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関連審決 不服2006-17844
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10104審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10024審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10353審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10265審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10133審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 承継 /  技術的思想 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  名義変更 /  参酌 /  技術的意義 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  国際出願 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10179号 審決取消請求事件
原告ワイス
同訴訟代理人弁理士曾我道治 古川秀利 鈴木憲七 梶並順 大宅一宏 飯野智史
被告特許庁長官
同 指定代理 人亀丸広司豊永茂弘 黒瀬雅一 安達輝幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2006−17844号事件について平成21年2月16日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文1項と同旨第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,下記2のとおりの本件補正を却下した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件出願(甲7)及び拒絶査定出願人:ザプロクターアンドギャンブルカンパニー発明の名称:「ヒートセル」出願番号:平成9年特許願第504447号(国際出願)出願日:平成8年6月14日パリ条約による優先権主張:平成7年(1995年)6月29日(米国),平成8年(1996年)2月21日(米国)手続補正:平成17年11月24日付け(甲8)拒絶査定:平成18年4月28日付け(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成18年9月14日(不服2006-17844号)手続補正:平成18年9月14日付け(甲9。以下,同日付け手続補正書による手続補正を「本件補正」といい,本件出願に係る本件補正後の明細書(甲9)を「本件補正明細書」という。)原告を承継人とする出願人名義変更届の提出日:平成20年10月31日(甲11の1)審決日:平成21年2月16日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成21年3月3日2本件補正の内容本件補正は,特許請求の範囲の請求項1の記載を補正するなどするものであるが,本件補正前後の請求項1の記載は,次のとおり(以下,本件補正後の請求項1に記載された発明を「本件補正発明」という。)である。なお,文中の「/」は,原文の改行部分を示す。
(1)本件補正前(平成17年11月24日付け手続補正後のもの。以下同じ。)の請求項1粒状発熱組成物を含有するヒートセルであって,/該粒状発熱組成物が,重量基準で,/a.)30%〜80%の鉄粉;/b.)3%〜25%の活性炭,非活性炭及びそれらの混合物;/c.)0.5%〜10%の金属塩;および/d.)1%〜40%の水/を含有し,その際該粒状発熱組成物の粒子は少なくとも2つの向かい合った表面を有する統一構造に形成されたポケット中に組み入れられており,その際少なくとも1つの表面は酸素透過性であり,該粒状発熱組成物で充たされたときに充填容積及びセル容積を有し,充填容積とセル容積の割合が0.7から1.0であり,該割合はセル壁への特異な圧力の使用なしで維持され,さらに該ヒートセルの頂上は0.15cm〜1.0cmの高さを有し,該ヒートセルは40cm 未満2の全表面積を有するものである。
(2)本件補正後の請求項1(下線部を付した部分は,補正箇所である。)粒状発熱組成物を含有するヒートセルであって,/該粒状発熱組成物が,重量基準で,/a.)30%〜80%の鉄粉;/b.)3%〜25%の活性炭,非活性炭及びそれらの混合物;/c.)0.5%〜10%の金属塩;および/d.)1%〜40%の水/を含有し,その際該粒状発熱組成物の粒子は少なくとも2つの向かい合った表面を有する統一構造に形成されたポケット中に組み入れられており,その際少なくとも1つの表面は酸素透過性であり,該粒状発熱組成物で充たされたときに充填容積及びセル容積を有し,充填容積とセル容積の割合が0.7から1.0であり,該割合はセル壁への特異な圧力の使用なしで維持され,該ヒートセルの頂上は0.15cm〜1.0cmの高さを有し,該ヒートセルは40cm 未満の全表2面積を有し,かつ前記粒状発熱組成物の粒子の少なくとも80%が200μm未満の平均粒度,好ましくは該粒状発熱組成物の粒子の少なくとも90%が150μm未満の平均粒度を有する。
