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追加

関連審決 判定2001-60033
無効2002-35326
訂正2004-39023
関連ワード 協議 /  技術的範囲 /  特許の有効性 /  契約の解除 /  信義則 /  実施 /  業として /  侵害 /  侵害するおそれ /  実施料 /  実施権 /  専用実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  独立特許要件 /  審決確定(審決が確定) /  公知事実 / 
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事件 平成 16年 (ネ) 2995号 通常実施権抹消登録請求控訴事件
控訴人 株式会社林物産
控訴人 株式会社シンシンブロック
両名訴訟代理人弁護士 増田英男
同補佐人弁理士 西良久
被控訴人 株式会社明治ゴム化成
訴訟代理人弁護士 釘澤一郎
同 釘澤知雄
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/10/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件各控訴を棄却する。
控訴人株式会社林物産の当審において追加した予備的請求を棄却する。
当審における訴訟費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
控訴人らの求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人株式会社林物産(以下「控訴人林物産」という。)に対し,原判決別紙登録目録記載1の通常実施権について,契約解除を原因とする抹消登録手続をせよ。
3 被控訴人は,控訴人株式会社シンシンブロック(以下「控訴人シンシンブロック」という。)に対し,原判決別紙登録目録記載2の通常実施権について,契約解除を原因とする抹消登録手続をせよ。
4 被控訴人は,控訴人林物産に対し,同控訴人が特許庁に対し別紙審判請求書のとおり訂正審判請求をすることを承諾せよ(当審において追加した予備的請求)。
5 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事案の概要
本件は,後記本件特許権の特許権者及び専用実施権者である控訴人らが,本件特許権の通常実施権者である被控訴人に対し,被控訴人が控訴人らの訂正審判請求について承諾をしなかったことは,通常実施権設定契約の協力条項に違反するとして,契約解除を原因とする通常実施権設定登録の各抹消登録手続を求めた事案であり,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決に対し,控訴人らがその取消しを求めて控訴したものである。
当審において,控訴人らは,原審において主張した請求原因事実の一部(原判決第2の2(2))を撤回し,他方,控訴人林物産は,被控訴人に対し,特許庁に対する訂正審判請求についての承諾を求める請求を予備的に追加した。
本件の前提となる事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり訂正の上,当審における主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正 (1) 原判決2頁12行目の「特許第1752617号特許(以下」を「発明の名称を『雨水等の貯留浸透タンク』とする特許第1752617号発明(昭和62年5月23日出願,平成5年4月8日設定登録,以下『本件発明』,その特許を」に改める。
(2) 同3頁下から2行目と末行との間に次のとおり挿入する。
「(5) 訂正審判請求 控訴人林物産は,平成16年1月30日,特許庁に対し,別紙審判請求書のとおりの訂正審判請求(以下『本件訂正審判請求』という。)をしたが,被控訴人の承諾書が未提出であることから,本件訂正審判請求に係る審判事件(訂正2004-39023号)の手続は,同年3月1日,本件訴訟事件の結論が出るまで中止されることとなった。」 (3) 同4頁3行目「違反するか」の後に「(主位的請求関係)」を加え,同頁4行目の「被告が」から5行目の「当たるか。」までを,「被控訴人には,控訴人林物産が本件特許につき訂正審判請求をすることを承諾すべき義務があるか(控訴人林物産の予備的請求関係)。」に改め,同5頁2行目から同頁下から2行目まで及び同6頁下から5行目から7頁3行目までを削る。
