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関連審決 無効2009-800055
関連ワード 発明者 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  上位概念 /  技術常識 /  着想 /  特許出願日 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  混同 /  請求の理由 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10256号 審決取消請求事件
原告株 式会社ジーエス・ユアサコーポレーション
同訴訟代理人弁護士内田敏彦
同弁理士後呂和男 村上二郎
被告ウ シオ電機株式会社
同訴訟代理人弁護士松尾和子 奥村直樹
同弁理士大塚文昭 谷口信行
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/05/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2009-800055号事件について平成21年7月23日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告が有する下記2の本件発明1,2,3,5及び6に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)被告は,平成13年2月21日,発明の名称を「光照射処理装置」とする特許出願第3972586号(特願2001-44918号)をし,平成19年6月22日,設定の登録(特許第3972586号。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(甲5)を「本件明細書」という。)を受けた。
(2)原告は,平成21年3月12日,全7項からなる請求項のうち,請求項1,2,3,5及び6に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」,「本件発明3」,「本件発明5」及び「本件発明6」という。)に係る特許について,特許無効審判を請求し,無効2009-800055号事件として係属した。
(3)特許庁は,平成21年7月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の本件審決をし,同年8月4日,その謄本が原告に送達された。
2本件発明の要旨本件発明1,2,3,5及び6の要旨は,次のとおりである。なお,文中の「/」は,原文の改行部分を示す。
(1)本件発明1(請求項1)対向する電極間に少なくとも1枚の誘電体が入っている誘電体バリア放電ランプを複数具備し,該誘電体バリア放電ランプとワークとを相対的に移動させながら該ワークの被処理面に誘電体バリア放電ランプよりの光を照射して当該ワークの処理を行う光照射処理装置であって,/当該誘電体バリア放電ランプのリード線は,当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の一方の端部のみから導出され,当該誘電体バリア放電ランプを前記ワークの搬送方向からみたときに,当該誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域は,少なくとも1つの他の誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域と相違し,かつ,当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の他方の端部において重なることを特徴とする光照射処理装置(2)本件発明2(請求項2)当該誘電体バリア放電ランプのリード線は,前記ワークの搬送方向からみたとき,前記光照射処理装置の処理領域よりも外側の領域で導出されていることを特徴とする請求項1に記載の光照射処理装置(3)本件発明3(請求項3)当該誘電体バリア放電ランプには,前記リード線の導出されている一方の端部においてのみホルダが装着されていることを特徴とする請求項2に記載の光照射処理装置(4)本件発明5(請求項5)当該誘電体バリア放電ランプは,それらの管軸方向同士が平行に伸びるように配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載の光照射処理装置(5)本件発明6(請求項6)当該誘電体バリア放電ランプはいずれもその管軸方向が,前記ワークの搬送方向と,直交することを特徴とする請求項5に記載の光照射処理装置3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明1,2,3,5及び6は,下記ア及びイの引用例に記載された各発明(以下「引用発明1」「引用発明2」という。)並びに下記ウ及びエの周知例に記載された技術に基づいて容易に想到することができたものではないから,当該発明に係る本件特許を無効にすることはできない,というものである。
ア引用例1:特開平8-124536号公報(甲1)イ引用例2:特開平5-300320号公報(甲4)ウ周知例1:特公昭54-31993号公報(甲2)エ周知例2:実願平2-42955号(実開平4-2023号)のマイクロフィルム(甲3)(2)なお,本件審決が認定した引用発明1並びに引用発明1と本件発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明1:対向する電極間に誘電体としての外側管3が入っている同軸円筒形誘電体バリア放電ランプであって,同軸円筒形誘電体バリア放電ランプと類似の中空円筒型誘電体バリア放電ランプを複数具備し,誘電体バリア放電ランプの光を放射することにより塗料の硬化,表面洗浄,殺菌等に使用されるものであって,/同軸円筒形誘電体バリア放電ランプのリード線は,当該同軸円筒形誘電体バリア放電ランプの長手方向の一方の端部のみから導出された,誘電体バリア放電ランプ装置イ一致点:対向する電極間に少なくとも1枚の誘電体が入っている誘電体バリア放電ランプを複数具備し,ワークの被処理面に誘電体バリア放電ランプの光を照射して当該ワークの処理を行う光照射処理装置であって,/当該誘電体バリア放電ランプのリード線は,当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の一方の端部のみから導出された,光照射処理装置ウ相違点1:ワークの被処理面に誘電体バリア放電ランプの光を照射して当該ワークの処理を行うものにおいて,本件発明1は,「誘電体バリア放電ランプとワークを相対的に移動させながら」行うものであるのに対して,引用発明1は,そのようなものを備えていない点エ相違点2:誘電体バリア放電ランプのリード線は,当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の一方の端部から導出されるものにおいて,本件発明1は,「誘電体バリア放電ランプをワークの搬送方向からみたときに,当該誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域は,少なくとも1つの他の誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域と相違し,かつ,当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の他方の端部において重なる」ものであるのに対して,引用発明1は,そのようなものを備えていない点4取消事由(1)相違点2についての判断の誤り(取消事由1)(2)本件発明2,3,5及び6の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(相違点2についての判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件発明1の課題ア本件審決は,本件発明1の解決課題が「一端部でのみ給電される誘電体バリア放電ランプにおいては,非給電側端部において光出力が低下する」という光出力低下の問題であると認定したが,誤りである。
