運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1999-20343
関連ワード 発明者 /  29条1項3号 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  置き換え /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 15年 (行ケ) 579号 審決取消請求事件
原告 ソニー株式会社
訴訟代理人弁理士 土屋勝
被告 特許庁長官小川 洋
指定代理人 川上美秀
同 片岡栄一
同 高橋泰史
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/10/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第20343号事件について平成15年11月13日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「光ディスクシステム」とする発明につき,平成2年1月31日,特許出願し(以下「本件出願」という。請求項の数は1である。),平成11年11月30日,拒絶査定を受け,同年12月29日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,この請求を平成11年審判第20343号事件として審理し,その結果,平成12年11月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
原告は,同審決の取消を求めて,東京高等裁判所に審決取消訴訟(東京高等裁判所平成13年(行ケ)第12号)を提起した。東京高等裁判所は,平成15年1月30日,同審決を取消すとの判決をしたため,特許庁は,これをさらに審理し,その結果,平成15年11月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年11月26日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲【請求項1】(平成15年5月23日付けの手続補正書(以下「本件補正書」という。)による補正後のもの。別紙図面A参照) 「A 記録及び/再生のためのレーザビームが照射される記録層と,この記録層を覆うように設けられているとともに上記レーザビームが透過する透光性カバーとを備えている光ディスクと, B 上記レーザビームを上記透光性カバーを介して上記記録層に集束する対物レンズとを具備する光ディスクシステムにおいて, C 上記対物レンズの開口数をNA,上記透光性カバーの厚さをt,上記透光性カバーの屈折率をNとしたときに,コマ収差W31 が, W31 =(t/2)・[(N2-1)N2sinθcosθ/(N2-sin2θ)5/2]・sin3α (θ:スキュー,sinα=NA) を満足するとともに,上記式にNA=0.50及びt=1.2mmを代入して得た値よりも大きくならないように構成され, D 上記透光性カバーの厚さが0.6〜0.44mmであり, E 上記対物レンズの開口数NAが0.55〜0.70である F ことを特徴とする光ディスクシステム。」(以下「本願発明」という。
なお,コマ収差W31 の式は,審決と同様に,分数表示を含む式を1行で表記する際の計算順序に誤解を生じないように,「t/2」に()を付し,「(N2-1)N2sinθcosθ/(N2-sin2θ)5/2」に[]を付した。また,AないしFは,本判決において,便宜上,付したものであり,以下,「構成A」,「構成B」などという。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開昭57-27451号公報(以下,審決と同様に「刊行物1」という。)に記載された発明(別紙図面B参照)と認められるから,特許法29条1項3号の規定に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,本願発明と刊行物1記載の発明との一致点を次のとおり認定した。
一致点 「記録及び/又は再生のためのレーザービームが照射される記録層と,この記録層を覆うように設けられているとともに上記レーザービームが透過する透光性カバーとを備えている光ディスクと,上記レーザービームを上記透光性カバーを介して上記記録層に集束する対物レンズとを具備する光ディスクシステムにおいて,上記透光性カバーの厚さが0.5mmであり,上記対物レンズの開口数が0.65であることを特徴とする光ディスクシステム。」(以下「一致点A」という。) 審決は,その上で,本願発明の構成Cについて検討し,刊行物1記載の発明も構成Cを備えているとして,これも一致点と認めた(以下「一致点B」という。)。
原告主張の取消事由の要点
