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関連審決 異議2002-70779
関連ワード 技術的思想 /  物の発明 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  優先日 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 105号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社デンソー
訴訟代理人弁理士 碓氷裕彦
同 加藤大登
同 伊藤高順
被告 特許庁長官小川 洋
指定代理人 岡田孝博
同 大元修二
同 高木進
同 北川清伸
同 林栄二
同 大橋信彦
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/11/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が異議2002−70779号事件について平成15年2月4日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「内燃機関用スパークプラグ」とする特許第3211820号発明(平成11年12月3日特許出願,優先権主張平成10年12月4日及び平成11年9月22日〔以下「本件優先日」という。〕,平成13年7月19日設定登録。以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許につき,平成14年3月25日,特許異議の申立てがされ,異議2002-70779号事件として特許庁に係属した。原告は,同年11月12日,本件特許出願の願書に添付した明細書の訂正請求をしたが,特許庁は,平成15年2月4日,「訂正を認める。特許第3211820号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は,同月21日,原告に送達された。
2 平成14年11月12日付け訂正請求書に添付した訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲に記載の発明(以下の各請求項に記載の各発明を順に「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)の要旨 【請求項1】 基部と該基部の径よりも小なる径小部よりなる中心電極と, 前記中心電極の周囲を覆い,該中心電極を保持する絶縁碍子と, 前記絶縁碍子を保持する取付金具と, 一端が前記取付金具に固定されるとともに,他端が前記中心電極の先端面とにより,第1放電ギャップを形成する第1接地電極と, 一端が前記取付金具に固定されるとともに,他端が前記中心電極の側面とにより,第2放電ギャップを形成する第2接地電極とからなり, 前記第2接地電極の先端面が前記絶縁碍子の先端部外径よりも大きい径の外側に位置しており,前記第1放電ギャップをA,前記絶縁碍子と前記第2接地電極との最短距離をB,前記取付金具の端面から前記絶縁碍子の端面までの軸方向距離をC,前記絶縁碍子の端面から前記中心電極の端面までの軸方向距離をH,前記取付金具の端面から前記第2接地電極の端面までの軸方向の最短距離をL1,前記絶縁碍子の端面と前記第2接地電極の端面の前記取付金具側角部との絶縁碍子の端面より突出した場合を+とした時の軸方向距離をFとした時, 0.7mm≦A≦1.3mm 0.3mm≦B≦A-0.1mm 1.0mm≦C≦4.0mm 0.5mm≦H≦3.0mm 1.0mm≦L1≦C+0.5mm -1.0mm≦F≦+0.5mm であるとともに,最も前記絶縁碍子の端面に近い絶縁碍子内に内在する前記中心電極の前記径小部の起点が前記絶縁碍子の端面よりも0.1〜0.8mmだけ内側に有し,さらに前記絶縁碍子の先端部における径方向厚さをDとした時,B+D≧Aであることを特徴とする内燃機関用スパークプラグ。
【請求項2】 前記絶縁碍子の先端近傍は,前記絶縁碍子の基部よりも径小であるとともに,略同一径を有する細径部を有し,該細径部の起点から前記第2接地電極の端面までの最短軸方向長さEは, E≧B+0.1mm であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用スパークプラグ。
【請求項3】 前記第1放電ギャップを形成する前記第1接地電極及び前記中心電極の少なくとも一方には,貴金属部材を有することを特徴とする請求項1乃至2のいずれか1項記載の内燃機関用スパークプラグ。
【請求項4】 前記貴金属部材は,PtやIrの貴金属またはPtやIrを主成分とする合金であることを特徴とする請求項3記載の内燃機関用スパークプラグ。
3 決定の理由 (1) 決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件発明1ないし4は,特開平9-199260号公報(甲4,以下「引用刊行物」という。)の段落【0062】,【0063】の記載,図7及び【図面の簡単な説明】中の【符号の説明】に基づいて認められる発明(以下「引用図7発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1ないし4の特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,特許法113条2号に該当し,取り消されるべきであるとした。
