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関連審決 不服2007-13819
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事件 平成 21年 (行ウ) 358号 裁決取消等請求事件
ドイツ連邦共和国 ハイデルベルグ <以下略>
原告ツェーエーオーエス コレクテッド エレクトロン オプチカル システムズ ゲーエムベーハー
訴訟代理人弁護 士加藤義明
同 町田健一
補佐人弁理士矢野敏雄
同 星公弘 東京都千代田区<以下略>
被告国 処分行政庁兼裁決行政庁特許庁長官
訴訟代理人弁護 士大西達夫
指定代理人青木明子
同 市川勉
同 門奈伸幸
同 天道正和
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/01/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
1特許庁長官が平成20年6月18日付けで原告に対してした特願2007-156744号についての誤訳訂正書に係る手続の却下処分を取り消す。
2特許庁長官が平成21年1月21日付けで原告に対してした行政不服審査法による異議申立てを棄却する旨の決定を取り消す。
事案の概要
本件は,ドイツ語でされた外国語特許出願(特許法184条の4第1項)をもとの特許出願として日本語で記載された明細書を添付して新たな特許出願(分割出願)を行った原告が,同分割出願に係る明細書についての誤訳訂正書を提出したところ,特許庁長官から,同分割出願外国語書面出願(特許法36条の2第1項)でないことを理由として当該誤訳訂正書に係る手続の却下処分を受け,更に,上記処分について申し立てた行政不服審査法(以下「行審法」という。)による異議申立てについて棄却する旨の決定を受けたことから,被告に対し,上記却下処分及び決定の各取消しを求めた事案である。
1前提事実(証拠の摘示のない事実は,当事者間に争いのない事実である。)(1) 原出願の手続の経緯ア原告は,2001年(平成13年)11月23日,同年1月20日を優先権主張日,ドイツ特許庁を受理官庁,国際出願言語をドイツ語として,発明の名称を「静電矯正器」とする発明について,千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約(以下「PCT」という。)に基づく国際出願(PCT/DE01/04446)をした。
上記国際出願は,指定国に日本国を含むものであったため,特許法184条の3第1項の規定により上記国際出願日にされた特許出願とみなされた国際特許出願(日本における出願番号・特願2002-558299号。以下「本件原出願」という。)であり,かつ,ドイツ語でされた外国語特許出願(特許法184条の4第1項)である。
イ原告は,平成15年6月25日,本件原出願について,特許法184条の5第1項に規定する国内書面並びに同法184条の4第1項に規定する明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による各翻訳文を提出した。
ウ原告は,本件原出願について,平成19年2月2日付けで拒絶査定を受けたので,同年5月14日付けで拒絶査定不服審判を請求した。
また,原告は,同年6月13日,本件原出願について,明細書の翻訳文の誤訳を訂正する誤訳訂正書(甲17)及び手続補正書を提出した。
その後,原告は,平成20年7月22日付けで拒絶理由通知を受けた後,同年8月21日,本件原出願について,明細書の翻訳文の誤訳を訂正する誤訳訂正書,手続補正書及び意見書を提出した(甲25ないし28)。
特許庁は,上記拒絶査定不服審判請求を不服2007-13819号事件として審理した結果,同年9月1日,「原査定を取り消す。本願の発明は,特許すべきものとする。」との審決をし,同月26日,原告は,特許第4191483号として特許権の設定登録を受けた。
(2) 分割出願の手続の経緯等ア原告は,平成19年6月13日,平成18年法律第55号による改正前の特許法44条(以下「特許法旧44条」という。)1項に基づき,本件原出願をもとの特許出願とする新たな特許出願(特願2007-156744号。以下「本件分割出願」という。)をした。本件分割出願の願書には,日本語による明細書,特許請求の範囲及び図面が添付されたが,当該明細書,特許請求の範囲及び図面の内容は,前記(1)イの日本語による各翻訳文と同一であった。
イ原告は,平成19年8月15日付けで,本件分割出願の明細書についての誤訳訂正書(乙1。以下「本件誤訳訂正書」という。)及び手続補正書を提出した。
特許庁長官は,本件分割出願が特許法36条の2第1項の規定による出願でないことを理由に本件誤訳訂正書の提出に係る手続を却下すべきものと認める旨の同月20日付け却下理由通知書(以下「本件却下理由通知書」という。)を発送した。これに対し原告は,同年9月6日,弁明書を提出した。
