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関連審決 不服2007-27002
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成21行ケ10259審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  製造方法 /  使用方法 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10174号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理 士小林正治
同 小林正英
同 甲斐哲平
被告特許庁長官
指定代理人山本忠博
同 山口由木
同 紀本孝
同 田村正明
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/01/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2007-27002号事件について平成21年5月13日にした審決を取り消す。
第2事案の概要1本件は,原告が,名称を「帯状貝係止具とロール状貝係止具」とする発明について特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,上記特許出願に係る発明が下記の各刊行物に記載された発明との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記・特開平10-165036号公報(発明の名称「養殖帆立貝の掛止具,及び該掛止具,帆立貝のロープへの掛止方法」,出願人 A,公開日 平成10年6月23日。甲2の2,以下「引用例1」といい,そこに記載された発明を「引用発明1」という。)・特開平8-191643号公報(発明の名称「貝係止具」,出願人X[原告],公開日 平成8年7月30日。甲5の2,以下「引用例2」といい,そこに記載された発明を「引用発明2」という。)第3当事者の主張1請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成13年7月13日(特願2001-214403号)及び平成14年1月31日(特願2002-24494号)の各優先権を主張して,平成14年5月13日,発明の名称を「帯状貝係止具とロール状貝係止具」とする発明について特許出願(特願2002-137471号,請求項の数9)をし,その後平成18年9月25日付け(甲3。請求項の数9)及び平成19年5月14日付け(甲6)で特許請求の範囲等を変更する各補正をしたが,特許庁が,平成19年8月31日,平成19年5月14日付けの補正を却下(甲8)するとともに,拒絶査定(甲9)をしたので,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2007-27002号事件として審理し,その中で原告は,平成19年10月3日付けで,特許請求の範囲等を変更する補正(甲11)をしたが,特許庁は,平成21年5月13日,上記補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成21年5月26日原告に送達された。
(2) 発明の内容平成18年9月25日付け補正後の請求項の数は,前記のとおり9であるが,その【請求項1】は,次のとおりである(以下この発明を「本願発明」という。)。
「次の1〜8の構成を備えたことを特徴とする帯状貝係止具。
1.多数本の貝係止具(1)が帯状に連続成型され,2.各貝係止具(1)はロープに差込み可能な細長の基材(2)に,ロープからの基材(2)の抜けを規制する2本のロープ止め突起(3)と,貝の抜けを規制する2本の貝止め突起(4)が突設され,3.2本のロープ止め突起(3)は基材(2)からその周方向同方向に且つ先端側が内側向きのハ字状に突設され,4.貝止め突起(4)はロープ止め突起(3)よりも基材(2)の長手方向外側に突設され,5.貝止め突起(4)の根元(10)内側部分は貝の荷重が外側に向けて貝止め突起(4)に加わっても根元(10)が裂けないように円弧状に湾曲させてあり,6.2本のロープ止め突起(3)と2本の貝止め突起(4)は基材(2)からその周方向同方向に突設され,7.隣接する貝係止具(1)は一方の貝係止具(1)のロープ止め突起(3)の先端部(5)が基材(2)の軸方向に幅広でロープ止め突起(3),貝止め突起(4)よりも薄く且つ貝係止具(1)をロール状に巻き取り可能な薄さの連結片(6)を介して他方の貝係止具(1)の基材(2)と連結され,8.前記連結の繰り返しにより多数本の貝係止具(1)が帯状に連続成型されたことを特徴とする帯状貝係止具。」(3) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願発明は引用発明1及び2に基づいて容易に発明することができたというものである。
イなお,審決が認定する引用発明1及び2の内容,本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は,上記審決写し記載のとおりである。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決は,次のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(相違点2についての判断の誤り)(ア)ロール状ピンは連結されている貝係止具を1本ずつ自動装填装置で切断してロープに1本ずつ差し込んで使用される。本願発明のロール状ピンも同様に1本ずつ切断してロープに差込まれる。しかし,本願発明の出願前,引用発明1の帯状貝係止具が製品化されていなかったため,その貝係止具を1本ずつ切断しロープに差し込むための自動装填装置も存在しなかった。このため本願発明の出願人であるXが代表取締役を務める株式会社むつ家電特機(以下「むつ家電」という。)は,本願発明のロール状ピンを切断し,差し込むための自動装填装置(ピンセッター)を新規開発した。
新規開発の上記自動装填装置は,次のように作動する。
?段ボール製のドラムに巻かれたロール状ピンを,自動装填装置に回転自在にセットする。
?ロール状ピンの先端側を引き出し,最先端と二番目の貝係止具のハ字状のロープ止め突起の両外側のそれぞれにピン送り爪1を係止し,最先端の貝係止具より20本程度後方の貝係止具のハ字状のロープ止め突起間にピン送り爪2を係止し,それらピン送り爪1,2によりロール状ピンを貝係止具1本分ずつ引き出して,最先端の貝係止具を切断刃の下まで引き出す。
?上記位置で昇降ブロックを押し下げて,昇降ブロックとその下の受けブロックとの間に最先端の貝係止具を挟みながら,昇降ブロックに取り付けられている上切断刃とその下の下切断刃とでロール状ピンの連結材(細い丸紐)を切断する。
?上記ロール状ピンの切断に先立って,案内針を自動装填装置で予めロープに差し込んでおく。
?切断された1本の貝係止具を,押し出し棒(プッシャー)で押して上記案内針の中に押し込み,ロープ内に差し込む。
?上記差し込み完了後に案内針を自動装填装置で引き戻すと,案内針から突出している貝係止具のロープ止め突起がロープに係止して案内針だけがロープから引き抜かれ,貝係止具がロープに差し込まれ,そのロープが巻き取り具に巻き取られる。
?巻き取られたロープは巻き取り具から外され,ロープに差し込まれているそれぞれの貝係止具は手作業で貝に差し込まれる。
(イ)貝係止具を1本ずつ切断する場合,切断する貝係止具の軸方向全長を昇降ブロックにより下方の受け具の上に押し付けて貝係止具を安定させるのが望ましい。貝係止具の長さよりも短い昇降ブロックと受け具で貝係止具を挟んだのでは,ロール状ピンから引き出されるときに,貝係止具が捻じれたり横に位置ずれしたりする。そうすると,連結材も位置ずれしたり,曲がったりして,連結材を所定位置から確実に切断することが難しくなる。その課題を解決するためには,昇降ブロックと受け具を貝係止具の軸方向の長さと同じかそれよりも長くして,貝係止具の軸方向全長を押して貝係止具を安定させる必要がある。しかし,昇降ブロックと受け具を貝係止具の全長を押すことのできる長さにした場合,引用発明1のように,2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起の突出方向が基材の周方向逆方向であると,昇降ブロックを押し下げるときに昇降ブロックがロープ止め突起と反対側に突出している貝止め突起に押し当たってそれ以上,押し下げることができなくなり,連結材を確実に切断できない。