(4) 同4頁2行目〜3行目の「本件契約の協力条項」並びに同頁7行目〜8行目及び同6頁7行目の「本件契約の協力事項」を,いずれも「本件協力条項」に改める。
2 控訴人らの主張 (1) 争点1(本件協力条項違反の有無・主位的請求関係)について ア 積水化学工業の無効審判請求は,同社が,本件特許権を侵害する「レインステーション」という製品を販売するため,その前提として行われたものであるから,上記無効審判請求がされ,特許庁により本件特許を無効とする旨の審決がされたという事態は,正に,本件協力条項にいう「本件特許権を侵害するおそれがあるとき」に該当するというべきである。そして,そのように「本件特許権を侵害するおそれ」が存在する以上,控訴人林物産が,その予防のため,上記無効審決に対する対抗措置として行う訂正審判請求について,被控訴人が,「可能な範囲での協力義務」として,同請求を承諾すべき義務を負うことは当然である。
イ 本件契約は,単なる通常実施権の設定契約ではなく,控訴人らと被控訴人とが,特許庁における判定2001-60033号事件の結果,すなわち,被控訴人の販売する雨水貯留用充填体「アクアトラップ」(以下「被控訴人製品」という。)が本件発明の技術的範囲に属するとの判断を前提とし,両者間の紛争を解決するために締結した和解契約である。したがって,本件契約は,被控訴人が本件特許の有効性を認め,将来,その有効性を争わないことをその内容としているものであるから,被控訴人には,本件特許の維持に協力すべき強度の義務がある。
(2) 争点2(被控訴人の承諾義務の有無・控訴人林物産の予備的請求関係)について ア 特許法127条が,特許権者の訂正審判請求につき通常実施権者などの承諾を要件としたのは,特許権者が誤解に基づき不必要な訂正審判請求をしたり,過剰な範囲の訂正を請求したりすること等により,通常実施権者などが不測の損害を被らないようにするためである。したがって,通常実施権者は,諾否をすべて自由に決定することができるものではなく,上記不測の損害を被る事態が存在しない限り,特許権者の訂正審判請求に対する承諾義務があると解すべきである。
イ 本件訂正審判請求には,以下のとおり,被控訴人に対し損害を被らせる事情は何ら存在せず,信義則上,承諾義務を認めるべき事情が存在するから,被控訴人には,特許法127条の上記法意及び信義則に基づき,本件訂正審判請求を承諾すべき義務がある。
(ア) 被控訴人製品は,控訴人らから本件特許権の実施許諾を受けたことにより,平成13年1月26日,社団法人雨水貯留浸透技術協会(以下「雨水協」という。)の技術評価認定を受け,大幅にその販売成績を伸ばすことができた。
(イ) 近時,本件特許権を侵害する有力な競合品が登場してきており,仮に本件特許が無効とされれば,これらの競合品は自由に販売できることになるから,控訴人ら及び被控訴人は厳しい価格競争を余儀なくされ,経済上大きな打撃を被るおそれが大きい。
(ウ) 本件特許について無効審決がされている以上,特許請求の範囲減縮しなければ,本件特許の無効が確定する蓋然性は極めて高い。被控訴人が本件訂正審判請求を承諾しない場合には,控訴人らは,存続する可能性の高い本件特許権をすべて失うことになり,その不利益は極めて大きい。
(エ) 本件訂正審判請求に係る訂正は,無効審判で公知事実として認定された「ニダプラスト」の構造を特許請求の範囲から除外し,独立特許要件を満たすようにするためのものであり,これにより,被控訴人の通常実施権者としての地位には何らの影響も及ぼさず,被控訴人は,従前同様に被控訴人製品の販売を継続できる。すなわち,被控訴人にとって,本件訂正審判請求を承諾することは,利益になりこそすれ,何ら不利益になるものではない。
(オ) 被控訴人は,訂正内容がどのようなものであっても,訂正審判請求を承諾する意思を一切有しない。このような被控訴人の態度は,訂正審判請求について,通常実施権者の承諾を要件としている制度を濫用して,控訴人林物産から,無効審決に対する対抗手段を違法に奪うものである。
