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事件 平成 18年 (ワ) 28251号 ロイヤリティ請求事件
平成 19年 (ワ) 10144号 損害賠償請求事件
東京都渋谷区<以下略> 第1事件原告・第2事件被告株式会社アイ・ピー・ジー・アイ (以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士小川浩賢
同 豊島真
同 石田治
同 淺枝謙太 名古屋市中区<以下略> 第1事件被告・第2事件原告株式会社ロイヤル (以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士浅井正 第2事件原告訴訟代理人弁護士久保田皓
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/03/11
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,原告に対し,金2293万9666円及び内金2100万円に対する平成18年8月2日から,内金193万9666円に対する同年9月16日から,各支払済みまで年15パーセントの割合による金員を支払え。
2被告の第2事件請求を棄却する。
3訴訟費用は,第1,第2事件を通じ,被告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
2
事実及び理由
全容
第1請求1第1事件主文第1項と同旨2第2事件原告は,被告に対し,金4億3475万9619円及びこれに対する平成20年5月24日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2事案の概要第1事件は,原告が,被告に対し,原被告間で締結した2003年(平成15年)9月12日付け「L.A.Gear」ブランド商品に関する商標使用再許諾契約に基づき,第3契約年度のミニマムロイヤリティ2100万円(消費税込み。
2006年(平成18年)8月1日を支払期限とする。)と第2契約年度のパーセントロイヤリティ193万9666円(消費税込み。2006年(平成18年)9月15日を支払期限とする。)との合計2293万9666円及び各支払期日の翌日から支払済みまで約定の年15パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。これに対し,被告は,?原被告間の上記契約を締結する旨の意思表示は,詐欺によるものであるから取り消す,?同意思表示は要素の錯誤によるものであるから,無効である,?原被告間の上記契約は条件の欠落を理由に無効とされるべきものである,?原被告間の上記契約を民法559条,561条,563条により解除する旨主張して,原告に対する上記各ロイヤリティの支払義務の存在を争っている。
第2事件は,被告が,原告に対し,?原被告間の上記契約を締結する旨の意思表示は,詐欺によるものであるから取り消す,?同意思表示は要素の錯誤によるものであるから,無効である,?原被告間の上記契約は条件の欠落を理由に無効とされるべきものである,?原被告間の上記契約を民法559条,561条,563条により解除する旨主張して,不当利得返還請求権に基づき,上3記契約に基づき既に支払ったロイヤリティ等合計4053万0619円の返還を求めるとともに,原告による上記?の詐欺行為(不法行為)により損害を被った旨主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,逸失利益等合計3億9422万9000円の支払を求める事案である。
なお,第2事件の附帯請求は,訴え変更(請求拡張)に係る平成20年5月20日付け準備書面が送達された日の翌日である同月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求である。
1前提となる事実等(認定事実については末尾に証拠を掲記する。)(1)当事者ア原告は,商標権の売買,管理及び仲介,並びに宝石,時計,ハンドバック,帽子,靴等の輸出入などを目的とする株式会社である。
イ被告は,カジュアルシューズ,カジュアルウェア,スポーツ用品,日用雑貨等の輸入販売,並びにカジュアルシューズ,カジュアルウェア,スポーツ用品の組立,加工及び修理等を目的とする株式会社である。
(当事者間に争いがない)(2)原告と被告との間における契約の締結原告と被告とは,2003年(平成15年)9月12日,以下の内容の商標使用再許諾契約を締結した(甲1「L.A.Gearブランド商品に関する基本契約書」。以下「本件基本契約」という。)。
第1条(趣旨)原告は,米国カルフォルニア法人であるL.A.Gear,Inc(以下「LAGear」という。)との間で締結された2002年7月1日付け「Memorandum ofUnderstanding」(以下「MOU」という。)にて日本国内での各種商品の製造販売に関し,第2条記載の本商品を使用する権利の許諾をLAGearより受けた。
今般,被告は,本商標を付した第2条記載本商品の日本国内及びその他4の国での製造,及び日本国内での販売を希望し,原告は同権利を被告に再許諾することに合意したので,原告と被告は,本契約においてその諸条件を取り決めるものである。
第2条(定義)?「本商品」とは,被告が本契約に基づいて本商標を付して製造販売するスポーツ用衣料及びシューズ全般をいう。
?「本商標」とは,「L.A.Gear」,「L.A.GearSport」をいう。
?「販売許諾地域」とは,日本国をいう。
?「契約年度」とは,下記の期間をいう。
第1契約年度2003年9月12日から2005年8月31日第2契約年度2005年9月1日から2006年8月31日第3契約年度2006年9月1日から2007年8月31日ウ第3条(通常使用権の許諾)?原告は,本契約の有効期間中,被告に対し本商標につき,以下の条項に従い通常使用権を許諾する。(1項)?前項の通常使用権の範囲は,許諾地域内での本商品の販売とする。
(2項)?原告は,本契約の有効期間中,被告以外の第三者に対し,原則として本商品の製造及び販売に関して本商標を使用する権利を許諾しない。
ただし,被告は,原告が本商品のスポーツ用衣料の販売に関しては既に他の第三者に本商標を使用させていることを承知している。(3項)?被告は,本契約の有効期間中,原告の許諾なしに,本商標の使用権を再許諾する権利を持たない。(4項)?被告は,本商品については,日本国内及びその他の国で製造することができる。(5項)5エ第4条(本商標)原告は被告による許諾地域内での本商品の製造又は販売が第三者の商標権その他の権利を侵害しないことを保証する。(3項)オ第5条(本商品の製造)?本商品の製造は,被告が原告と協議の上選定した製造業者において次条の規定に従い,被告の製造及び品質管理の下にこれを行うものとする。
(1項)?被告は原告より提供を受けた各種ノウハウを使用し,原告の商品企画及び独自の企画に基づき,各対象シーズンに,本商品のデザイン,柄,色合い,素材等の商品企画をなすものとする。(2項)?被告は,本商品の製造開始以前に,本商品企画の資料(ストーリーボード,デザイン,柄,色見本,素材見本,試作品等)を用意し,原告の承認を得るものとする。
被告は,当該商品に関する原告の承諾を得られるまでは,いかなる場合も当該本商品の製造を開始してはならないものとし,原告の承諾を得た場合は,以後当該商品企画を原告の承諾なしに変更しないものとする。
(3項)カ第7条(ロイヤリティ)?被告は,本契約によって原告より許諾された権利の対価として,原告に対し,下記の最低保証ロイヤリティ(以下「ミニマムロイヤリティ」という。)を支払う。
なお,支払われたミニマムロイヤリティはいかなる理由があろうとも被告に返却されない。(1項)記第1契約年度金額1000万円支払期限2003年9月11日6第2契約年度金額1500万円支払期限2005年8月1日第3契約年度金額2000万円支払期限2006年8月1日?被告は,前項のミニマムロイヤリティとは別に,下記の計算により算出された歩合ロイヤリティ(以下「パーセントロイヤリティ」という。)を支払う。なお,支払期限は下記のとおりである。(2項)記支払金額各契約年度において被告が販売した本商品の卸売金額に対して5パーセントの割合で算出した金額から当該契約年度に関するミニマムロイヤリティを差引精算後の残金額。なお,差引額が負数となってもミニマムロイヤリティが返還されるものではない。
支払期限第1契約年度2004年3,6,9,12月の各15日2005年3,6,9月の各15日第2契約年度2005年12月15日2006年3,6,9月の各15日第3契約年度2006年12月15日2007年3,6,9月の各15日?被告は,本契約に基づいてロイヤリティを支払う都度,各支払額に消費税法で定める税率を乗じた金額の消費税を上乗せして原告に対し,支払うものとする。(3項)キ第11条(権利侵害等)被告が本契約に基づく本商標の使用に関し,第三者より,異議,不都合等の申立てを受け,又は損害賠償その他の請求を受けたとき,あるいは,7第三者による本商標の侵害行為を発見したときは,被告は直ちにその旨を原告に連絡し,原告の指示に従い,当該異議,不都合に対する防禦あるいは第三者による侵害行為の排除を共同して行う。
なお,事由のいかんを問わず,被告は上記防禦,排除を原告の指示なくして勝手に行ってはならない。(1項)ク第12条(遅延損害金)被告は,本契約に基づく金額の支払を遅滞したときは,遅延金につき年率15パーセントの割合による損害金を原告に対して支払う。
第14条(契約期間)?本契約の有効期間は,本契約締結日から2007年(平成19年)8月31日までとする。(1項)?被告が本契約の更新を希望する場合は,その旨を2006年(平成18年)7月31日までに書面で原告に連絡するものとし,原告及び被告は新たに契約を締結して本契約を更新することができる。(2項)?本契約が更新されない場合,被告は2007年(平成19年)4月30日以降製造業者による本商品の製造を中止させるものとする。(3項)コ第15条(中途解約)?原告の責めに帰すべき事由により本契約が中途解約された場合は,被告は原告に対し,中途解約により被った損害を請求することができる。
(2項)?被告の責めに帰すべき事由により本契約が中途解約された場合は,原告は被告に対し,中途解約により被った損害を請求することができる。
(3項)サ第16条(契約解除・期限の利益喪失)原告及び被告は,相手方について次の各号の事由が一つでも生じた場合8には,相手方に対する書面による通知により,本契約を直ちに解除することができ,その解除によって損害を被ったときにはその損害の賠償を相手方に対し請求することができる。(1項)?本契約所定のいずれかの義務を履行しない場合で相手方から書面によりかかる不履行の通知を受け,通知を受領後30日以内にかかる不履行を完全に是正しない場合。
(甲1,乙1,弁論の全趣旨)(3)未払ロイヤリティの存在アミニマムロイヤリティ本件基本契約の約定によれば,被告は,原告に対し,第3契約年度のミニマムロイヤリティとして,2006年(平成18年)8月1日を支払期限とする,2000万円とこれに対する消費税(100万円)との合計2100万円の支払義務を負うものの,被告は原告に対しこれを支払わない。
イパーセントロイヤリティ(ア)本件基本契約の約定によれば,被告は,原告に対し,第2契約年度のパーセントロイヤリティとして,2006年(平成18年)9月15日を支払期限とする,184万7301円とこれに対する消費税(9万2365円)との合計193万9666円の支払義務を負うものの,被告は原告に対しこれを支払わない。
(イ)なお,被告が原告に対して支払うべき第3契約年度のパーセントロイヤリティは発生していない。
(甲2の1ないし8,弁論の全趣旨)(4)LAGearによる警告ア本件基本契約の締結後,原告はLAGearとの間で,LAGear商標のライセンスに係る正式の契約書面の作成の交渉を行っていたものの,2004年(平成16年)12月4日には,LAGearから原告に対し,ライセンス契約9書への署名を拒絶する旨の通知があった。
イ被告は,LAGearを代理する弁護士から,以下の内容を記載した2005年2月1日付け書面(乙2)の送付を受けた。なお,同様の書面は,被告に限らず,日本における全サブライセンシーに送付された。
?被告はLAGear商標のシューズを生産し,日本で販売してきたと聞いている。しかしながら,LAGearは,被告にシューズ生産の認可も,日本における販売の認可もしていない。
?被告は,原告からLAGear商標の使用の権利を供与されたと考えていると理解している。しかしながら,LAGearは原告の代理人とLAGear商標のライセンスに関して交渉を重ねたものの,2年間にわたる交渉にもかかわらず,交渉は失敗に終わり,最終的に交渉は打ち切られた。
