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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ10064特許権侵害差止請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  共有 /  債務不履行 /  実施 /  交換 /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  専用実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  独占的通常実施権 /  対価 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 21年 (ワ) 7735号 損害賠償請求事件
東京都千代田区<以下略>
原告株式会社オーガニックランドシステムズ
同訴訟代理人弁護士鈴木和雄
同 鈴木一毅
同 補佐人弁理 士唐木浄治さいたま市<以下略>
被告財団法人グリーンクロスジャパン
同訴訟代理人弁護士上野廣元 埼玉県川口市<以下略>
被告A 埼玉県川口市<以下略>
被告セントラル・エンジニアリング株式会社
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/02/05
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求被告らは,原告に対し,連帯して5000万円及びこれに対する平成19年5月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要1本件は,被告セントラル・エンジニアリング株式会社(以下「被告セントラル」という )との間で,冷凍システム並びに凝縮用熱交換装置に関する後記 。
2( )記載の特許権についての通常実施権の許諾契約を締結した原告が,当該 1特許の共有特許権者である被告財団法人グリーンクロスジャパン(以下「被告グリーンクロス」という )及び被告Aが被告セントラルに対して設定した専 。
実施権は,特許原簿に設定登録がされていないため無効であり,この専用実施権に基づき許諾された上記通常実施権も無効であるとして,被告らに対し,不法行為に基づき,損害賠償金5000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年5月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告セントラルに対し,債務不履行に基づき,同額の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。被告セントラルに対する不法行為に基づく請求と債務不履行に基づく請求は,選択的併合の関係にある。
2前提となる事実(証拠等は各項に掲記)( ) 本件特許権(甲1,3の5)1被告グリーンクロス及び被告Aは,下記特許権の共有者である(以下,こ「」 ,「」。 。 の特許を 本件特許 と 本件特許に係る特許権を 本件特許権 という )記ア特許番号第2835325号イ出願日平成9年11月14日ウ出願番号特願平9-349898号エ登録日平成10年10月9日オ発明者Aカ発 明 の 名 称冷凍システム並びに凝縮用熱交換装置キ特許請求の範囲【請求項1】 圧縮機1から吐出した高温高圧の凝縮性ガス冷媒を過半量と残余量とに分流して,過半量の凝縮性ガス冷媒は内箱6及び該内箱6を取囲む外箱7の二重箱型熱交換器から成る凝縮器5の内箱6に送り,残余量の凝縮性ガス冷媒はその内部を流れる冷媒に対し増速及び減圧作用を成すキャピラリコイル8に送り,このキャピラリコイル8において凝縮及び減圧膨張して得られる低温低圧の液冷媒を前記凝縮器5の外箱7に送って内箱6の凝縮性ガス冷媒との間で熱交換を行なわせることによって,内箱6の凝縮性ガス冷媒を凝縮液化させる一方,外箱7の液冷媒を蒸発気化させ,次いで,内箱6の高圧液冷媒を液冷媒に渦流を生じさせるための螺旋状伝熱管9Aが備えられる液管9を経て膨張弁3に送って減圧膨張させた後,冷却器4に送って空気又は冷却水との間で蒸発潜熱を熱交換させることにより蒸発気化させ,この冷却器4で蒸発気化した低圧凝縮性ガス冷媒と外箱7で蒸発気化した低圧凝縮性ガス冷媒とを合流させた後,圧縮機1に返戻させ,前記冷却器4において冷凍冷房用の冷熱が得られる冷凍サイクルを形成してなることを特徴とする冷凍システム。
【請求項2】 内箱6及び該内箱6を取囲む外箱7を備える二重箱型熱交換器からなる凝縮器5と,内部を流れる冷媒に対し増速及び減圧作用を成す螺旋状細径伝熱管からなり,管出口を外箱7の冷媒入口に接続したキャピラリコイル8と,その内部を流れる冷媒に対し渦流を生じさせる螺旋状伝熱管9Aを備えて管入口を内箱6の冷媒出口に接続した液管9とを含み,圧縮機1から吐出した高温高圧の凝縮性ガス冷媒のうち過半量を内箱6に導入し,圧縮機1から吐出した高温高圧の凝縮性ガス冷媒のうち前記過半量を差し引いた残余量をキャピラリコイル8に導入し,熱交換作用で蒸発した外箱7内のガス冷媒を圧縮機1の吸入側に返戻し,熱交換作用で凝縮した内箱6内の液冷媒を液管9を経て膨張弁3に送るように設けてなることによって,冷凍サイクルにおける凝縮行程を担持する装置に形成したことを特徴とする凝縮用熱交換装置。
