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事件 平成 21年 (ワ) 29534号 損害賠償請求
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/03/31
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文

1
平成22年3月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第29534号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成22年2月15日
判決
東京都板橋区〈以下略〉
原告寿 堂 紙 製 品 工 業 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士小林幸夫
同 坂田洋一
同 補 佐 人 弁 理 士平山一幸
同 篠田哲也
東京都江東区〈以下略〉
被告株式会社ムトウユニパック
同訴訟代理人弁護士浅野謙一
同 石川剛
主文
1被告は,原告に対し,1292万4877円及びこれに対する平成21年8
月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担
とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1請求
被告は,原告に対し,2058万1502円及びこれに対する平成21年8
月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要


2
原告と被告は,いずれも封筒の製造販売等を業とする会社であるところ,原
告は,被告との間で,平成19年5月30日,返信用封筒部を有する角形封筒
についての特許権(以下「本件特許権」という。)及び同角形封筒に使用する
登録商標「セパブル/SEPABLE」についての商標権(以下「本件商標
権」という。)を対象とする通常実施権及び通常使用権許諾契約(以下「本件
契約」という。)を締結したが,本件特許権は,納付期限である同年11月1
7日までに特許料が納付されず,追納期限である平成20年5月17日までに
割増特許料が納付されなかったため,平成19年11月17日の経過により,
消滅した。
本件は,原告が被告に対し,被告が本件契約上のライセンサーとして原告に
実施の許諾をした本件特許権を有効に存続,維持すべき義務に違反して,特許
料等の不納により本件特許権の登録を抹消させ,原告に損害を与えたとして,
債務不履行に基づき,2058万1502円及びこれに対する訴状送達の日の
翌日である平成21年8月29日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合
による遅延損害金の支払を求める事案である。
1争いのない事実等(争いのない事実以外は,証拠を末尾に記載する。)
( )当事者
1
原告は,各種封筒・販促ツール・ビジネス関連商品・環境対応商品等の製
造・販売を業とする株式会社である。
被告は,事務用封筒及びDM用封筒の企画製造・販売,名刺・はがき・カ
ード・賞状用紙・領収証用紙・コピー・FAX用紙等の紙製品の製造販売,
DM発送代行サービス等を業とする株式会社である。
( )事実経過
2
ア本件特許権等の譲渡契約の締結
被告は,Aから,平成19年2月14日,本件特許権及び本件商標権を,
代金1680万円で譲り受けた(乙1の2)。


3
イ本件特許権及び本件商標権
(ア)本件特許権(甲1の2)
特許番号第3128771号
発明の名称返信用封筒部を有する角形封筒
出願日平成9年3月7日
登録日平成12年11月17日
(イ)本件商標権(甲2)
登録番号第4245243号
出願日平成9年5月27日
登録日平成11年3月5日
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第16類紙類,紙製包装用容器,家庭用食品包装フィルム,紙製ご
み収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,紙製テーブル
クロス,紙製タオル,紙製手ふき,紙製ハンカチ,紙製幼
児用おしめ,荷札,印刷物,写真,写真立て,文房具類,
事務用又は家庭用ののり及び接着剤,封ろう,マーキング
用孔開型板,観賞魚用水槽及びその附属品
ウ本件契約の締結
被告は,原告との間で,平成19年5月30日,本件契約を締結し,原
告に対し,本件特許権及び本件商標権について,製品である封筒1枚当た
りの対価を50銭(消費税別)として,実施及び使用の許諾をした(甲
3)。
エ本件特許権の特許料等の不納による登録の抹消
本件特許権の第8年分の特許料の納付期限は,平成19年11月17日
であり,特許法112条1項及び2項に基づく追納期限は,平成20年5
月17日であった。


