,段落【0004】〜【0012】,【図12】,別紙「本件明細書参考図面」参照)によれば,本件特許発明は,?シートベルトがベルト装着等のため通常の引出速度で引き出されるよりも比較的急激に引き出された時に,シートベルトがガイドアンカーのベルトガイド孔の車両前方端側に偏る場合があり,このように車両前方端側に偏ると,シートベルトのベルトガイド孔における摺動がスムーズに行われにくくなるばかりでなく,シートベルトを元に戻すのに手間のかかることがある,?このような問題を解決するために,実願平3-96565号(実開平5-44719号)のCD?ROM(甲1)において提案された従来技術では,ガイドアンカーのシートベルトが摺動する部位に,凸部又は凹部をシートベルトの挿通方向に配向するように設け,これらの凸部又は凹部とシートベルトとの間の摩擦によりシートベルトの偏りを防止している,?しかし,当該従来技術では,車両衝突時等の緊急時における,プリテンショナーの作動によるシートベルトの一層急激な巻取りやEA機構(エネルギ吸収機構)の作動による,一層急激な引出しに起因する,シートベルトの偏りを効果的に防止することは難しいという問題点があった,?そこで,本件特許発明は,車両衝突時等の緊急時におけるシートベルトの一層急激な引出しや一層急激な巻取りでのシートベルトの偏りをより一層効果的に,かつより一層確実に防止することのできるシートベルト用ガイドアンカーを提供することを目的としたものであると認められる。
(ウ)本件特許発明1及び2の課題解決手段及び作用本件明細書及び図面(甲6,段落【0018】,【0031】〜【0033】,【0035】〜【0037】,【0045】,【0046】,別紙「本件明細書参考図面」甲6【図1】〜【図4】,【図7】,【図8】参照)によれば,上記課題を解決するため,本件特許発明1は,?特に車両衝突時等の緊急時のシートベルトの巻取りに着目し,?シートベルト用ガイドアンカー(1)のシートベルト(3)の摺動部(4b,4b′)に凸部(突条5)又は凹部(凹溝6)を形成することとし,前記シートベルト用ガイドアンカー(1)の車体取付状態で,前記凸部(5)の車両後方側縁(5a)又は前記凹部(6)を形成する前記摺動部(4b′)の車両後方側縁(4b ′a)が,前記シートベルトの摺動部に位置するベルトガイド孔(4a)に直交する直交方向に対して傾斜させるとともに,その傾斜角(θ1)を前記シートベルトの前記ベルトガイド孔挿通方向の,前記直交方向に対する傾斜角(θb)より大きく設定するもの,すなわち,車両後方側縁をシートベルトの巻取り方向に対して相対的に傾斜させるものとし,その構成により,?車両衝突時等の緊急時にプリテンショナーが作動してシートベルトが急激に巻き取られる場合に,車両後方側縁から反力(F2)がシートベルトに作用することによって,シートベルトがガイド孔の車両前端側に移動することを抑制し,シートベルト3の車両前方への偏りをより一層効果的に,かつより一層確実に防止することができるようにするものであると認められる。
また,本件明細書及び図面(甲6,段落【0019】,【0039】〜【0042】,【図3】,別紙「本件明細書参考図面」)によれば,本件特許発明2は,前記傾斜角(θ1)を前記シートベルトの前記ベルトガイド孔挿通方向の,前記直交方向に対する傾斜角(θb)より小さく設定すること,又は前記直交方向に対して反対側に傾斜させることを特徴とするシートベルト用ガイドアンカーであって,車両衝突時等の緊急時にEA機構が作動してシートベルトが急激に引き出される場合に,前記本件特許発明1と同様にシートベルトの車両前方への偏りを防止する効果を有するものであると認められる。
イ引用発明について(ア)甲1には,実用新案登録請求の範囲として,「車室の内壁に回動可能に支持され,シートベルトが挿通される挿通孔を備えたシートベルト用ショルダアンカにおいて,前記アンカのうち前記シートベルトが摺動する部位に,前記シートベルトを挿通方向に案内し,かつ,前記挿通孔内における前記シートベルトの片寄りを規制するように設けたことを特徴とするシートベルト用ショルダアンカ」の記載がある。