その後,特許庁長官は,平成20年6月18日付けで,本件却下理由通知書記載の理由によって本件誤訳訂正書に係る手続の却下処分(以下「本件処分」という。)をした。
ウ(ア)原告は,平成20年8月18日付けで,本件処分について,行審法による異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をした。
その後,特許庁長官は,平成21年1月21日付けで,「本件異議申立てを棄却する。」との決定(以下「本件決定」という。)をした。
(イ)本件決定の理由は,本件分割出願は,日本語による特許出願であって,特許法17条の2第2項,184条の12第2項の規定により誤訳訂正書の提出が認められる外国語書面出願(同法36条の2)又は外国語特許出願(同法184条の4)のいずれでもなく,日本語による特許出願において誤訳訂正書を提出できるとの規定は特許法上存在しないから,誤訳訂正書の提出は認められない,分割出願の明細書等の補正は,特許法17条の2第3項の規定に基づき当該分割出願の願書に添付した明細書等の範囲においてしなければならないものであり,原出願の明細書等の範囲まで拡大して補正できるものではなく,本件誤訳訂正書の手続は,本件原出願に添付された外国語書面誤訳の訂正を行うものであるから認められない,したがって,本件分割出願外国語書面出願でないことを理由とする本件処分は適法である,というものである(甲3)。
2 争点本件の争点は,本件処分における判断の誤りの有無(争点1),本件決定における審理手続の違法の有無(争点2-1)及び理由附記の不備の違法の有無(争点2-2)である。
争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件処分における判断の誤りの有無)について(1) 原告の主張以下に述べる事情を考慮すれば,本件分割出願において,本件誤訳訂正書によって明細書の補正を行うことは,特許法184条の12第2項,17条の2第2項の適用又は類推適用によって許されると解すべきであるのに,これを許されないとした本件処分の判断には誤りがある。
ア誤訳訂正書により誤訳訂正を行い得る出願を限定する理由がないこと特許法17条の2第2項は,「第36条の2第2項外国語書面出願の出願人が,誤訳の訂正を目的として,前項の規定により明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,その理由を記載した誤訳訂正書を提出しなければならない。」と規定している。
同条項は,誤訳の訂正をする場合には理由付きの誤訳訂正書を提出しなければならないとの行為規範を定めているにすぎず,文言上,誤訳訂正ができる場合を限定するものとはいえない。
イ 本件分割出願が外国語特許出願に当たること特許法旧44条1項による分割出願は,原出願とは別個独立の出願とはされているが,同条2項における出願日時の遡及や同条4項における手続の簡素化などの定めにかんがみると,原出願と分割出願を完全に別の出願と解釈することは,形式的にすぎる解釈であり,分割出願の性質については,原出願の性質及び分割出願自体の内容等を勘案して決すべきである。
本件分割出願は,本件誤訳訂正書の理由の記載から外国語特許出願である本件原出願に基づいてされたことは明らかであるから,必要な限りにおいて両者の関連性を認めても不都合は生じない。すなわち,翻訳文が外国語特許出願に基づき補正された事実が明確となるから,第三者にとっても,審査官にとっても,外国語特許出願を照会し,これに基づく誤訳の訂正かどうかを確認することが容易となる。
このような状況を考えれば,特許法旧44条1項の「新たな」特許出願という文言に「別個の」という意味以上の積極的な意義を与え,本件分割出願を本件原出願と全く無関係に判断し,本件分割出願に訳文が付されていないことのみをもって,本件分割出願が日本語による出願であると判断するのは妥当でなく,本件分割出願は,本件原出願に基づきされた分割出願であることから,本件原出願と同様,外国語特許出願であると解すべきである。
ウ英語以外の言語による外国語特許出願を原出願とする分割出願における出願人の保護の必要性本件分割出願のように,英語以外の言語(ドイツ語)による外国語特許出願を原出願とする分割出願においては,それが日本語による特許出願であっても,原出願の明細書等の誤訳の訂正を目的とする補正が認められなければ,出願人に著しい不利益を課すことになる。