(カ) 本件契約は,上記(1)のとおり,控訴人らと被控訴人との間の本件特許をめぐる紛争に関し,和解契約として締結されたものであり,被控訴人には,本件特許権を維持,存続させるべき強度の義務がある。
3 被控訴人の主張 (1) 争点1(本件協力条項違反の有無・主位的請求関係)について ア 本件契約の11条1項(本件協力条項)は,第三者から本件特許権が侵害又は侵害されるおそれがあるときに,基本的には,控訴人らに対し,その排除又は予防に努める義務を課した規定である。すなわち,同項は,第三者が本件特許権を侵害し又は侵害するおそれがある等の事態が生じた場合には,通常実施権者である被控訴人を防御するために,控訴人らが当該侵害行為を排除する義務を負う旨を約した規定というべきであり,控訴人らが本件特許権を侵害する第三者に対し侵害訴訟の提起等をする場合において,侵害態様や被害態様の主張,立証等のために被控訴人の協力が必要なときに,被控訴人が,可能な範囲でこれに協力すべき義務を定めたものにすぎず,訂正審判請求につき承諾すべき義務を含むものではない。無効審判及び審決取消訴訟と侵害訴訟とは,制度及び趣旨を異にし,無効審決の確定を阻止するために本件特許について訂正審判請求をすることと,本件特許権の侵害に対する「排除又は予防」行為とを同視することはできない。実務上も,このような疑義が生じることに備えて,通常実施権の設定契約において,侵害訴訟に関する規定とは別に,無効審判や訂正審判に関する規定を設けるのが一般的であり,本件契約では,あえて,そのような趣旨の規定が盛り込まれていない以上,本件協力条項をもって,その趣旨をも含む規定であると解するのは論理的にも無理である。
イ 控訴人らは,積水化学工業の無効審判請求は,同社が本件特許権を侵害する「レインステーション」という製品を販売するため,その前提として行われたものである旨主張するが,積水化学工業が本件特許について無効審判を請求し,特許庁において本件特許について無効審決がされたことが,本件協力条項にいう「本特許・・・を第三者が侵害し又は侵害のおそれがあるとき」に該当しないことは,上記アに照らして明らかである。そればかりでなく,上記無効審判請求に係る無効審判請求事件(無効2002-35326号事件,以下「別件無効審判請求事件」という。)において,控訴人林物産が,積水化学工業との間で,本件特許に関して,特許権の侵害などの問題が生じたことはない旨主張していること(乙13)とも矛盾する。
ウ 控訴人らは,また,本件契約は単なる通常実施権の設定契約ではなく,本件特許をめぐる控訴人らと被控訴人との間の紛争を解決するために締結した和解契約であるから,被控訴人には,本件特許の維持に協力すべき強度の義務がある旨主張する。しかしながら,本件契約は和解契約ではないし,仮に,和解の趣旨が盛り込まれているとしても,通常の場合に比べて強度の義務が生じるとする根拠が不明であり,控訴人らの上記主張には論理の飛躍がある。
(2) 争点2(被控訴人の承諾義務の有無・控訴人林物産の予備的請求関係)について ア 控訴人林物産は,特許法127条の法意を根拠に,被控訴人には本件訂正審判請求を承諾すべき義務がある旨主張するが,独自の見解にすぎず,失当である。
また,本件訂正審判請求が認められ,本件特許権に係る特許請求の範囲減縮されると,被控訴人製品を使用した雨水貯留浸透施設のみが本件発明の技術的範囲に属することになり,他社の製品を使用したものはその技術的範囲に属しないこととなるものと考えられる。その結果,被控訴人のみが本件特許権に縛られ,既存の競合企業との競争力が著しく低下するおそれがあるばかりでなく,新たな企業の参入によって事業が脅かされるおそれもある。したがって,仮に,控訴人林物産の主張する論理に従ったとしても,被控訴人は,本件訂正審判請求により重大な損害を被るおそれがあることから,本件訂正審判請求を承諾すべき義務を負わないことは明らかである。
