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事件 平成 21年 (行ケ) 10070号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/12/02
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成21年12月2日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成21年(行ケ)第10070号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成21年10月21日

判 決

原 告 旭化成ケミカルズ株式会社

同 訴 訟 代 理 人 弁 理 士 加 々 美 紀 雄

被 告 特 許 庁 長 官

同 指 定 代 理 人 小 野 寺 務

同 中 田 と し 子

同 小 林 均

同 小 林 和 男

主 文

1 特許庁が不服2006?20975号事件について平成21年2月3日にし

た審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

主文同旨。

第2 事案の概要

本件は,原告が名称を「アンカーボルト固定用カプセル」(出願当初の名称「ラ

ジカル硬化型化合物用粒状被覆硬化剤及びこれを用いたアンカーボルト固定用組成

物」)とする発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不

服として審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求

めた事案である。

争点は,上記発明が,特開昭61?243876号公報(甲4。以下「引用例1」

といい,これに記載された発明を「引用発明」という 。)及び特開平2?5203





8号公報(甲5。以下「引用例2」という。)に記載された発明から容易に想到

ることができるか否か,特に,審決が引用発明自体及び同発明と本願の発明の一致

点・相違点を正しく認定したか否かである。

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成8年12月5日,本願発明につき出願し(平成9年特許願第514