?原告又はその代理人は,2004年(平成16年)12月初旬に,LAGearから,?原告にはLAGear商標の使用権はないこと,?原告はLAGear商標の使用をいかなる目的であろうと他人又は他の企業体に供与することはできないことについての通知を受領した。
?被告に対し,被告が使用しているLAGear商標(当該商標を使用したシューズの製造及び販売を含む)は正当に認可されたものではなく,商標権侵害に当たることを,直接にアドバイスをするために,書面を送付した。
?LAGearは,原告の代理人とともに,原告から供与されたとして,商標権がないことを知らずに商標を使用している会社が,LAGearの品質基準に合致することを条件に保有する製品の販売をすることができるように手配を進めてきた。この販売においては,原告がロイヤリティとして認めた金額をLAGearに対して支払うことが前提条件となる。
なお,LAGearは,原告からも,又は,原告からLAGear商標の使用権を供与された企業からも,LAGear商標を使用した製品のロイヤリティを受10け取っていない。
?LAGearは,商標権の状況を知らずに原告と契約を締結し,当該契約を遵守している善意の会社を傷つけることは望んでいない。そこで,LAGearは,正当な手続として,被告が現在保有している在庫及び製造手配中の製品の販売について話合いをしたいと考えている。
?いずれにせよ,LAGearと書面による合意に達しない限り,LAGear商標を付した製品の製造販売は中止されたい。
ウLAGearは,2006年(平成18年)6月ころには,名古屋税関に対し,被告のLAGear製品の輸入通関の差止措置を申請した。
(甲4,乙2,69,弁論の全趣旨)(5)LAGearと原告との間の訴訟の提起及びその解決等ア原告は,2005年(平成17年)2月,米国において,LAGearとその親会社であるACI International(以下「ACI」という。)に対し,契約違反等を理由として訴訟を提起した。
これに対し,LAGearは,原告及びA(以下「A」という。)に対し,商標権侵害等を理由として反訴を提起した。
イ原告とLAGearは,2006年6月9日付け和解契約(乙82の1)及び同日付けライセンス契約(乙83の1)を締結するに至り,上記訴訟は終了した。
(乙82の1・2,乙83の1・2,弁論の全趣旨)2争点(1)本件基本契約を締結する旨の被告の意思表示は詐欺により取り消されるべきものか(争点1)(2)被告による取り消し得べき行為の追認又は法定追認の有無(争点2)(3)本件基本契約は錯誤により無効とされるべきものか(争点3)(4)本件基本契約は契約条件の欠落を理由として無効とされるべきものか(争11点4)(5)本件基本契約の瑕疵担保を理由とする解除の可否(争点5)(6)原告が被告に返還すべき不当利得の有無及びその額(争点6)(7)原告が被告に賠償すべき損害の有無及びその額(争点7)第3争点に関する当事者の主張1争点1(本件基本契約を締結する旨の被告の意思表示は詐欺により取り消されるべきものか)について〔被告の主張〕(1)以下の事実に照らせば,本件基本契約の締結時点において,原告が「シューズ全般」に関しては,LAGearの正当なサブライセンサーではなく,サブライセンス権限を有していなかったことが明らかである。
ア本件基本契約に係る契約書(甲1,乙1)の第1条には,「原告は,米国カルフォルニア法人であるL.A.Gear,Inc(LAGear)との間で締結された2002年7月1日付け「Memorandum of Understanding」(MOU)にて日本国内での各種商品の製造販売に関し,第2条記載の本商品を使用する権利の許諾をLAGearより受けた。」旨の記載がある。
しかしながら,MOU(乙46の1・2)では,許諾商品が「アパレルと下記のシューズ以外のアクセサリー」と記載されており,許諾商品にはシューズが含まれないことが明記されている。
イまた,MOUでは,ライセンスの対象としてシューズが含まれていなかったばかりか,「アパレルと下記のシューズ以外のアクセサリー」というライセンスの対象商品についてすら,原告にサブライセンスを第三者に付与する権限は認められていなかった。
ウそれにもかかわらず,原告は,2004年(平成16年)5月18日の時点で,既に,被告をはじめとする各取引先との間で,商品カテゴリーごとにサブライセンス契約を締結し,各サブライセンシーは製品の製造販売12を開始していた。
原告及びAは,上記の事実をLAGearに対して秘匿していたものの,LAGearは,原告とのライセンス契約の締結交渉が行き詰まり,契約交渉を打ち切った時点において,被告を含むサブライセンシーが日本国内で実商売(LAGear製品の製造販売)を実施していることを察知したため,2005年(平成17年)2月1日には,被告に対して警告書(乙2)を発し,その1週間後には,アパレル及びアクセサリーについてのサブライセンシーに対して,同様の警告書を発した。
エLAGearは,2006年(平成18年)6月ころには,名古屋税関に対し,被告のLAGear製品の輸入通関の差止措置を申請した。
(2)原告による欺罔行為以下のとおり,原告は,シューズに関してはサブライセンス権限を有していなかったにもかかわらず,被告に対して「MOUにより既にシューズのサブライセンス権限を有している」旨を告げて,被告を欺罔し,被告にその旨誤信させた。
ア本件基本契約の締結に至る経緯(ア)2003年(平成15年)7月初旬ころ,米国クエスト(Quest)社のB(以下「B」という。)から,被告に対し,LAGearブランドのシューズについてのライセンスの申入れがあった。
Bからの申入れは,韓国人ビジネスマンであるCから話があったもので,Cは,LAGearの親会社であるACI International(ACI)から,LAGearのシューズに関する日本におけるライセンシー探しを任されていた。
被告の代表者であるD(以下「D」という。)は,LAGearブランドのシューズのライセンスの申入れに興味を持ち,被告の商品本部シューズ開発部課長であったE(以下「E」という。)に対し,LAGearとの間で直接ライセンス契約を締結する場合の条件を引き出すように指示をした。
13(イ)上記申入れを受けた後間もなくである,2003年(平成15年)7月10日ころ,原告の代表者であるF(以下「F」という。)から電話があり,Eは,Fから,「IPGIはLAGearブランドのマスターライセンスを昨年7月に取得しており,シューズのサブライセンシーを探しているので,ロイヤルさんやりませんか」と売込みを受けた。
これに対し,Eは,「LAGearシューズのライセンスのオファーなら既に米国ルートで話がきており,条件の提示を待っているところです。」と回答した(なお,Fは,その本人尋問において,Eから「LAGearのシューズのオファーなら,既に米国ルートで話がきている」旨の報告を受けたことを認めており,正規の契約締結の順序である,ライセンサーとの契約の締結を経てからサブライセンシーとの契約の締結を行ったのでは,米国ルートの競争相手に先を越されてしまうことを危惧したことが,原告が詐欺行為に及んだ動機である。)。
(ウ)2003年(平成15年)7月22日,Fは被告を訪問し,Dと会談した。その際,Fは,実際には,LAGearとの間でシューズに関するライセンス契約の締結交渉中であったにもかかわらず,被告に対し,2002年(平成14年)7月にはLAGearとLAGearブランドのマスターライセンス契約(シューズ全般,アパレル全般,アクセサリー全般)を締結した旨虚偽の事実を告知し,シューズのカテゴリーが空いているので,被告とシューズのサブライセンス契約を締結したいと申し出て,サブライセンス契約の条件を提示した。
Dは,Fが原告がシューズ全般についてサブライセンス権限を有する旨明言したことから,その旨信用し,原告に対し,シューズ全般の契約に加え,スポーツ用衣料をライセンス商品に含めるように要請し,原告がこれを了承した。
これにより,原告と被告との間で,LAGearブランドのサブライセンス14契約に関し,口頭による基本合意が成立したものである。
(エ)その後,原告と被告とは,2003年8月14日付け仮契約書(甲12,乙19)を締結し,同年9月12日には,本件基本契約(甲1,乙1)を締結した。
なお,仮契約書(甲12,乙19)の第1条には,原告がLAGearブランドの日本におけるシューズのライセンス権限をLAGearより許諾された旨記載されていたものの,ライセンス権限の法的根拠が記載されていなかったため,被告から原告に対し,ライセンス権限の法的根拠となる原契約の存在を明記することを要求し,本件基本契約に係る契約書(甲1,乙1)の第1条に,ライセンス権限の法的根拠が原告とLAGearとの間の2002年7月1日付けMOU(乙46の1・2)である旨明記されたものである。
イ本件基本契約締結後における原告の対応等(ア)原告のFは,2003年(平成15年)10月20日に開催されたプレス発表会の席上においても,「IPGIがLAGear社と2002年(平成14年)2月(7月の言い間違いと考えられる。)にLAGearブランドに関するシューズ,アパレル,アパレル周辺商品のマスターライセンス契約を締結した」と表明した(乙20の1・2)。
(イ)原告のFは,被告にあてた2005年2月8日付けの電子メール(乙22)の中で,原告は,MOUが法律的に有効であり,それに従って,日本での展開をしている旨を表明した。
(ウ)原告は,被告を含めたサブライセンシーあてに交付した2005年2月16日付け書面(乙21)において,原告が,LAGearと2002年7月1日付けMOUが法律的に有効である立場をとっている旨を表明した。
(3)以上のとおり,原告は,本件基本契約の締結の際,シューズに関してはLAGearの正当なサブライセンサー(ライセンシー)ではなかったにもかかわ15らず,これを認識しながら(少なくとも,ライセンスの付与が書面化されておらず,法的有効性が保証されていないことを認識しながら),被告に対し,原告がLAGearの正当なサブライセンサーである旨を説明し,これにより,被告は,本件基本契約の締結時点において,原告がシューズに関してもLAGearの正当なサブライセンサーであると誤信して,本件基本契約を締結する旨の意思表示をした。被告の上記意思表示は,原告の詐欺によりされたものである。
そこで,被告は,原告に対し,平成19年7月5日の本件弁論準備手続期日において,上記意思表示を詐欺により取り消す旨の意思表示をした(民法96条1項)。
(4)原告の主張に対する反論2003年(平成15年)7月ころ(本件基本契約の締結より前に),LAGearからシューズに関するライセンスを付与されたとの原告の主張は,以下のとおり,その根拠を欠くものであって,認められない。
ア原告は,LAGearが原告の求めに応じて,被告に対してシューズのサンプルを送付したことは,原告が2003年(平成15年)7月ころ,LAGearからシューズのサブライセンス権限を取得していたことを裏付ける事実である旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,2004年(平成16年)5月18日にAがLAGearの社長であるGにあてた電子メール(乙47の1・2)の内容に反するものである。すなわち,同電子メールは,被告がシューズのサブライセンシーとして原告に求めた16足のサンプルの送付に関するものであり,AがLAGearに対して,「日本において,早急に製品戦略を練るために16足のシューズサンプルが必要です。当社は契約締結が終了するまでは,実商売を開始しません。ロイヤルの販売・マーケティング計画の立案を遅らせても良いものでしょうか。サンプル送付の遅延は当該プロジ16ェクトを駄目にしてしまいます。」と懇願した内容となっている。
被告は2003年(平成15年)9月12日には本件基本契約を締結し,2004年(平成16年)5月18日の時点においては,既に,6万8000足のLAGear製品(シューズ)を生産・輸入し,約4万足のLAGear製品(シューズ)を販売済みであったにもかかわらず,原告は,LAGearに対し,被告がサブライセンシー候補であり,実商売は開始していない旨の虚偽の説明をしていた。
このように,LAGearは,原告に欺罔された結果,被告に対してシューズサンプルを送付したのであって,LAGearが被告に対してシューズサンプルを送付したとの事実をもって,LAGearが原告に対してシューズのサブライセンス権限を付与していたことの根拠とはし得ない。
イライセンサーがサブライセンシー候補者である第三者に対し,サンプルを交付する行為は,ブランドビジネスにおいて一般的に行われることである。サンプルの送付は,サブライセンシー候補者の側から見れば,ブランド導入の検討,商品戦略の立案,販売計画の立案,顧客の反応を知るための商品陳列等に必要不可欠であり,ライセンサー(ブランドホルダー)の側からすれば,販売代理店契約,ライセンス契約の締結の勧誘のために必要不可欠である(乙94)。
