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関連審決 不服2008-28122
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成21行ケ10259審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10103審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  ライセンス /  優先日 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  対価 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10109号 審決取消請求事件
原告X
被告特許庁長官
同 指定代理 人野村亨鈴木敏史 紀本孝 安達輝幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/01/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2008-28122号事件について平成21年3月2日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,本願発明の要旨を下記2のとおり認定した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)出願手続(甲3)及び拒絶査定発明の名称:「ボルト用多段式ソケット」出願番号:特願2008-162890号(以下,本件出願に係る明細書(甲3)を「本願明細書」といい,同出願に係る図面(甲3)を「本願図面」,「本願図1」などという。)出願日:平成20年6月23日先の特許出願に基づく優先権主張:平成20年1月21日(以下「本件優先日」という。)拒絶査定:平成20年10月14日付け(甲8)(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成20年11月4日(不服2008-28122号。甲9)手続補正日:平成20年11月4日(甲5)審決日:平成21年3月2日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成21年3月28日2本願発明の要旨本件審決が判断の対象とした本願発明(平成20年11月4日付け手続補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下,単に「請求項1」という。)に記載の発明)の要旨は,次のとおりである。
インパクトドライバ,ラチエットハンドル又は電動インパクト用のボルト用多段式ソケットにおいて,直径が一番小さいソケットを本体ソケットとし,隣り合うソケットの間で小さい方の小ソケットのボルト挿入部の外側の後端部には外側段差(10)と大きい方の大ソケットのボルト挿入部の内側の後端部には突起部が設けられ,前記突起部の後端側にはスプリングの内側の阻止部(9)が前記突起部の先端側には内側段差(11)が,前記小ソケット後部の外周面には,前記大ソケットの内周面に対面し,且つ前記スプリングの外側端部に当接する阻止部(8)が設けられ,前記小ソケットの外周面と前記大ソケットの内周面と前記スプリングの内側の阻止部であって,且つスプリングの外側の阻止部(8)とから形成された収納部を有し,この収納部にスプリングを収納して,径の異なるソケットの瞬間変位を実現したことを特徴とするボルト用多段式ソケット。
3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記イの引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ア引用例1:特許第3947207号公報(平成19年7月18日発行。甲1)イ引用例2:実願昭56-96531号(実開昭58-4370号)のマイクロフィルム(甲2)(2)なお,本件審決が認定した引用発明並びに同発明と本願発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。以下の文中の「/」は,原文の改行部分を示す。
ア引用発明:インパクトドライバー,ラチェットハンドル又は電動インパクト用のボルト用多段式ソケットにおいて,/直径が一番小さいソケットを本体ソケット1とし,/隣り合うソケットの間で小さい方の本体ソケット1はボルト挿入部を有し,該ボルト挿入部に対応する本体ソケット1の外側壁の後端部には外側段差11が設けられ,/大きい方の第2のソケット2はボルト挿入部を有し,該ボルト挿入部に対応する第2のソケット2の内側壁の後端部には突出した部分が設けられ,該突出した部分の先端側には内側段差12が設けられ,該内側段差12よりも他端側にはスプリング7の一端に当接するストッパ10が設けられ,/前記本体ソケット1の他端には,前記スプリング7の他端に当接するスプリング7の離脱防止の為の阻止部9が設けられ,/前記本体ソケット1の外側の切欠きと前記第2のソケット2の内側の切欠きからなる収納部8,前記スプリング7のストッパ10,及び前記スプリング7の離脱防止の為の阻止部9が備えられ,この収納部8にスプリング7を収納して,/径の異なるソケットの瞬間変位を実現したボルト用多段式ソケット。
イ一致点:インパクトドライバ,ラチェットハンドル又は電動インパクト用のボルト用多段式ソケットにおいて,直径が一番小さいソケットを本体ソケットとし,隣り合うソケットの間で小さい方の小ソケットのボルト挿入部の外側の後端部には外側段差と,大きい方の大ソケットのボルト挿入部の内側の後端部には突出した部分が設けられ,前記突出した部分の先端側には内側段差が設けられ,突出した部分の先端よりも後部側にスプリングの内側の阻止部が設けられ,前記小ソケットの後部には,前記スプリングの外側端部に当接する阻止部が設けられ,前記小ソケットの外側と前記大ソケットの外側と前記スプリングの内側の阻止部とスプリングの外側の阻止部とから形成された収納部を有し,この収納部にスプリングを収納して,径の異なるソケットの瞬間変位を実現したボルト用多段式ソケット。
ウ相違点(ア)相違点1:本願発明では,「大ソケットのボルト挿入部の内側の後端部に」設けられるのが「突起部」であり,「スプリングの内側の阻止部(9)」が「突起部の後端側」に設けられているのに対し,引用発明では,「大ソケットのボルト挿入部の内側の後端部」,すなわち,「ボルト挿入部に対応する第2のソケットの内側壁の後端部」に設けられるのが「突出した部分」であり,「スプリングの内側の阻止部」としてのスプリング7の一端に当接するストッパ10が,内側段差12よりも他端側に設けられている点。
(イ)相違点2:本願発明では,スプリングの外側端部に当接する阻止部が,「小ソケット後部の外周面」に「大ソケットの内周面に対面し」て設けられ,スプリングを収納する収納部が,「前記小ソケットの外周面と前記大ソケットの内周面と前記スプリングの内側の阻止部であって,且つスプリングの外側の阻止部(8)とから形成された」のに対し,引用発明では,スプリング7の他端に当接する阻止部9が,小ソケットである本体ソケット1の他端に設けられ,スプリング7を収納する収納部が,本体ソケット1の外側の切欠きと第2のソケット2の内側の切欠きとスプリング7のストッパ10とスプリングの阻止部9とから形成される点。
(3)また,本件審決が相違点2についての判断に当たり引用発明に適用し得るとした引用例2記載の事項(以下,本件審決が用いた略語に準じ,「引用例2事項」という。)は,次のとおりである。
ソケットレンチ用ソケットにおいて,ソケット本体11の外周面には,筒状体12の内周面に対面し,かつばね部材14の他端側端部に当接する突起16が設けられ,ソケット本体11の外周面と筒状体12の内周面と筒状体12に設けられた突起17とソケット本体11に設けられた突起16とによりばね部材14の収納部が形成され,この収納部にばね部材14を収納すること。