イ 控訴人林物産は,信義則上,本件訂正審判請求について承諾義務を認めるべき事情が存在する旨主張するが,むしろ,控訴人らの行為こそ,本件契約違反ないし信義則違反に該当するというべきであり,被控訴人が控訴人林物産の本件訂正審判請求を承諾しないことが,信義則に違反しないことは明らかである。すなわち,被控訴人は,控訴人林物産が別件無効審判請求事件において主張したとおり,積水化学工業の無効審判請求には理由がないものと考え,審決取消訴訟においても,同様の主張によって,現状の特許請求の範囲のまま,本件特許についての無効審決を取り消すことが可能であると判断し,控訴人らに対してその旨の要請(甲5)をした。本件契約(甲2)の19条は,「本契約書に定めのない事項又は本契約条項の解釈について疑義が生じたときは・・・誠意をもって協議のうえ,円満に解決する」旨定めているから,控訴人らは,訂正審判請求の可否について,「誠意をもって協議のうえ,円満に解決する」義務がある。にもかかわらず,控訴人らは,被控訴人の上記要請を無視して,被控訴人に対し,和解金又は既払実施料の全部又は一部の返還,実施料の免除ないし減額といった条件を一切提示することもなく,一方的に,本件契約の解除通告を発し,自らの利益のみを考えて,訂正審判請求により解決を図ろうとしたものである。
ウ 控訴人林物産の上記2(2)イの主張は,以下のとおり,いずれも失当である。
(ア) 控訴人林物産は,被控訴人製品は控訴人らから本件特許権の実施許諾を受けたことにより,雨水協の技術認定評価を受け,販売実績を伸ばすことができた旨主張するが,被控訴人が雨水協の技術評価認定を受けたのは,本件契約の締結前であるから,時系列的に誤りである。
(イ) 控訴人林物産は,本件特許が無効とされれば,控訴人ら及び被控訴人は経済上大きな打撃を被る可能性が大である旨主張する。しかしながら,仮に,本件特許が無効となった場合,控訴人らは被控訴人から実施料の支払を受けられなくなるという経済的損失を受けるとしても,通常実施権者である被控訴人は,実施料の支払を免れるという利益がある上,自由競争となった後も,先行企業として競争上優位な地位にあるから,被控訴人が経済上大きな打撃を被るおそれがあるということはできない (ウ) 控訴人林物産は,被控訴人が本件訂正審判請求を承諾しない場合には,控訴人らは,存続する可能性の高い本件特許権をすべて失うことになり,その不利益は極めて大きい旨主張する。しかしながら,本件特許につき無効審判を請求され,無効審決がされた原因は,控訴人らが積水化学工業に対する対応を誤ったことにあるし,また,本件契約において,侵害訴訟に関する規定とは別に,無効審判や訂正審判に関する規定を盛り込まなかったことも,控訴人ら自身の過失である。
したがって,仮に,控訴人らが,本件特許権をすべて失うことになったとしても,自らの過失が招いた結果であり,当然,控訴人らが甘受すべきものである。
(エ) 控訴人林物産は,被控訴人にとって,本件訂正審判請求を承諾することは,利益になりこそすれ,何ら不利益になるものではない旨主張するが,本件訂正審判請求に係る訂正により,被控訴人が重大な損害を被るおそれがあることは,上記アのとおりである。
(オ) 控訴人林物産は,訂正審判請求につき一切承諾しない被控訴人の態度は,訂正審判請求について通常実施権者の承諾を要件としている制度を濫用して,控訴人林物産から,無効審決に対する対抗手段を違法に奪うものである旨主張するが,上記イのとおり,被控訴人の対応には非難されるべき点はない。
(カ) 控訴人林物産は,本件契約は,和解契約として締結されたものであり,被控訴人には,本件特許権を維持,存続させるべき強度の義務がある旨主張するが,これが失当であることは,上記(1)ウのとおりである。
当裁判所の判断
1 争点1(本件協力条項違反の有無・主位的請求関係)について (1) 本争点に関する当裁判所の判断は,次のとおり控訴人らの当審における主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の「1」の「(1)」及び「(2)ア」のとおりである(ただし,原判決8頁下から2行目の「本件契約の協力事項」を「本件協力条項」に改める。)から,これを引用する。