928号。優先権主張平成7年12月6日,平成8年8月14日 日本国),その

後,平成10年5月11日付け及び平成18年6月6日付けで補正をしたが,特許

庁は,同年8月14日付けで拒絶査定をした。

原告は,同年9月21日,上記拒絶査定に対する不服審判請求をし,同年10月

20日付けで補正をした。

特許庁は,上記審判請求を不服2006?20975号事件として審理し,平成

21年2月3日, 本件審判の請求は,成り立たない。 との審決をし,
「 」 その謄本は,

同月16日,原告に送達された。

2 発明の内容

本件における発明は,平成18年10月20日付けの手続補正により補正された

明細書(甲3)の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項7に記載されたものであ

る(以下,請求項1に記載されたものを「本願発明」という。請求項2以下は省略

する。。


【請求項1】「密閉構造を有する容器,及び該容器に収容されてなる,(1)ラジカル硬化型

樹脂及びラジカル重合性単量体よりなる群から選ばれる少なくとも1つの第1ラジカル硬化型

化合物及び硬化促進剤とからなる硬化性組成物,及び(2)該硬化性組成物(1)用粒状被覆硬化剤

であって,全表面が,ラジカル硬化型樹脂及びラジカル重合性単量体よりなる群から選ばれる

少なくとも1つの第2ラジカル硬化型化合物に由来する硬化樹脂の層により被覆された有機過

酸化物の粒状成形体からなり,該第1及び第2ラジカル硬化型化合物は同じか異なっている粒

状被覆硬化剤の複数の粒子,を包含してなるアンカーボルト固定用組成物を包含してなり,該

容器がアンカーボルトをカプセルに施す時にアンカーボルトの作用により破砕可能であること





を特徴とするアンカーボルト固定用カプセル。」

3 審決の内容

審決は,次のとおり,引用発明及び引用例2に記載された発明から本願発明を想

到することは容易であったとして,本願発明は,特許法29条2項の規定により特

許を受けることができないとした。

(1) 引用発明の内容

「引用文献3(判決注:引用例1を指す。)の特許請求の範囲第1項には,

『アクリル化合物を主体とする硬化性接着剤において,

エポキシ基を有するビスフェノール化合物および/またはノボラック化合物を使用してアク

リル酸またはアクリル酸誘導体を転化させることによって得られる反応生成物を硬化性アクリ

ル化合物として含有することを特徴とするアクリル化合物を主体とする硬化性接着剤。』

が記載されている(摘示3?1)。

また,引用文献3の(摘示3?4)において ,『本発明の接着剤は穿孔中にだぼおよびアン

カーボルトを固定するために使用するのが特に有利である 。』と記載され,かかる使用に際し

ての接着剤の形態について,『反応性樹脂および硬化剤を,単一体,例えば,一個のパトロー

ネ中に2個の室に分けて入れる。パトローネまたは同様な単一体は大部分の場合にガラスまた

は例えば脆いプラスチックを包含する他の容易に破壊される材料から構成する。パトローネは

穿孔中に導入した後にだぼまたはアンカーボルトを挿入,回転させることによって破壊され,

この際パトローネの壁材料は充填剤として作用することができ,充填剤の部分に加えられる。』

と記載されるとともに,『しかし,1種の成分,例えば,硬化剤がマイクロカプセル中に封入

されている系も使用することができる。アンカーボルトを挿入した際にマイクロカプセルの壁

材料が破壊される。』と記載されている。

そして,上記(摘示3?4)の『反応性樹脂』が(摘示3?1)の『エポキシ基を有するビ

スフェノール化合物および/またはノボラック化合物を使用してアクリル酸またはアクリル酸

誘導体を転化させることによって得られる反応生成物』である『硬化性アクリル化合物』を指

すものであることは明らかであり,また ,(摘示3?4)の『しかし,1種の成分,例えば,





硬化剤がマイクロカプセル中に封入されている系も使用することができる。アンカーボルトを

挿入した際にマイクロカプセルの壁材料が破壊される 。』との記載は ,
『反応性樹脂および硬化

剤を,単一体,例えば,一個のパトローネ中に2個の室に分けて入れる』形態における『2個

の室に分けて入れる』形態に代えて,『1種の成分,例えば,硬化剤がマイクロカプセル中に

封入されている』形態を採用し得ることを意味するものと認められる。

してみると,引用文献3には ,『エポキシ基を有するビスフェノール化合物および/または

ノボラック化合物を使用してアクリル酸またはアクリル酸誘導体を転化させることによって得

られる反応生成物である硬化性アクリル化合物と,マイクロカプセル中に封入された硬化剤と

を,パトローネ中に入れたものであり,パトローネは穿孔中に導入した後にアンカーボルトを

挿入,回転させることによって破壊されるものである,アンカーボルトを固定するために使用

するパトローネ』が記載されているものと認められる。

さらに,引用文献3の(摘示3?2)において ,『ラデイカル硬化性の反応性樹脂に対する

硬化剤としては,過酸化ジアリール,例えば,過酸化ジベンゾイル(BP )・・・などのよう

な重合開始剤を含有させることができる 。』と記載され ,(摘示3?3)において ,『樹脂溶液

は冷間硬化性不飽和ポリエステル樹脂の場合に普通に使用されているような促進剤で予め硬化

を促進させることができる。』と記載されている。

そして,上記(摘示3?2)の『ラデイカル硬化性の反応性樹脂』及び(摘示3?3)の『樹

脂溶液』が,(摘示3?1)の『エポキシ基を有するビスフェノール化合物および/またはノ

ボラック化合物を使用してアクリル酸またはアクリル酸誘導体を転化させることによって得ら

れる反応生成物』である『硬化性アクリル化合物』を指すものであることは明らかである。

したがって,引用文献3には ,『エポキシ基を有するビスフェノール化合物および/または

ノボラック化合物を使用してアクリル酸またはアクリル酸誘導体を転化させることによって得

られる反応生成物である硬化性アクリル化合物と,促進剤と,マイクロカプセル中に封入され

た過酸化ジベンゾイルからなる重合開始剤を含有する硬化剤とを,パトローネ中に入れたもの

であり,パトローネは穿孔中に導入した後にアンカーボルトを挿入,回転させることによって

破壊されるものである,アンカーボルトを固定するために使用するパトローネ』の発明(以下,





「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。」

(2) 本願発明と引用発明の一致点及び相違点

ア 前提となる対応関係

「引用発明の『パトローネ』は,本願発明の『密閉構造を有する容器』及び『カプセル』に

相当するものである。

また,引用発明の『エポキシ基を有するビスフェノール化合物および/またはノボラック化

合物を使用してアクリル酸またはアクリル酸誘導体を転化させることによって得られる反応生

成物である硬化性アクリル化合物』『促進剤』 『過酸化ジベンゾイルからなる重合開始剤』及
, ,

び『穿孔中に導入した後にアンカーボルトを挿入,回転させることによって破壊される』は,

それぞれ,本願発明の『ラジカル硬化型樹脂及びラジカル重合性単量体よりなる群から選ばれ

る少なくとも1つの第1ラジカル硬化型化合物』『硬化促進剤』『有機過酸化物』及び『アン
, ,

カーボルトを施す時にアンカーボルトの作用により破砕可能である』に相当するものである。

さらに,引用発明の『エポキシ基を有するビスフェノール化合物および/またはノボラック

化合物を使用してアクリル酸またはアクリル酸誘導体を転化させることによって得られる反応

生成物である硬化性アクリル化合物』と『促進剤』とは,本願発明の『硬化性組成物』に相当

する組成物を形成するものであり,引用発明の『エポキシ基を有するビスフェノール化合物お

よび/またはノボラック化合物を使用してアクリル酸またはアクリル酸誘導体を転化させるこ

とによって得られる反応生成物である硬化性アクリル化合物』と『促進剤』と『マイクロカプ

セル中に封入された過酸化ジアリールなどの重合開始剤を含有する硬化剤』とは,本願発明の

『アンカーボルト固定用組成物』に相当する組成物を形成するものと認められる。