3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件補正発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び下記イの引用例2に記載された発明並びに下記ウないしカの周知例1ないし4等に記載された周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができず,したがって,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に違反するから,平成14年法律第24号による改正前の特許法159条1項において準用する平成18年法律第55号による改正前の特許法53条1項の規定により却下すべきものであるとし,その結果,本件出願の請求項1に係る発明の要旨を本件補正前の請求項1の記載に基づいて認定した上,同発明は,本件補正発明と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ア引用例1:特開平2-149272号公報(甲1)イ引用例2:特開昭53-47514号公報(甲3)ウ周知例1:実願平4-67157号(実開平6-26829号)のCD-ROM(甲5)エ周知例2:実願昭60-193802号(実開昭62-101518号)のマイクロフィルム(甲6)オ周知例3:特開昭58-65784号公報(甲2)カ周知例4:特開昭59-229131号公報(甲4)(2)本件審決が認定した引用発明1並びに本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。なお,文中の「/」は,原文の改行部分を示す。
引用発明1:片面を通気面1aとし,他面とを,周側を封着してなる偏平状袋1に,鉄粉を主材とし反応助剤を配合した発熱剤2を厚さ2〜5mmの略均等な偏平状に装入したカイロであって,/発熱剤2は,55〜65wt%前後の鉄粉と18〜22wt%の水,9〜11wt%の木炭などからなる保水剤,3.5〜4.5wt%の活性炭,4.5〜6wt%程度の食塩などを用いたカイロ一致点:粒状発熱組成物を含有するヒートセルであって,/該粒状発熱組成物が,重量基準で,/a.)30%〜80%の鉄粉;/b.)3%〜25%の活性炭,非活性炭及びそれらの混合物;/c.)0.5%〜10%の金属塩;および/d.)1%〜40%の水/を含有し,その際該粒状発熱組成物の粒子は少なくとも2つの向かい合った表面を有する統一構造に形成されたポケット中に組み入れられており,その際少なくとも1つの表面は酸素透過性であり,該粒状発熱組成物で充たされたときに充填容積及びセル容積を有する。
相違点1:本件補正発明においては,「ヒートセルの頂上は0.15cm〜1.0cmの高さを有し,該ヒートセルは40cm 未満の全表面積を有し,充填容積2とセル容積の割合が0.7から1.0であり,該割合はセル壁への特異な圧力の使用なしで維持され」るのに対し,引用発明1では,それらについて明らかでない点相違点2:本件補正発明においては,「粒状発熱組成物の粒子の少なくとも80%が200μm未満の平均粒度」を有するのに対し,引用発明1では,粒状発熱組成物の粒子の平均粒度がどのようになっているか明らかでない点4取消事由(1)一致点の認定の誤り(取消事由1)(2)相違点1についての判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(一致点の認定の誤り)について〔原告の主張〕本件審決は,引用発明1の「片面を通気面とし,他面とを,周側を封着してなる偏平状袋」が本件補正発明の「2つの向かい合った表面を有する統一構造に形成されたポケット」に相当するとした上,両発明が後者の点で一致すると認定したが,本件補正明細書の記載によると,本件補正発明の「2つの向かい合った表面を有する統一構造に形成されたポケット」は,2つの基材の表面を向かい合わせて結合して形成された統一構造の内表面側から外表面側に向かって熱成形等の成形手段によって形成された粒状発熱組成物の粒子を充填することのできるくぼみをいうのに対し,引用例1の記載及び図示によると,引用発明1の「片面を通気面とし,他面とを,周側を封着してなる偏平状袋」は,袋全体に発熱剤を略均等に充填することができるように通気面と非転着性粘着剤層が層着される他面との周側を単に封着した袋であって,発熱剤を充填することのできるくぼみが通気面又は他面のいずれにも形成されていないものであるから,本件審決の認定は誤りである。