4
被告は,第8年分の特許料の納付期限までに特許料を納付せず,さらに,
追納期限までに割増特許料を納付しなかったため,本件特許権は,平成1
9年11月17日における第8年分特許料不納を原因として,平成20年
7月23日付けで,その登録の抹消がされた(甲1の2)。
被告は,特許庁長官に対し,平成20年5月29日付けで,本件特許権
につき,登録権利者を被告,登録義務者をAとする特許権移転登録申請書
を提出したが,特許庁長官は,被告に対し,同年8月4日付けで,本件特
許権が第8年分特許料不納により平成19年11月17日に権利消滅して
いるとの理由により,当該移転登録申請書を却下すべきものと認められる
旨の却下理由通知書を送付した(乙4,6)。
原告は,平成20年8月,被告から前記事実を告げられ,本件特許権が
特許料等の不納により消滅し,その登録が抹消されたことを知った。
( )被告の債務不履行
3
被告は,本件契約上のライセンサーとして,本件契約において原告に実施
の許諾をした本件特許権を有効に存続,維持すべき義務に違反して,特許料
等の不納により本件特許権の登録を抹消させたこと(以下「本件債務不履
行」という。)について,原告に対し,債務不履行責任を負う。
2争点及び争点に対する当事者の主張
本件債務不履行による損害の有無及び額
(原告の主張)
( )在庫破棄及び商品返品に伴う積極損害(甲5ないし9,11ないし1
1
4)
ア原告は,本件契約締結後,本件特許権が有効であることを前提として,
本件特許権の実施品である原告商品(以下「本件商品」という。)に,
「SEPABLE」との商標を付すとともに,「PATENTNo.3
128771」との表示をして,代理店に卸売販売をした。


5
しかしながら,本件特許権は,平成19年11月17日の経過により消
滅していたところ,既に消滅した特許権の特許番号を付して特許表示をし
た商品を製造,販売することは,特許法が禁止する虚偽表示(同法188
条)に該当するおそれがあり,販売当時には本件特許権が存続しており虚
偽表示には該当しなかった商品についても,本件特許権の消滅後に当該商
品をそのまま代理店が販売したり,顧客が使用したりすると,本件特許権
につき虚偽表示がされた商品の販売,使用になってしまうおそれがある。
原告の取引先には,官公庁等のコンプライアンスを非常に重視する顧客も
多く含まれており,信用を重んじる原告としては,やむなく,直ちにすべ
ての製造,販売済みの製品を回収し,特許表示を削除した商品を改めて納
品することを余儀なくされ,原告は,次の対応をとることを決定した。
(ア)原告が製造したすべての本件商品の在庫を破棄して,特許表示を削
除したものを再生産すること
(イ)既に代理店や取引先に卸したもの,官公庁等の顧客に流通している
ものもすべて回収し,本件商品を破棄し,特許表示を削除したものを再
生産し,再出荷すること
イア(ア)に対応する本件商品(江別工場,宇都宮第二工場の在庫分)は,
別紙1の1のとおり,49万3470枚であり,その破棄,再生産のため
に必要な費用(本件商品1個当たりの平均製造原価×ア(ア)に対応する本
件商品の数)は,386万6959円である(詳細は,別紙1の2のとお
りである。)。
また,別紙1の1のとおり,顧客の返品要求に応じた際の引取運賃とし
て1万6000円,段ボールケース(表面に特許番号の表示があるため,
破棄して再生産の必要がある。)140箱分の原価1万2460円,破棄
の対応を決定するまでに原告が余計に費やした倉庫費用80万円(1か月
当たり1坪5000円として,20坪×8か月間),原告の宇都宮第二工