(2) なお,決定は,上記(1)の判断に当たり,本件発明1と引用図7発明とを対比し,次の相違点(a-1),(a-2),(b)及び(c)(決定謄本7頁最終段落〜8頁第4段落,以下,総称して「相違点」ということがある。)を認定している。
〔相違点(a-1)〕 前者においては,第1放電ギャップをA,絶縁碍子と第2接地電極との最短距離をB,取付金具の端面から絶縁碍子の端面までの軸方向距離をC,絶縁碍子の端面から中心電極の端面までの軸方向距離をHとした時, 0.7mm≦A≦1.3mm 0.3mm≦B≦A-0.1mm 1.0mm≦C≦4.0mm 0.5mm≦H≦3.0mm であるのに対し,後者においては,これらの寸法が明らかでない点 〔相違点(a-2)〕 前者においては,取付金具の端面から第2接地電極の端面までの軸方向の最短距離をL1,絶縁碍子の端面と第2接地電極の端面の取付金具側角部との絶縁碍子の端面より突出した場合を+とした時の軸方向距離をFとした時 1.0mm≦L1≦C+0.5mm (以下「L1条件」という。) -1.0mm≦F≦+0.5mm (以下「F条件」という。) であるのに対し,後者においては,これらの寸法が明らかでない点 〔相違点(b)〕 前者においては,最も前記絶縁碍子の端面に近い絶縁碍子内に内在する中心電極の径小部の起点が絶縁碍子の端面よりも0.1〜0.8mmだけ内側に有しているのに対し,後者においては,径小部の起点が,絶縁碍子の端面に近い絶縁碍子内に内在しているかどうか不明であり,そのため,該起点が,絶縁碍子の端面よりも0.1〜0.8mmだけ内側に有しているかどうかも不明である点。
〔相違点(c)〕 前者においては,絶縁碍子の先端部における径方向厚さをDとした時,B+D≧Aとなるように設定しているのに対し,後者においては,かかる設定とされているかどうか明確ではない点。
(本件発明2ないし4については,上記相違点に加えて,他の相違点が認定されているが,争点となっていないので,摘記を省略する。)
原告主張の決定取消事由
決定は,本件発明1と引用図7発明との相違点についての判断を誤り(取消事由1ないし3),本件発明2ないし4についても,同じ誤りをした(取消事由4)ものであるから,違法として,取り消されるべきである。
1 取消事由1(前提の誤りに基づく相違点の判断の誤り) (1) 決定は,「(引用刊行物の)図1〜2,図4〜8,図13〜18に記載されたものは,いずれも,中心電極,接地電極及び平行接地電極を有するスパークプラグの実施例であるか,または,このスパークプラグに適用可能なものと解することができる」(決定謄本9頁最終段落)とし,この前提に基づいて相違点を検討して,相違点に係る構成を当業者が容易に想到し得たものと判断したが,上記の前提が誤っているから,相違点についての判断も,当然,誤りである。
(2) 決定が,上記前提を採った論拠は,「(引用刊行物の)請求項5に記載されているものは,『・・・中心電極と・・・接地電極と・・・平行接地電極とを有し』たものであり,上記請求項6〜11の記載は上記請求項5の記載を引用しているから,上記請求項6〜11に記載されているものは,その態様として,上記請求項5に記載されているものと同様の,中心電極,接地電極及び平行接地電極を有するものを含んでいる」(決定謄本9頁下から第2段落)ということであるが,引用刊行物の請求項6〜11が請求項5を引用しているということからは,「引用刊行物の図1〜2,図4〜8,図13〜18に記載されたものは,いずれも,中心電極,接地電極及び平行接地電極をを有するスパークプラグの実施例であるか,または,このスパークプラグに適用可能なものである」という帰結(決定が採用した上記前提)は,論理的に導き出すことができない。
(3) 決定が採用した上記前提は,以下のとおり,技術的にも誤りである。
例えば,相違点(a-2)(注,F条件に関連する相違点)に関する判断において,決定がF条件を設定することに当業者が格別の創意を要したとはいえないとする判断(決定謄本11頁第2段落)の根拠として挙げた図18のスパークプラグ(スパークプラグM,第12実施例)は,平行接地電極を有しない構成のものであり,中心電極と接地電極との間でメインギャップ(主に放電を行うギャップ)を形成しているから,その寸法は,引用図7発明のように,接地電極と平行接地電極とを有し,メインギャップは中心電極と平行接地電極との間で形成し,中心電極と接地電極との間ではサブギャップを形成している構造のものに適用可能なものではない。すなわち,図18のスパークプラグと図7のスパークプラグ(引用図7発明)とでは,中心電極と接地電極との間で形成されるギャップの機能が全く異なるのであり,ギャップの機能の違いから,両者のスパークプラグの接地電極の設計寸法は,おのずと異なったものとなるのである。好適な火花放電を得るためには,スパークプラグの特性を勘案しながら,二つのギャップを総合的に設計しなければならず,それぞれのギャップを個別に設計することなどあり得ない。したがって,スパークプラグの設計に従事する当業者が,図18から導かれる接地電極と絶縁碍子の端面との寸法関係を,図7のスパークプラグに適用しようなどと考えることはあり得ない。
