審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20ワ8086特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的範囲 / 参酌 / 特許発明 / 実施 / 交換 / 間接侵害 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 実施料 / 不法行為(民法709条) / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
21年
(ワ)
11480号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 アテンションシステム株式会社 被告 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ 同訴訟代理人弁護士 深井俊至 同補佐人弁理士 大塚住江 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2010/04/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1当事者の求めた裁判1原告 被告は,別紙被告製品目録記載の携帯電話機を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。 被告は,前項記載の携帯電話機を廃棄せよ。 被告は,原告に対し9600万円及びこれに対する平成21年10月29日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5%の割合の各金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 仮執行宣言2被告主文同旨第2当事者の主張1 請求原因(原告の主張) 当事者ア原告は,コンピュータシステムの開発を目的とする株式会社である。 イ被告は,携帯電話機を製造販売する株式会社である。 本件特許権ア原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の請求項1に係る発明を「本件特許発明」という。また,本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。 特許番号 特許第3010152号発明の名称通信不正傍受阻止システム出 願 日 平成9年12月19日出願番号 特願平9-365392号登 録 日 平成11年12月3日特許請求の範囲「【請求項1】 第1の呼び出し番号と,公開されていない第2の呼び出し番号とを有する通信機,および前記第1の呼び出し番号と前記第2の呼び出し番号とを関連付けて記憶した記憶手段を有する他の通信機を含み,前記他の通信機に前記第1の呼び出し番号が通知されることに対応して,前記他の通信機が前記第2の呼び出し番号に対応した回線で前記通信機を呼び出す,通信不正傍受阻止システム。」イ構成要件の分説本件特許発明の構成要件は,次のとおり分説される(以下,各構成要件を,それぞれに付した符号に対応させて「構成要件A」などという。)。 A第1の呼び出し番号と,公開されていない第2の呼び出し番号とを有する通信機,Bおよび前記第1の呼び出し番号と前記第2の呼び出し番号とを関連付けて記憶した記憶手段を有する他の通信機を含み,C前記他の通信機に前記第1の呼び出し番号が通知されることに対応して,前記他の通信機が前記第2の呼び出し番号に対応した回線で前記通信機を呼び出す,D通信不正傍受阻止システム。 ウ 本件特許発明の解釈本件特許発明における「第1の呼び出し番号」とは,例えば090で始まる自己の電話番号であり,「公開されていない第2の呼び出し番号」とは,例えば090で始まるこれから電話を掛ける相手側の電話番号であり,「通信機」とは携帯電話端末を指し,「他の通信機」とは,例えば交換機・基地局を指し,「記憶手段を有する」とは,携帯電話端末に相手側の電話番号を入力したことにより第2の電話番号を有することを意味する。 被告の行為ア被告は,業として,別紙被告製品目録記載の各携帯電話機(以下,併せて「被告製品」という。)を製造販売し,又は販売の申出をしている。 イ 被告製品は以下の構成を備える。 a第1の呼び出し番号と,公開されていない第2の呼び出し番号とを有する通信機, bおよび前記第1の呼び出し番号と前記第2の呼び出し番号とを関連付けて記憶した記憶手段を有する他の通信機を含み, c前記他の通信機に前記第1の呼び出し番号が通知されることに対応して,前記他の通信機が前記第2の呼び出し番号に対応した回線で前記通信機を呼び出す, d通信不正傍受阻止システム。 ウ そうすると,被告製品の構成aないしdは,構成要件AないしDを充足するので,被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属する。 損害の額ア 被告が平成12年から同21年3月まで被告製品により得た売上高は30兆6000億円を下らない。 イ 本件特許発明の技術分野,被告製品の市場等にかんがみれば,本件特許発明について相当な実施料は9600万円を下らない。 