関連審決 | 不服2006-6434 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21行ケ10259審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10150審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10161審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10087審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10137審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 周知技術 / 優先権 / 優先日 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 国際出願 / 国際公開 / 国内公表 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
21年
(行ケ)
10154号
審決取消請求事件
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原告ビーエスエヌ メディカル,インク. 訴訟代理人弁理士廣江武典 同西尾務 同服部素明 同矢代加奈子 同長谷久生 被告特許庁長官 指定代理 人熊倉強 同千馬隆之 同鈴木由起夫 同小林和男 同黒瀬雅一 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2010/01/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2006-6434号事件について平成21年2月2日にした審決を取り消す。 第2争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成7年(1995年)3月30日を国際出願日とする次のとおりの特許出願をした(以下「本願」という。出願当初の請求項の数は25であった。甲1 。)出願番号特願平7-525522号発 明 の 名 称医療用物品国際出願番号PCT/GB95/00758国際公開番号WO95/26698国 際 公 開 日平成7年(1995年)10月12日国 内 公 表 日平成9年(1997年)11月4日特許出願公表番号特表平9-510901号優先権主張番号9406273.4優先日平成6年(1994年)3月30日優先権主張国イギリス(GB)優先権主張番号9410510.3優先日平成6年(1994年)5月25日優先権主張国イギリス(GB)原告は,本願につき,平成16年9月16日付け手続補正書(甲6)による補正,及び平成17年1月27日付け手続補正書(甲7)による補正を行ったが,同年12月26日付けで拒絶査定を受けたので,平成18年4月6日,拒絶査定不服審判(不服2006-6434号)を請求した。 原告は,本願につき,平成20年2月18日付け拒絶理由通知書(甲2)による拒絶理由通知を受けたので,同年8月22日付け手続補正書(甲3)により,明細書の特許請求の範囲の補正を行った(同補正により,請求項の数は2。, 「」。)。 2となった 以下 同補正後の明細書を図面とともに 本願明細書 という特許庁は,平成21年2月2日 「本件審判の請求は,成り立たない 」との , 。 審決をし,その謄本は,同月17日,原告に送達された。なお,審決取消訴訟の出訴期間につき90日の付加期間が定められた。 2特許請求の範囲,(, 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は 次のとおりである 以下この発明を「本願発明」という。。)身体に面する第1層(30)と,前記第1層とある間隔をあけた位置関係にあって前記第1層の上に重畳された第2層(20)とからなり,弾力的に変形する,モノフィラメント,マルチフィラメント或いはヤーンのいずれかからなる複数のストランド(40)が,前記第1層(30)と第2層(20)とに固定されて前記第1層(30)と第2層(20)とを結びつけ,かつ前記第1層(30)と第2層(20)の間に延伸し,前記第1層(30)と第2層(20)の間隔をあけた位置関係を維持するようになっており,()()() 前記複数のストランド 40 によって前記第1層 30 と第2層 20の間の全体積に対して空隙体積が少なくとも50%である空間が前記第1層(30)と第2層(20)の間に形成されており,前記空間に硬化可能樹脂あるいは医薬的活性剤からなる充填材料(210)が充填されていることを特徴とする医療用包帯材料(10 。)3審決の理由( )別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,平成20年21月18日付け拒絶理由通知書(甲2)において引用した特開平6-39027号公報(平成6年2月15日公開,以下「引用文献」という。甲5)に記載された発明(以下「引用発明」という )及び周知技術に基づいて,当業 。 者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。 ( )審決が,本願発明に進歩性がないとの結論を導く過程において認定した2引用発明の内容,本願発明と引用発明の一致点,相違点は,次のとおりである。 ア引用発明の内容基布がダブルラッシェル編機で編まれたカットパイル用編地であって,この編地が表地(判決注:審決3頁5行目の「裏地」は 「表地」の誤り,と認められる )及び裏地並びにこれら両者を連結するパイル糸から構成 。 され,このパイル糸が,前記裏地と表地との間に3次元的間隙を形成し,該3次元的間隙にプレポリマーを含浸してなる湿気硬化型固定用包帯。 イ一致点身体に面する第1層と,前記第1層とある間隔をあけた位置関係にあって前記第1層の上に重畳された第2層とからなり,複数のストランドが,前記第1層と第2層とに固定されて前記第1層と第2層とを結びつけ,かつ前記第1層と第2層の間に延伸し,前記第1層と第2層の間隔をあけた位置関係を維持するようになっており,前記複数のストランドによって前記第1層と第2層の間に空間が形成されており,前記空間に硬化可能樹脂からなる充填材料が充填されている医療用包帯材料。 ウ相違点(ア)相違点1本願発明において,ストランドが「弾力的に変形する,モノフィラメ, 」, ント マルチフィラメント或いはヤーンのいずれかからなる のに対し引用発明においては 「パイル糸」についてそのような特定がなされて ,いない点。 (イ)相違点2,()() 本願発明において 複数のストランド 40 によって第1層 30と第2層(20)の間の全体積に対して空隙体積が少なくとも50%である空間が前記第1層(30)と第2層(20)の間に形成されているとされるのに対し,引用発明において,表地と裏地の間のプレポリマーが充填される空間すなわち,パイル糸の存在しない空隙体積が3次元的隙間全体積に占める割合が特定されていない点。 第3取消事由に関する原告の主張審決は,引用発明の認定の誤り(取消事由1 ,本願発明と引用発明の一致 )点の認定の誤り 取消事由2相違点1に関する容易想到性の判断の誤り 取 (), (消事由3 ,相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)がある )から,違法として取り消されるべきである。 1引用発明の認定の誤り(取消事由1)審決が,引用発明について 「前記裏地と表地との間に3次元的間隙を形成 ,し」とした認定は誤りである。その理由は,以下のとおりである。 引用文献に「従来,ギプスを形成するために包帯材料を5〜6回重ねて巻く必要があったが,本発明では2〜3回の重ね巻きに改善され ( 0037】後」【半)と記載されていることから,引用発明は,表地と裏地が二重構造となっていることにより,その分,厚みを生ずるものであり,それにより,従来より巻回数が少なくても足りるというものである。引用発明には,本願発明のように第1層と第2層の位置関係を空隙により維持するという技術的思想はなく,裏地と表地との間に3次元的間隙は形成されていない。編地の表地と裏地とがパイル糸で連結されていることにより厚みがあるわけでもない。 したがって,審決が,引用発明について 「前記裏地と表地との間に3次元 ,的間隙を形成し」とした認定は誤りである。 2本願発明と引用発明の一致点の認定の誤り(取消事由2)審決が,本願発明と引用発明の対比において,?医療用包帯材料である点及び硬化可能樹脂を用いている点,?ストランドを用いている点,?第1層と第2層の間隔をあけた位置関係を維持するようになっている点及び第1層と第2層の間の空間に硬化可能樹脂からなる充填材料が充填されている点を一致点とした認定は誤りである。その理由は,以下のとおりである。 ( )本願発明と引用発明の特徴の相違について1本願発明は,第1層と第2層に間隔をあけた位置関係を維持するためのス(),, トランドの構造 断面三角構造 を備えることにより 弾力性を有しており弾力性を有する医療用包帯材料である点に特徴がある。これに対し,引用発明は,ギプス包帯であって,第1層と第2層の位置関係を空隙により維持するという技術的思想はなく,本願発明とは発明の目的において異なる。 アすなわち,本願発明は 「第1層と第2層の間隔をあけた位置関係を維 ,持する」構成を備えており,第1層と第2層の間隔をあけた位置関係を維持するためのストランドの構造により弾力性を有するため,垂直方向からの圧力を軽減する目的で用いられる。本願明細書の図面(図1)には具体的なストランドの構造の模式図が記載されている。 本願発明は,圧力下に置かれると非常に痛みを伴う床ずれや皮膚潰瘍の治療など,傷口が高い圧力にさらされることを回避したい場合において,傷口を治療するために用いられる包帯に係るものである。本願発明に係る包帯は,患者が横臥するときあるいは偶発的な衝撃にさらされるときに,。, 身体表面にかかるかもしれない圧力の多くを吸収することができる また本願発明に係る包帯は,用いられるストランドの長さ,数,タイプ,及び/又は幅を変えることにより,圧力を所望の程度吸収するように調整することができる(甲7,9頁6行ないし15行 。本願発明は,医療用支持 )体製品に従来用いられてきた,引用発明のような発泡材その他の材料よりも有利であり,さらに,相対的に厚さの薄い材料を用いることができるので,これにより患者の快適感を有意に高めることができる(甲7,10頁1行ないし4行 。)本願発明は,オプションとして,硬化性のある又は硬化可能な材料を含浸させることがあったとしても,その本質は,弾力性を有する医療用包帯材料である。 イこれに対し引用発明は,引用文献の「従来の技術」の欄( 0002】【【0003 )の記載からみて,石膏包帯の欠陥(主に通気性)を改善す 】るための発明である 引用文献の 実施例 の欄0041にもこ 。「」(【】),「の固定用包帯を90日室温で放置した後,密封袋から取り出し,水中に10秒間含浸し,取り出して室温で放置した結果,約8分で硬化が完了し,。」。 曲げ硬さ10/以上の強靭な硬化物を形成したとの記載があるkgcm引用発明に係る包帯は,通気性は有するものの,クッション性はなく,あくまでギプス包帯である また 引用発明には 表地 第1層 と裏地 第 。,,()(2層)の間隔をあけた位置関係を維持するという技術的思想はない。 本願発明の実施態様の一つは,外傷,火傷,ドナー部位及び外科的切開部などの傷口を覆うのに用いられる医療用ドレッシングであり,別の実施態様は,身体又はその一部を少なくとも部分的に支持又は固定するために設計された医療用用途の製品を含む医療用支持製品であり,医療用支持製,()(,)。 品には ギプス包帯が含まれる 甲7 2頁18行ないし27行casts引用発明は,このギプス包帯()にすぎない。 casts( )本願発明と引用発明の相違点について 2前記( )の本願発明と引用発明の特徴の相違に照らすと,本願発明と引用1発明は,次の点で異なる。 ア引用発明に係る包帯(湿気硬化型固定用包帯)はギプス包帯であり,本願発明のような弾力性を有する医療用包帯材料とは異なり,また,引用発明のプレポリマーは本願発明の硬化可能樹脂とは異なる。 イ引用発明には,第1層と第2層の間隔をあけた位置関係を維持するという技術的思想はなく,引用発明に係る包帯は,通気性はあるもののクッション性はないから,引用発明のパイル糸は本願発明のストランドに相当するものではない。 ウ引用発明の編地は,パイル糸が表地と裏地を結びつけているが,通常,表地と裏地は表裏一体とされているため,当業者であれば,二層剥離を生じさせない工夫をするはずであるから,引用発明には,第1層と第2層の間隔をあけた位置関係を維持するという技術的思想はない。そのため,引用発明は,本願発明のように第1層と第2層の間隔をあけた位置関係を維持するようになっていることはないし,本願発明のように第1層と第2層の間の空間に硬化可能樹脂からなる充填材料が充填されていることはない。 ( )小括3したがって,審決が,本願発明と引用発明の対比において,?医療用包帯材料である点及び硬化可能樹脂を用いている点,?ストランドを用いている点,?第1層と第2層の間隔をあけた位置関係を維持するようになっている点及び第1層と第2層の間の空間に硬化可能樹脂からなる充填材料が充填されている点を一致点とした認定は誤りである。 