審決は,一致点A及びBの認定判断を誤ったことにより,本願発明が刊行物1に記載されている発明であると誤って判断し(取消事由1,2),また,審判における審理に手続違背があったものであり(取消事由3),これらの誤りがそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点Aの認定判断の誤り) (1) 本願発明の透光性カバー 本件出願の願書に添付した明細書及び図面(本件補正書による補正後のもの。以下「本願明細書」という。)には,その第5図に示されている従来の片面光磁気記録媒体50の透明基体51(透光性カバー)がポリカーボネートであることのみが例示され,また,同第5図に示されている従来の光磁気ディスクシステムでは,透明基体51の厚さt1が一定(1.2mm)に設定されていることが記載されている(甲2号証4頁2〜9行参照)。また,同第5図に示されている従来の光磁気ディスクシステムでは,対物レンズ59の開口数が0.50〜0.53に設定されていたことも記載されている(甲2号証3頁5〜6行参照)。さらに,本願明細書には,その第1表において,コマ収差W31 の式を用いて従来の技術と本願発明とを対物レンズの開口数NAと透光性カバーの厚さtとを変えて比較した際に,その従来の技術の例として,対物レンズの開口数NA=0.50及び透光性カバーの厚さt=1.2mmが用いられている(甲第2号証12頁6〜10行,下から4〜1行参照)。したがって,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)における「透光性カバー」は,少なくとも本件補正書により請求項1に構成Cが追加補正された段階では,ポリカーボネートであることを当然の前提としていると解すべきである。
(2) 刊行物1記載の発明の円板 刊行物1においては,「ソーダガラス,コーニングマイクロシート等のガラス円板,或はアクリル,ポリカーボネート等樹脂製の円板(1)」(甲7号証2頁左上欄16〜18行)との記載,及び,「例えば,集光レンズ(6)としてN.A.0.65の顕微鏡用対物レンズを用いた場合には,円板(1)の厚みを0.5mmとしても何ら支障はなかった。前記円板(1)(5)の厚み,材質等は,本発明の要旨を逸脱しない範囲内で自由に選ぶことが可能であり,例えば円板(1)として0.3〜0.5mmのコーニングマイクロシートを使用した場合には,磁気光学記憶円板の強度を保つため,円板(5)として1〜3mmのアクリル板を使用すれば良い。」(同2頁左下欄1〜9行)と記載されている。
これらの記載からすれば,刊行物1記載の発明においては,円板(1)の材質は,第一義的には,樹脂ではなくガラスを想定しており,上記「0.5mm」の厚みの円板(1)の材質は,コーニングマイクロシートなどのガラスであり,樹脂製の円板の厚みの具体例としては,「1〜3mm」のものが記載されているだけと解すべきである。
したがって,刊行物1における「集光レンズ(6)としてN.A.0.65の顕微鏡用対物レンズを用いた場合には,円板(1)の厚みを0.5mmとしても何ら支障はなかった。」との上記記載だけを単純に取り上げて,刊行物1に,「ガラス円板,或はアクリル,ポリカーボネート等樹脂製の透明な円板(1)の片面に・・・を配置し,・・・集光レンズ(6)としてN.A.0.65のものを用いた場合に円板(1)の厚みを0.5mmとしても何ら支障がない磁気光学記憶システム」(審決書3頁2段)の発明が記載されていると認定判断した審決は誤りである。
(3) 一致点Aの認定判断の誤り 本願発明においては,「透光性カバー」がポリカーボネートであることを当然の前提として,本願発明の効果を奏するのに最適な透光性カバーの厚みの範囲(0.6〜0.44mm)及び対物レンズの開口数の範囲(0.55〜0.70)を選定し,これに請求項1のコマ収差に関する構成Cとを組み合わせているのである。
また,刊行物1記載の発明において「集光レンズ(6)としてN.A.0.65のものを用いた場合に円板(1)の厚みを0.5mmとして」も何ら支障がなかったのは,円板(1)としてガラス円板を想定した場合であることは上記のとおりである。
審決は,一致点Aの認定判断において,本願発明における「透光性カバー」がポリカーボネートであることを当然の前提とすべきであり,また,刊行物1記載の発明における厚み0.5mmの円板(1)をガラスに限定して解すべきであるにもかかわらず,これらの相違点を看過して一致点Aを認定しているのであり,その一致点Aの認定が誤りであることは明らかである。
また,本願発明は,対物レンズの開口数の好適範囲0.55〜0.70と組み合わせるのに好適な透光性カバーの厚み範囲0.6〜0.44mmを見出したものであるから,本願発明のこれら二つの好適範囲の組み合わせは,刊行物1に記載された二つの数値を含んでいるとしても,刊行物1に記載された二つの数値と一致するものではない。
2 取消事由2(一致点Bの認定判断の誤り) 審決は,一致点Bについて,次のとおり認定判断した。
「(イ)まず,コマ収差W31 の式について検討する。 「上記対物レンズの開口数をNA,上記透光性カバーの厚さをt,上記透光性カバーの屈折率をNとしたときに,コマ収差W31 が, W31 =(t/2)・[(N2-1)N2sinθcosθ/(N2-sin2θ)5/2]・sin3α (θ:スキュー,sinα=NA) を満足する」点に関しては,光ディスクを用いる記録,再生システムにおいて周知である。一例として,当審の拒絶理由にも引用された「応用光エレクトロニクスハンドブック」同編集委員会編,株式会社昭晃堂1989年4月10日初版発行,第419〜446頁(以下,「図書1」という。)(判決注・以下,本判決においても「図書1」という。)を挙げることができ,その図書1の第439頁1行目の(6.2.4)式は,本願発明で特定するコマ収差W31 の式そのものであり,本願発明と同様に光ディスクの記録,再生システムに関する刊行物1記載の発明も,そのコマ収差の式を満足していることは当然である。」(審決書4頁3段) 「(ロ)次に,コマ収差W31が,上記式にNA=0.50及びt=1.2mmを代入して得た値よりも大きくならないように構成されているかの点について検討する。
