関連審決 | 不服2006-14801 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21行ケ10092審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
不服200627219 | 審決 | 特許 |
平成21行ケ10033審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21行ケ10144審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
不服20056282 | 審決 | 特許 |
関連ワード | 特許を受ける権利 / 使用方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明特定事項 / 周知技術 / パリ条約 / 優先権 / 名義変更 / 登録実用新案 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / 独立特許要件 / 国際出願 / |
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事件 |
平成
21年
(行ケ)
10080号
審決取消請求事件
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原告ワイス 同訴訟代理人弁護士片山英二 服部誠 同弁理士小林浩 加藤志麻子 被告特許庁長官 同 指定代理 人川本眞裕蓮井雅之 紀本孝 安達輝幸 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/12/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1特許庁が不服2006−14801号事件について平成20年11月10日にした審決を取り消す。 2訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求主文1項と同旨第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,本件補正を却下した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯(1)ザプロクターアンドギャンブルカンパニー(以下「訴外会社」という。)は,発明の名称を「使い捨て温熱身体ラップ」とする発明につき,平成11年(1999年)9月15日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づくパリ条約による優先権を主張して,平成12年(2000年)9月6日に日本を指定国に含む国際出願(出願番号:特願2001-522941号,国際出願番号:PCT/US00/24433。請求項の数は10である。)を行った(甲1)。 (2)訴外会社は,平成17年8月15日,手続補正書(甲4)を提出したが,平成18年4月11日発送の拒絶査定がされた(甲5)。訴外会社は,同年7月10日,不服の審判を請求し(甲6),同年8月2日に手続補正書を提出した(甲7,8。以下「本件補正」という。)。 (3)特許庁は,上記請求を不服2006-14801号として審理し,平成20年11月10日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は同年11月25日,訴外会社に送達された。 (4)原告は,平成20年9月30日,訴外会社から本件出願に係る発明につき特許を受ける権利を譲り受け(甲9),同年10月31日,特許庁に出願人名義変更届(甲10)を提出した。 2本件補正前後の特許請求の範囲の記載本件補正前後の請求項1の記載は,それぞれ下記(1)及び(2)のとおりである。以下,下記(1)記載の発明を「本願発明」,同(2)記載の発明を「本件補正発明」といい,本件出願に係る明細書(甲1,4,8)を「本願明細書」という。 (1)本件補正前の請求項1の記載本願発明(平成17年8月15日付け手続補正後のもの)に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。 a)ほぼ薄板状で,第1側部,第2側部,第1端と第2端を有する長手軸,この長手軸と平行に伸び,第1端と第2端で終焉する第1端部と第2端部,及び,前記第1端と第2端のほぼ中心において前記第1端部および前記第2端部よりも幅の狭いくびれ部を有する可撓性材料からなる少なくとも1つの連続層と,b)可撓性材料からなる前記少なくとも1つの連続層に固定されるか,または前記少なくとも1つの連続層の内部に固定されるように,前記長手軸に対してほぼX字型に配設される温熱素子を含む,1つまたは離隔配置された複数のヒートセルと,c)前記第1端と前記第2端あるいはこれらの近傍に配設され,使用者の身体に温熱身体ラップを取り外し可能に取り付けるための手段とを有する一体積層構造体を備え,前記取り付け手段は,確実な初期および長期的取り付けや取り付け直しを可能にし,皮膚から簡単にかつ痛みのない取り外しができ,前記ラップの取り外し後に皮膚にほとんど残留しない,使い捨て温熱身体ラップ。 (2)本件補正後の請求項1の記載本件補正発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。 なお,下線部分は補正箇所を示す。 