4取消事由(1)相違点1についての判断の誤り(取消事由1)(2)相違点2についての判断の誤り(取消事由2)(3)本願発明の進歩性についての判断の誤り(取消事由3)ア本願発明の格別顕著な作用効果を看過した誤りイ本願発明の商業的成功に準ずる事実を看過した誤り第3当事者の主張1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決は,引用発明におけるストッパ10の形態,引用例2に記載された突起17の形態等を勘案すると,引用発明において相違点1に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たと判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
(1)引用例2記載の技術の引用発明への適用引用例2の記載及び図示(1頁(明細書の頁数である。以下同じ。)14行〜2頁13行,第2図〜第4図)によると,引用例2記載の技術は,フランジ付きのボルト・ナットを締め付けるのに好適なソケットレンチ用ソケットに係る技術分野に属するものであり,フランジ付きボルト・ナットが締付作業時に脱落しないソケットレンチ用ソケットを提供することを課題とし,ソケットに結合した筒状体のパイプを昇降可能にするとの作用・機能を有するものであり,同引用例記載の筒状体は,ボルト・ナットを締め付ける機能を持つソケットと全く関係のない部材(大ソケットではなく,ソケットの外部露出を防ぐための部材)である。
これに対し,引用例1の記載及び図示(【0001】,【0002】,【0006】〜【0008】,図1,図13)によると,引用発明は,2種類以上のソケットを一体化したボルト用多段式ソケットに係る技術分野に属するものであり,3種類以上のソケットを空回転しないようにして付加ソケットの瞬間変位を可能とするよう結合することを課題とし,結合した径の異なる多種類のソケットを昇降可能にし,各ソケットが径の異なる多種類のボルト・ナットを締め付けるとの作用・機能を有するものである。
このように,引用例2記載の技術と引用発明とは,その属する技術分野(なお,甲22の1〜15参照),課題及び作用・機能を異にするものであるから,相違点1に係る本願発明の構成を採用するに当たり,引用例2記載の技術を引用発明に適用することはできない。
(2)「スプリングの内側の阻止部」の形態ア引用発明の「ストッパ10」(スプリングの内側の阻止部。以下「内側阻止部」という。)は,大ソケット本体とは別の部材であって,幅が大ソケットの肉厚を超える丸型の薄い鉄板のようなものであり,スプリングの収納部(以下「収納部」という。)の内側後端部の壁に溶接等によって固定されるものである(引用例1の図24,図28,図54)。
したがって,引用発明は,内側阻止部につき,これを大ソケット本体と別に造成しなければならないこと,その幅が大ソケットの肉厚を超えるようにしなければならないことをそれぞれ示唆するものであるといえる。
なお,引用発明において,14?,17?,21?及び24?の4種類のソケットを多段式のものとする場合,14?のソケットと21?のソケットの各肉厚は,それぞれ1.5?しかないから,後記イのとおりの本願発明の突起部を形成することができない。
イこれに対し,本願発明においては,大ソケット自体の肉厚を減らして,そこに大ソケットの内周面と一体化された突起部を形成し,小ソケットを大ソケット内に挿入する際,小ソケットが同突起部を通過することができるようにしており,突起部の幅は,大ソケットの肉厚を超えるものではない(請求項1,本願図19,図33,図36〜図38)。そして,本願発明は,このような突起部の後端部を内側阻止部(阻止部(9))とする(相違点1に係る構成)とともに,突起部の先端部に内側段差(内側段差(11))を設けることにより,同一の部材(突起部)に内側段差の役割と内側阻止部の役割を兼ねさせるものである。
ウまた,引用例2記載の突起17は,筒状体の内周面にピンのような別体の物を固定しただけ(なお,後記(3)参照)の単なる内側阻止部の役割を果たすにすぎないものであって,本願発明の突起部とその構造を異にするものである(引用例2の第2図)。
エそうすると,引用発明において,内側段差の役割と内側阻止部の役割を兼ねる部材であり,大ソケットの肉厚を超えない幅を有する突起部を形成した上,同突起部の後端部を内側阻止部とするとの構成を採用することは,当業者にとって想到困難であったというべきである。
オ被告は,請求項1に,突起部と大ソケットとが一体のものであることについての記載がないなどと主張するが,当業者は,本願発明のボルト用多段式ソケットの製造において,大ソケットの内周面の中間部分に輪の形の物を溶接等により固定する(そのようなことは不可能である。)のではなく,まず大ソケット全体を冷間段造により形成した後,収納部に相当する部分を減らして突起部を形成するものであること,すなわち,突起部が大ソケットと一体のものであることを明確に認識することができるから,被告の主張は理由がない。
また,被告は,請求項1に,突起部が内側段差の役割と内側阻止部の役割を兼ねるものであることについての記載がないなどとも主張するが,「兼用」とは,「一つのものを,二つ以上の物事にかね用いること。」を意味し(平成20年1月11日発行の新村出編「広辞苑第六版」。甲30),これによると,請求項1の「前記突起部の後端側にはスプリングの内側の阻止部(9)が前記突起部の先端側には内側段差(11)が…設けられ」との記載は,1つの突起部が内側阻止部の役割と内側段差の役割を兼用することを明確にしたものといえるから,被告の主張は失当である。
(3)内側阻止部の造成方法引用発明は,最初に大ソケットの内周面と小ソケットの外周面との間に収納部を造成した上,その後,溶接等により内側阻止部を固定して造成するというものである(引用例1の図24,図54)。
また,引用例2記載の技術は,ソケット本体を筒状体内に挿入した後,内側阻止部(突起17)を造成するというものである。仮に,同技術において,内側阻止部が先に造成されるのであれば,ソケット本体を筒状体内に挿入する際,スプリングの外側の阻止部(以下「外側阻止部」という。突起16)が内側阻止部に引っかかってしまうことになる(引用例2の第2図)から,同技術は明確に実施不能なものというべきであって,同引用例は,本件における引用刊行物から除外されるべきである。
したがって,引用発明及び引用例2記載の技術は,内側段差の役割と内側阻止部の役割を兼ねる部材である突起部を形成し得ないことを示唆するものであるといえる。
そうすると,引用発明に引用例2記載の技術を適用しても,内側段差の役割と内側阻止部の役割を兼ねる部材である突起部を形成した上,同突起部の後端部を内側阻止部とするとの構成を採用することは,当業者にとって想到困難であったというべきである。
〔被告の主張〕(1)本件審決の判断の当否引用例1の図26,図27及び図29には,内側段差の部分から大ソケットの後端側の突出した部分(収納部となる切り欠きの端部)にストッパが設けられた様子が示されているところ,これによると,引用発明においては,大ソケットの内側段差よりも後端側で,かつ,収納部となる切り欠きが始まる部分までの間(突出した部分)の後端側にスプリングの内側阻止部であるストッパが設けられているということができる。
また,引用例2の第2図には,筒状体の内周に設けられた突起17の一方の端面がばねの端部の当接部となっている様子が示されているところ,引用例2記載の技術を引用発明に適用することは,後記(2)アのとおり,当業者が容易に想到し得たものである。
そうすると,引用発明において相違点1に係る本願発明の構成を採用することは,当業者が容易になし得たものであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(2)原告の主張に対する反論ア引用例2記載の技術の引用発明への適用について原告は,相違点1に係る本願発明の構成を採用するに当たり,引用例2記載の技術を引用発明に適用することはできないと主張するが,引用発明と引用例2記載の技術とは,ボルトをラチェットレンチ等で締め付けるためのソケットである点において共通し,また,両者は,直径が小さい本体ソケットの外側に本体ソケットよりも直径の大きい筒状体が配置され,かつ,本体ソケットと筒状体とが本体ソケットの外側と筒状体の内側との間に収納されたスプリングにより軸方向に相対的に変位可能である点においても共通するものであるから,原告の主張は理由がない。