(4) 被告は,引用刊行物に開示された発明の特徴は「中心電極の先端部形状と碍子先端面との位置関係」にあるのであって,その余の構成はいかなる構成であっても適宜選択し得る旨の主張をするが,これは,決定が依拠した論理とは異なる論理に基づく主張である。また,その主張は,「中心電極の先端部形状と碍子先端面との位置関係」が同じ先行例に開示されているにもかかわらず,引用刊行物に記載された発明につき特許査定がされていることとも矛盾するものであって,失当である。
(5) また,被告は,メインギャップとサブギャップの機能差について何ら言及することなく,沿面放電を行う接地電極は互いに置換可能である旨主張する。しかし,スパークプラグは,沿面放電することを主目的とするものではなく,主たる機能は燃焼室内の混合気体を着火させることであり,沿面放電はあくまでも補助的機能にすぎないから,被告の主張は,スパークプラグ本来の機能を無視したものであり,失当である。
引用図7発明に図18の接地電極を組み合わせた場合,後者の接地電極はメインギャップを構成するものであるから,その組み合わせたものは,中心電極と平行接地電極との間及び中心電極と接地電極との間の両方でメインギャップを構成することになり,どのメインギャップで放電するかは特定されず,放電位置が定まらないスパークプラグとなる。これは,通常は気中放電を行い汚損時にはカーボンを消失させることで火花放電位置を適切に切り替えるという本件発明1の技術的思想とは相反するものである。
2 取消事由2(相違点(a-2)の判断の誤り) (1) 決定は,相違点(a-2)について,本件発明1における「L1条件は,F条件を含むものであるから,結局,上記相違点(a-2)は,本件発明1においては,・・・-1.0mm≦F≦+0.5mmである(L1条件及びF条件を満たす条件であり,F条件に他ならない。)のに対し,後者(注,引用図7発明)においては,これらの寸法が明らかでない点というものである」(決定謄本10頁下から第2段落)とした上,「上記刊行物(注,引用刊行物)には,絶縁碍子の端面と第2接地電極の端面の取付金具側角部との絶縁碍子の端面より突出した場合を+とした時の軸方向距離Fについて,その寸法が明記されているわけではないが,【図2】に示された実施例に関して,・・・突出縁12が,セミ沿面放電の沿面スパークギャップG2を形成することが記載され(段落【0049】参照),また,【図2】に示されたものと同様の構造である【図8】に示されたものにおいて,この突出縁12は,絶縁碍子の端面から「-」方向1.5mm(碍子先端長に等しい。)に位置することが記載されている(段落【0066】参照)ことからすると,上記絶縁碍子の端面と第2接地電極の端面の取付金具側角部との・・・軸方向距離Fについては,-1.5mmの値をとり得ることは当業者ならば容易に理解できることであり,また,【図18】において,碍子先端長P@(上記刊行物に例示されている多くの実施例において,取付金具の端面から絶縁碍子の端面までの軸方向距離C(碍子先端長Pi)は1.5mmに設定されており,【図18】に示されているものにおいても,取付金具の端面から絶縁碍子の端面までの軸方向距離Cは1.5mmにされ得ることは明らかである。)と取付金具の端面から第2接地電極の端面までの軸方向の最短距離との差が,わずかなものとすることが図示されていることからすると,・・・値Fとして,-1.5mm〜わずかの負の値をとり得ることは当業者ならば容易に理解できることである。そうであれば,この理解に基づき,上記とり得るとした値と近接する値の範囲内で好適範囲を選択することは,当業者ならば,実験等によって適宜行いうることというべきであり,上記F条件『-1.0mm≦F≦0.5mm』を設定することに,当業者が格別の創意を要したとはいえない」(同10頁最終段落〜11頁第2段落)と判断した。 しかし,以下に述べるとおり,この判断は誤りである。
(2) まず,決定は,図18について,「碍子先端長Pi・・・と取付金具の端面から第2接地電極の端面までの軸方向の最短距離との差が,わずかなものとすることが図示されている」(決定謄本11頁第1段落)というが,図18には,いずれの寸法についても何ら開示されていない。決定は,単なる模式図である図面の見た目だけを根拠に「わずか」と認定しており,根拠がない。
仮に,百歩譲って,図面の見た目から判断するとしても,「碍子先端長Piと取付金具の端面から第2接地電極の端面までの軸方向の最短距離との差」が「わずか」であるとの認定は,図18及びその説明から一義的に導き出すことができるものではない。すなわち,引用刊行物(甲4)には,「径変部39の始点391を,先端面22(碍子先端面)から0mm〜1.0mm,好ましくは,0.1mm〜0.6mm奥部に引っ込ませている」(段落【0084】)として,図18のL寸法として1.0mmをとり得ることが明らかにされている。一方,図18には,「碍子先端長Piと取付金具の端面から第2接地電極の端面までの軸方向の最短距離との差」がL寸法よりも大であることが示されているから,同図からは,碍子先端長Piと取付金具の端面から第2接地電極の端面までの軸方向の最短距離との差が,1.0mmよりも大の値をとり得ることが推認される。そして,碍子先端長Piと取付金具の端面から第2接地電極の端面までの軸方向の最短距離との差が1.0mmであるとするならば,本件発明1のF条件である「-1.0mm≦F≦+0.5mm」とは異なる数値範囲が図18に記載されていることになる。