a)ほぼ薄板状で,第1側部,第2側部,第1端部と第2端部を有する長手軸,この長手軸と平行に伸び,第1端部と第2端部で終焉する第1縁部と第2縁部,及び,前記第1端部と第2端部のほぼ中心において前記第1縁部および前記第2縁部よりも幅の狭いくびれ部を有する可撓性材料からなる少なくとも1つの連続層と,b)発熱組成物を含む複数のヒートセルであって,各ヒートセルは隔離されると共に可撓性材料からなる前記少なくとも1つの連続層に固定されるか,または前記少なくとも1つの連続層の内部に固定され,各ヒートセルは,前記長手軸に対してほぼX字型に隔離配設される,複数のヒートセルと,c)前記第1端部と前記第2端部あるいはこれらの近傍に配設され,使用者の身体に温熱身体ラップを取り外し可能に取り付けるための手段とを有する一体積層構造体を備え,前記取り付け手段は,確実な初期および長期的取り付けや取り付け直しを可能にし,皮膚から簡単にかつ痛みのない取り外しができ,前記ラップの取り外し後に皮膚にほとんど残留しない,使い捨て温熱身体ラップ。 3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件補正発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。),下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)及び下記ウ,エの参考例1,2に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下「法」という。)17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に違反するので,法159条1項において準用する法53条1項の規定により却下すべきものであり,また,本願発明は,同様に,引用発明1,2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。 ア引用例1:米国特許第5674270号明細書(甲11。平成9年頒布)イ引用例2:特開平11-19112号公報(甲12。平成11年1月26日公開)ウ参考例1:米国特許第5277180号明細書(甲13。平成6年頒布)エ参考例2:登録実用新案第3022784号公報(甲14。平成8年頒布)(2)なお,本件審決は,その判断の前提として,本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。 一致点:a’)ほぼ薄板状で,第1側部,第2側部,第1端部と第2端部を有する長手軸,この長手軸と平行に伸び,第1端部と第2端部で終焉する第1縁部と第2縁部を有する可撓性材料からなる少なくとも1つの連続層と,b’)発熱組成物を含む複数のヒートセルであって,各ヒートセルは隔離されると共に可撓性材料からなる前記少なくとも1つの連続層に固定されるか,または前記少なくとも1つの連続層の内部に固定され,各ヒートセルは,隔離配設される,複数のヒートセルと,c’)使用者の身体に温熱を与えるように温熱身体ラップを取り外し可能に取り付けるための手段とを有する一体積層構造体を備えた使い捨て温熱身体ラップ。 相違点1:本件補正発明の連続層は,第1端部と第2端部のほぼ中心において前記第1縁部および前記第2縁部よりも幅の狭いくびれ部を有するのに対して,引用発明1の連続層(セル形成加工層20)は,幅の狭いくびれ部を有する形状ではない点。 相違点2:本件補正発明の各ヒートセルは,長手軸に対してほぼX字型に隔離配設されるのに対して,引用発明1のヒートセル(セル16)は,隔離配設されるものの,X字型の配設ではない点。 相違点3:本件補正発明の温熱身体ラップを取り外し可能に取り付けるための手段は,第1端部と前記第2端部あるいはこれらの近傍に配設され,使用者の身体に取り付けるものであり,確実な初期および長期的取り付けや取り付け直しを可能にし,皮膚から簡単にかつ痛みのない取り外しができ,前記ラップの取り外し後に皮膚にほとんど残留しないのに対して,引用発明1の温熱身体ラップを取り外し可能に取り付けるための手段(温熱パッド10の取付手段34)は,衣服に取り付けるものであり,その配置は,第1端部と第2端部(左右の端部)あるいはこれらの近傍に特定されていない点。 4取消事由(1)相違点1についての判断の誤り(取消事由1)(2)相違点2についての判断の誤り(取消事由2)(3)相違点3についての判断の誤り(取消事由3)第3当事者の主張1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について〔原告の主張〕参考例1から「温熱身体ラップの形状として,各端部のほぼ中心において幅の狭いくびれ部を有する形状は周知の形状」であるということはできないから,このような周知技術の存在自体が否定される。また,参考例1に記載されている事項を正しく認定したとしても,これを引用発明1と組み合わせることはできない。 (1)周知技術の認定の誤りについて参考例1には,産科あるいは婦人科用の吸収パッド(いわゆる産褥パッドのようなもの)に関する発明が記載されているにすぎず,「温熱」機能や,「温熱パック」との関係で「温熱身体ラップの形状として,各端部のほぼ中心において幅の狭いくびれ部を有する形状」というような周知技術は記載されてなどいない。また,「砂時計の形状」は,吸収の対象となる体液が分泌される患部との関係での好ましい形状,つまり,股間という特定の患部にフィットするための適切な形状として記載されているにすぎない。 本件審決は,参考例1の図1,2,4に示される吸収パッドの外形をもって,上記周知技術の認定をしたものと解されるところ,当該外形は,「産科あるいは婦人科用の吸収パッド」の外形にすぎない。そして,このような外形が採用されている理由は,吸収パッドの形状を,患部に対応した身体部位(すなわち股間)に適した形状とするためである。 (2)引用発明1と周知技術の組合せそうすると,参考例1に記載された,図1,2,4に示される吸収パッドの外形に基づいて相違点1が容易になし得るか否かという観点から検討したとしても,この点は参考例1に基づいて容易になし得るとはいえない。