LAGearから被告に送付されたシューズサンプルは,WSAの展示会に既に陳列された企業秘密を包含しない商品であった。
したがって,シューズサンプルの送付の事実が,LAGearが被告をサブライセンシーであると認識し,被告をサブライセンシーとして承認していたことを根拠付ける事実であるとはいえない。
ウ原告は,甲第20号証に第2契約年度のシューズに関する最低売上高とミニマムロイヤリティ額が記載されているから,ライセンス契約の協議期間中において,原告とLAGearとの間には,被告が既に日本でシューズを販17売しているという共通認識が存在していた旨主張する。
しかしながら,AがGにあてた電子メール(乙50の1・2)には,「先ずは契約書に署名して,サンプル送付はその後だと言うことです。
(サンプルは人質状態になっています!)サンプルは日本において,内部の販売会議ならびに検討会のため,早急に必要なのです。」と記載されている。仮に,LAGearと原告との間に,被告が既に日本でシューズを販売しているという共通認識があったのであれば,「サブライセンシーであり,既に生産販売を開始しているロイヤルが今後の企画,生産,販売活動計画を立案するために必要である」と端的に記載すればよいのに,実際にはそうなっていない。
エ乙第48号証の1の電子メール(2003年12月3日付け)には,「サブライセンシーの名前を開示はせずに,既にサブライセンス契約を締結した商品カテゴリーリストをLAGearに提出しましょう」と記載されている。このことから,2003年(平成15年)12月3日の時点においても,原告がLAGearに対し,被告を含めサブライセンシーの名前すら報告していなかったことが分かる。
オ2006年6月9日付け原告とLAGearとの間のライセンス契約(乙83の1・2)においては,契約期間が2006年(平成18年)1月1日から開始するものと規定されており,2005年(平成17年)12月31日以前については,上記ライセンス契約外とされている。
カ2006年6月9日付け原告とLAGearとの間の和解契約(乙82の1・2)においては,「2002年(平成14年)7月1日から2005年(平成17年)12月31日までの間に,原告がシューズについて正式に権限を与えた者は被告のみである」ことを表明,保証しているだけであり,ライセンス契約(乙83の1・2)で定めた契約期間の開始日より前に,原告が被告に対してサブライセンスをしていたことを承認したり,保証し18たりする内容とはなっていない。
原告はLAGearに対し,ロイヤリティ相当額を超える和解金を支払っている。原告の和解金の支払は,サブライセンス権限があったことを前提として未払いロイヤリティを支払うためにされたものではなく,サブライセンス権限がなかったことを前提としてロイヤリティ相当損害金を支払うためにされたものである(乙85の1・2)。
なお,2006年6月9日付けライセンス契約及び和解契約により,LAGearとの間では,シューズに関するサブライセンス権限を有していなかったことを受容した原告が,本件訴訟において,被告に対し,同サブライセンス権限を有していたことを主張することは禁反言の原則,信義誠実の原則により許されない。
キ原告は,米国においてLAGear等を提訴した際の訴状(乙78の1・2)において,「2004年(平成16年)5月17日ころ,IPGIはLAGearより,やっとのことロングバージョンの改訂契約書面案(無修正)を受け取りました。この改訂契約書面案はACIとLAGearの社内弁護士であるH女史と社外の法律事務所(Green Trauring)が準備したもので,カジュアルシューズとスポーツシューズを含めたIPGIのライセンス権限拡大に関してIPGIとLAGearの両者が合意する旨の記載がありました。これにより,LAGearは,IPGIが日本企業のロイヤル社に対して,2004年(平成16年)秋冬シーズン用のLAGearシューズの販売を行うための商品開発を可能にするため,サブライセンスを与えるであろうことは,充分に認識していたはずです。」と主張している。同主張は,LAGearが2003年(平成15年)9月12日に原告(IPGI)が被告(ロイヤル)に対してライセンス権限を与えたという事実をLAGearが既に知っていたことを前提としないものである。上記訴訟における主張に照らせば,原告はLAGearに対し,2004年(平成16年)5月17日の時点においても,2003年(平成1519年)9月12日に既に被告に対してサブライセンスをしていたとの事実を報告していなかったことになる。
ク原告は,米国での訴訟においては,2003年(平成15年)7月ころの口頭合意によるシューズに関するライセンスの付与の主張は一切していなかった。
ケLAGearが,原告のサブライセンシーがシューズの製造販売を行っていたことを認識したのは,2004年(平成16年)12月8日に,原告側から,2003年(平成15年)1月から9月までの期間のロイヤリティレポート(乙90の1・2)を受領したときである。この時点においても,原告は,LAGearに対し,シューズのサブライセンシーが被告であることを告知していなかった。そのため,LAGearは,シューズのサブライセンシーを確認するために,2004年(平成16年)12月15日には,弁護士に対して,シューズのサブライセンシーが被告であるか否かの調査を依頼している(乙92の1・2)。LAGearは,上記調査の結果(乙93の1・2)を受領して初めて,被告によるLAGearシューズの製造販売の事実を知った。
そこで,LAGearは,被告に対し,2005年2月1日付けで警告書(乙2)を送付したのである。
コ原告は,2003年(平成15年)7月ころにLAGearからシューズに関するライセンス(サブライセンス権限)を取得した旨主張し,Aの陳述書(甲19)には,「2003年(平成15年)6月ころに,G氏から,IPGIにシューズのライセンスを与えること及びロイヤルをサブライセンシーとすることについて承認を得た」旨の記述がある。
しかしながら,乙第100号証の1の電子メールによれば,2003年(平成15年)8月24日当時,原告はLAGearとライセンス契約の締結に向けた交渉を開始したばかりであったことが分かる。
20サ乙第99号証の1及び乙第101号証の1によれば,2003年(平成15年)11月6日の時点においても,原告とLAGearとは,シューズのライセンス契約の前提となる年間ミニマムロイヤリティ額に関して交渉中であったこと,当時,原告とLAGearとの間では,2004年(平成16年)度のシューズの年間ミニマムロイヤリティ額2万5000米ドルは,契約締結のための契約金の金額と見なされていたのであり,最低ネット販売高とは関連して認識されていなかったことが分かる。
シ2004年(平成16年)2月18日,LAGearのインターナショナル・ライセンス・コーディネーターという役職を務める「I」は,「J」からLAGearに送信された「日本におけるLAGearのシューズの販売者は誰か。」という質問の電子メールを,そのままAに転送した(甲78)ものの,これは,Iが,当時,原告をシューズのライセンシー候補であると認識していたからにすぎない(乙104の1・2)。
〔原告の主張〕(1)原告は,本件基本契約の締結時点において,原告とLAGearとの間の合意により,LAGearの正当なサブライセンサーとして,サブライセンス権限を有していた。このことは,以下の諸事情から明らかである。
ア原告とLAGear,原告と被告との契約締結の経緯(ア)原告は,2001年(平成13年)8月15日,LAGearから,伊藤忠商事株式会社(以下「伊藤忠」という。)との間のライセンス契約の終了後に(なお,同ライセンス契約の有効期間は,2001年(平成13年)12月31日までである。),原告がライセンス契約を締結するつもりはないか打診を受けた。
なお,LAGearと伊藤忠との間のライセンス契約において,ウェアに関するサブライセンシーのうちの一社は,マルマツ株式会社(以下「マルマツ」という。)であり,シューズに関するサブライセンシーは株式会21社コマリョー(以下「コマリョー」という。)であった。
(イ)原告は,2001年(平成13年)11月ころ,マルマツから,2002年(平成14年)以降も,LAGearブランドのウェアの販売を行いたいので,原告がLAGearのマスターライセンシーとなってもらえないかとの要請を受けた。
(ウ)そこで,原告は,2002年(平成14年)以降,LAGearとの間で,ライセンス契約の締結交渉を開始した。なお,原告は,Aに,LAGearとの間のライセンス契約の締結に向けた交渉を依頼した。
その後,原告とLAGearとは,2002年(平成14年)7月1日,「Memorandum of Understanding」(MOU)を締結した。
原告は,シューズに関しては有力なサブライセンシーが見付かっていなかったこと,日本におけるLAGearのシューズに関するブランド力はまだ強くなかったこと,シューズのライセンスに対応するロイヤリティ額が,その売上げに比して高額となることが予想されたことなどから,MOUを締結した時点においては,LAGearからシューズに関するライセンスを取得しなかった。
(エ)その後,2003年(平成15年)3月か4月ころ,原告の代表者であるFは,被告の従業員であるEから,LAGearのシューズのライセンスに関して問合せを受けた。
Eは「LAGearのシューズは空いていますか」と尋ねてきたため,Fは,「現段階で,IPGI(原告)は持っていない。ただ,IPGI(原告)がシューズのライセンス取得の交渉をやったら早いと思います。」と回答するとともに,「ロイヤル(被告)は興味があるのですか」と尋ねた。これに対し,Eは,「条件次第ではあるが,興味がある」と回答した。
(オ)そこで,原告は,LAGearとの間で,シューズのライセンスに関する交渉を開始することとし,Aに対して,LAGearとの交渉を開始するよう依22頼した。
Aは,LAGearとの間で,シューズのライセンスに関する交渉をし,原告は,2003年(平成15年)7月ころ(本件基本契約の締結より前に),LAGearからシューズに関するライセンスを付与された。
なお,原告とLAGearとは,被告をサブライセンシーとすることについても合意した。
(カ)原告は,LAGearとの間で合意した契約条件を基に,サブライセンスに係る契約条件を決め,被告に提示した。
すなわち,Fは,2003年(平成15年)7月22日には,被告を訪問して,サブライセンス契約の締結に向けた基本条件案を提示し,同月25日には,一部を修正した条件案(甲11)を提示し,同月28日には,再度被告を訪問して,契約条件についての話合いを行った。
また,原告は,被告から,サブライセンシーとしてLAGearにあいさつをするため,2003年(平成15年)8月に開催されるWSAの展示会でLAGearのブースに案内するようにとの依頼を受け,実際に案内もした。
(キ)原告と被告とは,2003年8月14日付け仮契約書(甲12,乙19)を締結し,同年9月12日には,本件基本契約(甲1,乙1)を締結した。
イ原告とLAGearとの間に紛争が生じた経緯(ア)原告は,LAGearからシューズに関するライセンスを付与された後の2003年(平成15年)8月ころから,LAGearとの間で合意を書面化するため,MOUの記載を修正するように提案した。しかしながら,LAGearは,MOUの修正ではなく,十数ページから成る契約書の形式をとることを希望したため,契約書を作成することにした。
原告とLAGearとは,契約書の詳細な記載事項の交渉を行い,2004年(平成16年)9月ころには,契約書の記載の細部についてもほぼ合23意に達した。
(イ)契約書の内容についてほぼ合意に達したため,原告の側で,弁護士に契約書面の検討を依頼したところ,弁護士が契約書案についてささいなリスクの可能性についてまで細部にわたりコメントを付し,AがこれをそのままLAGearに送付してしまったため,LAGearは,原告が契約書に署名する意思を有しないものとして憤慨し,2004年(平成16年)12月4日,原告に対して,一方的に原告とのライセンス契約書に署名はしない旨通告してきた。
(ウ)LAGearは,2005年(平成17年)2月には,被告を含めた日本におけるサブライセンシーに対し,LAGear商標の商標権侵害警告すること等を内容とする書面(乙2)を送付した。
そこで,原告は,2005年(平成17年)2月,米国において,LAGearとその親会社であるACIに対し,「契約違反」,「善意かつ公正取引の違反」,「差止命令による救済」,「故意による契約妨害」,「故意による経済利得妨害」等の請求原因により訴えを提起した。
これに対し,LAGearは,原告及びAに対し,「商標権侵害」,「詐欺・秘匿」,「不実表示」等を請求原因として反訴を提起した。