6
場までの運賃6万円が,それぞれ費用として発生した。
このように,ア(ア)に対応する本件商品に関連する積極損害は,合計4
75万5419円となる。
ウア(イ)に対応する本件商品(代理店,取引先等への卸分)は,別紙2の
1のとおり,75万9700枚であり,その破棄,再生産のために必要な
費用(本件商品1個当たりの平均製造原価×ア(イ)に対応する本件商品の
数)は,496万1780円である(詳細は,別紙2の2のとおりであ
る。)。
また,顧客からの返品,顧客への再出荷等に伴う運送賃,各代理店へ出
向いて説明するために必要な交通費等の必要諸経費の合計は,原告の実績
から,少なくとも製造原価の10%(49万6178円)は発生している。
このように,ア(イ)に対応する本件商品に関連する積極損害は,合計5
45万7958円となる。
( )本件特許権のプレミアム分の減額による逸失利益(甲4,10)
2
原告は,本件特許権の登録が抹消され,本件特許権が消滅したことにより,
取引先から本件特許権のプレミアム分の減額を求められ,本件商品の販売単
価を減額せざるを得なくなった。販売単価の減額幅は,本件商品1個当たり
平均1円である(甲4)。他方,本件特許権の実施許諾料は,25銭(本件
特許権及び本件商標権についての封筒1枚当たりの許諾料50銭の2分の
1)であったから,原告は,本件商品1個当たり75銭の得べかりし利益を
失ったことになる。
そして,本件商品の現在までの販売実績は,1年間当たり129万842
4枚であり,本件特許権の残存期間は,7年9か月であるから,本件特許権
の登録が抹消され,本件特許権のプレミアム分を減額したことによる原告の
逸失利益は,754万7090円(129万8424枚×7.75年×0.
75円)となる。


7
( )本件特許権の消滅後の実施許諾料 3
本件特許権の消滅後に原告が被告に支払った実施許諾料は,別紙3のとお
り,32万1035円であるところ,被告が同額を受領する法律上の原因は
ないから,これも原告の損害である。
( )代理人費用
4
原告の積極損害,消極損害は,以上のとおり,1808万1502円であ
るところ,原告は,本件債務不履行により,専門家である弁護士,弁理士に
よる交渉,本訴提起を依頼せざるを得なくなったものであり,本件債務不履
行と相当因果関係のある弁護士,弁理士費用として,少なくとも250万円
が発生した。
( )小括
5
前記( )ないし( )は,本件債務不履行相当因果関係のある損害であり,14
その額は,合計2058万1502円となる。
( )被告の主張への反論
6
ア被告は,陳述書(甲12)に記載した経費について,「他の商用も兼ね
て訪問していることが多い。旅費がすべて原告の損害という計上の仕方に
は違和感を覚える。」と主張する。
しかしながら,陳述書(甲14)に記載したとおり,これらの経費は,
本件債務不履行がなければ,およそ必要がなかった出張の経費に限定した
ものである。また,取引先への謝罪は,他の商用のついでに済ませられる
ほど甘いものではなかった。
そして,出張場所も大阪,大宮,福岡,長崎,仙台,水沢,長野,名古
屋と極めて広範囲にわたり,このこと自体,今回のおわび行脚が他の商用
のついでに済ませたものでないことを示している。
さらに,陳述書(甲12)に記載した金額は,謝罪訪問の際に必須であ
るお茶菓子代や人件費等を計上しておらず,本件債務不履行により原告に


8
発生した最低限の経費であることが明らかである。
イ被告は,本件特許権のライセンサーとして,本件契約上の全責任を原告
に対して負っており,B弁理士の存在は,被告の原告に対する責任を減殺
するものではない。仮に,B弁理士に過失があるとしても,それは,被告
とB弁理士との内部的な責任割合の問題にすぎず,B弁理士の過失の有無
や大小は,被告とB弁理士との内部的な責任割合に影響することがあって
も,被告の原告に対する本件契約上の責任には,何ら影響を及ぼすもので
はない。
(被告の主張)
( )原告の主張する( )及び( )の損害は不知,因果関係は争う。
112
( )原告の主張する( )の損害は争う。 23
( )原告の主張する( )の損害は不知。 34
( )本件特許権の実施品である本件商品及び製造原価等に関する数値は,被 4
告として積極的に肯定はできないが,原告と被告が同じ業界に属することに
照らせば,特段,違和感を覚えるものではない。
これに対し,陳述書(甲11)に記載された引取運賃,段ボールケース費
用,倉庫費用,運賃は,本件商品及び製造原価等に関する数値とは性格が異
なる費用の計上であり,原告の事情に基づくものであって,被告としては不
明である。
陳述書(甲12)に記載された諸経費は,本件特許権が消滅したことによ
る取引先への謝罪訪問に要した費用のようであるが,謝罪のためのみで訪問
したのかどうかは,これだけからでは不明である。旅程が事実であるとして
も,別の商用のついでに謝罪訪問が行われた可能性もあり,旅費がすべて原
告の損害というのはいかにも不自然である。
原告だけでなく,被告も同様に,多数の取引先に対して,本件特許権が消
滅したことによるおわび行脚を行っている(被告もB弁理士の被害者であ