なぜなら,引用発明1の温熱パッド1の形状は,生理痛緩和のために,女性の腹部付近に沿うようにするために採用されたものであり,このことからも,引用発明1の温熱パッドは当該用途にほぼ限定されるものであり,腹部や額などゆるやかなカーブを持つ身体の部位に自然に沿うことができるように設計されたものでしかないところ,腹部や額などの保温を用途とする引用発明1の温熱パッドにおいて,参考例1の図1,2,4に記載された産科あるいは婦人科用の吸収パッド特有の形状(すなわち股間にフィットするような形状)を採用するはずなどないからである。 (3)被告の主張に対する反論ア被告は,当審において,乙1,2を提出するが,「周知技術」の名を借りて実質的に新たな証拠を提出するものであるから,そのような証拠の提出は認められるべきではなく,参考例1に代えて,乙1,2を理由として,相違点1の容易想到性を主張することはできない。 相違点1,2は,本件補正発明の核心的な重要な構成であることからすると,当該相違点に関する刊行物は,容易想到性を肯認する推論過程において参酌される技術ではなく,容易想到性を肯認する判断の引用例として用いられていることは明らかである。文献提出の可否は,当該文献の立証における役割に純粋に基づいて決定されるべきであり,当審における乙1,2は,容易想到性を肯認するための新たな文献であるから,提出を認められるべきではない。 そして,新たな証拠に基づいて審決の結論を正当化してはならないことは,審決には理由を付さなければならないとする特許法157条2項4号の規定に照らしても明らかである。 イまた,乙1,2のいずれにも,「温熱身体ラップの形状として,各端部のほぼ中心において幅の狭いくびれ部を有する形状は周知の形状」などということは記載がされていないし,乙1,2からは,相違点1の容易想到性を肯定し得ない。 ウ被告は,引用発明1は腹部や額などの保温を用途とするものに限定されないとして,引用発明1と参考例1の組合せが肯定されるような主張をするが,上記の組合せが否定される主たる理由は,引用発明1の温熱パッドが主として腹部や額などの適用を意図していることではなく,そもそも引用発明1が温熱機能しかもたない単純な温熱パッドでしかないことからすると,参考例1の産科あるいは婦人科用の吸収パッドとしての好ましい形状を単なる温熱パッドに適用する理由がないということである。よって,引用発明1と参考例1の組合せは,否定される。 なお,被告は,引用発明1は他の部位へ適用する温熱パッドが排除されない旨主張するが,「この発明は,一方の面を使用者の衣服に接着し,反対側の面を使用者の肌に対して維持されるようにすることを意図してなされた温熱パッドに関し」との記載があるからといって,このような単なる1行記載をよりどころとして,引用例1に記載された発明を不当に広く解釈し,ひいては,本件補正発明との差別化ができないかの如く主張することは許されない。 (4)まとめしたがって,本件審決の上記周知技術の認定は誤りであるから,相違点1が,周知技術によって容易になし得るとの判断も誤りである。 〔被告の主張〕以下のとおり,本件審決の相違点1についての判断に誤りはない。 (1)周知技術の認定の誤りについて参考例1(1欄11〜14行,38〜41行)の記載によると,参考例1に示された吸収パッド並びに温熱パックなるものも,患者の身体に温熱を与えて痛みを軽減するものであるから,本件補正発明と同様,「温熱身体ラップ」ということができる。また,参考例1の1欄28〜34行の記載や,図1,2,4に砂時計の形状の温熱身体ラップが図示されていることからすると,参考例1には,温熱身体ラップの形状の例として,「各端部のほぼ中心において幅の狭いくびれ部を有する形状」が示されているということができる。 また,参考例2の図4,5に示される形状も,「温熱身体ラップの形状として,各端部のほぼ中心において幅の狭いくびれ部を有する形状」ということができる。 なお,この点は,乙1,2も同様である。 したがって,上記形状は,温熱身体ラップの形状として周知の形状である。 (2)引用発明1と周知技術との組合せ引用例1(1欄5〜11行)の記載によれば,腹部に熱を与え生理痛を緩和するための温熱パッドは,「さらに重ねて詳しく」いった場合の例として記載されているのであり,他の部位へ適用する温熱パッドが排除されないことは明らかである。 したがって,引用発明1が腹部や額などの保温を用途とするものに限定されているとの原告の主張は誤りである。 また,引用発明1は,腹部や額などの保温を用途とするものに限定されていない温熱身体ラップである。そして,「温熱身体ラップの形状として,各端部のほぼ中心において幅の狭いくびれ部を有する形状」は,周知の形状であり,引用発明1において,セル形成層の形状を上記周知の形状とする程度のことは,当業者であれば容易に想到し得ることである。 2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について〔原告の主張〕参考例2には本件審決が認定する「各ヒートセルのX字型の隔離配設」というような周知技術は記載されていないから,当該周知技術の存在自体も否定される。また,引用発明1においては,「使用者の身体または各部位のさまざまな領域の運動に順応する」ことなど当然に要求されてはいない。 (1)周知技術の認定の誤りについて参考例2には,各ヒートセルのX字型の隔離配設の点はおろか,ヒートセルの配置の仕方に関する記載は一切ない。参考例2の図4,5から見てとれるのは,サポーターの不織布11の形状がX字型をしているということだけであり,皮膚接触区層2をX字型に配設することなど記載されておらず,何らヒートセルの配置の特徴が理解できるものではない。そもそも,参考例2においては,発熱体としては,一貫して電熱片(電熱線)を用いることしか想定しておらず,ヒートセルを用いることすら記載されていないのであるから,ヒートセルの配置に関する技術的教示が読みとれるはずなどないのである。 