すなわち,英語による外国語特許出願の場合であれば,それを原出願とする分割出願をするに当たって,英語による外国語書面出願を行うことができ,その場合には,英語による明細書の翻訳に誤訳があれば,分割出願においても誤訳訂正によって翻訳の誤りを正すことができる。ところが,英語以外の言語による外国語特許出願を原出願とする分割出願をするに当たっては,外国語書面出願による使用言語が英語に限られていることから(特許法36条の2第1項,同法施行規則25条の4),英語以外の言語による外国語書面出願を行うことはできず,翻訳である日本語による分割出願の方法によることになる。このような状況であるのに,当該分割出願が日本語による特許出願であることを理由に,誤訳訂正の手続を認めないとすれば,当該出願人に著しい不利益を課すことになる。
以上のとおり,英語以外の言語による外国語特許出願を原出願とする分割出願の場合には,それが日本語による特許出願であっても,誤訳訂正を認めるべき必要性があり,他方で,特許法は,日本語による特許出願でありながら,誤訳訂正が必要になる場面を想定していなかったものといえるから,特許法184条の12第2項,17条の2第2項の類推適用により,上記分割出願における誤訳訂正は許されるというべきである。
(2) 被告の主張ア 原告の主張アに対し特許法17条の2第2項は,「外国語書面出願の出願人が」と規定することにより,誤訳訂正書の提出という特別な手続補正の主体を外国語書面出願の出願人に限定したものと解するのが,同条項の文言解釈として自然かつ合理的である。
また,外国語特許出願に係る明細書,特許請求の範囲又は図面について補正ができる範囲については,特許法184条の12第2項の規定により,同法17条の2第2項中「第36条の2第2項外国語書面出願」とあるのは「第184条の4第1項の外国語特許出願」と読替えがされている。
したがって,特許法上,誤訳の訂正を目的とする誤訳訂正書を提出することができる者は,同法17条の2第2項の規定及び同法184条の12第2項の読替え規定により,「外国語書面出願の出願人」及び「外国語特許出願の出願人」に限定されており,誤訳訂正書による誤訳の訂正の対象となる特許出願も,上記2種類のものに限られると解するのが相当である。
イ 原告の主張イに対し分割出願は,2以上の発明を包含する特許出願の一部を1又2以上の新たな特許出願とするものであり(特許法旧44条1項),分割に係る新たな特許出願は,もとの特許出願とは全く別個独立のものであるから,もとの特許出願(原出願)について生じた手続上の効力が分割出願にそのまま承継されるわけではない。
このように原出願と分割出願とはそれぞれ独立した別個の特許出願であるから,分割出願においてどのような内容及び方法の補正ができるかについても,原告が主張するように原出願の性質を勘案すべきものではなく,分割出願自体の内容,性質等を基準として判断しなければならない。原出願が外国語特許出願であるということだけで,それに基づく分割出願についても,外国語特許出願に認められる手続上の効力が当然に生ずるものではない。
そして,本件分割出願自体は,日本語による特許出願であるから,特許法184条の12第2項,17条の2第2項による誤訳訂正が認められないことは明らかである。
ウ 原告の主張ウに対し外国語書面出願における使用言語は,特許法施行規則25条の4の規定により,英語に限られている。これは,外国語書面出願の制度を導入した平成6年法律第116号による特許法の改正当時,我が国に特許出願を行う外国人の大半が英語圏に属していたことから,英語による特許出願だけを認め,その他の言語による出願については,WIPO特許ハーモナイゼーション条約の国際交渉の状況等に応じて今後検討することとされたことによる(乙4の「平成6年改正工業所有権法の解説」41頁参照)。
したがって,外国語書面が英語で記載したものに限られる結果,英語以外の言語による外国語特許出願の出願人が分割出願を行う場合に,仮に原告が「著しい不利益」と主張するところの事実上の負担が生じているとしても,そのことをもって直ちに不合理ということはできない。
また,分割出願のもとの特許出願(原出願)が外国語書面出願又は外国語特許出願である場合に,当該分割出願の出願時が,特許法旧44条2項の規定により,原出願の時に遡及するか否かは,原出願に係る外国語書面の明細書,特許請求の範囲若しくは図面又は国際出願の明細書,請求の範囲若しくは図面に記載されている内容に基づいて判断されるものである。このことからすれば,原出願である外国語書面出願又は外国語特許出願について提出された翻訳文に誤訳がある場合には,原出願について誤訳訂正書を提出するとともに,新たな分割出願の願書に添付する明細書,特許請求の範囲又は図面にその誤訳の訂正をした後の内容を記載しておけば,その内容が原出願に係る外国語書面国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内である限り,当該新たな分割出願について,出願時遡及の効果を生ずる分割出願と認められるものである。このことは,英語以外の言語による外国語特許出願をもとの出願とする分割出願にも同様に当てはまるものであり,日本語でされた新たな分割出願について誤訳訂正書の提出を認めないこととしても,原出願に係る外国語書面国際出願の明細書等の記載事項の範囲内において,新たな分割出願に係る明細書等に誤訳訂正後の内容を記載する方法により,分割出願による出願時遡及の利益を享受することが可能であるから,英語以外の言語による外国語特許出願の出願人が著しい不利益を受けるとまでいうことはできない。