3相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)審決が,相違点1に関し 「引用発明のパイル糸として,本願発明の『弾力 ,的に変形する,モノフィラメント,マルチフィラメント或いはヤーンのいずれ』, 」 かからなる複数のストランド を採用することは 当業者が容易に想到し得るとした判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりである。 ( )弾力的に変形する連結糸の周知性について1審決は,相違点1に関する容易想到性の判断の前提として 「ポリエステ,ル,ポリアミド,ポリプロピレン,ポリエチレン,綿等により構成される糸を採用することは周知である」とした上で 「これを圧縮弾性を有する二重 ,編地に用いることは,特開平6-57579号公報(乙2)にみられるように周知の技術である」と認定したが,この認定は,以下の理由により,誤りである。 すなわち,乙2には 「表面基布と裏面基布を合成繊維フィラメントより ,なる連結糸によって連結した厚さ5mm以上の織編物であって,該連結糸を構成する単フィラメントの直径が50μm以上であることを特徴とする多層構造織編物 (請求項1)の発明が記載されており 「このように分離した状 」 ,態に形成された表裏の基布は,連結糸(4)が表緯糸(6)と裏緯糸(8)の一部と組織形成しており,これにより該両基布間は強固に連結することになる( 0009 )との記載 「様々な外力を受けてもその立体形状を損 。」【】,なうことなく軽量で嵩高な特徴を保持し,形態安定性の極めて優れた多層構造織編物を得ることができる( 0015 )との記載がある。このよう 。」【】に,乙2に記載された発明は,表面基布と裏面基布が連結糸により強固に連結されることによって,形態安定性の極めて優れた多層構造織編物を提供しようとする発明であるのに対し,本願発明は,弾力性がありかつ高い空隙率を得ようとする発明であり,両者は,解決課題において相違する。 ,,,,, そうすると ポリエステル ポリアミド ポリプロピレン ポリエチレン綿等により構成される糸を採用することが周知であったとしても,乙2によって,二重編地の表地と裏地を連結する連結糸として弾力的に変形する糸を採用することが示されていたとはいえない。 ( )引用発明のパイル糸として本願発明の弾力的に変形するストランドを採2用することの容易性について,, , 引用発明において パイル糸は 編地の表地と裏地を連結していれば足り弾力性は必要ではない。また,本願発明は,表地と裏地が所定の間隔をあけた位置関係を維持する構造であるのに対し,引用発明は,表地と裏地とに間隔がない構造である。このように,引用発明のパイル糸が弾力性を要しないこと,引用発明は表地と裏地とに間隔がない点で本願発明と異なることに照らすと,引用発明のパイル糸として本願発明の弾力的に変形するストランドを採用することは,容易であるとはいえない。 ( )小括3したがって,審決が,相違点1に関し,引用発明のパイル糸として,本願発明の「弾力的に変形する,モノフィラメント,マルチフィラメント或いはヤーンのいずれかからなる複数のストランド」を採用することは,当業者が容易に想到し得るとした判断は,誤りである。 4相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)審決が,本願発明の相違点2に係る構成(第1層と第2層の間の全体積に対して空隙体積が少なくとも50%である空間が第1層と第2層の間に形成され), 。, ていること につき 容易に想到し得るとした判断は誤りである その理由は以下のとおりである。 引用発明は,引用文献に「本発明による基布は1mm〜2mmの厚みの二重編地が用いられ ( 0031 )と記載されているように,二重編地全体の厚 」【】みがせいぜい2mmなので,第1層と第2層の間の空隙の体積は小さく,空隙の体積を大きくするような技術的思想はない。 他方,本願発明の目的から,空隙の割合をできるだけ大きくして,充填される有効材料の量を多くすることが望ましいことは明らかであり,本願発明の相違点2に係る構成(第1層と第2層の間の全体積に対して空隙体積が少なくとも50%である空間が第1層と第2層の間に形成されていること)の技術的意, , 義は 空隙に充填される充填材料を多くしてその効果を発揮させることにありそのことは,本願明細書に具体的な記載がなくとも容易に理解し得る。 そうすると,空隙の体積を大きくするような技術的思想がない引用発明について,空隙に充填される充填材料を多くしてその効果を発揮させるという技術的意義を有する本願発明の相違点2に係る構成を採用することは,容易に想到し得るものではない。 第4被告の反論審決の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。 1引用発明の認定の誤り(取消事由1)に対し引用文献には,パイル用ダブルラッセル編機(以下 「ダブルラッシェル」 ,を「ダブルラッセル」と 「ラッシェル」を「ラッセル」と表記する場合があ ,る )で編成され,表地と裏地とそれら両者を連結するパイル糸から構成され 。 る二重編地が記載されており(引用文献【0031 ,審決2頁20行ないし 】()),( ), 26行の c の引用部分乙1 特開昭63-112765号 によれば上記のような二重編地は,間隔をあけた表地と裏地とを連結するパイル糸を中心付近でカットして,二枚の起毛の単体編地として用いられるものであり,パイル糸はカットされて起毛部分となるために所定の長さを有し,そのため,パイル糸で連結された表地と裏地の間には3次元的間隔が存在することが認められる(乙1,1頁右欄12行ないし16行,2頁左上欄12行ないし15行及び第7図 。)引用文献には,引用発明で使用しているパイル用ダブルラッセル機により編まれた編地では,表地と裏地とがパイル糸で連結されているので厚みがあり,しかも3次元的間隙が大きく,従来のガーゼ状布帛に比較してプレポリマーの含浸量が多く,硬化に有効であることが記載されているところ(引用文献【0037】前半,審決2頁35行ないし3頁1行の(f)の引用部分 ,ここに)いう3次元的間隙が,カットパイル用編地の表地と裏地の間に形成される間隔であることは明らかであるから,引用発明の裏地と表地との間に3次元的間隔が形成されることはあり得ないとする原告の主張は失当であり,審決の引用発明の認定に誤りはない。 2本願発明と引用発明の一致点の認定の誤り(取消事由2)に対し引用文献の記載(引用文献【0001【0041 )によれば,引用発明 】,】の湿気硬化型固定用包帯は,医療用のギプスに用いられる固定用包帯であり,また,プレポリマーは,水が含浸することにより硬化する湿気硬化型樹脂組成物である 他方 審決も摘記しているように 本願明細書には 本願発明の 医 。, ,,「療用包帯材料」の一例としてギプス包帯が挙げられ(甲7,7頁27行ないし29行 ,硬化可能樹脂は,水に浸漬することにより,湿気硬化する樹脂とさ )れている。