(i)本願発明おけるコマ収差の計算 ・・・そして,「W31 =(t/2)・[(N2-1)N2sinθcosθ/(N2-sin2θ)5/2]・sin3α」は,式中で数値が特定されないNとθを含む項「(N2-1)N2sinθcosθ/(N2-sin2θ)5/2」を1/k,sinα=NAとして書き換えると,W31 =(t/2)・(1/k)・NA3 即ち,2k・W 31 =t・NA3 となり,第1表の数値を用いて計算すると,NA=0.50且つt=1.2mmの2k・W31 (=t・NA3)は0.15となり,他の4つのケースであるNA=0.55且つt=0.9mm,NA=0.6且つt=0.69mm,NA=0.65且つt=0.55mm,NA=0.70且つt=0.44mmいずれの場合も0.15となり,同一の値となる。前記4つのケースについては「コマ収差W31 の値と等価になる」との記載を併せ勘案すれば,上記1/kは実質的に概ね定数であると解するのが相当といえる。」(同4頁末段〜5頁3段) 「(ii)刊行物1記載の発明におけるコマ収差の計算 刊行物1記載の発明において「何ら支障はなかった」とされ,本願発明と一致するとされたN.A.0.65(即ちNA=0.65)且つ円板(1)の厚み0.5mm(即ちt=0.5mm)の場合について,2k・W31 (=t・NA3 )を計算すると0.137となり,対比する場合であるNA=0.50及びt=1.2mmを代入して計算される2k・W 31 (=t・NA3)の0.15の数値よりも小さい。そして,上記(i)の判断を準拠すれば経時要素があるとしても(例えば刊行物1記載の発明の発明時点でも),いずれの光ディスクシステムにおいても1/kは概ね定数と想定できる(大きく変化しない)ものであるから,即ちスキュー(θ)も透光性基体の屈折率(N)も大きく変化しないと理解するのが相当であることを勘案して,刊行物1記載の発明のコマ収差W31 を算出すれば「式にNA=0.50及びt=1.2mmを代入して得た値よりも大きくならないように構成され」ていると認められる。 なお,1/kが刊行物1記載の発明と本願発明とで異なる場合であっても,少なくともそれぞれの発明の中で採用する1/kは同じであるのだから,このことでも,前記コマ収差W31 に関する上記判断は左右されない。」(同6頁2段〜3段) しかし,審決の一致点Bの上記認定判断は誤りである。
(1) コマ収差W31 の式の周知性 図書1にコマ収差W31 の式が記載されているとしても,このことからにわかにコマ収差W31 の式が光ディスクを用いる記録,再生システムにおいて周知であると認定することはできない。
刊行物1には,磁気光学記憶システムの円板(1)の材質と厚みの条件との関連性が不明瞭にしか記載されていない。そして,刊行物1においては,コマ収差W31 については何も考慮されておらず,刊行物1に記載されている数値を図書1のコマ収差W31 の式に代入してコマ収差W 31 を求めることには,技術的意味は何ら存在しない。
(2) 刊行物1記載の発明におけるコマ収差の計算 本願明細書において,従来技術として記載されている,NA=0.5及びt=1.2mmの透光性カバーは,ポリカーボネートを用いたものであり,本願発明においてNA=0.55〜0.70及びt=0.6〜0.44mmとして用いられる透光性カバーも,従来の技術のものと同様に,ポリカーボネートを用いることを前提としている。
これに対し,刊行物1記載の発明においては,透明な円板(1),(5)の材質は,ガラスあるいは樹脂のいずれでもよく,特に,0.5mmの厚みの円板(1)の場合にはガラスが用いられることが想定されていることは上記のとおりである。
本願発明のコマ収差W31 の式のスキューθが生じる主たる原因は,ディスク自体の反り(skew)であることが知られている。ディスクの反りは,ディスク基板の材質,特にその材料の持つ物理的特性(特に,ヤング率=縦弾性係数)に大きく関係する。ポリカーボネート樹脂のヤング率が23,000kg/cm2であるのに対し,ガラスのヤング率が750,000kg/cm2であること(「機能材料 1989年4月号」〔株式会社シーエムシー1989年3月5日発行〕(甲第10号証)の表2(第16頁))からすれば,本願発明において透光性カバーの材質として用いられることが前提となっているポリカーボネートのヤング率は,刊行物1記載の発明において透明基体の材質として用いられるガラスの約1/33である。
本願発明のコマ収差のW31式については,従来の技術のものも本願発明も,透光性カバーの材質がポリカーボネートであることを前提としており,屈折率Nが一定でスキューθも概ね一定であるから,審決が1/kとして置き換えたものが概ね一定となり,そのため,本願発明において,コマ収差のW31 式の値を,NA=0.5及びt=1.2mmの従来技術のものの場合と本願発明の場合とで比較する意味がある。
しかし,刊行物1記載の発明を含む,一般的な光ディスクシステムにおいては,上記1/kを概ね定数であると想定することはできない。すなわち,刊行物1においては,円板(1)の厚みが0.5mmを取り得るものとして開示されているのはコーニングマイクロシート(ガラス)のみであり,ガラスを用いた場合にはスキューθの値がポリカーボネートを用いた場合に較べて大きく異なるのであるから,刊行物1記載の発明におけるガラスの円板(1)の厚み0.5mmの条件で,同発明におけるコマ収差W31 の値を求めて,透光性カバーとしてポリカーボネートを用いた本願発明の従来技術の構成における「NA=0.50及びt=1.2mmの場合」のコマ収差W31 の値とを比較することは,無意味である。