イ 本願発明と引用発明の一致点

「 密閉構造を有する容器,及び該容器に収容されてなる,(1)ラジカル硬化型樹脂及びラジ


カル重合性単量体よりなる群から選ばれる少なくとも1つの第1ラジカル硬化型化合物及び硬

化促進剤とからなる硬化性組成物,及び(2)硬化性組成物(1)用の硬化剤であって,有機過酸化

物を含むもの,を包含してなるアンカーボルト固定用組成物を包含してなり,該容器がアンカ

ーボルトをカプセルに施す時にアンカーボルトの作用により破砕可能であることを特徴とする





アンカーボルト固定用カプセル』の発明である点」

ウ 本願発明と引用発明の相違点

「(2)硬化性組成物(1)用の硬化剤について,本願発明においては ,『粒状被覆硬化剤であっ

て,全表面が,ラジカル硬化型樹脂及びラジカル重合性単量体よりなる群から選ばれる少なく

とも1つの第2ラジカル硬化型化合物に由来する硬化樹脂の層により被覆された有機過酸化物

の粒状成形体からなり,該第1及び第2ラジカル硬化型化合物は同じか異なっている粒状被覆

硬化剤の複数の粒子』を用いるのに対して,引用発明においては ,『マイクロカプセル中に封

入された有機過酸化物』を用いる点」

(3) 容易想到性について

「引用文献1(判決注:引用例2を指す。)には,『芯物質が油溶性有機過酸化物で,皮膜が

ウレタン系樹脂,スチレン系樹脂又はメタクリル酸エステル系樹脂からなるカプセル体 。』及

び『固体状油溶性有機過酸化物,保護コロイド剤水溶液及び上記固体状油溶性有機過酸化物よ

り半減期が短い過酸化物の存在下に,スチレン又はメタクリル酸エステルを含有する単量体を

懸濁重合することにより,当該固体状油溶性有機過酸化物の周囲にスチレン系樹脂皮膜又はメ

タクリル酸エステル系樹脂皮膜を形成させることを特徴とするカプセル体の製造法 。』が記載

されており(摘示1?1) 『本発明により得られるカプセル体は重合反応時或いは加硫反応時


の反応促進剤やエラストマー組成物の加硫剤として有用である 。』と記載されている(摘示1

?2)。

また ,(摘示1?4)の『(2)芯材が固体状油溶性有機過酸化物で,皮膜がスチレン系樹脂又

はメタクリル酸エステル系樹脂からなるカプセル体の製造法・・・

上記過酸化物の好ましい粒径は10?500μmである。 との記載からみて, 摘示1?1)
』 (

の『カプセル体』の粒径は,一般に『マイクロカプセル』と呼称される範囲のものと認められ

る。

してみると,本願の優先権主張日前において,重合反応時或いは加硫反応時の反応促進剤や

エラストマー組成物の加硫剤として用いられる,芯物質が有機過酸化物であるマイクロカプセ

ルの製造方法として,『固体状油溶性有機過酸化物,保護コロイド剤水溶液及び上記固体状油





溶性有機過酸化物より半減期が短い過酸化物の存在下に,スチレン又はメタクリル酸エステル

を含有する単量体を懸濁重合することにより,当該固体状油溶性有機過酸化物の周囲にスチレ

ン系樹脂皮膜又はメタクリル酸エステル系樹脂皮膜を形成させる』方法は,公知であるものと

認められる。

そして,引用発明の『マイクロカプセル中に封入された有機過酸化物』は『重合開始剤 』,

すなわち,引用文献1に記載された『重合反応時の反応促進剤』として用いられるものである

から,引用発明の『マイクロカプセル中に封入された有機過酸化物』の製造方法として,本願

優先権主張日前に公知である『固体状油溶性有機過酸化物,保護コロイド剤水溶液及び上記

固体状油溶性有機過酸化物より半減期が短い過酸化物の存在下に,スチレン又はメタクリル酸

エステルを含有する単量体を懸濁重合することにより,当該固体状油溶性有機過酸化物の周囲

にスチレン系樹脂皮膜又はメタクリル酸エステル系樹脂皮膜を形成させる』方法を採用するこ

とは当業者が容易になし得ることである。

また,当該方法により製造された『有機過酸化物の周囲にスチレン系樹脂皮膜又はメタクリ

ル酸エステル系樹脂皮膜を形成させ』たマイクロカプセルが ,『全表面が,スチレン又はメタ

クリル酸エステルを含有する単量体に由来する硬化樹脂の層により被覆された有機過酸化物の

粒状成形体』の構造を有する『粒状被覆硬化剤』であり,かかる『粒状被覆硬化剤』が『複数』

の『粒子』からなるものであることは明らかである。

さらに,『スチレン又はメタクリル酸エステルを含有する単量体』は,『ラジカル硬化型樹脂

及びラジカル重合性単量体よりなる群から選ばれる少なくとも1つの第2ラジカル硬化型化合

物』に該当するものであり,前記『第2ラジカル硬化型化合物』は ,
『エポキシ基を有するビ

スフェノール化合物および/またはノボラック化合物を使用してアクリル酸またはアクリル酸

誘導体を転化させることによって得られる反応生成物である硬化性アクリル化合物』である 第


1ラジカル硬化型化合物』と異なるものであるから,上記『有機過酸化物の周囲にスチレン系

樹脂皮膜又はメタクリル酸エステル系樹脂皮膜を形成させ』たマイクロカプセルは,上記相違

点に係る『粒状被覆硬化剤であって,全表面が,ラジカル硬化型樹脂及びラジカル重合性単量

体よりなる群から選ばれる少なくとも1つの第2ラジカル硬化型化合物に由来する硬化樹脂の





層により被覆された有機過酸化物の粒状成形体からなり,該第1及び第2ラジカル硬化型化合

物は同じか異なっている粒状被覆硬化剤の複数の粒子』に相当するものである。

したがって,上記相違点は,当業者が容易になし得るものである。

そして,引用文献1の(摘示1?3)の『本発明のカプセル体は有機過酸化物が耐久性の大

きな高分子で緻密に被覆され,且つ均一な微粒子の形態を有しているため,衝撃に対して安定

であり,他の液状,粉末又はペレット状の原料との混合が容易である 。』との記載,
(摘示1?

5)の『本発明のカプセル体は耐熱性,耐水性及び耐油性に優れた重合体皮膜で被覆されてい

るため,保管時における安定性がよく,又重合反応時の反応促進剤して使用すると,反応以前

の安定性即ちポットライフ性を高めることができる 。』との記載からみて,本願明細書等に記

載された『本発明の粒状被覆硬化剤は,取り扱い性に優れるだけでなく,ラジカル硬化性化合

物中に均一に分散させることができるため,優れた硬化性能を発揮する 。』との効果は,当業

者が予測し得る範囲内のものであり,また,同明細書等に記載された『このため,本発明の粒

状被覆硬化剤は,透水レジンモルタルや注型用樹脂等の様々な用途に用いられるラジカル硬化

性樹脂及びラジカル重合性単量体用の硬化剤として有用であり,特にアンカーボルト固定用組

成物に用いると,製品寿命が長いだけでなく,高強度でアンカーボルトを母材に固定すること

ができる優れたアンカーボルト固定用組成物を得ることができる 。』との効果も,引用文献3

の(摘示3?4)の『本発明の接着剤は穿孔中にだぼおよびアンカーボルトを固定するために

使用するのが特に有利である 。』との記載と,上記引用文献1の(摘示1?3)及び(摘示1

?5)の記載とから,当業者が予測し得る範囲内のものである。


第3 原告主張の要旨

審決は,次のとおり,引用発明の認定を誤り,引用発明と本願発明の一致点,相

違点の認定を誤り,さらに容易想到性の判断を誤ったものであって,取消しを免れ

ない。

1 取消事由1(引用発明の認定及び同発明と本願発明の一致点・相違点の認定

の誤り)

(1) 審決は,引用例1(甲4)の「本発明の接着剤は穿孔中にだぼおよびアンカ





ーボルトを固定するために使用するのが特に有利である。「実際に,反応性樹脂お


よび硬化剤はその都度所望の成分と共に個別にあるいは一緒に直接混合後に穿孔中

に導入することができる。(以下「本件記載A」という。「しかし,大部分の場合
」 )

に,反応性樹脂および硬化剤を,単一体,例えば,一個のパトローネ中に2個の室

に分けて入れる。パトローネまたは同様な単一体は大部分の場合にガラスまたは例

えば脆いプラスチックを包含する他の容易に破壊される材料から構成する。パトロ

ーネは穿孔中に導入した後にだぼまたはアンカーボルトを挿入,回転させることに

よって破壊され,この際パトローネの壁材料は充填剤として作用することができ,

充填剤の部分に加えられる。(以下「本件記載B」という。「しかし,1種の成分,
」 )

