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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10035審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10167審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10270審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード パリ条約 /  存続期間 /  特許出願日 /  延長登録 /  特許料(維持年金) /  追納 /  実施 /  社会通念 /  73条2項 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  変更 /  合理的な理由 /  異議申立 /  追完 /  再審請求 /  期間の延長 /  代理権 / 
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事件 平成 21年 (行ウ) 517号 特許料納付書却下処分取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文

1
平成22年3月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ウ)第517号特許料納付書却下処分取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年2月1日
判決
ドイツ連邦共和国レーフエルクーゼン〈以下略〉
原告バイエルアクチエンゲゼルシヤフト
訴 訟 代 理 人 弁 護 士鈴木勝利
同 丸山恵一郎
同 佐野知子
同 増渕勇一郎
同 池田千絵
同 渡邉迅
同 沖山延史
同 國吉宏明
同 藤田剛紀
東京都千代田区〈以下略〉
被告国
訴 訟 代 理 人 弁 護 士田中信義
指定代理人青木明子
同 市川勉
同 門奈伸幸
同 天道正和
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由


2
第1請求
特許番号第1981005号の特許権に係る第13年分特許料納付書につい
て,特許庁長官がした平成20年8月22日付け手続却下処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が後記特許権の第13年分の特許料追納期間の経過後に特許
料納付書を提出して特許料及び割増特許料の納付手続をしたところ,特許庁長
官が同特許料納付書を却下する手続却下の処分(以下「本件却下処分」とい
う。)をしたため,原告が被告に対し,追納期間内に特許料及び割増特許料
納付することができなかったことについて,特許法112条の2第1項所定の
「その責めに帰することができない理由」があるとして,本件却下処分の取消
しを求める事案である。
1争いのない事実等(証拠により認定した事実は,証拠を末尾に記載する。)
( )原告の有していた特許権
1
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有していたが,平
成19年2月22日,第13年分特許料不納を原因として,平成19年11
月7日付けで,その登録の抹消がされた(甲9)。
特許番号第1981005号
発明の名称1?シクロプロピル?6?フルオロ?1,4?ジヒドロ
?4?オキソ?7?(1?ピペラジニル)?キノリン?
3?カルボン酸の注入溶液
出願年月日昭和61年10月23日
出願公告年月日平成7年2月22日
登録年月日平成7年10月17日
( )本件却下処分等の経緯
2
ア本件特許権の存続期間は,特許出願の日である昭和61年10月23日
から20年を経過する日である平成18年10月23日までであったが,


3
平成13年12月19日付けで,延長の期間を4年11月4日とする存続
期間の延長登録がされ,本件特許権の存続期間は,平成23年9月27日
まで延長された(甲9)。
イ平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下,特許法を単に
「法」といい,同改正前の特許法を「改正前法」という。)107条1項
108条2項によれば,本件特許権の第13年分の特許料の納付期限は,
平成19年2月22日であり,改正前法112条1項によると,その期間
の経過後6か月以内は,特許料追納が認められており,その追納期間の
満了日は,同年8月22日であった。
ウ原告は,特許庁長官に対し,平成20年2月22日,第13年分の特許
料及び割増特許料(以下「本件特許料等」という。)の特許料納付書(以
下「本件納付書」という。)を提出した。
特許庁長官は,原告に対し,平成20年6月10日,本件特許権は,第
13年分の特許料を納付することができる期間(追納期間を含む。)内に
納付されていないため,平成19年2月22日までをもって消滅しており,
また,特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるものであるとこ
ろ,原告が法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理
由」として挙げる理由(?特許年金の納付の管理を年金管理会社に依頼し
ていたこと,?平成20年2月19日に原簿調査をして本件特許権の平成
13年分の年金納付がされていないことを確認したこと,?その原因を追
及したところ,年金管理会社において本件特許権が平成19年8月22日
の時点で延長特許の類型に変更されていなかったので,本件特許権の存続
期間の延長後の年金不払により抹消となった経緯が確認されたこと)は,
万全の注意を払ってもなお避けることができなかった事由とは認められず,
112条の2第1項に規定する「その責めに帰することができない理
由」に該当するとは認められないとして,本件納付書の手続は,却下すべ


4
きものと認められるとの却下理由通知を発送した。
(以上,甲10,11)。
エ原告は,特許庁長官に対し,平成20年7月10日,法112条の2
1項の「その責めに帰することができない理由」として,?本件特許権は,
昭和61年10月23日の出願に係り,平成18年10月23日に存続期
間が満了するところ,延長登録により,存続期間が4年11月4日延長さ
れ,平成23年9月27日が満了日とされた,?原告は,本件特許権の特
許料納付に関し,20年以上協力関係にある年金管理会社に依頼していた,
?年金管理の内容は,年金管理会社の記録に出願日を入力すると満了日が
自動的に計算されるシステム,延長登録の対象となる特許については延長
特許の類型として扱うシステムを採用している,?年金管理会社は,原告
に対し,平成18年12月から平成19年1月までの間,本件特許権を検
査要求対象として問い合せ,原告は,年金管理会社に対し,平成19年2
月19日,当該検査要求に対する回答メールを送付した,?年金管理会社
は,原告から,平成19年8月3日,本件特許権が延長登録されたことを
説明する内容の電子メールを受け取るが,担当者の病気による長期欠勤及
び別の担当者の忌引により,担当部署の案件処理が極めて滞った上,その
他重大な種々の不測の事由が重なったため,本件特許権を延長登録された
ものとして取り扱わず,本件特許料等の追納期間内に納付をすることがで
きなかったことを挙げ,これらの事情は,通常の注意力を有する当事者が
万全の注意を払っても,なお納付期限を徒過せざるを得なかった場合に相
当する旨の弁明書を提出するとともに,平成20年8月11日には,上申
書を提出した。
特許庁長官は,原告に対し,同月22日,特許権の管理は特許権者の自
己責任の下で行われるものであるところ,原告が前記弁明書で挙げた前記
?ないし?の事情について,万全の注意を払ってもなお避けることができ