イ本件発明1は,誘電体バリア放電ランプ自体から発せられる光出力低下の問題を改善した発明ではなく,光出力低下の問題が一要因となって生じる「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合を,ランプ同士の配置を工夫することによって改善しようとした発明にすぎない(甲5【請求項1】【0015】【0048】)。本件発明1は,相違点2に係る構成を要部とする発明である。
本件発明1の解決課題に関する争点は,?ランプ自体から発せられる光出力の部分的低下を改善すること(いわば「放射光量の均一化」)であるのか,?ランプからの放射光を受けるワークの面(「受光面」又は「被照射面」)における積算光量の大きな差違(不均一)を改善すること(いわば「受光量の均一化」)であるのかという問題であるところ,本件発明1の解決課題は,上記?であって「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合それ自体であるにもかかわらず,本件審決は,上記?であるとして「一端部でのみ給電される誘電体バリア放電ランプにおいては,非給電側端部において光出力が低下する」ことであるとして,その認定を誤ったものである。
ウ本件発明1の解決課題である「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合は,周知例1及び2にもあるとおり,紫外線照射装置の技術分野(「誘電体バリア放電ランプ」は紫外線を照射する光源であるから,本件発明1も当然この技術分野に含まれる。)における当業者に,本件特許出願前から広く知られて公知ないし周知になっていたものである。
エ被告の主張に対する反論本件明細書で使用されている「光量」の正確な意義は,学術用語としての「放射照度又は単に照度」と同義であり,本件発明1が「積算光量を一定値以上に確保する」ために採用した手段は,実質的には「照度を一定値以上に確保する」手段と同じである。そして,本件発明1の属する技術分野においては「ワーク面の照度を均一にする」ことが必要事項として周知されていたから(甲14〜16),上記の手段にいう「ワーク面の照度を一定値以上に確保する」という技術的必要性は,上下限を規定する「照度の均一性」という要請の片側たる下限に関する規定にほかならない以上,「ワーク面の照度を均一にする」ことが周知になると同時に,当然に周知されていた。
よって,本件発明1を「積算光量」という観点で捉え,ワークに照射される光の積算光量が最低限必要とされる光量以上であればよいとして,照射光量が均一であるか否かなどは何ら要求されないとする被告の主張は,誤りである。
(2)引用発明2ア引用例2の第1実施例(図1,図2)には,「ランプをワークの搬送方向からみたときに,当該ランプが生成する光出射領域は,少なくとも1つの他のランプが形成する光出射領域と相違し,かつ,当該ランプの長手方向の他方の端部において重なる」構成が開示されている。この構成は,本件発明1の相違点2に係る構成における「誘導体バリア放電ランプ」が「ランプ」に代わっている以外,全く同一である。
イ引用発明2が本件発明1の相違点2に係る構成と同様のランプ配置を採用した理由は,本件発明1の課題である「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」と同様の解決課題を解決するためであった(甲4【0002】〜【0005】)。よって,引用例2には,本件発明1の解決課題と同一の課題を解決した複数ランプの配置の仕方に関する技術が記載されている。
ウ上記のとおり,本件発明1と同様の解決課題である「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合を解決するために,本件発明1の相違点2に係る構成と同様の,引用発明2のランプ配置を採用すること,及び上記引用発明2のランプ配置の採用によって本件発明1と同様の効果を奏することができることは,本件特許出願前から引用例2に記載されて公知であった。
エ被告の主張に対する反論(ア)誘電体バリア放電ランプも,端部がある限り,端部下方における照射面上での「照度(本件発明1にいう光量)」が低下する。また,照射面に直上からの光と片方(左又は右)側からの光しか照射できないランプ端部が存在するという原因により生じる「ランプの端部下方における照射面上の照度が低下する」現象は,本件特許出願前から当業者に周知であり,この現象が問題であることは,本件明細書に記載がある(【0024】【0025】)。
このように,本件発明1は,少なくとも第1次的には,誘電体バリア放電ランプの端部同士を突き合わせて一線上に配置する構成における2本のランプそれぞれの端部下方において照射面(ワーク面)での「照度」が極端に低下する現象をどのようにして克服するか,ということを解決課題としているものである。
(イ)本件発明1と引用発明2とは,共通の普遍的な現象が生じるという点からも技術分野が関係し,かつ,両発明は解決課題が共通するため,「本件発明とは全く関係のない技術分野のランプであって,本件発明が解決しようとする課題は無縁のもの」という被告の主張は,到底認めることはできない。
仮に被告の主張のとおり,本件発明1が着目した「片側給電ランプにおいて非給電端部側で光出力が低下する」という問題と,引用発明2が着目した「ランプの両端部で照度が低下する」という問題とは本質的に異なるとしても,両者は,いずれも「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という本件発明1の解決課題が生じる一要因にすぎない。したがって,このような両者間での光量減少の要因が相違することは,本件発明1の進歩性判断においてほとんど意味がない。
引用発明1と引用発明2の技術分野(3)ア判断手法の誤り原告は,審判段階で,引用発明1に,周知例1及び2に記載の紫外線照射装置における「周知の基礎的技術」(紫外線ランプをワークの被処理面に照射して「紫外線ランプとワークを相対的に移動させながら」ワークの処理を行う構成)を適用し,引用発明2の構成を採用して,相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであると主張していた。これに対し,その適用阻害を吟味するために技術分野の異同を問題にするのであれば,引用発明1そのものではなく,これに上記「周知の基礎的技術」を適用してなる「紫外線照射処理装置X」の技術分野と引用発明2の技術分野との異同を論じるべきである。よって,引用発明1そのものの技術分野と引用発明2のそれとの異同を問題にする本件審決の判断手法は,誤りである。
イ技術分野の同一性の判断の誤り引用発明1に上記「周知の基礎的技術」を適用してなる「紫外線照射処理装置X」と引用発明2の光照射装置とは,技術の適用ないし転用の可能性という観点から見ると,?両者がいずれも複数のランプ(棒状光源)を使用して,搬送されてくる対象物(ワーク)の面(被照射面)に光を照射する「光照射装置」として共通の構成を有しており,?このような共通構成を有する光照射装置においては,「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合がある場合にはこれを解消すべきことが,共通の課題として当業者に認識されていて公知ないし周知であったことが明らかである。よって,両者は互いに密接に関連していると認められるから,上記「紫外線照射処理装置X」における「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合の改善を図ろうとする当業者は,引用発明2のランプ配置を知り,その効果たる課題解決の原理を理解し,当該技術を,上記「紫外線照射処理装置X」の不都合(課題)を解決するための手段推考の基礎にすると合理的に想定できるものである。
