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事件 |
平成
21年
(行ケ)
10165号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2010/03/11 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成22年3月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成21年(行ケ)第10165号審決取消請求事件(特許) 口頭弁論終結日平成22年2月2日 判決 原告X1 原告X2 原告ら訴訟代理人弁理士渡邊功二 被告特許庁長官 同 指 定 代 理 人森林克郎 同 村田尚英 同 紀本孝 同 小林和男 主文 1原告らの請求を棄却する。 2訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1請求 特許庁が不服2006?17678号事件について平成21年4月27日にした 審決を取り消す。 第2事案の概要 本件は,原告らが,名称を「回転ペダル付椅子」とする発明につき特許出願した ところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,同発明は後 出の引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたも のであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとして,請 求不成立の審決を受けたことから,その審決の取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯 原告らは 平成17年 2005年 12月27日 上記発明につき特許出願 特 ,(),( 願2005?376646号。国内優先権主張,平成17年7月29日 )し,平。 成18年6月19日付けで手続補正(甲4)したが,同年7月6日付けで拒絶査定 を受けたので,これを不服として,同年8月11日に審判請求をした。 特許庁は,審理の結果,平成21年4月27日 「本件審判請求は,成り立たな , い 」との審決をし,同年5月22日,その謄本を原告らに送達した。 。 2本願の特許請求の範囲 平成18年6月19日付け手続補正書(甲4)により補正された特許請求の範囲 ,,(「」。, によれば 請求項1の発明は 次のとおりである 以下 本願発明 という なお , ,, 請求項は1ないし14まで存在するが 請求項2ないし14に関する部分は 以下 省略する。。) 「脚部と座部と背もたれ部とを有し,該座部が前端側の左右両側にて切り欠かれ ている椅子部と, 該椅子部の前方にて床面に載置されて該座部に着座した着座者が両足先を載置で きるように両足の下方に配置された左右一対の回転可能なペダルを有する回転ペダ ル部と,該一対のペダルを1?10回/分の低速度で回転させる回転駆動部とから なるペダル装置とにより構成されたことを特徴とする回転ペダル付椅子 」。 3審決の理由 審決は,本願発明は,特開平9?225061号公報(甲1。以下「引用例」と いう)に記載された発明(以下「引用発明」という )に基づいて当業者が容易に 。 発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受け ることができないと判断した。 審決が認定した引用発明の内容,一致点及び相違点並びに容易想到性の判断内容 は,次のとおりである(なお,以下において引用した審決中の当事者及び公知文献 等の表記は,本判決の表記に統一した。。) (1) 引用発明の内容 「手をかけて回転させるハンドル1と,腰をかけるサドル2と,足をかけて回転させるペダ ル3と,ハンドル1およびペダル3に負荷を加えるモータ4とから構成され, ハンドル1より後方の下方にはサドル2を配置し,サドル2は,下部ケース部12の後方部 に突出して形成したサドル取付部ケース14から露出させて,このケース14または内部のフ レームに取り付け,このサドル2の高低及び前後位置は,使用者の身長,器具の使用目的によ って適宜に変更可能とし, サドル2の後ろ側には,背凭れ15をサドル取付部ケース14から上方へ突出させて設け, ハンドル部ケース13の根元の下部ケース部12内に,ペダル3の回転軸8の部分を正逆回 転動可能に設け, ペダル3は,回転軸8の両端にそれぞれペダル軸連結部材23を取り付け,この連結部材2 3の連結片23aに足掛け取付アーム24を取付け,このアーム24に取り付けて形成し, ハンドル1およびペダル3にかける負荷を発生するモータ4は,回転数可変モータから回転 数を制御することにより調節する型式で構成し, モータ4の負荷の調節は,モータの回転数で調節し, 『運動なし』の状態より弱い負荷とすることによりリハビリにも用いられる装置 」。 (2) 引用発明と本願発明の一致点 「脚部と座部と背もたれ部とを有し,該座部が前端側の左右両側にて切り欠かれている椅子 部と, 該椅子部の前方にて床面に載置されて該座部に着座した着座者が両足先を載置できるように 両足の下方に配置された左右一対の回転可能なペダルを有する回転ペダル部と,該一対のペダ ルを所定の回転数で回転させる回転駆動部とからなるペダル装置とにより構成された回転ペダ ル付椅子 」。 (3) 引用発明と本願発明の相違点 「回転駆動部によって回転されるペダルの回転数が,本願発明においては『1?10回/分 の低速度』であるのに対し,引用発明においては 『運動なし』の状態よりも弱い負荷とする , ことによりリハビリ用として用いることが可能であるものの,その場合の具体的回転数につい ての限定がなされていない点 」。 (4) 相違点に関する容易想到性の判断 ア相違点について 「,『 , 』,, 引用発明はモータ4の負荷の調節は モータの回転数で調節 するものであり また 『 運動なし」の状態よりも弱い負荷とすることによりリハビリ用として用いる』ものである 「 ことを勘案すれば,引用発明は,きわめて小さな負荷,すなわち,きわめて小さな回転数でも 使用するものであることは,技術常識から考えて当然の事項である。 そして,上記『きわめて小さな回転数』として『1?10回/分』を採用することは,該数 値範囲の上限及び下限に臨界値的意義が認められないことにかんがみれば,当業者が容易に想 到し得たことである 」。 イ平成18年8月29日付け審判請求書における原告らの主張について 「なお,請求人は,平成18年8月29日付けで手続補正された審判請求書において, 『本願請求項1の発明においては,回転駆動部の駆動により左右一対のペダルを1?10回 /分の低速度で回転させるものであり,椅子部の座部に腰掛けた着座者が,両足を左右一対の ペダルに載せることにより,自らペダルを漕ぐのではなくペダルの回転に追従して自動的に1 ?10回/分の低速度でほとんど意識しないでペダルを漕ぐ状態にさせられるのである 』と。 記載し,本願請求項1の発明においては 『自らペダルを漕ぐのではなくペダルの回転に追従 , して』用いることを主張している。 しかしながら,第1に,上記の『自らペダルを漕ぐのではなくペダルの回転に追従して』用 いることは,本願の請求項1に特定されている事項ではなく,上記主張は請求項の記載に基づ いた主張ではないから,採用できない。 また,第2に,引用発明においても,どのように引用発明の装置を用いるかは装置を使用す る目的に応じて当業者が適宜設定し得ることであるから 『自らペダルを漕ぐのではなくペダ , 』, 。」 ルの回転に追従して 用いることは 当業者が容易に想到し得る事項に過ぎないことである (5) むすび 「以上より,本願発明は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をする , 。」 ことができたものであるから 特許法29条2項の規定により特許を受けることができない 第3原告ら主張の取消事由 審決は,次に述べるとおり,認定及び判断に誤りがあるから,取り消されるべき である。 1取消事由1(引用発明の認定の誤り)について (1) 審決が,引用発明の認定において,引用発明を「 運動なし』の状態より弱 『 い負荷とすることによりリハビリにも用いられる装置 」と認定した点は,誤りで 。 ある。 