(イ) そして,甲1(明細書の段落【0003】〜【0006】)によれば,引用発明は,?従来,シートベルトが急激に引っ張られた場合のシートベルトの挿通孔内での偏り(別紙「引用例参考図面」甲1【図10】参照)を防止するために挿通孔に直交する方向に溝を形成するものであるところ,?シートベルトが挿通孔に対し傾斜している一方,当該溝が挿通孔に対し直交していることにより,シートベルトを挿通孔に挿通されている方向(斜め)に引っ張ろうとした場合には,当該溝が抵抗となり,かなりの力を必要とするとともに,滑らかに引くことができなかったことから,装着者には必要以上の負担をかけることとなっていた,?また,シートベルトの引っ張り方向と前記溝の方向から形成される角度が大きい場合には,ベルトをゆっくりと引っ張った場合であっても前記溝の摩擦力により,シートベルトに偏りが発生するおそれがあった,?そこで,このような従来技術の問題点にかんがみ,引用発明は,シートベルトが挿通孔の一端部に偏るおそれがなく,かつ,滑らかに引っ張ることの可能なシートベルト用ショルダアンカを提供することを目的としたものであると認められる。
(ウ) そして,甲1(明細書の段落【0008】,【0014】〜【0016】,別紙「引用例参考図面」の甲1【図1】参照)によれば,引用発明は,?シートベルトSとの当接部に,溝13同士の間のガイドピース12によって形成される凸部,又は溝13からなる凹部が形成されており,シートベルト用ショルダアンカの車体取付状態で,凸部の車両後方側縁又は凹部を形成する当接部の車両後方側縁が,シートベルトSの当接部に位置する挿通孔11に直交する直交方向に対して傾斜しているとともに,その傾斜角がシートベルトSの挿通方向とほぼ平行となるよう設定する構成を採用することにより,?当該溝13が,シートベルトSの引っ張り時における抵抗とはならないので,シートベルトSを滑らかに引っ張ることができるとともに,通常の挿通方向とは異なる方向に急激に引っ張られた際には,当該溝13が抵抗となるため,シートベルトSが挿通孔11内で偏るのを規制することができるものであると認められる。
ウ判断 以上の事実を前提として判断する。
(ア)前記のとおり,本件特許発明1及び2は,「本件特許発明は,シートベルト用ガイドアンカーの摺動部における凸部の車両後方側縁または凹部を形成する摺動部の車両後方側縁が,シートベルトの摺動部に位置するベルトガイド孔に直交する直交方向に対して傾斜しているとともに,その傾斜角がシートベルトのベルトガイド孔挿通方向の,?本件特許発明1においては,直交方向に対する傾斜角より大きく設定されている,?本件特許発明2においては,直交方向に対する傾斜角より小さく設定されているか,または直交方向に対する傾斜角より小さく設定されているのに対して,引用発明のものは,前記傾斜角がシートベルトSの挿通方向とほぼ平行となるよう設定されており,上記本件特許発明1に対応する構成を有していない点。」において,相違する。
この点について,甲1の段落【0015】には,シートベルトSが通常の挿通方向とは異なる方向に急激に引っ張られることを想定した記載がある。しかし,同記載は,シートベルトを装着する使用者の操作によって生ずる状態を説明したものであって,本件特許発明1及び2のような車両衝突時等の緊急時におけるプリテンショナーやEA機構の作動によるシートベルトによる,一層急激な巻取りや,一層急激な引出しを想定したものではない。
(イ)また,本件特許発明1及び2は,車両衝突時等の緊急時に通常の挿通方向と同じ方向で,シートベルトが巻き取られ又は引き出される際に,シートベルトと車両後方側縁との間で摩擦が生じるように(シートベルトの巻取りや引出しに抗するように),シートベルトの巻取り又は引出し方向に対して,車両後方側縁を相対的に傾斜させるものである。
