運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 発明者 /  公然実施(29条1項2号) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  警告 /  抵触 /  意匠権 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  混同 /  拡張 /  変更 /  審決確定(審決が確定) / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 20年 (ワ) 17170号 損害賠償請求事件
平成 21年 (ワ) 2608号 損害賠償請求事件
A事件原告,B事件原告ウ エダ産業株式会社(以下「原告会社」という )。 A事件原告,B事件原告P1 A事件被告有限会社 オカザキ(以下「被告会社」という )。 (会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律2 条1項による旧有限会社) A事件被告 P2
上記2名訴訟代理人弁護士P3 B事件被告 P3
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2010/05/06
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1原告ら2(1) A事件ア被告会社及び被告P2は,原告会社に対し連帯して7000万円及びこれに対する平成21年1月16日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
イ被告会社及び被告P2は,原告P1に対し,連帯して1000万円及びこれに対する平成21年1月16日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(2) B事件ア被告P3は,原告会社に対し1000万円及びこれに対する平成21年2月28日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
イ被告P3は,原告P1に対し500万円及びこれに対する平成21年2月28日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,被告らの負担とする。
(4) 仮執行宣言(なお,A事件の訴状訂正申立書には,訂正後の請求の趣旨として「被告\80,000, 会社と被告P2は,原告会社及び原告P1に対し,連帯責任にての損害金に加えて本訴状送達日より,支払済みに至るまで年6分の割000-合による金員を支払え 」と記載していることが認められるが,その趣旨 。
は,原告ら準備書面(1)9頁の記載から,上記(1)のとおりの裁判を求めている趣旨であることが明らかである )。
2被告ら主文と同旨第2事案の概要1前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない )。
(1) 当事者ア原告ら3原告会社は,土木用建設器具を製造販売する会社である。
原告P1は,原告会社の代表取締役である。
イ被告会社及び被告P2被告会社は,建設用機械及び器具を製造販売する会社である。
被告P2は,被告会社の代表取締役である。
ウ被告P3同被告は 弁護士であり 被告P2と原告会社との間の前訴 後記(5) ,, (参照)において,被告P2の訴訟代理人を務めた。
(2) 本件特許権等,(, ),(), 被告P2は 次の特許 本件特許1 2意匠 本件意匠 についてそれぞれ,特許権(本件特許権1,2 ,意匠権(本件意匠権)を有して )いた。
ア本件特許1(甲3の64頁以下)発明の名称廃材用切断装置出願日平成13年3月12日登録日平成16年5月14日特許番号特許第3553514号(以下,本件特許1に係る発明を「本件発明1」という )。
イ本件特許2(甲3の69頁以下)発明の名称廃材用切断装置出願日平成13年9月27日登録日平成16年9月3日特許番号特許第3593514号(以下,本件特許2に係る発明を「本件発明2」という )。