イ内側阻止部の形態等について(ア)原告は,引用発明のストッパ(内側阻止部)が大ソケットと別の部材であり,その幅が大ソケットの肉厚を超えるものであるのに対し,本願発明の内側阻止部を構成する突起部は,大ソケット自体の肉厚を減らすことにより形成したものであって,両発明の各内側阻止部は,その形態を異にするなどと主張するが,請求項1には,大ソケットの肉厚を減らして形成した部分が突起部であり,突起部と大ソケットとが一体のものであることについての記載がないから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
なお,本願図22をみると,本願発明の内側阻止部は,大ソケットの内側に最も突出した部分であって,小ソケットの最外部より内側の部分にまで及んでいる点において,引用発明のストッパと同様のものである。
(イ)原告は,引用発明及び引用例2記載の技術が内側段差の役割と内側阻止部の役割を兼ねる部材である突起部を形成し得ないことを示唆するものであるのに対し,本願発明は,同一の部材(突起部)に2つの役割を兼ねさせるものであるなどと主張するが,請求項1には,内側阻止部が設けられる位置(突起部の後端側)についての記載があるのみであり,突起部が内側段差の役割と内側阻止部の役割を兼ねるものであることについての記載はないから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
なお,本願図23,図26等には,本願発明の実施例として,内側阻止部が内側段差と別に設けられているものが示されている。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決は,引用発明の外側阻止部及び収納部につき,引用例2事項を適用することにより,相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たと判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
(1)引用例2事項の引用発明への適用引用例2事項を含め,引用例2記載の技術を引用発明に適用することができないことは,取消事由1に係る主張(1)のとおりである。
(2)外側阻止部に係る構成引用発明の外側阻止部(阻止部9)が,スプリングをソケットの上部から下部に向けて挿入した上,スプリングが離脱しないように,最後にスプリングの後尾部に固定するものである(引用例1の図57,図58)のに対し,引用例2事項にいう突起16(外側阻止部)は,小ソケット(ソケット本体11)の外周面から突出した状態で最初から形成されているものであり,筒状体12に小ソケットを挿入することにより形成された収納部に,スプリングを小ソケットの下部から上部に向けて挿入した上,スプリングが離脱しないように,突起17(内側阻止部)を最後に固定するというものであるから,引用発明に引用例2事項を適用することはできない。
また,引用例2事項にいう突起16(外側阻止部)がソケットと一体化されたもの(引用例2の第2図)であるのに対し,本願発明の外側阻止部は,本体ソケットとは別に構成されたもの(本願図9,図41)であって,両者は,その構造を異にするものである。
この点に関し,被告は,止メ輪を用いれば,突起や阻止部を後から形成することが可能であると主張するが,引用例2事項にいう突起16を止メ輪を用いて形成することは,止メ輪が筒状体の内周面に設けられた内側段差の役割を果たす突起18を通過しなければならない(引用例2の第2図)ことに照らし,不可能であるから,被告の主張は理由がない。仮に,引用例2事項にいう突起16が本願発明の外側阻止部のように止メ輪であるならば,引用例2記載の技術は明確に実施不能なものというべきであって,同引用例は,本件における引用刊行物から除外されるべきである。
したがって,相違点2のうちの外側阻止部に係る本願発明の構成を採用することは,当業者にとって想到困難であったというべきである。
(3)収納部に係る構成引用発明の収納部(収納部8)が,小ソケット(本体ソケット1)の外周面と大ソケット(第2のソケット2)の内周面との間に,両ソケットの肉厚を超えない範囲で形成されている(引用例1の図9,図15)のに対し,引用例2事項にいう収納部は,小ソケットの外周面から突出した状態で,小ソケットや筒状体とは別の空間を成すものである(引用例2の第2図)から,引用発明に引用例2事項を適用することはできない。
また,本願発明の収納部は,ソケット本体の周面の一部を減らして形成したものであるから,引用例2事項にいう収納部とその構造を異にするものである。
したがって,相違点2のうちの収納部に係る本願発明の構成を採用することは,当業者にとって想到困難であったというべきである。
〔被告の主張〕(1)本件審決の判断の当否引用発明に引用例2事項を適用することが当業者において容易に想到し得たものであることは,取消事由1に係る主張(1)及び(2)アのとおりである。
そうすると,引用発明に引用例2事項を適用し,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは,当業者が容易になし得たものであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(2)原告の主張に対する反論原告は,引用発明及び引用例2事項にいう各外側阻止部の組立順序の相違を根拠に,引用発明に引用例2事項を適用することはできず,したがって,相違点2のうちの外側阻止部に係る本願発明の構成を採用することが当業者にとって想到困難であったと主張するが,本件審決が引用発明に適用したのは,引用例2事項として認定した構造自体であって,組立順序ではないから,原告の主張は理由がない。
また,請求項1には,外側阻止部の組立順序についての記載はないのであるから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,この点においても失当である。
なお,筒状の部材の内周や外周に形成された周溝にはめ込む止メ輪は,従来周知の事項(昭和53年11月1日発行の日本規格協会編「JIS用語辞典?機械編」(乙1)参照)であり,筒状の部材の内周面や外周面に突起やスプリングの阻止部を形成する場合,止メ輪を用いれば,突起等を後から形成することが可能であるから,引用例2事項を引用発明に適用するに際し,組立上の支障はない。
3取消事由3(本願発明の進歩性についての判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)本願発明の作用効果本件審決は,本願発明が奏する作用効果が格別顕著なものではないと判断したが,本願発明は,以下のとおりの格別顕著な作用効果を奏するものであるから,この判断は誤りである。
ア最外部に位置する収納部引用発明は,最外部に位置する収納部(以下「最外収納部」という。)として,ボルト挿入部の後部の小ソケットの外側円周面と大ソケットの内側円周面に,細くて長い切り欠きの溝を複数形成するものである(引用例1の図9,図48,図52,図53,図56,図59,図60)ところ,ボルト用ソケットは,一般に,特殊な冷間段造の技術を利用して製造されるので,最初の段階で切り欠きの部分を造成することができず,製造原価が上昇するとともに,最外収納部が,隣り合うソケットの厚さ(ソケットの強度を確保するために必要な厚さ)の大部分を占めてしまうため,ソケットの強度が低下することとなる。
これに対し,本願発明は,最外収納部を,大ソケットのボルト挿入部の内側の後端部に設けた突起部を境界にして,同突起部の後部の円周面全体に形成するものである(本願図19,図44)ため,最外収納部の構造が単純化され,製造原価が低下するとともに,最外収納部に面した大ソケットの厚さが大ソケットの基本的な厚さとほぼ同じに形成されるため,強度の確保を十分に図ることができるものである。