参考例2でいう「X字型の配設」の配設とは,上記相違点2に対応した,「ヒートセルのX字型の配設」と解釈しなければつじつまが合わないし,しかも上記周知技術を相違点2の容易想到性の根拠とすることができないはずである。 しかしながら,参考例2の【0013】の記載を見ても,何らヒートセルのX字型の隔離配設に関する技術的教示はないから,そもそも本件審決のいう周知技術の存在自体が否定される。 よって,本件審決の上記周知技術の認定の誤りは明白であるところ,相違点2が周知技術によって容易になし得るとの判断もまた誤りである。 (2)相違点2の判断におけるその他の誤りについて引用発明1に記載されている温熱パッドは,腹部や額などゆるやかなカーブを持つ身体の部位に使用することを目的としたものであるから,本件審決のいうように「使用者の身体または各部位のさまざまな領域の運動に順応することが当然に要求されている」とはいえない。引用例1には,衣服(実施例ではパンティー)に対して接着して腹部に熱を与え生理痛を緩和する温熱パッドが記載されているだけであり,また,想定される他の用途を加味したとしても,頭痛緩和のためにスウェットバンドに接着して額に熱を与える用途しか記載されていないから,上記認定を根拠とした「それぞれが隔離配設される引用発明1においても,運動に順応する周知の配置を排除する格別の事情は認められない」との本件審決の判断も誤りである。 (3)容易想到性引用発明1の前提からすると,引用発明1と参考例2とを組み合わせた場合を想定したとしても,引用発明1から出発し,参考例2に記載されている不織布のX状の裁断(外形)に関する技術的教示を素直に見たならば,この技術的教示を適用するべき対象も,当然引用発明1の外側布地の形状となるはずである。参考例2の不織布の外形形状が,引用発明1のヒートセルの配置にまで適用されるなどというのは,本件補正発明を見たからこそいえる,後知恵的発想である。 〔被告の主張〕以下のとおり,本件審決の相違点2についての判断に誤りはない。 (1)周知技術の認定の誤りについて参考例2の【0013】の記載によると,サポータを関節部分に適用する際,活発に活動する部分での使用に適合するため,X状の裁断を採用し,皮膚接触区層2もX字型に配設した例が示されている。よって,参考例2には,適用する部位の運動に順応する配置として,X字型の配設という周知技術が示されている。 本件審決は,参考例2に「ヒートセルのX字型の隔離配設」が開示されていると認定したのではなく,「そのような目的の配置として,X字型の配設」が従来周知であると認定しただけであり,適用する部位の運動に順応する配置として,「X字型の配設」が従来周知であると認定したのである。 また,原告は,参考例2は不織布の外形をX状にすることを記載しているにすぎないとも主張するが,そうであっても,引用発明1の温熱パッドの外形を,参考例2の外形に倣ってX状にすれば,隔離配設された複数のヒートセルの配置も,その外形に沿ってX状とすることが自然であるから,相違点2に係る構成が容易想到であることに相違ない。 (2)相違点2の判断におけるその他の誤りについて引用例1(1欄5〜11行)の記載によれば,腹部に熱を与え生理痛を緩和するための温熱パッドは,「さらに重ねて詳しく」いった場合の例として記載されているのであり,他の部位へ適用する温熱パッドが排除されないことは明らかである。 すなわち引用例1には,身体の様々な部位に適用し得る温熱パッドが記載されている。 また,仮に,引用例1からは腹部に適用する温熱パッドしか認定できないとしても,引用発明1は,使用者の腹部に沿うようにして接着するものであるから,腹部の湾曲に沿うように曲がることが必要であるし,使用者が腰を捻ったり,立ち上がったり,座ったりするたびに腹部は捻られたり,皺が寄ったりするのであるから,それらの動きに順応できるようにすることは,温熱身体ラップを身体の所定の部位に対してしっかりと維持する上で,当然の要求である。 (3)容易想到性温熱身体ラップを関節部分等,活発に活動する部分へ適用することは例示するまでもなく周知であるから(参考例2,乙2),引用例1に明示的記載がなくとも,これらの部位へ適用することは当業者であれば想到できることである。 3取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について〔原告の主張〕相違点3の判断に関連して本件審決が認定した「幅の狭いくびれ部を有する形状の両端部近傍に取付手段を配設する」という周知技術は存在せず,また,本件審決は,引用発明2の認定を誤った上,引用発明1と引用発明2が組み合わせられるという誤った判断をしたから,相違点3に関する本件審決の判断は誤りである。 (1)周知技術の認定の誤りについて本件審決は,参考例1から,「幅の狭いくびれ部を有する形状の両端部近傍に取付手段を配設すること」は従来周知であると認定しているが,何ら技術分野を特定せずに,周知技術を認定している上,参考例1が開示しているのは,産科あるいは婦人科用の吸収パッドであるから,極めて包括的な事項が周知であるなどということはできず,本件審決が認定した周知技術の存在は否定される。 (2)引用発明1と引用発明2との組合せア引用例2には,「確実な初期および長期的取り付け」の点については記載されていない。引用例2においては,「熱による流動性の増大や粘着力の変化がないこと」,すなわち加熱環境にあっても粘着力の変化がないことを説明しているにすぎないから,この点をもって「確実な初期および長期的取り付け」が記載されていると認定することには,論理の飛躍がある。 イ本件審決は,「引用発明2が,同要求を排除すべき格別の事情を有するものとは認められない」などという持って回った言い方をしているが,結局のところ,引用例2には,取り付け直し可能な接着剤が記載されていると認定しているのである。