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関連審決 無効2008-800209
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 冒認出願(冒認) /  特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  公然知られ(29条1項1号) /  共同開発 /  共同発明 /  公然実施(29条1項2号) /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  公衆に利用可能 /  電気通信回線 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  出願公開 /  限定的減縮 /  実施 /  同意 /  設定登録 /  審理終結通知 /  拒絶理由通知 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10213号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁護士 木下健治
訴訟代理人弁理士 唐木浄治
被告四国計測工業株式会社
訴訟代理人弁理士 須藤 阿佐子
同 須藤晃伸
同 佐藤勉
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/04/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求 特許庁が無効2008-800209号事件について平成21年6月30日にした審決を取り消す。
第2争いのない事実 1特許庁における手続の経緯  特許権設定登録に至る経緯被告は,平成14年9月4日,発明の名称を「有精卵の検査法および装置」とする発明について特許出願をし(特願2002-259297号,以下「本願」といい,本願の願書に最初に添付した明細書を図面も含めて「本件当初明細書」という。請求項の数は9であった。),本願は,平成16年4月2日,出願公開された(特開2004-101204号,甲13の1)。
本願については,平成19年5月8日付け拒絶理由通知がされ(甲1),これに対し,同年7月5日付けで特許請求の範囲変更する手続補正がされ(以下「本件補正」といい,本件補正後の明細書を図面とともに「本件明細書」という。本件補正後も請求項の数は9であった。甲2),同年8月17日,特許権の設定登録がされた(特許第3998184号,以下「本件特許」という。甲13の2,3)。
 発明者の補正の経緯本件特許に係る発明の発明者の氏名,住所又は居所は,出願当初に提出された願書では,「AI四国計測工業株式会社内」,「BI四国計測工業株式会社内」,「CI四国計測工業株式会社内」,「DI四国計測工業株式会社内」(計4名)とされていた(甲17)。
被告は,平成15年1月31日,願書の発明者の氏名,住所又は居所に,「EJ財団法人阪大微生物病研究会観音寺研究所内」,「FJ財団法人阪大微生物病研究会観音寺研究所内」を追加することを内容とする手続補正を行った(甲12の2)。
上記手続補正に伴い,被告は,発明者相互の宣誓書2通を提出した。そのうち1通は,いずれも住所又は居所を「J財団法人阪大微生物病研究会観音寺研究所内」とするE及びF作成名義の,「本願発明は同人らとA,B,C及びD6名の共同発明であることに相違ない」旨を記載した平成15年1月24日付け宣誓書であり,他の1通は,いずれも住所又は居所を「I四国計測工業株式会社内」とするA,B,C及びD作成名義の,「本願発明は同人らとE及びF6名の共同発明であることに相違ない」旨を記載した平成15年1月28日付け宣誓書であった(甲12の3)。
特許庁は,発明者の氏名,住所又は居所を上記のとおり訂正した特許公報の訂正公報を平成19年12月26日に発行した(甲13の3,甲23の1)。
 無効審判の経緯原告は,平成20年10月16日,本件特許の無効審判を請求した(無効2008-800209号,乙1)。その後,原告は平成21年2月10日付け上申書(乙7)を提出し,被告は同月20日付け答弁書(甲23の2)を提出し,原告は同年3月31日付け弁駁書(甲24の1)を提出した。平成21年4月24日,書面審理が通知され(甲12の4),その後,原告は同年5月19日付け上申書(乙8)及び手続補足書を提出し,同年6月11日,審理終結が通知された(甲12の5)。
特許庁は,平成21年6月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年7月10日,原告に送達された。
2特許請求の範囲本件当初明細書の特許請求の範囲の請求項の記載,及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項の記載は次のとおりである。
 本件当初明細書の特許請求の範囲の請求項ア請求項1有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,検査領域内の血管情報を計測し,それに基づいて正常卵を判定することを特徴とする有精卵の検査法。
イ請求項2撮像した卵内部のカラー画像における血管の有無,太さ,分布状態などを把握し,それに基づいて死卵や発育不良卵を自動で検出する請求項1の有精卵の検査法。
ウ請求項3有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,検査領域内の内部色情報を計測し,それに基づいて正常卵を判定することを特徴とする有精卵の検査法。
エ請求項4撮像した卵内部のカラー画像における気室境界付近の濃度分布情報を把握し,それに基づいて死卵や気室境界付近の出血の有無を自動で検出する請求項3の有精卵の検査法。
オ請求項5L*a*b*表色系の色情報に基づいて,卵殻の斑点状の模様を除去した後実施される1ないし4のいずれかの有精卵の検査法。
カ請求項6有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像するに際し,撮像方向を変えて複数の有精卵内部のカラー画像を撮像し,それらに基づいて行う請求項1ないし5のいずれかの有精卵の検査法。
キ請求項7有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像するに際し,遮光性を有する構造内に有精卵を配置し,カラーCCDカメラで撮像する請求項1ないし6のいずれかの有精卵の検査法。
ク請求項8請求項1ないし7のいずれかの有精卵の検査法を実現するための非破壊検査装置であって,有精卵を配置する検査用ホイル,有精卵内部に光を照射する手段と卵内部のカラー画像を撮像するカラーCCDカメラを具備する画像撮像部,および撮像した卵画像を用いて正常卵判定を行う非破壊検査部を備えた有精卵の検査装置。
ケ請求項9判定の結果によって,検査対象卵を振り分ける選別コンベアを備えた請求項8の有精卵の検査装置。
 本件補正後の特許請求の範囲の請求項ア請求項1有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,撮像したカラー画像から検査領域を抽出し,該検査領域内の血管情報を計測し,一定の太さ以上の血管の総血管長に基づいて正常卵を自動判定することを特徴とする有精卵の検査法。(以下「本件発明1」という。)イ請求項2前記検査領域面積に占める総血管長の割合に基づいて正常卵を自動判定することを特徴とする請求項1に記載の有精卵の検査法。(以下「本件発明2」という。)ウ請求項3有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,撮像したカラー画像中のR成分をモノクロ画像化し,設定したしきい値により2値化した第一の画像を取得し,前記カラー画像中のG成分をモノクロ画像化し,設定したしきい値により2値化した第二の画像を取得し,第一および第二の画像の両方に存在する領域を検査領域とし,該検査領域の面積に基づいて正常卵を自動判定することを特徴とする有精卵の検査法。(以下「本件発明3」という。)エ請求項4有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,撮像したカラー画像から検査領域を抽出し,該検査領域内の内部色情報を計測し,気室境界付近の濃度分布情報を把握し,それに基づいて気室境界付近の出血の有無を検出することにより正常卵を自動判定することを特徴とする有精卵の検査法。(以下「本件発明4」という。)オ請求項5前記検査領域内の血管情報を計測し,該検査領域を複数のブロックに分割し,血管の分布するブロック数に基づいて正常卵を自動判定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の有精卵の検査法。