これに対し,引用発明は,通常の挿通方向においては,むしろ摩擦を発生させないようにするものである点において,本件特許発明1及び2と引用発明は相違する。
さらに,甲1には,車両衝突時等の緊急時における,プリテンショナーやEA機構の作動による,シートベルトのより一層急激な巻取りや,より一層急激な引出しに関する記載はなく,その示唆もないことから,当業者においては,甲1の記載から本件特許発明1及び2と同様の機序を認識することはできない。
(ウ)以上によれば,本件特許発明1及び2と引用発明は,上記 の構成において相違するとした審決に誤りはない。審決の引用発明の認定,一致点及び相違点(相違点1及び2)の認定,本件特許発明1及び2の新規性に係る判断に誤りがあるとした原告の主張は,理由がない。
(2)本件特許発明1及び2についての容易想到性判断の誤りについて前記(1)で説示したとおり,本件特許発明1及び2は,「本件特許発明は,シートベルト用ガイドアンカーの摺動部における凸部の車両後方側縁または凹部を形成する摺動部の車両後方側縁が,シートベルトの摺動部に位置するベルトガイド孔に直交する直交方向に対して傾斜しているとともに,その傾斜角がシートベルトのベルトガイド孔挿通方向の,?本件特許発明1においては,直交方向に対する傾斜角より大きく設定されている,?本件特許発明2においては,直交方向に対する傾斜角より小さく設定されているか,または直交方向に対する傾斜角より小さく設定されているのに対して,引用発明のものは,前記傾斜角がシートベルトSの挿通方向とほぼ平行となるよう設定されており,上記本件特許発明1に対応する構成を有していない点。」において,相違する。
そして,本件特許発明1及び2は,?引用発明が想定するシートベルト装着者の操作による急激な引出し(甲1の段落【0015】)の範囲を超えて,車両衝突時等の緊急時におけるプリテンショナーやEA機構の作動による急激な巻取りや引出しをも想定しており,それによるシートベルトの偏りをも防止するものである点,?通常のシートベルト挿通方向において摩擦の軽減を意図する引用発明とは異なり,摩擦の発生を積極的に意図し,摩擦によって緊急時の急激な巻取りや引出しによるシートベルトの偏りを防止するものである点,?車両衝突時等の緊急時におけるプリテンショナーやEA機構の作動によるシートベルトのより急激な巻取りや,より急激な引出しによる偏りをも防止するという,甲1には記載や示唆のない課題を解決しようとするものである点において,引用発明は,解決課題,解決課題に対する手段を異にしているから,当業者が,引用発明に基づいて,本件特許発明1及び2の前記異なる構成に到達することが容易であったとはいえない。よって,本件特許発明1及び2が法29条2項に該当しないとした審決の判断には誤りがない。
なお,審決認定の相違点1については,特公昭58-32995号公報(甲2)には,本件特許発明1と同様に傾斜した溝を設けるものが開示されている(別紙「引用例参考図面」甲2【図2】参照)。
しかし,以下のとおり,引用発明(甲1)に,甲2記載の技術的事項を組み合わせて,本件特許発明1の相違点に係る構成に想到することが容易であるとはいえない。すなわち,?甲1には,車両衝突時等の緊急時における,プリテンショナーやEA機構の作動による,シートベルトの急激な巻取りや,急激な引出しに関する記載はなく,その示唆もないことから,引用発明に本件特許発明1と同様の課題はなく,甲2記載の技術的事項を引用発明(甲1)に組み合わせて本件特許発明1の相違点に係る構成に至る動機付けがない。
また,?甲2に記載された技術的事項は,傾斜した溝(「中断箇所6」)を設けることによって,安全ベルトと転向ウエブの表面の間に生ずる,摩擦によるベルト制動作用(摩擦作用)を低減させようとするものであって,ベルトに制動作用(摩擦作用)を発生させることを意図する本件特許発明1とは,逆の作用・効果を企図した技術である(甲2,2頁3欄39行〜4欄19行,3頁6欄7行〜14行)。よって,甲2記載の技術的事項を組み合わせて本件特許発明1及び2を容易に発明することができたものとはいえない。