ウ本件意匠(甲3の74頁以下)出願日平成14年8月20日4登録日平成15年7月11日意匠番号意匠第1183428号意匠に係る物品木製廃材切断機用刃(3) 本件特許2の無効ア無効審判の請求原告会社は,平成19年10月31日,被告P2を被請求人として,本件特許2の無効審判を請求した(甲9の721頁 。)イ無効審決(甲7の2)特許庁は,平成20年7月4日,本件発明2(請求項1,2に係る発明)について,いずれも,その出願日前に公知の刊行物(平成13年9月19日発行の建設機械新聞15面:甲9の264枚目)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとして,特許法29条2項,123条1項2号により,本件特許2を無効とする旨の審決をした(以下「本件審決」という。。)ウ本件審決の確定被告P2は,本件審決の取消訴訟を提起することをしなかったので,本件審決は確定し,本件特許2は無効となった。
(4) 原告各製品の製造・販売(甲3,弁論の全趣旨)原告は,パワーショベル等に取り付けて使用する,廃材用切断装置(商品名: ワニラーV 〔イ号物件「フォークワニラーV 〔ロ号物件 , 「」〕,」〕「ニューワニラー 〔ハ号物件 。以下,イ号ないしハ号物件を併せて「原 」〕告各製品」という )を製造・販売していた。 。
(5) 前訴の提起及びその後の経過ア訴えの提起(甲1),,,, 被告P2は 原告会社に対し 平成18年8月31日 本件特許権12,本件意匠権侵害を理由として,原告各製品の製造・販売等の差止5を求めて大阪地方裁判所に提訴した(以下「本件前訴」という。。)本件前訴を提起した際の訴訟代理人は,被告P3とは異なる弁護士であった。
イ請求の拡張(甲2)被告P3は,本件前訴において,被告P2の訴訟代理人を引き継ぎ,平成18年12月15日,訴状補正申立書を提出し,原告会社に対し合計3000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求を追加した。
ウ前訴第1審判決(甲3:大阪地裁判決)大阪地方裁判所は,平成20年3月3日,審理を終結し,同年5月29日,原告会社に対し,原告各製品の製造・販売等の差止と,損害賠償として3000万円及びこれに対する遅延損害金の各支払を命じる仮執行宣言付判決を言い渡した(以下「前訴第1審判決」という。。)上記判決では,イ号物件が本件特許権2を侵害し3700万円の損害, , が発生し ロ号物件が本件特許権2を侵害し100万円の損害が発生しハ号物件が本件特許権1,2を侵害し300万円の損害が発生したとそれぞれ認定されたが,本件意匠権侵害は認められなかった。
エ執行停止決定原告会社は,上記仮執行宣言付判決について,平成20年6月2日,控訴を提起するとともに(甲6 ,強制執行の停止を求め,大阪地方裁 )判所は,平成20年6月11日,原告会社に3500万円の担保を立てさせた上で,上記仮執行宣言付判決に基づく強制執行の停止を決定した(甲4,5 。)オ知的財産高等裁判所での審理(一部取下と附帯控訴)被告P2は 平成20年9月26日 本件特許2の無効審決の確定 前 ,, (), (), 記(3) を受け 本件特許権2に係る訴えを取り下げるとともに 甲86前訴第1審判決の敗訴部分(意匠権侵害に関する請求)について附帯控訴した(甲13の6頁 。)カ前訴控訴審判決(甲54,乙1:知財高裁判決)知的財産高等裁判所は,平成21年1月28日,本件特許権1に基づく請求について,控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した(訴えの一部取下の結果,ハ号物件の製造・販売等の差止と損害賠償として300万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じる内容となった。。)キ上告の提起原告会社は,前訴控訴審判決(知財高裁判決)を不服として,平成21年2月9日,上告及び上告受理申立をした(甲58の2 。)ク前訴上告審の結果最高裁判所は,平成21年6月5日,上告棄却の判決,上告不受理の決定をした(弁論の全趣旨:原告ら準備書面(3) 。)2原告らの請求原告両名は,被告P2の本件前訴の提起は,無効な特許を理由とした違法なものであり,その結果,原告会社において1億0954万9036円の損害を受け,原告P1において2000万円の精神的損害を受けたとして,次のとおりの金員及びこれらに対する遅延損害金の支払をそれぞれ求めている。
(1) 原告会社の損害1億0954万9036円のうちア7000万円について(A事件の一部)原告会社が,被告会社及び同P2に対し,違法な本件前訴の提起に係る共同不法行為を理由として請求する。
イ1000万円について(B事件の一部)原告会社が,被告P3に対し,被告P2の訴訟代理人として違法な本7件前訴の訴訟行為をしたことを理由として請求する。
(2) 原告P1の損害2000万円のうちア1000万円について(A事件の一部)原告P1が,被告会社及び同P2に対し,違法な本件前訴の提起に係る共同不法行為を理由として請求する。