そうすると,引用発明の湿気硬化型固定用包帯は,本願発明の医療用包帯材料に含まれるものであり,引用発明のプレポリマーは,本願発明の硬化可能樹脂に相当する。 また,引用発明のパイル糸は,ダブルラッセル編機で編まれたカットパイル用編地の表地と裏地(それぞれが本願発明の第1層又は第2層に相当する )。 4601940 を連結する糸であり,本願明細書には,米国特許明細書(米国特許第号)及び欧州特許出願明細書(欧州特許出願第号)において,スA-0529671トランドが,それぞれ「充填糸」及び「パイル」と呼ばれている旨が記載されているから(甲7,4頁7行ないし27行 ,引用発明のパイル糸は,本願発 )明のストランドに相当する。 さらに,引用発明は,表地と裏地とがパイル用糸で連結されているので厚みがあり,しかも3次元的隙間が大きく,プレポリマーの含浸量が多いから(引【】, ()), 用文献 0037 前半 審決2頁35行ないし3頁1行の f の引用部分表地と裏地の間隔をあけた位置関係が維持され,それによって,3次元的隙間に硬化可能樹脂が含浸によって充填される。 したがって,審決が,引用発明の湿気硬化型固定用包帯は,本願発明の医療用包帯材料に含まれるとし,引用発明のプレポリマー,パイル糸は,本願発明の硬化可能樹脂,ストランドに相当するとし 「前記第1層と第2層の間隔を ,あけた位置関係を維持するようになっており,前記複数のストランドによって前記第1層と第2層の間に空間が形成されており,前記空間に硬化可能樹脂からなる充填材料が充填されている」ことを一致点とした認定に誤りはない。 なお,本願発明のストランドは弾力的に変形するものであるのに対し,引用文献には,パイル糸が弾力的に変形することは明記されていないが,審決は,, , この点を相違点1として検討しているから この点に相違があることをもって審決の一致点の認定が誤りであるとはいえない。 3相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)に対し表地と裏地を結合する糸の素材として,本願発明のストランドの適切例とさ,( ) れているポリエステル等を用いることは 乙2 特開平6-57579号公報に記載されたように(乙2 【0017】の【表1 )周知技術である。また, ,】乙2の記載(乙2 【0006【0007 )にも示唆されているように, ,】,】糸の糸径を適宜選択する等して,容易に変形しにくく,原型状に回復する弾力的な変形を行うように設計することは,周知の事項にすぎない。 このように,裏地と表地を結合する糸の素材としてポリエステル等を用いることが周知技術であることに加えて,引用文献には,繊維素材としてポリエステル繊維を用いることが記載され(引用文献【0031,更に,引用発明の】)基布は,表地と裏地との間の3次元的間隙が大きいことにより,プレポリマーの含浸量が多くなっていること(引用文献【0037】前半,審決2頁35行ないし3頁1行の(f)の引用部分)を考慮すれば,パイル糸として,ポリエステル等の弾力的に変形して原型状に回復する素材を用いることは,当業者であれば,適宜なし得る技術であるといえる。 そうすると,引用発明に上記周知技術を適用して,パイル糸として弾力的に変形する素材を用いることは,当業者が適宜なし得たことであるといえる。 したがって,審決が 「引用発明におけるパイル糸として,本願発明のよう ,なストランドを採用することは,当業者が適宜なし得る設計的事項であり,格別の困難性を要するものとは解されない 」とした点に誤りはない。 。 4相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)に対し表裏の編地の間に形成され,プレポリマーが充填される空隙体積は,両編地間に存在する体積のうち,パイル糸が占める体積を除いたものであって,パイル糸が占める体積は,パイル糸の太さや単位当たりの編込み本数等を選択し,パイル糸の密度を変えることにより増減が可能であるので,前記空隙体積は当業者が適宜設定し得る事項である。 そして,本願発明が,充填材料が充填される空隙体積の割合に下限を設けたことには,充填する充填材料の量を多くするという技術的意義は認められるものの,包帯に形成された空隙に充填される充填材料によって医療上の効果を期待するのであれば,その空隙の割合をできるだけ大きくして,充填される有効材料,即ちプレポリマーの量を多くするのが望ましいことは自明であって,この点は当業者が適宜なす程度のことにすぎない。 充填材料の効果は,空隙体積の割合を全体積の少なくとも50%とするとの本願発明が定める下限の前後で劇的な変化を生じるものではなく,そのような下限の数値を特定することにより,臨界的な作用効果が奏されるとする技術的根拠も見いだせない。 そうすると,引用発明において,パイル糸によって表裏の編地間に形成されプレポリマーが充填される空隙体積の,表裏の編地間の全体積に対する割合をできるだけ大きくすることは,当業者がその設計に際して当然考慮する事項であり,その下限の数値をどの程度のものとするかは,製品の使用形態や求められる形態保持性,充填材料の特性,あるいはパイル糸の材料や形態等を考慮して,当業者が適宜決定し得る設計的事項である。 原告は 「引用発明は基布全体の厚さでもせいぜい2mmなので,空隙に何 ,, 」 らかの材料を充填しようとするのであれば 明らかに空隙の量が不足している旨主張する。しかし,本願発明は,第1層と第2層の間隔を長さの値をもって特定していない以上,原告の主張は,主張自体失当である。 したがって,審決が,相違点2に係る構成につき,容易に想到し得るとした判断に誤りはない。 第5当裁判所の判断1引用発明の認定の誤り(取消事由1)について審決が,引用発明について 「前記裏地と表地との間に3次元的間隙を形成 ,し」とした認定に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。 ( )引用発明の編地1ア引用文献の記載引用文献には,次のとおりの記載がある。 「 , (ア)本発明による基布は1mm〜2mmの厚みの二重編地が用いられ好ましくはパイル用ダブルラッシェル編機で編成され,表地と裏地とそれら両者を連結するパイル糸から構成される編地である。本発明によれば,この編地は通常のパイル編地と異なって,パイル糸をカットしない状態で使用する。…(中略)…使用する繊維素材は,ガラス繊維,ポリエステル繊維,ポリプロピレン繊維があるが,その他加熱,乾燥などにより十分に水分を除去したものであれば他の繊維素材も使用可能である( 0031 ,審決2頁20行ないし26行の(c)の引用部分) 。」【】(イ)「本発明では基布としてパイル用ダブルラッシェル機により編まれた生地を使用しており,この編地では表地と裏地とがパイル用糸で連結されているので厚みがあり,しかも3次元的隙間が大きく,従来のガー,。」 