エ 小括以上によれば,本件誤訳訂正書に係る手続を却下した本件処分の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
2 争点2-1(本件決定における審理手続の違法の有無)について(1) 原告の主張本件処分は,本件分割出願が特許法36条の2第1項の規定による外国語書面出願でないことを理由として誤訳訂正に係る手続を却下している。
これに対し,本件決定は,本件分割出願が特許法36条の2第1項の規定による外国語書面出願及び特許法184条の4の規定による外国語特許出願のいずれでもないことを理由として,本件処分を適法としている。
このように,原処分には示されていない理由で異議申立てを棄却する場合には,少なくとも異議申立人に対して反論の機会を与えるべきであるのに(行政手続法13条1項,特許法153条2項参照),本件決定の審理においては,この点について反論する機会が原告に与えられることはなかった。
したがって,本件決定の審理手続には違法がある。
(2) 被告の主張ア特許法上,却下処分自体において理由を示すことは求められていない上,行審法においては,異議申立てに対する棄却決定について,理由附記が必要とされているものの(行審法47条2項,48条により準用する41条1項),特許法18条の2第2項のように,事前に異議申立人に意見陳述の機会を付与する手続は何ら定められていない。
また,本件処分が引用する本件却下理由通知書記載の却下理由は,本件決定の理由よりも簡潔ではあるものの,両者がいずれも本件分割出願が日本語による特許出願であるために,誤訳訂正書の提出が認められないとの認定判断を示すものであることは,それぞれの記載自体から明らかであり,本件決定は,本件却下理由通知書の記載と同一の理由で,本件処分の適法性を肯定したものである。
したがって,本件処分に示されていない本件決定の理由に対する反論の機会が与えられていないとの原告の主張は,その前提を欠くものである。
さらに,本件処分と本件決定とが,本件処分の適法性について同一の理由によるものであるにもかかわらず,後者のより詳細な判断に対して反論の機会が与えられていないとする原告の主張は,実質的には,「原処分の理由と同一の理由について弁明ないし意見陳述の機会が与えられていない」というものにすぎず,原処分(本件処分)の手続的違法と異なる裁決(本件決定)固有の違法事由を主張するものではないから,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)10条2項に反する。
イ以上によれば,本件決定における審理手続の違法をいう原告の主張は,その主張自体失当である。
3 争点2-2(本件決定における理由附記の不備の違法の有無)について(1) 原告の主張前記1(1)のとおり,本件処分には判断を誤った極めて重大な違法がある。それにもかかわらず,本件決定は,その理由において,原告の主張に対する適切な判断を示しておらず,異議申立てを棄却する決定において必要とされる理由の附記(行審法48条,41条1項)の要請を満たしているとはいえない。
したがって,本件決定には,理由附記の不備の違法がある。
(2) 被告の主張本件処分が引用する本件却下理由通知書と本件決定とは,本件処分の適法性について同一の理由を示したものであるから,本件決定について理由附記の不備をいう原告の主張も,原処分の手続的違法と異なる裁決固有の違法事由を主張するものではなく,行訴法10条2項に反する。
また,行審法48条,41条1項により,処分についての異議申立てを棄却する決定において理由附記が必要とされる趣旨は,処分庁の判断における恣意を抑制するとともに,その判断に至った理由を申立人に知らせ,事後の訴訟提起に便宜を与えるためである。そうすると,決定に附記すべき理由は,処分庁がした当該処分における結論に至るまでの論理的な判断の過程を申立人が理解し得る程度に記載されていれば足りるというべきである。
そして,本件決定の理由においては,特許法上,誤訳訂正書の提出は,外国語書面出願及び外国語特許出願のみが対象とされているところ,本件分割出願は日本語による特許出願であり,誤訳訂正書の提出は認められないので,本件処分は適法であるとする結論に至るまでの論理的な判断過程が詳細に示されているから,本件決定の理由附記に不備な点は存在しない。
当裁判所の判断