引用発明の装置は,リハビリ用としては不適当であり,鍛練用装置に限られるも のであるから,その使用目的も身体を鍛錬することに限られるというべきである。 (2) まず,引用発明のサドルについては,臀部を滑りやすい不安定な状態にする ものであることから,特に体力の劣るリハビリ者にとって単にサドルに腰掛けるの みで腰掛けた状態を安定させることは無理であり,ハンドルを握ることによりかろ うじて腰掛けることができるものと解される。しかし,このようにハンドルを握っ て体を前傾状態にして不安定なサドルに腰掛ける姿勢をとること自体が体力の劣る リハビリ者にとっては非常な無理があり,これに加えて,さらにペダルを踏みハン ドルを回転させることは,ペダルやハンドルの回転数の多少にかかわらず,全く無 理である。 ,, 。, (3) また 引用発明では 本願発明にはないハンドルが設けられている 確かに ハンドルは,両手でそれを持つことにより,サドルに腰掛けることによる不安定な 状態を緩和させる効果があるが,前傾姿勢でハンドルを握る動作により両腕に対す る負荷が加わることになる。特に,ハンドルは階段形に形成されているため,両腕 に加わる負荷が一層大きくなる。そして,引用発明では,ペダルを漕ぐと共にハン ドルを回転させるものであって,両足のみではなく両腕も回転させることにより, 全身を鍛錬するものであるから,同時に全身に掛かる負担も非常に大きくなるもの である。 さらに,ハンドルは階段形であり,両手で,しかも左右の上下でもって回転させ るものであるから,前傾姿勢となり,肩を上げ,脇を開き,顎を上げ,上肢をねじ るといった状態になるが,これらは非常に不安定な姿勢であるため,無理に力を入 れて速く行うことにより,首,肩,背中,腕,脊柱等に過大な負荷を与え,その結 果,これらの部分に損傷を与えるおそれが多分にある。 (4) 以上のとおり,引用発明は,自らの意思で筋肉を鍛えるものであって,リハ ビリに用いることは不適切であるから,審決の認定は誤りである。 2取消事由2(一致点の認定の誤り)について (1) 本願発明の「座部」と引用発明の「サドル」について 「」「」 , ア引用発明の サドル2 が本願発明の 座部 に相当するとの審決の認定は 誤りである。 すなわち,引用発明の「サドル」については,明らかに自転車用のサドルと同一 のものである。サドルは,前端側の左右両側にて切り欠かれた小面積の略三角形状 であって,上面側の外周は円弧状に丸められている。これにより,サドルは着座者 の臀部の一部と足の付け根の一部といった限られた部分のみを支持するものであ り,しかも,外周が円弧状に丸められているため,臀部を滑り易い不安定な状態に することが意図されている。これは,自転車のペダルを漕ぐときに,腰を中心とし て身体を動きやすくすることによりペダルを漕ぎやすくするためであるから,サド ルは安定して腰掛けるというものでないことは明らかである。 これに対して,本願発明の「座部」は,椅子の座部であり,実施例の図1ないし 3にも示すように,平坦な板状となっているものであり,着座者の臀部全体と足の 大腿部の半分程度を受け止めて腰部を安定した状態で支持するものである。これに より,着座者の上半身を安定した状態にすることができ,着座者が長時間リラック スした状態で過ごすことができるため,デスクワークや休息等に好適に使用される ものである。確かに,本願発明の「座部」はその前端側の左右両側が切り欠かれて いるが,これは大腿部を下方に動きやすくさせるためのものであって,これにより 「座部」としての上述した基本的な機能が変更されるものではない。 したがって,本願発明の「座部」と引用発明の「サドル」とは全く構造が異なる ものであるから 「サドル」が「座部」に相当するとの審決の認定は誤りである。 , イ被告の反論に対する再反論 (ア) 被告は,本願発明の「座部」が前端側の両側に切り欠き部を有し,ちょうど サドルの形状に類似した形状となっていることを理由として,本願発明の「座部」 が引用発明の「サドル」に相当する旨主張している。しかし,上記のとおり,本願 発明の「座部」は,前端側のみが切り欠かれており,その他の部分については広い 平板形状となっており,このように,座部が平坦な板状となっていることにより, 長時間にわたって着座者の臀部を安定して支持することができるものであるから, 引用発明の「サドル」とは全く異なるものであることは明らかである。 (イ) また,被告は,本願明細書にも,本願発明の「座部」が平坦な板状でなけれ ばならないとは記載されていないとも主張するが,椅子の座部が平板状であること は極めて常識的なことであるため,あえて明細書に記載しなかっただけであって, 例えば,広辞苑第2版(甲5)を参照すると 「椅子」とは平たい台を備えたもの , であることが明らかであるから,本願発明の「座部」も平たい台,すなわち平坦な 板状のものを意味すると解すべきである。この点については,本願の図1ないし3 からも明らかである。 ,,「 ,, (ウ) さらに 被告は手または足の何れかを休む場合には 手または足を外し 空回りさせて使用する」ことが引用例に記載されていることを勘案すれば,引用発 明の「サドル」も安定して腰掛けることが想定されているとも主張するが,サドル の特性を無視した単なる文言上の解釈であり,失当である。 (2) 引用発明の「一対のペダルを所定の回転数で回転させる回転駆動部」につい ても,本願発明の「一対のペダルを1?10回/分の低速度で回転させる回転駆動 部」と異なっていることは明らかである。 したがって,本願発明と引用発明とが回転ペダル付椅子の発明である点で一致す るとの審決の認定は,誤りである。 3取消事由3(相違点の認定の誤り)について 審決は,相違点の認定において,重大な相違点について触れておらず,相違点の 認定に誤りがある。本件においては,次の(1) 及び(2) も相違点というべきである (なお,ここでは,審決が認定した相違点を「相違点1」とする。。) (1) 相違点2 「引用発明では『正逆回転可能なハンドル』が必須の要件であるのに対して,本 願発明では『ハンドル』は全く必要がなくむしろあることにより邪魔になるもので ある点 」。 この点について,被告は,本願発明において「ハンドル」がないことについて何 も記載されておらず,ハンドルに代わる手すり部や机などの部材が本願の請求項に 記載されているわけでもなく,本願発明においてハンドルの存在が邪魔になるとい うようなことは,明細書のどこにも開示されていないことから,本願の請求項の記 載から,本願発明がハンドルを備えたものを排除したことにはならないと主張して いる。 しかし,本願の請求項1の文言上ハンドルは含まれていないのであり,特許発明 の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならないとする 特許法70条の規定からも,本願発明にはハンドルは含まれないと解釈されるべき である。また,本願明細書及び図面にもハンドルは一切記載されていないのである から,結局,本願発明からハンドルは完全に排除されているというべきである。 なお,確かに,本願明細書記載の実施例並びに請求項9及び14に手すり部や机 が記載されており,本願の請求項1に記載されている基本的な構成要素に手すり部 や机を付加することができることは明らかであるが,ハンドルについてはこれらと は全く事情が異なるというべきである。 以上のとおり,本願発明がハンドルを備えたものを排除したことにはならず,引 用発明がハンドルを備えたことが本願発明との相違点とはならないとの被告の反論 は全く根拠がないものであり,失当である。 (2) 相違点3 「引用発明は『身体の鍛練装置』であるのに対して,本願発明は『回転ペダル付 椅子』である点 」。 引用発明は身体の鍛練装置であるところ,鍛錬とは身体を鍛えることを意味する のであり,自らの意思でもって激しく身体を動かすものであって,リハビリ用とし ては不適切であることは前記のとおりである。 これに対して,本願発明の回転ペダル付椅子は,椅子であるからリラックスした 安楽な状態で座ることが前提となっているのであり,引用発明のように身体を鍛え るという構造にはなっていないのであるから,この点は大きな構成上の違いという べきである。 4取消事由4(相違点の判断の誤り)について (1) 「1?10回/分」の回転数について ア審決は,引用発明を極めて小さな回転数でも使用できるものであるとし,そ の「きわめて小さな回転数」として「1?10回/分」を採用することは,当業者 が容易に想到し得たことであると判断している。