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関連審決 不服2008-19676
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 発明者 /  物の発明 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  上位概念 /  試行錯誤 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  実施 /  加工 /  交換 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10134号 審決取消請求事件
原告三 和酒類株式会社
原告株式会社大麦発酵研究所
上記両名訴訟代理人弁理士須藤阿佐子 須藤晃伸 植野浩志
上記両名訴訟復代理人弁理士
被告特許庁長官
同 指定代理 人橋本栄和原健司 中田とし子 安達輝幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/01/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2008−19676号事件について平成21年4月15日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文1項と同旨第2事案の概要本件は,原告らが,下記1のとおりの手続において,原告らの本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁において,下記2のとおりの本件補正を却下した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)出願手続及び拒絶査定発明の名称:「抗酸化作用を有する組成物からなる抗酸化剤」(補正前の発明の名称:「抗酸化作用を有する組成物及び該組成物の製造方法」)出願日:平成15年2月5日出願番号:特願2003-27902(甲5)拒絶理由通知:平成20年1月25日(甲6)手続補正日:平成20年3月5日(甲8)及び同月7日(甲9)拒絶査定日:平成20年6月27日(甲10)(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成20年8月4日(甲11)手続補正日:平成20年9月3日(甲12。以下「平成20年9月付け補正」という。)拒絶理由通知:平成20年12月2日(甲16)手続補正日:平成21年2月3日(甲18。以下「本件補正」という。)審決日:平成21年4月15日本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成21年4月30日2本件補正前後の特許請求の範囲の記載本件補正は,平成20年9月付け補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1〜3及び発明の詳細な説明について補正するものであるが,本件補正前の請求項1〜3及び本件補正後の請求項1の記載はそれぞれ次の(1)及び(2)のとおりである。
以下においては,本件補正前の明細書(甲5,8,9,12)を「本件補正前明細書」,本件補正後の明細書(甲5,8,9,12,18)を「本願明細書」,本件補正前の請求項1〜3に記載された発明を「本願発明1」〜「本願発明3」,本願発明1〜3を併せて「本願発明」といい,また,本件補正後の請求項1を「新請求項1」,新請求項1に記載された発明を「本件補正発明」という。
(1)本件補正前の特許請求の範囲(平成20年9月付け補正に係る請求項1〜3)の記載【請求項1】大麦を原料とする焼酎製造において副成する大麦焼酎蒸留残液を固液分離して液体分を得,該液体分を合成吸着剤を用いる吸着処理に付して合成吸着剤吸着画分を得,該合成吸着剤吸着画分をアルカリ又はエタノールを用いて溶出することにより得られる脱着画分からなり,乾燥物重量で,粗タンパク40乃至60重量%,ポリフェノール7乃至12重量%,多糖類5乃至10重量%(糖組成:グルコース0乃至2重量%,キシロース3乃至5重量%,及びアラビノース2乃至5重量%),有機酸4乃至10重量%(リンゴ酸1乃至3重量%,クエン酸2乃至4重量%,コハク酸0乃至1重量%,乳酸0乃至6重量%,及び酢酸0乃至1重量%),及び遊離糖類0乃至2重量%(マルトース0乃至1重量%,キシロース0乃至1重量%,アラビノース0乃至1重量%,及びグルコース0乃至1重量%)の成分組成を有する組成物からなる抗酸化剤。
【請求項2】前記脱着画分は,凍結乾燥粉末形態のものである請求項1に記載の抗酸化剤。
【請求項3】薬剤として使用する請求項1又は2に記載の抗酸化剤。
(2)本件補正に係る請求項1〜3の記載(下線部分が補正箇所である。)【請求項1】大麦を原料とする焼酎製造において副成する大麦焼酎蒸留残液を固液分離して液体分を得,該液体分を芳香族系又はメタクリル系合成吸着剤を用いる吸着処理に付して合成吸着剤吸着画分を得,該合成吸着剤吸着画分をアルカリ又はエタノールを用いて溶出することにより得られる脱着画分からなり,乾燥物重量で,粗タンパク40乃至60重量%,ポリフェノール7乃至12重量%,多糖類5乃至10重量%(糖組成:グルコース0乃至2重量%,キシロース3乃至5重量%,及びアラビノース2乃至5重量%),有機酸4乃至10重量%(リンゴ酸1乃至3重量%,クエン酸2乃至4重量%,コハク酸0乃至1重量%,乳酸0乃至6重量%,及び酢酸0乃至1重量%),及び遊離糖類0乃至2重量%(マルトース0乃至1重量%,キシロース0乃至1重量%,アラビノース0乃至1重量%,及びグルコース0乃至1重量%)の成分組成を有する組成物からなる活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤。
【請求項2】前記脱着画分は,凍結乾燥粉末形態のものである請求項1に記載のヒドロキシラジカル消去剤。
【請求項3】医薬剤として使用する請求項1又は2に記載のヒドロキシラジカル消去剤。
3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件補正は,新請求項1について,同項に記載された事項が本件出願の願書(甲5)に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。)に記載された事項の範囲内においてするものではなく,新規事項を追加するものであるから,特許法17条の2第3項に違反し,また,同法36条6項1号のサポート要件を満たさないとともに,以下のア〜エの引用発明1〜4記載の各発明(以下「引用発明1」ないし「引用発明4」といい,引用発明1〜4を併せて「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって,同法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定する独立特許要件を欠くとして,これを却下し,その結果,発明の要旨を本願発明のとおりと認定した上,本願発明も,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ア引用例1:特開2001-49253号公報(甲1)イ引用例2:特開平11-92331号公報(甲2)ウ引用例3:特開平10-95795号公報(甲3)エ引用例4:特開2002-335911号公報(甲4)(2)なお,本件審決が認定した本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点並びに本願発明1と引用発明1との相違点は,以下のとおりである。