イ500万円について(B事件の一部)原告P1が,被告P3に対し,被告P2の訴訟代理人として違法な本件前訴の訴訟行為をしたことを理由として請求する。
3争 点(1) 被告P2による本件前訴の不法行為該当性(2) 被告会社,被告P3の責任の有無(3) 損害第3争点に関する当事者の主張1被告P2による本件前訴の不法行為該当性【原告らの主張】(1) 無効理由被告P2及びその実父であり当時の被告代表者でもあったP4は,平成13年3月末ころ,原告P1に対し,被告会社が製造する,本件発明2の実施品である廃材用切断機(以下「被告製品」という )を販売して欲し。
いと依頼した。
原告P1は,被告会社に赴いて交渉した際,特許の取得について尋ねたが,被告P2らは,本件特許2の出願は完了している旨虚偽の事実を述べた。
原告P1は,原告会社において,被告製品を宣伝・販売することを了解し,原告会社は,数々の展示会に出展し,被告製品を「ワニラー」の商品名で,宣伝・販売する活動をした。
8被告P2は,原告会社の上記宣伝・販売活動を知りながら,その6か月後に本件特許2を出願した。
本件特許2は,特許法29条に違反する無効理由を有する。
(2) 本件特許2の無効理由についての被告P2の認識前記(1)のとおり,被告P2は,本件特許2の無効理由の存在を知った上で,本件特許権2に基づき,原告会社を被告として,本件前訴を提起した。
(3) 本件前訴の継続原告P1は,被告P2に対し,被告P3を通じ,15件の証拠から,本件特許2は無効となる旨通知した。それにもかかわらず,被告P2は,本件前訴を取り下げることなく,訴訟を継続させた。
(4) 不法行為の成立前記(1)ないし(3)のとおり,被告P2が,本件特許2に無効理由の存することを知りながら,本件前訴を提起し,訴訟を継続した結果,原告会社及びその代表者である原告P1は,その応訴を余儀なくされるなど,損害を被った(後記3参照)ものであり,本件前訴の提起とその継続は,原告両名に対する不法行為を構成する(以下,訴えの提起が不法行為を構成する場合を「不当提訴」といい,不当提訴による訴訟を「不当訴訟」という。。)(5) 被告らの主張に対する反論ア被告らの主張(1)について原告会社は,本件特許1の無効審判を請求しており,その結論次第では,被告P2の全面敗訴もあり得る。
イ被告らの主張(2)について被告P2やP4は,特許の制度をよく知っており,また,原告P1による公然実施に係る重要な事実を全て知っている。
9【被告らの主張】(1) 本件前訴において,提訴者である被告P2が一部勝訴していること不当提訴かどうかは,当該訴訟の提訴者が全部敗訴判決を受けた場合に初めて問題となるのであって,提訴者が一部でも勝訴をした場合,提訴者の主張した権利又は法律関係が根拠を有していたことは明らかであるし,相手方は応訴の負担を負うべきであったから,不当提訴は問題となり得ない。この場合,相手方が,応訴の負担を負うべきである以上,応訴の範囲の拡大は問題とならない。なぜなら,訴訟の相手方は,提訴自体をコントロールすることはできないが,提訴された訴訟の審理はコントロールし,有利な判決を得ることができるからである。そのように解さないと,萎縮効果により裁判を受ける権利が侵害されるとともに,多くの訴訟提起が不当提訴となってしまう。
本件前訴では,提訴者である被告P2が一部勝訴しているので,不当提訴は問題となり得ない。
(2) 無効理由の存在と不当提訴の関係ア無効理由の発生経緯と被告P2の認識(ア) 本件発明1,2の実施品である装置の開発経緯被告会社内においては,試作機を実験的に使用し,その中で改良を加えるという方法で開発をしていた。本件特許1は,被告会社において開発していた廃材用切断装置に関する発明に係る特許で,弁理士に依頼し,平成13年3月12日に出願したが,その後,掛止片を加えるという改良を行い,これが有用な技術であったため,これを付加した廃材用切断装置に関する特許出願を弁理士に依頼し,同年9月27日に,本件特許2として出願した。
(イ) 被告P2らの特許法に関する認識(法の不知)被告会社は,原告会社からの要請を受けて,廃材用切断装置を展示10会などに貸し出し,製品のPR等をしたが,上記装置は本件特許2の発明の実施品であり,上記展示会は本件特許2の出願前であった。
被告P2やP4は,特許出願前にその実施品を展示会において展示したりすることが,特許の無効理由となることを知らなかった。これを知っておれば,原告会社に装置を貸し出すようなことはしない。
(ウ) 被告P2らの特許出願経緯に関する認識また,本件特許1の出願は,上記展示会等の前であり,本件特許2は,本件特許1に改良を加えたものであるため,被告P2やP4としては,両特許はひとかたまりの特許であるため,上記展示会は,特許出願後であると認識していた。