例えば,硬化剤がマイクロカプセル中に封入されている系も使用することができる。

アンカーボルトを挿入した際にマイクロカプセルの壁材料が破壊される。 以下 本

」 「

件記載C」といい,本件記載AないしCをまとめて「本件記載」ともいう。)との

記載につき,誤って認定した。

本件記載につき,主要成分の反応性樹脂と硬化剤との2成分に着目してこれを穿

孔中に導入するまでの操作を整理すると,本件記載Aの態様(反応性樹脂と硬化剤

を個別に穿孔中に導入するか,又は,反応性樹脂と硬化剤とをあらかじめ混合した

後,この混合物を穿孔中に導入する態様 ),本件記載Bの態様(反応性樹脂と硬化

剤とをパトローネ中に2個の室に分けて入れて,同パトローネを穿孔中に導入する

態様),本件記載Cの態様(1種の成分,例えば硬化剤がマイクロカプセル中に封

入されている態様)の三つの態様について述べたものである。

そして,本件記載Cの態様については,具体的にどのような硬化剤を使用するの

か,どのような皮膜材質でどのようにマイクロカプセル化するのか,マイクロカプ

セルを他の成分との関係でどのような形態として使用するものか等,具体的な事項

は全く明らかにされていない。

しかし,文脈からすれば,本件記載Cの態様としては,本件記載Aの態様のよう

に各成分をそのまま穿孔中に直接導入するのではなく,本件記載Bの態様のように





二つの成分ともにパトローネ中に分けて封入するのに対して,一方の成分だけをマ

イクロカプセルに封入して穿孔中に導入する態様を示しているものと解される。

このことは,本件記載Bにおける「パトローネの壁材料がアンカーボルトにより

破壊されて充填剤として作用する」旨の説示に対応するように,本件記載Cにおい

て「アンカーボルトを挿入した際にマイクロカプセルの壁材料が破壊される 。」と

説示されている パトローネの破壊について言及がない)
( ことからも明らかである 。

また,引用例1には,本件記載Cの態様につき,マイクロカプセルを含め接着剤全

体をパトローネに収納するカートリッジ型であることを窺わせる説示は一切ない。

少なくとも,審決が認定するように, 反応性樹脂材料および硬化剤を,単一体,


例えば,一個のパトローネ中に2個の室に分けて入れる」形態に代えて ,「1種の

成分,例えば,硬化剤がマイクロカプセル中に封入されている」形態を採用し得る

ことを意味するものではない。まして,引用例1には「硬化性アクリル化合物と,

マイクロカプセル中に封入された硬化剤とを,パトローネ中に入れたものであり,

パトローネは穿孔中に導入した後にアンカーボルトを挿入,回転させることによっ

て破壊されるものである,アンカーボルトを固定するために使用するパトローネ」

が記載されているものとは認められない。

(2) 以上のとおり,引用例1は,反応性樹脂と硬化剤との2種の成分をいずれも

パトローネ中に封入する態様(本件記載B)に対して,1種の成分だけを,例えば

硬化剤をマイクロカプセルに封入させて使用する態様も可能であることを指摘する

もの(本件記載C)であって,同態様においては,接着剤全体はカプセルの形態と

して使用するものではない。

したがって,引用例1記載の接着剤をアンカーボルト固定用に使用する態様の記

述中,密閉構造を有する容器に収納する態様,すなわち接着剤全体をカプセルの形

態として使用するのは本件記載Bの態様のものだけである。

そこで,同態様のものと本願発明とを対比すると,
「@本願発明では,単に密閉構

造を有する容器であるのに対して,本件記載Bの態様では,2個の室に分けている





密閉構造を有する容器であり,容器の構造が相違している点,A密閉構造を有する

容器に収納する硬化剤が,本願発明では,全表面がラジカル硬化型樹脂及びラジカ

ル硬化型化合物に由来する硬化樹脂の層により被覆された有機過酸化物の粒状成形

体であるのに対し,本件記載Bの態様では,該特定の硬化樹脂の層により全表面が

被覆された有機過酸化物ではない点」の2点が相違点となる。

2 取消事由2(容易想到性に関する判断の誤り)