1 争点1(本件処分における判断の誤りの有無)について(1)原告は,本件分割出願において,本件誤訳訂正書によって明細書の補正を行うことは,特許法184条の12第2項,17条の2第2項の適用又は類推適用によって許されると解すべきであるのに,これを許されないとした本件処分の判断には誤りがある旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア特許法36条の2第1項は,特許を受けようとする者は,前条2項の明細書,特許請求の範囲,必要な図面及び要約書に代えて,明細書又は特許請求の範囲に記載すべきものとされる事項を経済産業省令で定める外国語で記載した書面及び必要な図面でこれに含まれる説明をその外国語で記載したもの(以下「外国語書面」という。)並びに要約書に記載すべきものとされる事項をその外国語で記載した書面(以下「外国語要約書面」という。)を願書に添付することができる旨規定し,特許法施行規則25条の4は,特許法36条の2第1項の経済産業省令で定める外国語は,英語とすると規定する。特許法36条の2第2項本文は,前項の規定により外国語書面及び外国語要約書面を願書に添付した特許出願(以下「外国語書面出願」という。)の出願人は,その特許出願の日から1年2月以内に外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を,特許庁長官に提出しなければならない旨規定し,同条4項は,外国語書面翻訳文は前条2項の規定により願書に添付して提出した明細書,特許請求の範囲及び図面と,外国語要約書面の翻訳文は前条2項の規定により願書に添付して提出した要約書とみなす旨規定する。
また,特許法184条の4第1項本文は,外国語でされた国際特許出願(以下「外国語特許出願」という。)の出願人は,PCT2条(xi)の優先日(以下「優先日」という。)から2年6月(以下「国内書面提出期間」という。)以内に,前条1項に規定する国際出願日(以下「国際出願日」という。)におけるPCT3条(2)に規定する明細書,請求の範囲,図面(図面の中の説明に限る。)及び要約の日本語による翻訳文を,特許庁長官に提出しなければならない旨規定し,同法184条の6第2項は,外国語特許出願に係る国際出願日における明細書の翻訳文,外国語特許出願に係る国際出願日における請求の範囲翻訳文,外国語特許出願に係る国際出願日における図面(図面の中の説明を除く。)及び図面の中の説明の翻訳文,外国語特許出願に係る要約の翻訳文は,それぞれ,同法36条2項の規定により願書に添付して提出した明細書,特許請求の範囲,図面,要約書とみなす旨規定する。
ところで,特許法17条の2第1項は,特許出願人は,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる旨規定し,同条2項は,同法36条の2第2項外国語書面出願の出願人が,誤訳の訂正を目的として,前項の規定により明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,その理由を記載した誤訳訂正書を提出しなければならないと規定し,同法17条の2第3項は,同条1項の規定により明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,誤訳訂正書を提出してする場合を除き,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(同法36条の2第2項外国語書面出願にあつては,同条4項の規定により明細書,特許請求の範囲及び図面とみなされた同条2項に規定する外国語書面翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては,翻訳文又は当該補正後の明細書,特許請求の範囲若しくは図面))に記載した事項の範囲内においてしなければならない旨規定する。
また,特許法184条の12第2項は,外国語特許出願に係る明細書,特許請求の範囲又は図面について補正ができる範囲については,17条の2第2項中「第36条の2第2項外国語書面出願」とあるのは「第184条の4第1項の外国語特許出願」と,17条の2第3項中「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(第36条の2第2項外国語書面出願にあつては,同条第4項の規定により明細書,特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第2項に規定する外国語書面翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては,翻訳文又は当該補正後の明細書,特許請求の範囲若しくは図面))」とあるのは「第184条の4第1項国際出願日(以下この項において「国際出願日」という。)における第184条の3第2項の国際特許出願(以下この項において「国際特許出願」という。)