9
る。)。取引先との関係や地理的要因(都区内,関東近県等)により,謝罪
のためのみの訪問もないではないが,それは,割合としてはごく少数であり,
地方の場合には他の商用も兼ねて訪問していることが多い。このような被告
の対応にも照らして,旅費のすべてが原告の損害という計上の仕方には,違
和感を覚える。
( )本件債務不履行に関する背景事情(本件特許権の登録抹消の原因)
5
本件特許権の消滅の原因は,次のとおりである。
ア本件特許権の譲受け
本件特許権は,被告がAから本件商標権と共に譲り受けたものである。
被告は,これに先立ち,平成19年2月,顧問契約を締結していないもの
の,被告が本件特許権について通常実施権を有していたときに類似品への
対応の相談を行ったことのあるB弁理士に対し,本件特許権及び本件商標
権の取得について,手続の一切を委任した。なお,「手続の一切」という
のは,必ずしも明確ではない表現ではあるが,B弁理士が専門家であり,
他方,依頼者である被告との情報格差を考慮すれば,被告による具体的な
指示の有無にかかわらず,第三者との関係も含め,被告が,本件特許権及
び本件商標権を完全に有効に取得するための業務の遂行の一切のことであ
る。
B弁理士は,この委任に基づき,「特許権及び商標権譲渡契約書」案
(乙1の1)を作成し,この案に基づき,被告とAとの間で平成19年2
月14日付け特許権及び商標権譲渡契約が締結された(乙1の2)。
被告は,前記委任の際に,B弁理士に対して,手続の一切を依頼してい
たことから,その後の対応についても,B弁理士からの指示等を待つこと
とした。被告としては,本件特許権を有効に取得することが目的であるこ
とから,契約書案文の作成のみをB弁理士に任せたのではなく(仮に,契
約書案文の作成のみの依頼であれば,弁理士ではなく弁護士でもよかっ


10
た。),本件特許権に係る移転手続までをも依頼したことは当然である。
平成19年3月初め,譲渡代金の入金を確認したAから被告の担当者で
あるCに電話があり,その際,Aから,本件特許権の特許料の納付に関し,
以後は納付しない旨の話があった。そのため,Cは,Aからの電話を受け
てすぐに,B弁理士に電話して,特許料の支払の件と本件特許権の取得手
続の依頼の件を再度確認したところ,これらの件については,B弁理士か
ら書類等が送られてくるとのことであり,その指示待ちということになっ
た。
イ本件契約の締結
その後,被告は,原告との間で,本件契約を締結した。被告は,本件契
約についても,本件特許権の譲渡契約と同様に,B弁理士に委任し,B弁
理士が契約書案文を作成し,B弁理士を介して,原告と被告との間で本件
契約が締結されたものである(甲3)。
なお,このとき,B弁理士から被告に対し,本件特許権の登録に関する
話は出なかったものの,被告としては,手続をすべてB弁理士に依頼して
いたことから,何の疑念も持たなかった。当然のことながら,被告として
は,被告が本件特許権を完全に取得していることを前提として,原告との
契約を締結することをB弁理士に委任したものである。前記のとおり,B
弁理士からの指示待ちにはなっていたものの,B弁理士が作成した契約書
案文(甲3)には,被告が特許権者であることが契約書前文に明記されて
おり,被告が特許権を有効に取得していることが前提となった契約締結手
続が進められていることから,被告としては,本件特許権を完全に取得し
ているものと思っていた。
ウB弁理士への再度の手続依頼
被告は,Aから,平成20年3月10日,同月5日に岡山県倉敷市から
Aあてにセパブル無断使用のわび状が届いたことを知らされた。