イ不当提訴の成否仮に,自己実施による公然実施により特許が無効となったからといって,当該特許権に基づく請求訴訟の提起が,類型的に全て不当提訴となるのは不合理である。
しかも,前記アのとおり,被告P2は,特許の無効理由について理解しておらず,出願前公然実施の認識もなかった。
原告会社自身も,本件特許1,2の無効理由について強い関心を有していたにもかかわらず,本件前訴において答弁書を提出した6か月以上経過してから公然実施の主張をしている。
このような事情によると,本件前訴が根拠を欠くことを知りながら,又は通常人であれば容易に知り得たのにあえて提訴したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときには当たらず,本件前訴の提起が不当提訴となることはない。
(3) 本件前訴の継続について特許の無効理由の存在の通知を受けたり,特許無効審判の請求があったからといって,特許権侵害に係る訴えを取り下げる義務はない。特許権に11基づく請求訴訟を提起している以上,判決で決着すればよいだけである。
2被告会社,被告P3の責任の有無【原告らの主張】(1) 被告会社の責任被告P2は,被告会社に対し,本件特許2に係る発明の実施権を与えているので,被告会社は,被告P2による本件前訴の不当提訴とその継続に基づく損害賠償債務につき連帯して責任を負う。
(2) 被告P3の責任被告P3は,本件前訴の提起が違法であること(前記1の事情)を調査することなく,被告P2の訴訟代理人として,請求の拡張をし,訴訟を継続した。
したがって,被告P3は,被告P2による本件前訴の不当提訴とその継続に基づく損害賠償債務を負う。
【被告会社の主張】前記1のとおり,被告P2による本件前訴の提起が不当提訴として不法行為となることはない。
したがって,被告会社も本件前訴の提起やその継続について,不法行為責任を負うことはない。
【被告P3の主張】(1) 前記1のとおり,被告P2による本件前訴の提起が不当提訴となることはない。
したがって,本件前訴において被告P2の訴訟代理人であった被告P3が,本件前訴の提起やその継続について不法行為責任を負うことはない。
(2) 被告P3は,本件前訴が提起された後である平成18年12月,本件前訴において被告P2(本件前訴における原告)の訴訟代理を受任した。
被告P3は,被告P2に対し,特許出願前に,自ら技術や製品を公表す12ることがなかったかを確認したが,被告P2は,前記1【被告らの主張】(2)アのとおりの認識しかなかったため,そのような事実はないと回答した。
しかも,前記1【被告らの主張】(2)イのとおり,原告会社自身,本件特許2の公然実施を主張し始めたのは,本件前訴において答弁書を提出した後,6か月以上経過した後である。
したがって,被告P3が,本件前訴の提起やその継続について,不法行為責任を負うことはない。
3損害【原告らの主張】(1) 本件前訴の応訴に要した費用(合計1087万9800円)ア第1審に要した費用(合計761万2500円)(ア) 弁護士費用相当額(弁理士費用を含む )。
300万円(イ) 書面作成及び証拠収集に要した費用399万2500円(ウ) 原告会社代表者の出頭費用62万円イ控訴審に要した費用(合計326万7300円)(ア) 印紙代等16万9800円(イ) 弁護士費用相当額90万円(ウ) 書面作成及び証拠収集に要した費用189万7500円(エ) 原告会社代表者の出頭費用1330万円(2) 無効審判請求等に要した費用526万4820円(3) ニュー環境展(於:東京ビッグサイト)出展費用と展示会売上損失(合計2589万3406円)供託金の準備に忙しく,原告P1が環境展に出席し,営業をすることができなかったために,売上を上げることができず,出展自体が無駄となった。
ア出展費用合計1205万3406円イ展示会売上損失1384万円(4) 供託金を準備するためのその他の費用951万0840円(5) 本件前訴提起による,原告会社の売上減少(合計5800万円)ア実際に減少した額4000万円イ原告各製品のうち,ワニラーV,フォークワニラーVの売上増が見込めたにもかかわらず,本件前訴のため,販売努力を中止し,その結果,売上を増加させることができなかった,その売上に対する利益相当額1800万円(6) 慰謝料原告P1が本件前訴の違法な提起によって被った精神損害の慰謝料2000万円(7) 一部請求, , 原告会社は 前記(1)から(5)の損害合計のうち7000万円について14被告会社及び同P2に対し(連帯債務 ,うち1000万円について被告 )P3に対し,それぞれ支払を求め,上記(6)の損害のうち1000万円について,被告会社及び同P2に対し(連帯債務 ,うち500万円につい )て被告P3に対し,それぞれ支払を求めている(なお,原告会社は,損害合計1億2954万9036円の損害が発生したと主張するが,前記(1)から(6)の損害を合計すると1億2954万8866円となり170円の誤差がある。。)【被告らの主張】争う。
