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関連審決 不服2007-26817
関連ワード 技術的思想 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  優先日 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  発明の範囲 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10132号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理 士志賀正武
同 渡邊隆
同 村山靖彦
同 実弘信哉
同 阿部達彦
同 荒則彦
被告特許庁長官
指定代理人今村亘
同 野村亨
同 紀本孝
同 酒井福造
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/12/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2007−26817号事件について平成21年1月5日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文同旨第2事案の概要1本件は,原告が,名称を「一又は二以上の凹みを備えた鋳造され鍛造される部分の製造方法及びそれを実施する装置」とする発明について特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をし,平成19年10月31日付けで特許請求の範囲変更を内容とする補正をしたが,特許庁が上記補正を却下した上,請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,上記補正後の発明(本件補正発明)及び上記特許出願に係る発明(本願発明)が下記の刊行物に記載された発明との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記・特開平7-195136号公報(発明の名称「軽金属製品の製造方法」,出願人 A,公開日 平成7年8月1日。甲1。以下「引用例」といい,そこに記載された発明を「引用発明」という。)第3当事者の主張1請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,パリ条約による優先権(2000年[平成12年]12月27日フランス国)を主張して,平成13年12月25日,発明の名称を「一又は二以上の凹みを備えた鋳造され鍛造される部分の製造方法及びそれを実施する装置」とする発明について特許出願(特願2001-392644号,請求項の数2。公開特許公報は特開2002-248540号[甲2])をしたが,拒絶査定を受けたので,不服の審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2007-26817号事件として審理し,その中で原告は,平成19年10月31日付けで特許請求の範囲変更を内容とする補正をした(補正後の請求項の数1。甲3,以下「本件補正」という。)が,平成21年1月5日,本件補正を却下した上「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(出訴期間として90日附加)をし,その謄本は平成21年1月20日原告に送達された。
(2) 発明の内容ア本件補正前の請求項の数は前記のとおり2であるが,そのうち【請求項1】の内容は次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
「鋳造され,次いで鍛造される,一又は二以上の凹みを備えた部分の製造方法であって:-得られる最終部分の有益なあるいは必要な形状に合致する一又は二以上の穴の開いた凹みあるいは止まり穴の凹みを含む鋳造プレフォームを形成する段階と;-プレフォームを,該プレフォームの温度を一様に保持するトンネル炉に移動する段階と;-鋳造プレフォームをプレス上に配備された圧造ダイに位置づける段階と;-鍛造作業の前に,コマンドにより,一又は二以上の多方向ロッドを鋳造プレフォームの凹みあるいは空洞に一又は複数のロッドを導入する段階と;-形作られた凹みの中にロッドが一時的に位置付けられている間にロッドを受けるプレフォームを所定の大きさにする段階と;-上部鍛造ダイを持ち上げて鍛造されたプレフォームを自由にする段階と;-凹みに位置付けられたロッドを引き出す段階と;-鍛造されたプレフォームを取り外す段階と;を実施することを特徴とする方法。」イ本件補正後の請求項の数は1であり,その【請求項1】の内容は次のとおりである(下線部が補正部分,以下,この発明を「本件補正発明」という。)「鋳造され,次いで鍛造される,一又は二以上の貫通穴を備えた部分の製造方法であって:-得られる最終部分に必要な形状に合致する一又は二以上の貫通穴を含む鋳造プレフォームを形成する段階と;-プレフォームを,該プレフォームの温度を一様に保持するトンネル炉に移動する段階と;-鋳造プレフォームをプレス上に配備された圧造ダイに位置づける段階と;-鍛造作業の前に,コマンドにより,一又は二以上のロッドを鋳造プレフォームの貫通穴に導入する段階と;-形作られた貫通穴の中にロッドが一時的に位置付けられている間にロッドを受けるプレフォームを所定の大きさにする段階と;-上部鍛造ダイを持ち上げて鍛造されたプレフォームを自由にする段階と;-貫通穴に位置付けられたロッドを引き出す段階と;-鍛造されたプレフォームを取り外す段階と;を実施することを特徴とする方法。」(3) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件補正発明及び本願発明はいずれも引用発明に基づいて容易に発明することができたから,本件補正は独立特許要件を欠くものとして却下すべきものであり,かつ本願発明も特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。
イ審決が認定する前記引用発明の内容,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,上記審決写し記載のとおりである。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決には,以下に述べるように,本件補正発明につき独立特許要件がないと判断して本件補正を却下した誤りがあり(取消事由1ないし3),また仮に本件補正却下が正当であったとしても本件補正前の本願発明に進歩性がないと判断した誤り(取消事由4及び5)があるから,審決は違法として取り消されるべきである。
ア 本件補正発明に関する判断の誤りについて(ア)取消事由1(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)a本件補正発明における「得られる最終部分に必要な形状に合致する一又は二以上の貫通穴を含む鋳造プレフォーム」とは,字義通り,「鋳造された時点で既に最終部分に必要な形状とされた貫通穴を有するプレフォーム」であり,当該貫通穴の寸法は,その後の鍛造段階を経ても実質的に変化しないと解すべきものである。本件補正発明におけるプレフォームが固相と液相状態が混在する半凝固状態である場合を含みうるならば,プレフォームが含む貫通穴を変形させないで鍛造を行う方法について本願明細書及び図面に記載するはずである。それにもかかわらず,本願の明細書及び図面に,その方法について一言半句たりとも記載していないことは,本件補正発明ではプレフォームが固相と液相状態が混在する場合を全く想定しておらず,固相状態の場合だけしか想定していないことの証左といえる。
この点,審決は,「…引用発明の鋳造プレフォームの穴も,得られる最終部分に必要な形状として形成されるものと解することができるから,両者に実質的な差異があるものとは認められない。」(7頁5行〜7行)と判断しているが,問題とすべきは,「得られる最終部分に必要な形状に合致する穴」であるか否かであって,単に「得られる最終部分に必要な形状として形成される穴」であるか否かではない。
したがって,本件補正発明における「得られる最終部分に必要な形状に合致する穴」が,鍛造段階を経て初めて最終部分に必要な形状に合致される引用発明の「得られる最終部分に設けるべき穴より大きい穴」とは全く異なることは明らかであり,審決の判断は,この相違点を看過するものであって,誤りである。
bまた,審決は,「また,たとえそのように解することができなかったとしても,引用発明における上記隙間について,隙間が小さいほど余肉部の流動量も少なく,鍛造による成形が容易となることは技術常識より明らかであるから,隙間をできるだけ小さくすること,すなわち鋳造プレフォームの穴をできるだけ得られる最終部分の穴に合致するようにすることは,当業者が普通に採用する事項であると認められる。したがって,鋳造プレフォームの穴を,得られる最終部分に必要な形状に合致するものとすることに格別の困難性はない。」(7頁8行〜15行)と判断している。
しかし,引用例(甲1)の段落【0027】〜【0030】の記載並びに第8図及び第9図の記載によれば,引用発明においては,最終的に縦穴73を形成する必要上,固相と液相とが共存している状態の一定量の余肉部50aを流動させることを前提としているが,引用発明において,予備成形物50(鋳造プレフォーム)の穴が,得られる最終部分に必要な形状に合致され,導入部材との間に形成された隙間が極めて小さいものであった場合,必要なだけの余肉部50aを流動させることはできない。