しかし,引用発明2の粘着剤においては,取り付け直しをすることなど全く想定していないから,取り付け直し可能な接着剤など記載されていない。引用例2の【0004】【0005】の記載によると,引用発明2の接着剤は,「使用中には剥離,ずれを生じず,かつ使用後に剥離する際には使用者に痛みを与えない」という性質を具備することを目的として調製されたものでしかなく,剥がした後に再度接着できるような性質は備えていない。よって,本件審決が,引用発明2の粘着剤が取り付け直し可能であるかのような認定をしたことは誤りである。 ウ本件審決は,「引用発明2を適用して引用発明1の取付を身体に対してなすことに格別の発明は認められず」(10頁3〜4行)としているが,引用発明1は,衣服に接着して,身体に対し熱を与えながらも,酸素透過性を維持することを目的とした発明であり,このような課題を解決するために,接着する側を衣服とし,かつ当該接着面側に酸素透過手段を設けている(1欄66行〜2欄3行)ことからすると,酸素透過手段と接着手段とが同じ面に位置することを前提とする引用発明1においては,接着面を身体側に変更するはずはないのである。なぜなら,引用発明1の温熱パッドの接着面を衣服側としているのは,衣服にはもともと通気性があることを利用しようとするからであり,この点に鑑みて,衣服に接着するための温熱パッドの接着面にも酸素透過性を持たせているのである。一方,身体には通気性がないのであるから,温熱パッドの接着面に酸素透過性を持たせたところで,これを身体側に接着したのであれば,酸素透過性を実現できなくなることは明らかである。 上記引用発明1の解決すべき課題及び解決手段からすると,引用発明1の温熱パッドにおいては,これを身体側に貼着するように変更することはないのであるから,引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けもない。 エ以上のとおり,引用発明1と引用発明2とを組み合わせることはできない。 (3)容易想到性ア相違点3のうち,「取り外し可能に取り付けられる手段」の位置が「第1端部と第2端部の近傍」である点は,参考例1から容易になし得ないこと参考例1には,温熱身体ラップの取付手段に関する一般的開示などそもそもないから,参考例1には,温熱身体ラップに関し「幅の狭いくびれ部を有する形状の両端部近傍に取付手段を配設すること」が周知技術として開示されているとは到底いえないし,引用発明1の温熱身体ラップは,身体に貼着するものではないから,被告の主張は,引用発明1において,上記相違点の容易想到性を正当化する理由になり得ない。 イ相違点3のうち,「温熱身体ラップを使用者の身体に取り付けるものとし,確実な初期及び長期取り付けや取り付け直しを可能にし,皮膚から簡単にかつ痛みのない取り外しができる」点は,引用発明2から容易になし得ないこと引用例1(1欄21〜23行)に記載された従来技術の認識及び引用発明1の内容からすると,引用発明1において,これを「身体に直接に接着する」ことなど想定していないといえるし,このような想定していない状況に基づいて,引用発明1の特徴点である「酸素透過手段と接着手段とを同じ面に設ける」点に逆行して,「両手段を異なる面に設けてもよい」などということはできないはずである。 また,引用例2に「確実な初期取り付け」に関する記載は一切ないところ,本件審決の論理からすると,引用発明2の接着剤自身が,「確実な初期および長期的取り付け」及び「取り付け直し可能」な性質を有していると判断したと解さなければつじつまがあわない。よって,本件審決の判断を正当化するのであれば,少なくとも引用発明2の接着剤自身が,「確実な初期および長期的取り付け」及び「取り付け直し可能」な性質を有することを立証しなければならないはずである。引用発明2の接着剤の性質は,引用例2の記載(特に接着剤を構成する材料)から決定づけられるものであり,乙3〜5にこのような要求が記載されていたとしても,引用発明2の接着剤の性質を変えることなどできない。なお,新たな証拠乙3〜5に基づき,相違点3に関する本件審決の判断を正当化しようとする被告の主張も,特許法157条2項4号の趣旨に照らせばそもそも許されない。 〔被告の主張〕以下のとおり,本件審決の相違点3についての判断に誤りはない。 (1)周知技術の認定の誤りについて温熱身体ラップを身体に貼着することは周知であって,その際,取付手段を温熱身体ラップのどこに配置するかは,そもそも,その温熱身体ラップを身体のどこに取り付けるかに応じて適宜決定すべきものであり,設計的事項にすぎない。 本件審決は「先に示した参考例1」と記載しており,参考例1の技術分野が温熱身体ラップであることを特定しているし,参考例1(1欄11〜14行,38〜41行)の記載によると,参考例1に示された吸収パッドならびに温熱パックなるものも,患者の身体に温熱を与えて痛みを軽減するものであるから,本件補正発明と同様,温熱身体ラップということができる。また,図4には,温熱身体ラップの両端部近傍に取付手段400が配置されているものが図示されている。 したがって,参考例1は「幅の狭いくびれ部を有する形状の両端部近傍に取付手段を配設すること」が周知であることの一例ということができる。 (2)引用発明1と引用発明2との組合せア「確実な初期および長期的取り付け」について引用例2の【0004】の記載によると,温熱貼付剤を皮膚に貼ることが記載され,皮膚の凹凸,伸縮等に追随可能な柔軟な粘着性を有し,粘着力の変化がないことは,すなわち,「確実な初期および長期的取り付け」を意図するものである。また,引用例2の【0005】【0025】【0029】【0019】の記載からみても,「確実な初期および長期的取り付け」が可能であることは明らかである。 