(以下「本件発明5」という。)カ請求項6前記カラー画像における気室境界より胎児側に向けて所定の間隔で投影値減衰率を計測し,計測した投影値減衰率の平均値に基づいて正常卵を自動判定することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の有精卵の検査法。(以下「本件発明6」という。)キ請求項7L*a*b*表色系の色情報に基づいて,卵殻の斑点状の模様を除去した後に,前記検査領域内における計測を行うことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の有精卵の検査法。(以下「本件発明7」という。)ク請求項8請求項1ないし7のいずれか一項に記載の有精卵の検査法を実現するための非破壊検査装置であって,有精卵を配置する検査用ホイルと,有精卵内部に光を照射する照明装置を有する照明部と,卵内部のカラー画像を撮像する画像撮像部と,撮像したカラー画像を用いて正常卵判定を行う処理部とを備えた有精卵の検査装置。(以下「本件発明8」という。)ケ請求項9前記検査用ホイルは,昇降・回転ユニットにより昇降および回転自在に支持され,前記照明部は,先端部が柔らかい材質で構成され,内部に照明装置が配置される照明用筒を備え,前記画像撮像部は,遮光性のある撮影用筒を備えることを特徴とする請求項8に記載の有精卵の検査装置。(以下「本件発明9」という。本件発明1ないし9を包括して「本件発明」ということがある。)3審決の理由 審決は,要するに,本件特許を無効とすることはできないとするものであり,審決の理由の要旨は,次のとおりである。
(なお,審判の甲9の8は本件訴訟の甲21に,審判の甲9の9は本件訴訟の甲24の2に,審判の甲9の10は本件訴訟の甲24の3に,審判の甲9の11は本件訴訟の甲24の4に,審判の甲9の12は本件訴訟の甲24の5にそれぞれ該当するから,これらの書証は,以下,本件訴訟の書証番号により表示する。)  特許法17条の2第3項について本件補正は,いずれも本件当初明細書に記載されていた事項の範囲に基づいて行われたものであるから,本件補正は特許法17条の2第3項の規定する要件を満たしている。
 特許法29条1項3号(甲4ないし8)について本件発明1ないし9は,いずれも,本願出願前に頒布された刊行物である下記の甲4ないし8に記載された発明とはいえないから,特許法29条1項3号に該当しない。
甲4特開平9-127096号公報甲5特開平11-173996号公報甲6特開2001-211776号公報甲7特開平7-209209号公報甲8特開平7-229841号公報 特許法29条2項(甲4ないし8)について本件発明1ないし9は,いずれも,甲4ないし8に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものではない。
 特許法29条1項1号,2号(甲9の1ないし7,甲10の1,2,甲11,甲21,甲24の2ないし5)について 下記の甲9の2ないし7,甲11,甲21,甲24の4,5に記載された発明は本件発明1ないし9と同一ではなく,下記の甲9の1,甲24の2,3には,検査法又は検査装置に関する発明が記載されておらず,下記の甲10の1,2に記載された発明は,本願出願前に公然知られた発明であるとも,公然実施をされた発明であるともいえないから,本件発明1ないし9は,特許法29条1項1号又は2号に該当するものではない。
甲9の1「有精卵の検卵装置に関する経過説明」平成17年10月25日原告作成甲9の2「打合せ議事録」平成13年9月15日G作成甲9の3 「たまご検卵シリンダー機構構想図」平成14年1月5日 株式会社熊本アイディーエム(以下「熊本アイディーエム」という。)作成甲9の4「たまごけ検卵器」熊本アイディーエム作成甲9の5「FAX送付状」平成13年12月3日H作成甲9の6「検卵装置全体図」平成14年10月12日熊本アイディーエム作成甲9の7「ライトガイド外観図」平成13年11月28日比内時計工業株式会社作成甲10の1「自動検卵機」被告作成甲10の2「有精卵の検査手法」D,C,A,B作成甲11「会社概要」甲21「設備見積仕様書」平成14年10月8日熊本アイディーエム作成甲24の2「検卵機開発経過報告書」平成21年3月25日熊本アイディーエム代表取締役G作成甲24の3「四国計測工業株式会社」被告作成甲24の4「四国計測工業/製品紹介 /自動検卵機」被告作成甲24の5「四国計測工業/製品紹介 /産業用製品」被告作成 特許法49条7号について本件発明の発明者は,被告(四国計測工業株式会社)内のA,B,C及びDと財団法人阪大微生物病研究会観音寺研究所(以下「微研」という。)内のE及びFの6名であると認められるから,本願は特許法49条7号の要件を満たしている。
 特許法29条1項3号(刊行物1ないし8)について本件発明1ないし9は,いずれも,本願出願前に頒布された刊行物である下記の刊行物1ないし8に記載された発明とはいえないから,特許法29条1項3号に該当しない。
刊行物1特開平11-118722号公報刊行物2特開2002-153262号公報刊行物3特開昭59- 37460号公報刊行物4特開平9- 61418号公報刊行物5特開平10-328625号公報刊行物6特開平11- 56159号公報刊行物7特開平11-326202号公報刊行物8特開2000- 23505号公報 特許法29条2項(刊行物1ないし8)について本件発明1ないし9は,いずれも,刊行物1ないし8に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものではない。
 特許法29条1項3号(甲9の1ないし7,甲10の1,2,甲11,甲21,甲24の2ないし5)について甲9の1ないし7,甲10の1,2,甲21,甲24の2,3は,いずれも,本願出願前に日本国又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものとはいえないものである。また,本件発明1ないし9は,いずれも,甲11及び甲24の4,5に記載された発明とはいえない。したがって,本件発明1ないし9は,特許法29条1項3号に該当しない。
 特許法29条2項(甲9の1ないし7,甲10の1,2,甲11,甲21,甲24の2ないし5)について本件発明1ないし9は,いずれも,甲9の1ないし7,甲10の1,2,甲11,甲21,甲24の2ないし5に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものではない。
第3 取消事由に関する原告の主張審決には,新規事項の追加に関する判断の誤り(取消事由1),冒認出願に関する判断の誤り(取消事由2),原告に充分な主張の機会を与えなかった等の手続上の誤り(取消事由3)があるから,違法として取り消されるべきである。
1 新規事項の追加に関する判断の誤り(取消事由1)本件補正は,以下のとおり,本件発明1ないし9のいずれについても新規事項を追加するものであり,特許法17条の2第3項の規定する要件を満たさないから,審決が,本件補正は特許法17条の2第3項の規定する要件を満たすとした判断は誤りである。
 本件発明1について本件補正により本件発明1に追加された「撮像したカラー画像」との事項は新規事項であるし,これを追加することは限定的減縮に該当しない。
本件当初明細書の請求項1において,「それに基づいて」とは,「カラー画像を撮像して検査領域内の血管情報を計測し,その計測に基づいて」との意味と解すべきであるから,本件補正により追加された「一定の太さ以上の血管の総血管長」との事項は新規事項である。
したがって,本件発明1に係る本件補正は,本件当初明細書に記載されていた事項の範囲内において行われたものではない。
 本件発明2について本件当初明細書の記載に照らすと,本件発明2に係る本件補正は本件当初明細書に記載されていた事項の範囲内において行われたものではない。
 本件発明3について 本件補正により本件発明3に追加された事項は,本件当初明細書の【0027】に記載されていたが,これは実施例の記載であるから,これを特許請求の範囲に付け加えると新規事項の追加となる。したがって,本件発明3に係る本件補正は本件当初明細書に記載されていた事項の範囲内において行われたものではない。
 本件発明4について本件補正により本件発明4に追加された「有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し」,「撮像したカラー画像から検査領域を抽出し」,「該検査領域内の内部色情報を計測し」との事項は,新規事項であるから,本件発明4に係る本件補正は本件当初明細書に記載されていた事項の範囲内において行われたものではない。