5
なかった事由とは認められず,法112条の2第1項に規定する「その責
めに帰することができない理由」に該当するとは認められないとして,本
件納付書の手続を却下する旨の本件却下処分をした。
原告は,同年9月3日,本件却下処分の通知を受けた。
(以上,甲12)
オ原告は,特許庁長官に対し,平成20年11月4日,本件却下処分につ
いて,行政不服審査法に基づく異議申立てをしたが,特許庁長官は,平成
21年4月13日,これを棄却する旨の決定をし,原告は,同月15日,
同決定の送達を受けた(甲13ないし15。なお,異議申立期間の末日は,
行政不服審査法45条の規定により,平成20年11月2日であるが,同
日及び翌3日は,行政機関の休日に関する法律1条1項各号に掲げる日に
当たるため,特許法3条2項の規定により,同月4日が異議申立期間の末
日となる。)。
カ原告は,平成21年10月14日,本件訴訟を提起した。
( )CPAの過失による本件特許料等の追納期間徒過
3
原告は,特許権の年金管理等を専門とするコンピュータ・パテント・アン
ニュイティーズ・リミテッド・パートナーシップ(以下「CPA」とい
う。)に対し,本件特許権の特許料の納付事務を委託していた(甲1の1及
び2)。
CPAには,本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったこ
とについて,過失がある。
2争点及び争点に対する当事者の主張
本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて,原
告に,法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」
が認められるか。
(原告の主張)


6
( )本件却下処分の判断枠組み1
本件却下処分等における特許庁長官の判断枠組みは,次のとおりである。
ア法112条の2第1項の「責めに帰することができない理由」とは,
「天災地変のような客観的な理由または通常の注意力を有する当事者が万
全の注意を払ってもなお避けることのできなかった原因により納付をする
ことができなかった場合」を意味する。
イ原告から本件特許権の特許料納付を委託されたCPAには,本件納付書
追納期間の徒過について過失がある。
ウ原告は,自己責任により特許権の管理をCPAに委託している以上,C
PAの過失は原告の過失と同視でき,この過失は,万全の注意を払っても
避けることができなかったとはいえない。
この判断枠組みのうち,イは,後記( )において述べるCPAの杜撰な情
4
報管理体制からすれば,正しい認定である。
しかしながら,ア,ウは,全く不当な解釈,判断であり,重大な誤りがあ
る。
( )法112条の2第1項の「責めに帰することができない理由」の解釈
2
ア特許法の国際的調和を図る観点からの解釈
112条の2は,特許法の国際的調和を図るため,欧米諸国からの要
請に応えて,平成6年の特許法改正の際に設けられた条項である。
本来,技術に民族性や国境はないものであるから,特許法の分野では,
国際的な統一,調和が要求される。
米国や欧州の特許庁においては,パリ条約5条の2第2項に基づき,特
許料不納付により失効した特許権の回復について,それぞれ「意図的では
なかった場合」,「避け難かった場合」又は「状況によって必要とされる
相当な注意をした場合」の要件が設けられ,幅広く特許権の回復が認めら
れている。


7
したがって,法112条の2第1項所定の「その責めに帰することがで
きない理由」の解釈も,特許権の回復に関して欧米諸国で定められている
要件,基準との均衡を図るように解釈すべきである。
イ特許権管理の困難性から特許権者を保護する観点からの解釈
現代社会においては,一つの企業が世界各国に多数の特許を保有してい
るため,各企業は,各国で適正に特許権を維持,管理する必要があるが,
特許制度は,国ごとに異なり,同内容の特許権でも最初の年金開始日や特
許期間が異なるため,特許権の維持,管理は,非常に複雑かつ大変な作業
である。
それにもかかわらず,「その責めに帰することができない理由」を厳格
に解すると,特許権の維持,管理が更に困難になり,特許権者の利益を不
当に害する結果となる。
したがって,「その責めに帰することができない理由」は,特許権管理
の困難性から特許権者を解放し,保護するためにも,広く解釈すべきであ
る。
ウ特許権の消滅を信頼した第三者を保護する観点からの解釈
このように,「その責めに帰することができない理由」の意義を広く解
釈し,特許権の回復を広く認める場合,特許権の消滅を信頼した第三者の
利益を害するおそれがあるので,その第三者との利益調整が必要となる。
この点,法は,特許権回復の期間を追納期間経過後6か月という短期間
に制限し(法112条の2第1項),さらに,回復した特許権の効力を制
限しているなど(法112条の3),第三者に過大な負担や損害を与えな
いよう配慮をしている。
したがって,法がこのような第三者保護規定を設けていることからも,
「その責めに帰することができない理由」の意義は広く解釈し,特許権の
回復を広範に認めるべきである。