なお,光ディスクシステムにおけるスキューθは,光ディスクの反りを要因として決定されるだけでなく,光ディスクの記録あるいは再生装置側の要因(例えば,光ピックアップの調整誤差や取付け誤差などによって生じる要因)によっても影響される。換言すれば,光ディスクシステムにおけるスキューθは,光ディスクとその記録あるいは再生装置との組み合わせによって初めて決定されるものである。したがって,光ディスクとその記録あるいは再生装置について考慮することなく,刊行物1記載の発明におけるコマ収差W31 式の値が,本願発明のコマ収差W 31式に,対物レンズのNA=0.50及び透光性基体(透光性カバー)の厚みt=1.2mmの値を代入して得られる値よりも大きくならないと決定することはできない。
3 取消事由3(手続違背) 本願発明の「透光性カバー」は,少なくとも本件補正書により構成Cが請求項1に追加補正された段階で,ポリカーボネートであることを当然の前提としていると解すべきである。審判合議体は,仮に,この点について疑義があるようであれば,十分な審理を行うために,「本願発明は,透光性カバーがポリカーボネートであることを前提としているにもかかわらず,この点が特許請求の範囲(請求項1)に記載されていないから,本願明細書は,特許法(平成2年6月13日改正)36条5項2号に規定する要件を満たしていない。」という趣旨の拒絶理由通知書を発し,審判請求人に意見書又は手続補正書を提出する機会を与えるべきであったにもかかわらず,この通知書を発せずに審理を終結したものである。審決は,特許法156条1項の規定に違反してなされたものである。
本件については,平成15年3月11日付けで特許法29条1項3号違反の理由とともに特許法36条違反を理由とする拒絶理由が通知(乙第3号証)されているものの,刊行物1は,同拒絶理由通知によって初めて引用されたものであったこと,本件出願の経過が多岐にわたったこと,本願の発明者及び特許業務担当者,審判代理人などの手持ちの業務が多かったことなどの理由から,刊行物1に対応するために,本願明細書の特許請求の範囲の補正の機会が原告に対し十分に与えられていたということはできない。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(一致点Aの認定判断の誤り)について (1) 原告は,本願発明の「透光性カバー」がポリカーボネートであると主張する。しかし,このことは,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)において特定された構成ではない。原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
なお,本願明細書の実施例において引用された原告自身の先行技術(乙第1号証,乙第2号証参照)には,本願発明の透光性カバーの材質として,ガラスが好ましいとされ,樹脂でもよいとされている。
(2) 刊行物1には,開口数NA=0.65のレンズと透明な円板(1)の厚みt=0.5mmの組合わせが明示されており,透明な円板(1)の材質としてポリカーボネート等の樹脂とガラスのいずれも明示されており,いずれの材質の場合でも発明として成立している。
(3) 刊行物1の「例えば,集光レンズ(6)としてN.A.0.65の顕微鏡用対物レンズを用いた場合には,円板(1)の厚みを0.5mmとしても何ら支障はなかった。」(甲7号証2頁左下欄1〜3行)との記載は,NA=0.65とt=0.5mmとの組合せを具体的に示したものであることが明らかである。そして,その組合せが,本願発明の「上記透光性カバーの厚さが0.6〜0.44mmであり,上記対物レンズの開口数が0.55〜0.70である」との構成に合致していることも明白である。
刊行物1に支障がないとして記載されている数値の組合せが本願明細書の請求項1で特定する数値範囲の組合せに含まれる場合は,両者の構成は一致していると解するのが相当である。
2 取消事由2(一致点Bの認定判断の誤り)について (1) 刊行物1においてコマ収差W31 の式について言及されていないとしても,本願発明においてはすべての場合にコマ収差W31 の式が成立することを前提にしているのであり,また,図書1の周知例において,同式が特に材質に依存することは前提とされていないことからすれば,刊行物1記載の発明においてもコマ収差W31の式が成立していると解すべきであり,これが成立しないとする理由がない。
(2) 本願発明の透光性カバーの材質は,ポリカーボネート等の樹脂に限定されておらず,刊行物1記載の発明における円板(1)の材質もガラスに限定されるものではなく,ポリカーボネートなどの樹脂の使用も開示されているのであるから,原告の主張は,その前提において失当である。
(3) 仮に,原告が主張するように,(a)本願発明におけるコマ収差の式W31でNA=0.50でt=1.2mmの対比基準とする透光性カバーの材質がポリカーボネート樹脂に限定され,(b)刊行物1記載の透明な円板(1)がガラスの材質に限定されるとしても,刊行物1記載の発明において,t=1.2mm,NA=0.50の場合のW31 式の値に比べて,t=0.5mm,NA=0.65の場合のW31 式の値は大きくならない。
3 取消事由3(手続違背)について 本件の審判手続において,平成15年3月11日付けで特許法29条1項3号違反の理由とともに特許法36条違反を理由とする拒絶理由が通知(乙3号証)されていたのであり,原告に対し手続補正の機会は与えられていたのであるから,審判における審理が不十分であったとの原告の主張は失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点Aの認定判断の誤り)について (1) 本願発明の「透光性カバー」について 原告は,本願発明の「透光性カバー」は,少なくとも本件補正書により請求項1に構成Cが追加補正された段階では,ポリカーボネートであることを当然の前提としている,と主張する。