この課題を解決すべく開発されたのが本願発明における「連結する多数本の貝係止具の2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起を基材の周方向同方向に突設する」ことである。
また,引用発明1の貝係止具では本願発明のロープ止め突起に相当する抜け止め部(61,62)が,本願発明の貝止め突起に相当する規制片(53a,57a)と反対方向に突設されているため,前記案内針の収容溝を深くしなければならず,深くすると案内針が太くなってロープに差込みにくくなり,案内針をロープに差し込む際の押し具の押し込み力を強くしなければならず,馬力の大きな押込み駆動体が必要になり,大型化,コスト高になる。本願発明の前記「連結する多数本の貝係止具の2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起を基材の周方向同方向に突設する」技術は,案内針の収容溝は基材とロープ止め突起が入る深さがあればよく,案内針が細くても貝係止具を収容でき,弱い力でもロープに確実に差し込むことができ,強力な押込み駆動体を不要とし,小型化,コスト安を実現し,上記課題をも解決したものである。
さらに,引用発明1のように,2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起が基材の周方向逆方向に突設していると,切断された1本の貝係止具を案内針の溝に押し込むとき,貝止め突起が先に押し込まれ,ロープ止め突起が後から押し込まれるため,ロープ止め突起が邪魔になってスムースに押し込まれないことがあるが,本願発明では2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起が基材の周方向逆方向に突設しているためそのようなことはなく,スムースに差し込まれる。
(ウ)審決は,「…貝止め突起とロープ止め突起を突設する方向の決定は,貝係止具の自動装填装置や,貝係止具をロープに差し込む際に用いる案内針の構成に合わせる等して,当業者が,使用上好ましい方向を適宜に選択すれば良いことであり,」(9頁下9行〜下6行)というが,本願出願当時,ロープ止め突起を連結したロールピンも,自動装填装置も,案内針も開発初期の段階であり,多種類存在していたわけでも公知になっていたわけでもなく,引用発明1のロール状ピンが公知になっていただけである。引用例1(甲2の2)の段落【0011】にも図7〜11にも「案内針」のことは開示されていないし,「自動装填装置」の具体的構成も開示されていない。また,引用例1には貝係止具を自動装填装置や案内針との関係でどのようにセットするのかも開示されていない。引用例1の図7〜11に開示されている貝係止具は図13及び図14に示す矢尻型のものであり,本願発明のロープ止め突起に相当するものでもない。したがって,出願当時はロール状ピンの連結構造も,自動装填装置も,案内針も選択の余地がなかったし,自動装填装置も,案内針の構成に合わせて選択する余地がなかったから,自動装填装置や案内針の構成に合わせて,貝止め突起とロープ止め突起を突設する方向の決定することはできなかった。
また,審決は,上記のとおり,「使用上好ましい方向を適宜に選択すれば良い」というが,本願発明の出願当時,「使用上好ましい方向」とはどのような方向をいうのか判明していたわけではなかった。したがって「使用上好ましい方向」とはどのような方向か不明であり,また「適宜に選択」とは何をどのように選択することか不明であるため,使用上好ましい方向を適宜に選択することはできなかった。どのような発明であっても,装置や機械の具体的構成や機能は開発目的,用途,必要な動作等々に合わせて研究し,構成部品や構成部材を組み合わせ,連結したり,結合したりして完成するのが通常である。審決のように「使用上好ましい方向」とはいかなる方向か,「選択肢」や「選択方法」等はいかなるものかを具体的に指摘することなく,単に「使用上好ましい方向を適宜に選択すればよい」と判断したのでは,どのような発明もすべからく「適宜な選択事項」になってしまう。
審決は,「…引用発明1において,貝止め突起とロープ止め突起を,自動装填装置や案内針との関係等を考慮し,引用発明2に倣って,基材からその周方向同方向に突設させることは,当業者が容易に想到し得たことである。」(9頁下3行〜下1行)というが,「倣って」とはどのようなことか不明である。もし,「引用発明2を利用して」ということと理解しても,引用発明2はバラピンであり連続させるものではない。
貝係止具は,数千本もの多くが連続されたロール状ピンであっても,1本ずつばらして使用するものであるため,引用発明2のバラピンを連続してロール状にすることは,貝係止具の使用状態を考えれば通常は考えられない。むしろ当業者であればある程考えにくい。したがって,引用発明1と引用発明2が公知であったとしても,両者には組み合わせの必然性がない。
(エ)なお,被告は,後記乙1(特開平5-211827号公報)を引用するが,乙1は,バラピンの自動装填装置であり,そこには,連続貝係止具を引き出して1本ずつ切断しながらロープに差し込むことも「案内針」も開示されていない。
また,被告は,原告の主張は,本願の明細書及び図面の記載に基づかないものであると主張するが,この点については,次のとおりである。
a本願の明細書及び図面に自動装填装置や切断装置の記載がないとしても,本願発明の帯状貝係止具における2本の貝止め突起と2本のロープ止め突起を基材からその周方向同方向に突設する構成により,原告使用の自動装填装置及び切断装置を使用して1本ずつ確実に切断できることは事実である。
b原告主張の「案内針を細くできる」こと,「細くできるので弱い力でもロープに差込みできる」こと,「強力な押込み駆動体が不要である」こと,「小型化,コスト安を実現できる」こと,「スムースに差込できる」ことといった効果は,本願発明において「2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起を基材の周方向同方向に突設し」,その貝係止具を1本ずつ切断して案内針にセットして差し込むことにより当然に導き出される自明の効果である。
c本願発明の効果のうち,「ピン送り爪で1本ずつ引き出す貝係止具が捻じれたり横に位置ずれしたりせず,貝係止具の基材に傷つけることなく,貝係止具を所定位置から確実に切断できる」との効果は,本願の明細書及び図面に明記されていなくとも,本願発明の構成から導かれる自明の効果である。被告は,この効果について,引用発明1でも同様の効果を奏すると主張するが,引用発明1の連結片(図35の58a,59a)は図38の切断跡から明らかなように丸紐であり,本願発明のように「基材の軸方向に幅広の薄肉の連結片」ではない。
丸紐は方向性が無い(360度何れの方向にも曲がることが可能である)ため,引き出し時に横に捻じれることが多い。
(オ)以上のとおり,本願発明と引用発明1との相違点2(「本願発明では,2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起が,基材からその周方向同方向に突設されているのに対して,引用発明1では,周方向逆方向に突設されている点。」)に係る技術は,本願発明により独自に開発された技術であり,本願発明独自に優位な効果をもたらすものであって,引用発明1と引用発明2の単なる組み合わせではない。したがって,相違点2について引用発明1と引用発明2から当業者が容易に想到し得たとした審決の判断には,誤りがある。また,優先権主張日当時(平成13年7月13日及び平成14年1月31日)の技術水準は示されておらず,「当時の技術水準」を示すことなくなされた審決の判断には誤りがある。
イ取消事由2(相違点3についての判断の誤り)(ア)本願発明は以下のようにして,本願発明者が独自に開発したものであり,引用発明1,2のいずれにもない本願発明独自の効果を奏するものである。
a本願発明者は,本願発明の開発に先立って,連続ピンについて種々研究を重ねて次のようなことを解明した。
?連続ピンは,成型金型で15本あるいは20本といった単位で成型された連続ピンの連続方向一端と,それに続いて成型される連続ピンの連続方向一端を成型金型内で溶着して連結される。この場合,先に成型されて硬化し始めた連続ピンの後端部と,後から成型されて軟らかい連続ピンの先端部とが溶着接続され,その繰り返しで数千本連結される。後端部と先端部とを溶着する場合,連結片が貝係止具の基材に溶着し易いこと,確実に溶着されること,溶着箇所から折れたり,分離したりしにくいことが必要である。