また,決定は,図18に関して,「(上記刊行物に例示されている多くの実施例において,取付金具の端面から絶縁碍子の端面までの軸方向距離C(碍子先端長Pi)は1.5mmに設定されており,【図18】に示されているものにおいても,取付金具の端面から絶縁碍子の端面までの軸方向距離Cは1.5mmにされ得ることは明らかである。)」(決定謄本11頁第1段落)とも認定しているが,この点も誤りである。なぜならば,引用刊行物において,取付金具の端面から絶縁碍子の端面までの軸方向距離C(碍子先端長Pi)が1.5mmに設定されているのは,図8,図13,図14及び図15の実施例(いずれも平行接地電極を有する構成)のみであり,図18の実施例(平行接地電極を有しない構成)においては,取付金具の端面から絶縁碍子の端面までの軸方向距離Cは,何ら,特定されていないからである。平行接地電極を有しない図18のものに,平行接地電極を有する構成である図8,図13,図14及び図15の実施例における碍子先端長Piが適用可能であることを示唆する記載はどこにもなく,適用する必然性もない。
(3) 被告は,「L値が0.1mm〜0.2mm程度の場合には,F値が-1.0mm〜+0.5mmの範囲外となることはありえない」と主張するが,この主張は,L値について恣意的に都合のよい数値範囲を選択した場合に本件発明1のF条件が導かれるというものであって,不当である。そもそも引用刊行物の図18及び同図に関する説明において,F値に着目した記載はなく,F値の大きさを意識して図18が記載されたとは考えられない。このような引用刊行物の出願人が意識しているはずのない事項を図18から導き出すことは,引用刊行物に記載された事項を超えて不当に広く引用刊行物の記載を解釈するものであるから,誤りである。 (4) さらに,図18に示されたものは,本件発明1のF条件による作用効果を全く奏しないものである。
本件発明1のF条件は,「F>+0.5mm以上の場合,実質的に第2放電ギャップBが大きくなりすぎることにより,第2接地電極6及び7等への確実な火花放電が行われにくくなり,絶縁碍子3の付け根部奥への火花放電が発生しやすくなり,燃焼室内における着火性が低下する。さらに,-1.0mm>Fの場合には,第2放電ギャップBにおける飛火位置が下方となりすぎるため,第1放電ギャップAにおける火花放電との位置ずれが大きくなることにより,着火性低下又は着火安定性が劣ってしまう」(本件明細書〔甲2〕の段落【0075】〜【0076】参照)ということを見いだして設定されたものである。
これに対し,図18に示されたものは,平行接地電極を有しておらず,通常時とカーボン汚損時とで火花放電位置が異なるものではないから,本件発明1のF条件による上記の作用効果を奏さない。したがって,仮に,F条件に相当する寸法がたまたま図18に示されていたとしても,当業者が本件発明1のF条件の作用効果を得るために図18の接地電極を引用図7発明に適用することはあり得ない。
3 取消事由3(相違点(c)の判断の誤り) (1) 決定は,相違点(c)について,引用刊行物に,「図7は,・・・図6に示す様に,複数の接地電極40を配して形成した沿面スパークギャップG2と,中心電極3の先端と対設する気中放電間隙G1を形成する平行接地電極4Aを併設したスパークプラグである。」(段落【0062】),「そして,このスパークプラグは,通常時は一般の気中放電型のスパークプラグとして機能し,汚損時には沿面スパークギャップG2により付着した導電性物質を確実に焼却できる。又,このスパークプラグは,図1および図2に示したスパークプラグよりも沿面スパークギャップG2の全てが燃焼室内に突出した位置にある為,汚損時においても着火性も向上させることができる。」(段落【0063】)との記載があることを指摘した上,「引用図7発明と,【図2】に示されたものとは,沿面スパークギャップG2の位置において異なるものの,他の寸法条件については格別の差異はないと解することができるところ,【図2】には,沿面スパークギャップG2の径方向幅(本件発明1におけるB+Dの距離にほぼ等しい。)を気中放電間隙G1(本件発明1におけるAに相当する。)の距離よりも大きくすることが示されていることからして,引用図7発明においてB+D≧Aとすることは,当業者ならば適宜設定し得る範囲のものというべきである(なお,通常は,第1放電ギャップにおいて放電を生ずるようにするために,B+D≧Aとすることは,当業者ならば普通に配慮することである。)」(決定謄本12頁第1段落)としたが,誤りである。
(2) そもそも,引用刊行物には,本件発明1のB+D≧Aの構成は,具体的に示されていない。