イ中間部に位置する収納部引用発明は,ソケットの外周面と内周面に,細くて長い複数のスプリング(内周面に2つ,外周面に2つ)を軸方向に収納するように,中間部に位置する収納部(以下「中間収納部」という。)を形成するものである(引用例1の図8,図21,図24,図25)ため,前記(1)と同様,製造原価が上昇するとともに,中間収納部の厚さとして,最低,スプリングの直径を超える程度の厚さが必要とされ,そのような厚さを確保しながら3種類以上のソケットを一体化すると,中間ソケットの厚さが必要以上に厚くなり,隣り合うソケットの径が大きくなるため,径の異なる3種類以上のソケットを一体化するとの目的を達成することができない。
これに対し,本願発明の中間収納部の厚さは,スプリングの線径を超える程度であれば十分である(本願図13,図16,図22)ため,ソケットの強度を確保しつつ,構造を単純化して製造原価を低下させることができるものである。
ウ最内部に位置する収納部引用発明は,本体ソケットの外周面と第2のソケットの内周面に,最内部に位置する収納部(以下「最内収納部」という。)を形成するものであり,第2のソケットには,最低,内周面に2つ及び外周面に2つの収納部が形成され,特に,本体ソケットに形成される最内収納部は,最も強度を必要とする装着部に軸方向に切り欠きを設けることにより,ソケットの強度を低下させるものである(引用例1の図9,図41,図44,図45,図48,図51,図52)。したがって,上記アと同様,引用発明の最内収納部は,その構造が複雑になって製造原価を上昇させるとともに,ソケットの強度を低下させることとなる。
これに対し,本願発明は,最内収納部を第2のソケットの内周面全体に設けるものである(本願図38,図44)ため,その構造を単純化して製造原価を低下させるとともに,ソケットの強度を確保することができるものである。
エ内側阻止部引用発明は,収納部の内側の壁に半円形の突出部(ストッパ10)を設け,これが内側阻止部の役割を果たすものである(引用例1の図22,図24,図30,図31,図53,図56)ところ,そのような突出部を設けるのは困難であり,製造原価を上昇させるとともに,同突出部(内側阻止部)は,収納部の壁と底面にぎりぎりに設けられるため,ボルトの締結・解体の際に,回転力による反動によって外れてしまうなどの構造的欠陥を有するものである。
これに対し,本願発明は,ボルト挿入部の内側の後端部に設けられた突起部を基準にして,同突起部の後端部を内側阻止部とし,同突起部が内側段差の役割と内側阻止部の役割を兼ねるようにしたものである(本願図19,図29,図41)ため,内側阻止部を形成することが極めて容易になり,製造原価を大幅に低下させることができるとともに,内側阻止部が本体ソケットと完全に一体化されるため,ボルトの締結・解体の際に,回転力による反動・振動の影響を全く受けないものである。
オ外側阻止部引用発明の外側阻止部は,長くて細いピンのような形態の部材を溶接等により固定するものである(引用例1の図35,図46,図57)ため,これを部分的にソケットに固定するのは,極めて困難であり,製造原価を上昇させるものであるとともに,ボルトの締結・解体の際に,回転力による反動によって外れてしまうなどの構造的欠陥を有するものである。
これに対し,本願発明の外側阻止部は,弾性を有する輪のような形態の部材であり,小ソケットの外周面には,外側阻止部と一致させるように横方向に溝(凹部分(26))が形成されている(本願図9,図37,図41,図44)ため,外側阻止部の結合が容易になるとともに,ボルトの締結・解体の際に,回転力による反動・振動の影響を全く受けないものである。
カ被告の主張に対する反論(ア)被告は,最外収納部,中間収納部及び最内収納部に係る本願発明の作用効果が引用例2に記載された事項から予測可能であると主張するが,同引用例に記載された収納部及び突起17の構造と本願発明の収納部及び突起部の構造との各相違に照らすと,そのようにいうことはできない。
(イ)被告は,請求項1に,突起部が大ソケットと一体のものであることについての記載がないと主張するが,これに対する反論は,取消事由1に係る主張(2)オのとおりである。
(ウ)被告は,請求項1に,外側阻止部が弾性を有する輪のような形態の部材であることについての記載がないなどとも主張するが,本願明細書の【0008】の記載並びに本願図9及び図44を参酌すると,本願発明の外側阻止部は,輪の形態の部材から成るものと明確に解釈することができる。
(2)本願発明の商業的成功に準ずる事実本願発明については,以下のとおりの商業的成功に準ずる事実があるにもかかわらず,本件審決は,これを参酌することができないとして本願発明の進歩性を否定したものであるから,この判断は誤りである。
ア当業者が引用発明に基づき本願発明に至ることができなかったこと原告は,多数にわたるソケット製造会社等に対して引用発明を紹介し,また,同発明は,専門紙等に掲載されるなどして全国に紹介されたが,数か月たっても,同発明に基づいて本願発明に至ることができた者は,皆無であった。
イ本願発明に係るライセンス契約の締結等本願発明については,原告とソケット製造会社等2社との間で,ライセンス契約を現に締結し,又は締結する段階に至っているところ,これらの成果は,本願発明の特徴のみに基づくものである。
〔被告の主張〕(1)本願発明の作用効果ア本件審決の判断の当否原告が主張する本願発明の作用効果のうち,最外収納部,中間収納部及び最内収納部に係る製造原価の低下及びソケットの強度の確保の点は,引用例2に記載された事項から予測可能なものであるし,内側阻止部及び外側阻止部に係る形成・結合の容易化及び回転力による影響の回避の点は,引用発明から予測可能なものであるから,これらを理由に,本願発明の作用効果が格別顕著なものとはいえないとした本件審決の判断に誤りはない。
イ原告のその余の主張に対する反論原告は,本願発明の内側阻止部に関し,本体ソケットと内側阻止部とが完全に一体化されることを根拠として,また,外側阻止部に関し,弾性を有する輪のような形態の部材であり,小ソケットの外周面に外側阻止部と一致させるように溝が形成されていることを根拠として,本願発明が格別顕著な作用効果を奏すると主張するが,請求項1には,内側阻止部を構成する突起部が大ソケットと一体のものであることについての記載はないし,また,外側阻止部が弾性を有する輪のような形態の部材であることや,小ソケットの外周面に溝が形成されていることについての記載もないのであるから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
(2)本願発明の商業的成功に準ずる事実ライセンス契約の締結等は,本願発明が進歩性を有することに直ちに結び付くものではないし,ソケット製造会社等が本願発明に至ることができなかったのは,引用発明をそのまま実施しようとしたからにすぎない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について(1)本願発明の突起部及び内側阻止部の形状,構造,機能等ア請求項1の記載請求項1には,本願発明の突起部及び内側阻止部(阻止部(9))に関し,?大ソケット(隣り合うソケットのうちの大きい方)のボルト挿入部の内側の後端部に突起部が設けられること,?突起部の後端側に内側阻止部が設けられること,?突起部の先端側に内側段差が設けられること,?内側阻止部が,小ソケット(隣り合うソケットのうちの小さい方)の外周面,大ソケットの内周面及び外側阻止部と共に収納部を形成することについての記載がみられるのみであり,これ以上に,突起部及び内側阻止部の形状,構造,機能等を特定する記載はない。
発明の詳細な説明の記載等本願明細書の発明の詳細な説明及びこれが引用する本願図面には,次の記載及び図示がある。
(ア)発明の詳細な説明a【0007】…図1〜図29までは5種類のソケットを一体化した場合の実施例,図30〜図34までは4種類のソケットを一体化した場合の実施例,図35〜図40までは3種類のソケットを一体化した場合の実施例,図41〜図43までは2種類のソケットを一体化した場合の実施例である。
【0008】…図7〜図8は本体ソケットを示す図面で,…下方向になる左側部の外側にはソケットとソケットの間の一定間隔を維持する為の外側段差10が形成されて…いる。…図10〜図12までは2番目のソケットを示す図面で,左側部には外側段差10が,その段差10のすぐ横には本体のソケットの外側の円周6に入れたスプリングを作動する為の阻止部9を固定する為の穴23が…形成されている。