の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の第184条の4第1項翻訳文,国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の同項の翻訳文(同条第2項又は第4項の規定により千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲翻訳文が提出された場合にあつては,当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下この項において「翻訳文等」という。)(誤訳訂正書を提出して明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては,翻訳文等又は当該補正後の明細書,特許請求の範囲若しくは図面)」とする旨規定する。
これらの規定によれば,外国語書面出願の出願人及び外国語特許出願の出願人が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)の補正を行うには,原則として願書に最初に添付した明細書等(外国語書面出願にあっては外国語書面)の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしなければならないが,誤訳の訂正を目的として明細書等の誤訳訂正書を提出をする場合には,願書に最初に添付した明細書等の翻訳文に記載した事項の範囲を超えて補正を行うことができるものと解される。
このように特許法17条の2第2項,184条の12第2項が誤訳訂正書の提出手続を設けた趣旨は,外国語書面出願及び外国語特許出願においては,通常は,外国語書面出願の外国語書面又は外国語特許出願の明細書等とこれらの翻訳文との記載内容は一致していることから,翻訳文の記載を基準として補正の可否を判断すれば足りるが,この基準を貫くと,当該翻訳文に誤訳があった場合に当該誤訳を訂正する補正を行おうとすると,そのような補正は,通常,翻訳文に記載された事項の範囲を超えるものとして許されないこととなり,不合理であることによるものと解される。
そして,上記のように特許法17条の2第2項,184条の12第2項は,外国語書面出願及び外国語特許出願の場合における補正の範囲についての特別な取扱いに対応した手続として誤訳訂正書の提出の手続を定めたものと解されること,特許法は,外国語書面出願及び外国語特許出願以外の特許出願については,そのような手続の定めを置いていないことにかんがみれば,特許法において,誤訳の訂正を目的とした補正の手続として誤訳訂正書の提出が認められる特許出願は,外国語書面出願及び外国語特許出願に限るものと解するのが相当である。
以上の解釈を前提に本件について検討するに,本件分割出願は,外国語特許出願である本件原出願をもとの特許出願とする分割出願であるが,本件分割出願の願書には日本語による明細書等が添付されたものであるから(前記第2の1(1)ア,(2)ア),日本語による特許出願であって,外国語書面出願又は外国語特許出願のいずれにも当たらないことは明らかである。
したがって,原告がした本件分割出願の明細書についての本件誤訳訂正書の提出に係る手続は,特許法上根拠のない不適法な手続であって,その補正をすることができないものであるから,これを却下した本件処分の判断に誤りはないものと認められる。
イこれに対し原告は,?特許法17条の2第2項は,誤訳の訂正をする場合には理由付きの誤訳訂正書を提出しなければならないとの行為規範を定めているにすぎず,文言上,誤訳訂正ができる場合を限定するものではない,?本件分割出願は,外国語特許出願である本件原出願に基づきされた分割出願であるから,本件原出願と同様,外国語特許出願であると解すべきである,?英語以外の言語による外国語特許出願の場合,それを原出願とする分割出願をするに当たっては,外国語書面出願による使用言語が英語に限られていることから,本件分割出願のように,英語以外の言語(ドイツ語)による外国語特許出願を原出願とする分割出願においては,それが日本語による特許出願であっても,原出願の明細書等の誤訳の訂正を目的とする補正が認められなければ,出願人に著しい不利益を課すことになるとして,本件分割出願において,本件誤訳訂正書によって明細書の補正を行うことは,特許法184条の12第2項,17条の2第2項の適用又は類推適用によって許されると解すべきである旨主張する。
しかし,原告が根拠として挙げる上記?ないし?の諸点は,以下のとおり,いずれも採用することができない。
(ア) 上記?の点について原告は,特許法17条の2第2項は,誤訳の訂正をする場合には理由付きの誤訳訂正書を提出しなければならないとの行為規範を定めているにすぎず,文言上,誤訳訂正ができる場合を限定するものではない旨主張する。