引用刊行物の図2のスパークプラグは,取付金具の端面に電極(平行接地電極4)を設けている構成であるのに対し,図7のスパークプラグは,取付金具の端面から突出した位置に電極(平行接地電極4A)を設けている点で相違する。スパークプラグの構成が異なる以上,図2に記載されたG1とG2の関係が図7に示される引用図7発明の構成にそのまま適用し得るとは限らず,図7の構成において図2に記載されたG1とG2の関係が成立しているとは断定できない。また,特許図面が単なる模式図であることを考えるならば,図2に記載されたG1及びG2が具体的に何mmであるかを特定することはできず,沿面スパークギャップG2の径方向幅を気中放電間隙G1の距離よりも大きくしているとは到底特定し得ない。
また,決定の「(なお,通常は,第1放電ギャップにおいて放電を生ずるようにするために,B十D≧Aとすることは,当業者ならば普通に配慮することである。)」との認定には,その技術的根拠が何ら示されていない。
(3) 相違点(c)に係る本件発明1の「B+D≧A」という構成は,本件発明1の他の構成要件とあいまって,初めて火花放電位置を適切に切り替えるという格別な作用効果を奏するものであるから,仮に,引用刊行物の引用図7発明とは別の発明について「B+D≧A」の構成が開示されていたとしても,本件発明1が引用図7発明から容易に想到し得るということはできない。
4 取消事由4(本件発明2ないし4についての容易想到性の判断の誤り) 上記1ないし3のとおり,本件発明1と引用図7発明との相違点に係る構成が当業者に容易想到とした決定の判断は誤りであるから,本件発明1についてと同様の理由により,本件発明1に従属する本件発明2ないし4が容易想到であるとした決定の判断も,誤りである。
被告の反論
1 取消事由1(前提の誤りに基づく相違点の判断の誤り)について (1) 引用刊行物(甲4)に開示された発明は,中心電極の先端部形状と碍子先端面との位置関係に特徴を有するものであって,中心電極の先端面と平行接地電極との位置関係や,あるいは碍子先端面と接地電極との位置関係は,沿面放電を行うのであれば,何ら影響や制限を受けるものではなく,適宜選択し得るものである。
したがって,これら種々のタイプのスパークプラグの間において,上記特徴点を維持する範囲内であれば,同じ機能を持つ共通の部材を置換することは可能であり,ある実施例の部材を,他の実施例の対応する同じ機能を持つ部材に置き換えようとすることは,当業者ならば容易に想到し得る程度のことである。決定が,「図1〜2,図4〜8,図13〜18に記載されたものは,いずれも,中心電極,接地電極及び平行接地電極を有するスパークプラグの実施例であるか,または,このスパークプラグに適用可能なものと解することができる」と認定していることに誤りはない。
(2) 引用刊行物の図7に示される「接地電極40」と図18に示される「接地電極40」とは,ともに汚損時には接地電極40が沿面放電を行うものであり,汚損時に中央電極3との間で沿面放電することにより付着した導電性物質を確実に焼却できるという同じ作用効果を奏する。
また,第5実施例について説明した「図6に示す様に,複数の接地電極40を配して形成した沿面スパークギャップ」(引用刊行物の段落【0062】)との記載は,図6に示された第4実施例(セミ沿面放電型スパークプラグ)の「接地電極40」と同じものを第5実施例(注,第7図)の「接地電極40」として設けることが可能であることを意味している。一方,図18に示された第12実施例は,図6に示された第4実施例と同じく「セミ沿面放電型スパークプラグ」である。そうすると,図7の「接地電極40」に図18の「接地電極40」を適用して,図18の接地電極の寸法をそのまま中心電極,接地電極及び平行接地電極を有するスパークプラグの接地電極の寸法とすることに何ら問題はない。
2 取消事由2(相違点(a-2)の判断の誤り)について (1) 原告は,決定が,引用刊行物の図18について,碍子先端長Piと取付金具の端面から第2接地電極の端面までの軸方向の最短距離との差がわずかであるとした認定には根拠がなく,図18からF値を読み取ることはできないと主張する。
しかし,本件発明1では,「最も前記絶縁碍子の端面に近い絶縁碍子内に内在する前記中心電極の前記径小部の起点が前記絶縁碍子の端面よりも0.1〜0.8mmだけ内側に有し」であるのに対し,引用刊行物の図18に示される実施例においては,「径変部39の始点391を,先端面22(碍子先端面)から0mm〜1.0mm,好ましくは,0.1mm〜0.6mm奥部に引っ込ませている」(段落【0084】)とされているから,この点はほぼ同一である。また,本件発明1では,「取付金具の端面から前記絶縁碍子の端面までの軸方向距離Cが1.0mm〜4.0mmである」のに対し,引用刊行物の図18のものについては,「碍子先端面22から突出させる部分の電極先端の長さPcを1.2mm以上にする」(段落【0069】)ことが明記されている。そして,特許図面を正確な設計図面に比することはできないとしても,図18は,引用刊行物において,第12実施例として各部位の寸法関係を視覚的に示す図面として存在しているのであるから,同図面から寸法間の相対的な関係を読み取ることは可能であり,図18に示される実施例においては,L (2) 被告の上記主張は,引用刊行物を不当に広く解釈するものではない。
平行接地電極と接地電極とが併設され,通常時は一般の気中放電型のスパークプラグとして機能し,汚損時には沿面スパークギャップG2により付着した導電性物質を確実に焼却できるスパークプラグにおいて,その接地電極の高さ位置を考慮することは,特開昭60-81784号公報(乙1,以下「乙1文献」という。),あるいは特開平10-189212号公報(乙2,以下「乙2文献」という。)により,本件優先日前に周知である。