しかし,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,「透光性カバー」について,「上記レーザビームが透過する透光性カバー」,「上記レーザビームを上記透光性カバーを介して上記記録層に集束する対物レンズ」,「上記対物レンズの開口数をNA,上記透光性カバーの厚さをt,上記透光性カバーの屈折率をNとしたときに,コマ収差W31 が,W 31 =・・・を満足するとともに,上記式にNA=0.50及びt=1.2mmを代入して得た値よりも大きくならないように構成され」,「上記透光性カバーの厚さが0.6〜0.44mmであり」と記載されているにすぎず,本願発明の「透光性カバー」がポリカーボネートであるとする記載は見当たらない。
また,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を見ても,本願発明の「透光性カバー」の材質をポリカーボネートに限定することを示唆する記載すらもない。
すなわち,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明の透光性カバー(透明基体51)の材質について,〔従来の技術〕の欄に「上記片面光磁気記録媒体50は,例えばポリカーボネート等の透光性のある透明基体51の一側面に誘電体層52,例えば希土類-遷移金属合金非晶質薄膜等の磁気光学効果の大きな記録磁性層53,誘電体層54,反射層55,保護カバー56を順に積層して成っている。この場合,上記基体51の厚さt1は一定であり,従来までは1.2mmに設定されている。」(甲2号証4頁2〜9行)との記載はあるものの,この記載から明らかなように,ポリカーボネートは,あくまでも従来技術における透光性カバー(透明基体51)を形成する材料の一例として示されているにすぎないものである。そして,本願明細書の発明の詳細な説明における他の箇所にも「コマ収差W31が,従来のような対物レンズのNA=0.50及び透光性基体(透光性カバー)の厚さt=1.2mmの場合に得られるコマ収差W31 の値と等価になるNA及びtを,4ケースについて求めた結果を下の第1表に示す。・・・この第1表に示されるように,NAを0.55〜0.70としても上記tを0.6〜0.1mmとすれば,コマ収差は従来と同じかそれ以下にできるから問題ないことがわかる。」(同12頁6〜末行)などの記載が存在するものの,本願発明の透光性カバーの材質をポリカーボネートに限定する記載は一切見当たらない。
したがって,本願発明の要旨の認定において,「透光性カバー」の材質を,請求項1に何ら記載のない「ポリカーボネート」に限定して解すべき理由は全くない。
原告は,本願明細書の発明の詳細な説明における上記の各記載を根拠として,本願発明の「透光性カバー」は,ポリカーボネートであることを当然の前提としている,と主張するものであり,原告の同主張が理由がないものであることは明らかである。
(2) 刊行物1記載の発明における円板(1)について 刊行物1には,円板(1)に関して次の記載がある。
@「第1図は本発明を磁気光学記憶円板に実施した側面図であり,ソーダガラス,コーニングマイクロシート等のガラス円板,或はアクリル,ポリカーボネート等樹脂製の円板(1)の上面に,・・・アモルファスフェリ磁性体薄膜(2)及び・・・誘電体薄膜(3)をこの順に形成し,・・・前記ガラス円板或は樹脂製の円板(5)を固着して五層構造としている。」(甲7号証2頁左上欄15行〜右上欄7行), A「第2図は,磁気光学記憶円板と記録ヘッドとの関係を示す側面略図であり,第1図の磁気光学記憶円板の円板(1)の上方に集光レンズ(6)及び記録,消去用磁場発生用のコイル(7)を有する記録ヘッド(8)を図示しないフォーカスサーボと連動させ,記録,再生,消去を行なう場合にアモルファスフェリ磁性体薄膜(2)との距離を一定に保持し得るようにしている。
尚,集光レンズ(6)を選択することにより記録ヘッド(8)とアモルファスフェリ磁性体薄膜(2)との間隔を変化させることができる為,透明な円板(1)の厚みを例えば0.1mm乃至1mmの範囲内で自由に選択できる。
例えば,集光レンズ(6)としてN.A.0.65の顕微鏡用対物レンズを用いた場合には,円板(1)の厚みを0.5mmとしても何ら支障はなかった。」(2頁右上欄8行〜左下欄3行), B「前記円板(1)(5)の厚み,材質等は,本発明の要旨を逸脱しない範囲内で自由に選ぶことが可能であり,例えば円板(1)として0.3〜0.5mmのコーニングマイクロシートを使用した場合には,磁気光学記憶円板の強度を保つため,円板(5)として1〜3mmのアクリル板を使用すれば良い。」(2頁左下欄4〜9行) 刊行物1においては,上記@の記載から,円板(1)の材質として,ガラスとポリカーボネート等の樹脂の2種類のものとすることが開示されており,上記Aの記載から,集光レンズ(6)を選択することにより,円板(1)の厚みを,0.1mmないし1mmの範囲内で自由に選択することができ,例えば,集光レンズ(6)としてN.A.0.65の顕微鏡用対物レンズを用いた場合には,円板(1)の厚みを0.5mmとすることができることが開示されている,と認められ,また,上記Bの記載は,単に,円板(1)の材質としてコーニングマイクロシート(ガラス)を選択した場合の円板(1)の厚み及びこの場合の円板(5)の厚みを例示したものにすぎず,刊行物1記載の発明がこのような記載により,上記B記載のもののみに限定されると解することはできない。
