審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15ネ2376特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成15ワ18472特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15ネ653特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成15ネ1112各特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成15ワ23648特許権差止請求権等不存在確認請求事件 平成16ワ1989損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 公知技術 / 技術的範囲 / 権利の濫用(権利濫用) / 対象製品 / 出願経過 / 均等 / 均等侵害 / 置き換え / 同一の作用効果 / 容易に想到(容易想到性) / 意識的除外(意識的に除外) / 不存在 / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 不法行為(民法709条) / 同意 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
16年
(ネ)
3911号
特許権差止請求権不存在確認請求,損害賠償請求控訴事件
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控訴人 丸山工業株式会社 同訴訟代理人弁護士 後藤昌弘 同 川岸弘樹 同補佐人弁理士 広江武典 同 武川隆宣 被控訴人 鹿島建設株式会社 同訴訟代理人弁護士 小林幸夫 同 弓削田博 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/10/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人の請求を棄却する。 (3) 被控訴人は,控訴人に対し,2000万円及びこれに対する平成16年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人 主文と同旨 |
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事案の概要
1 本件は,被控訴人(一審本訴原告・反訴被告)において,「軟弱地盤の改良工法及びその改良施工装置」に関する特許権を有する控訴人(一審本訴被告・反訴原告)を相手方として,被控訴人による原判決別紙原告実施工法目録記載の軟弱地盤の改良方法(以下「原告方法」という。)及び原判決別紙原告改良施工装置目録記載の装置(以下「原告装置」という。)の使用が上記特許権の侵害に該当せず,又は,上記特許権には明白な無効事由が存在し,これに基づく差止請求が権利濫用に当たると主張し,被控訴人による原告方法及び原告装置の使用につき上記特許権に基づく差止請求権が存在しないことの確認を求め(本訴),他方,控訴人において,被控訴人に対し,原告方法を使用する被控訴人の行為は上記特許権を侵害すると主張して,不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めた(反訴)事件である。 原判決は,被控訴人による原告方法及び原告装置の使用は上記特許権を侵害しないとして,被控訴人の本訴請求を認容し,控訴人の反訴請求を棄却した。 控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。 2 原判決の補正 「争いのない事実等」,「争点」,「争点に関する当事者の主張」は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1)ア 原判決3頁7行目から8行目にかけての「以下同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。」を「以下,同公報を「本件特許公報」といい,同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。」と改める。 イ 同6頁4行目冒頭から7頁14行目末尾までを次のとおり改める。 「引用文献1(注:特開50-7309号公報)においては,不透膜14の構成については記載されていないが,不透膜をどのような構成とするかは設計的事項に過ぎず,また合成樹脂をラミネートしたシートも,参考文献(注:実開62-190061号公報,特開61-132122号公報,実開昭59-136439号公報,特開昭58-131255号公報,特開昭49-117222号公報)にあるように様々な技術分野においてよく用いられているものに過ぎず,合成樹脂をラミネートしたシートを引用文献1の不透膜として用いて,本願の請求項1のような構成とすることは,当業者にとって容易に想到できたことである。 (中 略) 引用文献4(注:特開平1-14415号公報)の複合シートを通水材として用いることは,当業者にとって容易に想到できたことである。 引用文献5(注:特開平1-105813号公報)には,非透水性シートの下面に透水性シートを一体に積層したシートが記載されており,これを引用文献1のサンドマットと不透膜に代えて用いることは,当業者にとって容易に想到できたことである。(以下省略)」 ウ 出願人(控訴人)による補正 前記イの拒絶理由通知に対し,出願人は,平成13年10月15日(提出日)付けの手続補正書(甲10)を提出して,前記ア記載の各請求項1,4について,通水材を「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」と補正し,本件明細書の記載と同一の記載に補正した。 これと同時に,出願人は,特許庁審査官に対し,同日付けの意見書(甲9)を提出した。同意見書には以下の内容の記載がある。 (ア) 「請求項1,4(注:前記ア記載の各請求項)に係る発明が,ネットとネットの表面に取り付けられた繊維シ-トとからなる帯状の通水材を用い,この通水材を地盤上に残しておかれたドレーン材上端部と接するように配置して,該通水材を通して地盤表面へと吸い出された水及び空気を改良区域外へと排出するようにしているのに対し,引用例1(注:特開50-7309号公報)記載の発明では,水及び空気の排水経路としてサンドマットを用いている点で相違している。」(4頁2〜7行)。「請求項1,4に係る発明における通水材と引用例1記載のサンドマットとは,ともに水及び空気の排水経路として機能するものである。 しかし請求項1,4に係る発明の通水材は,ネットとネットの表面に取り付けた繊維シートとからなり,サンドマットとの作用効果の違いは,本意見書に添付した実験証明書(注:甲11)からも明らかなとおりである。」(4頁13〜17行) (イ) 「審査官殿の挙げられた引用例2(注:特公46-7348号公報),3(注:特開平2-308007号公報),5(特開平1-105813号公報)及び6(特開平6-299535号公報)についても,地盤上に残しておかれたドレーン材上端部と接するように真空ポンプに連結されたネットとネットの表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材を配置することについて,何らの記載も示唆もない。」(5頁13〜16行)」 ウ 同7頁20行目の「実施している工事の実施が」を「実施している工事の施工が」と,同24行目の「原告方法及び原告装置が」を「原告方法及び原告装置の使用が」とそれぞれ改め,同25行目の「証拠保全申立てを行い,」の次に「裁判所の決定を得て,」を加え,同8頁3行目の「原告方法及び原告装置が」を「原告方法及び原告装置の使用が」と改める。 (2)ア 原判決9頁6行目の「長さ方向」を「長手方向」と,同9行目から10行目にかけての「特許公報」を「本件特許公報」と,同12行目の「長さ方向」を「長手方向」と,同14行目の「高さ方向」を「長手方向に置かれたネットの上下」とそれぞれ改める。 イ 同10頁5行目の「特許公報」を「本件特許公報」と,同15行目の「長さ方向」を「長手方向」と,同行目の「高さ方向」を「長手方向に置かれたネットの上下」と,同20行目から21行目かけての「長さ方向」を「長手方向」と,同行目の「高さ方向」を「長手方向に置かれたプラスチック成型板の上下」とそれぞれ改める。 ウ 同12頁5行目及び10行目の各「長さ方向」を「長手方向」とそれぞれ改める。 エ 同14頁4行目の「本件実施工法」を「原告方法」と,同15頁16行目の「特許出願」を「本件特許出願」とそれぞれ改める。 3 当審における控訴人の主張 (1) 原判決は,本件発明にいう「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートからなる帯状の通水材」の意義について,「「ネット」とは,一般に糸などを結合して形成されたものをいう」とし,「原告方法及び原告装置の通水材において用いられているプラスチック成型板は,いずれもプラスチック板に凹凸を付した物であり,糸などを結合して形成された構造の「ネット」には当たらない」旨判示している。 しかしながら,現実の産業技術上,「ネット」なる用語は,原判決の認定するような「糸などを結合して形成されたもの」に限定されるものではない。「ネット」としては,「糸などを結合して形成されたもの」以外に,乙8ないし18に示されているとおり,様々な方法によって製造されたプラスチックネットが知られているのである。 原判決は,「ネット」の構造に関する認定を誤り,その結果,原告方法,原告装置がそれぞれ本件発明1の構成要件B,本件発明2の構成要件Gを充足しないと誤って判断したものである。 (2) 原判決は,控訴人は,本件特許の出願過程において,本件発明に用いる通水材の構成を「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートからなる帯状の通水材」に限定したものと認められ,「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有する周知の排水材料等これと異なる構成を有する通水材を本件発明の通水材から意識的に除外したものと認めるのが相当である旨判示した。 しかしながら,本件特許の出願に際して,控訴人が上記のとおり補正したのは,「水及び空気の排出経路としてサンドマット」を用いる引用例1(注:特開50-7309号公報)に対応してなしたものであり,それ以上のものではない。 また,控訴人が「水及び空気の排出経路としてサンドマット」を使用する方法を超えて,「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有する周知の排水材料等の通水材をすべて本件発明の通水材から意識的に除外したとする証拠は一切ない。 原判決のこの点の認定は誤りである。 |
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当裁判所の争点に対する判断
当裁判所の争点に対する判断は,次のとおり補正,付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」1,2に記載のとおりであるから,これを引用す。 1 争点(1)ア,イ(本件発明1の構成要件B及び本件発明2の構成要件Gの充足性)について (1) 原判決の補正 ア 原判決28頁22行目の「特許公報の図3において,通水材の構造につき」を「本件特許公報の【図3】は,通水材を示す要部拡大断面図であり,同図には,本件発明の通水材の「ネット」部分の構造につき」と改める。 イ 同29頁5行目の「請求項1,2」を「請求項1,4」と,同8行目の「そして,」を削除し,同9行目冒頭から16行目末尾までを改行の上次のとおり改める。 「上記補正後の各請求項の通水材についてみるに,「ネット」とは,一般に糸等を結合するなどして形成された網ないし網状のものをいうものと解されるところ,前記ア(オ)に記載のとおり,通水材を示す要部拡大断面図である本件特許公報の【図3】には,本件発明の通水材の「ネット」部分が糸を結合して形成されていることが示されており,また,この図からみれば,本件発明の通水材の「ネット」部分は,網ないし網状の構造を有するものと認められる。そして,本件明細書には,本件発明の通水材の「ネット」部分の構造について,上記の一般な意味と異なるものと解すべき記載も示唆もない。 上記の各事実に照らすと,本件発明における「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」は,上記の意味での「ネット」とこの表面に取り付けた「繊維シート」からなる帯状のものに限定されると解すべきであり,これを他の意義に解する余地はない。」 ウ 同29頁23行目から24行目にかけての「糸などを結合して形成された構造の「ネット」には当たらない。」を「糸等を結合するなどして形成された網ないし網状の構造を有する本件発明の通水材の「ネット」には当たらない。」 (2) 当審における控訴人の主張について 控訴人は,現実の産業技術上,「ネット」なる用語は,原判決の認定するような「糸などを結合して形成されたもの」に限定されるものではなく,「ネット」としては,「糸などを結合して形成されたもの」以外に,乙8ないし18に示されているとおり,様々な方法によって製造されたプラスチックネットが知られているとし,原判決は「ネット」の構造に関する認定を誤り,その結果,原告方法,原告装置がそれぞれ本件発明1の構成要件B,本件発明2の構成要件Gを充足しないと誤って判断したものである旨主張する。 そこで検討するに,本件発明の通水材の「ネット」については,前記引用に係る原判決第3,1,(1),イ(前記(1)の補正後のもの)のとおりに解すべきであり,したがって,本件発明の通水材の「ネット」には,糸等を結合して形成されたもののほか,証拠(乙8ないし18)に開示されているようにプラスチックシートに多数のパンチ孔を刻設したものなど様々な方法によって形成される網ないし網状のものが含まれることは,控訴人の主張するとおりである。原判決が「ネット」の意義について説示するところは,表現は適切を欠くものの,上記認定と同趣旨をいうものであると解されるのであって,「糸などを結合して形成されたもの」以外の「ネット」が本件発明の通水材の「ネット」の構成を充足しないと判断しているわけではないと考えられる。 「ネット」の意義については上記のように解されるが,そのことは,原告方法及び原告装置の各通水材に用いられるプラスチック成型板が本件発明の通水材の「ネット」の構成を充足することを意味するものではない。すなわち,上記プラスチック成型板は,いずれもプラスチック板に凹凸を付したものにすぎず,網ないし網状が形成されたものでないことは明らかであって,それらは本件発明の通水材の「ネット」の構成を充足するものではないというべきである。 