ア本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点一致点:大麦を原料とする焼酎製造において副成する大麦焼酎蒸留残液を固液分離して得られる液体分からなるラジカル消去剤相違点1:本件補正発明は,「液体分を芳香族系又はメタクリル系合成吸着剤を用いる吸着処理に付して合成吸着剤吸着画分を得,該合成吸着剤吸着画分をアルカリ又はエタノールを用いて溶出することにより得られる脱着画分からな…る…ラジカル消去剤」であるのに対し,引用発明 1 は,「遠心分離した上澄み液を主体とする酸化防止剤」である点相違点2:本件補正発明は,「乾燥物重量で,粗タンパク40乃至60重量%,ポリフェノール7乃至12重量%,多糖類5乃至10重量%(糖組成:グルコース0乃至2重量%,キシロース3乃至5重量%,及びアラビノース2乃至5重量%),有機酸4乃至10重量%(リンゴ酸1乃至3重量%,クエン酸2乃至4重量%,コハク酸0乃至1重量%,乳酸0乃至6重量%,及び酢酸0乃至1重量%),及び遊離糖類0乃至2重量%(マルトース0乃至1重量%,キシロース0乃至1重量%,アラビノース0乃至1重量%,及びグルコース0乃至1重量%)の成分組成を有する組成物からなる…ラジカル消去剤」であるのに対し,引用発明1では,酸化防止剤の成分組成につき特定されていない点相違点3:本件補正発明は,「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」であるのに対し,引用発明1では「酸化防止剤」である点イ本願発明1と引用発明1との相違点相違点a:本願発明1は,「液体分を合成吸着剤を用いる吸着処理に付して合成吸着剤吸着画分を得,該合成吸着剤吸着画分をアルカリ又はエタノールを用いて溶出することにより得られる脱着画分からなる抗酸化剤」であるのに対し,引用発明1は,「遠心分離した上澄み液を主体とする酸化防止剤」である点相違点b:本願発明1は,「乾燥物重量で,粗タンパク40乃至60重量%,ポリフェノール7乃至12重量%,多糖類5乃至10重量%(糖組成:グルコース0乃至2重量%,キシロース3乃至5重量%,及びアラビノース2乃至5重量%),有機酸4乃至10重量%(リンゴ酸1乃至3重量%,クエン酸2乃至4重量%,コハク酸0乃至1重量%,乳酸0乃至6重量%,及び酢酸0乃至1重量%),及び遊離糖類0乃至2重量%(マルトース0乃至1重量%,キシロース0乃至1重量%,アラビノース0乃至1重量%,及びグルコース0乃至1重量%)の成分組成を有する組成物からなる抗酸化剤」であるのに対し,引用発明1では,酸化防止剤の成分組成につき特定されていない点4取消事由(1)本件補正を却下した判断の誤り(取消事由1)(2)本願発明1と引用発明1との相違点の認定・判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について〔原告らの主張〕(1)新規事項の追加に係る判断についてア本件審決は,本件補正による新請求項1に係る補正事項(b)「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」及び同(c)「ヒドロキシラジカル消去剤」につき,当初明細書【0002】及び【0004】等の記載を検討して,「抗酸化物質」全般又は「抗酸化作用」全般につき「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ことに係る記載のみであり,「ヒドロキシラジカル消去剤」又は「ヒドロキシラジカル消去活性」につき,他の「抗酸化物質」又は「抗酸化作用」に比して特に「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ことが記載されているものとはいえず,上記(b)及び(c)の補正事項を含む本件補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないとした。
イしかしながら,当初明細書に「抗酸化物質」全般又は「抗酸化作用」全般につき「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ことに係る記載が存在するところ,「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」は,本件補正前の「抗酸化剤」の範ちゅうに属することが明らかであるから,上記(b)及び(c)の補正事項を含む本件補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということができ,本件審決にいう新規事項の追加に当たらない。
また,当初明細書【0040】には,強力な「ヒドロキシラジカル消去活性」を有することが「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」という構成自体が開示されており,しかも,生体内でのヒドロキシラジカルやスーパーオキシドラジカルなどの活性酸素の消去系は抗酸化剤により行われること(甲21),生体内活性酸素消去剤としての作用効果はヒドロキシラジカル補足活性により測定されていること(甲22,23)が公知文献に示唆されているところからしても,上記(b)及び(c)の構成を付加する補正は,新規事項の追加に当たらない。
(2)記載不備(明細書のサポート要件違反)との判断についてア本件審決は,新請求項1には「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」が記載されているところ,本願明細書の発明の詳細な説明には,(活性酸素によって誘発される)生活習慣病(の予防)に対する効果の有無及び当該効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係(例えば,どの程度の抗酸化作用を有していれば,生活習慣病(の予防)に対する効果を有するとするのかなど)に係る記載又はそれらを示唆する記載はなく,また,疾病(の予防)に対する効果の有無を論じる場合,生体に対する薬理的又は臨床的な検証を要することが当業者に自明であるところ,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても,同検証に係る記載又はそれを示唆する記載はないから,新請求項1について,本願明細書の発明の詳細な説明はサポート要件を満たすということができないとした。
イしかしながら,本願明細書には,?「デオキシリボース法」による「ヒドロキシラジカル消去活性」の大小に係る記載(【0038】【0039】及び【図1】)及び特開平6-227977号公報(甲22)に記載のデオキシリボース法によるヒドロキシラジカル消去活性の測定を行ったとの記載(【0038】),?「抗酸化物質」全般又は「抗酸化作用」全般につき「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ことに係る記載(【0002】)及びヒドロキシラジカル消去活性に寄与する成分について「ヒドロキシラジカル消去活性」の測定の記載(【0014】〜【0016】),?本願発明の抗酸化作用を有する組成物は,公知の抗酸化性組成物を卓越した極めて強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有するので,活性酸素によって誘発される老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて好適であるとの記載(【0040】)がある。
そして,本件出願時において,?ヒドロキシラジカル消去活性を有すれば活性酸素によって誘発される生活習慣病(の予防)に対する効果があること,?同効果がヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用が大きければ生活習慣病(の予防)に対する効果も大きいことは当業者にとって技術常識であったのであり,それ故,「ヒドロキシラジカル消去活性」の大小に係る程度の記載があれば,当業者は,その記載と技術常識を照らし合わせることによって,新請求項1の「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」を容易に理解し,実施することができたものというべきである。
(3)進歩性がないとの判断についてア一致点の認定の誤り・相違点の看過について引用例1の特許請求の範囲には,「焼酎蒸留廃液を主体とする酸化防止剤を酸化防止対象と接触させることを特徴とする酸化防止法」及び「防錆剤」に係る発明が記載され,また,その実施例1〜9のすべてが鉄くぎの防錆に関するものであって,引用発明1は,生体内への適用を前提とする新請求項1の「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」とは全く異なる技術分野の発明である。