他方,本件審決が指摘するランプ(棒状光源)の種類や光照射の対象物(ワーク)の相違及び照射する光自体により何らかの処理をするか否かの相違は,当該光照射装置が,具体的な物品としてはそれぞれ「紫外線照射処理装置」と「冷陰極管を使用したライン状光源装置」であるという物品の相違に基づく全体構成及び全体機能・全体作用としての相違であって,両者に共通の「光照射装置」としての上記構成や上記課題と直接に関係するものではない。両者を技術の適用ないし転用の可能性という観点から見る場合には,使用するランプ(棒状光源)の種類や光照射の対象物(ワーク)が何であるか,照射する光自体により何らかの処理がなされるか等の相違を考慮することが重要でないことは明らかである。
よって,本件審決が,引用発明1そのものと引用発明2について,使用するランプ(棒状光源)の種類や光照射の対象物(ワーク)の相違及び照射する光自体により何らかの処理をするか否かの相違によって両者の技術分野の同一性を否定したことは,誤りである。
ウ機能・作用の同一性の判断の誤り本件審決が認定した機能・作用上の相違は,当該光照射装置が具体的な物品としてはそれぞれ「紫外線照射処理装置」と「冷陰極管を使用したライン状光源装置」であるという物品の相違に基づく全体構成及び全体機能・全体作用としての相違である。両者を技術の適用ないし転用の可能性という観点から見る場合には,両者はいずれも上記「光照射装置」として共通の構成を有し,いずれも「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合がある場合にはこれを解消することが技術的な課題として認識されている点において,互いに密接に関連する技術である。よって,上記「紫外線照射処理装置X」における上記不都合の解消・改善を図ろうとする当業者にとって,同様の不都合を既に解決し得ている引用発明2のランプ配置を適用ないし転用することは,格別の困難性もない容易なことである。
エ被告の主張に対する反論(ア)「紫外線照射処理装置X」には,引用発明1の誘電体バリア放電ランプ(複数)を搬送路の両側から互い違いに配設したもの(以下「千鳥状ランプ配置の紫外線照射処理装置(x)」という。)が包含されていることは自明である。「千鳥状ランプ配置の紫外線照射処理装置(x)」における片側給電タイプのランプ配置に関しては,設計者なら当然にリード線の取り回しの簡便さを考慮して,搬送路の左右両側から互い違いに配設する誘電体バリア放電ランプ(引用発明1)のすべてにつき,その給電側端部が搬送路上ではなくて,搬送路外側に位置するような向きとなるように,搬送路の両側から互い違いに配設する配置とする程度のことは,周知例2の第4図を見るまでもなく,当業者が適宜行う設計事項にすぎず,容易に推考できることは明らかである。
よって,本件審決の指摘する「新規な課題」(被告の主張する「片側給電方式のランプにおける特有の問題」)の認識がなくても,大型ワーク処理に対応するランプ配置の要請に対しては,「千鳥状ランプ配置の紫外線照射処理装置(x)」における片側給電タイプのランプの配置に関して,設計者が技術常識に基づき通常行っている設計をするだけで,本件発明1は容易に推考できる程度のものである。
したがって,本件発明1は,上記「千鳥状ランプ配置の紫外線照射処理装置(x)」における片側給電タイプのランプ配置に,引用発明2のランプ配置や,周知例2の第4図のような公知のランプ配置の構成を適用することにより,容易に推考できることは明らかである。
(イ)本件発明1を含む紫外線照射装置の当業者にとっては,本件特許出願前から,本件発明1の解決課題である「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合が,解消されなければならないことであると認識されていた,公知ないし周知の技術的事項(課題ないし不都合)であった。
そして,この不都合を生じさせる要因として常に認められるのは,ランプの発光原理や特性等に関係なく生じる「ランプの端部下方の照射面での照度が低下する」という普遍的な現象である。「片側給電ランプ特有の問題」があろうとなかろうと,この現象は常に生じ,本件特許出願日以前から当業者にとりこの現象による上記不都合を解消すべきことは技術的課題となっており,その解決策も周知例1及び2で提案されていたから,本件発明1の上記解決課題は,本件出願当時,当業者に公知ないし周知であった。他方,この解決課題と同様の課題を解決するために,本件発明1と同様のランプ配置を採用することが引用例2に記載されている。
したがって,当業者は,片側給電ランプにおいては,非給電側端部において光出力が低下するという「片側給電ランプ特有の問題」を認識していなくても,「紫外線照射処理装置X」に引用発明2のランプ配置を適用して本件発明1を想起することができる。
(ウ)引用発明2において片側給電ランプのどちらの端部を重ねるかについて示唆されていないとしても,周知例2の第4図の装置は,リード線の取り回しの便宜を考慮して給電側端部をすべて搬送路の外側に出すような向きでランプを配設しているから,「紫外線照射処理装置X」において,本件発明1の構成を得ることは,容易に想到できる。
なお,2本の片側給電ランプで広範な照射面を照射する場合に,配線や照射効率上の理由により,光を遮光し得るリード線が導出された給電端部側をワーク搬送路の外側に配置し,リード線が導出されていない非給電端部側同士をワーク搬送路の内側に配置することは,当業者であれば通常なし得る設計事項であるから,仮に,当業者が周知例2の構成を知らなくても,本件発明1の上記構成を得ることは容易である。
(4)小括以上のとおり,引用発明1の誘電体バリア放電ランプ装置に上記「周知の基礎的技術」を適用することにより容易に得ることのできる「相違点1に係る本件発明1の構成」を備えた「紫外線照射処理装置X」に,引用発明2のランプ配置を適用ないし転用することによって,「相違点2に係る本件発明1の構成」を得ることは当業者に容易想到であるから,本件審決は,本件発明1の進歩性判断を誤ったものである。
〔被告の主張〕(1)本件発明1の課題ア本件発明1は,誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成し該エキシマ分子から放射される光を利用するいわゆる誘電体バリア放電ランプを備えた光照射処理装置に関する。誘電体バリア放電ランプは,被告が平成5年に世界で初めて商品化したものであり,これをドライ洗浄や有機レジストのアッシングに利用する場合には,ワーク(被照射体)表面を完全に洗浄する「所定の処理」のために一定値以上の光量を確保することが必要である。本件発明1は,この光量を「積算光量」(ワークへの照射光の光量と照射時間の積)という観点で捉えて,積算光量を一定値以上に確保するための手段を提案するものである。処理効率の低下を防止するためには,ワークのドライ洗浄等の処理領域の全領域について所定の積算光量(最低限必要な積算光量)が確保される必要があり,ワークへの光の照射は,この最低限必要な積算光量以上であればよい。つまり,必要とされることは,ワークに照射される光の積算光量が,最低限必要とされる光量以上であればよいのであって,照射光量が均一であるか否かなどは要求されない。
イこの種の誘電体バリア放電ランプとしては,誘電体が長手方向に延びる形状とされ,この誘電体を挟んで長手方向に延びるように一対の電極が配置され,その長手方向の一端部において,一対の電極間に放電のための電圧が印加される構成が知られている。この構成について,本件発明の発明者らは,ランプ長手方向における一方の端部において一対の電極間に電力が供給される構造の誘電体バリア放電ランプ(片側給電ランプ)においては,ランプの有効発光長が長くなると,当該ランプの非給電端部側で光出力が低下するという問題を初めて見出し,認識した。そして,このような問題点に起因して,片側給電ランプを用いた光照射処理装置では,誘電体バリア放電ランプの一方の端部側と他方の端部側とでワーク面の積算光量に大きな差異が生じ,その結果所定の積算光量を得るために照射時間を長くしなければならず処理効率が低下することになるから,本件発明1が解決しようとする「課題」に直面したのである。上記課題は,本件特許の発明者らが初めて認識した上記知見の現象に起因するものであって,従来技術では,この現象に対する認識が全くなかったものである。