8
エ結論
以上の解釈からすれば,「その責めに帰することができない理由」は,
本件却下処分のように限定的に解釈することは不合理であって,特許権者
がすべきことをした場合,つまり,特許権者が社会通念上相当な注意を払
っても避けることができない場合も広く含まれると解すべきである。
( )CPAの過失を原告の過失と同視することの不当性について
3
アCPAの過失を原告の過失と同視することはできないこと。
特許庁長官は,本件却下処分等において,特許権の管理が特許権者の自
己責任の下に行われるものであり,特許料の納付に関する管理をCPAに
委託したのは,特許権者である原告であるから,特許権者から委託を受け
特許料の納付を行うCPAの過失は,特許権者の過失と同視すべきもの
であるとする。
しかしながら,この判断は,「自己責任」という極めて不明確かつ抽象
的な論理のみで,直ちに,CPAの過失が「特許権者の過失と同視され
る」との結論を導いており,論理が飛躍している。
また,特許権者は,前述した特許権管理の困難性から,事務処理を大量
かつ正確に行わなければならないため,事実上,外部の専門機関にその管
理を委託せざるを得ない状況にあり,外部の専門機関への管理の委託は,
広く一般に行われている。そのような状況の中で,外部の専門機関が起こ
した事務処理上の過失を,単に外部の専門機関に「委託した」という事実
のみをもって,すべて一律に「自己責任」として特許権者の責任にしてし
まうことは,特許権者による外部の専門機関の利用を極度に萎縮させて特
許権管理を著しく困難にし,特許権者の権利を不当に害するものであって,
「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もつて産業の発
達に寄与する」(法1条)ことそのものを害する結果となる。
したがって,外部の専門機関の過失が特許権者の過失と同視される場合


9
は,次のとおり,限定して考えるべきである。
イ個人責任原則と例外
(ア)元来,個人は,自分が行った過失についてのみ責任を問われるので
あって,他人の過失についてまで責任を負わないのが原則である(個人
責任の原則)。
(イ)しかしながら,民法715条の使用者責任や,同法415条の債務
者の責任に関して広く認められている,いわゆる履行補助者の責任など,
個人が他人の行為について責任を負う場合があることが,法律上も解釈
上も広く承認されている。これは,個人が他人の活動によって自己の活
動領域を拡大し,その収益可能性を増大させるという利益を享受しなが
ら,当該他人の過失行為による不利益について,個人責任の原則を貫い
て当該個人を不問に付することは,債権者の地位が著しく害され,公平
でないことから認められているものである(報償責任の法理)。
ウ報償責任の法理の限界
もっとも,報償責任の法理は,個人が他人の行為について無条件に責任
を負うことまで認めるものではない。報償責任の法理の趣旨からすれば,
個人が他人の行為について責任を負うのは,あくまで個人責任の原則を貫
くことが不公平であるなどの不都合が生じる場合に限られるのであって,
それ以外の場合は,あくまでも「個人責任の原則」が支配すると考えるべ
きである。
民法715条1項ただし書が,「使用者が被用者の選任及びその事業の
監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ず
るべきであったとき」に使用者の責任を問わないとしているのは,まさに
報償責任の法理に限界があることを示唆するものである。
したがって,どのような場合が「報償責任の法理の限界」といえるか問
題となるが,これは,最終的には個別具体的な事例に即して判断せざるを


10
得ない。
エ本件についての再考
本件は,特許権者が国に対し特許料納付義務を履行する場面での問題で
ある。
(ア)特許権者は,特許料の納付によって「特許権を維持する」という利
益を享受するが,現代社会においては,一企業が膨大な量の特許権を保
持していることも多く,特許料の納付を始めとする特許権の維持管理を
自ら行うには,莫大な費用と労力を費やさなくてはならない立場に置か
れている。
このような状況の中,特許権者は,自ら特許権管理を行うリスクを回
避するため,特許料の納付を始めとする特許権の管理を外部の専門機関
に委託することで,安定的で確実な特許権管理を実現し,これによって
確実に「特許権を維持する」という利益を享受しているのである。
したがって,特許権者が特許権管理を外部の専門機関に委託すること
は,まさに他人を利用して自己の活動領域を拡大していることにほかな
らず,報償責任の法理が妥当する場面といえる。
(イ)このように,特許権者が外部の専門機関に委託して特許料納付手続
を行う場面には報償責任の法理が妥当するから,外部の専門機関の過失
を特許権者の過失と同視することは,あくまで報償責任の法理の現れと
して理解すべきである。
そうすると,外部の専門機関の過失を特許権者の過失と無条件に同視
することはできず,どのような場合に同視することができるのか,その
限界を検討する必要がある。
オ外部の専門機関の過失を特許権者の過失と同視することの限界
(ア)特許の申請その他特許権維持に関する諸手続は,高度に専門的で煩
雑であるため,特許を申請しようとする者又は特許権者がこれを自ら行