(1)ア 引用例2には ,「芯物質が油溶性有機過酸化物で,皮膜がウレタン樹脂,

スチレン系樹脂又はメタクリル酸エステル系樹脂からなるカプセル体」が記載され

ている。

同カプセル体は,有機過酸化物の保管時の安定性,及び使用時の均一な反応性を

付与することを目的として,過酸化物を特定の樹脂皮膜でカプセル化したものであ

って,過酸化物の衝撃に対する安定性,反応の均一性の向上を実現するために,耐

久性の大きな高分子で緻密に被覆され,かつ均一な微粒子の形態を有する点が特徴

である。

引用例2記載の懸濁重合法により有機過酸化物のカプセル体の粒径を大きくする

には,芯物質の有機過酸化物に大きな粒径のものを使用することになるが,有機過

酸化物は爆発の危険性があり,取扱いが難しく,通常,粒径を増大化するようなこ

とはしない。また,仮に,希釈剤との混合により造粒した過酸化物を芯物質として

懸濁重合しようとしても,造粒した芯物質を水中に分散させると,吸水して成形体

がもろくなり,さらに攪拌すると成形体の形状を保持することができないから,引

用例2に記載された発明につき,引用発明と組み合わせるべき動機が存在しない。

仮に,引用例2記載のマイクロカプセルをアンカーボルト固定用に使用すること

を試みたとしても,同カプセルは,数十μmの微小粒径の微細なマイクロカプセル

形態で,しかも耐久性の大きな高分子で緻密に被覆されているため,これを破砕す

ることが困難であり,ラジカル硬化型樹脂を十分に硬化させることができない。

確かに,引用例2において ,「ポットライフ性を高めることができる」旨の記載





があるが,アンカーボルト固定用途の要求は,ポットライフ性のみではなく,使用

時に非常に短時間で過酸化物カプセル体が破砕されなくてはならないという易破砕

性の要求も満足させる必要があるところ,引用例2記載のマイクロカプセル体は,

その皮膜の軟化温度まで保護皮膜としての機能を有するものであり,同保護機能は,

加熱による皮膜の軟化・溶融により,あるいは,擦り潰しによる皮膜の破壊により

解除されるものであって,同解除には,加熱混練あるいは強力な圧力を長時間かけ

なければならず,攪拌混合時間が非常に短いという独自の制約条件が課されている

アンカーボルト固定用用途に使用する動機付けはないといえる。

イ 本願発明の「アンカーボルト固定用カプセル」においては,被覆硬化剤の粒

状成形体の粒径自体は要旨とするものではないが,アンカーボルト固定用カプセル

に使用する被覆硬化剤の粒状成形体の粒径については,破砕性や作業性の観点から

事実上制限があることは,当業者には容易に理解できることである。

そして,使用時の攪拌による破砕性,アンカーボルト固定用カプセルの製造工程

における容器内への充填作業時のトラブル防止の観点から,本願発明に用いられる

粒状成形体の粒径は0.5ないし15.0mm,好ましくは1ないし10mmと記

載されている。また,このように粒径の大きい有機過酸化物の取扱いの安全性の観

点から,炭酸カルシウム,硫酸カルシウム等の無機物で希釈して成形する旨も記載

されており,さらに,有機過酸化物の粒状成形体の成形法,強度についても記載さ

れている。

他方で,引用例2の過酸化物のマイクロカプセル体の粒径につき500μmのも

のが記載されているとしても,このような粒径は,引用例2においても推奨されて

はいない上,これがアンカーボルト固定用用途に有用であることを示唆する記述も

なく,さらに,粒径を大きくする場合に,安全性の観点からこれを無機物で希釈し

て成形体とすることについても全く記載がない。引用例2記載のものにつき,有機

過酸化物の成形体を被覆すべく,懸濁重合の芯物質として水系中に攪拌すると,成

形体はぼろぼろに崩れてしまう(乙10ないし14は,いずれも過酸化物を芯物質





とする懸濁重合法について記載するものではなく,引用例2記載の過酸化物のカプ

セル化技術とは無関係である。。


なお,引用例2に記載された「本発明のカプセル体は他の反応性原料と十分に均

一な混合がなされ,かつ混合後に,圧力,加熱等の外部因子によって初めて,過酸

化物の分解反応が開始されるので,工程管理が容易であり,且つ得られた製品も外

観的,構造的に均一で高度の物性を有している」との効果については,具体的には

エラストマーの加硫についてのものであり,こうした効果が,独自の条件下での硬

化反応に係るアンカーボルト固定用途における効果を示唆するものでないことは明

らかである。

(2) 以上のとおりであるから,相違点についての審決の認定に前述のような誤り

がないとしても,上述のとおり,微細な粒径に加え,被覆の堅固さを特徴とする引

用例2記載のカプセル体を,穿孔中での攪拌混合に厳しい制約があるアンカーボル

ト固定用の用途に使用する動機付けはない上 ,「製品の寿命が長く,かつ高強度で

アンカーボルトを固定できる」との顕著な効果も期待できないから,審決は,容易

想到性についての判断を誤ったものである。

第4 被告の反論

1 取消事由1に対して

(1) 主剤と硬化剤の2成分よりなる結合材を用いてアンカーボルトを固着する技

術分野においては,カートリッジ(本願発明における「カプセル」,引用例1にお

けるパトローネに相当する。)を用いるもの(カートリッジ型アンカー)
,結合材の

主剤・硬化剤の既混合の流体をメクラ穴に注入するもの(注入型アンカー)の2つ

の方法が存在しており,これら2つの方法は技術常識である(乙1ないし4参照)。

そして,引用発明は,接着剤自体の発明であって,その使用形態に着目するもの

ではないことからみても,本件記載は,上記技術常識を前提とするものと解するの

が合理的であり,以上からすれば,本件記載Aは注入型アンカーの方法につき,本

件記載Bはカートリッジ型アンカーの方法につき,それぞれ記載しているものと解





される。

そして,本件記載Cが,カートリッジ型アンカーの方法につき記載した本件記載

Bのすぐ後に続いて記載されていること,接着剤において,硬化剤をマイクロカプ

セル中に封入することにより,使用前における反応性樹脂と硬化剤とのこれら2種

の成分間の反応を回避して接着剤としての貯蔵期間を確保することは技術常識であ

り(乙5ないし9参照 ),一個のパトローネ中に2個の室に分けて入れることも,

硬化剤をマイクロカプセル中に封入することも,使用前における反応性樹脂と硬化

剤とのこれら2種の成分間の反応を回避して接着剤としての貯蔵期間を確保するた

めのものである点で共通することからして,本件記載Cは,あくまでもカートリッ

ジ型アンカーの方法の一態様として記載されたものと解するのが自然である。