ゼ状布帛に比較してプレポリマーの含浸量が多く 硬化に有効である( 0037】前半,審決2頁35行ないし3頁1行の(f)の引用部 【分)イ引用発明の編地における間隙前記アの引用文献の記載によれば,引用発明は,ダブルラッセル編機で編成され,表地と裏地(それぞれ,本願発明の第1層又は第2層に当たると認められる )とそれら両者を連結するパイル糸から構成される編地か 。 らなること,表地と裏地の間に3次元的間隙が存在することが認められる(引用文献【0037】前半の「3次元的隙間」は 「3次元的間隙」と,同じ意味であると認められる。。)( )ダブルラッセル編地2ア乙1の記載乙1(特開昭63-112765号公報)は,発明の名称を「ダブルラツセル編布の連続切断用接着方法及び接着装置」とする発明の公開公報であり,次のとおりの記載がある。 「本発明は表裏両面に基布を編成し,該基布間に所定の長さの多数のパイル糸を編成したダブルラッセル編布を,前記パイル糸の中間部を切断してそれぞれの基布にパイル糸が起毛した状態の編布に分割する際に (乙」1,1頁右欄12行ないし16行)「第7図に示したように,カッター6で前記パイル糸4の中間部分がが(判決注: 中間部分が」の誤記と認められる )切断されて,各基布2, 「 。 3にパイル糸が起毛した状態の編布に分割されるのである(乙1,2頁。」左上欄12行ないし15行)イダブルラッセル編地における間隙前記アの乙1の記載によれば,ダブルラッセル編機で編成され,表地と裏地とそれら両者を連結するパイル糸から構成された編地(ダブルラッセル編地 「編地」と「編布」は同様の意味であると推認される )は,表地 。 。 と裏地を連結するパイル糸を中心付近でカットして2枚の起毛した状態の編地に分割され得るものであり,パイル糸はカットされて起毛部分となるために所定の長さを有し,パイル糸で連結された表地と裏地の間には3次元的間隙が存在するものと認められる。 ( )引用発明の編地における間隙の存否3前記( )のとおり,引用文献には,表地と裏地の間に3次元的間隙が存在1することが記載されており,前記( )のとおり,ダブルラッセル編地におい 2て,パイル糸で連結された表地と裏地の間に3次元的間隙の存在が認められることに照らすと,引用発明において,表地と裏地の間には3次元的間隙が存在するものと認められる。したがって,審決が,引用発明について「前記裏地と表地との間に3次元的間隙を形成し」とした認定に誤りはないというべきである。 ( )原告の主張に対し4原告は 「引用文献に『従来,ギプスを形成するために包帯材料を5〜6 ,回重ねて巻く必要があったが 本発明では2〜3回の重ね巻に改善され0 , 』(【037】後半)と記載されていることから,引用発明は,表地と裏地が二重構造となっていることにより,その分,厚みを生ずるものであり,それによ, 」,, り 従来より巻回数が少なくても足りるというものである と主張し また「引用発明には,本願発明のように第1層と第2層の位置関係を空隙により維持するという技術的思想はなく,裏地と表地との間に3次元的間隙は形成されていない」旨 「編地の表地と裏地とがパイル糸で連結されていること ,により厚みがあるわけでもない」旨を主張する。 ,,,。 しかし 原告の上記主張は 以下の理由により 採用することができないアすなわち,引用文献の【0037】の記載を参照すると 【0037】,前半には,前記( )ア(イ)のとおり 「表地と裏地とがパイル用糸で連結さ1 ,れているので厚みがあり,しかも3次元的隙間が大き」いことが記載されており,そのことを前提として 【0037】後半において 「従来,ギプ , ,スを形成するために包帯材料を5〜6回重ねて巻く必要があったが,本発明では2〜3回の重ね巻に改善され」たことが記載されているものと認められる。そうすると,原告が指摘する引用文献の【0037】後半の記載は 【0037】前半の記載と併せて【0037】全体を読むならば,引 ,用発明において表地と裏地の間に3次元的間隙が形成されていることと相反するものではなく,むしろ,3次元的間隙が形成されていることを前提として,それにより全体が厚くなったことから,包帯材料の巻回数が少なくて済むことを述べているものと解される。したがって 【0037】後,半の記載を根拠として,裏地と表地との間に3次元的間隙が形成されていないとする原告の主張は,採用することができない。 イまた,前記( )イのとおり,ダブルラッセル編地において,パイル糸で2連結された表地と裏地の間に3次元的間隔が存在し,前記( )のとおり, 3引用発明において,表地と裏地の間に3次元的間隙が存在することに照らせば 「引用発明には,本願発明のように第1層と第2層の位置関係を空 ,隙により維持するという技術的思想はなく,裏地と表地との間に3次元的間隙は形成されていない」旨 「編地の表地と裏地とがパイル糸で連結さ ,れていることにより厚みがあるわけでもない」旨の原告の主張も,採用することができない。 ( )小括5したがって,取消事由1は理由がない。 2本願発明と引用発明の一致点の認定の誤り(取消事由2)について審決が,本願発明と引用発明の対比において,?医療用包帯材料である点及び硬化可能樹脂を用いている点,?ストランドを用いている点,?第1層と第2層の間隔をあけた位置関係を維持するようになっている点及び第1層と第2層の間の空間に硬化可能樹脂からなる充填材料が充填されている点を一致点とした認定に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。 ( )医療用包帯材料である点及び硬化可能樹脂を用いている点について1ア引用発明(ア)引用文献の記載引用文献には,次のとおりの記載がある。 a「本発明は湿気硬化型樹脂組成物を用いるギプスなどの固定用包帯に関する( 0001 )。」【】b「ポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量1000)と,イソホロンジイソシアネート(IPDI)にトリメチロールプロパン(TMP)を付加した付加物との反応によって得られたイソシアネート基含有率25.5%のプレポリマー100重量部に,皮革粉末(平均粒径40μ)を30重量部添加し,室温で攪拌して均一な分散液を調製した( 0038 )。」【】ppm 「この抗菌多孔質無機カプセルを前記プレポリマーに500の割合で攪拌添加して樹脂組成物とした。該樹脂組成物をパイル用ダブルラッシェル編機により編んだポリエステル繊維の二重編みで単位面積当り185の基布に200%(生地重量当り)含浸さg/mowf2せて,湿気を遮断しながら気密性を有する密封袋に封入した( 0。」【040 )】「 ,, この固定用包帯を90日室温で放置した後 密封袋から取り出し水中に10秒間含浸し,取り出して室温で放置した結果,約8分で硬化が完了し,曲げ硬さ10以上の強靱な硬化物を形成した ・kg/cm 。 ・・ ( 0041 )」【】(イ)引用発明の湿気硬化型固定用包帯,プレポリマー前記(ア)の引用文献の記載によれば,引用発明の湿気硬化型固定用包, ,, 帯は 医療用のギプスに用いられる固定用包帯であり プレポリマーは水に浸すことにより硬化する湿気硬化性樹脂であるものと認められる。 イ本願発明(ア)本願明細書の記載本願明細書には,次のとおりの記載がある。 「また別の本発明の実施態様においては,包帯は医療用支持製品である。 『医療用支持製品』という用語はここにおいては,身体部分あるいはその一部を少なくとも部分的に支持あるいは固定するために設計された医療用用途の製品を含むものとして用いられる。医療用支持製品には,・・・副木(,ギプス包帯(・・・などが含まれる(甲splintscasts ))。」7,2頁20行ないし27行)「包帯製品は,ギプス包帯あるいは副木を形成することができるよう, 。, に 硬化性のあるあるいは硬化可能な材料を含浸させてもよい 例えば水に浸漬することにより,湿気硬化性の樹脂があげられる(甲7,7。」頁27行ないし29行)(イ)本願発明の医療用包帯材料,硬化可能樹脂前記(ア)の本願明細書の記載によれば,本願発明の医療用包帯材料には,ギプス包帯,すなわち医療用のギプスに用いられる固定用包帯が含まれるものと認められる。また,本願発明の硬化可能樹脂は,水に浸すことにより硬化する湿気硬化性樹脂であるものと認められる。 ウ一致点の認定の誤りに対する判断そうすると,引用発明の湿気硬化型固定用包帯は,医療用のギプスに用いられる固定用包帯であり,本願発明の医療用包帯材料に含まれるから,本願発明と引用発明は,医療用包帯材料である点で一致する。また,引用発明のプレポリマー及び本願発明の硬化可能樹脂は,いずれも水に浸すことにより硬化する湿気硬化性樹脂であるから,本願発明と引用発明は,硬化可能樹脂を用いている点で一致する。したがって,本願発明と引用発明は,医療用包帯材料である点及び硬化可能樹脂を用いている点で一致するとの審決の認定に誤りはない。 ( )ストランドを用いている点について2ア引用発明のパイル糸前記1( )アの引用文献の記載( 0031【0037】前半)によ1 【】,れば,引用発明におけるパイル糸は,ダブルラッセル編機で編成された編地の表地と裏地を連結する糸である。 イ本願発明(ア)本願明細書の記載本願明細書には,次のとおりの記載がある。 「包帯は,編んだ第1及び第2の間隔を設けたシート,および第1および第2の向かい合う表面を結び付ける複数のストランドからなる 」。 (甲7,4頁4行ないし6行)「本発明の包帯は,米国特許第号()に開示されてい4601940Fischerる方法に類似の方法で製造することができる。織物は ・・・ラッシェ,ル編み機械を用いて作ることができる ・・・ストランド(これは,米 。 国特許第号においては充填糸と呼ばれている)が,編むことに4601940より2つのシートを結び付けるために用いられる(甲7,4頁7行な。」いし14行)A-0529671 「 , 包帯を形成するもう1つの適切な方法が 欧州特許出願第号に開示されており,それによれば ・・・ラッシェル縦編み機械が用 ,いられ ・・・織物を形成する(甲7,4頁17行ないし20行) ,。」「( 『()』 ストランド 欧州特許出願第号においては パイルA-0529671pileと呼ばれる(甲7,4頁23行ないし24行) )」(イ)本願発明のストランド前記(ア)の本願明細書の記載によれば,本願発明におけるストランドは,ラッセル編機で形成される編地の第1層と第2層を結び付ける糸であり,パイルとも呼ばれることが認められる。 ウ一致点の認定の誤りに対する判断そうすると,引用発明のパイル糸は,本願発明のストランドに当たり,本願発明と引用発明は,ストランドを用いている点で一致する。したがって,本願発明と引用発明は,ストランドを用いている点で一致するとの審決の認定に誤りはない。 ( )第1層と第2層の間隔をあけた位置関係を維持するようになっている点3及び第1層と第2層の間の空間に硬化可能樹脂からなる充填材料が充填されている点についてア間隔をあけた位置関係の維持について前記1( )のとおり,引用発明は,表地と裏地との間に3次元的間隙を3形成している。他方,本願発明は,前記第2,2のとおりであり,第1層と第2層の間隔をあけた位置関係を維持するようになっている。そうすると,本願発明と引用発明は,第1層と第2層の間隔をあけた位置関係を維持するようになっている点で一致し,この点を一致点とした審決の認定に誤りはない。 イ硬化可能樹脂からなる充填材料の充填について前記1( )ア(イ)の引用文献の記載( 0037】前半)によれば,引用1 【発明において,表地と裏地の間の3次元的間隙には,硬化可能樹脂(前記( )ウのとおり,引用発明のプレポリマーは本願発明の硬化可能樹脂と一1致する )が含浸されており,これは,言い換えれば,表地と裏地の間の 。 空間に硬化可能樹脂が充填されているといえる。他方,本願発明は,前記第2,2のとおりであり,第1層と第2層の間の空間に硬化可能樹脂からなる充填材料が充填されている。 そうすると,本願発明と引用発明は,第1層と第2層の間の空間に硬化可能樹脂からなる充填材料(充填材料とは,その文言のとおり,空間に充填される材料を意味するものと認められる )が充填されている点で一致 。 するものと認められ,この点を一致点とした審決の認定に誤りはない。 ( )原告の主張に対し4原告は 「本願発明は,第1層と第2層に間隔をあけた位置関係を維持す ,るためのストランドの構造(断面三角構造)を備えることにより,弾力性を, , 有しており 弾力性を有する医療用包帯材料である点に特徴があるのに対し引用発明は,ギプス包帯であって,第1層と第2層の位置関係を空隙により, 」 維持するという技術的思想はなく 本願発明とは発明の目的において異なると主張し,この主張を前提として 「審決による本願発明の一致点の認定に ,誤りがある」と主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,その前提において採用することができない。 ,, , アすなわち 審決は 本願発明のストランドが弾力的に変形するのに対し引用発明のパイル糸についてそのような特定がなされていない点を,一致点とは別に相違点として認定しているから(前記第2,3( )ウ(ア),相2違点1 ,本願発明のストランドと引用発明のパイル糸が,弾力的に変形 )するか否かの点で異なることを根拠として,本願発明と引用発明の一致点の認定が誤りであるということはできない。 イまた,前記1( )のとおり,引用発明は,表地と裏地との間に3次元的3間隙を形成しているから,引用発明は,第1層と第2層の位置関係を空隙により維持するという技術的思想がないとの原告の主張も,採用することができない。 ( )小括5したがって,取消事由2は理由がない。 