第4当裁判所の判断1本件紛争に至る経緯前提事実,証拠(甲3,甲7の2,甲92,乙1,14,被告P2本人及) , 。 び後掲のもの 及び弁論の全趣旨によると 次の事実を認めることができる(1) 当事者ア前提事実(1)のとおり。
イ原告会社と被告会社の関係原告会社の代表者である原告P1は,昭和61年7月まで,キャタピラー三菱株式会社に勤務し,退職後,独立創業を計画し,昭和63年8月,原告会社を設立(記録上明らか)した。
P4は,平成2年6月,被告会社を設立し(記録上明らか ,代表取)締役に就任した。
原告P1は,前職に勤務中,取引相手であったP4と知り合い,退職後,P4との取引を始め,それぞれ会社を設立した後も,断続的に取引を継続していた。
(2) 本件特許1,2に関する発明(甲3)ア本件発明1と特許出願15被告会社では,パワーショベルの多関節アームに取り付けて使用する廃材用切断装置を開発していたが,被告P2において,本件特許1の出願日(平成13年3月12日)の1年前ころ,試作機を完成させた。
被告P2は,P5弁理士に依頼し,平成13年3月12日,上記装置に係る発明を本件特許1として特許出願した。
イ製品の改良と本件発明2,, , 被告会社では 本件特許1の出願後も 試作機の使用実験を繰り返し改良を加え,引き続き同装置の開発を継続していたが,被告P2が,新たな掛止片を加えた装置を開発し 後記(4)のとおり 特許出願した 本 ,,(件特許2 。)(3) 原告らを介した宣伝・販売活動ア被告製品の宣伝・販売活動の計画,準備被告らは 被告製品を製造 販売するに際し 原告会社を介して宣伝・ ,,,, (), 販売することを計画し プロモーションビデオを作成したりし 甲68その宣伝・販売活動の準備を行った。
なお,上記プロモーションビデオには,被告製品の紹介の際,特許出願中とのテロップが挿入されていた(甲93の1,2 。)イ原告会社への依頼(甲9の477頁以下)被告会社は,被告製品の宣伝・販売活動を原告会社に依頼することとし,原告P1に来訪を要請し,平成13年4月16日ころ,被告会社において,P4らが,原告P1と面談し,被告製品の宣伝・販売活動を依頼するとともに,プロモーションビデオを交付した。
原告P1は,宣伝・販売活動を依頼された際,P4らに対し,被告製品が特許出願済みであるかどうかを確認したところ,P4らは,出願済みであると回答した。
なお,原告P1としては,特許出願の具体的な内容を知らなかったの16であるから,本件特許1と本件特許2(当時未出願)との2つの発明があるとは認識しておらず,これを区別して確認したとは考えにくい。
ウ原告会社による展示会等への出品 甲9の477頁以下 甲87の1〜 (,7,甲88の1〜7)原告P1は,被告会社の要望を受けて,本件発明2の実施品である被告製品を「ワニラー」の商品名で,原告会社から,宣伝・販売することとし,被告会社の了解もとり(甲74,75 ,ワニラー用のチラシを )作成した(甲95 。)原告会社は 平成13年5月以降 原告会社の年版カタログ 甲 ,, (200134)や顧客への送信などに使用する営業用ニュース(甲96) FAXに被告製品を掲載し,同年5月28日発行の循環経済新聞(甲9の730頁)に写真付きの被告製品の紹介記事を掲載した。
原告会社は,同年5月29日から東京で開催された環境2001 NEW展において(甲69,甲73の1〜3 ,同年7月11日から仙台で開 )催された同様の環境展において(甲70 ,同年9月5日から大阪で開 )催された同様の環境展において(甲82の1〜3,甲90 ,同年9月)19日から東京で開催されたコネット建機展において(甲72 ,被告)製品の宣伝・販売活動を行った。
原告会社は,上記の展示会には,被告製品を持参し,来場した業者に, (), 対して 被告会社が作成したビデオ 甲68 を再生して見せるなどし, ()。 その機能を説明しながら 被告製品の宣伝・販売活動をした 甲97また,原告会社は,同年5月から6月にかけて,西関東キャタピラー三菱建機販売株式会社で開催された展示会にも 被告製品を出展した 甲 ,(71 。)このような宣伝・販売活動の結果,被告製品の引き合いや注文を受けるようになった(甲9の743頁,甲58の184・187・189・17190頁,甲76〜81,83,84,91 。)エ原告会社は,平成13年9月19日発行の建設機械新聞に,被告製品の展示会への出展の記事を掲載するとともに,その図面と写真を伴った広告を掲載した(甲9の264頁 。)なお 前提事実(3)のとおり この広告に掲載された図面が理由となっ ,,て,本件特許2は無効であるとの審決がされた。