イ「取り付け直し」について一般に粘着剤によって物を取り付ける際に,取付位置が所望の位置からずれていたりすることはよくあることであり,そのような場合に,より適切な位置に取り付け直しをしたいという要求は,日常よく経験することである。しかも,温熱身体ラップにおいても,取り付け直し可能とする要求があることは,従来周知であるから(乙3の【0096】,乙4の【0003】【0004】,乙5の【0022】【0023】),引用例2に接した当業者であれば,引用発明2においても取り付け直し可能とする要求は普通に想到できることである。 なお,本件審決は,引用発明2の粘着剤が取り付け直し可能かどうかは明言していないが,引用例2の【0017】の記載によれば,引用発明2の粘着剤は,位置ずれを生じないような適度な粘着力を有し,かつ剥離時に皮膚に粘着剤が残ることもないのであるから,引用発明2の粘着剤も,剥離した後で再び取り付け直すことは可能であると推察される。 ウ引用発明1に引用発明2を適用することについて引用例1(1欄46行〜2欄3行)の記載によれば,衣服の内側に貼着する場合に,酸素透過手段と接着手段とを同じ面に設ける必要性が出てくるのであって,身体に直接接着するのであれば,従来どおり,両手段を異なる面に設けてもよいことは明らかである。 また,温熱身体ラップにおいては,身体に貼着することも衣服に貼着することも,いずれも従来周知であり(乙1の【0003】,乙3の【0003】,乙5の【0022】【0023】),衣服に代えて身体に貼着するように変更する程度のことは,従来から普通に行われてきたことであって格別困難性を伴うようなことではない。 したがって,引用発明1の温熱パッドにおいて,これを身体側に貼着するように変更することは,当業者が適宜なし得ることであるということができ,引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けがないなどということはない。 (3)容易想到性以上のとおり,「幅の狭いくびれ部を有する形状の両端部近傍に取付手段を配設すること」は周知技術であり,また,引用発明1に引用発明2を適用することは当業者が容易に想到できたことである。 第4当裁判所の判断事案にかんがみ,まず,原告主張の取消事由2から判断することとする。 1取消事由2(相違点2の判断の誤り)について(1)本件補正発明におけるX字型の隔離配設の意義ア本願発明の請求項1の記載は,前記第2の2のとおりであり,本願明細書には,次の記載がある(請求項は甲8,その余は甲1)。 【0001】[発明の背景]急性,頻発性および/または慢性の痛みを治療する一般的な方法は,患部に熱を局所的に加えるものである。そのような熱治療は,筋肉および関節の鈍痛および凝り,神経痛,リューマチなどを含む症状の治療手段として使用される。一般的に,熱治療を用いて痛みを軽減する方法は,比較的高温,すなわち,約40℃を超える熱を短時間だけ局所的に加えるものであった。これらの治療には,渦流浴,蒸しタオル,ハイドロコレータ(hydrocollator),温水ボトル,ホットパック,加熱ラップおよび弾性圧縮バンドの使用が含まれる。これらの装置の多くは,水および/または電子レンジで加熱可能なゲルなどを含む再利用可能な温熱パックか,電流を用いる。一般的に,これらの装置のほとんどは,定期的かつ長期的に使用するには不便である。熱エネルギーは,必要時に直ちに得ること,および/または制御可能に放出すること,および/または長時間にわたって安定した温度に維持することができない。一般的に,これらの形式の装置は,使用者の動きを制限し,使用中に熱エネルギーの適当な位置決めを維持することができない。 【0002】米国特許第4,366,804号,第4,649,895号,5,046,479号,および再発行特許第32,026号に記載されているような鉄の酸化に基づいた使い捨てヒートパックが周知である。これらのヒートパックは上記装置よりも携帯性に優れているが,そのようなヒートパックは,多くがかさばり,安定的な制御温度を維持できず,満足できない物理的寸法であることがこれらのヒートパックの有効性を妨げるため,完全には満足できないものであることがわかっている。具体的には,それらの装置は,さまざまな体型に容易かつ/または快適に順応することができず,したがって,直接的に身体に短時間の不安定で不便かつ/または快適でない加熱を行う。 【0003】上述に基づくと,長いこと待ち望まれてきた温熱身体ラップは,比較的迅速に作動温度に到達し,制御された持続的な温度を維持し,良好で全体的なドレープ性(drapability)を有し,さまざまな体型に適応し,使用者の身体に取り外し可能に取り付けられて,使用者の身体または身体部位に安定した好都合かつ快適な加熱を行うことができるものである。 【0009】本発明の好適な実施形態では,好ましくは1つまたは複数の連続層の少なくとも1つが,室温において,すなわち約25℃以下では半剛直性を有するが,約35℃以上まで加熱された時,軟化して剛直性が相当に低くなる。したがって,温熱身体ラップの一体構造体に固定されたヒートセル,または温熱身体ラップの一体構造体の内部に固定されたヒートセルが活性状態になると,すなわち,約35℃以上のヒートセル温度では,好ましくは各ヒートセルのすぐ近くを取り囲んでいる連続材料層の狭い部分が軟化して,ヒートセル間および連続層のその他のもっと剛直な部分間のヒンジとして機能して,ヒートセルまたはもっと低温でもっと剛直な部分のいずれよりも優先的に折れ曲がる。その結果,ヒートセルの構造的支持を維持する十分な剛直性を備えて,処置すなわち使用中に連続層の構造体が容認できないほど伸長することを防止するが,加熱時に十分な全体的ドレープ特性を依然として維持する温熱身体ラップが得られる。本発明の使い捨て温熱身体ラップは,安定した好都合かつ快適な加熱を行うと共に,使用者の身体にうまく順応する一方,ヒートセル内容物に簡単に接触することがないようにするのに十分な剛直性を保持している。 