上記各記載によれば,審決が,「刊行物1には・・・「ガラス円板,或はアクリル,ポリカーボネート等樹脂製の透明な円板(1)の片面に,アモルファスフェリ磁性体薄膜(2)を設け,更に誘電体薄膜(3),・・・,円板(5)を順に形成した磁気光学記憶素子と,前記円板(1)の他面側上方に顕微鏡用対物レンズを用いた集光レンズ(6)及び記録,消去用磁場発生用のコイル(7)を有する記録ヘッド(8)を配置し,フォーカスサーボと連動させ,記録,再生,消去を行ない,集光レンズ(6)としてN.A.0.65のものを用いた場合に円板(1)の厚みを0.5mmとしても何ら支障がない磁気光学記憶システム。」の発明・・・が記載されているものと認められる。」(審決書3頁2段)と認定したことに誤りはない。
原告は,刊行物1記載の発明においては,円板(1)の材質は,第一義的には,樹脂ではなくガラスを想定しており,上記「0.5mm」の厚みの円板(1)の材質は,コーニングマイクロシートなどのガラスである,と主張する。しかし,原告の同主張を採用し得ないことは,上述したところから明らかである。
(3) 一致点Aの認定判断の誤りについて 審決の「刊行物1記載の発明の「磁気光学記憶素子」,「磁気光学記憶システム」は,それぞれ本願発明の「光ディスク」,「光ディスクシステム」に相当する」(審決書3頁3段)との認定判断については,原告も争っていない(準備書面(原告1)12頁)。
刊行物1記載の発明についての審決の認定に誤りがないことは前記のとおりであり,この刊行物1記載の発明と本願発明とを対比すれば,審決が,「刊行物1記載の発明において,「透明な円板(1)」の上方に配置される記録ヘッドの「集光レンズ(6)」を通して集光されたレーザビームが,「透明な円板(1)」を透過し,「アモルファスフェリ磁性体薄膜(2)」に照射され記録,再生,消去を行うことが明らかであるから,刊行物1記載の発明の「ガラス円板,或はアクリル,ポリカーボネート等樹脂製の透明な円板(1)」と「アモルファスフェリ磁性体薄膜(2)」と「顕微鏡用対物レンズを用いた集光レンズ(6)」は,それぞれ本願発明の「記録層を覆うように設けられているとともに上記レーザビームが透過する透光性カバー」と「記録及び/再生のためのレーザビームが照射される記録層」と「上記透光性カバーを介して上記記録層に集束する対物レンズ」に相当する。また,刊行物1記載の発明の「集光レンズ(6)としてN.A.0.65のものを用いた場合に円板(1)の厚みを0.5mmとして」は,本願発明の「透光性カバーの厚さが0.6〜0.44mmであり,上記対物レンズの開口数が0.55〜0.70であること」に対応し,「透光性カバーの厚さが0.5mmであり,上記対物レンズの開口数が0.65である」点で一致している。」(審決書3頁3段〜4頁1段)と認定したことに誤りがないこと,及び,審決の一致点Aの認定にも誤りがないことは明らかである。
原告は,審決が,一致点Aの認定判断において,本願発明における「透光性カバー」がポリカーボネートであることを当然の前提とすべきであり,また,刊行物1記載の発明における厚み0.5mmの円板(1)をガラスに限定して解すべきであるにもかかわらず,これらの相違点を看過して一致点Aを認定したことは誤りである,と主張する。
しかし,本願発明における「透光性カバー」がポリカーボネートであることを当然の前提とすべきであると解することはできないこと,及び,刊行物1記載の発明における厚み0.5mmの円板(1)をガラスに限定して解すべきではないことはいずれも上記認定のとおりであり,原告の主張はその前提において理由がない。
原告は,本願発明は,対物レンズの開口数の好適範囲0.55〜0.70と組み合わせるのに好適な透光性カバーの厚み範囲0.6〜0.44mmを見出したものであるから,本願発明のこれら二つの好適範囲の組み合わせは,刊行物1に記載された二つの数値を含んでいるとしても,刊行物1に記載された二つの数値と一致するものではない,と主張する。
しかしながら,刊行物1には,上記(2)Aのとおり「集光レンズ(6)を選択することにより記録ヘッド(8)とアモルファスフェリ磁性体薄膜(2)との間隔を変化させることができる為,透明な円板(1)の厚みを例えば0.1mm乃至1mmの範囲内で自由に選択できる。例えば,集光レンズ(6)としてN.A.0.65の顕微鏡用対物レンズを用いた場合には,円板(1)の厚みを0.5mmとしても何ら支障はなかった。」と記載されているのであり,透明な円板(1)の厚みを0.5mm,対物レンズの開口数NAを0.65とした磁気光学記憶システムが開示されていること,及び,この刊行物1記載の発明が本願発明の構成D(「上記透光性カバーの厚さが0.6〜0.44mmであり」)及び構成E(「上記対物レンズの開口数が0.55〜0.70である」に含まれるものであることは明らかである。原告の上記主張も理由がない。
2 取消事由2(一致点Bの認定判断の誤り)について (1) コマ収差W31 の式の周知性について (ア) 原告は,図書1にコマ収差W31 の式が記載されているとしても,このことからにわかにコマ収差W31 の式が光ディスクを用いる記録,再生システムにおいて周知であると認定することはできない,と主張する。