11
このようなことなどがあったことから,Cは,本件特許権移転手続の件,
本件特許権に係る類似品対応の件及び別の商品の商標登録の件に関し,平
成20年5月12日午後2時にB弁理士との打合せの予定を入れていたが,
B弁理士からFAXがあり,同弁理士の都合により打合せの予定が同月1
6日午後3時に変更になった(乙2,3)。なお,同日午後3時からの打
合せにおいて,B弁理士から,本件特許権の登録や特許料に関して,特に
問題があるような話は出なかった。
B弁理士は,同月29日,被告の代理人として,特許庁長官あてに,本
件特許権に関し,特許権移転申請書を提出した(乙4)。被告は,この提
出の際に,本件特許権の移転登録がされていなかったことを知った。ちな
みに,B弁理士は,平成20年7月には,本件特許権を侵害している者が
いるとして,被告を特許権者,B弁理士をその代理人として,当該者に対
して,平成20年7月16日付け「通知書」(乙5)を発信している。こ
の点に関し,本件契約締結の際も同様であるが,果たしてB弁理士が特許
原簿(甲1の2)を見た上で,代理人の業務を行っていたのか甚だ不思議
である。
なお,特許事務所においては,インターネットに接続して端末から登録
情報を閲覧していることが多く,B弁理士の特許事務所においても,この
ような閲覧制度が導入されていることを,被告担当者はB弁理士から聞い
ている。すなわち,B弁理士の登録情報へのアクセスは,極めて容易であ
った。
エ本件特許権の失効
特許庁からB弁理士あてに,平成20年8月4日付けで,本件特許権が
特許料不納により消滅したとの通知がされ(乙6),被告は,B弁理士か
らその旨知らされた。
また,同月19日,B弁理士から被告に本件特許権の移転申請が認めら


12
れなかった旨の電話があり,その後,同日付けの説明の書面がFAXで送
られてきた(乙7)。被告は,B弁理士から,この電話の時に,?本件特
許権の特許料の納付期限が平成19年11月17日であったこと,?納付
期限後の割増納付により特許権消滅を免れる延長期限が6か月後の平成2
0年5月17日であったことについて説明を受けた(乙7)。なお,B弁
理士との面談日が平成20年5月12日から同月16日に延期され,同日
にB弁理士と面談した際にも,本件特許権の移転に係る手続の打合せであ
るにもかかわらず,B弁理士から特許料納付の話は出なかった。
オ本件特許権消滅の原因がB弁理士の注意義務違反によるものであること
以上のとおり,本件特許権が消滅したのは,B弁理士が専門家として高
度の注意義務を課されているにもかかわらず,それを著しく怠っていたこ
とによるものである。つまり,特許料の納付の機会あるいは移転登録の有
無をB弁理士が確認する機会はいくつもあったにもかかわらず,B弁理士
が,代理人としての適切な対応(善良な専門家として尽くすべき慎重な配
慮を尽くす義務(善管注意義務)),あるいは,被告に対する適切な助言,
指示等(被告に対して有効な情報を提供し,被告が適切な判断をし得るよ
うに配慮すべき義務(説明・助言義務))を怠ったために,本件特許権が
消滅したものである。
本件特許権の消滅の原因は,以上のとおりであり,原告からすれば,被告
とB弁理士との本件特許権に関するやりとりは,内輪の問題として一笑に付
される事柄であろうが,原告が被告に対し本件特許権の消滅を理由に損害賠
償請求をしている以上,どのような事情により本件特許権が消滅したのかに
ついては,背景事情とはいえ,本件において,その詳細が認定されるべきで
ある。
第3当裁判所の判断
1在庫破棄及び商品返品に伴う積極損害について555万6689円