【0024】さらに図1および図2に示されているように,本発明の好適な実施形態はほぼ矩形の犬用骨形であって,温熱身体ラップ10の長手方向軸21のそれぞれの末端に第1端部11および第2端部13を備えている。第1端部11および第2端部13のほぼ中間において第1縁部17および第2縁部19で積層構造体が狭くなっていることと,ヒートセル16が長手方向軸21に沿ってX字形に配置されていることとによって,使用者の身体に当てられている時および/または使用者が装着している時,温熱身体ラップがねじり曲がり,使用者の身体および/または身体部位のさまざまな領域に順応することができる。この特殊な形状によってさらに,使用者はラップを使用者の曲げ伸ばしをする四肢に,それぞれの四肢の曲げ能力を妨害したり,かつ/または使用者の四肢が通常に動く時にラップの座屈および/または折れ重なりを生じることなく,当てることができるようにする。 イ以上の記載によれば,人体の痛みを治療する一般的な方法は,患部に熱を局所的に加えることであり,そのために渦流浴,蒸しタオルなどが使用されるが,これらの使用は定期的かつ長期的な使用には不向きであり,また使用者の動きを制限し位置決めを維持できないことから(【0001】),鉄の酸化に基づいた使い捨てのヒートパックが用いられるようになっているが,そのようなヒートパックは,多くがかさばり,安定的な制御温度を維持できず,さまざまな体型に容易にまた快適に順応できないという問題があった(【0002】)。 本件補正発明は,このような課題を解消する使い捨ての温熱ラップを提供するものであり,ラップの長手方向中心に幅の狭いくびれ部を形成し,発熱組成物を隔離して配置した複数のヒートセルとしてこれを長手軸にほぼX字型に配置すると共に,ラップを身体に取り付けるための手段は,取り付け直しを可能としている(【請求項1】)。 これにより,本件補正発明の使い捨て温熱ラップは,比較的迅速に作動温度に到達して持続的な温度を維持し,良好で全体的なドレープ性(まとわせ性)を有し,さまざま体型に適応して,身体に取り外し可能に取り付けられる(【0003】)。 特に,ラップの長手方向中心にくびれ部が形成され,ヒートセルがX字型に配置されているので,使用者が装着しているときに温熱身体ラップがねじり曲がり,身体部位のさまざまな領域に順応し,四肢の曲げ能力を妨害したりしないという意義を有するものである(【0024】)。 (2)参考例2に記載された事項ア参考例2の請求項1の記載は,以下のとおりである(甲14)。 粘着方式での使用部位への位置決めに供される粘着テープが両端部分にそれぞれ貼着されたサポータにおいて,帯状本体を形成する不織布層と,上記不織布層の内側面のほぼ中央の部分に設けられて人体の皮膚に触れる皮膚接触区層と,上記不織布層と皮膚接触区層との間に介在すると共に,不織布層との間に挟み層空間を形成する遠赤外線布層と,上記不織布層と遠赤外線布層との間に形成された挟み空間の中に均一に布設されると共に,電熱素子からなり,上記電熱素子の内部にその生じる熱エネルギーの温度範囲を検出並びに制御するのに供されるセンサーが直列に接続され,直流電源を電熱素子の中に通すことで該電熱素子が熱エネルギーを発生し,該熱エネルギーにより上記遠赤外線布層が遠赤外線を発生することを特徴とする,サポータ。 イまた,参考例2の記載によれば,以下の事実が認められる(甲14)。 参考例2は,電熱片(電熱線)を内部に均一に布設したサポータに関するものであり(【0001】【考案の属する技術分野】),従来,スポーツなどのときに腕,肘等の関節部位を被覆し,これを保護するだけの消極的な効果しか有していなかったサポータに(【0002】【従来の技術】),電熱線を布設することにより,温度変化によって積極的に血液の循環を増進し,組織の新陳代謝を促し,関節及び筋肉の機能を強化する積極的な効果を有するサポータを提供することを目的とする(【0003】【考案が解決しようとする課題】)。そして,参考例2は,肩,肘,腕等の関節部位を適用範囲とするサポータであり(【0005】【課題を解決するための手段】),肘,腕,膝,踵等の関節部分に適用するものとした実施例では人体におけるこれらの部位での使用,すなわち活発に活動する部分での使用に適合するため,X状の裁断が採用され折り曲げやすいものとされ,端部には一般に使用されている互いに付着する粘着テープが設けられている(【0013】【実施例】)。 肘,腕,膝,踵等の関節部分に適用した実施例を示す図4及び図5は,不織布層がX状に裁断された図面であるが,その電熱片(電熱線)は,X状のサポータの中央付近に均一に布設されている(【0014】,図4,図5)。 ウ上記のとおり,参考例2に示されたサポータは,関節部位に適用され,関節を被覆するものである。そして,X状になっているのは,関節部分に使用するサポータの形状であり,電熱片(電熱線)そのものがX状に布設されているわけではない。 (3)本件審決の相違点2に係る判断の当否ア本件補正発明と引用発明1との相違点2(本件補正発明の各ヒートセルは,長手軸に対してほぼX字型に隔離配設されるのに対して,引用発明1のヒートセル(セル16)は,隔離配設されるものの,X字型の配設ではない点)の認定自体に争いはなく,本件審決は,相違点2について以下のとおり判断した。 引用発明1において,その使用目的からみて,使用者が装着している時,使用者の身体又は各部位のさまざまな領域の運動に順応することは,当然に要求される事項と認められるところ,そのような目的の配置として,X字型の配設は,従来周知(参考例2の図4,5,【0013】)の技術であり,それぞれが隔離配設される引用発明1においても,運動に順応する周知の配置を排除する格別の事情は認められない。してみれば,引用発明1に周知の技術を適用して相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。 