控訴人の主張は採用することができない。 2 争点(2)(均等侵害の成否)について (1) 原判決の補正 原判決30頁4行目冒頭から同31頁14行目末尾までを次のとおり改める。 「(1) 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,@上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,A上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,B上記のように置き換えることに,当業者が対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,C対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,D対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,なお特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最判平成10年2月24日民集52巻1号113頁)。 (2) 本件発明1の構成要件B及び本件発明2の構成要件Gについて 控訴人は,仮に原告方法,原告装置がそれぞれ本件発明1の構成要件B,本件発明2の構成要件Gをそれぞれ文言上充足しないとしても,原告方法及び原告装置の各「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯状の通水材は,構成要件B,Gの各「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる」帯状の通水材と均等であるから,原告方法,原告装置は,それぞれ本件発明1,本件発明2の技術的範囲に属する旨主張する。 ア そこで,前記(1)Dの意識的除外等の特段の事情の有無について検討する。 (ア) 前記引用に係る原判決第2,1,(6)(前記第2,2,(1)の補正後のもの)の本件特許の出願経過に係る事実によれば,本件特許の出願人である控訴人は,出願時の当初明細書の「特許請求の範囲」欄の請求項1,4において,通水材の構成につき何らの限定を加えていなかったこと,その後,控訴人は,特許庁審査官の拒絶理由通知に対し,上記通水材の構成を「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」と補正したこと,手続補正書と同時に提出した意見書において,補正に係る「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」は,水及び空気の排出経路として「サンドマット」を用いる引用例1(注:特開50-7309号公報)記載の発明とは構成及び作用効果が異なる旨説明していることが認められる。 (イ) 証拠(甲29ないし33)によれば,次の事実が認められる。 a 甲29(特公昭和58-3090号公報)には,「ポリプロピレンもしくはポリエチレン等の合成樹脂から成る帯状体の両面に幅方向に並列した断面角型の多数条溝を各面毎に交互に有する凹凸状基体の表裏両面に対し,ナイロン系もしくはテトロン系等の高分子化学繊維から成る透水性で,上記基体と同幅の不織布帯の片面にポリプロピレンもしくはポリエチレン等の合成樹脂粉末を加熱加圧した熱融解促進性不織布帯2枚の上記処理面を夫々圧接加熱することにより,上記粉末が不織布帯面側においてはその繊維間隙内に分散固定し,又上記粉末が基体面側においては熱融着することを特徴とした軟弱地盤の改良に使用するドレーン・ボード」の発明が開示されている。 b 甲30(特開昭63-67321号公報)には,「全面に凹凸条溝を形成させた芯体の両面に不織布を貼合わせたドレーン材において,前記芯体がその両表面に熱融着性接着層を備えており,この接着層の熱融着により前記貼合わせが得られていることを特徴とする土木用ドレーン材」の発明が開示されている。 c 甲31(特公平2-22168号公報)には,「細長くおよそ平らな芯材と該芯材の両端以外の全面を包囲する柔軟性透過性表面材料とを有する地下水排水用材料であって,該芯材はストリップ又はシートからなりそして該芯材の少なくとも一方の面に形成された多数の同じ高さの中空突起を有し,該各中空突起はおよそ平らな頂部を有し且つその高さが同じ側に隣接する中空突起の中心間の距離の4分の1以上であり,そして該中空突起の頂部が前記柔軟性透過性表面材料に固着されていないことを特徴とする排水材料」の発明が開示され,その明細書には「最近においては,一般にゼオテクステイル(geotextiles)と呼ばれる透過性プラスチックポリマー製(編注;へんが「シ」で,つくりが「戸」という文字)布又はガラス繊維性(編注;へんが「シ」で,つくりが「戸」という文字)布が開発されている。・・・プラスチックポリマー材料及びガラス繊維材料はいずれもゼオテクステイルに使用し得る。一連の(編注;へんが「シ」で,つくりが「戸」という文字)布製造技術には,製織,ぬい合わせ及び融合が含まれる。