又ソケットの左側部に形成されている穴23の内側の左側端には内側段差11が設けている。図13〜図15までは3番目のソケットを示す図面で,ソケットの左側部の外側に段差10が…形成されている。又,ソケットの内側の左側部には段差11,外側段差10のすぐ横にはスプリングの内側の阻止部9が形成されている。図16〜図18までは4番目のソケットを示す図面でその構造は2番目のソケットと同一である。図19〜図21までは5番目の補助ソケットを示す図面なので,内側には段差11とスプリングの阻止部9が形成されている。図22は本体ソケットと2番目の補助ソケットの間に形成したスプリングの収納部を拡大した図面で2番目の補助ソケットの中に入れた本体ソケットが,補助ソケットの内側段差11によって結合されて,また2番目のソケットに設けた穴23にねじ等で固定した内側のスプリング阻止部9,外側のスプリング阻止部8によってスプリングが収納され,そのスプリングの弾性力によって両ソケットが一定間隔を維持されるようになっている。…図24,図25は2番目のソケットと3番目のソケットの間に形成したスプリングの収納部を拡大した図面で3番目のソケットの内側円周と外側円周にスプリングの収納部6を形成して4番目のソケットのスプリング収納部を造成する為の構造でソケットの内側に設けたスプリングの収納部は内部の左側端の壁9がスプリング阻止部の役割をするので,図22のように別にスプリングの阻止部9を形成する必要はないのである。図26は本体ソケットに2番目のソケットを結合することを示す図面で,…(2)は穴23に阻止部9をねじ締めなどで固定する。…図28は結合された3種類のソケットに4番目のソケットを結合する図面で,…(2)は穴23にスプリングの阻止部9をねじ締めなどで固定する。…【0009】…図30〜図32までは3番目のソケットを示す図面でソケットの左側部の外側に段差10が…形成されている。又,ソケットの内側の左側部には段差11,段差11の反対側の壁にはスプリングの内側の阻止部9が形成されている。
…【0010】…図35は本体のソケットの正面図で外側の左側部には外側段差10が…形成されている。…bなお,発明の詳細な説明には,突起部について直接言及した記載はみられない。
(イ)本願図面a本願図19,図24,図43等には,大ソケットを正面内部視又は縦断面視した場合,同ソケットの内周面を表す直線状の線が,?下部(ボルト挿入部入口側)から上部に向けて鉛直方向に形成され,?ボルト挿入部の後端部において,水平方向に折れ曲がってわずかながら小ソケット側に向かい,続いて,鉛直方向に折れ曲がって若干上部に向かい,更に続いて,水平方向に折れ曲がって?の内周面を表す線よりも外周面側に達するように形成され,?その上の部分からは,鉛直方向に折れ曲がって上部に向かうように形成されている様子が示されている。そして,?の3つの線によって,大ソケットの内周面から小ソケット側に突出するような部分が形成される様子が示され,これらの図面においては,当該部分の下端部の水平方向の線が内側段差と指称され,上端部の水平方向の線が内側阻止部と指称されている。
他方,本願図23,図26等には,大ソケットを縦断面視した場合,同ソケットの内周面を表す直線状の線が,○下部(ボルト挿入部入口側)から上部に向けて鉛A直方向に形成され,○ボルト挿入部の後端部において,水平方向に折れ曲がってわBずかながら小ソケット側に向かい,続いて,鉛直方向に折れ曲がってそのまま上部に向かうように形成されるとともに,その上部に向かう線が,ボルト挿入部の後端部から若干上部に存在する穴のために,その部分において連続していない様子が示され,また,○その穴に大ソケットの内周面から小ソケット側に突出するような別Cの部材がはめ込まれている様子が示されており,これらの図面においては,○の水B平方向の線が内側段差と指称され,○の部材が内側阻止部と指称されている。
Cまた,本願図28,図33,図34等には,上記2つの態様の内周面等を有する大ソケットが併用される様子が示されている。
b本願図22,図24,図39等には,小ソケットの外周面に設けられた外側段差と大ソケットの内周面に設けられた内側段差とが係合し,両ソケットの相対的な位置関係として,小ソケットが所定の位置よりも上部に移動することができない様子が示されている。
cなお,本願図面には,突起部がどの部分を指すのかについての図示はない。
(ウ)上記のとおり,発明の詳細な説明には,突起部について直接言及した記載はみられず,本願図面にも,突起部がどの部分を指すのかについての図示はないところ,請求項1の記載(前記ア)によると,突起部は,大ソケットのボルト挿入部の内側の後端部に設けられ,突起部の後端側及び先端側にそれぞれ内側阻止部及び内側段差が設けられるというのであるから,発明の詳細な説明及び本願図面においても,大ソケットの内側(内周面側)のボルト挿入部の後端部に設けられ,かつ,内側阻止部と内側段差との間にある部分が突起部を指すものということができる。
そして,上記の発明の詳細な説明及び本願図面の記載及び図示によると,突起部は,ボルト挿入部の後端部において大ソケットの内周面から小ソケット側に突出した部分であり,その下端部は,大ソケットに対する小ソケットの相対位置の上限を画するため,同ソケットの外側段差と係合する内側段差として機能するものであるが,突起部の上端部については,そのまま内側阻止部として機能するものもあれば,そうでないもの(その場合には,突起部の上部付近に設けられた別の部材が内側阻止部として機能する。)もあるということができる。
同様に,内側阻止部については,突起部の上端部そのものを意味する場合もあれば,突起部の上部付近に設けられた別の部材を意味する場合もあるということになる。
ウそうすると,本願発明の突起部及び内側阻止部については,請求項1の記載からは,前記アの?ないし?以上の内容を有するものと解することはできず,仮に,本願明細書の発明の詳細な説明及びこれが引用する本願図面の記載及び図示を参酌したとしても,突起部の下端部が小ソケットの外側段差と係合する内側段差として機能するものであると解されるにとどまり,突起部の上端部自体が常に内側阻止部として機能するものと解することはできないというべきである。
(2)引用発明の突出した部分及び内側阻止部(ストッパ10)の形状,構造,機能等ア引用例1の記載及び図示引用例1には,次の記載及び図示がある。
(ア)【0008】本発明は,…具体的には小ソケットの外側に段差11を,大ソケットの内側に段差12を形成して大ソケットの中に後尾から入れた小ソケットが順番に一定間隔を維持出来るようにすること,ソケットの外側と内側にスプリングの収納部を形成して,収納部の内側にはスプリングが外されないようにスプリングのストッパ10を…溶接などで固定することで一体化した多段ソケット…である。
…【0011】まず,本体ソケット…の外側には,次の中間ソケットの中に本体ソケットを入れた時,中間ソケットの内側に形成した段差12に引っかかって,本体ソケットと中間ソケットが一定間隔を維持させる為の段差11…を,中間ソケット…には小ソケットと大ソケットの間に一定間隔を維持させる為の段差11を外側に…形成,またスプリングのストッパ10を収納部の内側に形成することである。一体化したソケットの中で,一番大きいソケット…には…内側に一体化したソケットが一定間隔を維持する為の段差12を,…スプリングのストッパ10を形成して,本体ソケットを2番目のソケットの中に入れる順で組立する…。
