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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成22行ケ10090審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  実施可能要件 /  明確性 /  権利の濫用(権利濫用) /  実施 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  釈明 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10314号 審決取消請求事件
原告有 限会社村松研磨工業
同訴訟代理人弁理士山本健男
被告株 式会社ミュウテック
同訴訟代理人弁護士原山邦章
同訴訟代理人弁理士鈴江武彦
同 蔵田昌俊
同 河野哲
同 中村誠
同 峰隆司
同 幸長保次郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/01/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2008-800096号事件について平成21年9月14日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯被告は,発明の名称を「ワークの研磨装置」とする特許第3337680号(平成13年1月19日出願 平成14年8月9日設定登録。以下「本件特,許」という。請求項の数は 12である。)の特許権者である(甲37)。 ,原告は,平成20年5月28日,本件特許の請求項1,3及び4を無効とすることを求めて無効審判請求(無効2008-800096号事件)をし,被告は 平成21年1月5日 本件特許の請求項3及び4について訂正請求をし,,た(甲38)。
特許庁は,平成21年2月3日,「訂正を認める。特許第3337680号の請求項3ないし4に係る発明についての特許を無効とする。特許第3337680号の請求項1に係る発明についての審判請求は 成り立たない。」との,審決をし,同審決の謄本は同年2月16日,被告に送達された。そこで,被告は,平成21年3月16日,当裁判所に対し,上記審決中「請求項3ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」との部分の取消しを求める訴訟を提起するとともに(当裁判所平成21年(行ケ)第10067号),同年5月8日,特許庁に対して本件特許の請求項3及び4に対して訂正審判請求をしたので(訂正2009-390062号事件,甲39),当裁判所は,平成21年6月1日,特許法181条2項により,上記審決中「請求項3ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消すとの決定をした(甲35)。なお,特許庁は,平成21年5月28日,本件特許の請求項3及び4の訂正を認める旨の審決をし,同審決は確定した(以下この訂正を「本件訂正」という。)。
2 特許請求の範囲本件訂正後の明細書(甲39。以下「本件明細書」という。)によれば,本件特許の請求項3,4は,下記のとおりである(審決と同様,AないしFに分説した。なお訂正箇所に下線を引いた。)。
【請求項3】B:一端側にワークが取り付けられる回転軸と,C:この回転軸を,この回転軸の軸心を中心として回転させる回転手段と,D′:前記回転軸を,前記軸心に沿った方向,及び,前記軸心に直交する方向に移動させる移動手段と,E′:前記回転軸を,これの一端側が円弧軌道に沿って移動可能なように揺動させる揺動手段と,を有する揺動機構を具備しているとともに,F′:前記揺動機構の駆動を制御する制御部と,A′:中に多数の研磨粒子を有する研磨媒体が収容されるタンクと,を具備しており,F′:前記制御部は,F(a):(a)前記回転軸が垂直な状態の研磨開始位置に配置されるように,前記移動手段,及び前記揺動手段を制御し,この制御により前記ワークを前記研磨開始位置に配置し,F(b):(b)前記回転軸を回転させるように前記回転手段を制御するとともに,前記回転軸を軸心に沿って移動させるように前記移動手段を制御し,さらに,前記回転軸が垂直な状態から水平面に対して傾斜した状態に移行するような揺動を行うように前記揺動手段を制御し,前記移動手段と揺動手段との駆動により,回転軸が自身の軸心に沿って移動されるとともに回転軸の一端が円弧軌道に沿って揺動され,前記回転軸の移動と揺動とにより,前記ワークを楕円の円弧状の軌道に沿って揺動させ,F(c):(c)前記回転軸が傾斜した状態の円弧移動終点位置に前記回転軸が到達した際に,前記揺動手段を停止するように制御するとともに,(a)の状態に戻すように(b)と逆方向に回転軸を軸心に沿って移動させるように移動手段を制御し,これらの制御により前記ワークを前記回転軸の軸心に沿って直線軌道に沿って移動させ,F(d):(d)前記移動手段が(a)の状態に戻された際に,(a)の状態に戻すように前記揺動手段を制御し,この制御により前記ワークを前記研磨開始位置と同様な状態にし,(b)(c)(d)の動作を順に繰り返すように前記回転手段,揺動手段,及び移動手段を制御し,F(e):(e)ワークの長手方向の寸法が,長手方向と直交する方向の寸法より大きい場合には,前記制御とは別の制御がされ,前記回転軸を回転させるように前記回転手段を制御するとともに,前記回転軸が軸心に直交するように移動されるように前記移動手段を制御するG:ワークの研磨装置(以下この発明を「本件発明3」という。)