3相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)について審決が,相違点1に関し 「引用発明のパイル糸として,本願発明の『弾力 ,的に変形する,モノフィラメント,マルチフィラメント或いはヤーンのいずれ』, 」 かからなる複数のストランド を採用することは 当業者が容易に想到し得るとした判断に,誤りはない。その理由は,以下のとおりである。 ( )周知技術1ア乙2記載の周知技術(ア)乙2の記載乙2(特開平6-57579号公報)は,発明の名称を「多層構造織編物」とする公開公報であり,次のとおりの記載がある。 a「表面基布と裏面基布を合成繊維フィラメントよりなる連結糸によって連結した厚さ5mm以上の織編物であって,該連結糸を構成する単フィラメントの直径が50μm以上であることを特徴とする多層構造織編物(特許請求の範囲,請求項1) 。」b「本発明は,厚さ方向の圧迫は勿論,引っ張り,捩れ,曲げ等の外力に対する形態変化を防止し,しかも軽量で極めて優れた圧縮弾性を有する多層構造織編物を提供することを技術的課題とするものである(発明が解決しようとする課題 【0003 ) 。」 ,】c「本発明の多層織編物は,モケツト織機やダブルラツセル編機等で製造されるもので ( 0005 )」【】d「次に,上記表裏両基布を連結する連結糸は,合成繊維マルチフィラメントであり,その構成する単フィラメントの直径は50μm以上であることが必要である。例えば,断面形状が円形のナイロン6の場合,単フィラメントの直径が50μmでは約20dに相当し剛性の強い糸条となる。従って,このような剛性の強いフィラメントを連結糸に用いると織編物の形態安定性が向上し特に圧縮,引っ張り,曲げ,捩れ等の外力に対し優れた抵抗力を示す( 0006 )。」【】e「上記単フィラメントの直径が50μm未満であれば,多層構造織編物に圧縮や引っ張り等の外力が加わった際,容易に形態が変化しやすく,又,外力を取り除いた後も原型状に回復しにくい等の欠点が現れる。さらに基布面における平方in当たりの連結糸本数を15本以上とすれば形態安定性が極めて強いものとなり好ましい( 000。」【7 )】「 ,() fこのように分離した状態に形成された表裏の基布は 連結糸 4が表緯糸(6)と裏緯糸(8)の一部と組織形成しており,これにより該両基布間は強固に連結することになる( 0009 )。」【】g「上記構成において,表裏両面基布間の厚さが5mm以上有し,表裏基布間を連結する糸条として単フィラメント直径が50μm以上の合成繊維フィラメント糸条を用いることにより,製編織から高次加工に至るまでに様々な外力を受けてもその立体形状を損なうことなく軽量で嵩高な特徴を保持し,形態安定性の極めて優れた多層構造織編物を得ることができる(作用 【0015 ) 。」,】h表1には,連結糸の素材としてナイロン,ポリエステルを用いた実施例が記載されている ( 0017 )。【】i「本発明に係る多層構造織編物は,厚さが5mm以上であり,表裏基布間を単フィラメント直径50μm以上の合成繊維フィラメントの連結糸で連結しているものであるから,軽量で嵩高な構造を有しているにもかかわらず圧縮に対する形態安定性が極めて強い。したがってスプリング桟能(判決注: 機能」の誤記と認められる )に優れ,緩 「 。 衝性やクッション性の良好な衣料や資材に用いることができる。さらに,マトリックス樹脂等を含浸し複合材料の基材に用いる場合でも樹脂形成後に均整な形態が得られる(発明の効果 【0023 ) 。」,】(イ)乙2に基づく周知技術の認定前記(ア)の乙2の記載によれば,乙2には,ダブルラッセル編機等で編成される織物の表地(表面基布は表地に当たると認められる )と裏。 地(裏面基布は裏地に当たると認められる )を連結する連結糸の糸径 。 を適宜選択するなどして,圧縮,引っ張り等の外力に対して優れた抵抗力を示し,形態安定性が高く,かつ圧縮弾性,スプリング機能に優れたものとした多層織物が記載されており,これらの性質は,表地と裏地の間の厚さを5mm以上とし,連結糸として単フィラメント直径が50μm以上の剛性の強い合成繊維フィラメント糸条を用いることにより,実現されているものと認められる。そして,圧縮弾性,スプリング機能に優れていることは,すなわち弾力性があり弾力的に変形することを意味するものであり,そのような性質は,表地と裏地の間に間隔を設けるとともに,連結糸として,剛性が強く,弾力的に変形するものを用いることによって,もたらされているものと推認される。 さらに,医療用包帯材料を製作するに当たり,連結糸として,あえて容易に塑性変形を生じて屈折し,表地と裏地との間の3次元的間隙が減少,消失するものを用いるとの技術的要請が存在するとは認められず,連結糸の素材として,天然繊維に比べて弾力性,剛性に富むと考えられるナイロンやポリエステルなどが用いられることも考慮すると,連結糸として弾力的に変形するものを用いることは,周知であったものと認められる。 イその他の周知技術糸の形態として 「モノフィラメント,マルチフィラメント或いはヤー ,ン」は,いずれも周知である。 また,前記2( )のとおり,引用発明におけるパイル糸は,ダブルラッ2セル編機で編成された編地の表地と裏地を連結する糸であり,本願発明のストランドに当たる。 ( )容易想到性の有無について2引用発明は,裏地と表地との間に3次元的間隙が形成されているものであり,3次元的間隙を形成,維持するためには,連結糸が弾力的に変形することが要請される。そして,前記( )の周知技術が存在することに照らすなら1ば,引用発明のパイル糸について,相違点1に係る「弾力的に変形する,モノフィラメント,マルチフィラメント或いはヤーンのいずれかからなる」との構成を採用し,本件発明の「弾力的に変形する,モノフィラメント,マルチフィラメント或いはヤーンのいずれかからなる複数のストランド」の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得るというべきである。 ( )原告の主張に対し3ア原告は,乙2の記載( 0009【0015 )を根拠として,乙2 【】,】に記載された発明は,表面基布と裏面基布が連結糸により強固に連結されることにより,形態安定性の極めて優れた多層構造織編物を提供しようとする発明であるのに対し,本願発明は,弾力性がありかつ高い空隙率を得ようとする発明であり,両者は,解決課題において相違するから,乙2によって,二重編地の表地と裏地を連結する連結糸として弾力的に変形する糸を採用することが示されていたとはいえないと主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,その前提において,採用することができない。 すなわち,前記( )アのとおり,乙2には,圧縮,引っ張り等の外力に1対して優れた抵抗力を示し,形態安定性が高く,かつ圧縮弾性,スプリング機能に優れたものとした多層織編物が記載されており,それについて表地と裏地の間に間隔を設けることも記載されている。