 本件発明5について本件当初明細書の記載に照らすと,本件発明5に係る本件補正は本件当初明細書に記載されていた事項の範囲内において行われたものではない。
 本件発明6について本件補正により本件発明6に追加された「投影値減衰率を計測し,計測した投影値減衰率の平均値に基づいて」との事項は,本件当初明細書の【0026】の記載と同一でないから,新規事項であり,本件発明6に係る本件補正は本件当初明細書に記載されていた事項の範囲内において行われたものではない。
 本件発明7について本件補正により本件発明7に追加された「L*a*b*表色系の色情報に基づいて,卵殻の斑点状の模様を除去した後に,前記検査領域内における計測を行う」との事項は,新規事項であるから,本件発明7に係る本件補正は本件当初明細書に記載されていた事項の範囲内において行われたものではない。
 本件発明8について本件発明8について「正常卵判定を行う非破壊検査部を備えた有精卵の検査装置」を「正常卵判定を行う処理部を備えた有精卵の検査装置」とする補正は,新規事項を追加するものであるから,本件発明8に係る本件補正は本件当初明細書に記載されていた事項の範囲内において行われたものではない。
 本件発明9について本件当初明細書の記載に照らすと,本件発明9に係る本件補正は本件当初明細書に記載されていた事項の範囲内において行われたものではない。
2冒認出願に関する判断の誤り(取消事由2)本件特許は,以下のとおり,冒認出願に対してされたものであるから,審決が,本件特許は冒認出願に対してされたものではないとした判断は誤りである。
すなわち,「有精卵の検卵装置に関する経過説明」(甲9の1),「設備見積仕様書」(甲21),「検卵機開発経過報告書」(甲24の2),によれば,本件発明の発明者が原告であることは明らかであり,被告は原告から特許を受ける権利承継していない。
また,D,C,A及びB作成名義の「有精卵の検査手法」と題する書面(甲10の2)には,「6.まとめ」欄に「インフルエンザワクチン製造過程において目視で行われていた有精卵の検査業務を自動化するため,画像処理による有精卵の検査手法を開発した。」と記載され,「7.謝辞」欄に「本研究をすすめるにあたり,評価サンプルや実験場所をご提供頂き,また,目視検査の内容についてご指導を頂きました(財)阪大微生物病研究会観音寺研究所殿の皆様に厚くお礼を申し上げます。」と記載されていることから,発明者として追加された微研内のE及びFは自動検卵機のテストに参加したにすぎず,本件発明の発明者ではない。そのため,被告は,E及びFから本件特許の特許を受ける権利承継することはできない。
そうすると,被告は,発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利承継していないものであり,本件特許は,そのような被告の冒認出願に対してされたものである。
3原告に充分な主張の機会を与えなかった等の審判の手続上の誤り(取消事由3)審判には,以下のとおり,原告に充分な主張の機会を与えなかった等の手続上の誤りがある。
 特許庁による答弁書副本の送付通知(甲23の1)により,原告の意見を主張する機会が奪われたこと特許庁が原告に送付した答弁書副本の送付通知(甲23の1)には,審判事件答弁書の答弁に対する意見について「弁駁書を提出される場合には,以下の点について意見を述べてください」と記載されていて,それ以外の点について意見を述べることを制約するように記載されていた。これは,審判事件答弁書に対する原告の反論の機会を奪うものであり,これにより,原告の適正な審判を受ける権利が損なわれた。
 審理終結通知が特許法156条1項に反すること本件は複雑な事件であるから,審判長は,当事者から提出された書面と証拠を精査した上で審理を終結すべきである。ところが,審判長は,平成20年10月16日に請求された本件の無効審判につき,当事者から提出された書面と証拠を精査せず,平成21年6月11日に審理終結を通知し,審理を短期間しか行わなかったから,本件の無効審判における審理終結通知は,特許法156条1項に反する。
 特許法施行規則5条2項違反仮に被告の主張どおり,被告の従業員及び微研の研究員が本件発明の発明者であるとすれば,被告はそれらの発明者から特許を受ける権利承継したはずであるが,特許を受ける権利承継を証明する書面は提出されていないから,本件特許の審査,審判には特許法施行規則5条2項に違反した違法がある。
第4被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。
1新規事項の追加に関する判断の誤り(取消事由1)に対し本件補正は,以下のとおり,本件発明1ないし9のいずれについても新規事項を追加するものではない。
 本件発明1について本件発明1に係る本件補正のうち,「撮像したカラー画像から検査領域を抽出する」工程を追加する補正事項は,本件当初明細書の【0016】に記載されており,正常卵を判定する工程について,「一定の太さ以上の血管の総血管長」に基づき「自動」で行うと限定する補正事項は,本件当初明細書の【0006】,【0029】に記載されていた。
 本件発明2について本件発明2に係る本件補正は,本件当初明細書の請求項2について,正常卵を判定する工程を,「前記検査領域面積に占める総血管長の割合」に基づくと限定する補正事項からなり,同補正事項は,本件当初明細書の【0029】に記載されていた。
 本件発明3について本件発明3に係る本件補正のうち,本件当初明細書の請求項3について,「検査領域内の内部色情報を計測し,それに基づいて」判定を行うとの点を,「撮像したカラー画像中のR成分をモノクロ画像化し,設定したしきい値により2値化した第一の画像を取得し,前記カラー画像中のG成分をモノクロ画像化し,設定したしきい値により2値化した第二の画像を取得し,第一および第二の画像の両方に存在する領域を検査領域とし,該検査領域の面積に基づいて」判定を行うと限定する補正事項は,本件当初明細書の【0006】,【0027】に記載されており,正常卵を判定する工程について,「自動」判定すると限定する補正事項は,本件当初明細書の【0006】に記載されていた。
 本件発明4について本件発明4に係る本件補正のうち,本件補正前の請求項3について,「撮像したカラー画像から検査領域を抽出」する工程を追加する補正事項は,本件当初明細書の【0016】に記載されており,「気室境界付近の濃度分布情報を把握」する工程を追加する補正事項,及び正常卵を判定する工程について,「気室境界付近の出血の有無を検出することにより」判定すると限定する補正事項は,本件当初明細書の請求項4に記載されており,正常卵を判定する工程について,「自動」判定すると限定する補正事項は,本件当初明細書の【0006】に記載されていた。
 本件発明5について本件発明5に係る本件補正のうち,正常卵を判定する工程について,「検査領域内の血管情報を計測し,該検査領域を複数のブロックに分割し,血管の分布するブロック数」に基づくと限定する補正事項は,本件当初明細書の請求項1及び【0029】に記載されており,正常卵を判定する工程について,「自動」判定すると限定する補正事項は,本件当初明細書の【0006】に記載されていた。
 本件発明6について本件発明6に係る本件補正のうち,正常卵を判定する工程について,「カラー画像における気室境界より胎児側に向けて所定の間隔で投影値減衰率を計測し,計測した投影値減衰率の平均値」に基づくと限定する補正事項は,本件当初明細書の【0025】,【0026】に記載されており,正常卵を判定する工程について,「自動」判定すると限定する補正事項は,本件当初明細書の【0006】に記載されていた。
 本件発明7について本件発明7に係る本件補正は,本件当初明細書の請求項5を本件補正後の請求項7のとおり補正するものであり,本件当初明細書の請求項1及び3の記載に照らすと,これらを引用する本件当初明細書の請求項5に係る発明は,本件補正により本件補正後の請求項7に文言上付け加えられた「検査領域内における計測を行うこと」を含んでいた。
 本件発明8について本件発明8に係る本件補正のうち,「有精卵内部に光を照射する手段と卵内部のカラー画像を撮像するカラーCCDカメラを具備する画像撮像部」を「有精卵内部に光を照射する照明装置を有する照明部」と「卵内部のカラー画像を撮像する画像撮像部」に変更する補正事項は,本件当初明細書の請求項8,【0016】,【0023】に記載されており,「撮像した卵画像を用いて正常卵判定を行う非破壊検査部」を「撮像したカラー画像を用いて正常卵判定を行う処理部」に変更する補正事項は,本件当初明細書の【0020】に記載されていた。
 本件発明9について本件発明9に係る本件補正は,検査用ホイルが「昇降・回転ユニットにより昇降および回転自在に支持され」ると限定する補正事項,「先端部が柔らかい材質で構成され,内部に照明装置が配置される照明用筒を備え」る照明部を追加する補正事項,画像撮像部が「遮光性のある撮影用筒を備える」と限定する補正事項からなり,これらはいずれも本件当初明細書の【0023】に記載されていた。