しかし,特許法17条の2第2項の文言上,同条項が「第36条の2第2項外国語書面出願の出願人」がする誤訳訂正書の提出について定めたものであることは明らかであること,特許法17条の2第2項,184条の12第2項が誤訳訂正書の提出手続を設けた趣旨は,前記アのとおりであることに照らせば,原告の上記主張は,独自の見解であって採用することができない。
(イ) 上記?の点について原告は,本件分割出願は,外国語特許出願である本件原出願に基づきされた分割出願であるから,本件原出願と同様,外国語特許出願であると解すべきである旨主張する。
しかし,特許法旧44条1項は,特許出願人は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる期間内に限り,2以上の発明を包含する特許出願の一部を1又は2以上の新たな特許出願とすることができると規定するものであり,同条項によれば,分割出願は,2以上の発明を包含する特許出願である原出願とは別個の「新たな特許出願」であることは明らかである。また,同条2項本文は,前項の場合は,新たな特許出願は,もとの特許出願の時にしたものとみなすと規定し,特許法44条4項は,「新たな特許出願」をする場合には,もとの特許出願について提出された書面又は書類であって,新たな特許出願について30条4項,41条4項又は43条1項及び2項(前条3項において準用する場合を含む。)の規定により提出しなければならないものは,当該新たな特許出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなすと規定するが,これらの規定は,分割出願が原出願とは別個の「新たな特許出願」であり,原出願についてされた手続が当然には分割出願に及ぶものではないことを前提に,明文で特別の効果を定めたものである。
したがって,原出願が外国語特許出願であるからといって,原出願とは別個の「新たな特許出願」が当然に外国語特許出願になるものではなく,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 上記?の点について原告は,英語以外の言語による外国語特許出願の場合,それを原出願とする分割出願をするに当たっては,外国語書面出願による使用言語が英語に限られていることから,本件分割出願のように,英語以外の言語(ドイツ語)による外国語特許出願を原出願とする分割出願においては,それが日本語による特許出願であっても,原出願の明細書等の誤訳の訂正を目的とする補正が認められなければ,出願人に著しい不利益を課すことになる旨主張する。
そこで検討するに,特許法36条の2第1項及び同条項の委任に基づく特許法施行規則25条の4が,外国語書面出願に使用できる言語を英語に限定していることから,原出願が英語による外国語特許出願の場合には,分割出願をするに当たり原出願と同じ英語による外国語書面出願又は日本語による特許出願のいずれかを選択できるのに対し,原出願が英語以外の外国語による外国語特許出願の場合には,分割出願をするに当たり原出願と同じ外国語による外国語書面出願を選択することができず,英語による外国語書面出願又は日本語による特許出願のいずれかによらなければならないが,このような取扱いの差違は,特許法自体が容認しているものであり,これによって英語以外の外国語による外国語特許出願をした者が分割出願をする場合に著しい不利益を課すものということはできない。
また,英語以外の外国語による外国語特許出願の出願人が日本語による分割出願をする場合,原出願である外国語特許出願の明細書等の翻訳文に誤訳があるときは,原出願において誤訳訂正書を提出して誤訳を補正し,その補正の内容を反映させた明細書等を添付した分割出願をすることができるのであるから,この点からみても,英語以外の外国語による外国語特許出願をした者が分割出願をする場合に著しい不利益を課すものということはできない。そして,本件においては,?原告は,平成15年6月25日にドイツ語による外国語特許出願である本件原出願の明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による各翻訳文を提出した後,平成19年6月13日に本件原出願の明細書の翻訳文の誤訳を訂正する誤訳訂正書(甲17)を提出したこと(前記第2の1(1)),?原告は,平成19年6月13日,日本語による明細書等を添付して本件分割出願をしたこと(同(2)ア),?原告は,平成19年8月15日付けで,本件分割出願の明細書についての本件誤訳訂正書(乙1)を提出したこと(同(2)イ)からすれば,原告は,平成15年6月25日から平成19年6月13日までの間に,本件原出願の明細書の翻訳文に誤訳があることを発見し,平成19年6月13日にその誤訳の訂正の手続をとったものであり,原告においては,平成19年6月13日に本件分割出願を行うに当たり,上記訂正の内容を反映させた日本語による明細書等を添付する機会があったにもかかわらず,これを行わなかったものと認められる。