【0013】…最後のソケットには内側の段差12,…スプリングのストッパ10…を形成して…順に入れて最後に…阻止部を固定して完成するのである。…(イ)引用例1の図14,図27,図56等には,大ソケット(隣り合うソケットのうちの大きい方である第2のソケット)を縦断面視した場合,同ソケットの内周面を表す直線状の線が,?下部(ボルト挿入部入口側)から上部に向けて鉛直方向に形成され,?ボルト挿入部の後端部において,水平方向に折れ曲がってわずかながら小ソケット(隣り合うソケットのうちの小さい方である本体ソケット)側に向かい,続いて,鉛直方向に折れ曲がってしばらく上部に向かい,更に続いて,水平方向に折れ曲がって?の内周面を表す線よりも外周面側に達するように形成され,?その上の部分からは,鉛直方向に折れ曲がって上部に向かうように形成されている様子が示されている。そして,?の3つの線によって,大ソケットの内周面から小ソケット側に突出するような部分が形成される様子が示され,これらの図面においては,当該部分の下端部の水平方向の線が内側段差と指称されている。また,?これらの図面には,?の3つの線によって形成される部分の上部面又は上部側面に別の部材であるストッパが当接して設けられ,ストッパが大ソケットの内周面から小ソケット側に突出する様子が示されている。
(ウ)引用例1の図14,図40等には,小ソケットの外周面に設けられた外側段差と大ソケットの内周面に設けられた内側段差とが係合し,両ソケットの相対的な位置関係として,小ソケットが所定の位置よりも上部に移動することができない様子が示されている。
(エ)なお,引用例1には,上記(イ)?の突出するような部分の長さ(高さ)や,その決定に影響を与える要因等についての記載はみられない。
イ本件審決は,引用発明について,前記第2の3(2)アのとおり,「…該ボルト挿入部に対応する第2のソケット2の内側壁の後端部には突出した部分が設けられ,該突出した部分の先端側には内側段差12が設けられ,該内側段差12よりも他端側には…ストッパ10が設けられ…」と認定したもの(なお,原告も,引用発明に係る本件審決の認定を特に争うものではない。)であるところ,その内容に照らし,前記ア(イ)の?の3つの線によって形成され,大ソケットの内周面から小ソケット側に突出するような部分が引用発明にいう突出した部分であると認められる。
そして,上記の引用例1の記載及び図示によると,引用発明の突出した部分は,ボルト挿入部の後端部において大ソケットの内周面から小ソケット側に突出した部分であり,その下端部は,大ソケットに対する小ソケットの相対位置の上限を画するため,同ソケットの外側段差と係合する内側段差として機能するものであるが,突出した部分の上端部は,そのままでは内側阻止部として機能するものではなく,また,引用発明の内側阻止部は,突出した部分の上部面又は上部側面に当接して設けられた別の部材であるストッパを指すものということができる。
(3)本件審決の判断の当否ア相違点1のうち突起部に係る部分について(ア)前記(1)及び(2)において認定説示したとおり,本願発明の突起部自体は,請求項1の記載によると,大ソケットのボルト挿入部の後端部に設けられたものであり,また,仮に,本願明細書の発明の詳細な説明及びこれが引用する本願図面を参酌したとしても,本願発明の突起部自体は,以上に加え,大ソケットの内周面から小ソケット側に突出した部分であり,その下端部が小ソケットの外側段差と係合する内側段差として機能するものであると解されるにすぎないのに対し,引用発明の突出した部分自体についても,大ソケットのボルト挿入部の後端部に設けられ,大ソケットの内周面から小ソケット側に突出したものであり,その下端部が小ソケットの外側段差と係合する内側段差として機能するものであるから,結局,両者は,それ自体の発明の構成としては,実質的に相違するものではないというべきである。
(イ)もっとも,前掲の本願図面に示された突起部と引用例1の図面に示された突出した部分とを比較すると,引用発明の突出した部分の方が本願発明の突起部よりも長さ(高さ)が大きいように見受けられ,本件審決も,この点を両発明の相違点として認定したものと解される。
しかしながら,前記(2)ア(エ)のとおり,引用例1には,引用発明の突出した部分の長さや,その決定に影響を与える要因等についての記載はみられないというのであるから,引用発明の突出した部分の長さを短くして本願発明の突起部のように形成することは,多段式ソケット全体の大きさ,ボルト挿入部の長さ(高さ),収納部の長さ(高さ)等を勘案し,当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないというべきである。したがって,本願発明の突起部と引用発明の突出した部分とが発明の構成として実質的に相違するものであったとしても,引用発明の突出した部分に代えてこれを本願発明の突起部とすることは,本件優先日当時の当業者が引用発明に基づき容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
イ相違点1のうち内側阻止部の設置位置に係る部分について(ア)前記(1)及び(2)において認定説示したとおり,本願発明の内側阻止部(スプリングの内側の阻止部)の設置位置については,請求項1の記載によると,突起部の後端側であり,また,仮に,本願明細書の発明の詳細な説明及びこれが引用する本願図面を参酌したとしても,突起部の上端部自体が常に内側阻止部であると解することはできず,突起部の上部付近に設けられた別の部材が内側阻止部である場合もあるというのに対し,引用発明の内側阻止部(ストッパ10)の設置位置については,突出した部分の先端側に設けられた内側段差からみて他端側であり,具体的には,突出した部分の上部面又は上部側面に当接して設けられるというのであるから,本件審決が認定した相違点1のうち内側阻止部の設置位置に係る部分(本願発明につき「突起部の後端側」,引用発明につき「内側段差よりも他端側」)は,実質的には,両発明の相違点ではないというべきである。
(イ)仮に,本件審決が認定した引用発明の文言に拘泥し,内側阻止部の設置位置に係る本願発明の「突起部の後端側」と引用発明の「内側段差よりも他端側」とが相違するとしても,前記(2)のとおり,引用発明のストッパを突出した部分の上部面又は上部側面に当接させて形成することについては,引用例1に明示の開示があるのであるから,内側阻止部の設置位置につき,引用発明の「内側段差よりも他端側」に代えて,これを本願発明の「突起部の後端側」とすることは,本件優先日当時の当業者が引用発明に基づき容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
ウ以上のとおりであるから,相違点1に係る本願発明の構成を採用することが本件優先日当時の当業者において容易になし得たものとした本件審決の判断は,少なくとも結論において相当というべきである。
(4)原告の主張の当否ア原告の主張のうち,引用例2記載の技術を引用発明に適用することができないことなどを理由とするものは,前記(3)において説示したところに照らし,いずれも,相違点1についての本件審決の判断が相当であるとの前記結論を左右するものではない。
イ原告の主張のうち,本願発明の突起部がそれ自体として内側阻止部の役割を果たすことを前提とするものは,前記(1)において認定説示したところに照らし,その前提を欠くものとして,失当である。
ウ原告は,本願発明の大ソケットと突起部とが一体化されたものであると主張し,これは,同発明の大ソケットと突起部とが一体成形されたものであるとの趣旨の主張であると解されるところ,前記(1)のとおり,請求項1には,同発明の大ソケットと突起部とが一体成形されたものであるとの記載はなく,本願明細書の発明の詳細な説明にも,突起部についての直接の言及はみられないのであるから,原告の主張を採用することはできないというべきである。
この点に関し,原告は,当業者であれば,本願発明の大ソケットと突起部とが一体成形されたものであると明確に認識すると主張するが,前記(1)及び(2)において認定したとおり,突起部そのものではないにしても,引用発明においては,大ソケットとは別の部材であるストッパが溶接等により同ソケットの内周面に固定されているのであるし,本願発明においても,大ソケットに穴を設けた上,同ソケットとは別の部材である内側阻止部を穴を通してねじ等により同ソケットに固定する場合があるというのであるから,本件優先日当時の当業者において,本願発明の大ソケットと突起部とが一体成形されたものであると明確に認識するとまでいうことはできない。
エ原告は,本願発明の突起部が大ソケットの肉厚を減らして形成したものであると主張するが,前記(2)において認定したところによると,引用例1には,引用発明の突出した部分も大ソケットの肉厚を薄くすることにより形成したとの開示があるものと認められるから,原告の主張は,相違点1に係る本願発明の構成の想到困難性を根拠付けるものとはいえない。