13
( )在庫分に関する損害について1
ア前記第2の1の争いのない事実等,証拠(甲4ないし6,9,11)及
び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件債務不履行により,本件特許権の
登録が抹消され,本件特許権が消滅したことから,「PATENTNo.
3128771」との表示をした本件商品や段ボールケースを譲渡等する
ことが,特許法の禁止する虚偽表示(同法188条)に該当するおそれが
あると懸念して,別紙1の1記載のとおり,本件商品の在庫分49万34
70枚(顧客の返品要求に応じて引き取った2万5500枚を含む。以下
同じ。)及び前記特許表示をした段ボールケース140箱について,これ
らを廃棄することとしたと認められる。したがって,廃棄することとした
在庫分等に要した生産費用は,本件債務不履行による原告の損害と認める
ことができる。そして,前記証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件商品の
在庫分49万3470枚の紙代,印刷費,加工費等の製造原価は,約38
6万6959円,段ボールケース140箱の製造原価は,約1万2460
円と認められるから,原告は,本件債務不履行により,少なくとも同額の
損害を被ったと認めるのが相当である。
また,前記証拠及び弁論の全趣旨によれば,顧客の返品要求に応じて本
件商品2万5500枚を引き取った引取運賃1万6000円,廃棄処理を
行うため本件商品の在庫分を原告の芳賀工場から宇都宮第二工場まで搬送
するために要した運賃6万円は,本件債務不履行により生じた損害と認め
ることができる。
イこのほか,原告は,廃棄処理の対応を決定するまでに原告が余計に費や
した倉庫費用80万円(1か月当たり1坪5000円として,20坪×8
か月間)が本件債務不履行により生じた損害と主張するが,証拠(前記証
拠のほか甲13)及び弁論の全趣旨によれば,廃棄処理を行うため,本件
商品の在庫分を保管していたのは原告の宇都宮第二工場内であると認めら


14
れるところ,本件各証拠によっても,本件商品の在庫分を保管するために,
原告が前記倉庫費用を現実に支出したものとは認められないし,また,原
告が宇都宮第二工場に本件商品の在庫分を保管することにより,原告にお
いて,前記倉庫費用相当額の支出を新たに余儀なくされたり,又は前記倉
庫費用相当額の逸失利益が生じたなど,前記倉庫費用相当額の損害を被っ
たとも認めることができない。
したがって,本件債務不履行により,原告に前記倉庫費用80万円の損
害が生じたとは認められないから,原告の前記主張は,採用することがで
きない。
ウ以上によれば,本件債務不履行による在庫分に関する損害は,395万
5419円と認めることができる。
( )代理店等に出荷済みの分に関する損害について
2
ア前記第2の1の争いのない事実等,証拠(甲4,7,8,12)及び弁
論の全趣旨によれば,原告は,本件債務不履行により,本件特許権の登録
が抹消され,本件特許権が消滅したことから,「PATENTNo.3
128771」との表示をした本件商品を譲渡等することが,特許法の禁
止する虚偽表示(同法188条)に該当するおそれがあると懸念するとと
もに,取引先から前記特許表示を付した本件商品の引取りを求められたり
するなどしたため,既に代理店等に卸した本件商品や顧客に販売した本件
商品についても,すべて回収して,廃棄した上,再生産を行い,再出荷す
るとの対応を決定し,出荷済みの本件商品の一部については,既に回収し
たことが認められる(ただし,その回収した数量は,明らかでない。)。
したがって,原告は,本件債務不履行により,在庫分のみでなく,代理店
や顧客等に出荷済みの本件商品の一部についても,回収,廃棄を余儀なく
されたと認めることができる。
よって,これらの回収,廃棄を余儀なくされた出荷済みの本件商品につ