したがって,本件記載AないしCが,3つの態様につき分けて述べたものとする

原告の主張は,その前提において誤りである。

(2) 仮に,本件記載AないしCが,3つの態様につき分けて述べたものであると

しても,以下のとおり,原告の主張は誤りである。

すなわち,本件記載Cは,本件記載A,Bの後に記載されており,本件記載Cと

して記載された事項が「1種の成分,例えば硬化剤がマイクロカプセル中に封入さ

れている系も使用することができる」ということであるから,本件記載A,Bの態

様それぞれにおいて,さらに,本件記載Cの態様が適用可能であることを表してい

ると解する余地があるが,専ら本件記載Aの態様につき本件記載Cの態様を適用で

きることを表しているとは解されない。

そして,前述のとおり,一個のパトローネ中に2個の室に分けて入れることも,

硬化剤をマイクロカプセル中に封入することも,共に使用前における反応性樹脂と

硬化剤とのこれら2種の成分間の反応を回避して接着剤としての貯蔵期間を確保す

るためのものである点で共通するから,本件記載Cの態様を本件記載Bの態様にお

いて適用するに際しては,硬化剤をマイクロカプセル中に封入すれば,一個のパト

ローネ中,2個の室に分けて入れる必要がないことは自明である。





そうすると,『反応性樹脂および硬化剤を,単一体,例えば,一個のパトローネ


中に2個の室に分けて入れる』形態における『2個の室に分けて入れる』形態に代

えて,『1種の成分,例えば,硬化剤がマイクロカプセル中に封入されている』形

態を採用し得ることを意味するものと認められる」との審決の認定に誤りはない。

なお,マイクロカプセル入りのパトローネを使用した場合には,パトローネの壁

材料及びマイクロカプセルの壁材料が共にアンカーボルトにより破壊されることは

当然のことにすぎず,引用例1における「アンカーボルトを挿入した際にマイクロ

カプセルの壁材料が破壊される」との記載は,原告の主張の根拠にはならない。

(3) 以上を前提とすれば,引用発明と本願発明において,容器の構造に差異はな

いことになり,審決における一致点・相違点の認定にも誤りはない。

2 取消事由2に対して

(1) 引用例2において,「反応以前の安定性即ちポットライフ性を高めることが

できる。」と記載されており,これは,引用例1におけるマイクロカプセルの機能

と共通するものであるから,引用発明に,引用例2記載の発明を適用することにつ

いての動機付けは十分である。

他方で,マイクロカプセルの粒径についての原告の主張は,特許請求の範囲の記

載に基づかない主張であって,失当である。付言すると,引用例2に記載されたマ

イクロカプセルの製造に用いられる有機過酸化物の粒径と,本願発明の粒状被覆硬

化剤の製造に用いられる有機過酸化物の粒状成形体の粒径とは,本願明細書におい

て実際上採用される寸法とも500μm(0.5mm)において重複する。また,

懸濁重合によっても,粒径が500μmを超えるものが得られることは,乙10な

いし14からも明らかであり,この点に差異があるとすることはできない。

そして,引用例2においては,有機過酸化物(粒径が500μmであるものを含

む。)を樹脂皮膜でカプセル化したカプセル体が現に記載されているから,有機過

酸化物を希釈剤により希釈造粒した過酸化物を用いる必要はなく,上記カプセル体

製造方法を,引用例1のマイクロカプセルの製造方法に適用できるのは明らかで





ある上,引用例2においては,上記カプセル体が,過酸化物の衝撃に対する安定性

に優れたものであることも記載されている。

このほか,引用例2における皮膜として,スチレン系樹脂又はメタクリル酸エス

テル系樹脂が記載されており,これらは,本願発明における「第2ラジカル硬化型

化合物」と一致するものであるし,引用例1には ,「1種の成分,例えば,硬化剤

がマイクロカプセル中に封入されている系も使用することができる。アンカーボル

トを挿入した際にマイクロカプセルの壁材料が破壊される 。」と記載されているの

であるから,審決も述べるとおり,粒径,形状,材質を調節するなどの手段により,

「アンカーボルトを挿入した際にマイクロカプセルの壁材料が破壊される」ような

ものとすることは,当業者が当然に行う事項であり,格別の困難はない。

(2) 審決が認定したとおり,引用例2において「反応以前の安定性即ちポットラ

イフ性を高めることができる。」と記載されており,本願発明における「寿命が長

い」という効果については,当業者が予測し得ることである。

同様に,引用例2において「本発明のカプセル体は他の反応性原料と十分に均一

な混合がなされ,かつ混合後に,圧力,加熱等の外部因子によって初めて,過酸化

物の分解反応が開始されるので,工程の管理が容易であり,且つ得られた製品も外

観的,構造的に均一で高度の物性を有しているものである 。」と記載されているこ

とから,本願発明における「高強度でアンカーボルトを固定できる」という効果に

ついても当業者が予測し得ることである。

第5 当裁判所の判断

1 取消事由1について

(1) 本願明細書(平成18年10月20日付け補正後のもの。甲3)には,以下

の記載がある。

ア 【0010】

発明の概要発明者らは,上記のような問題点のない優れたラジカル硬化型樹脂及び/

又はラジカル重合性単量体用の硬化剤を開発するために鋭意研究を重ねた結果,ラジカル硬化





型樹脂及び/又はラジカル重合性単量体(第1ラジカル硬化型化合物)を硬化させるための粒

状被覆硬化剤であって,全表面が,第1ラジカル硬化性化合物と同じか異なる第2ラジカル硬

化型化合物に由来する硬化樹脂の層により被覆された有機過酸化物の粒状成形体からなる粒状

被覆硬化剤が,取扱い性に優れるだけでなく,上記の第1ラジカル硬化型化合物中に均一に分

散させることができるため,優れた硬化性能を発揮し,特にアンカーボルト固定用組成物に用

いると,高強度でアンカーボルトを母材に固定することができ,更に常温で少なくとも1ヵ月

以上の長い製品寿命を有する1液型のアンカーボルト固定用組成物を得ることができることを

意外にも知見した。本発明は上記の新しい知見に基づいてなされたものである。


イ 【0011】

「従って,本発明の1つの目的は,取り扱い性に優れるだけでなく,優れた硬化性能を発揮

するラジカル硬化型化合物用粒状被覆硬化剤を提供することにある。

本発明の他の1つの目的は,製品寿命が長く,しかも高強度でアンカーボルトを母材に固定

することができるアンカーボルト固定用組成物を提供することにある。

本発明の更に他の1つの目的は,上記の特徴を持つ組成物を用いたアンカーボルト固定用カ