また,引用発明1を食品類に適用するにしても,「酸化防止対象と接触させる」ことを必須とする酸化防止技術である(【0015】)。
これらのことから,引用発明1は,「酸化防止対象と接触させ酸化防止作用を発揮する酸化防止剤」と認定されるべきものである。
したがって,本件補正発明と引用発明1とは,焼酎蒸留廃液を原料とする点でのみ一致し,「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」であるか,「酸化防止対象と接触させ酸化防止作用を発揮する酸化防止剤」であるかという点で相違するものであるから,本件審決の一致点の認定には,技術分野が異なるという相違点を看過した誤りがある。
イ相違点1に係る判断の誤りについて引用例1の特許請求の範囲には,「焼酎蒸留廃液を主体とする酸化防止剤を酸化防止対象と接触させることを特徴とする酸化防止法」及び「防錆剤」に係る発明が記載され,また実施例1〜9のすべてが鉄くぎの防錆に関するものである。
そして,引用例2にはマメ科ロンコカルプス属植物の抽出物を有効成分として配合することを特徴とする抗酸化剤に係る発明が記載され,引用例3には脱脂ゴマ種子からセサミノールトリグルコシドの分離方法に係る発明が記載されているが,それらはいずれも,本件補正発明及び引用発明1とは全く異なる原料に係る発明であり,また,引用例4には植物に由来するポリフェノール含有液のスチレン系合成吸着剤を用いるポリフェノール類の濃縮・精製方法が記載されているだけである。
これらの事実を勘案すれば,卓越した抗酸化活性を有する物質を分取することを目指すことは示唆すらされていない引用発明1と引用発明2〜4を結びつける動機付けはなく,また,原料物質及びその処理方法が相違する発明をいかに組み合わせても,新請求項1に係る「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」を得ることができない。
ウ相違点2に係る判断の誤りについて上記イのとおり,引用発明1と引用発明2〜4を組み合わせること自体が容易に想到できることではないから,これらを組み合わせた結果,抗酸化剤(組成物)を構成する各成分のすべてが大麦焼酎蒸留残液に由来する成分であって,他の成分が混入するものとはいえず,また,芳香族系又はメタクリル系の合成吸着剤による吸着及び脱着の条件等につき特段の差異が存するものでもないから,抗酸化剤(組成物)の成分組成につき,本件補正発明に係るものと同一となる蓋然性が極めて高いとの本件審決の判断を是認することができない。
その上,引用発明を組み合わせても,大麦焼酎蒸留残液中のいかなる成分がラジカル消去剤として有用であるかということ,いかなる手段で当該成分組成が得られるかということは示唆されておらず,引用発明から相違点2に係る構成は容易に想到し得るものではない。
エ相違点3に係る判断の誤りについて(ア)本件審決は,具体的な用途を考慮することなく,「酸化防止剤」を「抗酸化剤(又は抗酸化物質)」に置き換えるという形式的な用語の意味を操作することによって,相違点3は当業者が適宜なし得ることであるとした。
しかしながら,大麦を原料とする焼酎製造において副成する大麦焼酎蒸留残液を吸着処理に付して得られる液体分(をそのまま乾燥させたもの)が,生体に障害を与えるとされる種々の活性酸素のうちでも,反応性が高く,生体障害作用が最も大きいと考えられているヒドロキシラジカルの消去活性を有することを発見したこと自体が本件補正発明の基礎となっているものであるのに対し,引用例1には,生体内にかかわるヒドロキシラジカル消去活性に関する記載も示唆もない。
(イ)本件出願の発明者は,大麦を原料とする焼酎製造において副成する大麦焼酎蒸留残液が,生体に障害を与えるとされる種々の活性酸素のうちでも,反応性が高く,生体障害作用が最も大きいと考えられているヒドロキシラジカルの消去活性を有することを発見したが,その活性は実使用に値しない弱い程度であったので,活性を高めた組成物を得るために種々の公知の分離・濃縮手段を検討し,多くの実験を重ね,試行錯誤の結果,優れた特定の吸着剤と溶出処理の組合せを見いだし,本件補正発明に係るヒドロキシラジカル消去剤を完成したものである。
(ウ)したがって,本件審決が,酸化物質の種類を単に規定した「ヒドロキシラジカル消去剤」と表現することも当業者が適宜なし得ることであると認定したことは誤っている。
オ動機付けの不存在及び阻害要因の存在について引用例1が開示する技術は,生体外に関する酸化防止対象と接触させる酸化防止の技術に関するものであって,生体内でのヒドロキシラジカルなどの活性酸素の消去系に関する技術とは技術分野を異にする。
また,引用例1の【0004】では,「多量な廃液を処理するには設備及び手間にお金がかかり,また,現状ではこれといった有力な用途がない」ことが課題として挙げられており,引用発明1は,焼酎蒸留廃液をそのまま再利用することを目的としており,手間暇を掛けて「卓越した抗酸化活性を有する物質を分取する」ことは全く意図されていない。
一方,引用発明2はマメ科ロンコカルプス属植物の抽出物を有効成分として配合することを特徴とする抗酸化剤に係る発明であり,引用発明3は脱脂ゴマ種子からのセサミノールトリグルコシドの分離方法に係る発明であって,これらは,いずれも,本件補正発明及び引用発明1とは全く異なる原料に係る発明であり,また,引用例4には植物に由来するポリフェノール含有液のスチレン系合成吸着剤を用いるポリフェノール類の濃縮・精製方法が記載されているだけである。
このように,引用発明1と引用発明2〜4は技術分野が全く異なるものであるから,引用発明1と引用発明2〜4とを結びつける動機付けはなく,また,原料物質及びその処理方法が相違する発明を組み合わせることは当業者に過度の試行錯誤を要するものであるから,当業者がそのような組合せを試みることには阻害要因がある。
カ本件補正発明に係る効果の看過について本件審決は,本件補正発明が,引用発明及び当業者の周知の技術を組み合わせたものに比して,当業者が予期し得ない格別顕著な効果を奏しているものとはいえないとするが,引用発明1と引用発明2〜4を組み合わせること自体が容易に想到することができるものではないから,本件審決の本件補正発明に係る効果についての認定・判断は前提を欠くものである。
そして,生体内にかかわるヒドロキシラジカル消去活性に関する知見のない引用発明1に,それぞれ原料や目的物の異なる引用発明2〜4を組み合わせ,活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去活性が向上した組成物を得ようとすることは,当業者が容易に想到することとはいえず,その効果は,引用例1〜4の記載から予期されるところを超えた顕著なものである。
キ小括以上のとおり,本件補正発明は,引用発明及び当業者の周知の技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
〔被告の主張〕(1)新規事項の追加に係る判断についてア当初明細書には,?「『抗酸化物質』全般又は『抗酸化作用』全般につき『活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である』こと」に係る記載,?「本発明の抗酸化作用を有する組成物は,…ヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有する」なる記載,?当初明細書に記載された「デオキシリボース法」による「ヒドロキシラジカル消去活性」の大小に係る記載(【0038】【0039】【図1】)及び?「ヒドロキシラジカル消去活性」との文言に係る記載はそれぞれ存在するが,「ヒドロキシラジカル消去剤」との文言は存在せず,上記?の記載は,単に「抗酸化剤」又は「抗酸化作用」と「活性酸素によって誘発される生活習慣病」との関係に係る従来技術が示されたものにすぎないから,当初明細書の上記?〜?の記載では,本願補正発明に係る「組成物」からなる「ヒドロキシラジカル消去剤」について実体的に記載されたものということはできない。
イまた,当初明細書の記載においては,本願補正発明に係る「組成物」の「活性酸素によって誘発される生活習慣病」に対する有効性についても全く確認されていないのであるから,当該有効性も不明である。