この点,引用例(甲1)の第8図において,予備成形物50に前もって最終形状の縦穴73に近い形状の凹部を形成しておき,流動させる余肉部50aの量を低減させることにより,予備成形物50の穴を,得られる最終部分に必要な形状に合致させることが可能であるようにも思われるが,当業者であれば,上記第8図において,横穴51,52に加えて,縦穴73に近い形状の凹部を予備成形物50に形成して,鋳造型の構造を複雑化させようと考えることはありえない。
引用発明は,固相と液相とが共存している状態で,押圧によって予備成型物を,固相状態のプレフォームを鍛造する場合よりも大きく変形させて最終部分に必要な形状を得ることを可能としたものであり,縦穴73に近い形状の凹部を予め設けることを不要とした点が引用発明の特徴だからである。
また,引用例(甲1)に「…液相の存在比率が20〜30%程度となるような温度域で行われるのが,最も好ましい。但し,この固液共存状態における成形は,上記第一要旨に規定される発明方法にとっては,必須でない場合がある。例えば,形成すべき凹部形状が単純で,浅い場合には,液相の存在を必要としない。」(段落【0011】)との記載があるが,いかなる凹部形状であれば「単純」といえるのか具体的な言及は全くされていない。引用例には第1実施例から第4実施例の四つの実施例が開示されているが,いずれの実施例の凹部形状もそれほど複雑なものであるとは認められないにもかかわらず,全ての実施例において,予備成型物の状態を固液共存状態とした成形が行われている。結局のところ,引用例における「液相の存在を必要としない凹部形状が単純な場合」とはいかなる場合であるのか当業者には理解できないのであるから,引用例が「予備成型物の状態を固相のみとする」ことを実質的に開示しているとはいえない。また,引用例の上記記載は「有底形状」を想定したものであり,本件補正発明のような貫通穴を想定したものではない。
したがって,引用発明に接した当業者は,「鋳造プレフォームの穴をできるだけ得られる最終部分の穴に合致するようにしよう」とは決して考えないのであり,「鋳造プレフォームの穴を,得られる最終部分に必要な形状に合致するものとすることに格別の困難性はない。」とした審決の判断は,誤りである。
cなお,後記のとおり,被告は,乙1(複合加工技術研究会編「複合加工技術」2頁〜3頁,196頁〜198頁[昭和59年4月5日産業図書株式会社発行]),乙3(特開平5-305409号公報,発明の名称「金属成形法」,出願人 株式会社アーレスティ,公開日 平成5年11月19日),乙4(特開平3-142032号公報,発明の名称「車両用ホイールの製造方法」,出願人 旭テック株式会社,公開日 平成3年6月17日),乙5(特開平8-155589号公報,発明の名称「サスペンションアーム鋳造用鋳型」,出願人 桐生機械株式会社,公開日 平成8年6月18日),乙6(特開平5-146841号公報,発明の名称「鍛造方法」,出願人 トヨタ自動車株式会社,公開日 平成5年6月15日)を提出しているが,引用発明に,乙1,3〜6を適用する動機付けは存在しないというべきであるし,これらの乙号証については,以下の点を指摘することができる。
・ 乙3乙3の段落【0009】には,「プレス工程では,ダイカスト鋳造された一次加工品Aを固相率30〜70%の半溶融状態に戻し,その状態でもってプレス型でプレス成形する。即ち,ダイカスト工程で鋳造された一次加工品Aを,その一次加工品Aのプロフィール(外観形状)に適合した内部形状を有する加熱用ホルダー型1内に収容せしめ,加熱用ホルダー型1内で一次加工品Aを固相率30〜70%の半溶融状態になるまで加熱し,その半溶融加工品Cをプレス機2のプレス型3でもってプレス成形するものである。」との記載があることからも理解できるように,乙3に記載の発明は,引用発明と同様に,予備成型物の状態を固液共存状態とした上でプレス成形を行うものであり,当業者に,引用発明を超えて新たな教示,示唆を与えるものではない。
・ 乙4乙4には「このホイール素材3は,鋳造によって成形した後,ディスク部31を鍛造によって成形したものである。」(2頁左上欄11行〜13行)と記載されているのみであり,鍛造の際に,鋳造された予備成型物の状態が固相状態であるのか固液共存状態であるのかは全く不明であるから,当業者に,引用発明を超えて新たな教示,示唆を与えるものではない。
・ 乙5乙5に記載の発明は,「サスペンションアーム鋳造用鋳型」に関するものであり,鋳造された予備成型物を鍛造して最終製品を得るものではないから,本件補正発明とは無関係である。
・ 乙6乙6の段落【0016】には「鍛造直後のサスペンションアーム素材(鍛造品)72を図1に示す。図から明らかなように,鍛造によってサスペンションアーム素材72の周囲に余肉によるバリ70が生じる。」との記載があり,段落【0018】には「その後,図示しないプレス装置によりバリ70を除去し,機械加工で仕上げることによって,図5に示すサスペンションアーム10が得られる。」との記載があることからも理解できるように,乙6に記載の発明は,鍛造により生じたバリを後加工によって除去することを前提としている。
これに対して,引用発明は,引用例(甲1)の「上記方法によれば,二次成形時における鋳物組織は,半凝固状態にあることから,押圧手段によって鋳物肉の移動は,緩やかで,空気を巻き込むことがなく,又,鋳物組織も,ほぼ同じ大きさの結晶組織が熔融金属中に密に分散した状態であるため,密度が均一で,健全な組織を持つ成型物が得られる。更に,二次金型6は,密閉されているので,上下型の分割面8にバリが発生せず,かすかに,1条の線が見える程度で,バリ取り工程が不要で,外観も損なわれない。」(段落【0019】)との記載から理解されるように,鍛造後のバリ取り工程を不要ならしめることを目的としているものであるから,当業者が,乙6に記載の発明を,引用発明に適用しようとする動機付けは存在しない。
dさらに,審決は,「本件補正発明が奏する作用効果は,引用発明及び従来周知の事項から当業者が予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。」(8頁11行〜12行)と判断している。
しかし,引用発明にあっては,穴の形状・寸法の仕上がりは,鍛造加工の成否に依存しており,外観のみでは良否の判断が困難な穴の最終形状・寸法を,鍛造後に検査しなければならず,不良品が発生した場合の無駄が多い。
これに対して,本件補正発明は,鋳造プリフォームの段階で「得られる最終部分に必要な形状に合致する穴」を形成するため,穴の形状・寸法の仕上がりは,鍛造加工の成否には全く依存せず,仮に穴の最終形状・寸法に不良が生じても,製造の早期の段階で不具合の発見が可能であるという,引用発明に無い有利な効果を奏する(以下「第1の作用効果」という。)。
(イ)取消事由2(相違点3に係る認定及び容易想到性判断の誤り)a相違点3に係る認定の誤り審決は,相違点3を「穴が,本件補正発明では,貫通穴であるのに対し,引用発明では,横穴である点。」(6頁23行〜25行)と認定したが,この認定は,本件補正発明と引用発明との重大な相違点を看過しているものである。
「貫通」とは,「貫きとおすこと。貫きとおること」(「広辞苑第6版」641頁[甲4])であるから,本件補正発明における「貫通穴」とは,「貫きとおされた穴」であり,穴の方向は何ら問題にしていない。これに対し,「横穴」とは,「山腹などに横に掘られた穴」(「広辞苑第6版」2896頁[甲5])であるから,「横穴」という概念には,「貫通の有無」は含まれていない。しかし,引用例(甲1)の第8図及び第9図において,横穴51,52,71,72は,いずれも貫通していない止まり穴である。
したがって,相違点3は,「穴が,本件補正発明では,貫通穴であるのに対し,引用発明では,貫通していない止まり穴である点。」と認定されるべきであるから,誤りである。
b相違点3に係る容易想到性判断の誤り(a)審決は,「鋳造プレフォームの穴を貫通穴とするか否かは,得られる最終部分の形状に応じて適宜設定すべき事項であり,また,引用発明に係る製造方法により貫通穴を備えた部分を製造できないとする特段の理由も発見しないから,引用発明の横穴を貫通穴とすることは当業者が容易になし得たことである。」(7頁17行〜20行)と判断している。
しかし,前記(ア)で述べたように,引用発明に接した当業者は,鋳造プレフォームの穴を得られる最終部分の穴に合致させようとは決して考えないのであるから,引用発明においては,鋳造プレフォームの穴と導入部材との間には,ある程度の大きさの隙間が存在していなければならない。実際にも,引用例(甲1)の第8図においては,横穴51,52の内周面と,入子型63,64の外周面との間には,隙間が明確に図示されている。
(b)また引用発明にあっては,引用例(甲1)の段落【0030】にも記載されているように,「衝撃力よりは,押圧力による成形を主体」として,「バリ取り工程が不要で,外観も損なわれない」効果(段落【0019】)を得ることを目的としているが,貫通穴を形成するために,引用発明を,ある程度の大きさの隙間が存在した予備成型物の穴と導入部材とに適用しようとすると,以下のとおり,鍛造により予備成型物の余肉部が貫通穴からはみ出し,それによりバリが発生してしまい,引用発明の目的が達成できないことになる。