(エ)以上のとおり,原告とLAGearとの間の紛争は,米国において訴訟に発展したものの,原告とLAGearとの間で,2006年6月9日付け和解契約(乙82の1・2),同日付けライセンス契約(乙83の1・2)を締結するに至り,両者間の訴訟は終了した。
ウ原告が本件基本契約の締結時点においてサブライセンス権限を有していたことを基礎付ける事情(ア)MOUには,具体的にいつから製品の製造販売を開始してよいか等の定めは一切されておらず,原告とLAGearとの間においては,具体的にいつから製造販売を開始するかは原告に委ねられていると理解されていた24(なお,被告はMOUにはサブライセンス権限を付与する旨の記載がないと主張するものの,原告とLAGearとの間のライセンス契約は,伊藤忠とLAGearとの間のものと同様に,当初からサブライセンスが予定されたビジネスモデルであったことはLAGearも認識していたのであり,MOU程度の分量の覚書に,「サブライセンス権をも付与する」とわざわざ明記されていなくても,これを付与していることは当然であって,何ら不自然なことではない。)。
原告は上記理解の下に,随時,製品の製造販売をサブライセンシーを通じて開始していった(甲20の「表1(d)」は,2002年(平成14年),2003年(平成15年)に実際の売上げがあることを予定している。)。
原告は,このように随時開始された販売状況を示すロイヤリティレポートを,LAGearに対して提出した(甲37)。LAGearは,これにより,各サブライセンシーが製品を製造販売していること(シューズが商品カテゴリーとして挙がっていること)を認識していたにもかかわらず,原告に対し,何ら異議を述べることはなかった。
(イ)LAGearは,被告が原告からサブライセンスを受けて,日本におけるシューズのサブライセンシーとしてLAGearのシューズを販売することを認識しつつ,被告に対して,シューズサンプルを送付した(甲21ないし27)。
なお,被告は,乙第47号証の1の電子メールの内容を問題とする。
Aは,「We will not proceed to actual business till we finalizethe contract」(和訳:契約書が最終的なものになるまでは,私たちはビジネスの実質的部分には進みません)と述べているものの,これは,Aが当時,日本でシューズの販売がまだ開始されていないと認識していたことによる(当該電子メールは原告のチェックなく送信されたもので25ある。)。Aは,早く契約書の話を終わらせようという意図で,「早くactual business の段階に移行することができるように,契約書を完了させましょう」という程度のニュアンスでこれを記載したものにすぎない(これは,Aが甲37の電子メールで,「trial year」という言葉を使用しており,当事者間においては,長いバージョンのライセンス契約書が署名されるまでの期間においても,日本での製品の販売自体は行うものの,この販売は今後の販売予測などに役立てるためのトライアルという感じであり,長いバージョンのライセンス契約書の署名をもって,本格的なビジネスに移行する,という意識であったことからも分かる。
甲26参照)。
そもそも,ライセンサーが,正式なライセンシーないしサブライセンシー以外の者に対して,次期シーズンのサンプルを送付するということはあり得ない。
また,一般に,ブランドホルダーが,ある企業が開催する展示会(受注会)用にサンプルを送付するということは,当該企業による販売活動を当然の前提としているといえる。本件において,LAGearは,シューズサンプルを,被告において展示会に展示することを認識しつつ(甲23参照),被告に直送していた。
以上のとおり,LAGearは,ライセンサーとしてライセンシー(原告),サブライセンシー(被告)の活動に助力,協力している。
(ウ)原告とLAGearとの間のライセンス契約書案(署名前のもの。甲20,甲44,乙57の1・2)においては,2002年(平成14年)7月1日から2003年(平成15年)12月31日までの第1契約年度(甲20の「表1(C)」参照)におけるミニマムロイヤリティは,「実際の売上高に基づくロイヤリティ」とされていた(同「表1(d)」参照)。
262004年(平成16年)の段階で,上記ライセンス契約書は作成協議中であったものの,その契約書案が2002年(平成14年)・2003年(平成15年)に「実際の売上げ」があることを予定していることから,LAGearと原告との間の了解事項として,各製品の販売は同ライセンス契約書の署名を待たずに開始されることになっていたことが分かる(「表1(g)」の第2契約年度のシューズ6486万円という金額は,1か月程度で達成するには多額すぎる金額であり,かかる金額を最低限の売上げの数字として掲げていることからも,同契約書に署名する前にシューズの販売が開始されることが予定されていたことを看取し得る。)。
(エ)LAGear内の従業員同士の電子メール(甲26)においても,被告は「licensee」と呼称されており,このことからも,LAGearが被告をライセンシーとして扱っていたことが分かる。
(オ)2004年(平成16年)2月18日,LAGearのインターナショナル・ライセンス・コーディネーターという役職を務める「I」は,「J」からLAGearに送信された「日本におけるLAGearのシューズの販売者は誰か。」という質問の電子メールを,そのままAに転送した(甲78)。
このことから,少なくとも,当時,LAGearが原告をシューズに関しても正式なライセンシーであると認識していたことが分かる。
(カ)甲第81号証の電子メールは,2003年(平成15年)9月16日に,Aが「total numbers」についての最終確認を求めたのに対し,LAGearのKがそれ以前のAとの口頭による合意を正式なものとして改めて電子メールによって確認したことを示すものである。ここにいう「total numbers」とは,シューズ以外の製品及びシューズを含めたすべての製品についてのミニマムの売上げのことである。これより前の話合いにより,シューズのミニマムロイヤリティについては合意が成立しており,27上記の段階では,ロングバージョンの契約書に定める「total numbers」についての最終確認の段階にあったことが分かる。
上記のやり取りは,2003年(平成15年)9月12日の段階では,既に,シューズについてもミニマムロイヤリティの合意がされており,LAGearがシューズに関しても原告に日本におけるライセンスを付与していたことを推認させるものである。
(キ)このようなLAGearの対応に鑑みれば,ライセンス契約書こそ作成に至らなかったものの,本件基本契約の締結時において,LAGearが原告に対して既にシューズのライセンスを付与していたことは明らかである。
そして,その後,原告とLAGearとの間の関係が壊れ,LAGearが原告に「ライセンスはない」として態度を翻したからといって,いったん与えられていたライセンスが遡って無くなるわけではない。LAGearは,各製品が日本で販売されること自体は許容しつつ,そこで得られた実際の販売データを基に,交渉中であった長いバージョンのライセンス契約書の各条項,条件に修正を加えることを視野に入れていた。LAGearは,原告によるサブライセンシーへのサブライセンスを認めていたものの,正式な長いバージョンの契約書への署名の直前で,多数の修正を申し入れた原告側の弁護士の態度に憤り,契約書への署名が済んでいないことを盾にとり,書面が不備であることのみならず,当事者間の権利関係としてもライセンスはなかったと主張し始めたにすぎない。
(2)以上のとおり,原告は,本件基本契約の締結時点において,原告とLAGearとの間の合意により,LAGearの正当なサブライセンサーとして,サブライセンス権限を有していたのであり,原告は,この点について,被告を欺罔してなどいない。
また,原告が,サブライセンス権限を有すると信じたことに何ら不自然な点はなく,原告には,被告に対する詐欺の故意(サブライセンス権限の欠如28を知りつつ,被告に対して,これがあるかのように装う意思)などなかったことも明らかである。
(3)なお,原告は,被告に対し,2002年(平成14年)7月1日の「Memorandum of Understanding」(MOU)の締結時においてはシューズに関するライセンスを有していないことを伝えており,被告も,このことは認識していた。
本件基本契約に係る契約書(甲1,乙1)の第1条に,厳密に見れば事実とは異なる「2002年7月1日付け『Memorandum of Understanding』にて日本国内での各種商品の製造販売に関し,第2条記載の本商品を使用する権利の許諾をLAより受けた」という記載がされたのは,単に,原告において,既に締結済みの被告とのサブライセンス契約書(甲13)の書式や通常使用している書式(甲16)を使用して,本件基本契約に係る契約書(甲1,乙1)を作成したからにすぎない。
2争点2(被告による取り消し得べき行為の追認又は法定追認の有無)について〔原告の主張〕(1)被告の追認の意思表示(民法122条)被告は,LAGearからの2005年2月1日付け書簡を受領した後,LAGear製品が名古屋税関に差し止められそうになったという2006年(平成18年)6月以降においても,さらには,2006年(平成18年)6月30日に原告とLAGearとの間の2006年6月9日付けライセンス契約書(乙83の1)の関係条項を確認した後においても(甲5),本件基本契約を締結する旨の意思表示を取り消すことはなく,むしろ,契約を存続させることを前提に,LAGear製品を製造販売し続けた。
被告が2006年(平成18年)6月30日以降にLAGear製品を製造販売し続けた行為,あるいは,原告に対して「ROYALTY REPORT」を提出した行為(甲6,7)は,被告による追認に当たる(民法122条)。
29したがって,仮に,被告の本件基本契約を締結する旨の意思表示が取り消すことのできる行為であったとしても,被告の追認により確定的に有効となり,もはや取り消すことはできない。
(2)法定追認(民法125条1号)被告が原告に対して「ROYALTY REPORT」を提出した行為(甲6,7)は,自己の債務の履行に当たる(本件基本契約に係る契約書(甲1,乙1)第8条1項)。
したがって,仮に,被告の本件基本契約を締結する旨の意思表示が取り消すことのできる行為であったとしても,上記事実により追認をしたものとみなされ(民法125条1号),もはや取り消すことはできない。
〔被告の主張〕(1)原告の主張は否認ないし争う。
(2)原告が被告による追認行為又は追認とみなされる行為に該当すると主張する行為は,いずれも,被告において,本件基本契約が詐欺により取り消し得べき契約であることを知るに至った時期(平成19年7月3日付け準備書面の提出時)より前の行為であるから,追認又は法定追認の前提を欠き,その効果は生じない。
3争点3(本件基本契約は錯誤により無効とされるべきものか)について〔被告の主張〕(1)前記1で述べたとおり,原告は,本件基本契約の締結時点において,「シューズ全般」に関しては,LAGearの正当なサブライセンサーではなかった(サブライセンス権限を有していなかった。)。
(2)しかしながら,被告は,本件基本契約の締結時点において原告が「シューズ全般」について,LAGearの正当なサブライセンサーではないことを知らず,本件基本契約の締結当時,被告は原告が「シューズ全般」についてLAGearの正当なサブライセンサーであると誤信していた。
30(3)本件基本契約に係る契約書(甲1,乙1)の第1条には,「原告は,LAGearとの間で締結された2002年7月1日付け「Memorandum of Understanding」(MOU)にて日本国内での各種商品の製造販売に関し,第2条記載の本商品を使用する権利の許諾をLAGearより受けた。」旨明記されている。これにより,原告は,被告に対し,サブライセンス権限の存在を明示的に保証したものである。
被告は,サブライセンサーから商標権使用について再許諾を受ける場合,サブライセンス契約を締結する前提として,サブライセンサーがサブライセンス権限を有していることを要求する。なぜなら,サブライセンサーにサブライセンス権限が存在しなかった場合には,後日,ライセンサーから商標権侵害として法的措置を講じられ,このような事態となれば,被告は業界における信用を失墜し,損害賠償請求を受ける危険を負うことになるからである。
また,被告は,2003年(平成15年)6月下旬ころから,米国クエスト社からLAGearと被告との間でライセンス契約を締結することについて打診を受けていたのであり,原告にサブライセンス権限がないのであれば,原告と本件基本契約を締結することはなく,クエスト社を通じてLAGearからライセンスを取得することを選択することができた。