ウ以上によると,当初明細書には,本願補正発明に係る「組成物」からなる「ヒドロキシラジカル消去剤」が「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ことが記載されているものとはいえず,本件補正による請求項1に係る補正事項(b)「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」との事項及び同(c)「ヒドロキシラジカル消去剤」との事項は,いずれも当初明細書に記載した事項の範囲内の事項であるということはできない。
(2)記載不備(明細書のサポート要件違反)との判断についてア本願明細書には,「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」「ヒドロキシラジカル消去剤」についての記載はないところ,本件補正発明における「(特定の成分組成を有する)組成物」は一応新規な組成物であることから,本件出願時点における当業者の技術常識参酌したとしても,本件補正発明における「(特定の成分組成を有する)組成物からなる…ヒドロキシラジカル消去剤」が,本件補正発明に係る解決課題である生活習慣病(の予防)に対して有効である程度の卓越して強力なヒドロキシラジカル消去活性の抗酸化作用を有することを当業者が認識できるものではない。
イなお,本願明細書の発明の詳細な説明【0038】等には,実施例1として,ヒドロキシラジカル消去活性について,デオキシリボース法により測定したことが記載されているが,?そこで使用された過酸化水素が活性酸素であって,直接デオキシリボースと反応してしまい,「マロンアルデヒド」の生成量が有意に変化すること,?本件補正発明に係る組成物自体に糖類が含まれているところ,「マロンアルデヒド」は,デオキシリボースのみならず,他の糖類を含めた糖類一般の分解反応により生成するもの(乙4)であるから,「マロンアルデヒド」の発生量について有意に変化すること,?組成物の溶媒として使用されているジメチルスルフォキシド自体がヒドロキシラジカル消去剤であること(乙5)から,測定値に有意な変化が発生すること,?「マロンアルデヒド」は著しく不安定な化合物である(乙6)ところ,本願明細書におけるデオキシリボース法では,チオバルビツール酸と反応させる前に,28℃で16時間反応させており,反応開始後早期に生成した「マロンアルデヒド」が16時間経過後に反応系に残存せず,反応時間中に発生した「マロンアルデヒド」の全量につき測定できないことから,このデオキシリボース法による測定法は,ヒドロキシラジカル消去活性の測定法としては技術的に不適当である。
また,生体に適用する抗酸化剤(活性酸素消去剤)については,食品又は医薬として経口摂取又は外用された場合に,消化・吸収されて生体内に取り込まれるか否か,さらに,生体内に吸収又は静脈注射などで投与された抗酸化剤がヒドロキシラジカルなどの活性酸素が生成する部位に適切な濃度以上で到達するか否かなどを確認する必要があり,同確認がされない場合,生体に適用する抗酸化剤がヒドロキシラジカル消去などの作用・効果を発揮するものということはできない。
(3)進歩性がないとの判断についてア一致点認定の誤り・相違点の看過について「ヒドロキシラジカル消去剤」は,その上位概念である「抗酸化剤」の一種であり,また,「酸化防止剤」と「抗酸化剤」は実質的に同義である(乙2)から,「酸化防止剤」(又は「抗酸化剤」)と「ヒドロキシラジカル消去剤」との間で,発明が属する技術分野が異なるということはできない。
そうであるから,本件補正発明に係る特定の物性を有する「ヒドロキシラジカル消去剤」なる用途に係る物の発明と引用例1記載の「酸化防止剤(抗酸化剤)」なる用途に係る物の発明との間で,発明が属する技術分野が異なるということはできない。
なお,原告らは,引用発明1の酸化防止剤が,「酸化防止対象と接触させることを特徴とする」点で,「生体内への適用を前提とする」本件補正発明と技術分野が異なると主張するが,生体内における「抗酸化剤の働き」(抗酸化作用)が,「活性酸素の生成部位」に到達し,「ラジカルや活性酸素」「を消去,捕捉」して,活性酸素が,活性酸素の生成部位付近の「種々の生体内の標的分子に非特異的な酸化により損傷を与え障害をもたらす」ことを防止するものであることは当業者に自明であるから,生体内においても,抗酸化剤が「活性酸素の生成部位付近の種々の生体内の標的分子」である酸化防止対象に接触しない限り,抗酸化作用を発現させるものではないことが明らかであって,「生体内への適用を前提とする」本件補正発明においても,その使用時に「酸化防止対象と接触させる」ことを行っているものである。
イ相違点1に係る判断の誤りについて本件補正発明に係る「ヒドロキシラジカル消去剤」なる物は,複数の成分物質からなる組成物からなる物であって,さらに,それら複数の成分物質のいずれが抗酸化活性を有する物質であるのか本願明細書に全く記載されていないのであるから,本件補正発明に係る「吸着剤」を使用した処理工程が,「抗酸化活性を有する物質を分取する」工程であるということができず,同処理工程は,原料組成物についてその構成成分の一部を単に除去する(精製)除去工程というべきものである。
また,特定の用途に係る「剤」(例えば「酸化防止剤」など)において,他の新たな弊害が発現しない範囲で,当該「剤」の主たる機能・作用(例えば「酸化防止作用」など)を改善しようとすることは,当業者が通常に有する解決課題であることは明らかであって,その解決課題が「焼酎蒸留廃液」なる植物由来であることが明らかなものを主体とする「酸化防止剤」(抗酸化剤)に係る引用発明1において,いずれも植物由来の抗酸化剤に係る精製方法に係る引用発明2〜4を組み合わせる動機となるものであって,当該組合せを阻害する要因が存するものではない。
さらに,引用発明1の「酸化防止剤」は,(大麦)焼酎蒸留廃液の液状部分であることで,本件補正発明における組成物の原料である「大麦焼酎蒸留残液を固液分離して」得られた「液体分」と共通するものであるから,原料物質が相違するものではない。
ウ相違点2に係る判断の誤りについて上記イのとおり,引用発明1と引用発明2〜4とを組み合わせるべき動機となる事項が存するものであって,かつ,当該組合せを阻害する要因もないのであるから,引用発明1と引用発明2〜4とを組み合わせることは,当業者が適宜なし得ることである。
また,本件審決は,引用発明1と引用発明2〜4とを組み合わせて,引用例1に記載の大麦焼酎蒸留廃液の液状部分からなる酸化防止剤組成物に引用例2〜4に記載の植物由来の抗酸化剤の精製に係る吸着剤による処理を施した場合の処理後の組成物について,本件補正発明に係る「ヒドロキシラジカル消去剤」なる組成物と結果的に成分組成が同一となる蓋然性が極めて高いとし,相違点2については実質的な相違ではないと判断しただけであるから,「大麦焼酎蒸留残液中のいかなる成分がラジカル消去剤として有用であるかということ,いかなる手段で当該成分組成が得られるかということ」は,本件審決の上記判断を左右する事項ではない。
エ相違点3に係る判断の誤りについて(ア)新請求項1における「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」との記載は,「ヒドロキシラジカル消去剤」の具体的用途を表すものではなく,「ヒドロキシラジカル消去剤」は「抗酸化剤」の一種であり,「酸化防止剤」と「抗酸化剤」は実質的に同義であって,「酸化防止剤」(又は「抗酸化剤」)と「ヒドロキシラジカル消去剤」との間で発明が属する技術分野が異なるということができないものであるから,本件審決は,具体的な用途を考慮することなく,「酸化防止剤」の用語を「抗酸化剤(又は抗酸化物質)」の用語に置き換えるという形式的な用語の意味を操作したものではない。
(イ)上記(2)のとおり,本願明細書には,本件補正発明に係る「組成物」の「ヒドロキシラジカル消去活性」についての実体的な記載はなく,「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」との事項及び「ヒドロキシラジカル消去剤」との事項についても記載されていないのであるから,大麦焼酎蒸留残液が,「ヒドロキシラジカル消去活性」を有することを発見したことに基づき,公知の分離,濃縮手段を検討し,多くの実験を重ね,試行錯誤の結果,優れた特定の吸着剤と溶出処理の組合せを見いだし,本願請求項1に係る発明に係るヒドロキシラジカル消去剤を完成したなどの原告らの主張は,本願明細書の記載内容に基づかない根拠を欠くものとして失当である。