なお,引用発明1の偏平状袋内に発熱剤を充填することにより当然に生じる膨らみをもって,これを一定の形状に賦形されたものということはできない。
〔被告の主張〕引用発明1の「片面を通気面とし,他面とを,周側を封着してなる偏平状袋」が「少なくとも2つの向かい合った表面を有する」ものであることは明らかであり,また,本件補正発明の「統一構造」とは,2つの表面をつないだ結果一体的に形成されているものという程度の意味であるから,引用発明1も,「統一構造」を備えているということができる。さらに,「ポケット」とは,一般に,その形状にかかわらず袋状になっているものを指し,特段賦形されたくぼみを意味するものではないと理解されるのが通常である(乙1)から,引用発明1の「偏平状袋」も,ポケットに相当するものである。
したがって,本件審決に,原告が主張するような一致点の認定の誤りはない。
原告は,本件補正発明の「ポケット」がくぼみであると主張するが,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして失当である。なお,本件補正後の請求項1(以下,単に「請求項1」という。)の「少なくとも2つの向かい合った表面を有する統一構造に形成された」との記載からは,2つの対称的な平面で構成される袋状の形状が想起されるのが普通であって,一方が平面で他方がくぼみとなるような形状が想起されることはないか,仮にあったとしても,普通に想起される形状ではない。
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決は,相違点1のうち「充填容積とセル容積の割合が0.7から1.0であり,該割合はセル壁への特異な圧力の使用なしで維持され(る)」との構成(以下「本件構成」という。)について,発熱部に発熱剤を充填すれば充填容積のセル容積に対する割合が0.7から1.0となり,当該割合がセル壁への特異な圧力の使用なしで維持されることも何ら特異なことではないとした上,引用発明1に周知例1及び2記載の周知の技術手段を適用して相違点1に係る本件補正発明の特定事項とすることは当業者が容易に想到し得ることであると判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
(1)周知例1及び2記載の周知の技術手段を引用発明1に適用しても本件構成を導くことができないこと引用例1並びに周知例1及び2には,そもそも本件構成についての記載が全くないから,引用発明1に周知例1及び2記載の周知の技術手段を適用しても,本件構成を導くことはできない。
(2)引用発明1において本件構成を採用することに阻害要因があることア引用例1の記載によると,引用発明1は,酸化発熱時の袋内を減圧状態とすることにより発熱剤の片寄りが生じない程度に袋の内表面間で発熱剤を圧縮するものであって,そのような圧縮により,袋の容積に対する発熱剤の占める容積の割合は当然に変化しているのであるから,少なくとも発熱剤の酸化発熱時においては,袋の容積に対する発熱剤の占める容積の割合が維持されることを全く想定しないものである。そのような引用発明1において本件構成(袋の容積に対する発熱剤の占める容積の割合が維持されるような構成)を採用すると,袋の内表面間で発熱剤を圧縮することができないこととなり,引用発明1の目的を達成することができなくなるから,引用発明1において本件構成を採用することには阻害要因があるというべきである。
なお,本件補正発明にいう容積の割合の維持とは,一定の数値が維持されることを意味するものであり,一定の数値範囲内に収まることを意味するものではない。
けだし,本件補正明細書の記載によると,充填容積及びセル容積は,「少なくとも2つの向かい合った表面」を構成する材料の伸びや変形がない状態で測定されるものであるからである。
イ引用例1の記載によると,引用発明1は,相当のゆとりを持って発熱剤を充填するカイロにおいて,発熱時の発熱剤の片寄りを阻止することを解決課題とするものであり,発熱剤の片寄りがそもそも生じない程度に発熱剤を充填すること,すなわち,充填容積のセル容積に対する割合を1.0近くにすることを想定していないものである。
〔被告の主張〕(1)本件構成において維持される対象請求項1の記載によると,本件構成において維持される対象は,0.7から1.0という範囲をもった充填容積のセル容積に対する割合であるから,それが維持されるということは,当該数値範囲が維持されることを指し,当該割合が変化しても,当該数値範囲内に収まる限り,当該割合が維持されていることに変わりはない。このことは,本件補正発明においても,ポケット内の発熱組成物が酸化発熱することにより,ポケット内における減圧が生じると考えられることからも裏付けられるものである。
そうすると,引用発明1においても,当該割合が維持されるということができる。