これらの事情に照らせば,原告がLAGearの正当なサブライセンサーでなければ,被告が原告との間で本件基本契約を締結することはなかったのであり,原告が,本件基本契約の締結時点において,「シューズ全般」についてサブライセンス権限を有することが,本件基本契約の締結の意思表示の要素となっていたことが明らかである。
(4)以上のとおり,被告が本件基本契約を締結する旨の意思表示をするにつき,その法律行為の要素に錯誤があったから,上記意思表示は無効である(民法95条)。
31〔原告の主張〕(1)原告は,本件基本契約の締結時点において,原告とLAGearとの間の合意により,LAGearの正当なサブライセンサーとして,サブライセンス権限を有していた。
したがって,この点について,被告に錯誤はない。
(2)そもそも,サブライセンサーにサブライセンス権限がない場合,サブライセンサーとサブライセンシーとの間のサブライセンス契約は,サブライセンス権限がサブライセンサーに属するか否かの点についての錯誤の有無を問わず,契約は有効に成立したものとし,その上で,サブライセンサーの担保責任の問題(民法559条560条以下)として処理されるべきである。
したがって,原告のサブライセンス権限の存在の有無を問うまでもなく,本件基本契約は有効に成立しているというべきであって,被告の本件基本契約締結の意思表示が錯誤により無効である旨の主張は,主張自体失当である。
4争点4(本件基本契約は契約条件の欠落を理由として無効とされるべきものか)について〔被告の主張〕前記3(3)記載の事情に照らせば,原告が,本件基本契約の締結時点において,「シューズ全般」についてサブライセンス権限を有することが,原被告間において本件基本契約の条件とされていたといえる。
しかしながら,本件基本契約の締結時点において,原告は「シューズ全般」に関しては,LAGearの正当なサブライセンサーではなかったから,本件基本契約は条件欠落により無効とされるべきものである。
〔原告の主張〕(1)被告の主張は否認ないし争う。
(2)原告は,本件基本契約締結以前からLAGearの正当なサブライセンサーとしてサブライセンス権限を与えられ,他方,被告はLAGearから正当なサブライ32センシーとして認められていた。
5争点5(本件基本契約の瑕疵担保を理由とする解除の可否)について〔被告の主張〕本件基本契約を締結した時点において,原告は,LAGearから,「シューズ全般」に関しては,サブライセンス権限を取得していなかった。
したがって,原告は,被告に対し,民法559条560条に基づき,LAGearから,シューズ全般についてのサブライセンス権限を取得する義務を負う。
しかしながら,原告は,現在に至るまで,LAGearからシューズ全般についてのサブライセンス権限を取得していないため,被告は,民法559条561条563条に基づき,本件基本契約を解除し,原告に対し,損害賠償を請求する。
被告は,原告に対し,平成19年9月28日の本件弁論準備手続期日において,本件基本契約を解除する旨の意思表示をした。
〔原告の主張〕(1)原告は,本件基本契約締結以前からLAGearの正当なサブライセンサーとしてサブライセンス権限を与えられ,他方,被告はLAGearから正当なサブライセンシーとして認められていた。
したがって,本件基本契約の解除(民法559条561条)の余地はない。
(2)また,2003年(平成15年)の段階におけるサブライセンス権限の有無にかかわらず,原告は,LAGearとの間で2006年(平成18年)の段階におけるライセンス契約(乙83の1・2)を締結した。
したがって,この点においても,本件基本契約の解除(民法559条561条)の余地はない。
(3)なお,被告がLAGearから商標権侵害を理由として損害賠償請求をされる可能性は,各ロイヤリティの支払期限到来時において存在せず,かつ,現在以33降も存しない。
被告はLAGearから損害賠償請求をされるおそれがないことについて,各ロイヤリティの支払期限到来前に客観的根拠に基づき認識していた(甲5,8)。ロイヤリティ支払期限到来時に,被告が本件基本契約に関する権利を失うおそれが客観的に存在せず,かつ,この事実を被告自身が認識していた以上,被告はロイヤリティの支払を拒絶すること(民法559条576条)もできない。
6争点6(原告が被告に返還すべき不当利得の有無及びその額)について〔被告の主張〕本件基本契約は,締結時点(2003年(平成15年)9月12日)に遡って無効であるから,被告が本件基本契約に基づいて原告に支払った,契約一時金52万5000円(乙16)及びロイヤリティ合計4000万5619円(第1契約年度のミニマムロイヤリティ及びパーセントロイヤリティ並びに第2契約年度のミニマムロイヤリティの合計額。乙35)は,法律上の原因なくして支払われたものであり,原告の不当利得である。
したがって,被告は,原告に対し,4053万0619円の不当利得返還請求権を有する。
〔原告の主張〕(1)被告の主張は否認ないし争う。
(2)被告の本件基本契約を締結する旨の意思表示を取り消すとの主張や同意思表示が無効である旨の主張は成り立たないから,被告は原告に対する不当利得返還請求権を有しない。
また,被告は,LAGearの商標を利用してLAGear製品の製造販売を行い,事実上使用収益をした以上,被告に損失は存在せず,不当利得返還請求権は成立しない。
(3)なお,LAGearは,原告から,既に,2002年(平成14年)7月1日か34ら2007年(平成19年)12月31日までのロイヤリティに相当する額の支払を受けており(甲45ないし47,49,50,52),被告に対して,更にロイヤリティの支払を請求する立場にない。
7争点7(原告が被告に賠償すべき損害の有無及びその額)について〔被告の主張〕(1)原告は,本件基本契約の締結の際,「シューズ全般」についてのサブライセンス権限を有していなかったにもかかわらず,被告に対し,敢えて,「シューズ全般」についてのサブライセンス権限を有しているかのように装い,被告をその旨誤信させて,本件基本契約を締結せしめた。
原告の上記詐欺行為は不法行為(民法709条)に該当する。
よって,原告は,被告に対し,被告の不法行為により被った損害の賠償請求権を有する。
(2)損害額逸失利益2億4002万9000円(ア)原告の詐欺行為がなければ,被告はLAGearとの間でシューズのライセンス契約を締結して同契約に基づく事業を実施し,これにより利益を得ることができたであろう蓋然性は,極めて高い。
すなわち,Cは,ACIから2003年7月3日付けの電子メール(乙29の1・2)により,被告とLAGearとのライセンス契約の条件を提示され,これを土台として,同年8月上旬のWSAの展示会において被告との交渉を開始しようとして,その旨を同年7月10日付け電子メール(乙30の1・2)により被告に通知した。しかしながら,被告が,同年7月22日付け電子メール(乙31)において,原告との契約交渉を優先させるとの理由で契約交渉を拒否する旨通知したため,C側は,予定していた契約条件の提示及びその後の交渉を断念したものである(乙32,乙61の1・2)。以上の経過に照らせば,被告は,クエスト社35ルートの申入れを受けていたのであり,原告の詐欺行為がなければ,クエスト社側との具体的な契約交渉を行い,LAGearとの契約を締結することができたものと充分に認められる。
このことは,被告とLAGearとの間で,2008年5月25日付けで,シューズに関するライセンス契約が締結されたことからも裏付けられる(乙66の1・2)。
(イ)被告は,本件基本契約を締結するに当たって,原告に対して,クエスト社ルートで,LAGearのシューズのライセンス契約についての申入れがあったことを開示していたから,原告において,被告は,本件基本契約を締結しない場合は,LAGearと直接にシューズについてのライセンス契約を締結するであろうことを予見し得た。そして,LAGearがCを通じて被告に提示した条件は,この種の取引で通常予想される程度のものであるから,原告において上記内容を予見し得たというべきである。
(ウ)被告がLAGearと直接契約した場合に被告が得ることができたであろう営業利益を抑制的に算定し,同金額と被告が本件基本契約により現実に得た営業利益額との差額である2億4002万9000円(2億9126万8000円-5123万9000円)は,被告の得べかりし利益であるといえる。
イ信用失墜による損害額被告は,LAGear製品(シューズ)の取引に積極的に取り組んでくれた販売店に対して,LAGear製品(シューズ)の取引の中止を申し入れ,その結果,販売店の事業計画を大幅に減少変更させることになったため,被告はこれら取引先からの信用を著しく失墜し,その後信用回復のための施策を講じても,充分に信用を回復することができないままである。
(ア)信用失墜により現に生じた逸失利益5387万円被告は,取引先である株式会社チヨダ,株式会社アルペン,株式会社36ワンゾーンとのLAGear製品(シューズ)の取引を中止せざるを得なかったことにより,これらの取引先からの信用を失墜し,LAGear製品(シューズ)以外のシューズ取引について,2007年(平成19年)9月期に現に合計5387万円の営業利益(株式会社チヨダについて3790万円,株式会社アルペンについて57万円,株式会社ワンゾーンについて1540万円)を失った。
仮に,上記損害が認められないとしても,民事訴訟法248条を適用して,被告の靴部門の平均年商の1パーセントに相当する額を信用失墜による損害額とみなすべきである。
(イ)信用失墜により将来に発生する逸失利益5387万円被告は,LAGear製品(シューズ)に関する事業を中断し,撤退することを余儀なくされたことにより,その信用を失墜し,取引先に経済的損失を与えるとともに,被告自身も大きな経済的損失を被った。
被告は,信用を回復するため,日々いろいろな施策を講じているものの,信用と売上げを回復するにはなお長い年月を必要とする。
特に,主要な取引先である,株式会社チヨダ,株式会社アルペン,株式会社ワンゾーンからの信用を回復し,売上げの回復を図るためには,最低でも2ないし3年間を要する。
そして,2008年(平成20年)9月期以降に発生するであろう逸失利益は,少なくとも,2007年(平成19年)9月期に発生した損害額と同額の5387万円を下回ることはないというべきである。
ウ弁護士費用4646万円原告の不法行為相当因果関係のある弁護士費用相当額は4646万円である。
〔原告の主張〕(1)被告の主張は否認ないし争う。
37(2)被告が本件基本契約を締結する旨の意思表示をするにつき,原告が被告を欺罔したことはないから,被告は原告に対する損害賠償請求権を有しない。
(3)被告が原告との間で本件基本契約を締結しなければ,LAGearとの間で本件基本契約と同等の内容の商標使用許諾(ライセンス)契約を直接締結することができた蓋然性があったとはいえない。
すなわち,被告は,B,ないし,Cを通じてであっても,LAGearないしACIから契約条件の提示を受けたこともない。条件の提示すら受けていない状態では,契約締結の蓋然性があったとはいえない。
Bは,被告からライセンス契約の条件を示すように依頼され,実際に,Cを通じてLAGearの契約条件を把握していたにもかかわらず(乙29の1・2),被告にこれを伝えることはなかった。また,Bは,Eから,原告と契約する旨電子メールを受領した際(乙31),仮に,被告が直接LAGearと有利な条件で契約を締結することができるのであれば,被告に対して原告との契約を締結しないように説得することは容易であったにもかかわらず,そのような説得をすることができなかった。Cも,被告と積極的にライセンス交渉を進めることはせず,単に,WSAの展示会場でのあいさつの場を設けるにとどまっていた(乙30の1・2)。
このように,BやCは,被告とLAGearとの直接のライセンス契約の締結に向けて積極的に動こうとはしておらず,実際にも,被告は,LAGearから契約条件の提示すら受けることができなかったのである。
したがって,LAGearと被告との間で直接ライセンス契約を締結することができた蓋然性が存在したとの被告の主張は,単なる被告の希望であるにすぎない。
(4)さらに,被告の損害額の主張は,客観性のない大ざっぱなものであって,被告がそのような損害を被ることについて全く蓋然性が認められない。
被告の社内資料は客観性が全くない。また,契約書に定められたミニマム38ロイヤリティ額も,売上げがこの額を上回らないということは多々見られることであって,損害算定の根拠とすることはできない。
被告の信用が失墜したことを示す証拠はなく,また,それに起因して被告の利益が減少したことを示す証拠もない。