2冒認出願に関する判断の誤り(取消事由2)に対し「有精卵の検卵装置に関する経過説明」(甲9の1),「設備見積仕様書」(甲21),「検卵機開発経過報告書」(甲24の2)によっても,本件発明の発明者が原告であることは認めることができない。また,D,C,A及びB作成名義の「有精卵の検査手法」と題する書面(甲10の2)の「6.まとめ」欄及び「7.謝辞」欄の記載に基づいて,E及びFが本件発明の発明者でないとはいえない。
本件特許の願書の発明者の氏名,住所又は居所を変更する手続補正に伴って提出された誓約書(甲12の3),並びに乙2ないし5によれば,本件発明の発明者は,A,B,C,D,E及びFの6名であること,A,B,C及びDは被告に本件特許の特許を受ける権利を譲渡し,また,微研の同意のもとでE及びFが被告に本件特許の特許を受ける権利を譲渡し,被告が本件特許を出願したことは明らかである。
3原告に充分な主張の機会を与えなかった等の審判の手続上の誤り(取消事由3)に対し 特許庁による答弁書副本の送付通知(甲23の1)により,原告の意見を主張する機会が奪われたことについて平成21年3月6日付けの答弁書副本の送付通知(甲23の1)には,所定の事項以外について意見を述べることを制約する趣旨は記載されていない。
また,当事者は,審理終結通知(特許法156条1項)があるまで弁駁書等の書面を提出することができる。そして,原告は,上記答弁書副本の送付通知がされた後も,弁駁書,上申書を提出している。そうすると,特許庁による答弁書副本の送付通知により,原告の意見を主張する機会が奪われたとは認められない。
 審理終結通知が特許法156条1項に反することについて本件の無効審判の審理期間は7か月で,平均的な審理期間であり,本件の無効審判における審理終結通知が特許法156条1項に反することはない。
 特許法施行規則5条2項違反について特許法施行規則5条2項は,権利の承継を証明する書面の提出を命ずるか否かを,特許庁長官の裁量にゆだねているから,それらの書面の提出を命じることがなかったことをもって同項に反するということはできず,本件特許の出願手続は同項に反するものではない。
第5当裁判所の判断1新規事項の追加に関する判断の誤り(取消事由1)について本件補正は,本件発明1ないし9のいずれについても新規事項を追加するものではないから,審決が,本件補正は特許法17条の2第3項の規定する要件を満たすとした判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
 本件発明1についてア本件発明1に係る本件補正は,本件当初明細書の請求項1(「有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,検査領域内の血管情報を計測し,それに基づいて正常卵を判定することを特徴とする有精卵の検査法。」前記第2,2 ア)を本件補正後の請求項1(「有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,撮像したカラー画像から検査領域を抽出し,該 検査領域内の血管情報を計測し,一定の太さ以上の血管の総血管長 に基づいて正常卵を自動 判定することを特徴とする有精卵の検査法。」前記第2,2 ア,下線部は補正個所である。以下同じ。)のとおり補正するものであり,「撮像したカラー画像から検査領域を抽出」する工程を追加する補正事項(補正事項1。以下,補正事項は,番号により表示することがある。),及び正常卵を判定する工程について,「一定の太さ以上の血管の総血管長」に基づき,「自動」で行うと限定する補正事項(補正事項2)からなるものである。
イ補正事項1は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,本件当初明細書の【0016】には,次のとおりの記載がある(下線は本判決による。以下同じ。)。
「【0016】《卵内部の色情報》卵内部の色情報は,卵上部(気室側)より照明光を照射し,卵殻を透過した照明光を,カラーCCDカメラを用いて撮像し,カラー画像(RGB表色系)として得る。
十数日齢の正常な有精卵の内部を撮像したカラー画像上では,気室,胎児,漿尿膜腔,血管は,色合い,明度,形状等それぞれに異なった特徴を持つ。 胎児部は暗く,色合いも少ない。気室および漿尿膜腔,血管は,黄色から赤色にかけての色合いが多く,それぞれ明度が異なる。
卵内部の,気室から胎児にかけての,漿尿膜腔のある領域を検査領域として ,胎児の位置(領域の大きさ)や気室境界付近の濃度情報,血管情報を取得し,正常卵判定を行う。
検査領域は,赤色から黄色にかけての色情報が多く含まれているため,RGB画像のG成分とR成分を用いて,検査領域の特定を行う。
特定した検査領域の面積を計測し,正常卵判定の判断材料として使用する。 」上記のとおり「卵内部の,気室から胎児にかけての,漿尿膜腔のある領域を検査領域として」との記載があることから,【0016】には,卵内部の色情報をカラー画像として得た後,漿尿膜腔のある領域を検査領域とし,血管情報を取得し,正常卵判定を行うことが記載されているといえる。ここにいう卵内部の色情報をカラー画像として得る工程は,本件発明1の「卵内部のカラー画像を撮像」する工程に該当し,血管情報を取得する工程は,本件発明1の「検査領域内の血管情報を計測」する工程に該当するものであるから,本件当初明細書には,卵内部のカラー画像を撮像する工程と検査領域内の血管情報を計測する工程の間において実行される工程として,「漿尿膜腔のある領域を検査領域」とする工程が記載されていたといえる。
そして,「抽出」という直接の記載はないものの,撮像されたカラー画像の一部の領域を検査領域とすることは,一般に検査領域を「抽出」すると称されることである。
そうすると,本件当初明細書には,「撮像したカラー画像から検査領域を抽出」する工程が実質的に記載されていたということができる。
ウ補正事項2は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,本件当初明細書の【0006】,【0029】には,次のとおりの記載がある。
「【0006】本発明は,有精卵の上部から内部に光を照射して撮像した卵内部のカラー画像において,血管の有無,太さ,分布状態などの情報を,画像処理を用いて計測し,その結果に基づいて正常卵を自動で判定する有精卵の非破壊検査手法である。すなわち,撮像した卵内部のカラー画像における血管の有無,太さ,分布状態などを把握し,それに基づいて死卵や発育不良卵を自動で検出しており,その場合,本発明は,有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,血管の有無,太さ,分布状態などの検査領域内の血管情報を計測し,それに基づいて死卵や発育不良卵を自動で検出して正常卵と区別することで,正常卵を判定することを特徴とする有精卵の検査法を要旨としている。」「【0029】図19は,血管抽出方法を簡単に説明する図である。
血管抽出は,図19の方法を用いて血管候補領域を抽出し,ノイズ除去,細線化を行い,幅1画素の線分として血管を抽出する。
抽出血管は,a*画像とG画像を用い,血管ごとにa*およびGの色合い平均値を計測する。
各色合い平均値と設定しきい値との比較により,極端に細い血管を判別し,除去する。
残った抽出血管は,検査卵の有する正常な血管として,血管総長(総画素数)を算出する。 また,複数のブロックに分割した検査領域上における,血管の分布ブロック数を計測する。
一次判定は,4画像の総血管長と検査領域総面積との兼ね合いによって,正常卵を判定する。
二次判定は,一次判定時に死卵と判定された検査卵に対してのみ実施する。ここでは,4画像の気室近傍濃度変化量(濃度減衰率)と血管分布ブロック数を,設定したしきい値と比較し,正常卵を判定する。濃度の減衰が急激なもの,血管分布ブロック数が多いものを正常卵とする 。
死卵は,気室境界付近における出血を検出した時と二次判定時に,判定結果が確定し,正常卵は,一次判定時と二次判定時に判定結果が確定する。
本発明は,気室境界付近における出血有無の検査,気室近傍濃度変化計測,検査領域特定・面積計測,斑点除去,血管検査領域内における出血確認・対策,血管抽出等の処理の後,一次,二次の二段階の正常卵判定を実施することによって,高精度な有精卵の検査に効果がある。
正常卵判定の結果は,画像処理装置より選別コンベアに出力され,結果によって振り分けられる。