この点に関し,原告は,充填容積及びセル容積が材料の伸びや変形がない状態で測定されるとの本件補正明細書の記載を挙げて,本件構成において維持される対象が充填容積のセル容積に対する割合に係る一定の数値であると主張するが,原告が挙げる本件補正明細書の記載は,製造段階等において容積の測定を正確にするためにそのような状態で測定を行うことが望ましいことをいうにすぎず,使用時にヒートセルが減圧されたり,身体ラップに組み込まれたりすると,程度の差こそあれ,基材の変形やセル容積及び充填容積の変化が生じるものであるから,当該割合が変化することは明らかであるし,本件構成が奏すべき作用効果(セル内における粒子の片寄りの防止)からみて,当該割合は,一定の数値範囲内に収まれば十分であるから,原告の主張は失当である。
(2)下限値を0.7とし上限値を1.0とすることの容易想到性本件補正発明及び引用発明1は,いずれも,ポケット(袋)内の発熱組成物(発熱剤)の移動及び片寄りを阻止することを目的とするものであるところ,そのためには,充填容積のセル容積に対する割合が1.0に近い方が有利であることは明らかである。
他方,充填容積のセル容積に対する割合が小さすぎると発熱組成物(発熱剤)の移動及び片寄りが発生しやすくなることは,当業者にとって明らかであるところ,本件補正明細書には,当該割合の下限値を0.7とすることの根拠やその臨界的意義についての記載が全くないのであるから,当該下限値は,当業者が通常の創作能力の範囲で適宜行う数値の好適化として選定されたものというべきである。そして,引用発明1においても,充填容積のセル容積に対する割合を1.0とすることによりその目的が達成されるところ,発熱剤の酸化による減圧が始まる前に,当該割合につき,これを,ある程度のゆとりを持たせつつ,小さくなりすぎない範囲で1.0より幾分小さくすることは,当業者が自然に行うことであるから,当該割合の下限値を0.7程度とすることは,当業者の通常の創作能力の範囲で選定し得るものである。
(3)「セル壁への特異な圧力の使用なしで維持」するとの構成の容易想到性引用発明1は,袋の外部又は内部からの付加的な圧力(特異な圧力)を特段使用するものではないから,本件構成のうち「セル壁への特異な圧力の使用なしで(該割合を)維持」するとの構成を採用することは,当業者が通常の創作能力の範囲で行い得ることである。
なお,引用発明1は,発熱剤の酸化発熱時に,袋内を減圧状態にするものであるが,そのことにより,引用発明1が特異な圧力を使用していることにはならない。
けだし,上記(1)及び(2)のとおり,引用発明1において充填容積のセル容積に対する割合を減圧前に0.7から1.0とすることは,当業者の通常の創作能力の範囲で選定し得るものであるところ,減圧後も,そのような数値範囲は維持されるからである。さらに付言すると,本件補正明細書及び引用例1の記載からみて,本件補正発明における通気度は,引用発明1におけるそれと同程度のもの(乙2参照)であり,その減圧程度も,引用発明1のそれに近いものと予測されるから,仮に,引用発明1が特異な圧力(減圧)を使用しているというのであれば,本件補正発明も,同様に特異な圧力を使用していることになる。
(4)阻害要因の有無引用発明1において本件構成を採用しても,上記(1)のとおり,充填容積のセル容積に対する割合は一定の数値範囲内で維持されるのであるから,発熱剤を圧縮するとの引用発明1の目的を達成することができる。したがって,引用発明1において本件構成を採用することに阻害要因があるということはできない。
(5)小括以上のとおりであるから,引用発明1において偏平状袋内に発熱剤を充填するに際し,本件構成を採用することは,当業者の通常の創作能力の範囲で容易になし得ることである。
第4当裁判所の判断1取消事由1(一致点の認定の誤り)について(1)本件補正発明の「ポケット」の技術的意義本件補正発明の「ポケット」の技術的意義について,原告は,2つの基材の表面を向かい合わせて結合して形成された統一構造の内表面側から外表面側に向かって熱成形等の成形手段によって形成された粒状発熱組成物の粒子を充填することのできるくぼみをいうと主張するのに対し,被告は,広辞苑(乙1)に記載された日常用語としての意味を主張するのみであり,本件補正発明が属する技術分野における技術常識に即して「ポケット」の技術的意義が一義的に明確であると主張するものではなく,その他,請求項1の記載から,本件補正発明の「ポケット」の技術的意義を一義的に明確に理解することはできないから,これを明確にするため,以下,本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,その技術的意義を検討することとする。
ア本件補正発明の「ポケット」に関し,本件補正明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