(4) 本件特許2の出願前提事実(2)のとおり,被告P2は,平成13年9月27日,本件特許2を出願した。
なお,本件特許2は,本件特許1の出願後,さらに改良を重ねている間に開発した発明について,出願することとなったものであり(甲3,乙1),, ,。 4その手続は 本件特許1の出願に引き続き 弁理士に委任していた図面(乙15)は,本件発明2に関するものであり,被告P2が,弁理士に送付した。
(5) 原告各製品の製造・販売ア原告各製品の製造・販売計画原告会社は,前記(3)のとおり,被告製品を販売していたが,被告製品に改良を加え,原告会社自ら 「ワニラーV (イ号物件「フォー ,」),クワニラーV (ロ号物件「ニューワニラー (ハ号物件)を製造・ 」),」販売することを計画した。
なお,原告会社としては,イ号,ロ号物件については,本件特許権2に抵触することはないと考えていたが,ハ号物件については,本件特許権2に抵触すると考えていた(甲11の19頁以下。しかし,これらの製品のうち,ハ号物件が,本件特許1,2の発明の技術範囲に属するほか,イ号物件とロ号物件が,本件特許2の発明の技術範囲に属することについては,前提事実(5)のとおり。。)18このため,原告会社は,被告P2に対し,ハ号物件の製造・販売について,1台10万円の実施許諾料で本件発明1,2についての実施許諾契約を締結しようとしたが,合意に至らなかった(甲10の87頁,弁論の全趣旨 。)イ原告各製品の宣伝・販売活動原告P1は,平成17年4月,イ号物件(ワニラーV)について,中小企業新製品新技術賞を受賞し(甲46 ,フォークワニラーV(ロ号 )),()(,, 物件ニューワニラー ハ号物件 を他の製品 ザウルス キルラーマグガラ クジラー,マグガラ グシャー,スゴ(凄)カッター)などとともに,大々的に宣伝・販売活動をした(乙5 。)また,原告会社は,年版カタログ(甲35 ,年版カタロ2004 2005 )グ(甲36 ,年版カタログ(甲37 ,年版カタログ(甲3 ) )2006 2007), 。 8 を作成し ワニラーV及びフォークワニラーVの宣伝活動を行ったなお,年版カタログには,上記受賞の記載とともに,フォーク2007ワニラーVについて「業界にもはや競合機種は存在しません!」との記載があった(甲23 。)ウ原告各製品の販売台数原告各製品の販売台数については,前訴第1審判決において,少なくとも,イ号物件を平成16年9月以降370台,ロ号物件を同年同月以降10台,ハ号物件を同年5月以降30台,それぞれ販売したことが認定されている(甲3 。)(6) 被告会社による被告製品の製造・販売被告会社は,当初,前記(3)のとおり,原告会社に被告製品の宣伝・販売活動を依頼し,原告会社は「ワニラー」の商品名で販売していたが,その後,前記(5)イ,ウのとおり,原告会社が,ワニラーV,フォークワニラーV,ニューワニラーなどの商品名で自ら原告各製品の製造・販売を始19めたので,原告各製品との混同を避けるため,被告製品の商品名を「サイジョーズ」に変更して,製造・販売を継続している。
(7) 本件前訴の提起及びその前後の経過ア被告P2による警告被告P2は,原告会社に対し,平成18年4月25日到着の書面により,原告各製品(イ〜ハ号物件)の製造販売が,本件特許権1,2,本件意匠権侵害する旨の指摘をした(乙9の1・2 。)原告会社は,これに対し,イ号物件,ロ号物件は,本件特許権1,2を侵害しておらず,イ号物件,ロ号物件,ハ号物件は,本件意匠権侵害していないという内容の回答をした(乙10。ハ号物件が本件特許権, , , 1 2を侵害するか否かについては 1台を市場で試用しただけであり製造販売を継続する場合は,実施許諾を受けることを提案している。。)被告P2と原告会社は,平成18年6月にも同様のやりとりをしたが(乙11の1・2,乙12 ,話し合いは進展することなく,被告P2 )は,平成18年8月31日,原告に対し,原告各製品の製造・販売等の差止を求めて,本件前訴を大阪地方裁判所に提起した(甲1 。)イ本件前訴の提起及びその後の経過提訴の内容及びその後の経過は,前提事実(5)のとおりである。
すなわち,本件前訴第1審判決は,原告各製品のうち,イ号物件,ロ号物件が本件特許権2を侵害し,ハ号物件が本件特許権1,2を侵害していることを認め,原告会社に対し,原告各製品の製造・販売等の差止と,合計3000万円の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を命じ,勝訴部分について仮執行宣言を付した。