( ) 専用実施権の設定2被告グリーンクロス及び被告Aは,平成16年6月8日,被告セントラルとの間で,被告セントラルに対して本件特許権につき専用実施権を設定する旨の契約を締結した(以下「本件専用実施権設定契約」といい,設定された専用実施権を「本件専用実施権」という(乙1)。)。
特許原簿に本件専用実施権設定登録はされていない。
( ) 通常実施権の許諾3被告セントラルは,平成16年6月16日,原告(当時の商号は「東世ワールド株式会社 )との間で,原告に対し,日本国内におけるスポットクー 」, ,, ラーの製造・販売に関し 本件特許権について通常実施権を許諾し 原告は被告セントラルに対し,その対価として一時金3500万円及び特許製品1台につき製品販売価格の5パーセントの特許実施料を支払う旨の通常実施権許諾契約(以下「本件通常実施権許諾契約」という )を締結した (甲7 。。
の1及び2,弁論の全趣旨)3争点( ) 本件通常実施権許諾契約の有効性(争点1)1( ) 不法行為又は債務不履行の成否(争点2) 2( ) 損害額(争点3)34争点に関する当事者の主張( ) 争点1(本件通常実施権許諾契約の有効性)について1ア原告の主張被告グリーンクロス及び被告Aは,被告セントラルに対して本件専用実施権を設定したが,その設定登録は行われていないため,本件専用実施権設定契約は特許法上効力を有しておらず無効であるから(特許法98条1項2号 ,被告セントラルは本件特許に関して無権利者であると解すべき )である。また,特許法上の書面主義の下,専用実施権設定契約には書面の作成が必要であるところ,本件専用実施権設定契約については書面が作成されていないと考えられるから,この点からも本件専用実施権設定契約は無効と解すべきである。
設定登録なき専用実施権の設定が独占的通常実施権としての効力を生じるためには,その旨の特約が不可欠であるところ,本件専用実施権設定契約にはそのような特約はなく,独占的通常実施権としての効力も生じないため,被告セントラルは本件特許に関して無権利者である。また,通常実施権は特許権者又は専用実施権者でなければ許諾することはできず,独占的通常実施権者が再許諾できるものではない。
原告は,無権利者である被告セントラルから通常実施権を許諾されたにすぎないため,正当な通常実施権を取得することができなかった。
イ被告グリーンクロスの主張本件専用実施権設定契約については,専用実施権設定登録はされていないが,設定登録がされていない場合であっても,当事者間で独占的な実施権を付与するという合意が成立している場合には,独占的通常実施権として有効に成立していると解すべきである。
, , 本件専用実施権設定契約においても 被告グリーンクロス及び被告Aは被告セントラルに対し,独占的な実施権を与える意思を有し,被告セントラルもこれを取得する意思を有していたものであるから,専用実施権設定登録がされていなくても,独占的通常実施権を許諾する契約として有効であり,被告セントラルは無権利者ではなく,本件特許の独占的通常実施権者である。
また,再実施許諾で利害関係を有するのは特許権者だけであるから,特許権者の承諾が得られているなら再実施許諾を認めてよいこと,他の強行, , 法規に反しないこと 現実に再実施許諾は多く行われていることなどから特許権者の承諾があれば独占的通常実施権の再実施許諾は有効である。
本件専用実施権設定契約において,共有特許権者である被告グリーンクロス及び被告Aは,被告セントラルに対して再実施許諾を明文をもって認めており(乙1の第1条 ,また,被告セントラルが再実施を許諾した第 )三者より取得した実施許諾料について,被告セントラルの被告グリーンクロスに対する支払義務等を定めていることからすると(同第3条 ,共有)特許権者である被告グリーンクロス及び被告Aが,被告セントラルが第三者に対し通常実施権を再許諾することにつき承諾していたことは明らかである。
したがって,本件通常実施権許諾契約は,独占的通常実施権の再実施許諾契約として有効なものであるから,原告は,本件特許の通常実施権を有効に取得している。
ウ被告A及び被告セントラルの主張否認ないし争う。
( ) 争点2(不法行為又は債務不履行の成否)について2ア原告の主張(ア) 被告らの不法行為責任特許の流通性にかんがみると,被告A及び被告グリーンクロスは,被告セントラルに対して専用実施権を設定するに当たり,被告セントラルが原告のような第三者に通常実施権を許諾することを承知し,又は少なくとも予測していたといえ,原告のような第三者に対して無効な通常実施権許諾契約を締結することのないよう,専用実施権設定登録をする作為義務を負っていた。
, , 被告A及び被告グリーンクロスは 本件専用実施権設定登録を怠りこの作為義務に反することによって,原告が有効な通常実施権を取得することを阻害しており,かかる不作為は,被告A及び被告グリーンクロスの故意又は過失による原告に対する権利侵害行為ということができる。
被告セントラルは,被告A及び被告グリーンクロスから有効な専用実施権を取得しておらず,本件特許権に関して全くの無権利者であるにもかかわらず,原告と本件通常実施権許諾契約を締結し,原告が有効な通常実施権を取得することを害しており,かかる行為は,被告セントラルの故意又は過失による原告に対する権利侵害行為ということができる。