15
いて,その生産に要した生産費用は,本件債務不履行による原告の損害と
認められ,原告は,これに相当する損害を被ったと認めることができる。
イこの点について,原告は,回収,廃棄等の対応をとるべき出荷済みの本
件商品の数量として,別紙2の1記載のとおり,75万9700枚と主張
するとともに,原告従業員作成の陳述書(甲7)には,本件特許権の特許
料の納付期限の後である平成19年11月18日から原告が本件特許権の
消滅を認識した平成20年8月までの間に,本件商品が前記75万970
0枚出荷されたことを示す商品受払台帳のデータが添付され,また,同様
の原告従業員作成の陳述書(甲8)には,平成19年11月18日から平
成20年8月20日までの間に出荷された前記75万9700枚の製造原
価等の計算資料が添付されている。
しかしながら,原告が本件特許権の抹消を認識したのは,特許料の納付
期限からは約8か月以上,追納期限からも約2か月以上が経過した後であ
る平成20年8月であり(前記第2の1( )エ),原告が本件商品の回収,
2
廃棄,再生産の対応を決定したのは,それから更に8か月が経過した後で
あること(弁論の全趣旨。第2の2(原告の主張)( )イ参照)が認めら
1
れるほか,出荷済みの本件商品は,原告従業員の陳述書(甲7)が作成さ
れた平成21年11月2日時点においても,「今後,お客様から回収が必
要となる(一部については既に回収済み)商品です。」とされるに止まっ
ていることからすれば,現時点においても,いまだに回収,廃棄等の対応
がとられていないものが相当数存在するものと推測される。そうすると,
出荷から相当期間の経過した未回収の本件商品については,既に顧客が使
用するなどして,原告において回収,廃棄等の対応をとることが困難なも
のも相当数存在することが合理的に推認される。
ウ以上によれば,原告は,出荷済みの本件商品の一部については,これを
既に回収して廃棄を余儀なくされたと認められるものの,出荷済みの本件


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商品のすべてを回収したものと認めることはできない。そうすると,現実
に回収した本件商品の回収先,種類,数量等が個別具体的に明らかでない
本件においては,本件特許権の追納期限である平成20年5月17日から
同年8月20日までの約3か月間の出荷分に限って,原告が回収,廃棄等
の対応をとることができるものとして,その生産費用相当額を,本件債務
不履行による損害と認めるのが相当である。
そして,前記証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告が,既に代理店や顧
客等の取引先に出荷し,回収,廃棄等の対応をとるべきものと主張する本
件商品(別紙2の1記載のとおり,75万9700枚)のうち,平成20
年5月17日から同年8月20日までの出荷分は,別紙2の3記載のとお
り,22万0500枚であり,その紙代,印刷費,加工費等の製造原価は,
約145万5700円と認められるから,原告は,本件債務不履行により,
これらの生産費用として,同額の損害を被ったと認めるのが相当である。
エまた,証拠(前記証拠のほか甲12,14)及び弁論の全趣旨によれば,
原告は,出荷済みの本件商品の回収,廃棄等に要する諸経費として,少な
くとも,前記145万5700円の10パーセント相当額である14万5
570円の費用を負担するものと認められ,原告は,本件債務不履行によ
り,同額の損害を被ったと認めるのが相当である。
( )小括
3
以上のとおり,原告は,在庫破棄等に伴う積極損害として,次の損害を被
り,その小計は,555万6689円である。
ア在庫分49万3470枚の生産費用相当額386万6959円
イ顧客の返品要求に応じた際の引取運賃1万6000円
ウ特許番号を表示した段ボールケース140箱分の生産費用相当額
1万2460円
エ在庫分を芳賀工場から宇都宮第二工場まで搬送するための運賃相当額


17
6万円
オ回収,廃棄する出荷分22万0500枚の生産費用相当額
145万5700円
カ前記オに関する諸経費相当額 14万5570円
2本件特許権の消滅による原告の逸失利益603万7670円
証拠(甲4,10)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件債務不履行
より,取引先から,本件特許権が消滅したことを理由として,本件特許権の実
施品である販売商品(封筒)の販売価格の減額を求められ,販売単価を減額せ
ざるを得なくなったこと,商品1個(封筒1枚)当たりの販売単価の減額幅は,
少なくとも平均1円であること,本件特許権の実施許諾料は,本件商品1個
(封筒1枚)当たり25銭(本件特許権及び本件商標権についての封筒1枚当
たりの許諾料50銭の2分の1)であると認めることができる。
また,証拠(甲3)によれば,本件契約の契約期間は,その有効期間が契約
成立の日から3年間とされ,別段の意思表示がないときは3年間自動的に更新
されるもの(本件契約9条)と認められ,本件各証拠を見ても,本件特許の無
効や原告の債務不履行等(本件契約10条)により,本件契約が本件特許権の
存続期限である平成29年3月7日より前に終了する可能性があることをうか
がわせるような事情も見当たらない。
これらによれば,原告は,本件債務不履行がなければ,本件特許権の残存期
間のうち少なくとも原告が請求の基礎とする7年9か月の間は,本件契約を継
続して本件商品の販売を継続することができたと推認することができ,原告は,
本件債務不履行により,その間に本件商品の販売を継続することにより得られ
たであろう利益(本件商品1個(封筒1枚)当たり75銭)を失ったと推認す
ることができる。
そして,証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば,本件商品の平成19年
4月1日から平成20年3月31日までの1年間の販売実績は,129万84