ウ本件発明1は,上記の課題を解決するために,特許請求の範囲記載の構成を採用し,「ワークの搬送方向で各ランプよりの光出射領域が重なるようにして,複数の誘電体バリア放電ランプを配置して,該ランプと該ワークとを相対的に移動させるようにしたので,ワークWの全域で部分的に積算光量が低下するような部分が形成されないので,効率よくワークの処理を行うことができる」という作用効果を奏するものである。すなわち,本件発明1は,「誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域は,少なくとも1つの他の誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域と相違し,かつ,当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の他方の端部(非給電側端部)において重なる」という構成を採用することによって,非給電側端部において光出射領域が「他の誘電体バリア放電ランプ」の光出射領域と重なるようにし,最終的に非給電端部によって形成される被照射面においても所定の積算光量を確保し,効率よくワーク処理を行うことができるようになるという効果を奏する。
エ原告の主張に対する反論(ア)原告は,本件発明1の解決課題を「放射光量の均一化」又は「受光量の均一化」と捉えているが,これは誤りである。本件発明1の課題は,光量の「均一化」とは関係がない。上記のとおり,本件発明1は,「積算光量」を一定値以上にすることを意図するもので,均一化とは関係のないこの課題自体が,新規である。
本件明細書【0007】における「ワークに光を照射」という記載を見れば,ワークに当たる積算光量が問題になると理解することもできるが,本件発明1が問題として捉える積算光量の不足を招く原因は,まさに放射光量そのものであり,特に細長い形状の誘電体バリア放電ランプにおける非給電側端部において生じる放射光量の低下である。
(イ)原告は,「被照射面において,部分的に積算光量」が低下するような部分が形成されるという不都合は,紫外線照射装置の技術分野における当業者にとって,本件特許出願前から広く知られて公知ないし周知になっていたと主張するが,周知例1及び2には,本件発明1の課題について何ら記載がなく,示唆もない。
(2)引用発明2ア本件特許出願当時の当業者には,相違点2に係る構成を引用発明1に適用しようと考える動機は何ら存在しなかった。また,本件特許出願当時に,片側給電型の誘電体バリア放電ランプにおいて,本件発明1が解決しようとする課題があることは,当業者の認識の中には全く存在しなかった。引用発明2は,放電ランプに関するものではあっても,本件発明1とは全く関係のない技術分野のランプに関するものであって,本件発明1が解決しようとする課題とは無縁のものである。したがって,当然のことながら,引用例2には,本件発明1の課題についての記載がないし,それを婉曲にでも類推させる示唆もない。
したがって,本件特許出願当時の当業者が,引用発明2のランプ配置を引用発明1に結び付けて,その技術を引用発明1に適用しようと考えることはあり得ない。
イ原告の主張に対する反論引用発明2には「積算光量」の概念がなく,単にランプの「光量」を問題にしているだけである。その上,引用発明2では,単に光量を問題にするだけでなく,「光量の均一化」を達成することを課題とするものであり,積算光量が最低限必要な値以上になるように照射を行うという思想もない。
原告の主張は,本件発明の課題が光量の「均一化」にあるとの誤った解釈に基づくものであり,「光量の均一化」と「積算光量を一定レベル以上にすること」とを混同して理解している。
(3)引用発明1と引用発明2の技術分野ア引用例2のランプと引用例1に係るランプとの相違(ア)引用発明2は,「原稿読み取り装置やライン状検査装置等の照明に用いられるライン状光源」に関する発明であり,その用途から当然に,「均一で明るいライン光」が要求される。引用発明2の用途も,本件発明1の光照射処理装置とは明確に相違する。
また,引用発明2は,その用いられる光源としては冷陰極管などの蛍光灯を想定しており,対応する一対の電極が両端部に配置され,当該一対の電極間でランプの長さ方向に放電が生じる。引用発明2は,このような棒状光源を用いた場合,棒状光源の両端部で光量が,「一定の割合で」減少するため,2つの棒状光源を端部で重なり合うように配置して,「均一な光量」を得るようにしたものであるが,積算光量とは関係がなく,積算光量を一定量以上に確保することとも関係がない。
また,引用発明2のランプは,片側給電ランプではなく,「非給電側端部」が存在しないから,本件発明1の課題とは無縁のものであるし,「誘電体バリア放電ランプ」でもない。
(イ)引用発明1の誘電体バリア放電ランプは,誘電体バリア放電によって形成されるエキシマ分子から放射される光を利用する誘電体バリア放電ランプであるところ,誘電体バリア放電ランプは,対向する2つの,ランプの管軸方向に延びる電極間に少なくとも1枚の誘電体が挿入された構造を有し,対向する電極間に高周波,高電圧を印加して放電を生じさせるものである。このような誘電体バリア放電ランプにおいては,ランプの管軸方向に延びる電極間に高電圧の交流をその電極の一方の端部から印加することによって,ランプの管軸に対して垂直方向に細い針金状の放電が,管軸に沿って不規則に分布した位置に多数発生し,かつ,そのような針金状放電は瞬時に発生し,瞬時に消滅するから,その構造や発光原理が引用発明2のランプとは明確に異なる。
(ウ)上記のとおり,引用発明1は片側給電型の誘電体バリア放電ランプであって,電極がランプの管軸方向に延びており,多数の放電が管軸方向に垂直に,管軸に沿って不規則に分布した位置に多数発生するのに対し,引用発明2における冷陰極管は,ランプ両端の一対の電極間の放電が管軸方向にのみ生じるものであるから,両者の放電形態は大きく異なるものである。そして,このように放電形態が全く異なるランプの間で,同一課題が常に生じるわけではないから,本件特許出願当時の当業者が,引用例1の記載から,電極の形状や給電構造等のランプの構造,放電形態,発光原理が全く異なる引用発明2のランプに係る構成を組み合わせて課題を解決しようと考えるものではない。
イ引用発明2と引用発明1及び本件発明との目的の相違引用発明2は,その光源として冷陰極管などの蛍光灯を想定し,原稿読取装置やライン状検査装置において均一な照明を得ることを目的としたものであり,本件発明1のように最低限必要な「積算光量」の確保を課題とした発明ではない。したがって,このような目的の相違に鑑みても,本件特許出願当時の当業者が,引用発明1に引用発明2に係る構成を適用しようと考えるものではない。
そもそも,引用発明2は,1ラインごとに,光源からきた光が被照射面に当たって反射する反射光を読み取る原稿読取装置やライン状検査装置を対象とするものであるから,各ライン全域にわたって被照射面の光量を「均一」にすることを目的とする発明である。さらに,引用発明2は,ライン状光源装置において「光量ムラを防ぎ,均一な照明」を得ることを目的とするものであって,各ラインの全域にわたって被照射面への光量が均一でさえあれば足りるから,照射光の光量にワーク(原稿)への照射時間を掛けることで導かれる積算光量を考慮するものではない。