しかし,図書1の「6.2.1 光ディスクシステムに発生する典型的な収差」の「(3)コマ収差」の項に,「平板の厚さをt,屈折率をN,収束光束の開口数をsinαとする」(甲11号証437頁下から5行)ことを前提として,「傾いた平行平板を収束光束が通過するときコマ収差が発生する。光束の光軸に対して平板の法線がなす角をθとすると,コマの波面収差係数は W31 =(t/2)・[(N2-1)N2sinθcosθ/(N2-sin2θ)5/2]・sin3α (6.2.4)で与えられる。」(同438頁19行〜439頁2行。判決注・コマ収差W31の式は,分数表示を含む式を1行で表記する際の計算順序に誤解を生じないように,「t/2」に()を付し,「(N2-1)N2sinθcosθ/(N2-sin2θ)5/2」に[]を付した。以下,図書1における上記式を「式(6.2.4)」という。)という記載がある。
図書1における上記「平板」,「収束光束の開口数」,「光束の光軸に対して平板の法線がなす角」が本願発明の「透光性カバー」,「対物レンズの開口数」,「スキュー」に相当するから,図書1の式(6.2.4)は,本願発明のコマ収差W31 の式と同じ技術事項を意味し,本願発明のコマ収差W 31 と同一の式であると認められる。
そして,図書1は,本件出願の出願日より約9月前に刊行されたものではあるものの,「盛沢山の要素技術を限られた紙面に網羅し」(甲11号証419頁12〜13行)た「応用光エレクトロニクスハンドブック」(題号)であり,その図書1において,式(6.2.4)は,「6.2.1項では,光ディスクの読取り方式に由来する典型的な収差の発生機構と評価式を与え,これらの収差と光ディスクの諸元や光学定数との関係を整理する。」(同437頁12〜13行,下線付加)と記載された上で,「6.2.1 光ディスクシステムに発生する典型的な収差」(同437頁,下線付加)の項で,コマ収差の式として紹介されているものであるから,本願発明のコマ収差W31 の式は,光ディスクシステムの分野において本件出願前に周知の技術事項であると認められる。
(イ) 図書1の「6.2.1 光ディスクシステムに発生する典型的な収差」(甲11号証437頁,下線付加)の「(3)コマ収差」の項では,コマ収差の発生機構について,「傾いた平行平板を収束光束が通過するときコマ収差が発生する。」(同438頁19行)と記載されている。このことからすれば,光ディスクシステムにおいては,光ディスクが入射光束に対して傾いている場合,コマ収差W31 の式で規定されるコマ収差が発生するとの発生機構も,光ディスクシステムの分野において本件出願前に周知の技術事項であると認められる。
そして,刊行物1記載の発明は,磁気光学記憶システム(光ディスクシステム)に関する発明であるから(甲7号証),刊行物1記載の発明(磁気光学記憶システム)においても,本願発明と同様にコマ収差が発生し,本願発明のコマ収差の式W31 が成り立つことは明らかである。
したがって,審決が,本願発明のコマ収差W31の式について,「本願発明と同様に光ディスクの記録,再生システムに関する刊行物1記載の発明も,そのコマ収差の式を満足していることは当然である。」(審決書4頁3段)とした認定判断に誤りはない。
原告は,刊行物1には,磁気光学記憶システムの円板の材質と厚みの条件との関連性が不明瞭にしか記載されていないとか,刊行物1においては,コマ収差W31 については何も考慮されていないとか,刊行物1に記載されている数値を図書1のコマ収差W31 の式に代入してコマ収差W 31 を求めることには,技術的意味は何ら存在しないとか主張する。
しかしながら,コマ収差W31 の式は,上記のとおり,光ディスクシステムにおいて,光ディスクが入射光束に対して傾いている場合,同式で規定されるコマ収差が発生する,という物性を示す関係式であるから,原告が主張する上記の点は,いずれも刊行物1記載の発明においてコマ収差W31 が発生することを否定するものではないことは明らかである。
(2) 刊行物1記載の発明におけるコマ収差の計算について 原告は,透光性カバー(円板)として,ガラスを用いた場合にはスキューθの値がポリカーボネートを用いた場合に較べて大きく異なるのであるから,刊行物1記載の発明におけるガラスの円板(1)の厚み0.5mmの条件で,同発明におけるコマ収差W31 を求めて,透光性カバーとしてポリカーボネートを用いた本願発明の従来技術の構成における「NA=0.50及びt=1.2mmの場合」と比較することは,無意味である,と主張する。
しかし,本願発明の透光性カバーがポリカーボネートを用いたものに限定されるものではないこと,及び,刊行物1記載の発明における0.5mmの円板(1)がガラスを用いたものに限定されるものではないことは,前記のとおりであり,原告の上記主張は,そもそもその前提において誤りであり,採用することができない。
また,刊行物1記載の発明におけるコマ収差W31の式の数値が,同式に,「NA=0.50及びt=1.2mmを代入して得た値よりも大きくならないように構成され」(請求項1)ていると認められる,とする審決の認定判断(審決書6頁2段)に誤りがないことは,次のとおりである。
すなわち,コマ収差の式「W31 =(t/2)・[(N2-1)N2sinθcosθ/(N2-sin2θ)5/2]・sin3α」は,式中で数値が特定されないNとθを含む項「(N2-1)N2sinθcosθ/(N2-sin2θ)5/2」を1/k,sinα=NAとして書き換えると,W31 =(t/2)・(1/k)・NA3,すなわち,2k・W 31=t・NA3 となる(審決書5頁15〜19行参照。数式の単なる変換にすぎず,この数式の変換自体に誤りがないことは当事者間に争いがない。)。さらに,上記kは,原告が主張するように,透光性カバーの材質によって,スキューθも屈折率Nも変ってくる可能性があるため,これを定数であるということはできないものの,透光性カバーの材質として同一のものを用いるとの前提で考えれば,スキューθも屈折率Nも一定の数値となることは明らかである。