乙1文献には,「本発明は補助接地電極の位置,補助スパークギャップ値及びその電極巾の寸法関係を配慮することにより耐汚損性の効果を高めると共に着火性の向上ならびに耐熱性の劣化を防止したスパークプラグの提供を目的とするものである」(2頁右上欄第3段落)と記載され,また,乙2文献には「【請求項10】請求項1乃至請求項9において,前記セミ沿面火花放電接地電極の発火部の先端と,前記絶縁碍子の前端部の先端との軸方向距離Aは,前記セミ沿面火花放電接地電極の厚さをTとすると,前記主体金具の先端から遠ざかる方向を+として,-1.5mm≦A≦T+0.5mmであり」と記載されていることからみて,引用図7発明を実施するに際して,「接地電極の高さ」は,必然的に着目され考慮される事項である。そして,この接地電極の高さが,理論的に求められるのではなく,実験により経験的に求められるものであることは,当業者にとって,自明の事項に属する。
3 取消事由3(相違点(c)の判断の誤り)について 引用刊行物には,「このスパークプラグは,通常時は一般の気中放電型のスパークプラグとして機能し,汚損時には沿面スパークギャップG2により付着した導電性物質を確実に焼却できる」と記載されている。気中放電間隙G1>沿面スパークギャップG2であると,気中放電電圧が大きくなり,通常時に気中放電が起こりにくくなるという事実は,本件優先日前に当業者によく知られていたことであり,引用図7発明においても「気中放電間隙G1」が「沿面スパークギャップG2」よりも小さく設定されていることは明らかである。すなわち,「気中放電間隙G1」>「沿面スパークギャップG2」であるならば,気中放電電圧が大きくなり,通常時に気中放電が起こりにくくなるからである。そうすると,相違点(c)のB+D≧Aも,図7あるいは図18には明示されていないが,引用刊行物に実質的に記載されているということができる。
4 取消事由4(本件発明2ないし4についての容易想到性の判断の誤り)について 決定の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 引用刊行物の記載及び引用図7発明について (1) 引用刊行物の記載 引用刊行物(甲4)には,同刊行物に開示する発明の目的として,「本発明の目的は,絶縁碍子の先端面にカーボン等の未燃焼生成物が付着したとき,絶縁碍子の先端面に沿った沿面放電が得られる位置に火花放電を発生させることができ,自己清浄能力を最大限に増強できる内燃機関のスパークプラグの提供にある」(段落【0011】)と記載され,上記目的を達成する構成として,請求項1ないし11の構成を採用したことが記載されている(段落【0012】【課題を解決するための手段】)。
引用刊行物の請求項1ないし11は,いずれも,@筒状の主体金具,A碍子先端が金具先端面から突出するように主体金具内に固定される軸孔付の絶縁碍子,B電極先端が碍子先端面から突出するように軸孔内に固定される中心電極,C中心電極の先端部は,軸孔内に位置する電極基部と,電極基部より径小の電極先部と,電極基部から電極先部に至る径変部とを有し,軸孔直径と径変部始点の直径との差は1mm以下であり,かつ,径変部始点が碍子先端面より0mm〜1mm奥部に位置する,という構成において共通する。 また,各請求項は,中心電極以外の電極の構成,配置及び放電ギャップに関して,それぞれ固有の構成を有しており,@請求項1は,スパークプラグが,金具先端面に突設された接地電極(その先端面が中心電極先端側面と対向するように配置されている)を有し,接地電極の先端面と中心電極先端側面との間で碍子先端面に沿ってセミ沿面放電間隙を形成していることを,A請求項2は,金具先端面に突設された接地電極(その先端面が中心電極先端側面と対向するように配置されている)を有し,接地電極の先端面と中心電極先端側面との間に気中放電間隙を形成していることを,B請求項3は,金具先端面に突設された接地電極(その先端面が中心電極先端側面と対向するように配置されている)を有し,接地電極の先端面と中心電極先端側面との間に気中放電間隙を形成していること,及び主体金具の先端に内方に延出する突出部を周設していることを,C請求項4は,内側面が中心電極先端面と対向するように屈曲して金具先端面に突設される平行接地電極を有し,平行接地電極の先端面と中心電極先端側面との間に気中放電間隙を形成していること,及び主体金具の先端に内方に延出する突出部を周設していることを,D請求項5は,請求項1ないし3と同様の金具先端面に突設された接地電極(その先端面が中心電極先端側面と対向するように配置されている。)と,内側面が中心電極先端面と対向するように屈曲して金具先端面に突設される平行接地電極とを有し,接地電極の先端面と中心電極先端側面との間で碍子先端面に沿ってセミ沿面放電間隙を形成し,平行接地電極の内側面と中心電極先端面との間に気中放電間隙を形成していることを,それぞれ規定しているものである。なお,請求項6〜11は従属項であり,そのうち,請求項6ないし10は,それぞれ先行する全請求項を引用して,径変部始点の位置(請求項6),電極先部の外径(請求項7),中心電極又は接地電極等の発火部となる部分の材質(請求項8,9),軸孔開口部の内壁縁部の形状(請求項10)などを特定し,請求項11は,接地電極を有し,平行接地電極を有しないタイプのものについて,接地電極を三極以上と特定している。 