ウ したがって,特許法102条3項により,9600万円が原告の損害となる。 よって,原告は,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の製造販売等の差止め及び同条2項に基づく被告製品の廃棄並びに民法709条の不法行為に基づく損害賠償として9600万円及び本件訴状送達の日の翌日である平成21年10月29日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払いを求める。 2 請求原因に対する認否・反論 請求原因 アは不知。 同イのうち,被告が携帯電話機を販売する株式会社であるとの点は認め,その余は否認する。 請求原因 ア及び同イはいずれも認め,同ウは否認ないし争う。 請求原因 アのうち,被告が被告製品を業として販売し,また販売の申出をしていることは認め,その余は否認する。 同イは否認する。原告の主張する被告製品の構成は,単に本件特許発明の構成要件を引き写したにすぎず,被告製品の特定になっていない。 同ウは否認ないし争う。 請求原因 はいずれも否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断1 争いのない事実請求原因 ア・イの事実,及び請求原因 アのうち被告が業として被告製品を販売している事実については,いずれも当事者間に争いがない。 2 請求原因 ウについて 原告は,前記のとおり,本件特許発明の特許請求の範囲の「第1の呼び出し番号」とは,例えば090で始まる自己の電話番号であり,「公開されていない第2の呼び出し番号」とは,例えば090で始まるこれから電話を掛ける相手側の電話番号であり,「通信機」とは携帯電話端末を指し,「他の通信機」とは,例えば交換機・基地局を指し,「記憶手段を有する」とは,携帯電話端末に相手側の電話番号を入力したことにより第2の電話番号を有することを意味すると主張する。 しかしながら,構成要件Cでは「前記他の通信機が前記第2の呼び出し番号に対応した回線で前記通信機を呼び出す」とされており,ここにいう「前記通信機」は構成要件Aの「通信機」すなわち自らの携帯電話端末を指すものであって,これから電話を掛ける相手方の携帯電話端末等の通信機を指すものでないことは明らかである。 したがって,原告の上記解釈は,本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載と明らかに矛盾するものである。 また,証拠(甲2)によれば,本件明細書には以下の記載があることが認められる。 「【発明の属する技術分野】この発明は通信不正傍受阻止システムに関し,特にたとえば,携帯電話などのような携帯通信機を用いた通信不正傍受阻止システムに関する。」 「【0003】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,携帯通信機と基地局との間では,無線によって通信が行われているため,第三者による傍受が可能である。特に,携帯通信機の呼び出し番号がわかっていれば,特定の人の携帯通信機の会話を聞くことができる。最近のデジタル信号化によって,傍受が困難になってはいるが,それでも特定の携帯通信機の通信を傍受することは可能である。」 「【0002】 【従来の技術】携帯電話などの携帯通信機を用いて通信をする場合,携帯通信機から相手の電話などの呼び出し番号を送信することによって,移動電話交換機と一般の電話交換機によって回線が接続される。この場合,携帯通信機と各地に設置された基地局との間においては,無線によって通信が行われ,基地局と移動電話交換機とが有線で接続される。さらに,移動電話交換機が一般の電話交換機に接続され,一般の電話交換機から相手の電話に接続される。また,一般の有線の通信回線を利用する電話などでは,相手の電話の呼び出し番号を送信することにより,電話交換機によって相手の電話に接続される。」 「【0005】それゆえに,この発明の主たる目的は,無線あるいは有線の回線を利用する通信機から相手を呼び出したときに,その通信内容の傍受を防ぐことができる通信不正傍受阻止システムを提供することである。」 「【0006】 【課題を解決するための手段】この発明は,第1の呼び出し番号と,公開されていない第2の呼び出し番号とを有する通信機,および第1の呼び出し番号と第2の呼び出し番号とを関連付けて記憶した記憶手段を有する他の通信機を含み,他の通信機に第1の呼び出し番号が通知されることに対応して,他の通信機が第2の呼び出し番号に対応した回線で通信機を呼び出す,通信不正傍受阻止システムである。この通信不正傍受阻止システムにおいて,第1の呼び出し番号に対応した回線によって通信機から他の通信機が呼び出されたことに対応して,第1の呼び出し番号に対応した回線を遮断するとともに第2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えて通信機に接続することができる。また,他の通信機は,第1の呼び出し番号に対応した回線から第2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えたときに第1の呼び出し番号と第2の呼び出し番号とが1対1で対応しているかどうかを確認するようにしてもよい。