正常卵判定をうけた卵は,選別ラインから,複数個同時に吸着してホイルから専用トレイに移載し,排出する。選別した死卵(発育不良卵,気室境界付近出血卵を含む)は,複数個同時に吸着して,ホイルから死卵回収設備へ移載し,回収する。」上記【0029】の「一次判定は,4画像の総血管長と検査領域総面積との兼ね合いによって,正常卵を判定する。」という記載によれば,正常卵の判定を,「総血管長」に基づいて行うことが記載されている。また,「極端に細い血管を判別し,除去する。残った抽出血管は,検査卵の有する正常な血管として,血管総長(総画素数)を算出する。」という記載によれば,「血管総長」の算出に用いられる抽出血管は,極端に細い血管を判別し,除去し,残った血管であるから,「一定の太さ以上の血管」を抽出血管とし,「血管総長」を算出していることが記載されているといえる。また,上記のとおり【0006】には,「正常卵を自動で判定する」と記載されている。
そうすると,本件当初明細書には,正常卵を判定する工程について,「一定の太さ以上の血管の総血管長」に基づき,「自動」で行うことが記載されていたということができる。
エしたがって,本件発明1に係る本件補正は,本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
 本件発明2についてア本件発明2に係る本件補正は,特許請求の範囲に本件補正後の請求項2(「前記検査領域面積に占める総血管長の割合に基づいて正常卵を自動判定することを特徴とする請求項1に記載の有精卵の検査法。」前記第2,2 イ)を追加するものであり,正常卵を判定する工程を,「前記検査領域面積に占める総血管長の割合」に基づくと限定する補正事項(補正事項3)からなる。
イ上記補正事項(補正事項3)は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,本件当初明細書の【0029】には,「一次判定は,4画像の総血管長と検査領域総面積との兼ね合いによって,正常卵を判定する。」と記載されているところ,「兼合い」とは,「かねあうこと。つりあい。均衡。
標準。」(広辞苑第4版(岩波書店))を意味するから,「総血管長と検査領域総面積との兼ね合いによって,正常卵を判定する」とは,総血管長と検査領域総面積とのつりあいがとれているかどうか,又は総血管長と検査領域総面積との均衡がとれているかどうかによって正常卵を判定するという意味と解釈し得る。そして,総血管長と検査領域総面積の「つりあい」又は「均衡」とは,総血管長と検査領域総面積のバランスを意味し,総血管長と検査領域総面積のバランスとは,総血管長と検査領域総面積の「割合」を意味することといえる。
そうすると,本件当初明細書には,「前記検査領域面積に占める総血管長の割合」に基づいて正常卵を判定することが記載されていたということができる。
ウしたがって,本件発明2に係る本件補正は,本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
 本件発明3についてア本件発明3に係る本件補正は,本件当初明細書の請求項3(「有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,検査領域内の内部色情報を計測し,それに基づいて正常卵を判定することを特徴とする有精卵の検査法。」前記第2,2 ウ)を本件補正後の請求項3(「有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,撮像したカラー画像中のR成分をモノクロ画像化し,設定したしきい値により2値化した第一の画像を取得し,前記カラー画像中のG成分をモノクロ画像化し,設定したしきい値により2値化した第二の画像を取得し,第一および第二の画像の両方に存在する領域を検査領域とし,該検査領域の面積に基づいて 正常卵を自動 判定することを特徴とする有精卵の検査法。」前記第2,2  ウ)のとおり補正するものであり,本件当初明細書の請求項3について,「検査領域内の内部色情報を計測し,それに基づいて」判定を行うとの点を,「撮像したカラー画像中のR成分をモノクロ画像化し,設定したしきい値により2値化した第一の画像を取得し,前記カラー画像中のG成分をモノクロ画像化し,設定したしきい値により2値化した第二の画像を取得し,第一および第二の画像の両方に存在する領域を検査領域とし,該検査領域の面積に基づいて」判定を行うと限定する補正事項(補正事項4),及び正常卵を判定する工程について,「自動」判定すると限定する補正事項(補正事項5)からなるものである。
イ補正事項4は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,本件当初明細書の【0027】には,次のとおりの記載がある。
「【0027】カラー画像(RGB)中のRとGを,それぞれの成分によりモノクロ画像化し,設定しきい値にて2値化する。
R画像を,設定値以上で2値化すると,周囲の暗い部分より,気室や血管分布領域(漿尿膜腔等)を中心とした卵全体が抽出される。
G画像を,設定値以下で2値化すると,気室や死卵で生じやすい明度の高い血管分布領域を除去した画像が抽出される。
得られた2つの2値画像中,両方に存在する領域を,検査領域として特定する。 」上記【0027】の「カラー画像(RGB)中のRとGを,それぞれの成分によりモノクロ画像化し,設定しきい値にて2値化する。」及び「得られた2つの2値画像中,両方に存在する領域を,検査領域として特定する。」という記載によれば,「撮像したカラー画像中のR成分をモノクロ画像化し,設定したしきい値により2値化した第一の画像を取得し,前記カラー画像中のG成分をモノクロ画像化し,設定したしきい値により2値化した第二の画像を取得し,第一および第二の画像の両方に存在する領域を検査領域」とすることが記載されていたといえる。
また,【0016】の「RGB画像のG成分とR成分を用いて,検査領域の特定を行う。特定した検査領域の面積を計測し,正常卵判定の判断材料として使用する。」という記載(前記 イ)によれば,G成分とR成分により特定された「該検査領域の面積に基づいて」正常卵の判定を行うことが記載されているといえる。
そして,【0016】の「卵内部の色情報は,卵上部(気室側)より照明光を照射し,卵殻を透過した照明光を,カラーCCDカメラを用いて撮像し,カラー画像(RGB表色系)として得る。」という記載(前記 イ)によれば,本件当初明細書では,RGB表示系のカラー画像を内部色情報と呼称していたものといえる。
そうすると,本件当初明細書には,「検査領域内の内部色情報を計測し,それに基づい」た正常卵の判定として,「撮像したカラー画像中のR成分をモノクロ画像化し,設定したしきい値により2値化した第一の画像を取得し,前記カラー画像中のG成分をモノクロ画像化し,設定したしきい値により2値化した第二の画像を取得し,第一および第二の画像の両方に存在する領域を検査領域とし,該検査領域の面積に基づいて」正常卵を判定することが記載されていた。
ウ補正事項5は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,本件当初明細書の【0006】には,「正常卵を自動で判定する」とされ(前記 ウ),正常卵を判定する工程について,「自動」で行うことが記載されていた。
エしたがって,本件発明3に係る本件補正は,本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
 本件発明4についてア本件発明4に係る本件補正は,本件当初明細書の請求項3(「有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,検査領域内の内部色情報を計測し,それに基づいて正常卵を判定することを特徴とする有精卵の検査法。」前記第2,2 ウ)を本件補正後の請求項4(「有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,撮像したカラー画像から検査領域を抽出し,該 検査領域内の内部色情報を計測し,気室境界付近の濃度分布情報を把握し, それに基づいて気室境界付近の出血の有無を検出することにより 正常卵を自動 判定することを特徴とする有精卵の検査法。」前記第2,2 エ)のとおり補正するものであり,本件当初明細書の請求項3について,「撮像したカラー画像から検査領域を抽出」する工程を追加する補正事項(補正事項6),「気室境界付近の濃度分布情報を把握」する工程を追加する補正事項(補正事項7),正常卵を判定する工程について,「気室境界付近の出血の有無を検出することにより」判定すると限定する補正事項(補正事項8),正常卵を判定する工程について,「自動」判定すると限定する補正事項(補正事項9)からなるものである。
イ補正事項6は,補正事項1について検討したとおり(前記 イ),本件当初明細書に記載されていた。