しかしながら,本願発明の「1? 10回/分」の回転数は,引用発明のようなリハビリ用には適さない鍛練用の装置 にとっては考えられないほど低い数値であって,これでは鍛錬の効果が全く得られ ないものと解される したがって 鍛錬を目的とする引用発明の装置において1 。, ,「 ?10回/分」のような非常に低い回転数を採用することが容易想到であるとした 審決の判断は,誤りである。 イ被告の反論に対する再反論 被告は,引用発明において,小さい負荷,すなわち,小さい回転数とするのはリ ハビリ用に限っており,健常者の鍛練用としては回転数を低くすることは考慮され ていないと主張する。 しかし,引用発明の鍛練装置が,リハビリ用装置としては不適当であることは前 記1のとおりであり,これを鍛練装置としてみた場合,不安定なサドルに腰をかけ て短時間で筋肉鍛練効果を得るためには,1回/秒程度以上の高速でペダルを漕ぐ のが常識である。このように,本願発明の「1?10回/分」という非常に低速度 のペダル回転数は,引用発明の鍛練装置のペダル等の回転数とは全く発想が異なる ものである。 (2) 「自らペダルを漕ぐのではなくペダルの回転に追従して」について 審決は,平成18年8月29日付けで手続補正された審判請求書において,原告 ら(請求人ら)が,本願発明は「自らペダルを漕ぐのではなくペダルの回転に追従 して自動的に1?10回/分の低速度でほとんど意識しないでペダルを漕ぐ状態に させられるのである 」と主張したことに対し,第1に 「自らペダルを漕ぐのでは 。 , なくペダルの回転に追従して」用いることは,請求項1に特定されている事項では なく,この主張は請求項の記載に基づいた主張ではないから採用できず,第2に, 引用発明においても,どのように引用発明の装置を用いるかは,装置を使用する目 的に応じて当業者が適宜設定し得ることであるから 「自らペダルを漕ぐのではな , くペダルの回転に追従して」用いることは,当業者が容易に想到し得る事項にすぎ ない旨判断しているが,誤りである。 すなわち,上記第1の指摘については,前記2(1) のとおり,本願発明が,着座 者が安定した状態でリラックスして腰掛ける座部を有するものであり,引用発明の サドルのように腰を不安定な状態にさせるものとは異なっていることを看過するも のである。着座者が座部に腰掛けて自己の意思で積極的にペダルを漕ぐことは,座 部の構造上非常に無理があり,かえって筋肉や関節を痛める結果にもなる。また, 座部に腰掛けて自らの意思で「1?10回/分」という非常に低速度でペダルを漕 ぎ続けることも実際上無理であり,特に,長時間にわたって漕ぎ続けることは不可 能である。したがって,本願発明の請求項の構成から 「自らペダルを漕ぐのでは , なくペダルの回転に追従して自然に漕ぐ状態にさせられる」という作用が極めて自 然にかつ必然的にもたらされるのである。その結果,本願発明における「自らペダ ルを漕ぐのではなくペダルの回転に追従して自然に漕ぐ状態にさせられる」ことに ついては,本願の請求項1に特定されてはいないが,請求項1の構成に基づいて必 然的に導かれる作用であると解すべきである。 また,上記第2の指摘については,引用発明の装置は,前記1のとおり,リハビ リ用としては不適当であって,鍛練用装置に限られるというべきであるから,その 使用目的は専ら身体を鍛錬することに限られるところ 「自らペダルを漕ぐのでは , なくペダルの回転に追従して」用いることは明らかに鍛練装置としての使用目的に 反することになる。したがって,引用発明の装置において「自らペダルを漕ぐので はなくペダルの回転に追従して」用いることが,当業者が容易に想到し得る事項に すぎないとの審決の判断は,誤りである。 第4被告の主張 次のとおり,審決の認定判断には誤りはなく,原告ら主張の取消事由はいずれも 理由がない。 1取消事由1(引用発明の認定の誤り)に対して (1) 引用発明は,リハビリ用として使用することができるものであることは明ら かである。そして,審決は,引用発明の認定において,引用例の【図5】の記載か ら 「 運動なし』の状態より弱い負荷の場合をリハビリ用と」して用いることが読 ,『 み取れるとし,その記載された事実に基づいて引用発明を上記のとおり認定したも のである。 したがって,審決の引用発明の認定に誤りはない。 (2) 原告らは,引用発明のサドルは,臀部を滑りやすい不安定な状態にするもの であることから,特に体力の劣るリハビリ者にとって単にサドルに腰掛けるのみで 腰掛けた状態を安定させることは全く無理である旨主張する。しかしながら,その ようなことは,引用例のどこにも記載されていない。むしろ,引用例には,サドル 2の後ろ側に背凭れ15やヘッドレスト16を設けることが記載され図1健(【】),「 常者の力より弱い力が必要なリハビリ等に使用する (段落【0020 )ことが記 」】 載され 「手または足の何れかを休む場合には,手又は足を外し,空回りさせ (段 , 」 落【0020 )て使用することが記載されていることを勘案すれば,引用発明の 】 サドルは安定して腰掛けることが想定されていると解される。したがって,上記原 告らの主張は,根拠のない無理な解釈に基づく主張であり,失当である。 (3) 原告らは,引用発明が「ハンドル」を有することを指摘して,引用発明がリ ハビリに用いることが不適切である旨主張する。しかしながら 「ハンドル」につ, いては,引用例の「前記身体の鍛練装置を通常の健常者の力より弱い力が必要なリ ハビリ等に使用する場合,前述から明らかなように,先ず,モータ4の負荷を弱い 範囲の所要の数値に設定する。次いでサドル2に腰をかけ,足をペダル3にかけ, 片手でハンドル1を持ち,スイッチ31をONしモータ4の運転を開始する(段。」 落【0020 )の記載から 「リハビリ」に用いる場合にもハンドルを使用するこ 】, とができるものであること,及び「この運動で,手または足の何れかを休む場合に は,手又は足を外し,空回りさせれば良い(段落【0020 )の記載から,手 。」】 をハンドルから外して空回りさせてもよく,使用形態において「ハンドル」は必須 のものではないことが理解できる。したがって,引用発明が「ハンドル」を有する からといって,引用発明がリハビリに用いることが不適切であるということはでき ない。 また,原告らは,引用発明は「ハンドル」を有することによって,使用者は前傾 ,,,, , 姿勢となり 肩を上げ 脇を開き 顎を上げ 上肢をねじるといった状態になるが これらは非常に不安定な姿勢であるため,無理に力を入れて速く行うことにより, 首,肩,背中,腕,脊柱等に過大な負荷を与えることになるから,リハビリ用には 不適切であるとも主張するが,そのようなことは,引用例のどこにも記載されてお らず,むしろ,引用発明が「ハンドル」を有するからといって,引用発明がリハビ リに用いることが不適切であるといえないことは,上記のとおりである。 よって,この点に関する原告らの主張は,根拠のない無理な解釈に基づく主張で あり,失当である。 2取消事由2(一致点の認定の誤り)に対して (1) 本願の請求項には 「座部」については 「該座部が前端側の左右両側にて切 ,, 」 ,, り欠かれている椅子部 という記載があるのみであって 平坦な板状となっており 着座者の臀部全体と足の大腿部の半分程度を受け止めて臀部を安定した状態で支持 するものである旨の記載はない。よって,座部が平坦な板状となっているために臀 部を安定した状態で支持するものであることを前提とする原告らの主張は,請求項 の記載に基づく主張ではない。 また,本願明細書にも,本願発明の座部が「平坦な板状」でなければならないと は記載されていない さらに 座部が 平坦な板状となって いることによって 着 。,「」「 座者の臀部を安定して支持する」ことができることについても,本願明細書には記 載されておらず,示唆もされていないから,上記原告らの主張は,明細書の発明の 詳細な説明の記載に基づく主張でもない。 かえって,本願明細書には 「座部14が前端側の両側に切欠き部14bを設け , , ,」(【】), ており 丁度自転車のサドルに類似した形状となっているため段落 0029 「また,着座者は,そけい部を通る大体動脈や静脈,神経,リンパ管などが圧迫さ れることのない自然な状態で,前方に配置された机部61でデスクワークを行いな がら,同時に負荷を非常に少なくしてリラックスした状態でサイクリング運動を行 うことができるので,運動を行っていることを意識することなく長時間続けること が可能になる(段落【0030 )と記載されており,着座者が長時間リラック 。」】 