プセルを提供することにある。

本発明の更に他の1つの目的は,本発明の1つの好ましい態様のアンカーボルト固定用組成

物の有利な製造方法を提供することにある。

本発明の上記及びその他の諸目的,諸特徴並びに諸利益は,添付の図面を参照しながら述べ

る次の詳細な説明及び請求の範囲の記載から明らかになる。」

ウ 【0020】

「尚,粒状成形体が楕円形の断面を有するものである場合,この断面の長径と短径の平均値

をこの粒状成形体の粒径とする。また,粒状成形体が表面に複数の凹凸を有するものの場合,

公知の方法でこの粒状成形体の体積を求め,これと同じ体積を有する球の直径をこの粒状成形

体の粒径とする。

有機過酸化物の粒状成形体の強度については,本発明の粒状被覆硬化剤をアンカーボルト固

定用組成物に用いる際に,上記硬化剤がアンカーボルト施工時のハンマードリル等による機械





攪拌で破砕可能であれば特に限定されない。しかし,ラジカル硬化型化合物を含む硬化性組成

物(1)中に有機過酸化物の粒状成形体よりなる上記粒状被覆硬化剤の複数の粒子(2)を単独で分

散させる時や,更には骨材と混合充填して用いる際に有機過酸化物の粒状成形体よりなる粒状

被覆硬化剤の崩壊を防ぐ必要があるため,上記粒状成形体の破壊強度は,150gf/cm

以上であることが好ましく,1kgf/cm 以上であることが更に好ましい。一方,上記破

壊強度が高すぎると,アンカーボルト施工時の機械攪拌で粒状被覆硬化剤を破砕できなくなる

ので,200kgf/cm を越えないことが好ましい。」

エ 【0033】

「本発明のアンカーボルト固定用組成物の使用方法としては,アンカーボルトを施工しよう

とする穿孔内へ該組成物を充填する前又は充填した後に,該組成物中の粒状被覆硬化剤の複数

の粒子(2)を破砕すると同時に硬化性組成物(1)と混合させる方法がある。どちらの方法にしろ,

粒状被覆硬化剤の破砕及びそれに伴なう破砕硬化剤と硬化性組成物(1)との混合により,破砕

前は硬化樹脂の層により保護されていた硬化剤の活性部位は,硬化性組成物(1)と接触するこ

とになる。粒状被覆硬化剤の複数の粒子(2)を破砕すると同時に硬化性組成物(1)と混合させる

方法としては,穿孔内への充填前であればミキサーを使用する方法が挙げられ,充填後であれ

ばアンカーボルトの回転・打撃を利用する方法が挙げられる。」

オ 【0035】

「本発明の組成物を上記のようなアンカーボルト固定用カプセルに用いることにより,アン

カーボルト施工時に所望の組成を有するアンカーボルト固定用組成物を孔内に配置させること

ができるため,安定した高い固着力を達成することができる。上記の容器としては,アンカー

ボルト施工時の回転・打撃等で破砕又は引き裂きが可能で,硬化性組成物(1)中の第1ラジカ

ル硬化型化合物,及び硬化促進剤及び/又は単官能の反応性単量体の浸透を遮断し,これらが

容器外部へ逸散することをを防ぐことができるものであれば特に限定されないが,通常はガラ

ス,合成樹脂,合成樹脂フィルム類,紙類等の材料からなる筒状のものが用いられる。容器の

サイズはアンカーボルトを固定する母材に穿孔された孔の径等に合わせて適宜選択することが

できる。」





(2) 引用例1(甲4)には,以下の記載がある。

ア 「特許請求の範囲

「1.アクリル化合物を主体とする硬化性接着剤において,

エポキシ基を有するビスフェノール化合物および/またはノボラック化合物を使用してアクリ

ル酸またはアクリル酸誘導体を転化させることによって得られる反応生成物を硬化性アクリル

化合物として含有することを特徴とするアクリル化合物を主体とする硬化性接着剤。」

イ 「発明の詳細な説明

「本発明はアクリル化合物を主体とする硬化性接着剤に関するものである。

不飽和ポリエステル樹脂またはポリウレタンもしくはその形成パートナーを主体とする反応

性樹脂は接着剤として古くから知られている。普通,一方の成分が反応性樹脂もしくは一方の

反応パートナーを含有していて,他方の成分が硬化剤もしくは他方の反応パートナーを含有し

ている二成分系が重要である。充?剤,促進剤,安定剤,反応性溶媒を包含する溶媒,染料な

どのような他の通常の成分を一方および/または他方の成分中に含有させることができる。両

成分を混同すると,硬化生成物を生成しながら反応が進行する。穿孔中のアンカーボルトを固

定するには,パトローネ中に収容される成分を分離しておくために,普通2個の室を有するパ

トローネを使用する。パトローネを穿孔中に入れ,アンカーボルトを回しながら穿孔中に挿入

することによりパトローネおよび室が破壊され,かくして両成分が混合される。 (2頁左上


欄15行?右上欄13行)

「ラデイカル硬化性の反応性樹脂に対する硬化剤としては,過酸化ジアリール,例えば,過

酸化ジベンゾイル(BP)または過酸化ビス(4?クロルベンゾイル )(CLBP)
,過酸化ケ

トン,例えば,過酸化メチルエチルケトン(MEKP)または過酸化シクロヘキサノン(CH

P),アルキルペルエステル,例えば,過安息香酸t?ブチル(TBTPB)などのような重

合開始剤を含有させることができる。これらの硬化剤は普通の分量,例えば,全物質に対して

0.5?5重量%含有させる。(3頁左下欄13行?右下欄2行)


「樹脂溶液は冷間硬化性不飽和ポリエステル樹脂の場合に普通に使用されているような促進

剤で予め硬化を促進させることができる。かかる促進剤としては,例えば,ジメチルアニリン,





ジエチルアニリン,ジメチル?p?トルイジン,オクタン酸コバルト,ナフテン酸コバルト,

ならびにコバルト/アミン混合促進剤を使用することができる。 (4頁左上欄12?18


行)

「本発明の接着剤は穿孔中にだぼおよびアンカーボルトを固定するために使用するのが特に

有利である。実際に,反応性樹脂および硬化剤はその都度所望の成分と共に個別にあるいは一

緒に直接混合後に穿孔中に導入することができる。しかし,大部分の場合に,反応性樹脂およ

び硬化剤を,単一体,例えば,一個のパトローネ中に2個の室に分けて入れる。パトローネま

たは同様な単一体は大部分の場合にガラスまたは例えば脆いプラスチックを包含する他の容易

に破壊される材料から構成する。パトローネは穿孔中に導入した後にだぼまたはアンカーボル

トを挿入,回転させることによって破壊され,この際パトローネの壁材料は充?剤として作用

することができ,充?剤の部分に加えられる。しかし,1種の成分,例えば,硬化剤がマイク

ロカプセル中に封入されている系も使用することができる。アンカーボルトを挿入した際にマ

イクロカプセルの壁材料が破壊される。 (4頁右下欄8行?5頁左上欄5行)