オ原告は,本願発明の突起部の幅が大ソケットの肉厚を超えるものではないと主張するが,請求項1には,そのことについての記載はないし,また,引用例1の記載及び図示をみても,引用発明の突出した部分の幅が大ソケット(突出した部分より上部にある部分を含む。)の肉厚を超えるとまでいうことはできない(引用例1の図39等)から,原告の主張は,相違点1に係る本願発明の構成の想到困難性を根拠付けるものではない。
(5)小括したがって,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について(1)相違点2のうち外側阻止部の設置位置等に係る部分の容易想到性ア相違点2の内容本件審決が認定した相違点2のうち外側阻止部の設置位置等に係る部分は,前記第2の3(2)ウ(イ)のとおり,本願発明の外側阻止部(阻止部(8))が,小ソケットの後部の外周面に,大ソケットの内周面に対面して設けられるのに対し,引用発明の外側阻止部(阻止部9)は,小ソケットの他端に設けられるというものである。
そして,本件審決が認定した引用発明(前記第2の3(2)ア)によると,引用発明の外側阻止部は,スプリングの両端のうち内側阻止部(ストッパ10)と当接する側と反対の側の端部に当接するように設けられるのであるから,結局,引用発明の外側阻止部が設けられる「小ソケットの他端」とは,小ソケットの後部の他端(ボルト挿入部と反対の側)をいうものと認められる。
イ引用例1の図示引用例1の図40等には,外側阻止部が,小ソケットの後部の他端の外周面に,大ソケットの内周面に対面して設けられている様子が示されている。
容易想到性以上によると,相違点2のうち外側阻止部の設置位置等に係る本願発明の構成は,引用例1にも開示されているということができるから,外側阻止部の設置位置等につき,引用発明の「小ソケットの他端」に設けることに代えて,これを本願発明の「小ソケットの後部の外周面に…大ソケットの内周面に対面」して設けるようにすることは,本件優先日当時の当業者が引用発明に基づき容易に想到し得たものと認められる。
(2)相違点2のうち収納部を形成する部材に係る部分の容易想到性等ア本願発明の収納部を形成する部材(ア)請求項1の記載請求項1には,本願発明の収納部を形成する部材として,小ソケットの外周面,大ソケットの内周面,内側阻止部及び外側阻止部が記載されるのみであり,収納部を形成する小ソケットの外周面及び大ソケットの内周面につき,その部分のソケットの肉厚が他の部分の肉厚を下回らないものに限定される趣旨の記載はない。
(イ)発明の詳細な説明の記載等本願明細書の発明の詳細な説明及びこれが引用する本願図面には,次の記載及び図示がある。
a発明の詳細な説明【0007】…図1〜図29までは5種類のソケットを一体化した場合の実施例,図30〜図34までは4種類のソケットを一体化した場合の実施例,図35〜図40までは3種類のソケットを一体化した場合の実施例,図41〜図43までは2種類のソケットを一体化した場合の実施例である。
【0008】…図7〜図8は本体ソケットを示す図面で,…そのソケットの外側の円周の中央部にはスプリングの収納部6が形成されている。…図13〜図15までは3番目のソケットを示す図面で,…ソケットの中央部の内側と外側の円周にスプリングの収納部6が形成されている。…図22は本体ソケットと2番目の補助ソケットの間に形成したスプリングの収納部を拡大した図面で…2番目のソケットに…固定した内側のスプリング阻止部9,外側のスプリング阻止部8によってスプリングが収納され…る。…図24,図25は2番目のソケットと3番目のソケットの間に形成したスプリングの収納部を拡大した図面で3番目のソケットの内側円周と外側円周にスプリングの収納部6を形成して4番目のソケットのスプリング収納部を造成する為の構造で…ある。…【0009】…図30〜図32までは3番目のソケットを示す図面で…ソケットの中央部の内側の円周にスプリングの収納部6が形成されている。…b本願図面本願図1等には,収納部が,小ソケットの下部の外周面よりも内周面側に後退した同ソケットの外周面(以下「小ソケットの後退外周面」という。)と,外周面側への後退がみられない大ソケットの内周面(以下「大ソケットの通常内周面」といい,そのような後退がみられる同ソケットの内周面を「大ソケットの後退内周面」という。)とに挟まれている様子が,図26等には,小ソケットの後退外周面が形成される様子がそれぞれ示されている。
他方,本願図42等には,収納部が小ソケットの後退外周面と大ソケットの後退内周面とに挟まれている様子が,図33等には,大ソケットの後退内周面が形成される様子がそれぞれ示されている。
さらに,本願図28等には,小ソケットの後退外周面と大ソケットの通常内周面とに挟まれた収納部及び小ソケットの後退外周面と大ソケットの後退内周面とに挟まれた収納部が併用される様子が,図24等には,小ソケットと大ソケットを兼ねるソケット(中間のソケット)につき,小ソケットの後退外周面と大ソケットの後退内周面とが形成される様子がそれぞれ示されている。
c上記の発明の詳細な説明及び本願図面の記載及び図示によると,本願発明の収納部は,小ソケットの後退外周面と大ソケットの通常内周面とにより形成される場合もあるが,小ソケットの後退外周面と大ソケットの後退内周面とにより形成される場合もあり,また,両者が併用されることもあるということができる。
(ウ)そうすると,本願発明の収納部を形成する小ソケットの外周面及び大ソケットの内周面については,請求項1の記載からは,その部分のソケットの肉厚が他の部分の肉厚を下回らないものに限定されると解することはできず,仮に,本願明細書の発明の詳細な説明及びこれが引用する本願図面の記載及び図示を参酌したとしても,そのように限定して解釈することはできないというべきである。
イ実質的な相違の有無本件審決が認定した相違点2のうち収納部を形成する部材に係る部分は,前記第2の3(2)ウ(イ)のとおり,収納部を形成する部材が,本願発明は小ソケットの外周面,大ソケットの内周面,内側阻止部及び外側阻止部であるのに対し,引用発明は小ソケット(本体ソケット)の外側の切り欠き,大ソケット(第2のソケット)の内側の切り欠き,内側阻止部及び外側阻止部であるという点である。
そして,引用発明の収納部を形成する小ソケットの外側の切り欠きが小ソケットの外周面に,大ソケットの内側の切り欠きが大ソケットの内周面にそれぞれ該当することは明らかであるところ,前記アのとおり,本願発明の収納部を形成する小ソケットの外周面及び大ソケットの内周面につき,その部分の肉厚が他の部分の肉厚を下回らないもの,すなわち,切り欠きのないものに限定して解釈することはできないのであるから,結局,両発明の各収納部を形成する部材は,発明の構成としては,実質的に相違するものではないというべきである。
容易想到性もっとも,前掲の本願図面に示された収納部を形成する小ソケットの外周面及び大ソケットの内周面のその部分における肉厚と引用例1の図14等に示されたそれらの部分における肉厚とを比較すると,引用発明に係る当該肉厚の方が小さいように見受けられ,本件審決も,この点を両発明の相違点として認定したものと解される。
しかしながら,両者の相違は,程度の問題であって,隣り合うソケットの大きさの違い,収納するスプリングの大きさ,ソケットの強度等を勘案し,当業者が適宜選択することのできる設計的事項にすぎないというべきである。したがって,本願発明の収納部を構成する小ソケットの外周面及び大ソケットの内周面と引用発明の収納部を構成する小ソケットの外側の切り欠き及び大ソケットの内側の切り欠きとが発明の構成として実質的に相違するものであったとしても,引用発明の小ソケットの外側の切り欠き及び大ソケットの内側の切り欠きに代えて,これを本願発明の小ソケットの外周面及び大ソケットの内周面とすることは,本件優先日当時の当業者が引用発明に基づき容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(3)本件審決の判断の当否前記(1)及び(2)のとおりであるから,相違点2に係る本願発明の構成を採用することが本件優先日当時の当業者において容易になし得たものとした本件審決の判断は,少なくとも結論において相当というべきである。