そして,引用発明に記載された製造方法で,貫通穴を備えた部分を製造しようとした場合,以下の段階を経て行われる:?引用例(甲1)の第8図において,開口66を閉塞した下型61を準備すると共に,予備成形物50には,鋳造段階で,同図の右側端部から左側端部に亘る貫通穴を形成する。
?右側の入子型63を,下型61の開口65及び予備成形物50の横穴51から前記貫通穴に導入し,下型61の左側内壁に突接させる。ここで,横穴51と入子型63との間には所定の間隙が存在する。
?上型62を下降し,余肉部50aを流動させて入子型63の周囲に充填させる。
?上型62を上に移動させ,入子型63を後退させる。
上記?において入子型63を後退させる際,下型61の左側内壁に突接していた入子型63の左側端部は,周囲に充填された余肉を引き込み,目的成型物の貫通穴の左側開口端部には,この引き込まれた余肉がバリとなって存在することとなり,引用発明の目的が達成できないことになる。
(c)したがって,引用発明に接した当業者は,引用発明に係る製造方法で,貫通穴を備えた部分を製造しようとは考えないから,「引用発明の横穴を貫通穴とすることは当業者が容易になし得たことである。」とした審決の判断は,誤りである。
cさらに,審決は,本件補正発明が奏する作用効果を,当業者が予測できる範囲内のものであると判断しているが,上述したように,引用発明が「止まり穴」にしか適用し得ないものであるのに対し,本件補正発明は「貫通穴」に適用可能である(以下「第2の作用効果」という。)。
(ウ)取消事由3(相違点4に係る容易想到性判断の誤り)a本件補正発明における「ロッド」とは,「鋳造プレフォームに予め形成されている貫通穴の大きさ及び形状を鍛造後まで維持するためのもの」である。
この点,審決は,「しかしながら,本件補正発明においては,『得られる最終部分に必要な形状に合致する一又は二以上の貫通穴を含む鋳造プレフォームを形成する段階』,『鍛造作業の前に,コマンドにより,一又は二以上のロッドを鋳造プレフォームの貫通穴に導入する段階』及び『形作られた貫通穴の中にロッドが一時的に位置付けられている間にロッドを受けるプレフォームを所定の大きさにする段階』とされているだけで,本件補正発明の『ロッド』が,鋳造プレフォームに形成されている穴の大きさ及び形状を鍛造後まで維持するためのものであることについて特定されていると解することはできない。」(7頁30行〜8頁1行)と判断している。
しかし,本件補正発明における「得られる最終部分に必要な形状に合致する穴」が「鋳造された時点で既に最終部分に必要な形状とされた貫通穴」であって,当該貫通穴の寸法は,その後の鍛造段階を経ても実質的に変化しないと解すべきものであることは,前記(ア)において述べたとおりである。
また,本件補正後の【請求項1】における「形作られた貫通穴の中にロッドが一時的に位置付けられている間にロッドを受けるプレフォームを所定の大きさにする段階」及び「貫通穴に位置付けられたロッドを引き出す段階」との記載,並びに,本件補正発明の内容を示す甲2(公開特許公報)の段落【0011】の「サイジング(sizing)の方向を矢印Fで示す」,段落【0013】の「前記プレフォームの鍛造作業の間マッチング凹み1cを通して鋳造プレフォームにおいて一時的に位置付けることが目的とされた一又は二以上のロッド2」及び段落【0015】の「凹みに位置付けられたロッドを引き出す段階」との記載からも,当業者であれば,本件補正発明にあっては,鋳造プレフォームが形成された時点で既に最終部分に必要な形状とされた貫通穴が形成され,鍛造段階において,ロッド及び貫通穴には実質的な塑性変形力は作用していないことが理解できる。仮にそのような力が作用しているとすると,ロッド及び貫通穴に変形が生じてしまい,鍛造後にロッドを引き出すことが極めて困難となるからである。
bこれに対し,引用発明の「入子型」は,「鍛造工程における変形を経て最終目的製品の凹部自体を決定するために挿入されるもの」である。引用例1(甲1)の段落【0029】の「入子型63,64は,予め設けられた横穴51,52の中に収納されており,加圧時に,上型の突出部69により排除された余肉部50aやその他の余肉部が,入子型の周囲に均一に充填されてくる」との記載から,引用発明にあっては,固相と液相が混在する半凝固状態の材料が,入子型の周囲に隙間無く回り込み,入子型の形状に倣った止まり穴が形成されるものである。入子型の形状に倣った止まり穴が形成されるため,引用例1(甲1)の第8図及び第9図から理解されるように,入子型の先端部には抜き勾配が設けられており,この抜き勾配が無いと,入子型を取り出すことが不可能となるのである。
審決においても,「引用発明では,鋳造プレフォームの穴と導入部材との間に隙間が形成されており,この隙間は,鍛造作業により鋳造プレフォームの余肉部が流動することにより埋められて,得られる最終部分の形状に合致する穴が形成されるものである。」(6頁下1行〜7頁3行)と記載されていることから,引用発明の「入子型」が,「鍛造工程における変形を経て最終目的製品の凹部自体を決定するために挿入されるもの」であることは,審決も認めているところである。
c以上述べたとおり,本件補正発明は,鋳造プレフォームの段階で最終目的製品に形成されているべき形状の貫通穴を形成し,その貫通穴の形状を維持しながら鍛造を行うものであるのに対して,引用発明は,鋳造段階である程度の凹部を形成しておき,鍛造段階でその凹部を最終目的製品に形成されているべき形状に加工していくという,本件補正発明とは全く異なる技術的思想を有しており,必然的に,本件補正発明の「ロッド」と引用発明の「入子型」とは技術的意義が全く異なるものであり,「入子型をどのような形状とするかは,得られる最終部分の形状に対応して設定される事項であり,引用発明において入子型をロッドとすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得る設計的事項にすぎない。」との審決の判断(7頁22行〜24行)は誤りである。
dなお,審決は,「…また,たとえそのようなものと解されたとしても,上述のとおり,鋳造プレフォームの穴をできるだけ得られる最終部分の穴に合致するようにすることは当業者が普通に採用する事項であると認められ,鋳造プレフォームの穴を,得られる最終部分に必要な形状に合致するものとすることに格別の困難性はないというべきである。」(8頁1行〜6行)と判断している。
しかし,引用発明に接した当業者は,「鋳造プレフォームの穴をできるだけ得られる最終部分の穴に合致するようにしよう」とは決して考えないことは,前記(ア)のとおりであるから,審決の判断は,誤りである。
eまた,審決は,本件補正発明が奏する作用効果を,当業者が予測できる範囲内のものであると判断しているが,上述したように,引用発明にあっては,固相と液相が混在する半凝固状態の材料が,入子型の周囲に隙間無く回り込み,入子型の形状に倣った止まり穴が形成されるものであり,入子型を取り出すためには,入子型の先端部に抜き勾配を設けざるを得ず,勾配の無いストレートな穴を形成することはできない。したがって,小径で深い穴を形成することは極めて困難である。
これに対して,本件補正発明は,鋳造プレフォームが形成された時点で既に最終部分に必要な形状とされた貫通穴が形成され,小径で深い穴を形成するのも容易であるという,引用発明に無い有利な効果を奏する(以下「第3の作用効果」という。)。
イ 本願発明に関する判断の誤りについて(ア)取消事由4(相違点6に係る容易想到性判断の誤り)相違点6は,相違点2と実質的に同じものであるから,前記ア(ア)で説明したとおり,相違点6に格別の困難性が無いとした審決の判断は,誤りである。
また,審決は,「本願発明が奏する作用効果は,引用発明及び従来周知の各事項から当業者が予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。」(10頁21行〜22行)と判断している。
しかし,本願発明は,引用発明にない前記「第1の作用効果」を奏するものであり,これらの作用効果を過小に評価した審決の判断は,誤りである。
(イ)取消事由5(相違点7に係る容易想到性判断の誤り)前記ア(ウ)で説明したとおり,本願発明における「ロッド」とは,「鋳造プレフォームに予め形成されている貫通穴の大きさ及び形状を鍛造後まで維持するためのもの」であるのに対し,引用発明の「入子型」は,「鍛造工程における変形を経て最終目的製品の凹部自体を決定するために挿入されるもの」であり,引用発明に接した当業者は,「鋳造プレフォームの穴をできるだけ得られる最終部分の穴に合致するようにしよう」とは決して考えないのであるから,相違点7が当業者にとって容易想到であるとした審決の判断は,誤りである。
また,審決は,本願発明が奏する作用効果を,当業者が予測できる範囲内のものであると判断しているが,本願発明は,引用発明にない前記「第3の作用効果」を奏するものであり,これらの作用効果を過小に評価した審決の判断は,誤りである。