オ動機付けの不存在及び阻害要因の存在について上記アのとおり,引用発明1に係る「酸化防止剤」と本件補正発明に係る「ヒドロキシラジカル消去剤」との間で技術分野が異なるとはいえず,また,上記イのとおり,特定の用途に係る「剤」(例えば「酸化防止剤」など)において,当該「剤」の主たる機能・作用(例えば「酸化防止作用」など)を改善しようとすることは当業者が通常に有する解決課題であって,その解決課題が「焼酎蒸留廃液」なる植物由来であることが明らかなものを主体とする「酸化防止剤」(抗酸化剤)に係る引用発明1において,いずれも植物由来の抗酸化剤に係る精製方法に係る引用発明2〜4を組み合わせるべき動機となるものであるから,引用発明1と引用発明2〜4とを結びつける動機付けが存在することが明らかである。
また,「焼酎蒸留廃液」なる植物由来であることが明らかなものを主体とする「酸化防止剤」(抗酸化剤)に係る引用発明1において,いずれも植物由来の抗酸化剤に係る精製方法についての引用発明2〜4を組み合わせるものであるから,「植物由来の抗酸化剤」なる処理物の共通性からみて,当業者が過度の試行錯誤を要すべき組合せであるということはできず,当該組合せを試みることに係る阻害要因が存在するものではない。
カ本件補正発明に係る効果の看過について上記(1)のとおり,本願明細書には,本件補正発明に係る「組成物」の「ヒドロキシラジカル消去活性」についての実体的な記載はなく,本件補正発明に係る効果は不明であって,本件補正発明について顕著な効果があるとする原告らの主張は失当である。
キ小括以上のとおり,本件補正発明は,引用発明及び当業者の周知の技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。
2取消事由2(本願発明1と引用発明1との相違点の認定・判断の誤り)について〔原告らの主張〕(1)相違点aに係る判断の誤りについて引用例1の特許請求の範囲には「焼酎蒸留廃液を主体とする酸化防止剤を酸化防止対象と接触させることを特徴とする酸化防止法」及び「防錆剤」に係る発明が記載されており,引用発明1では「酸化防止対象と接触させる」ことが必要とされていること,また,実施例1〜9のすべてが鉄くぎの防錆に関するものであるにすぎないように,引用例1が開示する技術は,生体内を対象とする本願発明1とは全く異なる技術分野に関するものである。
また,本件補正前明細書には,「本発明の抗酸化作用を有する組成物は,従来公知である,焼酎粕の液体分を卓越した極めて強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有するので,活性酸素によって誘発される老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて好適である。」(【0040】)との記載があるが,引用例1にはこの点についての記載も示唆もない。
引用例2にはマメ科ロンコカルプス属植物の抽出物を有効成分として配合することを特徴とする抗酸化剤に係る発明が記載され,引用例3には脱脂ゴマ種子からセサミノールトリグルコシドの分離方法に係る発明が記載されているが,それらは,いずれも,本願発明1とは全く異なる原料に係る発明であり,引用例4には植物に由来するポリフェノール含有液のスチレン系合成吸着剤を用いるポリフェノール類の濃縮・精製方法が記載されているだけである。引用発明2〜4をまとめても,「植物抽出液等の抗酸化物質としての有効成分(カテキン等のポリフェノール類又は他のラジカル消去物質等)が溶解した溶液組成物」を抽出することはできないし,「非有効成分を除去し有効成分の濃縮又は精製を図るために,当該溶液組成物を『アンバーライトXAD-2』,『アンバーライトXAD-2000』,『ダイヤイオンHP20』等の商品名で知られるもの又はその他のスチレン-ジビニルベンゼン共重合体等の芳香族系又は『ダイヤイオンHP2MG』等の商品名で知られるメタクリル系の合成吸着剤に接触させて吸着画分を得,当該吸着画分をエタノール等の低級アルコール又はアルカリ性水溶液で脱着させて脱着画分を得て,必要に応じてカチオン交換樹脂等で不純物イオンを除去した後,水等の溶媒を除去し,抗酸化作用又はヒドロキシラジカル消去作用が改善された組成物を得ることは,当業界周知の技術ということができる」ことにはならない。
以上の事実によると,卓越した抗酸化活性を有する物質を分取することを目指すことがあり得ない引用発明1と引用発明2〜4を結びつける動機付けはなく,引用発明1において,「非有効成分を除去し,抗酸化剤(組成物)における抗酸化作用を有する有効成分の組成比を濃縮又は精製することによって増大させ抗酸化作用又は(ヒドロキシ)ラジカル消去作用を改善することを意図して,大麦焼酎蒸留残液を遠心分離した上澄み液について,スチレン系高分子等の合成吸着剤に接触させて吸着画分を得,当該吸着画分をエタノール等の低級アルコール又はアルカリ性水溶液で脱着させて脱着画分を得て,必要に応じてカチオン交換樹脂等で不純物イオンを除去した後,水等の溶媒を除去してラジカル消去剤(組成物)を得ることは,当業者が適宜なし得ることである」ものではない。
(2)相違点bに係る判断の誤りについて上記(1)のとおり,引用発明1と引用発明2〜4を組み合わせること自体が容易に想到することではないのであるから,これらを組み合わせた結果,抗酸化剤(組成物)を構成する各成分のすべてが大麦焼酎蒸留残液に由来する成分であって,他の成分が混入するものとはいえず,また,芳香族系又はメタクリル系の合成吸着剤による吸着及び脱着の条件等につき特段の差異が存するものでもないから,抗酸化剤(組成物)の成分組成につき,本願発明に係るものと同一となる蓋然性が極めて高いものであるということはできず,引用発明から相違点bに係る構成は容易に想到し得るものではない。
その上,引用発明を組み合わせても,大麦焼酎蒸留残液中のいかなる成分がラジカル消去剤として有用であるかということ,いかなる手段で当該成分組成が得られるかということは示唆されておらず,引用発明から相違点bに係る構成は容易に想到し得るものではない。
(3)動機付けの不存在及び阻害要因の存在について前記1の〔原告らの主張〕(3)オのとおり,引用発明1と引用発明2〜4は技術分野が全く異なるものであるから,引用発明1と引用発明2〜4とを結びつける動機付けはなく,また,原料物質及びその処理方法が相違する発明を組み合わせることは当業者に過度の試行錯誤を要するものであるから,当業者がそのような組合せを試みることには阻害要因がある。
(4)本願発明1に係る効果の看過について本件審決は,本願発明1が,引用発明及び当業者の周知の技術を組み合わせたものに比して,当業者が予期し得ない格別顕著な効果を奏しているものとはいえないとするが,引用発明1と引用発明2〜4を組み合わせること自体が容易に想到することができるものではないから,本件審決の本願発明1に係る効果についての認定・判断は前提を欠くものである。
(5)小括以上によると,本願発明1は,引用発明及び当業者の周知の技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお,本願発明2及び3は,本願発明1を更に限定した発明であるから,上記と同様の理由により,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではない。