イしかしながら,前記(2)認定のとおり,参考例2に示された関節部位に適用されるサポータにおいて,X状になっているのは,関節部分に使用するサポータの形状であり,電熱片(電熱線)そのものがX状に布設されているわけではない。そして,参考例2のサポータの使用方法としては,X状に裁断されたサポータの交点で関節を覆い,関節を挟んだ各片同士を接続することにより,サポータを身体に装着するもの,具体的には,例えば肘に装着する場合,肘の外側にサポータにおけるX状の交点をあてがい,上腕側,下腕側にそれぞれ位置する2つの片同士を,互いに腕に巻き付けて上腕側片同士,下腕側片同士を相互に接続することにより,肘に装着するものと認められるのである。 参考例2に示されたサポータは,上記のように装着することにより,肘の折り曲げ部内側にはサポータ片が存在しないため,肘を屈伸しても,サポータが障害とならないことから,参考例2のサポータは,活発に活動する関節部位の使用に適合するとされ,またそのためにサポータの全体形状がX状とされているものと解される。 ウ他方,前記(1)認定の事実によれば,本件補正発明のヒートセルがX字型に隔離して配設されているのは,身体のねじりのような斜め方向の曲げに対して,ヒートセルが障害とならず,全体形状としては長方形に近い温熱身体ラップが,ねじりに追随して曲がりやすいことを意味し,これにより身体の様々な領域に順応することができるとされているものと解される。 エ上記イ,ウのとおり,参考例2のサポータが全体形状としてX状であることと,本件補正発明の全体形状としては長方形に近い身体温熱ラップにおいて,ヒートセルがX字型に隔離して配設されることは,X状ないしX字型といっても,その意義ないし機能は本質的に異なるものであり,またそれにより身体の適用可能な部位も異なることになる。 このように,X状ないしX字型に関する両者の意義ないし機能が異なるのであるから,参考例2における,内部に電熱線が均一に布設されたサポータが全体形状としてX状にされている構成のうち,「X状」という技術事項のみを取り出し,本件補正発明の身体温熱ラップ内に存在するヒートセルの配設の形態に適用する動機付けは存在せず,引用発明1に参考例2を適用して,相違点2に係る構成とすることはできないといわざるを得ない。 オ本件審決は,「使用者が装着している時,使用者の身体または各部位のさまざまな領域の運動に順応することは,当然に要求される事項」とした上,「そのような目的の配置として,X字型の配設は,従来周知」として,参考例2を挙げるが,参考例2をもって,上記周知技術ということはできない。そして,他に,上記事項が周知であることを認めるに足りる証拠はない。 カしたがって,引用発明1に周知技術を適用して相違点2に係る構成を想到することが,当業者にとって容易であるとした本件審決の判断は,誤りといわなければならない。 (4)被告の主張についてア被告は,参考例2には,適用する部位の運動に順応する配置として,X字型の配設という周知技術が示されていると主張する。 しかしながら,前記(2)認定のとおり,参考例2に示されたサポータにおいてX状になっているのは,関節部分に使用するサポータの形状であり,電熱片(電熱線)そのものがX状に布設されているわけではなく,適用する部位の運動に順応する配置として,X字型の配設という周知技術が示されているとまでいうことはできない。 イ被告は,引用発明1の温熱パッドの外形を,参考例2の外形に倣ってX状にすれば,隔離配設された複数のヒートセルの配置も,その外形に沿ってX状とすることが自然であるから,相違点2に係る構成が容易想到であると主張する。 しかしながら,引用発明1の温熱パッドの外形をX状にしたとしても,その内部へのヒートセルの配設形状としては,様々な形状が取り得るものであり,必然的にX字型になるわけではない。また,本件補正発明の使い捨て温熱身体ラップはX状ではなく,そもそも全体形状が異なるものである。 ウ被告は,引用例1には,身体の様々な部位に適用し得る温熱パッドが記載されているし,仮に,引用例1からは腹部に適用する温熱パッドしか認定できないとしても,引用発明1は,使用者の腹部に沿うようにして接着するものであるから,腹部の湾曲に沿うように曲がることが必要であるし,使用者の動きに順応できるようにすることは,温熱身体ラップを身体の所定の部位に対してしっかりと維持する上で,当然の要求であると主張する。 しかしながら,引用発明1の温熱パッドが運動に順応することが要求されるとしても,ヒートセルをX字型に配設することにより,温熱パッドが運動に順応できるようにすることが周知であるとはいえない以上,相違点2に係る構成を採用することが当業者にとって容易であるということはできない。 エ被告は,温熱身体ラップを関節部分等,活発に活動する部分へ適用することは例示するまでもなく周知であるから,引用例1に明示的記載がなくとも,これらの部位へ適用することは当業者であれば想到できることであると主張する。 しかしながら,引用発明1の温熱パッドを活発に活動する部分へ適用することが想到できるとしても,上記ウと同様,ヒートセルをX字型に配設することにより,温熱パッドが運動に順応できるようにすることが周知であるとはいえないから,相違点2に係る構成を採用することが容易とはいえない。 (5)小括以上のとおりであるから,取消事由2は理由がある。したがって,本件補正発明の進歩性の判断を誤り,独立特許要件を欠くとして本件補正を却下した本件審決は,違法である。 2結論以上の次第であるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 滝澤孝臣 |
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裁判官 | 高部眞規子 |
裁判官 | 浅井憲 |