ウ補正事項7は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,本件当初明細書の特許請求の範囲の請求項4には,次のとおりの記載がある。
「撮像した卵内部のカラー画像における気室境界付近の濃度分布情報を把握し ,それに基づいて死卵や気室境界付近の出血の有無を自動で検出する 請求項3の有精卵の検査法。」上記請求項4の「カラー画像における気室境界付近の濃度分布情報を把握し」という記載によれば,カラー画像を計測した後,「気室境界付近の濃度分布情報を把握」する工程を実行することが記載されているといえる。
そうすると,本件当初明細書には,「気室境界付近の濃度分布情報を把握」する工程が記載されていた。
エ補正事項8は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,本件当初明細書の請求項4(前記ウ)の「気室境界付近の出血の有無を自動で検出する」という記載によれば,正常卵を判定するに際して「気室境界付近の出血の有無を自動で検出する」ことが記載されていたといえる。
そうすると,本件当初明細書には,正常卵を判定する工程について,「気室境界付近の出血の有無を検出することにより」判定することが記載されていた。
オ補正事項9は,補正事項5について検討したとおり(前記 ウ),本件当初明細書に記載されていた。
カしたがって,本件発明4に係る本件補正は本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
 本件発明5についてア本件発明5に係る本件補正は,特許請求の範囲に本件補正後の請求項5(「前記検査領域内の血管情報を計測し,該検査領域を複数のブロックに分割し,血管の分布するブロック数に基づいて正常卵を自動判定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の有精卵の検査法。」前記第2,2 オ)を追加するものであり,正常卵を判定する工程について,「検査領域内の血管情報を計測し,該検査領域を複数のブロックに分割し,血管の分布するブロック数」に基づくと限定する補正事項(補正事項10),正常卵を判定する工程について,「自動」判定すると限定する補正事項(補正事項11)からなるものである。
イ補正事項10は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,本件当初明細書の特許請求の範囲の請求項1には,次のとおりの記載がある。
「有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,検査領域内の血管情報を計測し, それに基づいて正常卵を判定することを特徴とする有精卵の検査法。」上記請求項1の「検査領域内の血管情報を計測し,」という記載によれば,正常卵の判定を行う際に,検査領域内の血管情報を計測することが記載されているといえる。
また,本件当初明細書の【0029】の「複数のブロックに分割した検査領域上における,血管の分布ブロック数を計測する。」及び「濃度の減衰が急激なもの,血管分布ブロック数が多いものを正常卵とする。」という記載(前記 ウ)によれば,「検査領域を複数のブロックに分割し,血管の分布するブロック数」に基づいて正常卵を判定することが記載されているといえる。
そうすると,本件当初明細書には,正常卵を判定する工程について,「検査領域内の血管情報を計測し,該検査領域を複数のブロックに分割し,血管の分布するブロック数」に基づくことが記載されていた。
ウ補正事項11は,補正事項5について検討したとおり(前記 ウ),本件当初明細書に記載されていた。
エしたがって,本件発明5に係る本件補正は,本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
 本件発明6についてア本件発明6に係る本件補正は,特許請求の範囲に本件補正後の請求項6(「前記カラー画像における気室境界より胎児側に向けて所定の間隔で投影値減衰率を計測し,計測した投影値減衰率の平均値に基づいて正常卵を自動判定することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の有精卵の検査法。」前記第2,2 カ)を追加するものであり,正常卵を判定する工程について,「カラー画像における気室境界より胎児側に向けて所定の間隔で投影値減衰率を計測し,計測した投影値減衰率の平均値」に基づくと限定する補正事項(補正事項12),正常卵を判定する工程について,「自動」判定すると限定する補正事項(補正事項13)からなるものである。
イ補正事項12は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,本件当初明細書の【0025】,【0026】には,次のとおりの記載がある。
「【0025】図15は,正常卵と気室境界付近に出血のある卵の,各出血確認用検査領域での平均濃淡値について簡単な例を示す。
気室境界付近に出血がある場合,気室境界付近と血管分布領域(漿尿膜腔)との濃淡差が大きい。
濃淡比が設定した値以上の場合を,気室境界付近に出血有りとして判定結果を出力する。
検査結果,気室境界付近に出血有りと判定した場合,その時点で検査対象卵を死卵として判定する。
検査結果,気室境界付近に出血無しと判定した場合は,気室近傍濃度変化を計測する。
ノイズ抑制後の画像を用いた,X軸上の濃度情報の投影結果をもとに,気室の存在するX軸上の範囲を特定する。」「【0026】図16は,正常卵と死卵のX軸上の濃度情報投影について簡単な例を示す。
正常卵は,気室から胎児にかけて濃度が減衰するが,気室境界を境にその勾配が急になる場合が多いが,死卵は気室境界が不明瞭な場合があり,気室境界からの濃度の減衰が,緩やかな勾配になる場合がある。
X軸上の濃淡情報が,ある設定値を指定数以上連続して越えた最も左側の範囲を,気室の範囲と特定する。
気室範囲最右端を気室境界点とし,一定間隔の投影値減衰率平均を,気室境界より設定数計測し,全計測結果の減衰率平均値を正常卵判定の判断材料として,2次判定時に使用する。
次に,卵内部の色情報を用いて,血管情報の取得に必要な検査領域を特定する。」前記本件当初明細書の請求項4の「カラー画像における気室境界付近の濃度分布情報を把握」という記載(前記 ウ)によれば,気室境界付近の濃度情報を「カラー画像」から得ることが記載されているといえる。
また,上記【0026】の「正常卵は,気室から胎児にかけて濃度が減衰するが,気室境界を境にその勾配が急になる場合が多いが,死卵は気室境界が不明瞭な場合があり,気室境界からの濃度の減衰が,緩やかな勾配になる場合がある。」という記載によれば,気室境界より胎児側に向けて濃度が減衰することが記載されているといえる。
さらに,上記【0025】の「濃度情報の投影結果」及び【0026】の「一定間隔の投影値減衰率平均を,気室境界より設定数計測し,全計測結果の減衰率平均値を正常卵判定の判断材料として,2次判定時に使用する。」との記載から,濃度情報の投影結果の減衰率を,一定間隔で計測し,減衰率の平均値に基づいて正常卵を判定することが記載されているといえる。
そうすると,本件当初明細書には,「カラー画像における気室境界より胎児側に向けて所定の間隔で投影値減衰率を計測し,計測した投影値減衰率の平均値」に基づいて正常卵を判定する工程が記載されていた。
ウ補正事項13は,補正事項5について検討したとおり(前記 ウ),本件当初明細書に記載されていた。
エしたがって,本件発明6に係る本件補正は,本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
 本件発明7についてア本件発明7に係る本件補正は,本件当初明細書の請求項5(「L*a*b*表色系の色情報に基づいて,卵殻の斑点状の模様を除去した後実施される1ないし4のいずれかの有精卵の検査法。」前記第2,2 オ)を,本件補正後の請求項7(「L*a*b*表色系の色情報に基づいて,卵殻の斑点状の模様を除去した後に,前記検査領域内における計測を行うことを特徴とする 請求項1ないし6 のいずれか一項に記載の有精卵の検査法。」前記第2,2 キ)のとおり補正するものである。
イ本件当初明細書の請求項1(前記第2,2 ア)に係る発明は,「検査領域内の血管情報を計測」するものであった(前記 イ)。また,本件当初明細書の請求項3(前記第2,2 ウ)には,「有精卵内部に光を照射して卵内部のカラー画像を撮像し,検査領域内の内部色情報を計測し,それに基づいて正常卵を判定することを特徴とする有精卵の検査法。」と記載されており,同請求項3に係る発明は「検査領域内の内部色情報を計測」しているものであった。そのため,これらの請求項1又は請求項3を引用する本件当初明細書の請求項5に係る発明は,本件補正後の請求項7において文言上付け加えられた「検査領域内における計測を行うこと」を含んでいたといえる。