【請求項4】F〃:前記制御部は,前記ワークが前記軸心を中心として回転される動作と,前記ワークが前記軸心に沿った方向に移動される動作と,前記ワークが前記軸心と交差する方向に移動される動作と,前記ワークが揺動手段による前記円弧軌道に沿って移動される動作とを有する動作グループから1つ又は複数の動作を選定し,選定された単一の動作,又は選定された動作の組み合わされた動作を,前記研磨媒体中で前記ワークが行い前記研磨媒体により研磨されるように,前記揺動機構の駆動を制御することができることを特徴とする請求項3に記載のワークの研磨装置。」(以下この発明を「本件発明4」といい,本件発明3と併せて「本件各発明」という。)3 審決の判断の要点審決の判断の要点は 下記のとおりである。
,(1) 本件発明3についてア 特許法36条について請求人(判決注:原告を指す。以下同じ。)は,本件発明3に対し,特許法36条4項又は6項2号の規定する要件を満たしていないとの無効理由を主張している。
本件発明3は,上記のとおり分説したF(b)〜F(d)の事項(以下「特定3動作」という。判決注:本判決でもこの用語を用いる。)をするとともに,長物ワークの場合には,特定3動作をせず,軸心直交移動のみの動きをするものである。
本件発明3は,装置の「構造」に関し,「前記回転軸を,前記軸心に沿った方向,及び,前記軸心に直交する方向に移動させる移動手段と」なる事項を有し,「軸心に沿った方向」と「軸心に直交する方向」との両方向に移動可能であるから,特定3動作,軸心直交移動のみの動き,いずれも可能である。
したがって,本件発明3において,装置の「構造」と「動き」との関係は整合しており,特許法36条4項又は6項2号に規定する要件を満たしている。
請求人は,被請求人(判決注:被告を指す。以下同じ。)の主張は二転三転しており権利の濫用である,訂正を認めることは特許法123条1項4号の規定を形骸化するものであると主張する。
しかし,明りょうでない記載の釈明を目的として訂正をすることは,特許法の規定に即したものであって,無効理由とはされていないことから,請求人の主張は根拠がない。
イ 特許法29条2項についてこれら証拠(判決注:甲1ないし3,14,22ないし25)のいずれにも,本件発明3の特定3動作は,記載されていない。
ところで,特定3動作のうち,F(b)の「回転軸の移動と揺動による楕円の円弧状」動作は,研磨効果上重要な動作であり,F(c)の「軸心方向の移動」動作と,F(d)の「揺動」動作は,前記F(b)の動作を行うために戻すためのものである。
そして,本件発明3は,かかる特定3動作のための制御部を有することにより,「大きいワークや,複雑な形状を有するワークに対しても所定の均一な研磨が行われ,ワークの耐食性の向上及び表面硬度を上げることができる」(本件明細書段落【0073】)なる効果を生じるものである。
請求人は,かかる特定3動作は,当業者が適宜なしうる事項であり,作用効果も格別なものではない旨,主張する。
しかしながら,特定3動作のうちF(b)の「回転軸の移動と揺動による楕円の円弧状」動作の実現のためには,Dの「移動手段」とEの「揺動手段」の「同期制御」が必要であるが,これについての記載ないし示唆は,いずれの証拠にもない。
かかる「同期制御」の実現のためには,そのための経費が生じることは明らかであり,また,戻すための動作も,F(c)の軸心方向の移動とF(d)の揺動と2段階のため,戻し時間が長くなり研磨効率の低下が予想される。
本件発明3は,経費,効率の観点からは通常行わない特定3動作を,あえて行うものであるから,当業者が適宜なしうる事項とすることはできない。
効果については,研磨媒体内での動作が異なる以上,その程度はともかく,研磨効果に何らかの差違が生じることは,明らかである。
よって,請求人の主張は採用できない。
したがって,請求人の主張,証拠によっては,本件発明3が,容易に発明をすることができたとすることはできない。
(2) 本件発明4についてア 特許法36条について請求人は,本件発明4に対し,特許法36条4項又は6項2号に規定する要件を満たしていないとの無効理由を主張している。
本件発明4は,本件発明3に従属するものであり,両発明の関係について,被請求人は,口頭審理において,本件発明4の「制御部」は本件発明3の「制御部」に付加されるものと主張した。
当審においても,本件発明4の「制御部」は,本件発明3の「制御部」に付加されるものであると認める。
本件発明4は,本件発明3に従属するものであり,本件発明3については,特許法36条4項又は6項2号に規定する要件を満たしており,請求項4で限定した事項についても,明確であって,本件発明4は,全体として,特許法36条4項又は6項2号に規定する要件を満たしている。
イ 特許法29条について請求人は,本件発明4に対し,特許法29条1項又は2項の無効理由をも主張している。