このように,引用発明2は,照射光の光量と照射時間の積により計算される積算光量に関する課題に向けられたものではなく,当業者が,積算光量に係る課題を解決するために引用発明1に組み合わせようと考えることはあり得ない。そして,引用発明2においては,原稿読取装置やライン状検査装置において,読取画像にムラが生じるのを防止するために,均一な照射光を得ることが決定的に重要であるのに対して,本件発明1においては照射光が均一である必要はなく,積算光量が必要最低限確保されれば足り,かかる目的の相違に鑑みても,当業者が引用発明1に引用発明2に係るランプ配置を適用しようと考える理由はない。
ウ原告の主張について(ア)原告は,判断手法の誤りを主張するが,原告主張の「紫外線照射処理装置X」は,引用発明1に原告主張の「周知の基礎的技術」を組み合わせた発明であり,引用発明1を基本とするものであるから,技術分野自体が変わることはなく,その異同を論じるにあたり,実質的な差異はない。
また,原告主張の「紫外線照射処理装置X」は,引用発明1を基本とするものでその光源は誘電体バリア放電ランプであるのに対し,引用発明2のランプは冷陰極管であるから,両者は,発光原理や特性等が全く異なるものである。そして,「紫外線照射処理装置X」における誘電体バリア放電ランプ,特に片側給電方式のランプにおける特有の問題を認識し,これを解決課題とする本件発明1の開示に基づく知識を未だ取得していない当業者にとって,引用例1の記載のみでは本件発明1の課題を想到することはできず,「紫外線照射処理装置X」に引用発明2のランプ配置を適用しようと考える着想は容易には起こり得ない。引用例1及び2,周知例1及び2にも,本件発明の課題についての示唆は全く存在しないから,原告主張の「紫外線照射処理装置X」に引用発明2のランプ配置を適用しようと考える動機付けは得られない。原告の主張は,本件発明1の開示を読んで得た知識を基に容易想到性を論ずるもので,「後知恵」の謗りを免れ得ないものである。
なお,仮に,引用発明1を基本にした「紫外線照射処理装置X」に引用発明2に係るランプ配置を適用したとしても,相違点2が解消されるものではない。すなわち,引用発明2は,「原稿読み取り装置や,ライン状検査装置等」のライン状光源として用いられる対向する一対の電極が両端部に配置される,当該一対の電極間でランプの長さ方向に放電が生じる冷陰極管について,隣合う冷陰極管端部を所定の長さ重ね合わせて光量ムラを防止しようとするものである。そして,仮にランプ自体の構造や上述の問題点を全て無視して「紫外線照射処理装置X」に引用発明2のランプ配置を適用したとしても,得られるのは片側給電ランプの非給電側とは限らない端部に対して,別のランプの端部を,光出射領域が重なるように組み合わせる構成にすぎない。したがって,この場合,「誘電体バリア放電ランプのリード線は,当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の一方の端部のみから導出され,当該誘電体バリア放電ランプを前記ワークの搬送方向からみたときに,当該誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域は,少なくとも1つの他の誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域と相違し,かつ,当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の他方の端部において重なる」という構成は得られない。すなわち,本件発明1における「他方の端部」は,片側給電ランプの非給電側端部であり,本件発明1のランプ配置は,片側給電ランプの非給電側端部における光出射領域が別のランプの端部における光出射領域と重なるものであるが,単純に「紫外線照射処理装置X」に引用発明2のランプ配置を適用しただけでは,このような構成が得られるとは限らない。
(イ)周知例1及び2並びに引用例2のいずれにも,積算光量を問題として捉えた記載はなく,この問題に対する婉曲な示唆もない。また,原告が公知ないしは周知であったと主張する課題は,本件特許出願前には全く認識されていなかったものである。さらに,原告の主張は,種類や用途によってランプが多種多様に分類されることを無視し,およそ「ランプ」であれば同一技術分野であるというに等しく,技術的な観点からも誤っている。引用発明1と引用発明2とは,技術分野が異なることはもちろん,機能及び作用にも共通性はない。したがって,原告が主張するように,およそ「ランプ」であるから技術分野が同一として一括りにはできない。
(4)小括引用発明1には本件発明1の課題の開示や示唆が存在しないから,本件特許出願当時の当業者が,引用発明1のランプを使用するに際して,引用例2に開示されたランプ配置を採用しようと考える動機付けは得られない。なお,周知例1及び2には,本件発明1の課題について何ら記載がなく,示唆もない。
2取消事由2(本件発明2,3,5及び6の容易想到性の判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件発明2について周知例2には,「ランプのリード線は,ワークの搬送方向からみたとき,光照射処理装置の処理領域よりも外側の領域で導出されている」構成が記載されている。
この構成は,本件発明2の特徴的構成である「当該誘電体バリア放電ランプのリード線は,前記ワークの搬送方向からみたとき,前記光照射処理装置の処理領域よりも外側の領域で導出されている」との構成における「誘電体バリア放電ランプ」が「ランプ」に代わっている以外は,全く同一である。
よって,本件発明2は,引用発明1,前記「周知の基礎的技術」,引用発明2及び周知例2に記載の技術に基づき,当業者が容易に発明できたものである。
(2)本件発明3について引用例1の第1実施例である同軸円筒形誘電体バリア放電ランプは,その一端にのみ口金が固着されて設けられており,リード線は,接着剤によって,上記口金からのみ気密状態で引出されている。他方,本件発明3における「ホルダ」は,特許請求の範囲の記載から,リード線が導出されている一方の端部においてのみ装着されるものである。そうすると,引用発明1の第1実施例における上記口金は,本件発明3の「ホルダ」に相当するから,引用例1には,本件発明3の特徴的構成である「当該誘電体バリア放電ランプには,前記リード線の導出されている一方の端部においてのみホルダが装着されていること」に相当する構成が記載されている。
よって,本件発明3は,引用発明1,前記「周知の基礎的技術」及び引用発明2に基づき,当業者が容易に発明できたものである。
(3)本件発明5について周知例1の第3図ないし第5図には,複数本の紫外線ランプがそれらの管軸方向同士が平行に伸びるように配置されている構成,すなわち,本件発明5の特徴的構成である「当該誘電体バリア放電ランプは,それらの管軸方向同士が平行に伸びるように配置されていること」に相当する構成が記載されている。また,引用例2の図2及び図6にも,本件発明4の特徴的構成に相当する「複数の棒状光源がそれらの管軸方向同士が平行に伸びるように配置されている構成」が示されている。
よって,本件発明5は,引用発明1,前記「周知の基礎的技術」,引用発明2及び周知例1に記載の技術に基づき,当業者が容易に発明できたものである。
(4)本件発明6について引用例2の図2には,棒状光源が,いずれもその管軸方向がラインセンサとの相対移動方向と直交するように配置されている構成,すなわち,「ランプはいずれもその管軸方向が,ワークの搬送方向と,直交する」構成が記載されている。この構成は,本件発明6の特徴的構成である「当該誘電体バリア放電ランプはいずれもその管軸方向が,前記ワークの搬送方向と,直交すること」における「誘電体バリア放電ランプ」が「ランプ」に代わっている以外は,全く同一である。また,周知例1に記載のとおり,従来技術たる紫外線照射装置のほとんどは,「紫外線ランプが,いずれもその管軸方向が被照射体(ワーク)の走行方向と直交するように配置されている」構成であったことが明らかである。この構成は,本件発明6の上記特徴的構成における「誘電体バリア放電ランプ」が「紫外線ランプ」に代わっている以外は,全く同一である。