11
うか,外部の専門機関にゆだねるかを任意に選択する余地はなく,事実
上,外部の専門機関への委託を強制されている現状がある。
この現状の下で,外部の専門機関への委託そのものを「特許権者など
の委託者の自己責任」として,当該外部の専門機関の過失をすべて特許
権者の過失と同視することは,自由意思に基づかない行為である委託行
為に対する無条件の責任追及であり,不公平極まりない。
他方,特許権者が外部の専門機関に委託するに際し,いかなる専門機
関を選択し,また,いかにして選択した専門機関に対する監督を行うか
は,特許権者の自由意思に基づくものであるから,仮に,これらの点に
ついて特許権者に落ち度があれば,当該専門機関の過失を特許権者の過
失と同視することに何ら不公平なことはない。
以上から,特許権者において,外部の専門機関の選択及び当該専門機
関の業務に対する監督に落ち度がある場合に限り,当該外部の専門機関
の過失を当該特許権者の過失と同視して,特許権者は,当該外部の専門
機関の過失についても責任を問われると解すべきである。
(イ)本件においてみると,CPAは,国際的に年金管理を行っている会
社として著名であり,その信頼性は,十分なものであると広く認識され
ていたし,同社発行のパンフレットにも,そのシステムの信用性がうた
われていることから,原告がCPAを信用することに何ら落ち度はない。
被告は,CPAが過去にも事務処理ミスを起こして裁判になっている
ことを主張し,CPAへの原告の信頼に正当性がないなどと主張するが,
特許権者が特許権管理を外部の専門機関に委託する際,当該機関の裁判
事例まで調査して信頼性を確認するという高度な注意義務を課すことは,
特許権者の特許権管理行為を著しく萎縮させることになり妥当でない。
したがって,原告が外部の専門機関としてCPAを選択したことに,
何ら落ち度はない。


12
また,本件は,後記( )のとおり,原告の予期し得ない偶然とCPA 4
の信じ難い人員管理ミスによって発生したものであって,委託者である
原告によるCPAへの監督の範囲を超える次元で発生したものである。
特許出願から本件が発生するまでの9年間は,問題なく納付手続が行
われていたことに照らせば,原告のCPAに対する業務の監督について
も,何ら落ち度はない。
(ウ)以上により,原告には,CPAを選択したこと及びCPAの業務に
対する監督について,何ら落ち度はない以上,CPAの過失を原告の過
失と同視することはできない。
カ小括
したがって,CPAの過失を原告の過失と同視する本件却下処分は,何
ら法的根拠がないだけでなく,特許権者の利益を害する極めて不合理なも
のであり,誤っている。
( )原告に「その責めに帰することができない理由」があること。
4
以上のとおり,CPAの過失を原告の過失と同視することはできない。そ
して,次に述べるとおり,原告自身には,独自に「その責めに帰することが
できない理由」がある。
ア原告のCPAに対する信頼の正当性
(ア)原告が本件特許権の特許料納付手続をCPAに委託したのは,平成
18年6月2日である(甲1の1,2)。
CPAは,国際的に年金管理を行っている会社として著名であり,そ
の信頼性は十分なものであると広く認識されていた。
原告は,特許料納付に関して,CPAと20年間もの長期にわたって
協力関係にあるが,その間,CPAの行う特許料納付手続に不備や失敗
は一度もなかった。
また,CPAは,原告の特許権のうち,本件特許権のように延長登録


13
された特許権の特許料納付手続を,日本及び世界各国において多数取り
扱った経験もある。
そこで,原告は,本件特許権を含む特許料納付についても,CPAに
よる特許料納付手続の管理能力を全面的に信頼して委託したものである
(甲2の1,2)。
(イ)CPAが平成18年から平成19年までの間に特許料納付を行った
日本における原告の特許権は,8件で,その回数は12回である。
また,世界各国における原告の延長登録された特許権について,CP
Aが平成18年7月1日から平成19年7月1日までの1年間に特許料
納付を行ったものは,約300件にも上る。
CPAは,日本の案件を含む世界各国すべての原告の延長登録の特許
権の特許料納付に関して,原告及びCPAの知る限り,本件特許権を除
き,いずれの手続も失敗することがなかった。
(ウ)以上のように,CPAが国際的に特許権年金管理会社として著名で
あるだけでなく,20年もの長期にわたって実際に原告との関係で滞り
なく特許権年金管理を行ってきた実績を考慮すれば,原告がCPAのシ
ステムを信頼する十分に合理的な理由が存在したことは明らかである。
イ本件特許料等の納付手続の懈怠が生じた原因の偶然性とCPAの過失の
重大性
本件特許料等の納付手続に当たりCPAが犯した業務上の誤りは,次の
とおり,全く予期し得ない偶然と,信じ難い重大な過失が重なって生じた
ものである。
(ア)CPAの特許料納付管理システムでは,管理対象の特許出願日を入
力すると特許の満了日が自動的に計算されるようになっており,延長登
録の特許のように,満了日に関し自動的な計算の対象とすることができ
ないものについては,別途「延長特許の類型」として扱うこととなって


14
いた。
原告の第1回特許データは,平成18年11月13日,CPAが定め
た平成19年1月1日の期限を遵守し,定められた期限前に,CPAに
より受け取られた。
前記データは,平成18年12月4日,CPAの所在地である英国属
領のジャージー島で,CPAの記録に電気的に処理され,本件特許権の
満了日は,その出願日である昭和61年10月23日を基に,自動的に
平成18年10月23日と計算された。そこで,本件特許権は,CPA
において,権利が消滅した案件として直ちにリストに挙げられた。なお,
CPAは,日本では,例外的に存続期間が延長されて,特許権の存続期
間が20年を超える場合があることを知っていた。
CPAの本件特許権の担当者である甲は,平成18年12月23日,
その処理を点検した。そして,検査対象とすべきものについての検査要
求レポートを,ドイツのCPAに送った。検査要求レポートの中には,
本件特許権のデータを含め,約100件の満了日の不一致に関する案件
が含まれていた(甲6の3)。
(イ)ドイツのCPAの乙は,原告の担当者である丙に対し,平成19年
1月3日,検査要求レポートを送付した。その際,乙は,本件特許権に
関し,延長登録の対象となった案件かどうかを確認すべきとのメモを付
した。
乙が丙に送付したメールには,検査要求レポートが添付されていた
(甲6の1ないし6)。
(ウ)丙は,乙に対し,平成19年2月19日,検査要求レポートに応え
て,メールを送付した(甲7の1,2)。しかしながら,CPAによれ
ば,このメールが乙により受け取られた記録はないとのことである。な
お,当時のメールの受信サーバと送信サーバの記録は,既に残っていな