第4当裁判所の判断1争点1(本件基本契約を締結する旨の被告の意思表示は詐欺により取り消されるべきものか)について(1)被告は,原告が,本件基本契約の締結時点において,「シューズ全般」に関しては,LAGearの正当なサブライセンサーではなく,サブライセンス権限を有していなかったにもかかわらず,被告に対して,原告がLAGearの正当なサブライセンサーである旨を告げて,被告を欺罔し,被告にその旨誤信させて,本件基本契約を締結する旨の意思表示をさせた旨主張する。
この点,確かに,本件基本契約に係る契約書(甲1,乙1)には,「原告は,米国カルフォルニア法人であるL.A.Gear,Inc(LAGear)との間で締結された2002年7月1日付け「Memorandum of Understanding」(MOU)にて日本国内での各種商品の製造販売に関し,第2条記載の本商品を使用する権利の許諾をLAGearより受けた。」旨の記載があるにもかかわらず(第1条),原告とLAGearとの間で締結されたMOU(乙46の1)においては,「許諾商品」が「アパレルと下記のシューズ以外のアクセサリー」と定められており,LAGearが原告に対してシューズのライセンスを付与する旨の記載はない。
これに対し,原告は,本件基本契約の締結時点において,LAGearからシューズに関するライセンスを付与され,被告に対するサブライセンス権限を有していた旨主張する。
そこで,まず,原告が本件基本契約の締結時点において,LAGearからシューズに関するライセンスを付与され,被告に対するサブライセンス権限を有していたか否かについて検討する。
39(2)前提となる事実等に証拠(甲1,4,8ないし27,37,43ないし52,58,60,61,67,68,甲73の1・2,甲75の1・2,甲78ないし81,83,84,86,87ないし89,乙1,2,14,17,19,21,22,32,乙46の1・2,乙47の1・2,乙53の1・2,乙54の1・2,乙66の1・2,乙69,乙70の1・2,乙72の1・2,乙74の1・2,乙78の1・2,乙80の1・2,乙82の1・2,乙83の1・2,乙85の1・2,乙86の1・2,乙87の1・2,乙88の1・2,乙89の1・2,乙91の1・2,乙100の1・2,乙101の1・2,原告本人,証人E,証人B)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められ,これを覆すに足る証拠はない。
ア原告は,2001年(平成13年)8月ころ,LAGearから,伊藤忠との間のライセンス契約が終了した後に,LAGearとの間でライセンス契約を締結するつもりはないかとの打診を受けた。
その後,伊藤忠が,LAGearとの間のライセンス契約を更新しない旨を表明し,LAGearと伊藤忠との間のライセンス契約は2001年(平成13年)12月31日をもって終了した。
原告は,伊藤忠がライセンス契約を更新しない旨を表明した同年11月ころ,伊藤忠のサブライセンシーであったマルマツから,2002年(平成14年)以降も,LAGearブランドのウェアの販売を行いたいので,原告がLAGearのマスターライセンシーとなってもらえないかとの要請を受けた。
そこで,原告は,2002年(平成14年)1月以降,LAGearとの間で,ライセンス契約の締結交渉を開始した。
なお,原告は,Sohatek社(原告のために,外国会社との商談を行う会社)のA(A)に,LAGearとの間のライセンス契約の締結に向けた交渉を依頼した。
イ原告(A)とLAGearとの間で交渉が行われた結果,原告とLAGearとは,402002年(平成14年)7月1日,「Memorandum of Understanding」(MOU。乙46の1)を締結した。MOUには,以下の内容の定めがある。
(ア)許諾商標L.A.Gear(文字),フラッシュデザイン(イ)許諾商品アパレルと下記のシューズ以外のアクセサリー鞄,靴下,ビーチ関連商品(ボール,ビーチマット等),時計,鍵用チェーン,携帯電話用ストラップ,シルバージュエリー,帽子,手袋,ベルト,皮革製小物(財布等),フィットネス用サポーター,弁当箱,文房具,タオル,ハンカチ契約開始後の2契約年度の間に,許諾商品の中で販売実績がない品目については,LAGear社は未使用品目として本契約より外す権利を有するものとする。
(ウ)許諾地域使用,販売許諾地域は日本国内とする。
許諾商品の生産,製造地域は日本国並びにライセンサー(LAGear)の裁量により承認された外国とする。
(エ)ライセンスと販売契約の期間第1契約年度契約締結時から2003年12月31日第2契約年度2004年1月1日から2004年12月31日第3契約年度2005年1月1日から2005年12月31日第4契約年度2006年1月1日から2006年12月31日第5契約年度2007年1月1日から2007年12月31日(オ)ロイヤリティ41?パーセントロイヤリティ純販売額の3.5パーセント?下記の四半期ごとの先払いによる最低保障ロイヤリティ保証額第1契約年度男性用,女性用,子供用,アクセサリーごとに定められた最低保障ロイヤリティの合計10万米ドル第2契約年度男性用,女性用,子供用,アクセサリーごとに定められた最低保障ロイヤリティの合計15万米ドル第3契約年度男性用,女性用,子供用,アクセサリーごとに定められた最低保障ロイヤリティの合計20万米ドル第4契約年度男性用,女性用,子供用,アクセサリーごとに定められた最低保障ロイヤリティの合計25万米ドル第5契約年度男性用,女性用,子供用,アクセサリーごとに定められた最低保障ロイヤリティの合計30万米ドル(カ)最終契約締結?その他ライセンスに関する詳細を織り込んだ正式な契約書は,ライセンサーとライセンシーとの間で交渉を行った後,2002年(平成14年)7月末までに準備するものとする。
?正式な契約書が提出されないような想定外の事態が生じた場合には,本覚書を正式な契約書に置き換えるものとする。
ウなお,原告は,当初,シューズについてもライセンスを得ることを検討していたものの(甲84),シューズに関しては有力なサブライセンシーが見付かっていなかったことやシューズのライセンスに対応するロイヤリティ額が,その売上げに比して高額となることが予想されたことなどから,原告は,MOUを締結した時点においては,LAGearからシューズに関するライセンスを取得しなかった。そのため,MOU(乙46の1)における許諾製品は,「アパレルと下記のシューズ以外のアクセサリー」となった。
エ原告は,2002年(平成14年)3月26日には,株式会社ミック42(マルマツと伊藤忠との合弁会社。以下「ミック」という。)との間で「アパレルと下記のシューズ以外のアクセサリー」に関し,LAGearブランドのサブライセンスに関する覚書を締結し,その後,2003年(平成15年)1月1日には,サブライセンス契約を締結した。
ミックは,「アパレルと下記のシューズ以外のアクセサリー」について,16社と19カテゴリーについて,サブサブライセンス契約を締結し,これらサブサブライセンシーは,(遅くとも)2003年(平成15年)1月以降,順次,LAGear製品の販売を開始した(甲37,乙72の1・2)。
オその後,LAGearはシューズについてのライセンシーを探しており,被告がシューズについて,サブライセンスを受けることに興味を示したため,原告は,LAGearとの間で,シューズのライセンスに関する交渉を開始することとし,Aに対して,LAGearとの交渉を依頼した。
カ原告の代表者であるFは,2003年(平成15年)7月22日には,被告を訪問して,サブライセンス契約の締結に向けた基本条件案を提示し,同月25日には,一部を修正した条件案(甲11)を提示し,同月28日には,再度被告を訪問して,契約条件についての話合いを行った。
その結果,原告と被告とは,2003年(平成15年)8月14日,仮契約を締結した(甲12)。仮契約書(甲12,乙19)には,以下の内容の定めがある。
なお,上記仮契約書は,原告において一般に用いていた契約書の文案を参照して,原告が起案したものである(甲15,弁論の全趣旨)。
(ア)経緯原告は,LAGearブランドのライセンス権に関してLAGearより日本国内でのサブライセンス権の許諾を受けた。
(イ)ブランドネーム,アイテムブランドネーム「LaGear」「LaGear Sport」43アイテムスポーツ衣料及びシューズ(ウ)契約年度第1契約年度契約締結日から2005年6月30日第2契約年度2005年7月1日から2006年6月30日第3契約年度2006年7月1日から2007年6月30日(エ)ロイヤリティ?パーセントロイヤリティ卸売金額の5パーセント?ミニマムロイヤリティ第1契約年度1000万円第2契約年度1500万円第3契約年度2000万円(オ)対象領域日本における独占販売権日本及びその他の国における製造権(カ)正式契約の締結原告と被告とは,サブライセンス契約に関する詳細事項について協議を行い,正式契約を本仮契約書締結後30日以内に締結する。
ただし,正式契約を30日以内に締結することができないときは,本仮契約書を正式契約とし,詳細を別途定める。
キこの間,被告の社長であるDらは,2003年(平成15年)8月1日に開催されたWSAの展示会(シューズの展示会)において,LAGearの展示ブースを訪問し,LAGear側と,「近々,原告と,シューズについてサブライセンス契約を締結する会社」であるとして挨拶を交わした(乙32)。
ク原告と被告とは,2003年(平成15年)9月12日,本件基本契約(甲1,乙1)を締結した。
なお,本件基本契約に係る契約書(甲1,乙1)は,原告において一般44に用いていた契約書の文案を利用して,原告が起案したものである(甲13,16,弁論の全趣旨)。
ケAは,LAGearから,被告がシューズのサブライセンシーとなることについて了解を得た後も,LAGearとの間で,シューズのライセンスに関する交渉を続けており,2003年(平成15年)8月24日には,LAGear側から,シューズについてのライセンスを付与する条件として,「初年度10万米ドル,2年度15万米ドル,3年度20万米ドルのミニマムロイヤリティの保証」という条件が提示された(乙100の1・2)。
原告は,LAGear側から提示された上記条件を受諾した。
原告は,LAGearに対し,シューズのライセンスについてもMOU(覚書)を作成するように提案した。しかしながら,LAGearは,2002年(平成14年)7月に「アパレルとシューズ以外のアクセサリー」についてMOUを締結した後,原告との間における正式のライセンス契約書面の内容の調整,確定が難航し,交渉が長引いていたことから,正式のライセンス契約書面の早期締結の契機とすべく,シューズのライセンスについては,MOUを作成しないで,「アパレルとシューズ以外のアクセサリー」と併せて正式のライセンス契約書面に盛り込むとの方針を採った(乙101の1・2)。
これを受け,AとLAGearとは,正式のライセンス契約書面に盛り込む,「アパレルとシューズ以外のアクセサリー」及びシューズを合わせた許諾条件の「数字」(ミニマムセールス量)を合意,確定させた(甲81,88)。
なお,甲第81号証によれば,原告とLAGearとの間で,2003年(平成15年)9月16日以前に,上記許諾条件が合意,確定されていたことが認められる。
コ原被告間で本件基本契約が締結された後における,LAGearや原告(A)45の言動等として,以下のものが認められる。
(ア)LAGearのインターナショナル・ライセンス・コーディネーターという役職を務めていたI(以下「I」という。)は,2003年(平成15年)10月28日,日本のライセンシーが誰であるかとの問合せに対し,原告が日本におけるライセンシーであると回答した(甲79)。
(イ)Iは,LAGearブランドのシューズを仕入れることを希望している日本の小売店から,電子メールで,日本におけるLAGearブランドの販売者の名前や連絡先の問合せを受けたのに応じて,2004年(平成16年)2月19日,上記電子メールをAに転送する措置を取った。
Aは,同日,Iに対し,上記電子メールを原告と被告に転送したことを報告した(甲78)。
(ウ)原告(A)は,2004年(平成16年)3月25日,LAGear(I)に対し,2003年(平成15年)度の販売についてのロイヤリティレポートを提出した(甲37,乙72の1・2)。
上記ロイヤリティレポートのシートには,20の商品分類が記載されており,その中には,「シューズ及びフィットネスウェア」との分類も記載されている。
また,「シューズ及びフィットネスウェア」については,2003年(平成15年)度の販売額は計上されていないものの,他の分類のうち14分類については,2003年(平成15年)1月以降順次販売額が計上されている。
(エ)LAGearから被告に対してのシューズサンプルの送付や送付に向けた交渉内容等a2004年(平成16年)2月19日,AがIに対して,被告が必要としているため,ポスターや写真等の広告情報の提供,ポスターでモデルの履いているシューズ等のサンプルの送付を要求する内容の電46子メールを送信した。これに対し,Iは,同月20日,広告情報の提供を行うとともに,シューズサンプルを送付する旨の回答をした(甲21)。