2請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対しア本件補正後の【請求項1】の記載によれば,「貫通穴」は,「得られる最終部分に必要な形状に合致する」ものであるところ,「形状」とは「物・人のかたちやありさま。姿。」のことであり,「合致」とは,「ぴったりあうこと。一致」(「広辞苑第四版」789頁,506頁[乙2])のことであるから,上記の「形状に合致する」とは,貫通穴の形が鍛造後に得られる最終部分に必要な形に一致することを意味するものである。もっとも,形が一致することは,寸法まで一致することを意味するものではないし,また,「得られる最終部分の形状」ではなく,「得られる最終部分に必要な形状」と特定しているのであるから,「鋳造プレフォームの貫通穴」が,最終部分の形状・寸法に一致するものであると,上記請求項の記載から直ちに解することはできない。むしろ,本件補正発明が,「鋳造プレフォーム」から「鍛造」を経て最終製品を得るものであることに照らせば,貫通穴についても,「鋳造プレフォームの貫通穴」から「鍛造」を経て「最終部分としての貫通穴」が得られると考えることが自然であって,「得られる最終部分に必要な形状に合致する」とは,「鋳造プレフォームの貫通穴」が,鍛造を経て最終部分としての貫通穴を得るために必要な形状に一致することを意味すると解し得るのである。例えば,鋳造プレフォームの貫通穴が最終部分の寸法より大きい形状も,その後の鍛造段階を経て,最終部分としての貫通穴を得るために必要な形状ということができる。
また,本願の明細書(甲2)を見るに,本件補正発明における「貫通穴」に関する事項として,段落【0006】,【0007】,【0010】〜【0012】及び【0015】の各記載があり,また,図面の第1図として,プレフォーム状態において,スリーブ1aの内側に凹み1cを有するものが記載されている。しかし,本願の明細書には「得られる最終部分に必要な形状に合致する」なる記載の意味が,原告が主張するような,「貫通穴の寸法は,その後の鍛造段階を経ても実質的に変化しない」,いわゆる最終部分に必要な貫通穴の形状に一致するばかりでなく,寸法についても一致するものであることを示す記載はない。
したがって,原告の「本件補正発明における『得られる最終部分に必要な形状に合致する一又は二以上の貫通穴を含む鋳造プレフォーム』とは,字義通り,『鋳造された時点で既に最終部分に必要な形状とされた貫通穴を有するプレフォーム』であり,当該貫通穴の寸法は,その後の鍛造段階を経ても実質的に変化しないと解すべきものである。」との主張は,失当である。
イ引用例1(甲1)には,プレフォームに関し「予備成型物50は,前記実施例1〜3の場合と全く同様に,重力鋳造金型により鋳造されたアルミニウム合金鋳物である。」(段落【0027】)と記載されているとともに,「液相の存在比率が20〜30%程度となるような温度域で行われるのが,最も好ましい。但し,この固液共存状態における成形は,上記第一要旨に規定される発明方法にとっては,必須でない場合がある。例えば,形成すべき凹部形状が単純で,浅い場合には,液相の存在を必要としない。」(段落【0011】)と記載されている。これらの記載を技術常識に照らして解釈すれば,引用発明における予備成型物の状態は,その凹部形状に応じて適宜変更が可能であり,余肉の流動をそれほど必要としない凹部形状の場合には,固相のみの状態としてもよいことが開示されているといえる。そして,このことは審決で摘記した「実施例4」においても同様のことがいえる。そうすると,引用発明は,固相と液相とが共存している状態の発明のみに限定して解釈する理由はない。一般に,鋳造によりプレフォームを作成し,このプレフォームを鍛造して最終製品を作成する過程を有する金属加工法において,鍛造時に材料の流動量を少なくし,鍛造に要するエネルギーを低減する等,鍛造を容易に行うために,鋳造物である鋳造プレフォームの形状及び寸法を鍛造後の最終製品形状及び寸法に近くなるように形成することは,乙1(複合加工技術研究会編「複合加工技術」2頁〜3頁,196頁〜198頁[昭和59年4月5日産業図書株式会社発行]),乙3(特開平5-305409号公報,発明の名称「金属成形法」,出願人 株式会社アーレスティ,公開日 平成5年11月19日)及び乙4(特開平3-142032号公報,発明の名称「車両用ホイールの製造方法」,出願人 旭テック株式会社,公開日 平成3年6月17日)に示されているように,従来周知であり,さらに,鋳造技術において,鋳造物に設けられた穴などを含む鋳造物の形状及び寸法を最終製品の形状及び寸法となるように鋳造することも,乙5(特開平8-155589号公報,発明の名称「サスペンションアーム鋳造用鋳型」,出願人 桐生機械株式会社,公開日 平成8年6月18日),乙6(特開平5-146841号公報,発明の名称「鍛造方法」,出願人 トヨタ自動車株式会社,公開日 平成5年6月15日)に示されているように,従来周知である。
してみれば,鋳造によりプレフォームを作成し,このプレフォームを鍛造して最終製品を作成する金属加工法が開示されている引用発明において,当該技術分野における上記周知技術を考慮し,引用発明における予備成型物に設けられた横穴と入子型との隙間をできるだけ小さくすること,すなわち鋳造プレフォームの穴の形状及び寸法をできるだけ得られる最終部分の穴の形状及び寸法に合致させることに格別の困難性はない。
ウさらに,作用効果についても,本件補正発明の「得られる最終部分に必要な形状に合致する」とは,上記アのとおり,「鋳造プレフォームの貫通穴」が,鍛造を経て最終部分としての貫通穴を得るために必要な形状に一致することを意味すると解しうるのであって,原告が主張するような「貫通穴の寸法は,その後の鍛造段階を経ても実質的に変化しない」ものに限定して解されるものではない。そして,引用発明の鋳造プレフォームの穴も,得られる最終部分に必要な形状として形成されるものと解することができるのであるから,本件補正発明と引用発明とで作用効果が相違するとはいえない。
また,原告が主張するように,「本件補正発明は,鋳造プリフォームの段階で得られる最終部分に必要な形状に合致する穴を形成する」ものであり,「穴の形状・寸法の仕上がりは,鍛造加工の成否には全く依存せず」,「貫通穴の寸法は,その後の鍛造段階を経ても実質的に変化しない」ものであるとしても,上記イのとおり,鋳造物を最終製品の形状及び寸法となるように鋳造することは,従来周知の技術であり,鋳造プレフォームの穴の形状及び寸法をできるだけ得られる最終部分の穴の形状及び寸法に合致するようにすることは,格別の困難性なく当業者にとって想到容易であるから,原告が主張する「穴の形状・寸法の仕上がりは,鍛造加工の成否には全く依存せず,仮に穴の最終形状・寸法に不良が生じても,製造の早期の段階で不具合の発見が可能である」という作用効果は,引用発明及び周知技術から当業者にとって十分に予測可能なものである。
(2) 取消事由2に対しア審決では,引用発明と本件補正発明とを対比し,一致点及び相違点を認定しており,その中で「相違点3」として,「穴が,本件補正発明では,貫通穴であるのに対し,引用発明では,横穴である点。」と認定している。審決における「相違点3」の認定に誤りはない。
さらに,審決は,引用発明の「横穴」を「貫通穴」と相違するものとしてとらえた上で検討しており(7頁16行〜20行),審決では,実質的に「横穴」を「貫通していない止まり穴」と解釈して,当業者の容易想到性の判断を行っている。
したがって,「相違点3は,『穴が,本件補正発明では,貫通穴であるのに対し,引用発明では,貫通していない止まり穴である点。』と認定されるべきであるから,誤りである。」という原告の主張は,失当である。
イ引用例(甲1)の段落【0018】及び【0019】の記載並びに第1図及び第2図によれば,引用例(甲1)には,予備成型物の一方向からプレスロッドを作用させ,最終的に貫通穴(穴3)を有する製品をバリが発生しないように鍛造することが開示されているものと認められる。また,一般に鍛造による金属加工において,バリを発生させないようにすることは,技術常識であり,そのために鍛造型の形状,型にかける押圧力や成型物の寸法等を最適なものとすることは,当業者であれば普通に考慮することである。そして,鋳造により,その鋳造物に最終製品の形状及び寸法もしくはそれに近似した貫通穴を形成し,その貫通穴にこれを保持する部材を挿入した状態で鍛造することは,乙6(特開平5-146841号公報)に示されているように,従来周知のものにすぎず,また,前記(1)イのとおり,鋳造プレフォームの穴の形状及び寸法をできるだけ得られる最終部分の穴の形状及び寸法に合致させることは,当業者にとって格別の困難性はなく,これを採用した引用発明では,本願補正発明と同様に鋳造プレフォームと入子型の間に隙間を生じないのであるから,原告が主張するような「鍛造により予備成型物の余肉部が貫通穴からはみ出し,それによりバリが発生」すること,すなわち,「入子型の左側端部は,周囲に充填された余肉を引き込み,目的成型物の貫通穴の左側開口端部には,この引き込まれた余肉がバリとなって存在する」ようなことはない。
したがって,「『引用発明の横穴を貫通穴とすることは当業者が容易になし得たことである。』とした審決の判断は,誤りである。」との原告の主張は,失当である。
ウまた,引用発明は,貫通穴を有する製品にも適用が可能であることは,上記イのとおりであるから,本件補正発明は「貫通穴」に適用可能であるという原告が主張する第2の作用効果は,引用発明及び周知技術から当業者にとって十分に予測可能なものである。