15
い。
原告は,CPAとの間でこれまでにも多数の案件について電子メール
による連絡のやり取りをしており,不達事故はなかったので,そのよう
な事故が起こるとは予想しておらず,平成19年2月19日に送付した
メールも,CPAが同日受け取ったものと考えていた。
(エ)甲は,検査要求レポートに対する原告の回答の処理を担当していた
が,CPAの従業員の中でも経験を積んだ者であり,雇用期間は25年
以上である。同人は,その長年の経験と大量のデータを素早く処理でき
る能力から,CPAの中でも最もデータ量の多い電子データの処理を担
当している。電子データの受発信は,自動的に行われるが,CPAのシ
ステムでは多くの適合しないデータが検出され,それらはすべて,注意
深く検査され,処理されることになる。
ところが,甲は,CPAの人事システムの記録によると,平成19年
2月28日から5月4日まで,同月30日,31日,6月1日から8日
まで,同月20日,21日,病気による休暇をとっていた。この結果と
して,かなりの業務がたまり,原告に対する最初の検査要求レポートへ
の対応(回答の有無の確認)が同年7月までかかった。
さらに,甲の二人の主要な部下のうち一人が,甲がしばしば業務を休
んだのと同時期に,父親の死去を理由に,不意に休暇を取ることになっ
た。そのため,ジャージー島のCPAが平成19年8月初旬に丙からの
回答を受け取ったとき(なお,この回答は,平成19年2月に原告がC
PA(乙)に送ったものと同じであり,原告は,前記(ウ)のとおり,こ
の回答が同月にCPAにより受け取られたと認識していた。),業務の
滞りはまだ続いていた。すなわち,甲の部下である丁は,父親の死去に
より,平成19年7月9日,10日,同月18日から20日までの合計
5日間の忌引を取り,フィリピンでの告別式に出席するなどしていた。


16
また,丁は,フィリピンでの告別式に参加する間,フィリピンで家族と
すごすため,同月23日から8月17日までの年休が与えられた。この
ことは,甲が処理しなければならなかった業務の遅延状況に,予想をは
るかに超えた多大な影響を与えた。
甲は,平成19年7月13日,CPAの仕事に復帰し,乙に,CPA
内部のやり取りとして,検査要求レポートへの回答を督促した。CPA
によれば,丙から乙に送られた検査要求レポートへの回答は,平成19
年8月3日になって,ようやく乙からジャージー島のCPAに転送され
たとのことである。なお,その回答は,平成19年2月に原告がCPA
(乙)に送ったものと同じである。
(オ)結局,CPAによる本件特許料等の納付手続の懈怠は,以上の二つ
の想定し難い事情(現在も解明していない原告とCPA間の電子メール
の通信に生じた技術的問題による事情及びCPAが信頼して原告の案件
を任せていた重要な従業員らが本件特許料等を納付すべき時期に病気と
忌引により不在であったという事情)が共に働いて生じたものである。
さらに加えて,本来,CPAにおいては,検査要求レポートの処理に
関して,甲のような経験深い専門家に担当させるなど,特許料の納付期
限を徒過することがないように万全を尽くしているが,今回は,大量の
データを扱う専門家チームにおいて,甲の病気,丁の忌引という予期せ
ぬ事態が重なったため,従業員の欠勤による業務停滞を防止するための
管理体制が,完全に機能不全になっていたのである。
検査要求レポートの処理は,高度な技術を備え訓練された従業員しか
行うことができず,他の従業員を訓練しても,経験の深い前記2名(甲,
丁)と同様の処理はできないから,結局,この2名の欠勤による業務停
滞防止体制は,CPAに備わっていなかった。
(カ)以上より,CPAによる本件特許料等の納付手続の懈怠は,?メー


17
ル事故と主要従業員の欠勤という誰にも予期できない偶然の事情に加え
て,?従業員欠勤の際の業務停滞防止体制の不備によって生じたものと
いえる。
この原因のうち,?については,CPAに過失があることは明らかで
ある。しかも,CPAが特許権年金管理のエキスパートとして国際的に
活動する企業であることに照らせば,前記?の過失は,依頼者である特
許権者に著しい損害を与える信じ難い過失であって,重大な過失である。
一方,?の原因については,原告にとって全く予期し得ない事実であ
ることは明らかであって,原告がこれまでのCPAの実績に照らして,
本件特許料等の納付手続を行っているものと信じたことに何ら不合理な
点はないし,納付手続の懈怠について何ら認識できなかったとしても,
原告には一切落ち度はない。
ウまとめ
以上のように,CPAによる本件特許料等の納付手続の懈怠は,原告に
とって全く予期し得ない偶然の事情と,CPAの従業員欠勤の際の業務停
滞防止体制の不備という信じ難い重大な過失によって発生したものである。
そして,原告のCPAに対する信頼が正当かつ合理的なものであること
も考え併せれば,CPAによる本件特許料等の納付手続の懈怠は,原告が
社会通念上相当な注意を払っても,到底避けることのできないものである
ことは明らかである。
なお,仮に,「責めに帰することができない理由」について,「天災地
変のような客観的理由又は通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払
ってもなお避けることのできなかった原因により納付をすることができな
かった場合」と解釈するとしても,前述のような事態の偶然性とCPAの
過失の重大性を考慮すれば,「万全の注意を払ってもなお避けることので
きなかった」といえることは明らかである。