引用刊行物中,【発明の実施の形態】と題する段落【0041】から始まる発明の詳細な説明には,同刊行物の発明に係る「自己清浄能力を最大限に増強できる内燃機関のスパークプラグ」(段落【0011】)が種々の実施例に基づいて説明されており,実施例と図面との関係につき,図1,2は第1実施例,図4は第2実施例,図5は第3実施例,図6は第4実施例,図7は第5実施例であり,第6実施例は図8のスパークプラグDに,第7実施例は図13のスパークプラグEに,第8実施例は図14のスパークプラグFに,第9実施例は図15のスパークプラグHに,第10実施例は図16のスパークプラグJに,第11実施例は図17のスパークプラグKに,第12実施例は図18のスパークプラグMにそれぞれ示されるとの説明がされている(段落【0041】,【0055】,【0059】,【0062】,【0064】,【0071】〜【0074】,【0078】,【0082】)。
(2) 引用図7発明 ところで,決定が,本件発明1と対比した引用図7発明は,引用刊行物に第5実施例(図7)として記載されているものであるところ,引用図7発明の認定及び本件発明1と引用図7発明とが決定の認定どおりの一致点を有することに争いはない。
すなわち,引用図7発明は,「@基部と該基部の径よりも小なる径小部よりなる中心電極と,A前記中心電極の周囲を覆い,該中心電極を保持する絶縁碍子と,B前記絶縁碍子を保持する取付金具と,C一端が前記取付金具に固定されるとともに,他端が前記中心電極の先端面とにより,第1放電ギャップ(気中スパークギャップ)を形成する第1接地電極(平行接地電極4A)と,D一端が前記取付金具に固定されるとともに,他端が前記中心電極の側面とにより,第2放電ギャップ(沿面スパークギャップ)を形成する第2接地電極(接地電極40)とからなり,E前記第2接地電極の先端面が前記絶縁碍子の先端部外径よりも大きい径の外側に位置している内燃機関用スパークプラグ」(審決謄本7頁第4段落,@ないしEの符号及び括弧書き記載を付加)である点で,本件発明1と一致する。
2 上記1の認定を踏まえて,原告主張の取消事由2(相違点(a-2)の判断の誤り)について検討する。
(1) 相違点(a-2)に関する決定の判断の要点 決定は,相違点(a-2)について,引用図7発明において,F(注,絶縁碍子の端面と第2接地電極の端面の取付金具側角部との絶縁碍子の端面より突出した場合を+とした時の軸方向距離)につき,F条件「-1.0mm≦F≦0.5mm」を設定することに当業者が格別の創意を要したはいえないとした判断の根拠として,引用刊行物の図8に示された実施例(第6実施例)及び図18に示された実施例(第12実施例)を挙げている。そして,@図8に示された実施例について,引用刊行物の段落【0066】に,Fを-1.5とすることが記載されていることを指摘し(注,同段落には,図8に示される実施例について,碍子先端長Piを1.5mmとするとの記載があり,図8を参照すると,碍子先端長Piは,絶縁碍子の端面から主体金具1に形成した突出縁12までの距離(「-」方向)であるから,碍子先端長Piが1.5mmとされていることは,Fが-1.5であることに相当する。),さらに,A図18において,碍子先端長Piと取付金具の端面から第2接地電極の端面までの軸方向の最短距離との差がわずかなものとすることが図示されていると指摘した上,BFとして「-1.5mm〜わずかの負」の値をとり得ることは当業者であれば容易に理解できることであるとし(@〜Bにつき,決定謄本11頁第1段落),C「そうであれば,この理解に基づき,上記とり得るとした値と近接する値の範囲内で好適範囲を選択することは,当業者ならば,実験等によって適宜行いうることというべきであり,上記F条件『-1.0mm≦F≦0.5mm』を設定することに,当業者が格別の創意を要したとはいえない」(同第2段落)と判断した。
(2) ところで,決定が,Fが「-1.5」の値をとり得ることの根拠として挙げた図8の実施例は,平行接地電極4の中心電極側側面42と中心電極先端面30との間でスパークギャップGを構成し,主体金具1の先端面11の内壁に形成した突出縁12と絶縁碍子2との間を補助ギャップGsとするタイプのスパークプラグであり(引用刊行物の段落【0064】),図8と同様に平行接地電極4と突出縁12とを有する図2の実施例についての説明(同段落【0047】〜【0049】)に徴すると,通常時には,スパークギャップGで気中放電を行い,絶縁碍子2の先端面及びその近傍にカーボン等の導電性物質が付着した場合には,補助ギャップGsでセミ沿面放電を行うものであると解される。
他方,Fが「わずかの負」の値をとり得ることの根拠として決定が指摘した図18の実施例は,複数の接地電極40と中心電極先端側側面381との間で,碍子先端面22に沿って沿面放電を行うタイプのスパークプラグであって(引用刊行物の段落【0082】),図8のものとは異なり,平行接地電極を有しておらず,通常時とカーボン汚損時とで火花放電位置が異なるものではない。