(3) 取消事由3に対しア本件補正発明においては,「得られる最終部分に必要な形状に合致する一又は二以上の貫通穴を含む鋳造プレフォームを形成する段階」,「鍛造作業の前に,コマンドにより,一又は二以上のロッドを鋳造プレフォームの貫通穴に導入する段階」及び「形作られた貫通穴の中にロッドが一時的に位置付けられている間にロッドを受けるプレフォームを所定の大きさにする段階」と記載されているだけで,本件補正発明の「ロッド」が,鋳造プレフォームの段階で最終目的製品に形成されているべき形状の貫通穴を形成し,その貫通穴の形状を鍛造後まで維持するためのものであるということについて特定されていると解することはできない。
イまた,原告主張のように,本件補正発明の「ロッド」が,鋳造プレフォームの段階で最終目的製品に形成されているべき形状の貫通穴を形成し,その貫通穴の形状を鍛造後まで維持するためのものであるということについて特定されていると解されるとしても,鋳造技術において,鋳造物に最終製品の形状及び寸法もしくはそれに近似した貫通穴を形成し,その貫通穴に部材を挿入した状態で鍛造することは,乙6(特開平5-146841号公報)に示されるように,従来からの周知である。
そして,鋳造プレフォームの穴の形状及び寸法をできるだけ得られる最終部分の穴の形状及び寸法に合致するように設けることが,当業者であれば,格別の困難性がなく普通に採用する事項であることは,前記(1)イのとおりであり,鋳造プレフォームの穴の形状及び寸法をできるだけ得られる最終部分の穴の形状及び寸法に合致するように設けることにより,引用発明の「入子型」は,鋳造プレフォームの段階で最終目的製品に形成されているべき貫通穴の形状を鍛造後まで維持するように機能し得るものである。
したがって,審決の「鋳造プレフォームの穴をできるだけ得られる最終部分の穴に合致するようにすることは当業者が普通に採用する事項であると認められ,鋳造プレフォームの穴を,得られる最終部分に必要な形状に合致するものとすることに格別の困難性はないというべきである。そして,得られる最終部分に必要な形状に合致する鋳造プレフォームの穴に入子型が導入される場合には,入子型とロッドとの作用効果に格別な差異が生じるものではない。」(8頁2行〜8行)との判断に誤りはない。
ウ引用例1(甲1)の段落【0013】には,「従って,入子型は,抜き勾配が設けられていることが望ましい。また,目的製品の凹部形状が,その最終製品形状とおりに入子型を製作すると,成型後の抜去が不可能になってしまうような凹部形状を備えている場合は,抜去可能で且つ最終製品形状に近い外形を備えた入子型を用い,抜去後に,簡単な切削加工等により目的製品とする。」と記載され,段落【0014】には,「…余肉部を押圧する押圧手段の外形を,目的製品に形成されるべき穴,及び/又は,凹部の形状をなすように形成しておき,所定の鍛造比を満足させるような余肉部の移動を実現すると共に,製品に設けるべき横穴等の凹部を形成することも,上記発明の範囲に含まれる。」と記載されており,引用発明においては,目的製品に形成されるべき穴の形状と成型後の入子型の抜去を考慮しつつ入子型の形状を適宜変更可能であることが開示されている。
また,引用例1(甲1)の段落【0011】には,「但し,この固液共存状態における成形は,上記第一要旨に規定される発明方法にとっては,必須でない場合がある。例えば,形成すべき凹部形状が単純で,浅い場合には,液相の存在を必要としない。」と記載されており,形成すべき穴の形状により,予備成型物を固相状態としてもよいことが開示されている。
そして,引用発明の入子型も,引用例1(甲1)の段落【0030】に,「上記実施例4の方法によれば,細くて深い横穴が容易に形成でき,しかも,鍛造成形工程により,鋳物組織が十分に改善されて,高品質の製品が安価に得られる。」と記載されているように,小径で深い穴を形成することを目的としているものである。
してみれば,最終目的製品に形成されるべき穴の形状や予備成型物の状態を考慮し,成型後の入子型の抜去が困難なくできるよう入子型の形状を適宜変更することは,引用発明に基づき当業者が適宜行い得る設計的事項であり,引用発明における入子型の形状を勾配の無いストレート形状とすることにより成型後の入子型の抜去ができなくなるとする理由もないから,「入子型をどのような形状とするかは,得られる最終部分の形状に対応して設定される事項であり,引用発明において入子型をロッドとすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得る設計的事項にすぎない。」(7頁22行〜24行)とした審決の判断に誤りはなく,小径で深い穴を形成するのも容易であるという原告が主張する第3の作用効果は,引用発明から当業者にとって十分に予測可能なものである。
(4) 取消事由4に対し「相違点6」についての審決の判断に誤りがないこと,及び,原告が主張する第1の作用効果が,引用発明及び周知技術から当業者にとって十分に予測可能なものであることは,前記(1)で述べたのと同様である。
(5) 取消事由5に対しア前記(3)アのとおり,本願発明の「ロッド」が,鋳造プレフォームに予め形成されている貫通穴の大きさ及び形状を鍛造後まで維持するためのものであるということについて特定されていると解することはできない。また,そのようなものが特定されると解されたとしても,前記(3)イのとおり,鋳造プレフォームの穴の形状及び寸法をできるだけ得られる最終部分の穴の形状及び寸法に合致するように設けることが,当業者であれば,格別の困難性がなく普通に採用する事項であって,鋳造プレフォームの穴の形状及び寸法をできるだけ得られる最終部分の穴の形状及び寸法に合致するように設けることにより,引用発明の「入子型」は,鋳造プレフォームの段階で最終目的製品に形成されているべき貫通穴の形状を鍛造後まで維持するように機能し得るものである。
したがって,本願発明の「ロッド」と引用発明の「入子型」とは,その技術的意義が異なるものではないから,「相違点7が当業者にとって容易想到であるとした審決の判断は,誤りである。」という原告の主張は,失当である。
イまた,前記(3)ウのとおり,第3の作用効果は,引用発明から当業者にとって十分に予測可能なものである。
第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本件補正発明に関する審決の判断の誤りの有無(1) 本件補正発明の意義ア本件補正後の本件特許請求の範囲【請求項1】は,前記第3,1(2)イのとおりである。また,本件特許の明細書(公開特許公報,甲2)の「発明の詳細な説明」には次の(ア)の記載があり,図面として次の(イ)の記載がある(これらは本件補正の前後を通して変わりがない)。
(ア)発明の詳細な説明a発明の属する技術分野「本発明は,鋳造所で鋳造され,次いで鍛造されたアルミニウム合金部のよな軽合金部の製造の技術分野に関するものである。」(段落【0001】)b従来の技術及び発明が解決しようとする課題・「鋳造所で製造され,次いで,軽合金特にアルミニウム合金についての欧州特許第119,365号公報の主題であるコバプレス(COBAPRESS)法によって鍛造する部分(パーツ)は多い。これらの部分では,複雑さの度合いが変化する製品自体における部分の使用及び応用に直接関連する穴(ボア),凹みあるいは止まり穴を形成するために,しばしばさらなる機械加工作業が必要となる。この場合,鋳造及び鍛造の後,最終製品に存在する凹み及び空洞部の機械加工のような必要な形作り作業を実施するために,当該部分を他の作業場に移すことが必要である。」(段落【0002】)・「これらの作業は,製造工程及びそれによるコストをかなり増大する。」(段落【0003】)・「従って,出願人はこれらの欠点及び困難を克服することを試み,得られる最終製品の品質の維持及び保証するものである。」(段落【0004】)・「凹みを有する鋳造部を製造するためのロッドの使用も,鋳造所の鋳型では周知のことである。」(段落【0005】)・「上述の情報を考慮した出願人は,鋳造され,次いで,鋳造プレフォーム(プリフォーム)の凹みを保持し従来必要とされていた上述の後の作業の全てあるいはその一部を取り除く本発明によって鍛造された部分を製造する方法を開発した。」(段落【0006】)c課題を解決するための手段・「本発明は,-得られる最終部分の有益なあるいは必要な形状に合致する一又は二以上の穴の開いた凹みあるいは止まり穴の凹みを含む鋳造プレフォームを形成する段階と;-プレフォームを,該プレフォームの温度の一様性を保持するためのトンネル炉に移動する段階と;-鍛造作業の前に,コマンドにより,鋳造プレフォームの凹みあるいは空洞に一又は多方向のロッドを導入する段階と;-ロッドが一時的に形作られた凹みの中に位置付けられている間にロッドを受けるプレフォームを所定の大きさにする(sizing)段階と;-鍛造されたプレフォームを自由にするために上部鍛造ダイを持ち上げる(raise)段階と;-凹みに位置付けられたロッドを取り除く段階と;-鍛造されたプレフォームを取り除く段階と;を備えた方法である。」(段落【0007】)・「これらの特徴,上述の方法について及びこの方法を実施するために必要な技術的な手段の他の特徴を以下に記載する。」(段落【0008】)d発明の実施の形態・「添付図面を参照して以下に本発明を詳細に記載する。本発明をより明瞭に理解するために,図面を参照して非限定的な例を記載する。」(段落【0009】)・「鋳造され次いで鍛造された部分を製造する本発明の方法は,有益で,機能的で,あるいは,前記部分を単に軽量化するために最終的に形作られた状態での一又は二以上の穴の開いたあるいは止まり穴の凹みあるいは空洞を有することができるいかなる形状のいかなる部分にも応用される。」