【0014】(ヒートセルの構造)ヒートセルは,少なくとも2つの対面する表面,好ましくはフィルム層基材表面(を)有する統一した構造に形成され…る。…【0016】対向する表面は,2つの基材の周囲を結合し,…ポケットの内側のフィルム側及び外側の不織布側により,…ポケットを形成させることにより,造ることができる。また,ポケットは熱成形,機械的エンボス,真空エンボス又は他の許容しうる手段により造ることができる。…【0017】得られたヒートセルは幾何学的形状,例えばディスク,三角形,ピラミッド,角,球,正方形,立方体,長方形,長方形状平行六面体,円筒体,楕円体などを有することができる。本発明の好ましい形状は,…ディスク形状からなるものである。…【0019】個々のヒートセルは典型的には,粒状発熱組成物の固定量をポリプロピレン不織布/LDPEフィルム層基材シートのポケットに入れることにより製造することができる。この方法においては,…ポリプロピレン不織布/ポリ(エチレン-酢酸ビニル)フィルム層基材の平滑なシートは,セルの,予め形成されたポケットを有するシートのLDPEフィルム側の面しているポリプロピレン不織布/ポリ(エチレン-酢酸ビニル)フィルム側に配置される。2つのシートのフィルム層は,低加熱成形法を用いて一緒に結合され,統一した構造が形成される。得られたヒートセルは2つ(の)フィルム層基材シート間のポケットにシールされた粒状発熱組成物を含有する。
【0020】代わりに,固定量の粒状発熱組成物を,ポリプロピレン不織布/LDPEフィルム層基材シートのポケットへの磁気移動機を使用して,個々のヒートセルを製造することができる。…個々のヒートセルを製造する上記の方法の他の代替法では,真空を使用してポケットを形成する。即ち,フィルム層基材表面(を)引いて,粒状組成物が成形体上のフィルム層基材表面の頂部に直接配置されるように成形するために,真空が使用される。粒状組成物は,真空形成されたポケットに落ち込み,そして成形体の底に磁石による粒状組成物に与えられた磁気力により適所に保持される。…【0027】(実施例1)ヒートセルを次のようにして調製する。…26個のピンを,LDPEで被覆されたポリプロピレン不織布のシートで熱成形され,ディスク状に予め成形されたポケットの底に,同時にプレスする。…ついで,…粒状発熱組成物を予め成形したポケットに入れる。…【0029】(実施例2)ヒートセルを次のようにして調製する。…粒状発熱組成物を,LDPEのフィルムで被覆されたポリプロピレン不織布のシートのディスク状に予め成形されたポケットに入れる。…イ上記発明の詳細な説明の記載によると,本件補正発明の「ポケット」とは,「少なくとも2つの向かい合った表面を有する統一構造」を構成する2つの基材の一方に熱成形等の何らかの方法により形成され,粒状発熱組成物を充填することができるような底といえる部分を有する賦形された内部空間を意味し,単に,平坦な2つの基材によって形成される袋状の内部空間を指すものではないと解釈するのが相当である。
ウこの点に関し,被告は,請求項1の「少なくとも2つの向かい合った表面を有する統一構造に形成された」との記載からは,2つの対称的な平面で構成される袋状の形状が想起されるのが普通であると主張する。しかしながら,被告の主張は,「統一構造に形成された」との文言が「一体的に形成された」と同じような意味を有することを前提とするものと解されるところ,上記発明の詳細な説明の記載によると,「統一構造」とは,2つの基材によって構成される構造体を指し,そのような構造体に「形成された」ものが「ポケット」であると解釈されるから,被告の主張は,その前提を誤るものであって,採用することができない。
(2)引用発明1の「偏平状袋」の技術的意義他方,引用例1には,偏平状袋の片面を通気面とし他面を接着面とすること,偏平状袋内に発熱剤を略均等な偏平状となるように装入すること,及び偏平状袋内が減圧されるため同袋が大気圧により圧偏状態を維持することができることが記載され,また,第2図には,偏平状袋が平坦な2つの基材(通気性面を有するもの及び非転着性粘着剤層を有するもの)から形成され,発熱剤が充填されて偏平状となっている様子が示されているにとどまり,偏平状袋を構成する平坦な2つの基材の一方に,熱成形等の何らかの方法により形成され,発熱剤を充填することができるような底といえる部分を有する賦形された内部空間が形成されることについての記載又は図示は全くないから,引用発明1の「偏平状袋」は,「少なくとも2つの向かい合った表面を有する統一構造」であるというにすぎす,当該統一構造に「ポケット」が形成されたものとまでいうことはできない。
(3)本件審決の認定の当否上記(1)及び(2)によると,引用発明1の「偏平状袋」は,本件補正発明の「少なくとも2つの向かい合った表面を有する統一構造」には相当するものの,「ポケット」を備えるものではないから,両発明につき,粒状発熱組成物の粒子が「ポケット」中に組み入れられているとの点で一致するとした本件審決の認定は誤りであるといわなければならない。
(4)小括したがって,原告主張の取消事由1は理由がある。
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について(1)引用発明1の目的原告は,引用発明1において本件構成を採用することに阻害要因があると主張するので,まず,引用例1の記載から引用発明1の目的についてみてみることとする。