よって,本件発明6は,引用発明1,前記「周知の基礎的技術」,引用発明2及び周知例1に記載の技術に基づき,当業者が容易に発明できたものである。
〔被告の主張〕本件発明2,3,5及び6は,特許請求の範囲の記載から理解されるとおり,いずれも直接ないしは間接に本件発明1を引用するものであり,本件発明1が上記のとおり進歩性を有する以上,これらの発明が進歩性を有することは当然である。
第4当裁判所の判断1取消事由1(相違点2についての判断の誤り)について(1)本件発明1の課題についてア本件明細書の記載(甲5)本件明細書の【発明の属する技術分野】によると,本件発明1は,光化学反応用の紫外線光源として使用され,誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成し該エキシマ分子から放射される光を利用するいわゆる誘電体バリア放電ランプを具えた光照射処理装置に関する発明である(【0001】)。誘電体バリア放電ランプを利用した光照射処理装置は,「ドライ洗浄や有機レジストのアッシングにおいては,汚れ等を完全に分解することが目的であり,所定の処理が完遂されるために最低限必要な積算光量(照射光の光量と照射時間の積)以上に,ワークに光を照射すれば良い」とされている(【0007】)。このように,ドライ洗浄や有機レジストのアッシングに利用する場合には,ワーク(被照射体)表面を完全に洗浄する「所定の処理」のために一定値以上の光量を確保することが必要である。
本件明細書の【発明が解決しようとする課題】によると,誘電体バリア放電ランプは,当該ランプの長手方向における一方の端部において一対の電極間に電力が供給されて該一方の端部よりリード線が導出される構造が主流であるところ,このような,電極におけるリード線の導出側端部においてのみ,給電用部材が接続されて電圧が印加される誘電体バリア放電ランプにおいては,有効発光長が長くなると,発光効率は低下し,当該ランプにおける他方の端部側においてエキシマ光の出力が低下することがあり,誘電体バリア放電ランプの一方の端部側と他方の端部側とでワーク面で積算光量に大きな差異が生じると,ワーク面で所定の積算光量を得るために照射時間を長くしなければならず処理効率が低下してしまう(【0011】〜【0013】)。そこで,本件発明1が解決しようとする課題は,大面積のワークであっても,その全域を効率よく処理することが可能な誘電体バリア放電ランプを用いた光照射処理装置を提供することにある(【0015】)。
本件発明1の構成を採用すると,本件明細書の【発明の効果】に記載のとおり,ワークの搬送方向で各ランプよりの光出射領域が重なるようにして,複数の誘電体バリア放電ランプを配置して,該ランプと該ワークとを相対的に移動させるようにしたので,ワークの全域で部分的に積算光量が低下するような部分が形成されないため,効率よくワークの処理を行うことができ,大面積のワークであっても,従来と同程度の所要時間で所定の処理を完遂させることができるようになる。また,ワークの幅よりもその全長が小さい誘電体バリア放電ランプを用いることができ,ランプ本体の生産性,機械的強度及び発光効率に優れ,したがって,生産性が良く処理効率が高い光照射処理装置を提供できる(【0048】)。
イ本件発明1の解決課題上記アのとおり,一端部でのみ給電される誘電体バリア放電ランプにおいては,非給電側端部において光出力が低下し,その一方の端部側と他方の端部側とでワーク面で積算光量に大きな差異が生じる,すなわち,「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合が生ずるものである。
そこで,このような誘電体バリア放電ランプにおいては,ワーク面で所定の処理が完遂されるために最低限必要な積算光量を得るために,照射時間を長くしなければならず処理効率が低下してしまう,という課題があるものと解される。
そして,本件発明1は,一端部でのみ給電される誘電体バリア放電ランプを用いた光照射処理装置であるから,本件発明1の解決課題は,「一端部でのみ給電される誘電体バリア放電ランプにおいては,非給電側端部において光出力が低下する」ことに基づいて,「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合ということができ,その低下する光量の基準は,所定の処理が完遂されるために最低限必要な積算光量ということができる。
そうすると,本件発明1の解決課題は,「一端部でのみ給電される誘電体バリア放電ランプにおいては,非給電側端部において光出力が低下する」ことに基づいた不都合といえるのであるから,原告が主張するように,「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合それ自体に基づく受光量の均一化であるということはできない。
したがって,本件発明1が「一端部でのみ給電される誘電体バリア放電ランプにおいては,非給電側端部において光出力が低下する」という課題に基づいてその解決を図るものであるとした本件審決の認定に,誤りがあるとはいえない。
ウ原告の主張について(ア)原告は,本件発明1の解決課題は,「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合それ自体で,「受光量の均一化」が問題であると主張する。
しかし,上記イのとおり,本件発明1の解決課題は,「一端部でのみ給電される誘電体バリア放電ランプにおいては,非給電側端部において光出力が低下する」という課題を前提にしたものであるから,「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不具合それ自体とはいえない。また,部分的に積算光量が低下するような部分が形成されないようにするための,最低限必要な積算光量(一定値以上であること)と,均一な受光量(均一な値であること)とは異なる概念であり,これを同一視するかの原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,「誘電体バリア放電ランプ」は紫外線を照射する光源であるから,本件発明1も当然この技術分野に含まれるところ,本件発明1の解決課題である「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合は,周知例1及び2にもあるとおり,紫外線照射装置の技術分野における当業者に,本件特許出願前から広く知られて公知ないし周知になっていたものであると主張する。
周知例1には,棒状紫外線ランプを,被照射体の走行方向に対して斜めに配置した紫外線照射装置が記載され,また,周知例2には,U字状に形成した紫外線ランプを,搬送処理基材の搬送方向に対して斜めに配置した光洗浄装置が記載されている(甲2,3)。
しかし,仮に,周知例1及び2により,原告が主張する上記不都合が当業者に本件特許出願前から広く知られて公知ないし周知であったとしても,周知例1及び2に記載されている紫外線ランプは,一端部でのみ給電される誘電体バリア放電ランプではないから,本件発明1の「一端部でのみ給電される誘電体バリア放電ランプにおいては,非給電側端部において光出力が低下する」という上記解決課題が当業者に本件特許出願前から広く知られて公知ないし周知であったということはできない。また,他に,本件発明1の上記解決課題が,本件特許出願前から広く知られて公知ないし周知になっていたことを認めるに足りる証拠もない。
したがって,原告の主張は採用することができない。