b2004年(平成16年)5月5日,Aは,LAGearの代表者であるGに対し,日本用のシューズサンプルに関する情報を入手するために,ACIの誰と連絡を取ればよいのかを尋ねる電子メールを送信した。これに対し,Gは,同月6日,Aに対し,LAGear側の担当者の氏名を回答した(甲22)。
c2004年(平成16年)5月18日,Aは,Gに対し,製品戦略を練るため,日本において早急に16足のシューズサンプルを必要としていること,契約書面を締結するまでは,「actual business」(この文言の意義は判然としないものの,本件においては,「真のビジネス」,「実際のビジネス」程度の意味と解される。)に進めないものの,販売や市場戦略の立案を遅らせるのは良くない,シューズサンプルの送付の遅延は,プロジェクトに打撃を与えることになる旨の電子メールを送信した(乙47の1・2)。
d2004年(平成16年)8月9日,シーマセールス(被告のUSAオフィス)のLは,Mに対し,被告が必要とするシューズサンプルのリスト表を送信するとともに,被告の東京での展示会が同月19日から開催されるため,同月17日までには被告の東京事務所にサンプルが届くように手配するように要求する旨の電子メールを送信した。
これに対し,Mは,同月11日,上記電子メールをLAGearのサンプル部門に転送し,早急に,シューズサンプルを被告に送付するように指示した旨を回答した(甲23)。
eまた,2004年(平成16年)8月11日,sohatekのNは,Iに対し,被告が日本における展示会に出展するために,LAGearからの47シューズサンプルの到着を待っていることを知らされたこと,LAGear側の誰が上記サンプルの送付を担当しているのかを問い合わせる内容の電子メールを送信した。
これに対し,Iは,同月12日,LAGear側の担当者に対し,既に,シューズサンプルの送付の要求に応じるように依頼したこと,被告が展示会前にシューズサンプルを受領することが重要であることを認識していること,在庫の範囲において,シューズサンプルの送付に最善を尽くすこと等を回答した(甲24)。
そして,LAGear側は,同月17日ころ,被告に対し,シューズサンプル6足を送付した(甲25)。
f2004年(平成16年)10月20日,Iは,LAGearの担当者に対し,ライセンシーへのシューズサンプルの送付の進捗状況を確認するとともに,同月21日には,シューズサンプルの送付先として被告の東京事務所を指示した(甲26)。
また,同月22日,Nから,被告に送付したシューズサンプルのリストの問合せを受けたのに対し,Iは,同日,Nに対し,上記リストを送付するとともに,送付したサンプルは最も人気のあるスタイルであり,被告はおそらく生産に入るのではないかとの感想を伝えた。
さらに,同月28日,Nは,Iに対し,被告が,送付してもらったシューズサンプルをとても気に入ったことを伝えるとともに,これらのスタイルをまだ注文することができるか否かを問い合わせた。これに対し,Iは,同年11月8日,原告から工場に直接注文をするように指示するとともに,スタイルごとの工場のリストを送信した(甲9,27)。
(オ)2004年(平成16年)11月8日に,正式のライセンス契約書面の細かな条項の詰めを行っていた際,LAGear側の担当者であるHからA48に対して送信された電子メール中において,LAGearにおいて,「ライセンシーはMOUの下で既に暫定的な期間として始動している」と認識している旨が記載されている(甲83)。
サ2004年(平成16年)11月初旬ころには,原告(A)とLAGearとの間で,正式のライセンス契約書面の細部にわたる条項までほぼ合意に達し,同月11日には,HからAに対し,契約書案が送信された(甲20,44)。
上記契約書案(甲20,44)には,以下の内容が規定されていた。
(ア)契約年度第1契約年度2002年7月1日から2003年12月31日第2契約年度2004年1月1日から2004年12月31日第3契約年度2005年1月1日から2005年12月31日第4契約年度2006年1月1日から2006年12月31日第5契約年度2007年1月1日から2007年12月31日(イ)カテゴリー別の保証ミニマムロイヤリティ第1契約年度実際の売上高に基づくロイヤリティ第2契約年度男性用衣料品,女性用衣料品,子供用衣料品,アクセサリー,靴のカテゴリーが定められており,靴の保証ミニマムロイヤリティ額は2万5000米ドルとなっている。
第3契約年度男性用衣料品,女性用衣料品,子供用衣料品,アクセサリー,靴のカテゴリーが定められており,靴の保証ミニマムロイヤリティ額は10万米ドルとなっている。
第4契約年度男性用衣料品,女性用衣料品,子供用衣料品,アクセサリー,靴のカテゴリーが定められており,靴の49保証ミニマムロイヤリティ額は15万米ドルとなっている。
第5契約年度男性用衣料品,女性用衣料品,子供用衣料品,アクセサリー,靴のカテゴリーが定められており,靴の保証ミニマムロイヤリティ額は20万米ドルとなっている。
(ウ)最低ネット売上高第1契約年度要求される最低ネット売上高はない。
第2契約年度男性用衣料品,女性用衣料品,子供用衣料品,アクセサリー,靴のカテゴリーが定められており,靴の最低ネット売上高は6486万円となっている。
シ原告は,契約書の内容についてほぼ合意に達したため,米国の弁護士に契約書面案の検討を依頼したところ,原告の期待に反し,同弁護士が契約書面案について些細なリスクの可能性についてまで細部にわたりコメントを付し,AがこれをそのままLAGearに送付してしまった(甲14,86,87)。
LAGearは,それまで長期間にわたって交渉を続けた結果である契約書面案に対し,原告側が更に契約条件の譲歩を要求してきたものと考え,原告との交渉を続ける意思をなくし,2004年11月30日付けの書面をもって,「本状をIPGI(原告)が受領した日をもって,IPGIはLAGear商標の使用(いかなる方法であれ)を中止し,IPGIは2007年7月(判決注・2002年7月の誤記と認める。)から現時点にいたる間に得たロイヤリティー全額を直ちにLAGearに支払わなければならない。」旨の通告をし,同書面は,同年12月4日,原告に到達した(乙74の1・2,乙91の1・2,弁論の全趣旨)。
スその後,LAGearは,2005年(平成17年)2月には,被告を含めた50日本におけるサブライセンシーに対し,LAGear商標の商標権侵害警告すること等を内容とする書面(乙2)を送付した。
原告は,同年2月22日,米国において,LAGearとその親会社であるACIに対し,「契約違反」,「善意かつ公正取引の違反」,「差止命令による救済」,「故意による契約妨害」,「故意による経済利得妨害」等の請求原因により訴えを提起した(乙86の1・2)。
これに対し,LAGearは,原告及びAに対し,「商標権侵害」,「詐欺・秘匿」,「不実表示」等を請求原因として反訴を提起した(乙87の1・2)。
上記米国における訴訟の中で,LAGearが,排除制裁(LAGearを提訴した裁判及びLAGearによる反訴の裁判において,原告に対して一切の証拠の提出を認めないという制裁)を申し立てた(乙88の1・2)。
これを受け,米国の裁判所は,2006年(平成18年)5月24日,原告が裁判所の証拠開示命令に故意に違反したことなどを認定し,LAGearの排除制裁の申立てを認めた上で,原告の訴えについてはこれを却下し,LAGearの訴えについては,原告によって自発的に承認されたものと見なされ,原告はこれに防御することを認められないとして,損害賠償金の立証に移行する旨の判断をした(乙89の1・2)。
原告は,上訴を提起するとともに,LAGearに対し,和解の申入れをし(乙85の1・2),原告とLAGearとの間で,2006年6月9日付け和解契約(乙82の1等),同日付けライセンス契約(乙83の1等)を締結するに至り,両者間の訴訟は終了した。
セ和解契約書(乙82の1等)には,以下の内容の定めがある。
(ア)前文両当事者は,訴訟を継続する場合に,証拠開示,その他の訴訟手続,審理の長期化,上訴等に要する時間,費用,経費の不利益を認識してお51り,本事件が和解により解決がされない場合には,両当事者は,今後において,追加的に相当額の訴訟費用並びに経費を負担することになるとの結論に至った。
そこで,両当事者は,法的責任の認否,訴訟上の請求と抗弁の相互の利益と不利益を認めることなく,また本訴訟の継続に伴い発生する追加的な費用,経費,混乱,不透明性を避けることを一部の目的として,和解契約を締結する。
(イ)和解条件?「認可サブライセンシー」とは,表1(b)に定められた者を意味し,かかる表において,名前の向かい側に記載された認可商品に関しての認可サブライセンシーを意味する。
(表1(b)抜粋)認可サブライセンシーLAGearブランド商品株式会社ロイヤルスポーツウェア及びシューズ全般?「(本和解)以前の認可サブライセンシー」とは,表1(g)に定められた者を意味し,かかる表において,名前の向かい側に記載された認可商品に関しての(本和解)以前の認可サブライセンシーを意味する。
(表1(g)抜粋)(本和解)以前の認可サブライセンシー LAGearブランド商品株式会社ロイヤルスポーツウェア及びシューズ全般52?原告は,LAGearに対し,45万米ドルを電子送金により支払い,2006年(平成18年)6月30日までに,LAGear又は代理人に対して,2条(b)及び(c)に規定された信用状の原本又は当該信用状が発行された旨LAGearが納得する他の証拠を交付しなければならない。
?2006年(平成18年)8月1日までに,原告はLAGearに対して,10万米ドルを電子送金により支払わなければならない。
?2007年(平成19年)1月15日までに,原告はLAGearに対し,25万米ドルを電子送金により支払わなければならない。
?本和解契約書を当事者相互に送達すると同時に,原告とLAGearとは,本和解契約の締結に不可分であるライセンス契約書に各当事者の代表者が調印し,互いに他方の当事者に送達しなければならない。
?原告は,(本和解)以前の認可サブライセンシーは,2002年(平成14年)7月1日から2005年(平成17年)12月31日までの期間に,原告からLAGearのライセンスマークを使用することにつき認可された者,すなわち,表1(g)の各認可サブライセンシーの名前の向かい側に記載されたLAGearブランド製品に関してのみ,認可された者であるが,2005年(平成17年)12月31日以降は,2006年(平成18年)6月30日までの在庫処分のために認可された売却期間を除き,LAGearブランド商品は,いずれの(本和解)以前の認可サブライセンシーによっても販売されていないこと,を表明し,保証する。
?原告は,認可サブライセンシーは,2006年(平成18年)1月1日から2007年(平成19年)12月31日までの期間にLAGearのライセンスマークをしようすることにつき,原告から許可された,あるいは,今後許可される者のみとし,表1(b)の各サブライセンシーの名前の向かい側に記載されたLAGearブランド商品に関してのみ認53可されたものであって,かかる権利はライセンス契約の条項に従ってのみ与えられている。
ライセンス契約書(乙83の1等)には,以下の内容の定めがある。
(ア)前文LAGearと原告とは,当事者間の2006年6月9日付け和解契約に従って,本契約を締結する。
(イ)契約条件?「認可サブライセンシー」とは,表1(b)に定められた者を意味し,かかる表において,各認可サブライセンシーの名前の向かい側に記載された認可商品に関してのみとする。
(表1(b)抜粋)認可サブライセンシーLAGearブランド商品株式会社ロイヤルスポーツウェア及びシューズ全般?「ミニマムロイヤリティ」は,25万米ドルを意味するものとする。
?「製造期間」とは,本契約の締結日から開始され,2007年(平成19年)9月30日に終了するまでを意味するものとする。
?「ロイヤリティ率」とは,3.5パーセントを意味するものとする。
?「販売処分期間」とは,2007年(平成19年)10月1日から2007年(平成19年)12月31日までの期間を意味するものとする。
?「契約期間」とは,2006年(平成18年)1月1日から開始し,本契約の中途解約又は2007年(平成19年)12月31日までのうち,いずれか早い方までの期間を意味するものとする。
?原告及び各サブライセンシーが,本契約の期間中に,契約上の制約,54制限,限定,その他の規定に従うことを条件に,LAGearは原告に対してのみ,認可サブライセンシーにサブライセンスする以下の権利を許諾する。