(2) 控訴人らの当審における主張について 控訴人らは,@積水化学工業の無効審判請求は,同社が本件特許権を侵害する「レインステーション」という製品を販売するため,その前提として行われたものであるから,上記無効審判請求がされ,特許庁により本件特許を無効とする旨の審決がされたという事態は,正に,本件協力条項にいう「本件特許権を侵害するおそれがあるとき」に該当する,A本件契約は単なる通常実施権の設定契約ではなく,被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属するとの特許庁による判定の結果を前提とし,控訴人らと被控訴人との間の紛争を解決するために締結した和解契約であるから,本件契約は,被控訴人が本件特許の有効性を認め,将来,その有効性を争わないことをその内容としているものであり,被控訴人には,本件特許の維持に協力すべき強度の義務がある旨主張する。
ア まず,上記@の主張については,仮に,控訴人らが主張するとおり,積水化学工業の無効審判請求が「レインステーション」という製品を販売する前提となるものであり,かつ,当該製品が本件発明の技術的範囲に属するものであったとしても,そもそも,無効審判請求が認容され,本件特許の無効が確定すれば,当該製品の販売行為等は本件特許権を侵害するものということはできないのであるから,無効審判請求をする行為を特許権の侵害行為と同視することができるものでないことは明らかである。
イ 次に,上記Aの主張についてみると,確かに,本件契約(甲2)においては,その冒頭に,「株式会社林物産・・・,株式会社シンシンブロック・・・及び株式会社明治ゴム化成・・・とは,雨水等の貯留浸透施設・・・の普及を図るために,判定2001-60033号の結果を尊重して特許紛争について和解するにあたり,次のとおり契約を締結する」と記載され,また,第4条において,被控訴人が,控訴人シンシンブロックに対し,「和解金」として3000万円を支払う旨が規定されていることなどからすれば,本件契約は,タキロン株式会社(以下「タキロン」という。)を請求人,被控訴人林物産を被請求人とする特許庁の判定2001-60033号事件において,タキロンの実施する雨水貯留浸透槽(被控訴人製品を使用するものであると推認される。)が本件発明の技術的範囲に属する旨の判定(乙1)がされたことを受けて,控訴人らと被控訴人との間において,本件特許をめぐる紛争を解決するために締結された和解契約としての性質を有するものであると認められる。
控訴人らは,上記のとおり,本件契約が和解契約であることから,本件契約は,被控訴人が本件特許の有効性を認め,将来,その有効性を争わないことをその内容としているものであると主張する。しかしながら,上記認定に係る経緯及び上記(1)において引用する原判決の認定事実(原判決7頁,第4の1(1)ア)に照らせば,本件契約において,被控訴人が,和解のための互譲として,被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属することを認め,これを争わない旨合意したことは推認することができるにしても,それを超えて,本件契約が本件特許をめぐる紛争を解決するための和解契約であるということのみから,被控訴人が本件特許の有効性を認め,将来,その有効性を争わないことまでも,本件契約の内容となっていると解することはできない。したがって,控訴人らの上記Aの主張は,その前提において誤りというほかはない。
(3) 以上によれば,被控訴人が控訴人らの訂正審判請求について承諾をしなかったことは,本件協力条項に違反するものではないというべきである。
2 争点2(被控訴人の承諾義務の有無・控訴人林物産の予備的請求関係)について (1) 控訴人林物産は,特許法127条が,特許権者の訂正審判請求につき通常実施権者などの承諾を要件としたのは,特許権者が誤解に基づき不必要な訂正審判請求をしたり,過剰な範囲の訂正を請求したりすること等により,通常実施権者などが不測の損害を被らないようにするためであるから,通常実施権者は,諾否をすべて自由に決定することができるものではなく,上記不測の損害を被る事態が存在しない限り,特許権者の訂正審判請求に対する承諾義務があると解すべきであり,本件訂正審判請求には,被控訴人に対し損害を被らせる事情は何ら存在せず,信義則上,承諾義務を認めるべき事情が存在するから,被控訴人には,特許法127条の上記法意及び信義則に基づき,本件訂正審判請求を承諾すべき義務がある旨主張する。