スした状態でサイクリング運動を続けることができる理由について,座部14が前 端側の両側に切欠き部14bを設けており,丁度自転車のサドルに類似した形状と (,【】。)。 なっていることにあるとしている なお 段落 0006 にも同様の記載がある したがって,原告らの主張は,本願明細書の記載と矛盾した主張であるというこ ともでき,失当である。 そして,引用発明の「サドル2」は「前端側の左右両側にて切り欠かれている」 ものであるといえるし,上記の「座部14が前端側の両側に切欠き部14bを設け ており,丁度自転車のサドルに類似した形状となっている」点において,本願発明 の「座部」は引用発明の「サドル」と共通しているから,引用発明の「サドル2」 が本願発明の「座部」に相当するとした審決の認定に誤りはない。 (2) 審決の「引用発明の『ハンドル1およびペダル3にかける負荷を発生するモ , 』 ータ4は 回転数可変モータから回転数を制御することにより調節する型式で構成 していることと,本願発明の『一対のペダルを1?10回/分の低速度で回転させ る回転駆動部』を備えることとは 『一対のペダルを所定の回転数で回転させる回 , 転駆動部』を備えることで一致している 」との記載は,本願発明と引用発明との 。 間で「一対のペダルを所定の回転数で回転させる回転駆動部を備える」という共通 事項が抽出できるとしたものにすぎないのであり,原告らが主張するように,引用 発明を「所定の回転数で回転させる」ものとし,本願発明を「1?10回/分の低 速度で回転させる」ものとして対峙させたものではない。 そして,審決は,回転数に関しては 「回転駆動部によって回転されるペダルの , 回転数が,本願発明においては『1?10回/分の低速度』であるのに対し,引用 発明においては 『運動なし』の状態よりも弱い負荷とすることによりリハビリ用 , として用いることが可能であるものの,その場合の具体的回転数についての限定が なされていない点 」として,相違点に挙げており,一致点とはしていないから, 。 審決の一致点の認定に誤りはない。 3取消事由3(相違点の認定の誤り)に対して (1) 原告らの主張する相違点2について ,「」 , 本願発明の請求項にはハンドル がないことについて何も記載されておらず また,ハンドルの代わりになる部材(例えば,本願明細書の実施例に記載されてい る,腕を保持して腕を運動させる機能を有する「手すり部」など)や通常ハンドル が備えられている位置に代わりに備えられる部材(例えば,本願の図1に記載され ている「机部」など)が,本願発明の請求項に記載されているわけでもないし,ま して,本願発明において「ハンドル」の存在が邪魔になるというようなことは,明 細書のどこにも開示されていないから,本願発明の請求項の記載から,本願発明が 「ハンドル」を備えたものを排除したものであるということはできない。 一方で,引用発明において 「ハンドル」の存在がリハビリに用いることの邪魔 , にはならないこと,また,使用形態において「ハンドル」が必須のものでないこと は,前記のとおりである。 したがって,引用発明が「ハンドル」を備えたことは,本願発明との相違点とは ならない。 (2) 原告らの主張する相違点3について 審決は,引用発明が「身体の鍛錬装置」であるという認定はしていない。 そして,引用発明は「 運動なし』の状態より弱い負荷とすることによりリハビ 『 リにも用いられる装置」と認定することができるのであるから,引用発明が,リハ ビリ用として不適切な装置であるという原告らの主張が失当であることは,前記1 のとおりである。 また,前記2のとおり,引用発明の「サドル」は本願発明の「座部」に相当する ,「『』『 』 のであるから 審決の 引用発明の サドル2足をかけて回転させるペダル3 を備えた『装置』が,本願発明の『回転ペダル付椅子』に相当する 」との認定に。 誤りはない。 よって,引用発明は「身体の鍛錬装置」であるのに対して,本願発明は「回転ペ ダル付椅子」である点について,審決には相違点を看過した誤りがあるとの原告ら の主張は,失当である。 4取消事由4(相違点の判断の誤り)に対して (1) 「1?10回/分」の回転数について 引用例には 「前記身体の鍛練装置を通常の健常者の力より弱い力が必要なリハ , ビリ等に使用する場合,前述から明らかなように,先ず,モータ4の負荷を弱い範 囲の所要の数値に設定する(段落【0020 )のとおり,モータの負荷を弱く 。」】 してリハビリに用いることが記載されている。そして,モータ4の負荷の調整のし かたとして「モータ4の負荷の調節は,モータの回転数で調節するので簡単にでき る(段落【0017 )のとおり,回転数を小さくして負荷を弱くすることが記 。」】 載されている。そして,リハビリ用に用いる場合には,身体の状態の不良の程度に 応じて,極めて弱い負荷が必要となる場合,すなわち,極めて低い回転数で回転さ せる必要があることは当然に想定し得ることである。回転数の範囲の具体的数値化 は,単なる設計的事項であるから,上記の「極めて低い回転数」として「1?10 回/分」という回転数を選択することは当業者が容易に想到し得たことである。 (2) 「自らペダルを漕ぐのではなくペダルの回転に追従して」について 本願明細書には 「なお,上記実施例においては,着座者が,デスクワーク等の , 他の作業を行うと同時に,ほとんど意識しない状態で自動的に運動を行う場合に, ペダルの回転速度として1?10回/分の範囲,手すり部の揺動速度として1?1 0回/分程度の範囲,座部の往復回動速度として1?3回/分程度の範囲となって いるが,例えば,着座者が,他の作業を行わずに休憩しているような場合には,こ れに限らず各上限を超えた回数でサイクリング運動等を行うこともできる(段落。」 0040と記載されており 本願発明の装置を ペダルの回転速度として 1 【】),,「 ?10回/分の範囲」を超える回転数で回転させ,サイクリング運動を行うことも できることが記載されている。そうすると 「一対のペダルを1?10回/分の低 , 速度で回転させる」の構成から 「自らペダルを漕ぐのではなくペダルの回転数に , 追従して漕ぐ状態にさせられる」という作用効果は必然的には導かれない。 さらに付言すれば,引用例には 「このペダル3をモータ4で駆動される方向と , 同一方向に回転させる場合,ペダル3にかけた足に加える力はモータ4の負荷より 小さくてよく,モータ4の負荷の範囲内の弱い力を加えることができる。一方,モ ータ4で駆動される方向と逆方向に回転させる場合,足に加える力はモータ4の負 荷より大きくしなければならず,大きい負荷で運動したいときに使用することがで きる(段落【0019 )と記載されており,上記の「このペダル3をモータ4 。」】 で駆動される方向と同一方向に回転させる場合」の1つの形態として「ペダルの回 転数に追従して漕ぐ状態にさせられる」ことが容易に想定される。 したがって,審決の,本願発明によってもたらされる効果は,引用発明から,当 業者が予測し得る程度のものであるとした判断に誤りはない。 第5当裁判所の判断 1取消事由1(引用発明の認定の誤り)について (1) 本願の特許請求の範囲及び明細書の記載 証拠(甲3,4)によれば,本願の特許請求の範囲及び明細書には次の記載があ る(ただし,下記段落【0005】及び【0017】は,平成18年6月19日付 け手続補正による。。) 「 請求項9】【 前記椅子部が両側に一対の手すり部を設け,該一対の手すり部を前後に低速度で揺動させる 揺動駆動手段を設けたことを特徴とする前記請求項1から8のいずれか1項に記載の回転ペダ ル付椅子 」。 「 請求項14】【 前記椅子部の前方に机が配置されたことを特徴とする前記請求項1から13のいずれか1項 に記載の回転ペダル付椅子 」。 「 技術分野】【 本発明は,着座者がリラックスした状態で回転ペダルを漕ぐ等の軽度の運動を行うことがで (段落【0001 ) きる回転ペダル付椅子に関する。」 】 「 背景技術】【 ストレスの過剰な現代社会においては,自律神経のバランスが崩れて体の免疫力が低下しが ちであり,また,パソコン等を用いた長時間のデスクワーク等により,運動不足や姿勢の不良 により,肩こりや腰痛が頻発し,これらが原因となって種々の生活習慣病をもたらすという問 題がある。