〔被告の主張〕(1)相違点aに係る判断の誤りについて前記2の〔被告の主張〕(3)イのとおり(ただし,「本件補正発明」を「本願発明1」,「本願明細書」を「本件補正前明細書」などと読み替える。以下同じ。)(2)相違点bに係る判断の誤りについて前記2の〔被告の主張〕(3)ウのとおり(3)動機付けの不存在及び阻害要因の存在について前記2の〔被告の主張〕(3)オのとおり(4)本願発明1に係る効果の看過について前記2の〔被告の主張〕(3)カのとおり(5)小括以上によると,本願発明1は,引用発明及び当業者の周知の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について(1)新規事項の追加に係る判断についてア本件審決は,本件補正による新請求項1に係る補正事項(b)「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」及び同(c)「ヒドロキシラジカル消去剤」につき,当初明細書においては,「抗酸化物質」全般又は「抗酸化作用」全般につき「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ことに係る記載のみであり,「ヒドロキシラジカル消去剤」又は「ヒドロキシラジカル消去活性」につき,他の「抗酸化物質」又は「抗酸化作用」に比して特に「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ことが記載されているものとはいえず,本件補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないとした。
イそこで検討するに,当初明細書(甲5)には,次の記載がある。
【0002】【従来の技術】近年,生体内に不必要な活性酸素が存在すると,老化や成人病,難病の発症や発ガンといった生体への悪影響を及ぼすことが指摘されている。こうしたことからそうした活性酸素を消去する作用を有する所謂抗酸化物質が注目され,有効な抗酸化物質を見出すべく探索が広く行われている。そして或る種の抗酸化物質が動脈硬化症,高血圧症,それらより発症する脳梗塞,心疾患,及びそれらの後遺症やストレス性潰瘍などの虚血障害,癌,糖尿病などの生活習慣病に対する治療薬として,一部で試用されている。…現在知られている抗酸化物質の代表的なものとして,天然抗酸化剤であるα-トコフェロール(ビタミンE)及びアスコルビン酸(ビタミンC),化学合成された抗酸化剤であるBHT(3,5-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン)などが挙げられる。しかしながら,これらの抗酸化物質については,上述した問題に対して或る程度有効であることが知られているが,先述の生活習慣病などの疾患に対して有効である旨の報告はない。こうしたことから,特に先述の生活習慣病などの疾患に対して有効である抗酸化物質の早期提供が強く求められている。
【0007】【発明が解決しようとする課題】上述した従来技術に係る特許文献の中,特に,焼酎蒸留廃液からなる活性酸素消去剤が記載された特許文献1には,焼酎粕,即ち焼酎蒸留廃液からなる活性酸素消去剤が記載されており,特許文献2には,焼酎蒸留廃液を主体とする酸化防止剤が記載されている。しかしながら,特許文献2に記載された前記酸化防止剤は,単なる焼酎蒸留廃液そのものにすぎないものである。また,特許文献1に記載された活性酸素消去剤は,穀類を原料とするアルコール発酵飲料製造残渣を水または有機溶媒で抽出した抽出物,或いはアルコール発酵した穀類の蒸留残液そのものからなるものであるが,特許文献1には該抽出液中の有効成分が何であるか解明されていないことが記載されている。このように,従来技術においては,焼酎蒸留廃液に含まれている抗酸化作用に関与する有効成分が何であるか全く不明であることから,或る種の特定の有効成分を分画精製することによってより強力な抗酸化活性を有する組成物を焼酎蒸留廃液から分取することなど念頭になく,事実そうしたことは行われていない。従って,これらの特許文献に記載の前記活性酸素消去剤及び前記酸化防止剤が有する抗酸化活性は十分に満足のゆくものではなく,その用途は極めて限られたものである。
【0040】【発明の効果】本発明の抗酸化作用を有する組成物は,従来公知である,焼酎粕の液体分を卓越した極めて強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有するので,活性酸素によって誘発される老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて好適である。
ウ以上によると,当初明細書に記載される抗酸化作用を有する組成物は,単なる焼酎蒸留廃液からなる抗酸化物質と比べて,優れたヒドロキシラジカル消去活性を有するものであること,同組成物は,それ故,老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて良好であることが記載されているものであって,そうすると,本件補正による新請求項1に係る組成物が,補正事項(b)「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効である」ものであって,また,同(c)「ヒドロキシラジカル消去剤」との用途に用い得るものであることは,当初明細書に記載された事項の範囲内のものというべきである。
エもっとも,被告は,当初明細書には,「ヒドロキシラジカル消去剤」との文言は存在せず,単に「抗酸化剤」又は「抗酸化作用」と「活性酸素によって誘発される生活習慣病」との関係に係る従来技術が示されたものにすぎないから,当初明細書の記載では,本願補正発明に係る「組成物」からなる「ヒドロキシラジカル消去剤」について実体的に記載されたものではないと主張する。しかしながら,上記イのとおり,当初明細書の【0040】には,ヒドロキシラジカル消去活性を有する抗酸化作用を有する組成物及びこれが活性酸素によって誘発される種々の生活習慣病の予防に有効であることが記載されているのであって,被告の主張は採用することができない。
また,被告は,当初明細書の記載においては,本願補正発明に係る「組成物」の「活性酸素によって誘発される生活習慣病」に対する有効性についても全く確認されておらず,有効性が不明であるとして,新請求項1には新規事項の追加があると主張するが,これは,記載不備や進歩性の判断における発明の効果の問題であって,新規事項の追加の有無の問題ではないから,被告の主張は採用し得ない。
オしたがって,新請求項1に係る本件補正について,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということができないとした本件審決の判断は誤りである。
(2)記載不備(明細書のサポート要件違反)との判断についてア本件審決は,新請求項1には「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」が記載されているが,本願明細書の発明の詳細な説明には,(活性酸素によって誘発される)生活習慣病(の予防)に対する効果の有無及び当該効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係(例えば,どの程度の抗酸化作用を有していれば,生活習慣病(の予防)に対する効果を有するとするのかなど)に係る記載又はそれらを示唆する記載はないこと,また,疾病(の予防)に対する効果の有無を論じる場合,生体に対する薬理的又は臨床的な検証を要するが,同検証に係る記載又はそれを示唆する記載もないことを挙げ,本件補正発明が明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができないとした。
イしかしながら,特許請求の範囲が,特許法36条6項1号に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
ウそこで,上記見地から検討すると,本願明細書(甲5,8,9,12,18)には,次の記載がある。
(ア)生体内に不必要な活性酸素が存在すると,老化や成人病,難病の発症や発ガンといった生体への悪影響を及ぼすことが指摘され,この活性酸素を消去する作用を有する抗酸化物質が着目されており,ある種の抗酸化物質は,動脈硬化症,高血圧症,それらより発症する脳梗塞,心疾患及びそれらの後遺症やストレス性潰瘍などの虚血障害,ガン,糖尿病などの生活習慣病に対する治療薬として使用されていること,現在知られている抗酸化物質抗酸化物質の代表的なものとして,天然抗酸化剤であるα-トコフェロール(ビタミンE)及びアスコルビン酸(ビタミンC),化学合成された抗酸化剤であるBHT(3,5-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン)などが挙げられるが,これらの抗酸化物質については,生活習慣病などの疾患に対して有効である旨の報告はなく,特に生活習慣病などの疾患に対して有効である抗酸化物質の早期提供が強く求められていること(【0002】)。