(?)「製造期間」における表1(b)のサブライセンシーの名前の向かい側に記載されているLAGearブランド商品に関する製造,宣伝,販促,販売,流通のためのライセンスマーク使用権。
(?)「販売処分期間」における許諾地域の販売チャネル内でのLAGearブランド商品の宣伝,販促,販売,流通に限定した目的のためのライセンスマーク使用権。(以下略)?保証ミニマムロイヤリティ原告は和解契約書の2条(c)項(セ(イ)?)に基づき,LAGearに対し,2007年(平成19年)1月15日までに米ドルで保証ミニマムロイヤリティを支払うものとする。
タ原告は,LAGearに対し,2003年(平成15年)度ロイヤリティ相当額,2004年(平成16年)度ロイヤリティ相当額,2005年(平成17年)度1月ないし6月のロイヤリティ相当額のほか,上記和解契約に基づく和解金及びライセンス契約に基づくミニマムロイヤリティを支払った(甲43,45ないし52)。
チなお,被告は,2008年(平成20年)5月25日,LAGearとの間で,ライセンスマークの使用許諾契約を締結した(乙66の1・2)。
(3)上記認定事実によれば,?原告は,2002年(平成14年)7月にLAGearとの間でMOUを締結し,アパレルとシューズ以外のアクセサリーに関するライセンスを付与されていたこと,?MOUにおいては,原告とLAGearとは,ライセンスに関する詳細を織り込んだ正式な契約書を締結する予定であるものの,仮に,正式な契約書が締結されないような事態が生じた場合には,MOUが正式な契約書に置き換えられる旨規定されていたこと,?MOUには,正55式な契約書の締結に至るまでは,ライセンシー(原告)においてLAGearブランド製品を製造販売等してはならない旨の規定はなく,むしろ,原告とLAGearとの間では,正式な契約書の締結前においても,ライセンシー(原告)においてLAGearブランド製品を製造販売し得ることが前提とされていたこと,?MOUには,ライセンシー(原告)において,第三者にサブライセンスを付与し得ることについての規定はないものの,原告とLAGearとの間では,ライセンシー(原告)が第三者にサブライセンスを付与し得ることが前提とされていたこと,?実際にも,原告は正式な契約書の締結前に,第三者との間でサブライセンス契約を締結し,サブライセンシーを通じて,LAGearブランド製品の製造販売を行っており,LAGearもこれを認識していたものの,2004年11月30日付けの書面をもって,正式の契約書の締結に向けた交渉を破棄する旨の通告を行うまで,LAGearが原告に対して,異議を述べることはなかったこと,?原告は,被告がシューズについてのサブライセンスを受けることに興味を示したことから,LAGearとの間で,シューズのライセンスに関する交渉を開始することとし,Aに対して,LAGearとの交渉を依頼したこと,?Aは,LAGearに対し,原告がシューズについてのライセンスを受けることを希望していること,シューズについてのサブライセンシーの候補は被告であることを伝え,これを受けて,LAGearは,2003年(平成15年)8月24日には,シューズについてのライセンスを付与する条件(保証ミニマムロイヤリティの額)を提示したこと,?原告は,LAGearから提示された条件を受諾し(このことは,保証ミニマムロイヤリティの額が,2004年(平成16年)11月までに,原告とLAGearとの話合いによりほぼ合意に至った内容を記載した契約書案(甲20,44)において,上記LAGearの提示額どおり維持されていることからも裏付けられる。),LAGearに対して,シューズのライセンスについてもMOUを作成することを提案したこと,?これに対し,LAGearは,2002年(平成14年)7月にアパレルとシューズ以56外のアクセサリーについてMOUを締結した後,原告との間における正式の契約書の内容の調整,確定が難航し,交渉が長引いていたことから,シューズについてのライセンスの付与を正式の契約書の早期締結の契機とすべく,シューズについては,MOUの作成を行わないで,シューズ以外のものと併せて正式の契約書に盛り込むことにするよう求めたこと,?原告とLAGearとは,シューズを含めた正式の契約書を作成することとし,2003年(平成15年)9月16日より前の段階で,アパレルとシューズ以外のアクセサリー及びシューズとを合わせた許諾条件の数字(ミニマムセールス量)につき交渉し,これを合意したこと,?LAGearは,正式の契約書の締結前に,原告が被告をシューズに関するサブライセンシーとしたことや被告がLAGearブランド製品の製造販売を開始したことを認識していたにもかかわらず,2004年11月30日付けの書面をもって,正式の契約書の締結に向けた交渉を破棄する旨の通告を行うまで,原告に対して,異議を述べることはなかったほか,LAGearは,アパレルとシューズ以外のアクセサリーと,シューズとで,原告に対し,格別異なる対応や取り扱いをしていなかったこと,が認められる。
これらの事実によれば,原告は,遅くとも,本件基本契約の締結前には,LAGearから,アパレルとシューズ以外のアクセサリーに関し既に原告に付与されていたライセンス(MOU)と同程度には,シューズに関するライセンスを付与され,被告に対するサブライセンス権限を有していたものと認めるのが相当である。
(4)上に説示したところによれば,原告が,本件基本契約の締結に当たって,LAGearブランドについて,シューズに関するサブライセンス権限を有していなかったにもかかわらず,これがあるかのように装って被告を欺罔したとの事実を認めることはできない。
そして,原告がLAGearから付与されていたシューズに関するライセンスは,アパレルとシューズ以外のアクセサリーに関するライセンス(MOU)と同程57度のものであったと認められ,正式の契約書の締結を経たライセンスではなかったものの,本件基本契約に係る契約書(甲1,乙1)には,「原告は,LAGearとの間で締結された2002年7月1日付け「Memorandum of Understanding」(MOU)にて日本国内での各種商品の製造販売に関し,第2条記載の本商品を使用する権利の許諾をLAGearより受けた」旨の記載があることから,原告は本件基本契約の締結の際に,被告に対し,原告の有するライセンス権限がLAGearとの正式の契約書の締結を経たものではないことを示していたということができ,他方,被告がこの種のライセンス契約に精通していたこと(弁論の全趣旨)に照らせば,被告においても,この点を充分に認識していたものと認められる(なお,そもそも,本件において,被告は,原告がライセンス権限の発生原因がMOUではないのに,MOUであると表示したことが詐欺行為であり,この点に関する誤信が錯誤であると主張するものではない。)。
以上のとおりであるから,被告の上記主張(本件基本契約の詐欺取消の主張)は理由がない。
2争点3(本件基本契約は錯誤により無効とされるべきものか)について被告は,本件基本契約を締結する旨の意思表示は,被告において,原告が本件基本契約の締結時点において「シューズ全般」に関しては,LAGearの正当なサブライセンサーではなくサブライセンス権限を有していなかったことを知らずにされたものであり,法律行為の要素に錯誤があったから,無効である旨主張する。
しかしながら,原告は,遅くとも,本件基本契約の締結前には,LAGearから,アパレルとシューズ以外のアクセサリーに関するライセンス(MOU)と同程度には,シューズに関するライセンスを付与され,被告に対するサブライセンス権限を有していたものと認められることは,前記1(3)で説示したとおりであるから,被告において,原告がサブライセンス権限を有していなかったにも58かかわらずこれを有すると誤信したとの事実は認められず,被告にこの点に関する錯誤があったということはできない。
また,原告がLAGearから付与されていたシューズに関するライセンスは,正式の契約書の締結を経たライセンスではなかったものの,被告がこの点を充分認識していたものと認められることは,前記1(4)で説示したとおりであり,被告にはこの点に関する錯誤があったということもできない。
以上のとおりであるから,被告の上記主張(本件基本契約の錯誤無効の主張)は理由がない。
3争点4(本件基本契約は契約条件の欠落を理由として無効とされるべきものか)について被告は,本件基本契約の締結時点において,原告が「シューズ全般」についてサブライセンス権限を有することが,本件基本契約の条件とされていたにもかかわらず,原告は,「シューズ全般」に関しては,LAGearの正当なサブライセンサーではなかったから,本件基本契約は条件欠落により無効とされるべきものである旨主張する。
仮に,原告がシューズに関するライセンスを有することが本件基本契約の条件とされていたとしても,原告は,遅くとも,本件基本契約の締結前には,LAGearから,アパレルとシューズ以外のアクセサリーに関するライセンス(MOU)と同程度には,シューズに関するライセンスを付与され,被告に対するサブライセンス権限を有していたものと認められることは,既に説示したとおりであるから,条件が欠落しているとは認められない。
なお,原告がLAGearから付与されていたシューズに関するライセンスは,正式の契約書の締結を経たライセンスではなかったものの,本件基本契約に係る契約書(甲1,乙1)には,「原告は,LAGearとの間で締結された2002年7月1日付け「Memorandum of Understanding」(MOU)にて日本国内での各種商品の製造販売に関し,第2条記載の本商品を使用する権利の許諾をLAGearよ59り受けた」旨記載されていることに照らすと,原告の有するライセンスが正式の契約書の締結を経たものであることが,本件基本契約の条件とされていたとも認められない。
したがって,被告の上記主張(契約条件の欠落による無効の主張)は理由がない。
4争点5(本件基本契約の瑕疵担保を理由とする解除の可否)について被告は,本件基本契約を締結した時点において,原告はLAGearからシューズ全般に関するサブライセンス権限を取得していなかったにもかかわらず,現在に至るまで,LAGearからシューズに関するライセンス権限を取得していないため,瑕疵担保責任の規定(民法559条,561条,563条)に基づき,本件基本契約を解除し,損害賠償を請求する旨主張する。
しかしながら,原告は,遅くとも,本件基本契約の締結前には,LAGearから,アパレルとシューズ以外のアクセサリーに関するライセンス(MOU)と同程度には,シューズに関するライセンスを付与され,被告に対するサブライセンス権限を有していたものと認められることは,既に説示したとおりであるから,本件基本契約の目的たる債権に瑕疵があったとはいえない。
なお,原告がLAGearから付与されていたシューズに関するライセンスは,正式の契約書の締結を経たライセンスではなかったものの,本件基本契約に係る契約書(甲1,乙1)には,「原告は,LAGearとの間で締結された2002年7月1日付け「Memorandum of Understanding」(MOU)にて日本国内での各種商品の製造販売に関し,第2条記載の本商品を使用する権利の許諾をLAGearより受けた」旨記載されていることに照らし,原告の有するライセンスが正式の契約書の締結を経たものであることが本件基本契約に基づく債権の内容となっていたとは認められないから,この点においても,瑕疵があったとはいえない。
したがって,被告の上記主張(本件基本契約の瑕疵担保を理由とする解除及び損害賠償請求の主張)は理由がない。
605争点6(原告が被告に返還すべき不当利得の有無及びその額)について本件基本契約が,その締結時点(2003年(平成15年)9月12日)に遡って無効とされるべきものであるとは認められないことは,既に説示したところから明らかであり,原告が被告から契約一時金及びロイヤリティの支払を受けたことは,いずれも法律上の原因(本件基本契約)に基づくものであるから,これが不当利得に当たるとする被告の主張は理由がない。
6争点7(原告が被告に賠償すべき損害の有無及びその額)について被告は,原告が,本件基本契約の締結の際,LAGearのシューズに関するサブライセンス権限を有していなかったにもかかわらず,被告に対し,敢えて,これを有するかのように装い,被告をその旨誤信させた行為(詐欺行為)は,原告による不法行為に該当する旨主張する。
しかしながら,原告が被告の主張する上記詐欺行為を行ったとは認められないことは,既に説示したところから明らかである。
したがって,被告の上記主張(不法行為に基づく損害賠償請求の主張)は理由がない。
7以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の第1事件請求は理由があるから,これを認容し,被告の第2事件請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 柵木澄子