?引用発明1のように連結材が細い丸紐の場合,ロール状に巻き易く(曲げ易く)するためには直径を細くする必要があるが,そのようにすると細い丸紐と基材との接触面積が狭くなるため細い丸紐と基材との位置合わせが大変である。また,正確に位置合わせして溶着しても溶着面積が狭いため連結強度が不十分で,ロール状に巻くときやロールから自動装填装置で引き出すときに,連結箇所から分離したり,折れたりし易いといった課題がある。溶着し易くするために細い丸紐の直径を大きくすると丸紐が切断しにくくなり,ロール状に巻きにくくもなる。太くなってもロール状に巻き易くするためには丸紐を長くしなければならず,そのようにすると,ロール状に巻いたとき,同じ本数の連続ピンを巻いても,丸紐が短い場合よりもロール径が大きくなり,運搬しにくいとか,保管に場所を取るといった不都合も生ずる。
?自動装填装置により,ロールピンを1本ずつ切断してロープに差し込むために連続ピンをピン送り爪1,2で引き出す場合,貝係止具が捻じれたり位置ずれして斜めに曲がったりすると,連結片を所定箇所から確実に切断できず,貝係止具の基材(幹)が切断されることがあるため,基材の軸方向に曲がったり,位置ずれしたりしないことが望ましい。
?連続ピンをピン送り爪1,2で引き出す場合,ピン送り爪1,2の引っ張り力で隣接する貝係止具の基材の間隔ができるだけ広がらないことが望ましい。広がると引き出された貝係止具の基材が切断刃物の下まで入り込んで切断されることがある。
bロープ止め突起の先端部と貝係止具の基材を連結してロール状ピンであって,本願出願前に公知であったものは引用発明1だけであり,その連結材は樹脂製の細い丸紐であった。したがって,本願出願当時,ロールピンの連結材の形状は選択できる状況にはなかった。
c本願発明は上記状況下において開発されたものであり,最大の特徴は,ロープ止め突起の先端部と貝係止具の基材を連結する連結片にあり,その連結片の形状が「基材の軸方向に幅広であり,ロープ止め突起,貝止め突起よりも薄く且つ貝係止具をロール状に巻き取り可能な薄さ」であることにある。ここで特に重要なことは,連結片を,単に,薄くしたことではなく,横幅を基材の軸方向に幅広にした上で薄くしたことである。
連結片の幅を基材の軸方向に幅広くすることによって,薄くても,貝係止具の基材の軸方向への溶着面積を広くすることができ,溶着面積が広くなり,溶着部の連結強度が向上し,ロール状に巻き取ったり,ロールから引き出すときに連結片が切断したり,折れたり,分離したりしにくくなる。ロールからの引き出し時に切断したり,折れたり,分離したりしたのでは,貝係止具を1本分ずつ確実に引き出すことができなくなり,ロープへの差し込みもスムースにできなくなるが,このようなことが防止できる。また,本願発明では,連結片の幅が横に広いため引き出し時に横に位置ずれしたり捻じれたりしにくくなり,2枚の連結片を確実に切断することができる。このような効果は引用例1の細い丸紐では得られない優位な効果である。
連結片はロール状に巻き易く,切断し易くするため,できるだけ薄い方が望ましい。特に径の小さなドラムへの巻き始めには厚いと巻きにくいため薄いことが望ましい。本願発明はこの効果をも兼ね備えたものである。
(イ)審決は,相違点3の判断において,「そして,各貝係止具の横ずれ等を防ぐために,各貝係止具を連結する連結片を基材の軸方向に幅広に形成することも,技術常識の付加に過ぎないもので当業者が適宜なし得た設計的事項である。」(10頁12行〜14行)とする。
しかし,本願出願当時,引用発明1も,それ用の自動装填装置も製品化されていなかったため,ロール状ピンを引き出すこともなく,当然のことながら,引き出し時の貝係止具の横ずれ,捻じれ,といった問題もなく,それら問題の発生を防止するという課題も認識されていなかった。したがって,横ずれや捻じれ等を防ぐために,連結材を基材の軸方向に幅広にすることは想定されていなかった。
本願発明者は,上記(ア)のとおり本願発明をなしたものであって,本願発明の相違点3(「本願発明では,連結片の構成が,基材の軸方向に幅広でロープ止め突起,貝止め突起よりも薄く且つ貝係止具をロール状に巻き取り可能な薄さであるのに対して,引用発明1では,ロープ止め突起,貝止め突起よりも細く且つ貝係止具をロール状に巻き取り可能な細さである点。」)に係る構成は,本願出願当時は,技術常識でも,設計的事項でもなく,当業者といえども適宜なし得ることではなかった。
したがって,審決の相違点3についての判断には,誤りがある。
(ウ)なお,被告は,成形品の連結片を「幅広」かつ「薄く」することは,成形品における技術常識ないし周知技術といえるものであるとして,後記乙2〜6を提出する。しかし,乙2〜6において薄くしてあるのは,いずれも「成形品のゲート」(樹脂注入口付近)である。ゲートは金型への樹脂の注入により発生するものであり,必要な成形品(製品)と不要箇所(例えば,乙6の図1(a)に示されているランナー13)を分離するための箇所でもある。これに対して本願発明の「基材の軸方向に幅広の薄肉の連結片」は,必要な製品(貝係止具)同士を連結し,「ロール状に巻き易く」し,「1本ずつ切断するために貝係止具を引き出しても横に捻じれないように」し,「薄くして切断し易く」し,「薄くしても,ロール状に巻いたり1本ずつ切断したりするために貝係止具を引いても連結片が切断しない」ようにしたものである。したがって,本願発明の「基材の軸方向に幅広の薄肉の連結片」は乙2〜6のゲートと技術思想が根本的に異なるものであるため,本願発明における「ロープ止め突起の先端を,基材の軸方向に幅広の薄肉の連結片で連結すること」は,成形品における技術常識でもなければ周知技術でもない。
また,被告は,引用例1(甲2の2)の請求項8及び段落【0022】には「並設された掛止具単位の軸部中間部を可撓性連結片で連結する」ことは開示されていると主張する。しかし,その実施例として図30に開示されている可撓性連結片は丸紐であり,図35,図38に開示されている可撓性連結片も丸紐である。これら可撓性連結片が本願発明の連結片と共通するのは「可撓性」を有するということだけであり,本願発明のように「基材の軸方向に幅広の薄肉の連結片」にするという技術思想は引用例1には開示されていない。
さらに,被告は,「連結片を基材の軸方向に幅広くすることによって,薄くても,貝係止具の基材の軸方向への溶着面積を広くすることができる」との効果は,本願の明細書に全く記載されていないと主張する。しかし,本願の明細書には「連結片を幅広くして貝係止具の基材の軸方向への溶着面積を広くしてはいけない」とも,「連結片の横幅はいくら以下にしなければならない」という限定もしていない。「連結片を横幅を広くして基材の軸方向への溶着面積を広くする」ことは,本願発明の構成から当然理解できることであり,本願発明の技術範囲内である。被告は,本願の明細書には「連結片先端を金型内で基材に溶着することすら記載されていない」と主張する。しかし,本願の明細書(甲3)の段落【0014】には,本願の帯状貝係止具は樹脂成形品であること,多数本の貝係止具が同じ向きで連結されて帯状に連続成型されていることが開示されている。また,段落【0020】には,図5(a)(b)の帯状貝係止具の基本的構造は図1の帯状貝係止具と同じであること,貝係止具を肉薄の連結片を介して連結したこと,連結片の肉厚は例えば0.1〜0.5mm程度にして切断し易くしてあることが明記されており,図5(a)(b)に係る「請求項4」には,多数本の貝係止具が帯状に連続成型されていることが明記されている。これらの記載を総合的に勘案すれば,本願発明の帯状貝係止具は「帯状貝係止具の連結片先端を金型内で基材に溶着させて樹脂成型するもの」であることは明白である。
2請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対しア原告は,新規の自動装填装置を開発し,これに適した貝係止具として,本願を発明した旨主張する。
しかし,本願の明細書及び図面(甲1,3)には,どのような自動装填装置を使用するのか記載されていないし,貝係止具の切断装置の記載もなく,原告が主張するような,昇降ブロックを押し下げるときに昇降ブロックがロープ止め突起と反対側に突出している貝止め突起に押し当たってそれ以上,押し下げることができなくなり,連結材を確実に切断できないとの課題を解決するために,「連結する多数本の貝係止具の2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起を基材からその周方向同方向に突設する」ことは,何ら記載されていない。