(段落【0010】)・「図1は,スリーブ部1aと脚部1bを有する鋳造プレフォーム部1を示し,この構成は,本発明をよりよく理解することを可能にする単なる例である。前記スリーブ1aの内側には,その長さ全体あるいはその一部に沿った凹み1cを有する。図は,凹みの型割線P及び長軸X-Xを示し,サイジング(sizing)の方向を矢印Fで示す。」(段落【0011】)・「この部分は,アルミニウム合金のような軽合金に対して鋳造し次いで鍛造作業を実施する欧州特許第119,365号公報に記載のコバプレス法によって得るものである。鋳造と鍛造のとの間に,鋳造プレフォームされた状態の部分をトンネル炉に移動して加熱し鍛造ステーションに移動する前はその部分を一定温度に保つという中間段階を含む。従って,鋳造プレフォームは一又は二以上の凹みあるいは空洞を有する。」(段落【0012】)・「本発明では,鍛造ツールは,前記プレフォームの鍛造作業の間マッチング凹み1cを通して鋳造プレフォームにおいて一時的に位置付けることが目的とされた一又は二以上のロッド2の並進機構によって,圧造ダイ(heading die)の回りにはまる。より正確には,鋳造プレフォームは下部圧造ダイ3に位置付けられ,上部ダイは持ち上げられる。鋳造プレフォームの下部鍛造ダイへの位置付けは,前記凹みがロッドが動く方向である長軸Y-Yに対面するように行われる。ここで,2つの軸X-XとY-Yとは対応する。」(段落【0013】)・「ロッドは,円筒型あるいは同様な型の制御手段5によって動くよう描いた。完全な部分製造法に対して直接ロッドの動きを制御するために,製造自動手段を用いる。」(段落【0014】)・「方法は,-得られる最終部の有益なあるいは必要な形状に合致する一又は二以上の穴の開いた凹みあるいは止まり穴の凹みを含む鋳造プレフォームを形成する段階と;-プレフォームを,該プレフォームの温度を一様に保持するトンネル炉に移動する段階と;-鋳造プレフォームをプレス上に配備された圧造ダイに位置づける段階と;-鍛造作業の前に,コマンドにより,一又は二以上の多方向ロッドを鋳造プレフォームの凹みあるいは空洞に一又は複数のロッドを導入する段階であって,前記ロッドが鋳造プレフォームに位置付けされるように一時的に並進する段階と;-ロッドが形作られた凹みの中に一時的に位置付けられている間にロッドを受けるプレフォームを所定の大きさにする(sizing)段階と;-鍛造されたプレフォームを自由にするために上部鍛造ダイを持ち上げる段階と;-凹みに位置付けられたロッドを引き出す段階と;-鍛造されたプレフォームを取り除く段階と;を実施する方法である。」(段落【0015】)・「ロッドのプロファイルは,そのプロファイルが最終の部分における凹みのプロファイルにできるだけ近接するように決定する。」(段落【0016】)・ 「本発明は以下のような利点を有する:-凹みの形作りが鍛造作業に統合されており,そのため,機械加工の作業が低減しかつ製造コストが低下する。
-特に,機械加工作業において,プレフォームの凹みについての材料の無駄が低減し,そのため,重量が減少すると共に製造コストが低下する。
-凹みあるいはプレホールがサイジングの方向だけでなく,多方向に向いている。」(段落【0017】)(イ) 【図1】(鋳造プレフォーム部)は,以下のとおりである。
イ上記アの記載によれば,本件補正発明は,鋳造され,次いで鍛造される,一又は二以上の貫通穴を備えた部分の製造方法であって,「得られる最終部分に必要な形状に合致する一又は二以上の貫通穴を含む鋳造プレフォームを形成する段階」を含むものである。
この「得られる最終部分に必要な形状に合致する一又は二以上の貫通穴を含む鋳造プレフォームを形成する段階」は,これを文字通り解すると,ここで形成されるプレフォームは「鋳造された時点で既に最終部分に必要な形状とされた貫通穴を有するプレフォーム」であり,当該貫通穴の寸法は,その後の鍛造段階を経ても実質的に変化しないと解することができる。
また,上記アの記載によれば,本件補正発明は,鋳造及び鍛造の後に最終製品に存在する貫通穴を形成するための機械加工のような形作り作業を取り除くことに技術的意義があると解されるところ,「鋳造された時点で既に最終部分に必要な形状とされた貫通穴を有するプレフォーム」を形成すれば,鋳造及び鍛造の後に最終製品に存在する貫通穴を形成するための機械加工のような形作り作業を取り除くことができることは明らかであり,本件補正発明の技術的意義に照らしても,上記解釈を支持することができるというべきである。
以上の点について,被告は,本件補正後の【請求項1】の記載によれば,「貫通穴」は,「得られる最終部分に必要な形状に合致する」ものであるところ,上記の「形状に合致する」とは,貫通穴の形が鍛造後に得られる最終部分に必要な形に一致することを意味するものであって,寸法まで一致することを意味するものではないし,また,「得られる最終部分の形状」ではなく,「得られる最終部分に必要な形状」と特定しているのであるから,「鋳造プレフォームの貫通穴」が,最終部分の形状・寸法に一致するものであると,本件補正後の【請求項1】の記載から直ちに解することはできないと主張する。しかし,「形状」とは「物・人のかたちやありさま。姿。」のことである(「広辞苑第四版」789頁[乙2])から,ありさまや姿を表す以上,寸法を含む概念である上,本件特許の明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」に「貫通穴」の形と寸法とを区別する記載があるとも認められないから,上記のとおり,本件補正後の【請求項1】の「形状」には寸法を含むというべきである。また,本件補正後の【請求項1】の「得られる最終部分に必要な形状」は,上記のとおり「鋳造プレフォームの貫通穴」が最終部分の形状(寸法を含む)に一致するものであると解することができ,「得られる最終部分に必要な形状」と特定していることは,この判断を左右するものではない。
ウ上記アの記載によれば,本件補正発明は,「鍛造作業の前に,コマンドにより,一又は二以上のロッドを鋳造プレフォームの貫通穴に導入する段階」,「形作られた貫通穴の中にロッドが一時的に位置付けられている間にロッドを受けるプレフォームを所定の大きさにする段階」,「上部鍛造ダイを持ち上げて鍛造されたプレフォームを自由にする段階」,「貫通穴に位置付けられたロッドを引き出す段階」,「鍛造されたプレフォームを取り外す段階」を含むのであるが,ここでいう「ロッド」を,上記イの「得られる最終部分に必要な形状に合致する一又は二以上の貫通穴を含む鋳造プレフォームを形成する段階」の意義と併せて考察すると,鋳造された時点で既に最終部分に必要な形状(寸法を含む)とされた貫通穴を,鍛造段階においてそのまま維持するためのものであることは明らかというべきである。
この点について,審決は,「しかしながら,本件補正発明においては,『得られる最終部分に必要な形状に合致する一又は二以上の貫通穴を含む鋳造プレフォームを形成する段階』,『鍛造作業の前に,コマンドにより,一又は二以上のロッドを鋳造プレフォームの貫通穴に導入する段階』及び『形作られた貫通穴の中にロッドが一時的に位置付けられている間にロッドを受けるプレフォームを所定の大きさにする段階』とされているだけで,本件補正発明の『ロッド』が,鋳造プレフォームに形成されている穴の大きさ及び形状を鍛造後まで維持するためのものであることについて特定されていると解することはできない。」(7頁30行〜8頁1行)と判断しているが,この判断を是認することはできない。
(2) 引用発明の意義ア引用例(甲1)の「発明の詳細な説明」には次の(ア)〜(エ)の記載があり,図面として,次の(オ)の記載がある。
(ア) 産業上の利用分野「本発明は,アルミニウム,マグネシウム,チタンなどに代表される軽金属素材から成る製品の製造に特に適した成形方法に関するものである。」(段落【0001】)(イ) 発明の構成・「本発明の第一の要旨は,軽金属材料を主体とする鋳物用溶湯を一次金型中において成形することにより,最終製品より一回り小さい予備成型物を鋳造し,該予備成型物を,目的製品の形状を備え後記押圧手段の移動域を除いて密閉された二次金型中に収容し,該予備成型物が定形性を阻害されない限度においてなるべく高温か,若しくは,該予備成型物を構成する金属組織中に固相と液相とが混在する温度域において,該予備成型物に所定の鍛造比を確保すべく予め形成しておいた余肉部の一部若しくは全部を前記二次金型に付設した1以上の押圧手段によって押圧することにより,前記余肉部を目的製品側に移行させて,所望形状の目的製品を成形することを特徴とする軽金属製品の成形方法にある。」(段落【0010】)・「上記において,予備成型物は,鋳造金型から取り出して,未だ十分に温度が高い状態で,保温されている二次金型中に収納するか,若しくは予備成型物を余熱することによって,予備成型物の定形性が阻害されない限度において,二次金型に収納するか,若しくは,二次金型中で加熱して,所定の温度まで上げるか,或いは,これらの加熱手段を併用することにより,二次金型による成形が行われる。この温度は,鋳物用金属材料の種類により異なるが,予備成型物の鋳物組織中に,凝固しつつある液相と固相とが共存する温度域において,二次金型中における余肉部の押圧が行われることが望ましい。液相の存在比率が20〜30%程度となるような温度域で行われるのが,最も好ましい。但し,この固液共存状態における成形は,上記第一要旨に規定される発明方法にとっては,必須でない場合がある。例えば,形成すべき凹部形状が単純で,浅い場合には,液相の存在を必要としない。