このため,広範囲の性質を有するゼオテクステイル生地を得ることができる。」(2頁第3欄41行〜第4欄8行目),「この発明は,ゼオテクステイル濾布のごとき柔軟性透過性表面材料に被覆された又は包囲された内部支持用スぺータ又は芯を提供するものである。」(4頁第7欄31〜34行)と記載されている。 d 甲32(特開平5-79032号公報)には,「多数の独立突起を有する帯状板状芯材の周面が透水性濾過材で被覆されると共に,該透水性濾過材と前記芯材とが相互に接する部分の内の少なくとも一部が,水の存在下で接着機能を解放せしめる接着性材料によって固着されていることを特徴とする土木用排水材」の発明が開示され,その明細書の段落【0010】には「本発明に用いる透水性濾過材としては,透水性の面からポリエステル,ポリアミド,ポリプロピレン,ポリエチレン各繊維などの熱圧着型不織布が好ましいが,耐水性,耐変形性の点からはポリエステルが一層好ましい。」と記載されている。 e 甲33(特公平6-11991号公報)には,「中空の凹部および凸部が交互に連続したシート断面を有しかつ該凹部および/または凸部の頂点部分に貫通孔を有するプラスチックシートと親水性布帛との複合体から成ることを特徴とする拝水材」の発明が開示され,その明細書には「本発明に使用する布帛6の形態は,前記した繊維糸を織布,編布あるいは不織布化したものを単独あるいは複合したものであって,使用上,形態内容等を特に限定するものではない。・・・不織布としては,スパンホンド方式,ニードルパンチ方式等の乾式織布,抄紙方式の湿式不織布の布帛があり,あるいはマリモ,マリワット等の特殊な布帛があり,これらを単独,あるいは複合して用いることが出来る。」(4頁第7欄6〜16行目)と記載されている。 f 以上の各刊行物の記載によれば,本件特許の出願(平成8年6月17日)当時,本件発明の各通水材に相当する土木用の部材として,「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有する排水材料は,当業者に周知の事項であったと認められる。 (ウ) 上記(ア)及び(イ)で認定した事実からすれば,控訴人は,本件特許の出願過程において,本件発明に用いる通水材の構成を「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」と限定したものであり,これにより,引用例1(注:特開50-7309号公報)記載の発明で用いられているサンドマットや上記(イ)認定の「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有する周知の排水材料等これと異なる構成を有する通水材を本件発明の通水材から意識的に除外したものと認めるのが相当である。 イ 小括 そうすると,原告方法及び原告装置における各「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる帯状の通水材」(構成b,g)は本件発明1及び本件発明2から意識的に除外されたものというべきであるから,前記(1)のその他の均等の要件について判断するまでもなく,原告方法,原告装置はそれぞれ本件発明1の構成要件B,本件発明2の構成要件Gと均等なものであるとは認められない。」 (2) 当審における控訴人の主張について 控訴人は,前記引用に係る原判決第2,1,(6)ウ(前記第2,2,(1)の補正後のもの)の補正は,「水及び空気の排出経路としてのサンドマット」を用いる引用例1に対応してしたものであり,それ以上のものではなく,これにより,控訴人が,「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有する周知の排水材料等これと異なる構成を有する通水材をすべて本件発明の通水材から意識的に除外したとする証拠はない旨主張する。 しかしながら,「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有する周知の排水材料が,当業者にとって周知の事項であることは前記引用に係る原判決第3,2,(2)(前記(1)の補正後のもの)に認定したとおりであり,控訴人が通水材の構成を「ネット」を使用する構成に変更したことからしても,当業者である控訴人においては,上記補正をなすに当たり,本件発明の各通水材から,上記引用例1のサンドマットを除外するほか,同時に上記周知事項に係る排水材料をも除外したものと考えるのが自然であり,この点に関する控訴人の主張は採用できない。 |
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結論
以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の本訴請求を認容し,控訴人の反訴請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 青柳馨 |
裁判官 | 沖中康人 |