すなわち,本願の明細書(甲3)には,【発明が解決しようとする課題】に「図16のシート状貝係止具FはランナーEがあるため…貝係止具Dを切断するとランナーEがゴミとして残るため,その回収に手間がかかり,回収しても廃棄処分しにくく,処分に困る。また,ランナーEがゴミとなるため資源の無駄にもなる。」(段落【0003】)と記載されており,本願発明の課題は,従来のランナーを不要とするものであることが記載されているだけである。また,自動装填装置については,段落【0030】に「本発明の帯状貝係止具を使用方法は種々あるが,一例としてはロール状に巻いた帯状貝係止具をほどいてその一端を自動ピンセッターにセットし,自動ピンセッターにより自動的に貝係止具1を一本ずつ切り離して,図3のように,プラスチック製の紐を編んだロープCに差込み,ロープ止め突起3でロープCから抜けないようにする。その貝係止具1の端部を帆立貝Bの耳に空けてある通孔に差込んで,貝止め突起4を通孔を貫通させ,帆立貝Bの耳を貝止め突起4によって係止する。貝係止具1の長手方向他端を同様に帆立貝Bの通孔に差込んで,貝止め突起4に帆立貝Bの耳を係止する。」と記載されているが,自動ピンセッターがどのような構成のものであるかは記載されていない。さらに,「自動ピンセッター」の図面は全く記載されていない。そして,本願の明細書及び図面(甲1,3)には,上記課題を解決するための帯状の貝係止具として,本願発明の実施例に相当する【図6】に示される貝係止具の他に,2本のロープ止め突起(3)と2本の貝止め突起(4)が基材(2)からその周方向の反対方向に突設された,引用発明1と類似した形状のもの(【図8】),貝止め突起(4)が基材の両側に突設されているもの等,異なる形状の貝係止具が多数記載されている一方,本願発明で特定される,2本のロープ止め突起(3)と2本の貝止め突起(4)を基材(2)からその周方向同方向に突設させたことの技術的意義は記載されていない。
したがって,原告の上記主張は,本願の明細書及び図面の記載に基づかないものであり,失当である。
イ原告の主張する本願発明の「案内針の収容溝は基材とロープ止め突起が入る深さがあればよく,案内針が細くても貝係止具を収容でき,弱い力でもロープに確実に差し込むことができ,強力な押込み駆動体を不要とし,小型化,コスト安を実現する」との効果,及び,本願発明の貝係止具が「スムースに差し込まれる」との効果は,本願の明細書(甲3)の記載に基づくものではない。
また,「貝係止具の2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起を基材の周方向同方向に突設させる」引用例2(甲5の2)の構成から予測できるものであり,本願発明の特有の効果ではない。
ウ原告の主張する本願発明の「ピン送り爪で1本ずつ引き出す貝係止具が捻れたり横に位置ずれしたりせず,貝係止具の基材に傷つけることなく,貝係止具を所定位置から確実に切断できる」との効果は,本願の明細書の記載に基づくものではないし,また,「軸中央部で接近するハ字状の二本のロープ止め突起の先端を連結片で連結する」引用発明1も同様の効果を奏するものであるから,原告が主張する効果は,本願発明の特有の効果ではない。
エ原告は,本願出願当時,自動装填装置や案内針の構成に合わせて,貝止め突起とロープ止め突起を突設する方向を決定すること,及び,使用上好ましい方向を適宜に選択することはできなかったと主張する。
しかし,審決は,本願の優先権主張日当時(平成13年7月13日及び平成14年1月31日),実際に存在した自動装填装置及び案内針に基づいて判断したのではなく,引用例1(甲2の2)及び引用例2(甲5の2)に記載された発明に基づき,優先権主張日当時の技術水準を考慮して判断しているのであり,実際に存在したものでなければ,進歩性を判断する基礎とすることができないものではないから,自動装填装置及び案内針の実際の存在を問題として,審決の判断の誤りをいう原告の主張は,前提において誤っている。
そして,引用例1には,貝係止具を自動装填装置によりロープに装着することが示され(段落【0011】),引用例2には,貝係止具を案内針(案内具G)を使用してロープに装着することが示され(段落【0026】,【図4】),さらに,ロープ止め突起を有する貝係止具を,案内針を使用して自動装填装置によりロープに装着することも,本願の優先権主張日前に知られている。例えば,本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-211827号公報(乙1。発明の名称「養殖貝類の耳吊り装置」,出願人 イーグル工業株式会社,公開日 平成5年8月24日)は,バラピンの自動装填装置ではあるが,2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起を基材の周方向同方向に突設させる貝係止具を,引用例2の案内具Gと同様の案内針を有する自動装填装置によりロープに装着することが記載されている(段落【0027】,【図14】参照)。
このように,本願発明の優先権主張日当時の技術水準として,自動装填装置や案内針を使用して,貝係止具をロープに差し込むことに係る技術事項は,把握できるのである。
そして,自動装填装置や案内針を使用して貝係止具をロープに装着するに当たっては,自動装填装置,案内針及び貝係止具が,相互に対応する構成を備えるべきことは当然であるから,このことを踏まえて,審決は,「貝係止具における貝止め突起とロープ止め突起を突設する方向の決定は,貝係止具の自動装填装置や,貝係止具をロープに差し込む際に用いる案内針の構成に合わせる等して,当業者が,使用上好ましい方向を適宜に選択すれば良いことであり,」(9頁下9行〜下6行)と判断したのである。
オ原告は,引用発明2のバラピンを連続してロール状にすることは,貝係止具の使用状態を考えれば通常は考えられない旨主張する。
しかし,審決は,引用発明2のバラピンを連続してロール状にすることが容易だと判断したのではなく,「…引用発明1において,貝止め突起とロープ止め突起を,自動装填装置や案内針との関係等を考慮し,引用発明2に倣って,基材からその周方向同方向に突設させることは,当業者が容易に想到し得たことである。」(9頁下3行〜下1行)と判断したのである。
そして,引用例1(甲2の2)には,段落【0011】に,連続してロール状にした帯状貝係止具(帯状掛止具51)は,自動装填装置にセットされ,1本ずつ切断されて使用されるものであることが示され,引用発明1の帯状貝係止具は,貝係止具(掛止具単体52)をロープに差し込む際には該貝係止具をバラピンとして使用するものであることが開示されている。
そうすると,引用発明1の帯状貝係止具は,上述のとおりロープに差し込む際には個々の貝係止具を切断してバラピンとして使用するものであるから,原告が「貝係止具の使用状態を考えれば通常は考えられない」と主張する「バラピンを連続してロール状にする」技術思想は,引用発明1に示されている。
また,引用例2(甲5の2)には,段落【0026】に,「本発明の貝係止具は図5に示す従来の貝係止具と同様に案内具Gを使用して図4に示す様にロープCに差込むこともでき,…」と記載されており,案内針(案内具G)が,貝係止具の2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起を基材の周方向同方向に突設させる構成が開示されている。
そして,引用発明1及び2は,いずれも,貝係止具をロープに差し込む際には当該貝係止具をバラピンとして使用するものであって,少なくともロープに差し込む際には同一の形態で装着されるものであるから,引用例1の個々の貝係止具における貝係止具の2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起が突設される方向を,引用発明2の貝係止具と同様に,基材の周方向同方向とすることには十分な動機付けが存在するし,少なくとも両者の組み合わせを妨げる理由はない。
したがって,審決の「…引用発明1において,貝止め突起とロープ止め突起を,自動装填装置や案内針との関係等を考慮し,引用発明2に倣って,基材からその周方向同方向に突設させることは,当業者が容易に想到し得たことである。」(9頁下3行〜下1行)との判断に誤りはない。
なお,引用例1(甲2の2)の【図43】に示されている貝係止具は,帯状に連結する手段が異なるものの,単体としては,引用発明2と同様に,「2本のロープ止め突起(3)と2本の貝止め突起(4)は基材(2)からその周方向同方向に突設され」たものであり,引用例1には,「2本のロープ止め突起(3)と2本の貝止め突起(4)は基材(2)からその周方向同方向に突設され」た貝係止具を連続してロール状にすることも示されている。