18
したがって,原告には,法112条の2第1項所定の「その責めに帰す
ることができない理由」がある。
(被告の主張)
( )特許料の納付受託者の過失は,これを委託した特許権者自身の過失と同
1
視されるべきものであること。
本来,特許料の納付義務は,特許権者自身の責任において履行されるべき
ものであるところ,この納付事務を自ら行うのか,それとも第三者に委託し
て行うのかは,専ら特許権者自身が同事務の処理を行う上での利害得失,す
なわち,事務処理の正確性及び迅速性並びに事務処理費用の大小等を考慮し
て決定する,優れて経済合理性を重視した特許権者側の事情に基づく判断事
項にすぎない。したがって,対外的には,その事務処理の結果が特許権者に
帰属するとする点については,同事務を自ら行うのか,それとも第三者に委
託して行うのかにより何らの差異もないのであり,両者を区別して扱わなけ
ればならない合理的理由はない。
原告は,自己の経営上の判断として,本件特許権を含む原告が保有する特
許権に係る特許料の納付事務を,自ら処理するよりも,CPAに委託した方
が経済合理性があると判断したものである以上,原告に代わってCPAが行
った納付事務手続のすべては,特段の事情がない限り,原告自身が行ったも
のと同視するのが相当である。それゆえ,原告の委託を受けて特許料の年金
納付事務を担当したCPAの事務処理に過失があった場合には,その過失は,
原告自身の過失と同視されるべきものである。
そして,特許料の納付受託者の過失を委託した特許権者自身の過失と同視
する考え方は,次のとおり,幾多の裁判例において異論なく確認されている。
?東京地裁平成14年6月27日判決(平成13年(行ウ)第285号)
?東京地裁平成16年9月30日判決(平成16年(行ウ)第118号)
?東京高裁平成16年8月4日判決(平成16年(行コ)第176号)


19
?東京地裁平成18年9月27日判決(平成18年(行ウ)第186号)
なお,?,?は,CPAが年金納付管理を担当した事案で,CPA担当
者の過失が認定された事例である。
?東京地裁平成19年7月5日判決(平成19年(行ウ)第56号)
以上によれば,本件特許料の納付遅延について原告から納付事務の委託を
受けたCPAに重大な過失があったことに争いのない本件においては,CP
Aの過失は,原告の過失と同視されるべきものであり,原告に法112条
2第1項所定の「責めに帰することができない理由」が存在したと認められ
ないことは明らかである。
( )原告自身にも過失があったこと。
2
原告は,CPAの実績及び優秀性についてあれこれ主張し,これを信頼し
たことに何ら落ち度がない旨主張するが,前記( )の比較的短期間の裁判例
1
においてすら,CPAの年金納付事務担当者の過失が認定された事例が2件
含まれていることにかんがみると,原告の前記主張は,根拠のないものであ
る。
それだけでなく,原告の本件特許料の年金納付管理は,原告の主張に現れ
た外形的事実関係を見ただけでも,杜撰であったものといわざるを得ず,原
告自身にも過失があったというべきである。すなわち,本件特許権に係る特
許料の納付は,一括納付された最初の3年分を除き,第4年分以降は,1年
ごとに納付期限である2月22日より前の1月末日ないし2月の第1週に9
年間にわたって納付されてきた(甲9)。本件特許料の納付に先立つこの9
年間の納付実績からみても,本件特許権に係る特許料の最終負担者である原
告は,当然のこととして,本件特許料の納付期限が2月22日であることを
把握していたはずであるし,仮に把握していなかったのであれば,それ自体
において,既に過失があるものといわざるを得ない。そうであれば,本件特
許料については,平成19年1月ないし2月にCPAから納付のための費用


20
請求がされていなかったのであるから,まず,この点に疑念を抱き,CPA
に納付の有無を確認すべきであったのに何らの確認をすることもなく,更に
追納期間の6か月をも漫然と徒過したものである。
以上の経緯に照らせば,特許権者である原告の本件特許権に係る特許料
年金納付管理は,はなはだ杜撰であるといわざるを得ず,その納付を遅延し
たことについて,原告自身にも過失があったものというべきである。
( )原告の主張に対する反論
3
ア原告は,特許権者は,事務処理を大量かつ正確に行わなければならない
ため,事実上,外部の専門機関にその管理を委託せざるを得ない状況にあ
るという考えを前提とした上で,特許料の納付事務が特許権者の自己責任
であるとする考え方を貫徹することを批判する。
しかしながら,特許権管理をいかなる方法で行うかは,専ら当該特許権
者の自由な判断に任される事柄であり,前記のとおり,事務処理の正確性
及び迅速性並びに事務処理費用の大小等を考慮して決定する,優れて経済
合理性を重視した特許権者の判断なのであり,納付事務の外部委託という
方式が,法律上はもとより,事実上も義務付けられているといったもので
はないことはいうまでもない。
そして,特許料の納付事務が「特許権者の自己責任」であるとは,特許
料を納付して自己の特許権を維持するか否か,維持するとした場合,その
納付事務をいかなる組織,形態で行うかを含め,すべてを当該特許権者が
その責任と判断において決定し,実施することを意味するものである。
したがって,前記の「自己責任」の考え方を貫徹することは,法の目的
に資するものではあっても,これを何ら害するものでないことは明らかで
ある。
イ原告は,民法715条415条等を引用して「個人責任の原則」が
「報償責任の法理」に論拠を有するとした上で,その限界を示すものが民