(2)引用発明2についてア引用例2の記載(甲4)引用例2の記載によると,引用発明2は,原稿読み取り装置や,ライン状検査装置等の照明に用いられるライン状光源装置に係る発明であり(【0001】),短尺光源を一列に配列した場合は,継ぎ目において光量の低下が大きく,均一な照明が得られないという課題に対して,長さの自由度が大きく,均一で明るいライン光を得ることができるライン状光源装置を提供することを目的とする発明である(【0003】【0004】)。引用発明2は,ライン状光源により,対象を照明し,その反射光をイメージセンサあるいは受光素子を一列に配列したラインセンサにより撮像するセンサヘッドにおいて,ライン状光源がラインセンサと平行にかつ略直線状に配置された2列の複数本の棒状光源からなり,この2列の棒状光源の隣合う棒状光源が,互い違いに配置して構成され,かつ,隣合う棒状光源の端部がお互いに所定の長さだけ重なりあったことを特徴とするものであり(【請求項1】【0005】),発光部で,2列の複数の棒状光源が,ラインセンサに平行に,配置され,隣合う棒状光源を互い違いに並べられ,複数本の棒状光源が各光源が略直線になるように配置され,隣合う棒状光源の端部が所定の長さだけ重ねて他列の棒状光源が配置されていることから,棒状光源は,中心付近に比べ,周辺部は一定の割合で光量が減少していくが,棒状光源の端部で光量が減少する光量ムラを防ぎ,均一な照明を可能にするものである(【0006】【0013】)。
そして,引用例2には,ランプ配置に関して,「ランプをワークの搬送方向からみたときに,当該ランプが生成する光出射領域は,少なくとも1つの他のランプが形成する光出射領域と相違し,かつ,当該ランプの長手方向の他方の端部において重なる構成」が記載されているとした本件審決の認定については,原告も争っていない。
イ引用発明2の課題及び効果したがって,引用発明2の課題及び効果は,ライン状光源装置において,短尺光源を一列に配列した場合は,継ぎ目において光量の低下が大きく均一な照明が得られないという課題に対して,略直線状に配置された2列の複数本の棒状光源により均一で明るいライン光を得ることであるということができる。
ウ本件発明1と引用発明2の解決課題及び効果原告は,引用発明2の解決課題及び効果が本件発明1のそれと同一であると主張する。
しかし,本件発明1の解決課題は,前記(1)アのとおり,「一端部でのみ給電される誘電体バリア放電ランプの非給電側端部による被照射面での積算光量の部分的な低下すること」,「その低下の基準は,所定の処理が完遂されるために最低限必要な積算光量であること」による不都合であるのに対し,引用発明2の解決課題は,上記イのとおり,照明に用いられるライン状光源の継ぎ目による被照射面での照明の不均一ということができる。そうすると,両者は,ランプの種類やその機能において相違する。また,照明を均一にすることは照度の部分的な低下がなくなることを意味するとしても,照度を均一にすることが必ずしも必要な下限の照度を満たすことになるとはいえないから,積算光量の部分的な低下と照明の不均一という点においても相違しており,両者の解決課題が同一ということはできない。
また,本件発明1の効果は,前記(1)アのとおり,ワークの幅よりもその全長が小さい誘電体バリア放電ランプを用いた光照射処理装置において,ワークの全域で,積算光量が最低限必要な量より低下するような部分が形成されないので,効率よくワークの処理を行うことができることである。これに対し,引用発明2の効果は,上記イのとおり,略直線状に配置された2列の複数本の棒状光源により均一で明るいライン光を得る,ということができるのである。よって,両者は,積算光量が部分的に必要量より低下することの解消か,照明が不均一となることの解消かという点で相違しており,同様な効果であるということはできない。
したがって,本件発明1と引用発明2について,解決課題が同様であり,また,奏する効果が同様であるということはできない。
エ原告の主張について(ア)原告は,本件発明1と同様の解決課題である「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合を解決するために,本件発明1の相違点2に係る構成と同様の,引用発明2のランプ配置を採用すること,及び上記引用発明2のランプ配置の採用によって本件発明1と同様の効果を奏することができることは,本件特許出願前から引用例2に記載されて公知であったと主張する。
しかし,本件発明1と引用発明2について,解決課題が同様であるとはいえず,また,奏する効果が同様であるということができないことは,上記ウのとおりである。なお,ランプ配置の構成自体について,仮に,本件発明1と引用発明2が,「誘導体バリア放電ランプ」が「ランプ」に代わっている以外,同一であるとしても,本件発明1の課題を解決するために,その解決課題が相違する引用発明2のランプ配置を採用すること,及び,このランプ配置の採用によって本件発明1と同様の効果を奏することができることが,引用例2に記載されていると認めることはできない。
したがって,いずれにしても,原告の上記主張は採用することができない。
(イ)原告は,「光量」は「照度」の意味であるとし,また,どのランプによる照射時間も同じであると合理的に推察できるとして,照射時間を考慮の対象から外して,本件発明1が「積算光量を一定値以上に確保する」ために採用した手段は,実質的には「照度を一定値以上に確保する」手段と同じであると主張する。
しかし,仮に,原告の解釈を採用したとしても,上記イのとおり,引用発明2の課題は「照度が不均一」というものであるから,「照度を均一」にしたとしても照度が一定値以上に確保されるということはできず,またその逆に,「照度を一定値以上に確保」したとしても照度が均一化されるということはできない。したがって,「照度を均一」にすることと,「積算光量(あるいは,照度)を一定値以上」にすることは相違するのであるから,原告の上記主張は,引用発明1に引用発明2を適用することにより本件発明1が容易想到であることを主張する根拠となるとはいえず,採用することができない。
(3)引用発明1と引用発明2の技術分野についてア判断手法について(ア)原告は,引用発明1そのものではなく,これに周知例1及び2に記載の紫外線照射装置における「周知の基礎的技術」を適用してなる「紫外線照射処理装置X」の技術分野と引用発明2の技術分野との異同を論じるべきであり,引用発明1そのものの技術分野と引用発明2のそれとの異同を問題にする本件審決の判断手法は,誤りであると主張する。
(イ)原告は,本件特許無効審判請求において,相違点2に係る構成について,「紫外線照射装置X」に引用発明2を適用することにより容易に想到することができると主張していたものであるところ(甲7),当該相違点2の認定は,本件発明1と引用発明1との対比によるものである。そして,原告は,本件訴訟においても,本件審決が,本件発明1と引用発明1との対比によって相違点2を認定した上で,この相違点2について容易想到性を判断した手法自体について,争っているものではない。また,原告は,本件審決による引用発明1の認定についても,争っていない。
そうすると,相違点2は,本件発明1と引用発明1との対比によって認定された構成であるから,判断手法として,引用発明1に基づいて,相違点2に係る構成の容易想到性を判断することに不合理な点はない。
したがって,本件審決が,相違点2に係る構成の容易想到性を,引用発明1に基づき,これに引用発明2を適用することについて判断し,この判断において,引用発明1そのものの技術分野と引用発明2のそれとの異同を判断した点に誤りがあるということはできない。
(ウ)原告は,特許無効審判段階から,「紫外線照射処理装置X」に基づいて容易想到であることを,請求の理由として主張していたと主張する。
しかし,原告の主張する「紫外線照射処理装置X」は上記「周知の基礎的技術」を適用してなるものであるから,引用発明1と「紫外線照射処理装置X」とは同一であると認められないところ,本件発明1と引用発明1との対比による相違点2に係る構成を,引用発明1ではなく「紫外線照射処理装置X」に引用発明2を適用することにより判断すべきものとはいえない。かえって,相違点2の構成について,「紫外線照射処理装置X」に基づいて容易想到性を判断することは,特許法29条2項に規定する「前項各号に揚げる発明」を,相違点2の判断のみにおいて,引用発明1からこれとは同一とはいえない「紫外線照射処理装置X」に変更するものともいうことができる。