さらに,引用図7発明との対比でみると,引用図7発明は,中心電極,複数の接地電極及び平行接地電極の三つの電極を有するタイプのスパークプラグであり,通常時は,中心電極の先端面3とこれに対設する平行接地電極4Aの先端面との間に構成される気中放電間隙G1との間で放電し,汚損時には,「複数の接地電極40を配して形成した沿面スパークギャップG2」で放電を行い,この沿面スパークギャップG2での放電により,付着した導電性物質を焼却するものとされている(引用刊行物の段落【0062】〜【0063】,なお,図7にはG2の符号がないが,図1〜図4には突出縁12と中心電極の径変部始点35との間を指してG2の符号が付されている。)のに対し,図8に示される実施例は,上記のとおりの構成から成り,「複数の接地電極」を有していない。また,図18に示される実施例は,引用図7発明と異なり,平行接地電極を有しておらず,電極は,中心電極とその周囲に配設された複数の接地電極だけから成る構成である。
(3) 上記(2)によれば,図8に示される実施例,図18に示される実施例及び引用図7発明は,互いに電極の構成を異にし,各間隙(ギャップ)の機能も異なるものであるから,そのことに伴って,当然,本件発明1のF条件(絶縁碍子の端面と第2接地電極の端面の取付金具側角部との絶縁碍子の端面より突出した場合を+とした時の軸方向距離が-1.0mm〜+0.5mm)に相当する部材相互の寸法及び配置関係の技術的意義も互いに異なるものと考えられる。
そうすると,決定が,Fの下限値については,図8に示される実施例を参照してFにつき-1.5mmの値をとり得る値とし,上限値については,図18に示される実施例を参照して,Fにつき「わずかの負」の値をとり得る値とし,両者を併せた「-1.5mm〜わずかの負」の範囲について,「値Fとして,-1.5mm〜わずかの負の値をとり得ることは当業者ならば容易に理解できることである」とした点は,失当というほかはなく(意義の異なる数値を併せても本件発明1におけるF条件と同等の条件を設定したことにはならない。),これに基づく「そうであれば,この理解に基づき,上記とり得るとした値と近接する値の範囲内で好適範囲を選択することは,当業者ならば実験等によって適宜行いうることというべきであり,上記F条件『-1.0mm≦F≦0.5mm』を設定することに,当業者が格別の創意を要したとはいえない」との判断も,その前提を欠くといわざるを得ない。
(4) これに対し,被告は,乙1文献には,「本発明は補助接地電極の位置,補助スパークギャップ値及びその電極巾の寸法関係を配慮することにより耐汚損性の効果を高めると共に着火性の向上ならびに耐熱性の劣化を防止したスパークプラグの提供を目的とするものである」(2頁右上欄第3段落)と記載されているように,平行接地電極と接地電極とが併設され,通常時は一般の気中放電型のスパークプラグとして機能し,汚損時には沿面スパークギャップG2により付着した導電性物資を確実に焼却できるスパークプラグにおいて,その接地電極の高さを考慮することは,本件優先日前に周知であり,また,乙2文献には「・・・前記セミ沿面火花放電接地電極の発火部の先端と,前記絶縁碍子の前端部の先端との軸方向距離Aは,前記セミ沿面火花放電接地電極の厚さをTとすると,前記主体金具の先端から遠ざかる方向を+として,-1.5mm≦A≦T+0.5mmであり」(請求項10)と記載されていることからみて,引用図7発明を実施するに際して,「接地電極の高さ」は,必然的に着目され考慮される事項であるとし,この接地電極の高さが,理論的に求められるのではなく,実験により経験的に求められるものであることは,当業者にとって,自明の事項に属するから,本件発明のF条件は,引用刊行物の第5実施例である図7についての記載から,当業者が容易に想到し得ることにすぎないと主張する。
しかしながら,これは,本件発明1のF条件は,被告が周知技術と主張する技術ないし引用刊行物とは別個の刊行物の記載に基づいて,実験等により経験的に求めることができるという主張にほかならず,その当否は別論として,決定とは異なる理由により相違点(a-2)の容易想到性を基礎付けようとするものであるから,採用することができない。
(5) 以上のとおり,決定が示した理由によっては,相違点(a-2)に係る構成を当業者が容易に想到し得たものということはできない。したがって,原告の取消事由2の主張は,理由がある。
3 取消事由4(本件発明2ないし4についての容易想到性の判断の誤り)について 上記2のとおり,本件発明1と引用図7発明との相違点(a-2)に係る構成は,当業者が容易に想到し得たものとはいえないから,請求項1を引用している本件発明2〜4も,本件発明1と同様の理由により,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。したがって,原告の取消事由4の主張は理由がある。
4 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由2及び4は理由があり,この誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,その余の点について判断するまでもなく,決定は違法として取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 岡本岳