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24枚であると認められるところ,前記のとおり,本件特許権は,消滅した平
成19年11月17日時点で,出願から10年以上経過し,登録からも既に7
年が経過しており,後発の新技術や関連技術(乙5)の開発により,本件特許
権が陳腐化することや,本件特許権の実施品としての本件商品についても,将
来における販売数量の減少が合理的に予測されることから,本件特許権の存続
期限である平成29年3月7日以前の7年9か月間に本件特許権の実施品とし
ての本件商品が販売されたであろう数量は,平成19年4月1日から平成20
年3月31日までの1年間の販売実績に8割を乗じた数量である103万87
39枚(129万8424枚×0.8)に7年9か月を乗じて得られる数量を
超えないと推認するのが相当である。
したがって,本件債務不履行がなければ,原告が本件特許権の実施品として
の本件商品の販売継続により得られたであろう利益は,603万7670円
(103万8739枚×7年9か月×0.75円(本件商品1個当たりの逸失
利益))と推認するのが相当であり,これが,本件債務不履行により,原告が
被った損害と推認するのが相当である。
3本件特許権の消滅後の実施許諾料 16万0518円
弁論の全趣旨によれば,原告は,被告に対し,平成20年1月から同年9月
までの間に,本件契約に基づく実施許諾料として,別紙3記載のとおり,合計
32万1035円を支払ったことが認められるところ,同額は,原告が,被告
に対し,本件特許権及び本件商標権の利用について,本件債務不履行による本
件特許権の消滅後の期間分の対価として支払ったものであるから,少なくとも,
その半分に相当する額である16万0518円は,本件債務不履行と相当因果
関係のある損害と認めることができる。
4代理人費用 117万円
前記1ないし3で認定したとおり,原告には,本件債務不履行により,前記
1ないし3で認定した損害が発生したと認められ,弁論の全趣旨によれば,原


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告は,本件債務不履行により被った前記損害の回復を実現するために,原告訴
訟代理人に訴訟追行を委任し,本件訴訟の提起を余儀なくされたことが認めら
れる。そして,その弁護士費用のうち,事案の難易,認容額,その他の事情を
考慮して相当と認められる範囲内のものは,本件債務不履行相当因果関係
ある損害と認めることができる。
本件においては,本件事案の難易,前記1ないし3で認定した損害額(合計
1175万4877円),その他本件における諸般の事情を考慮すれば,本件
債務不履行相当因果関係のある弁護士費用は,前記損害額の約10%である
117万円と認めるのが相当であり,これを原告の損害と認めることができる。
5小括
以上によれば,前記1ないし4は,本件債務不履行相当因果関係のある原
告の損害と認められ,その額は,合計1292万4877円となる。
6被告の主張について
被告は,前記第2の2(被告の主張)( )のとおり,本件特許権消滅の原因
5
がB弁理士の注意義務違反によるものであるとして,被告とB弁理士との間の
事実関係について主張するが,同主張は,原告と被告との関係では,被告とB
弁理士との内部事情を述べるものにすぎず,被告の主張する内部事情(B弁理
士の過失の有無や程度)は,被告の原告に対する本件契約における債務不履行
責任を否定又は減殺する事情にはなり得ないから,失当というべきである(な
お,前記第2の1( )のとおり,被告が本件債務不履行責任を負うことは,当
3
事者間に争いがない。)。
第4結論
以上の次第で,原告の請求は,1292万4877円及びこれに対する訴状
送達の日の翌日である平成21年8月29日から支払済みまで商事法定利率年
6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認
容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。


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東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官清水節
裁判官坂本三郎
裁判官岩崎慎

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