21
715条1項ただし書であるとして,これが特許料納付義務を履行する
という場面においても妥当すると主張する。原告の主張によれば,「報償
責任の法理」とは,「個人が他人の活動によって自己の活動領域を拡大し,
その収益可能性を増大させるという利益を享受しながら,当該他人の過失
行為による不利益について個人責任の原則を貫いて当該個人を不問に付す
ることは,債権者の地位が著しく害され,公平でないことから認められて
いるもの」のようである。
しかしながら,「報償責任の法理」とは,損害賠償責任の帰責根拠に関
する法理であり,これが特許料納付事務処理の過誤の問題とどのように関
連するのか疑問である上,原告の主張する「自己の活動領域を拡大」する
という点についてみると,特許料の納付事務を自ら行うかそれとも外部に
委託するかにより,同事務自体に何らの変更もないのであるから,外部委
託をしたからといって,「特許権者の活動領域を拡大」したことにはなら
ない。また,「報償責任の法理」の考え方によれば,「他人」すなわち
「外部委託者」による過失行為により,「個人」すなわち「委託者」以外
の「債権者」すなわち「第三者」に生じた「不利益」を救済する法理であ
ることは,原告の主張自体からも明らかであるところ,本件において「不
利益」を受ける者は,「個人」すなわち「委託者である原告」自身であり,
「債権者」すなわち「第三者」なるものは存在しない。
以上から明らかなとおり,本件において,原告の主張する「報償責任の
法理」なるものは無関係であり,専ら委託者(原告)と受託者(CPA)
の関係が問題となるにすぎない。
したがって,原告の前記主張には,無理があるものといわざるを得ない。
ウ原告は,CPA発行のパンフレットにおいてはそのシステムの信用性が
うたわれていること,特許出願から本件が発生するまでの9年間は問題な
く納付手続が行われていたことなどを主張する。


22
しかしながら,特許料納付事務の委託を勧誘するパンフレットに受託者
の信用性を高める記載こそあれ,これを減殺するような記載がないであろ
うことは多言を要しないところであるし,9年間問題がなかったとの一事
をもって,直ちに監督を尽くしていたものと即断することはできず,いず
れも根拠薄弱の主張といわざるを得ない。
第3当裁判所の判断
1法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意

( )ア法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理
1
由」とは,後記イの理由から,これと同一の文言である法121条2項
拒絶査定不服審判追完),法173条2項再審請求追完)所定の
「その責めに帰することができない理由」と同様に,天災地変,あるいは
これに準ずる社会的に重大な事象の発生により,通常の注意力を有する当
事者が万全の注意を払っても,なお追納期間内に特許料等を納付すること
ができなかったような場合を意味すると解するのが相当であり,当事者に
過失がある場合は,「その責めに帰することができない理由」がある場合
には当たらないと解するのが相当である。
イ法112条の2は,特許料の本来の納付期間の経過後,更に6か月間の
追納期間(法112条1項)が経過し,特許料の不納付によりいったん失
効した特許権の特許権者に対し,?追納期間内に特許料等を納付すること
ができなかった理由が特許権者の責めに帰することができないものである
こと,?追納期間の経過後6か月以内であって,かつ,その理由の消滅か
ら14日(在外者にあっては2か月)以内に,納付すべきであった特許料
等を納付することを要件として,特許権の回復を認めた例外的な救済の制
度である。
また,訴訟行為の追完を定めた民訴法97条1項の「その責めに帰する


23
ことができない事由」については,当事者に過失がある場合を含まないと
の解釈が採られている。
さらに,「その責めに帰することができない理由」という文言の通常の
意味からすると,当事者に過失がある場合を含まないと解釈するのが自然
である。
( )この点,原告は,法112条の2第1項所定の「その責めに帰すること
2
ができない理由」について,特許法の分野における国際的調和の観点や立法
経緯のほか,特許権管理の困難性から特許権者を保護する必要性という観点
から,特許権者がすべきことをした場合,つまり,特許権者が社会通念上相
当な注意を払っても避けることができない場合を広く含むと解すべきであり,
そのように解しても,法が,特許権回復の期間を追納期間経過後6か月とい
う短期間に制限していることや,回復した特許権の効力を制限していること
から,第三者への過大な負担を生じることもないと主張する。
しかしながら,パリ条約5条の2第2項の規定は,特許権の回復について
どのような要件の下でこれを容認するかを各締結国の判断にゆだねており,
特許法の分野において国際的調和が重視されるべきであるとしても,我が国
の特許法の定める個別規定を,欧米諸国の定める要件,基準等に基づいて解
釈しなければならない理由はない。また,法112条の2の立法経緯に,法
112条の2の「その責めに帰することができない理由」について,原告の
主張するような解釈をすべきことを示唆するような事情があるとは認められ
ない。そして,特許権回復の期間制限の規定や回復した特許権の効力の制限
の規定が設けられているからといって,特許法が法112条の2の特許権の
回復を広範に認める趣旨であると解することはできない。さらに,特許権者
を保護する必要性の観点は,それ自体のみでは,原告の主張する解釈を採用
すべき理由にならない。
したがって,原告の前記主張は,採用することができない。