原告会社は,平成20年6月11日までに,3500万円の担保を立てた上,上記仮執行宣言付判決に基づく強制執行の執行停止の決定を得た。
20原告会社の控訴提起後,本件特許2が無効となったため,本件特許権2に係る訴えが取り下げられた。
平成21年1月28日,前訴控訴審は,控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する旨の前訴控訴審判決を言い渡した(上記訴えの取下があったため,ハ号物件の製造・販売等の差止と損害賠償として300万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じる内容となった。。)その後,前訴控訴審判決は,確定した。
(8) 本件特許1,2の無効審判請求の経過ア本件特許1原告会社は,平成20年7月1日,本件特許1についても,無効審判を請求した(甲55 。)特許庁は,平成21年3月25日,上記請求は成り立たないとの審決をした(乙3 。)原告会社は,平成21年4月21日,上記審決の取消を求め,知的財産高等裁判所に対し,審決取消訴訟を提起した(甲65 。)知的財産高等裁判所は,平成21年8月31日,上記請求について請求棄却の判決を言い渡した(乙13 。)原告会社は,上記判決を不服として,平成21年11月6日,上告及び上告受理申立をした(甲85,86 。)イ本件特許2本件特許2は,前提事実(3)のとおり,前記(3)エの建設機械新聞に掲載された図面から,本件発明2を容易に想到することができるとして,。 進歩性を否定して無効とした審決が確定したことにより 無効となった2本件特許2の無効理由に対する被告P2の認識(1) 公然実施の有無前記1(3)によると,原告会社は,本件発明2の実施品である被告製品21を,本件特許2の出願日である平成13年9月27日までの間に,各地で開催された建設機械に関する展示会に出展し,来場した業者に被告製品に関するプロモーションビデオを再生して見せるなどして,被告製品の機能を説明しながら,被告製品の宣伝・販売活動をしたのであるから,本件発, (, 明2については 特許出願前に公然実施されていたといえる このことは被告らも明らかには争っていない〔被告ら平成21年10月2日付準備書面(4)。〕。)(2) 本件特許2の無効理由についての被告P2の認識前記(1)によると,本件特許2は,無効理由を有しているということができる。
原告らは,被告P2は,本件発明2の公然実施を知った上で,本件特許2を出願しているから,本件特許2に無効理由があることを知っており,その上で,本件前訴を提起したと主張する。
ア本件発明2の公然実施についての被告P2の認識通常,特許出願前に当該発明を出願人自らが公然実施した場合,出願人は無効理由が発生していることを当然認識し得たということになる。
しかし,本件では,P4が,原告会社に対し,被告製品の宣伝・販売活動を依頼し,原告会社による宣伝・販売活動の過程において,本件発明2が公然に実施されたというケースであり,公然実施の主体は,発明者である被告P2自身ではなく,原告会社である。このため,被告P2において,原告P1の公然実施をどの程度,具体的,正確に認識していたかが問題となる。
前記1(3)のとおり,被告P2の父であり,当時の被告会社の代表者であったP4が原告会社に対し,被告製品の宣伝・販売活動を依頼したのであるから,原告会社が被告製品の宣伝・販売活動をしていること自体は,当然,被告P2においても認識していたというべきである。
22そして,被告P2としては,原告会社が,前記1(3)ウの展示会の会場において,具体的にどのような宣伝・販売活動をしていたかや,プロモーションビデオの使用の有無やその態様についてまで,正確な認識を有していたかどうかは明らかとはいえないが,宣伝・販売活動を行う以上,被告製品の機能を詳しく説明して行うものであることも当然予想できたというべきである。
イ本件特許2の出願時期についての被告P2の認識被告P2が公然実施を理由とする無効理由の存在を認識していたというためには,特許出願前に当該発明を公然に実施したという先後関係についても認識している必要がある。
,,,, しかし 前記1(2)のとおり 本件発明2は 本件発明1に引き続き廃材用切断装置の開発過程において,改良を重ねる中,発明が完成し,出願に至ったことに加え,本件特許2の出願の詳細な経緯は明らかではないこともあって,被告P2が,本件特許2の出願日が原告会社による公然実施より後であったことを明確に認識していなかった可能性を否定できない。