カ以上のとおり原告の主張はいずれも理由がなく,審決の相違点2の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2に対しア原告は,本願出願当時に,引き出し時の貝係止具の横ずれ,捻じれ,といった問題もなく,それらの問題の発生を防止するという課題も認識されていなかった,と主張する。
しかし,原告の主張する課題は,本願の明細書(甲3)に全く記載されていない。すなわち,本願の明細書に記載された連結片に関する事項は,「…肉薄の連結片6を介して連結したことである。連結片6の肉厚は例えば0.1〜0.5mm程度にして切断しやすくしてある。場合によっては手で千切ることもできるようにしてある」(段落【0020】),及び,「本件出願の帯状貝係止具は,連結片がロープ止め突起,貝止め突起よりも肉が薄いので,…連結されている貝係止具の分離が特に容易になるという効果もある。」(段落【0032】)と記載されているのみであり,貝止め突起よりも肉薄とすることで,分離が容易になるということが示されているだけであって,連結片を基材の軸方向に幅広くすることの技術的意義については記載されていない。
そうすると,原告の主張する上記課題を認識しなければ,相違点3に係る構成を当業者が容易に想到し得なかったということはできないから,審決が,「…帯状貝係止具がロール状に円滑にかつ確実に巻かれて使用されるために,連結片の形状を適宜に決定することは設計的事項に過ぎない…」(10頁15行〜16行)と判断した点に誤りはない。
イもっとも,本件審判手続において,原告は,平成21年2月23日付け回答書(甲13)で,「…連結片(薄片状)が軸方向に幅広であり,貝係止具を送り爪で一本ずつ送るときに連結片が幅方向に変形しにくく連結片が切断刃の真下に真っ直ぐ送られるので連結片が確実に切断される。」(7頁23行〜25行)と主張していたから,審決では,更に進んで,「基材の軸方向に幅広」にすることの技術的意義は横ずれ等を起こしにくくすることにあると解釈して,相違点3について判断したものである。
この点につき,以下,補足的に主張する。
引用発明1は,ロール状に巻き取るものであるから,貝係止具の連結方向には可撓性を有し,自動装填装置に装着される際には,横ずれ等がない程度の剛性が求められることは明らかである。そうすると,引用発明1において,もっとも変形しやすい部位である連結片について,巻き取り方向には変形しやすく,横方向には変形しにくい形状を採用することが好都合であることが明らかであり,一方,薄くて幅広の形状(帯状の形状)が,厚さ方向には撓みやく横方向には変形しにくいことは,一般に良く知られた技術常識である。原告は,上記回答書で「連結片(薄片状)が軸方向に幅広であり,…連結片が幅方向に変形しにくく」と主張したものの,何故,幅方向に変形しにくいかについて,特段の説明はしていなかったが,上記技術常識を前提としたものと解される。そこで,審決は,上記技術常識を前提に,「…各貝係止具の横ずれ等を防ぐために,各貝係止具を連結する連結片を基材の軸方向に幅広に形成することも,技術常識の付加に過ぎない…」(10頁12行〜14行)と判断したのである。
そして,成形後に切断することを前提とした成形品において,成形品の連結片を,「幅広」かつ「薄く」することは,成形品における技術常識ないし周知技術といえるものである。例えば,実願昭59-148196号(実開昭61-64426号)のマイクロフィルム(乙2。考案の名称「玩具用車輪の成形ゲート構造」,出願人 株式会社タカラ)には,切断を前提とした連結片(成形部10)を薄肉板状として幅広かつ薄くすることが記載され(1頁16行〜2頁9行,第3図),実願昭52-2259号(実開昭53-97100号)のマイクロフィルム(乙3。考案の名称「プラスチック製の組立模型又は玩具」,出願人 株式会社バンダイ模型)には,切断を前提とした連結片(接合部(a))を厚さ0.2mm,巾0.5mm程度にして幅広かつ薄くすることが記載され(2頁2行〜5行,第二図,第三図),特開平9-262874号公報(乙4。発明の名称「モールド金型」,出願人 ローム株式会社,公開日 平成9年10月7日)には,切断を前提とした連結片(バー110,バー11)を幅広かつ薄くすることが記載され(段落【0003】,【図6】,段落【0013】,【0014】,【図3】,【図4】),特開平8-150634号公報(乙5。発明の名称「樹脂封止型半導体装置の製造金型及びそれを用いた製造方法」,出願人 シャープ株式会社,公開日 平成8年6月11日)にも,切断を前提とした連結片(不要部分3a)を幅広かつ薄くすることが記載され(段落【0037】,【0038】,【図1】(a),【図2】(c)),また,特開平5-299455号公報(乙6。発明の名称「半導体装置の製造方法」,出願人 シャープ株式会社,公開日 平成5年11月12日)にも,切断を前提とした連結片(断面縮小部11a)を幅広かつ薄くすることが記載されている(段落【0012】,【0014】,【図1】(b),【図4】(b),【図6】)。
そうすると,単体の貝係止具を連結片で切断することを前提とした引用発明1において,当該連結片の構成として上記の成形品の連結部における技術常識ないし周知技術を付加することは当業者が適宜なし得たことであり,その際,基材の厚さ方向は,ロール状に巻き取る可撓性を有する程度に「薄く」,横ずれ等がない程度の剛性が求められる基材の軸方向には「幅広」に設計することは当業者が適宜なし得たことである。
ウ原告は,本願出願当時,連結片として引用発明1の丸紐状の他の形状はなかったから,連結材の形状を選択できる状態にはなかったと主張するが,引用例1(甲2の2)には,連結片について「請求項8においては,並設された掛止具単体の軸部中間部を,軸方向に離間した可撓性連結片で連結するので,大量の掛止具単体を,各軸部が平行するようにして一体に,帯状に連結させることができ,連結片が可撓性を有するので,連結部を曲げて帯状掛止具をロール状にすることができるので,運搬,ストック上有利である」(段落【0022】),「…又ロープの抜け止め部を備えつつ,該抜け止め部と他の掛止具との間の切り離しが,抜け止め部先部の連結片を切り易く形成できることから容易である。」(段落【0023】)と記載され,連結片は可撓性があり,かつ切り離しが容易であればよいことが示されている。
そうすると,連結片の構成として,成形品において広く採用されている上記イの技術常識ないし周知技術を採用することが格別困難であるとはいえない。
エ原告が本願の優位な効果として主張する「連結片を基材の軸方向に幅広くすることによって,薄くても,貝係止具の基材の軸方向への溶着面積を広くすることができる」との効果は,本願の明細書に全く記載されていない。そもそも,本願の明細書には,連結片先端を金型内で基材に溶着することすら記載されていない。
また,原告が主張する,連結片が「ロール状に巻き易く」,「切断し易くなる」との効果は,引用発明1も奏するものであり,本願発明の特有の効果ではない。
第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本願発明の意義(1)平成18年9月25日付けの補正後の特許請求の範囲【請求項1】は,前記第3,1(2)のとおりであり,上記補正後の明細書の【発明の詳細な説明】の記載(甲3)及び図面の記載(甲1)は,次のとおりである。