本件発明4は,特定3動作のための制御部を有するものであるから,本件発明3と同様の理由により,特許法29条1項又は2項の理由によっては,無効とすることはできない。
取消事由に係る原告の主張
審決の認定判断は,以下のとおり誤りがあるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(本件発明3の特許法36条4項,6項2号該当性の判断の誤り)本件発明3には,「D′:前記回転軸を,前記軸心に沿った方向,及び,前記軸心に直交する方向に移動させる移動手段と,」と記載され,軸心に沿った方向と軸心に直交する方向のいずれかを選択できるかのような表現とされている。しかし,「及び/又は」を「及び」に訂正した経緯に照らすならば,本件訂正前においては,「及び」が「軸心に沿った方向と軸心に直交する方向に同時に移動すること,すなわち,軸心に沿った方向に移動しつつ軸心に直交する方向に移動すること」を指し,「又は」が「軸心に沿った方向と軸心に直交する方向手段のいずれかを選択すること」を指していたものについて,訂正により,「又は」を除外したのであるから,訂正後は,「軸心に沿った方向に移動しつつ軸心に直交する方向に移動すること」のみを指すものと解される。
そうすると,本件明細書の段落【0106】「・・・ワーク4は,自身の長手方向中心線の角度が変わることなく研磨される。言い換えると,ワーク4は,平行移動を繰り返し研磨される。」のワークの動きはできなくなり,ワークは水平運動をすることができない。すなわち,「/又は」が本件訂正により削除され,「前記軸心に直交する方向」はなく,水平運動をすることができないので,本件発明3は,明確性実施可能要件も欠く。本件発明3は特許法36条4項1号,6項2号に規定する要件を満たしているとの審決の判断は,誤りである。
2取消事由2(本件発明4の特許法36条4項1号,6項2号該当性の判断の誤り)本件発明4は,本件発明3に対する付加的請求項であると解されると審決が判断しているところ,その場合,本件発明4は実施可能要件を欠くことになる。すなわち,前記のとおり本件発明3において「/又は」が訂正により削除された結果,「及び」は軸心に沿った方向に移動しつつ軸心に直交する方向に移動するものとなる。そうすると,本件発明4において,「前記ワークが前記軸心に沿った方向に移動される動作と,」と「前記ワークが前記軸心と交差する方向に移動される動作と,」とは,互いに独立して動作することはできず,特許法36条4項1号,6項2号に規定する要件を満たしていない。したがって,審決の判断は誤りである。
3 取消事由3(本件各発明の特許法29条該当性の判断の誤り)研磨剤中で,ワークを回転させながら軸心に直交する動作(水平運動)をすることは当然公知であり,特許法29条,123条1項2号に該当するから無効であり,審決の判断は誤りである。
被告の認否
原告主張の取消事由は,すべて争う。
当裁判所の判断
当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求を棄却すべきものと判断する。以下,理由を述べる。
1取消事由1,2(本件各発明の特許法36条4項1号,6項2号該当性の判断の誤り)について本件発明3は,「前記回転軸を,前記軸心に沿った方向,及び,前記軸心に直交する方向に移動させる移動手段と」と記載されているが,同記載は,「軸心に沿った方向」と「軸心に直交する方向」の両方向に移動させることが可能であることを指すと解するのが合理的である。
しかるところ,本件発明3は,装置の構造に照らして,「軸心に沿った方向」と「軸心に直交する方向」との両方向に移動可能であるから,「特定3動作」も「軸心直交移動のみの動き」のいずれの動きも可能である。したがって,本件発明3において,装置の「構造」と「動き」との関係は整合しており,特許法36条4項1号,6項2号に規定する要件を満たしている。
この点,原告は,本件発明3の「及び」は,「軸心に沿った方向に移動しつつ軸心に直交する方向に移動すること」のみを指すと解すべきであるとした上で,本件発明3は,特許法36条4項1号,6項2号に規定する要件を満たしていないと主張する。しかし,原告主張のごとく解する合理性はなく,その主張自体失当である。
上記のように,本件発明3は特許法36条4項1号,6項2号に規定する要件を満たしているから,従属請求項である本件発明4についても同様に同法違反は認められない。原告の主張は失当である。
2 取消事由3(本件各発明の特許法29条該当性の判断の誤り)について原告提出の証拠(甲1ないし3,14,22ないし25)には,特定3動作について記載も示唆もなく,本件各発明は特許法29条に違反するとは認められない。原告の主張は失当である。
結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由は認められない。原告はその他本件訂正の判断の誤り等縷々主張するが(本件訂正の判断の誤りについては,本件訂正が確定し,審決が本件訂正を前提として判断している以上,本件訂正の判断の誤りは取消事由たり得ない。),審決を取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 中平健
裁判官 上田洋幸