(イ)課題を解決するための手段として,本件の発明者らは,大麦焼酎を製造する際に副生される大麦焼酎蒸留残液から,卓越した抗酸化活性を有する物質を分取することを目指して,実験を介して検討を行ったところ,大麦を原料とする焼酎製造において副成する大麦焼酎蒸留残液を固液分離して液体分を得,この液体分を合成吸着剤を用いる吸着処理に付して合成吸着剤吸着画分を得,この合成吸着剤吸着画分をアルカリ又はエタノールを用いて溶出することにより分取した脱着画分が卓越した抗酸化作用を有することを見いだしたこと(【0008】)。
(ウ)大麦焼酎蒸留残液から得た液体分を合成吸着剤吸着画分と合成吸着剤非吸着画分に分画するなどの方法によるなどして取得した組成物(その組成は,本件補正発明に記載のものである。)につき,ヒドロキシラジカル消去活性の測定を行うことによって,高いヒドロキシラジカル消去作用を有する成分が判明したこと(【0013】〜【0016】)。
(エ)大麦焼酎製造の蒸留工程で得られた大麦焼酎蒸留残液を固液分離して得た液体分を吸着処理に付して得た合成吸着剤吸着画分から溶出させることによって分取した脱着画分を強酸性陽イオン交換樹脂を充填したカラムに接触させた後に凍結乾燥させるなどして得た本件補正発明に係る実施例1の組成物(【0016】【0033】)と比較例1〜3の各組成物(【0034】〜【0036】)につき,デオキシリボース法によるヒドロキシラジカル消去活性の測定を行ったところ(【0037】【0038】),実施例1で得た組成物は,対照に比較して試料のヒドロキシラジカル活性を40%以下に減少させ,比較例1〜3で得た組成物よりも強いヒドロキシラジカル消去活性を示したこと(【0039】【図1】)。
(オ)本願発明の抗酸化作用を有する組成物は,従来公知である焼酎粕の液体分の抗酸化作用を有する組成物を卓越した極めて強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有するもので,活性酸素によって誘発される老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて好適であること(【0040】)。
エまた,特開平6-227977号公報(甲22)【0021】,特許第3031844号公報(特開平8-231953号)(甲23)【0003】及び「MINOPHAGEN MEDICAL REVIEW第46巻2号(平成13年3月20日発行)」(甲24)46頁に記載されているように,ヒドロキシラジカル消去活性を有する物質が種々の生活習慣病にかかわる疾患の予防に有効であることが,本件出願当時において当業者にとって公知の知見であったことが認められる。
オ以上によると,上記ウのとおり,当業者が,ヒドロキシラジカル消去活性の大小や本願発明の抗酸化作用を有する組成物が強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有して種々の生活習慣病の予防に好適であること等を記載する本願明細書に接し,上記エの公知の知見をも加味すると,本件補正発明の組成物が,活性酸素によって誘発される生活習慣病の予防に対して効果を有することを認識することができるものであって,本件補正発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,その記載によって,生活習慣病などの疾患に対して有効である抗酸化物質を提供しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。
カこの点に関し,本件審決は,本願明細書の発明の詳細な説明には,(活性酸素によって誘発される)生活習慣病(の予防)に対する効果の有無及び当該効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係(例えば,どの程度の抗酸化作用を有していれば,生活習慣病(の予防)に対する効果を有するとするのかなど)に係る記載又はそれらを示唆する記載はないと説示する。
しかしながら,本願明細書には,本件補正発明の組成物が活性酸素によって誘発される生活習慣病の予防に対して効果を有することを当業者が認識することができる記載があることは上記のとおりであり,また,新請求項1には,どの程度の抗酸化作用を有していれば生活習慣病(の予防)に対する効果を有するかなどの生活習慣病の予防に対する効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係についてまで記載されておらず,このような対応関係について発明の詳細な説明中に記載されている必要があると解されるものでもない。
また,本件審決は,疾病(の予防)に対する効果の有無を論じる場合,生体に対する薬理的又は臨床的な検証を要することが当業者に自明であるところ,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても,同検証に係る記載又はそれを示唆する記載はないから,新請求項1について,本願明細書の発明の詳細な説明はサポート要件を満たすということができないとも説示する。
しかしながら,医薬についての用途発明において,疾病の予防に対する効果の有無を論ずる場合,たとえ生体に対する薬理的又は臨床的な検証の記載又は示唆がないとしても,生体を用いない実験において,どのような化合物等をどのような実験方法において適用し,どのような結果が得られたのか,その適用方法が特許請求の範囲の記載における医薬の用途とどのような関連性があるのかが明らかにされているならば,公開された発明について権利を請求するものとして,特許法36条6項1号に適合するものということができるところ,上記ウのとおりの本願明細書の実施例1や図1の記載,本願発明の抗酸化作用を有する組成物は,極めて強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有するもので,活性酸素によって誘発される老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて好適であることなどの記載によると,同号で求められる要件を満たしているものということができる。
したがって,本件審決の上記判断は,いずれも誤りである。
キまた,被告は,本願明細書のデオキシリボース法による測定法について,?過酸化水素が活性酸素であること,?本件補正発明に係る組成物自体に糖類が含まれていること,?溶媒であるジメチルスルフォキシド自体がヒドロキシラジカル消去剤であること,?反応時間が長いことから,同測定法はヒドロキシラジカル消去活性の測定法としては技術的に不適当であると主張する。しかしながら,本願明細書のデオキシリボース法による実施例1の測定では,組成物を入れたものと溶媒のみの対照との間で比較しているのであるから,上記?,?及び?の事情があるとしても,両者間のヒドロキシラジカル消去活性の有意な差をもって,実施例1の組成物にヒドロキシラジカル消去活性があるものということができ,また,上記?については,本件補正発明に含まれる糖類によって「マロンアルデヒド」が発生するならば,逆に,その分,数値としてはヒドロキシラジカル消去活性が低くなるから,それにもかかわらず,実施例1について対照との間でヒドロキシラジカル消去活性の有意な差が認められることからしても,実施例1の組成物にヒドロキシラジカル消去活性があるものということができるから,被告の主張は採用し得ない。
被告は,さらに,生体に適用する抗酸化剤については,食品又は医薬として経口摂取又は外用された場合に,消化・吸収されて生体内に取り込まれるか否か,さらに,生体内に吸収又は静脈注射などで投与された抗酸化剤がヒドロキシラジカルなどの活性酸素が生成する部位に適切な濃度以上で到達するか否かなどを確認する必要があるとも主張するが,上記オのとおり,本件補正発明の組成物が活性酸素によって誘発される生活習慣病の予防に対して効果を有することを当業者が認識できるものであるから,被告の主張は採用することができない。