ア 発明の属する技術分野「本発明は帆立貝,真珠貝,その他の貝の養殖に使用される貝係止具を多数本連結して帯状に連続成型した帯状貝係止具と,帯状貝係止具をロール状に巻いたロール状貝係止具に関するものである。」(段落【0001】)イ 従来の技術「帆立貝の養殖方法の一つとして耳吊養殖がある。これは図15のように海中に張ったのしロープAに,予め帆立貝Bを取付けた編ロープCを取り付けて海中に吊す方法である。帆立貝Bを編ロープCに取付けるのに貝係止具Dが使用されている。貝係止具Dは図16のように二本の細長棒状のガイド(ランナー)E間に多数本連結されて,シート状に樹脂成型されている。シート状貝係止具Fの使用方法は種々あるが,その一つとして,シート状貝係止具Fを自動ピンセッター(ピンを1本ずつ切り離して編ロープCに差込む機械)に多数枚縦向きに重ねてセットし,自動ピンセッターによりランナーEから貝係止具Dを一本ずつ切り離しながらロープCに差込まれる。図16のシート状貝係止具Fは通常20本前後の貝係止具Dが連結されている。」(段落【0002】)ウ 発明が解決しようとする課題「図16のシート状貝係止具FはランナーEがあるため一枚ずつ形が定まっており,包装,運送,自動ピンセッターへのセット,自動ピンセッターによる貝係止具Dの切断といった作業が容易であるという利点はあるが,貝係止具Dを切断するとランナーEがゴミとして残るため,その回収に手間がかかり,回収しても廃棄処分しにくく,処分に困る。また,ランナーEがゴミとなるため資源の無駄にもなる。」(段落【0003】)エ 課題を解決するための手段「本発明の目的は,貝係止具を多数本(数千本,数万本)並べて連結して長尺にした帯状貝係止具と,それをロール状に巻いたロール状貝係止具を提供するものである。」(段落【0004】)オ 実施例・ 「(帯状貝係止具の実施形態2)本発明の帯状貝係止具の第2の実施例を図5(a)(b)に基づいて説明する。この帯状貝係止具の基本的構造は図1の帯状貝係止具と同じであり,異なるのは,貝係止具1のロープ止め突起3の先端部5を直接,基材2の背面に連結するのではなく,肉薄の連結片6を介して連結したことである。連結片6の肉厚は例えば0.1〜0.5mm程度にして切断しやすくしてある。場合によっては手で千切ることもできるようにしてある。」(段落【0020】)・「(帯状貝係止具の実施形態3)本発明の帯状貝係止具の第3の実施例として図6に示すものは,貝係止具1のロープ止め突起3と貝止め突起4とを基材2の周の外側で且つ同じ方向に突設したものである。この場合も基材2の外周面よりも一段低い貝止め突起倒伏部9を形成してある。また,貝止め突起4の根元10を円弧状に湾曲させて,貝の荷重が外側に向けて貝止め突起4に加わっても根元10が裂けないようにしてある。」(段落【0021】)・ 「(ロール状貝係止具の実施形態)本発明のロール状貝係止具の実施形態を図13に基づいて説明する。
これは前記した実施形態1〜9の帯状貝係止具7をロール状に巻いたものである。この場合,帯状貝係止具7に帯状のシート(シートより薄いフィルムを含む)8を添わせてロール状に巻いて,帯状貝係止具7の間にシート8を介在させてある。シート8には障子紙のような帯状の紙とか,コピー用紙のような質,厚さの紙を帯状に長くしたものとか,帯状に長くした樹脂製のシート等を使用することができるが,使用後の廃棄処分のし易さの面から,紙を使用するのが好ましい。シート8は,幅,長さ,共に帯状貝係止具7と同程度のものが好ましいが,それより短いものを足しながら使用することもできる。本発明のロール状貝係止具はシート8を介在させずに巻くことも出来る。」(段落【0028】)・「本発明の帯状貝係止具7は図14のように巻胴21の両端に鍔22を設けたボビン23の巻胴21にロール状に巻くこともできる。ボビン23は肉厚の紙製,樹脂製,木製等とすることができる。紙製の場合は使い捨てに適し,樹脂製,木製等の場合は再使用するのに適する。ボビン23に巻く帯状貝係止具7の間にはシート8を介在させてもよい。」(段落【0029】)・「本発明の帯状貝係止具を使用方法は種々あるが,一例としてはロール状に巻いた帯状貝係止具をほどいてその一端を自動ピンセッターにセットし,自動ピンセッターにより自動的に貝係止具1を一本ずつ切り離して,図3のように,プラスチック製の紐を編んだロープCに差込み,ロープ止め突起3でロープCから抜けないようにする。その貝係止具1の端部を帆立貝Bの耳に空けてある通孔に差込んで,貝止め突起4を通孔を貫通させ,帆立貝Bの耳を貝止め突起4によって係止する。貝係止具1の長手方向他端を同様に帆立貝Bの通孔に差込んで,貝止め突起4に帆立貝Bの耳を係止する。」(段落【0030】)カ 発明の効果・「本件出願の帯状貝係止具は,多数本の貝係止具がロープ止め突起と基材との連結,ロープ止め突起同士の連結,貝止め突起同士の連結といったように,連結用のランナー等を使用せずに隣接する貝係止具に連結して成型してあるので次のような効果がある。
1.従来の貝係止具のランナーに相当するものがないため,連結されている貝係止具を分離してもゴミが発生せず,ゴミ処理の面倒がない。
2.ランナーのような貝係止具同士を連結するための材料が不要であるため,材料の消費量が少なくなり,材料費が安くなり,省資源にもなる。」(段落【0031】)・「本件出願の帯状貝係止具は,連結片がロープ止め突起,貝止め突起よりも肉が薄いので,前記効果の他に,連結されている貝係止具の分離が特に容易になるという効果もある。」(段落【0032】)・「本件出願の帯状貝係止具は,多数本の貝係止具が同じ向きにして連結されているため,帯状貝係止具を一本ずつ分離してロープに差込む場合に貝係止具の方向が揃うため,ロープへの差込み,貝への差込などの作業がし易くなる。」(段落【0033】)・「本件出願のロール状貝係止具は,数十m以上(極言すれば限りなく)長く連続成型された帯状貝係止具をロール状に巻いてあるため,保管や運搬に便利である。また,ピンセッターなどの自動機器にセットして一本ずつ分離してロープに差込む作業を連続して行うことができ,それらの作業能率が向上する。」(段落【0034】)キ 図面【図6】(個々の貝係止具の例を示す斜視図)【図13】(本発明の帯状貝係止具をシートをあてがってロール状に巻いたロール状貝係止具の斜視図)(2)上記(1)によれば,本願発明は,帆立貝,真珠貝,その他の貝の養殖に使用される貝係止具を多数本連結して帯状に連続成型した帯状貝係止具に関する発明であって,?連結用のランナー等を使用せずに隣接する貝係止具に連結して成型してあるので,連結されている貝係止具を分離してもゴミが発生せず,ゴミ処理の面倒がなく,また,材料の消費量が少なくなり,材料費が安くなり,省資源にもなる,?連結片がロープ止め突起,貝止め突起よりも肉が薄いので,連結されている貝係止具の分離が特に容易になる,?多数本の貝係止具が同じ向きにして連結されているため,帯状貝係止具を1本ずつ分離してロープに差し込む場合に貝係止具の方向が揃うため,ロープへの差込み,貝への差込などの作業がし易くなる,?ロール状に巻き取り可能であるため,保管や運搬に便利であり,また,ピンセッターなどの自動機器にセットして1本ずつ分離してロープに差し込む作業を連続して行うことができ,それらの作業能率が向上する,という効果があるものと認められる。
(3)原告は,本願発明における「2本のロープ止め突起(3)と2本の貝止め突起(4)は基材(2)からその周方向同方向に突設され」という構成の効果として,「自動装填装置の昇降ブロックと受け具を貝係止具の全長を押すことのできる長さにした場合,引用発明1のように,2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起の突出方向が基材の周方向逆方向であると,昇降ブロックを押し下げるときに昇降ブロックがロープ止め突起と反対側に突出している貝止め突起に押し当たってそれ以上,押し下げることができなくなり,連結材を確実に切断できないところ,本願発明の上記構成によってこの課題が解決された」旨の主張をする。
しかし,この主張は,原告が主張する自動装填装置(貝係止具を1本ずつ分離してロープに差し込む作業を自動的に行う装置)の構成(前記第3,1(4)ア(ア))を前提とする主張であると解されるところ,本願の特許請求の範囲【請求項1】は,自動装填装置を用いることはもとより,その構造について何ら特定するものではなく,ましてやそれの昇降ブロックや受け具の長さを特定するものではない。そして,原告が主張する上記効果については,本願の明細書(甲3)中にも全く記載されていないから,本願発明における「2本のロープ止め突起(3)と2本の貝止め突起(4)は基材(2)からその周方向同方向に突設され」という構成の効果と認めることはできない。
また,原告は,本願発明における「2本のロープ止め突起(3)と2本の貝止め突起(4)は基材(2)からその周方向同方向に突設され」という構成の効果として,「自動装填装置の案内針の収容溝は基材とロープ止め突起が入る深さがあればよく,案内針が細くても貝係止具を収容でき,弱い力でもロープに確実に差し込むことができ,強力な押込み駆動体を不要とし,小型化,コスト安が実現されるし,また,切断された1本の貝係止具を案内針の溝に押し込むとき,スムースに差し込まれる」旨の主張をする。