24
( )なお,原告の主張する解釈によっても,特許権者に過失がある場合は, 3
特許権者がすべきことをした場合,あるいは,特許権者が社会通念上相当な
注意を払っても避けることができない場合とはいえないから,法112条
2第1項所定の「責めに帰することができない理由」がある場合には該当し
ない。そして,本件において,本件特許料等を追納期間内に納付することが
できなかったことについて,原告から委託を受けたCPAに過失があること
は,当事者間に争いがないから(前記第2の1( )),CPAの過失が原告
3
の過失と同視されるのであれば,原告の主張する解釈によっても,原告に,
112条の2第1項所定の「責めに帰することができない理由」があると
はいえないことになる。
したがって,後記2において,本件特許料等を追納期間内に納付すること
ができなかったことについてのCPAの過失を,原告の過失と同視すること
ができるか否かを検討する。
2原告が,CPAの過失により本件特許料等を追納期間内に納付することがで
きなかったことについて責任を負うか。
( )我が国の特許法は,日本国内に住所又は居所を有する者,有しない者
1
(在外者)の双方について,その委任による代理人が特許に関する行為を行
うことを認め,その場合の代理権の範囲及び手続等を規定している(法8条
ないし13条等)。そして,特許権の維持管理に関しても,特許権者の委任
を受けた代理人がこれを行うことを認めているのであるから,特許料の納付
に関する管理を含め特許権の維持管理をどのように行うかは,特許権者が自
ら行うのか,外部に委託するのか,委託するのであれば誰に委託するのか等
を含め,すべて特許権者である本人の意思にゆだねられており,特許権者の
自己責任の下に行われることである。本件においても,特許権者である原告
は,特許権の維持管理に関して,原告本人の過失について責任を負うことは
もちろんのこと,原告の委託を受けて特許料の納付に関する管理を行ってい


25
た独立の外部事業者であるCPAの過失についても,その責任を負うべきは
当然である。
したがって,本件において,特許権者である原告が委託したCPAの過失
により,本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったものであ
るとしても,本人である原告がその責任を負うべきは当然であって,原告に
112条の2第1項所定の「責めに帰することができない理由」があると
いえないことは,明らかである。
この点について,原告は,次のとおり主張するが,いずれも採用すること
ができない。
( )ア原告は,特許権者が外部の専門機関に委託して特許料納付手続を行う
2
場面には報償責任の法理が妥当するから,外部の専門機関の過失を特許権
者の過失と同視することは,あくまで報償責任の法理の現れとして理解す
べきであり,外部の専門機関の過失を特許権者の過失と無条件に同視する
ことはできないと主張する。
しかしながら,「報償責任の法理」とは,本人の第三者に対する損害賠
償責任に関する考え方であり,本件のように,特許料の納付に関する管理
の過誤が問題となる場面とは,直接関連するものではない。すなわち,
「報償責任の法理」は,原告自身も「個人が他人の活動によって自己の活
動領域を拡大し,その収益可能性を増大させるという利益を享受しながら,
当該他人の過失行為による不利益について個人責任の原則を貫いて当該個
人を不問に付することは,債権者の地位が著しく害され,公平でないこと
から認められているものである」と主張するとおり,他人の過失により第
三者(債権者)に生じた不利益について,本人(個人)が責任を負うかど
うかという損害賠償責任に関するものである。
これに対し,本件では,特許料の納付に関する管理について過失のある
他人と,当該他人に特許料の納付に関する管理を委託した本人(原告)自


26
身の不利益が問題になるにすぎず,報償責任の法理において問題となる不
利益を受ける第三者(債権者)や,当該第三者に生じる不利益の内容がお
よそ問題となる余地はない。
このように,特許料の納付に関する管理についての他人の過失と当該過
失により管理を委託した本人の不利益のみが問題となっている本件と,他
人の過失により第三者に生じた不利益について,本人が第三者に対して損
害賠償責任を負うべきとする考え方である「報償責任の法理」とは,原告
の主張を前提としてみても,その適用場面として,関連性を有するもので
ないことは明らかである。
したがって,特許権者が外部の専門機関に委託して特許料納付手続を行
う場面に報償責任の法理が妥当することを前提とする原告の前記主張は,
その前提において失当であり,採用することができない。
イ原告は,特許の申請その他特許権維持に関する諸手続を外部の専門機関
に委託することを強制されている現状があり,外部の専門機関への委託が
特許権者の自由意思に基づかない行為であることから,外部の専門機関の
選択,当該専門機関の業務に対する監督について,特許権者に落ち度があ
る場合に限って,特許権者も責任を問われるべきであると主張する。
しかしながら,前記( )で述べたとおり,特許権の維持管理をどのよう
1
なに行うかは,特許権者が自ら行うのか,外部に委託するのか,委託する
のであれば誰に委託するのか等を含め,すべて本人である特許権者の自由
な意思と判断にゆだねられているものである。また,特許料の納付手続を
外部の機関に委託するという方法が,法令上義務付けられているものでな
いことは明らかであり,事実上,これが強制されていると認めるに足る証
拠も皆無である。
したがって,外部の専門機関への委託を強制されているとか外部の専門
機関への委託が特許権者の自由意思に基づかない行為であることを前提と


27
する原告の前記主張は,その前提において誤りがあり,採用することがで
きない。
3結論
以上によれば,本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったこ
とについて,原告に法112条の2第1項所定の「その責めに帰することがで
きない理由」があるとは認められないから,本件却下処分に違法はない。
よって,原告の請求は,理由がないからこれを棄却することとし,主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官清水節
裁判官坂本三郎
裁判官岩崎慎

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