(2) 本件契約(甲2)における本件協力条項が,被控訴人に対し,訂正審判請求を承諾すべき義務を課するものとは解されないことは,上記1において引用する原判決の判示(原判決7頁〜8頁,第4の1(2))のとおりであり,他に,本件契約上,被控訴人の承諾義務を定めた規定は見当たらないから,以下,明文の規定がないにもかかわらず,被控訴人に対し,控訴人林物産の主張に係る承諾義務を認めることができるか否かについて,検討する。
特許権について通常実施権の設定を受けた者が,当然に実施許諾を受けた特許の有効性を争うことができないとすると,無効理由を含む特許の実施をした場合であっても実施料の支払等の不利益を甘受しなければならなくなる不合理を生じる。したがって,一般に,通常実施権者であっても,特許の有効性を争わない等の合意がされるなど特段の事情がない限り,通常実施権の設定契約を締結したこと自体から当然に不争義務を負うものではなく,当該実施許諾の基礎となった特許の有効性を争うことは許されるものと解されるところ,上記1(2)イで判示したところからも明らかなとおり,本件契約について,これと別異に解すべき特段の事情は見当たらない。このように,通常実施権者自らが特許の有効性を争うことが許される以上,実施許諾の基礎となった特許につき,第三者が無効審判を請求した場合において,特許権者が無効理由を解消させる目的で行う訂正審判請求について,通常実施権者が承諾をしないことも,それ自体,直ちに信義則違反等の問題を生じさせるものでないことは明らかである。
そして,本件契約は,11条1項(本件協力条項)において,第三者による本件特許権の侵害に対し,控訴人らの排除又は予防の義務及びそれに対する被控訴人の協力義務を規定しているにもかかわらず,第三者から無効審判を請求された場合の取扱いや,その際に無効理由を解消させる目的で行う訂正審判請求の取扱いについては,特段の規定を置いていない。加えて,上記1(2)イのとおり,本件契約においては,和解のための互譲として,被控訴人が,被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属することを認め,これを争わない旨合意したことは推認することができるにしても,被控訴人が本件特許の有効性を確定的に認めることまでが,本件契約の内容となっているとまでは解されない。こうした点にかんがみると,本件契約締結時の当事者の合理的意思としては,訂正審判請求に対する被控訴人の承諾については,特に取扱いを定めず,文字どおり,フリーハンドの状態に置いたものと解するのが相当であり,以上によれば,被控訴人には,控訴人林物産の本件訂正審判請求を承諾すべき義務はないというべきである。
(3) これに対し,控訴人林物産は,上記のとおり,特許法127条の法意からすれば,通常実施権者は,諾否をすべて自由に決定することができるものではなく,不測の損害を被る事態が存在しない限り,特許権者の訂正審判請求に対する承諾義務があると解すべきである旨主張する。
確かに,控訴人林物産がその主張の根拠とする平成13年8月20日発明協会発行「工業所有権法逐条解説〔第16版〕」(甲20,以下「逐条解説」という。)には,「もともと訂正審判の請求は,当該特許権に対して無効審判を請求してくることに対する防禦策と考えれば,その特許権についての・・・通常実施権者・・・にとって利益になることはあっても不利益になることはないのであるが,実際には特許権者が誤解にもとづいて不必要な訂正審判を請求することもあり,また瑕疵の部分のみを減縮すれば十分であるのにその範囲をこえて訂正することも考えられ,そうなると前記の権利者は不測の損害を蒙ることもあるので,一応訂正審判を請求する場合にはこれらの利害関係ある者の承諾を得なければならないこととしたのである」(336頁)との記述がある。しかしながら,特許権者と通常実施権者との間において,特許の有効性について紛争がある場合はもとより,特許の有効性については全く白紙の状態である場合であっても,特許が無効となることにより,通常実施権者は,実施料を支払うことなく,当該技術を自由に使用することができるという利益があることは明らかであるから,そのような場合,「訂正審判の請求は,当該特許権に対して無効審判を請求してくることに対する防禦策と考えれば,その特許権についての・・・通常実施権者・・・にとって利益になることはあっても不利益になることはない」ということはできないから,逐条解説の上記記述は,専ら,通常実施権者が特許の有効性を自認するなど,特許権者と通常実施権者との間で特許の有効性について争いがないことが明らかな場合を念頭に置いたものであると解するのが相当である。