ア引用例1には,次の内容の記載がある。
(ア)解決課題従来の接着方式による使い捨てカイロが人体に適用される場合,垂直状又は傾斜状となることが一般的であるところ,カイロの袋内への発熱剤の装入は,相当のゆとりを持った偏平な状態とならざるを得ないことから,人体に適用される場合,袋内における発熱剤の片寄りの発生が不可避となり,そのような片寄りによって,発熱剤の発熱状態が乱れ,発熱に伴う温度分布が不均一なものとなる。
(イ)課題を解決するための手段及び発明の作用偏平状袋内に装入された発熱剤の酸化発熱により袋内が減圧するように,偏平状袋の通気面における単位時間当たりの通気度を5000〜10000秒/100ccに制限する。
偏平状袋の通気面における通気度を5000秒/100cc以下とすること(袋内の酸素量(空気量)を酸化に必要な量以下に制限すること)により,袋内に装入された発熱剤の酸化発熱によって袋内が減圧され,酸化発熱時に偏平状袋が大気圧で圧偏状態を維持し,このように偏平状袋が圧偏化されることにより,装入された発熱剤の袋内における片寄りが阻止され,温度分布の均等化が図られる。
イ上記記載によると,引用発明1は,発熱剤の酸化発熱の前においては,相当のゆとりを持った状態で発熱剤を偏平状袋内に装入した上,発熱剤の酸化発熱の開始後においては,酸素の通気量が制限されていることにより偏平状袋内が酸素不足の低圧状態となることに従って偏平状袋に作用する大気圧を積極的に利用し,これによって偏平状袋の圧偏状態を維持し,もって,偏平状袋がどのような向きで使用される場合であっても,発熱剤が重力方向に片寄らないようにすることを目的とするものということができる。
(2)本件構成中の「該割合はセル壁への特異な圧力の使用なしで維持され」との構成の技術的意義これに対し,本件構成についてみると,被告は,本件構成中の「該割合はセル壁への特異な圧力の使用なしで維持され」との構成につき,これが充填容積のセル容積に対する割合が0.7から1.0の範囲内に収まることを意味すると主張する。
しかしながら,請求項1には,「充填容積とセル容積の割合が0.7から1.0であり,該割合はセル壁への特異な圧力の使用なしで維持され」と記載されているところ,ここでいう「該割合」が「充填容積とセル容積の割合」を指すものであることは文言上明らかであるし,「該割合」が「セル壁への特異な圧力なしで」維持される,すなわち,セルの変形等によるセル容積の変更がない状態で維持されるというのであるから,被告主張に係る現実の使用時等における基材の変形等の可能性や本件構成が奏すべき作用効果について考慮してもなお,上記構成にいう「維持」とは,当該割合に係る一定値がおおむね維持されることを指すものと解釈するのが相当であって,これを被告が主張するように解釈することはできない。
なお,本件補正明細書の発明の詳細な説明には,空間容積(セル容積-充填容積)が,最終ヒートセル(二次包装に供されるまでに完成されたヒートセル)に対する特異な圧力なしに,かつ,基材物質の付加的な伸びや変形なしに測定されるとの記載(【0014】,【0025】)があるほかは,ポケット内の減圧に伴う大気圧の使用その他の外的な圧力の使用によってセル容積を小さくすることにより,充填容積のセル容積に対する割合を一定値(0.7)以上に維持する(その場合には,当該割合が変化し得る。)旨の構成,技術的思想等についての記載は全くないのであるから,仮に,本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても,上記維持される対象につき,これを被告が主張するように解釈することはできないというべきである。
(3)引用発明1において本件構成を採用することについての阻害要因の有無前記(1)の引用発明1の目的に照らすと,同発明に前記(2)のような技術的意義を有する本件構成(充填容積のセル容積に対する割合を0.7ないし1.0とし,かつ,当該割合に係る一定値をセル壁への特異な圧力の使用なしにおおむね維持するとの構成)を採用することは,偏平状袋内に低圧状態が生じることに従って偏平状袋に作用する大気圧を積極的に利用するという引用発明1の目的に正面から反するものであり,そのような構成を採用すると,引用発明1の目的を実現することができなくなるものであるから,引用発明1において本件構成を採用することには,積極的な阻害要因があるというべきである。
(4)本件審決の判断の当否以上によると,仮に,本件構成が周知例1,2等に記載された周知の技術手段であったとしても,これを引用発明1に適用することはできないから,引用発明1に周知例1,2等に記載された周知の技術手段を適用し,本件構成を含む相違点1に係る本件補正発明の構成を採用することが当業者において容易に想到し得るものであるとした本件審決の判断は誤りであるといわなければならない。
(5)小括したがって,原告主張の取消事由2も理由がある。
3結論以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