しかし,この主張も,原告が主張する自動装填装置の構成(前記第3,1(4)ア(ア))を前提とする主張であると解されるところ,本願の特許請求の範囲【請求項1】は,自動装填装置を用いることはもとより,その構造について何ら特定するものではなく,ましてやそれらの案内針の収容溝の構造を特定するものではない。そして,原告が主張する上記効果については,本願の明細書(甲3)中に全く記載されていないから,本願発明における「2本のロープ止め突起(3)と2本の貝止め突起(4)は基材(2)からその周方向同方向に突設され」という構成の効果と認めることはできない。この点について,原告は,本願発明において「2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起を基材の周方向同方向に突設し」,その貝係止具を1本ずつ切断して案内針にセットして差し込むことにより当然に導き出される自明の効果であると主張するが,上記のとおり原告が主張する自動装填装置の構成(前記第3,1(4)ア(ア))を前提とするものであって,自明の効果と認めることはできない。
したがって,原告主張に係る以上の効果を,後記の本願発明の進歩性の判断に当たって考慮することはできないというべきである。
(4)次に原告は,本願発明の「隣接する貝係止具(1)は一方の貝係止具(1)のロープ止め突起(3)の先端部(5)が基材(2)の軸方向に幅広でロープ止め突起(3),貝止め突起(4)よりも薄く且つ貝係止具(1)をロール状に巻き取り可能な薄さの連結片(6)を介して他方の貝係止具(1)の基材(2)と連結され,」との構成の効果として,「連結片の幅を基材の軸方向に幅広くすることによって,薄くても,貝係止具の基材の軸方向への溶着面積を広くすることができ,溶着面積が広くなり,溶着部の連結強度が向上し,ロール状に巻き取ったり,ロールから引き出すときに連結片が切断したり,折れたり,分離したりしにくくなる。また,本願発明では,連結片の幅が横に広いため引き出し時に横に位置ずれしたり捻じれたりしにくくなり,2枚の連結片を確実に切断することができる。さらに,連結片はロール状に巻き易く,切断し易くするため,できるだけ薄い方が望ましく,特に径の小さなドラムへの巻き始めには厚いと巻きにくいため薄いことが望ましいところ,薄く形成されている。」旨の主張をする。
しかし,連結片(6)の効果については,本願の明細書(甲3)には,前記(2)のとおり「連結片がロープ止め突起,貝止め突起よりも肉が薄いので,連結されている貝係止具の分離が特に容易になる」との効果が記載されており,また,上記構成に係る本願の特許請求の範囲【請求項1】の記載から,連結片(6)の薄さは,ロール状に巻き取り可能な薄さでなければならないということはできるが,本願の明細書(甲3)には,それ以上の効果は記載されておらず,原告が主張する「連結片を幅広に形成したので,溶着面積が広くなり,溶着部の連結強度が向上し,連結片が切断したり,折れたり,分離したりしにくくなるともに,引き出し時に横に位置ずれしたり捻じれたりしにくくなるので,2枚の連結片を確実に切断することができる。」との効果についての記載があるとは認められない。
このうち,「引き出し時に横に位置ずれしたり捻じれたりしにくくなるので,2枚の連結片を確実に切断することができる。」との効果については,原告が主張する自動装填装置の構成(前記第3,1(4)ア(ア))を前提とする主張であると解されるところ,本願の特許請求の範囲【請求項1】は,自動装填装置を用いることはもとより,その構造について何ら特定するものではなく,ましてやそれらにおいて帯状貝係止具を引き出して切断する方法を特定するものではない。そして,原告が主張する上記効果については,上記のとおり,本願の明細書(甲3)中に全く記載されていないから,本願発明において連結片を基材の軸方向に幅広に形成したことの効果と認めることはできない。この点について,原告は,本願発明の効果のうち,「ピン送り爪で1本ずつ引き出す貝係止具が捻じれたり横に位置ずれしたりせず,貝係止具の基材に傷つけることなく,貝係止具を所定位置から確実に切断できる」との効果は,本願の明細書及び図面に明記されていなくとも,本願発明の構成から導かれる自明の効果であると主張するが,上記のとおり原告が主張する自動装填装置の構成(前記第3,1(4)ア(ア))を前提とするものであって,自明の効果と認めることはできない。
したがって,原告主張に係る以上の効果を,後記の本願発明の進歩性の判断に当たって考慮することはできないというべきである。
また,「溶着面積が広くなり,溶着部の連結強度が向上し,ロール状に巻き取ったり,ロールから引き出すときに,連結片が切断したり,折れたり,分離したりしにくくなる」との効果については,上記のとおり,本願の明細書(甲3)中に全く記載されていないが,連結片を基材の軸方向に幅広に形成すれば,そうでない場合よりも強度が強くなることは,自明のことであるとも考えられるので,この点は,本願発明において連結片を基材の軸方向に幅広に形成したことの効果と認める余地がある。したがって,原告主張に係る以上の効果を,後記の本願発明の進歩性の判断に当たって考慮することとする。
3 引用発明1の意義(1)引用例1(甲2の2。特開平10-165036号公報。発明の名称「養殖帆立貝の掛止具,及び該掛止具,帆立貝のロープへの掛止方法」,出願人 A,公開日 平成10年6月23日)には,次の記載がある。
ア 特許請求の範囲「【請求項8】樹脂等で形成された棒状の軸部先部に,尖鋭な挿入部及び抜け止め部を備え,該軸部の後部には後部抜け止め部を備える養殖帆立貝の掛止具において,前記掛止具単体を,該掛止具単体の軸部が平行するように多数並設し,各掛止具単体の軸部の中間部間を,軸方向に離れた複数本の可撓性連結片で連結し,前記可撓性連結片の基部は,前記軸部から向い合うように傾斜して突設したロープの抜け止め部の先部に一体に設けられ,該ロープ抜け止め部の先部の可撓性連結片で隣接する掛止具単体の軸部に一体に連結し,前記多数の掛止具単体を前記可撓性連結片で帯状に連結した,ことを特徴とする養殖帆立貝の掛止具。」イ 発明の詳細な説明・「図35は図30〜図33の掛止具の他の実施の形態を示す。掛止具単体52の基本構造は,前記と同様なので,同一部分には同一符号を付し,詳細な説明は省略する。」(段落【0090】)・「52…は掛止具単体,53,57は尖鋭部,53a,57aは規制片,55は軸部,54,54は先細り部である。軸部55の中間部周に,軸方向に離間してロープ42の抜け止め部61,62を径方向外方に2個突設する。」(段落【0091】)・「抜け止め部61,62は軸部55から径方向の同方向で,軸方向に互いに向い合うようにハの字型に突設され,径が太く,各先端部に小径の連結部58,59が形成され,複数本,図示例では2本の連結部58,59で平行し,隣接する掛止具単体の軸部55周に連結され,この部分で可撓性連結片を構成する。」(段落【0092】)・「図36はこの帯状掛止具51をロール状に巻回したロール状掛止具60を示し,図37は帯状掛止具51の拡大図であり,図38は掛止具単体52を切り離して示した図である。規制部61,62が径が太くても,これの先部の細い部分の連結片58,59で平行し,隣接する掛止具単体52と連結しているので,連結片58,59の部分から帯状掛止具51は容易に曲げられ,ロール状にすることができる。」(段落【0093】)ウ 図面【図36】(帯状掛止具をロール状掛止具とした説明的斜視図)(2)上記(1)によれば,引用発明1の内容は,審決(6頁7行〜27行)が認定するとおりであり,本願発明との一致点及び相違点も,審決(8頁5行〜9頁4行)が認定するとおりであると認められる。
4 引用発明2の意義(1)引用例2(甲5の2。特開平8-191643号公報。発明の名称「貝係止具」,出願人X[原告],公開日 平成8年7月30日)には,次の記載がある。
ア 特許請求の範囲・「【請求項1】ロープに差込み可能な基材(1)の中央部にロープへ差込まれた状態でロープからの抜けを規制するロープ止め突子(2)を形成し,同基材(1)のうちロープ止め突子(2)より長手方向外側にロープ止め突子(2)側に突出する貝止め突子(3)を形成してなる貝係止具において,基材(1)から立ち上がるロープ止め突子(2)の根元内側部(4)を基材(1)の中央部側から外側に滑らかな曲面に湾曲させてなることを特徴とする貝係止具。