本件通常実施権許諾契約が本件専用実施権設定契約の存在を当然の前提とするものであること,本件専用実施権設定契約の当事者である被告Aと本件通常実施権許諾契約の当事者である被告セントラルは,被告Aが被告セントラルの代表者という関係にあったことから,被告らの行為は共同不法行為を構成する。
(イ) 被告セントラルの債務不履行責任被告セントラルは,本件通常実施権許諾契約に基づき,原告に対して有効な通常実施権を付与する義務があるにもかかわらず,被告A及び被告グリーンクロスから有効な専用実施権を取得しなかったのであるから,上記義務を怠った債務不履行に基づく責任を負う。
イ被告らの主張否認ないし争う。
(3) 争点3(損害額)についてア原告の主張原告は,被告らの不法行為又は被告セントラルの債務不履行により,有効な通常実施権を取得することができなかったにもかかわらず,下記の費用を不当に支払わされており,原告が被った損害は5000万円を下らない。
(ア) 契約一時金3500万円(イ) 実施準備金1896万0440円イ被告らの主張否認ないし争う。
第3当裁判所の判断1争点1(本件通常実施権許諾契約の有効性)について上記第2の2( )のとおり,本件特許権の共有者である被告グリーンクロス2及び被告Aは,平成16年6月8日,被告セントラルとの間で,本件専用実施権設定契約を締結したものの,特許原簿に本件専用実施権設定登録はされていない。そして,特許法98条1項2号は,専用実施権の設定は 「登録しな,ければ,その効力を生じない」と規定しており,専用実施権の設定は登録が効力発生要件とされているため,設定登録がされなければ専用実施権が有効に成立することはない。しかし,このような場合,契約を締結した当事者間では独占的な実施権を付与するという合意は成立しているのであるから,約定の趣旨に沿って,独占的通常実施権(特許権者が他の者に重ねて実施権の許諾をしな) 。 い旨の特約を付した通常実施権 としての効力は認められると解すべきであるそして,本件専用実施権設定契約において,被告グリーンクロス及び被告Aが被告セントラルに対して本件特許について独占的な実施権を許諾する意思を有していたこと 被告セントラルもこれに合意していたことは明らかである 乙 , (1の第1条)から,独占的通常実施権の許諾として有効なものと解され,被告セントラルは,これにより本件特許権について独占的通常実施権を取得したものということができる。
原告は,特許法上の書面主義の下,専用実施権設定契約には書面の作成が必要であるが,書面が作成されていないため本件専用実施権設定契約は無効であると主張するが,書面の作成を要件とする原告の主張は独自の見解であって採用することができない上,本件専用実施権設定契約については契約書(乙1)が作成されているのであるから,原告の主張はその前提が誤りである。
また,通常実施権者は,特許権者の承諾がある場合には,通常実施権の再実施権を許諾することができると解すべきである。そして,前記第2の2( )の3とおり,被告セントラルは,平成16年6月16日,原告に対し,日本国内におけるスポットクーラーの製造・販売に関し,本件特許権について通常実施権を許諾することを内容とする本件通常実施権許諾契約を締結したことが認めら,(), , れるところ 上記契約書 乙1 によれば 本件専用実施権設定契約において本件特許権の共有者である被告A及び被告グリーンクロスは,被告セントラルに対し,本件特許権についてその範囲全部にわたり第三者に対する再実施権を許諾したことが認められるから,本件通常実施権許諾契約は,本件特許権についての通常実施権の許諾としての要件に欠けるところはなく,これにより原告は本件特許権について通常実施権を取得したものということができる。
2争点2(不法行為又は債務不履行の成否)について( ) 不法行為責任について1原告は,被告A及び被告グリーンクロスに対しては,被告セントラルに対して専用実施権を設定するに当たり,原告のような第三者に対して無効な通,, 常実施権許諾契約を締結することのないようにする義務を怠った あるいは本件専用実施権設定登録を怠り,原告が有効な通常実施権を取得することを阻害したことが不法行為を構成すると主張し,また,被告セントラルに対しては,本件特許権に関して全くの無権利者であるにもかかわらず,原告と本件通常実施権許諾契約を締結し,原告が有効な通常実施権を取得することを害したことが不法行為を構成すると主張する。
しかし,本件通常実施権許諾契約により原告が本件特許権について通常実施権を取得したことは上記1に説示したとおりである。したがって,原告の不法行為責任に係る主張は,いずれも前提が誤りであり,採用することができず,被告らに原告主張の不法行為を認めることはできない。
( ) 債務不履行責任について2原告は,被告セントラルには,本件通常実施権許諾契約に基づき原告に対して有効な通常実施権を付与する義務を怠った債務不履行責任があると主張する。
しかし,本件通常実施権許諾契約により原告が本件特許権について通常実施権を取得したことは上記のとおりであるから,原告の債務不履行責任に係る主張も前提が誤りであり,採用することができず,被告セントラルに原告主張の債務不履行を認めることはできない。
3結論以上のとおり,被告らに原告主張の不法行為,債務不履行を認めることはできないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官 鈴木和典
裁判官 坂本康博