二次金型の分割様式は,上下分割,左右分割,上下横分割など,いずれの方式も採用可能である。」(段落【0011】)・「本発明の第二の要旨は,前記第一要旨において規定された軽金属製品の成形方法において,予備成型物に凹部が形成されており,該凹部に,目的製品の凹部形状と同一若しくは近似した外形を有する入子型を,最終成型物から抜去可能に充填した状態で,二次金型中において該予備成型物に予め設けられている余肉部を押圧手段によって押圧することを特徴とする軽金属製品の成形方法にある。」(段落【0012】)・「上記の入子型は,一般的には,二次金型に設けた開口を通して予備成型品の凹部に挿入充填される。入子型の案内通路となるこの開口は,入子型の一部分で閉塞された状態で予備成型物に挿入充填されて,押圧手段による余肉部の押圧が行われ,成形後に,流体圧シリンダ等を備えた抜き型装置で成型物から抜去する。従って,入子型は,抜き勾配が設けられていることが望ましい。また,目的製品の凹部形状が,その最終製品形状通りに入子型を製作すると,成型後の抜去が不可能になってしまうような凹部形状を備えている場合は,抜去可能で且つ最終製品形状に近い外形を備えた入子型を用い,抜去後に,簡単な切削加工等により目的製品とする。」(段落【0013】)・「上記第一若しくは第二要旨において規定される方法において,余肉部を押圧する押圧手段の外形を,目的製品に形成されるべき穴,及び/又は,凹部の形状をなすように形成しておき,所定の鍛造比を満足させるような余肉部の移動を実現すると共に,製品に設けるべき横穴等の凹部を形成することも,上記発明の範囲に含まれる。上記第一及び第二要旨の発明方法は,鋳造による予備成形により,目的製品に近い形状が既にできているので,余肉部を部分加圧して成形する際に,ガスの巻き込み,酸化膜や異物の巻き込みが生じたり,被成形金属が狭隘部を通過する際に生じやすいめくれ現象や異なった金属組織の合わさり目が生じるといったことが生じない。製品は,密閉型中で加圧成形されるので,形状精度が高い。更に,液相が混在する状態で成形が行われるので,従来の鍛造加工では,形成できなかった横穴などを同時成形できる。」(段落【0014】)・「本発明の第三の要旨は,軽金属材料を主体とする鋳物用溶湯を鋳造金型中において成形することにより,凹部を有すると共に所定の鍛造比を確保するための余肉を含んだ,最終目的製品に近い形状の予備成型物を作り,該予備成型物に形成された前記凹部に,目的製品の凹部形状と同一か,或いは,それに近似した外形を有する入子型を,最終成型物から抜去可能に充填した状態で,前記予備成型物の金属組織中に固相と液相とが共存する温度域で,鍛造金型によって塑性加工を施したのち,前記入子型を抜き取り,必要に応じて後加工処理を加えることを特徴とする軽金属製品の成形方法にある。」(段落【0015】)・「上記第三要旨において規定される発明において,鍛造金型に収容された予備成型物に設けられている凹部が,移動側の鍛造金型の移動方向と交差する方向に伸長する凹部を含み,該凹部に固定側鍛造金型を通して入子型が挿入出来るように構成されている場合も,上述の発明の範囲に含まれる。尚,上記第一乃至第三要旨において,予備成型物の鋳造方法は,重力鋳造法,低圧鋳造法,遠心鋳造法等,任意の鋳造法を採用することができる。上記第三要旨による発明によれば,鋳造による予備成型品に,凹部や横穴などを予め形成して,これに入子型を挿入して成形することにより,半凝固状態まで予熱された予備成型物が半流動状態で入子型の周囲に均一に回りこんで充填されるので,入子型に変形を及ぼすような力が全く作用せず,従来の鍛造加工では,形成できなかった横穴や凹部などを,鍛造により同時に形成できる。以下に,実施例を掲げて,より具体的に説明する。」(段落【0016】)(ウ) 実施例1及びその効果・「アルミニウム合金から成る鋳物用溶湯を,一次金型としての重力鋳造用金型(図示せず)中に,常法に基づいて流し込んで,図1に示す,予備成型物1を作る。予備成型物1には,予め,最終目的製品2に設けるべき穴3,3の位置に相当する部分とその上部に,鍛造比を考慮して,十分な量の余肉部1a,1aを,一部分が上方に突出する状態で設けておく。このような予備成型物1を,十分に定形性が得られた時点で,鋳造用金型を開いて取出し,必要ならば,加熱炉において,加温して,使用したアルミニウム鋳物合金の固液共存の温度域(例えば550〜600℃)に保ち,これを,予め保温してある二次金型の下型5上に載置し,上型6を閉じる。予備成型物の形状は,鍛造比を考慮して最終製品形状を持つ二次金型内部の形より一回り小さく形成されている。」(段落【0017】)・「但し,二次金型の上型6には,余肉部1a,1bの頂部を開放する開口6a,6bが設けられており,この開口6a,bに,押圧手段としての,プレスロッド7a,7bの下端が,油圧シリンダ等によって,上下往復動自在に,臨ましめてある。プレスロッド7a,bの外形は,目的製品2の穴3,3の形状と同じに形成されている。上型6を閉じたら直ちに,プレスロッド7a,bを下降させて,下死点まで進入させ,余肉部1a,1aを押圧して周囲の鋳物組織へ押し込むことによって,鋳物組織の加圧及び移動を生じさせ,予備成型物1は,二次金型と予備成型物1との隙間を埋めるように形状を変化させて,二次金型内壁を強圧することにより,成形が終了する。プレスロッドを後退させ,二次金型を開いて成形物を取出し,必要に応じて,穴3の周縁のトリミング等をすることにより,目的製品2を得る。」(段落【0018】)・「上記方法によれば,二次成形時における鋳物組織は,半凝固状態にあることから,押圧手段によって鋳物肉の移動は,緩やかで,空気を巻き込むことがなく,又,鋳物組織も,ほぼ同じ大きさの結晶組織が熔融金属中に密に分散した状態であるため,密度が均一で,健全な組織を持つ成型物が得られる。更に,二次金型6は,密閉されているので,上下型の分割面8にバリが発生せず,かすかに,1条の線が見える程度で,バリ取り工程が不要で,外観も損なわれない。」(段落【0019】)(エ) 実施例4及びその効果・「図8〜9は,本発明方法の第4実施例を示すものである。予備成型物50は,前記実施例1〜3の場合と全く同様に,重力鋳造金型により鋳造されたアルミニウム合金鋳物である。この予備成型物50には,図9の最終目的製品70に設けるべき横穴71,72より,夫々大きい,大小の横穴51,52が,形成されている。一方,二次金型は,ダイホルダーに固定されている鍛造下型61と,上下に移動する鍛造上型62とからなり,下型61には,目的製品70の横穴71と72の形状を備えた入子型63と64とが,夫々,該下型61の側壁面に設けた開口65,66に夫々臨ましめてある。」(段落【0027】)・「一方,上型62には,目的製品70に,その上面中央部付近から下方に伸長するように設けられるべき縦穴73を,形成するための突出部69が設けられている。このような鍛造型中に,予備成型物50を予熱するか,若しくは,未だ,凝固が終了せず,固相と液相とが未だ混在して共存する温度において鋳造型から取り出すかして,下型61にセットする。もちろん,上,下型62,61も,離型剤の塗布に差し支えない範囲で十分に予熱しておく。入子型63,64を夫々横穴51,52内の所定の位置に挿入固定し,上型62をゆっくりと下降させて,予備成型物を加圧成形する。成形が終了したら,上型62を上に移動すると共に,入子型63,64を後退させ,目的成型物を型から外す。」(段落【0028】)・「上記の方法によれば,入子型63,64は,予め設けられた横穴51,52の中に収納されており,加圧時に,上型の突出部69により排除された余肉部50aやその他の余肉部が,入子型の周囲に均一に充填されてくるので,加圧により,変形する恐れが全くなく,横穴72が可成り細長いものであっても,成形後に,容易に引き抜くことができる。」(段落【0029】)(オ)【図1】,【図2】,【図8】及び【図9】は,次のとおりである。
【図1】(本発明方法の第1実施例の要部を示す説明図)【図2】(第1実施例による方法で作られた目的製品の外形を示す説明図)【図8】(本発明方法の第4実施例の要部を示す説明図)【図9】(本発明方法の第4実施例の目的製品の構成を示す断面説明図)イ上記アの記載によれば,引用例(甲1)の実施例4には,審決(5頁4行〜18行)が認定するとおり,下記の発明が記載されているものと認められる。
記「鋳造され,次いで鍛造される,二つの横穴71,72を備えた最終目的製品70の製造方法であって:得られる最終目的製品70に設けるべき二つの横穴71,72より大きい二つの横穴51,52を含む予備成型物50を形成する段階と;予備成型物50を予熱する段階と;予備成型物50をプレス上に配備された鍛造下型61にセットする段階と;鍛造作業の前に,コマンドにより,二つの入子型63,64を予備成型物50の横穴51,52に導入する段階と;形作られた横穴51,52の中に入子型63,64が一時的に位置付けられている間に入子型63,64を受ける予備成型物50を所定の大きさにする段階と;鍛造上型62を持ち上げて鍛造された成型物を自由にする段階と;横穴51,52に位置付けられた入子型63,64を引き出す段階と;鍛造された成型物を取り外す段階と;を実施する方法。」(3)事案に鑑み,取消事由1(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)及び取消事由3(相違点4に係る容易想到性判断の誤り)について判断する。