このようなストレスの増加や運動不足を解消するには,散歩やサイクリングのよう な軽い運動が効果があることが知られている。ゆっくりとサイクリングや散歩などを行うこと により,自律神経のバランスが整えられると共に,小さな負荷で自然に全身運動を行うことが できるため,注目されている。しかし,これらの運動は時間を要するため,多忙の折はまとま (段落【000 った時間を取りづらい等により,規則的に行うことはなかなか困難である。」 2 )】 「例えば,特許文献1に示すように,自宅やホテル等の専用の運動施設等に設置されたりし て自由な時間にサイクリング運動を行うことができるトレーニング器が知られている。このよ うなトレーニング器を利用することにより,任意の時間にサイクリング運動を行うことができ るため,歓迎されている。しかし,このようなサイクリング装置の場合,運動効率を高める意 図もあって負荷を過重に設定する傾向になり,過重な運動となることによりかえってストレス や疲労物質を増加させることになるため,体に有害なことが多い。特に,体力の劣る中高年者 にとっては,過大な負荷によって足腰を痛めたり疲れを増加させるといった逆効果になること が多い。また,上記散歩やサイクリングに限らずトレーニング器による運動も,利用時間内で はその他の作業を行うことができず,運動のための義務的な時間の消費になることは避けられ なく,そのため心身のリラックス状態も得られ難くなっている。 (段落【0003 ) 【特許文献1】特開2002?210037」 】 「 発明が解決しようとする課題】 【 本発明は,上記問題を解決しようとするもので,他の作業を行いながら,負荷を非常に少な くしてリラックスした状態でほとんど意識することなくサイクリング運動等の軽度の運動を同 時に行うことができ,長時間続けることが可能なことにより良好な全身運動を達成できる簡易 (段落【0004 ) な構成の回転ペダル付椅子を提供することを目的とする。」 】 「 , , , 上記目的を達成するために 本発明の構成上の特徴は 脚部と座部と背もたれ部とを有し 座部が前端側の左右両側にて切り欠かれている椅子部と,椅子部の前方にて床面に載置されて 座部に着座した着座者が両足先を載置できるように両足の下方に配置された左右一対の回転可 能なペダルを有する回転ペダル部と,一対のペダルを1?10回/分の低速度で回転させる回 転駆動部とからなるペダル装置とにより構成されたことにある。なお,ペダルの回転速度とし ては,着座者がペダルの回転を意識しない程度の低速度である1?10回/分の範囲であれば よいが,好ましくは4?8回/分程度であり,さらに好ましくは6?7回/分程度である。1 回/分より少ないと,サイクリング運動の効果が得難くなり,また,10回/分より多くなる とかえって負荷が大きくリラックスした状態にはなり難くなると共に,同時に他の作業を行う (段落【0005 ) ことも困難になる。」 】 「上記のように構成した本発明においては,椅子部の座部に腰掛けた着座者が,両足を左右 一対のペダルに載せた状態で,回転駆動部の駆動により左右一対のペダルを回転させることに より,着座者がペダルの回転を意識しない程度の低速度で自動的にペダルをこぐ状態にさせら れる。また,座部が前端側の両側にて切り欠かれており,丁度自転車のサドルに類似した形状 となっているため,座部に座った着座者の両足の大腿部が切欠き部分によって座部の下方にス ムーズに下げられる。そのため,ペダルの回転に伴って,着座者の大腿部が水平より上に持ち 上げられることがないので,腹部と大腿部との間のそけい部が圧迫を受けることがなく,そけ い部を通る大腿動静脈,神経,リンパ管などを圧迫することによる,腹部から下肢全体に及ぶ 血管系,神経系運動系等に無用な疾患をもたらすおそれもない。また,着座者の大腿部が水平 より上に持ち上げられないので,椅子部の前に机を配置しても,大腿部が机に当たる不具合を 生じることもない。そのため,着座者は,そけい部を通る大体動脈や静脈,神経,リンパ管な どが圧迫されることのない自然な状態で,デスクワーク等の他の作業を行いながら,同時に負 荷を非常に少なくしてリラックスした状態でサイクリング運動を行うことができるため,他の デスクワーク等を行いながらほとんど意識することなく長時間にわたって運動を続けることが (段落【0006 ) 可能になる。」 】 「また,本発明において,回転駆動部の動作を制御してペダル部の回転速度を調節する回転 制御部を設けることができる。このように,回転制御部の制御によってペダルの回転速度を変 えることができるので,着座者の活動状態や健康状態に応じて適正な回転速度を選択すること ができる。そのため,着座者の活動状態等に応じたサイクリング運動を行うことができ,それ (段落【0008 ) に伴う適正な運動の効果が得られる。」 】 「また,本発明において,回転制御部により,ペダルの回転方向の切り換えが可能であるこ とができる。このように,回転制御装置の制御によってペダルの回転方向を変えることができ るので,足の異なった筋肉に刺激作用をもたらすことができ,よりバランスの取れた全身運動 (段落【0009 ) を達成することができる。」 】 「また,本発明において,椅子部が両側に一対の手すり部を設け,一対の手すり部を前後に (段落【0013 ) 低速度で揺動させる揺動駆動手段を設けることができる。‥‥。」 】 「また,本発明において,椅子部の前方に机が配置されることが好ましい。これにより,椅 子部の腰掛けた着座者が,前方に配置された机を用いてデスクワークや学習を行いながら,負 荷を非常に少なくしたリラックスした状態でサイクリング運動等の軽度の運動を行うことがで (段落【0 きるので,特に意識することなく運動を長時間続けることが可能になる。‥‥。」 016 )】 「 発明の効果】【 本発明によれば,椅子部の座部に腰掛けた着座者が,デスクワーク等の他の作業を行いなが ら,両足を左右一対のペダル部に載せ,回転駆動部によって1?10回/分の低速度でペダル 部を駆動させることにより,着座者の両足の大腿部が切欠き部分によって座部の下方にスムー , 。, ズに下げられた負担のかからない状態で 自動的にペダルをこぐ状態にさせられる その結果 本発明においては,着座者は,デスクワーク等の作業を行いながら,同時に負荷を非常に少な くしてリラックスした状態でほとんど意識することなく軽度のサイクリング運動を行うことが , , できるため 全身の血行が良好にされ適正な全身運動による体力増強の効果が得られると共に 自律神経のバランスが適正な状態に保たれる。また,本発明によれば,サイクリング運動が作 業中に自動的にかつ自然に行われるため,作業が邪魔されることはなく,むしろ全身の血行が (段落【0017 ) 良好にされることにより作業の能率を高める効果が得られる。」 】 「‥‥。また,座部14が前端側の両側に切欠き部14bを設けており,丁度自転車のサド ルに類似した形状となっているため,座部14に座った着座者の両足の大腿部が切欠き部分に よって座部14の下方にスムーズに下げられる。そのため,ペダル57の回転に伴って,着座 者の大腿部が水平より上に持ち上げられることがないので,腹部と大腿部との間のそけい部が 圧迫を受けることがなく,そけい部を通る大体動脈や静脈,神経,リンパ管などを圧迫するこ とによる,腹部から下肢全体に及ぶ血管系,神経系運動系等に無用な疾患をもたらすおそれも (段落【0029 ) ない。」 】 「また,着座者は,そけい部を通る大体動脈や静脈,神経,リンパ管などが圧迫されること のない自然な状態で,前方に配置された机部61でデスクワークを行いながら,同時に負荷を 非常に少なくしてリラックスした状態でサイクリング運動を行うことができるので,運動を行 っていることを意識することなく長時間続けることが可能になる。その結果,本実施例によれ ば,軽度な運動の継続により全身の血行が良好に維持されて自然に体力が高められると共に, サイクリング運動等を行うことにより,デスクワークが邪魔されることはなく,むしろ全身の (段落【0030 ) 血行が良好にされるため,仕事や学習の能率が高められる。」 