そして,本願発明の構成C(「上記対物レンズの開口数をNA,上記透光性カバーの厚さをt,上記透光性カバーの屈折率をNとしたときに,コマ収差W31が, W31 =(t/2)・[(N2-1)N2sinθcosθ/(N2-sin2θ)5/2]・sin3α (θ:スキュー,sinα=NA) を満足するとともに,上記式にNA=0.50及びt=1.2mmを代入して得た値よりも大きくならないように構成され,」)におけるコマ収差の値の比較は,同じ材質の透光性カバーのもの同士で,対物レンズの開口数NA及び透光性カバーの厚さtを上記W31 の式に代入して得られる値と,「上記式にNA=0.50及びt=1.2mmを代入して得た値」とを比較すべきものと解すべきことは当然である。なぜならば,このように解さなければ,対物レンズの開口数NAや透光性カバーの厚さtを,基準となる数値(従来技術における数値・NA=0.50及びt=1.2mm)と比較する意味がなくなるからである。換言すれば,本願発明は,「対物レンズのNAをより大きくし,光ディスクの透光性カバーをより薄くしたから,より高密度な記録及び/又は再生が可能となって,大容量化を図ることができる。」(甲2号証25頁3〜6行)との効果を奏するために,透光性カバーの厚さと対物レンズの開口数の組合せが重要な構成となっており,このことが構成D及びEにおいて規定されているだけでなく,構成Cにおいても,コマ収差W31 の式(t・NA3が重要な意味を持つ数式に変換し得ることは上記のとおりである。)によって,従来技術における数値・NA=0.50及びt=1.2mmを同式に代入して得た値よりも大きくならないように,対物レンズの開口数NAと透光性カバーの厚さtが組み合わされるとの構成を規定しているものであるから,構成Cに関しこの比較を行う場合において,透光性カバーを同質のものとして(ガラスならガラス,樹脂なら樹脂として),すなわち1/kを一定のものとして,その上で上記NAと上記tを代入して得られる数値を比較すべきであることは,本願発明の上記構成Cからして当然のことである。
以上からすれば,刊行物1記載の発明における対物レンズの開口数(NA)0.65及び透光性カバーの厚み(t)0.5mmの数値を本願発明のコマ収差の式W31 に代入して得られる数値が,透光性カバーの厚み(t)を1.2mm,対物レンズの開口数(NA)を0.50として同式に代入して得られる数値よりも低いことは,t・NA3が前者では0.5×0.653=0.137,後者では1.2×0.503=0.15となることから明らかである。
したがって,審決が「刊行物1記載の発明のコマ収差W31 を算出すれば「式にNA=0.50及びt=1.2mmを代入して得た値よりも大きくならないように構成され」ていると認められる。」(審決6頁2段)とした認定判断に誤りはない。
なお,審決が,「いずれの光ディスクシステムにおいても1/kは概ね定数と想定できる(大きく変化しない)ものであるから,即ちスキュー(θ)も透光性基体の屈折率(N)も大きく変化しないと理解するのが相当である」(審決書6頁2段)と説示した部分は,この部分のみを採り上げれば誤りである。すなわち,コマ収差W31 の式におけるスキューθは,透光性カバーの材質がガラスかポリカーボネート等の樹脂かによってヤング率が異なり,これにより異なるものとなることは,甲10号証から容易に推認することができるから,これらの数値によって構成される1/kが,いずれの光ディスクにおいても概ね定数であると断定することはできない。しかし,審決は,「なお,1/kが刊行物1記載の発明と本願発明とで異なる場合であっても,少なくともそれぞれの発明の中で採用する1/kは同じであるのだから,このことでも,前記コマ収差W31 に関する上記判断は左右されない。」(審決書6頁3段)とも説示しており,この趣旨は,それぞれの発明について比較の対象とされる透光性カバーの材質は同じであるべきであるから,「それぞれの発明の中で採用する1/kは同じである」ことを説示しているものと解することができ,審決のこの説示については誤りはない。いずれにしても,刊行物1記載の発明が本願発明の構成Cを備えている旨の審決の上記認定判断に誤りはない。
3 取消事由3(手続違背)について 原告は,本願発明の「透光性カバー」は,少なくとも本件補正書により構成Cが請求項1に追加補正された段階で,ポリカーボネートであることを当然の前提としていると解すべきであり,審判合議体は,仮に,この点について疑義があるようであれば,十分な審理を行うために,この点が特許請求の範囲(請求項1)に記載されていないという趣旨の拒絶理由通知書を発すべきであった,と主張する。
しかし,本願発明の「透光性カバー」をポリカーボネートに限定して解すべき根拠となる記載が本願明細書において見当たらないことは前記のとおりであるから,原告の上記主張が全く理由がないものであることは明らかである。
原告は,刊行物1が,平成15年3月11日付けの拒絶理由通知(乙第3号証)によって初めて引用されたものであったこと,その他原告側の事情に照らし,原告に対し本件補正書を提出する機会が十分与えられていたとはいえない旨主張する。
しかしながら,原告の主張するいずれの点も,刊行物1に対応するための本願明細書の補正の機会が原告に対し十分に与えられていないと認めるに足りる程のものとはいえないことは明らかである。
原告の手続違背の主張も理由がない。
4 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 若林辰繁