(3)進歩性がないとの判断についてア相違点3に係る判断の誤りについて(ア)本件審決は,本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点を,前記第2の3(2)アのとおり認定したところ,原告らは,本件補正発明と引用発明1とは,焼酎蒸留廃液を原料とする点でのみ一致し,「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」であるか,「酸化防止対象と接触させ酸化防止作用を発揮する酸化防止剤」であるかで相違するものであるから,審決の一致点の認定には技術分野が異なるという相違点を看過した誤りがあると主張するが,この点については,相違点3(本件補正発明は,「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」であるのに対し,引用発明 1 では「酸化防止剤」である点 )にも関係するところであるから,まず,相違点3について検討することとする。
(イ)引用例1(甲1)の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
本発明は,焼酎蒸留廃液等を用いた酸化防止方法及び防錆剤に関するものであって(【0001】),焼酎蒸留廃液を主体とする酸化防止剤を酸化防止対象と接触させることを特徴とする酸化防止方法であること(【0007】),本発明に用いられる焼酎蒸留廃液は,各種焼酎の製造工程において蒸留により原酒が製造される際に残る廃液であり,これをそのまま用いてもよいし,必要に応じて固形分を一部又はほぼ完全に除去したものを用いてもよいこと(【0009】),本発明における焼酎蒸留廃液の使用態様は特に限定されないが,酸化防止対象が金属部材で,防錆効果を求めるものであれば,これを焼酎蒸留廃液に浸漬したり,焼酎蒸留廃液を噴霧,塗布等したりすればよく(【0010】),焼酎蒸留廃液中に酸化防止対象を浸漬した状態では,錆がほぼ完全に防止されるという防錆効果があり,また,浸漬後,露出させた後には,酸化防止対象の表面に黒錆状の被膜が形成されて,それ以上の腐食を防止すること(【0012】),焼酎蒸留廃液は,自然食品等への添加による酸化防止剤的な使用態様も考えられること(【0015】)。また,実施例1〜9は,すべて鉄くぎの防錆についての試験例である。
以上の記載によると,引用発明1は,金属,食品等の酸化防止対象と接触させて酸化防止作用を発揮する酸化防止剤についての発明ということができる。
一方,引用例1には,生体内にかかわる抗酸化剤,活性酸素によって誘発される疾病の存在,活性酸素によって誘発される生活習慣病についての記載及び示唆はない。
(ウ)引用例2(甲2)は,マメ(Leguminosae)科ロンコカルプス(Lonchocarpus)属植物の抽出物を配合することを特徴とする皮膚外用剤(【請求項1】),ロンコカルプス(Lonchocarpus)属植物がバルバスコ(barbasco …)である請求項1記載の皮膚外用剤(【請求項2】),請求項1又は2記載の植物の抽出物を有効成分として配合することを特徴とする抗酸化剤(【請求項3】),請求項1又は2記載の植物の抽出物を配合することを特徴とする化粧料(【請求項4】)に係る発明を記載し,また,発明の詳細な説明によると,皮膚外用剤に関し,更に詳しくは,特定の植物の抽出物を配合することにより皮膚の脂質成分の酸化や皮膚の酸化傷害を予防し,体臭等の匂いの発生や皮膚老化防止への有効性を発揮する皮膚外用剤(【0002】)についての発明を記載するものであるが,活性酸素によって誘発される生活習慣病についての記載及び示唆はない。
(エ)引用例3(甲3)は,脱脂ゴマ種子を原料として用い,この脱脂ゴマ種子からセサミノールトリグルコシドを簡便に高純度かつ高回収率で分離することができる方法に関する発明について記載するものであって,ゴマ種子中に含まれるセサミノール配糖体が生態系においてヒドロキシラジカル消去効果等の生理活性を有することが記載されている(【0001】)が,活性酸素によって誘発される生活習慣病についての記載及び示唆はない。
(オ)引用例4(甲4)は,植物に由来するポリフェノール含有液,例えば果汁,野菜汁,糖液等の植物汁,植物や植物汁の加工品及び同加工品の加工工程で生じる排出液などからポリフェノール類の濃縮・精製方法に関する発明(【0001】)を記載するものであるが,活性酸素によって誘発される疾病の存在,活性酸素によって誘発される生活習慣病についての記載及び示唆はない。
(カ)以上によると,引用発明1は,防錆剤や食品等の酸化防止剤についての発明であり,活性酸素によって誘発される生活習慣病について記載又は示唆するところはなく,また,引用発明2〜4についても同様であるから,引用発明によっては,活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるという物性を有するヒドロキシラジカル消去剤に当業者が容易に想到することができたものということはできない。
(キ)なお,本件審決は,酸化防止剤(antioxidant)と同義である抗酸化剤(又は抗酸化物質)が,活性酸素あるいは酸素フリーラジカルなどと呼ばれるヒドロキシルラジカル,スーパーオキシドアニオン,過酸化水素などを含むいわゆるオキシダント(酸化物質)の作用を消去又は減弱させる物質であることは当業者に自明である(「生化学辞典第3版」498頁(乙3),「標準化学用語辞典」243頁(乙2))から,引用発明1に係る酸化防止剤について「活性酸素によって誘発される」疾病に対して有効であると規定することは,当業者が適宜なし得ることであると説示するが,引用例1は,鉄くぎのような物体を対象とする酸化防止であり,自然食品を対象とするにしても,食品に添加して酸化防止を図るというものにすぎず,活性酸素によって誘発される疾病の存在や活性酸素によって誘発される生活習慣病についてまで述べるものではないから,本件審決の判断は誤りである。
また,本件審決は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「実施例」及び「比較例」における「デオキシリボース法」により測定された「ヒドロキシラジカル消去活性」は,酸化が完了した後の生成物(例えばマロンジアルデヒドなど)の量を定量測定しているのみであって,ヒドロキシラジカル自体の生成量又は消去量を直接測定しているものではないとともに,抗酸化剤の添加対象となるオキシダント(酸化物質)としては,ヒドロキシラジカル,スーパーオキシドアニオン,過酸化水素水などがあって,過酸化水素を酸化物質とする本願明細書の「デオキシリボース法」では,過酸化水素自体がアルカリ性条件下で求核性が強く,酸化生成物を与えることが当業者に自明であって,上記複数種のいずれの酸化物質で酸化が生起しているのか不明であるから,「ヒドロキシラジカル消去活性」を測定しているものではなく,実質的に,酸化物質が同定されないすべての酸化物質に対する「抗酸化活性」を測定しているにすぎないものであることからして,また,「抗酸化物質」を含有する組成物である点で同一である引用発明1に係る「酸化防止剤」を,酸化物質の種類を単に規定した「ヒドロキシラジカル消去剤」と表現することも当業者が適宜なし得ることからしても,本願明細書の発明の詳細な説明には,「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」について記載されているということができないと説示する。しかしながら,前記(2)のとおり,本件補正発明の組成物が活性酸素によって誘発される生活習慣病の予防に対して効果を有することは当業者が認識できるものであるところ,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1の組成物にはヒドロキシラジカル消去活性が認められ,そのデオキシリボース法を用いた試験例1が本件補正発明のヒドロキシラジカル消去活性を裏付けるものであることからすると,本件審決の判断は,その前提からして,首肯することができない。
(4)小括以上によると,本件審決が,本件補正に係る新請求項1には,新規事項が追加されているとしたほか,いわゆるサポート要件にも違反し,また,進歩性がなく,独立特許要件も欠くとした判断のいずれも誤りであるから,そのような誤った判断を前提として本件補正を却下した本件審決の判断は違法といわなければならない。
2結論以上の次第であるから,取消事由2について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