(3) 検討

ア 審決は,前記第2.3(1) のとおり,引用発明において,マイクロカプセル

中に封入された硬化剤がパトローネ中に入れられた旨認定しているところ,前記(2)

イのとおり,引用例1には ,「しかし,1種の成分,例えば,硬化剤がマイクロカ

プセル中に封入されている系も使用することができる。アンカーボルトを挿入した

際にマイクロカプセルの壁材料が破壊される 。」との記載(本件記載C)があるも

のの,それ以外にマイクロカプセルについての記載はない。

そこで,本願出願時の技術常識を踏まえて,引用例1に,マイクロカプセル中に

封入された硬化剤が,さらにパトローネ中に入れられた態様のものが記載されてい

るといえるかにつき,以下検討する。

イ 引用例1における本件記載Cの直前の記載である本件記載B,すなわち「し

かし,大部分の場合に,反応性樹脂および硬化剤を,単一体,例えば,一個のパト

ローネ中に2個の室に分けて入れる。…パトローネは穿孔中に導入した後にだぼま





たはアンカーボルトを挿入,回転させることによって破壊され,この際パトローネ

の壁材料は充?剤として作用することができ,充?剤の部分に加えられる。」との

記載は,パトローネを破壊することで,パトローネの各室に収納されていた硬化剤

と反応性樹脂が混合されることを説明するものである。そして,これに続く本件記

載Cが,「しかし」に始まり,「マイクロカプセルの壁材料が破壊される。」で終わ

っていることからすれば,パトローネの破壊によって硬化剤と反応性樹脂との混合

を行うことに代えてマイクロカプセルの破壊によっても上記両成分の混合を行うこ

とができる旨を説明しているにすぎず,マイクロカプセル中に封入された硬化剤が

さらにパトローネ中に入れられた構成までが開示されているとみることはできな

い。そして,本件記載Cにおいては,単にマイクロカプセルの壁材料の破壊が記載

されるにとどまり,パトローネの(壁材料の)破壊についての記載がないことも上

記結論を裏付けるものである。

ウ これに対し,被告は,2成分よりなる結合材を用いてアンカーボルトを固着

する技術分野において,カートリッジ型アンカーと注入型アンカーの2つの方法が

あることは技術常識であり,接着剤において硬化剤をマイクロカプセル中に封入す

ることにより,使用前における反応性樹脂と硬化剤との反応を回避して貯蔵期間を

確保することもまた技術常識であって,以上を前提とすれば,引用例1におけるマ

イクロカプセル中に封入された硬化剤はカートリッジ型アンカーの方法の一態様と

して記載されていると主張する。

確かに,証拠(乙1ないし4)から,本願発明出願時に,主剤と硬化剤の2成分

からなる結合材を用いてアンカーボルトを固着する技術分野において,カートリッ

ジを用いるものと,主剤・硬化剤の既配合の流体をメクラ穴に注入するもの(注入

型アンカー)の2つの方法があったこと,証拠(乙5ないし9)から,本願発明出

願時に,接着剤において,硬化剤をマイクロカプセル中に封入することにより,接

着剤としての貯蔵期間を確保するとともに,短時間での重合を可能とする方法があ

ったことが,それぞれ認められる。





しかし,本件に顕れた一切の証拠を精査してもなお,本願出願時において,「マ

イクロカプセル中に封入した硬化剤をさらにパトローネ中に入れる,すなわちカー

トリッジ型アンカーの方法に用いること」が技術常識であったとは認められず,こ

の点に関する被告の主張は理由がない。

エ 以上のとおり,引用例1には,マイクロカプセル中に封入された硬化剤をさ

らにパトローネ中に収納する形態について記載されているとはいえず,パトローネ

を用いる場合には,2個の室を有するパトローネのいずれかの室に,マイクロカプ

セル中に封入されていない硬化剤を入れる方法が記載されている(本件記載B)に

すぎない。他方,マイクロカプセル中に封入された硬化剤を使用する形態について

は,パトローネ中に入れられず,直接穿孔中に導入する方法が記載されている(本

件記載C)にとどまる。

そうであるとすれば,審決は,引用発明につき,「エポキシ基を有するビスフェ

ノール化合物および/またはノボラック化合物を使用してアクリル酸またはアクリ

ル酸誘導体を転化させることによって得られる反応生成物である硬化性アクリル化

合物と,促進剤と,過酸化ジベンゾイルからなる重合開始剤を含有する硬化剤とを,

2個の室を有するパトローネ中に入れたものであり,パトローネおよび室は穿孔中

に導入した後にアンカーボルトを挿入,回転させることによって破壊されるもので

ある,アンカーボルトを固定するために使用するパトローネ」と認定すべきであっ

て,「硬化剤をマイクロカプセル中に封入した上で,これをさらにパトローネ中に

入れた」旨認定した審決には誤りがあるといわざるを得ない。

オ また,以上を前提とすると,本願発明と引用発明との間には,少なくとも,

「(2)硬化性組成物(1)用の硬化剤について,本願発明は ,『粒状被覆硬化剤であっ

て,全表面が,ラジカル硬化型樹脂及びラジカル重合性単量体よりなる群から選ば

れる少なくとも1つの第2ラジカル硬化型化合物に由来する硬化樹脂の層により被

覆された有機過酸化物の粒状成形体からなり,該第1及び第2ラジカル硬化型化合

物は同じか異なっている粒状被覆硬化剤の複数の粒子』を用いるのに対して,引用





発明は,その硬化剤について,硬化樹脂の層により被覆された有機過酸化物の粒状

成形体を用いていない点」という相違点が存在し,審決には,相違点の認定に誤り

がある。そして,このような認定の誤りが,審決の結論に影響を及ぼすおそれがあ

るのは明らかである。

2 以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があり,審決にはこの点に関す

る誤りがあるため,その余の点について判断するまでもなく,審決を取り消すこと

とする。

知的財産高等裁判所第1部




裁判長裁判官

塚 原 朋 一




裁判官

東 海 林 保




裁判官

矢 口 俊 哉