そうすると,乙2においては,形態安定性が高いことと,弾力性があり表地と裏地の間に空隙があることは,両立するものとして,これらの性質を兼ね備えることが記載されている。したがって,本願発明と乙2に記載された発明とは,解決課題において相違するとの原告の主張は,採用することができない。そし, 。 て その主張を前提とする原告のその余の主張も採用することができないイまた,原告は 「引用発明のパイル糸が弾力性を要しないこと,引用発 ,明は表地と裏地とに間隔がない点で本願発明と異なることに照らし,引用発明のパイル糸として本願発明の弾力的に変形するストランドを採用することは,容易であるとはいえない」と主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができない。 すなわち,前記1( )のとおり,引用発明には,表地と裏地との間に33次元的間隙が形成されているから,引用発明は表地と裏地とに間隔がない,。, 点で本願発明と異なるとの原告の主張は 採用することはできない また引用文献には,引用発明のパイル糸が弾力性を有することは直接には記載されていないが,引用発明は,ダブルラッセル機により編まれた表地と裏地がパイル糸で連結された厚みがある包帯であり(前記第2,3( )ア,2甲5【0037,パイル糸が弾力性を備えることを排斥するような技術 】)的要請はないから,引用発明に,乙2に記載された弾力的に変形する連結糸を採用し,パイル糸が弾力的に変形するようにすることは,容易に想到し得るものというべきである。 ( )小括4したがって,取消事由3は理由がない。 4相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)について審決が,本願発明の相違点2に係る構成(第1層と第2層の間の全体積に対して空隙体積が少なくとも50%である空間が第1層と第2層の間に形成され), 。, ていること につき 容易に想到し得るとした判断に誤りはない その理由は以下のとおりである。 ( )本願明細書の記載1,,「 , 本願明細書には 空隙体積に関してはストランドを用いることにより包帯に実質的空隙体積を与え,そこに傷口の治療に有利な所望のいずれかの充填材料が充填される。通常空隙体積は,向かい合うシートの間の全体積の少なくとも50% 有利には少なくとも80%を占めることが望ましい甲 , 」(7,5頁28行ないし6頁2行)と記載されているのみであり,空隙体積の下限値を50%又は80%とすることの技術的意義は記載されていない。 ( )引用文献の記載2他方,引用文献には 「本発明では基布としてパイル用ダブルラッシェル ,機により編まれた生地を使用しており,この編地では表地と裏地とがパイル用糸で連結されているので厚みがあり,しかも3次元的隙間が大きく,従来のガーゼ状布帛に比較してプレポリマーの含浸量が多く,硬化に有効である( 0037】前半)と記載されており,3次元的間隙が大きくプレポ 。」【リマーの含浸量が多いことが,引用発明の固定用包帯を構成する編地として好ましい旨記載されている。 ( )容易想到性の有無について3ところで,本願発明は,前記第2,2のとおりであり,第1層と第2層の間の空間に硬化可能樹脂又は医薬的活性剤からなる充填材料が充填されており,充填材料によって医療上の効果を発揮させるのであれば,第1層と第2層の間の全体積に対する空隙体積の割合を大きくして充填される材料の量を多くするのが望ましいことは,自明であり,そのことは,前記( )の引用文2献の記載にも示唆されている。そうすると,空隙体積の割合をできるだけ大きくすることは,本願発明のような包帯材料を製造するに当たり,当業者が当然考慮すべき事項といえる。 そして,実際の空隙体積の割合は,製品の使用形態,求められる形状安定性の程度,充填材料の特性,パイル糸の材料や形態等を考慮して決定されるが,空隙体積の割合を本願発明におけるように50%以上とすることによって臨界的な作用効果が奏されるとする技術的根拠は見いだせない。 そうすると,空隙体積の割合を少なくとも50%とし,本願発明の相違点2に係る構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たというべきである。 ( )原告の主張に対し4原告は,引用文献の【0031】の記載などを根拠として 「引用発明に,は,空隙の体積を大きくするような技術的思想がない」と主張し,その主張を前提として 「引用発明について,本願発明の相違点2に係る構成(第1 ,層と第2層の間の全体積に対して空隙体積が少なくとも50%である空間が第1層と第2層の間に形成されていること)を採用することは,容易に想到し得ない」と主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,その前提において,採用することができない。 すなわち,引用文献には,前記( )のように,3次元的隙間が大きくプレ2ポリマーの含浸量が多いことが,引用発明の固定用包帯を構成する編地として好ましい旨の記載があるから,空隙の体積を大きくするような技術的思想が引用発明にないとはいえない。 もっとも,引用文献には,原告が指摘するように 「本発明による基布は ,1mm〜2mmの厚みの二重編地が用いられ ( 0031 )との記載があ 」【】る。しかし,本願発明の相違点2に係る構成において,空隙体積は,体積そのものの値ではなく,第1層と第2層の間の全体積に対して空隙体積が占める割合をもって示されているから,基布全体の厚みがそれほど大きくない場合でも,空隙体積の割合を高くすることは可能である。また,本願明細書に「 . 。」 第1層と第2層の間の間隔は少なくとも0 5mmであることが望ましい(甲7,3頁8行「前記第1層(30)と第2層(20)とが,少なくと ),も0.5mmの間隔だけ離れている請求項1記載の材料(10(請求の)。」範囲2,甲7,13頁12行ないし13行)と記載されており,本願発明において,第1層と第2層の間隔が0.5mm程度であることが想定されていることに照らせば,二重編地である基布の厚みが1mm〜2mmであることをもって,直ちに基布間の空隙体積の割合が低く,空隙の体積を大きくするような技術的思想がないと断定することもできない。そうすると,原告が指摘する引用文献の【0031】の記載を考慮しても,引用発明には空隙の体積を大きくするような技術的思想がないとの原告の主張は,採用することができない。そして,その主張を前提とする原告のその余の主張も採用することもできない。 ( )小括5したがって,取消事由4は理由がない。 5結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 中平健 |
裁判官 | 上田洋幸 |