・「【請求項3】請求項1又は請求項2記載の貝係止具において,基材(1)から立ち上がる貝止め突子(3)の立ち上がり部内側(6)を基材(1)の中央部側から外側に滑らかな曲面で湾曲させてなることを特徴とする貝係止具。」イ 発明の詳細な説明(ア) 実施例・「本発明の貝係止具の一実施例を図1〜3に基づいて詳細に説明する。これらの図に示す貝係止具はプラスチックにより細長丸棒状に形成された基材1の中央部にロープCに係止するロープ止め突子2が形成され,同基材1のロープ止め突子2の両外側に同突子2側に突出し且外側に湾曲する貝止め突子3が形成されている。」(段落【0020】)・「図1,3のロープ止め突子2は基材1の中央部10の径よりもやや細い丸棒状に形成されており,基材1のほぼ中央部2箇所から内側に向けて斜め外側に突設されており,基材1から立ち上がる根元内側部4にR(アール)を付けて基材1の中央部側から外側に滑らかな曲面に湾曲させてある。図示したロープ止め突子2は直線状であるが外側に反り返るように湾曲させることもできる。また,ロープ止め突子2の形状は丸棒状であるがそれ以外の形状であってもよい。」(段落【0021】)・「図1,3の貝止め突子3は薄板状に形成されており,基材1のうちロープ止め突子2の両外側対称位置からロープ止め突子2と同方向に突設されており,基材1から立ち上がる立ち上がり部内側6にR(アール)をつけて基材1の中央部側から外側に滑らかな曲面で湾曲させてある。また,貝止め突子3は外側に反り返るように湾曲させてある。貝止め突子3は薄板状ではなく丸棒状とかその他の形状であってもよい。」(段落【0022】)(イ) 発明の効果「本発明のうち請求項3の貝係止具では,貝止め突子3の立ち上がり部内側6をも滑らかな曲面に湾曲させてなるので,貝係止具をロープに差込むときにその立ち上がり部が倒れ易くなり,ロープへの貝係止具の差込みがより一層容易になる。」(段落【0029】)ウ 図面【図1】(本発明の貝係止具の1実施例を示す斜視図)【図3】(a)(本発明の貝係止具の側面図)(b)(本発明の貝係止具の貝止め突子と貝止め突子を倒伏した状態の説明図)(2)上記(1)によると,引用例2(甲5の2)には,審決(7頁下8行〜下5行)が認定するとおり,以下の発明(引用発明2)が記載されているものと認められる。
「貝止め突子(3)の根元内側部(4)は貝係止具を差込むときに貝止め突子(3)の立ち上がり部が倒れ易くなるように円弧状に湾曲させてあり,2本のロープ止め突子(2)と2本の貝止め突子(3)は基材(1)からその周方向同方向に突設された貝係止具。」5 取消事由1(相違点2についての判断の誤り)の有無について(1)前記4(2)のとおり,引用発明2は,貝係止具において,2本のロープ止め突子(2)と2本の貝止め突子(3)が基材(1)からその周方向同方向に突設されたものであるから,これを同じ貝係止具の発明であって,「ロープ(42)からの軸部(55)の抜けを規制する2本の抜け止め部(61,62)と,帆立貝(40)の抜けを規制する2本の規制片(53a,57a)が突設されている」引用発明1に適用して,2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起が,基材からその周方向同方向に突設されるものとすることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想到することができるというべきである。
(2)この点について,原告は,本願発明特有の効果について主張する(前記第3,1(4)ア(イ))が,前記2(3)で述べたとおり,これらは本願発明の効果を認めることができない。
また,原告は,本願出願当時,ロープ止め突起を連結したロールピンも,自動装填装置も,案内針も開発初期の段階であり,多種類存在していたわけでも,公知になっていたわけでもなく,引用発明1のロール状ピンが公知になっていただけである,と主張するが,前記2(3)で述べたとおり,本願発明は,原告が主張する自動装填装置の構成(前記第3,1(4)ア(ア))を含むものではなく,自動装填装置や案内針が多種類存在していたかどうかや公知になっていたかどうかは,上記(1)の認定を左右する事情とは認められない。
さらに,原告は,引用発明2のバラピンを連続してロール状にすることは,貝係止具の使用状態を考えれば通常は考えられず,当業者であればある程考えにくい,と主張するが,引用発明1において貝係止具のロール状ピンが公知になっていたのであり,引用発明2の貝係止具の形状である「2本のロープ止め突起と2本の貝止め突起が,基材からその周方向同方向に突設されるもの」を引用発明1のロール状ピンに適用することを当業者は考えないとする事情が存するとは認められない。
(3)したがって,本願発明と引用発明1との相違点2に係る構成を当業者が容易に想到し得たとの審決の判断に誤りがあるということはできない。
なお,原告は,優先権主張日当時(平成13年7月13日及び平成14年1月31日)の技術水準は示されておらず,「当時の技術水準」を示すことなくなされた審決の判断には誤りがあるとも主張するが,審決においては引用発明1及び2によって優先権主張日当時の技術水準が示されており,「当時の技術水準」を示すことなくなされたものではない。
以上のとおり取消事由1は理由がない。
6 取消事由2(相違点3についての判断の誤り)の有無について(1)本願発明と引用発明1との相違点3に係る構成のうち,連結片が貝係止具をロール状に巻き取り可能な薄さであることは,引用発明1が貝係止具をロール状に巻き取るものであることからすると,当然に備えるべき構成ということができるから,当業者は,容易に想到することができたというべきである。
また,本願発明の相違点3に係る構成のうち,連結片がロープ止め突起,貝止め突起よりも薄い点については,前記2(2)で述べたとおり,連結されている貝係止具の分離が特に容易になるとの効果があるものと認められるが,成形後に切断することを前提とした成形品において切断を容易にするために成形品の連結片を「薄く」することは,?実願昭59-148196号(実開昭61-64426号)のマイクロフィルム(乙2。考案の名称「玩具用車輪の成形ゲート構造」,出願人 株式会社タカラ)の1頁16行〜2頁9行及び第3図,?実願昭52-2259号(実開昭53-97100号)のマイクロフィルム(乙3。考案の名称「プラスチック製の組立模型又は玩具」,出願人 株式会社バンダイ模型)の2頁2行〜5行,第二図及び第三図,?特開平9-262874号公報(乙4。発明の名称「モールド金型」,出願人 ローム株式会社,公開日 平成9年10月7日)の段落【0003】及び【図6】並びに段落【0013】,【0014】,【図3】及び【図4】,?特開平8-150634号公報(乙5。発明の名称「樹脂封止型半導体装置の製造金型及びそれを用いた製造方法」,出願人 シャープ株式会社,公開日 平成8年6月11日)の段落【0037】,【0038】,【図1】(a)及び【図2】(c)),?特開平5-299455号公報(乙6。発明の名称「半導体装置の製造方法」,出願人 シャープ株式会社,公開日 平成5年11月12日)の段落【0012】,【0014】,【図1】(b),【図4】(b)及び【図6】に示されており,周知の技術であると考えられる。この点について,原告は,乙2〜6において薄くしてあるのは,いずれも「成形品のゲート」(樹脂注入口付近)であり,必要な成形品(製品)と不要箇所を分離するための箇所でもあるから,本願発明の「基材の軸方向に幅広の薄肉の連結片」とは技術思想が異なると主張するが,成形後に切断することを前提とした成形品において切断を容易にするために成形品の連結片を「薄く」している点では,本願発明と乙2〜6とで変わりがなく,被告が主張する上記の点は,そのことを左右するものではない。そうすると,連結されている貝係止具の分離が特に容易になるとの効果を奏するために,連結片をロープ止め突起,貝止め突起よりも薄くすることは,上記周知技術に照らし,当業者が容易に想到することができたというべきである。
さらに,本願発明の相違点3に係る構成のうち,連結片が基材の軸方向に幅広である点については,前記2(4)で述べたとおり,「溶着面積が広くなり,溶着部の連結強度が向上し,ロール状に巻き取ったり,ロールから引き出すときに,連結片が切断したり,折れたり,分離したりしにくくなる」との効果があると認める余地があるが,もともと本願の明細書に記載されていなくとも明らかであると認められる程度の効果であり,そのような効果を奏するために連結片を基材の軸方向に幅広とすることは,当業者が適宜採用することができる事項の域を出ないというべきである。
原告が主張するその余の効果を本願発明の効果と認めることができないことは,前記2で述べたとおりである。
なお,原告は,本願出願当時,連結片として引用発明1の丸紐状以外の他の形状はなかったから,連結材の形状を選択できる状態にはなかったと主張するが,連結片の形状が引用発明1の形状に限られる理由はないから,この主張も上記判断を左右するものではない。
(2)したがって,本願発明の相違点3に係る構成を当業者が容易に想到し得たとの審決の判断に誤りがあるということはできないから,取消事由2も理由がない。
7結論以上のとおり,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海