】 「なお,上記実施例においては,着座者が,デスクワーク等の他の作業を行うと同時に,ほ とんど意識しない状態で自動的に運動を行う場合に,ペダルの回転速度として1?10回/分 の範囲,手すり部の揺動速度として1?10回/分程度の範囲,座部の往復回動速度として1 ?3回/分程度の範囲となっているが,例えば,着座者が,他の作業を行わずに休憩している ような場合には,これに限らず各上限を超えた回数でサイクリング運動等を行うこともでき (段落【0040 ) る。」 】 (2) 引用発明の記載 証拠(甲1)によれば,引用例には次の記載がある。 「 発明の属する技術分野】本発明は,身体の鍛練装置に係り,より詳細には,いわゆる自 【 転車型の,ペダルをこぐと共にハンドルを回動させる方式の,健常者の日常動作より弱い力の 高齢者等の力の程度から鍛練運動の範囲まで負荷を調節することができる身体の鍛練装置に関 (段落【0001 ) する。」 】 「本発明は,上述したような課題に対処して創作したものであって,その目的とする処は, 弱い負荷から強い負荷まで広い範囲の,特に弱い範囲の,負荷をペダル及びハンドルに加える ことができ,構造が簡単で小型化し,かつ負荷の調節が容易にできる身体の鍛練装置を提供す (段落【0005 ) ることにある。」 】 「 発明の効果】本発明の請求項1の身体の鍛練装置によれば,…負荷調節をモータで行う 【 ので操作が簡単で,負荷を広い範囲,すなわちの病人用やリハビリ程度の弱い負荷から鍛練用 の強い負荷に特別の操作を要することなく,容易に調節することができる。病後やリハビリ用 (段落【00 に弱い負荷で使用できる結果,健康を回復させるのに役立てることができる。」 09 )】 「本発明の実施形態の身体の鍛練装置は,図1?図4に示すように,手をかけて回転させる ハンドル1と,腰をかけるサドル2と,足をかけて回転させるペダル3と,ハンドル1および ペダル3に負荷を加えるモータ4とから構成している。ハンドル1は,回転軸5にアーム6を 介して取り付け,回転軸5を中心にして正逆回転動可能に形成している。回転軸5の両端にそ れぞれ連結部材22を取り付け,この連結部材22の取付片22aに,アーム6を半径方向の 反対側に伸ばして取り付け,ハンドル部全体を階段形に形成する。また,回転軸5には,ハン ドル1に回転負荷を伝達するプーリ7を取り付け,ペダル3の回転軸8に設けた中継プーリ9 とベルト10で連結している。そして,ハンドル1は,ハンドル部ケース13から露出させて 正逆回転動可能に,このケース13又はフレームで支持する。ハンドル部ケース13は,スタ ンド11の上部に設けた下部ケース部12の前方から上方へ突出して形成し,その内部にプー (【】) リ ベルト等の伝動手段 回転軸5および連結部材22等を収容する ,, 。」 段落 0013 「また,ハンドル1より後方の下方にはサドル2を配置する。サドル2は,下部ケース部1 2の後方部に突出して形成したサドル取付部ケース14から露出させて,このケース14また は内部のフレームに取り付ける。このサドル2の高低及び前後位置は,使用者の身長,器具の 使用目的によって適宜に変更可能とする。また,サドル2の後ろ側には,背凭れ15をサドル 取付部ケース14から上方へ突出させて設け,背凭れ15の上部にヘッドレスト16を設けて いる。そして,サドル2に座り,ハンドル1を握るとか手を掛けてハンドル1を回転させて, 手の運動をして腕を鍛えようにしている。ハンドル部ケース13の根元の下部ケース部12内 (段落【0014 ) に,ペダル3の回転軸8の部分を正逆回転動可能に設けている。」 】 「ペダル3は,回転軸8の両端にそれぞれペダル軸連結部材23を取り付け,この連結部材 23の連結片23aに足掛け取付アーム24を取付け,このアーム24に取り付けて形成し, サドル部全体を階段形に構成している。回転軸8には,ハンドル1の軸5に設けたプーリ7と 連結する中継プーリ9とプーリ17とを取り付けている。プーリ17とモータ4とをベルト1 8aでプーリ19を介して連結し,ペダル3にかける負荷をモータ4から受けるようにしてい る。また,中継プーリ9とモータ4とは,駆動プーリ20と中継プーリ9に懸けたベルト18 bで連結している。そして,モータ4で負荷を発生させ,プーリ19,20を介してペダル3 (段落【0015 ) およびハンドル1へ,この負荷を伝達する。」 】 「ハンドル1およびペダル3にかける負荷を発生するモータ4は,回転数可変モータから回 転数を制御することにより調節する型式で構成し,サドル取付部ケース14の下方の下部ケー 。, ,,, ス部12内に設ける そして モータ4の出力軸にプーリ19 20を取り付け プーリ19 20とプーリ17,9との間にそれぞれベルト18a,18bを懸ける。このモータ4の負荷 の制御は,このモータ4を制御するスイッチ類を設けた制御パネル21から行うようにしてい る。そして,制御パネル21は,ハンドル部ケース13の上部に設け,このパネル21の表示 を見ながら鍛練装置の操作ができるようにしている。なお,この制御パネル21のスイッチ類 (段落【0016 ) は,ハンドル部ケース13の側面に設けた構成としてもよい。」 】 「…ここで,ペダル3に足を掛けてこぐ運動をする場合,モータ4からプーリ17に加わる 負荷に逆らって反対方向に力を加えなければ,回転させることができない。このモータ4の駆 動力を強くすると,負荷を大きくすることができる。逆に,駆動力を弱くすると,負荷を小さ 。 , 。 くすることができる モータ4の負荷の調節は モータの回転数で調節するので簡単にできる (段落【0017 ) …」 】 「また,上述のようにペダル3は,回転軸8と,軸連結部材23,連結片23a,足掛け取 付アーム24で階段形に形成し,プーリ19,ベルト18a,プーリ17,回転軸5を介して モータ4と連結される。モータ4を運転して負荷を加えると,ペダル3およびハンドル1は回 転する。このペダル3をモータ4で駆動される方向と同一方向に回転させる場合,ペダル3に かけた足に加える力はモータ4の負荷より小さくてよく,モータ4の負荷の範囲内の弱い力を 加えることができる。一方,モータ4で駆動される方向と逆方向に回転させる場合,足に加え る力はモータ4の負荷より大きくしなければならず,大きい負荷で運動したいときに使用する (段落【0019 ) ことができる。」 】 「以下,前記身体の鍛練装置の操作を説明する。前記身体の鍛練装置を通常の健常者の力よ り弱い力が必要なリハビリ等に使用する場合,前述から明らかなように,先ず,モータ4の負 荷を弱い範囲の所要の数値に設定する。次いでサドル2に腰をかけ,足をペダル3にかけ,片 手でハンドル1を持ち,スイッチ31をONしモータ4の運転を開始する。そして,順回転方 向にハンドル1を回転させ,ペダル3を足でこいで順回転方向に回転させる。この運動で,手 または足の何れかを休む場合には,手又は足を外し,空回りさせれば良い。すなわち,ハンド ル1とペタル3をモータ4で駆動される方向と同一方向にそれぞれ回転させ,あるいは逆方向 (段落【0020 ) に回転させることで,身体の鍛練ができる。」 】 【図5】 (3) 上記(2) の各記載から,引用例に記載された「身体の鍛錬装置」は,?健常者 の日常動作より弱い力の高齢者等の力の程度から鍛練運動の範囲まで負荷を調節す ることができるものであって,特に弱い範囲の負荷をペダル及びハンドルに加える ことができ,病人用やリハビリ用としての程度の弱い負荷から鍛練用の強い負荷に (【】【】), 容易に調節することができるものであること 段落 00010009 参照 ?病後やリハビリ用として弱い負荷で使用できる結果,健康を回復させるのに役立 てることができるものであること(段落【0009】参照 ,?モータ4の駆動力 ) を弱くすると,負荷を小さくすることができ,モータ4の負荷の調節は,モータの 回転数で調節するので簡単にできること(段落【0009 【0017】参照 ,? 】) ペダル3をモータ4で駆動される方向と同一方向に回転させる場合,ペダル3にか けた足に加える力はモータ4の負荷より小さくてよく,モータ4の負荷の範囲内の 弱い力を加えることができること(段落【0019】参照 ,?通常の健常者の力 ) より弱い力が必要なリハビリ等に使用する場合,まず,モータ4の負荷を弱い範囲 の所要の数値に設定し,モータ4の運転を開始し,順回転方向にハンドル1を回転 させ,ペダル3を足でこいで順回転方向に回転させるものであること(段落【00 20】参照 ,以上のような特徴を有していることが認められる。 ) そうすると,引用発明は,病人用やリハビリをもその用途として想定した装置で あって,それをリハビリ等に使用する場合には,モータの回転数を調節してモータ の負荷をリハビリ等に適した弱い負荷に設定した後,足でペダルをモータの順回転 方向に回転させることで,モータ4の負荷より小さく,モータ4の負荷の範囲内の 弱い力を加えることで使用することが想定された装置であると認められる。 そして,上記(2)【図5】のとおり,モータの負荷をリハビリ用に設定する場合 には,運動なしの状態よりもさらに弱い負荷に設定することも可能であることが記 載されていることからすれば,引用発明は,リハビリ用として使用することができ る装置であることは明らかである。 (4) この点について,原告らは,引用発明の装置が自らの意思で筋肉を鍛える装 置であって,リハビリ用としては不適当である旨主張し,その理由につき,前記第 3の1(2) 及び(3) のとおり,引用発明のサドルが,リハビリを行う者が安定して 腰掛けることに適した形状ではないこと,引用発明では本願発明にはないハンドル を設けているが,ハンドルを握ると前傾姿勢という非常に不安定な姿勢となって両 腕に負荷が加わり,その結果,かえって,体に損傷を与えるおそれすらある等,縷 々主張する。 ,, 【】, しかしながら 原告らの主張は 引用例の1実施例にすぎない 図1 の記載や 自転車のサドルに一般的にみられる特徴に基づくものにすぎず,失当である。すな わち,そもそも引用例には,サドルを臀部が滑りやすい不安定な状態になるような 形状にする旨の記載はないし,一般的にいっても,サドルの形状も自転車の種類に 応じて種々あることは一般に知られた事実であって 「サドル」という用語から直 , ちに 「サドル」というものが,安定して腰掛けることができないものであって, , かつハンドルを握ることが必須な形状に限られるとはいえない。 また,引用発明においては,ハンドル部ケース13を【図1】にみられるような 角度で設けることが必須ではなく,その角度を適宜設定することによって,前傾姿 ,, , 勢とはならず むしろ 後傾姿勢となるようにハンドルの角度を設定し得ることは 当業者が容易に理解できる事項である。 そして,前記(2) の段落【0020】に記載されているように,引用発明では, ハンドルから手を外して空回りさせることをも想定しているのであるから,引用発 明における「サドル」は,ハンドルを利用することなく腰掛けた状態を維持できる ような形状に設計されていることが十分に窺えるものである。 そうすると,引用発明が 「サドル」や「ハンドル」から構成される構造である , ことに照らして,リハビリ用としては不適切であるということはできず,上記原告 らの主張はいずれも失当である。 (5) 以上のとおり,引用発明の装置をリハビリ用に使用するものであるとした審 決の認定に誤りはない。 2取消事由2(一致点の認定の誤り)について (1) 本願発明の「座部」と引用発明の「サドル」について ア「椅子」とは,一般的に 「うしろによりかかりのある腰掛け (広辞苑第2 , 」 版,甲5「腰をかけるための家具。腰掛け (広辞苑第5版「腰掛けて座るた ), 」), 。。」(),「」 めの家具 腰掛け大辞泉第1版 と理解されておりうしろによりかかりの ないものも椅子と称する場合があることも踏まえると,少なくとも腰掛け部分を有 するものといえる。 ,「」,「」(,), また腰掛け とは腰を掛ける台広辞苑第2版 甲5及び広辞苑第5版 「腰を掛ける台。いす(大辞泉第1版)であり 「台」が「物をのせる平たいも 。」, の (広辞苑第2版,甲5「物や人をのせる平たいもの (広辞苑第5版「物を 」), 」), のせるもの。また,人がのるためのもの(大辞泉第1版)との意味をもつことか 。」 らして,腰掛けとは,腰を掛けるためのもの,腰をのせるためのものであると理解 される。 そして,本願発明の「椅子部」は 「脚部「座部」及び「背もたれ部」を有す ,」, るものであるから,上記のような一般的な意味に照らすと,本願発明の「座部」と は,椅子のうち,腰を掛ける部分 「腰掛け」に相当し,その形状として 「前端側 , , の左右両側にて切り欠かれている」もので 「丁度自転車のサドルに類似した形状 , となっている (本願明細書の段落【0006】参照)ものである。 」 一方 「サドル」とは,一般的に 「自転車などの腰掛台 (広辞苑第5版「自 , ,」), 転車・オートバイなどの腰掛けの部分 (大辞泉1版)であり,腰掛けである点に 」 おいて椅子の範疇に属するものと認められる。そして,引用発明の「サドル」も, 腰を掛ける部分として利用されており 「いわゆる自転車型の 「身体の鍛錬装置」 ,」 のサドルであること 【図1】記載の形状からして,自転車のサドルと同様の形状 , であるといえる。しかしながら,引用例にはサドルの具体的形状について特段の限 定的記載はないのであるから,サドルの形状を実施例の記載や【図1】のそれに限 定して解釈しなければならない理由はなく,ましてや臀部が不安定な状態になるよ うな形状のものに限られるともいえない。 そこで,本願発明の「座部」と引用発明の「サドル」を対比するに,上記のとお り,本願発明の「座部」とは 「椅子部」のうち,腰を掛ける部分あるいは腰掛け , であるととともに,前記(1) の段落【0029】に記載されているように,自転車 のサドルに類似した形状を有するものである。他方,引用発明の「サドル」も腰掛 けであって,自転車のサドルと同様の形状であるとともに,腰掛けである点で椅子 の範疇に属するといえるのみならず 「背凭れ15」とともに椅子を構成している , ことは明らかである。 したがって,引用発明の「サドル」が本願発明の「座部」に相当するとした審決 の認定に,誤りはない。 イこの点について,原告らは,前記第3の2(1) アのとおり,自転車のサドル の機能や形状にかんがみ,引用発明の「サドル」は,臀部を滑り易い不安定な状態 にすることが意図されており,安定して腰掛けるというものではないのに対し,本 願発明の「座部」は,椅子の座部であることから,平たい台であって,平坦な板状 になっており,臀部全体と足の大腿部の半分程度を受け止めて腰部を安定した状態 で支持する等,本願発明の「座部」が引用発明の「サドル」と異なる点を縷々主張 する。 しかしながら,本願発明の「座部」は,椅子の座部であることから,その上面は 平たいとはいえるものの,それ以上に,平坦な板状であることや,着座者の臀部全 体と足の大腿部の半分程度を受け止めて腰部を安定した状態で支持する程度に平た い部分が存することについては,本願発明の請求項に何らの特定もない。したがっ て,上記原告らの主張は,請求項の記載に基づかない主張であって,失当である。 また,仮に,本願発明の「座部」が着座者の臀部全体と足の大腿部の半分程度を 受け止めて腰部を安定した状態で支持する程度に平坦な板状のものに限られるとし ても,自転車のサドルがペダルを漕ぎやすくすることを前提にした形状を有すると はいえ,前記1(4) のとおり,サドルの形状としては自転車の種類・用途に応じて 種々のものがあるのはよく知られた事実である。特に,前記1(3) のとおり,引用 発明は,リハビリ用にも使用されるものでもあるところ,リハビリ用である以上, 使用する患者の病状,傷害若しくは後遺障害の程度等に応じて,患者が安全に使用 するようにするために,サドルの形状をその目的に合わせて設計されることはいわ , ,「」, ば当然であるから このような点を考慮すると 引用発明の サドル についても 腰を掛けるために,上面がある程度平たく,安定して腰掛けるような形状の物も想 定されていると認めるのが相当である。 したがって,この点に関する原告らの主張は,失当である。 ウ原告らは,前記第3の2(1) イ(ウ) のとおり,被告が「手または足の何れか を休む場合には,手または足を外し,空回りさせて使用する」ことが引用例に記載 されていることを勘案すれば,引用発明のサドルは安定して腰掛けることが想定さ れていると主張していることに関し,同主張は,サドルの特性を無視した単なる文 言上の解釈であって失当である旨主張する。 しかしながら,上記イのとおり 「サドル」という用語は,その一般的な意味か , らして,安定して腰掛けるものを排除するものではないし,引用発明の装置では, ハンドルから手を外して空回りさせることをも予定している以上,引用発明におい ても,ハンドルを利用することなく安定して腰掛けた状態を維持できるようにサド ルの形状を設計していることは明らかであるから,上記原告らの主張は,失当であ る。 (2) 前記第3の2(2) の原告らの主張について ア本願発明は 「一対のペダルを1?10回/分の低速度で回転させる回転駆 , 動部」を備えるものであるから 「1?10回/分」といった所定の回転数で回転 , させるものであるといえる。他方,引用発明は 「ハンドル1およびペダル3にか , ける負荷を発生するモータ4は,回転数可変モータから回転数を制御することによ り調節する型式で構成」しているもので,リハビリに用いるためにはリハビリに適 した回転数に調節されるものであることから,その場合,リハビリに適した所定の 回転数で回転させるものであるといえる。したがって,両者は「一対のペダルを所 定の回転数で回転させる回転駆動部」を備える点で共通しており,その意味におい て,両者が一致することは明らかである。 イこの点について,原告らは,引用発明の「一対のペダルを所定の回転数で回 転させる回転駆動部」は,本願発明の「一対のペダルを1?10回/分の低速度で 」,,「」 回転させる回転駆動部 とは異なる旨主張するが 本願発明も1?10回/分 といった「所定の回転数」で回転させるものであるといえる以上,その意味におい て,両者は一致している。したがって,この点を一致点とした審決の認定に誤りは ない。そして,審決は,具体的な回転数について両者は相違するとした上で,容易 想到性について判断しているのであるから,この点に関する原告らの主張は,失当 である。 3取消事由3(相違点の認定の誤り)について (1) 原告らの主張する相違点2について ,「 ,, ア引用発明は手をかけて回転させるハンドル1と 腰をかけるサドル2と 足をかけて回転させるペダル3と,ハンドル1およびペダル3に負荷を加えるモー タ4とから構成され」るものであることからすれば 「ハンドル」を有することは , 明らかである。しかしながら,引用発明において 「ハンドル」の存在がリハビリ , に用いることの邪魔にはならないことや,使用形態において「ハンドル」が必須の ものといえないことは,前記1(3) 及び(4) において認定したとおりである。 イ他方,本願発明については,請求項1にはハンドルの有無について何らの特 定もされていないので,請求項1の記載から,本願発明がハンドルを排除している とは直ちにいえず,かえって,請求項9には 「椅子部が両側に一対の手すり部を , 設け」と,請求項14には 「椅子部の前方に机が配置されている」と,それぞれ , 記載されており,各請求項が請求項1を引用していることを考慮すれば,本願発明 (請求項1に係る発明)は請求項9や請求項14に係る発明を包含する発明で,手 の周辺に何らかの部材が配置されている態様を想定した発明と考えることができ る。したがって,むしろ,本願発明はハンドルを有する態様のものを排除していな いと認めるのが相当である。 ウ以上により,原告らの主張する相違点2は,本願発明と引用発明との相違点 とは認められないから,この点に関する原告らの主張は,失当である。 (2) 原告らの主張する相違点3について 引用例の記載やその構造にかんがみ,引用発明はリハビリにも用いられる装置で あると認められることは,前記1(3) 及び(4) において認定したとおりである。 確かに,前記1(2) の段落【0001】のとおり,引用例には「本発明は,身体 の鍛錬装置に係り…」と記載されているが,その後に 「より詳細には,いわゆる , 自転車型の,ペダルをこぐと共にハンドルを回動させる方式の,健常者の日常動作 より弱い力の高齢者等の力の程度から鍛練運動の範囲まで負荷を調節することがで きる身体の鍛練装置に関する」との記載があるように,病後やリハビリ用に弱い負 荷で使用できる結果,健康を回復させるのに役立てることができるといった作用, 効果も含めた意味での「身体の鍛錬装置」であると認められる。つまり,引用例に おいては,一般的な意味(狭義の意味)としての「鍛錬」のみならず,リハビリを も含めて「鍛錬」と称していることは明らかであって,明細書中に「身体の鍛錬装 置」という記載があることをもって,直ちにリハビリに適していないとすることは できない。 したがって,引用発明の「…リハビリに用いる装置」は,本願発明の「回転ペダ ル付椅子」に相当するというべきであって,原告らの主張する相違点3は,本願発 明と引用発明との相違点とは認められない。 (3) 以上により,審決が看過した原告ら主張のような相違点はなく,審決の相違 点の認定に誤りはない。 4取消事由4(相違点の判断の誤り)について (1) 「1?10回/分」の回転数について ア前記1(3) で認定したとおり,引用発明は,病人用やリハビリ用としての程 度の弱い負荷から鍛錬用の強い負荷に容易に調節することができるものであって, 病後やリハビリ用として弱い負荷でも使用できる結果,健康を回復させるのに役立 てることができるものである。そうであれば,引用発明では,身体の状態に応じた 負荷の大きさを考慮して,身体の状態に応じた回転数を設定するものと解されるか ら,例えば,重度の後遺障害を有する病人用として,極めて低い回転数を設定する ことも当然に予定されているというべきである。 そして,本願発明の「1?10回/分」という回転数が極めて低い回転数とはい え,想定困難な程度に低い回転数と解することはできず,重度の後遺障害を有する 病人用としては十分に想定し得る回転数と認められるから,引用例においてこのよ うな回転数の設定がおよそ想定できないものではない。 さらに,本願発明の「1?10回/分」の回転数によりもたらされる効果も,回 転数に応じた効果にすぎず,当業者が予測し得る範囲内のものというべきである。 ,,「」 , そうすると 引用発明において1?10回/分 の回転数に設定することは 身体の状態に応じて適宜に設定できる範囲内の事項であると認めるのが相当であ る。 イこの点について,原告らは,前記第3の4(1) において,本願発明の「1? 10回/分」の回転数は引用発明のような鍛錬用の装置としては考えられない低い 装置である旨縷々主張するが,原告らの主張は,引用発明がリハビリ用には適しな い鍛練用の装置であることを前提とする主張であるところ,引用発明がリハビリ用 にも使用できる装置であることは前記1(3) 及び(4) において認定したとおりであ るから,この点に関する原告らの主張は採用できない。 (2) 「自らペダルを漕ぐのではなくペダルの回転に追従して」について ア本願発明が「自らペダルを漕ぐのではなくペダルの回転に追従して自動的に 1?10回/分の低速度でほとんど意識しないでペダルを漕ぐ状態にさせられる」 ものであるとの点は,請求項はもちろんのこと,本願明細書にも一切記載されてい ない。したがって,この点に関する原告らの主張は,本願発明の請求項に記載され た事項に基づくものとはいえず,失当である。 イこの点について,原告らは 「自らペダルを漕ぐのではなくペダルの回転に , 追従して自然に漕ぐ状態にさせられる」ことについては,本願発明の請求項に特定 されてはいないが,請求項1の構成に基づいて必然的に導かれる作用である旨主張 する。 確かに 「1?10回/分」の回転数は極めて低い回転数であるが,自らの意思 , で漕ぎ続けることが不可能な回転数と断ずることはできず,そのような回転数の装 置であるからといって,論理必然的に「自らペダルを漕ぐのではなくペダルの回転 に追従して自然に漕ぐ状態にさせられる」とは認められない。 仮に,原告らが主張するように,そのような極めて低い回転数では自らの意思で ペダルを漕ぎ続けることができないことが必然であるとすれば 前記1(3) 及び(4), のとおり,引用発明はリハビリ用に用いることもできる装置であるから,引用発 明において,回転数を「1?10回/分」に設定した場合にも,同様に 「自らペ, ダルを漕ぐのではなくペダルの回転に追従して自然に漕ぐ状態にさせられる」と解 されることになるのであって,結局 「1?10回/分」の回転数は,本願発明の , 格別の作用効果とはいえず,その結果,当業者が容易に想到し得るものということ になろう。 したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。 5結論 以上のとおり,原告らの主張する審決取消事由はいずれも理由がないので,原告 らの請求は棄却を免れない。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 東 海 林保 裁判官 矢口俊哉 |