(3)本件特許発明3及び7の法29条1項,2項に係る判断の誤りについて本件特許発明3及び7の法29条1項該当性に係る原告の主張については,無効審判の理由とはされておらず,かつ,審決においても判断されていない。
したがって,本件審決取消訴訟の審理範囲とすべき事項とはいえないから,この点に係る原告の主張は,主張自体失当である。
なお,本件特許発明3及び7は,本件特許発明1又は2の構成のすべてを備えることを要件とした上で,さらに他の構成をも付加した発明である。前記のとおり本件特許発明1又は2の新規性があり,また,引用発明に基づいて容易に想到することができたとはいえないから,本件特許発明3及び7も当然に新規性があり,容易に想到することができたとはいえない。
2取消事由2(法36条6項1号に係る判断の誤り)(1)本件特許発明1及び2の法36条6項1号に係る判断の誤り原告は,?「より一層効果的に」かつ「より一層確実に」シートベルトの車両前方への偏りを防止するとの本件特許発明1及び2の課題を達成するためには,シートベルトの車両前方への移動を抑制するに足りる反力F2を確実に発生させることができるよう,(a)要件(傾斜角(θ1)を最適に設定すること)及び(b)要件(車両後方側縁を微小径のR部(丸状部)又はエッジ部(尖端)に形成すること〔別紙「本件明細書参考図面」【図1】(b)参照〕)が必要である,?しかし,本件特許発明1及び2においては,(a)要件及び(b)要件に係る技術的事項が特定されていない,?よって,本件特許発明1及び2は,車両衝突時等の緊急時にシートベルトの偏りを「より一層効果的に」,かつ「より一層確実に」防止することができず,発明の詳細な説明において,当該発明の課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えているから,法36条6項1号に違反している,と主張する。
しかし,原告の主張は,理由がない。
すなわち,甲6(段落【0036】)によれば,本件特許発明1又は2は,従来技術が想定しているような通常のシートベルトの引出しよりも一層急激にシートベルトが引き出された場合にも,反力(F2)により,シートベルトのガイド孔での車両前端側への移動が抑制されるものであって,従来技術との対比においては,シートベルトの偏りをより一層効果的に,かつより一層確実に防止することができ,少なくとも,車両後方側縁が通常のシートベルト挿通方向に対して相対的に傾斜してさえすれば,十分に発明の目的を達成し得る旨が記載されている。したがって,本件特許発明1及び2の特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではなく,法36条6項1号に違反しない。
(2)本件特許発明3及び7の法36条6項1号に係る判断の誤りについて原告は,本件特許発明3及び7は,いずれも本件特許発明1及び2を前提とするものであり,本件特許発明1及び2が法36条6項1号に違反するものである以上,本件特許発明3及び7も同様に同号に違反すると主張する。
しかし,原告の主張は理由がない。まず,本件特許発明3及び7の法36条6項1号の要件適合性については無効審判の理由とはされておらず,審決においても判断されていないから,本件審決取消訴訟の審理範囲には属しないものであって,原告の主張は,主張自体失当である。また,仮に審理範囲に含まれるとしても,本件特許発明3及び7は,いずれも本件特許発明1及び2を前提とするものではあるが,前記のとおり本件特許発明1及び2が法36条6項1号に違反するものではない以上,その違反があることを前提として本件特許発明3及び7が同号に違反するとする原告の主張は,その前提を欠くことになり,理由がない。
3結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子
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