さらに,他の通信機には通信機の持ち主の暗証コードが記憶され,第2の呼び出し番号に対応した回線がつながったのちに通信機から暗証コードを他の通信機に送信することによって他の通信機に記憶された暗証コードと通信機から送られてきた暗証コードとが照合されるようにしてもよい。」 「【0007】公開されていない第2の呼び出し番号に対応した回線で通信を行うことにより,他人がその回線を探すことが困難になり,通信内容の傍受が困難となる。また,第2の呼び出し番号は公開されていないため,第2の呼び出し番号に対応して傍受することが困難であり,さらに第2の呼び出し番号を有する通信機を偽造することも困難である。通信機から他の通信機を呼び出したときに,第1の呼び出し番号に対応した回線から第2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えることにより,第1の呼び出し番号に対応して傍受をしていても,回線が切り換えられることにより傍受できなくなる。さらに,たとえ,第2の呼び出し番号を有する通信機を偽造したとしても,第2の呼び出し番号を有する通信機が複数あることになるため,第2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えたときに,複数の通信機が呼び出されることになる。したがって,第1の呼び出し番号と第2の呼び出し番号とが1対1で対応しているかどうかを確認することにより,不正な傍受を見つけることができる。さらに,第2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えられたのちに,通信機から暗証コードを送信し,他の通信機に記憶された暗証コードと照合することにより,正当な人からの通信であることを確認することができ,不正な通信による傍受を防止することができる。」 本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載に加え,上記明細書の記載をも参酌すれば,本件特許発明は,携帯電話端末等の「通信機」と交換機・基地局等の「他の通信機」との間の通信内容を不正に傍受されることを防止するためのものであり,「公開されていない第2の呼び出し番号」は,「通信機」と「他の通信機」との通信回線を確立するために当該「通信機」に個別に割り当てられた番号であって,原告が主張するような,「これから電話を掛ける相手方の電話番号」でないことは明らかである。 また,証拠(甲2)によれば,本件明細書の段落【0010】には,実施例の説明として「第2の呼び出し番号は,携帯通信機14に与えられるものであるが,非公開のものであり,携帯通信機14の持ち主にも知らされない。」と記載されているところ,原告が「第2の呼び出し番号」として主張する「これから電話を掛ける相手側の電話番号」は,当然,携帯通信機の持ち主は知っているものであるから,原告の解釈はかかる記載とも矛盾する。 そもそも,原告が「公開されていない第2の呼び出し番号」として主張する「これから電話を掛ける相手側の電話番号」は,上記明細書の段落【0002】で紹介されている従来技術における「相手の電話などの呼び出し番号」に他ならないから,原告の解釈に従えば,本件特許発明は従来技術と何ら異ならないことになってしまう。 このように,原告の本件特許発明に係る解釈は,本件特許発明に係る特許請求の範囲や本件明細書の記載からおよそかけ離れたものであり,到底採用できるものではない。 3請求原因 イ・ウについて原告は,被告製品が前記aないしdの構成を備える旨主張するところ,これは単に本件特許発明の記載を引き写したにすぎず,これのみでは被告製品の具体的な構成は明らかでない(なお,本件特許発明の構成要件をすべて充たすためには,「通信機」たる被告製品のみでは足りないが,原告は特許法101条各号に掲げられた間接侵害が成立するための要件を主張していない。)。 そこで,当裁判所は,被告製品において採用されている携帯電話端末と交換機・基地局との間の通信回線確立の手段について,具体的に主張立証をするよう原告に求めたが,原告は十分な主張立証をしなかった(被告製品における交換機・基地局との通信回線確立の手段は,当業者に公知の標準規格に則っていることが窺えるにもかかわらず,原告はその標準規格さえ十分な主張立証をなし得ない。)。 このように,本件では,本件特許発明と対比するに足りる被告製品の構成が全く主張立証されていないので,本件特許発明と被告製品とを対比することすらできない。 よって,被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。 第4結論以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないので,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山田陽三 |
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裁判官 | 達野ゆき |
裁判官 | 北岡裕章 |