そうすると,上記のとおり,控訴人らと被控訴人との間において,本件特許の有効性について争いがないことが明らかであるということはできない本件においては,特許法127条の規定ないし法意は,被控訴人に本件訂正請求を承諾すべき義務を認める根拠とはならないというべきである。
(4) さらに,控訴人林物産は,信義則上,本件訂正審判請求について承諾義務を認めるべき事情が存在する旨主張し,@本件特許権の実施許諾を受けたことにより,被控訴人製品が雨水協の技術評価認定を受け,販売実績を伸ばすことができたこと,A本件特許が無効とされれば,控訴人ら及び被控訴人は経済上大きな打撃を被るおそれが大きいこと,B被控訴人が本件訂正審判請求を承諾しない場合には,控訴人らは,存続する可能性の高い本件特許権をすべて失うことになり,その不利益は極めて大きいこと,C被控訴人にとって,本件訂正審判請求を承諾することは,利益になりこそすれ,何ら不利益になるものではないこと,D訂正審判請求につき一切承諾しない被控訴人の態度は,訂正審判請求について通常実施権者の承諾を要件としている制度を濫用して,控訴人林物産から,無効審決に対する対抗手段を違法に奪うものであること,E本件契約は,控訴人らと被控訴人との間の本件特許をめぐる紛争に関し,和解契約として締結されたものであり,被控訴人には,本件特許権を維持,存続させるべき強度の義務があることを挙げる。
しかしながら,上記@の主張については,被控訴人製品が雨水協の技術評価認定を受けたのが平成13年1月26日であり(甲15),本件契約の締結日が平成14年1月16日であること(甲2)からすれば,そもそも,本件特許権の実施許諾を受けたことと雨水協の技術評価認定との間には何らの因果関係も認められず,失当というほかはないし,上記A及びCの主張については,上記(3)のとおり,通常実施権者である被控訴人においては,本件特許が無効となることにより,実施料を支払うことなく,当該技術を自由に使用することができるという利益があることは明らかであるから,その主張の前提自体,採用し難いものというべきである。
また,上記Bの主張については,被控訴人が本件訂正審判請求を承諾しない結果,別件無効審判請求事件に係る無効審決が確定することとなれば,控訴人らが大きな損害を被るであろうことは,控訴人林物産の主張するとおりであるにしても,本件契約の締結に際し,第三者から無効審判を請求された場合の取扱いや,その際の防御手段としての訂正審判請求の取扱いについては,特段の規定を置かないという選択をした以上は,控訴人らがそのような不利益を受けることもやむを得ないというほかはない。さらに,上記D及びEの主張が失当であることは,上記(2)及び(3)において判示したところから明らかというべきであるから,結局,控訴人林物産の上記主張は採用の限りではない。
(5) 以上のとおり,控訴人林物産の主張に係る特許法127条の法意及び信義則を考慮しても,被控訴人に本件訂正審判請求を承諾すべき義務を認めることはできないというべきである。
3 結論 以上によれば,控訴人らの被控訴人に対する本件契約の解除に基づく通常実施権設定登録の各抹消登録手続請求(主位的請求)はいずれも理由がなく,控訴人林物産の被控訴人に対する本件訂正審判請求についての承諾請求(当審において追加した予備的請求)も理由がない。
よって,控訴人らの主位的請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件各控訴は理由がないから棄却し,控訴人林物産の当審において追加した予備的請求も失当として棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 早田尚貴
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