したがって,本件発明7に係る本件補正は,本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
 本件発明8についてア本件発明8に係る本件補正は,本件当初明細書の請求項8(「請求項1ないし7のいずれかの有精卵の検査法を実現するための非破壊検査装置であって,有精卵を配置する検査用ホイル,有精卵内部に光を照射する手段と卵内部のカラー画像を撮像するカラーCCDカメラを具備する画像撮像部,および撮像した卵画像を用いて正常卵判定を行う非破壊検査部を備えた有精卵の検査装置。」前記第2,2 ク)を,本件補正後の請求項8(「請求項1ないし7のいずれか一項に記載の有精卵の検査法を実現するための非破壊検査装置であって,有精卵を配置する検査用ホイルと,有精卵内部に光を照射する照明装置を有する照明部と, 卵内部のカラー画像を撮像する画像撮像部と ,撮像したカラー 画像を用いて正常卵判定を行う処理部とを備えた有精卵の検査装置。」前記第2,2  ク)とするものであり,「有精卵内部に光を照射する手段と卵内部のカラー画像を撮像するカラーCCDカメラを具備する画像撮像部」を「有精卵内部に光を照射する照明装置を有する照明部」と「卵内部のカラー画像を撮像する画像撮像部」に変更する補正事項(補正事項14)及び「撮像した卵画像を用いて正常卵判定を行う非破壊検査部」を「撮像したカラー画像を用いて正常卵判定を行う処理部」に変更する補正事項(補正事項15)からなるものである。
イ補正事項14は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,本件当初明細書の【0023】には,次のとおりの記載がある。
「【0023】実施例1図8〜図11は,本発明の検査手法を実現するための検査装置の一実施例の概略構成を示す模式図である。
検査装置では,専用トレイで搬送された多数の卵を検査用ホイルに1個毎に移載し,整列コンベアにて複数個並べ,ピック&プレスで複数個を一度に画像撮像部へ搬送する。搬送された卵は,ホイル支持台を上昇させ,画像処理時の外乱を防ぐため,遮光性のある撮影用の筒に入れる。
なお,撮影用筒の上部には,照明装置の入った照明装置内蔵用の筒 があり,その筒の先が卵に接するまで,ホイル支持台を上昇させ,卵を気室側より照明する。
照明内蔵用筒の先端部は,卵形状やサイズが異なってもその先端から外部に照明光が漏れないよう,柔らかい材質で構成している。
そのため,卵表面での照明光の反射が防止でき,卵内部のみを通過した照明光 をカラーCCDカメラにより撮像し,卵内部の色情報を得る。
カラーCCDカメラは撮影用筒の反対側に設置し,支持台の上昇端で1枚目の卵画像を撮影する。撮影後,撮影完了信号にて,90度支持台を回転させ, 停止後2枚目を撮影する。同様に,3・4枚目を撮影し,1つの検査卵に対して4方向からの画像を得,これらを用いて正常卵判定処理を行う。
4枚目の画像撮影完了信号にて,支持台を下降させ,次に卵が整列コンベアより搬送されると,撮影済み卵は,画像撮像部より押し出され,選別コンベアで受ける。
画像の撮影後から,選別コンベアに移載されるまでの間に,撮影した卵の正常卵判定処理を行い,選別コンベアに判定結果信号を出力する。」前記【0016】の「卵内部の色情報は,卵上部(気室側)より照明光を照射し,卵殻を透過した照明光を,カラーCCDカメラを用いて撮像し,カラー画像(RGB表色系)として得る。」及び「十数日齢の正常な有精卵の内部を撮像したカラー画像上では,気室,胎児,漿尿膜腔,血管は,色合い,明度,形状等それぞれに異なった特徴を持つ。」という記載(前記イ)によれば,照明光により,有精卵内部に光を照射することが記載されているといえる。
また,上記【0023】の「照明装置の入った照明装置内蔵用の筒」及び「卵内部のみを通過した照明光」という記載によれば,卵内部に照射される照明光について,「筒」を備えた「照明装置」が卵内部に光を照射することが記載されているといえる。
さらに,本件当初明細書の請求項8の「卵内部のカラー画像を撮像するカラーCCDカメラを具備する画像撮像部」という記載によれば,画像撮像部が「卵内部のカラー画像を撮像」する機能を有することが記載されているといえる。
そして,上記【0023】の記載によれば,「画像撮像部」に,「撮影用の筒」,「照明装置」,「照明装置内蔵用の筒」,「カラーCCDカメラ」などの部材が備えられているものと認められるが,機能の違いに基づいて,「照明部」と「画像撮像部」に区分けして表現することは,通常行われることである。
そうすると,本件当初明細書には,「有精卵内部に光を照射する照明装置を有する照明部」と「卵内部のカラー画像を撮像する画像撮像部」が,実質的に記載されていたといえる。
ウ補正事項15は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,本件当初明細書の【0020】には,次のとおりの記載がある。
「【0020】《検査装置》本発明の有精卵の非破壊検査を可能とする装置では,供給された卵を画像処理による非破壊検査 により正常卵判定を行い,正常卵と死卵(発育不良卵を含む)の選別をする。非破壊検査部では,遮光性を有する構造内に有精卵を配置し,カラーCCDカメラで撮像した画像に基づいて検査が実施される。検査装置では,検査用ホイルに載せた卵を,ホイル支持台を90度づつ回転させることにより,4方向から卵内部のカラー画像を撮像する。得られた4方向からの卵画像を用いて正常卵判定を行う。
正常卵判定の結果によって,選別コンベアにて振り分ける。」本件当初明細書の請求項8の「卵内部のカラー画像を撮像するカラーCCDカメラを具備する画像撮像部」という記載によれば,「撮像した卵画像」は「カラー画像」であるといえる。
また,上記の【0020】の記載によれば,本件当初明細書では,非破壊検査を「画像処理」により行うことが記載されているといえるから,非破壊検査部を画像を用いる処理部ということもできる。
そうすると,本件当初明細書には,「撮像した卵画像を用いて正常卵判定を行う非破壊検査部」として,「撮像したカラー画像を用いて正常卵判定を行う処理部」が記載されていたといえる。
エしたがって,本件発明8に係る本件補正は,本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
 本件発明9についてア本件発明9に係る本件補正は,特許請求の範囲に,本件補正後の請求項9(「前記検査用ホイルは,昇降・回転ユニットにより昇降および回転自在に支持され,前記照明部は,先端部が柔らかい材質で構成され,内部に照明装置が配置される照明用筒を備え,前記画像撮像部は,遮光性のある撮影用筒を備えることを特徴とする請求項8に記載の有精卵の検査装置。」前記第2,2 ケ)を追加するものであり,検査用ホイルが「昇降・回転ユニットにより昇降および回転自在に支持され」ると限定する補正事項(補正事項16),「先端部が柔らかい材質で構成され,内部に照明装置が配置される照明用筒を備え」る照明部を追加する補正事項(補正事項17),画像撮像部が「遮光性のある撮影用筒を備える」と限定する補正事項(補正事項18)からなるものである。
イ補正事項16は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,前記【0023】の「ホイル支持台を上昇させ,」,「90度支持台を回転させ,」,「支持台を下降させ,」という記載(前記 イ)によれば,検査用ホイルは,昇降及び回転自在な「ホイル支持台」により支持されることが記載されている。そして「昇降・回転ユニット」という直接の記載はないものの,昇降及び回転自在な「ホイル支持台」は,その機能に基づいて,一般に「昇降・回転ユニット」とも称されるものである。
そうすると,本件当初明細書には,検査用ホイルが「昇降・回転ユニットにより昇降および回転自在に支持され」ることが実質的に記載されていたといえる。
ウ補正事項17は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,前記【0023】の「照明装置の入った照明装置内蔵用の筒」および「照明内蔵用筒の先端部は,卵形状やサイズが異なってもその先端から外部に照明光が漏れないよう,柔らかい材質で構成している。」という記載(前記 イ)によれば,「照明装置」と「先端部が柔らかい材質で構成され,内部に照明装置が配置される照明用筒」とにより照明するための部材が構成されることが記載されているといえる。そして,「照明部」という直接の記載はないが,上記部材は,その機能に基づいて,一般に「照明部」と称されるものである。