このことは,本件原出願の明細書の上記誤訳訂正書(甲17)と本件誤訳訂正書(乙1)とが,訂正内容の多くの点において共通していること(本件誤訳訂正書の【訂正の内容】のうち,明細書の【発明の詳細な説明】の段落【0007】,【0008】,【0011】,【0013】等)からも明らかである。このような本件の手続の経緯に照らせば,日本語による本件分割出願の明細書についての本件誤訳訂正書の提出による補正が認められないからといって原告に著しい不利益を課すものということはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(2)以上のとおり,本件処分の判断に誤りがあるとの原告の主張は,理由がない。
2 争点2-1(本件決定における審理手続の違法の有無)について原告は,本件処分は,本件分割出願が特許法36条の2第1項の規定による外国語書面出願でないことを理由に誤訳訂正に係る手続を却下しているのに対し,本件決定は,本件分割出願が特許法36条の2第1項の規定による外国語書面出願及び特許法184条の4の規定による外国語特許出願のいずれでもないことを理由に本件処分を適法とし,本件異議申立てを棄却しているところ,原処分に示されていない理由で異議申立てを棄却する場合には,少なくとも異議申立人に対して反論の機会を与えるべきであるのに(行政手続法13条1項,特許法153条2項参照),本件決定の審理においては,この点について反論する機会が原告に与えられることはなかったから,本件決定の審理手続には違法がある旨主張する。
しかし,行審法の異議申立てに関する規定をみても,本件決定に当たって,異議申立人に反論の機会を与えなければならないことを定めたものはないのみならず,原告が根拠として挙げる行政手続法13条1項は,行審法による異議申立ての手続に適用されないことは行政手続法3条1項15号の規定から明らかであり,また,原告が根拠として挙げる特許法153条2項は,特許法に基づく審判手続に関する規定であって,行審法による異議申立ての手続に適用されるものではないことも明らかである。
さらに,原告は,本件決定が本件処分には示されていない理由で異議申立てを棄却しているとの前提に立つが,本件処分が引用する本件却下理由通知書記載の理由(前記第2の1(2)イ)と本件決定の理由(同ウ(イ))とを対比すれば,いずれも本件分割出願が特許法上誤訳訂正書による誤訳訂正の手続が認められている出願ではないとの趣旨を述べている点において共通しており,理由の核心部分において異なるものでないことは明らかであるから,原告の上記主張は,そもそもその前提を欠くものというべきである。
したがって,本件決定の審理手続に違法があるとの原告の主張は,理由がない。
3 争点2-2(本件決定における理由附記の不備の違法の有無)について原告は,本件処分には判断を誤った極めて重大な違法があるにもかかわらず,本件決定は,その理由において,原告の主張に対する適切な判断を示しておらず,異議申立てを棄却する決定において必要とされる理由の附記(行審法48条,41条1項)の要請を満たしているとはいえなから,本件決定には,理由附記の不備の違法がある旨主張する。
そこで検討するに,行審法48条,41条1項によって,処分についての異議申立てを棄却する決定において理由附記が必要とされる趣旨は,処分庁の判断における恣意を抑制するとともに,その判断に至った理由を申立人に知らせ,事後の訴訟提起に便宜を与えるためであるものと解されるから,決定に附記すべき理由の内容及び程度については,処分庁がした当該処分における結論に至るまでの論理的な判断の過程が,申立人において同判断の過程を理解し得る程度に記載されていれば足りるものというべきである。
これを本件についてみるに,本件決定に示された理由は,前記第2の1(2)ウ(イ)のとおりであって,本件処分が適法であるとする結論に至るまでの論理的な判断の過程が本件異議申立ての申立人である原告において理解し得る程度に記載されていることは明らかである。
したがって,本件決定に理由附記の不備の違法があるものとは認められないから,原告の上記主張は理由がない。
4 結論以上によれば,原告主張の本件処分及び本件決定の違法事由はいずれも理由がない。その他原告は縷々主張するが,本件処分及び本件決定を取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求はいずれも理由がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 関根澄子
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