ところで,前記1(4)のとおり,被告P2は,本件特許2の出願に際して,図面(乙15)を出願手続を行った弁理士に送付している。被告,, , らは 上記図面の送付により 本件特許2の出願を依頼したと述べるがこの日,初めて弁理士に本件特許2の出願を依頼したかどうかは不明である(乙15の送信記録からは,図面1枚のみを送信したことが認められるが,図面1枚のみの送信で特許出願を依頼したとは考えにくい。。)むしろ,前記1(3)アのとおり,被告らが作成したプロモーションビデオには,特許出願中とのテロップが挿入されていたことや(甲93の1,2 ,同イのとおり,原告P1の質問に対し,P4らが,被告製品 )は特許出願済みであると回答していることが認められる。被告らが,原23告P1に対し,本件発明2について,特許出願済みであるか否かについて,虚偽の事実を述べる動機があるとは考えにくく,これらの事情に照らすと,被告P2としては,一連の発明について,特許出願中であるとの認識を有していた可能性を否定できない。
3被告P2による不当提訴の成否(1) 民事訴訟の提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(権利等)が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26日判決・民集42巻1号1頁参照 。)(2) 一部勝訴していることについて被告らは,本件前訴において,提訴者である被告P2が一部勝訴していることを理由に,本件前訴が不当提訴として不法行為が成立することはないと主張する。
たしかに,提訴者が一部勝訴した以上,提訴された者にとっては,応訴はやむを得なかったこととなるが,応訴の負担の全てがやむを得なかったことになるわけではなく,不当提訴となるべき訴訟が含まれる以上,当該訴訟の不法行為該当性の可能性は残っているというべきである。
(3) 法の不知について被告らは,被告P2が,特許出願前に当該発明を公然に実施することが無効理由となることを知らなかったと主張する。
しかし,前記(1)に述べたところによると,法律的根拠を欠くことを知らずに訴えを提起した場合(法の不知がある場合)であっても,通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなどという場合に24は,訴えの提起が不法行為を構成することはあり得る。
(4) 本件前訴の提起の評価前記2(1)のとおり,本件特許2には無効理由が存したということができる(なお,この無効理由は,本件特許2についての特許庁の無効審決の理由とは異なる。。)しかし,前記2(2)で述べたとおり,被告らの作成した被告製品のプロモーションビデオには,特許出願中とのテロップが挿入されていたり,P4らが 本件発明2について特許出願中であると回答していたのであり 前 , (記1(3)ア,イ ,被告P2らが,原告会社に被告製品の宣伝・販売活動 )を依頼するに際し,既に,本件特許2を含む一連の発明について特許出願済みであったと誤解していた可能性を否定できないというべきである。
そして,前記1(3),(5),(6)のとおりの経緯事実に照らすと,本件特許権1,2を侵害されたと考えた被告P2が,原告会社に対し,本件前訴を提起することを考え,弁護士に依頼して提訴に及んだことは,結果的に,本件特許権2に基づく請求について,事実的,法律的根拠を欠くものであり,この点について,被告P2に過失があったとしても,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認めることはできない。
(5) 本件前訴の継続について訴えの提起が不法行為を構成するか否かの判断基準時は,提訴の時点であり,審理の結果,自己の主張する権利が事実的,法律的根拠を欠くことが明らかになったからといって,直ちに訴えを取り下げる義務までを認めることはできない。
また,本件前訴第1審の審理経過(前記1(7))に照らすと,被告P2が本件特許権2に係る訴えを継続させたことを非難することはできないというべきである。
4被告会社,同P3の責任25, , 前記3のとおり 被告P2が不当提訴による損害賠償債務を負わない以上被告会社や同P3も本件前訴の提起及びその継続による損害賠償債務を負うことはないというべきである。
第5結 論以上のとおり,原告らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成22年2月8日)
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官 達野ゆき
裁判官 北岡裕章