したがって,「紫外線照射処理装置X」の技術分野と引用発明2の技術分野との異同を論じるべき理由はなく,「紫外線照射処理装置X」に基づく容易想到の主張は,そもそも,特許無効審判の請求の理由としては,主張自体失当であったといわざるを得ない。
(エ)原告は,「紫外線照射処理装置X」又は「紫外線照射処理装置X」の代表例である「千鳥状ランプ配置の紫外線照射処理装置(x)」を引用発明1であるかのように主張して,本件審決の技術分野及び機能・作用に関する判断を論難し,本件発明1は容易に想到できると主張する。
しかし,前記「紫外線照射処理装置X」についての理由と同様に,「千鳥状ランプ配置の紫外線照射処理装置(x)」に基づいて,本件発明1の相違点2に係る構成の容易想到性を判断すべき理由は認められない。
(オ)なお,仮に,「紫外線照射処理装置X」に基づいて,本件発明1の相違点2に係る構成の容易想到性を判断するとしても,以下のとおり,原告の主張には理由がない。
すなわち,原告は,「紫外線照射処理装置X」と引用発明2の光照射装置とは,技術の適用ないし転用の可能性という観点から見ると,?両者がいずれも「光照射装置」として共通の構成を有しており,?このような共通構成を有する光照射装置においては,「紫外線照射処理装置X」における「被照射面において,部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」という不都合の解消・改善を図ろうとする当業者にとって,同様の不都合を既に解決し得ている引用発明2のランプ配置を適用ないし転用することは,格別の困難性もないと主張する。
しかし,上記(2)エ(イ)のとおり,引用発明2の課題である「照度が不均一」は,「部分的に積算光量が低下するような部分が形成される」と同義とはいうことができないから,引用発明2が上記?の課題を有しているということはできない。
また,原告主張の「紫外線照射処理装置X」は,「(ア)対向する電極間に少なくとも1枚の誘電体が入っている誘電体バリア放電ランプを複数具備し,/(イ)該誘電体バリア放電ランプとワークとを相対的に移動させながら該ワークの被処理面に誘電体バリア放電ランプよりの光を照射して当該ワークの処理を行う光照射装置であって,/(ウ)当該誘電体バリア放電ランプのリード線は,当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の一方の端部のみから導出される」と具体的に特定された装置と解されるところ(甲7),引用発明2の適用ないし転用の困難性を判断すべき対象は,この特定された「紫外線照射処理装置X」である。したがって,本件において,「紫外線照射処理装置X」の構成を,さらに,上記?のように上位概念化して,引用発明2の構成と共通するものということはできない。
さらに,仮に,「紫外線照射処理装置X」と引用発明2が上記?の構成で共通するとしても,引用発明2が,上記?の点で「紫外線照射処理装置X」と共通する課題を有しているということはできないから,「紫外線照射処理装置X」に引用発明2を適用ないし転用する動機付けがあるとはいえないし,「紫外線照射処理装置X」に引用発明2のランプ配置を適用ないし転用することが容易であるとはいえない。
したがって,原告の主張は,その前提において失当である。
イ引用発明1と引用発明2の技術分野について(ア)仮に,原告の主張が,引用発明1と引用発明2との技術分野及び機能・作用の同一性に関する本件審決の認定を非難するものであると善解しても,以下のとおり,両者の技術分野及び機能・作用は同一とはいえないから,上記主張も理由がない。
(イ)すなわち,引用発明1は,塗料の硬化,表面洗浄,殺菌等に使用される真空紫外線光源の改良に係り,特に,誘電体バリア放電によってエキシマ分子を形成し,該エキシマ分子から放射される光を利用するいわゆる誘電体バリア放電ランプを使用した誘電体バリア放電ランプ装置に関する発明であり(甲1【0001】),長寿命の誘電体バリア放電ランプ装置を提供することを課題とするものである(甲1【0003】【0004】)。また,引用発明1が,「対向する電極間に誘電体としての外側管3が入っている同軸円筒形誘電体バリア放電ランプであって,同軸円筒形誘電体バリア放電ランプと類似の中空円筒型誘電体バリア放電ランプを複数具備し,誘電体バリア放電ランプの光を放射することにより塗料の硬化,表面洗浄,殺菌等に使用されるものであって,同軸円筒形誘電体バリア放電ランプのリード線は,当該同軸円筒形誘電体バリア放電ランプの長手方向の一方の端部のみから導出された,誘電体バリア放電ランプ装置」であることは,原告も認めるところである。
他方,引用発明2は,前記(2)ア,イ認定のとおり,原稿読み取り装置や,ライン状検査装置等の照明に用いられるライン状光源装置に係る発明であり,短尺光源を一列に配列した場合は,継ぎ目において光量の低下が大きく,均一な照明が得られないという課題に対して,長さの自由度が大きく,均一で明るいライン光を得ることができるライン状光源装置を提供することを目的とする発明である。
(ウ)このように,引用発明1が塗料の硬化,表面洗浄,殺菌等に使用される真空紫外線光源であるのに対し,引用発明2が原稿読み取り装置や,ライン状検査装置等の照明に用いられるライン状光源に関するものであることからすれば,両者のランプの種類も光照射の対象も異なり,技術分野は,同一とはいえない。また,引用発明1の誘電体バリア放電ランプは,照射する光によって,塗料の硬化,表面洗浄,殺菌等を行うのに対し,引用発明2は,照射する光によって何らかの処理をするわけではなく,単に照明を行うものであるから,両者の機能・作用も共通するものではない。また,引用発明2の課題は照明の不均一であるのに対して,引用発明1の構成及び引用例1の記載事項から,引用発明1の課題が引用発明2の上記課題と同一であると解釈することはできない。
(4)相違点2の容易想到性以上のとおり,本件発明1と引用発明1との相違点2に係る構成(誘電体バリア放電ランプのリード線は,当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の一方の端部から導出されるものにおいて,誘電体バリア放電ランプをワークの搬送方向からみたときに,当該誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域は,少なくとも1つの他の誘電体バリア放電ランプが形成する光出射領域と相違し,かつ,当該誘電体バリア放電ランプの長手方向の他方の端部において重なること)について,「一端部でのみ給電される誘電体バリア放電ランプにおいては,非給電側端部において光出力が低下する」という本件発明1の課題を有するものではない引用発明2を適用する動機付けがあるとはいえないし,引用発明1と技術分野も機能・作用も異なる引用発明2を適用する動機付けがあるとも認められない。
よって,引用発明1に,引用発明2並びに周知例1及び2に記載された技術を適用することによって,相違点2に係る本件発明1の構成を得ることは,当業者に容易に想到できるものとはいえない。
(5)小括取消事由1についての原告の主張は,いずれも採用することができない。
2取消事由2(本件発明2,3,5及び6の容易想到性の判断の誤り)について前記第2の2のとおり,本件発明2,3,5及び6は,直接的又は間接的に本件発明1を引用して記載された発明であり,本件発明1の発明特定事項をすべて備えた発明である。
したがって,本件発明1が引用例1及び2並びに周知例1及び2に基づいて当業者が容易に想到し得た発明ということができないのであるから,本件発明2,3,5及び6についても同様に当業者が容易に想到し得た発明ということができない。
よって,その余の原告の主張について検討するまでもなく,取消事由2に理由はない。
3結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 高部眞規子
裁判官 井上泰人