そうすると,本件当初明細書には,「先端部が柔らかい材質で構成され,内部に照明装置が配置される照明用筒を備え」る照明部が実質的に記載されていたといえる。
エ補正事項18は,以下のとおり,本件当初明細書に記載されていた。
すなわち,前記【0023】の「検査装置では,専用トレイで搬送された多数の卵を検査用ホイルに1個毎に移載し,整列コンベアにて複数個並べ,ピック&プレスで複数個を一度に画像撮像部へ搬送する。搬送された卵は,ホイル支持台を上昇させ,画像処理時の外乱を防ぐため,遮光性のある撮影用の筒に入れる。」という記載(前記 イ)によれば,画像撮像部には,「遮光性のある撮影用の筒」が備えられていることが記載されているといえる。
そうすると,本件当初明細書には,画像撮像部が「遮光性のある撮影用筒を備える」ことが記載されていたといえる。
オしたがって,本件発明9に係る本件補正は,本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
 小括以上のとおり,本件補正は,本件発明1ないし9のいずれについても,本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり,新規事項を追加するものではないから,審決が,本件補正は特許法17条の2第3項の規定する要件を満たすとした判断に誤りはない。したがって,取消事由1は理由がない。
2冒認出願に関する判断の誤り(取消事由2)について審決は,本願は特許法49条7号に規定する要件を満たしていると判断し,同号所定の「その特許出願人が発明者でない場合において,その発明について特許を受ける権利承継していないとき。」との拒絶理由がないと判断していることから,審決は,本件特許に,「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利承継しないものの特許出願に対してされたとき。」(特許法123条1項6号)との無効事由はなく,本件特許は冒認出願に対してされたものではないと判断したものと解される。そして,本件特許は冒認出願に対してされたものではないとの審決の上記判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
冒認出願による無効事由の成否に関し,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負うと解すべきである。そこで,特許権者である被告がその主張立証責任を尽くしたかについて検討する。
 ア原告は,「有精卵の検卵装置に関する経過説明」(甲9の1),「設備見積仕様書」(甲21),「検卵機開発経過報告書」(甲24の2)によれば,本件発明の発明者が原告であることは明らかであると主張する。そして,甲9の1,甲21,甲24の2によれば,平成13年9月15日,株式会社T種鶏孵化場(以下「 T種鶏孵化場」という。)の代表取締役である原告が,熊本アイディーエムの代表取締役であるGと検卵機の開発について打合せをし,熊本アイディーエムに検卵機の試作品や設計図の作成を依頼し,その後の交渉を経て,平成14年10月8日,熊本アイディーエムがT種鶏孵化場に対して設備見積仕様書(甲21)を提出したことが認められる。
しかし,上記の書証によっても,原告らが開発していた検卵の方法や検卵機が本件発明に該当するものかどうか明らかではなく,本件発明の発明者が原告であるとは認められない。
イまた,原告は,D,C,A及びB作成名義の「有精卵の検査手法」と題する書面(甲10の2)の「6.まとめ」欄及び「7.謝辞」欄の記載から,E及びFは本件発明の発明者ではないと主張する。
しかし,本件発明は,「有精卵の生死およびその発育状態を,非破壊にて,検査員の判断基準により近く,かつ,確実に判定することを目的としている」(本件明細書【0004】)ものであり,甲10の2の「7.謝辞」欄に,「本研究をすすめるにあたり,評価サンプルや実験場所をご提供頂き,また,目視検査の内容についてご指導を頂きました(財)阪大微生物病研究会観音寺研究所殿の皆様に厚くお礼を申し上げます。」との記載があることに照らすと,甲10の2の記載によって,E及びFが本件発明の発明者でないということはできず,むしろ,微研に所属していたE及びFも本件発明に関与したことが推認される。
 そして,前記第2,1  のとおり,本件特許の願書の発明者の氏名,住所又は居所を変更する手続補正に伴って,被告から,E及びF作成名義の,「本願発明は同人らとA,B,C及びD6名の共同発明であることに相違ない」旨を記載した宣誓書,及びA,B,C及びD作成名義の,「本願発明は同人らとE及びF6名の共同発明であることに相違ない」旨を記載した宣誓書が提出されていることからすると(これらの宣誓書の存在及び内容は,審決第4,5. においても認定されている。甲12の3),本件発明の発明者は,A,B,C,D,E及びFの6名であり,これらの発明者から被告に本件特許の特許を受ける権利承継されたものと推認される。
 そうすると,審判において,本件特許の特許権者である被告は,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利承継した者によりされたこと」について主張立証責任を尽くしていたものと認められ,本件特許は冒認出願に対してされたものではないとの審決の判断に誤りはない。
なお,本訴において提出された乙2ないし5及び弁論の全趣旨によれば,?被告は,平成13年3月28日,微研と検卵機実用化に関する共同開発契約を締結し,同契約に基づいて,被告の従業員であるA,B,C及びDと微研の研究員であるE及びFの6名が本件発明を発明したこと,?A,B,C及びDは被告に本件特許の特許を受ける権利を譲渡し,また,微研の同意のもとで,E及びFが被告に本件特許の特許を受ける権利を譲渡し,被告が本件特許の出願をしたことが認められ,本件特許の出願は冒認出願でないことが認められる。
したがって,取消事由2は理由がない。
3原告に充分な主張の機会を与えなかった等の審判の手続上の誤り(取消事由3)について原告は,原告に充分な主張の機会を与えなかった等の審判の手続上の誤りがあると主張し,その手続上の瑕疵の内容として,特許庁による答弁書副本の送付通知(甲23の1)により,原告の意見を主張する機会が奪われたこと,審理終結通知が特許法156条1項に反すること,特許法施行規則5条2項違反を主張する。しかし,原告の主張するこれらの手続上の瑕疵が審決の結論に影響を及ぼすとは認められず,その点において,原告の主張は失当である。
また,仮にその点を措くとしても,原告の主張は,以下のとおり,いずれも理由がない。
 特許庁による答弁書副本の送付通知(甲23の1)により,原告の意見を主張する機会が奪われたことについて平成21年3月6日付けの答弁書副本の送付通知(甲23の1)によれば,同送付通知には,答弁に対する意見があれば弁駁書を答弁書副本発送の日から30日以内に提出するよう促し,弁駁書を提出する場合には所定の2点について意見を述べることを求めるとの趣旨が記載されているものと認められ,所定の2点以外について意見を述べることを制約するとの趣旨が記載されていたとは認められない。また,そもそも答弁書副本の送付通知の記載がいかなるものであったとしても,当事者は,審理終結通知(特許法156条1項)があるまで弁駁書等の書面を提出することができるというべきである。そして,原告は,上記の答弁書副本の送付通知がされた後,平成21年3月31日付け弁駁書(甲24の1)を提出して,答弁書副本の送付通知により意見を求められた点について意見を述べたほか,同年5月19日付け上申書(乙8)を提出し,職権審理,早期審決などを要望する旨主張した。
そうすると,特許庁による答弁書副本の送付通知(甲23の1)により,原告の意見を主張する機会が奪われたとは認められない。
 審理終結通知が特許法156条1項に反することについて本件の無効審判の経緯は,前記第2,1 のとおりであり,その経緯及び審決の内容に鑑みると,審判長は,審理を尽くし,審決を行うために十分な心証を得た上で審理終結通知をしたものと認められ,本件の無効審判における審理終結通知が特許法156条1項に反するとは認められない。
 特許法施行規則5条2項違反について特許法施行規則5条2項は,「特許庁長官は,特許を受ける権利承継した者の特許出願について必要があると認めるときは,その権利の承継を証明する書面の提出を命ずることができる。」と規定しており,権利の承継を証明する書面の提出を命ずるか否かは,特許庁長官の裁量にゆだねているから,それらの書面の提出を命じることがなかったことをもって同項に反するということはできず,本件特許の出願手続は同項に反するものではない。
したがって,取消事由3は理由がない。
4結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 中平健
裁判官 上田洋幸