(4)原告の主張の当否原告の各主張は,引用例2事項を引用発明に適用することができないことや,引用例2事項にいう外側阻止部(突起16)や収納部の構造等を理由とするものであるところ,上記説示したところに照らすと,いずれも,相違点2についての本件審決の判断が相当であるとの上記結論を左右するものではない。
(5)小括したがって,取消事由2も理由がない。
3取消事由3(本願発明の進歩性についての判断の誤り)について(1)本願発明の作用効果原告は,引用発明に対比して,本願発明に格別顕著な作用効果があるとして,相違点1及び2に係る本願発明の構成が仮に引用発明から容易想到であったとしても,本願発明にはなお進歩性が認められるべきであると主張するが,その主張の当否はさておき,原告の主張する本願発明の作用効果について検討すると,以下のとおりである。
ア最外収納部,中間収納部及び最内収納部に係る作用効果原告は,最外収納部,中間収納部及び最内収納部に関し,引用発明が,小ソケットの外周面と大ソケットの内周面に細くて長い切り欠きの溝を複数形成するものであるのに対し,本願発明は,大ソケットの内周面全体に収納部を設けるもの(大ソケットの内周面に引用発明のような切り欠きを形成しないもの)であることを根拠として,本願発明のソケットは,引用発明のそれと比較して,その構造が単純になり,製造原価が低下するとともに,ソケットの強度を確保することができると主張するものであるが,請求項1に記載された収納部を形成する大ソケットの内周面が切り欠きを設けないものであると解釈することができないことは,前記2(2)アにおいて説示したとおりであるから,原告が主張する上記の作用効果は,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,したがって,本願発明に特有のものではないというべきである。
なお,原告は,中間収納部に関し,引用発明の収納部の厚さがスプリングの直径を超える程度以上のものである必要があるのに対し,本願発明の収納部の厚さはスプリングの線径を超える程度で十分であるとも主張するが,請求項1には,スプリングをどのような向きで収納部に挿入するかについての記載は一切みられないのであるから,原告のこの主張も,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,失当である。
イ内側阻止部に係る作用効果原告は,内側阻止部に関し,本願発明の突起部が内側段差の役割と内側阻止部の役割を兼ねることを理由として,内側阻止部の形成に係る製造原価が低下するとともに,ボルトの回転力による反動等の影響を受けないと主張するものであるが,請求項1に記載された突起部の後端部(上端部)が常に内側阻止部として機能するものと解釈することができないことは,前記1(1)において説示したとおりであるから,原告が主張する上記の作用効果も,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,したがって,本願発明に特有のものではないというべきである。
ウ外側阻止部に係る作用効果(ア)原告は,外側阻止部に関し,その部材の形態(弾性を有する輪のようなもの)や小ソケットの外周面に形成された溝の存在を理由として,外側阻止部の結合が容易化されるとともに,ボルトの回転力による反動等の影響を受けないと主張するものであるが,前記第2の2のとおり,請求項1には,外側阻止部を成す部材の形態や,外側阻止部を固定するため小ソケットの外周面に溝が形成されることについての記載がないのであるから,原告が主張する上記の作用効果も,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,したがって,本願発明に特有のものではないというべきである。
(イ)この点に関し,原告は,本願明細書の【0008】並びに本願図9及び図44を参酌すると,本願発明の外側阻止部が輪の形態の部材から成るものと解釈することができると主張する。
a確かに,本願明細書の発明の詳細な説明(【0008】,【0011】)並びにこれが引用する本願図9及び図44には,次の記載及び図示がある。
(a)【0008】…各ソケットの細部構成を説明すると,…本体ソケット…右側部にはスプリングの阻止部である8を固定する為の段差22が形成されて…いる。
図9はスプリングの外側の阻止部で,ボルト挿入部の反対側から入れて段差22に引っかかるようにして固定させる物で輪の形態である。…【0011】図44はスプリングの外側の阻止部8を固定する為のもう1つの方法を説明する為の図面で,補助ソケットの右側端のすぐ横の下部のソケットの円周に凹部分26を形成して,そこに鉄線の輪25を入れることで鉄線の輪25がスプリングの外側の阻止部8の役割になることを示す図面である。
(b)本願図9には,外側阻止部が輪のような形状の部材から成る様子が,図44には,鉄線の輪が小ソケットの外周面に形成された凹部にはめられている様子がそれぞれ示されている。
b他方,引用例1には,次の記載及び図示がある。
(a)【0013】…2番ソケットに本体ソケットを入れて,…スプリングの収納部にスプリングを入れ,入口には図30に示した阻止部9を溶接などで固定するのである。…(b)図30には,外側阻止部が輪のような形状の部材と一体化された様子が示されている。
c以上によると,仮に,本願明細書の発明の詳細な説明及びこれが引用する本願図面の記載及び図示を参酌し,本願発明の外側阻止部が,輪のような形状をした部材から成り,これが,小ソケットの外周面に形成された段差又は凹部にはめられることにより固定されるものであると解釈したとしても,引用発明の外側阻止部にも,輪のような形状の部材と一体化されたものがあり,また,溶接等により固定する場合と比較して,輪のような形状をした部材を小ソケットの外周面に形成された段差又は凹部にはめ込む方が,外側阻止部の結合が容易化され,ボルトの回転力による反動等の影響を受けにくいことは,当業者にとって自明の事柄であるから,結局,原告が主張する本願発明の外側阻止部に係る作用効果は,当業者が引用発明から予測することのできる範囲のものであって,何ら格別顕著なものとはいえない。
エ小括したがって,原告が本願発明の格別顕著な効果であると主張するところは,これを取消事由として構成し得るか否かを検討するまでもなく,その理由がない。
(2)本願発明の商業的成功に準ずる事実原告は,本願発明が商業的成功に準ずる成功を収めているとして,本願発明の進歩性が認められるべきであると主張するが,その主張の当否はさておき,原告の主張する商業的成功の事実について検討すると,以下のとおりである。
ア数か月にわたって想到することができなかった事実原告は,引用発明が多数のソケット製造会社等を含め全国に紹介されたにもかかわらず,数か月たっても,同発明に基づいて本願発明に想到することのできた者は皆無であったと主張するが,仮に,原告が主張するように数か月間にわたって想到することができなかった事実があるとしても,その程度の事実をもって,本願発明の進歩性を肯定することはできないというべきである。
ライセンス契約の締結等の事実原告は,ソケット製造会社2社との間で,本願発明に関し,現にライセンス契約を締結し,又は締結する段階に至っていると主張するが,ライセンス契約の締結に成功するか否かは,発明の内容のほか,それを実施した製品の内容や価格,ライセンス対価,契約当事者の置かれた状況等の様々な事情により左右されるものであるところ,仮に,原告が主張するような契約締結等の事実があるとしても,それが,既に特許が付与されている引用発明(甲1)とは独立した本願発明のみが有する進歩性に専ら基づくものであることを認めるに足りる証拠はないから,結局,原告が主張するような事実をもって,本願発明の進歩性を肯定することはできないといわざるを得ない。
したがって,原告が本願発明の商業的成功に準ずる事実として主張するところも,これを取消事由として構成し得るか否かを検討するまでもなく,その理由がない。
4結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