ア 取消事由1につき(ア)前記(1)イのとおり,本件補正発明における「得られる最終部分に必要な形状に合致する一又は二以上の貫通穴を含む鋳造プレフォームを形成する段階」において形成されるプレフォームは「鋳造された時点で既に最終部分に必要な形状とされた貫通穴を有するプレフォーム」であり,当該貫通穴の寸法は,その後の鍛造段階を経ても実質的に変化しないと解することができる。
(イ)また前記(2)イのとおり,引用発明においては,予備成型物50に最終目的製品70に設けるべき二つの横穴71,72より大きい二つの横穴51,52を形成しておき,鍛造によって,これらの横穴を変形させて,最終目的製品70に設けるべき二つの横穴71,72の形状とするものであるから,そもそも鋳造物の形状を最終製品の形状(寸法を含む)に同じものとすることは想定されていない。
この点について,被告は,引用例1(甲1)には,プレフォームに関し「予備成型物50は,前記実施例1〜3の場合と全く同様に,重力鋳造金型により鋳造されたアルミニウム合金鋳物である。」(段落【0027】)と記載されているとともに,「液相の存在比率が20〜30%程度となるような温度域で行われるのが,最も好ましい。但し,この固液共存状態における成形は,上記第一要旨に規定される発明方法にとっては,必須でない場合がある。例えば,形成すべき凹部形状が単純で,浅い場合には,液相の存在を必要としない。」(段落【0011】)と記載されているから,実施例4においても,余肉の流動をそれほど必要としない凹部形状の場合には,固相のみの状態としてもよいと主張する。
しかし,実施例4は,前記(2)ア(エ)のようなものであって,前記第3要旨(前記(2)ア(ウ)の段落【0015】)に対応するもので,固液共存状態における成形を行うものであり,被告が指摘する記載があるからといって,実施例4においても,固相のみの状態が想定されるとまでいうことはできない。また,仮に固相のみのものが想定されるとしても,余肉を流動させて,最終的な形状とするであるから,鋳造物の形状を最終製品の形状(寸法を含む)と同じものとすることが想定されていないことには変わりない。
(ウ)したがって,本件補正発明の鋳造プレフォームにおける「得られる最終部分に必要な形状に合致する一又は二以上の貫通穴」と引用発明の鋳造プレフォームにおける「横穴71,72」との間に実質的な差異がないということはできないから,審決の「本件補正発明における『得られる最終部分に必要な形状に合致する』がどのような形状のものであるか必ずしも明確ではないが,引用発明の鋳造プレフォームの穴も,得られる最終部分に必要な形状として形成されるものと解することができるから,両者に実質的な差異があるものとは認められない。」(7頁4行〜7行)との判断は,是認することができない。
(エ)さらに,審決は,上記(ウ)の説示に続いて,「また,たとえそのように解することができなかったとしても,引用発明における上記隙間について,隙間が小さいほど余肉部の流動量も少なく,鍛造による成形が容易となることは技術常識より明らかであるから,隙間をできるだけ小さくすること,すなわち鋳造プレフォームの穴をできるだけ得られる最終部分の穴に合致するようにすることは,当業者が普通に採用する事項であると認められる。」(7頁8行〜13行)と判断しているが,引用発明においては,上記のとおり,余肉を流動させることを前提としており,そもそも鋳造物の形状を最終製品の形状(寸法を含む)に同じものとすることは想定されていないのであるから,そこから,鋳造物の形状を最終製品の形状(寸法を含む)と同じものとすることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が普通に採用する事項であるということはできない。
(オ)乙1(複合加工技術研究会編「複合加工技術」196頁〜198頁[昭和59年4月5日産業図書株式会社発行]),乙3(特開平5-305409号公報,発明の名称「金属成形法」,出願人 株式会社アーレスティ,公開日 平成5年11月19日)及び乙4(特開平3-142032号公報,発明の名称「車両用ホイールの製造方法」,出願人旭テック株式会社,公開日 平成3年6月17日)には,鋳造,鍛造を経て,金属製品を製作する際に,鋳造物に設けられた穴などを含む鋳造物の形及び寸法を最終製品の形及び寸法に近いものとすることは,本件優先日当時(2000年[平成12年]12月27日)知られていたことが認められる。また,乙5(特開平8-155589号公報,発明の名称「サスペンションアーム鋳造用鋳型」,出願人 桐生機械株式会社,公開日 平成8年6月18日)及び乙6(特開平5-146841号公報,発明の名称「鍛造方法」,出願人 トヨタ自動車株式会社,公開日 平成5年6月15日)によれば,鋳造の精度を高めるなどして,鋳造のみで最終製品の形及び寸法とすることも,本件優先日当時(2000年[平成12年]12月27日)知られていたことが認められる。
しかし,引用発明は,上記のとおり,そもそも鋳造物の形状を最終製品の形状(寸法を含む)と同じものとすることは想定されていないことからすると,当業者が,上記の周知技術を引用発明に適用することを容易に想到するとも考えられない。
(カ)したがって,「鋳造プレフォームの穴を,得られる最終部分に必要な形状に合致するものとすることに格別の困難性はない。」(7頁14行〜15行)とした審決の判断には,誤りがあるというべきであり,作用効果の点について判断するまでもなく,取消事由1は理由がある。
イ 取消事由3につき(ア)前記(1)ウのとおり,本件補正発明における「ロッド」は,鋳造された時点で既に最終部分に必要な形状(寸法を含む)とされた貫通穴を,鍛造段階においてそのまま維持するためのものであると認められる。
これに対し,前記(2)アの引用例(甲1)の記載によれば,引用発明における「入子型63,64」は,最終製品の形状(寸法を含む)に合致したものである点は,本件補正発明における「ロッド」と共通するが,鋳造された時点で既に最終部分に必要な形状とされた貫通穴を,鍛造段階においてそのまま維持するためのものではない。
そして,審決は,本件補正発明における「ロッド」が鋳造プレフォームに形成されている穴の大きさ及び形状を鍛造後まで維持するためのものであると解されたとしても,「鋳造プレフォームの穴をできるだけ得られる最終部分の穴に合致するようにすることは当業者が普通に採用する事項であると認められ,鋳造プレフォームの穴を,得られる最終部分に必要な形状に合致するものとすることに格別の困難性はないというべきである。」(8頁2行〜6行)と判断している。
しかし,前記ア(イ)のとおり,引用発明においては,そもそも鋳造物の形状を最終製品の形状(寸法を含む)と同じものとすることは想定されていないのであるから,引用発明における「入子型63,64」を本件補正発明における「ロッド」とすることは,当業者が普通に採用する事項であるということはできず,審決の上記判断を是認することはできない。
(イ)そして,鋳造技術において,鋳造物に最終製品の形及び寸法もしくはそれに近似した貫通穴を形成し,その貫通穴に部材を挿入した状態で鍛造することが,前記乙6に示されているとしても,乙6は,審判手続において引用例とされたものではないから,前記ア(オ)の限度で周知技術として考慮することはできるが,それを超えて考慮することはできないというべきである。
(ウ)なお,引用例1(甲1)の段落【0013】には,「従って,入子型は,抜き勾配が設けられていることが望ましい。また,目的製品の凹部形状が,その最終製品形状とおりに入子型を製作すると,成型後の抜去が不可能になってしまうような凹部形状を備えている場合は,抜去可能で且つ最終製品形状に近い外形を備えた入子型を用い,抜去後に,簡単な切削加工等により目的製品とする。」と記載されていて,これにより,目的製品に形成されるべき穴の形状と成型後の入子型の抜去を考慮しつつ入子型の形状を適宜変更可能であることが開示されており,また,引用例1(甲1)の段落【0030】に,「上記実施例4の方法によれば,細くて深い横穴が容易に形成でき,しかも,鍛造成形工程により,鋳物組織が十分に改善されて,高品質の製品が安価に得られる。」と記載されているとしても,前記ア(イ)のとおり,引用発明においては,そもそも鋳造物の形状を最終製品の形状(寸法を含む)に同じものとすることは想定されていないのであるから,引用発明における「入子型63,64」を本件補正発明における「ロッド」とすることを,当業者が容易に想到するということはできない。
(エ)したがって,「入子型をどのような形状とするかは,得られる最終部分の形状に対応して設定される事項であり,引用発明において入子型をロッドとすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得る設計的事項にすぎない。」(7頁22行〜24行)とした審決の判断には,誤りがあるというべきであり,作用効果の点について判断するまでもなく,取消事由3は理由がある。
3結論以上のとおり,引用例(甲1)は,本件補正発明に対する主引用例としては,適切でないというべきであり,再度の審判に当たっては,他に適切な引用例があるかどうか等も含めて審理判断することが望まれる。
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海